1: 2014/07/07(月) 00:28:28.85 ID:F4vzDCgT0.net
 見た目は喫茶店のようだが……ラビットというと……兎料理でも出るのか?

 しかし流石にこの洋風の見た目で兎鍋というわけはあるまい

 フランス料理か何か……だろうか

 ふむ……この見事な木組みの家と石畳の街で昼飯を食うなら、そういうのもアリかもしれない

 入ってみるか


 ガチャ

チノ「……いらっしゃいませ」
孤独のグルメ【新装版】 (SPA!コミックス)

3: 2014/07/07(月) 00:32:25.11 ID:F4vzDCgT0.net
 随分と小さな店員さんだなぁ、まだ中学生ぐらい……下手をすれば小学生にも見える

 って、流石に小学生が働いているわけはないか、ハハ

チノ「こちらメニューになります」

 お、待ってました

 さて、兎料理は……

 ……

五郎「うさぎがいない……」

チノ(……誰かと同じことを言っている気がします)

チノ(でもその意味合いが明らかに違う気がします)

4: 2014/07/07(月) 00:37:33.84 ID:F4vzDCgT0.net
 兎料理は無いのか……?

 いや、もしそうならばどうしてラビットハウスなどという名前なのだろう?

 見た所この店に兎と思われる動物の姿はないが……

 よし、一応聞いてみるか

五郎「あの……兎は取り扱ってないんですか?」

チノ「うさぎですか? 一応……この子がうちの看板うさぎですが」

ティッピー「……」もふもふ

五郎「へえ、これ兎なんですか……」

チノ「……」

五郎「……あの、一応聞きますけどそれは」

チノ「非売品です」

 そうか……やっぱり食用ってわけじゃないのか

5: 2014/07/07(月) 00:38:27.04 ID:dnCtsAMz0.net
こんな感じの同人どっかでみた

8: 2014/07/07(月) 00:41:16.37 ID:kZkKaJk50.net
チノ「あ、ごめんなさい。ウサギ来月からなんですよ」

10: 2014/07/07(月) 00:43:53.69 ID:F4vzDCgT0.net
 さて……そうなると何を注文すればいいのやら

 腹にたまりそうなものと言うと……

五郎「じゃあ……このサンドイッチとナポリタンを一つずつ……あと、コーヒーのオリジナルブレンドを」

チノ「かしこまりました」

 注文を終え、そっと店内を見渡してみる

 昼時だというのに客が少ない……女性客が一人いるくらいか

 店内の雰囲気も……何と言うか、アレだなぁ、隠れ家的お店って奴なのかもしれない

13: 2014/07/07(月) 00:48:32.11 ID:F4vzDCgT0.net
リゼ「悪い、チノ。着替えてたら、クローゼットの扉に制服が引っかかってしまってな……変に時間を食ってしまった」

チノ「ああ、丁度良かったです。リゼさん、ナポリタンをお願いします」

リゼ「ああ、任せろ!」

 どうやら店の奥からもう一人店員が出てきたようだ

 これまた若い店員さんだ。高校生ぐらいだろうか

 しかし、話を聞く限り、彼女たちが料理を作るのか……

 一体どんなナポリタンを食わされるのだろう。最近の若い子は料理ができないと聞くから不安だ

15: 2014/07/07(月) 00:54:49.08 ID:F4vzDCgT0.net
チノ「お待たせしました。サンドイッチとナポリタン、オリジナルブレンドコーヒーになります」

 来た来た


 「ナポリタン」650円――夕焼けのように真っ赤な色が食欲をそそる

 「サンドイッチ」700円――具はたっぷり パンも具に合わせたそこそこの厚み

 「オリジナルブレンド」400円――安心する香り


 さて……ではナポリタンを一口

五郎「ズル」

 ……ほう

五郎「うまい」

 ちゃんと麺がアルデンテに茹でられている。見事なもんだ

18: 2014/07/07(月) 00:59:59.35 ID:F4vzDCgT0.net
 ああ、このウインナーの味……なんだか懐かしい気持ちになるじゃないか

 こういうのっていいよな。気取ってなくて

 サンドイッチはどうだろう

五郎「うん、うまいうまい」

 あんな若い子が作るから不安だったが、こりゃあ今まで入った喫茶店の中でも上位のうまさに入るぞ

 オリジナルブレンドとやらは……

五郎「ああ……安心する香りと味だ」

 思わずそんな言葉が口に出る

 普段はインスタントが多いからなぁ、たまにはコーヒーに凝ってみるのもいいかもしれない

20: 2014/07/07(月) 01:02:42.70 ID:4+J9hVaJ0.net
スパゲッティをすするんじゃねーよ
音立てるな

21: 2014/07/07(月) 01:06:04.15 ID:F4vzDCgT0.net
リゼ「それにしても、またココアの奴は遅刻か?」

チノ「みたいですね。途中で野良うさぎと戯れてるのかもしれません」

リゼ「ははは、この間もそんな理由で遅刻してたな」

 まだ店員さんがいるのか……? 遅刻の常習犯らしいが

 ココア……というのは名前だろうか。流石に本名なわけはないだろう。喫茶店ならではのアダ名かもしれない

五郎「ふぅ……うまかった」

 せっかくだ、デザートも頼んでしまおうか

五郎「すいません、追加の注文いいですか?」

チノ「あ、はい」

五郎「パンケーキとケーキ……あと、ブルーマウンテンを一つ」

青山「?」

リゼ(呼んでない呼んでない)

チノ「かしこまりました。空いてるお皿、おさげしますね」

23: 2014/07/07(月) 01:08:12.37 ID:KOaTk9aW0.net
青山さんいたのか

25: 2014/07/07(月) 01:11:22.11 ID:F4vzDCgT0.net
チノ「ありがとうございました」

リゼ「ありがとうございましたー!」

 うーん……少し食いすぎた

 パンケーキとケーキ、どちらかひとつにするべきだったか

ココア「うわぁあん!」

五郎「ん?」

ココア「また遅刻だよぉぉお! チノちゃんに怒られちゃうぅう!」

 高校生ぐらいの女の子が、さっきのラビットハウスに駆け込んでいった

 あれがココアという子なのだろうか

五郎「……」

 あの感じからすると、あの子が店に入った瞬間、随分と店が賑やかになりそうだ

五郎「……さて」

 どこかでコーヒー豆を買って帰ろう

29: 2014/07/07(月) 01:17:48.77 ID:F4vzDCgT0.net
 あの喫茶店、ラビットハウスに入ってから数日後

 またこの木組みの家と石畳の街に来てしまった

 目的はもちろんあの喫茶店だったのだが、どこで道を間違えたのか迷ってしまった

 おかげで街を当てもなくうろつく羽目になり、気付けば午後3時

 ラビットハウスでまた何か食べようと思っていたため、昼は早い時間に済ませてある

 おかげで腹が悲鳴を上げ気味だ

五郎「もうあの喫茶店じゃなくてもいいんだけどなぁ……」

 どこかで腹に何かを入れたい

 気分としては甘い物……それも和食系……

 しかしこの洋風な雰囲気の町にそんな甘味所が丁度よくあるわけが……

五郎「ん?」

 決して町の雰囲気を阻害せず

 それでいて少しだけ異質な雰囲気を放つ

 「甘兎庵」という名の店が、そこにはあった

34: 2014/07/07(月) 01:24:28.48 ID:F4vzDCgT0.net
五郎「この匂い……」

 アンコや抹茶といった、和食の香りだ

 その香りに誘われるように、俺は甘兎庵の戸を開けた

千夜「いらっしゃいませー」

 日本人形のような若い女性が、俺の方を振り返って微笑む

 いや、「若い女性」というよりは……まだ「女の子」か?

 しかし雰囲気は……あのラビットハウスの店員よりもずっと大人だ

千夜「こちらおしながきになりまーす」

 席に案内され、御品書きが手渡される

 さて、何を頼もう……

五郎「……」

 ……本当に何を頼もう……

36: 2014/07/07(月) 01:29:13.67 ID:F4vzDCgT0.net
 煌めく三宝珠……雪原の赤宝石……?

 フローズン・エバーグリーンなんてのもあるぞ……?

 もしかしてここは……俺の想像していたような甘味所じゃないのか?


 俺は……夢でも見ているようだ……


千夜「あら、ごめんなさい。初めてご来店のお客様ですよね?」

五郎「え……あ、はい」

千夜「では、こちらの指南書をお渡しします」

 指南書……おお、御品書きの詳細が書いてある

 ……これがあるなら、どうして最初から普通の名前で御品書きに書かないんだ?

37: 2014/07/07(月) 01:37:14.34 ID:F4vzDCgT0.net
五郎「じゃあ……この……白玉栗ぜんざいを一つ」

千夜「はい、海に映る月と星々ですね。少々お待ちを……」

 ……こっちの御品書きの名前で呼ばないといけない決まりでもあるのだろうか?

 何だろう、普通に頼んだだけなのに少し疲れてしまった……

 他の客はこの店をどう思っているのだろう?

 長年この街に住んでいれば慣れるのだろうか……?

 ……

 あの席にいるお客さん、前にも会った気がするな……

 そうだ、あのラビットハウスでもああやって原稿用紙をテーブルに広げていた……

 作家さんのお仕事中なのかもしれない……あまりじろじろ見るのも失礼か

40: 2014/07/07(月) 01:44:58.72 ID:F4vzDCgT0.net
千夜「お待たせしました。海に映る月と星々です」

五郎「ああ、はい……どうも」


      ┌それにしてもこの名前
      |
      |
 「海に映る月と星々」600円――ぜんざいに浮かぶ白玉と栗が確かに月や星を連想させる
   |     |
   |     └──うさぎの小さな串が可愛らしい
   |
   └―アズキの香りがたまらない


 うーん……見た目も普通の白玉栗ぜんざいには間違いないんだが……

 どうもこの名前は気になるなぁ

五郎「ん……」

 うまい!

 名前に反してうまい……いや、ある意味名前のインパクトに負けない良い味だ

43: 2014/07/07(月) 01:52:53.34 ID:F4vzDCgT0.net
 ぜんざいというとどうしても重いイメージがあるが

 これはそのイメージよりも軽く……それでいて味がしっかりと

 浅草で食べたあの豆かんと比べても……引けを取らない味だ

千夜「どうですか? 筆の進み具合は?」

青山「ええ……今回はちょっと方向性を変えて」

青山「孤独な男性のお話を書こうと思ったのですが」

青山「どうも難しいですね」

千夜「そうですか……頑張ってください」

青山「はい……でも、あまり長居するのも失礼ですので、そろそろ……」

千夜「あら、別にもう少しいてくださってもいいんですよ?」

青山「うーん……では、もう少しだけ」

千夜「では追加のご注文などございますか?」

 あの店員さん……中々に商売上手かもしれない

45: 2014/07/07(月) 01:57:53.70 ID:F4vzDCgT0.net
五郎「ごちそうさまでした」

千夜「ありがとうございましたー」

 メニュー名はともかく……味は良かった

 ラビットハウスに続いて良い店を見つけた

 名前の衝撃に負けてしまい、ぜんざい一つで終えてしまったが

 今後来た時は抹茶ラテでもごちそうになりたい

五郎「しかし……どのメニューが抹茶ラテなんだろう……」

48: 2014/07/07(月) 02:04:11.56 ID:F4vzDCgT0.net
 あれからまた数日後。

 再びこの街に訪れたが、また道に迷ってしまった

 どうも入り組んだこの街の道は苦手だ

 見覚えのある道を通ろうにも、どの道も似たような石畳に見えてならない

 歩き続けると、足の疲れもそうだが、少し腹にもキツいものがある

五郎「……おや」

 フルール・ド・ラパン……こりゃまた洒落たハーブティーの店だ

 そういえばハーブティーは疲労回復に良いと聞くな……

五郎「……試してみるか」

 店の扉を開け、店内へ入る

シャロ「いらっしゃいませー」

 うわぁ、こりゃまた若い子が出て来たぞ

 おまけにすごい制服だ。俺みたいなのが入るような店じゃなかっただろうか

51: 2014/07/07(月) 02:08:47.57 ID:F4vzDCgT0.net
シャロ「こちらへどうぞー♪」

五郎「あ……はあ……」

 しかし店員に案内されると、ここで回れ右して出て行くのもナンだ

 案内された席に着き、椅子に座り、疲れた足を休ませる

シャロ「メニューでございまーす」

五郎「どうも……」

 受け取ったはいいが、メニューを見ても何か何やらわからない

 もちろん、あの甘味所のような名前ではないが……いや、俺にとっては同じような物か

 ハーブティーと言っても結構な種類がある……適当に「ハーブティーを一つ」とは言えない……さて、どうしたものか

54: 2014/07/07(月) 02:13:18.71 ID:F4vzDCgT0.net
五郎「……あの、すみません」

シャロ「はーい、ご注文ですか?」

五郎「いえ……その……疲労回復に効くハーブティーとかありますか?」

 我ながらなんてマヌケな質問だろう

シャロ「疲労回復ですか……では、ハイビスカスなどいかがでしょう?」

五郎「じゃあ……それを……あと、ハーブのクッキーをお願いします」

シャロ「かしこまりました! 少々お待ちください!」

 ああ……なんとか注文できた

 疲れを取るために入った店で変な疲れを感じてしまった気がする

57: 2014/07/07(月) 02:19:53.03 ID:F4vzDCgT0.net
シャロ「お待たせしました、ハイビスカスティーとハーブクッキーです!」

 しばらくして、ハーブティーとクッキーが運ばれてきた


 ハイビスカスティー――甘酸っぱい良い香りがする
      |
      └──鮮やかな赤色

 ハーブクッキー――甘いクッキーの中に混じるハーブの香り
   |
   └――できたてなのかまだ少しあたたかい


 ハーブティーなんてめったに飲まないが……どんな味だったか

五郎「ごく」

 これはまた酸味が強い。が、決して嫌な酸味じゃない

 そして酸味が通り過ぎた後に来るほのかな甘味

五郎「……うまい」

58: 2014/07/07(月) 02:24:11.43 ID:F4vzDCgT0.net
 男がハーブを嗜むなんて女々しいようにも思うが、うまいものはうまい

 事前に「疲労回復に効く」物を頼んだ先入観もあるだろうか。脚の疲れが少し取れたようにも思う

 ……単なる思い込みだったらまたマヌケな話だ

 クッキーはどうだろう。まだ温かいうちに一つ……

五郎「さく」

 うん、うまいうまい

 うまい、が……よく考えたらハーブティーにハーブクッキーでハーブがダブってしまったか

 いや、多分種類も香りも違うからこれはこれでアリだろう

五郎「うん うまい」

60: 2014/07/07(月) 02:27:24.24 ID:F4vzDCgT0.net
五郎「ごちそうさま」

シャロ「ありがとうございましたー」

 ああ、まだ腹の底からハーブの香りが漂ってくる

 決して腹いっぱいになったわけではないが、普段の食事とはまた違った意味で満たされた気分だ

青山「……」

五郎「ん?」

 また、あの作家さんだ……この街に来る度に出会う気がする

青山「……あら」

 俺に気付くと、その作家さんは小さくお辞儀をし、すれ違うようにフルール・ド・ラパンへ入って行った

 どうやら向こうも俺のことを覚えていたらしい

 ふむ……少し恥ずかしいような気もする

62: 2014/07/07(月) 02:29:19.54 ID:F4vzDCgT0.net
青山「こんにちはー」

シャロ「いらっしゃいませー……ああ、青山さん」

青山「お茶と御一緒に、少し執筆させていただいてもよろしいでしょうか」

シャロ「まあ、構いませんけど……まさかまた私をモデルに何か……?」

青山「いえ……今度の作品は男性が主人公ですので……」

青山「そうですね……タイトルは……」



青山「孤独のグルメ……なんていいかもしれません」



 おわり

63: 2014/07/07(月) 02:29:59.80 ID:8eoZByOI0.net
おつ

64: 2014/07/07(月) 02:30:12.96 ID:qPGbD03z0.net

良かったよ

66: 2014/07/07(月) 02:32:47.91 ID:+474i3e/0.net
ドラマの最後に出てくるあのおっさんは青ブルマさんだったのかー

67: 2014/07/07(月) 02:38:41.78 ID:AHcM6hsn0.net
青山ブルーフィルムさんで〆たのが面白かったな

引用元: 井之頭五郎「ラビットハウス……?」