1: 2017/01/09(月) 23:17:02.37 ID:A6ibG+pUo
2: 2017/01/09(月) 23:17:54.79 ID:A6ibG+pUo
ある日突然、それは起こった。
白坂小梅が歌えなくなった。
白坂小梅が踊れなくなった。
歌えはする。歌詞は覚えている。
しかし、それは今までの小梅の歌ではなかった。
声は小梅に間違いない。
それがまるで、小梅そっくりな声の素人が歌っているように聞こえるのだ。
これまでのレッスンが全く生かされていない。素人レベルの歌唱力。
踊れはする。振り付けはぎこちないながらも覚えているようだ。
ただ、ぎこちない。見様見真似で踊っているように見える。
振り付けだけを頭で覚えて、ぶっつけ本番で踊っているようなダンス。
3: 2017/01/09(月) 23:18:21.83 ID:A6ibG+pUo
何があったのかと聞いても首を振るだけ。
やる気が無いというわけもなく、急遽呼び出されたトレーナーのレッスンを熱心に受けている。
そのレッスンを見ていたプロデューサーは確信する。
彼女は白坂小梅ではない、と。
尋ねれば全ての質問に答えた。
小梅しか知り得ないことも知っていた。
小梅が他のアイドル達と交わした言葉の内容も知っていた。
ただ話すだけならば、白坂小梅以外の何者でもない。
ただ、一つのことを除けば。
4: 2017/01/09(月) 23:18:57.87 ID:A6ibG+pUo
話し方が少し変わっていた。ほんの少しだけ。
気付いたのはプロデューサーだけでなく、幸子、乃々、輝子の三人。そして涼も。
ほんの少し、しかし拭えない違和感。
それでも仕事は続けなければならない。
歌えない、踊れない。
いつかは歌えるようになる、踊れるようになる。
そう信じるしかない。
マスコミには白坂小梅の急病と発表された。
そしてプロデューサーは動く。
小梅に何が起こったのか。
何が、起こらなかったのか。
5: 2017/01/09(月) 23:19:46.15 ID:A6ibG+pUo
――なあ、小梅。何があったんだ
「何も……ないよ?」
――単刀直入に聞いて良いかな
「……うん」
――お前、歌とダンス、どうした。ありゃあ、なんだ
「ごめんなさい」
――謝らなくていいよ。理由があるなら……思い当たる節があるなら言ってくれ
「ごめんなさい」
――おい
「ごめんなさい」
――お前、このままだと引退になりかねないぞ
「……ごめん……なさい」
6: 2017/01/09(月) 23:20:27.11 ID:A6ibG+pUo
――緊急入院ってことで少しは時間は稼げる。その間にレッスンしなおすか、理由をはっきりするか
「……はい」
そこは事務所の息のかかった小さな病院だった。
入院患者がこっそり抜け出してレッスンを続けるのは難しくない。
むしろ、そのための病院と行ってもいい。
トレーナーは首を傾げたが、それでも小梅は初歩からのレッスンを開始した。
そして、誰が見てもオーバーワークだと思えるほど、小梅は身体を酷使した。
まるで、素人から一気にプロになろうとでも言うように。
無理がある。
誰もが、そう見えていた。
7: 2017/01/09(月) 23:20:54.04 ID:A6ibG+pUo
――お疲れ
「……プロデューサーさん」
――ああ、そのままでいい。なんなら、寝ちまっても良いくらいだ
「うん」
――あれ、なんだ、そのアクセサリー
「触らないでっ!!」
「あ、あの……ごめんなさい」
――いや、俺にデリカシーが無かった。すまん
「ごめんなさい」
――見たことあるなそれ、似たようなものを
8: 2017/01/09(月) 23:21:21.14 ID:A6ibG+pUo
「……ドリームキャッチャーだよ」
――思い出した。ネイティブインディアンに伝わってるってやつか
「うん」
――悪夢から守ってくれる魔除けだっけ
「……これは、ドリームキャッチャーとは、違うけど、守って、くれるよ」
――何かに襲われたのか? それでダンスや歌が
「それは、違うけど」
――だったら、その魔除けと何か関係あるのか
「……」
――その魔除け、少し借りても良いか?
9: 2017/01/09(月) 23:21:48.94 ID:A6ibG+pUo
「駄目」
素早い返事。一度目の大声が無ければ、これも大声だったのだろうなと思えるほどの強い口調。
関係あるのは確かじゃないか、とは口にせず、プロデューサーはその場を退く。
――わかったよ。まあとりあえず、二三日はゆっくり休め。精神的な疲れかもしれないしな
気休めを言い、病室を出る。
少し歩くと、涼がいた。
声を掛けるのはほとんど同時。
話そうとした内容もほぼ同じ。
当たり前のように、小梅のこと。
涼は尋ねる。
あれは本当に白坂小梅なのかと。
プロデューサーは尋ねる。
何故違うと思うのかと。
10: 2017/01/09(月) 23:22:20.96 ID:A6ibG+pUo
涼は答える。
わからないと。
わからないが何かが違うと。
プロデューサーは答える。
小梅の物真似が異常に巧い誰かだと。
涼の表情が変わった。
プロデューサーの言葉が腑に落ちた。そんな表情に。
では、誰かとは誰なのか。
二人は同時に問うた。
答えはない。
小梅の物真似、だけならば候補はいる。ファンの中にもいるだろう。
だが、それだけではない。
物真似だけでは説明のつかないレベルの類似性。
私生活の細かい部分まで知っている。
普段の行動、他のアイドル達との会話、食事の仕方、歩き方。
全てが似ている。しかし本物ではない。どこかがぎこちない。
紛れもない小梅の動きであり行動であり言葉でも、何かが違う。
11: 2017/01/09(月) 23:22:48.81 ID:A6ibG+pUo
箇条書きにしてそれぞれを個別に挙げてみるならば、全てが紛れもない小梅の言動。
しかし繋げるとそれは、途端に色褪せて別人の行動となる。
小梅に詳しい。本人と見紛うレベルで詳しい。
まるで、その一挙一動の全てを普段から間近で観察しているように。
全てだ。アイドル活動だけではなく、プライベートも含めて。
いるじゃないか、と言うプロデューサーに涼は首を傾げ、何かに思い至る。
小梅の普段の言を全て信じるならば答えは一つ。
“あの子”
“あの子”が、今の小梅の正体。
小梅にとりついた、あるいは入れ替わった。
“あの子”なら、小梅の一挙一動を全てすぐそばで見ていた。
小梅をこの上なくよく知っているだろう。
踊れなくなった日。
歌えなくなった日。
それが入れ替わった日だというのなら。
12: 2017/01/09(月) 23:23:17.23 ID:A6ibG+pUo
――いいか、小梅
――最初に言っておく、俺はお前の味方だ
――だから、正直に答えて欲しい。誰のためでもない、お前を守るためだ
――何があった。お前と“あの子”の間に
小梅は何も言わない。
が、表情が何かあると言っていた。
――頼む、小梅。俺を信じてくれ
――お前と、お前のファン達のために
しばらくの説得の後、小梅の口が開いた。
自分は、間違いなく白坂小梅である、と。
プロデューサーはその続きを待った。
13: 2017/01/09(月) 23:24:17.30 ID:A6ibG+pUo
小梅は続けた。
自分は白坂小梅だが、アイドルをしていたのは自分ではない、と。
正確には、自分だけではない、と。
「“あの子”と、時々入れ替わってた……」
「“あの子”はアイドルが好きだったから、よくアイドルになってた……」
「でも……」
デビューの少し後に、小梅は旅行先のお土産として魔除けをもらった。
ただの民族意匠のお土産、つまらないアクセサリーのはずだった。
それは偶然か、魔除けは本当に力を帯びていた。
「あれがある限り、入れ替わりは出来ない。“あの子”は私の中には入れなくなる」
その逆もしかり。小梅が身体を取り返すことも出来なくなるのだと。
入れ替わることが出来るのは寝ているときだけ。
つまり、寝ている間は魔除けを枕元に置いておけばいい。
14: 2017/01/09(月) 23:24:52.06 ID:A6ibG+pUo
最初に動いたのは“あの子”だった。
小梅から身体を奪った“あの子”は、その日から枕元に魔除けを置いた。
小梅は身体を戻してもらうために、ずっとつきまとっていたのだという。
――アイドルとして活躍していたのは“あの子”だったのか
「だけど、ようやく……」
その夜、別のアイドルの悪戯で、枕元に置いていたはずの魔除けが動かされていた。
それに気付かず、“あの子”は眠りについた。
「取り戻すことが、できたの」
ずっとそばで見ていたから、振り付けは覚えている。
歌の歌詞だって覚えている。
“あの子”に出来て小梅にできないはずはない。
15: 2017/01/09(月) 23:25:19.96 ID:A6ibG+pUo
小梅の言葉にプロデューサーも頷いた。
――ああ、わかった。それじゃあ復帰は期待できるな
「はい」
――自分の身体を取り戻したんだから、頑張ってくれよ
「はいっ」
16: 2017/01/09(月) 23:25:48.18 ID:A6ibG+pUo
その夜、プロデューサーは眠る小梅の枕元から、魔除けを持ち去った。
17: 2017/01/09(月) 23:26:15.73 ID:A6ibG+pUo
――おはよう
「お、おはよう」
――起き抜けに悪いが、歌とダンスの調子見せてくれ。そうだな、二時間後ぐらいで行けるか?
「どうして?」
プロデューサーは笑った。
言うまでもない、と思ったからだ。
「……そうだね」
プロデューサーは、魔除けを小梅に差し出した。
――もう二度と、手放すなよ。次は無いぞ
「うん」
18: 2017/01/09(月) 23:26:44.08 ID:A6ibG+pUo
アイドル白坂小梅の快癒は、その翌日発表された。
プロデューサーにとっての白坂小梅とは、アイドル白坂小梅である。
歌い、踊る、白坂小梅である。
それ以外の、何者でもない。
19: 2017/01/09(月) 23:27:27.93 ID:A6ibG+pUo
以上、お粗末様でした
20: 2017/01/09(月) 23:41:51.56 ID:AzsN6HTEo
おっつおっつ
ドリームキャッチャーさえなければ得意分野によって入れ替わる2人で1人のアイドルになってたのかな
訓練されたファンが「今日はこっちの小梅ちゃんかー」みたいに言う感じの
ドリームキャッチャーさえなければ得意分野によって入れ替わる2人で1人のアイドルになってたのかな
訓練されたファンが「今日はこっちの小梅ちゃんかー」みたいに言う感じの
21: 2017/01/10(火) 00:12:09.88 ID:iuam5MdWo
乙乙
本人かどうかに意味はない
正しくアイドルなんだけどうん
本人かどうかに意味はない
正しくアイドルなんだけどうん
引用元: モバP「アイドル白坂小梅」
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