1: 2010/08/30(月) 23:12:00.43 ID:fFH2C+MX0
新歓ライブ前日

律「なんだよ話って」

唯「今から言うことに驚かないでね」

梓「唯先輩がそんな顔するなんて久しぶりに見ましたよ」

唯「実はね、私…」

澪「……ゴクリ」

唯「…未来からきたの」


律「………」

澪「………」

紬「………」

梓「………っぷ」

唯「そのときは、また」【前編】
3: 2010/08/30(月) 23:15:33.23 ID:fFH2C+MX0
「あははははは!」

律「さーっ、練習すっぞー!」

唯「うー!りっちゃーん!」

梓「エイプリルフールはとっくに終わってますよ!」

紬「でもタイムスリップなんて憧れるわ~」


そりゃあ私だって信じたくないけど

「聞いてあげたら?」

唯「…え?」

さわ子「話だけでも」

律「いつの間に…」
けいおん!Shuffle 2巻 (まんがタイムKRコミックス)
4: 2010/08/30(月) 23:16:24.68 ID:fFH2C+MX0
さわ子「いいじゃない、夢があって…それに」

さわ子「唯ちゃん……真剣な顔してるから」

唯「うぅ…さわちゃん」

澪「じゃー聞いてやるから、終わったら練習な!」

さわ子「……」


唯「実は―――」


とりあえず私は今までの経緯を話した

もちろん真剣な顔で
そのぶん最後の方にはみんなわたしの話に聞き入ってくれていた

唯「…とまぁこんな感じ……かな」

梓「脅し……ですか?」

唯「でも大丈夫だよ!まだ今は4月だし!」

律「まあ梓待て、あくまでこれは唯の"夢"だ」

5: 2010/08/30(月) 23:17:51.03 ID:fFH2C+MX0
澪「そう。だから例え今年誰も入らなかったとしても、来年にはきっと誰か入ってくれるさ」

唯「夢じゃないってばー!」

だってそうだよ…あんなリアルな夢あるわけがないよ

夢なのはむしろこっちの世界だよ

紬「わたし…頑張る!」

梓「……?」

紬「わたし今年中に部員入ってくれるように頑張る!」

唯「むぎちゃん……」

紬「みんなも頑張ってくれるよね?」

律「いや…別に唯にこんな話されなくても初めからやる気はあったんだが…」

澪「あ……なあ唯?」

唯「ん?」

6: 2010/08/30(月) 23:18:40.83 ID:fFH2C+MX0

澪「お前らは別に勧誘に手を抜いた訳じゃないんだよな?」

唯「むしろ上手くいったほうだったよ」

唯「だけど……ほら、やっぱり私たちって"5人で1つ"みたいな感じがあるから入りにくいんじゃないかなあって」

澪「どんな勧誘の仕方だったんだ?」

唯「えーっと確か…」

あれあれ…?

思い出すと私たちどうしてあんなことやってたんだろう

着ぐるみ着たり、騙したり


唯「2年生の時と同じ感じかな」

澪「2年生……って着ぐるみ着てやったのか?」

唯「う…うん」


7: 2010/08/30(月) 23:19:22.29 ID:fFH2C+MX0
律「いや別に関係無いだろ」

紬「私もそこは問題無いと思うわ。2年生の時は梓ちゃんが入ってくれたから、まあ成功ってことにはなったけど……」

紬「よくよく考えてみれば梓ちゃんは元からギターに興味があったりして、勧誘は関係無かった気がするわ」

律「…ってことは私たちの勧誘って"失敗"だったってことなのか?」

澪「考えてみたらそうかもな」

律「じゃあどうしたらいいんだ?軽音部である限り誰も入ってくれないってことじゃないか!」


―――まさにその通りだった。


新歓ライブでの演奏自体はまた上手くいった

……けど問題はその後

やっぱり軽音部には誰も来てくれなかった

あれからというもの打開策は見つからず、私は夜寝るたびにあずにゃんが部室で一人しくしくと泣いているのを想像してしまいなかなか眠れなかった


8: 2010/08/30(月) 23:20:07.41 ID:fFH2C+MX0
キーンコーンカーンコーン

唯「くー……zzz」

和「唯、授業終わったわよ?」

唯「あっ……またわたし……」

和「最近ずっとそんなだけど、どうかしたの?」

唯「いや…部活がちょっとね…」

和「大変そうね…なんか私にできることあったら言ってね?」

唯「じゃあ一ついい?」

和「え…いいわよ?」

唯「もし大好きな人が将来不幸になるってわかってて、それでその人を不幸にしないように未来を変える役目が自分にあるとして……」

和「ちょ、ちょっと待って。それなに?映画?夢?ふざけた質問なら聞かないわよ?」


9: 2010/08/30(月) 23:20:43.30 ID:fFH2C+MX0
唯「真面目だよ」

和「………」

和「で?」

唯「で、役目を果たそうとしてもなかなか上手くいかないんだよ。で、困ってるわけ」

和「へぇ…でもどうして将来その人が不幸になるってわかるの?」

唯「その自分は未来からやって来たんだ」

和「ふーん…すごい人なのね」

唯「……うん」

和「上手くいかないなら、上手くいくようにするしかないじゃない」

唯「そうなんだけどさ…チャンスは一回だけなんだよ!」


10: 2010/08/30(月) 23:21:34.17 ID:fFH2C+MX0
和「でも未来を変えられるチャンスが一回でもあるならそれは幸運よ?」

和「誰もが過去に戻りたいって思っても戻れるわけじゃないんだから」

唯「だからその一回を確実に正確に成功させなきゃ――――」

和「それにあんた、勘違いしてるわよ?」

唯「…え?」

和「それがその人の"運命"だったのよ」

唯「そんな…そんなわけない!」

和「だいたい不幸じゃなくしてどうするの?その人はその後も一生不幸になることなく暮らしていけるの?」

唯「あーもう!うるさいうるさい!」

ガタッ

和「ちょ、唯!?」

唯「帰る」


11: 2010/08/30(月) 23:22:24.26 ID:fFH2C+MX0
律「ちょ…なんかヤバくね…?」

澪「確かに…」

和「そうやってまた逃げるのね」

唯「……」

和「そのお話の人も、あんたみたいだから何も変えられないんじゃないの?」

唯「……」

タッタッタ

紬「唯ちゃん最近おかしいね」

律「3年になってからずっと何か抱えてるみたいなんだよな…」

澪「まさか本当に未来からやって来たんじゃ…」

律「まさか…」

澪「だ、だよなー……あはは」


12: 2010/08/30(月) 23:23:04.29 ID:fFH2C+MX0
……

ああ、何やってんだろ私

一人でがむしゃらになって

みんなに迷惑かけて

そして新入部員は集められない

あげく友達まで傷つけて

今はまた現実から目を反らしてる

タッタッタ

なんのために私はこっちに来たの?

私は…

私はどうして


「どうしてこんなことをしているんだろう…」

唯「!?」

13: 2010/08/30(月) 23:23:44.91 ID:fFH2C+MX0
さわ子「でしょ?」

唯「……」

タタッ

さわ子「待ちなさい」

唯「う……」ピト

さわ子「もう…本当にしょうがないわね」

さわ子「ちょっとこっち来なさい」

唯「……」

進路指導室


さわ子「部員獲得は難しいでしょ?」

唯「……はい」

さわ子「だいたい軽音部なんてそんなものなのよ」

唯「……」

14: 2010/08/30(月) 23:24:21.46 ID:fFH2C+MX0

さわ子「『どうして』、『なんのために』って思ってるんでしょ?」

さわ子「過去に来た理由」

唯「……え?」

さわ子「そうよ、私があなたを過去に戻らせたのよ」

唯「あれさわちゃんだったんだ…!」

唯「でも…どうして?どうして私は過去に…」

さわ子「ごめんなさい」

さわ子「正確に言うと、"私であって私じゃない"のよ」

唯「?」

さわ子「要するに今の私と未来の私は同じ人でもリンクはしていないのよ」

唯「……りんく?」

さわ子「そうリンク。つまり私は過去の人間だから、未来の私の考えてることなんてわからないのよ」

15: 2010/08/30(月) 23:24:56.03 ID:fFH2C+MX0

唯「そう…なんだ」

さわ子(あれ、私のことについてつっこまないのかしら…)

唯「……」

さわ子「でも私がそんなことをするなんてきっと重大なことだったのよ」

唯「廃部とか?」

さわ子「いや…もしかしたら廃部は関係無いのかもしれないわ」

唯「え…じゃあ」

さわ子「そう…他にあるのかもしれないわ。だって廃部なんて過去に戻ったところで止めようもないし、むしろ唯ちゃんにそんな難しいことはさせないと思うの」

唯「じゃあ…じゃあ私はなんで」

さわ子「ヒントはあるはずよ」

唯「ヒント…?」


16: 2010/08/30(月) 23:25:57.02 ID:fFH2C+MX0
さわ子「そう。未来の私だって唯ちゃんでもできることをさせようとしたはずよ?」

唯「そんな…でもチャンスは一回って」

さわ子「そうよ、一回きり。だってそうでしょう?過去に戻るなんて大罪よ、神様からしたら」

さわ子「あ…そうだ……はぁ」

唯「どうしたの?」

さわ子「今から言うことをしっかり受け止めてちょうだいね、いい?」

唯「う…うん」

さわ子「この力はね、使った人にリスクを与えてしまうの」

唯「りすく…って?」

さわ子「ちょっと待って、あなた大学受験したんじゃないの?」

唯「したけど…いやー難しくてね…だから勘で!」

さわ子「やっぱりね」ガクッ

17: 2010/08/30(月) 23:26:39.88 ID:fFH2C+MX0
さわ子「まあいいわ、リスクってのは代償のこと」

唯「…ふーん。それでその代償っていうのはなんなの?」

さわ子「……」

さわ子「記憶の削除」

唯「……はい?」

さわ子「とは言ってもあなたのじゃないわ。あなたと関わった人間のほう」

唯「ちょ、ちょっと待ってよ!それはいくらなんでも」

さわ子「だから言ったでしょ、これは大罪だって。神に叛いているのよ、あなた」

唯「じゃあ過去に戻ってやり直しても、意味が無いじゃん!」

さわ子「それほど意味があるのよ、このタイムスリップには」

さわ子「例えばもしかしたらあなたは将来の日本を救う救世主かもしれないし、はたまた廃部が原因で自殺なんてしてしまったのかもしれない」

18: 2010/08/30(月) 23:28:01.91 ID:fFH2C+MX0
さわ子「記憶を消す、なんて言っても心配しないで。"高校での話"だから」

唯「なんか頭が混乱してきた」

さわ子「落ち着いて」

さわ子「つまりあなたは、この高校に入学しないで別の高校で過ごした…っていうことになるのよ」

さわ子「だから要するに、憂ちゃんやあなたの両親はあなたのこと忘れたりしないわ。まあ私もだけど」

唯「記憶はいつ消えちゃうの?」

さわ子「あなたがタイムスリップさせられた日よ」

唯「そんな…」

さわ子「最後のチャンス、有意義に使いなさいね」

唯「………」

19: 2010/08/30(月) 23:28:40.39 ID:fFH2C+MX0
唯「いきなりすぎて何がなんだか…」

あー、ダメだ。やっぱり一回家に帰ろう

唯「じゃあ、さようなら」

さわ子「はい、さようなら…ってまだ三時間目なんだけど!」

さわ子「でもいいわ…大目に見てあげるわよ」

唯「ありがとうございます」

ガチャ

さわ子(そりゃあショック受けるわよね…今まで共に過ごした仲間達がある日突然自分を忘れてしまうんだから)

さわ子(名前も………思い出も)



20: 2010/08/30(月) 23:29:27.25 ID:fFH2C+MX0
その日の夜

私は混乱していた

唯「わけがわかんないよ……」

確かに廃部はショックだったし、廃部にさせたくないと願った

だからといっていきなり過去に戻されて、未来を変えたとしてもみんなの記憶を消す、なんてどうなの?

唯「うー」ジタバタ

トントン

憂「大丈夫?」

唯「うーいー!」ギュッ

憂「ど、どうしたの?」

唯「もういやー!」

憂「ちょっと…え?」


21: 2010/08/30(月) 23:30:13.93 ID:fFH2C+MX0
……

唯「……って感じなんだけど」

憂「……え?」

憂「えええええ!?」

憂「たたたた、タイムスリップ?」

唯「簡単に言うとね」

憂「すごい夢だね!」

唯「夢じゃないのにー」

憂「じゃあ物語?」
唯「ちがーう!本当なのー!」

憂「…でもお姉ちゃんが言うなら信じる」

唯「ありがとー!」

さすが我が妹!

憂「で、なんのために?」

22: 2010/08/30(月) 23:30:47.31 ID:fFH2C+MX0

唯「それがわからないんだよ」

憂「わからない…って、自分の意思でタイムスリップしたんじゃないの?」

唯「させられたんだよ。だから目的もわかんない」

憂「でもそれなら確かに"やるべきこと"があるってことだよね……多分」

唯「そうなんだよ!でもそれがわかんなくて」

憂「それで…」

憂「じっくり思い出したら?本当の理由は自分にあるんだろうから」

唯「うん…ありがとう」


やっぱり原因は自分にあるのかな

にしても、記憶が消えちゃうんじゃ私何かする必要あるの?
私は今までの思い出に浸って生きていくの?

みんなとお別れしなきゃいけない日がくるの?


そんなの…嫌だよ



23: 2010/08/30(月) 23:31:39.38 ID:fFH2C+MX0
翌日

唯「あ、さわちゃんおはよう」

さわ子「おはよう。昨日は眠れた?」

唯「…全く」

さわ子「そっか…」

唯「あ、和ちゃんおは……」

って…わたし昨日ケンカしちゃったんだっけ

和「おはよう」ニコッ

唯「……え」

和「ほら、突っ立ってないで早く上履き履き替えて教室行くわよ」

唯「う……うん」

和「何があったか知らないけど、そんなの唯らしくないわよ」

唯「……」


24: 2010/08/30(月) 23:32:11.13 ID:fFH2C+MX0
ガラガラガラ

澪「あ、おはよー!」

律「おはよー」

紬「おはよう」

和「おはよう、みんな」

唯「…おはよう」

やっぱり和ちゃんはすごいや

私よりずっと大人

そして私は子供のまま、何にも変わってない

澪「……」

律「……」

紬「……」



25: 2010/08/30(月) 23:33:39.21 ID:fFH2C+MX0
放課後、音楽室

唯「……」

律「なあ」

唯「?」

律「その……さ、なんか悩みあったらなんでも言えよ?」

紬「そうよ?いつもの唯ちゃんらしくないわ」

澪「……」

唯「私らしいってなに?」

紬「え…?」

26: 2010/08/30(月) 23:34:09.21 ID:fFH2C+MX0
唯「勝手に決めないでよ!私は私なんだから!」

律「ちょ…唯、むぎは心配して…」

紬「いいの…ごめんね唯ちゃん」

唯「あ………」

まただ…

どうしてこう何もかもうまくいかないんだ

だいたいこれじゃあ過去に来て嫌われに来たようなもんじゃないか

唯「あ、教室に忘れ物しちゃった…取りに行ってくる!」

私は早くその場を立ち去りたかった

タッタッタ


27: 2010/08/30(月) 23:35:16.44 ID:fFH2C+MX0
職員室

さわ子「だいたい"未来を変える"なんてそう簡単じゃないのよ」

唯「…そうだよね」
さわ子「あとあなた頑張りすぎよ。かえって空回りしてるわよ」

唯「わかってるけど…」

さわ子「もう二度とやり直せないんだから、もっと今を楽しめばいいんじゃない?」

さわ子「それに……」

唯「?」

さわ子「それに変わっちゃいけないこともあると思うの」

唯「変わっちゃ…いけないこと?」

さわ子「悲惨な未来を知って落胆する気持ちはわかるけど、それを回りに影響させちゃだめよ」


さわ子「あなたは一度終わりまで経験してるからいいけど、他の子はまだ明るい未来を信じてるの」

28: 2010/08/30(月) 23:35:54.97 ID:fFH2C+MX0

唯「……」

さわ子「あなたが毎日毎日そんな暗い顔してたら、みんなには嫌な思い出しか残らないわよ?」

唯「でも……でもどうしたらいいの?わたし…どうせみんなに忘れられちゃうのに」

さわ子「現実を受け止めなさい」

唯「……そんなの無理に決まってるよ!」

さわ子「強くなりなさい」

唯「どうしてそんなことばっかり…」

さわ子「あなたの担任だからよ」

さわ子「私だってあなたの幸せを望んでいる」

さわ子「確かに"記憶を消す"なんて浮世離れしたことよ?」

さわ子「ただその現実から目をそらさずに、自分なりに生きていくことがあなたの本当の使命なんじゃないの?」

29: 2010/08/30(月) 23:36:38.30 ID:fFH2C+MX0

唯「それじゃあ……私できますか?何かを変えられますか?使命を与えられたのならそれ相応の力があるってことですか?」

さわ子「そうよ。私も馬鹿じゃないわ」

さわ子「それにね、」

さわ子「絶対に不幸にさせるようなことはしないと思うの」

さわ子「今を必氏に生きなさい」

さわ子「そうすればきっと…」

唯「ありがとうございました」

さわ子「え?」

唯「なんか…吹っ切れました…あはは」

さわ子「そう…また何かあったら…そうね職員室で話すのもあれだし」ガサゴソ

唯「?」

さわ子「はい、これ。私の番号。困ったとき辛いとき私に相談してちょうだいね」


30: 2010/08/30(月) 23:38:09.53 ID:fFH2C+MX0
唯「う……ヒグッ」

さわ子「あー泣かない泣かない」ナデナデ

唯「私…頑張る…!」

さわ子「その調子よ!」
唯「じゃあ私部室戻りますね!失礼しましたー」

バタン

さわ子(あの子も少しずつだけど成長してるのね…悩んでるのは本気の証だし)

さわ子(それになんとなく…だけどあなたの"使命"がなんなのかわかった気がするけど…)

さわ子(……まあそれを探すのがあなたの使命だもんね……頑張りなさい。未来からの訪問者さん)

さわ子「って私何考えて……うふふ」
先生「」ジーッ

先生「何がおかしいのかな?」

さわ子「え、あ、いや……えー!」

さわ子(私も頑張るからね……唯ちゃん!)

先生「山中先生!」

さわ子「はい!」

32: 2010/08/30(月) 23:38:49.65 ID:fFH2C+MX0
……

音楽室

バタン

唯「よし!練習をしよう」

律「!」

紬「!」

梓「もう先輩なにやってたんですか?」

唯「ちょっと忘れ物をねーあはは」

律「ゆ、唯?」

唯「さー練習するぞー!」

梓「おー……ってあれ皆さんどうしたんですか?」

律「おかしい、お前唯か?」

唯「え?」

律「さっきと全然違う」

33: 2010/08/30(月) 23:40:46.60 ID:fFH2C+MX0
唯「あ、ああ…実は問題は解決したのです!」

律「本当か?」

紬「良かったじゃない!」

唯「いやぁちょっと考え過ぎてたよ……あはは」

梓「唯先輩のやる気があるうちに練習をしましょう!ね、澪先輩?」

澪「……」

梓「…澪先輩?」

澪「えっ、ああそうだな!よし、練習をしよう!」

梓「ほら律先輩むぎ先輩も!」

紬「はーい」

律「ま…いいか」

澪「……」


34: 2010/08/30(月) 23:42:01.30 ID:fFH2C+MX0

それからと言うもの私は元の私に戻りつつあった

もちろんさわちゃんと電話したり学校で話したりして落ち着いていたからかもしれないけど

その時はまるでまた高校生活をやり直しているみたいだった

私も十分"こっちの世界"を楽しんでいたし、何よりみんなともう一度幸せな日々を過ごせるのはとても心地よかった


しかしこれと言った正解はなかなか見つからず、刻々とその日は近づいてきていた


唯「じゃーねー!」
梓「さようならー」
紬「また明日ー」

律「おうまた明日ー」
澪「じゃーなー」

澪「……なあ律?」
律「ん?」

35: 2010/08/30(月) 23:42:44.74 ID:fFH2C+MX0
澪「なんか前に唯が『未来から来た』みたいなこと言ってたろ?」

律「お前まだ覚えてたのか?唯もあの時期は病み期だったんだよ」

澪「どうも私には何か抱えてるように見えるんだよ」

律「はあ?本当に未来からやってきたってことか?」

澪「私は絶対に無いとは言い切れないと思うんだ」

律「お前映画の見すぎ」

澪「いやなんていうかな…たまに寂しげな顔するんだよ、あいつ」

律「そうなのか?」

澪「まあ卒業を意識してるって可能性もあるけど……なんていうかその…」


36: 2010/08/30(月) 23:43:25.52 ID:fFH2C+MX0

律「何かを悟った顔をするってわけか…」

澪「そう…たまにさわ子先生と二人で喋ってることがあるから気になってさわ子先生に聞いてみたんだ」

律「で?」

澪「うまくはぐらかされちゃって…な」

律「さわちゃんも絡んでるってことか」

澪「ただ何かあると思うんだ、きっと」

律「うーん…」


37: 2010/08/30(月) 23:44:01.70 ID:fFH2C+MX0
……

いつかこんな綺麗な夜空を見たことがあった

どうしてこんなに輝いているのに

手を伸ばせば届きそうなのに

どうして掴めないんだろ

どうして私の心の中はこんなに暗いんだろ

梓「……先輩?」

唯「え?」

梓「もー、だからー受験勉強はちゃんとやってるんですか?」

唯「受験…勉強?」

忘れてた、完全に

唯「今何月だっけ?」

梓「はいー?」

38: 2010/08/30(月) 23:44:58.76 ID:fFH2C+MX0
梓「今日は7月16日ですよ、明日終業式です!」

唯「ってことはもう夏休み?」

梓「はい…」

唯「本当?」

梓「本当です」

うそー!?

あの勉強漬け(?)の夏休みをもう一回繰り返さなきゃいけないのー?

私は家に着くと同時に問題を開いた
唯「頼みます頼みます!」

唯「…」ジーッ
できない……

あれ、脳って引き継いでないの?あの頃のまま?ってことはまた夏休み勉強?

唯「もう……だめ」バタッ
ただ正真正銘"最後"の夏休みが明日から始まるということだけは理解していた


39: 2010/08/30(月) 23:45:38.04 ID:fFH2C+MX0
そして夏休み

また私の勉強生活は始まった

唯「なんでまた…」

だけどさすがに一度受験までしたから、あの頃よりはできたほうだった

夏休みは勉強だけじゃなくて、花火を見に行ったり、お祭りに行ったり、家に集まったりもした

その点は前とあまり変わらなかった

そんなある日のことだった

プルルルル

唯「電話だ…」

唯「もしもーし?」
澪「あ、唯か?ちょっと今から会えないか?」

唯「今か…うん!大丈夫だよ」

澪「じゃあ……そうだな…ほら、前に行った喫茶店わかるか?」

40: 2010/08/30(月) 23:46:29.44 ID:fFH2C+MX0
唯「あー、うん!了解ー!」

ピッ

唯「なんだろ話って…」

あれ…?

良いのか悪いのかわからないけど、前と展開が違うな

まーそりゃそうか…私が前と違ってるんだから

…にしても澪ちゃんがそんなこと言ってくるなんて重要なことに違いない

私は喫茶店に向かった

カランカラン

唯「」キョロキョロ

澪「唯ー!」

唯「あっ!澪ちゃん」

41: 2010/08/30(月) 23:47:21.59 ID:fFH2C+MX0
澪「お前がこんなに早く来るなんてな」
唯「普通だよ普通!」

店員「ご注文の方は何にしましょう」

澪「えーっと、じゃあこのアイスキャラメルハニーラテで!」

唯「……クスッ」

澪「なんだよ」

唯「いやいや」

変わらないなー本当

店員「ご注文は何にいたしますか?」

唯「私はアイスティで」

店員「かしこまりました」

42: 2010/08/30(月) 23:48:08.95 ID:fFH2C+MX0
澪「お前がそんなの頼んだら、なんか私が子供みたいじゃないか!」

唯「なにキャラメルなんとかって」

澪「美味いんだよ!」

でも…なんか寂しい
あんな未来知ってなきゃ私だって…

澪「……」

澪「受験勉強捗ってるか?」

唯「おかげさまで」
澪「ふーん。でも夏休みに勉強なんて嫌だよな!集中できないし」

唯「あはは…」

唯「で、話って?」
澪「……」

唯「?」

43: 2010/08/30(月) 23:48:40.77 ID:fFH2C+MX0
澪「お前本当に未来から来たのか…?」

唯「え…?」

完全に忘れられてると思ってた

唯「あ、あれは本当は夢だったんだよ!」

澪「そうじゃなくても、何か問題抱えてんだろ?」

唯「えー、どうして?」

澪「私にはわかるんだ。なんでかわかんないけど…さ」

澪「それにお前がそんなんだと私の気持ちも晴れないっていうか」

澪「だから話してくれないか?」

唯「澪ちゃん…」

店員「お待たせしました!アイスキャラメルハニーラテとアイスティです。ごゆっくりどうぞ!」

44: 2010/08/30(月) 23:49:13.89 ID:fFH2C+MX0

澪「………」

唯「……クスッ」

澪「笑うな、ばか」

唯「あはははは!」

澪「はは…あははは!」

唯「……でもね、澪ちゃん」

澪「あはは……え?」

唯「いいの、もう。これは私の問題で、私が解決しなきゃいけないから」

澪「そんなこと言ったって…そんな話せないことなのか?」
唯「いや…そういう訳じゃないんだけど…」

唯「じゃあ一つ聞いていい?」

澪「いいよ」

45: 2010/08/30(月) 23:49:46.75 ID:fFH2C+MX0
唯「私のダメな所ってなに?」

澪「ダメな所…?」

澪「うーん……って言っていいものなのか?」

唯「来なさい!私の大きな器で受け止めよう!」

澪「唯ってさ…誰かに頼る癖があるよな。憂ちゃんとか私たちとかに」

唯「はい…」

澪「だからそういうとこを……ってだからお前…!」

唯「いや…あはは」
澪「お前……!」

澪(そうか…だからこいつ1人で何もかも背負ってるみたいに見えたのか)

澪「お前…それがわかってて変えようと…!」

唯「さーね」

46: 2010/08/30(月) 23:50:30.74 ID:fFH2C+MX0
ただそれは紛れもない真実

私は私なりに今を変えようとしていた

澪「にしても偏りすぎなんだよ!なんていうか……その」

唯「私らしさ」

澪「え?」

唯「だよね?」

さわちゃんの言った通り"変わっちゃいけないこと"もあるんだ
それをまた澪ちゃんには教えられちゃったかな

澪「まーでも、本当に困ったらいつでも私に言えよ?」

澪「少なくとも、あんな部長よりは役に立つからさ!」

唯「あはは」

「誰があんな部長だって………?」

47: 2010/08/30(月) 23:51:04.58 ID:fFH2C+MX0
澪「へっ!?」

唯「あー!りっちゃん!」

律「ったく、ずっと後ろで聞いてたよ」

紬「唯ちゃんやっほー!」

唯「むぎちゃん!」
梓「別に私は盗み聞きなんてしてないですからね?」

唯「あずにゃん!」
澪「どうしてお前らがここに…」

梓「私もそれ律先輩に聞きたいんですけど!」

紬「あ、そういえばそうね…」

澪「知らなかったのかよ!」

律「いやー、ノリで!」

律「…っていうのは嘘でさ。お前らにどうしても見せたいものがあるんだ」


48: 2010/08/30(月) 23:52:04.31 ID:fFH2C+MX0
唯「……!」

梓「なんですか?」

律「ここにはないんだ。悪いがついて来てもらえるか?」

うん、間違いない。やっぱりあれは夢なんかじゃなかった

みんなは不思議な様子で電車に乗っていたけど、私はその電車の窓からの眺めに懐かしさを感じていた

律「ここだよ」

澪「ここ……って何にもないただの丘じゃないか!」

律「まあ待てって」

そうそう

そして暗くなってきたら綺麗な星が…

ポタ…ポタポタ

梓「あ」

49: 2010/08/30(月) 23:52:49.81 ID:fFH2C+MX0
ザーッ

澪「……」

律「た、確かに天気予報では晴れだったはずなんだ!」

澪「そうか。本当だったら綺麗な星が辺り一面に…な」

律「お前らにも是非とも見せてやりたかったよ」

紬「でもこれじゃ風邪引いちゃうわ」

梓「また今度来ましょう」

律「うぅ……」

澪「さ、帰ろう帰ろう」

梓「…唯先輩?」


50: 2010/08/30(月) 23:54:32.39 ID:fFH2C+MX0
ザーッ

唯「……」

梓「ちょっと風邪引きますよ?」

梓「先輩…?」

唯「……見えるよ」

梓「…?」

唯「私にはちゃんと見える……!」


みんなと見れないのはちょっと残念だったけど

確かに私には見えたんだ


夏の夜空に輝く星が

51: 2010/08/30(月) 23:55:09.01 ID:fFH2C+MX0

気がつけば夏休みも終わって、2学期が始まっていた

そこからは、文化祭のクラスの出し物の計画や練習とライブの練習に加え受験勉強と、ハードだったけど楽しかった

そんなある日の放課後、私は憂と帰ろうと教室に立ち寄った

憂まだいるかな…

教室を覗くとあずにゃんが一人で窓から外を眺めていた

唯「……あずにゃん?」

梓「あ……唯先輩」

唯「なにしてるの?」

梓「いえ…なんか綺麗な景色だなー…って」

唯「ふーん」

52: 2010/08/30(月) 23:56:16.41 ID:fFH2C+MX0
確かに綺麗な夕暮れだった

そして何より心地よかった

梓「先輩こそこんなとこにいていいんですか?受験もうすぐなのに」

唯「いや…憂と一緒に帰ろうと思ってたんだけど」

梓「憂なら帰りましたよ…」

唯「そっか…」

唯「ねえ、あずにゃん?」

梓「なんですか」

唯「一つ聞いてもいいかな」

梓「何個でもどーぞ」

唯「軽音部……入ってよかった?」

梓「……」

53: 2010/08/30(月) 23:57:15.40 ID:fFH2C+MX0

梓「なんですか、急に」

あずにゃんは外を眺めながら答えた

唯「いや…別にどうってことじゃないんだけど……さ、今のうちに聞いておこうと思って」

梓「まあよかったですよ。色々楽しめましたし」

梓「じゃあ逆に唯先輩に聞いていいですか?」

唯「どんと来なさい!」

梓「……」

梓「先輩は幸せでしたか?」

あずにゃんのその問に私はちょっとびっくりした

確かに急に言われると困る

だけど私は満面の笑みで答えた


54: 2010/08/30(月) 23:58:02.20 ID:fFH2C+MX0
唯「うん!とっても!」

梓「……」

梓「それは何よりですね…」

唯「あーずにゃーん!」ムギュ

梓「ちょ、唯先輩!」

唯「うぅ……グスン」

梓「泣いてるんですか?」

唯「私、卒業したくない…」

梓「またそんな無茶言って…」

唯「みんなとお別れしたくない…!」

梓「そんなこと言ったってどうにもならないんですよ?」


55: 2010/08/30(月) 23:58:53.02 ID:fFH2C+MX0

唯「わかってる!わかってるけど…」

梓「それに大丈夫ですよ、唯先輩」

唯「?」

梓「卒業したって永遠の別れじゃないんですから」

梓「いつでも会えますよ」

永遠の別れ…か

って私またあずにゃんに甘えて…

唯「…ごめん」

梓「今日くらい…いいですよ?」

56: 2010/08/31(火) 00:00:57.64 ID:meeCyrvC0
誰もいない放課後の教室を

オレンジ色に染まった夕焼け空が包む

カーテンがそよ風でゆらゆらと揺れていて

私は抱きしめる

強くてもろいその体を

愛に満ちたその体を

唯「あずにゃーん……!」ポロポロ

梓「私がずっとそばにいてあげますから」ナデナデ

今日だけは甘えさせてもらうことにしよう

そう思って私は強く強く抱きしめた

57: 2010/08/31(火) 00:02:10.85 ID:yikbs/GC0
------

文化祭も終わって本格的な受験ムード

笑ってられる場合じゃない

記憶は消されるとは言っても大学だけには行こうと思う

そうすればみんなと一緒にいられる気がしてさ

唯「はぁ…」カキカキ

憂「お姉ちゃーん、ちょっと出かけてくるねー?」

唯「うーん!」

そういえば最近憂の外出が増えた気がする

私が勉強ばかりしてるせいかな

まあ私の最後の望みはもう一度あの時と同じ問題が出てくれること

正直これなんだよ、タイムスリップの醍醐味は

って違うか

58: 2010/08/31(火) 00:02:52.65 ID:yikbs/GC0
土日は家で勉強して、平日は部室でみんなと勉強

みんなで一緒の大学って決めたからどこか心はホッとしている

そんな勉強漬けの毎日だったある日のことだった

唯「あーもう、みんな部室いるのかな」

私が急いで音楽室に向かっていると、ある教室であずにゃんとさわちゃん、それに和ちゃんが集まって会話をしていた

当然不思議に思った私は教室に入った

唯「みんな…なにしてるの?」

和「!」

梓「!」

さわ子「……」

59: 2010/08/31(火) 00:04:08.03 ID:fFH2C+MX0
梓「先輩部室行ったんじゃ…」

唯「いや忘れ物しちゃって…」

さわ子「別になんか暇だったから喋ってただけよ。あなたたちも勉強で相手してくれないし」

唯「ふーん」

和「みんな待ってるわよ?」

唯「あっ…そうだった!じゃあね!」

タッタッタ

唯「?」

私は音楽室に向かった


60: 2010/08/31(火) 00:04:46.14 ID:yikbs/GC0
月日は流れ受験当日

澪「もういや…」

律「なんであんな大勢の前で歌えるのに受験が無理なんだよ」

澪「お腹痛い…」

紬「大丈夫よ!緊張するのは頑張った証拠だから!」

唯「頑張ろーね!」

試験官「始めてください」

ペラ

よし…頼む頼む…!

唯「……!」

違う問題じゃん…!

意外と設定ハードだね、さわちゃん

でも…頑張らなきゃ!


61: 2010/08/31(火) 00:05:45.47 ID:yikbs/GC0

その後はまさに光陰なんとかの如しって感じだった

みんな合格して涙ながらに抱き合った

そしてまた卒業式がきた

なんでだろう、さすがに二回目ともなると泣かないと思ったのに、ちょっとうるうるきた

りっちゃんはまた涙を堪えているみたいだったけど確かに目がきらきらとしているのが見えた

あっという間、本当に

卒業式後の音楽室は今まで変わらない時が流れていた

あのいつも通りの風景

62: 2010/08/31(火) 00:06:36.47 ID:yikbs/GC0
澪「もう卒業か…」
律「だな…」モグモグ

澪「あっという間だな…」
律「本当本当」モグモグ

澪「楽しかったな…」
律「うん」モグモグ

澪「聞けよ!」バンッ

律「最後のティータイムだぜ?明るくいこう!」

唯「そうだよ澪ちゃん!こんなケーキ二度と食べられないかもしれないよ?」モグモグ

紬「家に来たらもっと食べさせてあげるわよ」

澪「ったく…」

63: 2010/08/31(火) 00:07:26.26 ID:fFH2C+MX0
澪(まあでも…こいつらもこんなことしてて実は感じてるんだろうな)

澪(もうこの瞬間には戻ってこれないことを)

唯「ほら、あずにゃんも食べなよ」

梓「はい…」

唯「?」

何か言いたそうな顔してる……ような

梓「ちょ、ちょっとすいません!私トイレに…」

タッタッタ

律「梓のやつ…」

紬「これが最後だって思っちゃうと辛いわよね」

澪「でも…梓みたいな後輩ができて良かったよな!」

唯「本当だよ…」

64: 2010/08/31(火) 00:08:09.44 ID:yikbs/GC0

バタン

唯「あずにゃんおかえ……ってさわちゃんか」

さわ子「"か"ってなによ!」

さわ子「まあいいわ。なんか真鍋さんが写真撮ってあげるから講堂に来てだって」

律「写真か…」

写真…?

やっぱり前と未来が変わってる

前はそんなことしなかった


さわ子「……」

67: 2010/08/31(火) 00:11:54.48 ID:yikbs/GC0

講堂

澪「なんだ真っ暗じゃないか」

律「和来てないのか?」

唯「……?」

どうなって…

その時講堂の灯りが一斉についた

唯「…!」

梓「待ってましたよ、先輩」

唯「あずにゃん…それに憂…純ちゃんまで!?」

そこには楽器を構えたあずにゃん達がいた

憂「お姉ちゃーん!」

70: 2010/08/31(火) 00:13:29.17 ID:yikbs/GC0

そうか…

だから憂もあんな出かけて…それでみんなで練習してたのか…

梓「私にできるのはこれくらいです」

澪「いつの間に…」

律「ったく…」

紬「梓ちゃん…」

梓「……ってちょっとかっこよすぎですかね」

唯「そんなことない……スゴく嬉しいよ、あずにゃん」

梓「今でも思い出します。最初の新歓ライブの輝かしい皆さんの演奏」

梓「不安だらけの入部に」

梓「合宿や文化祭…色んなことをしてきましたよね」

71: 2010/08/31(火) 00:14:47.65 ID:yikbs/GC0

梓「たけど、今思い出すのはそんな大きな思い出よりもむしろ毎日毎日皆さんとお茶したあの平凡な日常なんです」

梓「あの何気ない毎日が私にとって宝物だったんです」

梓「でも…なんででしょう…」

梓「楽しかった…はずなのに」

梓「考えると……涙が止まらないんです」

梓「でも…今やっとわかったんです」

「後ろばかり振り返ってもしょうがない。前に進まなきゃいけないんだ」

梓「……って」

唯「………!」


72: 2010/08/31(火) 00:16:45.51 ID:yikbs/GC0
そっか…そういうことだったんだね

私が戻ってきた理由

ここにいる理由

軽音部に入った理由は

この一言を聞くためだったんだね

梓「だから…これは私のけじめの曲です……!」

澪「梓のやつ…」

紬「……グスン」

律「かっこよすぎんだよ……ばか」

唯「あずにゃん!」

梓「唯先輩。あなたに会えて良かったです。それに皆さんとも」


73: 2010/08/31(火) 00:18:47.66 ID:yikbs/GC0
こらえろ…私

笑顔で見送るんだ!
あの時みたいに私……泣いたりしな…

唯「…!」ポロポロ

うそ…

なんでよ……止まってよ…

梓「私、今ならはっきり言えます!」

梓「軽音部に入って」

梓「皆さんと共に過ごせて」

梓「本当に…」

梓「本当に幸せだったって…!」

74: 2010/08/31(火) 00:19:46.11 ID:yikbs/GC0

梓「唯先輩!澪先輩!律先輩!むぎ先輩!」

梓「今まで、ありがとうございました!」

梓「わたし、頑張りますからー!」

梓「……よし」

純「良かったね。ちゃんと言えて」

梓「うん!」

梓「じゃあいくよ?」

憂「うん!」

純「いつでも!」


梓「ふわふわ時間!」


75: 2010/08/31(火) 00:21:13.98 ID:yikbs/GC0
あずにゃんも前に進もうとしている

あの日、私があずにゃんを疑ってしまった日、軽音部が廃部したのを知った日、私はそこで"終わり"だと思ってしまった

でもそれは違ったんだね

もしかしたらあの後軽音部は復活していたかもしれないし、あずにゃんも踏ん切りがついていたのかもしれない

むしろ高校時代に別れを告げられないでいたのは私の方だったんだ

「あの時こうすれば今は変わったんじゃないか」

どうにもならないのに過去ばっかり振り替えって暗い未来ばかり見つめてた

そんな私にさわちゃんは「今を生きること」を教えてくれたんだ

後ろを振り返らないで前に進むこと

きっとその先には光があるからと

76: 2010/08/31(火) 00:22:44.51 ID:yikbs/GC0
そして私は気がついた

未来はこんなにも輝いていたことに

もしかしてさわちゃんは初めから知ってたのかな

私が戻ってきた理由を

ジャーン♪

梓「……はぁ」

パチ……パチパチ

タッタッタ

唯「あずにゃーーんっ!」

梓「はい!」

澪「あずさー!」

律「このー!泣かせやがってー!」

紬「もー!ずるいよー!」

唯「あずにゃーん」ナデナデ

77: 2010/08/31(火) 00:24:25.68 ID:yikbs/GC0

梓「生意気な後輩ですみません…えへへ」

憂「大成功だね!」
純「うん!」

唯「よし!」

唯「……スーッ」

唯「絶対行こー!武道館!」

壇上には私達七人

観客のいない講堂で私は叫ぶ

私達はずっとずーっと一緒だよって

そしたら聞こえたんだ

誰もいないはずの客席から沸き上がる歓声と拍手が

78: 2010/08/31(火) 00:25:04.93 ID:yikbs/GC0

そして一人が立ち上がってこちらに叫ぶんだ

「アンコール!アンコール!」って

それにつられてみんなも一斉に言い出した

目を閉じれば確かに見えた

広い武道館に満員の観客

そしてみんなが笑顔で私を見ている

今と変わらないその笑顔で

そして私はそれに答えるように叫ぶんだ

その輝く未来に向かって

唯「もう一曲いくよーーっ!」

「おー!」

79: 2010/08/31(火) 00:26:03.35 ID:yikbs/GC0

さて…これから私はどうしよう

この長い長い旅路をどうやって進もうか

そうだなあ

うーん

でも、焦る必要はないんだ

ゆっくり、ゆっくり歩けばいい

そしていつかこのレールがみんなのレールと交わるその時まで待つことにしよう

そしていつかまたみんなに会えたら


そのときは、また


また一緒に

81: 2010/08/31(火) 00:32:30.69 ID:yikbs/GC0
---

そしてとうとう"あの日"がきた


私が過去に戻った日

さわ子「未来は変えられた?」

唯「……」

唯「…うん!」

確かに未来は変わった

それが間違いでも正解でもどっちでもいい

またここから進めばいいんだから

さわ子(私の判断は間違ってなかったわね)

唯「あ、先生?」

さわ子「なに?」

82: 2010/08/31(火) 00:33:03.78 ID:yikbs/GC0

唯「先生って本当は何者なの?」

さわ子「いまさらー?」ガクッ

さわ子「…だから私はあなたの担任よ?」

唯「えー?」

さわ子「そうね…あなたの顧問でもあるわね」

唯「最後の最後にそれー?」

さわ子「うるさいわね!しょうがないじゃない約束なんだから」

さわ子(本当この子じゃなかったら私の立場も危うかったわね)

唯「じゃあさ…」

さわ子「?」

唯「最後に一つだけお願いしてもいい?」

さわ子「いいわよ、一つくらい」


83: 2010/08/31(火) 00:33:43.23 ID:yikbs/GC0

ヒソヒソ

唯「……だめ?」

さわ子「…あなたらしいわね」

さわ子「確か…前もそれやった子いたわね…」

唯「前……って、もしかしてあの物置片付けてた時のあれ?」

さわ子「もう何年も前よ」

唯「でもあんなことして良かったの?」
さわ子「いいの。だってあれはもう約束が果たされていたから」

唯「で、お願いできるの?」

さわ子「もちろんよ!」

唯「あ、待って、もう一個いい?」

さわ子「えー?」

84: 2010/08/31(火) 00:34:52.03 ID:yikbs/GC0

唯「お願い」

さわ子「上目遣いなんてどこで覚えたのかしら?」

さわ子「まあいいわよ」

ギュッ

さわ子「ちょっ…」

唯「……グスン」

さわ子「あなた本当は…」

唯「ううん…泣いてない」

唯「最後くらい、泣かないよ!」ニコッ

さわ子「そう…」ナデナデ

唯「よし!」

さわ子「そろそろね」

85: 2010/08/31(火) 00:35:26.65 ID:yikbs/GC0
唯「まさか…『実は嘘でした!ウフフ』なんてことは…」

さわ子「ないわよ」

唯「うう…」

さわ子「でもね、大丈夫。きっとまた会えるから」

唯「本当?」

さわ子「本当」

さわ子「目を閉じて」

唯「…うん」

さわ子「私がはいって言ったら目を開きなさい。目を開けた瞬間あなたは家の自室にいるわ。もちろん私とあなた以外の高校以降のあなたとの記憶は書き換えさせてもらうわ」

さわ子「…準備はいいわね?」

唯「うん!」

さわ子「……」

さわ子(5…4…3…)

「はい!」


86: 2010/08/31(火) 00:37:16.48 ID:yikbs/GC0
……

「せーんぱーい?」

梓「なに?」

「なんか物置あさってたら変なのが…」

梓「あれ…いつか片付けしたはずなんだけどな」

「よっこいしょ!」

ガスン

梓「ギター……みたいだね」

梓(あれ……?)

「先輩?早く開けましょうよ!もしかしたらお宝かもしれないですよ!」

ジーッ

梓「新しい…」

87: 2010/08/31(火) 00:38:41.10 ID:yikbs/GC0
「いいじゃないですか!これ!」

梓「ちょっと待って…」

(なんでだろ…このギターどこかで…)

「私にください!」

梓「だめ!先生のかもしれないから」

ガサガサ

「って先輩弾く気満々じゃないですか」
「私も先輩のギターテクが見たいです!」
「私もー!」

梓「そんなに見つめられると照れるよ…」

ジャカジャカ♪

「お~っ!」

梓「えへへ……」

88: 2010/08/31(火) 00:39:15.19 ID:yikbs/GC0

ジャーン……

「あれ…もうおしまいですか?」

「もっと見たーい!」

梓(なんで…なんで…?)

梓「ギー…」

「?」

梓「あれ…ギー…」

梓「って、あはは…私何言って…」

『ギー太!』

梓「……え?」

「先輩?」

93: 2010/08/31(火) 01:00:21.54 ID:yikbs/GC0
『あなたはあずにゃん!』

『もーあずにゃんー?』

『ほらーケーキ食べないのー?』

梓「あ……」

梓『先輩は……幸せでしたか?』

『うん。とっても!』

梓「行かなきゃ……」

「ちょっ先輩!?」

梓「待ってる人がいるの!私のことずっとずっと!」

タッタッタ

「行っちゃった……」

94: 2010/08/31(火) 01:01:27.48 ID:yikbs/GC0

梓(あそこだ……先輩たちと一緒に星を見に行ったあの場所…!)

梓(でも…誰なの?)

梓(妙に温かい気持ちにさせるその声は誰?)

梓(なんで私は覚えているの?)

『あずにゃーん!』
『はい!猫耳!』
『目指すは武道館!』

梓「はぁはぁ……」

梓(誰も…いない)

梓「はぁ……」

「やっと来てくれた」

95: 2010/08/31(火) 01:02:12.81 ID:yikbs/GC0
梓「……!」

さわ子「けど、ちょっと遅かったわね」

梓「せん…せい…?」

さわ子「昔ね、あの子と同じことを考えた生徒がいたの」

さわ子「その子はいけないことをして神様に罰を与えられちゃったんだけど」

梓「いけない…こと?」

さわ子「そう…どうしてもその子には諦められない好きな子がいてね、一度だけ過去に戻ったの」

梓「?」

さわ子「もちろん過去に戻っても何も変わらなかった……だけどね」

梓「だけど…?」

さわ子「だけどその子はその時初めてわかったのよ」

さわ子「過去ばかり振り返っても何も始まらないってことにね」

96: 2010/08/31(火) 01:02:50.93 ID:yikbs/GC0

さわ子「もちろんその子は罰を受けた」

さわ子「だからその子はその想いを違うかたちで伝えようとしたの」

梓「ギター……」

さわ子「そう。あなたが今日見つけたみたいにね」

さわ子「それを見つけた子は思った」

さわ子「『誰だかわからないけど、面影だけは覚えてる……そして自分は大切なものをその子から受け取った気がする』って」

梓「……結局、その子はその人と会えたんですか?」

さわ子「ごめんなさい…その続きは知らないわ」

梓「そうですか…」

さわ子「でもあなたも同じよね?」

梓「……?」

97: 2010/08/31(火) 01:03:23.80 ID:yikbs/GC0
さわ子「あなたが『自分は生きてるぞー!ここにいるぞー!』って証明できたらその子はきっと迎えにくるはずよ」

梓「証明…」

さわ子「そしたらあなたも全てを思い出すかもしれないわ」

梓「…ってそれ何の話ですか?」

さわ子「あらー知らないの?桜高の都市伝説」

梓「そんなのあったんですか」

さわ子「ともかく、あなたがそう思うのならそうなのよ」

梓「会えますかね?」

さわ子「会えるわよ」

さわ子「というかあなたをどこかで待ってるのよ」

さわ子「世界中のどこかで」

さわ子「ただ…一ついい?」

98: 2010/08/31(火) 01:04:16.97 ID:yikbs/GC0

梓「はい」

さわ子「これからどんなに辛いこと悲しいことがあっても進み続けなさい」

梓「はい」

梓「……ってそんなキャラでしたっけ?」

さわ子「うるさいわね。でも…そうすればきっと会えるから!」

梓「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」

梓「先生ってもしかしてスゴい人?」

さわ子「何回も言わせないでくれる…私は顧問!あなたたち軽音部の。そして…」
梓「そして?」


さわ子「あなたたちのファンよ」


99: 2010/08/31(火) 01:05:21.97 ID:yikbs/GC0
数年後


マネージャー「いやー今回も良かったですねー!みなさん!」

「無事終わってよかったわー!」
「ふーっ、あービールでも飲みたい!」
「居酒屋タイムじゃないですか……」
「喉が痛いー!」

マネージャー「…にしても人気はうなぎ登りみたいで本当に私も嬉しいですよ」

「まさか…って感じですけどね」

マネージャー「もうきっと観客のみなさんで外は埋め尽くされてますよ!」

「いやだ…コワイコワイ」

「なに言ってんだよ、人気がある証拠じゃないか」

「そうよ?嬉しいことじゃない」


100: 2010/08/31(火) 01:06:24.98 ID:yikbs/GC0

「あ、すいません!私お手洗いに…」

マネージャー「えーっと突き当たりを右です」

「はーい」

スタッフ「お疲れ様ー!」

「お疲れ様ー!」

「あっ、ここか…」

トントン

「はい?」

「あ、あのー」

「え、スタッフの方?」

「い、いえ…私昔からの大ファンで…」

「はい…?」


101: 2010/08/31(火) 01:07:07.06 ID:yikbs/GC0
「それでどうしても中野梓さんのサインが欲しくて…」

「いや…今はちょっと…」

「ダメ……かな?」

「………!」

「もう……」

「私……待ちくたびれちゃいましたよ」ポロポロ




唯『ねえ、みんな……』

梓『どうしたんですか?』

102: 2010/08/31(火) 01:08:56.92 ID:yikbs/GC0
唯『私たち、ずっとずっと一緒だよね……?』

律『なーに言ってんだよ、あたりまえじゃんか』

紬『そうよ?私たちはずーっと一緒よ』

澪『そう。ずっとな』


唯『みんな……』


梓『だいたい、唯先輩は一人じゃ危なっかしくて見てらんないですよ!』

梓『それに…』

唯『?』


110: 2010/08/31(火) 02:00:19.29 ID:yikbs/GC0
いつか見たあの星空をみんなは知らない

唯『……あ!流れ星!』

でもその星空は今でも私の心の中では輝いている

梓『……』

唯『えー?あずにゃんなにお願いしたのー?』

それは消えることはないんだ

晴れの日も雨の日も永遠に

梓『えー…』

律『言ってみ?笑わないからさ』

澪『別に願い事するなんて恥ずかしいことじゃないぞ?』

紬『気になる気になるー!』


111: 2010/08/31(火) 02:02:15.54 ID:yikbs/GC0
梓『恥ずかしいですよ…』

唯『教えてよー!』

梓『えーっと……その…ですね』

星の降る夜に君は呟く

その甘くて温かい、幸せな夢を

消えることのないその星に



おしまい


112: 2010/08/31(火) 02:05:42.51 ID:MedyZdQ50

113: 2010/08/31(火) 02:06:14.77 ID:wL5bCguD0
おつ!!

114: 2010/08/31(火) 02:07:28.81 ID:yikbs/GC0


改めて規制の怖さを知ったわ


前編
唯「そのときは、また」【前編】

支援ありがとうございました!

引用元: 唯「そのときは、また」【後編】