44: 2018/04/18(水) 23:50:26.08 ID:Z68f/yjYo
「――私の言いたいことは、わかるな?」
専務が、デスクに座りながら言った。
呼び出されたから、来てみたのだけれど……。
まるで、見当がつかない。
思い当たる事と言えば……もしかして、あれの事かしら。
「今度は、飲み過ぎには気をつけます」
この間、飲みに行った時。
その時のお酒が、あんまりにも美味しくて、楽しくて。
ついつい飲みすぎて、少し、騒ぎになっちゃたの。
でも、早苗さんも、瑞樹さんも一緒に騒いだのに、どうして私だけ呼び出しを?
「なので、禁酒をしろという話でしたら、お断りします」
三人で、一緒に、夜の特別LIVE。
歩きながら、歌って、時に踊って。
通行人の人達も、次第に注目して、人の流れが出来て。
うふふっ、怒られちゃったけど、とっても楽しかった。
「違う。今回は、その話ではない」
今回は、という事は、別の機会にあの時の話をするつもりかしら。
もう、十分に叱られたと思うのだけれど……。
それにしても、他に、思い当たる事が無いです。
眉間にシワを寄せて、とっても怖い顔をされても、困っちゃいます。
「この仕事は、君のイメージを損なう恐れがある」
そう言いながら、専務はデスクに資料をパサリと置いた。
その資料は、私自身の希望で、やりたいとお願いしたお仕事の資料。
どうやら、私がそのお仕事をするのを止めようと思っているらしい。
でも……私は、やりたい。
「ですが……」
反論しようと、口を開く。
そんな私の言葉が口から出るのを専務は片手を上げて静止させた。
「君が、私の思い通りに行動する人間だとは、最早思っていない」
だったら、良いじゃないですか。
こう、どうしても、行動しちゃうって……ふふっ、わかってるんですし。
「だが、もう一度よく考えてみる事だ」
続く言葉は、思いの外、
「ファンが、君に――アイドル、高垣楓に、何を望んでいるのかを」
私の内に、届いた。
45: 2018/04/19(木) 00:15:50.00 ID:QifNUJyno
・ ・ ・
「何よ~、どうしたの? 何だか元気無いじゃないの!」
早苗さんが、右手にビールのジョッキを握りながら、明るく笑いかけてくる。
私は、早苗さんの、こういう所がとても好き。
いつも明るくて、前向きで、とっても素敵な笑顔向けてくれる。
だから、彼女と飲むお酒は、いつも楽しい。
「わかりますか?」
手元のお猪口の縁を、ツイと指でなぞる。
フルーティーで、とても飲みやすく、美味しいお酒。
それなのに、今日はあまりペースが上がらない。
良い事なのだろうけれど、私としては、とても不本意です。
「わかるわ。だって、私より飲んでないもの」
瑞樹さんが、手に持ったお猪口をコトリとテーブルに置き、優しく笑いかけてくる。
私は、瑞樹さんの、こういう所がとても好き。
いつも優しくて、可愛くて、とっても素敵な笑顔を向けてくれる。
だから、彼女と飲むお酒は、いつも嬉しい。
「実は……お仕事の事で、少し」
二人は、私にとても良くしてくれる。
優しいだけじゃなく、時に、厳しくもしてくれる。
こんな、とっても素敵なお友達が居る私は、幸せだと思う。
今も二人は、続けて、と、揃って片手を差し出してくれている。
「私の、アイドルとしてのイメージについて考えてたら、ゴチャゴチャしてきちゃって」
神秘的、ミステリアス、クール……それに、ダジャレ好き。
これが、ファンの方が私に抱いている、イメージだと思う。
ファンの方は、私はこうあるべきだ、こういうアイドルだ、
と考えているから、ファンでいてくれてる、とも。
だから、イメージを損なうと言われた時、思ったのだ。
「やってみたいお仕事が、イメージにそぐわない時……どう、しますか?」
今の私があるのは、ファンの方達が支えてきてくれたから。
その人達を裏切るような真似は、出来ないし、したくない。
「そうねぇ……」
「うーん……」
だから、専務の言うように、やめておくのが正解なのか。
それとも、自分の思うまま、ワガママを通しても良いのか。
ファンあってのアイドルだからこそ、私にはわからない。
私は、どうしたら良いの?
「「楓ちゃんは――」」
二人の声が、重なった。
「何よ~、どうしたの? 何だか元気無いじゃないの!」
早苗さんが、右手にビールのジョッキを握りながら、明るく笑いかけてくる。
私は、早苗さんの、こういう所がとても好き。
いつも明るくて、前向きで、とっても素敵な笑顔向けてくれる。
だから、彼女と飲むお酒は、いつも楽しい。
「わかりますか?」
手元のお猪口の縁を、ツイと指でなぞる。
フルーティーで、とても飲みやすく、美味しいお酒。
それなのに、今日はあまりペースが上がらない。
良い事なのだろうけれど、私としては、とても不本意です。
「わかるわ。だって、私より飲んでないもの」
瑞樹さんが、手に持ったお猪口をコトリとテーブルに置き、優しく笑いかけてくる。
私は、瑞樹さんの、こういう所がとても好き。
いつも優しくて、可愛くて、とっても素敵な笑顔を向けてくれる。
だから、彼女と飲むお酒は、いつも嬉しい。
「実は……お仕事の事で、少し」
二人は、私にとても良くしてくれる。
優しいだけじゃなく、時に、厳しくもしてくれる。
こんな、とっても素敵なお友達が居る私は、幸せだと思う。
今も二人は、続けて、と、揃って片手を差し出してくれている。
「私の、アイドルとしてのイメージについて考えてたら、ゴチャゴチャしてきちゃって」
神秘的、ミステリアス、クール……それに、ダジャレ好き。
これが、ファンの方が私に抱いている、イメージだと思う。
ファンの方は、私はこうあるべきだ、こういうアイドルだ、
と考えているから、ファンでいてくれてる、とも。
だから、イメージを損なうと言われた時、思ったのだ。
「やってみたいお仕事が、イメージにそぐわない時……どう、しますか?」
今の私があるのは、ファンの方達が支えてきてくれたから。
その人達を裏切るような真似は、出来ないし、したくない。
「そうねぇ……」
「うーん……」
だから、専務の言うように、やめておくのが正解なのか。
それとも、自分の思うまま、ワガママを通しても良いのか。
ファンあってのアイドルだからこそ、私にはわからない。
私は、どうしたら良いの?
「「楓ちゃんは――」」
二人の声が、重なった。
46: 2018/04/19(木) 00:47:03.05 ID:QifNUJyno
・ ・ ・
「おはようございます」
346プロダクションの、エントランスホール。
入ってすぐ、よく見慣れた、大きな姿を見つけた。
いつもなら、挨拶をしに近寄っていく事までは、しないけれど。
だけど、今日は別。
「高垣さん? おはよう、ございます」
わざわざ近寄ってきた私を不思議に思ったんですよね。
頭の上に、はてなマークが浮かんでるのが見えます。
だけど、彼は、何も言わない。
私が何か言い出すのをジッと待ってくれている。
「少し、お聞きしたい事があって」
挨拶を終えたままの姿勢で、何でも無い事の様に、聞く。
だって、私がお仕事の事で悩んでるなんて知られるのは、なんだか悔しいもの。
私はアイドルで、貴方はプロデューサー。
担当じゃないからこそ、対等な関係で居たいと……そう、思うんです。
「はい。私に、答えられる事でしたら」
そう言うと、彼は腕の時計を見て、時刻を確認した。
「少し、場所を移しましょうか」
早めに切り上げて欲しいというアピールじゃなかった事に、ホッと胸を撫で下ろす。
時間に余裕があるから、立ち話でなく、座れる場所に行こう、と。
……今、ホッとしたのは、貴方に話を聞いて貰えそうだからじゃありませんから。
迷惑をかけなくて済みそう、っていう安心ですからね。
「……高垣さん?」
チョコンと立った寝癖を睨みつけてたら、気づかれちゃった。
もう、こういう、変な所で察しが良いんですから。
だけど、私は今の感情を表情に出すことはしない。
元々、そこまで表情豊かな方じゃありませんから。
「はい?」
そう言って、こちらを見ている彼に、微笑む。
その微笑みに対し、彼は、右手を首筋にやり、
「あの……休憩スペースに、行きましょう」
と、促してきた。
彼の背中を見てたら、気付かない間に、彼との距離が開いていた。
私は、慌ててその後ろを追いかけた。
「おはようございます」
346プロダクションの、エントランスホール。
入ってすぐ、よく見慣れた、大きな姿を見つけた。
いつもなら、挨拶をしに近寄っていく事までは、しないけれど。
だけど、今日は別。
「高垣さん? おはよう、ございます」
わざわざ近寄ってきた私を不思議に思ったんですよね。
頭の上に、はてなマークが浮かんでるのが見えます。
だけど、彼は、何も言わない。
私が何か言い出すのをジッと待ってくれている。
「少し、お聞きしたい事があって」
挨拶を終えたままの姿勢で、何でも無い事の様に、聞く。
だって、私がお仕事の事で悩んでるなんて知られるのは、なんだか悔しいもの。
私はアイドルで、貴方はプロデューサー。
担当じゃないからこそ、対等な関係で居たいと……そう、思うんです。
「はい。私に、答えられる事でしたら」
そう言うと、彼は腕の時計を見て、時刻を確認した。
「少し、場所を移しましょうか」
早めに切り上げて欲しいというアピールじゃなかった事に、ホッと胸を撫で下ろす。
時間に余裕があるから、立ち話でなく、座れる場所に行こう、と。
……今、ホッとしたのは、貴方に話を聞いて貰えそうだからじゃありませんから。
迷惑をかけなくて済みそう、っていう安心ですからね。
「……高垣さん?」
チョコンと立った寝癖を睨みつけてたら、気づかれちゃった。
もう、こういう、変な所で察しが良いんですから。
だけど、私は今の感情を表情に出すことはしない。
元々、そこまで表情豊かな方じゃありませんから。
「はい?」
そう言って、こちらを見ている彼に、微笑む。
その微笑みに対し、彼は、右手を首筋にやり、
「あの……休憩スペースに、行きましょう」
と、促してきた。
彼の背中を見てたら、気付かない間に、彼との距離が開いていた。
私は、慌ててその後ろを追いかけた。
48: 2018/04/19(木) 01:11:19.64 ID:QifNUJyno
・ ・ ・
「イメージに合わない仕事、ですか」
休憩スペースの椅子に並んで座りながら、彼が私の言葉を繰り返した。
二人の手には、それぞれ種類の違う缶コーヒーが。
遠慮したのに、奢ってもらっちゃった。
缶コーヒーから伝わる熱が、私の手を温めてくれる。
「ファンの方がどう思うか、気になってしまって」
そう言うと、彼は、右手を首筋にやって、少し沈黙。
言葉を探しているのか、その視線は、宙を彷徨っている。
時折、ああ、とか、うう、とか、低い唸り声が聞こえてくる。
私、そんなに悩ませるような事を聞いちゃったのかしら。
「……そう、ですね」
考えがまとまったのか、彼は缶コーヒーを一口だけ飲んだ。
そんなに喉が渇いたのかしら?
「私は、高垣さんがどうしたいかが、一番重要だと思います」
少し、予想していた答え。
早苗さんも、瑞樹さんも、同じ事を言ってくれたもの。
けれど、彼の言葉には、続きがあった。
「確かに、今までの高垣さんのイメージとの違いに、驚くかもしれません」
彼の瞳から、とても真剣な想いを感じる。
「ですが、それもまた、貴女の一面だと、そう捉えるでしょう」
彼の言葉から、とても熱い想いが伝わってくる。
「そんな新たな一面を見られるのは、嬉しいことだと、私は思います」
彼の、
「――貴女のファンとして」
その想いに、私は今、勇気を貰った。
予想外の、予想以上の、彼の答え。
それに応えるのが、アイドルとして、あるべき姿じゃないかしら。
だって、その方がお互い退屈せずに済むものね!
「イメージに合わない仕事、ですか」
休憩スペースの椅子に並んで座りながら、彼が私の言葉を繰り返した。
二人の手には、それぞれ種類の違う缶コーヒーが。
遠慮したのに、奢ってもらっちゃった。
缶コーヒーから伝わる熱が、私の手を温めてくれる。
「ファンの方がどう思うか、気になってしまって」
そう言うと、彼は、右手を首筋にやって、少し沈黙。
言葉を探しているのか、その視線は、宙を彷徨っている。
時折、ああ、とか、うう、とか、低い唸り声が聞こえてくる。
私、そんなに悩ませるような事を聞いちゃったのかしら。
「……そう、ですね」
考えがまとまったのか、彼は缶コーヒーを一口だけ飲んだ。
そんなに喉が渇いたのかしら?
「私は、高垣さんがどうしたいかが、一番重要だと思います」
少し、予想していた答え。
早苗さんも、瑞樹さんも、同じ事を言ってくれたもの。
けれど、彼の言葉には、続きがあった。
「確かに、今までの高垣さんのイメージとの違いに、驚くかもしれません」
彼の瞳から、とても真剣な想いを感じる。
「ですが、それもまた、貴女の一面だと、そう捉えるでしょう」
彼の言葉から、とても熱い想いが伝わってくる。
「そんな新たな一面を見られるのは、嬉しいことだと、私は思います」
彼の、
「――貴女のファンとして」
その想いに、私は今、勇気を貰った。
予想外の、予想以上の、彼の答え。
それに応えるのが、アイドルとして、あるべき姿じゃないかしら。
だって、その方がお互い退屈せずに済むものね!
49: 2018/04/19(木) 01:32:34.49 ID:QifNUJyno
「……」
じい、と彼の顔を見つめる。
そうね、私のファンの方達は、貴方の言うように素敵な方達ばかりだもの。
わかっていたようで、わかってなかったのね、私ったら。
ふふっ、ファンの方達の反応を不安がる、ふふっ、それじゃ駄目よね。
「ありがとうございます。決心がつきました」
目の前の、私のファンの人にお礼を言う。
精一杯の、私に出来る、最高の笑顔で!
「……良い、笑顔です」
それに、彼もとっても穏やかな笑顔で返してくれる。
こういう、嬉しい時にする事と言えば……。
「はい♪」
手に持っていた缶コーヒーを掲げ、彼の前に差し出す。
驚いちゃったようだけど、観念したのか、彼も缶コーヒーを掲げる。
だって、今、すぐにでもしたくなっちゃったんだもの。
「「カンパイ」」
しょうがないでしょう?
「……貴方の言葉を聞いて、とっても楽しみになってきました♪」
カンパイの流れのまま、コーヒーを一口だけ飲み、語りだす。
やってみたかった、お仕事。
今までのイメージにない、挑戦。
理由は、一つ。
――とっても、楽しそうだったから!
「ちなみに、どんな内容のお仕事か、お聞きしても?」
うふふっ、どんなって……貴方も、よく知ってる内容のお仕事ですよ。
あっ、今それを言ったら、ファンの人がどんな反応をするのか、わかっちゃうわね!
ふふっ! どんな反応をするのかしら?
「とときら学園でーす♪」
彼は、目を大きく見開いて、口をパクパクさせた。
それがまたおかしくって……もうっ、笑いが止まらなくなっちゃったわ!
おわり
50: 2018/04/19(木) 04:56:47.44 ID:D/vAudlfo
予想はできてた。が、耐えられるかどうかはまた別の話だ
51: 2018/04/19(木) 06:25:44.69 ID:mqh6W1cMo
乙
愛さえあれば問題ない……多分、きっと
ま、少しは覚悟しておけ
愛さえあれば問題ない……多分、きっと
ま、少しは覚悟しておけ
引用元: 武内P「あだ名を考えてきました」
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