1: 2016/10/22(土) 02:00:31.33 ID:LzSFbzV40

見栄なんて張るだけ損だと思う。事実、私はたくさんたくさん損をしている。

例えば、ある日のレッスン帰りに寄ったファミレス。

いつも通り加蓮がポテトを注文して奈緒がちょっと可愛いものを注文するんだ。

そして、加蓮と私でそんな奈緒を茶化す。

茶化した手前、パフェなんか頼んじゃったら弄られること請け合いだから、澄ました顔で「カフェオレひとつ」なんて言っちゃうんだ。

ほんと、損な性格だと、常々思う。


アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(8) (電撃コミックスEX)

3: 2016/10/22(土) 02:01:49.30 ID:LzSFbzV40

◆ ◇ ◆ ◇ ◆



夕方の時間帯でありながら、多くの視聴率を獲得している番組がある。

番組自体は一般的なニュース番組なんだけど、その番組内のあるコーナーが爆発的な人気を誇っている。

その名も、『CGプロアイドルが行く!ぶらり街歩き』

このコーナーは、私の所属する芸能プロダクション、CGプロに所属しているアイドル達が週替わりで出演し、地方をぶらぶらと、気ままに歩くだけ、というものだ。

一見何でもないようなこのコーナーが、番組の名物足り得ているのは、CGプロのみんなの個性の強さによるものなんだろうな。

毎週のコーナーを担当するのは二人。

今週は私と、文香だった。

4: 2016/10/22(土) 02:03:24.43 ID:LzSFbzV40

東京から新幹線で片道1時間とちょっと。私と文香は名古屋にやってきた。

名古屋駅から地下鉄を乗り継ぎ、ロケの場所へと移動する。

電車を降り、スタッフさんの準備が整うと私達に声がかかった。

スタッフ「準備オッケーです」

凛「私達もいつでもいけます」

私がそう言うと、スタッフさんは「では」と言って、収録が始まる。

カメラマンさんの合図を以てロケスタートだ。

文香「皆さん、こんにちは。今週のCGプロアイドルが行く!ぶらり街歩きを担当させていただく鷺沢文香と」

凛「渋谷凛です」

文香・凛「「よろしくお願いします」」

凛「さて、テレビの前のみんなに質問です。私達は今どこにいるでしょう」

文香「正解は……私達は今、名古屋の水族館に来ています」

凛「今日のお題は、ただ、名古屋ってだけだったから名古屋ならどこでも良かったんだけどね」

文香「はい。私の希望で水族館へと決定しました」

凛「それで、私まだなんで水族館か聞かされてないんだけど」

文香「実はですね…。こちらの水族館には、シャチの親子がいるそうで」

凛「へぇ、文香はシャチが見たかったんだ?」

文香「いえ……実はそのシャチのお子さんの名前が…」

凛「子供の名前が?」

文香「リンちゃん、というそうで」

凛「ぷっ…あはは、なにそれ。それで決めたの?」

文香「すみません…」

凛「いいよ。じゃあまずはリンちゃんに会いに行こっか」

5: 2016/10/22(土) 02:06:45.50 ID:LzSFbzV40

~名古屋港水族館 北館2F~



凛「というわけで、ベルーガとかイルカとか色々すごいのがあったんだけど…」

文香「それらを素通りして、シャチの水槽の前にやって参りました」

凛「なんか、もったいなくないかな」

文香「尺の関係で…」

凛「そういうのは言ったらだめだって」

文香「と、冗談は置いておいて、あちらに見えるのがシャチの水槽です」

凛「わ、すごい。大きいね」

文香「やはり実物は写真で見るより迫力がありますね……」

凛「で、どっちがリンちゃん?」

文香「あの少し小さい子だそうです」

凛「へぇ」

文香「3歳、とのことです」

凛「まだ赤ちゃんなんだね」

文香「ちなみにお母さんはステラさんというそうです」

凛「へぇ」

文香「……凛さんのお母様のお名前を聞いてもよろしいですか?」

凛「ステラなわけないでしょ」

文香「…………」

凛「はい。というわけで、今週はここでお別れです。この微妙な空気も編集でなんとかしてくれると信じて」

文香「来週はパッション部門から大槻唯さんとクール部門から橘ありすちゃんでお送りします」

凛・文香「「さようなら~」」

6: 2016/10/22(土) 02:08:00.02 ID:LzSFbzV40

こうして、ロケはつつがなく終了したんだけど、ここで私は一つ、いいことを思い付いた。

その計画に文香を引き込むために文香の耳元で「ちょっとワガママに付き合ってよ」とささやくと文香は、「喜んで」とにっこり笑った。

ワガママ、とは現地解散にして欲しい。というものだ。

幸い、変装できるものは私も文香も持ってるし、何よりせっかく名古屋まで来たのにこのままトンボ帰りじゃもったいない。

だから、現地解散にして欲しいと、スタッフさん達に告げたんだ。

私のこのワガママに対して、スタッフさん達は少し怪訝な顔をして、うちの事務所に確認を取ったみたいだけど、これまたラッキーなこと

に応対したのが、私のプロデューサーだった。

プロデューサーからは『遅くなるなよ』とメールで釘を刺されたけど、どうにか自由行動の権利はゲット。

そんな久々のオフに少し浮き足立ってしまっている、私がいた。

7: 2016/10/22(土) 02:08:47.44 ID:LzSFbzV40

文香「それで、ワガママとは?」

凛「もう一回入らない? 水族館。再入場できるみたいだし」

文香「リンちゃんに会いに行きましょうか」

凛「もう、からってるでしょ」

文香「凛さんは凛さんで、リンちゃんはリンちゃんです」

凛「ふふっ、何それ」

文香「では、参りましょうか」

凛「そうだね」

そうして、私達はもう一度水族館の中へ入った。

先程は足を止めなかった、入ってすぐのところにあるイルカの大きな水槽を見上げる。

凛「すごいね」

文香「そうですね…」

凛「あっちはベルーガだって」

文香「シャチはもういいのですか?」

凛「もうリンちゃんはいいって」

文香「そうですか……」

凛「なんでちょっと残念そうなの」

8: 2016/10/22(土) 02:09:18.29 ID:LzSFbzV40

文香「調べたところ、残念ながらショーの時間は噛み合わなさそうですね…」

凛「まぁ、ロケ終わりだもんね。仕方ないよ」

文香「次は何を見たいですか?」

凛「んー、なんでもいいかな」

文香「では、この南館のタッチタンクという施設はどうでしょう」

凛「なにそれ、どんなやつ?」

文香「海の生き物に触ることができる、と書いてあります」

凛「へぇ、行ってみよっか」

文香「はい」

9: 2016/10/22(土) 02:10:12.99 ID:LzSFbzV40

凛「なんか北館とはテーマが違う感じだね」

文香「そう、ですね。この南館は地球を縦断する形で5つの海をテーマにしている、とか」

凛「詳しいね」

文香「昨日、調べ出したら止まらなくなってしまって」

凛「じゃあ、ガイドさんに任せようかな」

文香「仰せの通りに」

凛「もう、何それ。やめてよ」

文香「ふふ、では、1階に行きましょうか」

凛「タッチタンクは1階なんだ」

文香「そのようです」

10: 2016/10/22(土) 02:11:30.68 ID:LzSFbzV40

凛「で、来たわけだけど……結構大きい水槽なんだね」

文香「そうですね。私も、もう少し小さいものかと」

凛「小さい子がいっぱいいるから、少し恥ずかしいな」

文香「変装してますし、大丈夫かと」

凛「そうだね」

「じゃあ」と袖を捲り、水槽へと近付く。

さて、どうしたものか、と手を水槽に入れられずにいると水族館の人が来てくれた。

なんでも、ボランティアの方が触れ合いの手伝いをしているらしい。

私と文香はそのボランティアの方の案内に従い、水槽へと手を入れる。

水温は冷たかったけど、ぐっとこらえた。

「そこにいるのがナマコですねー。マナマコさんっていいます」とボランティアさんが指差すのでその方向に目をやると黒くてむにむにし

たものがそこにはいた。

ボランティアさんがにこにこして「触ってみてください」なんて言うものだから、ここで手を引っ込めるわけにもいかず指先でつんっと触

れてみる。すると、ぷにっとした感触が伝わる。

一回目、おそるおそる。ぷにっ。

二回目、三回目、四回目、五回目。ぷにぷにぷにぷに。

なんだか癖になる。ちょっとかわいい、とも思った。

そんな感じで、私はナマコとひとしきり戯れた後、我に返ると横の文香は、ヒトデを手のひらに乗せ、うっとりしていた。

時々、文香はよく分からない。

11: 2016/10/22(土) 02:13:33.49 ID:LzSFbzV40

散々、ヤドカリやら、ウニやらを見つけては触って、見つけては触ってと、海の生き物たちとの触れ合いを楽しみ、二人ともが満足すると

、「東京までは時間かかるし、もう帰ろうか」と、水族館を出た。

しっかりと入念にアルコールで消毒をしたけれど、少し手が磯臭くなってしまったけれど、それもまた悪くないと思えた。

文香「このまま、帰りますか?」

凛「うーん、でもさ。お腹、空かない?」

文香「空きました」

凛「決まり、だね」

文香「はい」

凛「あそこなんてどう? 来るとき見えたとこ」

文香「猫のマークのお店ですね」

凛「そうそう」

12: 2016/10/22(土) 02:22:08.36 ID:LzSFbzV40

そういうわけで水族館のすぐ近く、猫がトレードマークのそのお店に私達は入ることに。

キャッツカフェ、ってお店みたい。

お昼のピークが過ぎて、夕飯の時間にはまだ少し早い。

そんな時間だからか、お店はそれほど混んでなくて、すんなり入ることができた。

これなら、変装しなくてもいいか、そう思って帽子と伊達眼鏡を外す。

店員さんに席に案内してもらって、お冷が出てくると私は立ててあったメニューを手に取り、向かいの文香の方へ広げる。

直後、目に飛び込んできたのは、パフェ、パフェ、パフェ、パフェ、パフェ。とんでもない種類のパフェだった。

文香「パフェに力を入れているお店なのですね」

凛「みたいだね」

文香「こんなものまで…」

文香の指差す、商品はバケツパフェとでも呼べばいいのか、規格外の大きさで、商品名の横には5~6人前、と書かれていた。

凛「これは流石に無理だよ。食べられないって。5~6人前って書いてあるよ」

文香「です、よね……」

凛「でも、さ。こういう機会ってなかなかないよね」

文香「そう、ですね…」

目配せを交わす。「(やっちゃう…?)」みたいな意味が込められてたんだと思う。

少なくとも私はそうだ。

文香はそれに無言でうなずくと、呼び出しのボタンを押した。

ぴんぽーん、と店内に電子音が響く。

店員さんが来る。

注文は一つだ。

私達はにっこり笑って、声を揃えてこう言った。

「「アンビリーバブル」」



おわり

18: 2016/10/22(土) 02:34:22.68 ID:LzSFbzV40
ええ………。
他の画像も試してみたところ、別のに差し替わってしまったのでひらめアップローダーのバグかもしれません……。

引用元: 渋谷凛「(パフェたべたい……)」