346: ◆ywkhR7Exfw  2010/12/02(木) 17:43:42.11 ID:DgO2kYSO

##「にねんはんご?」

 亡骸を前にして、どんな言葉をかけられるというのだろう。

 あの輝かしい高校生活を共にした彼女は、もういない。

 私が少し目を離した瞬間、彼女は私の元を離れ、自ら命を絶ってしまった。

 すべてが手遅れと化した後、アスファルトに果てたその無惨な姿に思わず声をあげてしまう。

 けれども、その声が彼女に届くことは、もうない。

 遅すぎたのだ。

 私は――彼女の最期の声を聞いてあげることもできなかった。

 いつまでも共にいられる。

 これは、そう信じきって怠惰に身を任せた私への罰なんだ……。
けいおん!Shuffle 2巻 (まんがタイムKRコミックス)

梓「月日がたつのは早いなー」
347: 2010/12/02(木) 17:44:33.69 ID:DgO2kYSO

 旧友の澪ちゃんは言う。

 失ったものは元には戻らないから、これからの日々を積み上げていくしかないのだ、と。

 でも、私はそんな風に強くなれない。

 過去からの確かな繋がりを失ってしまった今、その先にどんな未来が描けるというのだろう。

 妹の憂もなぐさめてくれた。

 二度とこんなことしないように、気を付ければいいんだって。

 けれども……もう、すべてが遅いんだ。

 過去をやり直すことなんてできないし、私たちの思い出はあの日、路上でつぶされてしまったのだから。

 澪ちゃん、憂、ごめんね。

 私は……まだ、立ち直れそうにないよ。

348: 2010/12/02(木) 17:45:21.64 ID:DgO2kYSO

 最愛の人と積み上げてきた笑顔も言葉も潰えた今、心に刻まれた思い出を反芻することでどうにか自分を保つ。

 出会ってから……いろいろなことがあったっけ。

 受験の合格。文化祭。最高のライブ。

 愛する人と少しずつ距離を縮めた、杏のように痛ましい思い出。

 ずっとずっと、一緒にいてくれるって信じてた。

 まるでダメな私を、ずっと見守ってくれるって勝手に信じてたのに。

 12月2日。

 それは、私が大切なものを失った命日。


349: 2010/12/02(木) 17:46:11.05 ID:DgO2kYSO

―――――
――――
――

律「……なあ澪、唯のやつずっとあんな感じなのか」

澪「うん……朝からずっと」

紬「相当ショックだったのね、唯ちゃん…」

憂「お姉ちゃん、事故の直後は泣いてましたから…」

澪「なんていうか……明日は我が身だな」

律「……私も気を付けるよ」


唯「……けーたい…わたしの、中学から使ってきたけいたいでんわ……あずにゃんの写メ、たくさん入ってたのに……」ずーん


澪「確かに、携帯壊れるのはへこむな…」

紬「そ、そうね…」

350: 2010/12/02(木) 17:47:00.87 ID:DgO2kYSO

唯「りっちゃん……うち、今年年賀状いらないから……」ずーん

律「あ、ああわかった…」あせっ


梓「まーったくもう。いつまでめそめそしてるのさっ」

唯「だってぇ……みんなとの、あずにゃんとの思い出がいっぱいつまった携帯なんだよ?」うるっ

梓「そ、それは……」

憂「こっ今度から気を付ければいいんじゃないかな…? ポッケから落とさないように…」あせっ

唯「……そんな気休め、目の前でケータイ轢かれたことないから言えるんだよぉ…! ぐすっ、ひっく…」


律「目の前だったのか……」

澪「なすすべもなかったらしい……」

351: 2010/12/02(木) 17:47:44.47 ID:DgO2kYSO

梓「――だぁーっ、もう!!」ぐいっ

唯「へっ? あ、あずにゃ――」

ぎゅうっ

梓「ほら、見える?! データ消えても私はここにいるから!」

唯「あ、あずにゃん……?」あせっ

梓「思い出なんて今からでもいっぱい作ってけばいいのっ、写メだってこれから撮ればいいじゃん、だからいい加減元気出しなさいっ」

唯「……う、うん」

梓「……ゆいが落ち込んでると、わたしもつらいもん…」ぼそっ


唯「……そう、だね」くすっ

352: 2010/12/02(木) 17:48:27.05 ID:DgO2kYSO

唯「とりあえずケータイ屋さんに持ってくことにしました!」ふんすっ

梓「いや、最初から持っていきましょうよ…」


澪「……やっぱ、梓なんだな」

紬「すごいじゃない、梓ちゃん」にこっ

梓「なっなにがですかっ」あせっ

憂「だって、私たちがなに言っても元気ないままだったんだよ?」くすっ

律「いやー泣けるねえあずにゃんさんの台詞はー」にやにや

梓「もっもう! わすれてくださいよ!?」かあっ


唯「忘れるわけないじゃん」ぎゅっ

梓「あ……ま、まあいいけど…」

唯「……あずにゃん、ありがと。げんきでたよ」にこっ

梓「うん……それなら、よかった。かな」にこっ

353: 2010/12/02(木) 17:49:16.71 ID:DgO2kYSO

梓「あれ。でも本体は壊れてるけど……」

唯「そうなんだよね。ストラップは無事だったんだ」

憂「たしかに、トラックにひかれて無傷って珍しいね」


紬「あれ、ってことはもしかして……」

唯「?」

紬「……唯ちゃんの携帯電話が、梓ちゃんのストラップを身をていして守った、ってことかしら?」くすっ

唯「……おおーっ!」きらきらっ


律「なんつーか……ベタな話だなぁ」

澪「でもこれで歌詞作れそうな気がする」くすっ

354: 2010/12/02(木) 17:49:55.34 ID:DgO2kYSO

梓「……なんか、すごくうれしいかも」にこっ

唯「私のあずにゃんへの愛のたまものです」ふんすっ

梓「……調子乗ってると、また携帯こわすよっ」

唯「あ。あずにゃん、てれてる?」

梓「照れてなんかないから。さ、ケータイショップ行くよ」ぐいっ

唯「あずにゃん、本体持ってかないと……」


梓「もう、今度は落とさないでよ?」

唯「うん! ……だいじにするから!」


つづく。

355: 2010/12/02(木) 17:52:42.37 ID:DgO2kYSO
読んでくれた人ありがとう
実話です、4時間ほど前に俺の携帯が目の前で轢かれました・・・・・。
現在代替機から書き込んでますが、データフォーマットはマジでへこんだ・・・・・。
今日は喪に服します……口のゆるいポケットには気を付けましょうねみなさん

次は唯が風邪ひくか、唯が遅刻するか、唯梓が出てこない話にする
年末は忙しいので今のうちにいろいろ書けたらなと

引用元: 梓「月日がたつのは早いなー」