818: 2018/07/12(木) 22:40:21.57 ID:0SRwFozAo
「んー……!」
入力作業が一段落したので、固まった体をほぐすため、椅子に座りながら伸びをする。
重ねて伸ばした手は、PCの画面に届くことなく、
もうひと頑張りだぞ、と、指の隙間から残りの作業が顔を覗かせている。
疲れが溜まってるのかしら。
この位の量、いつもだったら、終わってるんだけどな。
「……」
部屋の目立つ位置に掛けられた、大きな時計を見る。
もう少しでお昼休みだけど、この作業は終わらせておきたいわね。
午後に回しても良いけど、あと、もうちょっとだし。
中途半端に残しておくと、なんだか気になってゆっくり出来ないもの。
「……よし!」
お仕事、お仕事。
今日のお昼は、お弁当を作ってきたのよね。
だから、外に出る必要も無いし、時間には余裕があるから……って、駄目駄目!
そういう風に考えてちゃ、ダラダラしちゃう!
「……」
カタリ。
少し離れた位置――プロデューサーさんのデスクから、音がした。
チラリとそちらを見ると、立ち上がって、出かける支度をしているプロデューサーさんの姿が。
どうしたのかしら?
今日は、特に外出の予定は入っていなかったはずだけど……。
「お先に、休憩入ります」
へっ?
「へっ?」
予想外の言葉に、素っ頓狂な声が出た。
あ、いや、当り前の事なんだけど……時間ピッタリに、プロデューサーさんが休憩に行くなんて、珍しい。
いつもだったら、無理矢理にでも行かせないと、全然休憩を取ろうとしないのに。
……ふふっ! ようやく、何度も言って聞かせた効果が出て――じゃ、なくって!
「い、行ってらっしゃい!」
慌てて、送り出すための言葉をかける。
勿論、笑顔も忘れずに。
プロデューサーさんは、そんな私の顔を少しの間だけ……見つめてきた。
そして、何事も無かったかのように、無表情で、一つ頷く。
「はい、行ってきます」
そう言って、少し早足で、プロデューサーさんはドアに向かう。
何か、お昼に約束でもあるのかしら?
そうよね、そうじゃなければ、プロデューサーさんが時間通りに休憩に行くわけないもの。
……っとと、いけないけない、お仕事お仕事。
819: 2018/07/12(木) 23:09:43.53 ID:0SRwFozAo
・ ・ ・
「終わっ……たぁ」
随分と集中していたらしく、時計の針はいつの間にか進んでいた。
でも、お昼ご飯を食べて、ゆっくりするには十分な程時間は残されている。
左手を首筋にやって、凝り固まった筋肉を少し揉みほぐす。
十代の頃は無かった仕草も、今では何だか板についてしまっていた。
「はぁ……ふぅ」
軽く、深呼吸。
大分疲れも溜まってるみたいだし、どこかでパーッと有給を消化しようかしら。
一週間位取って、海外旅行!……は、逆に疲れそう。
二泊三日で、温泉にでも行って、残った休日はお家でノンビリ。
「……若くないなぁ」
自分の発想に苦笑しながら、椅子にもたれかかる。
この、アシスタントというお仕事をして、アイドルの子達と接していると、たまに思うのだ。
私は、あの子達に比べて、何て平凡で、ありきたりな存在なのか、と。
彼女達の様に、夢を追いかけ、輝くような日々を送るだけの何かは、私には無い。
「――よし」
けれど、そんなアイドルの子達を見守るこの仕事を誇りに思う。
学生時代の友達に、一度そんな胸の内を話したことがあるけれど、呆れられてしまった。
仕事人間。
笑いながらそう言われ、私は咄嗟に否定した。
だって、仕事人間っていうのは、ああいう人の事を言うんですもの。
「……」
放っておいたら、どこまででも走って行ってしまいそうな、プロデューサーさん。
アイドルのために、身を粉にする姿勢は立派だけど、時には立ち止まって欲しい。
そうでないと、貴方だけじゃなく、周りも大変なんですよ。
だから、そうならないために、私がなんだか小言っぽくなっちゃうんです。
わかってるんですか?
「……」
主が不在の、黒い椅子を見る。
大手の――346プロダクションのプロデューサーが使用する、オフィスチェア。
せっかくの高級な椅子なのに、リクライニング機能は忘れ去られたかのように、機能していない。
居眠りしろとまでは言わないけど、しっかり休んでくださいな。
「……さっ、ゴハンゴハン」
そう言いながら、立ち上がろうとした、その時。
ガチャリ。
ゆっくりと、ドアが開いた。
「終わっ……たぁ」
随分と集中していたらしく、時計の針はいつの間にか進んでいた。
でも、お昼ご飯を食べて、ゆっくりするには十分な程時間は残されている。
左手を首筋にやって、凝り固まった筋肉を少し揉みほぐす。
十代の頃は無かった仕草も、今では何だか板についてしまっていた。
「はぁ……ふぅ」
軽く、深呼吸。
大分疲れも溜まってるみたいだし、どこかでパーッと有給を消化しようかしら。
一週間位取って、海外旅行!……は、逆に疲れそう。
二泊三日で、温泉にでも行って、残った休日はお家でノンビリ。
「……若くないなぁ」
自分の発想に苦笑しながら、椅子にもたれかかる。
この、アシスタントというお仕事をして、アイドルの子達と接していると、たまに思うのだ。
私は、あの子達に比べて、何て平凡で、ありきたりな存在なのか、と。
彼女達の様に、夢を追いかけ、輝くような日々を送るだけの何かは、私には無い。
「――よし」
けれど、そんなアイドルの子達を見守るこの仕事を誇りに思う。
学生時代の友達に、一度そんな胸の内を話したことがあるけれど、呆れられてしまった。
仕事人間。
笑いながらそう言われ、私は咄嗟に否定した。
だって、仕事人間っていうのは、ああいう人の事を言うんですもの。
「……」
放っておいたら、どこまででも走って行ってしまいそうな、プロデューサーさん。
アイドルのために、身を粉にする姿勢は立派だけど、時には立ち止まって欲しい。
そうでないと、貴方だけじゃなく、周りも大変なんですよ。
だから、そうならないために、私がなんだか小言っぽくなっちゃうんです。
わかってるんですか?
「……」
主が不在の、黒い椅子を見る。
大手の――346プロダクションのプロデューサーが使用する、オフィスチェア。
せっかくの高級な椅子なのに、リクライニング機能は忘れ去られたかのように、機能していない。
居眠りしろとまでは言わないけど、しっかり休んでくださいな。
「……さっ、ゴハンゴハン」
そう言いながら、立ち上がろうとした、その時。
ガチャリ。
ゆっくりと、ドアが開いた。
820: 2018/07/12(木) 23:40:20.83 ID:0SRwFozAo
「もう、戻ってきたんですか?」
入ってきたのは、さっきまで見ていた椅子の――いや、この部屋の主。
シンデレラプロジェクトの、仕事人間のプロデューサーさんその人だった。
時計を確認しても、戻ってくるには、早すぎる。
ちゃんと休憩して……ないわよね、明らかに。
「はい。少し、急いだので」
急いだって……急ぎすぎですよ、プロデューサーさん!
ちゃんと時間通りに休憩に行っても、こんなに早く戻っちゃ意味がないです!
良いですか?
専務の改革で、こういう所もキッチリするよう言われてるんですから。
――そう、言おうとする前に、
「適当に、買って来たのですが……」
お好きな物を選んでください、と、左手に持っていた袋を掲げて見せられた。
「買って来た……って、私にですか?」
投げかける疑問に答えず、プロデューサーさんが歩み寄ってくる。
よく見ると、その額には少し汗が滲んでいて、本当に、急いで戻ってきたらしい。
机の上に置かれた袋が、カサリと音を立てる。
大きな手が、袋の口を開くと……その中には、四種類、四つのアイスが入っていた。
「いつも、差し入れをしてくださる……お礼です」
表情を変えずに言うその姿は、知らない人から見れば、ぶっきらぼうに感じるだろう。
でも、いい加減、短くは無いと言い切れる程度に、一緒に仕事をしてきた仲ですもの。
私に気を遣わせないために、そう言って。
私に気を遣って、そうしてくれたんですよね。
「まあ、ありがとうございます♪」
だから、私はその心遣いをちゃんと全部受け取るため、そう言った。
遠慮は美徳かも知れないけど、この場合は、逆に困らせてしまうだろうから。
それに、疲れてたし、今日は凄く暑いから、アイスは嬉しい。
思わず、笑みがこぼれてしまった私に、プロデューサーさんは、
「他の皆さんには――」
と、右手を首筋にやりながら言いかけたから、
「――はい♪ 内緒ですね?」
私は悪戯っぽく、人差し指を唇に当て、言葉を引き継いだ。
プロデューサーさんが、アイドルに隠し事なんて困るでしょ?
そういうのは、アシスタントの私に任せてください。
821: 2018/07/13(金) 00:05:00.60 ID:ASHueaWro
・ ・ ・
「食べてください」
デスクに腰掛けながら、小さな緑色のお弁当箱を広げているプロデューサーさんに、言う。
ニコニコと笑いかけているのに、とても気まずそうにしている。
箸は全く進んでいず、蓋を開けてそのままの状態。
おかずが詰まったお弁当箱と、おにぎりが、一つ。
「いえ、ですが……!」
さっきから、何度このやり取りを繰り返したか覚えていない。
けれど私は、強引にでも押し切るつもりでいる。
もう、お昼休みの時間はあまり残っていないのだ。
その時間が過ぎてしまえば、プロデューサーさんは、
きっとそれを言い訳にして、逃げてしまうだろうから。
「食べてください」
ニコニコと、笑いかける。
アイスだけを買ってきて、お昼ご飯を買ってこなかったプロデューサーさんに。
「しかし、これは千川さんの……!」
だから私は、自分のお弁当をプロデューサーさんに食べさせることにした。
おにぎりは二つ持ってきたから、その内の一つを食べて、それ以外は全て。
少し物足りないけれど、まだアイスがあるから、大丈夫。
私よりも、体が断然大きくて、必要なエネルギーが多いプロデューサーさんは、食べないと駄目ですけどね。
「あら……私のお弁当、食べたくないんですか?」
手を頬に当て、首を傾げる。
「すみません……美味しく、なさそうですよね」
本当にそう思われてたら、かなりショックですけど。
「ま、待ってください! 決して、そういう意味では無く!」
「美味しく無さそうだから、食べないんですよね、プロデューサーさん」
「美味しそうです! その……とても!」
ですよね!
だって、今日のお弁当、かなり良く出来たって、自分でも思ってたんです!
「じゃあ、食べてください♪」
パン、と手を胸の前で合わせ、微笑みかける。
しばし、静寂が訪れるも、遂には、
「……すみません、いただきます」
その言葉を勝ち取った。
「はい、召し上がれ♪」
「食べてください」
デスクに腰掛けながら、小さな緑色のお弁当箱を広げているプロデューサーさんに、言う。
ニコニコと笑いかけているのに、とても気まずそうにしている。
箸は全く進んでいず、蓋を開けてそのままの状態。
おかずが詰まったお弁当箱と、おにぎりが、一つ。
「いえ、ですが……!」
さっきから、何度このやり取りを繰り返したか覚えていない。
けれど私は、強引にでも押し切るつもりでいる。
もう、お昼休みの時間はあまり残っていないのだ。
その時間が過ぎてしまえば、プロデューサーさんは、
きっとそれを言い訳にして、逃げてしまうだろうから。
「食べてください」
ニコニコと、笑いかける。
アイスだけを買ってきて、お昼ご飯を買ってこなかったプロデューサーさんに。
「しかし、これは千川さんの……!」
だから私は、自分のお弁当をプロデューサーさんに食べさせることにした。
おにぎりは二つ持ってきたから、その内の一つを食べて、それ以外は全て。
少し物足りないけれど、まだアイスがあるから、大丈夫。
私よりも、体が断然大きくて、必要なエネルギーが多いプロデューサーさんは、食べないと駄目ですけどね。
「あら……私のお弁当、食べたくないんですか?」
手を頬に当て、首を傾げる。
「すみません……美味しく、なさそうですよね」
本当にそう思われてたら、かなりショックですけど。
「ま、待ってください! 決して、そういう意味では無く!」
「美味しく無さそうだから、食べないんですよね、プロデューサーさん」
「美味しそうです! その……とても!」
ですよね!
だって、今日のお弁当、かなり良く出来たって、自分でも思ってたんです!
「じゃあ、食べてください♪」
パン、と手を胸の前で合わせ、微笑みかける。
しばし、静寂が訪れるも、遂には、
「……すみません、いただきます」
その言葉を勝ち取った。
「はい、召し上がれ♪」
822: 2018/07/13(金) 00:49:56.82 ID:ASHueaWro
・ ・ ・
「~♪」
お弁当箱を洗いながら、昼間の事を思い出す。
最初は遠慮がちだったお箸の動きが、
段々と軽快になっていくのを見るのが、あんなに楽しいものだとは知らなかった。
ちゃんと噛んで、ゆっくり、味わってください。
大きな体をしてるのに、あんな、子供みたいな姿を見るだなんて、思いもしなかった。
「~♪」
綺麗に食べてくれたから、洗うのも楽ね。
箱は洗って返すって言われたけど、アイドルの子達に見られたら誤解を招くと、断った。
同じやりとりを繰り返す事が無かったのは、
定められた休憩の時間が終わりに差し掛かり、逃げ切ることに成功したから。
「これで良し、と」
洗い終わったお弁当箱を乾燥棚に置き、ふと、考える。
その考えに答えを出すべく、冷蔵庫へ向かいドアを開け、確認。
これなら……うん……うん、大丈夫かな。
ひき肉もあるし、ピーマンもあるから……肉詰めにして、それから……。
「……」
人差し指を顎に当て、献立を考える。
栄養バランスと、そして、どうやれば――
「――ん」
……と、考えていたら、机の上に置いていた携帯の画面が、明るくなっていた。
一時、思考を中断し、確認するため、居間に行く。
携帯を手に取ると、通知が一件あったので、画面を開き、詳細を確認。
「……」
どう返事をしたものかと、考える。
「……」
左手に持った携帯が、まとまらない考えに合わせ、上下する。
右の人差し指も、似たような文章を入力しては消しを繰り返している。
答えは決まっているのに、こんな風になるなんて……。
「もう! 子供じゃないんだから!」
言葉とは裏腹に、とても楽しみしている、私が居る。
当然、明日も仕事だし、旅行に行くわけでも、ノンビリするわけでも無い。
「……えいっ!」
有給は、お弁当箱に取って貰うことになったもの。
おわり
「~♪」
お弁当箱を洗いながら、昼間の事を思い出す。
最初は遠慮がちだったお箸の動きが、
段々と軽快になっていくのを見るのが、あんなに楽しいものだとは知らなかった。
ちゃんと噛んで、ゆっくり、味わってください。
大きな体をしてるのに、あんな、子供みたいな姿を見るだなんて、思いもしなかった。
「~♪」
綺麗に食べてくれたから、洗うのも楽ね。
箱は洗って返すって言われたけど、アイドルの子達に見られたら誤解を招くと、断った。
同じやりとりを繰り返す事が無かったのは、
定められた休憩の時間が終わりに差し掛かり、逃げ切ることに成功したから。
「これで良し、と」
洗い終わったお弁当箱を乾燥棚に置き、ふと、考える。
その考えに答えを出すべく、冷蔵庫へ向かいドアを開け、確認。
これなら……うん……うん、大丈夫かな。
ひき肉もあるし、ピーマンもあるから……肉詰めにして、それから……。
「……」
人差し指を顎に当て、献立を考える。
栄養バランスと、そして、どうやれば――
「――ん」
……と、考えていたら、机の上に置いていた携帯の画面が、明るくなっていた。
一時、思考を中断し、確認するため、居間に行く。
携帯を手に取ると、通知が一件あったので、画面を開き、詳細を確認。
「……」
どう返事をしたものかと、考える。
「……」
左手に持った携帯が、まとまらない考えに合わせ、上下する。
右の人差し指も、似たような文章を入力しては消しを繰り返している。
答えは決まっているのに、こんな風になるなんて……。
「もう! 子供じゃないんだから!」
言葉とは裏腹に、とても楽しみしている、私が居る。
当然、明日も仕事だし、旅行に行くわけでも、ノンビリするわけでも無い。
「……えいっ!」
有給は、お弁当箱に取って貰うことになったもの。
おわり
823: 2018/07/13(金) 01:01:41.53 ID:qgcI2JW60
やっぱりちっひは天使だった
824: 2018/07/13(金) 02:16:13.26 ID:l2Jq1qMzo
しかしなーちっひよ、孫は早いうちに見たいのが親のcocoroなのだ
825: 2018/07/13(金) 06:32:53.69 ID:Lv9UfkGOo
やっぱりちっひは天使なんやなあ
誰や緑の悪魔とか言ってる奴は
誰や緑の悪魔とか言ってる奴は
引用元: 武内P「今日はぁ、ハピハピするにぃ☆」
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