718: 2018/09/27(木) 21:43:09 ID:SZMWaocY

719: 2018/09/27(木) 21:46:55 ID:SZMWaocY
奏「……ええ」

武内P「速水さんのサインが、そう読まれてしまう、と」

武内P「……成る程、事情はわかりました」

奏「ねえ、貴方にはどう見える?」

武内P「……」


武内P「……申し訳、ありません」


奏「……いえ、良いのよ」

720: 2018/09/27(木) 21:49:33 ID:SZMWaocY
奏「……そうよね、もみやで、よね」

武内P「でっ、ですが! 良いサインです!」

奏「……解説されなくても?」

武内P「えっ?」

奏「パッと見て、良いサインだと思える?」

武内P「……」


武内P「…………すみません」


奏「……ううん、良いの」

721: 2018/09/27(木) 21:53:10 ID:SZMWaocY
奏「……だから、相談なんだけど」

武内P「相談、ですか?」


奏「新しく、わかりやすいサインを考えようと思って」

奏「貴方も、協力してくれないかしら?」


武内P「……成る程」

武内P「私で良いのでしたら……はい」

武内P「出来る限り、協力させていただきます」


奏「ふふっ、ありがとう」ニコッ!


武内P「……良い、笑顔です」

723: 2018/09/27(木) 22:00:39 ID:SZMWaocY
武内P「そうですね……まず、普通に名前を書いて頂けますか?」

奏「あら、どうして? 私のフルネーム、知ってるでしょう?」

武内P「速水さんの、筆跡を見るためです」

武内P「そこから、サイン用の崩し方を考えていこう、と」

武内P「……そう、思いまして」

奏「なるほどね」


奏「……」

…サササッ

奏「これで、どう?」


『もみやで』


武内P「……」

武内P「えっ?」

724: 2018/09/27(木) 22:04:02 ID:SZMWaocY
武内P「あ、あの……速水さん?」

奏「ん? どうしたの?」

武内P「今のサインでなく、ですね……」

奏「……あっ」

奏「やっ、ヤダもう!/// サインの話をしてたから……つい///」

武内P「い、いえ……問題ありません」


奏「駄目ね……癖になってるみたい」

…サササッ

奏「ほら、これで問題ないでしょう?」


『もみやで』


武内P「……」

武内P「えっ?」

725: 2018/09/27(木) 22:06:44 ID:SZMWaocY
武内P「……速水さん?」

奏「? どうしたの?」

武内P「私を……からかって、おられるのでしょうか?」

奏「何よ、急に」

奏「……ふふっ! でも、それも楽しそうね」ニコリ

奏「でも、今は新しいサインを考え――」


『もみやで』


奏「――えっ!?」バッ!


武内P「……」

武内P「えっ!?」

726: 2018/09/27(木) 22:11:51 ID:SZMWaocY
武内P「はっ、速水さん!?」

奏「えっ、ちょっと……えっ!?」

武内P「お願いします! 演技だと仰ってください!」

奏「……待って……ちょっとだけ待って!」

武内P「……!?」


奏「……!」

…サササッ!

奏「……うっ……うううっ……!」プルプル!


『もみやで』


武内P「……」

武内P「これは……深刻な事態ですね」

727: 2018/09/27(木) 22:16:51 ID:SZMWaocY
奏「なんで……どうして……!?」

武内P「職業病の一種、でしょうか」

奏「職業病!?」

武内P「っ! 速水さん! 学校で、何かに名前を書きましたか!?」

奏「えっ? ええ、と……確か、この間受けたテストが……」

…ゴソゴソッ


奏「……そんなっ!? サインで名前が書かてる……!?」


『もみやで 26点』


武内P「待ってください!」

武内P「その、あっ、んんん……! んんんっ……!」

729: 2018/09/27(木) 22:21:29 ID:SZMWaocY
奏「私……実生活でも、名前をサインみたいに書いてたの……!?」

奏「それも、無意識の内に……!?」

武内P「は、速水さんがショックを受ける気持ちはわかります」

武内P「ですが、その……点数が……はい」

奏「? 点数? それのどこが――」


奏「っ! 見て!」

奏「名前にも○がついて、1点オマケされてるわ!」


武内P「あの! そういった細かい部分ではなく!」

730: 2018/09/27(木) 22:28:07 ID:SZMWaocY
武内P「その……は、速水さんは勉強が……」

奏「? どうかしたの?」

武内P「……いえ、その問題は、今は置いておきましょう」

奏「?」

武内P「まずは、漢字でフルネームを書いて頂けますか?」


奏「ええ、わかったわ」

…サササッ

奏「……ふふっ!」ニコッ!


『もみやで』


奏「……」ズーン…!


武内P「……は、速水さん! 笑顔です!」

731: 2018/09/27(木) 22:32:12 ID:SZMWaocY
奏「まさか、自分の名前も漢字で書けないなんて、ね」

奏「アイドルっていうのは、作り上げた幻みたいなもの、って事かしら」

奏「本当の私――速水奏はどこにも居ない……」

奏「居るのは、そう――」


『もみやで』


奏「――彼女だけ」


武内P「待ってください! 速水さん、待ってください!」

武内P「ミステリアスに諦めないでください、速水さん!」

732: 2018/09/27(木) 22:42:02 ID:SZMWaocY
  ・  ・  ・

奏「うっ……くっ……!」プルプル!

カキカキ…

『速』


武内P「速水さん、頑張ってください!」


奏「くっ、ううっ……んっ……!」プルプル!

カキカキ…

『速水』


武内P「あと一文字! もう少しです、速水さん!」


奏「……うああっ!」

サササッ!

『速水もみやで』


武内P「っ……惜しい!」

733: 2018/09/27(木) 22:49:10 ID:SZMWaocY
武内P「まさか……速水さんのプロ意識が、ここまでのものとは……」

奏「……」

武内P「速水さん、もう一度挑戦しましょう」

武内P「1時間前よりも、確実に進歩が見られます」


奏「……もういい」


武内P「えっ?」


奏「私……速水奏、やめる!」


武内P「っ!?」

734: 2018/09/27(木) 22:56:33 ID:SZMWaocY
武内P「待ってください! 速水さん!」

武内P「あの……ええ、と……やめる、とは……!?」

奏「……聞いての通りよ」


奏「さようなら――速水奏」

奏「……そして、こんにちは――」

サササッ!


『もみやで』


奏「――新しい私」

奏「……」

奏「っ……!」ズーン…!


武内P「あ、あの……速水さん」

武内P「そこまで無理に、別れを告げないでください……」

735: 2018/09/27(木) 23:02:12 ID:SZMWaocY
武内P「……もう一度だけ、挑戦しましょう」

奏「……でも」

武内P「安心してください」

武内P「私は、最後まで見守っています」

奏「もしも……駄目だったら……?」


武内P「その時は、漢字のフルネームの判子を作りに行きましょう」


奏「あら……ふふっ!」

奏「どさくさに紛れて、デートのお誘い?」


武内P「いえ、違います」

736: 2018/09/27(木) 23:06:53 ID:SZMWaocY
  ・  ・  ・

奏「それじゃあ……いくわ……!」プルプル!

カキカキ…

『速』


武内P「……!」


奏「うっ、ううっ……っく……!」プルプル!

カキカキ…

『速水』


武内P「速水さん……笑顔です」ニコリ


奏「っ!?///」ビクッ!

サササッ!

『速水♡奏』


武内P「っ! 書け――……えっ!?」

737: 2018/09/27(木) 23:11:41 ID:SZMWaocY
奏「ちょっと……きゅ、急に何……?///」ドキドキ!

武内P「えっ?」

奏「貴方って、いっ……今みたいに笑うんだ///」ドキドキ!

武内P「私は……笑っていましたか?」

奏「すぅ……ふぅ……あのね、不意打ちは良くないわよ」

武内P「……はあ」

奏「ま、まあ……名前は書けたし――」


『速水♡奏』


奏「っ!?」バッ!


武内P「っ!」サッ!

武内P「……お、おめでとうございます! 速水さん!」

738: 2018/09/27(木) 23:20:40 ID:SZMWaocY
奏「いやでも、名字と名前の間に……!」

武内P「あっ……アクセント! ちょっとした、アクセントです!」

奏「アクセント!?」

武内P「アイドルと、普通の女子高生を切り替えるスイッチの――」

武内P「――今のは忘れてください!」


奏「……アクセン――」

サササッ

『速水♡奏』


奏「――……ト」ジイッ!


武内P「……!」

739: 2018/09/27(木) 23:30:29 ID:SZMWaocY
  ・  ・  ・

奏「……出来た」


『もみやで』

『速水奏』


奏「どっちも……自由に、書き分けられるようになったわ!」


武内P「本当に……本当に、おめでとうございます……!」

武内P「余分なマークも、一切なく……完璧です」


奏「……ふふっ!」ニコッ!


武内P「……良い、笑顔です」

740: 2018/09/27(木) 23:34:42 ID:SZMWaocY
奏「これだけ頑張ったんだもの、ご褒美のキスは貰えるわよね?」ニコッ!

武内P「いえ、あの……それは……出来ません」

奏「もう、貴方って本当につれない人ね」

武内P「……」

奏「でもまあ、良いわ」

奏「チャーミングな笑顔も見られたし、ね」ニコリ

武内P「……」

741: 2018/09/27(木) 23:42:04 ID:SZMWaocY
奏「それで……最初の話に戻るけど」

武内P「えっ?」

奏「? どうしたの?」


奏「コレに代わる――」

サササッ…

『もみやで』

奏「――新しいサインを考える、って話でしょう?」


武内P「……」

742: 2018/09/27(木) 23:48:33 ID:SZMWaocY
武内P「……速水さん」

奏「? 何?」


武内P「貴女のサインは、とても、よく考えられているものです」

武内P「一見、『もみやで』に見えてしまいますが……」

武内P「よく見ればわかる……正に、貴女らしいサインです」

武内P「なので、サインを変える必要は無い、と」

武内P「……そう、思います」


奏「……」

743: 2018/09/27(木) 23:56:20 ID:SZMWaocY
武内P「確かに、歩み寄る事も大切です」

武内P「しかし、それによって貴女の魅力の一部が損なわれてしまう」

武内P「……それは、あってはならない事です」


奏「……そうね」

奏「確かに、貴方の言う通りだわ」

奏「一見しただけでわかられるような、安い女じゃない」

奏「だから、サインはこのままで……って事よね?」


武内P「はい」

744: 2018/09/28(金) 00:06:27 ID:j1Upkg22
  ・  ・  ・

武内P「……やっと、帰って頂けたか」

武内P「……」

武内P「しかし……表面化していない問題も、解決できた」

武内P「テストの点数に関しては……」

武内P「……」

武内P「……笑顔です」


武内P「しかし……それにしても――」


no title



武内P「もみやで、ですね」



おわり