14: 2014/04/29(火) 22:51:19.38 ID:jXBfmrTP0.net
キョン「ブログ?」

 俺が部室に行っても、まだ長門だけしか来ていないということも少なからずある。
その場合、長門はせっせと読書に勤しんでいるわけで、俺は手持ちぶさたにだらだらと時間を過ごすことになる。
そういう時は、俺でも理解できる簡単な本を長門に勧めてもらったり、
ハルヒの机に置いてあるパソコンでネットサーフィンをして時間を潰している。

 そして今日も、そんな風に時間を潰していたのだが、ふと開いたお気に入りリストの中に妖しげな存在感を感じさせるものがあった。

『ハルヒのLOVE日記』

 いったい全体これはどういった代物なんだろう。日記とあるぐらいだから、ブログかその類のものであるとうことはわかる。
しかしながら、日記という言葉にくっついている単語が異様な雰囲気を醸し出しているのを否めない。
その単語の意味は小学生でも知っているものであり、至るところで目にするのだが、
こういったモノにすら使うものなのかという疑問が湧いてくる。こう言っちゃなんだが、頭の悪そうなサイト名である。
ハルヒのネーミングセンスを疑わざるを得ない。しかし、ハルヒが考える名前なんてものがまともであった試しもなく、
これだって所謂釣りという可能性だってまだまだ否定できない。中身を確認したいところだが、もしもハルヒの個人的なものだとすると、
プライベートを覗き見するようで気が引けてしまう。
ハレ晴レユカイ~Ver.キョン~
17: 2014/04/29(火) 22:54:46.96 ID:jXBfmrTP0.net
 しかし、好奇心は猫をも頃すって言うぐらいであるわけで、結局俺は好奇心に負けてそれを開いてしまった。
プライベートな内容だとしても、ブログとして公開しているんだったら問題無いだろうと誰にともなく言い訳をしていると、
サイトが表示された。トップにでかでかとサイト名が表示され、ちかちかと光っている。
中々に手の込んだ作りとなっており、SOS団のホームページよりも気合いを入れて作られていることが伺える。

 少し感心しながらスクロールしていくと、『BLOG』という項目に行き着いた。僅かに緊張しながらそれを。
ページが飛んで、日付と日記のタイトルの羅列した画面が表示された。そのタイトルを幾つか挙げてみよう。

19: 2014/04/29(火) 22:56:44.31 ID:jXBfmrTP0.net
『キョンの生態考察』

『キョンの好み研究』

『キョンの1日観察』

俺は自分の目を疑い、一旦戻って再びBLOGを。世界というものは非情にできているらしい。
先程見たタイトルは見間違えたわけではなかったようだ。余りのことに数秒画面を見つめたまま固まってしまった。
恐る恐る、その中の一つを選んで開いてみる。以下はそれからの一部引用である。

21: 2014/04/29(火) 22:58:26.78 ID:jXBfmrTP0.net
『今日はあたしのキョンの生態系について少し考察してみようと思う。あたしのキョンは、一般的には格好いいと言われるような顔ではない。
さらに、それは間が抜けていると言えそうである。

 授業中は大抵の場合寝ており、そのせいで成績は低い。しかしながら、その寝顔はかなり愛くるしいものがあり見ていて癒される。
幸いながらそのことに気が付いているのはあたしだけ。これからもこのことを知っているのはあたしだけでいい。


(中略)


 以上のようなことから、あたしはやっぱりキョンのことが好きなのである』

 いや、もう恥ずかしいやら凄まじいやらで何とコメントしてよいものかわからない。とにかく、俺の日常生活がとにかく赤裸々に綴られていた。
それにしても、こんなBLOGが存在するということは、ハルヒは俺のことを……。

 一旦落ち着こうと、画面から顔を上げたところでハルヒと目が合った。どうやら俺は集中し過ぎて、ハルヒが来たことに気が付かなかったようだ。

24: 2014/04/29(火) 23:00:49.10 ID:jXBfmrTP0.net
「……」

「……」

 見つめ合うこと数秒。ハルヒが表情を凍らせたまま画面が見える位置まで近づいてくる。そして、静止。

「な、何観てんのよ…?」

「いや、何って…」

 答えられるわけがなかった。ハルヒのブログを観ていたなんて。しかし、ここでも俺は世界の無情さを思い知らされることとなる。
突然のハルヒの登場によって、俺の意識は完全にそちらに向いてしまった。それがどういった結果を生むことになるか想像してもらいたい。
簡単だ。画面には、ハルヒの書いたと思われるブログがありありと映し出されている。誰が見ても何をしているか判るぐらいなのだから、
ハルヒが見ればそれは尚更だろう。

 そして、画面に気が付いた瞬間ハルヒの顔面が引きつった。もちろん、俺の顔面もだ。ひくひくと口の端を痙攣させながら、
ハルヒが油の切れたロボットのような動きで俺を見る。

 再び、ばっちりと目が合った。

26: 2014/04/29(火) 23:03:07.56 ID:jXBfmrTP0.net
「な、何よ?」

「いや…」

「言いたいことがあるなら、聞いてあげないことも無いわよ」

 顔面を引きつらせたまま、ハルヒはあくまで強気な態度に出る。どうせ俺に負けたくないだとか、
そんな意地から来るものだろう。だからといって、こちらも強気な態度に出れる程精神状態は回復していない。
ここは穏便に事を進めた方が安全だ。

「俺は何も観てない」

 この状況でそんな言葉を言うのは明らかに失敗だった。それは観たと自白しているようなものだ。
途端に、ハルヒの引きつった顔面が蒼白になる。いや、ショックなのは判る。俺もかなりショックだったからな。

31: 2014/04/29(火) 23:06:26.70 ID:jXBfmrTP0.net
「そ、それはアレよ、アレ。幻の超生物のキョンについて書いたレポートよ。たまたまキョンと同じ名前だったわけで、
キョンには一切関係ないから」

 その割には身に覚えがあるような内容だったぞ。

「それはデジャブよ。よくあるじゃない、初めて行った所でここに来たことあるって感じることが。それと同じなのよ」

 もうこれは相当苦しい言い訳である。ハルヒが覚悟を決めて白状してくれるのならば、
俺もそれなりに誠意を持った態度で接することができる。しかし、本人が必氏に否定している内は何を言っても無駄だろう。

「な、なら、俺にはまったく関係ないんだな?」

「……当たり前じゃない」

「そうか…」

 若干寂しいような気もするが、きっとこれで良かったんだろう。揚げ足を取ってハルヒに嫌な思いをさせるのも忍びないしな。
今日はただネットサーフィンをして、その間に俺は何も観なかった。これで万事解決ってことだ。

32: 2014/04/29(火) 23:09:20.25 ID:jXBfmrTP0.net
「おっと、座りっぱなしで悪かったな」

 後はさっさと席を空けて退散するに限る。

「ちょっと待ちなさいよ」

「何だ?」

 そうな顔をするハルヒに呼び止められ、指定の場所へと向かう足を止める。

「どうしてもって言うなら、たまにはキョンを日記の内容にしてあげないこともないわよ」

「超生物の方のか?」

「違うわよ、バカキョン!」

 そう怒鳴るハルヒに、そうかと答え曖昧に笑う。こんな時、どんな顔をすれば良いのか古泉ならば判ったかもしれない。
だが、生憎俺は古泉なんかではない。なので、曖昧に笑うので精一杯だった。
しかし、ハルヒがそれで満足したようだったからきっとそれは正解だったのだろう。

 なぜなら、しばらく経ってから、ハルヒのブログに俺のことが書かれていた。
そこには、まともな文章で俺に対する想いが綴られていたのだった。

34: 2014/04/29(火) 23:11:23.95 ID:jXBfmrTP0.net
終わり

引用元: キョン「犬?」