1: 2014/02/11(火) 03:47:38.64 ID:Pc0/f7ie0
AM6:25

童「ん」

男「そんなの本当にいるんだな」

童「まあ」

男「で、何してるんだ」

童「別に」

男「もしかしてここが家だったのか」

童「そう」

男「瓦礫に座ってたら目立つだろう」

3: 2014/02/11(火) 03:49:26.57 ID:Pc0/f7ie0
童「見えないから」

男「見えない?」

童「あなた以外には見えていないから」

男「そうなのか」

童「そう」

男「……おっと、もう行かなきゃ」

童「ん」

男「じゃあな。早く次の家探せよ」

5: 2014/02/11(火) 03:51:40.89 ID:Pc0/f7ie0
PM23:49

男「まだいたのか」

童「ん」ゴソゴソ

男「ん?何持ってるんだ?」

童「スマホ」

男「スマホ?」

童「そう」

男「スマホで何してるんだ?」

童「お部屋探し」

男「お部屋探し……」

7: 2014/02/11(火) 03:55:28.81 ID:Pc0/f7ie0
男「良い部屋見つかったか?」

童「見つからない」

男「そうか」

童「今夜」

男「ん?」

童「今夜中に見つけないと」

男「見つけないと?」

童「寒い」

男「寒いのかよ。いや、寒いならもうとっくに寒いだろ」

童「ずっと寒い」

8: 2014/02/11(火) 03:58:12.83 ID:Pc0/f7ie0
男「俺の家、来るか?」

童「家?」

男「うん」

童「アパート」

男「分かるのか」

童「分からない」

男「分からないのか」

童「アパート顔」

男「なんだよそれ」

9: 2014/02/11(火) 03:59:42.88 ID:Pc0/f7ie0
AM00:04

男「ちょっと歩くけどいいか?」

童「ん」

男「じゃあ行こうか」

童「ん」

男「座敷童子って」

童「うん」

男「幸福を呼ぶって本当か?」

童「ほんとう」

男「そうか、凄いな」

童「でも」

10: 2014/02/11(火) 04:01:46.80 ID:Pc0/f7ie0
男「でも?」

童「なんでもない」

男「おい、そういうの怖いからやめてくれ」

童「わかった」

男「でも、なんだ?」

童「ずっとはいられない」

男「そうなのか」

童「ん」

男「そういうものなのか」

11: 2014/02/11(火) 04:04:16.61 ID:Pc0/f7ie0
AM00:14

男「ここだ」

童「ん」

ガチャ キイ

男「ワンルームだけど、押入れは広いぞ」

童「押入れ?」

男「あれ、座敷童子は押入れじゃないのか?」

童「ここがいい」バフッ

男「ソファか」

童「固い」

男「安物で悪かったな」

童「いい」

12: 2014/02/11(火) 04:06:40.18 ID:Pc0/f7ie0
AM05:20

ジリリリリリリリリ……

男「……」

男「ねっみ……」

童「おはよう」

男「お、おお。座敷童子か」

童「童でいい」

男「ドウ?そういう名前なのか?」

童「名前はない」

童「ただ」

童「座敷童子は長い」

14: 2014/02/11(火) 04:11:02.28 ID:Pc0/f7ie0
男「朝ごはん、食べるか?」

童「ん」

男「パンだけど」

童「意外とパン派」

男「いや、まあ。そうだな、意外だ」

男「というか食事するんだな」

童「しなくても平気」

男「そうなのか」

童「味が好きだから食べる」

16: 2014/02/11(火) 04:15:00.76 ID:Pc0/f7ie0
男「いちごジャムでいいか?」

童「いい」

男「紅茶は?」

童「飲む」

男「童、お前結構遠慮ないな」

童「別に」

男「できたよ、お待たせ」

童「ありがとう。頂きます」

男「……」

童「なに?」

17: 2014/02/11(火) 04:18:00.50 ID:Pc0/f7ie0
男「あ、いや。『手を合わせて頂きます』なんて久しぶりに見た」

童「ん」

男「ばあちゃんがよくやってたよ」

男「俺はなんか、恥ずかしくてできなかったな」

童「食べていい?」

男「おう。俺も食べるぞ」

男「……頂きます」

童「できてる」

男「言うな」

18: 2014/02/11(火) 04:20:28.02 ID:Pc0/f7ie0
男「おいしいか?」

童「おいしい」

男「そうか。パンも紅茶も安物だけどな」

童「十七年食べていなかった」

男「じゅっ……」

童「十七年」

男「なんでまた」

童「誰にでも見える訳じゃないから」

男「そうか……前の家の人は見えなかったのか」

童「そう」

男「つまみ食いとかしないのか」

童「行儀が悪い」

男「……そうだな」

19: 2014/02/11(火) 04:23:13.63 ID:Pc0/f7ie0
AM06:00

男「それじゃ、行ってくる」

童「気を付けて」

男「うん」

ガチャッ キイ

バタン

童「……」

20: 2014/02/11(火) 04:24:27.71 ID:Pc0/f7ie0
PM22:17

ガチャッ キイ

男「ただいま」

シイーン

男「あれ?童?」

男「寝てるのか?」

童「後ろ」

男「うおっ」

童「おかえり」

男「びっくりするじゃないか」

童「駅から」

男「ん?」

21: 2014/02/11(火) 04:26:39.25 ID:Pc0/f7ie0
童「尾けていた」

男「全然気付かなかった」

男「いや、なんで尾けてるんだよ」

童「寂しかった」

男「おっ」

男「おう」

童「なに?」

男「いや」

男「そういう素直さってなんていうか、いいなって」

童「そう」

男「俺も昔はそうだったのかな」

童「今は違うの?」

男「そうだな」

22: 2014/02/11(火) 04:28:23.49 ID:Pc0/f7ie0
男「ああ、肉まん買ってきたんだよ」

童「そう」

男「食べるよな?」

童「食べる」

男「あんまんもあるんだ」

男「一つは俺のだけど、どっちがいい?」

童「……」

男「……」

童「……」

男「冷めるぞ」

24: 2014/02/11(火) 04:30:27.33 ID:Pc0/f7ie0
童「あなたが」

男「うん」

童「あなたがまず、肉まんとあんまんを半分に割って」

男「うん?」

童「その、半分に割れた肉まんとあんまんを食べて欲しい」

男「ん?あ、うん」

童「わたしはその残りでいい」

男「童」

童「ん」

男「いや、なんでもない」

童「そう」

25: 2014/02/11(火) 04:32:22.89 ID:Pc0/f7ie0
PM23:22

男「童は風呂には入らないのか?」

童「入らない」

男「そうか。別に汚れてないもんな」

童「ん」

男「もしかして、汚れないのか?」

童「その気になれば汚れられる」

男「そうなのか」

童「そう」

男「ふーん。羨ましいな」

26: 2014/02/11(火) 04:33:52.68 ID:Pc0/f7ie0
AM05:20

ジリリリリリリ

男「んっ……くぅー」

童「おはよう」

男「おはよう、童」

男「今日もパンでいいか?」

童「パンがいい」

男「そうか。今日はマーマレードにするか」

童「ん」

27: 2014/02/11(火) 04:36:50.31 ID:Pc0/f7ie0
男「しまった」

童「なに?」

男「今日は休みだった」

童「ん」

男「無駄に早起きしてしまった」

童「無駄なの?」

男「休みの日はゆっくり寝てたいんだよ」

童「そう」

男「……そういえば童、お前どこで寝てるんだ」

童「その辺で」

男「その辺?」

28: 2014/02/11(火) 04:39:03.08 ID:Pc0/f7ie0
童「床やソファ」

男「ああ。気付かなくてごめんな。布団がいいよな」

童「いい」

童「一度布団にも入ったけど」

男「俺の?」

童「ん」

童「いや」

童「なんでもない」

男「え、臭いとか?」

童「臭くはない」

童「狭かった」

31: 2014/02/11(火) 04:41:48.46 ID:Pc0/f7ie0
PM13:38

男「ん……」

男「ああ、さすがに寝過ぎたな」

童「おはよう」

男「おはよう」

童「見て欲しい」

男「ん?スマホか」

童「犬」

男「犬の動画か」

童「昔、犬のいる家に居た」

男「そうなのか」

童「その犬以来。わたしが見えるのは」

男「犬、以来か」

32: 2014/02/11(火) 04:43:47.77 ID:Pc0/f7ie0
童「賢い犬だった」

童「名前はボレロ号」

男「格好良いな」

童「二百年も前になる」

男「童、お前何歳なんだ」

童「分からない。でも、子ども」

男「そうか。そうだな」

童「見て欲しい」

男「ん?」

童「犬の動画」

男「ああ、うん」

34: 2014/02/11(火) 04:46:19.14 ID:Pc0/f7ie0
童「かわいい」

男「かわいいな」

童「……」

男「……」

童「この、はしゃぐのがかわいい」

男「犬、好きなんだな」

童「好き」

男「俺も犬派だ」

童「派?」

男「人間には犬派と猫派がいるんだよ」

童「そう」

童「わたしは猫も好き」

男「俺もだ」

35: 2014/02/11(火) 04:47:50.53 ID:Pc0/f7ie0
PM16:00

男「……」

童「……」

男「……」

童「……」

男「なあ」

童「ん」

男「なんで俺にだけ見えるんだ」

童「分からない」

男「そうか」

童「でも」

36: 2014/02/11(火) 04:48:39.62 ID:Pc0/f7ie0
童「あなたの氏期が近い、とかそういう不吉なものではない」

男「お、そうなのか」

童「と、自負している」

男「自負か」

童「ボレロも二十二まで生きた」

男「そりゃすごいな」

童「あなたも長生きして欲しい」

男「そうだな。俺も元気で長生きしたいと思ってるよ」

38: 2014/02/11(火) 04:51:13.52 ID:Pc0/f7ie0
AM05:20

ジリリリリリリ……

男「……」

リリリリリリ……リン……

男「……」

童「起きないの?」

男「……ん」

男「10分……」

童「分かった。起こす」

男「ん……」

39: 2014/02/11(火) 04:52:49.12 ID:Pc0/f7ie0
童「おはよう」

男「……ああ。おはよ……」

童「いちごジャムでいい?」

男「うん」

男「ん?」

童「その気になれば」

男「朝食の用意もできるのか」

童「ん」

男「ありがとう」

童「どういたしまして」

40: 2014/02/11(火) 04:53:42.03 ID:Pc0/f7ie0
AM06:00

男「それじゃ、行ってくる」

童「気を付けて」

ガチャッ キイ
バタン

童「……」

41: 2014/02/11(火) 04:57:31.30 ID:Pc0/f7ie0
PM23:02 駅のちかく

男「ふう」

男「今日もやたら寒いな……」

男「いるのか、童」

童「後ろ」

男「座敷童子は家にいるもんじゃないのか」

童「趣味はおでかけ」

男「それは嘘だろ」

童「インドア派」

男「俺もさ」

男「駅から家までの道って寂しかったんだよ」

42: 2014/02/11(火) 04:59:02.14 ID:Pc0/f7ie0
男「毎日こんな時間で、静かで、歩く以外にすることないから、色々考えちゃうんだよな」

童「そう」

男「うん」

男「……」

童「……」

男「おしるこ、買って帰るか。缶だけど」

童「ん」

男「他のが良かったら言っていいんだぞ」

童「おしるこがいい」

男「そっか。俺はコーンポタージュにしようかな」

童「……」

男「なんだよ」

43: 2014/02/11(火) 05:00:02.76 ID:Pc0/f7ie0
AM0:07

男「電気消すぞ」

童「ん」

男「おやすみ」パチッ

童「おやすみ」

男「……」

童「……」

男「なあ」

童「ん」

44: 2014/02/11(火) 05:01:16.19 ID:Pc0/f7ie0
男「座敷童子は笑わないのか?」

童「笑う」

男「そうなのか」

童「そう」

男「ふーん……」

童「今、笑っている」

男「暗くて見えない」

童「にこ」

男「言ってるだけだろ……」

童「ん」

男「おやすみ」

童「おやすみ」

45: 2014/02/11(火) 05:05:26.28 ID:Pc0/f7ie0
AM05:20

ジリリリリリリリリ

男「……んんっ」

男「ふぁ……おはよう」

童「……」

男「童?」

童「……」

男「朝だぞ」

童「ん……」

男「お、起きたか」

童「体が」

46: 2014/02/11(火) 05:07:05.98 ID:Pc0/f7ie0
童「体が重い」

男「……?」

男「具合が悪いのか?」

童「分からない」

童「体重も体調も意識したことがなかった」

童「思うように動かない」

童「寒い」

男「……何か食べるか?」

童「ありがとう。でも、いい」

男「そっか」

童「ごめんなさい」

男「いや、いいんだ。何か俺にできることはないかな」

47: 2014/02/11(火) 05:08:55.76 ID:Pc0/f7ie0
童「分からない」

男「病院に行ってもな……」

男「座敷童子専門の病院とかあるのか?」

童「聞いたことない」

男「だよな。とりあえず布団に入りなよ」

童「そうさせて欲しい。ごめんなさい」

男「よっと」

童「ありがとう」

男「驚いた。綿みたいに軽いな」

48: 2014/02/11(火) 05:10:32.12 ID:Pc0/f7ie0
AM06:00

男「それじゃ、行ってくるけど」

童「大丈夫」

男「うん。ちゃんと寝てるんだぞ」

童「分かった」

男「行ってきます」

童「気を付けて」

ガチャッ キイ
バタン

童「……」

49: 2014/02/11(火) 05:16:21.91 ID:Pc0/f7ie0
AM06:04

ガチャッ キイ
バタン

男「ただいま」

童「忘れ物?」

男「やっぱり今日は一日家にいることにした」

童「家に?」

男「うん」

童「わたしのため?」

男「そうだよ」

童「そう」

童「ありがとう」

男「いや、こちらこそ」

51: 2014/02/11(火) 05:22:07.88 ID:Pc0/f7ie0
男「別に何が出来る訳でもないけど」

童「ごめんなさい」

童「いや、」

男「うん?」

童「いや」

童「薄々分かっていた」

童「わたしのおわりが近い」

男「……」

童「あなたが出かけていってからしばらくしたら」

童「消えてしまうのだろうと思っていた」

52: 2014/02/11(火) 05:23:59.31 ID:Pc0/f7ie0
童「……」

男「……」

童「あの夜も寒かった」

男「うん」

童「その気になれば暖かくもできるはずなのに」

童「ずっと寒かった」

男「あの夜は今年一番の寒さだったらしい」

童「そうなの?」

男「俺も寒かった」

53: 2014/02/11(火) 05:28:21.62 ID:Pc0/f7ie0
PM11:20

男「雪が降ってきたな」

童「ん」

男「寒くないか?」

童「寒い」

男「だよな。やっぱり俺も寒い」

童「布団に入って」

男「狭いのに……」

童「いい」

54: 2014/02/11(火) 05:30:16.04 ID:Pc0/f7ie0
童「わたしがここにきて何日になる」

男「一週間も経ってない」

童「そう」

童「幸福だった?」

男「あはは、まあね」

童「……」

男「ん?」

童「あなたは笑わないのかと思っていた」

男「俺だって笑うよ」

童「そう」

男「でも、そうだな。ずいぶん久しぶりだ」

55: 2014/02/11(火) 05:31:19.61 ID:Pc0/f7ie0
PM15:34

童「おねがいがある」

男「うん」

童「頭を撫でて欲しい」

童「子どもだから」

男「……こうか?」

童「分からない」

童「でもたぶんそれでいい」

男「……」

童「それがいい」

57: 2014/02/11(火) 05:32:22.26 ID:Pc0/f7ie0
男「童」

童「……」


おわり。

引用元: 男「座敷童子?」