1: 2023/03/03(金) 16:28:39.116 ID:xtcNtVAH00303
ぼっちがたどり着いた選択は最も切ないハッピーエンドだった
このssは映画「バタフライ・エフェクト」のネタバレを含みますのでご注意ください
また、2009年に2chに投稿されたけいおんssのバタフライエフェクトを元にしてこのssを書きました
そちらのネタバレも含みますのでご注意ください
このssは映画「バタフライ・エフェクト」のネタバレを含みますのでご注意ください
また、2009年に2chに投稿されたけいおんssのバタフライエフェクトを元にしてこのssを書きました
そちらのネタバレも含みますのでご注意ください
3: 2023/03/03(金) 16:30:27.767 ID:xtcNtVAH00303
バタフライエフェクト
───それは、通常なら無視できるほどの小さな差が時と共に、やがては無視できないほどの大きな差となる現象───
プロローグ
その症状が現れ出したのはいつだったろうか
中学生の終わり頃だった気がする
そう、最初に体験したのは家族に初めて演奏を披露したときだ
お父さんから借りたギターで練習した曲を一生懸命に弾いた
観客はお父さんとお母さん、ふたり、ジミヘンだけなのにやたら緊張して演奏中の記憶がなかった
後にお父さんが撮っていたビデオカメラの映像で
私は最後まで演奏をこなしていたのを確認した
何の問題もない
熱中してそのときの記憶がなくなるなんてよくあることだ
ずっとそう思っていた
ある日、両親と共に学校に呼び出された
私が美術の授業中に描いた絵が問題になったのだ
───それは、通常なら無視できるほどの小さな差が時と共に、やがては無視できないほどの大きな差となる現象───
プロローグ
その症状が現れ出したのはいつだったろうか
中学生の終わり頃だった気がする
そう、最初に体験したのは家族に初めて演奏を披露したときだ
お父さんから借りたギターで練習した曲を一生懸命に弾いた
観客はお父さんとお母さん、ふたり、ジミヘンだけなのにやたら緊張して演奏中の記憶がなかった
後にお父さんが撮っていたビデオカメラの映像で
私は最後まで演奏をこなしていたのを確認した
何の問題もない
熱中してそのときの記憶がなくなるなんてよくあることだ
ずっとそう思っていた
ある日、両親と共に学校に呼び出された
私が美術の授業中に描いた絵が問題になったのだ
4: 2023/03/03(金) 16:31:16.028 ID:xtcNtVAH00303
それは、白いワンピースを着た女の子が刃物でズタズタに切り裂かれた何ともおぞましい絵だった
先生は私を問い詰めたが、私にはそんな絵を描いた覚えがない
私は何度も首を振って描いてないことを訴えたが
今度は、私を心配そうな目で見つめてくるだけだった
両親も不安を覚えしばらく教師と相談した後
私を診療内科で診てもらうことに決めた
そこで私は最近記憶がなくなる旨を医者に話した
医者は薬の処方はせず、経過を診るため私に日記を書かせることにした
私はそれに従い美術の授業でのあいまいな記憶を初めに書き
その後は今日あった出来事を記述していった
先生は私を問い詰めたが、私にはそんな絵を描いた覚えがない
私は何度も首を振って描いてないことを訴えたが
今度は、私を心配そうな目で見つめてくるだけだった
両親も不安を覚えしばらく教師と相談した後
私を診療内科で診てもらうことに決めた
そこで私は最近記憶がなくなる旨を医者に話した
医者は薬の処方はせず、経過を診るため私に日記を書かせることにした
私はそれに従い美術の授業でのあいまいな記憶を初めに書き
その後は今日あった出来事を記述していった
5: 2023/03/03(金) 16:32:23.297 ID:xtcNtVAH00303
第1部
ぼっちが1年生の5月ごろ
高校生になったぼっちは相変わらず友達ができずにいた
もう学校行きたくないなぁ…
公園のブランコに揺られながら独りごちる
幼稚園の頃からひとりぼっち
ギターなら自分のような陰キャでも輝ける・・・その気持ちだけでひたむきに続けてきたものの、文化祭でライブしてチヤホヤどころかバンド仲間の一人もいなかった
いるのは自分の演奏動画に反応してくれるネットの中の人たちだけ
いいなあライブ・・・
分かってますよ、他力本願でうまくいくはずないって 私の居場所はネットだけ・・・
虹夏「あ、ギター!」
ぼっち「!? あ…あ… 」
━━ ・・・・
・・・・ ━━
いきなり声をかけられて驚いたのか一瞬意識が途切れたようだった
虹夏「それギターだよねっ弾けるの?……おーい」
ぼっち (しゃ、喋るの久しぶり過ぎて声が… )
虹夏「いきなりごめんね 私、下北沢高校2年伊地知虹夏」
ぼっち「あ、後藤ひとり秀華高校1年です… 」
虹夏「ちなみにひとりちゃんはさ、ギターどのくらい弾ける?」
ぼっち「あ、そこそこかと… 」
虹夏「そっかぁ!あのさ…今ちょっと困ってて…無理だったら大丈夫なんだけど… 」
ぼっち (絶対だいじょばないヤツ… )
虹夏「うん…思い切って言っちゃおう!お願い!私のバンドで今日だけサポートギターしてくれないかなあ?」
この日の出来事は私の人生で一番の転機となった
流されるままライブハウスへ行って、ライブに出て、私は結束バンドのメンバーになってしまった
さらにバイトが決まったり、ギターボーカルとして喜多ちゃんが加入したり、私の日常は目まぐるしく過ぎていった
ぼっちが1年生の5月ごろ
高校生になったぼっちは相変わらず友達ができずにいた
もう学校行きたくないなぁ…
公園のブランコに揺られながら独りごちる
幼稚園の頃からひとりぼっち
ギターなら自分のような陰キャでも輝ける・・・その気持ちだけでひたむきに続けてきたものの、文化祭でライブしてチヤホヤどころかバンド仲間の一人もいなかった
いるのは自分の演奏動画に反応してくれるネットの中の人たちだけ
いいなあライブ・・・
分かってますよ、他力本願でうまくいくはずないって 私の居場所はネットだけ・・・
虹夏「あ、ギター!」
ぼっち「!? あ…あ… 」
━━ ・・・・
・・・・ ━━
いきなり声をかけられて驚いたのか一瞬意識が途切れたようだった
虹夏「それギターだよねっ弾けるの?……おーい」
ぼっち (しゃ、喋るの久しぶり過ぎて声が… )
虹夏「いきなりごめんね 私、下北沢高校2年伊地知虹夏」
ぼっち「あ、後藤ひとり秀華高校1年です… 」
虹夏「ちなみにひとりちゃんはさ、ギターどのくらい弾ける?」
ぼっち「あ、そこそこかと… 」
虹夏「そっかぁ!あのさ…今ちょっと困ってて…無理だったら大丈夫なんだけど… 」
ぼっち (絶対だいじょばないヤツ… )
虹夏「うん…思い切って言っちゃおう!お願い!私のバンドで今日だけサポートギターしてくれないかなあ?」
この日の出来事は私の人生で一番の転機となった
流されるままライブハウスへ行って、ライブに出て、私は結束バンドのメンバーになってしまった
さらにバイトが決まったり、ギターボーカルとして喜多ちゃんが加入したり、私の日常は目まぐるしく過ぎていった
6: 2023/03/03(金) 16:33:24.473 ID:xtcNtVAH00303
台風ライブが終わった8月中旬、ぼっちは定休日のスターリーでバイトをしていた
星歌「悪いなぼっちちゃん、搬入手伝ってもらって」
ぼっち「いえ…全然大丈夫です」
星歌「リョウにも手伝うように声かけたんだけどな、あいつ飛びやがった…これだからベーシストは… 」
星歌はブツブツ言いながらフーッと息を吐いてイスに腰かけた
星歌「そういえば、最近調子どう?」
ぼっち「え、あ、楽しいです… 」
星歌はぼっちの記憶が途切れる症状について聞いたつもりだったが
ぼっちは不意の雑談に対応できなかったのかぎこちない笑顔でそう答えた
星歌「そうじゃなくて、日記はちゃんとつけてるのか?」
ぼっち「え?あ、はい 毎日つけてます」
星歌「そうか 最近は症状でたりしてる?」
ぼっち「と、特にはないです」
星歌「よかった」
星歌はホッとした表情を見せるとぼっちと2人ジュースを飲んで休憩した
星歌「私は事務作業片してるけど、ぼっちちゃんはよかったらもう少し休憩していきなよ」
ぼっち「あ、はい… 」
何か考え事をしているのかボーッとしているぼっちを尻目に星歌はパソコンと向き合う
目は画面を見ていても頭ではぼっちのことを考えていた
星歌「悪いなぼっちちゃん、搬入手伝ってもらって」
ぼっち「いえ…全然大丈夫です」
星歌「リョウにも手伝うように声かけたんだけどな、あいつ飛びやがった…これだからベーシストは… 」
星歌はブツブツ言いながらフーッと息を吐いてイスに腰かけた
星歌「そういえば、最近調子どう?」
ぼっち「え、あ、楽しいです… 」
星歌はぼっちの記憶が途切れる症状について聞いたつもりだったが
ぼっちは不意の雑談に対応できなかったのかぎこちない笑顔でそう答えた
星歌「そうじゃなくて、日記はちゃんとつけてるのか?」
ぼっち「え?あ、はい 毎日つけてます」
星歌「そうか 最近は症状でたりしてる?」
ぼっち「と、特にはないです」
星歌「よかった」
星歌はホッとした表情を見せるとぼっちと2人ジュースを飲んで休憩した
星歌「私は事務作業片してるけど、ぼっちちゃんはよかったらもう少し休憩していきなよ」
ぼっち「あ、はい… 」
何か考え事をしているのかボーッとしているぼっちを尻目に星歌はパソコンと向き合う
目は画面を見ていても頭ではぼっちのことを考えていた
7: 2023/03/03(金) 16:35:46.247 ID:xtcNtVAH00303
ぼっちがスターリーで働くようになってすぐ
ぼっちの両親から症状について説明を受けた
美智代(ぼっち母)「娘が働くことはとても嬉しいです…しかしご迷惑になるかもしれません… 」
星歌「大丈夫ですよ 娘さんは私がしっかり見ておきますので安心してください」
あの時口ではそう言ったものの不安だらけだった
───記憶○害
それを脳の○害へと関連づけるのは簡単だった
何か、大変な病気なんじゃないかとネットや図書館、書店を回って関連しそうな病気の書籍をかき集めたこともあった
そこに記された文章は星歌を不安にさせるだけだった
ぼっちちゃんの両親にさらに詳しいことを聞こうか思案したが差し出がましいかとためらった
虹夏はじめ他のメンバーにぼっちちゃんのことを伝えるわけにもいかない
最近では落ち着いて、症状がそれほど酷くないと思いはじめてもきたが心配なのは変わらなかった
考えても仕方がない
星歌は視線をパソコン画面から外すとぼっちを探して振り返った
───ぼっちちゃんの顔を見れば安心できる
しかし、さっきまでジュースを飲んでくつろいでいたぼっちの姿がない
はっとしてキッチンを見るとぼっちが包丁を手にしてたたずんでいた
星歌「ぼ、ぼっちちゃん… 」
ぼっちは虚な目で星歌を見る
ぼっち「店長さん… 」
星歌「ぼっちちゃん、落ち着いて…ゆっくり包丁を置くんだ…な?」
ぼっちは驚いた様子で自らの手元を見つめると目に涙を浮かべその場に膝から崩れ落ちた
星歌「ぼっちちゃん!」
ぼっち「店長さんっ…私…どうして… 」
ぼっちの両親から症状について説明を受けた
美智代(ぼっち母)「娘が働くことはとても嬉しいです…しかしご迷惑になるかもしれません… 」
星歌「大丈夫ですよ 娘さんは私がしっかり見ておきますので安心してください」
あの時口ではそう言ったものの不安だらけだった
───記憶○害
それを脳の○害へと関連づけるのは簡単だった
何か、大変な病気なんじゃないかとネットや図書館、書店を回って関連しそうな病気の書籍をかき集めたこともあった
そこに記された文章は星歌を不安にさせるだけだった
ぼっちちゃんの両親にさらに詳しいことを聞こうか思案したが差し出がましいかとためらった
虹夏はじめ他のメンバーにぼっちちゃんのことを伝えるわけにもいかない
最近では落ち着いて、症状がそれほど酷くないと思いはじめてもきたが心配なのは変わらなかった
考えても仕方がない
星歌は視線をパソコン画面から外すとぼっちを探して振り返った
───ぼっちちゃんの顔を見れば安心できる
しかし、さっきまでジュースを飲んでくつろいでいたぼっちの姿がない
はっとしてキッチンを見るとぼっちが包丁を手にしてたたずんでいた
星歌「ぼ、ぼっちちゃん… 」
ぼっちは虚な目で星歌を見る
ぼっち「店長さん… 」
星歌「ぼっちちゃん、落ち着いて…ゆっくり包丁を置くんだ…な?」
ぼっちは驚いた様子で自らの手元を見つめると目に涙を浮かべその場に膝から崩れ落ちた
星歌「ぼっちちゃん!」
ぼっち「店長さんっ…私…どうして… 」
8: 2023/03/03(金) 16:37:41.235 ID:xtcNtVAH00303
星歌「落ち着いて、大丈夫だから…大丈夫… 」
星歌は喉に絡む声でぼっちを慰める 落ち着いて、落ち着いて、と自分に言い聞かせるように
ぼっち「わ、私おかしいですよね…?」
星歌「そんなことないよ」
ぼっち「だって、さっきまで自分が何してたのかわからないです… 」
ぼっちは怯えた目を星歌に向けた
ぼっち「怖いよ… 」
星歌「大丈夫だから大丈夫… 」
星歌はぼっちの頭をそっと撫でる
大丈夫───その言葉を繰り返しながらしばらく2人で抱き合っていた
----------------
10月中旬
ぼっちは学校の正面玄関へ続く道を喜多ちゃんと歩きながらもうすぐ枯れゆく紅葉を眺めていた
文化祭ライブはトラブルもあったが何とか成功した
その日のことは極度の緊張のせいなのかダイブして床に頭をぶつけたからなのか
演奏の最後から退場するまでの記憶がない
星歌は喉に絡む声でぼっちを慰める 落ち着いて、落ち着いて、と自分に言い聞かせるように
ぼっち「わ、私おかしいですよね…?」
星歌「そんなことないよ」
ぼっち「だって、さっきまで自分が何してたのかわからないです… 」
ぼっちは怯えた目を星歌に向けた
ぼっち「怖いよ… 」
星歌「大丈夫だから大丈夫… 」
星歌はぼっちの頭をそっと撫でる
大丈夫───その言葉を繰り返しながらしばらく2人で抱き合っていた
----------------
10月中旬
ぼっちは学校の正面玄関へ続く道を喜多ちゃんと歩きながらもうすぐ枯れゆく紅葉を眺めていた
文化祭ライブはトラブルもあったが何とか成功した
その日のことは極度の緊張のせいなのかダイブして床に頭をぶつけたからなのか
演奏の最後から退場するまでの記憶がない
9: 2023/03/03(金) 16:38:40.328 ID:xtcNtVAH00303
結束バンドは数ヶ月で急成長を遂げた
それは多分、私も
次の目標も決まり不安と希望が入り交じって不思議な気分だ
季節は寒い冬へ移ろうというのに気持ちだけは暑く対照的だった
喜多「ひとりちゃん、文化祭でダイブしたところもう痛くない?」
ぼっち「もう大丈夫です… 」
喜多「よかった それにしてもあの日のひとりちゃん凄かったわボトルネック奏法!」
ぼっち「えへへ…喜多ちゃんのソロもすごかったですよ」
喜多「じゃあもっと練習して次のライブも成功させましょうね!」
ぼっち「は、はい!」
2人は笑いあい、紅葉色に染まる景色に溶け込むように校舎へと消えていった
放課後、いつものように2人でスターリーに行くと先に虹夏とリョウが着いていた
虹夏「ケーキもらったから一緒に食べよー!」
喜多「わぁ美味しそう〜!」
リョウ「これはイケる!」バクバク
虹夏「ちょっと何フライングしてんのさ!」
喜多「リョウ先輩らしいですね!」
虹夏「もう喜多ちゃんはリョウを甘やかすから… 」
リョウ「虹夏のイチゴもらっていい?」
虹夏「ダメに決まってるでしょっ!」
それは多分、私も
次の目標も決まり不安と希望が入り交じって不思議な気分だ
季節は寒い冬へ移ろうというのに気持ちだけは暑く対照的だった
喜多「ひとりちゃん、文化祭でダイブしたところもう痛くない?」
ぼっち「もう大丈夫です… 」
喜多「よかった それにしてもあの日のひとりちゃん凄かったわボトルネック奏法!」
ぼっち「えへへ…喜多ちゃんのソロもすごかったですよ」
喜多「じゃあもっと練習して次のライブも成功させましょうね!」
ぼっち「は、はい!」
2人は笑いあい、紅葉色に染まる景色に溶け込むように校舎へと消えていった
放課後、いつものように2人でスターリーに行くと先に虹夏とリョウが着いていた
虹夏「ケーキもらったから一緒に食べよー!」
喜多「わぁ美味しそう〜!」
リョウ「これはイケる!」バクバク
虹夏「ちょっと何フライングしてんのさ!」
喜多「リョウ先輩らしいですね!」
虹夏「もう喜多ちゃんはリョウを甘やかすから… 」
リョウ「虹夏のイチゴもらっていい?」
虹夏「ダメに決まってるでしょっ!」
10: 2023/03/03(金) 16:39:53.486 ID:xtcNtVAH00303
リョウ「もらってあげた方が虹夏のためだよ…最近太ったじゃん」ボゾッ
虹夏「はっ/// なんで知ってるの」
リョウ「ドラム叩いてぜい肉落とした方がいいんじゃない?」
リョウの言葉に乗せられて虹夏は立ち上がる
虹夏「よしっ!練習するぞっ!」
ぼっち「え…まだ食べて… 」
その日の練習は充実したものだった
と言っても、虹夏はドラムを叩き壊す勢いで他の音をかき消してしまうほどだったのだが
それでも、いつもより長い時間練習することができて喜多ちゃんのギターも大分上達した
練習が終わった後もぼっちにギターを教わった
まだ始めて半年の喜多ちゃんには覚えることがいっぱいでパンクしそうになる
しかしぼっちを独り占めして2人きりで練習する時間が何よりも楽しいひとときなのだと喜多ちゃんは感じていた
虹夏「はっ/// なんで知ってるの」
リョウ「ドラム叩いてぜい肉落とした方がいいんじゃない?」
リョウの言葉に乗せられて虹夏は立ち上がる
虹夏「よしっ!練習するぞっ!」
ぼっち「え…まだ食べて… 」
その日の練習は充実したものだった
と言っても、虹夏はドラムを叩き壊す勢いで他の音をかき消してしまうほどだったのだが
それでも、いつもより長い時間練習することができて喜多ちゃんのギターも大分上達した
練習が終わった後もぼっちにギターを教わった
まだ始めて半年の喜多ちゃんには覚えることがいっぱいでパンクしそうになる
しかしぼっちを独り占めして2人きりで練習する時間が何よりも楽しいひとときなのだと喜多ちゃんは感じていた
11: 2023/03/03(金) 16:40:30.866 ID:xtcNtVAH00303
楽しい時間はいつまでも続いてほしいと願うが思うほど早く過ぎ去ってしまうものだ
喜多ちゃんは結束バンドで過ごした今年の出来事を思い返していた
結束バンドで初めて遊びに出かけた江ノ島
ひとりちゃんはともかく先輩達まで途中でダウンしたのは驚きだった
台風ライブ
初めてで緊張する私を救ってくれたのはひとりちゃんだった
学園祭ライブ
トラブルをみんなで乗り越えた
私が初めて結束バンドの、ひとりちゃんの役に立てた気がする
でもまだまだひとりちゃんには届かない
すぐ隣で私を支えてくれるひとりちゃんの懸命に演奏する姿
あの真剣な横顔は一生目に焼きついて離れないだろう
その時からなのかもしれない
私がひとりちゃんに思いを寄せるようになったのは
喜多ちゃんは結束バンドで過ごした今年の出来事を思い返していた
結束バンドで初めて遊びに出かけた江ノ島
ひとりちゃんはともかく先輩達まで途中でダウンしたのは驚きだった
台風ライブ
初めてで緊張する私を救ってくれたのはひとりちゃんだった
学園祭ライブ
トラブルをみんなで乗り越えた
私が初めて結束バンドの、ひとりちゃんの役に立てた気がする
でもまだまだひとりちゃんには届かない
すぐ隣で私を支えてくれるひとりちゃんの懸命に演奏する姿
あの真剣な横顔は一生目に焼きついて離れないだろう
その時からなのかもしれない
私がひとりちゃんに思いを寄せるようになったのは
12: 2023/03/03(金) 16:41:17.898 ID:xtcNtVAH00303
ある日の休日
ぼっちは喜多ちゃんに誘われて遊園地へ遊びに行く約束をしていた
待ち合わせの時間より1時間早く着いたぼっち 対して喜多ちゃんからは遅れる旨のロインが届いた
喜多「遅れてごめんなさい!」
ぼっち「だ、大丈夫ですよっ! それに15分くらいは誤差ですよ」
喜多「お弁当作ろうと夜更かししちゃって… 」シュン
ぼっち「私なんかのために嬉しいです…顔上げてください… 」
2人はバスに乗って遊園地へ向かった 休日ということもあって遊園地は大分混雑していた
喜多「すごい人混みねぇ!」
ぼっち「あぁ… 」ドロォ
喜多「ちょっとひとりちゃん!? 溶けないでぇ!?」
取り乱しつつもぼっちに肩を貸してジェットコースターの乗り場まで連れていった
喜多「順番きたわよ、起きて〜」チョンチョン
ぼっち「……はっ!」
気がついた時にはジェットコースターはぐんぐん上昇していた
喜多「ひとりちゃん、もうすぐよ!」
ぼっち「あ…ああぁぁぁぁぁぁ!?」
喜多「きゃぁぁぁぁぁぁ!!(ふふっ…ひとりちゃん楽しそう) 」
ぼっちは喜多ちゃんに誘われて遊園地へ遊びに行く約束をしていた
待ち合わせの時間より1時間早く着いたぼっち 対して喜多ちゃんからは遅れる旨のロインが届いた
喜多「遅れてごめんなさい!」
ぼっち「だ、大丈夫ですよっ! それに15分くらいは誤差ですよ」
喜多「お弁当作ろうと夜更かししちゃって… 」シュン
ぼっち「私なんかのために嬉しいです…顔上げてください… 」
2人はバスに乗って遊園地へ向かった 休日ということもあって遊園地は大分混雑していた
喜多「すごい人混みねぇ!」
ぼっち「あぁ… 」ドロォ
喜多「ちょっとひとりちゃん!? 溶けないでぇ!?」
取り乱しつつもぼっちに肩を貸してジェットコースターの乗り場まで連れていった
喜多「順番きたわよ、起きて〜」チョンチョン
ぼっち「……はっ!」
気がついた時にはジェットコースターはぐんぐん上昇していた
喜多「ひとりちゃん、もうすぐよ!」
ぼっち「あ…ああぁぁぁぁぁぁ!?」
喜多「きゃぁぁぁぁぁぁ!!(ふふっ…ひとりちゃん楽しそう) 」
13: 2023/03/03(金) 16:42:07.002 ID:xtcNtVAH00303
今までにない絶叫を上げるぼっちを見て楽しんでいると勘違いした喜多ちゃんは次から次へと絶叫マシンに誘っていった
ぼっち「あ、あの…もう…限界です」ハァハァ
喜多ちゃんは慌てて、休憩しましょうと言ってベンチで休むことにした
喜多「ごめんなさい気がつかなくて…これ飲んで」
喜多ちゃんはぼっちに売店で買ってきた飲み物を渡すと隣に腰かけた
ぼっち「ありがとうございます… 」
喜多「ほんとごめんなさい!今日の私ダメダメね… 」
ぼっち「いえ、その…楽しかったですよ」
喜多「ほんとに?」
ぼっち「はい、喜多ちゃんと一緒なら」
ぼっちの真っ直ぐな眼差しと言葉に喜多ちゃんは顔を真っ赤にして外方を向いた
ぼっち「え、どうしました!? なんかすみません… 」
喜多「違うのっ…でもずるいわひとりちゃん」
ぼっち「ずる???」
何がずるいのか分からずあたふたするぼっちを見て喜多ちゃんはクスクスと笑った
それからは木陰で2人肩を並べて喜多ちゃんが作ったお弁当を食べた
ぼっちの好物である唐揚げが敷き詰められたお弁当
がっつくぼっちを喜多ちゃんは幸せそうな表情で見守った
ぼっち「あ、あの…もう…限界です」ハァハァ
喜多ちゃんは慌てて、休憩しましょうと言ってベンチで休むことにした
喜多「ごめんなさい気がつかなくて…これ飲んで」
喜多ちゃんはぼっちに売店で買ってきた飲み物を渡すと隣に腰かけた
ぼっち「ありがとうございます… 」
喜多「ほんとごめんなさい!今日の私ダメダメね… 」
ぼっち「いえ、その…楽しかったですよ」
喜多「ほんとに?」
ぼっち「はい、喜多ちゃんと一緒なら」
ぼっちの真っ直ぐな眼差しと言葉に喜多ちゃんは顔を真っ赤にして外方を向いた
ぼっち「え、どうしました!? なんかすみません… 」
喜多「違うのっ…でもずるいわひとりちゃん」
ぼっち「ずる???」
何がずるいのか分からずあたふたするぼっちを見て喜多ちゃんはクスクスと笑った
それからは木陰で2人肩を並べて喜多ちゃんが作ったお弁当を食べた
ぼっちの好物である唐揚げが敷き詰められたお弁当
がっつくぼっちを喜多ちゃんは幸せそうな表情で見守った
14: 2023/03/03(金) 16:42:58.560 ID:xtcNtVAH00303
午後からは絶叫マシンではなくメリーゴーランドやコーヒーカップなど緩めのアトラクションを満喫した
陽が西に沈み始め、空を茜色に染め上げた頃、最後にと、喜多ちゃんは観覧車にぼっちを誘った
喜多ちゃんとぼっちは観覧車のゴンドラに向かい合って座る ゆっくりとゴンドラが上昇する
ぼっちは静かに窓の外を眺めていた
喜多ちゃんはその顔を、ぼっちが今何を思っているのか考えながら見つめていた
喜多「ひとりちゃん、ドバイ・アイって知ってる?」
ぼっちは喜多ちゃんの方に顔を向けて首を振る
喜多「世界最大の観覧車なんですって 高さ250mで一周するのに40分もかかるのよ」
喜多「定員も40人で、貸切で結婚式とかパーティなんかもできるらしいの」
喜多「…ライブなんかもできちゃったりするのかな」
黙って聞いていたぼっちは微笑んで言った
ぼっち「観覧車でライブ…楽しそうですね」
喜多ちゃんはぼっちに本気とも冗談とも知れない言葉を返した
喜多「いつか、やってみない?」
ぼっち「はいっ やりたいです観覧車でライブ」
ゴンドラが頂上に達し、窓からは赤く染まった夕陽が差し込んでぼっちの笑顔をまぶしく輝かせていた
その幻想的な光景に喜多ちゃんは思わず涙を流した
───ひとりちゃんなら、ひとりちゃんとなら、
どこまでも行けそうな気がする
確信に近い思いが喜多ちゃんの中にはあった
陽が西に沈み始め、空を茜色に染め上げた頃、最後にと、喜多ちゃんは観覧車にぼっちを誘った
喜多ちゃんとぼっちは観覧車のゴンドラに向かい合って座る ゆっくりとゴンドラが上昇する
ぼっちは静かに窓の外を眺めていた
喜多ちゃんはその顔を、ぼっちが今何を思っているのか考えながら見つめていた
喜多「ひとりちゃん、ドバイ・アイって知ってる?」
ぼっちは喜多ちゃんの方に顔を向けて首を振る
喜多「世界最大の観覧車なんですって 高さ250mで一周するのに40分もかかるのよ」
喜多「定員も40人で、貸切で結婚式とかパーティなんかもできるらしいの」
喜多「…ライブなんかもできちゃったりするのかな」
黙って聞いていたぼっちは微笑んで言った
ぼっち「観覧車でライブ…楽しそうですね」
喜多ちゃんはぼっちに本気とも冗談とも知れない言葉を返した
喜多「いつか、やってみない?」
ぼっち「はいっ やりたいです観覧車でライブ」
ゴンドラが頂上に達し、窓からは赤く染まった夕陽が差し込んでぼっちの笑顔をまぶしく輝かせていた
その幻想的な光景に喜多ちゃんは思わず涙を流した
───ひとりちゃんなら、ひとりちゃんとなら、
どこまでも行けそうな気がする
確信に近い思いが喜多ちゃんの中にはあった
15: 2023/03/03(金) 16:43:53.275 ID:xtcNtVAH00303
2人はゴンドラが降りるまで窓に顔をくっつけるように外の景色を眺めながら他愛もない会話を交わした
観覧車を降りると、喜多ちゃんは楽しかったね───と言ってぼっちの手を握った
初めは照れくさそうにしていたぼっちも喜多ちゃんの手を握り返し2人は遊園地を後にした
バスを降りてからぼっちと喜多ちゃんは手を繋ぎながらしばらく歩いた
ぼっちは喜多ちゃんの手のぬくもりを感じながら今日のことを思い返していた
楽しかった───本当に楽しかった
──そうだ、今日のこともちゃんと日記に書かないと
そんなことを考えていると妙な耳障りを感じ次の瞬間には意識が途切れた
━━ ・・・・
・・・・ ━━
ぼっちの目の前には涙を流した喜多ちゃんの顔があった
何かあったのか? ぼっちは例の症状がまた現れたのだとわかった
ぼっちに顔を近づけて泣いている喜多ちゃん
自分が何かしてしまったのだろうか
傷つけるようなことでも言ったのか
ぼっちは不安になる
ぼっち「き、喜多ちゃん… 」
喜多ちゃんは涙を拭うと微笑んで言った
喜多「何でもないの 何でも」
ぼっち「で、でも… 」
喜多「心配ないわ ひとりちゃんは私を傷つけるようなことはしてないから」
その言葉にぼっちは安堵したが意識のない間自分が何をしたのか気になって仕方がなかった
ぼっちは喜多ちゃんに直接聞いてみようとも考えたが結局言い出せずにその日はそこで別れた
観覧車を降りると、喜多ちゃんは楽しかったね───と言ってぼっちの手を握った
初めは照れくさそうにしていたぼっちも喜多ちゃんの手を握り返し2人は遊園地を後にした
バスを降りてからぼっちと喜多ちゃんは手を繋ぎながらしばらく歩いた
ぼっちは喜多ちゃんの手のぬくもりを感じながら今日のことを思い返していた
楽しかった───本当に楽しかった
──そうだ、今日のこともちゃんと日記に書かないと
そんなことを考えていると妙な耳障りを感じ次の瞬間には意識が途切れた
━━ ・・・・
・・・・ ━━
ぼっちの目の前には涙を流した喜多ちゃんの顔があった
何かあったのか? ぼっちは例の症状がまた現れたのだとわかった
ぼっちに顔を近づけて泣いている喜多ちゃん
自分が何かしてしまったのだろうか
傷つけるようなことでも言ったのか
ぼっちは不安になる
ぼっち「き、喜多ちゃん… 」
喜多ちゃんは涙を拭うと微笑んで言った
喜多「何でもないの 何でも」
ぼっち「で、でも… 」
喜多「心配ないわ ひとりちゃんは私を傷つけるようなことはしてないから」
その言葉にぼっちは安堵したが意識のない間自分が何をしたのか気になって仕方がなかった
ぼっちは喜多ちゃんに直接聞いてみようとも考えたが結局言い出せずにその日はそこで別れた
16: 2023/03/03(金) 16:45:15.381 ID:xtcNtVAH00303
ぼっちは遊園地へ行った帰りの出来事から喜多ちゃんとの関係が壊れてしまうのではないかと心配していたが普段通り接してくれる喜多ちゃんを見てそれが思い過ごしであるとわかった
それからは、ぼっちはその時のことを忘れていつも通り喜多ちゃんと接することにした
2人きりでギターを弾く放課後も喜多ちゃんの柔和な笑顔もぼっちにとって暖かい日常だった
秋が終わり肌寒さを感じる季節 学校もない休日 ぼっちはスターリーへと足を踏み入れた
途端に意識が途切れた
━━ ・・・・
・・・・ ━━
入口でしばらく立ち止まったままのぼっちを皆は不思議そうな目で見ていた
ぼっち「す、すみません…私、なにか言いませんでした?」
虹夏「いや、ただボーッと突っ立ってこっち見てただけだよ」
喜多「ひとりちゃん、なにかあったの?」
ぼっちは頭を振って答えた
ぼっち「い、いえ なんでもないです」
リョウ「とりあえずぼっちも座れば?」
リョウに促されてぼっちはイスに座る
───まただ
ぼっちは医者の言いつけ通り、毎日日記を付けていたが症状が改善される様子はない
特に酷くなっているわけでもないが 突然意識が途絶えるのは不安でしかない
その不安に促されるようにぼっちはその場で日記を付け始めた
虹夏「ぼっちちゃん、何書いてるのー?」
ぼっち「に、日記です」
それからは、ぼっちはその時のことを忘れていつも通り喜多ちゃんと接することにした
2人きりでギターを弾く放課後も喜多ちゃんの柔和な笑顔もぼっちにとって暖かい日常だった
秋が終わり肌寒さを感じる季節 学校もない休日 ぼっちはスターリーへと足を踏み入れた
途端に意識が途切れた
━━ ・・・・
・・・・ ━━
入口でしばらく立ち止まったままのぼっちを皆は不思議そうな目で見ていた
ぼっち「す、すみません…私、なにか言いませんでした?」
虹夏「いや、ただボーッと突っ立ってこっち見てただけだよ」
喜多「ひとりちゃん、なにかあったの?」
ぼっちは頭を振って答えた
ぼっち「い、いえ なんでもないです」
リョウ「とりあえずぼっちも座れば?」
リョウに促されてぼっちはイスに座る
───まただ
ぼっちは医者の言いつけ通り、毎日日記を付けていたが症状が改善される様子はない
特に酷くなっているわけでもないが 突然意識が途絶えるのは不安でしかない
その不安に促されるようにぼっちはその場で日記を付け始めた
虹夏「ぼっちちゃん、何書いてるのー?」
ぼっち「に、日記です」
17: 2023/03/03(金) 16:46:25.052 ID:xtcNtVAH00303
虹夏「珍しいねぇ」
ぼっち「そ、そうですかね?」
喜多「でも、なんで今書いてるの?」
ぼっち「えぇと、なんとなく、今書かなきゃいけないような気がして」
虹夏「変なの〜」
ぼっちは先ほどスターリーの扉を開けたところで記憶が途切れたことを書き記すと筆を置いて ジュースを一口飲んだ
虹夏「それにしても今日は冷えるねー」
喜多「ほんとですね〜」
リョウ「もう帰っていい?」
虹夏「ダメっ!」
ぼっち「練習っ、しませんか?」
ぼっちの言葉に皆が驚いた表情を見せた
虹夏「ぼっちちゃん、ほんとに何かあったの?」
リョウ「ぼっちから練習しようだなんて、珍しい」
喜多「もしかして変なものでも食べちゃったとか?」
虹夏「まあでも、練習はしなきゃいけないし」
喜多「そうですねっ やりましょう!」
全員が立ち上がり練習を始めようとしたところで廣井きくりを担いだ星歌が扉を開けて入ってきた
きくり「ちょりーっす!!!」ヘラヘラ
ぼっち「そ、そうですかね?」
喜多「でも、なんで今書いてるの?」
ぼっち「えぇと、なんとなく、今書かなきゃいけないような気がして」
虹夏「変なの〜」
ぼっちは先ほどスターリーの扉を開けたところで記憶が途切れたことを書き記すと筆を置いて ジュースを一口飲んだ
虹夏「それにしても今日は冷えるねー」
喜多「ほんとですね〜」
リョウ「もう帰っていい?」
虹夏「ダメっ!」
ぼっち「練習っ、しませんか?」
ぼっちの言葉に皆が驚いた表情を見せた
虹夏「ぼっちちゃん、ほんとに何かあったの?」
リョウ「ぼっちから練習しようだなんて、珍しい」
喜多「もしかして変なものでも食べちゃったとか?」
虹夏「まあでも、練習はしなきゃいけないし」
喜多「そうですねっ やりましょう!」
全員が立ち上がり練習を始めようとしたところで廣井きくりを担いだ星歌が扉を開けて入ってきた
きくり「ちょりーっす!!!」ヘラヘラ
18: 2023/03/03(金) 16:47:39.429 ID:xtcNtVAH00303
間の悪さにため息を吐いて虹夏は言った
虹夏「これからって時に… 」
星歌「すまん、店前でぶっ倒れてたから仕方なくな」
きくり「ごめん〜飲みすぎちゃって…あと先輩、焼酎ロックで!」
星歌「やるかバカ」
虹夏「も〜、はいお水」
きくり「妹ちゃんは優しいね…うぅ… 」
虹夏「あーもう泣かないでください」
喜多「そうだ、せっかくだから2人に私たちの演奏見てもらいませんか?」
きくり「うん、見る見る〜」
星歌「あぁ、いいぞ」
足早に準備した4人は目配せをする
虹夏は頷いてスティックを打ち鳴らす
虹夏「ワンツースリー!」
━━ ・・・・
・・・・ ━━
演奏を終えた後、ぼっちは自分が息を切らしていることに気づいた
先ほどの演奏の記憶が抜け落ちていることは理解できていた
しかし、記憶が途切れたことによる不安よりも自分の中にある達成感に喜びを感じていた
素晴らしく気分がいい
ライブを終えた後のような感動が胸を震わせていた
みんなの顔を見る
一様に驚いた表情をぼっちに向けていた
リョウ「ぼっち…すごく…良い」
喜多「ひとりちゃんっすごいわ! 私、感動しちゃった!」
虹夏「ギ、ギターヒーローさんだ… 」ボソッ
ぼっちは2人の観客に視線を移す
きくりは酔いが覚めた表情で唖然としていた
星歌は何かを言いたそうに口をぱくぱくとしているが上手く声にならない様子だった
星歌は声を出せない歯がゆさから目に涙を浮かべると何も言わずに、大きく頷いた 何度も何度も
虹夏「泣くほど良い演奏だったってことだね」
虹夏がからかうように言うと星歌も悔しかったのか 泣いてないし!と捨てセリフを吐いてどこかに行ってしまった
虹夏「これからって時に… 」
星歌「すまん、店前でぶっ倒れてたから仕方なくな」
きくり「ごめん〜飲みすぎちゃって…あと先輩、焼酎ロックで!」
星歌「やるかバカ」
虹夏「も〜、はいお水」
きくり「妹ちゃんは優しいね…うぅ… 」
虹夏「あーもう泣かないでください」
喜多「そうだ、せっかくだから2人に私たちの演奏見てもらいませんか?」
きくり「うん、見る見る〜」
星歌「あぁ、いいぞ」
足早に準備した4人は目配せをする
虹夏は頷いてスティックを打ち鳴らす
虹夏「ワンツースリー!」
━━ ・・・・
・・・・ ━━
演奏を終えた後、ぼっちは自分が息を切らしていることに気づいた
先ほどの演奏の記憶が抜け落ちていることは理解できていた
しかし、記憶が途切れたことによる不安よりも自分の中にある達成感に喜びを感じていた
素晴らしく気分がいい
ライブを終えた後のような感動が胸を震わせていた
みんなの顔を見る
一様に驚いた表情をぼっちに向けていた
リョウ「ぼっち…すごく…良い」
喜多「ひとりちゃんっすごいわ! 私、感動しちゃった!」
虹夏「ギ、ギターヒーローさんだ… 」ボソッ
ぼっちは2人の観客に視線を移す
きくりは酔いが覚めた表情で唖然としていた
星歌は何かを言いたそうに口をぱくぱくとしているが上手く声にならない様子だった
星歌は声を出せない歯がゆさから目に涙を浮かべると何も言わずに、大きく頷いた 何度も何度も
虹夏「泣くほど良い演奏だったってことだね」
虹夏がからかうように言うと星歌も悔しかったのか 泣いてないし!と捨てセリフを吐いてどこかに行ってしまった
19: 2023/03/03(金) 16:49:08.207 ID:xtcNtVAH00303
その後は練習にならなかった
誰もが、演奏の余韻に浸っていたかったのだろう
イスに座って物思いにふけるように繰り返し繰り返し先ほどの演奏を頭の中で再生していた
ぼっちはただ、高鳴る胸の鼓動に耳を傾けて筆舌に尽くし難い感動を噛み締めていた
ぼっちが壁かけ時計に目をやるとあれから随分時間が経っていたことがわかった
虹夏もぼっちの視線を追って時計を見やる
虹夏「そろそろ、帰ろっか」
皆は熱に浮かされたようにボーッとしていたがそろそろと立ち上がり帰り支度を始めた
喜多「帰りにアイス食べていきませんか?」
リョウ「うん、そうしよう」
虹夏「私も行くー!ぼっちちゃんも来るでしょー?」
ぼっち「は、はい」
4人はそろって喜多ちゃん行きつけの店でアイスを食べた
決して特別なことではなかった
月に何度かは4人そろって、同じようにアイスを食べに来ることがあった 普通のことだった 日常の風景だった
変わらぬ日常の───
そこからの帰り道
誰もが、演奏の余韻に浸っていたかったのだろう
イスに座って物思いにふけるように繰り返し繰り返し先ほどの演奏を頭の中で再生していた
ぼっちはただ、高鳴る胸の鼓動に耳を傾けて筆舌に尽くし難い感動を噛み締めていた
ぼっちが壁かけ時計に目をやるとあれから随分時間が経っていたことがわかった
虹夏もぼっちの視線を追って時計を見やる
虹夏「そろそろ、帰ろっか」
皆は熱に浮かされたようにボーッとしていたがそろそろと立ち上がり帰り支度を始めた
喜多「帰りにアイス食べていきませんか?」
リョウ「うん、そうしよう」
虹夏「私も行くー!ぼっちちゃんも来るでしょー?」
ぼっち「は、はい」
4人はそろって喜多ちゃん行きつけの店でアイスを食べた
決して特別なことではなかった
月に何度かは4人そろって、同じようにアイスを食べに来ることがあった 普通のことだった 日常の風景だった
変わらぬ日常の───
そこからの帰り道
20: 2023/03/03(金) 16:50:47.750 ID:xtcNtVAH00303
喜多ちゃんは買い物があると言って商店街の方へ向かうために横断歩道を渡る
喜多ちゃんが皆に向かって手を振っている
ぼっちも手を振り返す
喜多ちゃんが笑う
ぼっちも笑い返した
歩行者用の青信号が点滅を始めた
突然、けたたましいクラクションの音が鳴り響いた
━━ ・・・・
・・・・ ━━
鮮血がアスファルトを赤く染め上げていた
その上に横たわっているものが何なのか 誰の目にも明らかだった
────氏体
腕はひしゃげ
筋肉と白い骨がむき出し
脚は皮膚がめくれ上がって
ボロきれのように垂れ下がり
腹部は裂け
大小の臓器がはみ出し
首はあらぬ方へ向き
けい骨が皮膚を突き破っていた
辺りには黄色い脂肪とピンク色の肉片が吐しゃ物のように撒き散らかっている
あれは何だ?
あれは人間なのか?
氏体だ
氏体だ
氏んでいる 人間だ
そういえば先ほどから喜多ちゃんの姿が見えないとぼっちは辺りを見回す
さっきまで一緒にいたはずだった
───喜多ちゃん、どこに行ったんだろう?
────あぁ…帰ったんだっけ?
喜多ちゃんが皆に向かって手を振っている
ぼっちも手を振り返す
喜多ちゃんが笑う
ぼっちも笑い返した
歩行者用の青信号が点滅を始めた
突然、けたたましいクラクションの音が鳴り響いた
━━ ・・・・
・・・・ ━━
鮮血がアスファルトを赤く染め上げていた
その上に横たわっているものが何なのか 誰の目にも明らかだった
────氏体
腕はひしゃげ
筋肉と白い骨がむき出し
脚は皮膚がめくれ上がって
ボロきれのように垂れ下がり
腹部は裂け
大小の臓器がはみ出し
首はあらぬ方へ向き
けい骨が皮膚を突き破っていた
辺りには黄色い脂肪とピンク色の肉片が吐しゃ物のように撒き散らかっている
あれは何だ?
あれは人間なのか?
氏体だ
氏体だ
氏んでいる 人間だ
そういえば先ほどから喜多ちゃんの姿が見えないとぼっちは辺りを見回す
さっきまで一緒にいたはずだった
───喜多ちゃん、どこに行ったんだろう?
────あぁ…帰ったんだっけ?
21: 2023/03/03(金) 16:52:51.528 ID:xtcNtVAH00303
ぼっちはリョウを見る
リョウはスマートフォンに向かって何かを必氏に伝えようとしている
────リョウさん、何かあったんですか?
ぼっちは声をかけたつもりだったが奥歯を強く噛み締めていて口を開くことすらできなかった
虹夏を見る
泣いていた
泣きながら何かを叫んでいる
・・・・・き・・!
───聞こえない
き・・・ちゃん!
───いやだっ聞きたくない!
喜多ちゃん!
───違うっ!違う違う違うっ!
虹夏「きたちゃんっ!喜多ちゃんっ!!!!!!」
ぼっちは道路に転がる氏体に目を移す
ぼっち「違うよ…違うよ 何言ってるの?あれは… 」
氏体に焦点を合わせようとするが一向に視界はぼやけたままだった
それが涙だと気づけずにいるぼっちだったが袖で目を擦ると、一瞬ではあったがはっきりと見て取ることが出来た
喜多ちゃんの顔───赤く染まった顔を
艶やかな髪───どす黒い粘液に塗れた髪を
ビー玉みたいに澄んだ瞳───白く濁った瞳を
透き通るような肌───擦り切れて奥歯がむき出しになった頬を
ぼっちは一歩、また一歩と、震える脚を引きずるようにして 氏体に───喜多ちゃんに近づいていく
ぼっちは血だまりに膝をつき喜多ちゃんを抱いた
生暖かな液体がぼっちの脚を、腕を、胸を、顔を濡らしていた
涙がとめどなくこぼれ落ちる
声を上げようとするが嗚咽が漏れるだけだった
叫びたかった
胸の奥から湧き上がる絶望を吐き出したい
ここで呑み込んでしまったら
きっと心が壊れてしまう
だから────今
ぼっちは大きく息を吸った
ぼっち「いやぁぁぁぁぁあああああああああああああああぁぁぁっ!!!」
リョウはスマートフォンに向かって何かを必氏に伝えようとしている
────リョウさん、何かあったんですか?
ぼっちは声をかけたつもりだったが奥歯を強く噛み締めていて口を開くことすらできなかった
虹夏を見る
泣いていた
泣きながら何かを叫んでいる
・・・・・き・・!
───聞こえない
き・・・ちゃん!
───いやだっ聞きたくない!
喜多ちゃん!
───違うっ!違う違う違うっ!
虹夏「きたちゃんっ!喜多ちゃんっ!!!!!!」
ぼっちは道路に転がる氏体に目を移す
ぼっち「違うよ…違うよ 何言ってるの?あれは… 」
氏体に焦点を合わせようとするが一向に視界はぼやけたままだった
それが涙だと気づけずにいるぼっちだったが袖で目を擦ると、一瞬ではあったがはっきりと見て取ることが出来た
喜多ちゃんの顔───赤く染まった顔を
艶やかな髪───どす黒い粘液に塗れた髪を
ビー玉みたいに澄んだ瞳───白く濁った瞳を
透き通るような肌───擦り切れて奥歯がむき出しになった頬を
ぼっちは一歩、また一歩と、震える脚を引きずるようにして 氏体に───喜多ちゃんに近づいていく
ぼっちは血だまりに膝をつき喜多ちゃんを抱いた
生暖かな液体がぼっちの脚を、腕を、胸を、顔を濡らしていた
涙がとめどなくこぼれ落ちる
声を上げようとするが嗚咽が漏れるだけだった
叫びたかった
胸の奥から湧き上がる絶望を吐き出したい
ここで呑み込んでしまったら
きっと心が壊れてしまう
だから────今
ぼっちは大きく息を吸った
ぼっち「いやぁぁぁぁぁあああああああああああああああぁぁぁっ!!!」
22: 2023/03/03(金) 16:53:44.713 ID:xtcNtVAH00303
叫んだ、何度も何度も何度も
喜多ちゃんの名前を呼んだ
助けて!───と無駄な言葉も吐いた
何でもよかった
とにかく叫んだ
喉が枯れるまで
声が出なくなるまで
意識が、途絶えるまで
目を覚ましたとき、ぼっちは病院のベッドの上にいた
何も考えることができなかった
両親とふたりが見舞いに来たときも
星歌が見舞いに来たときも
一様に悲しそうな表情を向けてくるが
何も感じなかったし、相手の言葉も聞こえなかった
ただ日記だけは自然と付けていた
あの日のことも書いた
涙を流しながら
それでも悲しいという感情は抱かなかった
何も考えていなくても涙は自然とあふれた
喜多ちゃんの名前を呼んだ
助けて!───と無駄な言葉も吐いた
何でもよかった
とにかく叫んだ
喉が枯れるまで
声が出なくなるまで
意識が、途絶えるまで
目を覚ましたとき、ぼっちは病院のベッドの上にいた
何も考えることができなかった
両親とふたりが見舞いに来たときも
星歌が見舞いに来たときも
一様に悲しそうな表情を向けてくるが
何も感じなかったし、相手の言葉も聞こえなかった
ただ日記だけは自然と付けていた
あの日のことも書いた
涙を流しながら
それでも悲しいという感情は抱かなかった
何も考えていなくても涙は自然とあふれた
23: 2023/03/03(金) 16:54:46.659 ID:xtcNtVAH00303
それからのぼっちは塞ぎこむような毎日を送っていた
空虚な日々を、霞みがかった日常を、ただ漠然と流されるように
退院後は学校へ毎日通っているものの授業中に突然泣き出したり取り乱すことが頻繁にあった
心配した学校側はスクールカウンセラーを招致して事故現場に居合わせた結束バンド一同の心のケアに尽力した
下北沢高校でも同様の処置がとられていたが、虹夏とリョウがどうなっているのかぼっちには気にとめることはなかった
後から聞いた話によるとリョウは長い間欠席していたらしい
虹夏は毎日登校していたがぼっちと同じように塞ぎ込んでいた
それぞれ、何を思い、どれほど苦しんでいるのか
今のぼっちには関係のないことだった
年が明け春になってもスターリーに結束バンドのメンバーがそろうことはなかった
それでも、ぼっちは次第に心を取り戻し
少しずつではあるが喜多ちゃんの氏に向き合えるようになってきた
虹夏は冬の間保健室登校を続けて
そこで1人授業で出された課題などをこなしていた
テストも別室で受けて学力的には問題が無いため進級することができた
リョウもぼっちと同じように順調に心の傷は癒えていった
むしろリョウの方が快復は早かったかもしれない
春には今まで通り元気に学校へ通っているし、虹夏とも自然に会話を交わすようになってきた
空虚な日々を、霞みがかった日常を、ただ漠然と流されるように
退院後は学校へ毎日通っているものの授業中に突然泣き出したり取り乱すことが頻繁にあった
心配した学校側はスクールカウンセラーを招致して事故現場に居合わせた結束バンド一同の心のケアに尽力した
下北沢高校でも同様の処置がとられていたが、虹夏とリョウがどうなっているのかぼっちには気にとめることはなかった
後から聞いた話によるとリョウは長い間欠席していたらしい
虹夏は毎日登校していたがぼっちと同じように塞ぎ込んでいた
それぞれ、何を思い、どれほど苦しんでいるのか
今のぼっちには関係のないことだった
年が明け春になってもスターリーに結束バンドのメンバーがそろうことはなかった
それでも、ぼっちは次第に心を取り戻し
少しずつではあるが喜多ちゃんの氏に向き合えるようになってきた
虹夏は冬の間保健室登校を続けて
そこで1人授業で出された課題などをこなしていた
テストも別室で受けて学力的には問題が無いため進級することができた
リョウもぼっちと同じように順調に心の傷は癒えていった
むしろリョウの方が快復は早かったかもしれない
春には今まで通り元気に学校へ通っているし、虹夏とも自然に会話を交わすようになってきた
24: 2023/03/03(金) 16:55:35.743 ID:xtcNtVAH00303
星歌やPAさん、きくりも不安を隠しきれずにいたが
時間が解決してくれると信じて皆の様子を暖かく見守っていた
夏を迎える頃には結束バンドのメンバーに笑顔が戻ってきていた
スマホを通して互いに言葉を交わし
笑い合い、時に喧嘩をすることもあった
心の傷は深刻だったが
誰もがこのままではいけないと思い始めたのだろう
虹夏とリョウは進路も決まり、それぞれがそれぞれの道へ進む決意をしていた
虹夏は芳大へ進むために日々受験勉強に勤しんでいる
リョウは推薦で音大への進学を希望していた
推薦状を書いてもらうにあたり出席日数を心配していたが事故後の欠席は公欠扱いとなり晴れて推薦状を書いてもらえる運びとなった
ぼっちはまだ2年生であったが虹夏と同じく芳大へ進学するために早めの受験勉強を始めた
誰もが大人になろうとしていた
しかし、誰もが何かを置き去りにしようとしていることに薄々勘づいてはいたのだった
これでいいのか?
このままでいいのか?
その葛藤が常に彼女たちの頭の中で渦巻いていた
時間が解決してくれると信じて皆の様子を暖かく見守っていた
夏を迎える頃には結束バンドのメンバーに笑顔が戻ってきていた
スマホを通して互いに言葉を交わし
笑い合い、時に喧嘩をすることもあった
心の傷は深刻だったが
誰もがこのままではいけないと思い始めたのだろう
虹夏とリョウは進路も決まり、それぞれがそれぞれの道へ進む決意をしていた
虹夏は芳大へ進むために日々受験勉強に勤しんでいる
リョウは推薦で音大への進学を希望していた
推薦状を書いてもらうにあたり出席日数を心配していたが事故後の欠席は公欠扱いとなり晴れて推薦状を書いてもらえる運びとなった
ぼっちはまだ2年生であったが虹夏と同じく芳大へ進学するために早めの受験勉強を始めた
誰もが大人になろうとしていた
しかし、誰もが何かを置き去りにしようとしていることに薄々勘づいてはいたのだった
これでいいのか?
このままでいいのか?
その葛藤が常に彼女たちの頭の中で渦巻いていた
25: 2023/03/03(金) 16:56:34.270 ID:xtcNtVAH00303
夏休みに入ったばかりのある日のこと
星歌は、けじめをつけよう───と言って結束バンドのメンバーをスターリーへ集めた
拒否する者はいなかった
皆、同じ気持ちだった
同じ思いで今まで過ごしてきた
星歌「率直に言うぞ 結束バンド、どうするんだ?」
しばしの沈黙の後、虹夏が口を開いた
虹夏「私は、諦めきれない もちろん、皆の気持ちを優先するよ」
星歌「リョウはどうだ?」
リョウ「私は…申し訳ないけど… 」
星歌「わかった ぼっちちゃんは?」
ぼっち「わ、私は、私は───」
━━ ・・・・
・・・・ ━━
ぼっちは息を呑んだ
以前にもまして長い間意識が途絶えていたらしい
恐る恐るみんなの顔を見る
星歌は涙を浮かべて頷いていた
リョウは目を伏せて、ほんの少し笑みをこぼしていた
虹夏は嬉しそうな顔で机に身を乗り出していた
虹夏「ぼっちちゃんっ!リョウっ!」
2人は虹夏に目を向ける
虹夏「結束バンド───復活だねっ!」
星歌は、けじめをつけよう───と言って結束バンドのメンバーをスターリーへ集めた
拒否する者はいなかった
皆、同じ気持ちだった
同じ思いで今まで過ごしてきた
星歌「率直に言うぞ 結束バンド、どうするんだ?」
しばしの沈黙の後、虹夏が口を開いた
虹夏「私は、諦めきれない もちろん、皆の気持ちを優先するよ」
星歌「リョウはどうだ?」
リョウ「私は…申し訳ないけど… 」
星歌「わかった ぼっちちゃんは?」
ぼっち「わ、私は、私は───」
━━ ・・・・
・・・・ ━━
ぼっちは息を呑んだ
以前にもまして長い間意識が途絶えていたらしい
恐る恐るみんなの顔を見る
星歌は涙を浮かべて頷いていた
リョウは目を伏せて、ほんの少し笑みをこぼしていた
虹夏は嬉しそうな顔で机に身を乗り出していた
虹夏「ぼっちちゃんっ!リョウっ!」
2人は虹夏に目を向ける
虹夏「結束バンド───復活だねっ!」
26: 2023/03/03(金) 16:57:55.207 ID:xtcNtVAH00303
ぼっちは自分が何かを言ったらしいことは理解できた
そしてそれはきっと自分の望む言葉だったに違いない
結局何を言ったか聞き出すことはしなかったけれど結束バンドの復活に胸を踊らせていた
夏休み中は、バイトや受験勉強
最後のライブへ向けての練習のため
3人は毎日顔を合わせていた
最後のライブは秀華高校の文化祭に有志として出演することが決まった
あの幸せだった毎日を取り戻したように思えた
そんな中で時々喜多ちゃんのことを口にすることもあった
悲しみの表情を見せる者もいたが
文化祭ライブを成功させることが
弔いになるのだと皆は必氏に練習した
リョウは新しい曲を作り
ぼっちは喜多ちゃんへの結束バンド全員の気持ちを歌詞に込めた
ぼっちにしては珍しく、とても儚げで、それでいて希望に満ちた歌詞だった
ボーカルは3人全員で歌うことを決めた
文化祭当日
午後から行われた結束バンドのライブは観客の涙を誘った
最後の曲
喜多ちゃんに向けたその曲の前に
結束バンドの一人一人が喜多ちゃんへの思いを壇上で語った
ありきたりな言葉を繋ぎ合わせただけのつたないものだったが、有り余る思いが込められた言葉だった
そしてそれはきっと自分の望む言葉だったに違いない
結局何を言ったか聞き出すことはしなかったけれど結束バンドの復活に胸を踊らせていた
夏休み中は、バイトや受験勉強
最後のライブへ向けての練習のため
3人は毎日顔を合わせていた
最後のライブは秀華高校の文化祭に有志として出演することが決まった
あの幸せだった毎日を取り戻したように思えた
そんな中で時々喜多ちゃんのことを口にすることもあった
悲しみの表情を見せる者もいたが
文化祭ライブを成功させることが
弔いになるのだと皆は必氏に練習した
リョウは新しい曲を作り
ぼっちは喜多ちゃんへの結束バンド全員の気持ちを歌詞に込めた
ぼっちにしては珍しく、とても儚げで、それでいて希望に満ちた歌詞だった
ボーカルは3人全員で歌うことを決めた
文化祭当日
午後から行われた結束バンドのライブは観客の涙を誘った
最後の曲
喜多ちゃんに向けたその曲の前に
結束バンドの一人一人が喜多ちゃんへの思いを壇上で語った
ありきたりな言葉を繋ぎ合わせただけのつたないものだったが、有り余る思いが込められた言葉だった
27: 2023/03/03(金) 16:59:00.076 ID:xtcNtVAH00303
演奏が始まると皆は思い思いに楽器を奏でた
とても自由な演奏だったけれども決してバラバラではなかった
結束バンドの強い絆がその演奏には込められていた
ぼっちもリョウも虹夏も堪えきれない感情に声を震わせながら歌った
皆が涙を流していた
涙を流しながらも楽しそうに、嬉しそうに
喜多ちゃんと過ごした思い出を音に変え、響きに変え、声に変え、体育館にいる全員にその思いを伝えた
最高のライブだった
ライブを終えた後の皆は清々しい表情をしていた
もう、何も思い残すことはないとようやく区切りをつけることができた
皆はそれぞれの道へ向かう
推薦入試を受けたリョウは一足早く合格の報せを受けた
虹夏も合格発表まで不安な毎日を送っていたが無事合格することができた
ぼっちも成績不振だったがなんとか進級できるようだった
その後は合格祝いにと
結束バンドと星歌、PAさん、きくりが集まり ささやかなパーティーをスターリーで行った
PAさん「それにしても、2人はもう高校卒業ですか 時が経つのは早いですね… 」
星歌「ほんとだな…あの手のかかる虹夏がもう大学生だなんて… 」
虹夏「今じゃお姉ちゃんの方が手のかかる子どもみたいだけどね」
星歌「なんだと」
とても自由な演奏だったけれども決してバラバラではなかった
結束バンドの強い絆がその演奏には込められていた
ぼっちもリョウも虹夏も堪えきれない感情に声を震わせながら歌った
皆が涙を流していた
涙を流しながらも楽しそうに、嬉しそうに
喜多ちゃんと過ごした思い出を音に変え、響きに変え、声に変え、体育館にいる全員にその思いを伝えた
最高のライブだった
ライブを終えた後の皆は清々しい表情をしていた
もう、何も思い残すことはないとようやく区切りをつけることができた
皆はそれぞれの道へ向かう
推薦入試を受けたリョウは一足早く合格の報せを受けた
虹夏も合格発表まで不安な毎日を送っていたが無事合格することができた
ぼっちも成績不振だったがなんとか進級できるようだった
その後は合格祝いにと
結束バンドと星歌、PAさん、きくりが集まり ささやかなパーティーをスターリーで行った
PAさん「それにしても、2人はもう高校卒業ですか 時が経つのは早いですね… 」
星歌「ほんとだな…あの手のかかる虹夏がもう大学生だなんて… 」
虹夏「今じゃお姉ちゃんの方が手のかかる子どもみたいだけどね」
星歌「なんだと」
28: 2023/03/03(金) 16:59:43.314 ID:xtcNtVAH00303
きくり「おめでたいねぇ〜じゃあ3人共飲まなきゃっほらっ!」
星歌「おい未成年に酒をあおるなバカ」
きくり「いてっ…ぼっちちゃんも卒業だっけ?」
ぼっち「あ、はい… 」
虹夏「ちょっと、ぼっちちゃんはこれから3年生でしょ? 大丈夫かなぁ受験生 」
ぼっち「うぅ…辛い」
虹夏「勉強みてあげるからさ、合格目指して頑張ろう!」
PAさん「リョウさんは音大で何を勉強するんですか」
リョウ「作曲です」
PAさん「すごいじゃないですか」
虹夏「リョウちゃんと学校行けるのー?心配だなー」
リョウ「大丈夫 学校に近い虹夏の家に入り浸るから」
星歌「家賃払えよ」
リョウ「う… 」
スターリーに笑い声が響く
きくり「もうジュースでも何でもいいからさ、乾杯しようよぉ〜」
星歌「お前は酒飲みたいだけだろ」
虹夏「まぁまぁ、じゃあ私たちの合格と卒業を祝ってっ!」
───乾杯!
星歌「おい未成年に酒をあおるなバカ」
きくり「いてっ…ぼっちちゃんも卒業だっけ?」
ぼっち「あ、はい… 」
虹夏「ちょっと、ぼっちちゃんはこれから3年生でしょ? 大丈夫かなぁ受験生 」
ぼっち「うぅ…辛い」
虹夏「勉強みてあげるからさ、合格目指して頑張ろう!」
PAさん「リョウさんは音大で何を勉強するんですか」
リョウ「作曲です」
PAさん「すごいじゃないですか」
虹夏「リョウちゃんと学校行けるのー?心配だなー」
リョウ「大丈夫 学校に近い虹夏の家に入り浸るから」
星歌「家賃払えよ」
リョウ「う… 」
スターリーに笑い声が響く
きくり「もうジュースでも何でもいいからさ、乾杯しようよぉ〜」
星歌「お前は酒飲みたいだけだろ」
虹夏「まぁまぁ、じゃあ私たちの合格と卒業を祝ってっ!」
───乾杯!
29: 2023/03/03(金) 17:00:28.639 ID:xtcNtVAH00303
時は流れ1年後 ぼっちの卒業式
ぼっちはその時のことを今でも覚えている
思い返すと、ぼっちの記憶が途切れる症状が最後に現れたのもその時だった
卒業式が終わり星歌に招待されてスターリーに来ていた
虹夏やリョウもぼっちの大学合格と高校卒業を祝うためスターリーに集まった
ぼっちは歩きながらステージから1番遠いところまでくると足を止め耳を澄ました
───聞こえてますよ喜多ちゃん
───あの時の演奏が
───私の記憶にはないけれど、喜多ちゃんと最後に演奏したあの曲が
暖かい涙が頬を伝う
───なんて声をかけたらいいんだろう?
───さようなら
───ううん、行って来ます かな?
その時、ステージの上にぼっちは人影を見た
華奢で笑顔がまぶしい女の子
ぼっちが手を振ると、女の子もこちらに手を振り返してきた
ぼっちはその時のことを今でも覚えている
思い返すと、ぼっちの記憶が途切れる症状が最後に現れたのもその時だった
卒業式が終わり星歌に招待されてスターリーに来ていた
虹夏やリョウもぼっちの大学合格と高校卒業を祝うためスターリーに集まった
ぼっちは歩きながらステージから1番遠いところまでくると足を止め耳を澄ました
───聞こえてますよ喜多ちゃん
───あの時の演奏が
───私の記憶にはないけれど、喜多ちゃんと最後に演奏したあの曲が
暖かい涙が頬を伝う
───なんて声をかけたらいいんだろう?
───さようなら
───ううん、行って来ます かな?
その時、ステージの上にぼっちは人影を見た
華奢で笑顔がまぶしい女の子
ぼっちが手を振ると、女の子もこちらに手を振り返してきた
30: 2023/03/03(金) 17:01:29.034 ID:xtcNtVAH00303
女の子が笑ったような気がした
ぼっちも笑い返すと、女の子は消えてしまった
虹夏「おーい、ぼっちちゃーん!」
虹夏に呼ばれて振り返るとリョウが、星歌がそこにいた
リョウ「みんなで写真撮るんだって」
虹夏「行くよ、ぼっちちゃん!」
ぼっち「はい」
ぼっちが頷いた瞬間に意識が途切れた
━━ ・・・・
・・・・ ━━
リョウ「ぼっち、どうしたの?」
ぼっちを心配してリョウが顔を覗き込んでいた
ぼっち「な、なんでもないです 撮りましようか」
リョウ「うん」
虹夏がカメラを星歌に渡してスターリーのステージにリョウとぼっちと並んで立つ
星歌「お前らー 笑えよー」
星歌のかけ声に皆は最高の笑顔を見せた
それが高校生最後の写真だった
第1部完
ぼっちも笑い返すと、女の子は消えてしまった
虹夏「おーい、ぼっちちゃーん!」
虹夏に呼ばれて振り返るとリョウが、星歌がそこにいた
リョウ「みんなで写真撮るんだって」
虹夏「行くよ、ぼっちちゃん!」
ぼっち「はい」
ぼっちが頷いた瞬間に意識が途切れた
━━ ・・・・
・・・・ ━━
リョウ「ぼっち、どうしたの?」
ぼっちを心配してリョウが顔を覗き込んでいた
ぼっち「な、なんでもないです 撮りましようか」
リョウ「うん」
虹夏がカメラを星歌に渡してスターリーのステージにリョウとぼっちと並んで立つ
星歌「お前らー 笑えよー」
星歌のかけ声に皆は最高の笑顔を見せた
それが高校生最後の写真だった
第1部完
31: 2023/03/03(金) 17:02:46.390 ID:xtcNtVAH00303
第2部
卒業式の日を境にぼっちの記憶が途切れる症状はなくなった
あれから1年以上経った今では、
そのことも忘れてしまっていた
日記も、大学生活の忙しさからか、
症状の出ないことを安心してか
いつしか書くことはなくなり
卒業式までの日記だけを思い出としてダンボールの中にしまっていた
ぼっちは入学祝いに両親から贈られたギターを弾いていた
今までのように1つのことに熱中する性格は変わらないが
今ではギターだけではなく、大学の勉強もきちんと取り組むようになっていた
学部は虹夏と同じ商学部を選んだ
簿記2級取得を目指して日々参考書とにらめっこしている
そして進学に伴って伊地知家の空き部屋を間借りする形となった
理由は芳大から近いからだ
虹夏が提案し星歌も快諾してくれた
卒業式の日を境にぼっちの記憶が途切れる症状はなくなった
あれから1年以上経った今では、
そのことも忘れてしまっていた
日記も、大学生活の忙しさからか、
症状の出ないことを安心してか
いつしか書くことはなくなり
卒業式までの日記だけを思い出としてダンボールの中にしまっていた
ぼっちは入学祝いに両親から贈られたギターを弾いていた
今までのように1つのことに熱中する性格は変わらないが
今ではギターだけではなく、大学の勉強もきちんと取り組むようになっていた
学部は虹夏と同じ商学部を選んだ
簿記2級取得を目指して日々参考書とにらめっこしている
そして進学に伴って伊地知家の空き部屋を間借りする形となった
理由は芳大から近いからだ
虹夏が提案し星歌も快諾してくれた
32: 2023/03/03(金) 17:03:35.812 ID:xtcNtVAH00303
平日は学校とバイト、週末は虹夏と2人路上で演奏したりもする
ただ、エレクトリックギターでは電源の問題やアンプを運ぶのも困難だったため
ぼっちはアコースティックギターに切り替え
虹夏は簡易ドラムと結束バンドの頃とは違う演奏をしていた
初めのうちは、ぼっちは恥ずかしがって音を奏でるだけだったが
虹夏の説得もあって恐る恐る声を出して歌うようになった
足を止めて聞き入る人もいた
高校時代のファンが見に来てくれる日もあり演奏する楽しさと懐かしさを感じていた
また結束バンドの皆で演奏したい
そんな思いもぼっちの中にあったがリョウとは連絡がつかずにいた
───リョウさん、何してるんですかね
虹夏にリョウの様子を聞いたこともあったが
顔を曇らせているのに気づいて以降は話をすることをやめた
大学が夏休みに入っても簿記の勉強をするため空いた時間は自室にこもっていた
星歌「ぼっちちゃん、いるか?」
ぼっち「は、はい」
星歌「息抜きに散歩、しないか?」
勉強に取り憑かれているぼっちを心配したのだろうか
その日星歌はぼっちを誘って下北沢で長めの散歩をした
久しぶりに町を歩くと様変わりしていることに驚きを隠せなかった
高校時代に皆でいった楽器店やCDショップは別の店に変わっていた
諸行無常などという本人にもよくわからない言葉が頭に浮かぶ
変わっていくんだなぁとしみじみと感じた
ただ、エレクトリックギターでは電源の問題やアンプを運ぶのも困難だったため
ぼっちはアコースティックギターに切り替え
虹夏は簡易ドラムと結束バンドの頃とは違う演奏をしていた
初めのうちは、ぼっちは恥ずかしがって音を奏でるだけだったが
虹夏の説得もあって恐る恐る声を出して歌うようになった
足を止めて聞き入る人もいた
高校時代のファンが見に来てくれる日もあり演奏する楽しさと懐かしさを感じていた
また結束バンドの皆で演奏したい
そんな思いもぼっちの中にあったがリョウとは連絡がつかずにいた
───リョウさん、何してるんですかね
虹夏にリョウの様子を聞いたこともあったが
顔を曇らせているのに気づいて以降は話をすることをやめた
大学が夏休みに入っても簿記の勉強をするため空いた時間は自室にこもっていた
星歌「ぼっちちゃん、いるか?」
ぼっち「は、はい」
星歌「息抜きに散歩、しないか?」
勉強に取り憑かれているぼっちを心配したのだろうか
その日星歌はぼっちを誘って下北沢で長めの散歩をした
久しぶりに町を歩くと様変わりしていることに驚きを隠せなかった
高校時代に皆でいった楽器店やCDショップは別の店に変わっていた
諸行無常などという本人にもよくわからない言葉が頭に浮かぶ
変わっていくんだなぁとしみじみと感じた
33: 2023/03/03(金) 17:05:07.646 ID:xtcNtVAH00303
ぼっちにとって嬉しいこともあった
喜多ちゃんの行きつけだったアイス屋は今でも残っている
一瞬、あの時のことを思い出して取り乱してしまうのではないかと不安にもなったが、
心が揺れ動くことはなかった
喜多ちゃんのことはあの文化祭ライブで区切りをつけたのだと
今更ながらに実感した
星歌と肩を並べ、ベンチに腰を下ろしてアイスを舐める
星歌「学校、どうだ?」
ぼっち「楽しいです 勉強は大変ですけど」
星歌「虹夏と一緒に路上で演奏してるんだろ?…ありがとな虹夏といてくれて」
ぼっち「い、いえそんな…私が虹夏ちゃんに誘ってもらっているので」
星歌「うちの箱でいつでもライブしていいんだぞ? 1枠空けてるからな」
ぼっち「あ、ありがとうございます」
星歌の言葉は嬉しい
しかし2人でライブというわけにもいかないのだった
ぼっち「路上ライブ、店長さんも見にに来てください」
星歌「うん、必ず行くよ」
こうしていると高校の頃を思い出す
帰りに食べた変わらぬアイスの味がそうさせるのだろうか
リョウは今何をしているのだろう
ぼっち「リ、リョウさんって今何してるか知ってますか?」
星歌は顔に暗い影を落とす
星歌「ぼっちちゃんがうちに来る少し前まではよく家に来てたんだ」
星歌「でもあいつ、虹夏と喧嘩したっきり家にもバイトにも来なくなったよ」
ぼっち「い、今は?」
星歌「連絡とってない 直接聞いたわけじゃないけど学校も辞めたみたいなんだ」
ぼっち「そうなんですか… 」
喜多ちゃんの行きつけだったアイス屋は今でも残っている
一瞬、あの時のことを思い出して取り乱してしまうのではないかと不安にもなったが、
心が揺れ動くことはなかった
喜多ちゃんのことはあの文化祭ライブで区切りをつけたのだと
今更ながらに実感した
星歌と肩を並べ、ベンチに腰を下ろしてアイスを舐める
星歌「学校、どうだ?」
ぼっち「楽しいです 勉強は大変ですけど」
星歌「虹夏と一緒に路上で演奏してるんだろ?…ありがとな虹夏といてくれて」
ぼっち「い、いえそんな…私が虹夏ちゃんに誘ってもらっているので」
星歌「うちの箱でいつでもライブしていいんだぞ? 1枠空けてるからな」
ぼっち「あ、ありがとうございます」
星歌の言葉は嬉しい
しかし2人でライブというわけにもいかないのだった
ぼっち「路上ライブ、店長さんも見にに来てください」
星歌「うん、必ず行くよ」
こうしていると高校の頃を思い出す
帰りに食べた変わらぬアイスの味がそうさせるのだろうか
リョウは今何をしているのだろう
ぼっち「リ、リョウさんって今何してるか知ってますか?」
星歌は顔に暗い影を落とす
星歌「ぼっちちゃんがうちに来る少し前まではよく家に来てたんだ」
星歌「でもあいつ、虹夏と喧嘩したっきり家にもバイトにも来なくなったよ」
ぼっち「い、今は?」
星歌「連絡とってない 直接聞いたわけじゃないけど学校も辞めたみたいなんだ」
ぼっち「そうなんですか… 」
34: 2023/03/03(金) 17:06:13.754 ID:xtcNtVAH00303
リョウの性格からして、今までぼっちは特に心配などはしていなかった
それでも、あの時の虹夏の顔や今の星歌の表情を見るとぼっちも不安になってきた
何があったのか、一度本人と会って話をしなくてはいけないのではないか
もし、自分にできることがあるのならリョウの力になりたい
ぼっち「リョウさん、今どこにいるか分かりますか?」
星歌は小さく頷くとスマホを出してぼっちに渡した
メモ帳にはリョウの住所が入力されている
どうやら、自宅ではなくアパート住まいのようでそれほど遠くに住んでいるわけでもなかった
行ってみよう、ぼっちはそのデータを転送してもらうと立ち上がった
ぼっち「店長さん、私行ってきます」
星歌は不安そうな目を向けてきたが何も言わなかった
ぼっち「夕飯までには帰ってきます」
そういい残してぼっちはバス停へと歩を進めた
ぼっちはリョウの住んでいるであろうアパートの前に来ていた
どこにでもある、マンスリーアパートだ
部屋は301、ぼっちは外階段を上り
部屋の前までくると少し考える
自分なんかが何を言えばいいのだろう
リョウの現在の様子は何も知らされていない 突然押しかけたことで気分を害してしまうかもしれない
もしかしたら、誰かと同棲している可能性もある
しかし、幸せならそれでいいのかもしれない ぼっちには邪魔をすることなどできないし
本人が望むならこのままでも・・・
ぼっちは備え付けられたインターホンを押す
声は聞こえなかったが、中から物音が聞こえてきた
鍵が外れ、ドアが開いた
扉から覗かせた顔を見てぼっちは驚いた
艶やかな髪には白いものが混ざり
顔の皮膚はたゆんでシワが目立つ
まぶたは赤く、目の下には隈ができていた
しかし、それでも面影はあった
紛れもない、リョウの姿がそこにある
それでも、あの時の虹夏の顔や今の星歌の表情を見るとぼっちも不安になってきた
何があったのか、一度本人と会って話をしなくてはいけないのではないか
もし、自分にできることがあるのならリョウの力になりたい
ぼっち「リョウさん、今どこにいるか分かりますか?」
星歌は小さく頷くとスマホを出してぼっちに渡した
メモ帳にはリョウの住所が入力されている
どうやら、自宅ではなくアパート住まいのようでそれほど遠くに住んでいるわけでもなかった
行ってみよう、ぼっちはそのデータを転送してもらうと立ち上がった
ぼっち「店長さん、私行ってきます」
星歌は不安そうな目を向けてきたが何も言わなかった
ぼっち「夕飯までには帰ってきます」
そういい残してぼっちはバス停へと歩を進めた
ぼっちはリョウの住んでいるであろうアパートの前に来ていた
どこにでもある、マンスリーアパートだ
部屋は301、ぼっちは外階段を上り
部屋の前までくると少し考える
自分なんかが何を言えばいいのだろう
リョウの現在の様子は何も知らされていない 突然押しかけたことで気分を害してしまうかもしれない
もしかしたら、誰かと同棲している可能性もある
しかし、幸せならそれでいいのかもしれない ぼっちには邪魔をすることなどできないし
本人が望むならこのままでも・・・
ぼっちは備え付けられたインターホンを押す
声は聞こえなかったが、中から物音が聞こえてきた
鍵が外れ、ドアが開いた
扉から覗かせた顔を見てぼっちは驚いた
艶やかな髪には白いものが混ざり
顔の皮膚はたゆんでシワが目立つ
まぶたは赤く、目の下には隈ができていた
しかし、それでも面影はあった
紛れもない、リョウの姿がそこにある
35: 2023/03/03(金) 17:07:03.354 ID:xtcNtVAH00303
ぼっち「リョウさん… 」
リョウは、ぼっちの顔を一瞥しただけで
何の表情も見せなかった
ただ一言、入りなよ───とぶっきらぼうに言った
ぼっちは玄関に足を踏み入れる
すえた臭いが鼻をついたが
努めて顔に出すまいとした
ワンルームの室内は荒れ果てていた
フローリングにはゴミが散らかり放題で
キッチンシンクには食器や残飯が溜まっていた
リョウは万年床になっているらしい布団に腰を下ろすと
適当に座れと言ってぼっちを促した
ぼっちは足の踏み場もない床の上から
雑誌やペットボトルなどのゴミを退けて
1人分のスペースを確保すると小さく座った
リョウ「で、なんか用?」
ぼっちは何を口にすべきか迷ったが
率直に聞いてみた
ぼっち「リョウさん、何があったんですか?」
リョウ「はっ、そんなこと聞きにわざわざ来たんだ」
ぼっち「は、はい… 」
リョウ「別になんにもないよ 学校辞めて引きこもってるんだよ」
ぼっちはさっきまでリョウの変わり果てた姿から目をそらしていて気づかなかったが
よくよく見ると、リョウの手首には何本もの赤黒い線がある
リストカットの痕だ、自○でもする気だったのだろうか
リョウは、ぼっちの顔を一瞥しただけで
何の表情も見せなかった
ただ一言、入りなよ───とぶっきらぼうに言った
ぼっちは玄関に足を踏み入れる
すえた臭いが鼻をついたが
努めて顔に出すまいとした
ワンルームの室内は荒れ果てていた
フローリングにはゴミが散らかり放題で
キッチンシンクには食器や残飯が溜まっていた
リョウは万年床になっているらしい布団に腰を下ろすと
適当に座れと言ってぼっちを促した
ぼっちは足の踏み場もない床の上から
雑誌やペットボトルなどのゴミを退けて
1人分のスペースを確保すると小さく座った
リョウ「で、なんか用?」
ぼっちは何を口にすべきか迷ったが
率直に聞いてみた
ぼっち「リョウさん、何があったんですか?」
リョウ「はっ、そんなこと聞きにわざわざ来たんだ」
ぼっち「は、はい… 」
リョウ「別になんにもないよ 学校辞めて引きこもってるんだよ」
ぼっちはさっきまでリョウの変わり果てた姿から目をそらしていて気づかなかったが
よくよく見ると、リョウの手首には何本もの赤黒い線がある
リストカットの痕だ、自○でもする気だったのだろうか
36: 2023/03/03(金) 17:07:54.265 ID:xtcNtVAH00303
リョウはその視線に気づくと、
手首の傷をぼっちに見せて言った
リョウ「そんなに珍しい?」
リョウ「普通に生きてるだけのぼっちには分かんないか」
投げやりだった
リョウは自暴自棄になっているのだ
ぼっちが黙っているとリョウは自分から語りだした
リョウ「新しくバンド組んでたんだよ 学校の友達が紹介してくれてさ」
リョウ「私が組んでたバンドはね」
リョウ「最高だったよ 最高にクレイジーだった」
リョウ「私の作る曲に合わせてバカみたいにギターじゃんじゃん鳴らして、絶叫して」
リョウ「何でそんな演奏ができるんだよって聞いた」
リョウ「お前もやるか?って言われて───」
ぼっち「リョウさんまさかっ!」
リョウは袖を肩まで上げるとぼっちに見せた
赤い斑点、ところどころ鬱血して青くなっている
小さなかさぶた
さらには、爪で引っ掻いた痕もあった
傷だらけになった腕
きっと心も傷だらけなのだろう
ぼっち「あ、あの…病院、行きましょう」
リョウ「は?何言ってんだよバカかお前はっ!そんなとこ行ったら警察に連絡されるに決まってんだろうがっ!!」
リョウ「それとも何?お前は私が警察に捕まってもいいと思ってるの?」
ぼっち「ち、違いますっそんなことはなくて…でも…クスリなんて…ダメですよ」
手首の傷をぼっちに見せて言った
リョウ「そんなに珍しい?」
リョウ「普通に生きてるだけのぼっちには分かんないか」
投げやりだった
リョウは自暴自棄になっているのだ
ぼっちが黙っているとリョウは自分から語りだした
リョウ「新しくバンド組んでたんだよ 学校の友達が紹介してくれてさ」
リョウ「私が組んでたバンドはね」
リョウ「最高だったよ 最高にクレイジーだった」
リョウ「私の作る曲に合わせてバカみたいにギターじゃんじゃん鳴らして、絶叫して」
リョウ「何でそんな演奏ができるんだよって聞いた」
リョウ「お前もやるか?って言われて───」
ぼっち「リョウさんまさかっ!」
リョウは袖を肩まで上げるとぼっちに見せた
赤い斑点、ところどころ鬱血して青くなっている
小さなかさぶた
さらには、爪で引っ掻いた痕もあった
傷だらけになった腕
きっと心も傷だらけなのだろう
ぼっち「あ、あの…病院、行きましょう」
リョウ「は?何言ってんだよバカかお前はっ!そんなとこ行ったら警察に連絡されるに決まってんだろうがっ!!」
リョウ「それとも何?お前は私が警察に捕まってもいいと思ってるの?」
ぼっち「ち、違いますっそんなことはなくて…でも…クスリなんて…ダメですよ」
37: 2023/03/03(金) 17:08:44.230 ID:xtcNtVAH00303
リョウ「いい子ちゃんぶりやがって、お前はいいよな」
リョウ「知ってるよ 虹夏と一緒に路上演奏やってるんでしょ」
リョウ「そんなんで満足してるんだから幸せ者だよ」
ぼっち「わ、私と虹夏ちゃんはそれで満足してるって訳じゃ───」
リョウ「じゃあなんだよっ! 武道館でも目指してるって?笑わせんな」
リョウ「バンドも組まずにデュオでプロデビューかおめでたいね」
ぼっち「私はずっとバンド組みたいって思ってましたっ 今だってあの頃のメンバーで」
リョウ「だったらっ!だったらなんで私を誘わなかったんだよっ!!!」
リョウは怒りをあらわにした
ぼっちには返す言葉もなかった
最後の文化祭ライブで結束バンドとしてケジメをつけたんだと思い込んでいた
喜多ちゃんがいない結束バンドでは意味がない、だから3人だけじゃ何もできないと決めつけていた
喜多ちゃんの代わりに私がボーカルやります───そう言う勇気がまだなかった
それでも煮え切らない思いがあったからこそ虹夏とぼっちは路上で活動を始めたのだ
今はまだ結束バンドじゃなくても、
わずかな可能性を信じていた
ぼっちがもっとフロントマンとして成長したら、虹夏のドラムがもっと上手くなったら本格的なバンド活動を始めようと言っていた
ふわふわした状態でいる私たちに昔のファンは付いてくるだろうかと不安もあった
それでも虹夏は自信を持って答えたのだ
───私たちの音楽を好きで聞いてくれるんだ 大丈夫だよ
そして、その時には───リョウに声をかけようと
しかし、遅すぎたのだ
ぼっち「ごめんなさい…リョウさん」
ぼっちはただ謝ることしかできなかった
リョウ「いいよ」
ぼっちはリョウの言葉の意味を求めて顔を見る
リョウは頬を引きつらせながら歪な笑顔を作っていた
リョウ「いいからさ、ぼっち、お金貸してよ」
リョウ「知ってるよ 虹夏と一緒に路上演奏やってるんでしょ」
リョウ「そんなんで満足してるんだから幸せ者だよ」
ぼっち「わ、私と虹夏ちゃんはそれで満足してるって訳じゃ───」
リョウ「じゃあなんだよっ! 武道館でも目指してるって?笑わせんな」
リョウ「バンドも組まずにデュオでプロデビューかおめでたいね」
ぼっち「私はずっとバンド組みたいって思ってましたっ 今だってあの頃のメンバーで」
リョウ「だったらっ!だったらなんで私を誘わなかったんだよっ!!!」
リョウは怒りをあらわにした
ぼっちには返す言葉もなかった
最後の文化祭ライブで結束バンドとしてケジメをつけたんだと思い込んでいた
喜多ちゃんがいない結束バンドでは意味がない、だから3人だけじゃ何もできないと決めつけていた
喜多ちゃんの代わりに私がボーカルやります───そう言う勇気がまだなかった
それでも煮え切らない思いがあったからこそ虹夏とぼっちは路上で活動を始めたのだ
今はまだ結束バンドじゃなくても、
わずかな可能性を信じていた
ぼっちがもっとフロントマンとして成長したら、虹夏のドラムがもっと上手くなったら本格的なバンド活動を始めようと言っていた
ふわふわした状態でいる私たちに昔のファンは付いてくるだろうかと不安もあった
それでも虹夏は自信を持って答えたのだ
───私たちの音楽を好きで聞いてくれるんだ 大丈夫だよ
そして、その時には───リョウに声をかけようと
しかし、遅すぎたのだ
ぼっち「ごめんなさい…リョウさん」
ぼっちはただ謝ることしかできなかった
リョウ「いいよ」
ぼっちはリョウの言葉の意味を求めて顔を見る
リョウは頬を引きつらせながら歪な笑顔を作っていた
リョウ「いいからさ、ぼっち、お金貸してよ」
38: 2023/03/03(金) 17:09:28.250 ID:xtcNtVAH00303
ぼっちは落胆した
その金を何に使うのかは明らかだった
今までどうやってお金を工面していたのだろう
ぼっち「リョウさん、だめです… 」
リョウ「なんで?昔もよく借りてたじゃん ちゃんと返すから」
ぼっち「お願いだから… 」
リョウ「ねぇ助けてよ クスリ切らして気分悪いからさ」
ぼっちは首を振る
リョウ「そ、そうだ ぼっちにもやらせてあげるからさ」
リョウ「最高にハイな気分になれるんだよ?」
辛かった 昔のようにカッコよかったリョウの姿はそこにはない
リョウは見開き焦点の合わない瞳を漂わせる
ぼっちには、こんな狂人じみた目を向けるリョウが醜く思えた
ぼっちは立ち上がる
もう、ここにいる理由がない
ぼっちが玄関へ足を向けると、リョウは怒りの声を上げた
何を叫んでいるのか内容は聞き取れない
物が壊れる音もした
ぼっちは振り向くことなく、玄関の扉を開くと外へ出た
───私たち仲間だろっ!!!
最後にそれだけは聞き取ることができた
ぼっちはその空虚な残響を部屋に閉じ込めるように扉を閉めた
その金を何に使うのかは明らかだった
今までどうやってお金を工面していたのだろう
ぼっち「リョウさん、だめです… 」
リョウ「なんで?昔もよく借りてたじゃん ちゃんと返すから」
ぼっち「お願いだから… 」
リョウ「ねぇ助けてよ クスリ切らして気分悪いからさ」
ぼっちは首を振る
リョウ「そ、そうだ ぼっちにもやらせてあげるからさ」
リョウ「最高にハイな気分になれるんだよ?」
辛かった 昔のようにカッコよかったリョウの姿はそこにはない
リョウは見開き焦点の合わない瞳を漂わせる
ぼっちには、こんな狂人じみた目を向けるリョウが醜く思えた
ぼっちは立ち上がる
もう、ここにいる理由がない
ぼっちが玄関へ足を向けると、リョウは怒りの声を上げた
何を叫んでいるのか内容は聞き取れない
物が壊れる音もした
ぼっちは振り向くことなく、玄関の扉を開くと外へ出た
───私たち仲間だろっ!!!
最後にそれだけは聞き取ることができた
ぼっちはその空虚な残響を部屋に閉じ込めるように扉を閉めた
39: 2023/03/03(金) 17:10:08.892 ID:xtcNtVAH00303
夏が終わりを迎えてもリョウのことが頭から離れることはなかった
結局ぼっちは警察に連絡することはなかった
酷く罪悪感にさいなまれることになったが
先輩を警察に突き出すことなどできないのだと、してはいけないのだと
都合のいい理由を取り繕った
人は誰しも変わってしまうのだろうか 急に切ない思いが込み上げてきた
ぼっちは自室のクローゼットからダンボール箱を引き出し、
中にある、卒業アルバムを取り出した
昔の思い出に浸りたくなったのだ
ぼっちは一度アルバムをダンボール箱に戻してそれを抱えてリビングへ運んだ
虹夏と一緒に思い出を語りたいと考えたからだ
虹夏「ぼっちちゃん、なにそれー?」
リビングでテレビを見ていた虹夏がぼっちの持つダンボール箱に目を止めて言った
ぼっち「思い出、です」
ダンボール箱の中には卒業アルバムの他
バンドスコア
歌詞のコピー
ライブのDVD
アー写素材用の写真
そして、ぼっちが付けていた日記が入っている
虹夏「懐かしいなぁ、ちゃんと持ってたんだ」
虹夏は目を輝かせて言った
ぼっち「あ… 」
虹夏が写真の中から取り出したのは
虹夏がうたた寝をしている1枚だった
虹夏「な、なんでこれをぼっちちゃんが持ってるのさ」
ぼっち「み、みんな持ってます… 」
虹夏「ほんと!? リョウのやつ、誰にも渡すなって言っておいたのに」
ぼっち「虹夏ちゃん、これ」
ぼっちはまた別の写真を虹夏に見せる
虹夏「喜多ちゃん… 」
結局ぼっちは警察に連絡することはなかった
酷く罪悪感にさいなまれることになったが
先輩を警察に突き出すことなどできないのだと、してはいけないのだと
都合のいい理由を取り繕った
人は誰しも変わってしまうのだろうか 急に切ない思いが込み上げてきた
ぼっちは自室のクローゼットからダンボール箱を引き出し、
中にある、卒業アルバムを取り出した
昔の思い出に浸りたくなったのだ
ぼっちは一度アルバムをダンボール箱に戻してそれを抱えてリビングへ運んだ
虹夏と一緒に思い出を語りたいと考えたからだ
虹夏「ぼっちちゃん、なにそれー?」
リビングでテレビを見ていた虹夏がぼっちの持つダンボール箱に目を止めて言った
ぼっち「思い出、です」
ダンボール箱の中には卒業アルバムの他
バンドスコア
歌詞のコピー
ライブのDVD
アー写素材用の写真
そして、ぼっちが付けていた日記が入っている
虹夏「懐かしいなぁ、ちゃんと持ってたんだ」
虹夏は目を輝かせて言った
ぼっち「あ… 」
虹夏が写真の中から取り出したのは
虹夏がうたた寝をしている1枚だった
虹夏「な、なんでこれをぼっちちゃんが持ってるのさ」
ぼっち「み、みんな持ってます… 」
虹夏「ほんと!? リョウのやつ、誰にも渡すなって言っておいたのに」
ぼっち「虹夏ちゃん、これ」
ぼっちはまた別の写真を虹夏に見せる
虹夏「喜多ちゃん… 」
40: 2023/03/03(金) 17:10:53.830 ID:xtcNtVAH00303
悲しげな表情ではなかった
懐かしそうな、暖かい表情だった
ぼっち「喜多ちゃん、可愛いですね」
虹夏「本当だね」
それからは虹夏と2人で思い出話に花を咲かせた
ライブ映像も繰り返し観た
懐かしい、あの頃を思い返しながら
ずいぶんお喋りに夢中になっていて時刻は夜の11時を回っていた
虹夏「私、お風呂入ってくるよ」
虹夏はそう言って立ち上がり
リビングを出て行った
ぼっちはダンボールの中を覗く
日記が目に留まり、取り出してみた
日記は全部で5冊あった
普通の大学ノート、30枚60ページ
そのノート1ページにつき4、5日分の日記を書いていた
毎日書いてはいても内容はそれほど多くはないのだろう
4年弱の記録がたったの5冊に収まってしまうのだ
ぼっちは1番新しいノートを手にする
何となく、最後のページを開いた
懐かしそうな、暖かい表情だった
ぼっち「喜多ちゃん、可愛いですね」
虹夏「本当だね」
それからは虹夏と2人で思い出話に花を咲かせた
ライブ映像も繰り返し観た
懐かしい、あの頃を思い返しながら
ずいぶんお喋りに夢中になっていて時刻は夜の11時を回っていた
虹夏「私、お風呂入ってくるよ」
虹夏はそう言って立ち上がり
リビングを出て行った
ぼっちはダンボールの中を覗く
日記が目に留まり、取り出してみた
日記は全部で5冊あった
普通の大学ノート、30枚60ページ
そのノート1ページにつき4、5日分の日記を書いていた
毎日書いてはいても内容はそれほど多くはないのだろう
4年弱の記録がたったの5冊に収まってしまうのだ
ぼっちは1番新しいノートを手にする
何となく、最後のページを開いた
41: 2023/03/03(金) 17:12:48.341 ID:xtcNtVAH00303
───今日は卒業式
初めにそう書いてあった
そういえば、この日記を書き始めた理由
ぼっちは自分の記憶が途切れる症状を持っていたことを思い出した
この日記の最後に書かれている、卒業式の日を境に症状はなくなったのだ
日記にもその日の症状が書かれていた
〈スターリーでステージを眺めていたら、虹夏ちゃんとリョウさんが声をかけてきた 写真を撮ろうと誘ってくれて、とても嬉しかった 私が「はい」と言って頷くと、またあの症状がでた〉
そう、そこで記憶は一度途切れたのだ
日記を見つめているとあの時の光景がありありと浮かんでくる 声が聞こえた
>>30
───ぼっち、どうしたの?
目の前にリョウの顔があった
はっとして辺りを見回す
壁、テーブル、テレビ、さっきと変わらない伊地知家のリビングにぼっちはいる
では今の光景はなんだったのだろうか
夢?
夢ならそれでもいい
昔のリョウに会いたいと思う気持ちがぼっちの心の中でふくらむ
もう一度、さっきの───あの時のリョウの優しい表情を見れるのなら
初めにそう書いてあった
そういえば、この日記を書き始めた理由
ぼっちは自分の記憶が途切れる症状を持っていたことを思い出した
この日記の最後に書かれている、卒業式の日を境に症状はなくなったのだ
日記にもその日の症状が書かれていた
〈スターリーでステージを眺めていたら、虹夏ちゃんとリョウさんが声をかけてきた 写真を撮ろうと誘ってくれて、とても嬉しかった 私が「はい」と言って頷くと、またあの症状がでた〉
そう、そこで記憶は一度途切れたのだ
日記を見つめているとあの時の光景がありありと浮かんでくる 声が聞こえた
>>30
───ぼっち、どうしたの?
目の前にリョウの顔があった
はっとして辺りを見回す
壁、テーブル、テレビ、さっきと変わらない伊地知家のリビングにぼっちはいる
では今の光景はなんだったのだろうか
夢?
夢ならそれでもいい
昔のリョウに会いたいと思う気持ちがぼっちの心の中でふくらむ
もう一度、さっきの───あの時のリョウの優しい表情を見れるのなら
42: 2023/03/03(金) 17:13:42.971 ID:xtcNtVAH00303
ぼっちは日記に視線を落とす
目を凝らすと文字がうごめいている
次第に周囲の風景が歪み始め
日記に吸い込まれるような感覚がした
一瞬、まばゆい光がぼっちを包み込んだ
>>30
ぼっちの目の前に広がる光景は
忘れもしない、あの卒業式の日のスターリー
カメラを携えた虹夏とリョウが ───あの時のリョウが目の前にいた
リョウ「ぼっち、どうしたの?」
リョウの顔を、リョウの声を聞いて
ぼっちの心の中には様々な思いが去来した
───何か言わなきゃ
───伝えたいことがあったはずだ
───そうだっ!
ぼっち「リ、リョウさん!」
リョウ「ん?なに、ぼっち」
ぼっち「卒業しても、一緒にやりませんか?バンド!」
リョウは笑って大きく頷く
リョウ「うん やろっか、バンド」
───ありがとうございます
声に出したつもりだったが、届かなかったようだ
ぼっちは再度光に呑まれた
目を凝らすと文字がうごめいている
次第に周囲の風景が歪み始め
日記に吸い込まれるような感覚がした
一瞬、まばゆい光がぼっちを包み込んだ
>>30
ぼっちの目の前に広がる光景は
忘れもしない、あの卒業式の日のスターリー
カメラを携えた虹夏とリョウが ───あの時のリョウが目の前にいた
リョウ「ぼっち、どうしたの?」
リョウの顔を、リョウの声を聞いて
ぼっちの心の中には様々な思いが去来した
───何か言わなきゃ
───伝えたいことがあったはずだ
───そうだっ!
ぼっち「リ、リョウさん!」
リョウ「ん?なに、ぼっち」
ぼっち「卒業しても、一緒にやりませんか?バンド!」
リョウは笑って大きく頷く
リョウ「うん やろっか、バンド」
───ありがとうございます
声に出したつもりだったが、届かなかったようだ
ぼっちは再度光に呑まれた
43: 2023/03/03(金) 17:14:39.959 ID:xtcNtVAH00303
ぼっちは日記から顔を上げる
一時の幸せな夢だったのだろうか
日記を仕舞い、先ほどのリョウの笑顔を頭に思い描く
自然に笑みがこぼれた
しばらくして玄関の扉が開く音が聞こえた
ぼっちは不思議に思って玄関へ向かう
虹夏は先ほど浴室へ行ったはずだ
ここへ帰ってくるのは、あと星歌くらいしかいない
ぼっちが廊下の角から玄関を覗くと
虹夏がいた
ぼっち「あれ?虹夏ちゃんさっきお風呂って… 」
虹夏「んー?なんのことー?私は今帰ってきたところだけど」
虹夏「それよりさ、ライブのチケット完売したってさ」
突然、ぼっちの頭の中を鈍い痛みが襲った
それは一瞬のことだったが
次の瞬間にはぼっちの知らない光景が頭を駆け巡る
────これは・・・記憶?
ぼっちは理解した
一瞬のうちに頭の中に詰め込まれた記憶
その記憶はぼっちがあの日リョウにかけた言葉によって生まれた記憶だ
変わったのだ
あの日からの未来が、そして現在が、世界が
夢ではなかった
事実、ぼっちは過去にさかのぼっていたのだった
スターリーでリョウにかけた言葉
一緒にバンドをやりませんか、その言葉が未来への道筋を変えた
ぼっちが卒業してからは頻繁にリョウと連絡を取り合った
虹夏は音楽スタジオを借りてあの頃のようにバンド練習を提案した
3人は今まで通りスターリーでバイトをしていたが
リョウは別にコンポーザーのバイトをしてスタジオ代を稼いだ
一時の幸せな夢だったのだろうか
日記を仕舞い、先ほどのリョウの笑顔を頭に思い描く
自然に笑みがこぼれた
しばらくして玄関の扉が開く音が聞こえた
ぼっちは不思議に思って玄関へ向かう
虹夏は先ほど浴室へ行ったはずだ
ここへ帰ってくるのは、あと星歌くらいしかいない
ぼっちが廊下の角から玄関を覗くと
虹夏がいた
ぼっち「あれ?虹夏ちゃんさっきお風呂って… 」
虹夏「んー?なんのことー?私は今帰ってきたところだけど」
虹夏「それよりさ、ライブのチケット完売したってさ」
突然、ぼっちの頭の中を鈍い痛みが襲った
それは一瞬のことだったが
次の瞬間にはぼっちの知らない光景が頭を駆け巡る
────これは・・・記憶?
ぼっちは理解した
一瞬のうちに頭の中に詰め込まれた記憶
その記憶はぼっちがあの日リョウにかけた言葉によって生まれた記憶だ
変わったのだ
あの日からの未来が、そして現在が、世界が
夢ではなかった
事実、ぼっちは過去にさかのぼっていたのだった
スターリーでリョウにかけた言葉
一緒にバンドをやりませんか、その言葉が未来への道筋を変えた
ぼっちが卒業してからは頻繁にリョウと連絡を取り合った
虹夏は音楽スタジオを借りてあの頃のようにバンド練習を提案した
3人は今まで通りスターリーでバイトをしていたが
リョウは別にコンポーザーのバイトをしてスタジオ代を稼いだ
44: 2023/03/03(金) 17:15:59.268 ID:xtcNtVAH00303
ある日、リョウは星歌に無理を言ってライブに出させてくれるように頼んだ
リョウが懇願する姿に驚いた星歌は特別だからな───と言って許可した
しかし星歌のことだ、元々頼まれれば出す気だったのだろう
3人で迎えた初めてのライブでは最高の演奏を披露した
観客はまばらだったがこれがきっかけとなりファンもだんだん増えた
その後はライブのチケットの売り上げも好調で思わぬ収益にも繋がった
3人はそのお金を貯めていつかはレーベルに所属してアルバムを作ろうなどと夢を抱いていた
虹夏「ぼっちちゃん、鼻血… 」
虹夏は心配そうな表情でぼっちを見ていた
ぼっちは自分の鼻の下に手をやり指先で触れる
触れた指を見ると赤い血が付着していた
ぼっち「す、すいませんっ」
ぼっちは急いでリビングへ向かうとティッシュで鼻を拭いた
洗面所に行って鏡で顔を確認してリビングへ戻ると虹夏は座ってテレビを観ていた
ぼっち「なんともなかったです ごめんなさい」
虹夏「ううん、なんかあったのかと思ってびっくりしたよ」
ぼっち「それで、さっきの話」
虹夏「あぁ、ライブのチケットね リョウからなんか売れたって連絡があったんだ」
ぼっち「リョウさん、すごいです」
虹夏「ほんと、チケット抱えて私が全部さばく───とか言った時は正気か心配したけどね 今回はリョウのおかげだよ」
ぼっちは記憶の中にあるリョウの顔を思い浮かべる
スターリーで一緒にバイトしていたリョウ
そこの舞台でベースを楽しそうに弾くリョウの顔を
虹夏「ぼっちちゃんはチケット3枚確保してたけど誰に渡したのー?家族?」
ぼっち「はい、お父さんお母さん、あとふたりに」
虹夏「そっかぁ、私は一応廣井さんに渡したよー」
ぼっち「あ、ありがとうございます」
虹夏「うん、なんだかんだお世話になってるもんねぇ でも当日、廣井さんがたどり着けるか心配だよー」
二人は静かに笑い合った
リョウが懇願する姿に驚いた星歌は特別だからな───と言って許可した
しかし星歌のことだ、元々頼まれれば出す気だったのだろう
3人で迎えた初めてのライブでは最高の演奏を披露した
観客はまばらだったがこれがきっかけとなりファンもだんだん増えた
その後はライブのチケットの売り上げも好調で思わぬ収益にも繋がった
3人はそのお金を貯めていつかはレーベルに所属してアルバムを作ろうなどと夢を抱いていた
虹夏「ぼっちちゃん、鼻血… 」
虹夏は心配そうな表情でぼっちを見ていた
ぼっちは自分の鼻の下に手をやり指先で触れる
触れた指を見ると赤い血が付着していた
ぼっち「す、すいませんっ」
ぼっちは急いでリビングへ向かうとティッシュで鼻を拭いた
洗面所に行って鏡で顔を確認してリビングへ戻ると虹夏は座ってテレビを観ていた
ぼっち「なんともなかったです ごめんなさい」
虹夏「ううん、なんかあったのかと思ってびっくりしたよ」
ぼっち「それで、さっきの話」
虹夏「あぁ、ライブのチケットね リョウからなんか売れたって連絡があったんだ」
ぼっち「リョウさん、すごいです」
虹夏「ほんと、チケット抱えて私が全部さばく───とか言った時は正気か心配したけどね 今回はリョウのおかげだよ」
ぼっちは記憶の中にあるリョウの顔を思い浮かべる
スターリーで一緒にバイトしていたリョウ
そこの舞台でベースを楽しそうに弾くリョウの顔を
虹夏「ぼっちちゃんはチケット3枚確保してたけど誰に渡したのー?家族?」
ぼっち「はい、お父さんお母さん、あとふたりに」
虹夏「そっかぁ、私は一応廣井さんに渡したよー」
ぼっち「あ、ありがとうございます」
虹夏「うん、なんだかんだお世話になってるもんねぇ でも当日、廣井さんがたどり着けるか心配だよー」
二人は静かに笑い合った
46: 2023/03/03(金) 17:16:41.316 ID:xtcNtVAH00303
翌週末、3人はスターリーに集まった
リョウ「やあ」
紛れもないリョウの顔
変わらない無表情だけど優しい顔
ぼっち「リョウさんっ!」
ぼっちは思わずリョウに抱きついた
リョウ「ちょ、どうしたぼっち」
記憶の中にはあっても、いざ本人を前にすると感動は抑えきれなかった
ぼっちは懐かしさとリョウの暖かさに触れ今にも泣き出しそうになっていた
リョウ「まったく、虹夏が相手してくれなくて寂しかったんだね」
虹夏「いやいや、私はちゃんとぼっちちゃんの面倒をみてるんだよ?」
リョウ「ほほう、面倒なんだ…かわいそうになぁぼっち〜」
虹夏「ち、違うよっ ああもうっリョウのバカっ!」
虹夏は怒って外方を向いた
リョウ「ところで、廣井さんは来れるの?」
ぼっち「多分大丈夫です…でもロインは返ってきません… 」
リョウ「他には誰か呼んでる?」
ぼっち「家族を呼びました」
リョウ「そっか、じゃあ成長したぼっちの演奏見せてあげなきゃだね」
虹夏「なんか最近のリョウは頼もしいこと言うよね、変だよ」
リョウ「えへへー」
虹夏「ほめてないけど」
3人は一通り、リハーサルを終えると到着したぼっちの家族を迎えた
ふたり「おねぇちゃん来たよー!」
虹夏「わぁふたりちゃん久しぶり!」
虹夏はふたりを抱きかかえてどこかへ連れていってしまった
美智代(母)「ひとりちゃん、ちゃんと生活してる?」
ぼっち「うん、虹夏ちゃんや店長さんのおかげで」
直樹(父) 「今日はお父さんが全部撮るからなぁ!」
ぼっち「あはは… 」
リョウ「やあ」
紛れもないリョウの顔
変わらない無表情だけど優しい顔
ぼっち「リョウさんっ!」
ぼっちは思わずリョウに抱きついた
リョウ「ちょ、どうしたぼっち」
記憶の中にはあっても、いざ本人を前にすると感動は抑えきれなかった
ぼっちは懐かしさとリョウの暖かさに触れ今にも泣き出しそうになっていた
リョウ「まったく、虹夏が相手してくれなくて寂しかったんだね」
虹夏「いやいや、私はちゃんとぼっちちゃんの面倒をみてるんだよ?」
リョウ「ほほう、面倒なんだ…かわいそうになぁぼっち〜」
虹夏「ち、違うよっ ああもうっリョウのバカっ!」
虹夏は怒って外方を向いた
リョウ「ところで、廣井さんは来れるの?」
ぼっち「多分大丈夫です…でもロインは返ってきません… 」
リョウ「他には誰か呼んでる?」
ぼっち「家族を呼びました」
リョウ「そっか、じゃあ成長したぼっちの演奏見せてあげなきゃだね」
虹夏「なんか最近のリョウは頼もしいこと言うよね、変だよ」
リョウ「えへへー」
虹夏「ほめてないけど」
3人は一通り、リハーサルを終えると到着したぼっちの家族を迎えた
ふたり「おねぇちゃん来たよー!」
虹夏「わぁふたりちゃん久しぶり!」
虹夏はふたりを抱きかかえてどこかへ連れていってしまった
美智代(母)「ひとりちゃん、ちゃんと生活してる?」
ぼっち「うん、虹夏ちゃんや店長さんのおかげで」
直樹(父) 「今日はお父さんが全部撮るからなぁ!」
ぼっち「あはは… 」
47: 2023/03/03(金) 17:17:53.554 ID:xtcNtVAH00303
きくり「ぼっちちゃん、@〒\☆%÷=だよ〜!!!」ユラユラ
泥酔状態だがきくりも到着した
ぼっち「お、お姉さん…大丈夫ですか?」
きくり「大丈夫大丈夫〜」
星歌「まったく、相変わらずだなお前は」
PAさん「お水飲みますか〜?」
きくり「うわぁ優しい〜 2人もお呼ばれですかぁ〜?」
星歌「まあ私らは半分仕事しながらだけどな」
PAさん「それにしても、また本格的にバンド活動するなんて思ってもみませんでした」
リョウ「それはぼっちのおかげです」
星歌「ぼっちちゃんが、なにか言ったのか?」
リョウ「ぼっち、覚えてるでしょ?
ぼっちの卒業式の日、スターリーで言ってくれたよね、一緒にバンドしようって」
ぼっちは頷く
星歌「へぇ、すごいじゃん」
リョウ「それで私も決意できた やってやるんだって」
きくり「お、じゃあ夢は武道館っ?」
リョウ「夢は大きく、だよね?」
ぼっち「は、はいっ!」
虹夏たちが戻ってきた
虹夏「そろそろ本番だね」
ふたり「本番!本番!」
リョウ「緊張してる?」
虹夏「もう、慣れた」
リョウ「つまらないね、さっきのぼっちみたいに私に抱きついてきてもいいんだよ」
虹夏「し、しないよ///」
泥酔状態だがきくりも到着した
ぼっち「お、お姉さん…大丈夫ですか?」
きくり「大丈夫大丈夫〜」
星歌「まったく、相変わらずだなお前は」
PAさん「お水飲みますか〜?」
きくり「うわぁ優しい〜 2人もお呼ばれですかぁ〜?」
星歌「まあ私らは半分仕事しながらだけどな」
PAさん「それにしても、また本格的にバンド活動するなんて思ってもみませんでした」
リョウ「それはぼっちのおかげです」
星歌「ぼっちちゃんが、なにか言ったのか?」
リョウ「ぼっち、覚えてるでしょ?
ぼっちの卒業式の日、スターリーで言ってくれたよね、一緒にバンドしようって」
ぼっちは頷く
星歌「へぇ、すごいじゃん」
リョウ「それで私も決意できた やってやるんだって」
きくり「お、じゃあ夢は武道館っ?」
リョウ「夢は大きく、だよね?」
ぼっち「は、はいっ!」
虹夏たちが戻ってきた
虹夏「そろそろ本番だね」
ふたり「本番!本番!」
リョウ「緊張してる?」
虹夏「もう、慣れた」
リョウ「つまらないね、さっきのぼっちみたいに私に抱きついてきてもいいんだよ」
虹夏「し、しないよ///」
48: 2023/03/03(金) 17:18:45.191 ID:xtcNtVAH00303
ふたり「2人は付き合ってるのー?」
虹夏「ち、ちがうよっ/// もうふたりちゃんはおマセさんだね!」
ぼっち「ふたり、お父さんのところに戻るよ」
ふたり「は〜い」
美智代「ひとりちゃん、がんばってね」
ぼっち「うん」
星歌「みんな、がんばれよ」
3人は振り返って星歌や他のみんなに
力強い眼差しを向けて大きく頷いた
その日のライブは大いに盛り上がった
チケットが完売したこともあり客の入りは申し分なく物販もたくさん売れた
ライブ終了後は3人と星歌、PAさん、きくりが集まって6人で祝杯をあげようということになった
ぼっちは久しぶりの居酒屋に戸惑っていたが
虹夏は慣れた様子で注文していた
話によれば大学の付き合いでよく立ち寄るそうなのだ
ぼっち「コ、コンパとかしてるんですか?」
虹夏「違うよ ゼミの教授がね、学生たちと飲みたがるの」
虹夏も大変なのだとぼっちは思った
星歌は入店早々度数の高い酒をあおったのか
酔いが回ってぼっちに猫なで声で甘えていた
星歌「ぼっちちゃん、だっこぉ〜」
虹夏「ち、ちがうよっ/// もうふたりちゃんはおマセさんだね!」
ぼっち「ふたり、お父さんのところに戻るよ」
ふたり「は〜い」
美智代「ひとりちゃん、がんばってね」
ぼっち「うん」
星歌「みんな、がんばれよ」
3人は振り返って星歌や他のみんなに
力強い眼差しを向けて大きく頷いた
その日のライブは大いに盛り上がった
チケットが完売したこともあり客の入りは申し分なく物販もたくさん売れた
ライブ終了後は3人と星歌、PAさん、きくりが集まって6人で祝杯をあげようということになった
ぼっちは久しぶりの居酒屋に戸惑っていたが
虹夏は慣れた様子で注文していた
話によれば大学の付き合いでよく立ち寄るそうなのだ
ぼっち「コ、コンパとかしてるんですか?」
虹夏「違うよ ゼミの教授がね、学生たちと飲みたがるの」
虹夏も大変なのだとぼっちは思った
星歌は入店早々度数の高い酒をあおったのか
酔いが回ってぼっちに猫なで声で甘えていた
星歌「ぼっちちゃん、だっこぉ〜」
49: 2023/03/03(金) 17:19:32.039 ID:xtcNtVAH00303
虹夏「ちょ、恥ずかしいからやめてよお姉ちゃん 一体何飲んだの」
PAさん「ウイスキー飲んでましたよ、ストレートで」
きくり「うへぇ、先輩こんなに酒癖悪かったの〜?」
虹夏「家でもほとんど飲まないですよ」
PAさん「お冷もらってきますね」
PAさんはそう言って立ち上がると座敷を出て行った
星歌「ぼっちちゃ〜ん?」ダキッ
ぼっち「あ、はぃ… 」
虹夏「もう〜お姉ちゃん気色悪いよ?」
途端に星歌は泣き出してしまった
虹夏「あぁ悪かったよお姉ちゃんごめんね〜」
虹夏が背中をさすってやると
星歌は安心したのかぼっちに抱きついたまま眠ってしまった
虹夏「あらら…ごめんね、ぼっちちゃん」
ぼっち「いえ… 」
虹夏は座布団を二枚重ねると
ぼっちから星歌を引き離してそこに頭を乗せて寝かせた
リョウ「虹夏、慣れてるね」
虹夏「まぁね」
虹夏はそう言ってため息を吐いた
そこにPAさんがお冷をもらって帰ってきたが星歌の様子を見て必要ないと思ったのだろう、コップをテーブルの上に置くと、ぼっちの隣に座った
PAさん「後藤さんはお酒大丈夫ですか?」
ぼっち「そんなに飲んだことないんですけど、いけるみたいです」
ぼっちはそう言ってコークハイをあおった
リョウ「ぼっち、いい飲みっぷりだね」
ぼっち「リョウさんも強そうですね」
リョウ「そこそこね」
リョウは濃いめのハイボールを飲んでいた
PAさん「ウイスキー飲んでましたよ、ストレートで」
きくり「うへぇ、先輩こんなに酒癖悪かったの〜?」
虹夏「家でもほとんど飲まないですよ」
PAさん「お冷もらってきますね」
PAさんはそう言って立ち上がると座敷を出て行った
星歌「ぼっちちゃ〜ん?」ダキッ
ぼっち「あ、はぃ… 」
虹夏「もう〜お姉ちゃん気色悪いよ?」
途端に星歌は泣き出してしまった
虹夏「あぁ悪かったよお姉ちゃんごめんね〜」
虹夏が背中をさすってやると
星歌は安心したのかぼっちに抱きついたまま眠ってしまった
虹夏「あらら…ごめんね、ぼっちちゃん」
ぼっち「いえ… 」
虹夏は座布団を二枚重ねると
ぼっちから星歌を引き離してそこに頭を乗せて寝かせた
リョウ「虹夏、慣れてるね」
虹夏「まぁね」
虹夏はそう言ってため息を吐いた
そこにPAさんがお冷をもらって帰ってきたが星歌の様子を見て必要ないと思ったのだろう、コップをテーブルの上に置くと、ぼっちの隣に座った
PAさん「後藤さんはお酒大丈夫ですか?」
ぼっち「そんなに飲んだことないんですけど、いけるみたいです」
ぼっちはそう言ってコークハイをあおった
リョウ「ぼっち、いい飲みっぷりだね」
ぼっち「リョウさんも強そうですね」
リョウ「そこそこね」
リョウは濃いめのハイボールを飲んでいた
50: 2023/03/03(金) 17:20:13.052 ID:xtcNtVAH00303
リョウ「虹夏は何飲んでるの?」
虹夏は茶色い液体が注がれたグラスを手にして言った
虹夏「ウイスキー、お姉ちゃんが残したからもったいなくて」
ぼっち「虹夏ちゃん、大人だ… 」
虹夏「二人はまだまだ子どもだねっ」
リョウ「なん...だと、店員さん、ハイボール限りなく濃いめで」
PAさん「ちょっと無理しちゃダメですよ」
きくり「まぁまぁとりあえず仕切り直しだよ〜はい乾杯〜!」
きくりは平常運転だった きくりに乗せられた4人は酒のペースも上がる
ぼっちは追加で注文した酒をちびちびと飲みながら昔の思い出話に耳を傾けていた
きくり「そういえば文化祭ライブ、あの時は凄かったよねぇ〜」
虹夏「みんな大泣きしてましたね」
リョウ「演奏してる私たちも感動した」
PAさん「でも、よく結束バンド再開する気になりましたね あの頃はすっかり元通りだと思ってましたが、多分、もう演奏は聴けないんじゃないかなって」
リョウ「まあ、郁代のこともあったので」
思い出すのも辛い過去のはずだが
今ではすっかり懐かしい思い出となって喜多ちゃんはみんなの心の中にいる
暗い顔をするどころか、皆笑顔で喜多ちゃんのことを口にしていた
虹夏「確かあの時───そうだ、ぼっちちゃんが私たちに何か言ったんじゃなかったっけ?」
虹夏はぼっちの顔を見る
ぼっちは、あの記憶の途切れた日のことを思い出した
星歌がスターリーに皆を集めて話し合おうと言ったのだ
そこで───そうだ、私の記憶がない間に・・・
ぼっち「わ、私なんて言いましたか?」
虹夏は茶色い液体が注がれたグラスを手にして言った
虹夏「ウイスキー、お姉ちゃんが残したからもったいなくて」
ぼっち「虹夏ちゃん、大人だ… 」
虹夏「二人はまだまだ子どもだねっ」
リョウ「なん...だと、店員さん、ハイボール限りなく濃いめで」
PAさん「ちょっと無理しちゃダメですよ」
きくり「まぁまぁとりあえず仕切り直しだよ〜はい乾杯〜!」
きくりは平常運転だった きくりに乗せられた4人は酒のペースも上がる
ぼっちは追加で注文した酒をちびちびと飲みながら昔の思い出話に耳を傾けていた
きくり「そういえば文化祭ライブ、あの時は凄かったよねぇ〜」
虹夏「みんな大泣きしてましたね」
リョウ「演奏してる私たちも感動した」
PAさん「でも、よく結束バンド再開する気になりましたね あの頃はすっかり元通りだと思ってましたが、多分、もう演奏は聴けないんじゃないかなって」
リョウ「まあ、郁代のこともあったので」
思い出すのも辛い過去のはずだが
今ではすっかり懐かしい思い出となって喜多ちゃんはみんなの心の中にいる
暗い顔をするどころか、皆笑顔で喜多ちゃんのことを口にしていた
虹夏「確かあの時───そうだ、ぼっちちゃんが私たちに何か言ったんじゃなかったっけ?」
虹夏はぼっちの顔を見る
ぼっちは、あの記憶の途切れた日のことを思い出した
星歌がスターリーに皆を集めて話し合おうと言ったのだ
そこで───そうだ、私の記憶がない間に・・・
ぼっち「わ、私なんて言いましたか?」
51: 2023/03/03(金) 17:20:58.324 ID:xtcNtVAH00303
虹夏「えぇー私に聞くの? ぼっちちゃんが言ったんでしょ?」
虹夏が言うからにはそうなのだろう
しかし、ぼっちには記憶がない
そのことをここで口にするのはダメな気がして適当に誤魔化した
ぼっち「わ、忘れちゃいました… 」
虹夏「ぼっちちゃんらしいよホント」
リョウ「あれ以来かな、みんな吹っ切れたみたいだった」
虹夏「かもね、私もあれから喜多ちゃんのことに正面から向き合えるようになった気がする」
PAさん「いいことですね 喜多さんもきっとそんな皆さんに惹かれたんだと思いますよ」
虹夏「今日の演奏も聴いてくれたよね」
虹夏「だって…天国に届くくらい…いい演奏だったから… 」
ぼっち「虹夏ちゃん?」
虹夏はテーブルに顔を伏せて寝息を立てていた 顔色をまったく変えずにいたため分からなかったが相当酔っていたらしい
リョウ「そろそろ帰るか」
最初に酔いつぶれてしまった星歌をぼっちが虹夏をリョウが送ることにした
きくり「よーし2軒目いくよぉ〜!」
PAさん「ほらほらもう帰りますよ では廣井さんを送っていくので私はこれで」
ぼっち「はい、ありがとうございました」
リョウ「ぼっち、虹夏は私が引き取るよ 家ここからすぐだから」
ぼっち「でも私は虹夏ちゃんの家に帰るので大丈夫ですよ」
リョウ「そっちには店長もいるでしょ さすがに2人も介抱するのは大変だろうしいいよ」
ぼっち「あ、なるほど、分かりました」
きくり「とか言ってぇ、寝てる妹ちゃんにイタズラすんでしょ!」
遠くからきくりがからかう
リョウ「ち、違いますよ/// 」
どぎまぎするリョウにきくりは、冗談だよ───と笑って言った
リョウの住むアパートは歩いても時間はかからない距離だったが
虹夏を抱えて行くわけにもいかず、結局タクシーを呼んだ
リョウはタクシーの後部座席に虹夏を押し込むと
じゃあ、と手を振ってドアを閉めた
ぼっちたちもタクシーを呼んで帰路に着くと
星歌を布団に寝かせてからぼっちも寝支度をしてすぐに眠った
虹夏が言うからにはそうなのだろう
しかし、ぼっちには記憶がない
そのことをここで口にするのはダメな気がして適当に誤魔化した
ぼっち「わ、忘れちゃいました… 」
虹夏「ぼっちちゃんらしいよホント」
リョウ「あれ以来かな、みんな吹っ切れたみたいだった」
虹夏「かもね、私もあれから喜多ちゃんのことに正面から向き合えるようになった気がする」
PAさん「いいことですね 喜多さんもきっとそんな皆さんに惹かれたんだと思いますよ」
虹夏「今日の演奏も聴いてくれたよね」
虹夏「だって…天国に届くくらい…いい演奏だったから… 」
ぼっち「虹夏ちゃん?」
虹夏はテーブルに顔を伏せて寝息を立てていた 顔色をまったく変えずにいたため分からなかったが相当酔っていたらしい
リョウ「そろそろ帰るか」
最初に酔いつぶれてしまった星歌をぼっちが虹夏をリョウが送ることにした
きくり「よーし2軒目いくよぉ〜!」
PAさん「ほらほらもう帰りますよ では廣井さんを送っていくので私はこれで」
ぼっち「はい、ありがとうございました」
リョウ「ぼっち、虹夏は私が引き取るよ 家ここからすぐだから」
ぼっち「でも私は虹夏ちゃんの家に帰るので大丈夫ですよ」
リョウ「そっちには店長もいるでしょ さすがに2人も介抱するのは大変だろうしいいよ」
ぼっち「あ、なるほど、分かりました」
きくり「とか言ってぇ、寝てる妹ちゃんにイタズラすんでしょ!」
遠くからきくりがからかう
リョウ「ち、違いますよ/// 」
どぎまぎするリョウにきくりは、冗談だよ───と笑って言った
リョウの住むアパートは歩いても時間はかからない距離だったが
虹夏を抱えて行くわけにもいかず、結局タクシーを呼んだ
リョウはタクシーの後部座席に虹夏を押し込むと
じゃあ、と手を振ってドアを閉めた
ぼっちたちもタクシーを呼んで帰路に着くと
星歌を布団に寝かせてからぼっちも寝支度をしてすぐに眠った
52: 2023/03/03(金) 17:22:13.489 ID:xtcNtVAH00303
翌朝、ぼっちは布団から体を起こすと
今日は休日だということを思い出しもう一度眠りについた
夢なのか昨日の記憶を思い返しているだけなのか虹夏の言葉がぼっちの頭の中を巡っていた
───ぼっちちゃんが私たちに何か言ったんじゃなかったっけ?
───そうだ
───確かあの時
あの時?
そう、記憶の途切れたあの時だ
ぼっちの頭の中で何か形作ろうとしていた
───日記
───記憶の途切れる症状
そうだ、卒業式後のスターリーで
過去に戻れたあの時も記憶が途切れた時だった
ぼっちは勢いよくベッドから跳ね起きると
ダンボール箱から日記を取り出した
ページをめくって日付を追う
ぼっち「あった」
───結束バンド復活
大きな文字で書き記してあった
その主題の下には結束バンド復活の喜びと
記憶の途切れた症状が書いてある
ぼっちは大きく息を吸ってから日記を凝視する
文字がうごめき風景が歪む
日記に吸い込まれる感覚の後
まばゆい光に呑み込まれる
>>25
スターリーで星歌、虹夏、リョウがぼっちに注目していた
ぼっちの言葉を待っているのだろう
今日は休日だということを思い出しもう一度眠りについた
夢なのか昨日の記憶を思い返しているだけなのか虹夏の言葉がぼっちの頭の中を巡っていた
───ぼっちちゃんが私たちに何か言ったんじゃなかったっけ?
───そうだ
───確かあの時
あの時?
そう、記憶の途切れたあの時だ
ぼっちの頭の中で何か形作ろうとしていた
───日記
───記憶の途切れる症状
そうだ、卒業式後のスターリーで
過去に戻れたあの時も記憶が途切れた時だった
ぼっちは勢いよくベッドから跳ね起きると
ダンボール箱から日記を取り出した
ページをめくって日付を追う
ぼっち「あった」
───結束バンド復活
大きな文字で書き記してあった
その主題の下には結束バンド復活の喜びと
記憶の途切れた症状が書いてある
ぼっちは大きく息を吸ってから日記を凝視する
文字がうごめき風景が歪む
日記に吸い込まれる感覚の後
まばゆい光に呑み込まれる
>>25
スターリーで星歌、虹夏、リョウがぼっちに注目していた
ぼっちの言葉を待っているのだろう
53: 2023/03/03(金) 17:23:42.336 ID:xtcNtVAH00303
ぼっちはリョウに顔を向ける
ぼっち「リョウさん、理由を聞かせてください」
リョウは顔を伏せて言った
リョウ「だって…辛いんだ…ここにくると」
リョウ「リョウ先輩って呼んでる気がして郁代を探してもそこにいなくて… 」
リョウ「それでも…自主練付き合ってくださいって呼ばれる気がして…何時間も待ってたりするんだ… 」
リョウ「いないのは分かってる でも無意識に…考えてしまうんだ…郁代がいたらって… 」
ぼっちはこの時初めてリョウの苦しみに気がついた
リョウは思っていた以上に幼いのだ
普段は落ち着いているから分からなかった
友達も虹夏だけだと言っていたように過度な人付き合いを好む気質ではない
人付き合いのトラブルも含めて今までネガティブなことからはすぐに逃げていたのだろう
それでも結束バンドを結成してからは
初めてできた後輩や虹夏のために濃い人間関係へ勇気をもって踏み込んだのだ
中学時代の挫折を打ち消すように
不平不満を言いつつも結束バンドことが大好きだったのだろう
しかし、喜多ちゃんの氏はリョウの心をえぐりとるほどの衝撃だった
氏の概念を持ちつつ心が未熟なまま身近な者の氏に触れ凄惨な事故現場を目撃したのだ
喜多ちゃんの氏を理解しながらも心がそれを拒絶する
ぼっちも虹夏も同じ気持ちではあった
けれど、リョウには背負いきれない現実だった
気を抜けば壊れてしまうほど脆い心だったのだ
ぼっち「リョウさん、理由を聞かせてください」
リョウは顔を伏せて言った
リョウ「だって…辛いんだ…ここにくると」
リョウ「リョウ先輩って呼んでる気がして郁代を探してもそこにいなくて… 」
リョウ「それでも…自主練付き合ってくださいって呼ばれる気がして…何時間も待ってたりするんだ… 」
リョウ「いないのは分かってる でも無意識に…考えてしまうんだ…郁代がいたらって… 」
ぼっちはこの時初めてリョウの苦しみに気がついた
リョウは思っていた以上に幼いのだ
普段は落ち着いているから分からなかった
友達も虹夏だけだと言っていたように過度な人付き合いを好む気質ではない
人付き合いのトラブルも含めて今までネガティブなことからはすぐに逃げていたのだろう
それでも結束バンドを結成してからは
初めてできた後輩や虹夏のために濃い人間関係へ勇気をもって踏み込んだのだ
中学時代の挫折を打ち消すように
不平不満を言いつつも結束バンドことが大好きだったのだろう
しかし、喜多ちゃんの氏はリョウの心をえぐりとるほどの衝撃だった
氏の概念を持ちつつ心が未熟なまま身近な者の氏に触れ凄惨な事故現場を目撃したのだ
喜多ちゃんの氏を理解しながらも心がそれを拒絶する
ぼっちも虹夏も同じ気持ちではあった
けれど、リョウには背負いきれない現実だった
気を抜けば壊れてしまうほど脆い心だったのだ
54: 2023/03/03(金) 17:24:33.657 ID:xtcNtVAH00303
星歌「ぼっちちゃん…もう…いいだろ… 」
星歌はリョウの様子を見て自身も胸を痛めているのだろう
悲しみをたたえた瞳をぼっちに向ける
しかし、ぼっちは首を横に振った
虹夏「ぼっちちゃんっ!」
ぼっち「聞いてくださいッ!」
ぼっち「わ、私は、今まで自分のためにバンドで演奏したいと思ってました」
ぼっち「今はその気持ちがないなんて言いません だから───」
ぼっち「皆さん自分のために演奏してほしいです」
虹夏「どういうこと?」
ぼっち「み、皆さんはこのまま結束バンドがなくなってもいいと思ってますか?」
ぼっち「何かやり残したことがあると思ったから今日ここに集まれたんです」
ぼっちは涙を浮かべるリョウに向けて静かに語った
ぼっち「リョウさん…リョウさんはこのままでいいですか?」
ぼっち「結束バンドがなくなって、それで喜多ちゃんのこと忘れちゃっていいんですか?」
ぼっち「乗り越えなきゃいけないと思います…受け入れて…大切な思い出としてしまっておくために何かしなきゃいけないと思いませんか」
リョウ「郁代のために…? でも何をすれば… 」
ぼっち「喜多ちゃんが最初結束バンドに入ろうとした理由覚えてますか?
リョウさんに惹かれて───そう言ってました」
リョウ「私に… 」
ぼっち「そうです だからもう一度聴かせてあげましょう リョウさんのベースを私たちの演奏を」
リョウ「それで、郁代のこと…忘れるの…?」
ぼっちは首を横に振って答えた
ぼっち「違いますよ 思い出にするんです 喜多ちゃんが確かに、ここに───結束バンドにいたことを そのために、喜多ちゃんのために最後に最高の演奏をするんです」
星歌はリョウの様子を見て自身も胸を痛めているのだろう
悲しみをたたえた瞳をぼっちに向ける
しかし、ぼっちは首を横に振った
虹夏「ぼっちちゃんっ!」
ぼっち「聞いてくださいッ!」
ぼっち「わ、私は、今まで自分のためにバンドで演奏したいと思ってました」
ぼっち「今はその気持ちがないなんて言いません だから───」
ぼっち「皆さん自分のために演奏してほしいです」
虹夏「どういうこと?」
ぼっち「み、皆さんはこのまま結束バンドがなくなってもいいと思ってますか?」
ぼっち「何かやり残したことがあると思ったから今日ここに集まれたんです」
ぼっちは涙を浮かべるリョウに向けて静かに語った
ぼっち「リョウさん…リョウさんはこのままでいいですか?」
ぼっち「結束バンドがなくなって、それで喜多ちゃんのこと忘れちゃっていいんですか?」
ぼっち「乗り越えなきゃいけないと思います…受け入れて…大切な思い出としてしまっておくために何かしなきゃいけないと思いませんか」
リョウ「郁代のために…? でも何をすれば… 」
ぼっち「喜多ちゃんが最初結束バンドに入ろうとした理由覚えてますか?
リョウさんに惹かれて───そう言ってました」
リョウ「私に… 」
ぼっち「そうです だからもう一度聴かせてあげましょう リョウさんのベースを私たちの演奏を」
リョウ「それで、郁代のこと…忘れるの…?」
ぼっちは首を横に振って答えた
ぼっち「違いますよ 思い出にするんです 喜多ちゃんが確かに、ここに───結束バンドにいたことを そのために、喜多ちゃんのために最後に最高の演奏をするんです」
55: 2023/03/03(金) 17:25:29.620 ID:xtcNtVAH00303
ぼっち「喜多ちゃんのことを思って 喜多ちゃんの笑顔を願って」
そう、ぼっちは最後の文化祭ライブまで喜多ちゃんの顔を思い浮かべることができなかった
思い浮かべようとすると、あの事故の、血に塗られた喜多ちゃんの顔がチラついた
ぼっちは喜多ちゃんの笑顔を取り戻すために、喜多ちゃんのためにギターを弾き鳴らしたのだ
ぼっち「約束します 最後の文化祭ライブが終わったら───」
ぼっち「きっと、私たちの中にいる喜多ちゃんは笑ってくれるから 最高の笑顔を見せてくれますよ 絶対!」
リョウは涙を浮かべながらも、笑顔で───確かに頷いた
リョウ「ありがとう、ぼっち」
虹夏が嬉しそうな表情で机に手をついて身を乗り出した
ぼっちは光に包まれ現在へと引き戻された
結局何かが変わったわけじゃない
ただあの日、互いの思いをぶつけ合い結束バンドとして気持ちが一つになった
それが今の結束バンドを支えている強さの根幹なのだと実感した
今のリョウはとても頼もしい
その理由もあの日からきているのだろう
虹夏もぼっちもそれにならうように成長している
過去に納得できたぼっちであったが
それでも未だに結束バンドの皆で演奏したいと願う思いがあった
こんなわがままは神様も聞いてはくれないだろうと諦めもしたが
日記をめくりながら、もしかしたらという気持ちが膨らんでいった
そう、ぼっちは最後の文化祭ライブまで喜多ちゃんの顔を思い浮かべることができなかった
思い浮かべようとすると、あの事故の、血に塗られた喜多ちゃんの顔がチラついた
ぼっちは喜多ちゃんの笑顔を取り戻すために、喜多ちゃんのためにギターを弾き鳴らしたのだ
ぼっち「約束します 最後の文化祭ライブが終わったら───」
ぼっち「きっと、私たちの中にいる喜多ちゃんは笑ってくれるから 最高の笑顔を見せてくれますよ 絶対!」
リョウは涙を浮かべながらも、笑顔で───確かに頷いた
リョウ「ありがとう、ぼっち」
虹夏が嬉しそうな表情で机に手をついて身を乗り出した
ぼっちは光に包まれ現在へと引き戻された
結局何かが変わったわけじゃない
ただあの日、互いの思いをぶつけ合い結束バンドとして気持ちが一つになった
それが今の結束バンドを支えている強さの根幹なのだと実感した
今のリョウはとても頼もしい
その理由もあの日からきているのだろう
虹夏もぼっちもそれにならうように成長している
過去に納得できたぼっちであったが
それでも未だに結束バンドの皆で演奏したいと願う思いがあった
こんなわがままは神様も聞いてはくれないだろうと諦めもしたが
日記をめくりながら、もしかしたらという気持ちが膨らんでいった
56: 2023/03/03(金) 17:26:28.723 ID:xtcNtVAH00303
───最高の演奏
そうだあの時も記憶が途切れていた
記憶がない間のぼっちの演奏を、皆はすごいと言っていた
もう一度だけ、これで最後にしようと
ぼっちは日記を見つめた
>>18
ぼっちの左手はギターの弦を押さえ
右手にはピックを持ち
今まさに振り下ろさんとしている瞬間だった
「星座になれたら」
忘れもしないあの曲だ
体に染みついて一生離れることはないだろう
ぼっちの指が、手が、腕が、体が踊る
自由に───今までより、もっと自由にぼっちはギターを弾き鳴らす
聞こえる
リョウのベースの音
虹夏のドラムの音
そして懐かしい喜多ちゃんのギターの音と歌声が
ぼっちは横目で喜多ちゃんを見る
喜多ちゃんもぼっちに視線を送ったような気がした
楽しそうだった
嬉しそうにギターを弾き歌う喜多ちゃんの笑顔がまぶしかった
守りたい───全てを取り戻したい
ぼっちは決意した
喜多ちゃんの笑顔を守る決意を
喜多ちゃんに、本当に本当の、本物の笑顔を取り戻してあげたいと
───助けるからね 喜多ちゃん
ぼっちは喜多ちゃんを救う覚悟を胸に最後まで演奏を続けた
最初で最後、最高の演奏を───
そうだあの時も記憶が途切れていた
記憶がない間のぼっちの演奏を、皆はすごいと言っていた
もう一度だけ、これで最後にしようと
ぼっちは日記を見つめた
>>18
ぼっちの左手はギターの弦を押さえ
右手にはピックを持ち
今まさに振り下ろさんとしている瞬間だった
「星座になれたら」
忘れもしないあの曲だ
体に染みついて一生離れることはないだろう
ぼっちの指が、手が、腕が、体が踊る
自由に───今までより、もっと自由にぼっちはギターを弾き鳴らす
聞こえる
リョウのベースの音
虹夏のドラムの音
そして懐かしい喜多ちゃんのギターの音と歌声が
ぼっちは横目で喜多ちゃんを見る
喜多ちゃんもぼっちに視線を送ったような気がした
楽しそうだった
嬉しそうにギターを弾き歌う喜多ちゃんの笑顔がまぶしかった
守りたい───全てを取り戻したい
ぼっちは決意した
喜多ちゃんの笑顔を守る決意を
喜多ちゃんに、本当に本当の、本物の笑顔を取り戻してあげたいと
───助けるからね 喜多ちゃん
ぼっちは喜多ちゃんを救う覚悟を胸に最後まで演奏を続けた
最初で最後、最高の演奏を───
58: 2023/03/03(金) 17:27:58.884 ID:xtcNtVAH00303
現在に引き戻さされたぼっちはすぐにそのページを開く
───喜多ちゃん
そう題した日記のページは涙で濡れて縮れていた
酷く読みにくい文字で所々擦れている
喜多ちゃんが事故にあったときの日記だ
ぼっちはあの時の記憶を思い起こす
自分はどこにいたのか、喜多ちゃんはどこにいたのか
クラクションが鳴ったとき、視界に車はなかった
間に合うだろうか───間に合わせてみせる
ぼっちは全身に力を込めて日記を見つめた
まばゆい光に包まれた瞬間、既にぼっちは足を上げていた
>>20
鳴り響くクラクションの中 喜多ちゃんは未だに笑みを浮かべて手を振っていた
ぼっちは走った 喜多ちゃんに向かって
ぼっちは視界の隅に迫りくるトラックを捉えた
───間に合えっ!
喜多ちゃんとの間にまだ距離がある
ぼっちは懸命に脚を動かし喜多ちゃんのもとへと駆けていく
喜多ちゃんはきょとんとした表情でぼっちを見た後
目前に迫るトラックに目を移し恐怖に顔を引きつらせた
───今、助けますっ
ぼっちは喜多ちゃんに飛びかかるように跳躍し手を伸ばして、喜多ちゃんを歩道へと突き飛ばした
───やった
次の瞬間に衝撃を感じ、ぼっちの体は宙を舞った
一瞬のことだったが随分長い時間に思えた
ぼっちは地面に叩きつけられると
自らの左腕が黒い塊に轢き潰される瞬間を目撃した
───喜多ちゃん
そう題した日記のページは涙で濡れて縮れていた
酷く読みにくい文字で所々擦れている
喜多ちゃんが事故にあったときの日記だ
ぼっちはあの時の記憶を思い起こす
自分はどこにいたのか、喜多ちゃんはどこにいたのか
クラクションが鳴ったとき、視界に車はなかった
間に合うだろうか───間に合わせてみせる
ぼっちは全身に力を込めて日記を見つめた
まばゆい光に包まれた瞬間、既にぼっちは足を上げていた
>>20
鳴り響くクラクションの中 喜多ちゃんは未だに笑みを浮かべて手を振っていた
ぼっちは走った 喜多ちゃんに向かって
ぼっちは視界の隅に迫りくるトラックを捉えた
───間に合えっ!
喜多ちゃんとの間にまだ距離がある
ぼっちは懸命に脚を動かし喜多ちゃんのもとへと駆けていく
喜多ちゃんはきょとんとした表情でぼっちを見た後
目前に迫るトラックに目を移し恐怖に顔を引きつらせた
───今、助けますっ
ぼっちは喜多ちゃんに飛びかかるように跳躍し手を伸ばして、喜多ちゃんを歩道へと突き飛ばした
───やった
次の瞬間に衝撃を感じ、ぼっちの体は宙を舞った
一瞬のことだったが随分長い時間に思えた
ぼっちは地面に叩きつけられると
自らの左腕が黒い塊に轢き潰される瞬間を目撃した
59: 2023/03/03(金) 17:28:51.789 ID:xtcNtVAH00303
筋肉が潰れ皮膚が裂ける
裂け目からは血と赤い小さな肉片が飛び散り 骨の砕ける音が身体を伝わって聞こえた
黒い塊が過ぎ去りつかの間
同じ黒い塊が、
ぼっちの、潰され轢き千切られた左腕を巻き込んでいった
甲高いブレーキ音とガラスの割れる音
鉄板が叩き崩されたような鈍い音を聞いた
ぼっちは眼球だけを動かして音の聞こえた方向へ視線を移す
アスファルトには黒いブレーキ痕と赤い血の跡
それを辿ると黒い大きなタイヤが
そのタイヤとトラックと思しき車体の隙間に
赤く染まった細い人間の腕をぶら下げていた
ぼっちは光に包まれた
柔らかな感触を背中に感じる
ぼっちはベッドの上で寝ているらしいことがわかった
鈍い頭痛がぼっちを襲う
一瞬にして新しい記憶がぼっちの脳に詰め込まれていく
変わったのだ あの時からの未来が、現在が
いや、ねじ曲げてしまったのかもしれない
より残酷な未来へと
美智代「ひとりちゃん、起きたの?って鼻血っ… 」
美智代はティッシュを手に取りぼっちの鼻から滴る血を拭った
ぼっち「ここは… 」
ぼっちは記憶を探る
ぼっちは事故により左腕切断、下半身不随の重症を負った
ぼっちの左腕は二の腕の辺りから下が無かった
裂け目からは血と赤い小さな肉片が飛び散り 骨の砕ける音が身体を伝わって聞こえた
黒い塊が過ぎ去りつかの間
同じ黒い塊が、
ぼっちの、潰され轢き千切られた左腕を巻き込んでいった
甲高いブレーキ音とガラスの割れる音
鉄板が叩き崩されたような鈍い音を聞いた
ぼっちは眼球だけを動かして音の聞こえた方向へ視線を移す
アスファルトには黒いブレーキ痕と赤い血の跡
それを辿ると黒い大きなタイヤが
そのタイヤとトラックと思しき車体の隙間に
赤く染まった細い人間の腕をぶら下げていた
ぼっちは光に包まれた
柔らかな感触を背中に感じる
ぼっちはベッドの上で寝ているらしいことがわかった
鈍い頭痛がぼっちを襲う
一瞬にして新しい記憶がぼっちの脳に詰め込まれていく
変わったのだ あの時からの未来が、現在が
いや、ねじ曲げてしまったのかもしれない
より残酷な未来へと
美智代「ひとりちゃん、起きたの?って鼻血っ… 」
美智代はティッシュを手に取りぼっちの鼻から滴る血を拭った
ぼっち「ここは… 」
ぼっちは記憶を探る
ぼっちは事故により左腕切断、下半身不随の重症を負った
ぼっちの左腕は二の腕の辺りから下が無かった
60: 2023/03/03(金) 17:29:38.556 ID:xtcNtVAH00303
事故後、長い間入院生活を送っていたが、
期末試験などは病室で受けることができ進級には問題がなかった
大学の進学も不安はあったものの
実家近くの大学に入学、家族に支えてもらいながら生活を送っていた
ぼっちは残された右腕を見つめる
自分の体重を支えるために
トレーニングに励んだ結果の隆起した筋肉
視線を脚先に向ける
薄いかけ布団に浮かぶ細い脚
何ともアンバランスな体だ
ぼっちは喜多ちゃんの記憶を探った
記憶の中で喜多ちゃんは生きている
高校を卒業した喜多ちゃんはぼっちと同じ大学に進学して、ぼっちの実家にほど近いアパートへと越してきたのだった
理由はわかっていた
ぼっちの介助をするためだ
毎日家を訪ねては、ぼっちのために色々と世話をしてくれていた
ぼっちは一人で起き上がることができるし
トイレも、シャワーを浴びることもできる
電動車イスを使って大学へ行き、買い物だってできるのだ
ぼっちは喜多ちゃんに心配はいらないと言っていたが
喜多ちゃんは事故の原因が自分にあるのだと思い込み、
ぼっちの体が不自由になってしまったことに罪悪感を覚え自責の念を感じていた
ぼっち「そっか… 」
美智代「ひとりちゃん、どうかしたの?」
ぼっち「なんでもないよ、なんでも」
美智代「そう?ならいいけど 実は今日も喜多ちゃんが来てくれてるのよ」
ぼっち「本当?今何してるの?」
美智代「ひとりちゃんのためにご飯作ってくれてるわよ」
期末試験などは病室で受けることができ進級には問題がなかった
大学の進学も不安はあったものの
実家近くの大学に入学、家族に支えてもらいながら生活を送っていた
ぼっちは残された右腕を見つめる
自分の体重を支えるために
トレーニングに励んだ結果の隆起した筋肉
視線を脚先に向ける
薄いかけ布団に浮かぶ細い脚
何ともアンバランスな体だ
ぼっちは喜多ちゃんの記憶を探った
記憶の中で喜多ちゃんは生きている
高校を卒業した喜多ちゃんはぼっちと同じ大学に進学して、ぼっちの実家にほど近いアパートへと越してきたのだった
理由はわかっていた
ぼっちの介助をするためだ
毎日家を訪ねては、ぼっちのために色々と世話をしてくれていた
ぼっちは一人で起き上がることができるし
トイレも、シャワーを浴びることもできる
電動車イスを使って大学へ行き、買い物だってできるのだ
ぼっちは喜多ちゃんに心配はいらないと言っていたが
喜多ちゃんは事故の原因が自分にあるのだと思い込み、
ぼっちの体が不自由になってしまったことに罪悪感を覚え自責の念を感じていた
ぼっち「そっか… 」
美智代「ひとりちゃん、どうかしたの?」
ぼっち「なんでもないよ、なんでも」
美智代「そう?ならいいけど 実は今日も喜多ちゃんが来てくれてるのよ」
ぼっち「本当?今何してるの?」
美智代「ひとりちゃんのためにご飯作ってくれてるわよ」
61: 2023/03/03(金) 17:30:25.113 ID:xtcNtVAH00303
ぼっちは上体を起こすとかけ布団を取り払い
右手を使って右脚と左脚をそれぞれをベッドから下ろした
ベッドの脇に置いてある車イスに手をかけ体を持ち上げる
右腕で体を支えると、器用に車イスに腰を移した
美智代「いこっか」
ぼっちが頷くと美智代は車イスを押して部屋を出た
リビングの扉を開けると、ちょうど夕食の支度が調ったところだった
テーブルの上には白い蒸気を漂わせた料理が並んでいる
喜多ちゃんはイスに腰かけ、ぼっちが来るのを待っていたらしかった
喜多ちゃんはぼっちの顔を見ると笑顔を向けてきた
喜多「ひとりちゃんのために頑張っちゃいました」
ぼっちも笑顔で返す
ぼっち「おいしそう ありがとう喜多ちゃん」
ぼっちは喜多ちゃんの隣に車イスのままテーブルに着くと
美智代はぼっちの向かい側のイスに腰を下ろした
いただきます───そろって言うと
食卓の料理にはしを運んだ
喜多ちゃんはぼっちのために小皿に料理を盛り付け
スプーンですくうと、それをぼっちへ向けた
喜多「ひとりちゃん、あーんして」
ぼっち「じ、自分で食べますよぉ」
喜多「わがまま言っちゃダメよ はい、あーん」
ぼっち「わがままって… 」
ぼっちは渋々、あーんと言って口を開けて
喜多ちゃんに食べさせてもらった
喜多「おいしい?ひとりちゃん」
ぼっち「はい、すごくおいしいです」
喜多ちゃんは嬉しそうな表情を浮かべた
喜多「からあげ、ひとりちゃんの好物だったわよね?」
ぼっち「はい、味付けも好みです」
右手を使って右脚と左脚をそれぞれをベッドから下ろした
ベッドの脇に置いてある車イスに手をかけ体を持ち上げる
右腕で体を支えると、器用に車イスに腰を移した
美智代「いこっか」
ぼっちが頷くと美智代は車イスを押して部屋を出た
リビングの扉を開けると、ちょうど夕食の支度が調ったところだった
テーブルの上には白い蒸気を漂わせた料理が並んでいる
喜多ちゃんはイスに腰かけ、ぼっちが来るのを待っていたらしかった
喜多ちゃんはぼっちの顔を見ると笑顔を向けてきた
喜多「ひとりちゃんのために頑張っちゃいました」
ぼっちも笑顔で返す
ぼっち「おいしそう ありがとう喜多ちゃん」
ぼっちは喜多ちゃんの隣に車イスのままテーブルに着くと
美智代はぼっちの向かい側のイスに腰を下ろした
いただきます───そろって言うと
食卓の料理にはしを運んだ
喜多ちゃんはぼっちのために小皿に料理を盛り付け
スプーンですくうと、それをぼっちへ向けた
喜多「ひとりちゃん、あーんして」
ぼっち「じ、自分で食べますよぉ」
喜多「わがまま言っちゃダメよ はい、あーん」
ぼっち「わがままって… 」
ぼっちは渋々、あーんと言って口を開けて
喜多ちゃんに食べさせてもらった
喜多「おいしい?ひとりちゃん」
ぼっち「はい、すごくおいしいです」
喜多ちゃんは嬉しそうな表情を浮かべた
喜多「からあげ、ひとりちゃんの好物だったわよね?」
ぼっち「はい、味付けも好みです」
62: 2023/03/03(金) 17:31:20.210 ID:xtcNtVAH00303
美智代「いつもありがとね」
喜多「いえいえ、なんのこれしきですっ」
美智代「あら頼もしい、じゃあ私もからあげ頂こうかしら」
ぼっち「ふたりとお父さんは?」
美智代「今日はおばあちゃん家に行ってるわよ…うん美味しいわねこのからあげ」
喜多「よかった」
その日の食卓も賑やかだった
ぼっちは食後のコーラを飲みながら喜多ちゃんに聞いた
ぼっち「喜多ちゃん、今でもギター弾いてますか?」
喜多ちゃんは少し間をおいてから答えた
喜多「ううん、もうやってない」
ぼっち「え?どうしてやめちゃったんですか?」
喜多「それは、その…元からそんなに執着してないし… 」
喜多「それに、私には才能ないかなって思って」
ぼっち「そ、そんなことないですよ 喜多ちゃんのギター、私好きです」
喜多「ありがとう…でも、もういいの…本当に特に思い入れがあるわけじゃないから」
ぼっちにはそう見えなかった
───もしかして、私のせい?
口をついて出そうになった言葉を飲み込んだ
ぼっち「また聞かせてほしいです」
そう言って喜多ちゃんの目を見つめると
喜多ちゃんは視線を逸らした
喜多「そのうち、機会があれば…ね」
多分、もう二度と喜多ちゃんはギターを弾くことはないのだろうとぼっちは確信した
───私がいる限り
ならば、ぼっちはもう一度やり直そうと考えた
あの事故の日に戻って、今度は喜多ちゃんと自分自身を助けようと
喜多「いえいえ、なんのこれしきですっ」
美智代「あら頼もしい、じゃあ私もからあげ頂こうかしら」
ぼっち「ふたりとお父さんは?」
美智代「今日はおばあちゃん家に行ってるわよ…うん美味しいわねこのからあげ」
喜多「よかった」
その日の食卓も賑やかだった
ぼっちは食後のコーラを飲みながら喜多ちゃんに聞いた
ぼっち「喜多ちゃん、今でもギター弾いてますか?」
喜多ちゃんは少し間をおいてから答えた
喜多「ううん、もうやってない」
ぼっち「え?どうしてやめちゃったんですか?」
喜多「それは、その…元からそんなに執着してないし… 」
喜多「それに、私には才能ないかなって思って」
ぼっち「そ、そんなことないですよ 喜多ちゃんのギター、私好きです」
喜多「ありがとう…でも、もういいの…本当に特に思い入れがあるわけじゃないから」
ぼっちにはそう見えなかった
───もしかして、私のせい?
口をついて出そうになった言葉を飲み込んだ
ぼっち「また聞かせてほしいです」
そう言って喜多ちゃんの目を見つめると
喜多ちゃんは視線を逸らした
喜多「そのうち、機会があれば…ね」
多分、もう二度と喜多ちゃんはギターを弾くことはないのだろうとぼっちは確信した
───私がいる限り
ならば、ぼっちはもう一度やり直そうと考えた
あの事故の日に戻って、今度は喜多ちゃんと自分自身を助けようと
63: 2023/03/03(金) 17:32:06.655 ID:xtcNtVAH00303
ぼっち「喜多ちゃん、私の日記どこにあるか分かりますか?」
喜多「日記…? あぁ、そういえば付けてたわね」
美智代「日記なら確かダンボール箱の中にあったはずよ」
台所から母の声が聞こえた
喜多「じゃあ探してくるわね」
ぼっち「ありがとうございます」
喜多「ゆっくりしててね」
数分後、喜多ちゃんが一冊のノートを手にして戻ってきた
ぼっち「喜多ちゃん、それだけ…?」
喜多「うん、日記らしいのはこれ一冊しかなかったわ もちろん、中は見てないから安心してね」
ぼっちはがく然とした
そうだった、事故の後から一度も日記をつけた記憶がない
あの事故の記憶を記したものがなければ過去に戻ることができない
ぼっちは喜多ちゃんに手渡されたノートをめくる
日記は事故の当日にスターリーで書いた記述を最後にそれ以降は白紙だった
ぼっちは自分の頭の中にある記憶を必氏で探った
記憶が途切れたときのことを
その状況で事故を回避できるか否かを
日記に記された状況を頼りにして
───無かった あの事故を回避できる状況はこの日記には記されていない
ぼっちは絶望に胸をうがたれた
───もう、・・・しかない
ぼっちはお風呂に入ってきますと言って浴室へ向かう
喜多ちゃんは手伝うよと言ってついてこようとしたが
喜多ちゃんのエOチ───などと勇気を振りしぼって言うと
顔を赤らめて、もうひとりちゃんのおバカ───と怒ったように言い
リビングへ引き返していった
───これでいい
喜多「日記…? あぁ、そういえば付けてたわね」
美智代「日記なら確かダンボール箱の中にあったはずよ」
台所から母の声が聞こえた
喜多「じゃあ探してくるわね」
ぼっち「ありがとうございます」
喜多「ゆっくりしててね」
数分後、喜多ちゃんが一冊のノートを手にして戻ってきた
ぼっち「喜多ちゃん、それだけ…?」
喜多「うん、日記らしいのはこれ一冊しかなかったわ もちろん、中は見てないから安心してね」
ぼっちはがく然とした
そうだった、事故の後から一度も日記をつけた記憶がない
あの事故の記憶を記したものがなければ過去に戻ることができない
ぼっちは喜多ちゃんに手渡されたノートをめくる
日記は事故の当日にスターリーで書いた記述を最後にそれ以降は白紙だった
ぼっちは自分の頭の中にある記憶を必氏で探った
記憶が途切れたときのことを
その状況で事故を回避できるか否かを
日記に記された状況を頼りにして
───無かった あの事故を回避できる状況はこの日記には記されていない
ぼっちは絶望に胸をうがたれた
───もう、・・・しかない
ぼっちはお風呂に入ってきますと言って浴室へ向かう
喜多ちゃんは手伝うよと言ってついてこようとしたが
喜多ちゃんのエOチ───などと勇気を振りしぼって言うと
顔を赤らめて、もうひとりちゃんのおバカ───と怒ったように言い
リビングへ引き返していった
───これでいい
64: 2023/03/03(金) 17:33:28.337 ID:xtcNtVAH00303
ぼっちは浴室まで車イスで入り浴そうに溜まったお湯を見つめる
車イスから浴そうの淵に体を移すと右手で右脚を持ち上げ湯船に浸けた
次に左脚を浸すと手すりに掴まって体をゆっくりと沈めていく
水面から顔だけ出してしばらく思いを巡らせた
───きっとこの方がいいに決まってる
ぼっちは自分の体を醜いと感じることはなかったが
喜多ちゃんがギターを弾かなくなった原因が自分にあることをひどく悔やんだ
喜多ちゃんはきっと、ギターを弾けなくなった体のぼっちを傷つけまいと
自身もギターをやめたのだろう
───私のせいで
家族もぼっちの助けとなってくれてはいたが
負担になっているのではないかとぼっちは思っていた
───みんなに迷惑を
最後の希望も絶たれた
もう変えることはできない
自分のわがままが、あるべき未来をねじ曲げ
行き着いた先には不幸が待ち受けていた
───ごめんなさい、みんな
ぼっちは体を支えていた右手を手すりから離した
───さようなら
顔が湯船に沈み頭が浴そうの底についた
水面を見つめる
浴室の照明が水面の波に反射してきらきらと輝いていた
何かの影が光を遮った
水面から腕が差し込まれぼっちの方へ伸びてくる
小さな手がぼっちの体をしっかりと掴み、細い腕でぼっちを湯船から引き上げた
喜多「ひとりちゃんっ!大丈夫っ!?」
喜多ちゃんは涙を流して叫んでいた
多分、ぼっちが何をしようとしていたのかわかったのだろう
喜多ちゃんの声を聞きつけて美智代も浴室へと駆けつけた
同じように一目見て状況を飲み込んだ
2人はぼっちを抱きしめ声を上げて泣いた
ごめんなさい───と誰かが言う
氏んじゃだめ───と誰かが叱ってくれた
車イスから浴そうの淵に体を移すと右手で右脚を持ち上げ湯船に浸けた
次に左脚を浸すと手すりに掴まって体をゆっくりと沈めていく
水面から顔だけ出してしばらく思いを巡らせた
───きっとこの方がいいに決まってる
ぼっちは自分の体を醜いと感じることはなかったが
喜多ちゃんがギターを弾かなくなった原因が自分にあることをひどく悔やんだ
喜多ちゃんはきっと、ギターを弾けなくなった体のぼっちを傷つけまいと
自身もギターをやめたのだろう
───私のせいで
家族もぼっちの助けとなってくれてはいたが
負担になっているのではないかとぼっちは思っていた
───みんなに迷惑を
最後の希望も絶たれた
もう変えることはできない
自分のわがままが、あるべき未来をねじ曲げ
行き着いた先には不幸が待ち受けていた
───ごめんなさい、みんな
ぼっちは体を支えていた右手を手すりから離した
───さようなら
顔が湯船に沈み頭が浴そうの底についた
水面を見つめる
浴室の照明が水面の波に反射してきらきらと輝いていた
何かの影が光を遮った
水面から腕が差し込まれぼっちの方へ伸びてくる
小さな手がぼっちの体をしっかりと掴み、細い腕でぼっちを湯船から引き上げた
喜多「ひとりちゃんっ!大丈夫っ!?」
喜多ちゃんは涙を流して叫んでいた
多分、ぼっちが何をしようとしていたのかわかったのだろう
喜多ちゃんの声を聞きつけて美智代も浴室へと駆けつけた
同じように一目見て状況を飲み込んだ
2人はぼっちを抱きしめ声を上げて泣いた
ごめんなさい───と誰かが言う
氏んじゃだめ───と誰かが叱ってくれた
65: 2023/03/03(金) 17:34:41.985 ID:xtcNtVAH00303
ぼっちは2人に抱きしめられてようやく理解した
ぼっちのしようとしていた行為がなにをもたらすのか
誰も喜ばない
誰も救えない、救わない、救われない
誰かを、みんなを傷つけるだけなのだと
ぼっちは大粒の涙を流し
ごめんなさい、ごめんなさいと泣きながら謝った
ぼっちは自室に戻るとしばらく独りで考えていた
氏ぬことではなく、元に戻すことを
今の状況から皆を救いだす方法を
ふとぼっちの中にある考えが浮かんだ
───もし、私が結束バンドにいなかったら
───結束バンドそのものがなかったとしたら
喜多ちゃんは加入せずに事故にあうこともないだろう
では、他の皆はどうなるだろうか?
虹夏は音楽への道を諦めきれないと思う
虹夏の夢は姉である星歌のライブハウスを有名にすることにある
どんなことがあってもスターリーで音楽に携わる道を選ぶだろう
リョウは、どんな状況でも自分を偽らず器用に立ち回ることができるだろう
別の世界でクスリに手を出したのも
もとより、ぼっちが虹夏との時間を奪ったのが要因だった
ぼっちは自分自身に目を向ける
結束バンドがなかったら、自分はどうなってしまうだろうか
空虚だった日々に心から願ったこと
それはバンド、バンドを通して出会う仲間───それを失ったとしても受け入れて生活していけるだろうか
なにか別のことに心を惹かれてそれに打ち込む日々を送るのだろうか
不安は数え切れない
でもぼっちは自分を信じることしかできなかった
───どんな結果になろうとも私は、私だ
それを恥じたり悔やむことはしないと心に誓った
ぼっちのしようとしていた行為がなにをもたらすのか
誰も喜ばない
誰も救えない、救わない、救われない
誰かを、みんなを傷つけるだけなのだと
ぼっちは大粒の涙を流し
ごめんなさい、ごめんなさいと泣きながら謝った
ぼっちは自室に戻るとしばらく独りで考えていた
氏ぬことではなく、元に戻すことを
今の状況から皆を救いだす方法を
ふとぼっちの中にある考えが浮かんだ
───もし、私が結束バンドにいなかったら
───結束バンドそのものがなかったとしたら
喜多ちゃんは加入せずに事故にあうこともないだろう
では、他の皆はどうなるだろうか?
虹夏は音楽への道を諦めきれないと思う
虹夏の夢は姉である星歌のライブハウスを有名にすることにある
どんなことがあってもスターリーで音楽に携わる道を選ぶだろう
リョウは、どんな状況でも自分を偽らず器用に立ち回ることができるだろう
別の世界でクスリに手を出したのも
もとより、ぼっちが虹夏との時間を奪ったのが要因だった
ぼっちは自分自身に目を向ける
結束バンドがなかったら、自分はどうなってしまうだろうか
空虚だった日々に心から願ったこと
それはバンド、バンドを通して出会う仲間───それを失ったとしても受け入れて生活していけるだろうか
なにか別のことに心を惹かれてそれに打ち込む日々を送るのだろうか
不安は数え切れない
でもぼっちは自分を信じることしかできなかった
───どんな結果になろうとも私は、私だ
それを恥じたり悔やむことはしないと心に誓った
66: 2023/03/03(金) 17:35:46.498 ID:xtcNtVAH00303
ぼっちは日記を開いた
あれは、ぼっちが高校1年の夏
見慣れた、懐かしい場所だった
ぼっちは星歌に頼まれてスターリーで搬入作業を手伝っていた
作業も一段落しジュースを飲んで休憩している
とっさに立ち上がるとキッチンへ足を向けた
───何をすればいいだろうか?
───そうだ、結束バンドを辞めるんだ
───でも、どうやって?
ぼっちの手はシンクに置かれた包丁を掴んでいた
───壊すんだ───何を?
───ギターだ
───ギターを壊すんだ
>>7
決意は固まった
ぼっちは引き戸の向こう側にいるであろう母親に声をかけた
あれは、ぼっちが高校1年の夏
見慣れた、懐かしい場所だった
ぼっちは星歌に頼まれてスターリーで搬入作業を手伝っていた
作業も一段落しジュースを飲んで休憩している
とっさに立ち上がるとキッチンへ足を向けた
───何をすればいいだろうか?
───そうだ、結束バンドを辞めるんだ
───でも、どうやって?
ぼっちの手はシンクに置かれた包丁を掴んでいた
───壊すんだ───何を?
───ギターだ
───ギターを壊すんだ
>>7
決意は固まった
ぼっちは引き戸の向こう側にいるであろう母親に声をかけた
67: 2023/03/03(金) 17:36:44.826 ID:xtcNtVAH00303
ぼっち「お母さん、いるんでしょ?」
娘のことが心配だったのだろう
美智代は引き戸のすぐ前で聞き耳を立てていた
美智代「ばれてた?」
ぼっち「お母さんは優しいから」
美智代「ありがとう それで、私に何か頼みごと?」
ぼっち「うん、一年生のときの文化祭ライブの映像を見せてほしくて」
美智代「ごめんね、ひとりちゃん 辛い思いをするだけだからって喜多ちゃんや他の人にも止められてるの」
ぼっち「どうしても?」
美智代「みんなとの約束よ そう簡単には破れないわ」
美智代「だけど、なんで急にそんなこと言い出すのか 納得できる理由を聞かせてくれたら見せてあげてもいいわよ」
ぼっち「わかった 全部話すよ」
ぼっちは語った
記憶の途切れる症状の治療として付けていた日記──その日記の記述を見ると記憶の途切れていた間の過去へ戻れることを
その過去から未来を変えられることを
事故で亡くなるはずだった喜多ちゃんを救うために自分が犠牲になったことも話した
美智代は信じられないといった表情をしていた
当たり前だろうとぼっちも思う
ぼっちは日記の一番最初のページをめくると美智代に言った
ぼっち「お母さん、私の手のひら見てて」
ぼっちはそう言って美智代に手のひらを向ける
美智代が頷いたのを確認すると
ぼっちは日記の記述を見つめる
娘のことが心配だったのだろう
美智代は引き戸のすぐ前で聞き耳を立てていた
美智代「ばれてた?」
ぼっち「お母さんは優しいから」
美智代「ありがとう それで、私に何か頼みごと?」
ぼっち「うん、一年生のときの文化祭ライブの映像を見せてほしくて」
美智代「ごめんね、ひとりちゃん 辛い思いをするだけだからって喜多ちゃんや他の人にも止められてるの」
ぼっち「どうしても?」
美智代「みんなとの約束よ そう簡単には破れないわ」
美智代「だけど、なんで急にそんなこと言い出すのか 納得できる理由を聞かせてくれたら見せてあげてもいいわよ」
ぼっち「わかった 全部話すよ」
ぼっちは語った
記憶の途切れる症状の治療として付けていた日記──その日記の記述を見ると記憶の途切れていた間の過去へ戻れることを
その過去から未来を変えられることを
事故で亡くなるはずだった喜多ちゃんを救うために自分が犠牲になったことも話した
美智代は信じられないといった表情をしていた
当たり前だろうとぼっちも思う
ぼっちは日記の一番最初のページをめくると美智代に言った
ぼっち「お母さん、私の手のひら見てて」
ぼっちはそう言って美智代に手のひらを向ける
美智代が頷いたのを確認すると
ぼっちは日記の記述を見つめる
68: 2023/03/03(金) 17:37:54.572 ID:xtcNtVAH00303
一番最初、日記に書いた美術の授業でのできごと
ぼっちがきょろきょろと周りを見回していると教師が絵を描くようにと注意した
ぼっちは、素早く適当に絵を描き上げて
それを提出するために立ち上がる
ぼっちは教卓に置いてある彫刻刀に目をとめた
ぼっちは教卓の上に絵を伏せて置くと
教師の目を盗んで彫刻刀を掴み上げ
右手の手のひらに深く突き刺した
光に包まれると母親の声が聞こえた
美智代「ひとりちゃん…手… 」
驚いた表情でぼっちの手を見つめていた
ぼっちの手にはくっきりと彫刻刀で刺した傷跡が残っていた
美智代にとっては突然傷跡が浮かび上がったようにしか見えなかっただろう
それを見てぼっちの言葉を信じたのか
文化祭ライブのDVDを持ってくると言って部屋を出ていった
一人静かな部屋
ぼっちはやり残したことを全て済ませようと思い日記のページをめくる
───喜多ちゃんとデート
>>15
ぼっちと喜多ちゃんは手を繋ぎ静かな通りを歩いていた
ぼっちが足を止めると喜多ちゃんも立ち止まってぼっちに顔を向けてきた
ぼっち「喜多ちゃん、今までありがとう」
喜多「え、なに? お別れみたいなこと言って」
ぼっちがきょろきょろと周りを見回していると教師が絵を描くようにと注意した
ぼっちは、素早く適当に絵を描き上げて
それを提出するために立ち上がる
ぼっちは教卓に置いてある彫刻刀に目をとめた
ぼっちは教卓の上に絵を伏せて置くと
教師の目を盗んで彫刻刀を掴み上げ
右手の手のひらに深く突き刺した
光に包まれると母親の声が聞こえた
美智代「ひとりちゃん…手… 」
驚いた表情でぼっちの手を見つめていた
ぼっちの手にはくっきりと彫刻刀で刺した傷跡が残っていた
美智代にとっては突然傷跡が浮かび上がったようにしか見えなかっただろう
それを見てぼっちの言葉を信じたのか
文化祭ライブのDVDを持ってくると言って部屋を出ていった
一人静かな部屋
ぼっちはやり残したことを全て済ませようと思い日記のページをめくる
───喜多ちゃんとデート
>>15
ぼっちと喜多ちゃんは手を繋ぎ静かな通りを歩いていた
ぼっちが足を止めると喜多ちゃんも立ち止まってぼっちに顔を向けてきた
ぼっち「喜多ちゃん、今までありがとう」
喜多「え、なに? お別れみたいなこと言って」
69: 2023/03/03(金) 17:38:42.626 ID:xtcNtVAH00303
ぼっち「はい、お別れを言いに来ました」
喜多ちゃんは冗談だとでも思ったのだろう
驚きと困惑の表情を浮かべた
喜多「どういうことなの?ひとりちゃん」
ぼっち「喜多ちゃんは、誰かから私の病気のこと聞いてますか?」
喜多「ひとりちゃんのお母さんから、少しだけど ひとりちゃんは記憶が時々なくなるって… 」
ぼっち「そうです、その間は未来から来た私が体を乗っ取るんです」
ぼっちはわざと冗談めかせて言った
喜多ちゃんも信じることはなく笑いながら言った
喜多「もう、そんな話信じないわよ」
ぼっち「はい、信じてくれなくていいんです」
ぼっち「今日は…今の喜多ちゃんにお別れを言いに来ただけだから… 」
ぼっち「多分、もう少ししたら私の記憶はなくなって喜多ちゃんに不思議そうな顔を向けると思います 心配しないでいいよって言ってあげてほしいです」
喜多ちゃんがぼっちの言葉を信じたかどうかは分からなかった
ただ、ぼっちを真剣な顔で見つめてぼっちの言葉に耳を傾けていた
ぼっち「それで、喜多ちゃん…どうしても今の喜多ちゃんに伝えたいことがあります」
ぼっち「私の時代───未来の喜多ちゃんにこんなこと言うと悲しむと思うので今の喜多ちゃんに言うんですけど」
ぼっち「私は、喜多ちゃんのギターが大好きです だからギター、弾き続けてください」
ぼっち「喜多ちゃんは可愛くて、優しくて、時々カッコよくて いつも私を助けてくれますよね」
ぼっち「いっぱい感謝してます…ありがとうございます…ごめんなさい…それから───」
ぼっち「喜多ちゃんのこと大好きだよっ」
喜多ちゃんは冗談だとでも思ったのだろう
驚きと困惑の表情を浮かべた
喜多「どういうことなの?ひとりちゃん」
ぼっち「喜多ちゃんは、誰かから私の病気のこと聞いてますか?」
喜多「ひとりちゃんのお母さんから、少しだけど ひとりちゃんは記憶が時々なくなるって… 」
ぼっち「そうです、その間は未来から来た私が体を乗っ取るんです」
ぼっちはわざと冗談めかせて言った
喜多ちゃんも信じることはなく笑いながら言った
喜多「もう、そんな話信じないわよ」
ぼっち「はい、信じてくれなくていいんです」
ぼっち「今日は…今の喜多ちゃんにお別れを言いに来ただけだから… 」
ぼっち「多分、もう少ししたら私の記憶はなくなって喜多ちゃんに不思議そうな顔を向けると思います 心配しないでいいよって言ってあげてほしいです」
喜多ちゃんがぼっちの言葉を信じたかどうかは分からなかった
ただ、ぼっちを真剣な顔で見つめてぼっちの言葉に耳を傾けていた
ぼっち「それで、喜多ちゃん…どうしても今の喜多ちゃんに伝えたいことがあります」
ぼっち「私の時代───未来の喜多ちゃんにこんなこと言うと悲しむと思うので今の喜多ちゃんに言うんですけど」
ぼっち「私は、喜多ちゃんのギターが大好きです だからギター、弾き続けてください」
ぼっち「喜多ちゃんは可愛くて、優しくて、時々カッコよくて いつも私を助けてくれますよね」
ぼっち「いっぱい感謝してます…ありがとうございます…ごめんなさい…それから───」
ぼっち「喜多ちゃんのこと大好きだよっ」
70: 2023/03/03(金) 17:39:17.920 ID:xtcNtVAH00303
喜多ちゃんの瞳には涙が溜まっていた
喜多「嘘…だよね そんなこと言ってお別れなんて…卑怯よ… 」
ぼっち「喜多ちゃん、さようなら───」
喜多「いやっ!嫌よひとりちゃんっ!私、まだ何も言ってないっ!」
喜多「ひとりちゃんはずるい…自分の思いだけ伝えて…私も、私だって───」
喜多ちゃんの頬に一筋の涙が伝う
喜多ちゃんはぼっちの肩に腕を回すとぼっちの唇にキスをした
───ひとりちゃんのことが好き
喜多ちゃんの思いは確かにぼっちへと伝わった
ぼっちは右手でそっと唇に触れた
喜多ちゃんの柔らかな唇の感触が残っている
───はじめてのキスは涙の味がした
ぼっちは自分が涙を流していることに気づいた
幸せな感情が液体となって頬を濡らす
喜多「嘘…だよね そんなこと言ってお別れなんて…卑怯よ… 」
ぼっち「喜多ちゃん、さようなら───」
喜多「いやっ!嫌よひとりちゃんっ!私、まだ何も言ってないっ!」
喜多「ひとりちゃんはずるい…自分の思いだけ伝えて…私も、私だって───」
喜多ちゃんの頬に一筋の涙が伝う
喜多ちゃんはぼっちの肩に腕を回すとぼっちの唇にキスをした
───ひとりちゃんのことが好き
喜多ちゃんの思いは確かにぼっちへと伝わった
ぼっちは右手でそっと唇に触れた
喜多ちゃんの柔らかな唇の感触が残っている
───はじめてのキスは涙の味がした
ぼっちは自分が涙を流していることに気づいた
幸せな感情が液体となって頬を濡らす
71: 2023/03/03(金) 17:39:59.143 ID:xtcNtVAH00303
最後にみんなの顔を見よう
ぼっちは日記の最後のページを開いた
>>16
スターリーにはみんながいた
今まで取り戻したいと願っていた
あの頃のみんなが
───でもごめんなさい 私は戻れないです
ぼっちはこれから壊そうとしているのだ
今ここにある風景を
今まで築き上げた関係を
ぼっちの愛した大切な結束バンドを
好きで仕方ないものを、ずっと好きでいたいから
一番守りたいものを、守るために、壊すのだ
───虹夏ちゃん、臆病な私の手をいつも引いてくれたこと、とても感謝してます
───リョウさん、寂しくなったら虹夏ちゃんを頼ってください 虹夏ちゃんはすごく喜ぶと思います
───喜多ちゃん、大好きだよ
───みなさん、本当にありがとうございました
ぼっちは日記の最後のページを開いた
>>16
スターリーにはみんながいた
今まで取り戻したいと願っていた
あの頃のみんなが
───でもごめんなさい 私は戻れないです
ぼっちはこれから壊そうとしているのだ
今ここにある風景を
今まで築き上げた関係を
ぼっちの愛した大切な結束バンドを
好きで仕方ないものを、ずっと好きでいたいから
一番守りたいものを、守るために、壊すのだ
───虹夏ちゃん、臆病な私の手をいつも引いてくれたこと、とても感謝してます
───リョウさん、寂しくなったら虹夏ちゃんを頼ってください 虹夏ちゃんはすごく喜ぶと思います
───喜多ちゃん、大好きだよ
───みなさん、本当にありがとうございました
72: 2023/03/03(金) 17:40:47.945 ID:xtcNtVAH00303
目の前には母がいた
美智代「ひとりちゃん、泣いてるの?」
ぼっち「うん」
美智代「私にできることある?」
ぼっち「だっこ、してほしいな」
美智代「いつまでも甘えん坊さんなんだから」
ぼっちをそっと抱きしめた
ぼっち「お母さん」
美智代「なに?」
ぼっち「私たち、ずっと家族だよね」
美智代「当たり前でしょ 永遠に私の娘よ 大好きで大切な私の娘」
もう何も怖くなかった
美智代は持ってきたDVDをプレイヤーにセットしてリモコンをぼっちに渡した
ぼっちはしばらく一人にしてほしいといって
美智代には部屋から出ていってもらった
ぼっちは再生ボタンを押す
1年生の時の文化祭ライブ
父が撮ってくれた映像だ
確信はあった
記憶のなくなった記憶と、記録さえあれば過去へとさかのぼることができるのだと
演奏が終盤に差しかかるとテレビの画面が歪み始めた
映像は演奏の終了と同時に止まり、ぼっちは画面へと吸い込まれる
美智代「ひとりちゃん、泣いてるの?」
ぼっち「うん」
美智代「私にできることある?」
ぼっち「だっこ、してほしいな」
美智代「いつまでも甘えん坊さんなんだから」
ぼっちをそっと抱きしめた
ぼっち「お母さん」
美智代「なに?」
ぼっち「私たち、ずっと家族だよね」
美智代「当たり前でしょ 永遠に私の娘よ 大好きで大切な私の娘」
もう何も怖くなかった
美智代は持ってきたDVDをプレイヤーにセットしてリモコンをぼっちに渡した
ぼっちはしばらく一人にしてほしいといって
美智代には部屋から出ていってもらった
ぼっちは再生ボタンを押す
1年生の時の文化祭ライブ
父が撮ってくれた映像だ
確信はあった
記憶のなくなった記憶と、記録さえあれば過去へとさかのぼることができるのだと
演奏が終盤に差しかかるとテレビの画面が歪み始めた
映像は演奏の終了と同時に止まり、ぼっちは画面へと吸い込まれる
73: 2023/03/03(金) 17:41:56.423 ID:xtcNtVAH00303
歓声がぼっちの鼓膜を震わせた
体育館の舞台の上、あの懐かしく、達成感を伴った感情がぼっちの胸を揺さぶった
この清々しい気分をいつまでも味わっていたくなる
───今しかないんだ これが最後のチャンスなんだ
とっくに決意は固まっていた
ためらう必要はない
不安も恐怖も今は感じない
ぼっちはストラップを肩から外すとネックを両手で握りしめギターを大きく振り上げる
───ごめんなさい、ありがとう
そして───さようなら
勢いよく壇上に叩きつけた
・・・しかし現在に引き戻されない
───まだだっ!まだ足りないんだっ!
まだやれることがある
そう思いに駆られてぼっちは走り出した
自分の教室へ向かう
カバンから日記を取り出してページをめくる
────結束バンドのメンバーになった
ぼっちが強く念じると文字がうごめき風景が歪み始めた
過去の記録の中からさらに過去へ
まばゆい光に呑み込まれた
>>5
そこは、虹夏と最初に出会った公園だった
目の前にはきょとんとした表情を浮かべる虹夏がいた
虹夏「それギターだよねっ弾けるの?…おーい」
ぼっち「…あ…いけ… 」
虹夏「ん?」
ぼっち「あっち行けよっ!あっち行けあっち行けあっち行けあっち行けあっち行けぇ!!!!」
虹夏「え…ご、ごめんなさい…ほんとに…ごめんなさい… 」
ぼっちの狂気に迫る怒声に虹夏は足早に公園から立ち去った
ぼっち「ごめんなさい虹夏ちゃん…元気でね… 」
体育館の舞台の上、あの懐かしく、達成感を伴った感情がぼっちの胸を揺さぶった
この清々しい気分をいつまでも味わっていたくなる
───今しかないんだ これが最後のチャンスなんだ
とっくに決意は固まっていた
ためらう必要はない
不安も恐怖も今は感じない
ぼっちはストラップを肩から外すとネックを両手で握りしめギターを大きく振り上げる
───ごめんなさい、ありがとう
そして───さようなら
勢いよく壇上に叩きつけた
・・・しかし現在に引き戻されない
───まだだっ!まだ足りないんだっ!
まだやれることがある
そう思いに駆られてぼっちは走り出した
自分の教室へ向かう
カバンから日記を取り出してページをめくる
────結束バンドのメンバーになった
ぼっちが強く念じると文字がうごめき風景が歪み始めた
過去の記録の中からさらに過去へ
まばゆい光に呑み込まれた
>>5
そこは、虹夏と最初に出会った公園だった
目の前にはきょとんとした表情を浮かべる虹夏がいた
虹夏「それギターだよねっ弾けるの?…おーい」
ぼっち「…あ…いけ… 」
虹夏「ん?」
ぼっち「あっち行けよっ!あっち行けあっち行けあっち行けあっち行けあっち行けぇ!!!!」
虹夏「え…ご、ごめんなさい…ほんとに…ごめんなさい… 」
ぼっちの狂気に迫る怒声に虹夏は足早に公園から立ち去った
ぼっち「ごめんなさい虹夏ちゃん…元気でね… 」
74: 2023/03/03(金) 17:42:46.713 ID:xtcNtVAH00303
エピローグ
虹夏はやはり音楽に関わる道を選んだ
芳大に通いながらスターリーで働き、星歌を支えた
さらにバンドを組んで活動しているらしい
リョウも虹夏と同じ大学へ進学した
そして虹夏と同じバンドで活動し暇があれば
伊地知家に入り浸っているのだった
ぼっちは───ぼっちは地元の大学に進学した
あれ以来、ギターには触れていない
にもかかわらず、結束バンドとして演奏した曲は体に染み付いたままで
きっと、今ギターを渡されても完ぺきに弾きこなせるだろう
美智代「ひとりちゃん、本当にこれも燃やしちゃっていいの?」
美智代はギターケースの中、ボロボロになったギターを見ながら言った
ぼっち「うん、アルバムも全部」
美智代「そう ひとりちゃん、なんか吹っ切れたみたいな顔してるわね」
母は優しく暖かな眼差しを向けてきた
ぼっち「お母さん、前にも同じようなこと言ってなかった?」
美智代「そう?気のせいじゃないかしら」
喜多ちゃんの近況は風の噂で聞いた
喜多ちゃんは高校卒業後、大学へ進学した
週末には一人、路上で弾き語りをしているらしい
その演奏は道行く人々の心を打ちTVなどでも紹介されたと聞く
喜多ちゃんは精力的に路上ライブを続け自作のCDを手売りして自らの思いを込めた音楽を
大勢の人に届けていた
虹夏はやはり音楽に関わる道を選んだ
芳大に通いながらスターリーで働き、星歌を支えた
さらにバンドを組んで活動しているらしい
リョウも虹夏と同じ大学へ進学した
そして虹夏と同じバンドで活動し暇があれば
伊地知家に入り浸っているのだった
ぼっちは───ぼっちは地元の大学に進学した
あれ以来、ギターには触れていない
にもかかわらず、結束バンドとして演奏した曲は体に染み付いたままで
きっと、今ギターを渡されても完ぺきに弾きこなせるだろう
美智代「ひとりちゃん、本当にこれも燃やしちゃっていいの?」
美智代はギターケースの中、ボロボロになったギターを見ながら言った
ぼっち「うん、アルバムも全部」
美智代「そう ひとりちゃん、なんか吹っ切れたみたいな顔してるわね」
母は優しく暖かな眼差しを向けてきた
ぼっち「お母さん、前にも同じようなこと言ってなかった?」
美智代「そう?気のせいじゃないかしら」
喜多ちゃんの近況は風の噂で聞いた
喜多ちゃんは高校卒業後、大学へ進学した
週末には一人、路上で弾き語りをしているらしい
その演奏は道行く人々の心を打ちTVなどでも紹介されたと聞く
喜多ちゃんは精力的に路上ライブを続け自作のCDを手売りして自らの思いを込めた音楽を
大勢の人に届けていた
75: 2023/03/03(金) 17:43:34.694 ID:xtcNtVAH00303
ぼっち「…お父さん、ギター壊してごめんなさいっ」
美智代「もう、散々謝ったでしょ 大丈夫よ」
ぼっち「うん…ちなみに空き地でこんなもの燃やしちゃっていいのかな?」
美智代「細かいことは気にしないの」
美智代「とにかくね、ひとりちゃんが元気になるなら私は地球が壊れたって気にしないのよ」
ぼっち「お母さん、それはちょっと言い過ぎだよ」
ぼっちが笑うと、美智代もぼっちの笑顔につられて笑う
二人は声を上げて笑い合った
灰色の煙が緩やかに空に向かって立ち昇る
小さな空気の流れが、煙の形を大きく変える
人もまた小さな要因で大きく人生を変えてしまう
リョウのように、ぼっちのたった一言でまったく違う人生を歩む運命もある
虹夏のように、確固たる意思を持って自らの道を歩み続ける人間もいる
ぼっちは、様々な人生に───運命に翻弄されていただけなのかもしれない
ぼっちはその夜夢を見た
行ったことのない異国の地
巨大観覧車の大きなゴンドラの中で虹夏と、リョウと、喜多ちゃんと一緒にバンド演奏をしている
観客はぼっちの家族と星歌、PAさん、きくりだけ
そんなささやかな、あの日、あの時、あの場所で、喜多ちゃんと語りあった夢を見た
───幸せな夢を
おしまい
美智代「もう、散々謝ったでしょ 大丈夫よ」
ぼっち「うん…ちなみに空き地でこんなもの燃やしちゃっていいのかな?」
美智代「細かいことは気にしないの」
美智代「とにかくね、ひとりちゃんが元気になるなら私は地球が壊れたって気にしないのよ」
ぼっち「お母さん、それはちょっと言い過ぎだよ」
ぼっちが笑うと、美智代もぼっちの笑顔につられて笑う
二人は声を上げて笑い合った
灰色の煙が緩やかに空に向かって立ち昇る
小さな空気の流れが、煙の形を大きく変える
人もまた小さな要因で大きく人生を変えてしまう
リョウのように、ぼっちのたった一言でまったく違う人生を歩む運命もある
虹夏のように、確固たる意思を持って自らの道を歩み続ける人間もいる
ぼっちは、様々な人生に───運命に翻弄されていただけなのかもしれない
ぼっちはその夜夢を見た
行ったことのない異国の地
巨大観覧車の大きなゴンドラの中で虹夏と、リョウと、喜多ちゃんと一緒にバンド演奏をしている
観客はぼっちの家族と星歌、PAさん、きくりだけ
そんなささやかな、あの日、あの時、あの場所で、喜多ちゃんと語りあった夢を見た
───幸せな夢を
おしまい
76: 2023/03/03(金) 17:45:42.350 ID:xtcNtVAH00303
終わりです
ありがとうございました
ありがとうございました
78: 2023/03/03(金) 17:57:58.715 ID:/NKKqezf00303
おつかれさま
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