1:◆WgnmsRcFGw 2014/08/30(土) 00:14:26.77 ID:NuYWKeX+0
2: 2014/08/30(土) 00:15:09.99 ID:NuYWKeX+0
これは 深く暗く とても悲しい泥の海のおはなし
3: 2014/08/30(土) 00:16:18.40 ID:NuYWKeX+0
深く暗い闇の中、私たちは泳いでいる。
ここは、深海と呼ばれる場所らしい。
暗く冷たく、寒い。
なにもいいことはない。
ただ、
かすかに見える天井から射す光が、
ぼんやりと憶えているいつかの思い出が、
私を、私たちを奮い立たせている。
「あ」
ほら、また今日も
あの温かい光を目指して
上へ上へと泳いでいく。
4: 2014/08/30(土) 00:17:26.81 ID:NuYWKeX+0
だが、志半ばで阻まれてしまった。
水の流れかその重さ故か、
泳いでいった人たちは、みな深く暗い此処に帰ってきた。
やっぱりだめだったと笑う人。
泳ぎ疲れた友の氏を悼む人。
皆等しく帰ってきた。
やっぱり今日もだめだった。
いつになったら、あの温かい場所へいけるんだろう。
ここは寒いなぁ。
暗いなぁ。
苦しいなぁ。
と、落ちてきた人が声をあげた。
「がんばっても!どんなに泳いでも!あの光へはいけないんだよ!
みんな目を覚ませ!この暗い世界が私たちの現実なんだ!」
……
何も言えなかった。
5: 2014/08/30(土) 00:18:33.36 ID:NuYWKeX+0
ところで、ここには皆と少し違う人たちが居る。
彼女たちはこの深海の、さらに深い水底で漂っている。
落ちてきた亡骸を我よわれよと貪り食う。
目のいい私は見えてしまう。見たくもないものが。
耳のいい私は聞こえてしまう。聞きたくもない音が。
一つに群がるそのさまはまるで珊瑚礁で。
食い散らかして満足すると、それは鼻歌交じりに散っていった。
「こんなところは嫌だ」
誰かが言った。
続くように、その隣の人が言った。
泳ぐ人が口々に言った。
「こんなに暗いところは嫌だ」
「こんなに寒いところは嫌だ」
「こんなに苦しいところは嫌だ」
上を見上げて、届かない天井を見上げて、誰もが言った。
ああ 誰か 光をくれ
6: 2014/08/30(土) 00:20:01.75 ID:NuYWKeX+0
この暗く寒い世界を、私たちは彷徨い泳ぐ。
時に手を取り、助け合い、泳ぐ。
今もそうやって、みんなで泳いでいる。
明日のために、希望ある未来のために、耀かしい光のために。
同じように生きて、今に私を繋いでくれた人のように。
みんなでつくった明日への輪をくぐって。
でも、そうやって繋いだ明日に何の意味がある?
どうせ何も出来ない。光になんて届かない。
来る日も来る日も泳ぎ続けて、
そうやって生きる日々に何の意味がある?
7: 2014/08/30(土) 00:21:41.21 ID:NuYWKeX+0
「教えて」
「教えてくれよ」
「教えてほしい」
みんなが問う。
「教えて」
「教えて」
「教えてくれ」
この世界に問う。
「私たちの生きる意味は何だ!」
応えはない。
そうだ
みんな知っていたんだ
昇る人も
沈む人も
気付かないふりをしていた
認めたくなかった
だが、
そうだ
ここに光はこない
私たちはただ泳ぐしかない
永遠に
永遠にだ
8: 2014/08/30(土) 00:23:05.57 ID:NuYWKeX+0
誰かが、または誰もがこう思った(言った)。
光は幻想だ
まやかしだ
なんと 馬鹿馬鹿しいことだ
夢を見てはいけない
夢を見るのは愚か者だ
ひとりで泳いでいけ
たったひとりで泳いでいくのだ
そしてひとりで果てるがよい
9: 2014/08/30(土) 00:24:20.28 ID:NuYWKeX+0
……それでも、私は前向きに考えた。
たとえそうであったとしても、必ず先に光があると。
また皆で助け合えば、きっと道はあると。
だが、
そう思って見渡しても、もう誰も居なかった。
みんな、どこかへ行ってしまった。
ひとりで。
ああ、見えていた道が
明日への道が
皆が繋いできた輪が
ない。
ない。
なくなってしまった。
10: 2014/08/30(土) 00:25:54.72 ID:NuYWKeX+0
ああ、ここは寒い
ここは苦しい
たすけてほしい
この暗い世界を独り、あてもなく泳ぐ。
今まで返しがあった言葉は、みんなの励ましの言葉は、もうない。
孤独だ。
くるしい
助けてくれ
憎い
愛してる
ああ、疲れた。
11: 2014/08/30(土) 00:27:49.47 ID:NuYWKeX+0
……?
突然、目の前が明るくなった。
なんだろうと上を見上げると、光り輝く太陽があった。
濁りきった水はどこへやら、天井から温かい光が見えた。
ああ、彼の光だ。夢に見ていた耀かしい未来だ。
と、
気がつくと、周りには皆が居た。
我先にと、あの光を目指して泳いでいく。
真っ白だった光は、いつしか人の影で見えなくなり、その影が減っては増えていく。
まるで雨のように、人のかたちをした泥が降ってくる。
おそろしいことだ
尻の穴を見せ合っている醜い魚(人)たちが
「我こそが我こそが」
とつぶやいている
早口で
早口で!
早口で早口で早口で!
は や く ち で!
「あの光は私のもの!」
「違う!私のものだ!」
「邪魔だ!」
「どけ!」
「うるさい!氏ね!」
「何だと!?そっちが氏ね!」
「暗いのは嫌だ寒いのは嫌だ苦しいのは嫌だ」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
「氏んでしまえ氏んでしまえ」
「そうだみんな氏ねばいい」
「そして私ひとり生きればいい」
「嫌だ疲れた苦しい助けて」
そうやって沈んでいく。
あんなにきれいだった水はあっという間に泥で濁り、
光を浴びたものは誰一人としてなく、
生き残った私はただ佇んでいた。
12: 2014/08/30(土) 00:29:05.60 ID:NuYWKeX+0
水底で漂う珊瑚礁たちは、降ってきた泥に夢中だった。
喘ぐように貪り、呼吸も忘れ、
ただひたすらに食べ続ける。
泥を押し付け合って慰めるように、みんなでかたまって食べている。
姦しく食い散らかしている。
そうして、食べ終えた人たちはまたどこかへ去っていった。
あれだけやかましかった音は消え、残ったのはただ水が流れる音だけ。
こんなことが毎日毎日
泳いで 泳いで 泳いで
その繰り返し
まったく嫌になっちゃうよ
13: 2014/08/30(土) 00:30:25.42 ID:NuYWKeX+0
濁った海を独りで泳ぎ、また思う。
例えこんな繰り返しの日々でも、いつか終わりは来ると。
いつかこの寒い冬のような世界を抜け出して、
光射す温かい春のような世界へ行ける(戻れる)と。
そしてその世界で、幸せに生き氏ねると!
だから、泳ぐ。
この暗く寒い水の中を、泳ぎ続ける。
背中に希望を背負って光を目指す。
遠い思い出の愛する人が、私を待っていると!
そうやって、ついに見つける。
さっきもあったきれいな場所。
天井から光が射している場所。
今度は大丈夫。今度は諦めない。今度こそ、光の下に!
14: 2014/08/30(土) 00:31:48.65 ID:NuYWKeX+0
上を目指し泳ぐ私の後ろに、人がついてくる。
さらにそれについてくる人、人、ひと。
途中で疲れて氏んでいく人。
他人を蹴落とし昇っていく人。
傷ついていく私の身体。
千は百になり
百は十になり
十は一になり
沈んでいく泥(人)
一が積もり千となる
是まさに 堂々巡り
15: 2014/08/30(土) 00:33:20.72 ID:NuYWKeX+0
こんな悲しいところに
幸せなんてないようなところに
悲しみしかないようなところに
光が届く道理など無く
ああ、見える。
深海に降り続く、
琥珀色の日陰にも似たこの雨(泥)が。
上る人たちが口々に呟いている。
ああ、誰か
光を
光をくれ
16: 2014/08/30(土) 00:34:41.64 ID:NuYWKeX+0
ああ、そういえば
昔
はるか昔に
大切な人が歌っていた子守歌があったなぁ
「~♪」
少し思い出しては、歌っていく。
愛した人が歌ってくれた歌を。
それを自分で、自分のために、奮い立たせるために歌っていく。
かわいらしい 迷い子の歌
歌いながら、眺め遣る。
ああ、こんなにも迷い子たちが、
泡沫のように消えては生っている。
上を目指して上っている。
そうして、そうしてようやく
17: 2014/08/30(土) 00:37:29.68 ID:NuYWKeX+0
天井に近づかんとする私の中で
かつての思い出が鮮明になる。
あの光の下、
遠い昔、
幸せに暮らしていた日々を。
大切な人たちと、笑い合って過ごしていた日々を。
時に泣き、時に怒り、されども幸せに生きていた耀かしい日々を。
そんなそんな、遠い思い出。
幸せな、大切な思い出。
もうすぐ、私は氷に上る。
あの光の下で、また耀ける。
水面から飛び跳ねる魚のように。
生き生きと。
生き生きと!
18: 2014/08/30(土) 00:40:07.25 ID:NuYWKeX+0
―『敵艦隊、見ゆ!』―
19: 2014/08/30(土) 00:41:12.41 ID:NuYWKeX+0
ぷはっと息を吐く。
水面から顔をだす。
真上には照りつける太陽があって。
濁った海のその上は、とても青くて。
まるでこの世のものではないように綺麗で。
暗く寒く苦しい世界では考えられないほどに快適で。
その中に独り佇んで風を受けたりなんかしてみて。
ああ、温かい
ああ、とても
とても
幸せだなぁ
ああ、なんて
なんて
幸せだなぁ
あ!
ほら、あの大切な思い出の場所から
私を祝福するように
私の大切な人たちが出迎えに来ている。
ああ、みんな
私、帰ってキ――
20: 2014/08/30(土) 00:42:56.56 ID:NuYWKeX+0
「ア、アァ――」
熱い。
足元が燃えている。
腕が燃えている。
熱くて 痛い 熱くて 息が出来ない。
「ド、ウ――」
空が凍っている。
いつの間にか太陽は蜻蛉達に埋め尽くされ遮られ。
寒くて 痛い 寒くて 息が出来ない。
「シ、テ――?」
どうしようもない
そうだ、どうしようもない
誰もが どうしようも! ない!
光を目指して泳ぎ疲れた人たちがただ泣いている。
幸せを求めて泳ぎ疲れたひとたちがただ泣いている。
どうしようもないと泣いている。
21: 2014/08/30(土) 00:44:13.68 ID:NuYWKeX+0
ココハ地獄ダ
ここは天国だ
ココハ天国サ
ここは地獄さ
ああ、私の信じたものの
夢見た希望の、耀かしい未来の先には何もなく、
必氏に泳いできた、あの暗く寒く苦しい泥の海にも何もない。
それでも
私たちは
何も知らず
ただ、
泳いで
泳いで泳いで
泳いで泳いで泳いで
今日も明日も明後日も
来週も来月も来年も
十年先も
そして
命尽きた その後も
ひとはきっと
泳いで
泳いで泳いで
泳いで泳いで泳いで
そう 嵶やかに
「――タス、ケテ――」
――――わらえる
22: 2014/08/30(土) 00:47:30.24 ID:NuYWKeX+0
以上で完結となります。ありがとうございました!
お話の元はあさき氏の「魚氷に上り、輝よひて」という曲です
お話の元はあさき氏の「魚氷に上り、輝よひて」という曲です
23: 2014/08/30(土) 01:21:37.22 ID:LEdbCWNW0
乙です
引用元: 【艦これ】 魚氷に上り、輝よひて
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