とりあえず、昨日の後片付け、お疲れ様。
……やっぱり疲れてるのかな。

ライブ終わった後でも、なんかいろいろやることあるんだってね。

ファンの人たちの顔見て、歌って踊って喋って……、それで終わると思ってたよ。

まあ、そういうのはプロデューサーにお任せってことでいいよね？

頼りにしてるよっ！

……みんなもう帰っちゃったのかな。
せっかく持ってきたのにさ。
それにプロデューサーも寝てるしで、少し損した気分だよ。

まあいいんだけど。

しかたないから、一つ食べちゃお。

あー、やっぱりおいしい。

てかさ、男の人の割に指長いよねー。
今度マニキュアでも塗ってあげよっかなっ？　なんてね。

触ってみると案外ごつごつしててさ。
でも、なんか柔らかくて、私は好き。

うん、いいなあ。

あ、「手」がね。そこ重要だよっ、うん。

あと笑うとえくぼ出来るところ、ちょっとかわいいと思う。
笑ってる時、そこばっか見ちゃう。

だから笑顔になってほしいのかもね。

まあ、そんなことはいいんだよ。

そいでねそいでね？

最近働きづめだったし、ライブも終わったし。

一区切りついたところで、私、お休みもらったんだ。

プロデューサーもだよね。
昨日言ってたの、聞いちゃった。

お休み、どうせ寝て過ごすんでしょ。
だからいい話、持ってきたの。

そう！
今日はこの話がしたくて来たんだっ！

ほんっと、なんで寝てるかなー。
ありえないよーもー。

でも、せっかく考えてきたから喋っちゃうことにするよ。

独り言みたいになって恥ずかしいけど、どうせもう誰も来ないだろうし。

でね？

さっきも言ったけど、私、お休みもらったから少し実家に戻ろうと思うの。
しばらく顔見せてなかったし。

それで、、ね、んっと……、よかったら、一緒に、私の町まで行かないかなーって。

それを言いに今日は来たの。
なのにさ……、まあいいけど。

割といいとこなんだよ？

それに私、前から言ってたでしょ。
『一緒に行きたい』って。

それに、プロデューサーも行きたいって言ってたよね。

あれ、結構嬉しかったなあ。
なんか、うん、うまく言えないけど、すっごく嬉しかったんだっ。ありがと。

行ったことないんだっけ。

でも、大丈夫。安心して？

だって、旅好きの私が案内するんだもん。
どうやったって楽しいに決まってるよ。
すっごくいいとこ、案内してあげるから。

もちろん宿も取っといてあげる。

あー、でもなー。
実は社交辞令だったりしちゃうのかなあ。

いや、そんなに器用な人じゃないもんね。
信用してるよっ？　えへへ。

……ほんと、いいところだから。

私が保証するよ。
梅アイス、一緒に食べようね。美味しいもん。
季節外れだけどね。

なんでだめだったかなあ、あれ。
美味しいんだよ？　ほんと。

ちょっと脱線しちゃったね。
まあいいや、……んーっと何話そう。

ちゃんと何話すか考えてきたんだよ？

せっかくのチャンスだと思ったしさ。

でも、いざってなるとなかなかしゃべれないもんだね。
独り言だからいいんだけど。

むしろ練習みたいなものだから、うん、だから、そのまま寝てていいよ。

そういえば私ね、晩御飯の前に散歩に出るのが好きだったの。

するとさ、どこからともなくカレーのにおいがしたりしてさ。

そんなのかいだらお腹空くよねっ。
だから、晩御飯前なんだ。

あの町のそういうところが、私は好きなの。
理由になってないかもしれないけど。

それだけじゃなくってね。
好きなところ、たくさんあるの。

友達の家とか、長居しても文句言われない喫茶店とか、町のパン屋さんとか……。

まあ、好きじゃないとこもそれなりにあるんだけどね。

ここみたいに大都会って訳じゃないからさっ。
ちょっと不便だなーって思ったことも一度や二度じゃないし。

まあ、それどころか嫌いな人だったり、嫌いなものだったり、あるしね？

いかつい顔の近所のおじさんとか、怖い顔の犬とか。
それと、よぼよぼのおじいちゃんがやってる、狭くて汚い病院とか。

前に健康診断やったとことは比べ物にならないくらい。

病院って言えないくらい、不衛生……いや、単純に、汚い。

私の子供のころからおじいちゃんだった先生、今何歳なんだろ。

でね。

まあ、そんなんなんだけどさ。

それでも、私はあの町が好きなの。
なんでかはわかんないけど。

うーん……、さっき、任せとけ、なんていったけどさ。
なんか自信なくなってきちゃた。

やっぱり一緒に考えよっか。そうしよ、うん。

そんな大したところじゃないのかもなあ。

ただね。

今までプロデューサーが色んな世界見せてくれたでしょ？
そのお返しがしたいんだ。

だから、プロデューサーが見たことのない、私が好きな町を見せてあげたいの。

私が生きてきた、そんな場所をプロデューサーと一緒にまわってさ。

『ここではこういうことがあったんだよ』なんて話をして笑いたいの。

でね、あの町の中にプロデューサーがいた思い出を新しく作ってねっ。

それでまた一緒に笑えたらいいなあって思うんだ。

たぶん私も、あの町のことがもっと好きになるんじゃないかな。
……プロデューサーに気に入ってもらえるかは、わからないけど。

あの町をプロデューサーと、一緒に、歩いてみたいの。

……こんなとこ、かな？

しゃべりたいこと、全部しゃべっちゃった。

うーん、やっぱりメールとかで練ったほうがいいかもなあ。

今みたいに、とりとめのない話になっちゃいそうだもん。

じゃあ、どうしよ。

……うん、決めた。
帰るっ。

お休み終わっちゃう前に、計画立てないとね。
善は急げ、だよっ！

じゃ、ばいば――。

……んっ。


あれ？


……ねえ。

なんで、離してくれないの。

いや、握ってたのは私だけどさ。

……いつから起きてた？

……だよねー。よかった。
起こしちゃってごめんね？

えへへ。ちょっと善を急ぎすぎちゃったかなっ！

いや、何もしゃべってないよ？

うん、ほんとほんと。

それで、あの、離してくれないかな？
さすがに、ちょっと恥ずかしいかも。

そう。
じゃあ、いい、よ。

でもそろそろ帰らなきゃ。
そうだよね。私もお腹空いちゃったもん。

そうだ！
せっかくだし、どこか食べに行こうよ！

ちょっと話したいこと、あるんだ。

いや、そんな改まってするほどの話じゃないから安心してっ？

何食べたい？
私最近ここらへんも詳しくなったんだ！
だから、お任せしてくれていいよ？

え？　カレー？

……ねえ、本当に寝てた？

いやいや、どっちでもよくない。

どこら辺から起きてたか聞いてもいいかな？

……絶対うそだ。

うそつきは泥棒の始まりなんだよ！

いくら寝起きでも騙されないんだから！

やっ、寝起き関係あるよお。

だって、なんか甘ったるいんだもん、声が。

……それも関係あるのっ！

あーもう、早くいこ？

早くしてくれないと、先行っちゃうよ？

……行かないから、そろそろ離してくれるかな。動けないよ。

うん、それでよしっ。

はい、帽子貸すからかぶって。
なんでって、なんでもだよっ！

出来るだけ目深にねっ！
寝起きの顔、誰かに見られたら困るでしょ？

……えー、身支度？

もー、仕方ないなあ。
結局先に出ることになるのかあ。

ま、いいや。

ちょっとまとめる時間、ほしいもん。

ってことで先行ってるよ。

とびっきりおいしいカレー屋さん、連れてってあげるんだから。

それまでちょっと散歩してるから、支度出来たら急いで来て？

なんでって、晩ご飯の前だから、だよ。

お店の場所はね、カレーのにおいがする方！


……っていうのはだめ？


……だめかあ。
うん、出てから右。

ゆっくり歩くけど、なるべく早く来てくれると嬉しいな。

じゃ、いってきます。……待ってるからねっ！

おわり
おせちもいいけどカレーもね！

乙