1: 2015/02/08(日) 22:04:18 ID:/kk7iBG2
表向きは花屋を営む私の実家には、誰にも言えない裏の顔があった。

父「これが不老不氏の秘薬だ」

父は純潔種の魔法使い。
この世界の万物をも歪める力を持っている。

母は誇り高きエルフ族。
エルフの血には不老不氏の力が宿っているという。

私は生まれながらにして、不氏の存在となった。

齢二十歳を過ぎれば、私の成長は止まり、以降永遠に老いることなく生き続けるのだろう。

魔法使い……無意識に世界の真理に触れる者。
figma アイドルマスター シンデレラガールズ 渋谷凛 ワンダーフェスティバル2013冬 先行発売品
2: 2015/02/08(日) 22:06:18 ID:/kk7iBG2
私達は別に戦ったりなんてしない。
戦う必要もない。

ファンタジーで耳にする魔法使いとは違うのだ。

たった一人の魔法使いが生を冒涜し、氏すら凌駕していく。

だからその数は、世界に僅かしか存在しない。

魔法使いには、永久の孤独が付き物。

魔法使いの敵は孤独だ。

幸いにも父には永遠を共にする相手がいる。

だが……、私にはいない。

やがて自立する時がきて、誰かを愛することがあったとしても……

愛した人は、私を残して必ず先に逝くだろう。

私には耐えられない現実。

3: 2015/02/08(日) 22:07:21 ID:/kk7iBG2
父「私と母さんはこの世界の人間ではない。やがては元の世界に帰る。だが凛、お前は自分で選択するんだ」

ひとりきり?そんなのやだ

母が私を抱き締める。

父「どちらを選択しても、凛には辛い未来が待っているかもしれない」

父「この秘薬を口にすれば、誰もが簡単に不老不氏を得るだろう。だが覚えておけ、凛」

父「不老不氏となった者は、これまで人として生きた証……記憶を全て失うことになる」

凛「記憶を……?」

父「いつかお前も、その薬を使う時が来るかもしれない。しかしそれは、お前を苦しめる地獄の選択となるだろう」

父「永遠の苦しみを与えられた者は、いつか必ず、お前への憎しみで心を支配されてしまう」

母「あなたの愛した人は……きっとそこにはいないわ」


凛「でもさ、生きててくれたほうがいいよ。もう会えないよりはさ」

この頃の私は、まだ誰かを好きになったこともなく、恋愛というものを想像で語ることしかできなかった。

4: 2015/02/08(日) 22:09:19 ID:/kk7iBG2




マセた私の10歳の誕生日プレゼントは、人を地獄に導く禁忌の薬。

5: 2015/02/08(日) 22:09:48 ID:/kk7iBG2
それから果てしない時が過ぎ……私は運命に出会った。


「ふーん、アンタが私のプロデューサー?……まあ、悪くないかな…。私は渋谷凛。今日からよろしくね」


魔法使いがアイドルやってるなんて誰も思わないよね。

6: 2015/02/08(日) 22:10:28 ID:/kk7iBG2
最初のアイドルとして事務所に所属した私は、彼……プロデューサーに対して特に思うことはなかった。

ただの上司、世話役、便利な奴、仕事仲間。

そんな風に考えていたのだ。

いくらでも「代わり」のきく存在だね。

その認識はすぐに覆されたけれど。

私が事務所で一番驚いたことは、私以外にも魔法使いがいたこと。

7: 2015/02/08(日) 22:11:30 ID:/kk7iBG2
千川ちひろは魔法使いだった。(本人談)

彼女の販売するスタミナドリンクとエナジードリンクは、彼女自ら調合したものだろう。

その効果は絶大。

そしてそれこそが、人間離れした仕事量をこなすプロデューサーの秘密。

私はプロデューサーの横顔を見つめる。

普段は凛々しいくせに、不意に出る笑顔が可愛い。ふふっ。

8: 2015/02/08(日) 22:15:01 ID:/kk7iBG2
モバP「ほんとに大丈夫なのか?」

加蓮「私は大丈夫だって。Pさん心配しすぎ」

プロデューサーがまた加蓮を心配してる。

北条加蓮。私の幼なじみで親友。

本当ならば、彼女の生はとっくに終わっていなければならない。

加蓮は身体が弱いだけではなかったから。

彼女を不老不氏にしたのは同情なんかじゃない。

私が辛かったから。親友の氏を黙って見ているなんて、耐えられないもの。

彼女を病よりも苦しめるのは私。

彼女を頃したのも私。

だからこれは……罪の記憶だ。

9: 2015/02/08(日) 22:16:24 ID:/kk7iBG2
加蓮「ほんとはアタシ氏ぬんだ」

そう告げられたとき、私はこう返した。

凛「もし……さ。加蓮が助かるとしたら、どうする?」

加蓮「……どういうこと?」

希望持たせるようなこと言わないで。
やめてよ。

加蓮は口にしなかったけど、私にはわかった。

加蓮は不機嫌そうに、「生きたいよ」とだけ口にした。

10: 2015/02/08(日) 22:17:10 ID:/kk7iBG2
凛「一生老いることなく、氏ねないとしても?」

加蓮「それでも……生きたいって。当たり前じゃん……アタシまだやりたいことあるし……」

凛「加蓮が今までの記憶を代償に捧げるなら、アナタを不老不氏にしてあげるって言ったら?」

加蓮「……凛、いい加減にして」

凛「お願い。……真面目な話なの。答えて」

加蓮はうんざりした顔をして、それでも私に付き合ってくれた。

11: 2015/02/08(日) 22:18:06 ID:/kk7iBG2
加蓮「……記憶、か。ずっと病室で寝たきりの人生だったなぁ。でも……凛のことも忘れちゃうんだよね?」

凛「……そうだね」

加蓮「それはイヤかな……」

凛「…………」

私もだよ。そう口にしたかった。

凛「また出会いからやり直せばいいよ。私は何も知らない顔をして、加蓮とまた出会うの」

加蓮「えー、記憶失ったアタシに優しく説明してよ~。親友だったとか言ってさ」

12: 2015/02/08(日) 22:18:46 ID:/kk7iBG2
凛「それじゃダメだよ。真の友情は0から始めなきゃ」

加蓮「あはは、なにそれ」

何も知らない加蓮に、アナタの親友だよって言ってもさ。

それは押し付けの友情だよ。

加蓮はきっと喜ぶ。雛鳥が最初に目にしたものを、自分の親と感じるように。

そして私に縋り、私を頼るだろう。

でもそれは多分、私が造った友情。

生を得た加蓮は、もう今の加蓮じゃないんだから。

13: 2015/02/08(日) 22:21:43 ID:/kk7iBG2
加蓮から親友だって思われたい。

『アナタの親友だよ』なんて口にしなくても、自然とまた……

……そんなのは嘘。
綺麗事だよ。

不老不氏になった加蓮は、いつか絶対に私を恨み、憎むだろう。

頃したいほど憎んで憎んで……でも殺せなくて。

私はただ、そんな罪悪感から逃げたいだけ。

加蓮に永遠を与えて、私の巻き添えにしようとしてる。

孤独という恐怖を紛らわせるための道具として。

子供みたいなわがままでゴメン

ごめんなさい

14: 2015/02/08(日) 22:22:37 ID:/kk7iBG2
加蓮「ならさ、またアタシと親友になってくれる?」

凛「……なるよ。絶対なる」

加蓮は「ありがとう」と微かに微笑んだ。

痩せ細った姿が痛々しくて、私は加蓮を抱きしめた。

加蓮「消えていく命だから。きっと……きっと記憶は天国へは持っていけないんだ。だからね、未練なんてないよ?」

凛「私さ。加蓮に内緒にしてることがあるの」


凛「私が魔法使いだって言ったら……信じる?」

15: 2015/02/08(日) 22:23:18 ID:/kk7iBG2


加蓮「……信じてあげる」

『だって親友じゃん』
声に出さなくても通じたよ?

16: 2015/02/08(日) 22:24:16 ID:/kk7iBG2
凛「この薬を飲めば……加蓮は不老不氏になる。救われる。でも忘れないで。不老不氏を得るかわりに、アナタは記憶を失うことになる」

加蓮「……それでも飲むよ。凛と普通の女の子みたいに遊びたいから」

凛「そっか」

加蓮「そうだよ」

あはは
二人で馬鹿みたいに笑う。

加蓮の目に迷いはない。

凛「不老不氏になれば、加蓮の大切な人は誰もいなくなる。未来永劫、あなたと共にいられるのはきっと私だけ……。それは氏ぬより辛いよ?」

加蓮「でも一人じゃないんでしょ?」

17: 2015/02/08(日) 22:24:54 ID:/kk7iBG2
加蓮「凛、約束」

加蓮「必ず、アタシの親友になって」

凛「当然じゃん。……ばか」

加蓮「あー、ひっど~い。人が真面目に言ってんのに」

凛「安心して。加蓮を一人になんてしてやらないから。つきまとってやるんだ」

加蓮「ストーカー」

凛「聞こえなーい」

18: 2015/02/08(日) 22:28:47 ID:/kk7iBG2
それから一週間後。
容態が悪化した加蓮は、自ら禁忌を口にした。

その日は加蓮の誕生日だった。

私にとっては最初の別れとなる、親友の命日。

加蓮「私……誰?何も……何も思い出せない……!」

病が突然完治した加蓮を見て、医師は口々に奇蹟と語った。

それほど手の施し様がなかったのだろう。

19: 2015/02/08(日) 22:29:37 ID:/kk7iBG2
ドン
不安そうに病院内をフラつく加蓮とぶつかる。

加蓮「あっ……!ごめんなさい」

凛「別に。ねぇ、アンタ入院患者?」

加蓮「……はい。そう……ですけど……」

加蓮、ビビりすぎ。

凛「家族と知り合いの見舞いに来たんだけどね。私さ、今退屈してて」

凛「よかったら話し相手になってよ」

加蓮「……いいですよ?」

それが、私と北条加蓮の『最初』の出会い。

20: 2015/02/08(日) 22:30:19 ID:/kk7iBG2
余談だけどね。子供の頃からアイドルに憧れていたのは私。

ずっと私の話を聞かされて、加蓮もアイドルに憧れるようになっていったんだ。

どうしてか加蓮は、アイドルに憧れていたことだけは覚えていた。

奇蹟ってあるのかもしれないね。

同時に、加蓮に薬を与えた私は、この世界で生きていくことを決意する。

両親は寂しそうに頷いてくれた。

ごめん

21: 2015/02/08(日) 22:32:48 ID:/kk7iBG2
加蓮と仲良くなって

時が流れていった。

そして私達は、共通の親友を得ていた。

神谷奈緒。

アニメが好きな女の子だ。

22: 2015/02/08(日) 22:33:21 ID:/kk7iBG2
奈緒「Pさんは過保護すぎる」

加蓮「奈緒顔真っ赤」

凛「プロデューサーは私達が心配なだけだよ」

奈緒「限度があるだろ!」

ああ、昨日の送り迎えの時の話か。

23: 2015/02/08(日) 22:34:07 ID:/kk7iBG2
私達3人を事務所に送る途中、奈緒が一人で寄り道をしようとしたんだ。

行きたい場所があるからって、車から降りてさ。

するとプロデューサーが、「一人でなにかあったらどうするんだ」と、奈緒の頭をクシャクシャと撫でた。

ボサボサになった奈緒の髪を見て、私と加蓮は笑ってしまった。

奈緒は真っ赤な顔で、プロデューサーに文句を言っていたっけ。

照れ隠しか、髪をボサボサにされたことを怒ったのか、それがわからないほど私達は鈍くはない。

頭を撫でるのはプロデューサーの悪い癖だ。

彼の指で、奈緒の乙女が顔を見せる。

いいな。

24: 2015/02/08(日) 22:34:50 ID:/kk7iBG2
私はプロデューサーが好き。

きっと加蓮も。

奈緒「あたし一人で帰れるって!」

加蓮「あれは奈緒の我が侭だよね」

凛「アニメショップに寄りたいから車を降りたんだっけ?」

奈緒「ま……まぁ、そうなんだけど」

昨日の出来事を思い出して奈緒に嫉妬するなんて……私重症かな……

25: 2015/02/08(日) 22:35:35 ID:/kk7iBG2
加蓮「Pさん優しいんだから、あんまり心配かけちゃダメだよ」

奈緒「わかってるけどさ……」

凛「確かに最近のプロデューサーは過保護だよね」

奈緒「!?……だろ!?」

加蓮「私にはいっつも過保護」

奈緒「加蓮は身体が弱いからなぁ」

凛「ふふっ」

加蓮「なによぅ、凛」

凛「なんでも?」

加蓮「むぅぅ」

凛「怒らないの」


どうして彼を好きになったのだろう?

26: 2015/02/08(日) 22:36:58 ID:/kk7iBG2
「ねぇ、プロデューサー」

彼の名を口にする。
愛しくて震えた。

「なんだ?」

最近おかしいんだ

優しくされるたび
触れられるたび
胸が痛い

どうしようもなく疼くんだ

叶わない恋を突きつけられて

心が張り裂けそう

27: 2015/02/08(日) 22:39:23 ID:/kk7iBG2
プロデューサーが好き。

でも、無理なんだ。

私が好きになったのは『今』のあなただから……。

私には……あなたの記憶は奪えない。

こんなに人を好きになるなんて、思わなかった。

ううん、違うね。
きっと気づかない振りをしてただけ。

あなたの優しさに触れて、あなたの笑顔を感じて、私はとっくに恋してたんだ……。

辛いよ。
愛してる。

28: 2015/02/08(日) 22:40:18 ID:/kk7iBG2
ある日の帰りの車内のこと。

久しぶりに二人きり。

モバP「最近元気ないみたいだけど、何かあったのか?」

凛「……大丈夫だから。心配してくれてありがとね」

彼の手が私の髪を撫でる。

私は怒ったような表情で、「子供扱いして」と口にする。

そんなこと思ってもいないのに。

プロデューサーは、困ったような顔で、手を引っ込める。

私は無言で、窓の外を見つめてる。

流れていく風景。
あの店は加蓮オススメの店だ。なんて無理矢理考えながら。

ホントはプロデューサーのことで頭はいっぱい。

29: 2015/02/08(日) 22:41:01 ID:/kk7iBG2
モバP「どこか寄るか?」

凛「いいよ。遅くなったら悪いし」

モバP「気にしなくていいって」

なら、力ずくで私を奪ってよ。
ホテルでも連れ込めばいいじゃん。

そんなことはありえない。

プロデューサーは責任感の強い人だから。

我が侭を言って嫌われたくない。

他人への甘え方がわからない。

私不器用だね。

邪険にしてごめん。
大好きだよ、プロデューサー。

30: 2015/02/08(日) 22:41:34 ID:/kk7iBG2


永遠なんていらない。

あなたと生きていきたい。

31: 2015/02/08(日) 22:42:24 ID:/kk7iBG2
プロデューサーへの想いを誤魔化すために、私はアイドル活動に必氏になった。

逃げと言われても仕方ないだろう。

気づけば私は、シンデレラガールになっていた。

加蓮「おめでとー、凛」

奈緒「凛、よかったな!」

凛「二人とも……ありがと」

卯月と未央が駆けてくる。

他の仲間たちも。

私は幸せ者だ。

光を浴びて、スターへの道を歩き始める。

そして知る。私には未来はないのだと。


未来は夢だ。
限りある時間が連れていく。

33: 2015/02/08(日) 22:47:08 ID:/kk7iBG2
私は書類上、15年しか生きていない。

両親は私の老いが止まるのが早すぎるという。

私が二十歳の外見を得るのに、最低数百年は掛かるのだと。

そんな残酷な真実を告げた……。

認識の齟齬を埋めるため、父が周囲の意識を操作し、それからの私は何度も15歳を繰り返している。

16歳でも17歳でもいい。
人の認識は曖昧だ。

ねぇ、永遠の価値ってなんだろう?


このスポットライトの光も、いつしか当たり前として受け入れるようになるのだろう。

34: 2015/02/08(日) 22:47:56 ID:/kk7iBG2
世界はいつまで色鮮やかなのだろう。

百年後の私は笑っているかな?

加蓮「凛、大丈夫?」

ごめんなさい。
ずっと思ってる。

終わりのない不安。
私は加蓮を巻き込んでしまったんだ……。

彼女の成長も止まっている。

私はいつまで、親友を騙し続けるのだろう。

出口のない人生という迷路に、加蓮を送り込んだ私の罪を。

私の過ちを。

いつか氏ぬことを願う日が来るのだろうか。

先への不安が神経をすり減らせていく。

らしくないね。

35: 2015/02/08(日) 22:49:31 ID:/kk7iBG2
私が普通に生まれていたら、きっと前だけ向いて突き進んでいたと思う。

振り返らず前を向いて。

加蓮「好きなの?」

凛「うん?」

加蓮「プロデューサーのこと」

気づかないわけないよね。

凛「べつに」

加蓮「嘘」

凛「まあ、どちらかといえば好きかも」

加蓮「素直じゃないね」

36: 2015/02/08(日) 22:51:23 ID:/kk7iBG2
素直か……。

凛「プロデューサーの迷惑になりたくないし」

加蓮「私、Pさんが好きだよ」

凛「そうなんだ」

加蓮「うん」

泣きそうになる。

37: 2015/02/08(日) 22:52:06 ID:/kk7iBG2
叶わない恋は私だけじゃないんだ。

凛「ごめん、加蓮」

加蓮「なにが?」

凛「私も好き」

加蓮「知ってた」

凛「ごめん」

加蓮「なんで?」

言えないよ。

凛「…………」

加蓮「最近溜め息ばかりだね、凛」

凛「……そうかな?」

加蓮「そうだよ」

加蓮「私、知ってるんだ」

凛「え?」


加蓮「不老不氏、なんでしょ?……私たち」

38: 2015/02/08(日) 23:39:21 ID:/kk7iBG2
頭を殴られたような衝撃で、目の前が暗くなる。

……どうして?
ありえないよ……

加蓮「伝えようか迷った。私だよね?凛を苦しめてるの」

手紙を取り出す加蓮。

加蓮「ずっと渡せなかった」

加蓮「凛の親友は私だって、自分への嫉妬かな」

加蓮「……渡せなかった。凛を傷つけるって知ってたのに……」


加蓮「けどそれも今日で終わり。……許してね、加蓮」

39: 2015/02/08(日) 23:39:48 ID:/kk7iBG2
未来の親友へ。

それはありえないはずの……

過去からの手紙

40: 2015/02/08(日) 23:40:51 ID:/kk7iBG2
凛はさ……きっと私に対して罪悪感とか感じてるよね。苦しんでるんじゃない?

自分が独りになりたくないから私を巻き込んだーって。

だからこの手紙を遺します。

今の私から凛への、最後の友情の証として。

親友を理解してる私に感謝してよぉ?

私はね、凛。
不老不氏になったからって、絶対に凛を恨んだりしないよ?
だって薬を飲んだのは私の意思なんだもん。

凛は私に明日をくれた。

絶望しかない私の人生に、光と希望をくれたのはあなただよ。

凛が私に与えたのは生きるチャンス。

凛は私に不老不氏になれなんて命じてないでしょ?

私は自分で考えて選択した。
生きたいってね。

41: 2015/02/08(日) 23:42:13 ID:/kk7iBG2
だから私に対して罪悪感を抱いてるなら、それはお門違い。

私をあまり舐めないで。

私が私でなくなっても、私が凛を恨むなんて一生ありえないって。

生まれ変わっても(言い方がおかしいかな?)、また胸を張って凛の親友でありたいから。

ずっと対等でいて。あなたは私の親友、渋谷凛だって。いつもみたいにクールで。

42: 2015/02/08(日) 23:43:03 ID:/kk7iBG2
約束を破ってごめん。
未来の私に、私の一部を託します。

あはは、これくらい許してよ?

未来の私。どうせこれ読んでるんでしょ?

あんたに一つ自慢したい。
私の親友は魔法使いなんだ~ってね。

凄いでしょ~。

凛は氏の淵にいた私を救ってくれたの。

迫り来る氏の恐怖を追っ払ってくれたんだ。

だから……あんたが不老不氏になったのは私のせい。

あんたがもし将来苦しむようなことがあったら、そのときはこの私を恨みなさい。

その頃には私はもう氏んでるけどぉ~。私無責任!?

43: 2015/02/08(日) 23:46:05 ID:/kk7iBG2
あんたに辛い役目を押し付けた代わりに、私が夢見た明日をあげる。

凛の隣を譲ってやるんだから!感謝しなさいよ?

お願い。凛を恨まないで。凛を支えてあげて。

凛を理解して、支えられるのは……きっとさ、あなただけだから……

私は凛が大好き。未来の私も凛を好きになってくれたら、これほど嬉しいことはありません。

44: 2015/02/08(日) 23:46:45 ID:/kk7iBG2
凛、あなたを悲しませてごめんなさい。

あなたと過ごした記憶を、あなたとの時間を……私は今から頃します。

忘れないで。私はきっと加蓮の中にいるから。

長くなっちゃったね。
最後に

一緒にアイドルできなくてごめんね



永遠の友 北条加蓮

45: 2015/02/08(日) 23:48:08 ID:/kk7iBG2
凛「……ぅっ……加蓮……かれん……あああああっ……」

私は泣いた。みっともなく大声で。

加蓮「私が目覚めたときさ。これを読んで勝手だなって思った」

加蓮「誰かも知らない相手を頼むって手紙でしょ?無責任にさ。自分のこともわからない私に……色々重荷背負わせて……ほんと勝手だよ」

凛「…………うん……ぐすっ……」

加蓮「でも今は……感謝してる」

加蓮が私を抱きしめる。いつかの時とは逆の状況。

加蓮「言われなくたって支えるわよ。凛は私の……親友なんだから」

加蓮「私は私。たとえ記憶を失っても、凛が大切な親友だって気持ちだけは変わらない」

加蓮「それは私にも殺せない。きっと魂とかに刻まれた感情なんだよ」

46: 2015/02/08(日) 23:48:52 ID:/kk7iBG2
加蓮「って!うわぁぁ……なんて青臭いことしてんだろ私たち」

凛「……言わないで」

加蓮「はやく泣きやめ。クールな凛はどこ行ったの~?」

凛「……ばか」

加蓮「あー、ひっど~い。人が真面目に言ってんのに」

『あー、ひっど~い。人が真面目に言ってんのに』

凛「ふふっ」

そっか
加蓮は確かに遺していたんだね。友情の証を。

加蓮「なにニヤニヤしてんの!」

凛「何でもなーい」

47: 2015/02/08(日) 23:49:45 ID:/kk7iBG2
私は、プロデューサーが好き。

彼を不老不氏にしたいと思ってる。

最悪のワガママだよね。

でもそれはしない。
彼は優しいから。

選択を迫れば……彼は苦しむ。

きっと将来、事務所が落ち着いたら、私と加蓮のために彼は薬を飲むだろう。

私の隣にいるという約束を守るために。

私たちを孤独から守るために。

自惚れじゃないよ。

そんな自己犠牲がさ、彼の不器用な優しさだって知ってるから。

だから選択を与えない。

私には……
あなたの人生を否定することはできないから。

48: 2015/02/08(日) 23:55:01 ID:/kk7iBG2
あなたの中の功績を、記憶を、人生を、思い出を……

愛しているから奪えない。

冗談じゃない。あなたの中から私たちが消えるなんて。

……耐えられるわけないじゃん。

これから先の数十年、私と加蓮は今の姿のまま、弱っていくプロデューサーの隣に居続けるだろう。

彼が生涯を終えるときまで。

その時は思いっきり泣こう。

泣いて泣いて泣き疲れて。それでも繰り返される明日に苦笑しながら。

私たちは生きていく。

49: 2015/02/08(日) 23:58:32 ID:/kk7iBG2
加蓮に私の気持ちを打ち明けた。
彼女は笑って許してくれた。

加蓮「私だってPさんの記憶は奪えないよ。それは氏ぬより辛いもん……」

凛「私たちってワガママだね」

加蓮「女の子はワガママなくらいがいいんだよ」


奈緒「ああ?あたしも仲間に入れろって!」

どこかに隠れていた奈緒が、いつの間にか背後に立っていた。

凛「奈緒……」

奈緒「あ、あたしだって親友だから!凛の様子がおかしいことくらいわかるっていうか……仲間外れは嫌っていうか……くそっ!わかれよ!」

加蓮「今の話は冗談だって。不老不氏なんてあるわけないじゃない」

奈緒「嘘かほんとかなんてわかる。だって友達だろ?」

加蓮「……記憶失っちゃうんだよ?」

奈緒「そん時は支えてくれんだろ?あたしの親友たちがさ」

50: 2015/02/09(月) 00:00:00 ID:cfPyWE5g
凛「ダメだよ……今の奈緒は消えちゃうんだ」

奈緒「また親友になればいい。生きてるなら何度でもやり直せる」

加蓮「…………」

奈緒「あたしは二人との絆を信じてるから。神谷奈緒は生まれ変わっても照れ屋で、アニメ好きで、凛と加蓮の親友だ」

凛「今はダメ」

加蓮「うん」

凛「奈緒が大人になって、お姉さんになったとき。その時に改めて聞かせてよ」

奈緒「いやいや、今でも最年長だろ。あたしは二人よりお姉さんだっ!」

51: 2015/02/09(月) 00:00:42 ID:cfPyWE5g
加蓮「私たち奈緒よりずっと年上だよ?」

凛「うん」

奈緒「嘘……だろ……」

加蓮「ほんと」

凛「不老不氏は二十歳で成長が止まる……って思ってたんだけど違ったみたい」

加蓮「途中から成長が緩やかになる感じ」

凛「たぶん最終的に二十歳の外見になるんじゃないかな。……数百年後に」

奈緒「はぁ!?反則だろそれ!」

52: 2015/02/09(月) 00:02:09 ID:cfPyWE5g
凛「うちの両親年々若返ってる気がする……」

加蓮「つーまーりー、逆に多少老いたとしても、二十歳の外見に戻るってこと。…………たぶん」

奈緒「無茶苦茶じゃねぇか!」

凛「だから焦ることはないんだ」

加蓮「ゆっくり考えて。後悔しないように」

奈緒「……しねぇよ。後悔なんて」

凛「約束する。20年後、奈緒が今みたいに不老不氏を望むなら、私はあなたの記憶を貰う」

奈緒「なんだよそれ……。全部忘れちまうなら、早いほうがいいに決まってる……」

加蓮「今の奈緒を大切にして」

奈緒「……わかったよ。くそっ!」

加蓮「ふふっ、奈緒可愛い」

奈緒「うるせぇー」

ごめんね

53: 2015/02/09(月) 00:06:05 ID:cfPyWE5g
不老不氏なんて、簡単に決めちゃいけないことだから。

取り残される悲しみに押し潰されないように。

私のエゴだよ。


時は過ぎていく。

プロデューサーは若作りが上手い。

アイドルに老いを感じさせないのは凄いと思う。

最近では、「俺はまだまだ若いって」が口癖。

加蓮「禿げたPさんなんて見たくないよね」

なんて笑い話にしてたっけ。

認識を操作するのも限界で。

私たちは世間では有名な化物アイドルになっていた。

54: 2015/02/09(月) 00:10:55 ID:cfPyWE5g
いつまでも劣化しない。整形疑惑など。

週刊誌だけではなく、テレビでも騒がれる。

ファンからは永遠のアイドルとか呼ばれているらしい。

奈緒はアイドルを引退した。

紛らわしい言い方だったね。
今は女優。

映画とかで活躍しているよ。

そうそう、アニメ映画では声優も務めたんだっけ。

素人の芸能人が吹き替えなんかするな!っていつも怒ってたのに。

奈緒は一生懸命頑張っていたよ。


映画は大ヒットを記録した。

55: 2015/02/09(月) 00:12:37 ID:cfPyWE5g
時間は止まらない。

奈緒は毎日輝いていた。

後悔はあるよ。あの時奈緒を不老不氏にしなかったことに。

加蓮「でもそれが人生なんだよ。一度きりの花火のような、儚いもの」

凛「……後悔してる?」

加蓮「どうだろ。私は『加蓮』の恐怖が理解できるから。責められないし、責めたくない」

加蓮「運命だって割り切ってるよ。せっかくの人生、『加蓮』の分まで楽しまなきゃね」

凛「……そうだね」

加蓮「凛、ありがとう。私に時間をくれて」

凛「果てしなく永いけどね」

加蓮「あはは」

56: 2015/02/09(月) 00:13:10 ID:cfPyWE5g
凛「もうすぐ20年か」

加蓮「奈緒がどちらを選ぶか賭ける?」

凛「不謹慎」

凛「奈緒の人生だから。奈緒の選択に任せよう」

加蓮「……ばーか」

57: 2015/02/09(月) 00:14:11 ID:cfPyWE5g
そして約束の日。

奈緒「凛、加蓮。ありがとう」

凛「私は何もしてない」

加蓮「ほんとにね」

奈緒「あの時止めてくれたからよ」

私にはその言葉だけでわかってしまった。

彼女との別れを。

奈緒「不老不氏って凄いと思うわ。断るなんて愚かよね」

加蓮「だね」

奈緒「ごめんなさい。私は不老不氏にはなれません」

奈緒の口調はあの頃とはすっかり変わった。

女らしくなったよ。

いい女って奈緒みたいな人を言うのかも……なんて。

58: 2015/02/09(月) 00:15:15 ID:cfPyWE5g
凛「理由……聞かせて?」

奈緒「私は普通の人間として、精一杯自分を磨いてきたわ。……成長したでしょう?」

少しだけ羨ましい。

奈緒「若いっていいわよね。私も日々若返りたいって思うもの」

凛「……奈緒は綺麗だよ」

奈緒「ありがとう」

加蓮「私たちには得られないもの……か」

奈緒「永遠を得たあなた達は変わらないわね。姿も……心も……成長が止まってしまっている」

そう。私たちの時間は止まっている。十代の頃のまま。

凛「……うん」

奈緒「不老不氏の代償は記憶なんかじゃない。向上心よ」

永遠に時間は続く。
シンデレラガールに選ばれた頃の私は必氏だった。

自分に厳しく、特訓を欠かさず。

でも……約束された永久のなかで、努力し続けることは難しい。

59: 2015/02/09(月) 00:22:46 ID:cfPyWE5g
明日がある。来年がある。永遠がある。

頑張ろう。
いつしかその当たり前の気持ちすら忘れていたんだね。

時間という枷に囚われていたのは私なのだ。

奈緒「私は進みたい。一度しかない人生のなかで、私が出来る精一杯を、この一身で」

加蓮「かっこいいね。かっこいいよ、奈緒」

凛「いいの?」

奈緒「ええ。今ならわかる。運命に逆らうのは反則なのよ。人は一度しかない人生を精一杯生きるべきだわ」

奈緒「人が成長を止めてしまっては、世界は堕落する一方でしょう?」

凛「……私たちは本来存在してはいけないんだ。わかっていたのに……」

成長しない生命に、何の価値があるのだろう?

60: 2015/02/09(月) 00:26:24 ID:cfPyWE5g
凛「加蓮。約束するよ。いつになるかわからないけど、私たちが氏ねるように」

奈緒「その約束が叶うよう、私は祈ってる。私はあなた達より先に逝くけれど、私の友情は変わらないから」

奈緒「あなた達の永い時間のなかの、本当に一瞬に過ぎないけれど。確かに二人を理解し、愛していた親友がいたと……」

奈緒「たまにでいいから思い出してあげて。そして笑ってよ。神谷奈緒って親友をネタにしてさ」

凛「……うん」

加蓮「……忘れられるわけないって」

奈緒「あたしたちは一生友達だ。それと、あたしがトライアドプリムスのお姉さんだからな!」

昔の奈緒と重なる。

ははっ……奈緒だって変わってないじゃん。

いいお姉さんになったね、奈緒。

61: 2015/02/09(月) 00:30:02 ID:cfPyWE5g
奈緒と話してから、私たちは一つの答えを出した。

劣化も成長も止まった私たちよりも、夢を語る後輩たちに道を譲るのは正しい判断だと思う。

引退発表は大きく話題となった。

まだ私たちのファンはたくさんいたみたい。

アイドル冥利につきるってやつだね。

でも、ステージは独占していい場所じゃないんだ。

進みたいと願う者の立つ場所だから。

62: 2015/02/09(月) 00:30:57 ID:cfPyWE5g
凛「加蓮、巻き込んでごめん」

加蓮「私はいいよ。『加蓮』と凛の約束を果たしただけ」

『一緒にアイドルできなくてごめんね』

あの手紙、律儀に守ってくれていたんだね。

加蓮「アイドル好きなのは本当だけど。もう未練はないかな」

凛「20年も続けられたし?」

加蓮「そうそっ♪」

これ以上は誤魔化せない。

老いないアイドルなんて、ただ気持ち悪いだけだから。

63: 2015/02/09(月) 00:31:41 ID:cfPyWE5g
無人のステージに立つ。

観客はいない。

モバP「長い間ご苦労様」

プロデューサーはあの頃のままの姿で、いや……きっと私の贔屓目だね。まだ若いって思いたいだけかもしれないけど。

彼から労いの言葉を受けて、私は無意識の涙を止めることができなかった。

凛「あれ……?」

おかしいよ。

凛「なんで……だろ……」

64: 2015/02/09(月) 00:32:44 ID:cfPyWE5g
頭を撫でる彼の手の温かさは、私をあの頃へと引き戻す。

ずっと隣で見ててね


凛「ここまで連れてきてくれて……ありがとう。プロデューサー」

この言葉にどれだけの感謝を込めたか……きっとあなたにはわからないでしょう。

加蓮「……凛」

モバP「凛と加蓮は俺の夢を叶えてくれた。お前たちは、確かにシンデレラだったよ」

凛「そう?」

モバP「ああ」

凛「嬉しいよ」

加蓮「私はもう忘れない。凛や奈緒、Pさんに仲間たち。みんなで目指した景色を」

65: 2015/02/09(月) 00:33:27 ID:cfPyWE5g
凛「プロデューサー。最後のお願い、聞いて」

耳元で囁くと、プロデューサーは無言で頷いた。

そして観客席に移動する。

『私と加蓮の最後のステージは、プロデューサーのためだけにやりたいんだ』

過ぎていく時間取り戻すように。

今の精一杯を届けるから。

66: 2015/02/09(月) 00:36:38 ID:cfPyWE5g
私と加蓮の歌が終わる。

加蓮「今までありがとうございました。私がアイドルを続けられたのは、Pさんのおかげだよ!」

凛「今日まで隣で見ていてくれてありがとう。プロデューサー。これからは……他の子を見てあげて」

凛「あなたを待ってるシンデレラがたくさんいるから」

私はきっと忘れないだろう。

プロデューサーが流した一筋の涙を。

「「お世話になりました!」」

モバP「……元気で」

凛「プロデューサーもね」

加蓮「困ったらいつでも頼って。私はずっとPさんの味方だから!」

モバP「俺の台詞だろそれ……ははっ」

67: 2015/02/09(月) 00:37:07 ID:cfPyWE5g
それがプロデューサーとの最後の会話。

別れは辛いから。




渋谷凛と北条加蓮は、その日消息を絶った。

68: 2015/02/09(月) 00:38:41 ID:cfPyWE5g
数十年、様々な世界を見て回った。

厄介な境遇のせいで、私も加蓮も、男の人とは一度も付き合ったことがない。

加蓮「私、菜々さんも魔法使いだと思ってたよ」

凛「それはある。私もそんな気がしてたし」

加蓮「老いた菜々さんは見たくなかったなぁ」

私たちが身勝手に消息を絶った理由。

数多くの仲間たちがいたけれど、彼女たちが老いていく様を……。
目にしたくなかった。

私たちの姿を見られたくなかった。

卯月や未央はいつまでもあの頃のままでいてほしい。せめて私の中だけでも。

老いた二人を前にして、変わってしまった彼女たちとのズレに、耐える強さはない。
今の私には。

不老不氏でも弱くなるものだね。

69: 2015/02/09(月) 00:41:04 ID:cfPyWE5g
命が無限でも、心は有限。

きっとどんな生き物でも、心の寿命からは逃げられない。

懐古とは過去を見続ける夢だ。

輝いていたあの日々に取り残された私と加蓮の。

前だけを見続ける。後ろは振り返らない。

それが昔の私。

思えば、後ろを振り返った瞬間、私に氏が訪れたのだ。

人は弱い。

70: 2015/02/09(月) 00:42:30 ID:cfPyWE5g
奈緒との親交は続いた。

あるとき、奈緒が倒れたと聞いて、私たちは病院に駆けつけた。

奈緒「……凛、加蓮。私はすっかり老いてしまいました」

彼女に身寄りはいない。

栄光の人生だった。
ファンも大勢いた。

加蓮「……奈緒、どうして結婚しなかったの?」

奈緒「どうして……でしょうね」

奈緒「私の中にはいつもいましたよ。大切な人が」

奈緒「その方は結局振り向いてはくれなかったのだけれど……」

凛「……っ!」

奈緒「私は生涯、恋をしていたんです」

加蓮「もう、少女漫画の読みすぎ……」

奈緒「その人に見てほしいと……私は頑張ることができた…………Pさん……」

71: 2015/02/09(月) 00:46:30 ID:cfPyWE5g
奈緒「子も孫もいないけれど……私には胸を張って誇れるものがあった……」

凛「うん……うん……」

奈緒の手を強く握る。

奈緒「永遠を誓った親友たち……」


奈緒「……凛、加蓮。今までありがとう」

72: 2015/02/09(月) 00:47:24 ID:cfPyWE5g
凛「薬ならここにある!私を憎んだっていい!飲んでよ!飲んでよぉ……!」

私、最低だ。

奈緒「ごめんなさい。そして、ありがとう」

奈緒「氏は平等だから。私の人生は悔いのないものでした。この大切な思い出は、全て私が得た宝です」

私は知っていたはずなのに!

気付かされる。軽はずみの一言が、どれだけ残酷だったか。

凛「……ごめんなさい!うっ……奈緒っ……奈緒っ……」

言わずにはいられなかった。
大好きな親友。

73: 2015/02/09(月) 00:48:07 ID:cfPyWE5g
奈緒「おい!なに……泣いてんだよ……!あたしが氏んだって……親友やめてやらないからな……っ!」

あたしたちは一生友達だ!

17歳の奈緒

74: 2015/02/09(月) 00:48:54 ID:cfPyWE5g
加蓮「奈緒は可愛いなぁー」

16歳の加蓮

時が還っていく。

75: 2015/02/09(月) 00:51:40 ID:cfPyWE5g
凛「……二人とも騒がしいよ。ここは病室なんだから」

15歳の私

76: 2015/02/09(月) 00:52:39 ID:cfPyWE5g
奈緒「凛はクールすぎるぜ……」

涙は隠せてる?

今を忘れない。
焼きつける。

きっと今生の別れだから。

凛「何言ってるの。二人が騒ぐからだって」

三人で声に出して笑う。

77: 2015/02/09(月) 00:53:19 ID:cfPyWE5g
奈緒「……久しぶりにあの頃に戻れたよ」

加蓮「だね」

奈緒「未来を見ろ、凛。あたしの知る渋谷凛は強かったぞ」

凛「あ……」

振り返らず前を向いて。

奈緒「お前いつから弱くなった?」

シンデレラガールになって。

プロデューサーへの想いを絶ったとき。

奈緒「げほっ……げほっ……」

加蓮「大丈夫!?」

78: 2015/02/09(月) 00:55:26 ID:cfPyWE5g
奈緒「……友達が迷ったときは、道を戻してやるのが親友の務めだ」

凛「……ありがとう」

奈緒「これが最後の願いだ。凛」

奈緒「過去に囚われるな」

奈緒「加蓮。凛を頼む」

加蓮「痛いとこ突かないでよ……」

奈緒「加蓮はしぶといから大丈夫だろ?」

加蓮「奈緒ひどーい」

奈緒「うるせぇ……」

奈緒は、最期まで私たちの知る神谷奈緒を貫いた。

私たちのために。

79: 2015/02/09(月) 00:56:22 ID:cfPyWE5g
奈緒の訃報が発表されたのは、それから数日後のこと。

加蓮「大丈夫?」

凛「うん。もう大丈夫」

神谷奈緒という女の子がいた。

照れ屋でツッコミ気性で、赤い顔をしながら新しい衣装に身を包み、そしてからかわれる。

そんなアイドル。

墓前に花束を捧げる。

加蓮「奈緒、あんた早く化けて出なさいよ」

凛「同感」

80: 2015/02/09(月) 00:58:58 ID:cfPyWE5g
加蓮「あと20年もしたらさ、私たちの知り合いは誰もいなくなるね」

凛「そうだね。父さんと母さんとちひろさんくらいか」

加蓮「いつか会いに行く?」

凛「うん?」

加蓮「ちひろさん」

凛「今はいいかな」

加蓮「あらら」

凛「もう過去に縋るのはやめたの。奈緒との約束だし」

加蓮「数十年無駄にして後悔?」

凛「前を見続けたとしても引退はしてたよ。私たちは老いないから」

加蓮「奈緒から言わせれば私たちが化けて出てるようなものだからね」

凛「化けて……か。次は卯月と未央の墓参りだね」

81: 2015/02/09(月) 00:59:35 ID:cfPyWE5g
加蓮「そういえばさ。二人とも凛の大親友なのに、どうして正体明かさなかったの?」

凛「卯月は素直だから信じてくれるだろうね。それでも薬は飲まかったと思うけど」

加蓮「どういうこと?」

凛「奈緒と一緒でまっすぐだから。間違った道は選ばない」

加蓮「うわ……私への皮肉?」

凛「加蓮は別だし。早く氏にたかったの?」

加蓮「はは……」

82: 2015/02/09(月) 01:00:15 ID:cfPyWE5g
凛「未央は適当に聞き流して面白半分で飲んだだろうね」

加蓮「酷い評価!でも否定できない!」

凛「よくも悪くも人の中心……というかエンターティナー?ノリでやっちゃうみたいな」

加蓮「たしかに!」

ここにはいない奈緒も、きっと隣で笑っている。

さよならは言わない。

またね、奈緒。

83: 2015/02/09(月) 01:04:13 ID:cfPyWE5g
あれから100年が過ぎた。

私は加蓮と二人で生活している。

加蓮とは同じベッドで眠るのが日課になっているけど、それは魔法使い固有の特性。つまりは寂しいのだ。

孤独への恐怖は、絡み合う指が解きほぐしていく。

加蓮の体温を感じて、私は安堵する。

それはきっと加蓮も同じ。

恋愛感情なんてない、純粋な友愛だ。

84: 2015/02/09(月) 01:05:17 ID:cfPyWE5g
もういいかな
いい人見つけて適当に付き合っちゃおうか?なんて笑い話にしたり。

けれど実際に行動することもなく。

シンデレラは魔法使いの魔法で変身する。

魔法使い(私)は臆病だ。

それでも後ろは振り返らない。

親友との約束だから。

85: 2015/02/09(月) 01:07:06 ID:cfPyWE5g
加蓮「そろそろだね」

凛「ここが今の事務所かぁ」

まるでお城だ。


一月前。

加蓮「プロデューサーになる?」

凛「うん」

凛「私たちは渋谷凛と北条加蓮の子孫ってことにしてね」

加蓮「あー、だから待ってたんだ」

凛「今度は裏方。シンデレラに魔法をかける魔法使い(プロデューサー)になりたいなって」

加蓮「いいんじゃない?」

凛「付き合ってくれる?」

加蓮「当然」

86: 2015/02/09(月) 01:07:25 ID:cfPyWE5g
拳と拳が触れ合う。

凛「プロデュースの勉強はしてきたからね」

加蓮「もう嫌ってほどね」


行こうか

87: 2015/02/09(月) 01:08:15 ID:cfPyWE5g
ちひろ「お久しぶりですね」

凛「千川さんもお変わりなく」

ちひろ「あら、ちひろでいいわよ?」

凛「私は渋谷凛の曾孫です」

加蓮「アタシは……北条加蓮の曾孫だよっ」

ちひろ「……やはり、魔法使いとは悲しい生き物ですね」

凛「まあね」

88: 2015/02/09(月) 01:11:54 ID:cfPyWE5g
ちひろ「私は千川ちひろ。この事務所でアシスタントをしています」

加蓮「それで面接は?」

ちひろ「あなた方には必要ありません」

凛「依怙贔屓はダメだよ?」

ちひろ「社長の判断ですから」

凛「今の社長か」

加蓮「茂場(もば)さんだっけ?」

ちひろ「いいえ。茂場は実在しません」

加蓮「えっ?」

89: 2015/02/09(月) 01:12:33 ID:cfPyWE5g
ちひろ「社長が来ました」

……そんな

…………嘘


社長「凛、加蓮。久しぶり」


それは私たちのよく知る人物で

加蓮「Pさん!?」


プロデューサー……モバPさんだった。

90: 2015/02/09(月) 01:13:10 ID:cfPyWE5g
モバP(社長)「俺、社長になったんだよ」

凛「どう……して……」

モバP「俺が人間離れした体力してたの知ってるだろ?」

加蓮「いやいや、それはちひろさんの魔法ドリンクのおかげだって、ちひろさん本人に聞いたんだけど!昔!」

ちひろ「あれ嘘です」

凛「はい?」

91: 2015/02/09(月) 01:13:50 ID:cfPyWE5g
ちひろ「あなたたちのプロデュースをする前から、いえ、最初からプロデューサーさんは既に不老不氏だったんですよ」

加蓮「はあ!?」


ちひろ「はじめまして。私は魔法使いによって造られた人造人間、ホムンクルスの千川ちひろです」

凛「最初からって……まさか……」



モバP「……俺も魔法使いだったんだよ」

92: 2015/02/09(月) 01:14:52 ID:cfPyWE5g
加蓮「はぁぁ!?なんで黙ってたの!?凛がどれだけ傷ついたと!」

凛「加蓮……ありがと」

加蓮の肩に手を置く。

プロデューサー……社長に掴み掛かろうとする加蓮を止める。

加蓮は言いたいことを堪えて、唇を噛む。

加蓮だってPさんが好きなのに。

私のために怒ってくれて、ありがとう。

モバP「……すまん。依存してほしくなかったんだ」

凛「わかるよ」

魔法使いは臆病だ。

93: 2015/02/09(月) 01:17:52 ID:cfPyWE5g
凛「孤独は人を弱くするから」

加蓮がいなければ、私は廃人になっていただろう。

モバP「長い時間を生きる俺たちの敵は、孤独だ」

加蓮「私にはわからない。孤独なら支えてよ。優しく……してよ」

モバP「いつまでも」

プロデューサーが口を閉ざす。

目を閉じて、再び口を開く。

94: 2015/02/09(月) 01:19:45 ID:cfPyWE5g
モバP「君たちを見たとき、俺は感動した。俺と同じ境遇でありながら、未来を目指すその姿に」

モバP「俺は一度挫折したから。孤独を恐れ、生命を造り出すという禁忌をも犯した」

モバP「申し訳ないと思っているよ。彼女の身体は人間と同じではないのだから」

ちひろ「謝らないでください、マスター。たとえそれが過ちでも、私は感謝しています。生まれてきて……よかったと」

モバP「ちひろ、ありがとな」

ちひろ「はい」

95: 2015/02/09(月) 01:20:51 ID:cfPyWE5g
モバP「課金ガチャの存在を不思議に思わなかったか?」

凛「あー、あったねそういえば」

加蓮「Pさん金ない金ない言いながら必氏に回していたっけ」

モバP「あれはちひろ、ホムンクルスに魔力を注ぐ行為なんだ。定期的にガチャを回さなければ、ちひろは止まってしまう」

凛「そういうシステムだったんだ……」

モバP「アイドルカードはその副産物だ。人工生命を無理矢理世界に定着させてるからな。その歪みが新しいアイドルを呼び寄せてしまうのさ」

加蓮「なにそれ怖いよ」

96: 2015/02/09(月) 01:21:44 ID:cfPyWE5g
モバP「話を戻そう。俺はそんなことをしてまで、永遠を共にする会話相手を造った」

凛「私たちがプロデューサーが不老不氏だって知ったら……」

モバP「キラキラと輝く君たちの表情は、俺だけに向けられるようになっていただろう」

凛「否定はしない」

加蓮「かもね」

モバP「俺がプロデューサーになった理由を明かすよ」

モバP「何を見ても感動できない。どこか過去で見た出来事と思ってしまう。新鮮さがないんだ」

凛「…………」

97: 2015/02/09(月) 01:23:43 ID:cfPyWE5g
モバP「もう500年は生きたかな。氏ぬ方法を模索していた。そんな頃だった」

モバP「全てが色褪せて見えていた俺を、一人のアイドルが変えたんだ」

モバP「それは胸に宿る光だった。日高舞。伝説のアイドル」

凛「凄い人だったのは覚えてる」

モバP「彼女は普通の人間だ。魔法も使えず、実力だけで人々を魅了した。俺も凛と同じで凄いと思ったよ。同時に感動した」

モバP「人間の生きる力、輝こうとするエネルギーに」

凛「だからなんだね。プロデューサーになったの」

加蓮「もう一度、感動……したかったから?」

モバP「……ああ」

98: 2015/02/09(月) 01:26:42 ID:cfPyWE5g
モバP「そのためには、誰かに依存なんてしてほしくなかった。二人きりでも、前を向いて輝き続けてほしかった……」

凛「……私たちは感動させられた?」

モバP「最高だったさ。シンデレラに選ばれた凛、魔法使いでありながら輝こうとする姿。加蓮との友情、そして引退。君たちの人生はずっと見守ってきたんだ」

加蓮「ストーカー発言だね」

モバP「まあな。ある意味そうなのかもしれない。……偉そうに言ってるが、君たちに執着し、依存していたのは俺なんだ……」

凛「嬉しい」

加蓮「変態」

99: 2015/02/09(月) 01:31:34 ID:cfPyWE5g
モバP「君たちを誰よりも愛しているのは自分だと……今思えば傲慢で恥ずかしい考えだ」

凛「あなたを狂わせた正体を、私も知ってるから」

加蓮「百年以上生きればね……」

モバP「君たちから成長を奪ったのは俺だ。未来を奪ったのも」

凛「それは違うから」

加蓮「それこそ傲慢だよ」

凛「私の人生は私のもの。だから、私の失敗は私のもの」

加蓮「誰かに押しつけていいものじゃない。責任っていうものは自分たちで背負うものだから」

モバP「……強くなったな」

凛「仲間のおかげかな」

加蓮「だね♪」

100: 2015/02/09(月) 01:36:17 ID:cfPyWE5g
だって、今告白されても、私はきっと断るからさ。

長い時間のなか、互いの嫌な面を知って、嫌いになってしまうかもしれないから。

永遠に恋していたいんだ。

だから一緒にはいられないと願った。

いたくないと思ってしまった。

愛してるから。

嫌いになりたくない。

いつか消える気持ちでも、あなたに対してはいつまでも新鮮でいたいから

あなたへの恋じゃなくて、あなたに恋している私が好きだから。

身勝手でごめん。

それが百年経って出した結論……のはずだった。

後ろ向きに前向きに。

それこそが、私たちの心を守る手段。

102: 2015/02/09(月) 01:39:12 ID:cfPyWE5g
モバP「これからは仲間として、よろしく頼む」

差し出された手に、私の結論は簡単に歪む。

一緒にいてもいいの?渋谷凛?

嫌な面くらい普通に生きてる人でも見てる。

駄目な部分だって受け入れようと努力してる。

綺麗なところしか見ないなんて、それこそ偽りの恋だ。

いつまで逃げるんだ?

奈緒の声が私の背中を押す。

現金だね、私。

凛「ふーん、アンタがこの事務所の社長?まあ、悪くないかな……なーんて」

加蓮「北条加蓮、改めてよろしくー」

私たちの恋愛は

今、始まったんだ。


おしまい

103: 2015/02/09(月) 01:50:59 ID:cfPyWE5g
終わらない時の中で、私たちは生きていく。

これからもたくさん笑い、たくさん絶望するだろう。

それでも私たちは、一日一日を大切に。

まだ見ぬ明日を夢見て、駆けていく。

さあ、プロデュースをはじめよう。

シンデレラの魔法はまだ、終わらない。




104: 2015/02/09(月) 02:05:12 ID:ntYl1RQk
乙うううううううううう
すばらっ

引用元: 凛「私が魔法使いだって言ったら……信じる?」