354: 2011/12/18(日) 11:56:06.15 ID:7CrIUF3R0

予告って、間に合わない可能性を示唆するためにするんだよ

いきなり反則気味の言い訳で始まるおさかな話。そんな今回はいつものメンバーが交換されたりいなかったり
バランスが崩れたらどんな話が展開するかって試みだったんですけど、かなーりアウトな出来上がりになりました

自戒の念も籠めてテーマは『間違い』です。いつもよりちょっと長くてちょっと言い回しがクドいですが、どうぞ

【とある魔術の】おさかな目録?その1
【とある魔術の】おさかな目録?その2

355: 2011/12/18(日) 11:57:38.28 ID:7CrIUF3R0

                            ☆

「とうまがまたどこかへ行っちゃっていて、今日はインデックス一人なんだよ」

「こんなときに限って何故かあいさも遊びに来ないんだよ。…………、ヒトリゴトってあんまり面白くないかも」

「とうまと一緒に食べようと思ってこっそり買っておいたカツオ節、三本とも食べきっちゃったんだよ……」

「でもヒマだからって、私は手持ちブタちゃんにはならないんだよ! ってそれを言うなら手持ち無沙汰ちゃんなんだよ!!」 ノソノソ


「――――――というわけで、ひさしぶりにこの『のーとぱそこん』の出番なんだけど…」 スイッチ オーン

「疑問質問掲示板ってどうすれば見れるんだっけ……? あ、これかな」 ポチ ポチ 

「見つけた見つけた。さー、インデックスが未解決の難問奇問、柿右衛門をズバッと解決してあげるんだよ。覚悟するがいいかも!」ビシッ

「…………、テンション上げてないと決定的な何かが切れちゃいそうなんだよ。そこは勘弁して欲しいかも」 ポチ ポチ


「科学や兵器の質問は問題外、政治情勢や経済や法律関係の話題はつまんないし。おさかな関連の珍問は無いのかな?」

「お! 噂をすれば影が差すんだよ! この文面からは相当歯ごたえのありそうな雰囲気がそこはかとなく漂ってるかも」

「ええと……。『私の泣き顔は最低でもアレの五倍は超可愛いですし』…………、余計な情報が多すぎなのはタマにキズなんだよ」

「質問を纏めるとこんな感じかな?」



●同僚に『おさかな初心者』の烙印を押されてしまったので勉強中

●どうせ勉強するのなら好きなおさかなから始めたい

●そこで世界一硬い魚類を教えて欲しい



「好きなものについての情報を探すのはどれだけ大変でも不思議と苦痛じゃないから、物事を学ぶ導入にはバッチリかも」

「やがて好きなものの知識が軸になり、そこから枝を伸ばすようにそれ以外の知識への取っ掛かりになるんだよ」

「そうなったら完全無欠の博覧強記も夢じゃない。けど、好きなものだけをとことん極めた人だって相当カッコいいかも」

「だからこの人の選択は正しいと思うんだよ。それだけに私もしっかり回答してあげなきゃね」


「……まずは魚の物理防御を実現する鎧、特にウロコの硬さについて、かな」

「結論から言うと魚のウロコって基本的に生体由来物質。そして魚類はヒトを含む全ての脊椎動物のモトだから…」

「質問者さんにはひょっとしたら残念な事実かもだけど、どんなウロコであってもその材質はヒトの体のパーツとほぼ同じなんだよ」

「つまりその硬さも想像の範囲内ってこと。そしてウロコは幾つかの種類に大別出来るから……、簡単にまとめておこうかな」


とある魔術の禁書目録 1巻 (デジタル版ガンガンコミックス)
356: 2011/12/18(日) 11:59:31.33 ID:7CrIUF3R0

「いわゆるモーホロジーで言うホ〇ロジーって観点を加えてウロコを分類するとこんな感じ?」



1)楯燐 サメなど軟骨魚に見られるウロコ。成長とともに数が増える。歯とほぼ同じ組成なので皮歯とも

2)硬鱗 古いタイプの硬骨魚に見られるウロコ。成長とともにウロコが大きくなる(数は一定)。組成は楯燐に近いが構造は異なる

3)骨鱗 現生の硬骨魚鱗の主流。成長とともにウロコが大きくなる(数は一定)。文字通り骨質で作られる



「このうち(1)の楯燐はみんなの身近に実物があるんだよ。拵えのちゃんとした日本刀を持ってきてグリップの部分を見て欲しいんだけど」

「柄巻き紐の下地に白い粒々が見えるでしょ? これがそう。歯と同じくらい硬くてすごく細かいトゲ状のウロコなんだよ」

「体の成長とともにウロコの数が増えていくのはこのタイプだけ、ってことは覚えておいたほうがいいかも」


「次に(2)の硬鱗。淡水魚だとエンドリケリ=エンドリケリとかガーとかチョウザメ、海ならシーラカンスが有名かな」

「古代魚って、一見して違和感があると思うんだけどそれは奇抜な体型だけじゃなくてウロコにも原因があるんだよ」

「基本形はひし形。それが水平方向に対して斜めを向いてまるで屋根の瓦みたいに規則的に並んでるから大きなウロコが際立っちゃうのかも」


「そして(3)の骨鱗は最も一般的なウロコだね」

「葉状鱗とも言うんだけど、要するに誰でも知ってるウロコかも。一応触れておくと更に二つのタイプに分かれるんだよ」

「一つは円鱗。コイやメダカやサケがこのタイプだね。文字通り丸っぽくて表面は滑らか」

「もう一つは櫛鱗。スズキやマダイやサバはこっちかも。円鱗との違いは端っこに小さなトゲが並んでることだけなんだよ」



「さてさて、単に頑丈さを求めるなら体をすっぽり一枚板で覆う装甲が最良なんだけど、それじゃ極端に動きが制限されちゃうよね」

「小さなウロコで体を覆うことは防御と機動力を両立して、その上損傷を負った場合にはその部分だけ取り替えれば済むでしょ?」

「えっと、つまり……虫歯治療で、歯が全部繋がっていたら大変だよねってこと。そんな利点だらけのウロコなんだけど…」

「この中で材質的に最も硬く厚いのは楯鱗で、それから硬鱗そして骨鱗って進化の流れの中でウロコはより薄くより軽くなっていくんだよ」


「カワヤツメやアンコウみたいに完全にウロコが退化し、代わりに粘液を多めに分泌することで体表を守る魚種も少なくないよね?」

「そんな防御で大丈夫か?って聞きたくなるかもだけど、これは硬いウロコの魚は古いタイプって所がミソなんだよ」

「太古、イカや貝などの祖先が海洋の王であった時代。魚類は装甲をより頑丈にすることで彼らの牙から逃れたんだけど」

「魚類の黄金時代になると硬さも頭打ち。むしろ防御は最低限にしてその分機動力を確保したほうが生存競争上より有利になるんだよ」

「だってどれだけ頑張っても歯よりも硬いウロコは作れないでしょ? まあ進化の順序的にはウロコが歯になったんだけどね」

「どんなに頑丈でも噛まれれば終わり。されど噛まれなければどうということは無い、ってコトなんだよ」


「ウロコについてはこんな感じでいいかな……。実際は例外がたくさんあるんだけど、それは自分で見つけていけばいいんじゃないかな」

「そんなことより本題に入るんだよ。ウロコの硬さは歯や骨のそれに当たるって説明をしたんだけど、結局は引掻き硬度に過ぎないからね」

「生命を守る鎧としての硬さは少なくとも押し込み硬度で考えるべき問題だもん」

「あ、用語の意味は深く考えなくていいかも。要するにここからが頑丈な魚の話なんだよ」

「ちなみに世界一硬い食品はカツオの本枯節かな。噛めば噛むほど味が出るけど、削ってダシを取っても美味しいよね」




357: 2011/12/18(日) 12:01:37.46 ID:7CrIUF3R0

「と、脱線はこのくらいにして、質問の『世界一硬い魚』のお話に行ってみよー!」

「…………でも、これってどうやって順位付けするんだろ?」

「例えばマンボウは分厚い皮で体を守っていて、拳銃弾くらいじゃ致命傷にならないとまで評される防御力がありつつも」

「ウロコが殆ど退化してるから皮膚はグズグズで弱いんだよ。これは硬いと言えるのかな……?」

「さっきも言ったけど材質的には上限が決まってるし、完璧にどれが一番硬いって言い切ることは困難かも……、う~ん」

「悩んでいても仕方が無いから、すっごく硬いとされる魚をいくつか紹介しようかな。それで勘弁してもらおっと」



「まずはアーマードプレコ! ナマズの仲間なのに硬いウロコがあるプレコの仲間の中でも最硬を誇る『皮の鎧を着た魚』だよ」

「プレコの仲間の生息地は南アメリカが中心で、アマゾン川やその支流域では普通に食用にされるんだけど」

「ウロコが硬すぎて処理できないから直接火に掛けて丸焼きにするの。なんていうか白身なのに味が濃くてとっても美味しいんだよ!!」

「最大でも40cmくらいの中型魚でとにかくウロコが角ばっててカッコイイ、だけどおとなしくて水槽飼育にも適した魚種だね」


「続いてはカワビシャ。これは比較的暖かい海でたまーに捕れる、カワハギをブサイクにしたような魚なんだよ」

「英名はアーマーヘッド……、英語圏の人って硬いとすぐにアーマーを連想しちゃうのはちょっと安易かも」

「平べったい上にとてつもなく硬く細かい櫛鱗があるからお肉は少ないけど、甘くてコリコリでお刺身に最適なんだよ!!」

「大きさは30cmくらい。深めの岩礁域に生息してるからダイビングの達人ならこのブサイクちゃんの生きてる姿を観察できるかも」


「まだまだ行くよー、イットウダイ! 漢字で書くと一刀鯛とか一等鯛とか。これはおなじみキンメダイの仲間なんだよ」

「近縁には『包丁が全く通らない魚』として誰もが知ってるマツカサウオがいるね。これも暖かい海の岩礁などに棲んでるみたい」

「赤い体色に複数の白の横縞が均等に入るキレイな魚。だけどすっごく硬い、ところがやっぱりお鍋にばっちりなんだよ!!」

「せいぜい30cmの比較的小型の魚で、その縞模様から英語圏ではリスっぽい魚って呼ばれてるんだよ。そこまでカワイイかな?」



「あとはアリゲーターガーやシーラカンスなどの硬鱗を持つ古代魚は確かに頑丈なんだけども」

「やりかた次第で普通に刃物が通るから除外したんだよ。決してシーラカンスが煮ても焼いても美味しくないからじゃないんだよ!!」




 ポチポチ ターン ポチ ポチ ポチ 


「……さてと、こんな感じでいいかな? 質問者さんも納得してくれればいいんだけど……。ちょっと真面目すぎたかも」 スイッチ オーフ

「今日の話題がつまらなかったらそれはとうまのせいなんだよ!!」

「………………………」

「とうまがいるとすぐに話が脱線するし、おバカでエOチな冗談言うし、話がまとまらないまま終わっちゃうこともよくあるけど……」



「やっぱり私ひとりだけじゃ、面白いおさかな話は出来ないかも………………」







「………とうま、早く帰ってこないかな」






358: 2011/12/18(日) 12:04:54.42 ID:7CrIUF3R0

                                             ☆

佐天「あれ? 今日は御坂さんも白井さんも居ないの?」

初春「あっ、佐天さん……、そうなんですよ。なんでも御坂さんは熱帯魚を捕まえに行ったとか。白井さんはいつものパトロール中です」

佐天「……………………………………何で熱帯魚? ……よくわかんないけど、遠出ならお土産貰えるかな~?」

初春「さあ? そんで白井さんが『あなた達二人だけじゃ間が持たないですのですの』ってお友達を呼んでくれたそうなんですけど……」


  バサッ

婚后「それはわたくし、婚后光子のことですわ!」 バーン



佐天「…………お、お久しぶりです? えーと、その節は大変お世話になりまして厚く御礼申し上げ奉り候。というか張三李四?」

初春「あーあーあー、かわいいニシキヘビちゃんの飼い主さんですよね? って、他に適任者が居なかったんでしょうか?」

婚后「ちょ、ちょっとあなた方? あまりにも扱いがぞんざいじゃなくって? それとヘビちゃんではなくてエカテリーナちゃんですわよ!」

佐天「やあ~、そう言われてもねえ……。水着モデルとポルターガイスト事件と誰かが見てる、では確かにお世話になりましたけど」

初春「ヘビ使いの方におさかな話が出来るとは思えませんもん。白井さーん、チェンジですー」 パン パン


婚后「お待ちなさいな!! こちらが大人しくしてたら言いたい放題、絶対チェンジなど認めなくてよ!」 ガー!

婚后「それに初春さん、おさかなって魚類に留まらず、水棲生物のことじゃありませんの? 今までだってカニやウニを取り扱ったでしょう」

婚后「でしたら冷静に考えて、このヘビ使いにも『水棲爬虫類』を語る権利があるんじゃなくて?」

佐天「冷静に考えてヘビ使い呼ばわりは否定しないといけなかったんじゃ……、でもまあ一理ありますね」


初春「あらあら婚后さんったら。そこまで仰るのでしたら水棲爬虫類の話、聞いてあげてもよくってよ? ウフフ」

佐天「誰が喋ってるかわかんなくなるから紛らわしいマネしない! ……えっと、ところで水棲爬虫類というとカメとかワニとか?」

婚后「初心者相手に各論を説いたところでせいぜいが一時の豆知識に過ぎませんわ。このわたくしを呼んだからにはそれ相応の難m」

佐天「……あ、じゃあせっかくなのですっごく基本的な質問ですけど、魚と水棲爬虫類って何が違うんですかね?」

初春「佐天さん?? それは流石に常識中の常識じゃないですか……」


婚后「いえいえいえいえ。人のセリフに割り込む無作法はさておき、その質問はなかなかに奥が深いかと」

佐天「でしょ? だってさあ、ほら? どっちもウロコがあるし水の中にいるし、ウミヘビなんて魚だか何だかわかんないじゃん??」

初春「ちなみにウミヘビと呼ばれる生物には、コブラの近縁の爬虫類タイプとウナギの親戚の魚類タイプ、両方いるんですよ」

婚后「っつ、そのとおりですが………………、わたくしの見せ場を奪うとはさすがはあの白井黒子さんの同僚……、やり手ですこと」


佐天「ふむ。なんか初春も婚后さんも詳しそうだし、二人で交互に話を……、相違点とその解説って進めれば面白そうじゃん?」

婚后「なるほど。つまり、一人が魚と爬虫類の違うところを端的に紹介し、もう一人はそれを詳細に解説出来たらポイントゲット! と?」

初春「最終的により多くのポイントを獲得した勝者は輝ける『第一回ウミヘビキング杯王座』って事ですね! 燃えてきましたー!!」

佐天「そんなことは言ってないけど…………、これ収拾つくの??」





359: 2011/12/18(日) 12:09:05.09 ID:7CrIUF3R0

婚后「では口火はわたくしが切りますわね」

婚后「魚類の呼吸器は主にエラで爬虫類は肺。水棲爬虫類は肺によるガス交換を行う生物にしては異常な潜水時間を誇りますわ」


初春「いきなりちょっとヒネってきましたねー……、まあ問題ないですけど

   まずここでのガス交換とは、濃度の高いほうから低いほうへと物質が移動する『拡散』によって血中へ酸素が、外へ二酸化炭素が
   それぞれ移動することを指します。エラ呼吸であれば新鮮な水をエラに触れさせると酸素濃度の高い水のほうから毛細血管の膜を
   通して酸素が血中に向かい、逆に二酸化炭素濃度の高い血液から水中へ二酸化炭素が溶け出ます。互いに渡しあうからガス交換。
   すごく乱暴に言えば、濃い塩水を真水に入れたら全体がしょっぱくなるのと同じ原理ですね。
   肺についても、エラ呼吸に於ける水が大気に置き換わるだけでやってることは大差ないんですけど、だからと言って液体で肺呼吸は
   極めて特殊な条件下で無ければ出来ませんから注意してくださいね。

   ではどうしてカメやワニなどは非常に長い時間潜水していられるのでしょうか。例を挙げれば、温帯性のカメは時に水底で
   冬眠してしまいます。ウミガメなどでは数ヶ月間潜水可能なんて噂される種も存在します。不思議ですよね?

   これは爬虫類を全体的に見れば他類と比較してエネルギー消費効率が優れているから、としか言いようが無いですね。個別に見れば
   消化管を含む皮膚呼吸で水から溶存酸素を取り込むことに長けた種がいたりヘモグロビンが高性能だったり、様々です」


佐天「……」


初春「じゃあ次は私からお題を出しますよー!」

初春「魚類のウロコは真皮由来であるが、爬虫類のウロコは表皮を起源とする」


婚后「オーッホッホッホ…………、失礼。そんな簡単な事をご存知無い方が居るとも思えませんけれど、お題はお題。仕方がありませんね。

   ではまず庶民の目線で、真皮や表皮といった用語からご説明いたしましょうか。
   原腸陥入後の細胞塊、おなじみ原腸胚において細胞はそれぞれの基本的な役割が位置的に決定しますわよね。つまり外胚葉と内胚葉、
   また内胚葉の作用によって外胚葉の一部が中胚葉へと変化いたします。大雑把に申しますと外胚葉は体の表面側の素になり
   内胚葉は文字通り消化管や一部の内臓組織など体の中身になって行きます。中胚葉は外と内の間、体腔を埋めるように器官や組織を
   作り上げる原材料と認識されている方が多いかと存じますが、一応例を挙げるなら筋肉や骨格や膜や血液や血管やリンパ管に性腺、
   膵臓や腎臓などが中胚葉性ですわよね。脊椎動物のような高等動物の場合、複雑な体組織形成をこの三胚葉性で可能にしております。
   ちょっとご自身の腕をご覧になって下さいな。表面を外胚葉性の表皮が覆い、その下には中胚葉性の真皮や肉や骨が詰まって……、
   あら、思わず先走ってしまったかしら? まあ結論が早くなるのは構いませんけど。
   つまり、表皮とは皮膚における最も外側の構成要素であり真皮とはその直下のそれにあたるのです。外界と生体を分けるのが表皮で
   いわゆる皮革、三味線の胴や野球のグローブなどの革製品と呼ばれるものの原料は真皮と覚えてくださいな。

   さて、ウロコの話に行ってもよろしくて? よろしくなくても行きますけれども。
   魚類のウロコが真皮由来とはつまり、皮膚の内側の真皮の部分が変形して外部に露出しその表面を表皮が覆って出来た小片が魚類の
   ウロコである、というほどの意味。繊維層の上に骨質層が、更に古代魚類では象牙質層やエナメル質層が重なり形成されるウロコは
   それゆえ真皮に埋没しておりいわばウロコ全体が生きた組織なので本体の成長とともにウロコも成長いたします。
   それに対して爬虫類のウロコは基本的に表皮起源。ヒトで言えば垢すりで落とすような角質が硬化したものであって、それ自体は
   成長しません。ですので新しいウロコが次々に作られ、古いものは剥がれ落ちてしまうのですがそれがつまりは脱皮とお考え下さいな。
   また、ワニなど強靭な装甲を誇る爬虫類に関しては真皮由来の皮骨や骨格とウロコが癒合しておりますけれどもこれは例外ではなく
   ウロコ自体はあくまでも表皮起源であって二次的に硬度を高めるべく結合しているのだとご理解くださいませ」


佐天「…………」

初春「思ったよりやりますね。ホ〇ロジーは私の得意分野だったんですけど」

婚后「そちらこそ。ですが、形態学(モルホロジー)でいう相同(ホ〇ロジー)と仰ったほうが余計な誤解を産む心配が無いのではなくて?」

初春「それこそ余計なお世話ですよー。何にしてもコレほど楽しめる相手は久しぶりでした。またヤリましょう!」

婚后「ええ、是非に!」

佐天「……………」




佐天「……………………………………………」zzz






360: 2011/12/18(日) 12:12:00.93 ID:7CrIUF3R0

                                             ☆

上条「…………」

御坂「(何なのよ……、コレって一体どういう状況なワケ? さっぱり理解不能なんだけど!?)」ボソボソ

上条「(俺も……、上条さんも『この公開講座は不足分の単位代わりになってるです』って聞かされてただけで……)」ゴニョゴニョ

御坂「(アンタが『熱帯魚に興味ないか?』って言わなきゃこんなトコ来なかったわよ! よりにもよって講師がアレって何の冗談?)」


一方通行「つーワケで、科学が発達した現在に於いても深海ってのはそこに棲む生物も含めて未だに多くの謎を秘めてやがる。
     ヒトってのは内容物が判ンねェハコを開けずに居られねェモンだ。『好奇心ネコを頃す』って言葉があンだろ?
     ハコの中身が爆弾だったらヒトだって氏ぬ。同様に現在まで深海に魅せられて命を落としたヤツは少なくねェ。
     それでもヒトがヒトである限り知的好奇心は止められない。理性を強く持つ生物にとって知ることは生きることと同義だからな。
     神が知を悪と見做すならヒトの命そのものが悪になる。ならば深海はヒトの知性を断罪する深淵、って考えると面白ェじゃねェか」


御坂「(んあーーーーーーっ、どの口で神とか言ってんのよ。クソの紙みたいな顔色してる分際で……)」 ブツブツ

上条「(気持ちは解る、解るけど落ち着いてくれー! 上条さんはこのチャンスを逃したら留年800%確定なのでございますことよー)」

御坂「(ったく……、ハイハイ。講座妨害でアンタもろとも途中退出にならない程度には我慢するわよ。でもコレ、貸しだからね?)」



一方通行「以上を踏まえて、今日の本題。……今時、しかも学園都市で黒板にチョークで字を書くってどォなンだよ?」カッ カカッ カッ 




                               ~リュウグウノツカイは異形か、凶兆か、それとも「  」か~





一方通行「まずは基本情報から。リュウグウノツカイはアカマンボウ目リュウグウノツカイ科に属する外洋性の大型深海魚であり
     詳しい生態は不明だが過去のデータから推測するにプランクトンを常食とする群れを作らないタイプの魚のよォだ。
     最大の特徴は巨大であること。発見される固体の平均サイズは全長3m程度だが確認されたもっとも長いヤツは11m、
     さらに船上から目視での推測だが15m級の個体も存在するらしい。そのサイズ的におそらく極めて長寿の魚種だろォな。

     体表にウロコは無く代わりにグアニン層って……あー、タチウオ知ってンだろ? 銀色のペラペラの、焼くとウメェ魚。
     アレと同じ銀色の光沢を持つ物質で体を保護してる。更に生きてる間は側線の上下にそれぞれ色違いの縦線が入ったり
     黒暗色の斑点があンだが氏ぬとそれらは急速に薄れ、全体の光沢もくすむ。

     ヒレも独特で、背側全体を赤色の背ビレが覆い、特に頭頂部付近のそれは極端に長い。腹ビレは左右一対の細長い糸状で
     先端が木の葉のよォな形状をしてる。この部分はちょうどナマズやドジョウのヒゲと同じくニオイや味を感知する器官だと
     考えられてンな。おそらく遊泳能力が低く歯を持たないコイツにとって、エサに関する情報収拾は重要なンだろォよ。

     細長く、薄く、銀光沢を持つこの魚の姿を、全く知識のねェヤツに言葉で伝えンなら
     『キッチンにあるアルミ箔を部屋の隅から隅まで伸ばしたモノが海を漂っているのを想像しろ』とでも言っとけ。
     実際、漁師がコイツをただのゴミと見間違えたって話はよく聞くしな」


上条「(リュウグウノツカイがテーマのおさかな話かよ。コレならなんとか居眠りせずに済みそうかな?)」

御坂「(テキトーな解説ね……。アカマンボウ目がマンボウとは全く関係ないって言わなきゃ誤解する人もいるでしょうに)」ヒソヒソ

上条「(え? そうなのかよ。じゃあヤリマンボウとも無関係??)」コソコソ

御坂「(勿論。アカマンボウはマンボウに形は似てるけど、全然別種の美味しい深海魚よ。アカマンボウ目にはレアな種が多いわね)」


361: 2011/12/18(日) 12:20:34.75 ID:7CrIUF3R0

一方通行「話を続けンぞ。リュウグウノツカイの名前の由来は読ンで字の如く『竜宮の使い』だよな。おとぎ話にもあったろ。
     大昔に海亀を助けた浦島太郎ってヤツがその亀に恩を仇で返されて途方に暮れる、だったか? 竜宮はそこで出てくる
     人跡未踏の海底深くにあるとされる伝説上の海神だか龍神だかの棲む宮殿のことだ。
     リュウグウノツカイが竜宮の使いに見做された理由としては発見記録から推察するに海中でのコイツらの休憩姿勢が原因だろォ。
     頭を上にして直立し水中で静止する10mの魚、平均的な透明度の海では頭の側から尾が確認出来ねェかもな。それこそ海底から
     伸びてるかのよォに昔の漁師が誤解しても不思議じゃねェ。余談だが浮き袋が退化してンのにそォした姿勢を保ち続けられるのは
     浅い海に居る魚に比べて高密度の体組織、主に骨や筋肉のことだが、を減らす代わりに多量の水分を蓄えてるからなンだと。
     深海魚では低比重の水や脂肪やワックスを蓄えて浮力を得るのが一般的だがコイツもその例に漏れず、っつーことだな。

     また、日本に於ける人魚伝説の正体はリュウグウノツカイって説もある。例えば日本書紀には、とあるところの漁師の
     『ある日オラが仕掛けたワナに名前がわからねえモノが入っていただよ。魚でもねえし、人でもねえずら!』的な報告がある。
     そしてその話を聞いた聖徳太子が
     『ひとさかなが見つかるのは悪い事が起こる前兆。国に災いが降りかかる前触れである』と言ったと聖徳太子伝暦にある。
     時代が下って鎌倉期には人魚とはヒトに似た顔を持つ魚、と認識されていたよォで各地の民話にズバリ人魚という名で登場する。
     非常に長い体を持つ人魚、白く光る顔と赤い髪の人魚、サルのよォな突き出た口の人魚……
     どれもが少なくとも今日で言う人魚の正体、ジュゴンやマナティなど海棲哺乳類の特徴には当てはまらねェだろ?
     むしろいくつかの伝承を組み合わせると、飽くまで個人的にだがリュウグウノツカイ以外には候補がありえねェとまで思える。
     ……っても、鎌倉以降になると中国の人魚伝説の影響を受けて鋭いキバを持つ人魚や赤ン坊のよォに泣く人魚が出現するし
     江戸期に入ると更に西洋文明が染み込み、半人半魚の女体っつー現在のイメージに繋がる人魚が一般に語られちまう。
     まさに情報化社会の弊害ってヤツだ。

     さて、西洋に於いてリュウグウノツカイは豊漁の兆しとされている。英名は腹ビレの形状がボートのオールに似てることから
     オールフィッシュ(Oarfish)だが、コイツが漁の最中に現れるとニシンが大漁になるってことでニシンの王(King of Herrings)
     なンて別名を持つほどにな。まあリヴァイアサンのモデルやシーサーペントの正体とも言われ化け物扱いが無いワケじゃねェが
     一般的には変わった形の珍しい魚、デカいンで遊びの釣りの対象になる魚、って程度の認識だ。
     ところが日本じゃ、聖徳太子の話で触れたが随分な扱われ方だと思わねェか? 国難の兆しだとか地震の前触れだとかキモイとか。
     コイツの氏体がどこかの浜辺に漂着するとニュースになり、『悪い事が起きる知らせで無いことを祈ります』なンて。
     タコやクジラやコイ同様、洋の東西で同じ生物が全く違った印象を与えるケースのひとつと言っていいだろォ」


上条「(……長い。ちょっと理解が追いつかなくなって来ちまった。……なあ、御坂?)」ゴチョゴチョ

御坂「(は? 今のパートは脱線みたいなモンだからわかんなくても平気よ。なんならノート取ってるから後で見れば?)」

上条「(ほ~、意外だな。…………お前、結構真面目に講義受けてるんだな)」

御坂「(一体誰の為だと思って……!! ふんっ、…………とにかく次の話がキモだと思うからそのつもりで居なさいよね)」



362: 2011/12/18(日) 12:22:04.21 ID:7CrIUF3R0

一方通行「では何故リュウグウノツカイの発見が日本において凶兆とされるのか、を考えるにあたりココで断りを入れておく。

     この後から数行に渡る内容は主にネットで収集した情報を基に構成されている為、一部に特定の地名や団体名が入るが
     決して悪意、誹謗中傷の目的は無い。だが今回は多くのソースの主張とは異なる結論を出す予定であり、そのことに
     不快感を持たれても全く仕方が無いと思う。よって当然の事実を確認しておく。この講義は一切が俺の独断だ。
     誰の主張の肩代わりでもなくむしろ一方通行な言いっぱなしに過ぎないので、出来れば深刻に捉えないで貰いたい」

一方通行「さて、江戸時代の文献にこンな記述がある。

     『宝永年間のこと、ある村の漁師が人の顔と魚の体を持つ生き物を見つけ殴って頃した。その後、村は暴風と地割れで消えた』

     宝永年間と言えば富士山の最後の噴火を引き起こした宝永地震の起きた時代だがそれとの関連は残念だがわからねェ。
     それはそォとその記述、諸国里人談によるとこの生き物は首の下に鶏冠(トサカ)のような赤いヒラヒラを付けてたらしい。
     これがリュウグウノツカイを思わせる外見の生物の発見が大惨事の引き金になった証拠としてよく使われるンだがどォ思う?
     理性的に考えてもし村の悲劇の原因がその魚だったとしても、コレはソイツを頃すと罰が当たるって教訓話なンじゃねェか?

     まあ、昔話では確認不可能な事も多いンで最近の話題に移る。2009年末から2010年中旬に掛けて日本海側の各所、ニイガタから
     ヤマグチあたりで比較的多くのリュウグウノツカイ発見報告があり、新聞やニュースで報じられた。報道量は過去最大だった。
     元々の生息地が太平洋側と考えられているコイツが日本海側で多数発見された事を受け、当然ながら地震を連想したヤツも居た。
     だが、目立った大地震はあったか? 翌年のインパクトのせいで思い出せないなら覚えとけ。2010年、日本付近で震度5強以上の
     地震はゼロだったンだよ。最大で沖縄本島近海を震源とする震度5弱だから、魚の発見箇所には何の繋がりもねェよなァ?
     ンで、リュグウノツカイが地震の前触れだと主張するヤツらは今、こォ言うンだがどォ思う?

     『リュウグウノツカイが発見された年、または次の年に大地震が起こる』

     たまに居ねェか? デジタル時計を見るといつも数字がゾロ目だ、とか言ってるヤツ。ソレならまだ偶然数字が揃っている場合に
     限り記憶に残る為って理屈が立つが、いつも数字がゾロ目または一つ違いだ、だったら話になンねェだろ?
     勿論この手のバカ話と違って大量発見にはなンらかの原因があるはずで、ソレを辿れば生息域に変化が起きた、地磁気に乱れが
     発生した、ってトコにたどり着く可能性が無いとは言えねェ。だが検証もせずに安易に断じる事が正しいとは到底思えねェよ。

     では根拠の薄いデータしか存在しない状態で凶兆説が根強いのは何故かと問われりゃ、日本人の精神性に関わってンのかもな。
     珍しい出来事、普段と違うやり方、場違いな作法……。街中で霊柩車を見かけたら、とか毎日の日課をサボると気持ちが悪いとか
     着物の左前とか。これらの共通点は異常な状況とそれを前兆として現れるとされる様々な不幸だ。要するに日本人は伝統的に
     日常に異物が入り込むことを極端に恐れ、それによって悪い事が起こるかもしれないと注意を促す為に諺や伝承で伝えて来たンだ。
     だが例えば、夜に爪を切ると云々って話は現在では殆ど意味を成してねェだろ? 生活が変化すりゃ当然に日常も変わる。
     そして実際何も起こらない事を理屈じゃない部分で理解……、曖昧な言い方だが、とにかくソレが出来れば解消するってこった。

     リュウグウノツカイについては確かに外洋性深海魚だから稀な浜辺への漂着でしか一般人には見る機会が無いために、日常を壊す
     異物として認識されそれ故に凶兆と見做されるって事になるワケだ。さて、この評価が覆されるとしたらどンな場合だろォな。
     多くの漁師にとって深海魚の殆どは食味が悪く値段が付かないので網に入ってもそのまま捨ててる、って事実を知ったとしても、
     群れを作らない単独生活の為に希少と嘗ては信じられていたが実際はかなり頭数が多いって知っても、外国でのこの魚の評価を
     聞いてもこの迷信を捨てンのは難しいだろォよ。理性の論理は必ずしも理屈じゃねェからなァ……。
     いつの日かこの魚の生態が綿密に調査されて伝説の真実が明かされるのを待つのが唯一の方法、どォかと思うがソレしか無ェな」







御坂「(む? 凶兆説は迷信、って事はデタラメだって考えてんの? でも調査を待つとか……、ハッキリしない話だなー。ん?)」キョロ

上条「(ゆ、許せねえ! 罪も無い魚を悪者に仕立て上げて、その理由が珍しいから、だけだなんてアリなワケねえだろ!!)」プルプル

御坂「(……うーん、ゴメン。いくら美琴さんでもその目標不明な意思には賛同できないわ)」


363: 2011/12/18(日) 12:25:16.31 ID:7CrIUF3R0

一方通行「さて最後オマケだ。時に凶兆、時に怪物、時に異形、などかなり特殊な生物って扱いのリュウグウノツカイだが実際はどォか。

     結論を言う。深海魚の代表的な特徴を上げるとリュウグウノツカイが出来ンだよ。骨格、筋肉、浮き袋の退化とそれに代わる
     水分、脂肪量の増加。わずかな光で視界を得るべく巨大化した眼球。大きく広げることが可能な口、上方からの太陽光を反射し
     捕食者から姿を隠す為のCDのよォな体色。これらは中深層ってカテゴリに棲む魚の共通点だがリュウグウノツカイそのものだろ?
     
     更に結論を展開する。地球に於いて陸地面積は3割弱で残り7割は海だ。そして深海と呼ばれる水深200m以下の海ってのは
     海水全体の体積比で実に93%に達する。つまり、地球は大部分が海であり、海はほぼ深海で出来ているってことだ。

     なら、地球の代表的な場所は深海であり、地球の代表的な生物はそこに棲む生物の特徴を全て持つ、リュウグウノツカイだよな?

     当然本気で言ってるワケじゃねェぞ? 要は、物の見方をホンの少し変えるだけで常識なンて案外アッサリ崩れちまうって話だ。
     いつも思い込みだけで動いて失敗してるヤツや自分の決意に振り回されてるヤツ、変化を嫌い日常を守ンのに必氏なヤツ。
     そンな連中はいつか選択を間違えて袋小路に迷い込むだろォ。ゲームオーバー、手遅れになっちまう直前に、もし気が向いたら
     今日の俺の話を思い出して……イヤ、俺はどォでもいいからリュウグウノツカイの事を思い出してみろ。

     その正しさはタダの思い込みじゃねェのか? 本当にそれしか道がねェのか? その行動に意義はあンのか?

     リュウグウノツカイが地球代表でもあり異界の怪物でもあるって話を自分の置かれた立場に当て嵌めりゃ、多分別の解答が
     思いつくンだろォぜ。判断に迷うことがあったら……、イヤ、自分の判断にむしろ絶対の自信がある時にこそ試してみろよ。

     ただまァ……………、新たに思いついたそっちが正答とは限らねェがよ。

     ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 以上だ」





上条「ありゃ、アイツとっとと行っちまったよ。質疑応答とか無いのな」

御坂「アンタ何か聞きたい事あったの? っていうかこの状況で手を挙げて質問する気だったの? バカなの? バカよね! バーカ!!」

上条「え、ええと……。そんなつもりで言ったんじゃないけど、気を悪くしたなら謝る。ゴメン」

御坂「…………。講義のノートは今日の貸しを返したら見せてあげる。どうせレポート提出するんでしょ?」

上条「そうだった! …………では、ワタクシは一体何をすれば宜しいのでせう??」

御坂「そーだなー今度何かオゴって貰おうかなー? それともー……」



 <ポーン

上条「ん? 館内放送か?」


『本日の公開講座、受講お疲れさまでした。尚、講師より記念品といたしましてリュウグウノツカイ一匹が贈呈されております。
 全長4.1m体重20kgのお手ごろサイズ。都合により先着一名様限りですが、希望される方は入り口受付カウンターまで~』


御坂「んー? そういえば私の後輩が『一度で良いからリュウグウノツカイを食べてみたいですのですの』って言ってたっけ……」

上条「それは俺にアレを貰って来いと? どうやって持って帰るんだよ!? 持って帰ったとして保管はどうするんだよ!?」

御坂「なんとかなるんじゃない? 黒子と、いつかの白シスターも一緒にこれからアンタん家でお鍋とかさ。それで貸しはチャラでどう?」

上条「先生、これが袋小路なんですね……。あー、もう。わかった、わかりましたよ! 不幸だかどうかもわかんねえええ!」


364: 2011/12/18(日) 12:31:35.67 ID:7CrIUF3R0

芳川桔梗「おつかれさま。終始堂々として結構板についてたんじゃない? 実は君には教師の素質があるのかもね」

打ち止め「うんうん、カッコよかったよー!ってミサカはミサカはあなたの晴れ姿に思わず惚れ直したのを白状してみたり!」

一方通行「っざけンな!! アイツらが来るって知ってたら氏ンでも断ってたっつーの!」

黄泉川愛穂「仕方ないじゃん。コレはそもそも月詠先生が留年の可能性が高い学生たちの救済策の一環として企画した講座なワケで」

番外個体「いつだったかその合法口リ教師がオマエさんとチビコロの会話を聞いて、それ以来目を付けられてたってこったーね」


一方通行「ンな事情知るか! とにかく二度と、天地が逆転したってこンな真似しねェからな!!」

芳川桔梗「あらもったいない。せっかく持ってるスキルは生かさないと宝の持ち腐れよ?」


一方通行「チッ………………、もォ用は無ェンだろ? 帰る」







打ち止め「うーん、機嫌悪くしちゃったかなってミサカはミサカは本作戦にかけた期待が高すぎだったかも?って思ってみたり」

番外個体「バカだねー。ホントに嫌なら受講生におねーたまが居んの見つけた瞬間に帰ってんでしょ。ありゃそういうヤツだよん?」

芳川桔梗「人間の心なんて結構単純に出来ているのに、その外見は複雑なものなのよ。大抵の場合、本人すら本心は推し量れないんだから」

黄泉川愛穂「ちょうど生物の生態みたいなもんじゃん。何の理屈で特定の行動が行われてるか、偏見抜きでじっくり見守ってやんないとね」

番外個体「そんで結果的に、ありゃ最低の外道だぜって証明されたら大笑い」 ケケケ


芳川桔梗「ところで、参加賞とやらで処分したのね……、アレ」

打ち止め「ああ、アレ……って、ミサカはミサカは巨大物体の面影が脳裏から離れずブルブルブルブル」

番外個体「ミサカとしても、まさか断線した海底ケーブルに電気流したらあんなもんが浮いてくるとは。いやはやビックリビックリ」

黄泉川愛穂「毒流し漁、爆破漁、そして電気漁はほぼ世界中で犯罪じゃん! そしてアレを持ち帰った不幸な受講生に幸あれじゃん……」



『リュウグウノツカイは筋肉や骨を減らし、代わりに比重の軽い水分を大量に蓄えることで……、つまりそれはドロドロの物体に過ぎない!』



禁書「とうま! このふやけたスポンジみたいなブヨブヨの何か、とっても美味しいんだよ!!」 ハフハフ

白井「いえ、正直味は……、ですけど原形を留めないほど崩れた身は非常に魅力的ですの!」 フー フー

禁書「すごいよとうま! ホットプレートが水浸しになるくらい切り身からお水が出てくるんだよ!!」ジュー ジュー

白井「皮にうっすら残る怪しい模様もかなりの高ポイントですの。残念ですけど、お鍋では完全に身が溶けてしまいましたわね」 グツグツ


御坂「黒子もだけど、あの白い子もスゴいわね。…………、リュウグウノツカイの水分含有量ナメてたわ。ゴメン」

上条「この頼りになる二人に出来るだけ処理してもらおう……。で、残りはご近所にでも配るかな……」

御坂「それなら私も心当たりが二人ほど居るわ。でも、貰って困るものは贈っても喜ばれないだろうなー」








   ~おしまい~




365: 2011/12/18(日) 13:00:24.20 ID:7CrIUF3R0

以上、第二十九回「間違い」でした。定型のありがたみをとことん思い知りましたとも・・・

ちなみにシーラカンスがホントに不味いのかどうかは知りません。インドネシアのどこかでは普通に食べてたとか聞くけど
他方でアブラっぽいハブラシを噛んでるみたいって感想もあったような。

もひとつちなみに、リュウグウノツカイは深海魚だと紹介していますが実際は思ったより上、中層付近をフラフラする魚かもしれないそうです。
オキアミ食べてるんなら確かにそのほうが自然かなー・・・

そんなわけで、今回はちょっとヤリスギだよなーと反省しながらこの辺で。ではではまた来週ー

372: 2012/01/10(火) 01:02:59.53 ID:2wTBt1S30
新年一発目の更新ー! 遅くなりすぎましたーー!!

そんな今回は、辰年だから竜を取り上げようとして行き詰まり・・・
なら行き詰ったコトをネタに! って無茶な発想で出来上がってます

テーマは、内容がわからない様子「茫漠」です 
伝わらないかなあ、と思いつつ。どうぞ

373: 2012/01/10(火) 01:04:15.01 ID:2wTBt1S30


                               ☆

「なあインデックス、信じられるか? この上条さんが新年を無事迎えてるんだぜ?」

「とうま…………、なにはともあれオメデトウなんだよ」

「去年はとにかく色々あったからなあ。覚えてないから定かじゃないけど、アレで平年並みってことは無いよな」

「毎年あんな災難にあってるならとうまはとっくに神の御許かも。って言うかむしろお迎えから嫌われてるレベルなんだよ」

「でもな、生きることに希望が少しも見えなくても生きてること自体が希望ならそれでオッケー、って思わないか?」

「そんな悟ったこと言っちゃ悲しすぎるんだよ!! それと年明けなんだからもっとハレな会話をしなきゃダメかも!」


「わーってるって。でな、こっそり予習してきたんだけど、新春一発目だし干支にまつわるおさかな話なんてどうだ?」

「えっと……、つまりそれって辰のこと?」

「おう! 辰ってのは想像上の存在ではあるけど十二支の中で唯一の水生生物だからな」

「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥……、確かに辰以外は実在の陸上動物なんだけど…」

「なんだよ? このテーマに何かご不満でも?」

「ううん、そういうんじゃないんだよ。ただちょっと……、とうまには荷が重いんじゃないかなって」


「……言葉がキビシくないか? そりゃあさ、とどのつまり幻想獣の話なワケで、いわゆるお前の専門なんだけどさ」

「って言うかね、辰こと竜は語るべきことが多すぎるんだよ。基本情報の羅列だけで単行本が50冊は書けるかも」

「オイオイいくらなんでも50冊って、大げさな表現にも程度ってモンがあるぞ?」

「むぅ、やっぱり全然わかってないんだよ。素人が触れちゃダメな事が世の中にはあるってそろそろ学習して欲しいかも」

「はあ? んじゃ竜について話すだけで大罪だ、ってのかよ??」

「ちがうかも。私が言ってるのは、『竜とはどんなものであるか』は危険物、取り扱い注意ってことだよ」


「いやいやいやいやいや、お前の考えがさっぱりわかんねーよ。竜なんて所詮ドラゴンだぞ?」

「とにかく少しの間で良いから黙ってて欲しいかも!! 今からその腐った思考を叩き治して差し上げるんだよ!」

「なっ…………、」

「大雑把な説明だからすぐ終わるんだよ。準備はいいかな?」




374: 2012/01/10(火) 01:06:04.03 ID:2wTBt1S30


誰でも知っているしさっきから何度も言ってるけど、十二支の辰とは竜のことだよね?
その存在を説明するとなるとどうしても避けられない問題が起こっちゃうんだよ。

えっと、簡単にまとめると


1)十二支の発祥は中国だけど、竜は世界中に類似の伝承があり起源が定かじゃない

2)その姿は、大きなウロコを具えた長い胴体に鹿のような角と長いヒゲを蓄えた獣の顔、なんて描写されるけど
  実際は幻獣だから当然なんだけど真の姿というものを持ってない

3)またその基本的な姿さえ複数の幻獣や実在の動物のイメージが混合しちゃった結果だからイメージの基になったモノ、
  つまりモデルが何なのかさえハッキリ言えない

4)そして地域によって宗教によって人によって竜の位置づけも様々。怪物だったり神様だったり悪魔だったり……

5)ココに西洋のドラゴンを竜の一種として持ってきたら話は更に無茶苦茶になっちゃう
  ドラゴンは一般の人にとっては災いの象徴であるのと同時に知恵を授けてくれるモノっていう不思議な存在だからね
  付け加えると、近代魔術師にとってはまた別の意味になっちゃったりするし


と、こんなふうに竜って曖昧で不可解で、吉でも凶でも無く、またそのどちらでもあるの。

そんな竜を安易に『こういうモノです』って断定しちゃうのは最悪、他人の神様を侮辱するってことになるんだよ。
逆の場合もあるだろうけどどっちにしても深刻なトラブルになりかねないデリケートな話題なのかも。



「どう? それでも竜の説明をしたいのならそれ相応の覚悟が必要かも」

「……え? イヤ、全然納得出来てねえんだけど?? 別に俺としては竜を貶めるようなことをいうつもりは無いし」

「貶めるとか誉めそやすとかの問題じゃあないもん。まったく、とうまは物分りが悪すぎるんだよ!」

「じゃ、じゃあどう考えればいいんだよ? 何がどうしてダメなのか解るように説明してくれよ」



「ん~~、そだね。たとえばハーレムラノベのヒロインとかバトル物の最強キャラとかを断定的に語ったらどうなるかな?」

「?? そんなの好きなようにやればいいんじゃねえの? 作り話の解釈なんて人それぞれなんだから…」



「ふ~ん。じゃあ、えーっと、一休さんのメインヒロインって桔梗屋の弥生さんだよね?」

「はあああああ? お前全然解ってねえな!? 一休さんには相思相愛のさよちゃんがいるだろ!」

「それこそありえないんだよ。一休さんは小坊主だけど実は帝の子供なんだよ? 庶民じゃ釣り合わないもん」

「んなもん関係ねえよ! それに弥生は高飛車でトラブルばっか起こしやがるし、バカな兄弟子の秀念がお似合いだろ!」

「秀念さんが弥生さんにホレちゃってるのは、作中で弥生さんが人気キャラって事を証明してるとも言えるかも」

「弥生を贔屓したいからって深読みし過ぎだ! 大体、身分を言うなら露姫が一番相応しいってことになっちまうぞ!」

「……やんちゃ姫は無いよね。あんなワガママで意地汚くてウルサくて生意気な子がヒロインって、無い無い」

「実は素直でいい子って描写もあるにはあるけどな。とにかくヤヤコシイ事情抜きに考えたらさよちゃん一択なんだよ」

「南北朝のヤヤコシイ時代の、出自のヤヤコシイ主人公の周りのヤヤコシイ人達からヤヤコシサを抜くって意味不明かも?」

「そうじゃなくてだな、弥生は一休さんに対して特別に好意を寄せてる感じが無いだろ? その時点で資格が無いの!」

「だったらまだ幼いさよちゃんだって同じかも …………と、こういうことなんだよ」


375: 2012/01/10(火) 01:08:13.23 ID:2wTBt1S30

「なにがだよ!?」

「だから、竜についても今の話みたいにアチラを立てたらコチラが立たない感じになっちゃうんだよ」

「……、つまり竜とはどんなものかを説明する場合には遍く全方位に気を使った描写が必要になるってことか」

「誰も傷付けたくなければ、だけどね。逆に言えば他人を害しても良いって覚悟があるなら好きにすればいいんだよ」

「……、そりゃ下手したら『俺は無神経です』って真顔で自己紹介するようなモンだ。ワザとそんなマネできないよな」

「無自覚だったらなおさらタチが悪いかも? 竜は存在していないかもだけど、竜を語る人は実在するからね」



「オチもないしおさかな関係ないし曖昧な話だったな……、ま、一発目だしこんなもんか?」

「テーマが過大だったからね、仕方ないかも。まあそんなことより定番の挨拶で締めておくんだよ!」

「定番? ああ」
                  

                  『今年もよろしくなんだよ』







376: 2012/01/10(火) 01:09:50.82 ID:2wTBt1S30

                                      ☆

佐天「という訳で、辰年にちなんだ都市伝説といえばアレしかないですよね!!」

白井「また都市伝説ですの? 佐天さんの辞書には懲りるって文字が無いとしか思えませんの」

御坂「なんだかイヤな予感しかしないわね……」

初春「アレって言われても全然心当たりが無いのに、それ以上言っちゃダメって悪寒がビンビンします!」


佐天「あるえー? 皆さん、ノリが悪いですよー! もっと盛り上がっていきましょうよ。ほら、アレを予想するとか」

白井「と言われましても…………。竜に関係する都市伝説……」フムー

御坂「竜……、ドラゴン……、マカラ……、ナーガラジャ……、八岐大蛇……、ワイバーン……、九頭竜……」

初春「うーん。都市伝説ですから、もっと俗な話じゃないですかね? 路地裏がどうとか下水道がどうとか」


佐天「ああ、ニューヨークの下水道の都市伝説もあるよね。なんだっけ? 薄暗い地下道に蠢く白いワニ……、だったかな」

白井「それ、くだらないB級パニック映画のモトネタですわよね? ええと…」

御坂「あががっが!! ち、違くて、えーっと、あ! 解ったわよ解った!!! 空に掛かる虹は竜の宝物の根元の妖精!」

初春「どうしたんですか御坂さん? 言ってる事が支離滅裂ですけど??」


佐天「多分それは『虹の根元に辿り着くと幸せになる』じゃないですか? 宝物とか竜とか関係ないと思うけど」

白井「いえ、虹という字には虫が入ってますでしょう? これは大昔、虹は巨大な神秘生物と思われていた名残ですの」

初春「虫じゃないのに虫偏なのは蛇とか蜥蜴とか蜃とかと同じですね。ま、言っちゃえば竜みたいなモノですかね?」

御坂「そうそうそう、そういうことなのよ。ホラ、西洋のドラゴンってお姫様と宝物を奪ってくるイメージじゃない」


佐天「ははあ~、それで奪ってきたものが虹の根元にあるから辿り着けたら幸せになるって…」

白井「はて? わたくしの知ってる話では虹の根元に宝を埋めているのは妖精さんだったような……」

初春「虹の根元に行くと良いことがあるって伝承は世界中色んなトコにありますからね。それぞれ微妙に違いますけど」

御坂「まあ、現代まで伝わってる話は色んなトコの色んな伝説が融合してるってことでしょ」


白井「晴れた日にホースで水を撒けば解りますけれど、そもそも虹に根元なんてありえません。ただのまん丸ですの」

御坂「そこっ、夢の無いコトは言わない! むしろ普通は辿り着けない場所だからこそいいのよ」

初春「奇跡がそんな簡単に狙って起こせたら奇跡じゃないですからねー。ところで佐天さん?」

佐天「ミラクルかあ、ふむふむ……、ほ? なんだい初春?」

初春「結局、佐天さんの仕入れた辰年ならではの都市伝説って何だったんですか?」

御坂「そういえば聞いてなかったわね。ついでだし、良かったら教えてくれる?」


佐天「あ、えーとですね……。正直スケールの小さな話なんで無かったことにしてください! ゴメンなさい!!」

白井「期待していたわけではないですけど、無かったことにと言われると気になりますの……、ではまた次の機会に」






377: 2012/01/10(火) 01:13:13.16 ID:2wTBt1S30

                                       ☆

打ち止め「ねえねえ、ロマンティックの日本語訳ってなにかな?ってミサカはミサカはたずねてみたり」

一方通行「辞書引け、と言いたい所だが……。またどォして今日はそンな質問なンだよ?」

打ち止め「クイズで氏神博士が浪漫的って答えて不正解にされてておやおや?って…」

一方通行「何の話だよ? まァその浪漫的ってのは英語の音の当て字だから訳語としては不正解なンだろォが」


打ち止め「ふうん。でもさ、それなら正解は何なんだろってミサカはミサカは再び質問してみる」

一方通行「だから辞書引きやがれこのクソガキ! 大体、ロマンって言葉くらい知ってンだろ?」

打ち止め「ロマン? ロマンスなら見当がつくんだけどってミサカはミサカは耳年増なお年頃アピールしてみる」

一方通行「チッ……、何を勘違いしてンだか見えねェが覚えとけ。ロマンやロマンスってのは物語のことなンだよ」


打ち止め「物語って、つまりお話とか小説とかそういうの?」

一方通行「あァ。中でも特に伝奇、つまり普通じゃねェ世界を描いた超現実的な話をそォ呼ぶ」

打ち止め「あれ? でもロマンはともかくロマンスって、何かもっとこう、ねえ? ってミサカはミサカは曖昧モコモコ」

一方通行「ちったァ自分で考えるクセ付けろ! 語源知ってりゃ難しいコトじゃねェンだしよ」


打ち止め「言葉の意味が判らないのに語源なんて知ってると思うの?ってミサカはミサカは当然の返答をする」

一方通行「……そりゃそォか。ンじゃ軽くロマン、ロマンス、ロマンティックを説明してやる」

打ち止め「いいけどこのままだとおさかな話にならないよ?ってミサカはミサカは釘を刺してみたり」

一方通行「無駄な心配すンじゃねェ。俺を誰だと思ってる?」


打ち止め「……、じゃあお任せするね!」

一方通行「フン……。大昔のヨーロッパに於いて公用語はラテン語って決まってたンだが」

打ち止め「ラテン語、ふむふむ」

一方通行「公的な言葉ってのは、堅苦い雰囲気を与えンだろ? 次第に日常で使い難くなる」


打ち止め「日本語だと文語って感じかな?ってミサカはミサカはたとえてみたり」

一方通行「だな。で、必要に迫られて次第にラテン語を基にした会話用の気軽な言語が派生する」

打ち止め「今でも文書の言葉とおしゃべりの言葉はちょっと違うもんね。それで?」

一方通行「その会話用の気軽な口語がロマンス語、転じて口語で記される気軽な読み物をロマンスって呼ンだっつー事」




378: 2012/01/10(火) 01:15:33.21 ID:2wTBt1S30

打ち止め「ほほぉ~、くだけた表現の楽しいお話ってトコロなんだね。ちなみにその名前はドコから来たのかな?」

一方通行「ラテン語の中心はローマだったンだよ。ローマには現在でもラテン語を公用語にしてるバチカンがあンだろ」

打ち止め「つまりローマの人が使い始めた言葉だからロマンス語とよばれたワケかあ」

一方通行「繰り返しになるが、物語としてのロマンスには血湧き肉踊る異能冒険長編が多かったンで…」

打ち止め「あれれれ? それはどっちかって言うとロマンのほうじゃないのかな?ってミサカはミサカは疑問を呈してみる」

一方通行「ロマンスがオマエの思ってる意味になってンのは、その手の話にありがちなヒロインの所為だろォ」


打ち止め「ヒロイン? お姫様とか幼馴染とか実は異性だったライバルとか毛布を纏った美女とか?」


一方通行「最後のは知らねェがそンなトコだ。

     ヒーローに絶望の淵から救われる囚われのヒロイン。
     実際にはありえない状況だからこその文字通り劇的な感情のぶつかり合い。
     そして誰もが羨むハッピーエンド。

     そンなロマンスに描かれるよォな恋愛、恋愛と言えねェ気もするが、それに憧れて
     『私も物語のヒーロー(ヒロイン)みたいな恋がしたい』とか考えちまう脳味噌に問題のあるヤツラ。

     ヤツラの考えが一般に定着しちまって、今ではロマンス=劇的な純愛って意味で使えるっつーコトだ」


打ち止め「それで、日本語だと混同を避けるためにもともとのロマンス(物語)の意味をロマンに当てたのかな?」

一方通行「生きてる言語だからな。まァ、ンなトコじゃねェの?」

打ち止め「ふーむふむ……、それでロマンティックの日本語訳は結局なんなの?ってミサカはミサカは三度目の正直」

一方通行「~テイックってのを中国語の音訳で的って字を当てンのと同様、○○的と訳すべきだが」


打ち止め「となると今までの話から……」

一方通行「物語ってのを軸にすンなら『空想的』『幻想的』『非現実的』が適当か?」

打ち止め「ドラマみたいなラブラブムードって感じだと『感傷的』『叙情的』『劇的』かなあ?」

一方通行「ついでに付け加えると芸術用語としては『ロマン主義的』なンて意味もあるが」

打ち止め「……、なんだか言葉の意味の幅が広すぎ!ってミサカはミサカは頭を抱えてみたり」


一方通行「だよなァ……。例えばこンな一節があったとする

『彼は感傷的な台本を劇的に改定し空想的な発想で幻想的に展開した非現実的な計画を叙情的に批判したロマン主義者だ』
『要するに彼はロマンティストだ』

     上半分だけでは意味不明、後半は簡潔に述べられているが漠然に過ぎるよな」


打ち止め「だね。単にロマンティックって言われたら注意したほうがいいかもってミサカはミサカは心してみる」


379: 2012/01/10(火) 01:19:29.41 ID:2wTBt1S30


芳川桔梗「彼も言った様に、その手の問題が起こるのは言葉が成長し進化する生き物のような性質を持つ為ね」

番外個体「でもさ? それだと他人の話は単語の数だけ解釈が枝分かれすんじゃん。それでいいのん?」

打ち止め「ヒトは雰囲気や前後の文脈や環境からそれとなく意味を推測してるんだろうけど、考えたら危ういよね……」

一方通行「現実世界は滞りなく営業中だろォ? ンな心配するヒマあンなら辞書引いて語彙でも増やしとけ!」


芳川桔梗「曖昧なままでも日常では問題ないのよ。但しそれは確固たる基準があればこそ、なのだけれども」

打ち止め「言葉の基準って、つまり絶対に変化しない言語ってこと?ってミサカはミサカは、そんなのあるの?」

一方通行「生き物が成長進化すンのは生きてるからだ。なら言語も氏ンでりゃ変化しねェだろ?」

番外個体「氏語ってヤツ? ナウなヤングにバカウケのイケてる超トレンディちゃん、的な」


芳川桔梗「それは今でも普通に通じるでしょう?」

一方通行「……、氏語で正解だがソッチじゃねェ。日本人が全滅した場合の日本語、って感じの使用者が居ねェ言語だ」

打ち止め「言語が生きてるように変化するのは日々いろんなヒトに使われてるから。だから氏語は変化しない、ってことね」

番外個体「法律用語とかが古めかしく難解過ぎんのはひょっとして、生きた言葉が起こす意味の曖昧さを回避する為かいな」

一方通行「で、ラテン語っつー氏語の話をしたろ? 大昔に廃れた堅苦しい公的言語って」

芳川桔梗「口語がどんどん発達する一方でラテン語はその権威だけが上がって誰も使わなくなってしまったの」

一方通行「ラテン語が学術上統一的な真名、つまり学名で使われてンのはそンな事情で格式高く変化が無いからだ」

芳川桔梗「勿論、現在は西洋文明が支配的であるからって前提があるのだけれどもね」


打ち止め「学名って、鳥のトキを”Nipponia nippon”とか 表すアレかな」

芳川桔梗「そう。全ての分類された生物には学名が付くのよ。当然、おさかなにもね」

番外個体「ほお~。ん? でもさ、氏語ってことは新しいモンを表現するには語彙が足りなくね?」

一方通行「ホントにムダなトコだけ鋭いよなオマエら……。実際の学名は生きてる言語をラテン語化させて作ンだよ」


芳川桔梗「ん~……、そっちに話が行くと収拾が付かないからその辺にしておきなさい。大して面白くもないんだし」

一方通行「あァ? 面白くないとかバカ言ってンじゃねェよ。命名規則にはロマンが溢れてンだよ!」

番外個体「良く知らないけど、誰かがロマンティックなんだね」

打ち止め「うんうん、ミサカもあなたの止まらないロマンティックに胸が苦しくなるよ」




一方通行「……………、ってオイ待て! コレでオチって、シュール過ぎンだろォがああ!?」

打ち止め「だってロマンティックだからしょうがないよってミサカはミサカは曖昧な言葉で締めてみたり!」



   ~おしまい~



380: 2012/01/10(火) 01:36:09.56 ID:2wTBt1S30

以上、第三十回「茫漠」でした。ドラゴンには触れてはならんのじゃ・・・

第三パートで出てくるラテン語ですが、実際は時代その他で幾つかに分類されます。古典ラテンとか教会ラテンとか中世ラテンとか
あとバチカンで普通に使う言葉はイタリア語なので念のため

おさかな話っていうより言葉弄りみたいになっちゃったけど今日はこの辺で。ではではまたー

383: 2012/01/18(水) 21:51:39.40 ID:SThyf77I0

投下量と投下間隔(重要)、そして内容になかなか進歩が見られないおさかな話

今回は試しにちょっとドラマを作ってみよう!って、いつも通りの軽い思いつきが大事故に繋がった感じです
テーマは「禁句……かな?」・・・なんとも微妙ですけど、どうぞ

384: 2012/01/18(水) 21:55:44.40 ID:SThyf77I0

                        ☆

「なあインデックス…………………、あれ? インデックスはドコ行った??? ってお前は!!」

「やあやあ、久しぶりだね上条当麻」

「ステイル! どういうことだよ、インデックスに何があった!?」

「……、説明するのもバカらしいことなんだけどね。暫定保護者である君には伝えておくべきなんだろうなあ」


  ――――――――――――――――――――――


「……つまり要約すると、お前んトコの偉いヒトが貴重品を金庫に入れてそのカギを魔術で保管していたんだけど」

「そ。あろうことかあのバカ……、いやその方は自分の掛けた魔術の解法を失念してしまったらしくてね」

「そこであらゆる魔術に精通するインデックスが必要になったワケか。でもそれならそれで一声掛けておけって…」

「わからないかな、だから僕はココに居るんだけど? 君が今の僕以上に不機嫌になる資格など無いってことさ」


「お前も相変わらずいい性格してんなあ……。じゃあ用事も済んだんだろ? お帰りはあちらだぜ」 ヒラヒラ

「これはご丁寧に。当然言われなくとも失礼すr……………なあ、おい?」

「なんだよ、何か文句でも付け忘れてたのか?」

「……コレは君の、上条当麻の水槽かい?」 トントン


「俺の部屋にあるんだから当然だろ? ……、でも最初に飼おうって言い出したのはインデックスだったかな?」

「…………………………………………」

「しょっちゅうおさかなの話をしてたらなんかその気になっちゃって、そしたらある日突然この衣装ケースを買って来て…」

「…………………………………………」 フム








「(『好きなヒトの好きなモノは好きになるものなんだよ!』 か……。まったく、余計なことを思い出させてくれる)」







「……で、メダカとシジミだけじゃ寂しいからアカザを入れたんだけど全然目立たなくってさ。目下追加投入を…」

「もういいよ。君は趣味の話になると止まらないタイプなのかい? 残念だけど僕は君の影響を受けるつもりはないんだよ」

「っと、悪い悪い。水槽をじっと見てるし、お前もおさかな好きなのかなって思っちゃって」

「嫌いとは言っていないけども。まあ、僕の場合は飼育よりむしろ食べるほうが好みかな」




385: 2012/01/18(水) 21:58:05.82 ID:SThyf77I0

「オイ? ウチの飼育水は薬品を入れてねえからメダカもマシジミも食べようと思えば食べれるけど、やらねえぞ?」

「そういう意味じゃない。君もあの子と同じような事を言うんだね……………………いや、なんでもない」

「何だよ? まあ、しつこく注意したから今ではスフィンクスだってメダカを狙わないんだ。だから頼むぜ?」

「ほう。僕などネコ畜生にも劣ると?」 パララパララ

「待て待て待て!! 悪かった!! だからこの部屋でルーンをバラ撒くのはご勘弁戴きたく願いけるのことよ!」

「フン……、そのラテン語混じりの気取った宗教家言葉を日本語に直訳したような語り口も鼻に付くが、まぁ良い」 シュッ


「え~~、まあ、なんだ? アレだよな。見てて全然飽きないしキレイだしカワイイし、飼育っていい趣味だと思う」

「…………、一応確認しておく。それ、おさかなの話だよね?」

「ん? いや別に犬でもネコでもチャボでもサラマンダーでも、なんでもいいんじゃねえの?」

「そ、そうか。そうだな……」

「んでお前はどうなんだよ? 何か飼ってたりしないのか?」

「僕の話なんてどうでもいいだろう? ……、神裂は未だに熱帯魚を飼ってるらしいけど」


「へえ、あの神裂が熱帯魚……」

「ああ。なんでも若いころからずっと続いてる趣味らしい」

「……、その言い方だと今は若くないって聞こえないか?」

「だからそう言ってる」


「……………………、それはともかく意外なトコに水槽仲間が居たんだなー。どんな熱帯魚が居るのか興味あるな」

「おい、変な気を起こすな? おそらく今はイギリス清教の女子寮に設置されてるだろうから」

「ってことはロンドンか……、今度あっちに行く用事があったら見せてくれよ」

「本当に君はヒトの話を断片的にしか理解しないな。絶対に行くなよ。騒ぎの火種になるのがオチだから」


「ダイジョーブだって。おさかな好きってのは知識があるから他人の水槽を表面上褒めちぎるのは得意なんだぜ?」

「知ってるよ。そのくせ内心では自分の水槽が一番だって確信してるんだろ? それに問題はそこじゃあない」

「そうですね。私としても上条当麻に魚を見せる分には構いませんが、女子寮に連れて行くのは憚られます」

「ほらみろ、神裂もそう思うだろ? …………………………って、なんだ居たのか。もう『用事』は終わったのかい?」


「滞りなく。あの子もこの通り、お返しします」

「とうま、ただいまーなんだよ!」

「インデックス、今日は突然ご苦労様だったな。よーし、晩飯は上条さんが腕によりを掛けてゴチソウ作ってやんよ!」

「ゴ、ゴチソウって、期待しちゃうんだよ!? どうせモヤシが主役だってわかっていてもワクワクが止まらないかも!!」




                              ワイワイ ギャーギャー



「……フン、邪魔者は消えるとするか」

「ですね。貴方には少々言い聞かせておかねばならない事がありますが、それは道すがらにでも」






386: 2012/01/18(水) 22:01:38.55 ID:SThyf77I0

                                    ☆

初春「そーいえば、マズイ魚の話ってしたことありましたっけ?」

佐天「ん~、どうだったっけ? 条件によってクサイとか苦いとか、そういうんじゃなくて?」

白井「毒があるとか小さすぎて食用に向かないとかでもなく、単に食味が悪いって話ですの?」

御坂「それも『あんまり美味しくない』じゃなくて極端に味の悪い魚か。コレはゲテモノ好きの黒子も範囲外じゃない?」


白井「お、お姉様!? 今更ながらその紹介はあんまりですわよ!」

佐天「そもそも食用種って美味しいから食べるんですもんね。マズイ食べ物って言葉として成立してないのかも」

初春「ですよねえ。だからこそそんな魚って居るのかな?って気になりまして」

御坂「うーん、身近な魚種でなければ候補は沢山居そうよね。でもそれじゃ面白くない」


白井「あの、わたくしほったらかしですの?」

御坂「例えばミドリガメことミシシッピアカミミガメってどう? アレには顕著な毒も無いはずよ」

佐天「結構大きくなりますしね。食用亀として認識されてないってことは美味しくない可能性が高くないですか?」

初春「ん~、残念ですけどネットの情報を見る限りミドリガメは調理次第でなんとかなるみたいですよ」


白井「当然ですの。カメなんて流水で一定期間泥抜きしたら首をぐっと引っ張って…」

御坂「あ、じゃあじゃあアブラハヤなんてどうかな? 川釣り好きにはド外道扱いされてるしさ」

佐天「聞いた話だと体中ヌルヌルのヌメヌメなんですよね。見た目は雑魚一般って感じなのに」

初春「これも佐天さんの言う雑魚一般、つまりオイカワやウグイと同じで生息域次第って感じかもです」


白井「そりゃ雑魚だけあってドブ川に近いような水域でも見つかりますからイメージは最低ですの。ですけどヌメリが…」

御坂「ふむ、ドブ川ね……、そっか! ニゴイはマズイって聞いたことあるわ!」

初春「あーあー、確かにそれはよく聞くかもですね。ほぼ雑食底棲魚だからとにかく臭くてエグイって」

佐天「え? ウチの実家ではニゴイは普通に食べますよ?? おろして皮剥いてフライで食べるとホックホクなんですよ」


白井「なにせ捕獲が容易な50cmを越える大魚ですの。先人がどうにかして食べようと色々と工夫した結果ですわね」

御坂「これも地域差があるのかあ。ん~、こうやって考えてくと絶対的にマズイ魚ってホントに居るのかしら?」

初春「突き詰めてしまえば、料理って食べられないものを美味しくする技術ですからね」

佐天「むむ……、このままじゃオチが無いからイチかバチか! 白井さん、何か心当たり無いですか??」


白井「最初っからわたくしに聞けばいいですのに。当然、身近かつ絶対的にマズイおさかな、存じておりますの」

初春「おおっ、流石と言うかなんと言うか。で、それは一体なんですか?」

白井「金魚のタマゴですの。どこまでも生臭く重い粘液質がいつまでも口に残って軽いトラウマになりますわよ?」




御坂「…………だからコイツからは聞きたくなかったのよ」






387: 2012/01/18(水) 22:05:12.59 ID:SThyf77I0

                                      ☆

番外個体「違うもん、ミサカじゃないもん……」 ブツブツブツブツ





一方通行「なァオイ、またアイツのアレは、例のアレか?」

打ち止め「そうみたい、ってミサカはミサカは敢えて詳細を伏せてみたり」

一方通行「フン……。ところで、俺の知ったことじゃねェがそもそもどォしてオマエらは小説なンざ書いてンだ?」

打ち止め「……、それは聞かないほうがいいかも?ってミサカはミサカはミサカ達の加虐精神の発露を隠蔽する」


一方通行「……………………」

打ち止め「そ、そんなことより世界一小さなカエル! 世界最小の脊椎動物の話が聞きたいなってミサカは…」

一方通行「……………………悪りィが、今日は気分が乗らねェ」 ガタッ

打ち止め「あ……、」


打ち止め「(どうしよう、あの人の虚弱メンタルを無闇に刺激しちゃったよ、ってミサカはミサカは現状確認する)」

打ち止め「(末っ子も極限ダウナー状態だし、このままじゃお話にならない……、何とかしないと)」

打ち止め「(ん? 何? 19090号、この難局を打開する秘策があるの!?)」

打ち止め「(ふむふむ、ほうほう、え? いや、それはちょっと……、あ、うんうん、なるほど…………)」


打ち止め「(ミサカネットワークのトップシークレットのひとつがミサカの女優魂に掛かってるね)」 ギュッ!





 < コンコン

打ち止め「あの、お話聞いてもらっていいかなってミサカはミサカは一応断りを入れてみたり」


「―――――――――――――――――――――― 」 シーン


打ち止め「じゃ、じゃあ勝手に独り言するから気にしないでねってミサカはミサカは扉に向かって宣言してみる」







388: 2012/01/18(水) 22:07:26.92 ID:SThyf77I0


打ち止め「じゃあいくよー、ヌマエビの交尾のお話! ってミサカはミサカはお題を発表してみたり」





あなたにとっては常識かもしれないけど、再確認させてね。



 淡水エビを大きく分けると肉食傾向の強いテナガエビ類と草食傾向の強いヌマエビ類に分けられるよね、って
ミサカはミサカはザリガニを完全に蚊帳の外に置いてみたり。

それでヌマエビ類なんだけど、分類が細かすぎて全部を挙げられるほどミサカは知識が無いから誤魔化しつつ
説明するので許してね、ってミサカはミサカは予防線を忘れずに張っておく。

基本的に比較的小型で、しかもザリガニやテナガエビのような長いハサミを持っていなくて、攻撃力に欠けてるから
獲物を捕らえることはほぼ不可能。だからいつもは動かないものを小さな脚でツマんで小さなアゴでカジって食べるの。
草食傾向が高いのはその為だけど、動かないものなら当然肉も食べるの、ってミサカはミサカは核心を匂わせておく。


 そんなヌマエビ類で、現在日本の自然で一番普通に見つかる種類がミナミヌマエビじゃないかと思うんだけど、って
ミサカはミサカは勝手な推測をしてみる。

ミナミヌマエビは小川や池、沼とかの流れの弱かったり無かったりする浅い水場の水草の周りに集団を作って生活する
小型種が多いヌマエビ界の一員に相応しい、せいぜい全長3cmくらいのエビだよ、ってミサカはミサカは解説してみたり。

攻撃性が低く沈殿物やコケなどを一日中処理し続ける生態が水槽の掃除屋さんとして重宝されてるヌマエビの仲間の中で
飼育種ではヤマトヌマエビって種類が人気があるかな。大きくて食欲旺盛で透明なボディが美しいエビだからね。
それに比べてミナミヌマエビは小さくて、食欲は旺盛だけども食べるのが遅くて、どちらかというと地味な子だから……。

付け加えると、ヤマトヌマエビは淡水エビだけどその幼生、つまり子供時代には塩分が無いと生きられないの。
タマゴから孵化した後、川の流れに乗って海まで行ってエビになってから戻って来るって性質があるんだよね。
だから淡水の水槽内では繁殖が期待出来ない、別の言い方をすると勝手に増えることが無いの。
ミナミヌマエビが全生活史を淡水で完結させてるから水槽内で異常繁殖しがちなのとは対照的だよね、って
ミサカはミサカはそんなところも飼育人気の差なのかな?とか邪推してみたり。


 で、飼い主が好む好まざるに関わらずミナミヌマエビは水槽内で特に工夫も無く繁殖が期待できるって話だったんだけど
ココからが根幹だからよく聞いておいてね、ってミサカはミサカは相変わらず返事が無いドアに向かって語りかけてみる。


平均的な寿命が1年程度のミナミヌマエビ、自然界では寒い冬の間に大人の体に成長して暖かい春から夏が恋の季節なの。
交尾は大体こんな流れじゃないかとミサカはは思うんだけど、ってミサカはミサカは想像してみる。


1)まず、タマゴの素をがっつり溜め込んだメスがオスを惹き付けるニオイを出す

2)それに釣られて興奮した多数のオスがメスに向かってくるけど、この時点ではメスは逃げ回るだけ

3)メスが脱皮する。オスを惹き付けるニオイは最大最強になる

4)脱皮後に最初にメスを捕まえたオスと交接する

5)遅れてきたオスたちから逃げ延びたメスは産卵後、タマゴを孵化するまでお腹の下で大事に抱え続ける


言うまでも無いことだけどこれは成功例、うまくいった場合の話だよって
ミサカはミサカはセイコウレイってスレスレの日本語だよなあとか考えないよう釘を刺しておく。

メスがニオイ、フェロモンだっけ? でオスを興奮させたくせに自分が脱皮するまで逃げ回るのは、とある情報筋によると
脱皮前に受精・産卵しちゃうとその後に脱皮した時に抱えたタマゴごと脱げてしまってムダになるからなんだって。
だからこそ『防御が手薄になりますよー』って予告することになってもオスに事前に脱皮を知らせないとダメなの。
だって、脱皮してから宣伝してオスが興奮するのを待ってたらその分無防備な時間が増えてますます危険になるからねって
ミサカはミサカは断じてみたり。





389: 2012/01/18(水) 22:12:38.22 ID:SThyf77I0

 この一連の繁殖行動の流れって一見、全てが上手く行くように設計されてる感じだけど落とし穴があるんだよね、って
ミサカはミサカはちょっと悲しい話をする。

メスは脱皮後速やかに交尾を済ますことが出来るよう事前に複数のオスを興奮させているけど、実際カップルになれるのは
一匹のオスだけ。じゃあ余ったオスはどうするんだろ?

それと一般にエビのメスは交尾の際に完全に動きが止まってしまうんだよね? 一切の回避動作、攻撃動作をせずオスに
身を任せるってトコかなってミサカはミサカはイメージを膨らませてみる。

これらのこと、そしてヌマエビの生態そのものが重なり合うと何が起こるか、もうお分かりですね? って
ミサカはミサカはタメを作って盛り上げてみたり!


 メスが脱皮後に最初に出会ったオスと交尾をする際、行為そのものはごく短時間、数秒で終わるはずなんだけど
その間にも別のオスがニオイに釣られてドンドン集まってくるの。でも既に指定席は予約済みだから徒労だよね?
交尾のチャンスを逃した他のオスたちはそのメスを諦めざるを得ない。ニオイに釣られたことも忘れてしまうの。
で、ふと目の前を見ると、何があったかな? 

そこには決して動くことの無い、しかも柔らかくて大きな肉の塊があるんじゃなかったっけ?

ヌマエビは一日中何かをツマンで食べる生き物、獲物を捕らえるのは苦手だけれども動かなければ肉も食べるんだよね?


本能に従って行動を止めているメスのエビは、出遅れたオスたちのスイッチが入れ替わっても抵抗すらせずに
ツマツマツマツマと傷付けられていくの。ミナミヌマエビはメスの方が体が大きいし、力だって強い。
いつもなら軽くあしらえるオスたちに好き放題にされてしまうの。
そしてその間、パートナーのオスは行為に専念して他のオスを追い払うこともしないから、もうどうしようもないよね。

最悪、行為途中で相手の体が不十分なことに気付いたパートナーはそれがエサに見えちゃうことがあるくらい……。


 じゃあどうしてこんなことが起こるんだろ? どうすれば防げるんだろ? ってミサカはミサカは問題提起してみる。


もちろんだけど、この悲しい出来事は過密状態での飼育で見られがちだから、あまり多数のエビを一箇所に纏めないのは
有効な対策だよ? でもね、決して根本的な解決策じゃないと思うのってミサカはミサカは嘯いてみる。
だって自然界でのこのエビの習性的に、過密状態ってのは普通なんだもん。手網で数百匹一度に捕まえられるエビだから。
だからむしろ少数飼いの方が不自然じゃないかなってミサカはミサカは考えてるの。
川や池でも恒常的に交尾時の共食いは行われているって考えたほうが理に適ってるんじゃないかなあ。

だから視点を変えて、エビの行動に間違いが無いかを考えてみるってミサカはミサカは話題を華麗にチェンジングー。

出演者はオスを興奮させ呼び寄せるメス一匹、パートナーのオス一匹、それ以外の出遅れた複数のオス。
悲劇の本質はメスが食べられて氏ぬこと。食べてしまうのは主に出遅れたオスたち。
本能によりメスは反撃できない状態で、且つパートナーのオスはメスに夢中で一切関知しない。

概要はこんな感じだよね。ひとつひとつの出来事の問題点を考えて行くよ、ってミサカはミサカはラストスパート!


           メスまたはパートナーが抵抗しないからいけない?
      メスがオスを呼びすぎたのがいけない?
              出遅れたオスたちがおとなしくその場を離れればいい?
         そもそも交尾などしなければ良かった?
                    防御力が極端に弱い脱皮直後に交尾をしなければいい?
            ミナミヌマエビって存在が間違ってる?


そう、ミサカにはこの難問に答えが見つけられないの、ってミサカはミサカは告白してみる。
どの問題点もエビたち自身には防ぐ手段が無い、避けがたい、どうしようもないことだもん。

だけど悲劇は実際に起こって、パートナーと余ったオスは生きて、メスは氏んだんだよ。それだけは確かなの。
誰も悪くなかったなんて言えないけど、間違っていたのは確かなんだけど、償われるべき者が既に居ないんだけど。

だから、だからね? あの……、その……、



せ、せめて生き残ったエビにはカッコ悪い捻じ曲がった姿で居て欲しくないの!! ってミサカはミサカは……






  <ガチャっと

390: 2012/01/18(水) 22:19:55.27 ID:SThyf77I0




一方通行「……、あのよォ」

打ち止め「……………………、うん」 





一方通行「ヌマエビだってエビだぜ? 腰が曲がってて当たり前だっつーの」

打ち止め「」

一方通行「それになンなンだよオマエの長ったらしい上に中身の薄い愚にも付かねェワンマントーク聞かせやがって」

打ち止め「……、ゴメンナサイ」


一方通行「情報が未整理、知識が足りてねェ、生物を擬人化する、あとなンだ? ……、とにかく酷ェ内容だった」

打ち止め「……うん、わかってるってミサカはミサカは大いに反省してみたり」

一方通行「だから……、つまりアレだ。こォいうマネは二度とすンな」

打ち止め「えっ? でもそれじゃあ……」


一方通行「物分りが悪りィガキだなオマエは!? 他のヤツには任せられねェ、解説役は俺だっつってンだろォが!」

打ち止め「!?」

一方通行「今日みてェなブザマなマネは二度と、あァ、俺も含めて二度と許さねェから、肝に銘じとけ!!」

打ち止め「……うん、また今度カエルの話、お願いねってミサカはミサカは予約も忘れずお返事してみたり!」







一方通行「(しかし、引っかかる……。アレがアレの例え話だったとすると)」

一方通行「(『メスのエビは本来ならオスより強いが仕方なく殺される』 ってのが気に入らねェ)」

一方通行「(あのクソガキのことだから大した意図は無ェのかも知れねェが……、っと)」

一方通行「(そォいう瑣末なコトに拘った結果が今回のダセェ事態じゃねェのか!? 学習しろ、俺!!)」




番外個体「ん? オチビの説教は終わったのかね第一位?」 ニヤニヤ

一方通行「……、オマエこそフザけた冗談言える程度には回復しましたってか? いらねェ報告ご苦労」

番外個体「ハテ? 何のことやら? このミサカは次回作の構想に忙しかったりすんだけど」

一方通行「どォせまた代わり映えの無ェ、俺が酷ェ目に遭う話だろ? 飽きねェよな………………、ン?」

番外個体「は? 何だべさ?」

一方通行「ひょっとしてオマエらの小説の中の俺を痛めつけてる方法ってのは、何かモトネタがあったりすンのか?」





番外個体「あぁ、それは―――――――――――――――――――――― ソレハ禁則事項デス」





  ~おしまい~



391: 2012/01/18(水) 22:37:30.27 ID:SThyf77I0

以上、第三十一回「禁句……かな?」でした

補足・・・第一パートは別にイイや

第二パートで出てくるニゴイ、その名のとおりコイに似た魚(似鯉)です。地元では下の下魚扱いです

第三パート、重くなりすぎないように色々ボカしたので、よくワカンねーよ!と思われた方が居たら申し訳ないです
      エビの話は以前も扱いましたけど、いろいろ興味深い生態の多い生き物なので再登場でした

ドラマとおさかな・・・相性悪いのかな、とか今更後悔しながら ではではまたー

394: 2012/01/24(火) 19:46:24.61 ID:oqlGOeXO0

毎回毎回、投下ってなんでこんなに精神を乱すんだろ? とかどうでもいいネタから始まるおさかな話

今回のテーマは「罵詈」、罵詈讒謗とか罵詈雑言の罵詈です。正直記号にしか見えない・・・けど、よろしければどうぞ

395: 2012/01/24(火) 19:48:13.23 ID:oqlGOeXO0

                                         ☆

「なあインデックス、ちょっと折り入って詳しく教えてもらいたいコトがあるんだけど……」

「とうま? その他人行儀な腰の低さがなんだか嫌な予感なんだよ。でも、とりあえず言うだけならタダかも?」

「それもそうだな。…………あのさ、あらためて魔術について質問を…」

「あのねとうま?? コレまで何度も言ってきたけど、とうまたちは魔術に詳しくなったら絶対ダメなんだよ?」


「ああ、分ってる。別に俺は便利っぽいとか強そうとか、そんなバカな理由で覚えたいってコトじゃなくてだな…」

「むぅ? その言い方だと私にはやっぱりとうまは見当違いをしているように感じるんだよ」

「……、どういうことだよ?」

「そもそも魔術は利便性や序列的強さを求める技術ではないんだよ。乱暴に表現するならむしろ不便で弱いのかも」


「えーっ? それはいくらなんでもオカシイな展開だろ……うん、んなワケないありえない」

「ほら、ほらっ!! やっぱり判ってなかったんだよ! 今まで私の話を右から左に受け流し続けてたんだよ!!」 ガタッ

「ちょと待て、インデックス落ち着けって!! 興奮すんなよ、な? くーるだうーーん」 シンコキュー!

「ふぅ~~ひぃ~~~。ともかく、とうまがいつもいつもいっつも人の話をちゃんと聞いてないのがイケナイのかも」


「ん~? 俺ってそんな頻繁に話を聞き逃して失敗してるイメージある? ちょっと大げさに言いすぎじゃないか…」

「例えばアレだよ! ひょうかが天使になっちゃって、人がバタバタ倒れた日!!」

「……、また随分と懐かしいコトを」

「私はあの術式の正体を、神聖なるモノへの害意に対する戒め、つまり天罰を魔術的に引き起こしてるって予想したよね?」

「確かそうだったな。敵意とか悪意とか嫌悪感とか? 術者に対するそういった感情をトリガーにして昏倒させるって」

「距離や場所を問わず、にね。だから私はあの時、とうまにこう言ったんだよ」


        ~私にその魔術師の素性を話さないで!


「歩く教会の防御力が有効で無い以上、私に天罰が下りない保証は無いからね。とうまは、そうか、って返事した」

「んーっ? なら俺はちゃんとお前の言ったことを理解していたんじゃん」

「でもそのすぐ後、私と別行動する際に、さらっとその魔術師の名前も所属も目的も全部喋っちゃったんだよ!!」

「うそおおおおっ!?」

「あの時の私の気持ちがわかる? 緊急事態だからとうまを責めなかったけど、実はハラワタ煮えくり返ってたかも!!」

「……、あーっと、いや、しかしだな、それがあったからその程度の情報では天罰が下らないって証明されたワケで…」

「ふざけるんじゃないんだよ!! もし私が倒れていたらあの子もひょうかも、学園都市だってどうなっていたことか……」







「―――――――――――――――――悪かった、悪かったよ。確かに俺の不注意だった。ゴメン」

「肝に銘じるんだよ! 結果オーライならとりあえずオッケーって考えは今後許されないと覚悟しておくんだよ!!」






396: 2012/01/24(火) 19:52:38.93 ID:oqlGOeXO0

「それで……、話を元に戻すんだけど」

「魔術についてだよね? 気が進まないけど、心優しいインデックスさんは耳を傾けてあげるんだよ。感謝するといいかも」

「ああ、んじゃ…………………………………………、ふぅひぃ~……、頼むよ」

「ん? んっ? ん~っ? とうまが何て言ったのか、清い心のインデックスさんには聞こえなかったかも?」

「…………、だから…………」 

「ねえねえどうしたの? 頼みがあるなら、泣いて跪いてブザマにお願いするのが筋なんだよ、と~うーま?」



 ニヤッ

「ぷぷぷー、インデックスさん? そんな見え見えの手に引っかかる上条さんではありませんのことよ!」

「ふぇ? い、いきなり何なのかな??」

「俺がまた話をちゃんと聞いてないと思ったろ? お前の不自然に厳しすぎる態度、違和感だらけなんだよ」

「……、そのココロは?」

「俺たちはやはり魔術を学ぶべきじゃない、だから空気を悪くして話を終わらせようとした。……、そんなトコだろ?」

「(やっぱりとうまはヘンに鋭くて、破滅的に鈍いんだよ……)……、だったらどうだって言うのかな?」


「お前が話したくないなら無理強いしない。だから……、俺が魔術を解説する!」 \ドッパーン/

「……、は?」 ワケワカラン ?

「俺が魔術をどう認識してるか?って話を俺自身がするんなら、決して危険な知識に触れることが無いだろ?」

「待って、よくわかんないんだけど……、それをして何かの役に立つの?」


「役に立つか?と言われると、そーだな。俺の考え方がどのくらい間違ってるかハッキリするとか…」

「それと、聞き役は私なのかな? それって結局、あとから私が間違いを訂正するワケで二度手間じゃないかな?」

「ふむ。……じゃ、上条さんが誰か俺以上に知識の無いヤツ相手に魔術を解説するから、お前はただ笑って見てろよ」

「??? それじゃあますます何の為にとうまがヤル気になってるのか……、無意味にも程があるのかも」


「細かいことは気にするなよ。気持ちに正直になる事に理由なんて必要ないんだから。そうだろ?」

「……ハァ、とうまが奇妙な精神論を語りだしちゃったら止められないかも。もう好きにすればいいんだよ」

「さすがインデックス、よく解ってるじゃないか。そうと決まれば誰か相手を呼ぼうぜ!」

「今日はグダグダ過ぎてどうでもいい気分なんだよ……。でもとうま、呼ぶのはいいけど一体誰を呼ぶの?」


「誰って、そりゃあ……」

「私の知る限り、とうまって能力者の人とあんまり関わり合いが無い気がするけど」

「バカ言ってもらっちゃ困りますよ? 上条さんには刎頚の交わりレベルの知り合いがたっくさん…」

「その中で、いきなり呼び出された挙句に素人が語る魔術の話なんて聞いてくれそうな奇特な人は居るのってことだよ」

「……、例えば魔術に知らず知らず関わってるとかで、俺の話に興味を持つ可能性がありそうなヤツだな」

「金髪の変な子の説明を聞いてたいつかの白い人、キンピラチンピラ、黒服童女は除外するとして、あと誰か居る?」

「う~ん……、意外と思いつかないぞ」







姫神「上条くん。大事なこと忘れてる」 ←ワタシ マホウツカイ

「大事なこと……?」 『あっ!』

397: 2012/01/24(火) 19:55:07.85 ID:oqlGOeXO0

「……そうか、姫神が居たんだったな。悪い、蚊帳の外に置くような扱いしちまって…」

「ごめんねあいさ。全然そんな気は無かったんだよ?」

姫神「私は平気。それよりも早速本題に入るべき」

「ああそうだよな、じゃ急いで今日のテーマを決めるぞ!」


姫神「テーマ……?」

「何がいいかな~、おいインデックスも考えてくれよ?」

「わかってるよ! お正月はもうオワコンだよね……、ええと……」

姫神「……この話し合いの内容。魔術の解説に必要とは思えない」


「そーだ、節分の豆撒きと言えばアレがあるじゃねえか!」

「……、良い所に気が付いたかも! 今日は時間も無いしそれで行くんだよ!」

姫神「ちょちょちょ。ちょっと待って欲しい。上条くんとペアで魔術講座はどうなった?」

「いや~、せっかく姫神がおさかな話を聞きに来てるのに関係ない話題を続けちまって、ホント悪かったな」

「そっちはまた今度、聞き役もとうまがちゃんと選んでおくんだよ。では大急ぎで本編突入するよー」



「インデックス、2月の節分つったら豆撒きと最近じゃ恵方巻きが主流の行事だけど忘れちゃいけないのが…」

「だね、とうま。節分といえばイワシなんだよ!」

「恵方巻きが元々ごく限られた地方での半ば人工的な風習に過ぎないのに対し、イワシはほぼ全国的な伝統だからな」

「でもね、今ではこんな話をしても『何を言ってんだかワカンネーYO!』って若者が増えてるみたい」


「以前に『鰯の頭も信心から』でダジャレをやったろ? アレとか理解してもらえてなかったのかな……」

「かもね。悲しいけどコレって時代なんだよ……」

「いやいやいやいや、そう容易く歴史を忘却の彼方へ追放しちゃダメだろ! だから今日は節分イワシを復習しようぜ!」

「望むところなんだよ! まあでも、簡単に説明すると節分の日にイワシを焼いて食べるだけなんだけどね」


「大事なのはその前と後だろ? イワシは油が多いから火に掛けると煙が凄い。その煙でまず邪気を追い払うんだ」

「うんうん。そして食べ終わったらその日の夕方にイワシの頭をヒイラギの枝に突き刺して玄関に飾るんだよ」

「それもやっぱり鬼避けなんだろうな。昔は節分、つまり季節の変わり目には悪い事が起きがちって思われてたらしいし」

「節分イワシは、そういう邪気(邪鬼)による災いを防ぐ宮中行事が元になった由緒正しい日本のスタンダードなんだよ」


「でも、廃れ気味なワケで」

「まあ……、煙モクモクで魚を焼くのも玄関に焼いたイワシの頭を結構長い間飾っておくのも実際問題、今は難しいよね」

「せめて焼きイワシを食べるだけでもいいから残しておきたい風習なんだけどな」

「体に良い成分いっぱいのイワシを食べて寒い冬を乗り越えよう! とか宣伝すれば流行るかも?」 ガッテン!


「なるほどな。さて、間に合わせではあるものの一応おさかな話の体裁は保てたんじゃないか?」

「急場しのぎにしてはバッチリかも。あいさも楽しんでくれた?」


姫神「節分イワシの気持ち。私にはわかる。立派な主役で無いならむしろ忘れられてたほうが良い。って言うか鶏口牛後?」





398: 2012/01/24(火) 20:02:47.62 ID:oqlGOeXO0

                                   ☆

御坂「マンガとかでさ、神様とか高次元の生命体とかが人に宿る展開ってなーんか萎えちゃうのよね」

佐天「えーっ? ベタだけど燃えるじゃないですか!? 古の精霊宿りしこの拳、全ての過ちを破壊せんっ! みたいな」

白井「おガキんちょみたいな話題で盛り上がらないでくださいな。わたくし、さすがに参加しづらいですの」

初春「わ、わたしもちょっと厳しいですねー。形而上の存在を安易に目に見える何かとして考察するのは陳腐の極みですよ」


御坂「思ったより反応悪いわね……。ふたりとも佐天さんを見習ってよ。どんな話題でも喰い付いてくる姿勢をさあ」

佐天「……、なんかその言い方だとあたしって見境無く何にでも首を突っ込んでるって感じですけど?」

白井「極めて正確な自己分析ですの」

初春「つまり佐天さんはダボハゼってことですね」


佐天「う、初春?? いくらなんでも親友に向かって『このダボォ!』呼ばわりは酷いよぉ……」

白井「時代錯誤なテンプレ三下のセリフですわね。元来はダボもダボハゼも同じく、ある種の魚のことですけれど」

御坂「うーん? どっちが先なのか微妙なんだけど、ダボってアホを強調した言い方ともされるわよ?」

初春「でも魚の名前をダボハゼと呼ぶ地域はアホ→ダボ文化圏よりずっと広範囲ですからまあ、ハッキリしませんね」


佐天「じゃ、じゃあそのダボハゼってのは一体どんな魚なんですか? ハゼって付いてるから大体想像出来ますけど……」

御坂「う~ん……、」

白井「どんな、と言われましてもダボハゼは特定の魚種を表す名詞では無いんですの。ですから…」

初春「要するにですね、釣りしてる時に狙ってないのに掛かってくる小型のハゼ類をまとめてそう呼ぶんです」


御坂「例を挙げると淡水ハゼのヨシノボリ類とかヌマチチブ、海なら潮溜まりに居るアゴハゼとかね」

白井「ハゼの仲間は口が大きいですから、時折自分のキャパシティをはるかに超えるような獲物にさえ襲い掛かるんですの」

初春「つまり、立派な大物を狙ってる仕掛けであっても時折ちっちゃなハゼが釣れちゃう、と」

佐天「そりゃ釣り人も『このダボォ!』とか言いたくなるね……。じゃあ人に向かってダボハゼ呼ばわりするってのは」


御坂「ん~……、お前なんか御呼びじゃないよ、とか?」

白井「そうですわね……、分別無くフラフラと物事に首を突っ込みがちの小物で外道、といったところですかね?」

初春「というか単純に、このアホー、でいいんじゃないですか?」

佐天「よーし分った。初春、あとであんたを今世紀最高の工口イ目に遭わせてあげる!!」





399: 2012/01/24(火) 20:11:44.21 ID:oqlGOeXO0

                                     ☆

打ち止め「ねえねえ。厳しい冬の間、海や川のおさかなは大丈夫なの?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

一方通行「大丈夫かって、遊びで人があまり行かねェだけむしろ安全じゃねェの? ……、何が聞きたいンだよ?」

打ち止め「だってほら、魚って水温が下がると食欲が無くなって動かなくなるんでしょ? 襲われ放題じゃないかなって」

一方通行「襲うヤツだって魚だろォが……。その辺り、オマエが心配する必要ねェ程度に自然は良く出来てンだよ」


番外個体「だからこそ自然の摂理に反したクソ寒い間の魚獲りって、普段はお目に掛かれないレアモノゲット出来んだよね」

芳川桔梗「寒くて動きたくない魚が水底に固まってるのを捕まえるだけだから簡単だしね。ちょっと可哀相だけれども」

一方通行「俺には理解不能な趣味だがな。駆け引きの無い勝負に価値なンざねェよ」

打ち止め「珍しいのが手に入るなら充分価値あるかも、ってミサカも魚獲りしてみたい!とミサカはミサカは思ってみたり」


芳川桔梗「それは暖かくなったらにしなさい。あなたが思ってる以上に冬の水場は厳しい環境なのよ?」

番外個体「つっても、暖かくなったらなったで決してお子様向けの遊び場じゃないけどねえ」

一方通行「……、実際オマエらは泥に塗れてザリガニだのドジョウだの獲ってっからその辺の事情に通じてンだな」

番外個体「カッコ良くフィールドワークって言ってくれないかなあ? ただ闇雲に水遊びしてんじゃないんだしー」


芳川桔梗「言い方はともかく、知識偏重な君よりは私たちのほうが経験値が高いはずよね」

番外個体「そうそう。本読んだりネット見たりするだけじゃ知りえない危険って、いっぱいあるんだよ?」

一方通行「ムダな知識と経験増やしただけでナニいい気になってンだそこのバカふたり? あンま調子乗ンなよ」

打ち止め「まあまあまあ、落ち着いてよってミサカはミサカは水場の具体的な危なさについて知りたくなってたり」



番外個体「ほぉ、知りたいと申すか小童め。ならば道理を示すが人の道なるぞ?」 クイクイ

打ち止め「ははぁ! ってミサカはミサカはテレビのマネして秘蔵の極濃ミルクプリンを差し出してみる」

一方通行「……、ンだァありゃ?」

芳川桔梗「時代劇の袖の下、賄賂のシーンかしらね? まあ、あの子たちなりの演出ってことじゃないの」



番外個体「うむ、年端も行かぬ内から商いの裏道に敏いとは流石ミサカ屋の子倅。このミサカ、感服したぞ」

打ち止め「お褒めに預かり恐悦至極。なれどミサカ様には到底敵いませぬ、とミサカはミサカは畏れながらに返答する」



一方通行「チト設定に凝り過ぎてクドイがな……」




400: 2012/01/24(火) 20:15:54.17 ID:oqlGOeXO0

番外個体「話も決まったトコで、テンポ良く適当に何が危ないのか挙げてこうかね」

芳川桔梗「そうね。まず第一になんと言っても水場の危険といえば、水そのものなのよ」

打ち止め「……、えっ?」 ソコカラ?

一方通行「オイオイ。タメにタメ作っといて、ンな当たり前のコト恥ずかしげも無く口にしてンじゃねェぞ!?」


芳川桔梗「どうしようもなく甘いわね。とりあえず聞きなさい」

番外個体「溺れる、服や所持品が濡れる、濡れた石ころなんかで滑ってゴッチン。

     そういうのって、気を付けてれば防げるとか思ってんだろうけどさあ……、甘いよね。
     自然はイレギュラーの宝庫なんだよ。足場が崩れるなんて珍しくも無いし天候だって予測できないじゃん?
     川だったら上流の具合によっては前兆無しで鉄砲水っつって、大量の水が一気に押し寄せてくることもあんの。
     海なら潮の干満をウッカリ忘れて岩場に取り残されちゃったりね。

     あと、背が届く深さだから大丈夫とか泳ぎが得意だからってのは考えちゃダメだね。
     プールと異なり水温が場所によって大幅に違って当たり前。それは容易にヒトの体に異常を起こすんだよ。
     考えてもみい? 60cm程度の深さの水場で両足が攣っただけで人生ゲームはバッドエンド直行だよん。
     海なら水深によって流れがあるから、んなモンに巻き込まれたら地上と永遠にサヨナラだってあるぜー」


芳川桔梗「両側がコンクリート護岸のごく浅い小川でザリガニ獲ってたらにわか雨が降り出したから帰ろうとして、
     下りてくる時は問題なかったコンクリートが雨で一気に濡れてツルッツルになっていてね……。
     堤防に上がれない。困ったわ……、って思ってるうちに地響きにも似た低音が足元からするのよ。
     まさかウワサに聞く鉄砲水……。これはまずいわねって、あの時は私も覚悟したわ」

番外個体「このミサカが居なかったらポンコツ研究者はどーなってたか、詳しく解説しよう!」

一方通行「それは要らねェよ。まさかホントに体験してるとは思わなかったがな……」

打ち止め「た、確かに子供だけで、と言うか大人でも一人で遊びに行ってたら対処の仕様が無いね…」



番外個体「理解が良くて大変結構。では次の危険を説明するぜーっ!」

芳川桔梗「次も自然そのものの恐ろしさだけれどもね。つまり、野生動物よ」

一方通行「つーかよォ? 魚を捕まえに行ってンだから動物ったら魚だろ。ヒレだのトゲだので怪我するとかか?」

打ち止め「キバのあるおさかなに噛まれたりってそんなに頻繁にあるの?ってミサカはミサカは疑問を持ってみたり」


芳川桔梗「ダメね。全然ダメ。あなたたちは木を見て森を見ていないわ」

番外個体「うむ。ぶっちゃけその方が話しやすいんだけど。

     コレは特に川へ行く時の危険かも知んない。キャンプしたことあるヤツならピンと来るだろかね?
     虫、ヘビ、そして犬とか。水場へ行くのに林や茂みを突っ切ると遭遇しやすいかも。

     ヤブカやアブに刺されていつもより余計に腫れ上がる、くらいなら笑い話になるんだけどねー。

     多分、一番被害者を出してんのがハチかな。低木の茂みの中に巣を作ることのあるアシナガバチは
     それと知らずに人が枝を揺らして刺激しちゃうと攻撃されたと判断して時に集団で襲ってくる。
     前になんかの話題でチラッと触れた超個体ってヤツよ。自分自身が傷付けられても気にしないくせに
     巣に対する攻撃には過敏に反応すんの。そういう意味でよりタチが悪いのがスズメバチだけどー…」


芳川桔梗「スズメバチの巣は自然界では木の根元だったり洞だったり、そう簡単に見つけられない場所に作られるの。
     だからアシナガバチの場合と違って誤って巣に刺激を与えてしまう可能性は少ないわ」

番外個体「それなのに、だ。見張り役のハチが巣の周りを飛んでるんだけどコイツがクセモノなんだよ。
     こっちの意思とは無関係に、巣に近づいた者を警戒音で威嚇してそれでも退かないなら毒液を噴射してくる。
     掛かっちゃったら一大事、それを目印に大量の兵隊バチが攻撃してくるんだもん。
     もちろん毒液だから目に入れば大変だし、集団で襲われちゃったら範囲電撃くらい出来なきゃアウトだぜ?」

芳川桔梗「出来れば横に居る人間に被害が無いレベルで手加減が可能な能力でお願いしたかったのだけど……」


一方通行「つまンねェトコでオマエら氏線越えすぎだろォが……。犬ってのもワリと嫌な感じするけどよ」

打ち止め「飢えた野犬の群れに林の中で出会っちゃったらとか考えたくもないよ、ってミサカはミサカは震えてみたり」




401: 2012/01/24(火) 20:21:07.41 ID:oqlGOeXO0

番外個体「でしょでしょ? 恙無く、で御馴染みのツツガムシだって超危険生物のクセに実は珍しくもないんだよ?」

芳川桔梗「自然、野生を軽視しちゃいけないということね。と言いつつ次に紹介する危険原因は人間、ヒトなのだけど」

一方通行「……、事ココに至って頭のネジが緩ンじまったか? 河童じゃあるまいに海や川ン中にヒトが居るかよ」

打ち止め「危ないヒトだったら身近に居るけど、ってミサカはミサカは誰だか知らないのに皆知っていたり」


番外個体「どっちかつったらチビコロ上位個体の回答が惜しいね。

     川でも海でも山でもさ、気兼ねなく魚捕まえられる場所って大抵人目につかないトコなんだよ。
     で、民家や道路から離れてっから俗世間から解放されたって気になっちゃうのか知らないけど
     奇矯な行動に走るヤツが結構居るんだあね。

     大昔には橋の下ってのはアレでしょ? 健全な青少年がある種の書物をリサイクルする場所だったとか。
     それがある種の映像記録媒体に代わったとかその程度なら何の問題も無いんだけどさ。

     特に夏場に多いのが全裸の男。全裸ってのはもちろん一糸纏わぬスッポンポンのことだよ? 
     培養装置の中のミサカたちと違ってお粗末なモンをブラブラぶら下げ…」

芳川桔梗「ん、んっ……。体全身を隈なく日焼けしたいとか、開放感を全身で感じたいとか色々理由はあるでしょうけど
     私有地で無い限り決して褒められた行動では無いわね。ただまあ、私たちが出会った数人の例では……、ね」

番外個体「そうそう。指差して見られてんのに気付いたら、何事も無いフリで横向いたまま徐にパンツ穿きやがんの」

芳川桔梗「ばつの悪い思いをさせてしまった、で私たちは済んだけど体のサイズの小さなあなたでも同じとは限らないわ」

番外個体「もっとヤバいのが男女ペアでさあ。盛り上がっちゃったんだろけど、せっせと大自然の中で…」


一方通行「それ以上の説明は無用だろ! まァ、その手の状況じゃ男はヘンに虚勢を張りたがるモンだからな……」

番外個体「良く分るね。いきなり『なに見てんだよ!』っつーからこっちも『見てもらえるほどのもんかよ!』って…」

芳川桔梗「とにかく!! 外見がお子様の最終信号には危ないことが多いってわかって貰えたかしら?」


打ち止め「……、そうだね。でもミサカはみんなで行きたいって思うから、ってミサカはミサカは問題ないよと笑ってみる」

一方通行「オマエなァ……。クソ面倒にもツマラねェ解説したバカどもを労ってやれよ……」

芳川桔梗「こちらの苦労なんてどうでもいいのよ。それよりも皆で、とは嬉しいこと言うじゃないの」

番外個体「しかーし、いくら人数が増えようとも大人が混ざっていようとも危険因子は存在するんだなあーっ!」


一方通行「……、オマエはまだ語り足りねェのかよ? メンドクセェ、さっさと喋ってラクになれ」

打ち止め「でも、もう残りあと少しだから駆け足でねってミサカはミサカは細かく注文してみたり」


番外個体「おーけーおーけー。んじゃ、つらつらっと行くよー!

     水場に続く林の入り口にある大きな岩の陰には何故かビニール袋に詰められた大量の錠剤があったりするよね。
     それとお、漁港の水底がたまーにすごくキレイな時ってあんじゃん? 底に沈んでる拳銃とか見えるよね。
     裸の男で思い出したけど、実際現場に住んじゃってる人の場合フツーに川の中で体洗うんだよ。 
     そういう人は他人の目が気にならないみたいだからワリと安全かもね。二度とその場所へは行かないけどさ。
     あと台風とか大雨のあと、橋脚に引っかかってたり淵に浮かんでたりするのを見つけたら、即行ばっくr」

芳川桔梗「異常を感じたいずれの場合も速やかに治安維持組織に連絡することをオススメするわ」




打ち止め「水遊びって……、ひょっとして裏社会の窓口なの???ってミサカはミサカは絶句してみたり」

一方通行「……、オマエらどンだけ事件に引き寄せられてンだよ!? どこぞの不幸ヤロォかっつーの!」




   ~おしまい~


402: 2012/01/24(火) 20:45:01.71 ID:oqlGOeXO0

以上、第三十二回「罵詈」でした。


おさかな話っていつも勝手に喋ってもらって逐一修正するイメージなんですが今回は喋らせっぱなしな感じ・・・
結果いつも以上にグダグダだったかなと思いつつ、いつもの言い訳と補足と後付けコーナーへ

第一パート、柊鰯用にこの時期ヒイラギの枝を用意する生花店とかスーパーもあるんだそうな。見たこと無いよ

第二パート、ハゼと呼ばれる魚は基本的に水底に居て胸鰭が吸盤状になっていて正面から見るとブサイクちゃんです
      でも全部が全部ダボって事じゃないのでご注意を

第三パート、ほとんど経験談だったりします・・・ハチに追われたことは無いけど。
      学園都市だと第二一学区の山岳地帯には猛獣がいるってコトになってましたっけ? 犬どころじゃないや


そんなわけで、何とか半分までは行きたいなって最終目標も言いつつ今日はこの辺で。 ではではまたー

409: 2012/01/31(火) 21:41:28.33 ID:b/yNqukd0

おさかな目録?はフィクションです。

なんとなく最初に注意書きをしたほうがいい気がした今回のおさかな話
テーマは「撞着」です。寛大な心でご覧下さい

410: 2012/01/31(火) 21:43:04.06 ID:b/yNqukd0

                                  ☆

「なあインデックス。こないだ話してた『上条さんの魔術講座』の受講希望者募集だけど、お前の言うとおりだったな…」

「とうま……、当たり前なんだよ。魔術知識が一切無いのに素人の魔術解説に興味がある人、なんて居るわけないかも」

「う~ん、魔術にそれと知らず触れちまった知り合いの心当たりは少なくなかった。だけど誰も本気で信じてないんだよ」

「この都市の人は現状、魔術のことを学園都市以外で研究されてる超能力の一種だって誤解してるんだったよね?」


「誤解って言うけどな、人の認識ってのは一度確定してしまうと覆すのは容易じゃない。例えばご飯のニオイの話とかさ」

「えーと……、日本人は炊き立てご飯の香りって大好きだけど、とある国ではアレはただの悪臭ってこととか?」

「他にも、そーだな……。マツタケの学名ってたしか日本語訳が『ゲロ以下のニオイがプンプンするキノコ』だろ」

「どっちも多くの日本人には許容出来ないイメージかも。でもそう思ってる人は世の中に少なからず居るんだよね」


「ひとつの物事に相反する認識があって、互いに歩み寄るワケにいかないとなると……。必然、無視か対立が起こる」

「……? んー? ……突然よくわかんない展開かも」

「つまりだな、それが吹寄や白井や海原光貴、それに災誤先生に俺の誘いがまともに伝わらなかった理由じゃないかと」

「……。とうま、ムリして難しい理屈を捻り出すまでもなく、もしかしてただ単に人を見る目が無いんじゃないかな……」

姫神「(……今日は口を挟まない。多分。悲しくなるだけ)」


「聞こえてるぞー。まあ、そんなワケだから一端保留して気分転換に明るいおさかな話でもしようぜ!」

「うんうん。考えすぎた挙句に出た答えって大抵つまんないからね。行き詰ったら引き返すのが賢者の道なんだよ」

「一事が万事そうじゃないけどな。さて、じゃあ今日のテーマは何にするかな……」

「こないだ節分イワシだったから次は当然決まってるんだよ! 主にカレンダー的な理由かも」


「ん? 2月の、節分の次の行事……、ああ立春か」

「そうそう、春来たと目にはさやかに見えずともやっぱり寒いよまだ真冬かも……って違うよ意味わかんないよ!!」

「じゃあ建国記念の日?」

「なぜ2月11日なのか、なぜ建国記念『の』日か……、とうまバカなの!? 薄々そうじゃないかとは思ってたけど!」


「冗談だって、そう怒るなよ。頭にバの付く、カカオの香りでヤロウどもが一日中落ち着きを失う例のアレのことだろ?」

「分ってるならどうしてイジワルを…、 …………あ、とうまひょっとしてひとつも貰えないかもって拗ねてる?」

「そうだよ期待してねーよ悪いかよ。どうせ上条さんはモテないしあんまり学校にも行ってなかったし……」

「そこは安心するんだよ!! ……今年は身近に居る素敵な誰かさんから1個は確実にもらえるかも?」

姫神「2個かも。……///」


「……お前たちに予知能力でもあるなら嬉しい予言だな。でも気遣いは有難いけど根拠が無いんじゃなあー」



『…………』






411: 2012/01/31(火) 21:44:15.65 ID:b/yNqukd0

「ま、それはいいからさっさと本題に入ろうぜ。結構ムチャなお題だけどインデックスには何か心当たりがあるんだろ?」

「……あ、うんもちろん! ちょっとベタかもだけど、名前にチョコが入ったお魚がいるでしょ?」

「チョコ…………? あー、観賞魚には疎いから良く知らないけど、人気のある熱帯魚にそれっぽいのが居たような…」

「たぶんとうまの想像通りかも。正式な名前じゃなくて俗称なんだけど、チョコレートシクリッドって子だね」


「ふむ、確かそんな名前だったような。チョコのような赤っぽい体色の……、外来魚のカワスズメみたいなヤツだろ」

「シクリッドってカワスズメのことだから当然かも。ただ体色はコロコロ変化しちゃうんだけどね」

「ふーん。ヨシノボリみたいに興奮すると色が変わるってことかな。にしてもクリスマスに続いてまたカワスズメって…」

「十字教に縁の深い魚なのかもね。……、そんなに心配そうな顔しなくてもペテロの魚の話はしないかも」


「そうしてくれ。あんなディープな話題は扱えないからさ……。でも、不思議だな」

「ん? 何が?」

「いや、14日は十字教的には大切な日なんじゃねーの? シスターのお前が日本のお祭りムードに浮かれて良いのかなって」

「……んとね、かの聖人の実在は旧教的には認められていないの。つまり必ずしも宗教性が高い日だとは言えないんだよ」


「へっ?」

「あ、勘違いしちゃダメなんだよ。もちろん信仰の対象として、また魔術的に重要な位置付けであることは間違いないの」

「なんだよそれ? じゃあ、兵士たちを秘密裏に結婚させたことを理由に処刑されたっつー話はデタラメなのか?」

「彼の名を聖人暦に戴く私の口からそこまでは……。ただねとうま? その日に贈り物をする風習は世界に広がったんだよ」


「うん、まあ……。それで?」

「そして国ごと、土地ごとでそれぞれ独自に発展していったの。日本のやり方だってその一例なんだよ」

「いや言いたいことがサッパリ判らないぞ? つまりどういうこと?」

「だーかーら、正式なやり方が無い以上、私の考えをこの国で主張したってそれはご飯は臭いって言うのと同じなんだよ!」


「えっと……、つまりアレか。郷に入っては郷に従うってコト?」

「ついでに、とうまたちは敢えて海外のやり方にあわせる必要なんて無いってこと。クリスマスだってそうかもね」

「違いを知っておくのは大切だけど、だからって自分たちが間違ってるとかネガティブに考えるな、と……」 フム

「チョコレートシクリッドは普通エメラルドシクリッドと呼ばれるの。でもどっちが、じゃなくてどっちも正解なんだよ」



「ふーん、最後に再びおさかなを持ってくるとはウマイこと纏めたな」

「うまくて当然かも。だってチョコレートが美味しいのは万国共通の真理だもん。……、おあとがよろしいかも!」






412: 2012/01/31(火) 21:45:33.68 ID:b/yNqukd0

                                    ☆

佐天「つまりですよ? 有限の生命に無限の存在が取り込まれる意義はですねえ…」

御坂「いや、でも無限なのよね? だったら宿主が氏んだって、って言うかそっちのが自由になれてお得じゃないかなあ?」

白井「まだそのトンデモSF話、続きますの? こっちは正直飽き飽きしてるんですの」

初春「ふたりとも集中すると周りが見えなくなっちゃいますからね……。もっと中学生らしく浮いた話とかしたいですけど」

 ガッッッ!!

佐天「今っ!! 今、何て言った初春!? あんたまさかあたしに内緒で特別な好意を向けるべき対象(男性)が???」

御坂「ホントに!? 何よステキじゃない!! ねえねえ聞かせて聞かせて!どんな人ドコが好きドコまで行った???」

初春「……、違いますよー。そういう話が出来たらいいなって言ったんです。皆さんも相当興味があるみたいですけど……」

白井「食いつきが異常ですの。先程までの話題が遠く銀河の彼方へ光の速さの数倍で吹っ飛んでいきましたわね」


御坂「何よー? そりゃ、私だって女の子だもん。誰が誰を好きとか、そういうの聞いたら黙ってられないわよ」

佐天「まぁ…………、ですよね」

初春「ええ…………、同意です」 ウン

白井「……、真に遺憾ですけど正直腹に据えかねますけどお姉様。それ、フリですの?」


御坂「ふぇっ? あっ……、なっ、何をアンタたちが考えてるか見当も付かないけど私はあんなヤツのこと全然……!!」

佐天「……、(ダメだこの人も)」 カワイイケド

初春「……。(成長してませんね)」 マッカデスネ

白井「……まあ、精神的にも既成事実的な進展も一切無いということで納得しておきますの」 ケッ



御坂「……だってさ、……、いや私とアイツは考えが、……だからって、でも……、」 ブツブツブツブツ



佐天「あらら。御坂さんしばらく使い物にならないですよ、これ」

白井「全く。人外の演算能力を持つが故に答えが無い問題にさえ真正面から挑んでしまう。高レベル能力者の悪い癖ですの」

初春「円周率の最後の桁、数字は何? みたいな感じですかね。ほぼ3で演算終了したって全然構わないのに」

白井「常人と異なり、苦悩の末に最後の数を見つけてしまうのが超能力者ですの。……、今は見つけちゃダメですけども!」


佐天「ふ~ん。それって信念とか強いココロってヤツですよね? 自分だけの現実を作るのに必要って言われる…」

初春「佐天さんがちゃんと覚えてた……、明日は記録的大雪ですかね?っていきなりヘンなトコ触らないでくださいっ!!」

佐天「あんたねえ、私だって真面目な時はマジメなんだから茶化さないでよ! 次は容赦しないからねええええ」 ワキワキ

白井「乳児体型の初春のドコ触ったって何の違いもありませんけどまあ、佐天さんの仰ることはひとまずそれで宜しいかと」



413: 2012/01/31(火) 21:47:30.07 ID:b/yNqukd0

佐天「なるほどね。円周率は無限小数だって決め付けてしまわないで、限界を超えて計算してみるような姿勢かあ……」

初春「みんなヒドイです……。でもそれってつまり、常識を疑えってコトになりますかね?」

白井「観念的に全てを説明できるわけではありませんけど、まあ近い感覚かもしれませんわね」

佐天「疑って終わり。じゃなくて、自分なりの答えを出していってそれを以って世界を再構築していくってことかな?」


初春「何だかファンタジーな表現ですけど、そうして世界を遍く掌握した者がレベル5ってことなんですかね……」

白井「さあ? わたくしもそこまで至った訳ではありませんし。ですけど、それには更に先があることは予想できますの」

佐天「ん? 先って……。ややこしくなってきたなあ……」

初春「ん~……、全てを疑って全てに答えを出してきたわけだから……。あっ! 疑い、答えを出す主体ですかね!?」


白井「たぶんそういう事になるんではないかと。全てを知るはずの自分全てを疑う……、絶対に答えの出ない難問ですの」

佐天「って、ちょっと待ってくださいよ!? そもそも自分を強く信じることが能力の根幹なんでしょ?」

初春「自分で築き上げた世界を、その確固たる絶対の指針である自分も含めて全て疑う……、あれ?」

佐天「おかしいよね。だって自分は間違ってるかもしれないって考えるのも自分。じゃあ疑う自分も疑わなきゃいけない…」


白井「有名な『私の話は全部嘘です』という文句みたいなものですわね。それが嘘なら彼はホントのことを語っているはず」

初春「となると、やっぱりこの人の話は嘘だということになる……。永遠に堂々巡りですね」

佐天「それじゃ能力開発の行き着く果ては、矛盾だらけでウジウジと悩み続けざるを得ない行き止まりなんですか?」

白井「いえ、そんな段階まで到達した方には心当たりがありませんからコレはあくまでも私たち程度の者の想像の範疇」

初春「そうですね。つまるところ円周率も割り切れない私たちでは見ることすら叶わない領域かもしれません」

佐天「あー、やっぱそれ系の結論になっちゃうワケか。まあ、その行き止まりを越えちゃったら神様以上ってことだもんね」


白井「……、確かにある意味で造物主たる自分を疑い、正しい答えを出せたなら神を超えたと言って差し支えないですが…」

初春「この場合、神を超えたものってやっぱり神じゃないですか? 少なくとも私たち凡人からはそう見えます」

白井「超えたところで何も変わらないであろう事が始めから予測出来てる壁など、果たして越える必要があるでしょうか?」

佐天「え~っ、と……。まさか更に先の展開まであるとは思わずテキトーに喋っただけなんですけどー……」 マイッタナ



「……あのさ、アンタたちいつまでその話題続けるわけ? 入るタイミングが全然わかんないんですけど?」



佐天「みみみみみみ、御坂さんっ!復活待ってましたよおおおお!!! 早くこの場の空気を何とかしてください!!」

御坂「ほら、佐天さんずっと困ってたじゃない……。頭の中の話なんて所詮メルヘンなんだからあまり考え過ぎちゃダメよ」

白井「お姉様だけには言われたくないですの……」 ブスー

初春「ああ、これが自分だけは正しいって思考なんですかね……」 シラー



414: 2012/01/31(火) 21:50:35.77 ID:b/yNqukd0

御坂「な、何よ……。い、良いから話を変えるわよ! えーっと、おさかなと矛盾とメルヘンで、はい佐天さん!」

佐天「なんですかそのムチャ振りはっ!? ええと……、ん~……、メルヘン……、おとぎ話? 恩返し……」

白井「ふむ……、恩返しと言えばわたくし、前々から納得出来かねている表現がありますわね」

初春「白井さんの振るネタはつまらないのが多いですけど、この際だから我慢します。一体どういうことですか?」


白井「初春、後で屋上ですの。それはさておき、たとえば鶴の恩返しと言う昔話をご存知かと思いますけど」

御坂「おとぎ話ではトップクラスの人気作じゃない。アレに何の文句があるのよ?」

佐天「罠に掛かった鶴を助けた男に、その鶴が恩を返す。良い事をすると良い事があるよって教訓ですよね」

初春「……のぞきダメ、絶対! と言う白井さんこそ読むべきお話……、あの、調子に乗りましたごめんなさいすいません」

白井「ったく。……ま、それとともに命の大切さを伝える話でもありますわね。鶴を救ったことが良いことならですけど」

佐天「ん? 良いことに決まってるじゃないですか。人だろうと鳥だろうと命は掛け替えの無い宝物ですもん」

御坂「……、なるほどね。黒子の言いたいことが分ったわ。どんな命も大事と訴えながら鶴を助けた矛盾……か」

初春「へ? 助けちゃいけないんですか?」


白井「まず第一に、鶴は罠に掛かっていた。罠を仕掛けた狩人は獲物を失ったわけで、この責任は償われておりませんの」

佐天「ああ、確かに生活が掛かってるはずの狩猟を邪魔してますね……。これは良くないかも」

御坂「それだけじゃない。鶴、おそらくここではタンチョウだと思うけど、雑食性の長生きで大きな鳥よね?」

初春「……鶴を助けたことで将来的にたくさんの別の命が鶴の食料として消費されてしまうことになる、って事ですか」

白井「浦島のカメなども多くの魚を食べて長生きするのでしょうし、単純にめでたしめでたしなのかは疑問ですわね」

佐天「ひとつの命を守ることが多くの命を見捨てることに繋がるのに、あたしたちはそれが良いことだと誤解してた……?」

御坂「いや、深刻に考える必要はないわよ。命を救うことはその命にとって良いこと。それ以上でもそれ以下でもないの」

初春「優しさは他人を殺める、って感じですね……。あれ? ところで今の話、おさかな出てきました?」


白井「ここからですの。鶴にとって小魚は単なるエサ、ですが彼らもただ食べられるのを待つばかりではありませんのよ」

御坂「ん? ああ、ちょっと前に問題になってたアレね。ドジョウが大好きな絶滅種の鳥、トキのことでしょ」

初春「ドジョウやフナなどコイ目の魚が持つビタミンB1を破壊する酵素が原因で、なんか酷くバテちゃったんですよね」

佐天「栄養バランスの良いエサがちゃんと用意されてるのに、敢えてドジョウばかり食べて体調崩すなんてどんだけ…」

白井「一般的にコイ目は川や池で最も数が多い種。ですから彼らは他の生物にとって身近で手軽な栄養源なのですけど」

御坂「いくらでも居るからってそればっかり食べてるとやがて食欲が落ち背骨が変形し、挙句に心不全とかでポックリと」

初春「ふむふむ。確かに『自分たちしか食べないような生き物の存在を許さない』って強い意志がある気がします」

佐天「でも強烈な毒を持つとかして『絶対に喰われてやらない!』って進化じゃないのが何て言うか……、健気ですね」


御坂「もちろん魚自身が考えた結果じゃあないけどね。……、でもこれってさっきの矛盾に対する答えになるんじゃない?」

佐天「あるがままを拒み、あるがままを受け入れよ……、とか? 自分で言っておいて全くサッパリ意味不明ですけど」

初春「生きながら氏んでるネコなら知ってますけどね」






415: 2012/01/31(火) 21:53:29.21 ID:b/yNqukd0

                                      ☆

打ち止め「ねえねえ、海のパイナップルで御馴染みのホヤってさ……、ぶっちゃけ全然パイナップルじゃないよね?」

一方通行「……、確かに。大抵その手の異名ってのは実像以上にイメージを膨らませがちなモンだが、アレは段違いだ」

打ち止め「海産物即売所で子供が『ママ、ぱいなぷつるだって。ボク欲しいよー』とか言うからなんとなくお土産にして」

一方通行「その日の夕食で悲劇ってか? 知らねェヤツにとっちゃホヤの破壊力は並じゃねェからな……」


打ち止め「いわば魔女っ子の皮を被った極め技師だよねってミサカはミサカは叙情的にたとえてみたり」

一方通行「……、フリフリ衣装のカールゴッチ……とか、か? その喩えがドコを目指してンだか欠片も見えねェが」

打ち止め「……あなたならこの強引な進行の意図に気付くと思ったのに、ってミサカはミサカは軽く失望してみる」

一方通行「勝手に買い被ンなよ。オマエの行動予測なンて無益な演算するほどの余裕は今も昔もこれからも無ェ」


打ち止め「おぉっ、それって『俺たちの未来は神様のサイコロ通りにゃさせねえぜっ!』っていう一種のプロポーズ?」

一方通行「何を愉快にノボせてンだこのクソガキ。つまンねェ冗談ほざく前にさっさと用件を済ませろ」

打ち止め「もうっ! 良いよ、じゃあ聞くけどそんな風に実物とかけ離れた異名を持つおさかなって他に何がいる?」

一方通行「ンだよコロコロ機嫌上げ下げしやがって忙しいヤツだなオイ……。それはともかく、偽りの看板な魚か……」


打ち止め「既成概念を打ち壊すようなパンチの効いたお話を期待ってミサカはミサカはハードルを上げてみたり」

一方通行「注文が多いぞフザけンな! そォでなくともチト無茶なテーマなンだから黙って待ってろよ」 ンー

打ち止め「……、難しいなら違うお題でも良いよ?ってミサカはミサカは微妙な優しさもアピールしてみる」

一方通行「何度も言わせンな黙れつってンだろ」 エート


打ち止め「でもミサカが一言も喋らなかったら話が成立しないよ?ってミサカはミサカは冷静に問題点を提示してみる」

一方通行「ウゼェにも程があンだろォが!? チッ……、どォにも絡むの止めねェ気なのは分ったから好きにしろォ……」

打ち止め「うんうん、人間関係ってウザいのが普通なのってミサカはミサカは一面の真理を突いてみたり」

一方通行「……コレが普通とは光の当たる世界ってなァ想像以上にアクが強ェンだな……、分った。出来る限り善処する」 








416: 2012/01/31(火) 21:56:24.71 ID:b/yNqukd0

一方通行「そンじゃまァ、思いつくままテキトーに挙げてく。まずはメジャー過ぎかも知れねェが『ハダカカメガイ』だ」

打ち止め「またの名を『流氷の天使☆クリオネ』だねってミサカはミサカは追随してみる」


一方通行「クリオネっつーのも確かギリシア神話の歴史を綴る女神の名が元ネタ……、妖精だったか? まァその辺だ。

     指先ほどの大きさに過ぎない一種のプランクトンだが、中心に赤を据えた透き通るテルテル坊主のよォな体。
     その胴体のちょうど肩に当る場所から両に伸びる翼状の足を揺らして優雅に泳ぐ姿。
     頭部の先にチョコンとツノのようにくっついてる2本の触覚。
     まさに自然の造形意匠ここに極まるってトコか? シンプルでありながら異世界を感じさせるキュートなヤツだ。

     和名ハダカカメガイはそンな神々しく幻想的なイメージを随分と乱暴に傷付けてるワケだが
     却ってコイツが貝、巻貝の一種であることを簡潔に示してンな。
     漢字で裸亀貝ってのはおそらく、亀の甲羅を引っ剥がしたらこンな感じっつートンデモ発想が由来だろ。
     一応言っとくとカメの甲羅は肋骨や脊椎と皮とで出来てるンで、脱がせたら極彩色の中身が丸見えだがな。

     ついでに、巻貝である証拠にコイツは孵化から数週間はちゃンと殻を持ってる。成長の途中で捨てンだな。
     貝が外殻を失うのをナメクジ化っつーだろ? だからクリオネとはどンな生物かと問われたら
     『甲羅を剥がしたカメのよォなナメクジ化した巻貝の一種』って答えてやれ。誰にも伝わらねェだろォが」


打ち止め「うん、その説明じゃあ『なにそれ?』だよ。あと有名だけど、過激なお食事風景はホントに怖いよね」

一方通行「頭部の触手がまるで花が咲くよォに一気に開いて獲物を優しく抱き、そいつの養分を吸収する」 コレナラドォダ?

打ち止め「いやそんな表現してもやっぱり怖い、とミサカはミサカはバッカルコーンの響きが耳から離れなかったり」

一方通行「まァな。厳しい冷海に居るだけにエサだってまともなモンがねェから、殆ど共食いに近い食性らしいしな」

打ち止め「あんなにカワイイのに知れば知るほど凄い子なのね、とミサカはミサカは無難な感想を述べてみる」



一方通行「ンで次は……、そォだな。『キノボリウオ』の話でもするか」

打ち止め「キノボリって、木登りするの? おさかなのくせに随分ワイルド アーンド ダイナミックな子なんだね」


一方通行「イヤ、登るワケねェだろ。看板に偽りがある魚の話なンだからちっとは気付けよマヌケ。

     キノボリウオはアジアの熱い地方の淡水に棲む現地ではそォ珍しくもない20cm程度の魚だ。
     日本ではコイツの近縁なベタとかトウギョって呼ばれる観賞魚が良く知られてると思う。
     他にも何とかグラミーと呼ばれるヤツらとかタイワンキンギョとか、コイツの仲間は派手なナリのが多い。
     季節的にはチョコレートグラミーなンてのも居るな。かなり飼育難易度が高い魚なンで安易な入手は禁物だが。

     で、キノボリウオも鑑賞用に食用にと人間との関わり合いが深い魚なンだが、
     さっきも言ったよォにエッサホイサと木に登る習性があるワケじゃねェ。
     
     ベタの近縁だって話をしたが、どンな魚か知ってンだろ? そォ、コップの中で飼える熱帯魚だよなァ。
     観賞魚は溶存酸素量が低い環境では生きらンねェのが普通だが、その意味で最悪なコップなンて馬鹿げた容器で
     ベタが飼育可能な理由は、エラ蓋の中にラビリンス器官っつー特殊な呼吸器官を持つことで空気呼吸が可能な為。
     水中だけでなく空気中からも呼吸を確保することで劣悪な環境に耐えてるってワケだ。

     そのベタと同じ器官を持つキノボリウオ、言及がしつこくなるが木登りが可能な体の構造してるワケもなく、
     陸地に上がるったって、せいぜい岸辺の石ころの上で一休みって程度のモンだ。じゃ、名前の由来はなンだ?
     明らかになってるワケじゃねェが、一説に拠るとこォだ。鳥が咥えてきたコイツをうっかり落として見失った。
     そいつが枝の上で生きてるトコを見つけた誰かが、木登りする魚だと誤解した。……まァ、無い話じゃねェな」


打ち止め「空気呼吸が出来るから枝の上でも息が続いてて、それが水場から離れてたら誤解したってしょうがないかもね」

一方通行「今ではキノボリウオ亜科には100を超える種が登録されてる。当然一種たりとも木には登らねェがな」

打ち止め「それはまたなんとも困った展開だね……、ってミサカはミサカは嘆息してみる」

一方通行「付け加えると、ドジョウもそォだがコイツも空気呼吸に依存する割合が高い。つまり…」

打ち止め「空気が吸えないと溺れちゃうってこと? ってミサカはミサカはそれ既に魚じゃないかもと極論してみたり」






417: 2012/01/31(火) 22:00:20.72 ID:b/yNqukd0

番外個体「じゃあ今日からソイツをキノボラズウオモドキと呼んでやろう」

芳川桔梗「冗長ね。名付けは出来る限りスマートであるべきなのよ。だからニセキノボリウオが良いんじゃないかしら」

打ち止め「そういう話じゃあないと思うけど……」

一方通行「別にイチャモン付ける気はねェからな。……アレだ、ホタルイカとホタルイカモドキの関係だ」


芳川桔梗「ええと、発光することで知られるホタルイカ。ホタルイカ漁で混じって獲れるホタルイカモドキ」

一方通行「両者は似てンだがモドキはあンまり旨くねェらしい。それはともかく、ホタルイカはホタルイカモドキ科だ」

芳川桔梗「日本での発見順序と海外でズレがあったからよね。世界的にはモドキが基準になっているのよ」

一方通行「ホタルイカモドキ科にはニセホタルイカなンてのもいる。更に紛らわしいが、結局それが面白いンだよ」


打ち止め「あれ、なんでだろ? って思って調べ始めると深みに嵌ってく感じだね、とミサカはミサカは推測してみる」

芳川桔梗「名前なんて所詮人が付けたものに過ぎない。だけれども、いえ、だからこそドラマがあるのよ」

番外個体「芳川のクセにナマイキな。単純にビミョーな命名センスのヤツを探して笑ってやろうってんじゃねーの?」

一方通行「何でも良いンだよ。楽しければソレで……、つーかハッピーにルンルン出来ればココロウッキウキだろ」


打ち止め「……、何その似合わないセリフ? ってミサカはミサカは思わず寒気を感じて訝しい目を向けてみたり」

番外個体「さてはキサマっ、敢えて貧弱白モヤシに化けてこの家に乗り込んだ一方通行モドキだな!!」

芳川桔梗「そんな展開も面白いわね。ニセ第一位vs本家、夢の対決……。幸い、棒人間でリアルにシミュレート可能だわ」







一方通行「なるほど…………、やっぱり普通ってウゼェモンなンだな」 シミジミ





  ~おしまい~







418: 2012/01/31(火) 22:23:47.88 ID:b/yNqukd0

以上第三十三回「撞着」でした。どこかみんな変、でもそれでこそ普通っていう・・・


今回は細かく補足するとやぶ蛇になっちゃいそうなのでさらっと

第一パート、マツタケの学名の日本語訳、正しくは「吐き気を催させるキシメジ」だそうな・・・だいたいあってる

第二パート、フナとかコイを人が食べたら害があるという事じゃないのでご注意を

第三パート、一回だけホヤが美味しいと思ったことがあった気がする、一回だけ


そんな感じで今回は投げっぱなしが多かったかな・・・と思いつつこの辺で。ではではまたー

424: 2012/02/07(火) 20:19:40.16 ID:EdJ+Y5420

レスを戴いて、唯一の美味しいホヤ体験は東北通過時だった気がしました。もう一度確めたいな・・・

そんな今回のおさかな話は、噛みあわない会話でいつも以上にテンポが悪い。特に第三パートがイレギュラーな感じでヒドイ。
その辺りを薄目で楽しんでいただけたらいいかと思います。テーマは「逆転の発想」です。ではどうぞ


426: 2012/02/07(火) 20:24:52.67 ID:EdJ+Y5420

                                       ☆

「なあインデックス、トラウィスカルパンテクウトリの槍って覚えてるか?」

「とうま? 私には完全記憶能力と103000冊の魔道書の知識があるから当たり前なんだけど、とうまこそ良く覚えてたね」

「上条さんには無意味な文字列を目的も無く暗記するクセがあんの。ま、それはどうでもいいんだけど」

「そういうヒトたまにいるよね。ふっかつのじゅもん?を幾つも言えたりするオジさんみたいな」


「へ? ……槍の話に戻るぞ。あれさ、金星の光を黒曜石のナイフに反射させてその光線が当たった物を分解する魔術だろ?」

「それはとうまが戦った魔術師がそんな感じだっただけ。まあでも、それが偽者の限界かもね」

「つまりあれは劣化版か。じゃあ本物はどんななんだよ?」

「ちゃんとあの時に説明したのに……。アステカの破壊神が放つ、金星の光を浴びたもの全てを頃す炎の槍だよ」


「記憶にあるようなないような……。けど今回はそっちじゃなくて、お前の言う偽者について疑問があるわけで」

「ん~……言い難いんだけど、とうまみたいな素人の独自解釈って誰も得しないかも。だからやるなら簡潔にして欲しいんだよ」

「鋭いご指摘……。よし、一瞬で終わらせる! アレが車に当たるとバラバラになる、でも生物でもバラバラって変だろ」

「要するに、部品の集まりである機械と違って生き物には継ぎ目なんて無いのになんで解体されるのかってこと?」


「さすがインデックス、今の説明だけでよく理解出来たな」

「ふふーん、このくらい朝飯前なんだよ! で、答えは術式の本質は機能消失であり構造の分解ではないから、だよ」

「ん~と……。頃す=働きを毀すと解釈して、それを対象をバラバラにするという現象で実現するって寸法か」

「うんうん、言ってみれば目に見える現象は何かの手段に過ぎないんだよ。これは魔術というものの限界でもあるんだけど」


「ふむ。分解魔術って感じで記憶してたせいで混乱したかな。なるほど、完成前のパーツに戻すことが目的じゃ無いのか」

「例えば縫い目の無い服。組み合わせを解く術式では攻略出来ないけどその術式の場合は細切れにされちゃうね」

「待てよ……、逆に元から機能を失っているもの。例えば廃車なんかはひょっとして壊せないんじゃないか?」

「印象が随分変わるよね。そういうの、別に魔術に限ったことじゃないんだよ。とうまトビウオって知ってるでしょ?」


「トビウオってのは特定の魚の名前じゃなくて、ダツ目の……トビウオ的なヤツらを纏めて言う言葉なんだっけ?」

「そうだね。日本近海だけでも数十種を越えるトビウオが居るの」

「ふむ。んじゃ誤解を与えないようにトビウオ類って呼んだほうがいいのかな?」

「そこらへんのことはTPOに合わせればいいと思うよ。TPOって意味わかんないけど響きがカワイイかも」


「判らない言葉を使うなよ……。んで、トビウオの話はどこ行った?」

「あ、そうだった。ではではとうまに質問なんだけど、トビウオって魚偏に飛って書くけどどうしてか分るかな?」

「……、ちょっと上条さんをバカにしすぎじゃありませんか? そんなもん、文字通り飛ぶ魚だからだろ」

「強気だね。じゃあ、どんな手段でなにを目的に飛ぶかわかる? どんな原理でどんな感じで飛ぶか、ねえ分るの?」






427: 2012/02/07(火) 20:26:46.02 ID:EdJ+Y5420

「途中で難易度クラスチェンジすんのは反則だろ…………。えーと、まず飛び方はグライダーと同じだよな?」

「そう、滑空だよ。体型やヒレの形がたまたま滑空機の機能を持っていた。それが適者生存の篩を攻略する鍵になった」

「自然選択説か。でもひとまず難しいことは後回しにして、実際どのくらいの飛行能力があるんだろ?」

「ものの本によると時速70kmで水面から飛び出し、高さは最高10m、飛距離は最大400mだってさ。未確認なら更に上も…」


「おいおい、それだってサーマルとかウェーブを期待出来ない状況なんだから揚抗比がべらぼうになるんじゃないか?」

「……。大きく発達した胸ビレを水平に開いて飛ぶんだよ。種によっては尻ビレも翼として使えるみたい」 キイテナーイ

「もしもーし。ちょっと科学な話になったからって無視すんなよー」

「それ以外にも飛行に適した特性があるんだよ。食べたものは速やかに消化され体脂肪率は1%以下とかね」 キコエナーイ


「……ホント魔術側の人間は都合のいいときだけ科学を利用するよな。実は俺も何言ってんだか判ってなかったんだけど」

「前も言ったけどぼんやり知っていれば事足りるもん。それはともかく、さっきの質問はまだ終わってないかも」

「ったく、へいへい。残ってる項目はなんだっけ…………、飛ぶ目的か」

「さあさあ、どうしてトビウオは魚のクセに海ではなく空を行くの? ホラホラ、答えられるものなら答えてみるんだよ!」


「待て待て、なんでそんな強引で偉そうなんだよ!? お前には在りし日のビリビリでも憑いてんのか!?」

「ちょっ、とうまっ! そういうのは冗談にしても慎むべきだよ……、自分の命がほんの少しでも大切なら尚更かも」

「…………そ、そうだな悪ノリが過ぎたな。人を呪わば穴三つって言うし…」

「関係ない人巻き込むのが前提なの?? 穴は墓穴、数は二つ、相手と自分用ので十二分なんだよ……」


「そっか、そうだよな~……。と、脱線はこのくらいにしてトビウオが飛ぶ理由、見事に答えてやるよ」

「えっと、もしかしてその脱線ってダツと掛けてたりする? 『脱線で思い出したけど、ダツ目って~』とか」

「だっ……、誰がそんなしょうもないダジャレで話を繋ぐかよ! 確かにトビウオがダツ目だって話をするつもりだけど」

「ならいいんだよ。……ダツ目はダツやトビウオの他にサンマやサヨリなどが含まれているんだよね」


「俺が好きなメダカもそうなんだけど、ちょっと毛色が違うんだよな」

「体の一部にダツ目特有の構造があるだけだからね。まあメダカは今回は横に置いておいたほうがいいかも」

「そうだな。それで本題だけど、ダツ目の魚は色んな状況でジャンプをすることが知られている」

「サンマやサヨリが群れでピョンピョン移動してたり、ダツは光に反応して跳んでくる性質があったり、だね」


「中でもダツはホントに高く跳ぶんだとさ。しかも英名が『Needle fish』っていうくらい、細長くて先が尖ってんだよな」

「ダツが突き刺さって大怪我する事故は珍しくないんだよ。ライトを使う夜釣りの際は気を付たほうがいいかも」

「しかも回転しながら跳んで来るらしいぜ? ……んまあそんな風にダツ目ってのはジャンプするのが得意なやつらなんだ」

「うんうん、続けて続けて」





428: 2012/02/07(火) 20:28:39.98 ID:EdJ+Y5420

「さてそこでトビウオ、の前にサンマの話をさせてくれ」

「サンマ苦いかしょっぱいか? 食べればわかるんだよ」

「何だそれ? ……まあいっか。さっきサンマもジャンプするとは言ったけど、実は時々トビウオみたいに飛ぶんだよ」

「サヨリもそうだね。滑空、生き物だから滑翔かな。もちろんトビウオほどの能力は無いんだけど」


「ああ。ジャンプに長けたダツ目は進化の過程で飛ぶ技術を得た。その中で滑翔適正がダントツなのがトビウオなんだ」

「軽く細長い体、幅広く大きなヒレ、極限に発達した筋肉のお陰だね」

「そういうこと。そんな特別な素質を持っているからトビウオは飛ぶことを選んだってワケ」

「うんう……、ん? それで終わり??」


「へ? だって残ってたのは飛ぶ目的だけだろ? 飛ぶのが得意だから飛ぶ、これで何か文句あるのかよ?」

「それ本気で言ってるなら首絞めたくなるほど哀れなんだよ……。じゃあ聞き方を変えて、どんな時に飛ぶの?」

「どんな時って、マグロやカツオみたいな大型の捕食魚に追われた時とか?」

「でしょ? つまり、トビウオが飛ぶ目的は逃げるため。これが正解なんだよ!」


「そりゃあ、追っかけてた魚にとっちゃ突然消えて数十秒後に全然違うトコ着水されたらテレポートも同然だよな」

「それよりも! 大事なのはあくまでも主として逃走の為に飛ぶってこと。コレを忘れるとヘンなことになるんだよ」

「……、というと?」

「例えば、トビウオをハトの代わりに山から飛ばそうとしてみたり沢山のトビウオを使って船を飛ばそうとしてみたり」


「なっ、いくらなんでもそんなバカな??」

「飛べる魚、って理解が先に来ちゃうとバカなことがバカじゃなくなるんだよ。エグゾセじゃないけど軍事利用を考えたり」

「超低空海面追随飛行が可能な中距離対艦ミサイル? いや、生体爆弾か……。んな計画上手く行くはずないだろうに」

「目的は逃げること、手段は滑翔。ここで混乱すると間違えちゃうのかも。最初の魔術と同じでしょ?」


「目的は対象の全機能破壊、手段はバラバラにする現象……。頃すため壊す、逃げるため飛ぶ。……なるほどな」

「ついでに、とうまが魔術を便利で強い技術だと誤解してるのは、凡そ手段と目的を取り違えてるのが原因なんだと思うよ」

「……、そこはヤッパリ納得行かないけどなあ。第一、間違ってるって言うワリに細かく教えてくれるワケでもないし」

「知りたい? 簡単に喩えるなら卓球はフライパンとバスケの球でも出来るけど翌日腕がパンパン、ってことなんだけど。判る?」




「その話は何かを説明してるつもりなのか……、コレ上条さんがバカだからわかんねーんじゃ無いよな?」







429: 2012/02/07(火) 20:30:47.80 ID:EdJ+Y5420

                                 ☆

御坂「佐天さんが金属バットで黒子を後ろから狙った。黒子はフルスイングが頭に触れた瞬間にそれを察知して避けた」

佐天「来る方向が判ってるから電撃は避けられるって理屈にはそれの100倍シビアな能力が必要ですよね……、アリエナイ」

初春「そんな白井さんなら氏角とか無いですね。だってどんな攻撃も当たった瞬間に来る方向が判る攻撃になるんだから」

白井「なんでわたくしが……。まあそんな人間が普段はボコボコ殴られてるのなら、情報のどこかにウソがあるのでしょう」


御坂「うそか……、ウソねえ…………、うそうそうそうそ、カワウソ~♪」







佐天「……えっ、あ、カワウソってイタチみたいなやつでしたっけ? しし、知ってはいるけどイメージしにくい生き物ですよね」

初春「カモノハシと似ていたような……、あれ? それはレッサーパンダだっけ……。確かに良くわからないかもです」

白井「ビーバーやアナグマなどと混同した姿で記憶されてる方も少なくないかと。まあ、水辺の哺乳類ですわね」

御坂「やあ、ぼくウソつきのカワウソホンマだよっ! …………、あれー? 面白いでしょ? 何で誰も笑わないの??」


白井「常盤台入学時にお姉様の暴走に対しては様々な意味で手出し無用と教わっておりますの。それよりカワウソの話を」

佐天「そ、そうですよー。御坂さんは川の生き物には断トツで詳しいでしょ? カワウソだってバッチリでしょ?」

初春「誰だってギャグかどうかの見当もつかないモノの道連れはゴメンです。さあ、カワウソの解説お願いします」 ニコニコ

御坂「うーん。前々から思ってたけど、みんなの感性ってズレてるわよ? ま、いっか。ニホンカワウソの話で良い?」


白井「んっ、まーっ!! いいですわねニホンカワウソ、それで行きましょうそうしましょうそれが最高ですの!!」

御坂「そ、そんなに好きなのニホンカワウソ? ……黒子が乗ってくれるなら大丈夫かな、みんなも良いわね?」

佐天「(さすが白井さん……、勢いつけて話に乗っかることで御坂さんの暴言を無かったことにした……!)」

初春「(ええ、唯一無二のパートナーを自称するだけのことはありますね)……あ、話はこちらもそれでオッケーですよー」



御坂「了解っと。なるべくわかり易く話すわね」




430: 2012/02/07(火) 20:32:38.34 ID:EdJ+Y5420

御坂「さて、まずは軽く分類をおさらいしとこっか。ニホンカワウソは食肉目イタチ科に属するんだけど…」

佐天「あ、やっぱりイタチに近いのかあ」

初春「レッサーパンダはちょこっと遠い親戚ってとこですね」

白井「近縁には他にラッコやオコジョ、フェレットやテンといった、ネコ系の可愛らしい仲間が多いですわね」


御坂「食肉目はネコ目とも言うもんね。これでもイメージ出来ないならラッキーくんっぽいヤツだと思えばいいわ」

初春「最後にそのたとえを持ってくると却って分りにくくなるような……。マギーさんがどうこうじゃないですけど」

佐天「それにしても、カワイイ動物なんだろうにどうしてこんなに絵が浮かばないんでしょ?」

白井「考えるまでもありませんの。ニホンカワウソは既に絶滅していると見做されているから、そうですわねお姉様?」


御坂「そう。かつては日本中の水辺でごくありふれた生き物だったんだけど。明治以降の近代化の流れの中で……、」

白井「最後の目撃例が西暦1979年ですが、この調査の段階で既に誰の記憶からも消えかけた存在だったかも知れませんわね」

初春「絶滅の原因はやはり高度経済成長化における環境破壊なんでしょうか? 生息地が護岸工事で奪われたとか」

佐天「……でも初春? そんなの頭数が減少してるの判った時点で保護すれば済むでしょ。 絶滅って多分もっと凄い事だよ?」


御坂「佐天さん鋭いわね。そう、ニホンカワウソは絶滅が確定的になるまでほとんど保護出来なかったのよ」

初春「なぜですか? 可愛くて身近で、それに特に人に危害を与えるような動物でも無いなら……」

白井「……、イタチ科にはミンクという動物も居ますわね。毛皮で御馴染みですけど……、そういうことですの」

佐天「つまり、保護が間に合わないほど急激な乱獲があったと…………。でもカワウソの皮ってそんなに良いものなんですか?」


御坂「エビやカエルを捕食するような水中生活に適したその皮は、高い防水保温効果があったそうね」

白井「そうした毛皮目的での乱獲によって数を減らしたところに、初春の言う生息地の環境悪化が重なったと」

御坂「それと漁師にとってはある意味害獣だったのよ。畑のモグラと同様にね」

佐天「漁場を荒らすから駆除してたんですね……。それは責められないけど……、ん? あのー……、あれっ?」


御坂「そうよね、当然疑問が沸くと思う。環境悪化以外の絶滅原因は近代化以前から存在してたってことでしょ?」

初春「はあ。言われてみたら毛皮は昔だって需要があっただろうし川漁師さんは今より多かったはず……」

白井「となると、大昔はニホンカワウソ捕獲に対して何らかの歯止めがあった、という事ですの?」

佐天「そして時代とともに失われた……。それは一体どんな抑止力だったんですか?」


御坂「…………そのチカラ。一言で表すなら、オカルトよ」






431: 2012/02/07(火) 20:35:33.77 ID:EdJ+Y5420

御坂「ニホンカワウソは日中は岩陰や草むらで過ごして、エサを探すため活動的になるのは夜中なの。
    そういう夜行性の野生動物はべつに珍しくない。けどね、ちょっと想像力を働かせてみて。

    電気もガスもない、つまり日没とともに暗闇に支配される時代。夜は人にとってどんな時間だったか。

    見えない恐怖だけじゃなく、むしろ見える恐怖。昼間ハッキリしていた木々や山の輪郭が闇に溶け
    全ての境界線が曖昧になる。だって手元の灯りで作られた自分の影さえ周囲に馴染んでいくのよ。
    それはこの世とあの世の区切りさえ頼りなくボヤけた時間。世界が冷たい漆黒と熱を帯びた…」

初春「要するに明かりが無いと人間なんて無力だから、時には変な妄想に駆られたりするものだということですね?」

佐天「ふむふむ、夜の山道でガケから落ちたり野犬に襲われたり。そんな本能的恐怖が暗闇の禁忌を作ったと」

白井「暗闇を恐怖の対象とすれば、暗闇に蠢くものたちを同じく恐れるのは自然の成り行き。そこでカワウソですわね」


御坂「……あ、うん。……さっきも言ったけどニホンカワウソは夜行性、つまり暗闇の中を動き回る生き物なの。

    恐怖の対象であり単純に危険も多いと言っても、昔の人だって真夜中に外出することが無かったわけじゃない。
    頼りは提灯や松明、それに月明かりだけかなあ? とても心細い道すがらだったんでしょうね。
    当然だけど他人の姿なんて無いし物音も少ないから、普段は意識の外側にある世界が際立つことになる。

   幽霊の正体見たり枯れ尾花じゃないけど、昼間に見慣れてるものでさえ異界の住人に成り代わるのよ。
    なら、予備知識の無いモノが予測不能の動きをしたらどれほど恐ろしくどれほど畏るべきことだったかと…」

佐天「ははあ、つまり深夜に月明かりが映る水面を見たらカワウソが泳いでて、そうと知らない昔の人はビックリしたと」

初春「川の中でにゅっと突き出た鎌首と光る獣の目が暗闇の中でうっすら見えるんですね。怖かっただろうなー」

白井「それを物の怪、妖の類と扱ったのも詮無きことですわね。つまりカワウソはかつて一般人とってバケモノだったと」


御坂「そう、そうなんだけど……。あれー? なんだろこのスッキリしない感じ。むぅ~……。

    と言うわけで、タヌキやキツネが人を化かすなんてのと同様、ニホンカワウソも人知及ばぬ怪異の一部だったのよ。
    地方によっては成長したカワウソが人を捕って喰らうカッパになるなんて言い伝えが残ってたりね。
    成長したらって、んじゃカッパは年老いてハg……、頭頂部付近の体毛密度が著しく低下したカワウソなの?
    バッカらしい話だけどさ、こんな根拠の無い迷信のお陰でカワウソは長い間守られていたとも言えるのよ。

    カワウソに最も近い仲間がラッコ……、っていうよりラッコってずっと海に居るカワウソのことなんだけど
    アレも毛皮の為の乱獲で絶滅寸前まで追いやられたのよ。伝えられてるそのラッコ猟の様子がなんて言うかね……。

    貝やらカニやらを拾ってきて水面にプカプカ浮かび石ころでカンカン叩いて食べる、そんなノンビリした印象でしょ?
    実際、ラッコは攻撃性が低くてしょっちゅうボーっとしてるような生き物なんだけど、その性格が災いしたワケね。
    捕獲の為に人が船で近づいても逃げない。それどころか好奇心丸出しで向かって来ちゃったりするの。古い記録には
    もともと海岸で生活するラッコも居たけど簡単に捕まえられすぎて即絶滅。現存タイプだけが残った、ってあるくらい。

    カワウソも同じだったのよ。捕まえようと思えば簡単だった。だけど昔はオカルトが抑止になっていた。
    『おとなしそうに見えても、その実は牙を剥き人の生き血を啜る怪物だから手出しは禁物である』なんてね。

    長きに渡り動物と人を区別せず、いえ、区別したとしてもむしろ上の存在と見做したからこそ守られたものがある。
    意図的で有る無しに関わらず、バカバカしいオカルトにだってそれなりの役割があったって言えないかな?」


佐天「カワウソは怖ろしい。そんな幻想を文明開化が軒並み壊してしまった。ただの下等な小動物だと……」

初春「そして今、私たちはニホンカワウソの姿を思い浮かべることさえ出来ない。ホントの幻想になってしまいました」

白井「そう考えますと……。幻想を壊す、つまりウソを暴くことが一概に良いことかどうか。悩ましい問題ですわね」

御坂「まあね。守るべき幻想なんて判らない。だけど壊さないほうがいいウソも中にはある、ってせめて知っておくべきなのよ」



御坂「って、みんな暗いわよ……、景気付けに歌っとく?  うそうそうそ、かわうそ~、カワウソホンマ~♪」 フンフン♪

白井「(そのフレーズがツボに入ったんですのね。さて、そのつまらない幻想は壊すべきか否か……、悩ましいですの)」







432: 2012/02/07(火) 20:40:33.90 ID:EdJ+Y5420

                                   ☆

打ち止め「ねえねえ、ブルーギルっておさかな居るでしょ? アレって日本のおさかなに比べてそんなに強いの?」

一方通行「……典型的な勘違いだな。そォした意味合いで言えば生き物に強弱はねェよ。あるのは相性ってヤツだ」

打ち止め「じゃあブルーギルが猛威を振るってるのは相性が良かったから……? よくわかんないんだけど」

一方通行「メンドくせェ……。例えばアレだ、ポーカー知ってンだろ? カードゲームの定番の」


打ち止め「通常5枚の手札を用いて特定の役を作りその強弱を競う、だったかな? とミサカはミサカは思い出してみたり」

一方通行「フン…………、オマエは今氏ンだぞ? ンな上っ面の理解だけでカードを語ンじゃねェよバカが」

打ち止め「問われて答えたのになんと理不尽コレが現実!? ってミサカはミサカは騙し合う嘘つきだねと締めくくってみる」

一方通行「アレはプレイヤー同士がテメエを偽りながら真実を読み合うゲームだ。決められたルールの中でな」


打ち止め「内心ビクビクしながら表面は余裕の顔、だけど相手を萎縮させ過ぎちゃダメとかそんな感じかな?」

一方通行「……まァそォだ。ポーカーフェイスっつーのは無表情って意味じゃねェンだよ」

打ち止め「それで、そのゲームとブルーギルと相性がどう関係するの?ってミサカはミサカは軌道修正してみたり」

一方通行「ポーカーの基本ルールは知ってンな? なら相手の手札が全部見えたら勝負にならないってコトはわかるだろ?」


打ち止め「自分の手札が相手より強ければ受けて、弱ければドロップしちゃえば良いから……。そりゃそうだけど」

一方通行「勿論、相手の手札を覗くのは反則だ。……但し、対戦者同士がそう決めた同じルールで戦ってンならだが」

打ち止め「つまりブルーギルが日本のおさかなに対して相性が良いというのは、手札が丸見えのポーカー状態だってこと?」

一方通行「そンな感じであくまで偶然にだが、向こうのルールがコッチに対して圧倒的に有利だったって事だ」


打ち止め「でも自然には人の決めたルールなんてないよ? とミサカはミサカは至極真っ当な疑問を投げかけてみる」

一方通行「ルールってのはモノの喩えだ。この場合、それぞれの生物が進化の過程で得た個別の特性のコトだと思え」

打ち止め「……原産地の自然環境に適応する生物を別の場所に移動させたら、より過剰に適応し繁栄した……。う~ん?」

一方通行「繁栄ねェ? 好敵手の居ない勝負師は存在価値ゼロだ。ゲームに限らず勝ち過ぎは破滅と同義なンだよ」


打ち止め「じゃあ、たくさん増えて在来種に取って代わろうとしてる今の状況はブルーギル自身にも良くないの?」

一方通行「そォだが……、悪りィ。後はその辺の問題に詳しいヤツに聞け。紹介してやる」 ポチポチ

打ち止め「えっ……別にそんなこと望んでるわけじゃ、とミサカはミサカはあなたの少々捻じ曲がった親切に困惑してみたり」

一方通行「ン、何か言ったか? ―――――――――場所はいつもの水槽屋だ。連絡してやったからとっとと行って来い」







433: 2012/02/07(火) 20:44:57.27 ID:EdJ+Y5420

 【学園都市最大のアクアリウムショップ ~エディ・アレックスのアクアホリックショップ~】


打ち止め「なんでこんなことにーーっ! ってミサカはミサカは広い店内に響き渡るほどの大声でグチってみたり」

芳川桔梗「でも、あの子が素直に他人を頼ったことは評価に値するわ……。同居人の気持ちには無頓着なままだけど」

打ち止め「ホントだよ! 第一どうして話を聞いて来いって言うだけ言って一緒に着いて来てくれないの?」

芳川桔梗「そう言えば何だか変なこと言っていたわね。『アレと俺とじゃ会話が成り立たねェンだよ』とかなんとか……」




削板軍覇「どうも。そのアレです」 \ドッパーン/

打ち止め「」

芳川桔梗「」



打ち止め「……えっ、えっと」 ナニコレ?

芳川桔梗「……、終わったら携帯に連絡を入れなさい。近くで待機してるから安心して。……頑張りなさいね」

打ち止め「なっ………!!」 ニゲタ !?


    「…………」  「…………」



     ――――――――――――――――――――――

     ―――――――――――――

     ――――――


打ち止め「それじゃあ、あなたはあの人が誰かも知らないの? ってミサカはミサカは打ち解けた雰囲気で問いただしてみる」

削板軍覇「俺は店の設備を借りてるだけ。店員じゃねえから客の個人情報は把握できんしあの人がどの人か見当もつかん」 

打ち止め「でもあの人は連絡しとくって言ってたんだけど……、とミサカはミサカは一体どういうことなのかまるで解らなかったり」

削板軍覇「おう、確かに丁度38分前に非通知で『チビがブルーギルの話聞きに行く。準備しろ』と知らないヤツが掛けて来たな」


打ち止め「……えーと、」

削板軍覇「待てよ? あの声はいつもの……、根性不足のエノキ野郎だったような気がするな。あの人ってのはそいつか?」

打ち止め「最近は乾燥シメジと称しても過言じゃない!とミサカはミサカは擁護し……あれ? じゃあやっぱりお知り合い?」

削板軍覇「時々訪ねて来て問題のある魚を置いていく困ったヤツだな。次遭ったら根性入った説教してやるつもりだ」 バチコーン


打ち止め「あの人が一緒に来なかった理由が判ったよ、とミサカはミサカは……、それはそうと問題のあるおさかなって?」

削板軍覇「俺の専門でもある特定外来生物だ。『同居人が拾ってきた魚ン中に混じってた』などとくだらん言い訳しながらな!」

打ち止め「それ多分ウソじゃないし、さっきミサカの横に居たのが真犯人の一味なんだけど…」

削板軍覇「さて、そんなどうでもいい話などとっとと切り上げて本題に入るぞ! テーマは『ブルーギルと根性』だ」


打ち止め「……ツッコミ気質が無いミサカにはこの人の相手は厳しいよ、とミサカはミサカは今更先行きに不安を覚えてみる」

削板軍覇「では行くぞ! まずはミサカワミサカ? がどの程度の予備知識を持っているか…」

打ち止め「ちょちょっ、ちょっと待って今のはそんなミサカもさすがに見過ごせない! ミサカワミサカってミサカのこと?
       ってミサカはミサカはミサカのことはミサカか打ち止めって呼んでほしいと淡い希望を述べてみたり」


削板軍覇「了解だ! 俺はミサカワが予備知識をどの程度持っているか知らんので基本的な話から始める。それでいいな?」

打ち止め「う……、色々含めてもう……いい、とミサカはミサカは早くも諦めムードの心中を吐露してみる」 グッタリ


434: 2012/02/07(火) 20:48:17.24 ID:EdJ+Y5420

削板軍覇「何はともあれ実物を見るのが一番だな! ちょっとこの水槽のほうへ来てくれ」 コイコイ

打ち止め「えっ? 本物が居るのってミサカはミサカはおずおずと近づいていき……。ほほぉ~、ふむふむ~、なるほど~」

削板軍覇「コイツらは全長10cm以下のブルーギル(若魚)だ。感想があるなら聞いておくぞ?」

打ち止め「んーと、薄い縦じまがあって、横から見た形はフナみたいな楕円形なんだけど……なんだか随分薄っぺらいね」


削板軍覇「確かに、明るいところで観察すると背骨が透き通って見えるほど薄いな。他に気になるところは無いのか?」

打ち止め「背ビレとかが尖っていて危なそう……。あとエラ蓋のトコに何かくっついてるね」

削板軍覇「その通り! コイツのヒレは危険、素手での扱いには注意が要るぞ。そしてエラ蓋のアレが名前の由来だ」

打ち止め「ほほ~。エラ蓋の上に黒っぽいというか紺色っぽい小片があるからブルー(青い)ギル(エラ)ってこと?」


削板軍覇「英語が喋れるとはミサカワは賢いな! 要するに、ギルと省略してしまうとそれはエラと言う意味なのだ!」

打ち止め「ギルがいっぱいいる池、と言われてエラが溢れてる様子を誰も想像しないと思うけど、とミサカはミサカは…」

削板軍覇「で、今度はこちらの水槽だ。充分に成長した個体はこの大きさになる」

打ち止め「うわっ! すごく地味な体色だけどフナと言うよりマダイのような? 大きさも50cm近くあるんじゃないコレ?」


削板軍覇「うむ。若魚のように薄っぺらくない実に逞しい体だろ? まさに根性の為せる業だ!」

打ち止め「後半さっぱりわかんないけど、とミサカはミサカはちなみにブルーギルが何の仲間か尋ねてみたり」

削板軍覇「分類か! サンフィッシュ科だから、一般的にブラックバスと呼ばれるヤツらが近縁だな」

打ち止め「ん? でもブラックバスって全然カタチが違うよ? アレはもうちょっと細長くて丸くて口が大きくて…」


削板軍覇「分類は表面の見た目で決まらない場合も多く素人には理解し難い。だから気にする必要なぞ無い!」

打ち止め「ソウデスカ……。あと、サンフィッシュって確かマンボウも英語でそんな名前だったような?とミサカはミサカは…」

削板軍覇「ミサカワは本当に博識だな! そう、マンボウは英語でサンフィッシュ。だがサンフィッシュ科とは無関係なのだ!」

打ち止め「偶然同じ名前になっちゃってるだけなのねとミサカはミサカは納得してみる」


削板軍覇「さて、まだまだ言及しておくべきことは山ほどあるが、こっからは当初のミサカワの疑問に答えつつ紹介してくぞ」

打ち止め「ブルーギルが有利なトコロ、増えすぎの反動や害だよねとミサカはミサカは忘れないうちに思い出しておく」

削板軍覇「っと、以下はネガティブなイメージの話題でもある。ガラじゃねえんだが一応ヒトコトだけ言い訳させてくれ」

打ち止め「はあ……、お任せしますとミサカはミサカはゴーアヘッドのサインを送ってみたり」







削板軍覇「個人的な意見を押し付けるなという意見は個人的な意見の押し付けである。これをジレンマと言う!」

打ち止め「…………それ言い訳とは違うような、でもツッコんだら負けのような、とミサカはミサカは躊躇逡巡してみる」 ウーン






435: 2012/02/07(火) 20:53:20.77 ID:EdJ+Y5420

削板軍覇「ブルーギルは北アメリカ原産の淡水魚で、主に流れの弱い河川または池や沼などの止水を好む魚だ」

打ち止め「分布は淡水全体だけど、余り流れが急じゃないところが好きなのねってミサカはミサカは情報を補完してみたり」

削板軍覇「肉食傾向の強い雑食性のクセに縄張りを作るよりも集団で行動する、つまり一匹見つけたら云々な習性を持つ」

打ち止め「コックローチさん……。それにしても群れを作ってエサを獲ってたらすぐ周りに食べ物が無くなっちゃうんじゃ?」


削板軍覇「目の付け所が素晴らしいな! どうやら周囲に食べ物が豊富な場合、一匹ずつに好き嫌いが出来るようなのだ」

打ち止め「俺とオマエじゃ喰いモンが違ンだよ! 肉喰ってりゃ幸せなンだよ! 肉無くなったからエビ食わせろ! って感じ?」

削板軍覇「中には水草だけとか底の堆積物専門で喰う変わり者もいるらしい。結果的に、環境全てを利用可能なワケだな」

打ち止め「いつかのアメリカザリガニみたいな子なのねってミサカはミサカはボンヤリと思い出してみたり」


削板軍覇「繁殖はサンフィッシュ科に共通するのだが、オスが砂地に巣を掘りメスを誘って産卵させるというものだ」

打ち止め「……、話がコロコロ変わり過ぎだよ! とミサカはミサカは愚痴りつつもオス魚の苦労を偲んでみる」

削板軍覇「巣を作るだけじゃないぞ? 産卵後もオスは巣に残りタマゴや稚魚を狙う捕食者を追い払い続けるのだからな」

打ち止め「その時メス魚ってドコへ……、とミサカはミサカは夫婦仲って水物だなあなどとテキトーな事を言ってみたり」


削板軍覇「さて、捕食魚としてのブルーギルは止水に於いて非常に優れているのだが……。それはどんな所かわかるか?」

打ち止め「えっ? いきなりそんなことわかるわけが……けど、もしかしてこの水槽を見ればヒントがあるのかな?」

削板軍覇「おいおい、ミサカワはホントはチビッ子の皮を被った学者とかじゃねえだろうな? 鋭いにも程があるぞ……」

打ち止め「……それはともかく、ブルーギルって普段はこんなにじっとしてるおさかななの?」


削板軍覇「違うな。動きがただ少ないんじゃなく、停止時の動きが極端に少ねえんだ。ホレ、ヒレもシッポも止まってんだろ?」

打ち止め「……、ホントだ。フナやヌマムツみたいな魚だって一箇所に留まるためには結構細かく運動してるのに」

削板軍覇「水の中で動けば波が起こり、周囲に自分の存在を知らせちまう。では動くこともなく一点に留まれたら、どうだ?」

打ち止め「それはつまり気配を消して相手が近づくのを待ち、警戒させないまま攻撃出来ると……。まるで暗殺者だね」


削板軍覇「だろ? その上、追撃特性も優れている。停止→トップスピード→停止をほとんど加速減速なしで実行したり」

打ち止め「お~~! お値段が惑星ひとつ分の宇宙船みたいだねってミサカはミサカは感嘆の声を上げてみたり」 ヒュー

削板軍覇「360度全ての向きで停止が可能だったりな。背ビレと胸ビレを器用に使って前を向いたまま高速バックだって出来る」

打ち止め「ふむふむ。まさに止水のファンタジスタって感じだねってミサカはミサカは総括してみるんです」


削板軍覇「他にも冷温や酸欠、汚水に耐えるスゲエ根性がある。そんなブルーギルが日本の水環境に入ればどうなるか」

打ち止め「多少の悪状況を問題にもせず、食べられるものを全て食べつくし、一方で自分の子供たちはがっちりガード」

削板軍覇「狙った獲物は逃さない運動性能を持ち、コレといった天敵も見当たらない……。一人勝ちってヤツだな!」

打ち止め「そうだね……。じゃ次は、勝ち過ぎがどうして破滅に繋がるのか教えて欲しいとミサカはミサカは頼んでみたり」






436: 2012/02/07(火) 20:57:40.94 ID:EdJ+Y5420

削板軍覇「ある種の魚が極端に水域を占有すりゃ当然弊害がある。人間側から見れば漁業の損害が代表的だな」

打ち止め「お金になる魚が食べられたり、環境そのものを悪くされたり、網に掛かってもヒレが危険で外す手間ばかり掛かったり」

削板軍覇「そうなりつつある場所もその懸念がある場所もありってトコだ。特定外来生物に指定されるだけの根性があるな」

打ち止め「だから根性って何なの……。そういえばそんな暴れん坊をどうして移殖したの?とミサカはミサカは質問する」


削板軍覇「ルーツは20世紀後半、生物学者でもあらせられるいとやんごとなき方がアメリカご訪問の際に寄贈された15匹だ」

打ち止め「アメリカザリガニの話でも思ったけど……、最初はホントにホンのちょっとだったのね」

削板軍覇「それを食用や釣り目的の研究の為日本に持ち帰り、水産庁に寄贈……と、ここまでは何も問題無かった」

打ち止め「ああ、見えるよ……。その後、養殖池が洪水で溢れて逃げ出したとか、流行を作ろうとして密放流したとか……」


削板軍覇「バス釣りを流行らそうとした輩が、バスのエサになるってデマを信じて放ちまくったなんて話もある。だが実は逆だ!」

打ち止め「ブラックバスは狩りが下手だからね……。ブルーギルは何でも食べるからバスのタマゴだって食べちゃうわけだし」

削板軍覇「今では各地で駆除の対象だ。基本的に許可なく飼育、移動、放流、譲渡などすれば罰せられるから気を付けろよ!」

打ち止め「ん? あの……、ひょっとしてあの人がここに生きたまま特定外来生物を持ってきちゃったのってダメなことなの?」


削板軍覇「俺は許可を持ってるが正直グレーだぞ。だから以前『最大1億円の罰金刑だ!』とヤツには警告したんだが……」

打ち止め「あー……、あの人はそれ系の罰には麻痺してるとこがあるのってミサカはミサカは代理で弁解してみたり」

削板軍覇「桁の多い数がピンと来ないクチか、俺と同じだな!」

打ち止め「あ、いやそうじゃなく……。それはそうとちょっと疑問なんだけど、移動が禁止って持ち帰ることもダメなの?」


削板軍覇「原則で言えば、頃してから持ち帰ればOKということだ。それまで禁止したら捕まえた時点で罪になりかねん」

打ち止め「ふむふむ。あのね? それならブルーギルを釣って食べちゃってもかまわないよね」

削板軍覇「もちろんだ。そもそも原産地では立派な食用魚だしな……。但し、法律とは関係ない問題点がいくつかある」

打ち止め「それは何?ってミサカはミサカは頭の中で料理法を模索しながら尋ねてみたり」


削板軍覇「一般的な淡水魚と同様コイツも生息域によって味が変わり、時に喰えたものじゃないレベルまで落ちる場合もある」

打ち止め「まあ……、それはしょうがないかも、とミサカはミサカは話の続きを促してみたり」

削板軍覇「その上、個別で嗜好が違うって話をしただろ? 食べ物の違いはそのまま食味の違いに繋がるからな」

打ち止め「泥みたいなものばかり食べてた魚が泥臭いのは当たり前か……。しかも見た目じゃ違いがわからないよね、それ」


削板軍覇「更に件の食用魚としての研究の結果、日本では不適合であると結論が出ている。理由は主に2つ、わかるか?」

打ち止め「サイズの違うブルーギルの水槽を交互に指差しながら質問した、ということは大きさの問題?」

削板軍覇「その通りだ! 原産地ではこのビッグサイズまで成長するが日本では20cm以下が大半だ。しかも成長が遅いときた」

打ち止め「でっかくならないと薄っぺらだから食べるところが殆ど無いもんねとミサカはミサカは得心してみたり」






437: 2012/02/07(火) 21:01:07.61 ID:EdJ+Y5420

削板軍覇「ではあまり話が長くなってもいかんので、そろそろ核心に入るぞ。根性入れて聞く準備は出来てるか?」

打ち止め「……お、おうっ! とミサカはミサカは半ばヤケクソ気味に最後のスタミナを振り絞ってみたり」

削板軍覇「優占種。ある場所で主に見られる生き物をそう呼ぶが、それが行き過ぎた結果最終的にどうなるか、だったな」

打ち止め「もう最初の質問なんて覚えて無いからどうでもいいよとミサカはミサカは開き直ってみる!」


削板軍覇「その意気や良しだ! ではこういったお題では定番だがヴィクトリア湖の悲劇の話を……、ひょっとして知ってるか?」

打ち止め「…………知らない、とミサカはミサカは空気を読みつつもアフリカ最大の湖、ヴィクトリア湖の話を期待してみる」

削板軍覇「そう、まずデカい。琵琶湖の100倍とも言われる広大な淡水湖だ。俺の根性を以ってしても飲み干すことは難しい」

打ち止め「えーっと、ついでに10万年以上水を溜め続けている古代湖だよねとミサカはミサカは一部無視してフォローしてみる」


削板軍覇「うむ。巨大な隔離水系が長期に渡り存在すればそこには非常に独自で多様な生態系が発達する」

打ち止め「日本の琵琶湖固有種でさえ、国内の淡水魚種のかなりの割合を占めてるもん……だから簡単には想像もできないよ」

削板軍覇「一説によると20世紀初頭までヴィクトリア湖には400を超える固有魚種が居たらしい。既に確認する術も無いが」

打ち止め「その悲劇のせいで、だねとミサカはミサカは詳しく解説してくれることを遠まわしに求めてみたり」


削板軍覇「中央アフリカ東部に位置し3国に跨るヴィクトリア湖は20世紀中頃までイギリスの支配下にあった。
       いわゆる植民地のように本国以外に生活圏を広げる場合まず何より先に確保する必要があるのが水と食料だが
       この湖は周辺国へのイギリス入植初期段階ではその期待に充分に応えた。なにしろ根性入ったデカさだからな。
       しかし人口の増加傾向に徐々に漁獲量が追いつかなくなり、やがて水産資源が底を突くおそれさえ出てきた。
       イギリスとしては何か手を打つ必要があったのだ。そして目を付けたのが同じくアフリカ原産の、とある魚だ。

       その名をナイルパーチ。ナイルと付くが直接ナイル川に縁が深いことは無い。最大で2m、200kgに達する大型魚だ。
       日本の魚で言えば白っぽい体に赤い目が特徴のスズキの仲間、アカメに良く似ている。というかほとんどアカメだな」


打ち止め「白っぽくて赤い目の第1位スズキ目……そりゃ問題児ですわ、とミサカはミサカは海よりも深く納得してみたり」


削板軍覇「いや、必ずしもコイツが悪いわけではないぞ? 何を納得したのか良くわからんが……、まあ続けるぞ。

       イギリスは食糧確保の為に大型で肉質が良く現地の環境に適応可能なナイルパーチをアフリカ中の淡水に移殖した。
       ヴィクトリア湖もそのひとつだった訳だが、この試みはひとまず成功する。
       食料として、また外貨獲得の輸出材として、更にはゲームフィッシングなどに、とナイルパーチは幅広く利用された。
       その裏で刻々と破滅が広がっていくのを誰も気付かないままにな。

       考えてみろ。2mを越す大魚は何をどれ位食べてその大きさになるんだ? そんな魚に天敵は居るか?
       ましてそれが、殆どの在来魚類が草食傾向の強いものだったヴィクトリア湖に放たれたらどうなるのかと。

       導入から数十年後、湖の様相は一変していた。ナイルパーチの食欲によって固有魚種は200種以上絶滅した。
       また、水草を食べる種の減少によって植物プランクトンが異常発生し酸欠状態が湖各所で常態化。
       つまり負のスパイラルとも言うべき事態で更に生態系の破壊が連続し、湖全体が氏で埋め尽くされてしまった。

       だが植民地時代の終わった現在においてもナイルパーチ養殖は外貨獲得の手段として続けられている。
       湖の名からヴィクトリアパーチなんて呼ばれたりもするこの魚は今尚、名も無い白身魚として先進国で食されてる。

       ヒトの歴史よりも遥かに長い時を刻んだ生態系の完全な崩壊は、既に確定してしまってるのかもしれん。残念だ!」






438: 2012/02/07(火) 21:06:41.41 ID:EdJ+Y5420

打ち止め「…………うーん。話の規模が大きくてなかなかイメージ出来なかったけど、とにかく大変なことになってるんだね」

削板軍覇「それだけ判れば十分だ! そして、これを日本の淡水とブルーギルに当て嵌めて考えられれば更に素晴らしいぞ!」

打ち止め「ふむふむ……、ブルーギルの場合はそこまで大きくならないのがまだマシなのかな……」

削板軍覇「それでも! 天敵の居ない繁殖力の強い外来生物が国内全体に蔓延している状態は決して健康ではないだろ」


打ち止め「うん。さっきのナイルパーチだって他の生き物が居ない汚れた水で育ったら商品価値も減って、結局ダメになるよね」

削板軍覇「だな。コレばかりは根性で解決できる問題ではない。つまり勝ち過ぎはやがて己の身を滅ぼすということなんだ」

打ち止め「なるほどね、とミサカはミサカはようやく回収できた疑問点に安堵の表情を浮かべてみたり」

削板軍覇「とにかく、まともな天敵が居ないというのが逆にコイツらの弱点なんだ。だからだな、ゲームフィッシングで

      『命は大切だから、キャッチアンドリリース』

       なんて言うが、コイツらがホントに好きならば是非とも心を鬼にして天敵の代わりになってやってくれ。
       直接手を掛けることに抵抗あんなら、近くに穴でも掘って埋めてやればいい。あくまでもブルーギルのためにな。
       もちろん一個人の力でどうこうなるような問題じゃねえかもしれねえが、少なくとも何もしないより効果はあるはずだ。
       淡水巻貝のカワニナの一種がコイツらの巣で親に追い払われることなくタマゴを捕食していたって報告もあるが
       その程度でいい。大切に思うなら……カワニナ程度の助力はしてやりたいじゃねえか。そう思わねえか、ミサカワ?」

打ち止め「良い事言ったのに最後で台無しだよ……、とミサカはミサカは一応頷いて賛意を表しつつ不満を述べてみたり」


      ――――――――――――――――――――――

      ――――――――――――

      ―――――


芳川桔梗「お疲れ様……、って本当にお疲れの様ね。脱力具合が半端じゃないわ」

打ち止め「よお裏切り者テメエ今まで何してた、とミサカはミサカはヤサグレ気味にお迎えを感謝してみる」 グター

芳川桔梗「さっきの子は序列第七位の超能力者。元、とは言え研究者の私が許可なく直接面識を得てしまうのは問題なのよ」

打ち止め「もっともらしい言い訳だよね……とミサカはミサカは、さっきのあの人やっぱりレベル5か! と納得してみたり」


芳川桔梗「あら、超能力者に随分と偏見を持っているようね。まあでも、それは偏見では無いのかもしれないのだけれども」

打ち止め「……、と言うと?」


芳川桔梗「こんな与太話があるわ。

       学園都市の超能力開発は元々、自然に産まれてくる能力者を研究することで実現した技術だと。
       環境、教育、思想、その他様々な要因が複雑に重なり合い一般人とは違う脳構造を得たそうした人を
       大昔は奇跡の体現者と呼び、今ではジェムストーンに準えて原石と呼ぶのだそうよ。
       そしてさっきの子、彼はどうやら世界最大の原石と称されているらしいわ。言い換えれば理想モデルね。

       つまりこういうことよ。学園都市の能力開発とは要するに、人工的に彼のような人間を作り上げる技術。
       そして超能力者とはその技術によって目標である原石、つまり彼に最も近づけられた人間。

       これが正しい推論だとしたら……そんな者たち、レベル5がまともであるはずが果たしてあるかしら?」



打ち止め「あ、ありがちな考察だけどなんという説得力……、とミサカはミサカは色々な人を思い浮かべて意味もなく涙してみる」






  ~おしまい~



439: 2012/02/07(火) 21:29:12.97 ID:OUqEodeS0

以上、第三十四回「逆転の発想」でした。考察的なアレはただのトッピングです。あまりマジメに受け取らないように・・・

第1パート、ダツが跳んで来て突き刺さる事故画像にもご注意を
第2パート、ニホンカワウソには一応、昭和初期に捕獲禁止令が出てますが既に手遅れだったようです

第3パート、さすがに飼育禁止の魚をいつもの人が喋って、いつもの人たちが捕まえてくるとダメだろと思って。
      なので以前にカダヤシ話をしてくれた方に任せました。誰なら彼にツッコミ入れられるんだろ・・・
      それと一応注意しておきますがこのパートは当該魚の飼育や保管を促すものでは有りません。あしからず

過去最長になっても内容は薄い、そんな今回はこの辺で。ではではまたー

444: 2012/02/11(土) 10:08:20.81 ID:Stq5WZOJ0

一生懸命に書いたパートって、無駄な脱線が多かったりするおさかな話。頭ヒネるとつまんないことが次々沸くのかな?

今回はそんな、おさかなとはあんまり関係ない脱線? 小ネタ? を形にしてみたっていう。

ようするに番外編です。「みずみずしい話」 穏やかな気持ちで、どうぞ。

445: 2012/02/11(土) 10:10:28.67 ID:Stq5WZOJ0

                                       ☆

白井「最近、初春のお姉様に対する態度……、知り合った当初には憧れの的だったのがウソのように無礼極まりないですの」

佐天「無礼って……。まあ結構人見知りする子だし、仲良くなって段々と本性が出せるようになったんじゃないですか?」

白井「冗談じゃないですの。この辺でビシッと、自分の立場を弁えられるよう指導する必要がありますのよ!」

佐天「立場とか指導とかなんか大仰ですけど……、一体何をやらかすつもりです?」

白井「ええ、そのことで佐天さんにも少々のご助力を願いたく……」





~数日後~


御坂「……それでさ、私はそいつに言ってやったのよ。  『アンタ、他人の鹿尾菜盗るなんて食ひじき張り過ぎよ』 ってね」

初春「うわー、相変わらず御坂さんのギャグって何を目指してるのか全然見えないです。誰も真似できませんねー」

御坂「……そ、そう? あの初春さん、それって褒め……てないわよね?」

初春「大丈夫です。私って、ほんの少しでも面白かったら笑いを堪えることが出来ませんから」 ニコニコ

御坂「つまり欠片も面白くなかったってコトね……。んー、そっかー……」



白井「(あ、あ、あの巧言令色、傲岸不遜! お姉様の優しさに甘えて調子に乗り過ぎですのよ万年花フェスタ!!)」

佐天「(くひじき……食ひじき、食い意地?)」 ヒデェ

白井「(その腐った球根を叩き潰す! ……では佐天さん、先日の打ち合わせ通りにお願いしますの!)」 

佐天「(気が進まないんだけどなあ……、今更言ってもしょうがないけど)」 ラジャー




白井「コホン)ちょっと空気が重いですわね。……話題も途切れたことですし、気分を変えてパーッとした話などありませんの?」

佐天「はいはいっ! じゃあ久しぶりに童心に返ってなぞなぞしませんか? 盛り上がると思うんですよー、いやーマジで!!」




初春「はあっ、佐天さん?? なぞなぞって……」 エー?

白井「ナイスアイデアですわ! 思考の柔軟性を鍛え、出題と解答を通して仲間の絆も深まる。最高ですの!」

御坂「なぞなぞ……、ゴメン。悪いけど私はパスさせて」

佐天「あれー、そうですか? そうなると、あたしは進行だからー……、あれ? 初春と白井さんの一対一になっちゃった!!」



初春「なんなんでしょうこの茶番劇?」





446: 2012/02/11(土) 10:12:42.80 ID:Stq5WZOJ0

白井「おやー、初春? 風紀委員同士の対決と考えればむしろ自然でしょうに、まさか怖気づきましたの?」
   (そう! 本作戦の主眼はお姉様の眼前で、初春をお得意の頭脳戦にて叩きのめすこと)

初春「ふぇ? そういうんじゃありませんけど……」

佐天「じゃあいいじゃんやろうよ! あ、そうだ。せっかくだから御坂さんには審判とか細かい評価とか、お願いします!」
   (御坂さんは以前、初春とのなぞなぞで痛い目を見てるから不参加は想定済み。予定通りのマッチメイクです!)

御坂「はあ……、良くわかんないけどそれくらいなら」



白井「あとは、多少の縛りがあったほうが勝負としては格好がつきますの。ですから出題のテーマなどを……はい、お姉様!」

御坂「えっ? ちょ、何よテーマって? 私?」

佐天「はいはい戴きましたーっ! 私、つまりテーマは『御坂美琴』ですね? それでは問題のシンキングタイムスタート!」
   (白井さんが言うには、初春の増長は心理的御坂美琴像の歪みが全ての原因だと。……いや、サッパリ意味不明だけど)

白井「承知しましたの! ささ、初春も急いで考えなさいな」
   (ふふ、お姉様に関するなぞなぞで初春をギャフンと言わせて深層心理まで矯正して差し上げますの!)










御坂「…………ねえ、初春さん。コレってなんだと思う?」    初春「さあ……、端的に言えば素人の浅はかさですかね?」







447: 2012/02/11(土) 10:15:00.03 ID:Stq5WZOJ0

佐天「そろそろ良いですかー? 思い付いた人から出題してくださーい」

白井「ではわたくしが先手を取らせていただきますの。敢えて初春お得意の暗号問題で参りますわ!」



【白井黒子の問題】


常盤台のエースにして、わたくしだけのお姉様こと御坂美琴。彼女の宝物と言えば当然、白井黒子ですが
それ以外にもうひとつ。瞼の裏に焼きついた大切な何か。さて、それは一体なんですの?


                      [ミ ケ ヒ ロ ミ ミ ヒ ヨ ミ ヒ ン ミ]


ヒントはこの暗号。さあ、答えて御覧なさいな。







佐天「白井さんからの問題、かなりの難問な雰囲気が漂っております!! さあ~、見事に初春は応えて見せるのか!?」

御坂「問題文にいくつかツッコミどころがあったけど……、それはまあ後回しにしておくわね」

白井「なかなか良い出来のなぞなぞだと思いません? わたくしこの日の為にずっと考えて参りましたのよ!!」

佐天「即興のはずなのにそれバラしちゃダメじゃないかなー……。っと、審判がスルーしたのでセーフですかね?」

御坂「今更そんなことに目くじら立てる気は無いわよ。……そんなことには、ね」




佐天「は、はあ。……なんか審判は別に気になることがあるようです。それはともかくこの問題、初春は解けた?」






448: 2012/02/11(土) 10:17:04.07 ID:Stq5WZOJ0

初春「まあ……、一応解答しますけど、最終的には御坂さんにお任せすることになるかなーと」

白井「なんですの? 答えに自信が無いからせめて部分点を貰おうとする出来の悪い学生みたいなマネするつもりですの??」

初春「いえいえ、そう言うんじゃなく……あー、面倒なので答えてから説明します」


【解答】

初春「ヒントの暗号はこのままだと意味不明です。そしてこれを解くにはカギが要ります」

佐天「カギって、でもそれらしいこと問題の中で全然触れられてなかったんじゃない?」

初春「いえ、覚えてませんか? 御坂さんの宝物は、瞼の裏に焼きついてるんですよ」

佐天「さっきの問題文の一節だね。んで?」


初春「瞼の裏に焼きついたものを見るための方法は瞳を閉じることです。それがこの暗号を解くカギというわけです」

佐天「ふむふむ、つまり目を閉じて暗号文を見ろと。って見えないじゃーん」

初春「……、瞳を閉じれば浮かぶその宝物は、暗号の中の『ヒ』と『ミ』の文字を閉じることで解る。つまり答えは『ケロヨン』です」

佐天「な……、なるほどー! 説得力のある解答を戴きましたが白井さん、判定をお願いします!」




白井「……、正解ですの」



佐天「ですよねー。ところで、御坂さんや初春はさっきから何か気になってたみたいでしたけど?」


御坂「……んと。こう言っちゃ黒子に悪いんだけど、コレあまりにも問題の質が低いのよ。簡単すぎるって意味じゃなくてね」

初春「そうですね。まずカギとなる言葉が『瞳を閉じる』だったんですけど、例えば『目を閉じる』でも意味は変わりません」

御坂「つまりカギになる言葉単体でカギであることの証明が不足していて、逆に暗号のほうから擦り寄っていく必要があるの」

初春「目じゃダメだったから瞳で、って感じですね。そんな自ら解かれようとするかのような暗号は暗号として不適当なんです」


御坂「まだあるわ。初春さんは『瞳を閉じる』を『ヒとミを閉じる』、『ヒ』と『ミ』を暗号文から消すって意味に解釈したけども」

初春「そうなんです。別にコレ、『ヒ』と『ト』と『ミ』を消すと考えても日本語として意味が通じてしまいます」

御坂「今回のヒントは偶然どちらの場合でもよかったけど、決して汎用性のある暗号とはいえないわね」

初春「更に『閉じる』を消すと言う意味で使って良いのか? とかヒントの中に同じ文字が繰り返し入りすぎてバレバレだとか…」




佐天「あの、白井さんがそろそろ泣いちゃうのでその辺で勘弁してあげてください」

白井「……何もそこまで言わなくても、わたくしの自信作ですのに。頑張って考えましたのに……」 ズーン

御坂「…………初春さん正解したし、一応なぞなぞは成立してたってことにしてあげるわよ。だからさっさと正気に戻りなさい!」




449: 2012/02/11(土) 10:20:34.81 ID:Stq5WZOJ0

佐天「き、気を取り直していきましょー! じゃあ今度は初春の番だよ!」

白井「そう、そうですの! さあさ、とっとと初春もなぞなぞを出すんですの!」
   (こちらのなぞなぞは……想定外の結果でしたが、初春の問題をアッサリ解いてせめてイーブンにしますの!)



初春「わかりましたよー。じゃあこんななぞなぞ、どうですか?」



【初春飾利の問題】


直径3メートル、外壁の厚さ10センチの継ぎ目ひとつ無い球形のガラス容器があります。中は空洞です。

あ、間違えました。中には隙間なく水が入ってました。
あ、また間違えました。ついでに意識の無い御坂さんも入ってます。

このままでは間もなく御坂さんは溺れてしまいます。なんとかして、この容器を破壊することなく御坂さんを救出してください。






佐天「おぉー? 白井さんの暗号とはまるで雰囲気の違う、なんかトンチ問題みたいな感じだね」

御坂「一体どうやって私は継ぎ目の無い球体の中に閉じ込められたんだろ?」

初春「さあ? でも所詮なぞなぞですから、そんなに難しくならずに簡単に考えてみてください」

佐天「私には答えの糸口さえ掴めてません。果たして初春の言うように気楽に考えることがコツなんでしょうかー?」

御坂「球を破壊することなく……、うーん? 昔の漫画で似たような問題を見たような……」 パピプ?




佐天「ちょちょっとーっ! 御坂さん、パクリ指摘はご遠慮くださーい!!  ……さて、それでは白井さん。解答をどうぞ!」







450: 2012/02/11(土) 10:23:14.61 ID:Stq5WZOJ0

白井「初春……。わたくしの問題の不手際を指摘しておいて、自分の問題に抜け穴があるのには気が付きませんでしたの?」

初春「抜け穴ですか? なんのことでしょう?」

白井「コレだけ言ってまだ気付かないんですのね。……それではわたくしなりの解答を発表させて戴きますの!」



【黒子の解答】


白井「この問題は本来、おそらく佐天さんが仰るような俗に言うトンチを使って解く類のものだと思いますの」

佐天「まあ、だって密閉容器を壊さずに中のものを取り出すなんて不可能ですからね。それで?」

白井「そう、不可能ですわよね。ですがここは学園都市、そしてわたくしはレベル4の能力者。……もうお分かりですわね?」

佐天「なっ……、そうか。問題文のドコにも能力を使えるかどうかについての文言がない。……ってことは」


白井「ええ。小賢しい回り道など考えるまでもなく、わたくしが球体の中に入りお姉様を連れて脱出してしまえば終了ですの」

佐天「おおおーーーっ! ちょっと反則気味な気もするけど、確かに容器を壊さずに目的を果たせますね!」

白井「しつこいですが初春が別の答えを用意していたとしても、それはわたくしの解答を否定する根拠にはなりませんの」

佐天「さあ、これはどうなんだ? イレギュラーな解答なのでジャッジがさっきより重要っぽいぞー! では判定は如何に!?」






御坂「…………これは、黒子の負けね。そうでしょ初春さん?」

初春「ですね。それでは正解には成り得ませんよ」





白井「なっ、何でですの? お姉様まで一緒になって、空間移動を使ってはいけないと明言しなかった以上は…」

御坂「落ち着いて黒子。そうじゃない、そうじゃないのよ。初春さんの解説をとりあえず聞いてみて」

佐天「白井さんの解答は纏めると 『容器内部にテレポートした後、御坂さんとテレポートで脱出』だよね。どこがいけないの?」

初春「問題文をよく読めば分りますが、御坂さんを外に出すことが目的ではありません。救出しないといけないんです」


御坂「そう、救出する。つまり助け出すってことが黒子の答えには欠けていたのよ……」

白井「……、は?」

初春「ご自身で良く理解しているでしょうけど、白井さんのテレポートは移動先の物体を押しのけて出現します」

御坂「それは紙切れ一枚でコンクリートの柱を切断するほどの、いわば究極の内圧ってところかしら」


初春「今回の場合、水で満たされた容器の中に白井さんが出現すると、白井さん一人分の水が強引に押しのけられます」

御坂「だけど相手は密閉容器。そして水は空気と違って圧縮率がとても小さなもの。水が縮む様子なんて見たことある?」

初春「球体に満たされた水に対して白井さんの体積は0.3%ってとこですか。それだけ水を圧縮するとなると……」

御坂「容器内には瞬間的に高水圧が満遍なく発生。でも、容器が破損するレベルまでは行かないと思う」 100キアツ クライ?

初春「なぜって、外壁より脆く水より圧縮しやすいモノが容器内にあるから……。それがどう変化するか、説明要ります?」 ニコッ




451: 2012/02/11(土) 10:26:45.34 ID:Stq5WZOJ0

白井「あ゛っ!…………ぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」




初春「まあそういうわけでして、白井さんの方法では御坂さんを助けることは出来ないんです。具体的にどうなるかというと…」

佐天「初春っ! それ以上は言わないであげて……、白井さんが戻ってこれなくなっちゃう!!」

白井「おねっ……おねえさ、まあ゛あ゛あ゛。 くろこは、くろこは取り返しの付かないことをおおおおおお、お゛おおおお」

御坂「大丈夫、大丈夫だから、ねっ? ほら、私は何とも無いでしょ? どこも潰れてないし元気だから安心しなさい」 ヨシヨシ



佐天「しかし初春……、アンタえげつない問題出すよね。……で、ちなみに答えはなんだったの?」

御坂「オーヨシヨシ、ホラ ナクナー   ……、初春さんのことだから答えはあるのよね。もう決着も付いたことだし教えてくれる?」

白井「ワタクシ……、ホネエサバ……ツブツブツブ…………」   

初春「いいですよ。では答え合わせです」



【解答】


初春「難しく考える必要はない、的なヒントを出しておいたのでみんなわかると思ったんですけどねー」

御坂「あれ? それってヒントだったの?」

佐天「ん~~~~~、ダメだよ全然わかんない。焦らしてないでさ、パパッと答えを教えてよ!」




初春「はいはーい。正解はですね 『何らかの方法で速やかに、ガラス球を破壊してでも急いで御坂さんを助ける』 です!」


                    『「…………、えっ?」』


佐天「ちょっと待ちなよ初春! アンタのなぞなぞって容器を壊しちゃいけないってのが条件だったでしょ?」

白井「ブツブツブツブツ…………」

御坂「まさかそう来るとは………………、佐天さん違うのよ。初春さんが言いたいのはそういうことじゃない」

初春「さすが御坂さん、主人公タイプだけあって理解が早いですね。そう、この問題のポイントは『一番大事なものは何か』です」


佐天「…………、ほ?」

初春「だから、『問題』は何をしたら失格とかじゃなくて、御坂さんは絶対守らなくてはいけない。そんな『簡単なこと』なんですよ」

御坂「ルールを守っていたら命が奪われてしまうかもしれない状況で、ルールなんかに縛られてはいけない、ってこと……」

初春「助けられる方法があるのなら是非を問わず行うべき。これを否定すると色んな人を敵に回しますよ?」

御坂「確かに似たようなことしょっちゅう言ってるヤツ知ってるけど……、アレをインチキ呼ばわりすることになるわけね」 



佐天「――――そしてこの日を最後に、白井さんも初春となぞなぞすることは無かったそうな。めでたくなしめでたくなし」 






452: 2012/02/11(土) 10:31:24.96 ID:Stq5WZOJ0

                                    ☆

番外個体「バカだねー、やっぱアレかい? 体がチビッこいと想像力もミニサイズなのかい?」

打ち止め「ほほぉー、ミサカをバカにするとはいい度胸って……でもそれって結局妹達全体をバカにしたわけだからつまり」

番外個体「そりゃこのミサカだって同じだけどさー、なんてーの? 個体ごとの個性的なアレがコレしてさ、チビ的なんじゃね?と」

打ち止め「なんだかわかったようなわかんないような説明の中にチビだけ明確に浮き出てる!!」



                        ギャー  ギャー  ワー   ギャーー   ドヒー





一方通行「ンだァありゃ?」

芳川桔梗「あら居たの……。あれは、ちょっとした論争のこじれに端を発するいざこざってところかしらね」

一方通行「論争ねェ? ……ンでオマエは何してンだ、止めねェのかよ?」

芳川桔梗「あのふたりに質問されたことを考えてる途中なのよ。答えが出たなら止められるんでしょうけども」


一方通行「その論争とかいうモンの原因か……。聞かせてみろ」

芳川桔梗「君が? いえ……、これはそもそも君だからこそ答えが出せる問題だったわね。いいわ、聞きなさい」



芳川桔梗「あの子たちはさっきまで、いつものように君がヒドい目に遭う小説を書いていたらしいのよ。
       今回の舞台は川。この間、私の武勇伝を話したでしょう? アレに触発されたようね。
       それであの子たちが言い争ってるのは、君と川のツルツル石が対戦したらどうなるかということなの。

       想像してみて? 君は小川を……、靴底を濡らす程度の水深しかない川なので歩いて渡ろうとした。
       そして当然のごとく、表面にびっしりとコケを生やしたツルツル石の上に足が乗る。
       常人ならばズルッといくわよね? でも君は一方通行だった。だからこそ悲劇が起こった。

       君はベクトル変換能力によって自分が倒れこむベクトルを反射……、でもこのベクトルを産み出したのって君よね?
       コレを反射するというのは自分が歩こうと脚を踏み出す運動ベクトルを反射するようなものであって、つまり……

       まあ、ソコはひとまず考えないことにして君のズッコケベクトルは石ころに与えることにする。でもまだ問題があるの。

       ズッコケベクトルを与えられたツルツル石は川の中でズルッと動こうとするんだけれども、石の上には君が居る。
       石がズルッとなったら、再び君はズッコケてしまわないかしら? だから更にそれを反射するとなると……。

       最終信号は『石ころもあの人も微動だに出来ずにずっと永遠にそのまま』派で
       番外個体は『石ころが足の下でグルグル回っている上で、干からびて氏ね』派なのよ。

       さてどちらかが正解、若しくは正しい答えが別にあるのか。君の考えを聞かせてもらえるかしら?」



一方通行「ンなモン知るか!!」








453: 2012/02/11(土) 10:37:34.57 ID:Stq5WZOJ0

                                            ☆

絹旗「ちょっ、水槽が超濁ってるじゃないですか! これは浜面の管理が超適当である証拠ですよね、ええそうですとも」

浜面「待て待て待てい! 俺に制裁を加えるより先に、自分が数分前に何をしたか思い出してみろ!!」

絹旗「数分前って……、アレですか? ネット通販で買った底砂を水槽に超入れましたけど」 ソレガナニカ?

浜面「覚えてねえのかよ……。包装袋の裏に『使用前に洗え』って書いてあんのにメンドウだってそのまま投入したろ?」


絹旗「あー、でしたでした。するとこの濁りは……」

浜面「こういう砂ってのは袋の中で擦れて細かい粒子が沢山出来てんの。だから洗わず入れんのは泥を入れるのと同じなの!」

絹旗「へー、ほー」

浜面「聞く気ゼロですかそうですか……。大体それもこれも、こんな巨大な水槽を買うからいけないんじゃねえか?」


絹旗「言うほど超巨大ってことも無いと思いますけどね? そりゃ以前の60よりは大きいですけど」 ヨコハバ 60センチ

浜面「150だぞ150! 60から150ってどんだけジャンプアップなんだよ!? 界王拳でも使ったのかっての!」

絹旗「大げさなんですよ浜面は。容量で言ったら60リットルが300リットルになっただけじゃないですか」

浜面「300リットルってそれもう一般人には風呂と変わんねえんだよ! ったく、未だに金銭感覚がフザケてんなあ」 10マン クライ?


滝壺「でもこれ、ほとんど麦野がお金出したんだよ? 皆の水槽だから大きいサイズのほうが良いって」 ゼンブデ 40マン ダッテ

絹旗「そんな麦野の優しい気持ちを……、フザケてるとか占いババとか超言っちゃう浜面ってどうなんでしょう?」

浜面「言ってないからね! 俺は界王拳とは確かに言ったけども麦野はババアとか言ってな…」

麦野「ほう」


浜面「よ、よよよよよ、よお麦野。来てたのかー。そーかー、だが違うぞー? 俺は決してだなー、つまりだなー……」 ガクガク

麦野「なーにテンパってんのよ、みっともない。それより水槽は? 絹旗のアーマードプレコ部隊はどうなったの?」

滝壺「まだ移動して無いよ。こっちの水槽はまだ試運転中だし、濁っちゃってるし、レイアウトだって考えてないから」

絹旗「なにせこのサイズだと水を用意するだけでも一苦労ですから。なかなかすんなり行かないんです」


麦野「ふーん? でもアレだね。こうして部屋の中に納まってみると、然程大きくないね……。ちょっと残念」 ハァ

滝壺「……やっぱり麦野は以前に話してた計画を諦めてないの?」

絹旗「ん? なんです、その計画って?」

浜面「俺も聞いてねえな。……ひょっとしてもっとデカイ水槽、例えば180とか買うつもりだったのか?」 1t デスヨ?


麦野「私の計画ってんだから決まってるでしょ? シロザケの一生をひとつの水槽で観察したいなって思ったのよ」

滝壺「学園都市の外周に水槽を張り巡らせて淡水ゾーンから汽水、海水って区切れば回遊も出来るかもって言うから」 ムリダヨ

絹旗「夢はありますけど……。要はアクリルのフラフープの中を超シャケが廻るってことですよね?」

浜面「水圧とか水換えとかそんなチャチな問題じゃねえ……。ただ、それ作るより北海道でも買収したほうが早いよな」 ヤスイシ




  ~おしまい~





454: 2012/02/11(土) 10:53:50.76 ID:Stq5WZOJ0

以上、番外編「みずみずしい話」でした。小ネタなのに膨らみすぎた・・・

最初のなぞなぞパート、初春の問題は黒子であればテレポートを別の使い方するべきだったのでしょう。

第一位vs石ころ、……ズッコケベクトルって語感が気に入っちゃって、それだけなのです。ごめんなさい。

最後のフラフープ水槽、建設費の計算なんて当然してません、っていうか出来ません。あしからず


てなワケで、随分とおバカな感じの番外編でしたが・・・次はちゃんとします! ではではまたー


460: 2012/02/17(金) 22:34:00.17 ID:5K4tTapM0

前回の番外編、なぞなぞはもう少し考察が必要だったかな・・・と後から思ったり。元ネタがこんなにあっさり指摘されたのも予想外だし。

座標移動については、水ごと美琴を閉じ込める方法は水中の美琴を囲む形で容器を出現させる外なく、
初春の知る限りそれが可能な能力者は結標だけ。つまり犯人なので救出に協力しない。
そんな論理を用意してたんだけど、なんとなくガラス容器の重量を計算してみたら7t弱とか変な数字が・・・。
そんなわけで、みんな座標移動の可能性にはたまたま気付かなかった。そういうことにしてくださいませ。

それと初春のキャラはご指摘どおりで、全編通してどの顔が出るか油断のならない子って感じのつもりなのですが
こんなの初春じゃない!! ブレんな!! と思われた方がいらっしゃいましたら申し訳ないですが、特に変更する気もないのでご容赦ください。


そんな余計なことばかり思いつくおさかな話。最近、注意してないとダジャレとこじ付けと皮肉が増量してしまいます。

今回のテーマはそんな気持ちを籠めて「反撃」です。言ってるそばから問題が多いんですが、宜しければどうぞ

461: 2012/02/17(金) 22:36:39.08 ID:5K4tTapM0

                                          ☆

「なあインデックス? 姫神が来てるけど特に用事があったワケじゃないみたいだし、慌てて戻ってくる必要はないからな」

 『とうま? それは了解だけどふたりのおさかな話も聞きたいんだよ! だからデンワーはそのままにしといて欲しいかもー』

「わかったよ。だけどお前そろそろ帰りのバスに乗るんだろ? マナーだから乗る前にはちゃんと切っとけよ?」

 『あ、当たり前なんだよ! だってとうま前に言ってたよね。学園都市では人ごみでの通話はカンツーザイで氏刑だ、って…』




「――― ってことで悪いな姫神。せっかく遊びに来てくれたけどアイツまだバス停だから、帰りは1時間後くらいだと思う」

「全然構わない。むしろ私は。この千載一遇の好機を生かすのみ」

「……、ん? なんか知らんがスゴイやる気だな」

「当然。苦節数ヶ月にしてとうとう訪れた私の桧舞台」

「よーし、んじゃ上条さんと姫神のおさかな話、はじめようぜ!」

「望むところ。今日までの鬱憤を。一気に晴らさせて欲しい」









                                    【中略】













「へ~、意外というかピッタリというか。同じコイ目の仲間でも姫神はドジョウよりはそっち系が好みなんだな」

「うん。……それはともかく。今ちょっと納得行かない展開が。あった気がした」

「そうか? まあ上条さんの司会っぷりはインデックス仕込みだから、英国風のクセが少々クドいかもしれないけど」

「いやそんなことじゃなく…」
                <トウマ トウマ トウマーーーーーーーーー!

「っと、ちょっとゴメンな。……なんだよインデックス? そんな大声出さなくても聞こえるって」

 『だってさっきから呼んでるのに全然答えてくれないんだもん! せっかくあいさの話に補足してあげようと思ったのに』

「あーそっか、そりゃ悪かったな。んじゃ、お前さえ良ければ今からでもお願いしていいか?」

 『わ、わかれば良いんだよ。ふたりのお話の最初のほうから振り返っていくからしっかり聞いておいて欲しいかも』





「こういうテンプレな流れ。嫌いじゃない。嫌いじゃないけど」







462: 2012/02/17(金) 22:37:57.82 ID:5K4tTapM0

 『まず第一に、あいさが好きな魚として挙げた3種は全てコイ目コイ科カマツカ亜科に属するんだよ』

「ふ~ん。じゃあ、あの中の代表的な種がカマツカって事になんのか?」

 『分類ってそういうことじゃないかも。でもまあ、確かに一番馴染み深いおさかなかもね』

「これまでも名前だけは何度か出てきたもんな。ここらでおさらいも兼ねてちょっと勉強しておくか」

 『いい心掛けかも。ではでは謎の超有名魚、カマツカの正体を探っていこー!』

「超有名なのに。正体は謎。カマツカの真実に迫る。……そんな大袈裟な話?」


「あまり寒く無い地方の河川の中流~下流の水底、それも砂地に居ることの多い底棲淡水魚……ってことは常識なんだけど」

 『腸呼吸が得意なのか止水にも居るんだよ。おさかなを飼ってる人には底の掃除屋さんってイメージかも』

「下向きの口を伸縮して、砂を吸い込んではエサになるものを選り分けて食べる性質があるからな」

 『その砂をエラ蓋から吐き出す様子はホント古い掃除機ソックリなんだよね』 ポンコツ ナ カンジ

                                                    「…………キレイ好きと。言うべき」


「見た目は……、ブチの細かい三毛猫的なメタリックざっくりポテトフライって感じだよな?」

 『それ、あいさにも言ってたけど全然伝わってないかも。細長く角ばった体型の金属光沢を持つ斑模様の小魚って事だよね?』

「せっかくカッコ良く表現してみたのに……。だが、少女マンガも真っ青の輪郭さえ超越した大きな目。これは譲れないぞ!」

 『そっちは確かに分りやすいかも。顔の上部に半ば強引って感じで配置されてて、とってもブサカワイイんだよ』

                                                           「…………ブサは余計」


「可愛いと言うよりウマヅラ一歩手前と言うか行き過ぎっつーか。……で、そんな魚は日本の川じゃ目立つはずなんだけどな」

「でも川に行っても。素人には見つけられない。なぜな…」

 『なぜならカマツカは臆病な魚で、人が近づいてくるような物音に敏感に反応してすぐ砂に潜っちゃうからね』 ビビリ ダネ

「大きな目が顔の上部に付いてんのは、砂に潜りつつも周りを確認せずに居られない小心者の証ってワケだ」

                                                                  「…………」


 『だけど、カマツカをよく知ってる人には却ってそれが目印になっちゃうんだよ。頭隠して尻隠さず……、逆かも?』

「ああ。晴れた日に川底を覗くと、砂地の中でカマツカの頭が日光を反射して金色に輝いて見えるんだってな」

「そう。つまり万人受けではなく。判る人だけが判る強烈な個性。そんなところが私は好…」

 『一般には他の魚を探してたらいつの間にか砂と一緒に網に入ってる変な魚って感じかな? 月並みな言い方だと雑魚かも』


                                   ぷちんっ






                                        カサネガサネ ジャマシタ アゲク …………… ヘン ナ ザコ ?







463: 2012/02/17(金) 22:40:11.91 ID:5K4tTapM0

「…………」 フム

「んー? そんな難しい顔してどうした姫神? インデックスに質問があるなら早めに聞いとけよ、そろそろバスの時間だし」

「……じゃあ質問。とてもよく似ているズナガニゴイとカマツカ。素人でも見分けられるポイントを教えて欲しいって。上条くんが」

「…………、へっ?」 オレ?

 『わわ、言ってるそばからだんだん人が集まってきたかも。えーと、ズナガニゴイは中層に居てカマツカは底棲なんだよー』


「それだと生息環境中でしか比較出来ない。知りたいのは。動かなくなった魚が一匹だけ居る場合でも判別出来る方法」

 『も、もうデンワーを切らないとダメなのに! ……じゃあ、そのおさかなの尻ビレと排出腔の位置関係を見ればー』

「難しい表現は避けて欲しい。上条くんは具体的に何をすれば見分けられるか尋ねているから。あと。声がちいさい」

「あの……、姫神さん? 俺は別に何も……」






 『だーかーらー! ひっくり返して肛門、お尻の穴がどこに付いてるか見て欲しいんだよーーーー!!!』 
                                                               ピッ

       





「おい……。ひょっとしなくても、いつものあの服装で、人が集まってるバス停で、今のセリフを叫んだってのか???」

「目立つ子だから。もっと目立つようにしてあげた。それだけ」

「インデックスに何の恨みが……。いや、とばっちりで上条さんもオシオキ確定ですよねコレ……」 フコウ ダ








464: 2012/02/17(金) 22:41:31.91 ID:5K4tTapM0

                                     ☆

初春「御坂さーん、最近177支部で白井さんが何かと私に厳しいんです。なんとかしてくださいよ~」

佐天「そりゃあんた……。こないだのなぞなぞ、やり過ぎたんだから自業自得だよ。当分は覚悟しとくんだね」

白井「人聞きの悪い。わたくし、私怨で他人に辛く当たるような小さな器ではないですの。そもそも初春の日頃の態度が…」

御坂「まあまあ、その辺にしときなさいよ。私だって端から見てて、確かに黒子ちょっとキツいんじゃないかなって思うもの」


白井「んまーっ! お姉様までそのように初春の肩を持ちますの? これは差別ですの、抑圧ですの、言葉狩りですの!!」

御坂「いや良くわかんないけどそう言うんじゃなくてさ、この間のアレってアンタが何か企んだのが発端だったんでしょ?」

白井「で、ですからっ! 先日の件がどうこうという問題ではなく…」

佐天「成り行きで私も乗っかっちゃってましたけど……。暴走する白井さんを止めてあげられずに、ホントすいませんでした。
    御坂さんに生意気な態度を取る初春をなぞなぞで打ち負かして矯正するって、今思えば謎だらけな計画だったのに……」

初春「私も、決して御坂さんを軽んじてなんかいないですけど、でもそう見えるんだなってちょっとだけ反省しました……」





白井「っ…………」

御坂「ほらね。時には厳しさも必要だけどさ、他人を許して認め合う事を通しても人は成長できるものでしょ?」




白井「……、ズルイですわよ。これではまるでわたくしが悪者ではないですの」 ブスー

佐天「えーと、いや……、そんなつもりじゃないんだけどなあ」

御坂「なによ、意地張っちゃって。黒子がスネたってかわいくないわよ?」

白井「可愛くなくて結構ですのですのっ!」

佐天「ちょっ、御坂さんも口下手過ぎですよ。余計に拗らせてどうするんですか…………」 アチャー

御坂「だってコイツが…」

白井「ですのですのっ!」





初春「…………、あのっ!」 ガタッ



465: 2012/02/17(金) 22:42:46.65 ID:5K4tTapM0

白井「……初春?」



初春「私が間違ってました! 白井さんの厳しさは未熟な私を気遣う優しさだったのに、そんなことも理解できずに不満ばかり」

白井「へ? あ、いや……その」

初春「だからお願いします、これからも変わらずビシビシ指導してくださ…」

白井「お、おまっ……お待ちなさい、お待ちなさいな初春! それ以上ふざけた事を言うと許しませんわよ?」


初春「白井さん……?」

白井「わたくしごときが本気であなたを指導、など出来ると思っているなら買いかぶりも甚だしいですの」

初春「…………」

白井「ええ、わたくしだって未熟な半人前ですのよ。あなたがそうであるように日々間違えながら成長してる途上ですの」


初春「白井さん……。だ、だったら……、だったらこれからも私と一緒に一人前を目指して頑張ってくれますか?」

白井「それでしたらもちろん喜んで……いえ、こちらこそお願いしますの。掛け替えの無いパートナーとして」

初春「あ、ありがとうございます! そして、あらためて宜しくお願いします!!」

白井「ですのですのー」





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




御坂「~ってな感じの仲直りを想像してたんだけどさ」

佐天「なんかもう普通にいつも通りですよね。ドラマチックな展開とか特に無かったんですか?」

初春「さすがに次の日はピリピリしちゃいましたけど、なにせ風紀委員って忙しいですからね」

白井「負の感情を引き摺るヒマなんか無いのですの。まあ、日常を必氏で生きてる者の人間関係は概ね良好って事ですわね」


佐天「……それ、なぞなぞで初春ギャフン作戦なんて企んでなきゃ結構説得力のある言葉でしたけどね」

白井「『企んで』とは心外ですの。あれは優しいお姉様に成り代わり……、言うなれば托卵(たくらん)みたいなものでしたのに」

御坂「う……、上手いコト言って私にまで責任擦り付けないでよ! それにアンタが托卵とか言うと理解不能の寒気がするわ!」

初春「……上手いかな? ……えーっと、その常盤台レベルの駄洒落はともかくとして白井さんは何が言いたいんですか?」






白井「初春、後で全裸プール。……托卵とはキモいタマゴ……ではなく、自分の産んだ卵の世話を他のものに託す行為ですの」






466: 2012/02/17(金) 22:44:33.76 ID:5K4tTapM0

佐天「それってカッコウって鳥で有名なヤツですよね? 別の鳥の巣に卵を産んでその親鳥にヒナを育ててもらうって」

初春「あの……、プールは冗談ですよね……、ね? 白井さんはそのカッコウみたいな惨いことしませんよね??」 ヒィィ

佐天「へっ、何でムゴいの? カッコウは結局子育てを手抜きするんだから、どっちかって言うとズルい話なんじゃない?」

御坂「物の見方にもよるけど、托卵はそんな甘いものじゃないわよ。まぎれもない生存競争なんだから」


白井「例を挙げますの。カッコウが狙うのは早贄でお馴染みのモズなどの巣。親鳥の留守を見計らい産卵しますのよ」

御坂「巣には当然モズの卵がいくつかあるんだけどカッコウはひとつだけ卵を産んだ後、モズの卵をひとつ捨てるの」

初春「帰ってきた親鳥にバレないための数合わせ工作ですかね? どっちの鳥も卵の見た目は割と似ていますし」

佐天「入れ替わりの犠牲になっちゃうんだね……。でも確かに可哀相だけど、たくさんあるうちの一個だからまだ救いが…」


白井「そんな甘い話では無いと言ってるんですの。カッコウがひとつしか卵を産まない理由を想像して御覧なさい」

初春「体の構造的な制約は置いといて、カッコウのヒナは単独で育雛されるよう行動する性質があります」

御坂「つまりカッコウの卵が2つあると、孵ったヒナ同士がお互いを巣から追い出そうとしちゃうのよ。どちらかが氏ぬまでね」

佐天「ああ、だから無駄な争いを避けるために一個ずつ産み落と……、ってじゃあモズの卵はどうなっちゃうんですか?」


御坂「カッコウは他の鳥と比較して孵化が早い。だからそのヒナは邪魔されることすらなく他の全ての卵をポイしてしまうの」

白井「最終的にモズの巣の中には、自分の子供を皆頃しにした他人の子だけが残ることになりますわね」

初春「親モズはそれに気付くこともなく、時には自分よりも大きくなるヒナにせっせとエサを運び続けるんです」

佐天「で、ある日突然ソイツは勝手に巣立ってっちゃうのか……。うん、これはとことんムゴい話だったわ」


白井「鳥だけではありませんのよ? おさかなにも托卵をする種が居りますの」

御坂「口の中で大量の稚魚を、こう『ワッサー!』って感じで保護する魚って時々テレビとかで見かけない? アレを狙うのよ」

初春「ある種のナマズの仲間はそうしたマウスブリーダーの卵に自分の卵を紛れさせて保護してもらうんだそうですよ」

御坂「まあ、予想は付くと思うけど……。そのナマズの稚魚は保護されながら周りの卵や稚魚を食べて成長するんだけどね」


佐天「なあああっ! 悪気無いのは分ってますけどあんまりじゃないですか!! 大体、親は托卵対策しないんですか!?」

御坂「いや、実は異物として排除される方が圧倒的に多いのよ。それと、カッコウで言えば一個ずつしか卵を産めないでしょ?」

白井「ですからカッコウはダメ元でたくさんの鳥の巣に産卵するんですの。しかもそれぞれ別のオスとの卵を」

初春「悲劇はその全ての巣で起こるのではなくて、注意力の低い親鳥だったとか極めて短期で孵化することが出来たとか
    そんな偶然の産物なんですよ。逆にカッコウにとっては蜘蛛の糸みたいな奇跡に縋って種を繋いでいるわけで…」

佐天「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる方式なのかあ。それじゃますます誰も責められないじゃない……」


初春「……それが自然の成り行きですから。産まれる事も出来ずに氏んでいった卵は文句なしに被害者なんでしょうけど」

佐天「他者に自分の卵を託す、それと気付かず育ててしまう、他の卵やヒナを排除して恩恵を独り占めする……」

御坂「そっちは程度の差こそあれ加害者と言えば加害者なのかもしれない。けど……、文句言ってもそういう世界なのよ」

白井「同様に、お姉様の意を汲み初春を糾そうとしたわたくしの行為も皆さんに批難される謂れは……、ぎょぼええええっ!」




御坂「アンタのやったのは托卵じゃなくてむしろ盗卵でしょうが! っていうかそれ全然私の卵じゃないし!!」 ビリビリビリ

佐天「いや~……、ホントにいつも通り過ぎて安心しちゃいますね、アハハ」







467: 2012/02/17(金) 22:45:53.73 ID:5K4tTapM0

                                      ☆

打ち止め「さがれさがれさがれー、さがりおろー、ってミサカはミサカは依然マイブームな時代劇ソングに染まってみたり」

一方通行「…………」

打ち止め「ちゃんばーらー、ちゃんばーらー」

一方通行「……、オマエの言ってンのは俺の知ってる時代劇じゃねェな。ったく、ンな知識ドコで仕入れやがった?」


打ち止め「さあ、学習装置に入ってたんじゃないかな?ってミサカはミサカは生まれる前から知っていた事実を表明する」

一方通行「ならその機械を監修したヤツがオカシイのか……。ったく一体ドコのバカ学者なンだか」

打ち止め「誰が、なんてどうでもよくない? 事実ミサカはこの歌を知ってるんだからってミサカはミサカは意見してみたり」

一方通行「……覚えとけ。ソレを言って許されンは自分の仕事を横取りされたヤツだけだ」


打ち止め「…………、ん? 会話の繋がりがおかしかったような……、とミサカはミサカはあなたのセリフを反芻してみる」

一方通行「深読みの必要はねェよ。只の一般論だ」

打ち止め「ふーん?」

一方通行「…………」


打ち止め「……ひょっとしてなんだけど、『横取りな魚』ってテーマで予習してきたからミサカを誘導したかったの?」

一方通行「くだらねェ。なンでオマエ程度の相手にこの俺が参考書片手にお勉強しなきゃなンねェンだっつーの」

打ち止め「それもそうだよね、とミサカはミサカは……、でもおさかなに横取りってありえるのかな?などと蒸し返してみる」

一方通行「所有って考えが無けりゃ端から横取りもない。だが、ヒトが認識する分についてはその限りじゃねェ」


打ち止め「それ捕まえたのあの子なのに、どうして後から来たお前が……って感じ?とミサカはミサカは漠然と例示してみたり」

一方通行「横取りに見えンだろ? 実際の所、多くの動物は自分が今食ってるエサさえ自分のモンだと思ってねェが」

打ち止め「じゃあワンちゃんのご飯皿を動かそうとすると吠えるのって、厳密には盗られると思って怒ってるんじゃないのかな?」

一方通行「だろォな。換言するとヤツらの目の前にあンのは好機に過ぎず、故に狩りと同じ緊張感を持ってるって事だ」


打ち止め「なるほどね……さっぱりわかんない、とミサカはミサカはイヌの気持ちに通じてるあなたにビックリしてみる」

一方通行「勘違いすンな。イヌの心理が判るンじゃなく、あくまで行動を観察して類推してるだけだ」

打ち止め「ほー……? いやいやまずまずなかなかぼちぼち……」

一方通行「まァ、理屈並べた所でクソ程の価値もねェよな。……そォだな、今日はウツボの話でもしとくか」



打ち止め「え?? このあまりに唐突な流れにミサカは置いてけぼりな気分ってミサカはミサカは現状報告してみたり」

一方通行「単純にウツボネタと捉えて構わねェ。蛇の外見に獣の牙を持つ魚属性の怪物……、海のギャングの噂話だ」





468: 2012/02/17(金) 22:56:47.38 ID:5K4tTapM0

一方通行「ウツボは世間的には海水浴なンぞで注意が必要な生物、って程度の認識に過ぎないかもしれねェが
       実はかなり面白ェ魚でなァ……。とりあえず基本情報を確認しておく。

       温暖な浅い海に棲む、ウナギ目の特徴である円筒形の体型と強い肉食傾向の食性が顕著な大型種の多い魚で
       中には体長4mを超すオナガウツボなンて巨大な仲間も居るが、日本のイメージではせいぜい1m程度か?

       腹ビレは完全に退化し背中側のヒレは全て一体化しちまってる。またウロコも殆ど退化してる。
       そンなのっぺりとした、っつーの? アクセントとなる部分を欠くことで逆にインパクトを与えられる造形だな。
       体色は種によって様々で、温暖な海の魚らしく驚くほどカラフルなものも多い。
       鋭い牙を持つデカイ口にさえ気を付けりゃ、充分見て楽しめる身近な海の生物のひとつじゃねェかと思う」


打ち止め「でもやっぱりキモコワなイメージの方が強いよ?とミサカはミサカはウツボの鑑賞適正に疑問符をつけてみたり」

一方通行「そりゃ実際噛まれて大怪我するヤツが居るからな。変にウツボを刺激するからなンだが」

打ち止め「刺激って、脚で殴ったり引き千切ったり逆流させたり?ってミサカはミサカは想像を膨らませてみる」

一方通行「……、ウツボは獲物を追いかけるよりも隠れ家でエサが寄ってくるのをじっと待つタイプの捕食者だ」

打ち止め「ふむふむ。つまり目の前をチラチラされたら色々とジャマなのね。……噛み付きたくなる気持ちもわかるような」

一方通行「ソレも含め海のギャングって異名に不足無し、かどォか……。とりあえず話を続けるから良く聞いとけ」


一方通行「ウツボの仲間は共通して咽頭顎っつー……、表現が難しいンだが、口を大きく開けると飛び出す第二の口、
       つまりエサを体内に引き摺り込む為の器官を持つ。SF怪獣なンかの喉の奥から伸びる口を想像すりゃ近いか?
       ンな事聞くとますます恐怖生物っぽく感じるかも知れねェが、コレには割と情けない必要性がある。

       魚類は一般に、口を開けたときに発生する陰圧を利用した吸い込みによってエサを喉奥まで運ぶンだが
       ウツボ類の場合、そのデカイ口と細い胴体の所為で吸引力が弱い。ヘッドを外した小型掃除機みたいなモンだ。
       ヤガラのよォに口まで細くすりゃ圧は稼げるがソレだとエサの大きさが制限される。かと言ってボディを大型化すると
       今度は岩場や砂地に身を隠す事が困難になり結果として積極的な狩りをしなくては生きていけなくなる。

       咽頭顎は大きなエサも喰いたいが余り動きたくもない、そンなワガママを叶えるステキ器官って事だな」


打ち止め「ほほー……。なんだかズボラに進化してきた子なのね、とミサカはミサカはテキトーなことを言ってみる」

一方通行「敢えて言及する必要はねェと思うが、進化に意思は介在しない。飽くまでも例え話として捉えとけよ?」

打ち止め「ある部分が偶然役に立って生き残った。そんな『たまたま』の集大成ってことだよね」

一方通行「あァ…………、ソレを自主的な選択であるかのよォに説明すンのは単純に解り易いからだ。話も短くて済むしな」

打ち止め「だから逐一自分で翻訳しながら聞けって事?とミサカはミサカは暗にそれも面倒だよと愚痴ってみたり」

一方通行「まァな……、ソコまで踏まえて本題に入る。ウツボの不思議な生態から何かを掴ンでみろ」


一方通行「さっき説明したよォに、ウツボはデカイ口を持つ肉食傾向の高い魚で他の生物にとっては恐るべき存在のはず。
       だが、ヤツらの周りには生息域の平均以上に小動物が溢れていることが多い。ある種のエビ類や小魚などが
       明らかにウツボの巣に近寄って生活してンだよ。……最強の怪物の傍なンざ気紛れでエサにされても文句ひとつ
       言えねェだろォにオカシイとは思わねェか? 当然、集まってくる小魚はマズイとか毒があるとかそォいう事でも無い。
       実際、時折喰われてるしな。……さて、不自然な現象にも合理的な理由を求めたくなンのが人情だ。

       観察すりゃ判るが小動物どもが集まってくる目的のひとつはウツボの体表や口中に残る有機物。要はウツボ自身が
       エサの塊ってトコだな。小動物の小さな口でも食べられるサイズに分解されたエサが集中的に存在してるってのは
       ヤツらには貴重な事で、多少の危険を冒してでも留まる価値のある場所って事なンだろォ。
       ウツボにとってはそォした小動物の啄ばみが掃除として機能してると解釈可能だ。汚れの放置は病気の素だしな。
       だから、小魚どもは食べちまっても構わねェがほっといても悪くない存在、などと捉えられてンのかも知れねェ。

       更に観察から推測するに、ウツボの近くに棲息する小動物はウツボによって他の捕食者から逃れてると言える。
       なにせ浅い海では無敵の暴君だからな。誰に狙われるか判らない海域で下手にビクビクするよりマシなンだろ。
       またウツボにとってはそンな捕食者さえもエサだ。それにどォせ喰うならチビより大物のが良いのは当然だろ?
       小動物を狙った迂闊なタコなンかが待ってるだけで来る状態、つまりウツボは撒き餌を侍らしてるも同然って事だ。

       このよォに異なる生物が関係を持ちながら生息場所を同じくし、ソレが双方にとって得なら相利共生と言う。覚えとけ」





469: 2012/02/17(金) 22:58:49.46 ID:5K4tTapM0

打ち止め「ふーん……、内容はともかく今日は『だろォ』とか『べき』とか『よォだ』みたいな歯切れが悪い表現が多くなかった?」

一方通行「気付いたか? そりゃ、一般人が思春期を過ぎて外国語を学ぶのと同じ理屈だ」

打ち止め「……また何か遠まわしに説明してるのかな?とミサカはミサカはミサカの能力をフルに使って情報を解析してみる!」

一方通行「だからソレじゃダメだっつーの。全然見当違いなンだよなァ……」


芳川桔梗「学習装置やネットワーク経由の情報取得は知的活動では無いのよ。たぶん君はそう言いたいのでしょう?」

一方通行「さァな。オマエに意見は求めてねェが、知的でない意識活動なンざ有り得ねェハズじゃねェのか?」

番外個体「さっきのってUGだっけ? 子供はどんな言語も極めて短期間で完璧に習得すんのに、大人は出来ない言い訳理論」

一方通行「穿った理解過ぎだろォ……。オマエらは軸になる知識を元に学習した経験がねェのかよ?」


打ち止め「えーっと、それはつまり知らないものを勉強する時に自分の記憶を頼りにするって事?」

番外個体「それ、意味なくね? 知らないコトの記憶は存在しない、コレは普遍の原則でしょ」

芳川桔梗「難しく考えてしまっているわね。要するに知識を応用して未知の状況に挑む、普通に誰もがやってる事よ」

一方通行「特に自己確立以降の学習は依存度こそ様々だが全てそォであるはず。オマエらのは例外にも程があンだよ」


芳川桔梗「知らないことを学ぶのに知らない世界へどっぷり漬かっては却って理解が浅く遅く危うい。効率の問題でもあるわね」

一方通行「専門バカとか言われるヤツが、やたら別世界の話題に詳しいのも実はバカだからこそだ」

番外個体「ふむふむ。犬を知りたいからって犬の気持ちになるバカじゃなくて、知ってる事しか知らないバカって意味だね」

芳川桔梗「その場合、仮に犬の気持ちを完璧に理解した人間が居れば、それはもう既にヒトではなくただの犬なのよ」


一方通行「自分がどンな知識を持ってるか、ソレが自分がどンな人間かを示してる。ココを壊すのは愚の選択って事だ」

打ち止め「競合する知識を無自覚に持つことで思考が中途半端になれば本物のお馬鹿だよねとミサカはミサカは断言する」

芳川桔梗「そんな人間は何を覚えることも何を考えることも出来ないでしょうね。どうやってその状態にするかは置いておいて」

番外個体「ふむ。……にしても、結局小難しい屁理屈大会になってんじゃん。もっと生き物の話しよーぜ」


芳川桔梗「あらそう? じゃあこんな話。ウツボと小動物は相利共生だったけど、共生関係にはいくつかのパターンがあるのよ」

一方通行「生息箇所を同じくしながら片方だけが得する片利共生、片方が得して片方が害を受ける寄生、とかな」

打ち止め「じゃあ、ミサカとあなたは当然相利共生で、ヨシカワとあなたが片利共生で、末妹とあなたが寄生……?」

番外個体「寄生とは聞き捨てなんねーな! どうせなら片害共生って言ってもらいたい」





黄泉川愛穂「それ、どれもが明確な線引きの出来ない概念じゃん。……、あ、芳川と私だけは別じゃん」 カンペキ キセイ ジャン






   ~おしまい~



470: 2012/02/17(金) 23:30:36.87 ID:5K4tTapM0

以上、第三十五回「反撃」でした。今までで書き直しが一番多かった回かもしれません。

第一パート、最初は姫神の好きな魚をカマツカの近縁でもありカマツカの異名でもあるツチフキにしてたのですが
      漢字で書くと土吹・・・、なんか違う話になっちゃうので変更しました。でもカマツカも意味ありげだったり。
      あと、生き物の話をする時は周りに気を使いましょう。特に氏体がどうしたとか交尾がどうしたとか・・・。
第二パート、托卵をするナマズの名前はシノドンティス・ムルティプンクタートス、される魚はシクリッドの仲間。
      クイズ番組の問題に・・・使われないだろうな。

第三パート、解説パート以外は、何かそれっぽいことを言ってる的に読み飛ばしてもらえばいいかと。
      ちなみに、ウツボは油で丸揚げしちゃもったいないクラスの高級食用魚だったりします。

そんなわけで、ちょっと迷走気味?な姿勢を正しつつ今回はこの辺で。ではではまたー

477: 2012/03/19(月) 22:33:28.06 ID:U7/pK2V90

随分と久しぶりの投下、おさかな話って覚えてるヒトいるのかな・・・ちょっとだけ振り返えらせてくださいな。


前回の第一パートで上条さんは電話越しでインデックスに人ごみの中で恥ずかしいセリフを言わせてました。
今回はその続きから始まります。

また今回は全体的に考察系な内容で書いていたんですけど、第三パートが新刊の内容と大きく矛盾しちゃってたので書き直し
結果、一方通行さんにはお休みしていただき最初の二人が再登場してます。ご了承下さい。

あんまりおさかな話じゃ無い気もするのでテーマは『異物』です。読みにくいかなあ・・・と思いつつ、どうぞ

478: 2012/03/19(月) 22:34:17.74 ID:U7/pK2V90


                                         ☆

「な、なあインデックス…………待て、話せば判る!! だあああああっ!?」

「とうま、何か心残りがあるのかな? 前回、私を公衆の面前であれだけ辱めておいて……、口答えの余地無しなんだけど」

「いいい、いやですからアレは上条さんの本意などでは決してなく然るに本人の与り知らぬ行為の責任を追及される謂れは…」

「士道不覚悟。せめて潔く。最期の花道を堂々と逝って欲しい」 シレッ

「ちょっ、おい姫神! そりゃあんまりだr…」

「見苦しいんだよとうま! 観念しておとなしく悔い改めるがいいんだよ!!!」 ングワッ







                                     ぱんっ☆






『……、えっ?』

「いい加減にしなさい、とミサカ10032号は銃を構えつつ現状最優先の案件を忘れ気味のお二人に注意を促します」 ガシャコン









479: 2012/03/19(月) 22:35:31.41 ID:U7/pK2V90

「も……、もちろん忘れてなんかいないぜ? お前が……、御坂妹がインデックスを緊急で呼び出すほどの一大事なんだから」

「ととと、当然かも! ハヤリに流されて水槽持ってないのに川でおさかなを捕まえちゃったって聞いた時にはビックリしたけど」

「だな。しかも捕獲の際にヒレを傷付けたから、そのまま逃がしてしまえば命の危険があるのでは? って電話貰って」

「それで私が現場まで輸送用水槽セットを持って迎えに行ったんだよ。一時的にとうまの水槽で保護するためにね」


御坂妹「輸送用水槽セット? とは、この酸素の出る石が入った発泡スチロール箱でしょうか、とミサカ……、は確認します」

「うん……、出来たらウチの入れ物のクオリティには敢えて突っ込まないでくれると助かる……」

「まあ、そういうわけで今はその子の水あわせの真っ最中なんだよ。ともかく想像していたほどの怪我じゃなくてひと安心かも」

「見た感じ治療の必要もなさそうだな。ま、とりあえずしばらく預かるけど、御坂妹も自分の魚なんだからちゃんと見に来いよ?」


御坂妹「当然そのつもりです、とミサカは本来真っ先に頼るべきお姉様の水槽が常盤台敷地内にあるデメリットに感謝します」

「ん~……っと、よくわかんねーけど要するに、この水槽が役に立ったってことか?」

「ふふーん、思い知ったとうま? インデックス教会学園都市アクアフロント支部の救済力はハンパないんだよ!」 ドヤッ!

「この水槽そんな名前だったっけ? …………さてと、そろそろいいんじゃねーの? コイツを水槽に移してやろうぜ」


                                  ぽちゃんっっと


「―――――――― 投入後数分経過、不自然な挙動やショックを受けた様子は無し。……ひとまずオッケーだな」

「うんうん。それで……、今更なんだけどとうま。このお魚って何だと思う?」

「……………………、はあっ? 名前も調べずに持ってきたのかよ?」

「それが、ね……? ふたりで帰りのバスの中でもずっと考えてたんだけど、どうも種類が特定出来ないんだよ……」


御坂妹「当該魚のスペックを再確認します。採取場所は学園都市内の一級河川中流部浅瀬、採取日時は本日ヒトロクフタマル」

「手にて中層を遊泳中捕獲。全長7.0cm、体型は紡錘形、やや大きめのウロコ、全体に銀白色、側線付近に顕著な色変化無し」

「尾ビレはやや大きめの三角形。またその他のヒレも含め、フナなどの丸みを帯びた三角では無い明確な角を確認」

「更に各ヒレは光線の加減で他の部分に比して黄色掛かって見えなくも無い……、とミサカは簡易ながら報告を終えます」


「見た目や捕獲状況でこの子がハス以外のダニオ亜科、いわゆる雑魚オブ雑魚の若魚だって所までは判ったんだけど……」

御坂妹「オイカワよりはヒレが小さく、カワムツの特徴である暗色の太い縦帯がなく、ヌマムツよりもウロコが目立ってるのです」

「その3種、稚魚のうちは見分けるのが難しいんだけど、このサイズになれば特徴がハッキリするはずなんだよ。なのに……」

御坂妹「どの種だとしてもあるべきものが無く逆にあってはならないものが有る、とミサカはこの謎魚を再びガン見します……」


姫神「このふたりの知識と情報量。上条くんでは逆立ちしても敵わないはず。だけど……上条くんは同定力がハンパない」

「……姫神の言うとおり、お前たちが知らない魚をオレが知ってるワケ無い。けど、だからこそ判ったぜ。コイツの正体!」

「おおっ、とうまの理不尽なひらめきが役に立ったんだよ!! それでそれで、この子は一体なんなのかな?」





480: 2012/03/19(月) 22:36:40.59 ID:U7/pK2V90

「精緻な分析と正確な知識を以って判別出来ない、つまりそれはイレギュラーってことだろ? おそらくコイツは雑種なんだ」

「雑種? ……って、例えばライオンとトラの子供『ライガー』とか『タイゴン』みたいな俗に言う種間雑種のこと?」

「そう、イヌやネコの雑種と違って2種類の生物が親になってるって意味の雑種だよ。オレも詳しいわけじゃないけど」

「でもさっきの3種はダニオ亜科オイカワ属(オイカワ)とカワムツ属(カワムツ・ヌマムツ)だよ? 交雑可能なほど近縁とは……」


「難しい話は勘弁……。でも、そもそも種や属って考え方はヒトの都合が大きく関わってるんだし例外も多いんじゃねーの?」

「まあそうだけど……極端な話、ヒトと豚でも受精だけなら可能だったりするわけだしね」

「………………」

「……とうま、どうかしたの? のーとぱそこんをじっと見てるけど」


「……あっ、いやあ、あれだ、あれ! ネットで情報を収拾してみようかなって」 サッ カチッ   ポチポチ

「ふーん?」

「んーと、『オイカワ』の『雑種』で検索…………。ほらっ、コレ見てみろよ? 似たような魚の画像が結構出てくるじゃん」

「ふむふむ。どの子もピッタリと一致こそしないけど、そこは雑種ならではかな? ってとうまいきなり何するの???」 グイッ



「(ちょっと内緒話。御坂妹には聞かせたくない内容だからな……。とりあえずこのページの記述を読んでみてくれ)」 ボソボソ

「(何だかわかんないけど……、ふーん。カワムツとヌマムツでは交雑せず、オイカワと他2種間で雑種は産まれるんだね)」

「(ああ。元々棲息域が重なりがちなカワムツとヌマムツが交雑可能だったら、とっくの昔に種が統一しちまってるはずだろ?)」

「(……オイカワが勢力を拡大したのは最近。それで新たにこういう子が出来る可能性が明らかになったって事?)」


「(おそらくな。放流や河川の水量低下が、自然化では本来有り得ない組み合わせのイレギュラーを作ったんだろうぜ)」

「(…………、とうまが内緒話にした理由が分ったんだよ。それが本当ならこの子はおそらく遺伝的なデメリットを抱えてるかも)」

「(……、まあそんなトコだ。生き物ってのは設計図と材料に無理があっても時として強引に成り立っちまうんだけど)」

「(無理にはツケが付き物。種間雑種で言えば短命であったり100%でガンになったり……、生殖能力を欠いていたり)」


「(そうしたデメリットは種が離れているほど大きい。例えばさっきのヒトと豚なんかだと受精卵は一切成長しないからな)」

「(うん……。この子は今のところ順調に成長しているように見えるけど…………、だけど………)」

「(オイカワ属とカワムツ属の属間雑種。報告例は少なくないけどまだまだ詳細は不明。正直どこまで生きられるか……)」

「(捕まえたおさかなが飼えるって、あんなに喜んでたのに……。どうしようとうま? この事伝えたほうが…)」



御坂妹「なるほど。つまりこの個体は許されざる禁断の愛の結晶なのですね、とミサカは内緒話に割り込みます」 ズイッ



481: 2012/03/19(月) 22:37:27.59 ID:U7/pK2V90

「おまっ!? どうしてそんな離れたトコからオレ達の話が……」

御坂妹「ミサカイヤーは熱膨張、とミサカはミサカの優れた聴力で盗み聞きしたことを婉曲に解説しま……、分りますか?」

「くっ……空気の振動を温度のムラと解釈し、更にそれを電磁波として捉える事で遠距離から音声情報を取得したってか……」

「とうま、ボケにボケを返すのはシンプルにマヌケかも。……そんなことより、聞いたとおりなんだけど、その……、あのね?」


御坂妹「分ります。この子は、産まれ存在するべきではなかった魚、と言うことですよね? とミサカは機先を制します」

「いや……、何もそこまで……。ただオレたちとしてはだな、つまり……」

「そう、そうなんだよ! ちょっと体が弱いかもしれないとか、足りないところがあるかもってことだけで……」

御坂妹「ミサカは心の機微というものには疎いのですが、おふたりは暗に今回の飼育に期待を持つなと警告しているのでは?」

『…………………………………………』



御坂妹「ただ……、既にミサカはこの小魚はミサカが飼育するに相応しいと結論付けてしまいました。というのも…」





御坂妹「この個体の出生は極めて不自然で許しがたい。では、それを以って命を否定することが出来るでしょうか?」

「……、出来るハズない。ああそうだよな。なんだかんだ叫んだってコイツは生きてる。だからそれは絶対に祝福されるべきだ」

御坂妹「短命であり重大な欠陥を抱えている可能性が濃厚だからといって、この個体に生きる意味は無いのでしょうか?」

「そんなわけないんだよ! 生きとし生けるものは与えられた命の限りに精一杯生き尽くすのが正しいに決まってるもん!」


御坂妹「その想いに必要なのは強さ。運命など吹き飛ばしてしまえという強さです。ミサカはだからこそ、この……、この……?」

「お前……、わかったよ。怪我が治るまでの間ここで保護するから、そっちはなんとかして飼育環境を用意しておけよ」

「もちろん私も相談には乗るし、協力は惜しまないんだよ。だから……、立派にその子を育て上げようね!」

御坂妹「お心遣い感謝します。が……それよりも、ミサカは現状この……、この……、この子の種名が不明な点を指摘します」


「種名? ……あぁ、そういえば雑種の場合は名前ってどうなるんだ?」

「んと、色々な名付け方があるんだけどこの子のケースはライオンとタイガー(トラ)の子供みたいに両方の名前を使うらしいよ」

「『ライガー』や『タイゴン』はそういう法則だったのか。って事はコイツはオイカワとヌマムツ、若しくはカワムツが親だから……」

御坂妹「つまりオイカワ・ヌマムツなら『カワヌマ』、オイカワ・カワムツなら『カワカワ』……、とミサカは響きの良さに感動します」




「一応正解はオイカワ・ヌマムツで『オイムツ』、オイカワ・カワムツで『オイカワムツ』なんだよ」 カワカワ ?

「ま、まぁ……、個人的に使う分には御坂妹の呼び方でも構わないだろ。とりあえずどっちのタイプか判ったら連絡するよ」









482: 2012/03/19(月) 22:38:31.98 ID:U7/pK2V90

                                     ☆

御坂「(あの思い出したくも無い実験……、アレって不可解な点がいくつもあるんだけど)」 テクテク

御坂「(最たるものは妹達が現在の私と同じ年恰好をしているってトコよね。つまり…)」

御坂「(実験が始まったのはここ数ヶ月以内でなければいけなくなってしまう)」 テクテク

御坂「(年齢設定は自由が利くし外見だって変えようがあるはずなのに、私と瓜二つに仕上げられたのが何よりの証拠)」


御坂「(だけどあの実験、多少なりとも名が売れている人物の容姿を使うこと自体には何のメリットもない。とすると…)」

御坂「(レベル5になったばかりの頃とも違う、もう少し成長した姿でもない、第三位の現在の姿を使うことに意味があったはず)」

御坂「(今の私、今の姿。何故それを模したのかは判らないんだけど……、とにかく実験開始はごく最近だったに違いない)」

御坂「(…………、確かにアレは向こうにとって超有利なハンデ戦だったけど、それでも一万通りの戦闘をほんの数十日で?)」





御坂「ふむ~……、およっ?」 テクテク

御坂妹「こんなところで奇遇ですねお姉様、とミサカは人目につかない裏路地での邂逅であることを説明します」

御坂「……、説明って誰によ? それになんでアンタが居るのに私が気がつかなかったのよ? 電磁波はどうなってたの??」

御坂妹「……、お姉様のレーダーでも感知出来ませんでしたか。修行の成果があったというものです、とミサカは勝ち誇ります」


御坂「はあっ? バカな事言わないでよ。発電能力者が無意識に発する電磁波ってAIM拡散力場そのものだから…」

御坂妹「能力者である限り放出を止められない、とミサカは努力や才能でどうにかなる問題ではない事を再確認しておきます」

御坂「うんうん、そうよね。ってことはやっぱり何かのトリックだったわけ?」

御坂妹「ある方と先程まで身体の一部を接触していたため一時的に無能力状態になっていたのでは、とミサカは考察します」


御坂「その表現はどうかと思うけど。……そっか、そういやアイツの寮がこの近くにあったわね。何か用事でもあったの?」

御坂妹「ミサカの大事なものをあの少年の部屋で、初めての……、えーと……、あのですね………………」

御坂「んーっ、要するに何かを預かってもらったってことかな? 初めて、アイツの部屋……。例えば捕まえたおさかなとか」

御坂妹「はいそのとおりです……、とミサカは勘が冴え過ぎていてイジり甲斐の無いオリジナルを恨めしそうに見つめます」




御坂「…………………………………………、そっか」 フム

御坂妹「……? どうかしましたか?」






483: 2012/03/19(月) 22:39:43.84 ID:U7/pK2V90

御坂「あぁいや、なんでもないのよ。それよりそっちはどんな魚を捕まえたの?」

御坂妹「えっと……、どうやら交雑個体だったようでその場で正確な分類が出来なかったのですが…」

御坂「あっ……」

御坂妹「ご心配なく。ミサカ自慢のおさかな第一号、最期まで大事に育てていく覚悟は既に完了していますから」


御坂「……………………強いわね。見た目こんなに私とそっくりなのに全然強い」

御坂妹「……お姉様?」

御坂「あっと、いや……、それよりさあ、今度確認に行く時は一緒に連れてくこと。アンタの魚なら私にとっても大切なんだからね」

御坂妹「……わかりました。つまりお姉様はミサカに上条当麻の部屋に潜入するためのギミックになれと…」


御坂「あはっ、なんでそうなるのよ? ……ホント、同じ顔してるのにアンタの発想には付いていけないわ」

御坂妹「同じ顔ですか? それはまあ、同じ遺伝子マップを基にミサカたちは出来上がっているので…」

御坂「ん~……でもさ、私とアンタが中身全然違うのと同じで妹達同士も色んな子が居るんじゃない?」

御坂妹「仰りたいことが判りかねますが、個性と言うことでしたら多少は確認可能なレベルに達しているかもしれません」


御坂「あ、それと能力もね」

御坂妹「そうですね。厳密にはお姉様と妹達、妹達それぞれ、もちろんチビや新古米、誰一人として同じ能力ではないです」

御坂「自分だけの現実、ってまさに字のとおり一人用だからね。便宜的に同系統って纏めちゃうから誤解されるんだけど」

御坂妹「遺伝子的に同一であって全く同じ成長を遂げ開発を受けたとしても、能力は異なってしまうのです」


御坂「平行世界なんて考え方で言うなら違いがあって当然なんだけど……、不思議よね」

御坂妹「能力開発には未だ解明されていない部分が多くありますから、とミサカは理解の及ばないことを理解してみます」

御坂「まあね。大体『未来は確定していない』って考えを利用して『確定された未来を作る』なんて外の人に理解できるのかな?」

御坂妹「ミクロの事象を操り新たな世界を作り出す。つまり能力者が一人生まれるたびに宇宙全体が更新されますからね」


御坂「そう。強度や性質に関係なく……、たとえレベル0に過ぎなくても能力者ってのは世界を塗り替えた者なのよ」

御坂妹「だから妹達一人一人が同じ能力であるはずが無いのです。違った色にその都度全体が染まるのですから」

御坂「でも出力されるのは似通ったレベルで見分けが付き難い電撃使い系なのよね。どういう仕組みなんだろ?」

御坂妹「演算を司る脳機能がどのようにミクロの世界に干渉しているかが詳らかで無い以上、そこはブラックボックスでしょう」






484: 2012/03/19(月) 22:41:20.24 ID:U7/pK2V90

御坂「ふむふむ。そうよね、干渉してるのはあくまで脳。見た目や年恰好じゃないはず」

御坂妹「干渉の様式とでも表現しましょうか、そうした働きに関係しているのかも知れません、とミサカは推察します」

御坂「……様式ってどういうこと?」

御坂妹「ドジョウ類とヘビ、ミミズなどの外見は似通っている点がありますよね? とミサカは唐突に解説モードに移行します」


御坂「ホントに唐突だけど、まあアレでしょ? 細長くて脚とかそういうものが無いってことじゃない?」

御坂妹「ええ。地面であったり水底であったりしますが彼らは這う生き物なのでそれに適した姿形をしていますね」

御坂「コウモリとハトがどっちも空を飛ぶための翼を持ってるのと一緒で、相同性ってヤツよね」

御坂妹「一部のトカゲなどにも手足やウロコの退化した種が居ます。彼らは地中生活に適応してますとミサカは付け加えます」


御坂「んーと、大丈夫だと思うけど一応注意しておくわね? 種の進化に個体の意思は影響しないわよ」

御坂妹「勿論存じてます。ですが……それでは質問しますがコウモリは何故空を飛ぶのでしょうか?」

御坂「へっ? そりゃ、移動したりエサを探して捕まえたりするためじゃないの?」

御坂妹「……質問が不適当だったので言い直します。コウモリは進化の過程でいつ空を飛んだのでしょう?」


御坂「ふむ……? コウモリの進化は専門外だからよく判らないけど」

御坂妹「質問の意図はこういうことです。コウモリは空を飛ぶために翼を適えたのか、翼があったから空を飛んだのか」

御坂「あっ……、いや、でもそれは……、ん~? むむむむむむ……」

御坂妹「個体の意思が進化に影響しないので前者は否定されますが、後者では翼が何故備わったのか説明出来ません」


御坂「いや、飛翔以外のなんらかの役に立つ機構として進化していってある段階から飛ぶために使われたんじゃ…」

御坂妹「ではお姉様はコウモリはたまたま飛べたので飛んだ、もし飛べなかったら飛ばなかった……とお考えですか?」

御坂「飛べなかったらってのは無いでしょ? 翼っぽいものが付いて初めてコウモリなんだから……」

御坂妹「確かに原初のコウモリはモモンガやムササビのような滑空するネズミだったのかもしれませんけど」


御坂「ふむ~…………。それで、一体この話で何を伝えたいわけ? 興味深い内容ではあるけどさ……」

御坂妹「結論としては……同じ環境中の外見が似ている生物は本質まで似通っているとは限らないということです」

御坂「んんっ? ……、それだけ??」

御坂妹「付け加えればその外見はその環境でこそ力を発揮しますが、格好が先か環境が先かを考えるのは難しいってことです」





御坂「(……つまり妹達が私そっくりにされているのは私が学園都市から受ける影響と同じものを得るため、とか?)」

御坂妹「頭脳明晰なお姉様が何を考察されてるか窺い知ることは叶いませんが、たぶんそれは違いますとミサカは断言します」







485: 2012/03/19(月) 22:43:05.69 ID:U7/pK2V90

                                         ☆

「なあインデックス、空気呼吸が発達した魚類って結構居るだろ? んじゃ陸上生活に適した魚類って居ないのかな?」

「とうま? それは地味に魚類の定義に関わる問題なんだよ。何を以って魚と呼ぶか、ってことなんだけど」

「ん? 魚類の定義って……、魚は魚だろ? 泳ぐのが得意でウロコやヒレがある……、そうじゃないのも居るけど」

「ちょっと乱暴すぎかも。とりあえず系統を考えてみたらいいんじゃないかな?」


「系統……、前ちょっと触れたアレか? 全ての脊椎動物は魚類から進化して枝分かれしてどうこうってヤツ」

「うんうん。じゃあ、『魚類から進化』ってところを詳しく説明できる?」

「詳しく、って……。ん~と、最初の魚類ってのはヤツメウナギとかヌタウナギのようなアゴの無い生き物だったんだろ?」

「だね。アゴはもともとエラを支える骨が進化したものだから鰓孔で呼吸する無顎類には当然アゴが無いんだよ」


「鰓孔ってのは体の側面に何対も並んで開いてる穴だな。んでまあ、そいつらからまず硬骨魚類が枝分かれしたらしい」

「そこは実のところ確定的じゃないんだけど、無顎類→硬骨魚類→軟骨魚類って考えてる人が多いのは間違いないかも」

「無顎類の骨が軟骨だったり骨格そのものがなかったりするからややこしいんだよなあ。まあ殆ど絶滅しちまってるんだけど」

「うん、今言ってる無顎類は現在の無顎類とは違うからね。恐竜時代のモンスター的外見のアレとかソレとかの話だよ」


「っと……で、どこまでいったっけ? …………えーと、アゴか。アゴのあるやつらの一部が淡水に進出し肺を獲得する」

「……、軟骨魚は肺も浮き袋も持って無いよね?」

「ですよねー。だから、硬骨魚類……、系統を語る場合だから硬骨魚綱の方がいいか? それが両生類に繋がるってワケだ」

「爬虫類や鳥類、そして私たち哺乳類もね。さて、それじゃああらためて。魚類とは一体なんなのかな?」


「ココまでをふまえて考えるんだな? んーと、魚類とは……脊椎動物の無顎類と軟骨魚類と硬骨魚類を指す!」

「それじゃダメだよ。自分で言ったこと忘れたのとうま? 硬骨魚綱には哺乳類だって含まれちゃうんだよ?」

「そ、そうだよな……。じゃあアレだ。魚類とは……脊椎動物の……爬虫類や鳥類、哺乳類や両生類では無い動物?」

「うんうん。こうも言えるかな? 『脊椎動物の進化の過程で一度も陸上生活に適応しなかった生物群』とか」


「ウシの遠い親戚、クジラやイルカみたいな陸上生活の後に水に戻った一群は除くってことか」

「他にも……、脊索は有してるけど脊椎の無いナメクジウオも魚類には含まれないんだよ」

「脊索ってのは棒状の筋肉、脊椎ってのは骨格。ともに背中を通る神経を保護してる部位だよな」

「背骨が一生のうち一度でも備わる、またその痕跡があれば脊椎動物に含まれるからそこだけちょっと注意しなくちゃだけどね」


「ふむふむ。……それで最初の質問に戻るんだけど、陸上生活に適した魚は居るのかどうなのか。って……自明だな」

「でしょ? 形体に関わらず、水中生活から脱した生物を魚類とは言わないんだからそんなものはいないんだよ」

「なるほどね。なんかツマラない結論だったけど勉強になったよ。ありがとなインデックス」

「……、ただーし! 例外的存在はどんなトコにもあるのかも。今日はそんなお話をするんだよ!」






486: 2012/03/19(月) 22:44:08.40 ID:U7/pK2V90

「例外?」

「そう、魚類でありながら生活史の大部分を水の外で過ごす子たちのこと。オキスデルシス亜科って知ってる?」

「…………グレムリンの正規メンバーにそんなのが居たっけ?」

「魔術師の名前に付いててもおかしくない感じだけど……、これはハゼの仲間の一群なんだよ」


「ハゼかあ……。確かにハゼって水深の浅いトコに棲んでて結構頻繁に水から飛び出すイメージがあるなあ」

「それとピョンピョンと水底を移動する種が多いでしょ? その能力は陸上でも機能するんだよ」

「遊泳力を振り絞った所で釣られた魚がビチビチすんの見りゃ判るけど水の外じゃ役に立たない。でも跳ねる動きなら別だ」

「だからハゼの仲間は比較的陸上での活動に向いてるの。その中でも極めて尖った子たちがオキスデルシス亜科なんだよ」


「ほほう……、例えば?」

「皮膚呼吸が異常に発達していて空気中でも酸欠にならないとか、あと特殊な代謝機能を持ってるとか」

「代謝? 代謝……、うんうん……、代謝だよな。大事なことだよなあー」

「新陳代謝の代謝だよ? 陳は古いもので謝は無くすの意だからつまり、古い物を捨てて新しい物と代える細胞の働きだね」


「ふむふむふむ。つまり特殊な代謝機能、ってんだから排出についてのトンデモ能力があるんだな?」

「そう。摂取したタンパク質の代謝で不要な窒素が出ると、動物はソレを溜めといて捨てなければいけないでしょ」

「窒素とか言うと小難しく聞こえるけどアレだな。おしっこ」

「まあ確かに人間の場合は窒素を尿素に換えて排出するんだけど、硬骨魚はアンモニアとしてエラから排出するんだよ」


「へーっ。エラって酸素と二酸化炭素の交換以外にも使い道があるんだな……」

「だけどエラが水に触れていないと排出も出来ないの。コレも空気中で魚が生きていけない理由のひとつだね」

「んでさっきのオキスデルシス……? だっけ。そいつらはその問題をどうクリアしたんだよ」

「なんと彼らは体内でアンモニアをアミノ酸に変えることが出来るんだよ。つまり排出の必要がないのかも」


「……ふ~ん。今ひとつ凄さが伝わらないけども……、凄いんだろうけど」

「トイレにずっと行かなくてもいい人類ってスゴく便利じゃないかな?」

「その喩えもどうかと思うぞ?? んまあ、何にせよその魚たちは陸上に例外的に適応してるって考えていいんだよな?」

「ううん。水から離れた魚は皮膚が乾燥してしまうでしょ? 結局そこまでスゴくても水辺を離れられるワケではないんだよ」




487: 2012/03/19(月) 22:47:53.43 ID:U7/pK2V90

「……、オキスデルシス亜科とか例外とか仰々しく言ってもそんなもんか。それじゃその辺のムツゴロウと同じじゃんか」

「正解っ! ムツゴロウやトビハゼなどの干潟でピョンピョンしてるマッドスキッパーたちがオキスデルシス亜科なんだよ!」

「つーか……、だったら最初からムツゴロウの話として進めれば良かったんじゃねーの?」

「んとね、正体が判らないまま『魚なのに陸に上がる』とか『特殊な代謝能力がある』とか聞いてとうまはどんな魚を想像した?」


「どんな? いや、そーだな……。ハゼの仲間だからソレっぽい外見だとは……、でも知ってる魚だとは思わなかったかな」

「あのね、もしもこの世界が水中だとしたら……。とうまにとってムツゴロウは魔術師なんだよ」

「またいきなり唐突な展開を……」

「魚のルールの裏技を使って陸上へ進出するトコが、現実世界の裏技を使ってありえない現象を起こすのと似てるでしょ?」


「強引な説明だけど、まあ……。けど、それだとムツゴロウが決して水から離れることは出来ないのと同じように…」

「そう! そこを判って欲しかったんだよとうま! 魔術は不思議だけれども、所詮は既存のルールの裏技に過ぎないんだよ」

「裏技って言えばゲーム。特定の動作やコマンド入力やバグによる通常プレーの範囲では現れない効果が思い浮かぶけど…」

「それだと素人でも操作が正しければ魔術が使える理由が判るかな? さしずめ魔術師はプログラムに精通するプレイヤー?」


「なるほど。完全にプログラムを掌握しちまえばどんなことでも思いのままだもんな」

「ん? ……私が言いたいのはそうじゃなくて、魔術師なんてタネを明かせばムツゴロウってことなんだけど」

「……あのさ、遺憾ながら上条さんの頭脳は回りくどい表現を適切に解すには向いてない直感型なんですよ」

「しょうがないなあ……、いい? 普通の魚が一般人で、魔術師はムツゴロウ。決して四足動物じゃないってことだよ」


「……脊椎動物全体から魚類を抜いた残り、要は一度は陸に上がった歴史を持つ動物を四足動物と纏めることがあんだよな」

「両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類だね。まあ両生類はちょっと置いといて、完全に陸上に適応してるでしょ?」

「乾燥に強く空気呼吸に長け、窒素は尿素や尿酸の形で排出できるからな。確かに魚とはまるで世界が違う」

「巨大なサメだろうとマカジキだろうと、船に上げられたら無力。ムツゴロウだって例外だけど他聞に漏れないってことかも」


「なんとなく分って来たぞ。インデックスはいつもオレが疑問に思ってる『魔術は弱い』ってことを説明しようとしてるんだな?」

「……、さあね? それはともかく水の中や水辺であればこそ魚は強いのであり、魚を超えた魚は魚ではないってことだよ」

「魔術師はムツゴロウ、魚はどこまで行っても魚、四足動物と陸で争う能力など無い……。四足動物が能力者にあたるのか?」

「私は魔術側の人間だからそっちのことは良くわからないかも。じゃあ交代して、能力について説明してくれる?」



488: 2012/03/19(月) 22:50:01.87 ID:U7/pK2V90

「ああ。でも悪いけど、オレは知識としてしっかり習得してないからアバウトになっちまうけど勘弁してくれよな?」

「能力はおそらく身に付かないんだから勉強くらいしといたほうがいいと思うよ。まあ、出来る範囲でいいんじゃないかな?」

「ううっ……、多忙すぎる人生が恨めしい。っと、とにかくだ。能力ってのは薬剤や電気や音声、その他の刺激で脳を開発して…」

「それ、前に説明してくれた『脳を開発して回線を繋いだら能力者』って適当にも程がある話かな? だったら必要ないかも」


「うぇ? オレの能力開発に関する知識なんてそんなもんだぞ??」

「それでよく能力は科学的、とか言えたものだと思うよ。じゃあ聞くけど開発された脳はどのように異能を起こすのかな?」

「んー、それはだな。シュレディンガーとかハイゼンベルグとかが……、つまりは量子を観測して……」

「うん……、ムリな注文だったみたいだからもう一度私のターン。魔術についてちょっとだけ話をさせてね」


「……、ホントスイマセン」

「落ち込んでるとテンポが悪くなるから元気出して行こーっ! 魔術はヒトの歴史とともに発達した厳格な法則のある技術だよね」

「おーっ! おっ? 法則自体を詳しく教えてはくれないからイマイチ納得できてないけど、お前がそういうならそうなんだろ」

「もちろん大昔には裏技なんて認識ではなくて、自然を知り世界を知りたいという人間の知的活動の一部だったんだよ」


「ふむ。聞いた覚えがあるようなないような。で、アレだろ? 原石だとか聖人みたいなことを才能の無い身でも……って」

「そこに行く前に、段々人間が世界の理に通じてくると、この世には普通と異常があるってことが判ってきたの」

「ん~、魔術が異常な技術体系として認識されて……、で?」

「異常に手を染めることは人間として終わりだってことも判ってくる。でもどん底にいると一発逆転したいのがヒトのサガなんだよ」


「魔術を覚えるって簡単に言うけど、それは言ってみりゃ首を吊る代わりの手段なんだな……」

「そうだよ? 魔術なんて覚えるべきものじゃないの。……それとね、宗教に政治が入るとそれさえ弾圧されちゃうんだよ」

「あー、そりゃそうだよな。聖人は神に愛されればこそ奇跡を起こすんであって、誰にでも使えたら神への信仰が無くなっちまう」

「宗教を利用した統治下ではそれは絶対許されないことだもん。ただの知識に過ぎなかった魔術は禁忌になっていくんだよ」


「そういやヒトに真理を教える超自然の存在って、ルシフェルとかアザゼルとか最近じゃコロンゾンとか、どれも悪魔扱いだよな」

「最後のは幻覚剤中毒者の妄想かもだけど、まあそうだね。多分に体制側の都合が反映されてるきらいがあるかも」

「ふーむ……で、とにもかくにも魔術は地下に潜ることになるのか?」

「一部を除いてね。体制側が使う魔術ってあるでしょ? 神に愛された証だから自分たちは使ってもいいって理屈だね」


「どこの国だよ? 魔術を弾圧しといて国王はバンバン魔術つかうような下衆な体制……、あ、うん。ゴメン」

「ほえ? ……続けるね。地下に潜った魔術師たちは島嶼の生態系が独特になりがちなのと同様、ユニークに進化していくの」

「地域によって違った魔術があるのはその名残かね。で、弾圧を避けつつ技術を磨き知識を蓄える時代はいつまで続くんだ?」

「世界の理を解明していく学問に科学って名前が付いた頃までかな? 宗教の力が弱まってきた頃、でもいいけど」




489: 2012/03/19(月) 22:51:42.80 ID:U7/pK2V90

「自分で言っといてなんだけど、ソレはおかしいんじゃないか? 現に今だって魔術はアンダーグラウンドだろ」

「んーとね、現在の魔術って求める者にとっては開かれた世界なんだよ。どう、とは説明できないけどそういうモノなのかも」

「……誤魔化された感でいっぱいだぜ?」

「正直その辺は勘弁して欲しいんだよ。でね、憚りながら日の当たる世界に舞い戻った魔術師たちに大きな展開があったの」


「展開……、想像するにアレか? 独自に発展した各地の魔術師たちが交流を深めて互いに練磨したとか」

「遠からず近からずだね。例えば日本神道系の魔術師が放つ破魔の光ってゾロアスターの吉眼と本質が似てると思わない?」

「んな専門用語並べられてもチンプンカンプンに決まってんでしょーが! 上条さんをなんだと思って居られますかアナタは!?」

「……調子に乗っちゃったかな? ゴメンね……、魔術の話が出来てつい嬉しくなっちゃってたかも」


「あ、ちがうちがうちがうちがう。上条さんは怒っていませんのことよ? 自分のバカさ加減を嘆いただけだから気にすんなよ」

「……そう? でもちょっと噛み砕くね。要するに、各地で独自に進化した魔術を体系立てて整理統合する者が現れたんだよ」

「なるほど。祈る相手が月だろうと山だろうと、何がどうなって何が起こるって原理を解明すると同じことだったとかそんな感じか」

「魔力やテレOマ、地脈なんて概念もそういう流れの中で確立されたの。実はまだまだほんの最近のことなんだけどね」


「ふむふむ。で、魔術全体が急速に洗練されて今に至る、と。……以上、ヒトの歴史とともにあった魔術の歴史でした」

「じゃなくて、ここからが本題なんだよ! とうまの言うとおり魔術の歴史はヒトの歴史と同じくらい長く深く広いんだけどね」

「だよなあ。魔術師ってやつらは底が全然見えねえもん」

「だけど、だけどね。だからこそ既に伸びしろの少ない研究し尽くされた技術でもあるんだよ」


「ふーん?」

「例えば私は10万3000冊の魔道書を記憶してるんだけど、仮に自由にその力を行使できたとしたらどうかな?」

「……それは正直想像もしたくねえよ。天地を曲げ生氏を操る魔神みたいなことになるんだろうけどさ」

「怖いけどそうかも。では更に、そんな魔神な私の前にもう一人魔神な私が現れて戦ったら、どっちが勝つと思う?」


「へっ? なにそのトンデモ発想?? 勝負自体はスペックが同一である以上引き分けってこったろうけどさ……」

「そう。引き分けだけどコレはスペック云々じゃないくて、魔術を極めるってことは全ての魔術に対応出来るということなんだよ」

「……それで?」

「だから言い換えると、魔術を極めてしまうと全ての魔術には返し技があり、絶対の魔術など存在しないことが分るってこと!」


「伝説の暗殺拳の始祖みたいな話だな……」

「魔術を極めれば万物の頂点に立った気になれる、はずないよね。だって自分で自分の弱さが判っちゃうんだもん」

「でもそれ他人にはわかんねーだろ? そうそう負けることは無いはずだと思うけども……」

「そうは行かないかも。だって例えばある戦いにおける戦法を考えるとして、そのヒトは絶対に最適解に辿り着けないでしょ?」



490: 2012/03/19(月) 22:56:44.95 ID:U7/pK2V90

「あー、万能すぎて却って全てにおいて失敗を予測してしまうのか。確かに思いつく全ての技に※が付いてたら何も出来ないな」

「うんうん。コレはだから相手が誰であっても同じことなんだよ。魔術師のジレンマだね」

「それにしちゃあ魔術師ってどいつもこいつも『自分が一番つおーい、他はカス!』って感じで出てくる気がするけどな」

「……それは偏見、でもないか。とうまも言ったけど魔術はアンダーグラウンドの技術でしょ? だからなのかも」


「むむっ? アイツらが偉そうなのは闇とか暗部とか、裏社会に生きる者の特性ってコトかよ?」

「そう。実際は表の世界に匹敵する裏なんて存在するはずもないんだけどね。基本、役立たずで無能なダメ人間の巣窟だし」

「おいおい、手厳しいにも程があるだろ!? インデックスこそ何か偏見を持ってんじゃねーのか……」

「だって良く考えてみるんだよ。最先端知識にしても技術にしても、画期的な発想は常に表でなされるでしょ?」


「それは……、地下世界のコトなんてわからないから何とも言えないけど」

「裏で使われる技術や知識なんて最先端ではありえない。型落ちを流用して悦に入ってる連中ばかりなんだよ」

「ちょっと待て。なんでありえない、なんて断言できるんだ?」

「簡単だよ。隠れてコソコソ研究してたら無責任な他人の批判が聞こえてこないでしょ? それでは進歩が無いの」


「…………井の中の蛙大海を知らず、か?」

「武力だってそう。例えば毒ガスや生物兵器、核兵器は立派な光り輝く世界で生まれた代物でしょ?」

「うむむ……。だけど、そういうものを裏社会的団体が利用するとかだって聞くぜ?」

「隠れてコソコソ、でしょ? そんなのせいぜい大昔の流失技術や禁忌破りの裏技を使って隙間産業してるに過ぎないのかも」


「暗部なんてものは、表の社会に比べて無能……。ただモラルやルールを逸脱することでせこせこ日銭を稼ぐ集団だと?」

「その通り! 保護される価値も必要もないクズの掃き溜めだから、人材だって使い捨てだしね。それだけのことなんだよ」

「……なんつーか、身も蓋も無い総括だな。魔術の専門家なお前が言うんだから余計シュールだぞ」

「ちょっと漫罵だったかも。まあ今日のまとめとしては、正体不明の相手を情報以上に高く見積もるのは間違いってことだね」


「そこは納得出来るかな。スゴいことなら隠れてする必要も無いんだし、コソコソしてる時点でそれは大したことじゃないんだな」

「うんうん。そして小物ほど増長し、大物になると弱くなる。変な世界だけど、これも現実なんだよ」

「となると学園都市の能力とはやっぱ違うんだな。だってこっちは割と公開されてるだろ?」

「違いはそんな瑣末なトコだけじゃないけどね。魔術師から見れば能力者は世界の法則の範囲外の存在なんだから」


「へっ? そなの?」

「今日は長くなっちゃったからこの辺で終わるけど、簡単に言えば陸上動物の常識はおさかなの非常識ってことだよ。」

「ほうほう…………。しっかし今日の話は終始、こんな調子だったな。正直、半分も理解できてない……」

「私の立場上、話が曖昧になるのは仕方ないのかも。またいつか続きをするならもうちょっと噛み砕くから許して欲しいんだよ」







  ~おしまい~



491: 2012/03/19(月) 23:17:50.55 ID:U7/pK2V90

以上、第三十六回『異物』でした。

第一パートで出てくる雑種、生息域や繁殖期が異なる種が不自然な環境に集められると発生しがち。
もちろん、大部分の魚が体外受精だからこそなんですけど

第二パート、ドジョウは水底を這い、砂地の潜ることに向いた体をしていますが
それは彼らが水底で過ごし続けた結果進化したのか、それとも形が出来てからそれに見合った水底へ向かったのか?
構造主義というか全体論というか・・・、行き過ぎるとツマンないのでやめときますけど不思議じゃないですか?

第三パート、ムツゴロウやトビハゼは四足動物であるカエルなんかよりよっぽど水の外で生活する時間が長い魚です。
むしろ水中を避けてるくらいの変なヤツラですけど、それでも魚は魚なのです。


そんなわけで、長々といらんことばかり書きましたけど今日はこの辺で。ではではまたー

498: 2012/03/25(日) 10:46:04.76 ID:QZriQ74o0

おさかな話って、ドコが面白いって聞かれても正直困る。っていうかそんな聞かれ方したらツマンない気がしてくる。
ホントはひょっとして自分以外誰も読んでないんじゃなかろうか・・・。だってアレだよ、さかなの話だよ?

今回はそんな感じの内容です。いえ、出来に自信が無いとか不安だとかではなく、ホントってなんだろ?ってお話。

テーマは「幻現」です。少々暴走気味なパートもあるのでご注意の上、どうぞ。

499: 2012/03/25(日) 10:50:04.86 ID:QZriQ74o0


                                         ☆

「なあインデックス、こないだ御坂妹が持ってきた魚はどうやらオイカワとヌマムツの雑種『オイムツ』だと判明したんだが…」

「とうま、とっても細かい作業お疲れ様なんだよ。尻ビレの筋とかウロコの数をじーっと見続けて眼が疲れちゃったんじゃない?」

「それは問題なかったよ。カメラとPCがありゃただの単純作業だからな……。それは、な」

「ふぇ? じゃあ何をそんなに、ムグムグ、とうまは思い悩んでいるのかな? ん~っ、ぷはー」 


「……あんまりがっつくなよ。ホラ、お茶」

「ありがと、んぐっんぐっんぐっ…………、ふぅぃ~。それにしても短髪の持ってきたケーキとゼリー、とっても美味しいんだよ!」

「だろうな。なにしろゼリーは天下の黒蜜堂の……、贈答用セット? ケーキは……えっと、パスチックセリなんちゃら…」

「PASTICCERIA MANICAGNI って書いてあるんだよ。モンブラン……、イタリア語だからモンテビアンコがグンバツなんだよ!」


「そりゃ良かったな……、でも一体コレ全部で幾らするんだ……? そもそもなんで御坂はこんなもん持ってきたんだ?」

「一時間ほど記憶を振り返ってみたらいいかも。このおさかなの名前が判明して、とうまは何をした?」

「えーと、約束だからすぐ御坂妹に『名前判ったから見に来いよ』ってメールした」

「冗談で『手土産は食べられるものがいいぞー』とか書いてたよね」


「そうだっけ? そしたらついさっき御坂が訪ねて来て『あの子、二~三日用事があって出て来れないのよ』って伝言してくれた」

「そんな短髪をとうまはどうおもてなししたんだっけ?」

「んーと……」





――――――――――――

―――――――

―――


『わざわざありがとな御坂。あ、ついでに御坂妹に会ったら見に来るのはいつでも良いって伝えといてくれよ』

『えっ? そ、それは構わないけど、何? さかな、見せてくれないの?』

『えっ、いや、別にいいけど……』

『?? いいけど何よ?』

『いや~、ほら。御坂といえば電撃だろ? 小魚ばかりの水槽の周りで放電しても大丈夫なのかなって……』

『…………………』

『メダカやアカザはもちろんだけど、御坂妹のオイムツはケガしてるからショックとかそういうの出来るだけ避けたいんだ』

『……そっか。あ、その紙袋の中身テキトーに処分しといてよ。それじゃ…………、邪魔して悪かったわね』 



500: 2012/03/25(日) 10:53:34.83 ID:QZriQ74o0

「紙袋の中身はウチの水槽専用濾過フィルターとカートリッジ、そして沢山のスイーツだったワケで……」

「ケーキ食べながらおさかな見つつ、楽しくおしゃべりするつもりで来たら門前払いされたってことだよね」 モグモグ ゴックン

「連絡後たった一時間のうちにケーキ屋、黒蜜堂、水槽屋でお土産を準備して来てくれた御坂を……」

「普段のとうまがやってることに比べたら全然大した仕打ちじゃないけど、まあちょっと可哀相かも」 ヒョイ パク



「能力のこと言っちまったし、謝っておくか。PiPiPi …………、ええいっ、御坂のケータイはどうしてこう繋がらねーんだ!」

「ふぅ、イチゴのヤツもおいしかったー! ちょっとそれ貸して? ……、もしもし短髪? インデックスだよー」

「んっ………、へっ??」

「ケーキとゼリーの差し入れありがとうなんだよ! とうまも美味しい美味しいって、あっという間に食べちゃったんだから」


「なぜ電話が……?? そして、なぜ沢山あったはずのスイーツが殆ど無くなってる?? これが時空の歪みか??」

「えっ? ううん、それはとうまが神経質過ぎなだけだから気にしなくていいんだよ。全く、ホントにデリカシーがないもんね」

「ちょっ…」

「だからまたいつでも遊びに来て欲しいんだよ! ちなみにとうまはプリンも大好きでケーキはホールを丸ごと食べたい派かも」


「…………おーい」

「ち、ちがうもん。私は神に仕える身だから我欲のままの欲しがりさんじゃ……、ふぇ? とうまならいるけど? ……ふんふん」

「おっ、代わってくれってか?」

「うんうん、わかったかも。一言一句違えず伝えておくんだよ。じゃあまた近いうちに遊びに来てね、ばいばーい」 <Pi



「オイオイオイオイオイ、お前いつの間に御坂と仲良くなったんだ? ってか電話切るなよ!?」

「そんなこと知らないよ。だってとうまと話がしたいとは言ってなかったもん」

「そ……、そっか。やっぱり御坂サンはご立腹デスヨネ…………。んで、伝言って?」

「……、反省してるんならよく聞いておくんだよ。えーとね、『にんきなんかの話を聞いてほしいかも』 だってさ」


「にんきなんか??? 『人気なんか関係ねえっ! とは言ったものの評判とか悪口とか気になるぜ!』ってこと?」

「心臓に毛の生えたノミ!? ……あのね、人気なんか、じゃなくてたぶんニンキナンカ。未確認生物の名前だと思うよ」

「なんだよそのフザけたネーミングは! ファンタジーなめてんじゃねーぞっ!!」

「とうまに馴染みのある言語じゃないから語感が微妙なのは偶然かも。ちょっと変則的だけど今日はそんなお話するんだよ」






501: 2012/03/25(日) 10:57:05.83 ID:QZriQ74o0

「つまりはUMAの話……。まさか神裂とかが退治するよーな怪物か?」

「どうかな? とりあえず生息地から行くよー。ニンキナンカはアフリカのとある小国の沼地に居ると言われているんだよ」

「とある小国? 国名うやむやにする理由がワカラナイぞ……」

「それは大人の事情、ってことでご容赦願うんだよ。ちなみにニンキナンカとは現地の言葉で悪魔の竜って意味みたい」


「今更ラノベとかで使うには躊躇するくらいベッタベタでコッテコテだな……。にしても、あんまりお前も詳しくないみたいだけど?」

「あ、うん。ニンキナンカの情報はネットの掲示板に来てた質問丸写しだから……。信憑性薄いけど気にしないで欲しいかも」

「掲示板ってお前が暇つぶしでオカルトと宗教の質問に答えるってアレか。学園都市に住んでてオカルトに走るってコトは…」

「質問者はティアーズインヘブンって人だね。いつも内容が突拍子も無くて面白いから楽しませてもらってるんだよ」


「ふーん。まあそういうことなら深く追求しねーよ」

「ありがと、じゃあ続けるね。……悪魔の竜、ニンキナンカは全長50メートル幅1メートル。たてがみを持ちウロコに覆われた…」

「はいっ、オカシなコト言いましたー! 全長50メートルもあんのに幅1メートルって細すぎだろ!!」

「だって沼地に棲んでるから仕方ないんだよ。普通のワニみたいな比率だと水深20メートルの沼とかじゃないとダメでしょ?」


「確かにその深さならもう沼じゃないけど、明らかに設定が後付けじゃねーか。未確認生物にツッコんでも詮無いけどさ」

「まだまだツッコミドコロは沢山あるけどね。この怪物は四本の脚と翼を持ち、口からは炎を吐くってウワサも有るんだよ」

「翼とか炎とかは最早手遅れだけど、脚ってなんだ? 50メートルをどうやって支えるイメージで設定したの?」

「なんでこんないい加減なスペックかと言うと、目撃情報が少ないからだよ。今まで確認されたのはつい最近のたった一件なの」


「つまり一人しか見たことが無いのか? じゃあ見間違いとか、最悪ウソって可能性も否定出来ないぞ……」

「でも現地の伝説上の生き物だよ? その伝承によると『ニンキナンカを見た者は氏ぬ』から誰も探したがらないんだけど」

「ちょっ、何度ツッコませれば気が済みますかアナタはっ!? 見たら氏ぬなら目撃者が居るのオカシイじゃねーかっ!」

「さっきの人は不思議な木の実を食べたから大丈夫なんだってさ。危ないところだったかも」 ヨカッタネ


「いやいやいや、最初っから最後までムチャクチャにも程があるぞ……。大体、そんな話を周りの連中は信じんのかよ?」

「当然かも。だってこの国は今日でも、現大統領の身内が呪われたって理由で隣国の呪術師に魔女狩りさせてるんだよ?」

「か、か、カルチャーショックってこういうことか。とても現代の事件とは思えない……、ってか本当の話とは思えない」

「そんなんでホントの魔女が捕まるわけないのにね。という訳でドコまでホントかわかんないニンキナンカの話、おしまいっ!」





502: 2012/03/25(日) 11:03:06.03 ID:QZriQ74o0

「うむむ……………………、なーんてな。上条さんはバカだけど騙されっぱなしじゃありませんのことよ?」

「~♪ 何のコトかな?」

「いみじくもインデックスは『ドコまでホントか』って言ったろ? アレ正しくは、『ドコがウソか』ってことじゃねーのか?」

「ふむふむ、意味は同じようで全然違うかも。……じゃあ、とうまは私の話のドコがウソだと思うのかな?」


「まず胡散臭い怪物の話だけど、コレの真偽はどうでもイイ。この話のキモは『目撃者がたった一人』ってことだった」

「そのココロは?」

「だから、ソイツが語る怪物の姿はそのまま真実として扱われた。つまり今日のお前の話が最初からウソだってコトを…」

「んー……、端折り過ぎかも。どんな素晴らしい内容も、ちゃんと順を追って説明しないと他人には伝わらないんだよ?」


「そりゃ正論だけど……、苦手なんだよな。結論だけガァーッって叫んで後は聞き手に解釈してもらうほうが楽だし」

「どうしようもなくズボラだね、知ってたけど」


「でもまあ一応やってみるよ。
……、まずなによりお前と御坂の電話は違和感だらけだった。

○ケータイ知識の無いお前はリダイヤルだの電話帳機能だの使えるはずがない。なのにどうやって電話を掛けたのか?
○直前にオレは繋がらなかったのに何故お前は通話できたのか? 
○オレの知る限りお前と御坂はそれほど親密じゃない。にしては会話の様子がフレンドリー過ぎた。
○御坂はオレと会話したいと言わなかったそうだが……、それならオレのケータイからの着信の時点で無視するはず。
○極めつけが伝言。お前は『一言一句違えず』伝えると約束した。それで『~を聞いてほしいかも』? まんまお前の口調だろ!

……で、挙句にオレと通話させることなく電話を切った。

そこへ来てさっきのニンキナンカだっけ? お世辞にも完成度も説得力も足りてるとは言えない低品質オカルトだったよな。
ホントにそんな伝承があんのか、お前の掲示板にホントにそんな質問が来てたのか。……んなコトは実はどうでもいい。
アレの主眼はさっきも言ったが『確認者は一人だけ』ってトコなんだろ?

そう。ニンキナンカも御坂との会話も、確認したのは一人だけなんだ。つまりお前は胡散臭い怪物の話を通じて
さっきの電話が実は一人芝居だった事実を暗に示していたんじゃねーのか?」



「ふーん。頑張って推理したことだけは褒めてもいいけど、それじゃ答えにならないかも。例えば私はなんでそんなことしたの?」

「なんでって、そりゃ……。ウソついたことをバラして、ドッキリでした的展開に…」

「ソレで私に何の得があるのかな??? あと、短髪に電話できるはずが無いって言ったけど、完全記憶能力を忘れてない?」

「……、電話番号を教えたとかそんな覚えはない。確かにお前なら何かの拍子でチラッと見ただけで充分なんだろうが…」


「そして根源的な話になるけど、確認者が一人なのは怪物や電話だけじゃないもん。短髪の訪問だってそうじゃないかな?」

「へっ? いや、そりゃ確かに応対したのはオレだけだけど…」

「それってホント? 短髪は実際にお土産を持って訪ねてきたのかな? とうまの勘違いって可能性はゼロなのかな?」

「なっ、バカ言うなよ! 実際にケーキやゼリーが……、無い。いや、んなワケあるはずが……、あれーーー???」



「ウソって軸が複数になると当事者だけじゃ立証不能になるよね。PiPiPi……、とうま、短髪に電話掛けたけど、お話する?」

「……もしコレが御坂と繋がっていたら話は全部ホント……、いやそんなはず無い。けど……、わかんねーーー!!!」









503: 2012/03/25(日) 11:07:32.48 ID:QZriQ74o0

                                         ☆

白井「お姉様、電話どなたからでしたの?」

御坂「んー? 間違い電話。……って言うか、いちいち人の電話まで詮索しないでよ」

初春「今更ですけど、本気でウザがられるくらい白井さんは御坂さんのことが大好きなんですねー」

佐天「だね。……聞いたことあったかもですけど、やっぱり一目惚れなんですか?」


白井「とんでもない。一目惚れとは所詮、対象の容姿だけに惹かれることですの。そうではなくわたくしはお姉様の内面に…」

御坂「そんなこと言うクセにアンタ、私のママ……、母親に会った時だっておかしくなってたじゃないの」

白井「あの時は確かに不徳の至り。ですけど、あのお姉様オーラ大インフレを前にして黒子に耐えろと仰る方がムリですの」

初春「オーラってよく判りませんが、白井さんは御坂さんの御坂さんらしさに惹かれているって事でしょうか……?」


佐天「ほうほう。となると、仮に御坂さんそっくりで、従順で、しかも白井さんを慕う女子が現れても白井さん的には関係ない?」

御坂「いっ……!?」

初春「興味深い思考実験ですね。どうですか白井さん?」

白井「何度も申し上げますけれど、わたくしが惹かれているのはお姉様という人間ですの。ガワなど些細なことですのよ」


御坂「……へーっ。じゃ、じゃさ私からも聞いていい? 例えば第五位の精神攻撃で私がアンタに深い好意を持っちゃったとして」

初春「あー。さらっと今、御坂さんが白井さんに好意を持つ事はマインドコントロールでもされなきゃありえないって言ってますね」

白井「おっ……、お姉様。それはあんまりですの」 ドヨン

御坂「いいから聞きなさい! 私が、間違いなく本人がアンタを、あ、愛してるって状況になったら……、どうすんの?」


佐天「そんなことが出来ちゃう能力者がいるって知ってはいたけど、想像するとヤッパリちょっと怖いなあ……」

初春「まあ現実問題、知らないだけで人間は心を他人に操られながら日々生きてるんですけどね。とか言ってみたり」

御坂「なにそれ怖い。……で、黒子。答えは決まった?」

白井「そんなの考えるまでもありませんわ。……当然、あの女を倒しお姉様を即刻元に戻せと命じますの」


佐天「おおおっ! 意外と言うか王道というか……。白井さんとしては当たり前なんでしょうけど、カッコイイですよ!」

初春「白井さん、それ本気ですか? 一口くらいつまみ食いしようとか絶対思わないですか?」

白井「初春、これ以上わたくしを侮辱する言葉を放つのでしたらそこの警備ロボットと一体化させますわよ?」

御坂「まあまあ、冗談を本気で怒らないであげてよ。……、私の質問もちょっとイジワルだったし。ゴメンね?」






504: 2012/03/25(日) 11:13:12.62 ID:QZriQ74o0

佐天「ん~……ところで、さすがに精神を操ったり幻覚を見せたりするおさかなって、居ませんよね?」

御坂「そうねえ……。ちょっと違うかも知れないけど、汚い川で見かけるハリガネムシはそんな感じかな」

白井「ハラビロカマキリなどに寄生する黒くて細長い虫……、類線虫というのでしたっけ? 割と名前は知られてるのでは」

初春「知らない方には『物凄く長い髪の毛、それもぶっとい剛毛がウネウネしてるような生き物』って教えてあげましょう」


御坂「ウネウネ動く髪の毛って……、黒子じゃあるまいし。まあ確かに体表をキューティクルで包んでるんだけど」 キモチワルイ

白井「今日のお姉様は黒子に厳しい気がいたしますの。それはともかくこの生き物、名前の通りに硬いんですのよね?」

初春「ハサミで切れないとか聞きますがそれは干からびた末の話で、生きてるうちは太い髪の毛みたいな手触りらしいですよ」

佐天「なんでそんなに髪の毛を押してくるんだい……。ひょっとして黒髪ストレートなあたしへの精神攻撃?」


御坂「茶色や白っぽいヤツもいるけどね。で、実はハリガネムシは別にカマキリ専門の寄生虫じゃないのよ」

白井「そもそも最初にお姉様が仰いましたがこれは基本的に水生生物ですの。当然、寄生先は水棲昆虫などですわね」

初春「えーっと……。カゲロウとかヤゴとかが水と一緒に彼らの幼虫を飲み込んで、体内で育ててしまうハメになるみたいです」

佐天「ふむ。カマキリがその宿主を食べちゃって寄生先が代わるってことか……。って一緒に食べられるのに氏なないの?」


御坂「ハリガネムシは他の寄生虫に比べて、宿主と運命共同体って感じじゃないらしいのよね」

白井「宿主が攻撃を受けその身に危険が迫るとみるや、パパッと宿主の体内から脱出する術を有しておりますのよ」

初春「捕食者によって深刻なダメージを受ける前にこっそりそっちの体内へ移動しちゃうんです。まさしく神業です」

佐天「厄介なヤツですね……。ちなみにソイツに寄生されると何か特別な害があったりしちゃったり?」


白井「まず、寄生虫は宿主の養分で育つわけですから当然その害がありますの。あと生殖機能を奪われるようですわね」

御坂「そして本題なんだけど、夏から秋に掛けての川岸にはなぜか沢山のハラビロカマキリがいるのよ」

初春「川岸というか川の中にも、ですよね。数多くのカマキリが投身自殺をしに水辺にやってくるんです」

佐天「穏やかじゃないねえ……。それってハリガネムシが水中に帰りたくてカマキリを操って水辺に連れてきたってことですか?」


御坂「んー、そこは明らかになってないのよ。ウネウネ虫に宿主の脳を支配して行動を制御するような知能があるはずないし」

初春「寄生されたカマキリの脳から特殊なタンパク質が発見されていて、これが行動制御の素かも? なんて噂もありますけど」

白井「確かなのは不自然な数の、それも寄生されたカマキリばかりが暑い最中に水辺に来る……、ということだけですの」

佐天「何がどうなって、ってのが判らないのが一番怖いですね……。しかしホント、今日の話はキモかったなー」


白井「ま、わたくしが仮にお姉様の体内に寄生するなら精神の乗っ取りなどではなく真の合体を目指すでしょうけど」

御坂「黒子……、アンタがそんな言い方したら妙に生々しいから止めなさい。冗談抜きで寒気がするわ」 マジデ






505: 2012/03/25(日) 11:17:52.55 ID:QZriQ74o0

                                     ☆

打ち止め「ねえねえ、今更こんなことを聞くのもなんなんだけどおさかなって泳ぐの上手だよねってミサカはミサカは言ってみる」

一方通行「……そンな常識を真顔で聞けるオマエの度胸は大したモンだが……、質問の趣旨は何だよ?」

打ち止め「あのね? ヒトに比べておさかなの筋肉ってそんなに多く無いのになんであんなに早く泳げるのかなって」

一方通行「……種類ごとで違うが、例えばマグロの筋肉量は体重比で60%以上じゃなかったか? ヒトは40%程度だが」


打ち止め「えっ……。それはちょっと誤算だったかも、とミサカはミサカは今日の話の展開に迷子ってみたり」 アワアワ

一方通行「ンだァ? つまり筋肉量が同程度の魚が何故ヒトよりもずっと速く泳げンのか、で話を進めりゃイイのか?」

打ち止め「なんとかなるならお願いしたい! ってミサカはミサカは不手際を陳謝しつつ頭を下げてみたり」

一方通行「まァイイ、傍でずっと落ち込まれてもウゼェだけだしな。で、ヒトと同程度の筋肉量の魚と言えば……、ギンダラか?」


打ち止め「ここでの魚は何でも構わないけど、とにかくその子は人間よりずっと速く泳げるよね。どうしてなのかな?」

一方通行「投遣りな質問だなオイ……。答えは体型が泳ぎに適してるとか、殆どの筋肉を泳ぐ為に使えるとか、その辺だ」

打ち止め「だよね。じゃあ、ヒトが生身の力で彼らに泳ぎで勝つにはどうしたらいいかな? ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

一方通行「コレが本題かよ。確認だが生身ってのは能力や、あー……、その他モロモロも使わずガチって意味だよな?」


打ち止め「うんうん。ちなみに人類最速と魚類最速ではどのくらいの差があるのかな? とミサカはミサカは確認しておく」

一方通行「人間はせいぜい秒速2メートル程度だろ? 最速の魚については以前オマエが調べてなかったか」

打ち止め「えーと……、いろんな最強魚の話の時だっけ。たぶん無難にバショウカジキ(120km/h)って言ったような」

一方通行「その説を採ると、秒速33メートル以上か? ……、世界が違い過ぎンな」


打ち止め「でも普通のおさかなの泳ぐスピードはそこまで速く無いはず。さっきのギンダラとかなら何とかならないかなあ?」

一方通行「……、ムリだろォな。何故って底魚なヤツらが本気で泳ぐコトは稀だが、スタートダッシュはマグロと大差ねェからな」

打ち止め「むむ……、足ヒレ付けてもパドル付けてもダメ? とミサカはミサカは再度確認してみたり」

一方通行「ンな付け焼刃でどォにかなるワケねェだろ。大体、ヒトはその非力を嘆けばこそ進歩してきた生物じゃねェか」


打ち止め「進歩って科学技術だよね。んー……でもでもさ、なんかモーターとかエンジンとかロケットは夢が無いっていうか……」

一方通行「そのセリフ、この街の科学者が聞いたら泣くぞ。ファイブオーバーシリーズって知ってンだろ?」

打ち止め「純粋な工学技術で素になった能力を超える、とかご大層なお題目を掲げた実益皆無なガラクタだよね」

一方通行「あァ。能力者の発想は従来の常識では到底辿り着けないモンらしく、全く新しい技術へ繋がるカギだとか言って」





506: 2012/03/25(日) 11:22:58.13 ID:QZriQ74o0

打ち止め「そんな思想があるのに、お姉様を単なる大火力、色々非現実的なゲテモノで超えようとしたのが全然意味不明だよ」

一方通行「まァな。機械に能力が扱えない以上あのシリーズは全て、モーターで魚を超えたって言い張ってるだけだからなァ」

打ち止め「それも普段ゆったり泳いでる魚を最高級モーターから火を噴くほど酷使してやっと、でしょ? 正直バカだよね」

一方通行「そォいやオマエは本来研究者嫌いだったな。っと、他にもモデルケース・メンタルアウトなンてのもあるよォだが…」


打ち止め「それだって、能力者と全く違う方式なのに能力者名を利用するから誤解されるんだよ、とミサカはミサカは憤ってみる」

一方通行「威力や効果で超えるってコトが目的になっちまって、新発想の獲得って意図が消えちまってンだよな……」

打ち止め「本来の意味でお姉様の技術を活用したかったら、大電流が使えるってトコをもっと掘り下げなくちゃダメだよ」 プンプン

一方通行「カビで幻覚を発生させるって派生研究もあるが、使えるヤツがごく限られる工学なンざ青カビほどの意味もねェよな」


打ち止め「ふぅ~……、それで何の話をしてたんだっけ? とミサカはミサカはちょっとスッキリしたので素に戻ってみたり」

一方通行「……、魚よりずっと速ェ?」

打ち止め「そうだった! でもどうやら不可能みたいだから話題変更して……、幻覚なおさかな。……居るかな?」

一方通行「脳を操るって話になりゃ難しいが、目眩し程度なら有名なのが2種類居ンじゃねェか。タコとイカだ」


打ち止め「エー? ……墨を吐くだけでしょ? とミサカはミサカは骨の無いヤツらをあからさまに見くびってみたり」

一方通行「軟体動物ナメンなクソガキ。ンじゃ聞くが、両者の墨の決定的な違いを知ってンのか? あァ!?」

打ち止め「なんかそれ聞いたことある気がする、ってミサカはミサカは記憶と言う名のネットワークに旅してみたり」

一方通行「……、ンじゃその間にテキトーに解説しておく。さっさと思い出さねェとオレが答えちまうからな?」



一方通行「イカとタコは頭足綱ってカテゴリに属する割と近縁なヤツラだ。脚が多いとか吸盤が有るとか共通点も多いよな?
       墨を吐くのもそのひとつなンだが、どっちの墨も生物由来の暗色色素として馴染み深いメラニンが素になってる。

       余談だがメラニンには黒褐色の真性メラニンと橙赤色の亜メラニンがありヒトの髪の色もこの二種の配合で決まる。
       当然、墨は真性メラニンで出来てンだが特にコイツらの場合にはセピオメラニンって呼ぶらしい。
       セピア色っつーコトか? 常識だが”sepia”ってのはコウイカの学名で、セピア色ってのはイカ墨色を指すからな。

       またイカもタコも共通して墨は漏斗っつー、噴射器官から放出される。アレは口じゃねェから間違えンなよ?」


打ち止め「ふむふむ。メラニンが足りないあなたにはちょっと羨ましい生き物だったりする?」

一方通行「クダらねェコト言ってるヒマがあンのか? 両者の墨の違いが解ったンならさっさと答えてみろ」

打ち止め「あと一分……、ミサカにあと一分だけ時間を下さい、ってミサカはミサカは最後のお願いをしてみたり」

一方通行「ほォ……、60秒だな? 待ってやるが、発言には責任を持てよクソガキ」




507: 2012/03/25(日) 11:28:08.33 ID:QZriQ74o0

一方通行「ンじゃ、その間にもう少し余談を。

       イカ墨は食材としても有名だがタコ墨料理は聞かれない。タコ墨はマズいからって噂があるがそりゃ間違いだ。
       旨み成分を比較するとタコ墨のほうがイカ墨よりもずっと多いンだからな。
       試しにタコ墨でパスタを作ってみたら思いのほか美味だった、なンて実験したテレビ番組もあったほどだ。
       そンなタコ墨が料理にあまり使われない理由は………………、どォだ? そろそろ思い出したかよ?」


打ち止め「うん。とりあえず……、イカ墨は粘っこくてタコ墨はさらっとしてるのってミサカはミサカは情報を小出しにしてみる」

一方通行「そォだ。粘り気がイカ墨の真骨頂。パスタなどに良く絡み色効果も風味付けにも都合がイイ」

打ち止め「逆にさらっとしてるタコ墨は効率が悪いってことになるよね。つけ麺のタレと普通のラーメンスープって感じ?」

一方通行「ちょっと語弊はあるが、まァそンなトコか。粘性の違いはセピオメラニンに何がくっついてるかの違いと思っとけ」


打ち止め「次に量が違う。イカの墨は同程度の体重のタコに比べて多いの、とミサカはミサカは論じてみる」

一方通行「種によって様々だが、概ね正解だ。コレも料理にタコ墨が使われない理由のひとつだな」

打ち止め「ほんのちょっとしか無い上に、タコの墨袋はイカと違って取り出しにくいんだってさ」

一方通行「イカの墨袋はバラせば一目瞭然、デカイ内蔵にへばり付いてる黒い筋だ。タコのは消化管の最後端付近にあンな」


打ち止め「そして使い方もちょっと違う。どちらも主に外敵に襲われたときに墨を吐くんだけど…」

一方通行「つまり逃走の為だが、墨の質の差が意味の差になる」

打ち止め「うん。タコの墨はさらっと少量。海中に噴出されると広範囲に展開され煙幕として機能するの」

一方通行「イカ墨はドロっと大量。噴出された墨はある程度の硬さを持ったカタマリとなり、本体の身代わりになるとされる」


打ち止め「タコは墨を吐いて相手が怯んだ隙に逃げて、イカは墨を吐いて相手が分身に気を取られてる内に逃げるんだね」

一方通行「当然、例外もある。たとえば有毒成分が多く含まれる墨の場合は攻撃手段にも成り得るだろ?」

打ち止め「あと、深海のタコは煙幕の意味が無いから墨を吐かないんだって、とミサカはミサカは当たり前のことを言ってみた」

一方通行「深海のイカには逆に発光バクテリア入りの墨を吐いて眩しさで敵を脅かすヤツも居るンだとよ」




番外個体「あーのさーあ。長々と話してっトコ悪いけど、結局イカとタコのドコが幻術使いなワケ? ミサカ全然わかんねーっす」

一方通行「うるせェな。イカのは立派な影分身だし、タコのは視覚と嗅覚を同時に奪う文字通りの幻惑技じゃねェかよ」

芳川桔梗「……、あなたたちが起こすような超常現象を現実に置き換えると……しょっぱく聞こえるのは仕方が無いのよ」

打ち止め「ファイブオーバーが名前負けしてるのと同じで? とミサカはミサカはしつこさと厳しさと心苦しさを表明してみる」


芳川桔梗「あのシリーズについては元の目的から現在の思想に至るまで、真実は語られていない気もするのだけれど……」

番外個体「まあ研究者崩れがそう擁護せざるを得ないくらい、明らかな失敗って事だがね」

一方通行「オマエもムダにキツいな……。オレはモデルケース・アクセラレータを勝手に作られよォが気にならねェと思うぜ?」

番外個体「ほぉー、オマエさんの顔写真がプリントしてある戦車とか想像してみろよ? もちろん幼女センサー搭載だよん」



一方通行「……、欠片もオレの能力の要素が無いだろォ。だが、オマエらからすりゃ現状も似たよォなモンってコトか」





    ~おしまい~




508: 2012/03/25(日) 12:24:15.09 ID:QZriQ74o0

以上、第三十七回「幻現」でした。今回全部オチが弱いって? それは幻覚です。

第一パートは・・・妄言の中でしか語られなかった協力機関の妹達の安否情報って結局ウソなの? って感想と
ニンキナンカの語感を交差させたらワケがわからなくなった、そんな感じです。

第二パート、カマキリを水に漬けるとお尻からにゅるっと、時には3匹とか出てくるハリガネムシ。
馴染みの水場の水面にコイツが浮いてると少々残念な気持ちになります。

第三パート序盤、魚の泳ぐ速さの話題。バショウカジキ(120km/h)のように調べると色んな数字が出てきますが
実のトコ、これらはかなりテキトー(適当ではなく)な推察ではじき出されてます。
本気で泳ぐ魚を観察する機会なんてそうはないし、運良く高速で泳ぐ魚を見れたとして、それが本気だと言える根拠もない。
そもそも中層やら深海やらに棲む魚種の場合は生態を観察すること自体が非常に困難。
じゃ今ある数字は一体どうやって計算したかと言うと 
釣りしてて一秒間に持っていかれた糸の長さ、とか船を追い越す感じから目測で、とか・・・ガッカリな方法だったりします。

そんなわけで、幻覚とか精神とかムリにおさかなに組み込もうとするから・・・とか後悔しつつ今日はこの辺で。ではではまたー

517: 2012/03/29(木) 20:26:59.48 ID:4q9ID7HZ0

最初の感じが失われすぎかなー、とふと思ったおさかな話。ので今回はテイストを戻してみたのですけど・・・

そんなわけで今回のテーマは「回顧」。第二パートの登場キャラが違う理由は特にないです本当です。ではどうぞ

518: 2012/03/29(木) 20:28:28.82 ID:4q9ID7HZ0


                                      ☆

「なあインデックス、ガムシって知ってるか?」

「とうま? 今日はまた随分素直な質問だね。そして当然知ってるんだよ。なにしろ一応、ギリギリ水生昆虫だもん」

「一応とかギリギリとか……、そんなにパッとしない虫だったっけ? 正直オレは名前しか知らなくてさ」

「んとね、川とか池とかじゃなくて、水溜りで遊ぶ子供にはハズレな虫としてお馴染みだった子なんだよ」


「ハズレ? そりゃまたいったいどういう意味だよ?」

「水溜りには季節によって色んな生き物が来ることがあるでしょ?」

「現代の水溜りのコトじゃなくて、ちょっと昔の田舎の話か。例えばカエルが産卵したり水棲カメムシ類が飛んできたり」

「そうそう。かつては結構当たり前の光景だったんだよ……、実際には知らないけど」


「昭和は遠くなりにけりだな。当然、上条さんもそんな経験はしてない……、はずだ」

「まあそれはそうと、当時の子供たちは水溜りにやってくる生き物にランク付けするのが慣例だったみたい」

「ほほう。まあ現代の大人だって、釣りに行ってヒットしたら嬉しい魚もそうじゃないのもいるよな。そこは分る気がする」

「釣りで言うと大物って価値が高いよね。そんな感じで水溜りの生き物も種類やサイズをシビアに査定されていたの」


「そんな中、ガムシはハズレ扱いだったと。一体どんな虫なんだよ?」

「外観は、えーと……、ツルツルなコガネムシというか……」

「ん? 水の中でコガネムシみたいなヤツって、そりゃつまりアレじゃないか? えーと……、ゲンゴロウ?」

「そう、ガムシは人気者ゲンゴロウと良く間違えられるの。それがハズレな虫たる由縁のひとつなんだよ」


「ランクが絡んでくるワケか。ゲンゴロウは高ランクでガムシは低ランク。しかもよく似てるからガッカリが起きやすいと」

「更に、水溜りで見られるガムシの仲間は大粒アーモンドチョコみたいな大きさなの。もしゲンゴロウなら特Aランクくらいのね」

「水生昆虫にそれほど詳しく無い子供が『でっけーゲンゴロウ捕まえたー!』って大喜びしてるとこを、ハカセ役がツッコむのか」

「そだね。『ぷぷぷっ。喜んでるトコ悪いけど、それハズレですからー』とか。そうしてみんな大人の階段を一歩昇ったのかも」


「まあ子供はそれでいいとしても、ガムシは不憫だなあ。ほとんどゲンゴロウと変わらない虫なんだろ?」

「細かい違いはあるんだよ。ゲンゴロウより獲物を捕まえるのも泳ぐのも下手だし、ゲンゴロウと違って肉食傾向は強くないし」

「ふーん。そういえばゲンゴロウはハンミョウやマイマイカブリみたいな肉食昆虫の仲間だったな。ガムシは何に近いんだ?」

「分類が難しい虫だけど、一番近いのはエンマムシかな? あとダイコクコガネとか……、俗に言うクソムシの仲間かも」



「クソムシって……、いや、うん。子供の世界じゃその名前だけでも嫌われて仕方がないな」

「それもハカセな子が皆に教えるのかもね。いつの時代も子供は無邪気で残酷なんだよ」






519: 2012/03/29(木) 20:30:01.99 ID:4q9ID7HZ0

                                    ☆

結標「スッポンってね、首がみょんみょんと自分の背中まで伸びるの。うかつに甲羅を持ったら噛まれちゃうから気を付けなさい」

結標「そうじゃなくて後ろから。お尻のほうから掴んであげれば噛まれる心配はないわよ」

結標「臆病なカメだから、目の前に手を持っていくのも危ないの。頭がぎゅーんと伸びてガブリっとなっちゃうんだから」

結標「もし万が一噛まれた時、ムリに引き抜こうとすればより傷口が深くなるだけ。とりあえず落ち着くのが大事ね」


結標「俗に『雷が鳴るまで絶対離さない』なんて言うけど、水に戻してあげれば大抵の場合すぐに噛むのを止めてくれる筈よ」

結標「さっきも言ったけどスッポンは臆病なの。怖い相手に噛み付いてるより水中に逃げたほうが安心だからかしらね」

結標「だーから、持ち方に気を付ければ全然平気だってば。うん、そりゃメダカや金魚に比べたら危険度は高いけれども」

結標「えっ……? ふふっ、意外とあなたも怖がりなのね。……、それならとっておきの方法があるわ」


結標「日本のスッポンの成体は甲羅の長さが30cmくらいが標準的なの。そのサイズなら当然頭も大きくて噛む力は強い」

結標「最初からそんなのを飼おうとしたら誰だって怖いわ。首の伸ばした姿は女の子には暴力的に過ぎるしね」

結標「他のカメに比べて陸の上でも水の中でも俊敏で活発だから、飼い主がスッポンに慣れてないと手に余っちゃうかも」

結標「そうそう、だからね? とっておきと言うのは子ガメから飼育を始めることなのよ」


結標「子ガメってどのくらいの子ガメかって? んー……、お腹側がオレンジ色で黒い模様がある、生後数ヶ月の子かしら?」

結標「サイズは5cm未満。それなら頭だってあなたの小指の先よりずっとちっちゃくてカワイイものよ?」

結標「スッポンの甲羅は角質化してないから全体がふにゃふにゃしてるの。そのお陰で他のカメより体重が軽く動きが速いわ」

結標「想像してみて? 水槽の中でちっちゃなスッポンがワシャワシャと元気に動き回る様子を!」


結標「息継ぎの時なんか、めいっぱい首を伸ばして脚をバタバタさせながら子供の証の黒斑点を見せ付けてくれるのよ?」

結標「首の伸び縮みで空気を肺に送る呼吸法の為の動作なんだけど、正直あの姿は誘ってるようにしか見えないわ」

結標「でも、怖がり屋さんだから人が水槽に近づくと水底に戻っちゃうの。エサを食べる姿とか観察するのは至難の業ね」

結標「その意味でも、飼い主とスッポンの双方が慣れていける子ガメからの飼育。オススメよ?」


結標「あら、どうして? ……、良く判らないわね? ミドリガメに比べたら甲羅の違いの分ずっと軽くて世話もしやすいのに?」

結標「確かに子ガメは病気やケガに弱いけど、普通に魚を飼ってる人ならスッポンは難易度の低い部類よ?」

結標「理解が遅いわねえ、尻尾のアレは総排泄腔。いろんな夢が詰まって飛び出すステキな……、大事なモノだわ」

結標「……、まだ文句があるって言うの? …………そ、それは、それは生き物だもの。当然、悲しいけど成長するわよ?」


結標「最初の一年で10cm……、冬眠させないようにしてたら15cm以上になってしまうかもしれないけど」

結標「ワンパクな、大事な息子がむくむく成長していく。そして自分の手を離れていく喜びを疑似体験するみたいな感じが…」

結標「最高の一瞬をともに過ごしてあげられた奇跡、その価値を不出来なあなたは想像出来ないのかしら??」

結標「……残念ね、でも私は諦めないわ。……、スッポンみたいにしつこい? 褒め言葉のセンスは悪くないわね」








520: 2012/03/29(木) 20:32:23.88 ID:4q9ID7HZ0

                                       ☆

打ち止め「けろっけろっけろっ ふふふふんふーん♪ とミサカはミサカは今日のテーマを匂わせつつ登場してみたり!」

一方通行「…………オマエなァ。今更だが、ヒトにモノを教わろうってヤツがそンなフザけた態度を…」

打ち止め「あなたがそんな常識的なコト言うのだって相当フザけてるんだし、気にしたらダメだよってミサカはミサカは…」

一方通行「チッ……、ンじゃ非常識なオレはオマエの頼みなンざ無視してやるよ。文句ねェよな?」


打ち止め「さ、流石は最強のヘリクツ王……。そんなあなたのお話が聞きたいな、とミサカはミサカはおねだりしてみるけど」

一方通行「………………」 シラー

打ち止め「むぅ……、コーヒーのおかわり欲しくない? とミサカはミサカはモノで釣れないか試してみたり」

一方通行「…………」 ポケー


打ち止め「……、そっか。どうしてもお話してくれる気が無いのなら仕方がないね、とミサカはミサカはモードを変更する」

一方通行「…………?」 ランルー

打ち止め「いつもミサカに楽しく説明してくれてるけど、実は面倒臭かったんでしょ? とミサカはミサカは手間の掛かる女」

一方通行「……、」

打ち止め「そりゃそうだよね。こんな最高にかわいいだけで他に価値の無いミサカなんてあなたには邪魔なんだろうし」

一方通行「……」 ウズウズ

打ち止め「お姉様も『腐れ外道に阿婆擦れ』ならアリ、って言ってたのにミサカはそうなるよう努力しなかったんだもん」

一方通行「……、意味のわからねェコト延々続けンじゃねェよ。何か話せば気が済むンなら話してやるから黙りやがれ!」



打ち止め「わーい、大成功! とミサカはミサカは無邪気さアピールで飛び回りつつ喜びを表現してみる!」

一方通行「フン、急くンじゃねェよ。言ったろ? オマエの質問に答える気はサラサラ無ェ」

打ち止め「えっ!? じゃあ今日は何の話をしてくれるの? ってミサカはミサカは興味津々であなたの言葉を待ってみたり」

一方通行「非常識な魚と、阿婆擦れな魚。オマエの選択でテーマが決まる。さて、気になンのはどっちだ?」



打ち止め「えっと……、んー……、どっちも聞いてみたいけど」

一方通行「選べねェのか。ンじゃ、テーマは邪魔なさかなで決定だ。覚えとけ……、チャンスの女神は後頭部がハゲてンだよ」

打ち止め「言ってることが良くわかんないけど、とにかく邪魔なおさかなの話なのねってミサカはミサカは理解してみたり」






521: 2012/03/29(木) 20:33:56.43 ID:4q9ID7HZ0


一方通行「生き物の姿ってのは主な生息地の環境に適応した、つまりそこで生活すンのに便利な形体であることが一般的だ」

打ち止め「ふむふむ。時には全然違う種類の生き物であっても似てきちゃうことがあるくらいだもんね。それで?」

一方通行「そして最善を突き詰めて求めるとしたら、即ち生物の外観は状況に関わらずシンプルになるハズだ」

打ち止め「説明すっ飛ばし過ぎだよ……。ざっくり言うと装飾過多は効率が悪いの、とミサカはミサカはフォローしてみる」


一方通行「例えば魚類だ。ドジョウ、ハゼ、サバ。この三種の姿を使えば大部分の魚種のスタイルを説明出来る」

打ち止め「えーと、ヒラメとかフグとかエイとか……、例外が数え切れないほどあるような」

一方通行「まァ……、本旨はソコじゃねェから深く追求すンな。結局、最適な姿ってのは単純なモデルに集中するンだよ」

打ち止め「常時泳ぐなら流線型なサバ、底魚であれば腹側が平らなハゼ、砂に潜り穴に潜むなら細いドジョウ……」


一方通行「ムダの無いヤツらだろ? パーツを含む体の造り全体が機能美とでも言うべき完成度に達してやがる」

打ち止め「ふむふむ。でもそれ美的センスの問題でもあるし断定は出来ないよ……、とミサカはミサカは要らぬ心配をしてみる」

一方通行「そォか? 不完全な生物と比較すりゃ誰でも同じ感想を持つンじゃねェの?」

打ち止め「……不完全? 洗練されて無いとか出来損ないとか?? そんなの生き物に掛けて良い言葉じゃないよ!!」


一方通行「今回は便宜的ってコトで聞き流せ。例えばクジラの仲間で、イッカクって知ってるだろ?」

打ち止め「……そりゃ、うん。長いツノを持ったオスの姿が有名な北極の海に棲んでる全長5mくらいの暴れん坊だよね」

一方通行「今オマエはツノっつったが、アレは牙だ。口の中から生えて歯肉や上アゴを突き破ってねじれながら伸びてンだから」

打ち止め「言い方が痛々しいね……。それで、オスだけがツノ……、牙が2m以上も伸びるってことにはどんな意味があるの?」


一方通行「明らかにはなってねェ。と言うより通常メスやガキには備わってねェ時点でそもそも必要性は無いはずだ」

打ち止め「ムダな装飾かあ……。成長段階で牙が肉を日に日に突き破って行けば感染症のリスクもきっと高いだろうに……」

一方通行「ただ、牙の長いオスは多くのメスを惹き付けンだと。オスっぽさの象徴としては機能してるのかも知れねェ」

打ち止め「ふむふむ。なんとなく、あなたの意図は判ったよ。そういう説明不能で理解できない生き物のお話をするんでしょ?」


一方通行「ンー……いや、まだイッカクの話止める気はねェぜ?」

打ち止め「そうなの? あ、いや、別に不満があるとかじゃないけど、ってミサカはミサカは慌てて取り繕ってみたり」

一方通行「今日はオマエの意見は聞かねェつったろ。好き勝手に解説してンだから茶々入れンじゃねェよ」

打ち止め「……、つまりスネてヒネてるのねってミサカはミサカは察しがいい子なので大人しく聞き手に徹してみたり」






522: 2012/03/29(木) 20:35:41.34 ID:4q9ID7HZ0

一方通行「好きに言っとけ。……さて、イッカクは不完全な造形のクジラっつー話。

       牙を持ってンだから当然だがイッカクはハクジラ目、とりわけ小型クジラのグループに属する。
       近縁にはベルーガ……、シロイルカやシロクジラって名前のほうが判るか?
       牙の折れたイッカクをベルーガと見間違う程度には似てるらしい。
       まァ、水族館の人気者と違ってイッカクは未だ謎の多いヤツではあるンだがな。

       なにしろオマエも言ってたが、北極の海に棲むクジラだから実在の確認そのものだって遅かった。
       公式には19世紀までUMA扱い、伝説の生き物だったンだと……。
       現在でもソコへ行くだけで冒険になるよォな極寒地帯にしか居ないコイツを調査すンのは並の難易度ではなく、
       故に様々なイメージを補完されて実態が語られている状態だと言ってイイだろォ」


打ち止め「……それって、悪く言えばデタラメ情報がいっぱいってこと? とミサカはミサカはクリティカルシンキングしてみたり」

一方通行「そォとも言える。例えば牙だが、かつてありゃオス同士の頃し合いの道具だと言われてた」

打ち止め「ネジれて尖ってるんだもん。しかもブンブン振り回してるんでしょ……、そう考えて当然だと思う」

一方通行「その他にも敵を追い払うための見せ掛け武器だとか、アンテナだとか、氷を穿つアイスピックだとか…」

打ち止め「なんとなく人間寄りな見方……。それで結局、正解っぽいのはオスがカッコつけるためのシンボルってだけなの?」

一方通行「イヤ、構造的に感覚器としての用を持つ可能性も指摘されてる。群れのボスにだけ意味がありそォな説だが…」


一方通行「イッカクは通常10頭程度の群れを作って行動すンだが、そこに明確なボスが居るかどォかは定かでは無い。
       ただ、オスの牙は長いほどメスを惹き付けるって話をしたろ?
       繁殖期には立派なモンを伸ばしたオスの周りにメスが群がって……、一種のハーレムが出来上がる。

       ところでイッカクも水生生物である以上、空気中の様子は把握し難いよな? 温度や気圧、風の様子などだが。
       仮にその手の情報を入手すりゃ海が荒れることを事前に感知したりエサのイカや魚の動きが予測可能だとすると
       牙が感覚器の役目を果たすって説と同時に、長ければ長いほどメスが集まってくる理由に説明が付く。

       つまり、水の外に出れないイッカクが牙を空に掲げることで空気中の情報を得てンじゃねェかと。
       そォであれば牙の長さに比例して得られる情報量が違うコトになるよな?
       群れで情報を共有すンなら、ゴミネタが数あっても邪魔なだけ。信頼出来ンのは最高のモノに限る。
       なら最も牙の長いオスだけが正義になるワケで、モテて当然っつー……、コレもイメージに過ぎねェがな」


打ち止め「確かにソレが正しければ、ボス以外のオスの牙は無用の長物……とミサカはミサカはウマイこと言ってみた」

一方通行「ただただ邪魔だろォな。ちなみにイッカクの歯は二本。オスの牙じゃない歯とメスの歯は上あごに埋もれたままだ」

打ち止め「噛んだり切ったりな普通の歯としての役割は全然無いんだね。モテるオスにしか需要が無いかもしれないし…」

一方通行「稀に二本とも牙になったり、メスなのに牙が生える場合もある。極レアな二本牙のメスの報告例もある」

打ち止め「メスにモテモテのメス……。若しくは『オスなんか要らない、だってわたくしにも牙があるんですもの』……なメス?」

一方通行「その辺りは報告例の少なさから言ってイレギュラーであり、ソコに意味を求めても詮無ェだろォけどな」






523: 2012/03/29(木) 20:40:38.54 ID:4q9ID7HZ0

打ち止め「なるほどね、ってミサカはミサカは邪魔なさかなの話のはずがクジラに終始しちゃったことを反省してみたり」

一方通行「邪魔な牙を持つ水生生物、何も間違ってねェだろ。氷の浮かぶ海での移動に捕食に、常に邪魔になるンだからよ」

打ち止め「そりゃわかるけど……、改めてヒトに喩えれば上唇を突き破った長さ80cmの前歯だもん」

一方通行「役に立たないとかムダってレベルじゃねェ。明らかに大きなマイナスだな」


打ち止め「でも、イッカクは今日まで種を繋いできたワケで決して最適化に失敗してないよねとミサカはミサカは再確認してみる」

一方通行「潜水時間や深海への対応能力、クジラには珍しく頭を自由に振ることが出来る、など有用な特技も多いしな」

打ち止め「いつか今よりも研究が進んだらあの牙のホントの意味が判るかも? とミサカはミサカは期待を口にしてみたり」

一方通行「さァな? 大昔はあの牙、ユニコーンの角だとか衝撃の杖だって名目で高額取引されてたンだぜ?」


打ち止め「イッカクが実在してるのすら判らない時代に? ……えーと、漂着した骨を拾って、とかそういうことかな」

一方通行「入手方法はおそらくそォだろ。そしてイッカクって存在が知られてねェからこそ、その手の大法螺が通用したンだよ」

打ち止め「ふむふむ。奇妙にネジれた長くて硬い不思議なモノだし、説得力はあったんだろうね」

一方通行「外見の齎すイメージってのはバカに出来ねェからな……。ンで、現在は保護動物でありながら狩猟の対象でもある」


打ち止め「あー。普通は獲っちゃダメだけど伝統的な生活を維持してる一部のヒトに限っては獲ってもいいよってヤツかな?」

一方通行「そォなると、保護する人間と狩る人間でそれぞれに適したイメージが用意され対立が始まる」

打ち止め「……あの、この話題続けても大丈夫? とミサカはミサカは一抹の不安を拭いきれなかったり」

一方通行「関係ねェ。……、牙で頃しあうってのが否定されたのも今から考えれば平和的な動物アピールの一環かも、とかな」


打ち止め「あの……、いや……」

一方通行「つまり、個々人の思惑で先入観を植え付けられてる可能性が否定できない現状で、未来の分析なンざ…」

打ち止め「そこーーーーまでーーーーー!!! ってミサカはミサカは強制終了を掛けてみたり!」

一方通行「ンだよ? ココからが本題じゃねェか……」


打ち止め「まだ語り足りないの? とミサカはミサカはそんなにネタが有るなら次回に取っといてとお願いしてみたり」

一方通行「そォかよ。じゃ次回は頭から、不自然で邪魔にしか思えない形状の生き物の宝庫、をテーマに行かせてもらうぜ?」

打ち止め「ヘンな生き物がいっぱい居る場所……、深海? ってミサカはミサカは発言を読み解いてみたり」

一方通行「そォ。どンな説明不能生物を扱うかは秘密だがな」



芳川桔梗「中途半端な所で話を終えられるとオチがつけにくいのだけれども。待ってる身にもなって欲しいわね」

番外個体「ガキみたいにキレた勢いだけで喋ってたからなー。よーし、次回は邪魔しまくってやろーぜ」




 ~おしまい~


524: 2012/03/29(木) 21:02:36.95 ID:4q9ID7HZ0

以上、第三十八回「回顧」でした。補足と言い訳を少しだけ

スッポンは当たり前ですけど脚があるので、魚の水槽に入れるとインパクト大です。カワイイです。
ただ、知らないうちに小魚やエビを食べちゃうので単独飼育が基本です。

イッカク・・・牙の話だけで終わっちゃったけど、けどアレはスゴイもん。意味ワカンナイもん。補足にならないけど。

そんな軽めの回でしたが今日はこの辺で。ではではまたー


531: 2012/04/11(水) 23:31:53.98 ID:DSDNV2np0

・・・何その暗黒星人進化説? とか何とか謎のメッセージから始まるおさかな話。今回も迷走してます。

第一パートの担当が上条さんとインデックスではなく謎の二人組なのでご注意を。

テーマは「ズレた」。 全然深い意味はありませんが、よろしければどうぞ

532: 2012/04/11(水) 23:34:36.10 ID:DSDNV2np0


                                      ☆

「ボス? こりゃ一体なんですか」  スイソウ?

「見て判らないバカにわざわざ説明してやるほど私はヒマじゃない」

「あ、いえ……。そりゃ私にだってコレが物質的生物的に魚だってことは判りますよ。そうではなくてですね…」

「水槽と魚。ソレが理解出来ているのにまだ何か疑問があるような部下に存在価値は無い。リストラ対象だな」 カチャ


「わぁあああ、待ってくださいボス! リストラも大概ですけどその手に握られた正体不明のメカメカしい物体はヤバ過ぎてっ!」

「美しいカラクリだろう。ここをヒトの腕にザクッとするとだ、先端が血管に絡みつき徐々にクルクルと巻き取っていくそうだぞ?」

「どういう理屈で?? 循環系でパスタごっこして何が面白いんですか!」

「無痛かつ無出血で致命的なダメージを与える、俄には信じ難いだろ? 丁度実験台を捜してたのだ喜べ協力させてやる」


「イヤですよ絶対イヤですよ!! 理不尽ですよ不条理ですよ御無体ですよっ! 最悪氏んじまうじゃないですか!?」

「それは罰ゲームを渋る芸人のマネか? 文字通りだが往生際が悪いな」 クルクル

「な、なんとか話題を変えてこの場を凌がないと…………あーっ! ぼ、ボス!! この魚はジャパニーズ・ドンコですよね?」

「テンパって心の声を口に出す。前世紀のボケだがまあ、古典に目を向けた姿勢に免じて答えてやる。それがどうした?」


「どぉー、どっ、ドンコは漢字で『鈍子』と書くとおり動きの少ないハゼ類の淡水魚ですが、観賞用には不向きではないですか?」

「バカ野郎の分際で詳しいな。だが、不向きとは聞き捨てならん。確たる目的も無く生物の可能性を狭めてどうする?」

「だって、当然ご存知でしょう? コイツは一日中全く動かないことだってあるんですよ? 見た目も土色で地味極まりないですし」

「そうか? 派手さやインパクト頼りのコンテンツが軒並み爆氏してる昨今、逆位置の地味や渋さを無視する訳にはいくまい?
『瑞々しさが抜けた魅力』を萌えに染まった若者に浸透させる好機が来ているのだよ。まあ、それもキャラ頼みには違いないが」


「はあ……、いきなり次元の違う話題になってますけど、要約するとボスはおっさん専?」

「ふむふむ、おかしいな。あくまで概論を説いただけで個人的な性癖の話をしたつもりはなかったのだが」 キリキリキリ カチッ

「だああああああっ、それ! とりあえず片付けてくださいボスぅ!!」

「ダメだ……と言いたい所だが、コイツは調整が難しい。面白いドンコの話など聞いていては到底作業に集中できんかもな」


「…………つまり命がけでおさかな話をしろ、と? ……、セヘラザードな気分ですよ」

「前置きは要らん」 クッ プシュー!

「はいはいはいっ! 早速それじゃドンコの楽しいマークさんがわかり易く解説して楽になります!!」

「……貴様、この程度の有事に平常心を保てぬそのザマでよく結社の中枢にいられるな。逆に感心するぞ」 コリコリコリ





533: 2012/04/11(水) 23:36:47.15 ID:DSDNV2np0


「な、何はともあれ基本を抑えておきましょう。ドンコはハゼ亜目ドンコ科の純淡水魚。純淡水魚って言葉は判りますよね?」

「当然だ。一生の内ただの一度も降海せず淡水で過ごし続ける魚、という意味だな」

「ええ。実は淡水ハゼ多しと言えどその大半は稚魚の時代にプランクトン生活を送っており、海まで一旦流されてしまうのですよ」

「シロウオやチチブやカワアナゴなどは遡上する魚なのだな。一方、ドンコは川で生まれ川で育つ、と」


「だからドンコはハゼなのに飼育の点で汽水や海水が一切必要ないんですよ。上手くすれば繁殖だって可能です」

「つまり最も手軽に長期飼育が可能なハゼの一種だと。ドンコめ、つぶれあんまん顔のクセにやるじゃないか」 フム

「クチビルゲルゲですし……、よく言えば味のある顔ですかね。また、多くのハゼ類と異なり腹ビレが吸盤状ではありません」

「むっ……、そのようだな。ヨシノボリやヌマチチブを水槽で飼うとガラス面にへばり付く姿が見れるが、アレが出来ないのか」


「ええ。吸盤は急流に体を持っていかれないよう石や底に固定するのに役立つモノですが、ドンコには必要ないのですよ」

「ほほう、なぜそう言える?」

「普段から流れを嫌っているからです。なるべく穏やかな河川の底、大抵は岩の下などに隠れて過ごしてるんです」

「なるほど。それなら大雨で多少水嵩が増しても仔細なかろうな。ならばこの水槽にも隠れ家を用意してやったほうが良いのか」


「どうですかね? コイツは水草並に動かない魚であると同時に、眼前のものには大きさを問わず襲い掛かる暴れん坊です」

「昼行灯と罵られるグータラなとっつぁんが闇夜に蠢く巨悪を裁く。ジャパニーズ好みのギャップ持ちキャラだが、だから何だ?」

「つまりドンコは非常に強い縄張り意識を持ってるんですよ。単独飼育でないと深刻なトラブルを巻き起こしちまうような」

「ふむ。まあ、ナマズやモクズガニなど、そういうのは特に珍しくも無いがな」


「ところがですよ? 単独飼育下のドンコは当然、周りに敵が居ません。すると恒常的に隠れなくなるんです」

「水槽内だから流される恐れも警戒するべき相手もいないので隠れなくてもいい。それをこの大福崩れは理解するというのか?」

「さあ? ただコイツはヒトに馴れやすく、個体によって甘えたりエサをねだるような仕草をします。知能の高さは相当でしょうね」

「虜囚にも生きる意思があるなら、それが最善の選択。見た目の割りにあざといのだな」


「纏めますと、この通りブサイクな魚ですが飼育は容易であり、賢くて愛嬌もあるので趣味に合うならオススメな魚種かと」

「ん? 最初と意見が変わってるようだが、この短時間で変節したか?」

「まさか。ドンコが好きな人には向いてるって話ですよ。ぶっちゃけ私には、動かない意地汚い地味な魚を飼う意味が判らな…」

「貴様の安い命は解説の行方次第だったことを忘れたか? 仮にもコイツは私の愛玩生物なのだぞ」 ギョルギョルギョルギョル







534: 2012/04/11(水) 23:37:44.38 ID:DSDNV2np0

「ちょちょ、ちょっとボスっ!! あーっ、そうです! そもそも、どうしていきなり水槽なんて始める気になったんですか!?」

「ん? ああ、それは学園都市に出向いた折に立ち寄ったとあるアクアリウムショップの店長に薦められたからだが何か?」

「えっと……、店長って、店長ってまさかあの店のオーナーってあなたまさかっ!?」

「全く、ヒトを喰ったヤツだ。真名を都市の看板に掲げ、更に諱で商売しながら世界中の魔術師を煙に撒き続けていたのだから」


「そんな御気楽な話じゃないですよ!! 何を勝手に決定的なソロ活動してるんですボス!?」

「勘違いするな。こちらは店員を質問攻めしただけの善良な客、向こうは呼ばれて出てきた店主に過ぎんよ」

「…………、そんな剣呑な『店長を呼べ!』は地球の為にも人類の為にもよくないです!!」

「予定調和を楽しめよ。……まあ、そんなこんなの末、店側から『迷惑をかけたお詫び』にと水槽を貰ったのだよ」


「はぁ……、しかしそりゃまた随分太っ腹な大魔導師ですね。結構¥するんでしょ、こういうの?」

「庶民目線で考えるな、格が知れるぞ? で、借りを作ったままではいかんので代わりに魚を購入しようと申し出たのだが」

「貸し借りなんてのも随分下世話な発想ですがね。それと、ドンコなんて水槽に比べたら全然安い魚ですけど……?」

「コレは店長のオススメだと言ったろう? ……実態はこの私を誘導して判じ物を解かせるという、悪趣味が過ぎた遊びだがな」


「判じ物? つまり、アチラさんがこの水槽にこのドンコを薦めた。その意図を読み解けって事ですか?」

「私に相応しい魚は何であるか、と問うと同時に水槽のセッティングとドンコの投入が終わっていたのだから、そうなのであろう」

「一歩間違えたら押し売りですね。しかし魚に詳しくないボスを相手にドンコで謎を掛けるってのは少々違和感がありますが」

「ドコまで先を読まれたか想像も付かん。貴様に禁書目録のおさかなレクチャーを受けさせておいたのは単なる偶然だっだが、
結局それは謎を解く道筋が予め用意されていたという事だ。してみると何もかもヤツの掌の上だったのかも知れんな」


「……遊び、と仰いましたけどまるで鎬の削り合いですね。私ら程度じゃ追いつかない段階のお戯れなんでしょうか」

「テキトーに喋ってるのだからテキトーに聞き流せ。物事は誠実に受け止めるべきだが、常に深刻に捉えるべきではないのだ」

「はあ……、ところでボス。結論といいますかその、なぞなぞの答えはお判りなんですよね?」

「なんだ、聞きたいのか?」


「それは……………、」

「貴様は雑誌のオマケのクロスワードや間違い探し、自力で解けたとしても答えを確認せずにはいられないタイプか?」 スッ

「そ、そんな面倒な部下は要らないって展開ならさっき聞きましたから!!」

「命の危機程度でいちいち喚くな、話がちっとも進まんじゃないか。そんなに氏にたくないのなら自分の考えを先に言ってみろ」


「へっ……、はいっ?」

「みなまで言わすな愚か者。貴様の足りない考察をこの私が直々に評価してやるんだ、さっさとしろ」

「………………、会話術の巧みさも組織のボスには必要なんですねー、んぎゃっ!!! やりますらりますうむううるう!!」

「おっと、余計な事を言うものだからついうっかり装置が刺さってしまったな。……、起動させて欲しくなかろう?」







535: 2012/04/11(水) 23:38:48.99 ID:DSDNV2np0

「だ、だ、だ、第一に水槽は我々の業界的に、内と外を分ける……、区切られた場と考えるべきでしょう」

「まあ妥当ではある。中には水が満たされ完全に外と異世界になってる箱庭だからな」

「その水もただ水道を捻って出てくるものではなく、目的の為に特別に調整された水です。要するにコイツは儀式場ですね」

「ん? おい、結論を逸るな。どれだけ共通点があったところで魔術とは模倣であり剽窃であり一面の見方に過ぎんぞ?」


「その通りです。が、だからこそ完全な間違いが存在し得ず、ある意味『言ったモノ勝ち』なんですよね」

「二次創作を参考にした小説のようなもので、力の総量と引き換えに自由度をあげることも可能……、話がズレてるな」

「……、戻しましょう。さて儀式場、と考えることも出来るこの箱庭には一匹のドンコが入っています」

「うむ。しかし見れば見るほど味のあるヤツだな。吸盤状になっていない腹ビレはあのように使うのか」


「頭部を持ち上げる際に、ジャパンの箸置きの原理で腹ビレを垂直に立てるんですね」

「底と体の摩擦を減らす意味があるのだろう。両の胸ビレをワシャワシャと振って這うように移動する際など便利かもしれん」

「しかし何度も言いますが、コイツが活発に動く姿はなかなか見られませんがね」

「いや、底魚だから水質悪化にはやはり弱かろう? 大型甲殻類などと共泳させてもいい。動く姿などいつでも見れるさ」


「ボス、そりゃ禁じ手でしょ!? ペットに特別な行動を取らせたいがために、生命の危険に晒すだなんて…」

「バカ者、あくまで仮定の話だ。……下僕相手ならともかく、愛玩生物を鬼畜実験の対象にするほど私は壊れてないぞ?」

「ですよね……。と、とにかくです。特別に調整された環境の中で殆ど活動せず外の様子を伺う者、を私たちは今見てるワケで」

「ほうほう。つまりこれは窓の無いビル、乃至はその中枢に位置するとされる文字通りの”水槽”を見立てていると?」


「そうなるとこのへちゃむくれがアレ……。この推理に、ある決定的な問題点が無ければそれで話が通ったんですが」

「ドンコが純淡水魚だという事実だな? 確かに、彼奴の人生を象るにこれほど相応しくない魚は居るまい」

「誰よりも魔術に精通したが故に、魔術の底を痛感し魔術を捨てた男。せめて遡上ハゼならその『変節』を示しえたのですがね」

「ならば我々は外から何を見ていることになる? 箱庭で生まれ育つ存在とは何の隠喩か、思い当たるモノがあるのだろう?」


「それは壁に覆われた異世界で生み出される者たち、学園都市と能力者を表している……と、誰もが思いつくだろう事ですが」

「先の仮定の問題点、純淡水魚の下りを箱入りの能力者に当て嵌めたか。では、それが私に相応しいとはどういうことだ?」

「そうですね……、学園都市は外界と隔絶された環境でありつつ、同時に透明性の高い組織であることを謳っています」

「うむ、あの都市はあくまでも普通の世界の一部。アレほどの異常が……、確かに日常に紛れ込んだ異世界。水槽と同じだ」


「例として最高機密の一種であるはずの能力の情報を、ごくさわりだけとは言え一般に公開しているんですよね」

「確かに秘密主義に過ぎる魔術業界と比べるべくもないある種の明るさがあるのは否定出来ん」

「そしてレベルの高い能力者は、ドンコと同じで見た目や普段の様子からでは全く推し量れない凶暴さ、破壊力を秘め…」

「語弊があるな。能力者は魔術師にとって相容れぬ存在だが、それはヤツらの言う強度とは然程関係ないだろう?」







536: 2012/04/11(水) 23:39:47.33 ID:DSDNV2np0


「……、ボス?」

「例えばだが、能力なんて『スプーン曲げるならペンチが、火が欲しけりゃライターが』あれば必要ないとのセリフ、どう思う?」

「誰の言葉か知りませんが、本気で言ってるなら身包み剥いで山奥にでも捨ててやりたい程度のバカですね」

「それがどれほど我々魔術師にとって、いや人類全体にとって恐るべき意味を持つか……、その身で学ばせてやるためにもな」


「人間を物理的な方法で即氏させるために必要な最小限の力、それはスプーンを曲げられる力の何百分の一なんでしょうね?」

「”その程度”のことであれば学園都市の学生、殆どが可能らしい。全くドコまでもフザケタ話だ」

「自覚の無いまま振るわれる異能。……実のところ、水槽の外から見ているだけでも寒気がしますよ」

「魔術は既存のルールの裏技。……そう。結局、既存のルールの一部なのだからな」


「素人が見れば、通常の物理法則を越えて常識を覆す様は魔術も能力も変わらないんでしょうが、本質は全く違う」

「魔術が想定する世界には能力など存在し得ない。当たり前だ、ヤツらは手前勝手に法則を拵えているのだから」

「表裏問わずあくまで世界の構成要素が効果対象たる魔術には、故にスプーンを曲げる能力を直接防ぐ手段が存在しない」

「より深刻な表現をするなら学園都市の学生180万人はほぼ全員、最強の魔術師を倒せてしまう力を持っている、だな」


「血反吐を吐き涙を啜り、全てを捨てた上で長年の修行に耐え、毫にも満たない確率を生き抜いてやっと得た至上の力が……」

「ぽんぽんと流れ作業で育成される学生たちの異能に劣るのだ。……、納得出来る者など居ないさ」

「完全絶対防御を魔術で構築しようとも、この世の法則ではない能力は守備範囲外。将棋で王将を放り投げられるようなもの」

「だからこそ魔術師が能力者と戦う場合、努めて魔術のルールで戦うのだがな。陸で勝てないなら水に引き込めば良いのだよ」


「……その考えで行くとこのドンコ、魔術師を表す記号って線が出てきますね」

「我々は、この水槽を見るのと同様に彼奴を、学園都市を、能力者を高みから観察しているつもりだった」

「ですが実態は、壁を通して監視しあう関係……、にも満たない。なにせ我々は外ではなく内だったのですから」

「水の中なら無敵も目指せるが陸に揚げられれば常に無力。そんな我々など、既に観賞の役にしか立たぬ……、か」 フン


「そのようにミスリードを促された可能性もありますがね……。少々皮肉が効き過ぎの感がありますし」

「かも知れん。朝から晩までパタパタするだけのブサイク魚一匹で魔術業界全体にケンカを売るなど狂気の沙汰だしな」

「彼は元から売ってますけどね。……でもやはり、我々が考え過ぎただけだと思いますよ? 何よりそう思ったほうが平和です」

「……そうだな。ともあれこのドンコに罪は無い。せいぜい可愛がって大事に育ててやろうじゃないか」





「ところでボス? この、腕に刺さったメカ的なモノ……、いつになったら抜いていただけるのでしょうか?」 エヘッ

「ん? ああ、勝手に抜け。…………、手順を間違えると強制起動するから気を付けろよ、と言っておいたほうが良かったか?」








537: 2012/04/11(水) 23:41:37.36 ID:DSDNV2np0


                                     ☆

御坂「インターホン連打おじさん……、名門校に通う本物のお嬢様……って、コレ都市伝説でもなんでもなくない??」

白井「工事中のビル内に蠢く怪しい影やら、マンホールおじさんとやらも……、ただの作業中の勤労者ではないのですの?」

初春「佐天さんがネタに困った時の為にストックしといたという秘蔵の超C級都市伝説ノート……、さすがにヒドいですね」

佐天「いやいや。一見なんの変哲もない古い屋敷にこそ、悪魔は潜むモノなんです! 御坂さんにも心当たりあるでしょ?」


御坂「くだらない噂話だと思ったら大事件の発端だった、とか? まあ……、確かにそういうの飽きるほど経験してるわね」

初春「まあ甘く評価すれば、何万件ものゴミ情報の中にはアタリが絶対に無いとは言えず、馬券拾い程度の意味はあるのかも」

白井「馬券拾いってなんですの? ……、褒められた行為でないのはニュアンスで伝わりますが」

佐天「初春、その喩えには悪意しか感じないよ……。この中であたしだけが都市伝説に詳しいっての、結構自慢だけどなあ」


白井「ぬ~ん? 都市伝説が無益かどうかはさておき、自慢などされてはコッチはたまったものじゃありませんわよ?」

佐天「へっ? あー……、騒動の発端になっちゃうこともありましたね。そーいうのはもちろん反省してまーすってば」

御坂「私はあくまでソースのひとつとして、当たればデカイけど手酷いハズレが殆ど、って情報はアリだと……思うけどさ」

初春「ハイリスクノータリーンですからね。白井さんの気持ちも分らなくないです……」


佐天「あ、あれ……? 思ったより擁護が少ない」 オカシイナー ?

御坂「それは仕方がないわよ佐天さん。……、でもみんなは別に都市伝説自体を非難してるワケじゃないのよね?」

初春「面白がって聞く分には暇つぶしになりますから、根絶やしに殲滅せよっ、撲滅せよっ! とか思ってはいませんよ」 ニコッ

白井「わたくしたちが問題視しているのは、噂を額面通りに受け取るおバカや真相を暴こうと危険な行動に出る輩ですの」


佐天「あーっ、そっかそっか。つまりふたりはジャッジメントだから素直に夢を追えないんだなー」

白井「…………、いちいち癇に障りますわね。自分の非を棚に上げて他人を哀れむ心得違い、教育的指導が必要ですの!!」

初春「えーっと……、佐天さんは変に煽り過ぎですし白井さんは唐突に怒り過ぎですよー。ケンカはダメです」 メッ

御坂「初春さんも人のこと言えないような……でも、そうね。煽りや怒りなんかで盛り上がるより、あおりやいかり……」


御坂「アオリイカとヤリイカの話で盛り上がったほうがいいわよね!」 ナンチャッテ





佐天「うっわー……」

初春「荒れ模様をムリな話題変更で誤魔化すのは猥雑で卑怯で最低ですけど……、コレはそんなレベルじゃないです!」

白井「ええ、これぞお姉様の真骨頂。つまらぬ諍いを険悪な雰囲気も残さず、双方の顔を立てつつ治める話術……流石ですの」





538: 2012/04/11(水) 23:42:50.16 ID:DSDNV2np0


                                     ☆

打ち止め「ふーん。デメギニスってすごいんだねってミサカはミサカは大袈裟に驚いてみたり」

一方通行「オマエの耳は飾りモンかよ? ありゃニギスの仲間。シロギス、つまりキスに似た魚の仲間だっつってンだろォが」

 「うんうん。インデックスさんから言わせて貰うと、漢字で『出目似鱚』って書けばもう間違えることはないかも」


    「あのー…………、家主を一切無視して繰り広げられるおさかな話ってどうなの?って当麻は当麻は意見するけど」


 「……えーっと、だからね? 出目、つまりびょーんと伸びた目を保護するための透明な膜が頭部を覆ってるんだよ」

一方通行「脳味噌が透けてると感じても仕方ねェ異形だよな。上を見続けるのに都合良く進化した結果なンだろォが」

打ち止め「それなら目は前を向いたまま姿勢ごと上を向くほうが自然じゃないの? ってミサカはミサカは正論を述べてみたり」


     「俺の話を聞くんだよ! 家主ほったらかしなんてありえないかも! えーと…………、俺だよ俺、俺だもん!」


一方通行「チッ……、まァともかく深海では光だけ見えりゃ事足りるし、光源は上にしか無ェだろ?」

 「そして深海生物はなるべくエネルギー消費を抑えられるようなスタイルであることが多いんだよ」

打ち止め「ふーん。そういうこと全部ひっくるめた答えのひとつが、あんな変な顔なのねってミサカはミサカは頷いてみる」


    「……つかよォ? オマエさん方、ちっとばっか調子に乗りスギでせゥ? 上条さンの話ば聞きンさィやァ!!!」










539: 2012/04/11(水) 23:44:30.76 ID:DSDNV2np0

打ち止め「……あの、さすがに今のは色んな方面からお叱りを受けるレベルだよ、とミサカはミサカはスルー失敗してみたり」

一方通行「…………、あらゆる意味で気にする必要ねェンだが、止まっちまったら仕方ねェな」

 「とうま? 微妙な物真似のゴリ押しでお客さまに気を使わせるのは良くないかも」


     「ちょっ……、なんなのこの疎外感!? ……と、とにかく今すぐナウこの状況に至った経緯を説明しろよ!」


 「だーかーら、さっきも言ったよとうま? 私がオマネキしたんだってば」

打ち止め「今日は同居人のテンションが異常でいつもの部屋でお話するのは危険だったの、とミサカはミサカは要約してみる」

 「だけど二人はおさかな話が出来るような、落ち着けて且つ疚しくないほかの場所に心当たりが無かったんだってさ」

打ち止め「うんうん。それでね、ココに電話したら『大丈夫だよ! 今すぐ来ればいいかも』って…」


     「んな気軽にウェルカムな間柄じゃねーぞ!? 大体、話すると危険だなんてちょっと大袈裟過ぎだろ!」


打ち止め「それはあの二人を知らないから言えるセリフ、ってミサカはミサカはテンプレ的な返答をしてみたり」

一方通行「……リュウグウノツカイ、覚えてンだろ? ヤツらはただ話にオチを付ける為だけにアレを獲って来たンだぜ?」

打ち止め「今回は変なフラグも立ってたし、テーマが『あり得ない深海生物』だったし、ヨミカワにも迷惑かけたくなかったから」

 「魚獲ったどー!オチだね。……それってひょっとして、美味しいお魚をテーマにしたらみんながすっごくハッピーな結末かも?」

打ち止め「それはムリ。なぜならオチ全般が基本的にこの人へのイヤガラセだから、とミサカはミサカは残念な報告をする」


一方通行「ちなみに深海魚一般が食味の点で劣るなンて事はねェから気を付けろ。……さて、余計な時間喰ったが続けるぜ?」

打ち止め「あ、じゃあせっかくだから! あり得なくて美味しい深海生物を教えて欲しいってミサカはミサカは頼んでみたり」

一方通行「……。アンコウやギンダラ、キンメダイだって深海魚。食味だけに注目すりゃ幾らでも挙げられるが…」

 「分りやすいインパクトが欲しいんだね。美味しいのにグロ過ぎとか、美味しいけど食べちゃダメとか……」


一方通行「フム……。中深層に棲む魚の典型的な特徴、覚えてるだろ?」

打ち止め「えーっと……、骨や筋肉を減らすかわりに水分や油分を増やして、目と口は大きく、体色は透明や銀色だっけ?」

一方通行「あァ。気体……、つまり浮き袋に頼らず浮力を得、また僅かな光を活用するべく進化した結果なンだが…」

 「浮き袋云々~は、高水圧下では気体による浮力が期待出来ないからなのと、水圧差で可哀相な姿になるのを防ぐ為だね」


一方通行「そン中ではハダカイワシなどが、ワリとオカシな姿で且つ普通に喰える魚だな」

 「ホウライエソも頑張れば……、食べるトコがないかな? 噛み付き特化型のキュートなおさかななんだけど」

一方通行「牙が伸びすぎて口が閉じられねェヤツをキュートって呼ぶセンスは……、正直理解不能だが?」

 「そ、それを言うならハダカイワシも表皮が弱く水揚げでズルっと剥けちゃうからあんな姿なだけで、海中では別に普通かも!」


     「ほうほう、ハダカに引ん剥かれる噛み付き魔か……。一度味見したいようなそうでもないような」 ボソッ







540: 2012/04/11(水) 23:46:54.88 ID:DSDNV2np0

一方通行「…………、うるせェの二匹がジャレてる隙に次に行くか」                             <フコーダー

打ち止め「頭部からの出血は多めに見えるっていうか実際大量だね……、ってミサカはミサカはそんなことより次はなあに?」

一方通行「中深層には辛うじて光が届きそれなりの生物層が展開されてンだが、真の深淵はまだ奥だ」

打ち止め「ふむふむふむ。……垂直方向へ、つまり浅い海との間の移動だって生息域が深すぎたら難しいもんね」


一方通行「まァな。確固たる定義があるワケじゃねェが、今までのはおおよそ水深1000m程度迄の話だと思っとけ」

打ち止め「もっと深いトコの生き物は更におかしな特徴が……、コレ難しい話になる? とミサカはミサカは心配してみる」

一方通行「難解で有用な解説が聞きたけりゃヨソ当たれ。アホガキに説法するほどオレはヒマじゃねェ」

打ち止め「…………、了解っ! ってミサカはミサカは暗闇の奥を色々想像しつつ聴講準備を完了してみたり」



一方通行「……さて、繰り返し触れてるよォに太陽光が届く限界深度は水深1000m程度迄。それより下は暗黒の世界だ。

       生態系は生産と消費、そして分解で成り立つ。無光は生産者、主に植物にとって致命的な環境っつーのは解るな?
       サンゴの話でもやったが一般に光合成は水深数十メートルが限界とされる。
       つっても例えば水深100mとか辺りに棲む魚が生産の恩恵に与れねェワケじゃねェ。海には波や流れがあンだろ。
       表層で作られた栄養や酸素は水が掻き回されンのと同時に海全体に満遍なく広がっていこうとするからな。

       だが、深海の始まり水深200m付近にはソレを妨げる存在がある。底に向け一気に水温が降下する温度跳層だ。
       この部分が障壁となり、浅い海で頻繁に水が掻き回されていても深海には影響が及ばねェンだ。

       つまり当然だが深海は酸素や栄養が慢性的に不足し、それらを直接得るには浅い海への移動が必要になる。
       中深層の魚が浅い海へ移動する日周鉛直運動にはそォした背景がある。

       そォなるとオマエの言う、浅層への移動が困難な深度に生物が居ンのは不思議じゃねェか?
       酸素と栄養が足りンのか、足りるとしたらソレは何故か? ……、答えは暗黒の世界ってトコにある。

       マリンスノーって言葉、知ってるか? 海を漂う視認可能な有機物の残骸物質……、微生物その他のダンゴだな。
       コレは一応個体、故に温度跳層を越えて深海奥底へ降り積もってく。
       深海に於けるエサの不足を補う面では表層生産の間接的な恩恵と言えるが、実は良いコトばかりでも無い。
       生態系の構成要素のひとつ、分解者たる細菌が有機物を分解する際に多くの酸素を消費するからだ。
       充分な供給が無い以上、タダでさえ不足しがちな深海の酸素濃度はマリンスノーによって更に低下する。
       実際に中深層には酸素極小層と呼ばれる範囲があり、ソコには生物が殆どいねェ。

       ところが更に深度を増し太陽光が一切届かなくなるとその分解者すらも耐え切れず姿を消してく。
       すると細菌の減少に合わせ海水全体での拡散効果によって酸素濃度が少しずつ回復する。
       ソレにつれて生物数も多少増加すンだとよ。細菌にとってすら厳しい環境だってのにな……。

       つーワケで、水深1000m以下は満足な生産も分解も無く、ただ消費者が居る世界ってコトなンだが、理解したか?」


打ち止め「久々の長々とした解説でちょっと難しいけど、余裕だよ! とミサカはミサカは虚勢を張ってみたり」

一方通行「解ったのか解ってねェのか解ンねェコトは解った……。ンじゃそンな極端な世界の住人たちの話に行くぞ」

打ち止め「ほぼ食べる子しか居ない極寒暗黒世界ね、とミサカはミサカは大事な何かを忘れつつ今後の展開に期待したり!」



     「ほ、ほらインデックスさん? 俺なんか齧ってるとお前を置いてドンドン話が先に進んじまうぞ? なっ??」

 「それがとうまの暴言を許す理由にはならないんだよ!! 喰いあらためるんだよ!!!」








541: 2012/04/11(水) 23:48:27.50 ID:DSDNV2np0

一方通行「さて光が届かない、そして常にエサが満足にあるとは言えない深度に棲む生物とはどンなモノか? 予想してみろ」

打ち止め「ふぇっ!? えーっと、あの、ほら……」

一方通行「……、要らねェトコ削って、要るトコデカくするって考えろ」

打ち止め「………………、ふむふむ。というと、光が届かないから受光器官は必要ない。だから退化しちゃう?」


一方通行「基本だよな。深海に限らず土中や洞窟の生物は目が非常に小せェか、又は痕跡しか残ってねェヤツが多い」

打ち止め「深海魚じゃないけど、泥の中に棲むワラスボとかも目が無いもんねってミサカはミサカは例示してみる」

一方通行「だが注意しろ? ほぼ全ての深海魚は発光する。ソレを確認する為にも受光器官は完全に無くなるワケじゃねェ」

打ち止め「ふーん。エサを獲ったり仲間を見つけたりするために光るのかな? 真っ暗だから弱い光でも目立つだろうし…」


一方通行「逆に光ることで姿を消すコトも出来るし、仲間にしか見えねェ色で発光すりゃ敵に気付かれずに合図を送れるよな」

打ち止め「なるほどね。じゃあ、あり得ない光り方の深海魚もいる? ってミサカはミサカは本題を忘れてなかったり」

一方通行「……、発光部位も用途も様々なンで、あり得ねェってほど尖ったヤツは……、オオクチホシエソはそォかもな」

打ち止め「ほー? どんなおさかななのかなってミサカはミサカはそろそろカワイイ子を期待してみたり」


一方通行「所謂クラゲや甲殻類なら深海にもビジュアルで勝負出来ンのが居るが、オオクチホシエソは魚だぜ……?」

打ち止め「じゃあやっぱり名前の通りお口が大きくて体はブヨブヨでなんじゃこりゃ?な形なのね……、うん。それで?」

一方通行「この魚は中深層からそれ以下に分布し、発光部位は眼下。光の色は赤外線に片足突っ込ンだ赤だ」

打ち止め「ふんふん」


一方通行「……ところで、ホタルイカやミオドコーパなど、生物発光は一般に青系が多い気がしねェか?」

打ち止め「言われてみればそうかもね……って、まさかもしかしてその魚があり得ないのは赤く光るコトだけなの?」

一方通行「そォだが、大したコトねェと思うか? プールの中思い浮かべてみろ。水は青以外の光を通しにくいンだぜ?」

打ち止め「うん。確かに視界全体が青っぽくなるよねと、ミサカはミサカは話の展開に不安を覚えながら返答してみたり」


一方通行「多くの発光生物が青っぽく光ンのも、水中で出来るだけ遠くへ光を届けンのに都合がイイからだ」

打ち止め「ふむふむ。そんな中オオクチホシエソが赤く光るのは何か利点があるの? とミサカはミサカは一応聞いてみる」


一方通行「大アリだ、それは何か? 生物発光ぐらいしか光るモンが無い深海では受光器官はソレを捉えられれば充分。
       つまり要らねェ部分は削るの原則に従い、多くの深海魚は生物発光の代表色、青しか感知出来ねェンだ。
       そンな中オオクチホシエソは赤く光り(同時に緑色光も放つ)、また赤色光を感知する器官を持つ。
       殆ど赤外線レベルのヤツらの光は他の生物には全く見えず、故に一方的に標的をロックオン出来ンだよ。
       また、繁殖期など同種間のコンタクトが必要な場合にも、捕食者に見つかることなく的確に相手を探せる。
       ……、チートだと思わねェか? 懐中電灯でサバゲーしてる中、一人だけ暗視ゴーグル持ってるよォなモンだぜ?」






542: 2012/04/11(水) 23:52:36.59 ID:DSDNV2np0

打ち止め「そこまで言われれば凄過ぎかな……、とミサカはミサカはしぶしぶ驚嘆してみたり」

一方通行「……、まァイイ。ちなみにコイツは体内に葉緑素を持ってる。赤色と関係あるかどォかは知らねェが」

打ち止め「変な子っ! 暗闇で光合成なんて出来るはずないから、何か別の意味があるのかな?」

一方通行「さァな……。補足だが、練り物の原料になるヒメ目のエソとワニトカゲギス目のオオクチホシエソは全くの別種だ」

打ち止め「ミサカは基準になるエソ?を知らないからふーん、としか……とミサカはミサカは気の無い返事をする」

一方通行「名前を知らねェだけで普通に喰ってンだがな。メロやメルルーサだって今じゃ一般に知られてるが…」



 「ちょっと昔は名前を隠したり別名で呼んだりしてたんだよね。深海魚って言葉にゲテモノ感があるからかもだけど」

一方通行「チッ………………。なンだよ、もォ咀嚼完了か?」

 「なんのこと?? そんなことより、とっても面白いお話なんだけどちょっと長すぎるかも。そろそろ終わって欲しいんだよ」

一方通行「……はァ? フザけンな!! まだ予定の二割も消化してねェぞ!?」


 「ペースが遅いんだよ! 大体、超深海のオモシロ話なら6000m以深の魚とか古細菌とかを最初に触れなきゃダメダメかも!」

一方通行「…………、オイオイ何だよオマエ? このオレにダメ出したァ、一体ドコのナニサマのツモリですかァ!!」

 「上条さん家のインデックス様なんだよ!!!」

打ち止め「はいそこまで! ケンカは一番ダメでしょ? ……ところで当の家主さまはドコに? とミサカはミサカは尋ねてみる」



 「とうまなら宅配便のお兄さんの相手してるんだよ。随分大きな荷物が届いてるみたい」 クール?

一方通行「……荷物だと? 誰からだ?」

 <ゴクローサマー

    「……よっと。えー、送り主はベルフラワースト・ギフトサービス。宛先はウチで宛名がイポツコ様ってコレ、一方通行だろ」


一方通行「チッ……、万が一居場所を突き止められても番外個体はココへ来たがらねェだろォと踏ンでたンだが」

打ち止め「まさか宅配とはね。安心してたのに……、とミサカはミサカは、それはともかく箱の中身が気になる!」

    「え、何? 開けていいのかよ? ……、ほいほい。………………おっ! コレは真空パックの…」

打ち止め「……見事な魚のお造りだね、とミサカはミサカはコレ何のお造りなんだろ? とみんなに意見を求めてみたり」








543: 2012/04/11(水) 23:56:08.12 ID:DSDNV2np0

一方通行「この極端に白い身は……、恐らくアブラボウズ……、イヤ待て! かすかに残った皮に棘状のウロコ……」

 「うん、これは多分バラムツかも。流通が禁止されてるけど、とっても美味しいって噂の深海魚なんだよ」

    「へえ~……。んじゃ、さっきから話に出てた二人組がわざわざ自力で獲って捌いたってのかよ? スゴイな……」

打ち止め「あの二人はそういう人たちだから……。それで、コレどうするの? とミサカはミサカは疑問を投げかけてみる」


一方通行「……場所提供者へのプレゼントだ、処理は任せる。バラムツがどォ危険かはそこのシスターなら知ってンだろ?」

 「うん。食べ過ぎ注意……、っていうか食べちゃいけない魚かも。でも美味しいらしいよ? すごく美味しいらしいよ!?」

    「なんだよそれ……、毒でもあんのか? んなもん貰っても困るんですけど??」

一方通行「心配すンな。毒的な成分は無ェし余程運が悪くねェ限り、度を越した量を喰わねェ限りは氏にゃしねェハズだ」


 「そ、そうだよね! この切り身の厚さだと……、三切れなら大丈夫かも! それ以上食べさえしなければ…………」

一方通行「そンなモンだろォな……ま、好きにしろ」 ガタッ

打ち止め「えっ、あ、待ってよ!……。では今日は突然お邪魔しました、ってミサカはミサカはお先に失礼いたします!」 ペコッ

    「ん、帰んのか? 良く解らんが、ともかくお刺身ありがとなー……」 アデュー








「嵐のように去っていったなアイツら……。で、インデックスさん? コレ多分お造りだけで5kgくらいありそうなんですけど」

「二人で食べるにはちょっと多いかも。……あっ、いつかのリュウグウノツカイのときみたいに短髪たち呼べばいいんだよ!」

「……ふむ、そうだな。御坂たちには日頃世話になってるし、お礼代わりにちょうど良いかもな。電話してみるよ」  <Pipipi

「あと、あいさも食べるでしょ?」

姫神「美味しいなら。いただく」







打ち止め「ちょっと待ってよーってミサカはミサカはせっかくだから一口くらい食べてから帰っても良かったのにって思ってたり」

一方通行「食べたかったら勝手にすりゃイイ、今からでも戻れよ。……ただ、今回の悪質なオチに巻き込まれるだけだぜ?」

打ち止め「ほぇ? でも毒があるわけでもなく、ちょっとなら食べてもいいんでしょ? とミサカはミサカは復唱してみたり」

一方通行「あァ、喰ってもまず氏にはしねェよ。……、社会的生命は絶たれるかもしれねェがな」



 ~おしまい~






544: 2012/04/12(木) 00:20:36.30 ID:ZSJL7ejt0

以上、第三十九回「ズレた」でした。勢いに任せすぎかしらん・・・

今回は補足したい部分が多すぎるのですが、我慢してちょっとだけ

第一パート、ドンコと呼ばれる魚はたくさんいます。ハゼ類の比較的大きいのをまとめてドンコって呼んじゃったり
     エゾイソアイナメって海の魚をドンコと呼んでたり。今回のドンコは標準和名「ドンコ」なのであしからず。

第二パート、ヤリイカとアオリイカはとっても近い仲間ですね。

第三パート、インデックスさんがぽろっと言ってた古細菌。コレこそ地球上で一番オカシなヤツらなのですが
     凄すぎて手に余るので今回はパス。大雑把に言えば、生き物が生きていけない場所を好む生き物・・・?
     あと、バラムツとアブラソコムツは食べないほうがいいと思う。何が起こるかは調べればすぐわかります。

というわけで、最初の注意書きに面白くない回は飛ばしてくださいって書いとけば良かったなーとか思いつつ、今日はこの辺で
ではではまたー

545: 2012/04/12(木) 08:25:43.48 ID:pYm3aiTDO
乙です
深海魚リクした者だけどハダカイワシとホウライエソくらいしかわかんなかったぜ…orz

アブラソコムツはかなり美味いらしいから一度食べてみたいんだが、
その名の通り油分が多く、消化しにくいどころか下剤的な作用があるのでたくさん食べると…ゴニョゴニョ

548: 2012/04/15(日) 08:45:27.53 ID:YN/Ny6ZDO
乙。

引用元: おさかな目録?