80: 2018/10/09(火) 21:28:50 ID:i/yJRFN.

「んー……っと」


 シンデレラプロジェクト。
 それは、女の子の輝く夢を叶えるためのプロジェクト。


「確か、このフロアって話だったよ……ね」


 ……って言っても、まだメンバーも集まってないみたいだケドね。
 企画が立ち上がって、担当するプロデューサーが決まって。
 形になっていってる真っ最中、ってトコかな。


「あ、多分あそこだ」


 ドアが、ほんの少し開いてる部屋を見つけた。
 今日は、ルームの家具を運び入れる、ってコトらしいから。
 でも、ドアが開いてるなんてラッキー★
 やっぱアタシ、ついてる~!


「……あ、ヤバ」


 此処まで来たケド、大事なコトを確認し忘れてた。
 ……担当のプロデューサー、居るかな。
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(12) (電撃コミックスEX)
81: 2018/10/09(火) 21:39:10 ID:i/yJRFN.

「……」


 そっと、ドアの隙間から中を覗いてみる。
 中の電気は点いてたから、誰か居る筈だよね。


「……んっ」


 居た。
 プロジェクトルームの、通路の終点。
 部屋の入り口に当たる場所に立って、リストをチェックする大きな後ろ姿。
 身長、たっか……って、寝癖立ってんじゃん。


「……」


 こういう時って、なんて声をかけたら良いんだろ。
 あの人、思いっきり仕事中みたいだし。
 アタシの用事は、まあ……仕事と言えば、仕事だケド。
 でも、ちょっぴり気が引ける。


「……っ!」


 ええい! 悩んでたって、仕方ない!

82: 2018/10/09(火) 21:50:06 ID:i/yJRFN.

「すみませーん!」


 少しだけドアを開けて、声をかけた。
 ちょっと離れてても、全然問題無い。
 何せ、アタシってばアイドルですから。
 ダンスも得意だケド、歌――声を出すのも、自信アリ★


「――はい」


 低く、良く通る声が返ってきた。
 返事と共に、声の主がゆっくりと振り返った。


「……ぅっ」


 ……ヤバ!
 チョー顔怖いんですケド!
 思わず変な声出そうになったケド、聞こえてないよね!?


「貴女は?」


 無表情で、こちらを見る鋭い目。
 アタシは、声をかけたのを少し後悔した。

83: 2018/10/09(火) 21:58:45 ID:i/yJRFN.

「ええっ、と」


 でも、部屋の中にこの人しか居ないっぽいし、しょうがない。
 今更、別に何でもありませーん、じゃ通じないよね。
 ……うん、オッケ、落ち着いた。


「シンデレラプロジェクトの、担当プロデューサーって……」


 ――どこに居るか、知ってますか?


 って聞こうと、ほんの少しだけ、言葉を切った。
 その、ほんの少し……ほんのちょっとの隙間に、


「はい、私ですが……何か、御用でしょうか?」


 なんて、全然考えもしなかった言葉が差し込まれた。
 あまりに予想外で、突然過ぎて、


「ウソッ!? アンタがそうなの!?」


 大きな声をあげてしまった。

84: 2018/10/09(火) 22:16:18 ID:i/yJRFN.

「はい、そうですが……」


 アタシが大声で驚いても、表情一つ変えてない。
 物凄く失礼な反応をしたのに。
 戸惑ってるのか、怒ってるのか、何を考えてるのかサッパリ。
 ただ、右手を首筋にやっただけ。


「ごっ、ごめんなさい! 今のは、そういう意味じゃなくて!」


 マジ、最悪!
 話があったのに、これじゃ第一印象チョー悪いじゃん!
 でも、何て言ったら良いワケ!?
 顔が怖くて、プロデューサーと思わなかったとか、言えないって!


「……」


 無言で、アタシの眼の前まで歩いて来ると、持っていたリストを小脇に抱えた。
 上着の内側のポケットからケースを取り出し、中身の、


「――こちらが、名刺になります」


 受け取る時の「どうも」という声は、消え入りそうな程小さかった。

85: 2018/10/09(火) 22:33:21 ID:i/yJRFN.
  ・  ・  ・

 ――少しだけ、待っていてください。


「……」


 そう言われたアタシは、プロジェクトルームの一室。
 大きなプロデューサー用のデスクと、
ちょっとした応接用の机と椅子が置かれた、小さな部屋に通された。
 小さいと言っても、ケッコー広いんだケドね。


「……」


 入口側の椅子に腰掛けながら、あの人を待つ。
 手持ち無沙汰で、横に置いたカバンの取ってを指で弄ぶ。
 さっき、あんな態度取っちゃったんだもん。
 ケータイとかイジってたら、感じ悪いっしょ?


「……」


 でも、この部屋……殺風景すぎ。
 いくら仕事場で、プロジェクトの始動前だからって。
 窓から日の光が差し込んでこないのも、圧迫感を感じる。

86: 2018/10/09(火) 22:47:06 ID:i/yJRFN.

「……」


 ちょっと見た感じだと、もう使い始めては居るみたいなんだケド。
 その証拠に、デスクの上にはノートパソコンが置かれてるし、
ペンケースにも……って、アタシってば何考えてんのよ。
 これじゃ、ドラマに出てくるお姑さんみたいじゃん。


「――お待たせしました」


 カチャリとドアが開く音と共に、この部屋の主が入ってきた。
 気を抜いてたから、体が驚きでちょっと浮き上がっちゃった。


「全然、そんなコトありません」


 でも、すぐに切り替え、落ち着きを取り戻す。
 だって、これから大事な話をしなきゃいけないんだもん。


「それに、用事があるのは、アタシの方ですから」


 シンデレラプロジェクトのメンバーの……一次オーディション。
 数日後に行われるそれに、アタシの妹が参加する。
 大事な……大事なアタシの妹の、莉嘉が。

87: 2018/10/09(火) 23:02:18 ID:i/yJRFN.

「それと、自己紹介が遅れて、すみません」


 正面を真っ直ぐ見据えながら、言う。


「城ヶ崎美嘉。アイドル部門で、アイドルとして活動してます」


 トーゼン、向こうも知ってる。
 むしろ、ウチの事務所で働いてて、カリスマJkアイドル、城ヶ崎美嘉を知らないなんて、
そんなのある筈無いんだけど……ね。
 これは、思い上がりでも何でも無い、ただの事実。


「はい。ご活躍の方は、把握しています」


 アタシは、今の自己紹介で、それを明確にしただけ。
 これからする話にも、関わってくるから。


 ――アタシが、既に現役で活躍してる、アイドルってコトが。


「ありがとうございます」


 緊張を胸の奥に押し込めながら、ニッコリと微笑んだ。

88: 2018/10/09(火) 23:12:38 ID:i/yJRFN.

「それで、お話と言うのは?」


 無表情にアタシを見る、シンデレラプロジェクトのプロデューサー。
 その目は、真っ直ぐにアタシの瞳を捉えていた。
 フツーだったらさ、ちょっと位シャツの胸元とか、足に目が行ったりするのに。
 ……って、今はソレは関係ないか。


「シンデレラプロジェクトの、一次オーディションに――」


 本題に、


「アタシの妹――城ヶ崎莉嘉が、参加しますよね」


 入った。


「ええ、その予定です」


 まだ、表情は変わらない。
 アタシも、微笑みを崩さない。

89: 2018/10/09(火) 23:23:56 ID:i/yJRFN.

「……」


 この人が、オーディションの参加者を把握しているのか。
 それとも、‘アタシの妹だから’莉嘉の名前を覚えていたのか。
 それはまだ、判別がつかない。
 だから、アタシは言葉を続けた。


「それで、合格したら……」


 一度、言葉を切って、



「アタシの妹として、デビューさせますか?」



 真っ直ぐ、真剣に。
 さっきまで顔に貼り付けてた笑顔を放り投げて。
 とても重要で、大事で、知っておきたいコトを聞いた。


「……」


 でも、表情は一向に崩れなかった。

90: 2018/10/09(火) 23:38:18 ID:i/yJRFN.

「……」


 無表情のまま、右手を首筋にやってる。


「……」


 そして、数秒間の完全な沈黙。
 打ち破ったのは――シンデレラプロジェクトのプロデューサー。


「貴女は……そして、妹さんは、それを希望しているのでしょうか」


 ――莉嘉には、莉嘉のイイ所がいっぱいあるんだから!


「してない! 全然、そんなコト無い!」


 ――そこに目を向けず、アタシの妹として‘だけ’扱うなんて。


「……です」


 そんなの絶対ダメ、許せない。

91: 2018/10/09(火) 23:48:28 ID:i/yJRFN.

「……成る程」


 姉妹だから、後からデビューした方が影響を受けるのは仕方ない。
 だって、お仕事だから。
 より売れる――稼げる方向で売り出すのは、トーゼンだケドさ。


 それじゃあ……莉嘉は、きっと心の底から楽しめないと思う。


「……」


 アタシの妹としか、見られない。
 カリスマJKアイドル、城ヶ崎美嘉の妹のアイドルとしか。


 アイドル、城ヶ崎莉嘉として見て貰えない。


 ……そんなの絶対ダメ。


「――それを聞いて、安心しました」


 えっ?…………安心?

92: 2018/10/10(水) 00:01:25 ID:Ot0fvhgg

「貴女と妹さんが、そういった形でのデビューを希望している場合」


 淡々と、


「不合格にせざるを得ませんでしたから」


 アタシの、考えもしなかった未来の話がされていく。


「ふっ、不合格!?」
「はい、残念ですが」


 コイツ……本気で言ってる!


「なんで!?」


 アタシの――カリスマJKアイドル、城ヶ崎美嘉の妹なのに!
 なのに、なんで不合格にするなんて判断が出来るの!?
 わかんない! 
 何を考えてるのか、サッパリわかんない!


「笑顔です」

93: 2018/10/10(水) 00:14:07 ID:Ot0fvhgg

「えっ……笑顔?」


 どうして、それが理由になるワケ?
 ねえ、教えてよ。
 アンタが、何を考えてるのか、教えて!


「もしも、シンデレラプロジェクトのメンバーになった場合、ですが――」


 アタシの妹としてデビューするのは、約束出来ない。
 現段階では、メンバー内で個別にユニットを組む予定でいる。
 それに、まだオーディションは行われていず――合格するとも限らない。


 ……そんな、どこかズレた答え。


「――なので、ご希望に添えなくなってしまいますから」


 それを聞いて、アタシは安心していた。


「……アハハ! 何それ?」


 この人は、考えすぎな程、アイドルの事を考えてるってわかったから。

94: 2018/10/10(水) 00:32:14 ID:Ot0fvhgg

「もし希望してたら、どうするつもりだったの?」


 さっきまでの緊張は、一体何だったんだろ。
 ううん、アタシが不安に思ってたコトって、意味無かった。
 やっぱり、大手プロダクション――346プロのプロデューサーってカンジ。
 アハッ、ケッコーやるじゃん★


「そう、ですね……」


 オーディションの結果次第で、他の部署に。
 その部署と連携して、デビューして貰う形になる。
 ……なんて、それこそ意味の無い話でしょ。
 って、聞いたのはアタシか、ゴメンゴメン。


「まっ、莉嘉はトーゼン合格するケドね★」


 結果なんて、わかってる。


「シンデレラプロジェクトの、メンバーにさ!」


 ……ヤバ。
 敬語、使うのいつの間にか忘れてた。

95: 2018/10/10(水) 00:48:15 ID:Ot0fvhgg

「今度のオーディション、楽しみにしててよね★」


 忘れてたコトを……あえて忘れて。
 砕けた口調で、余所行きの仮面を脱ぎ捨てて。
 アタシは、ありのままで、シンデレラプロジェクトのプロデューサーに接するコトにした。
 怒られたら……まあ、その時はその時★


「……良い、笑顔です」


 言われて、イヒヒと笑い返してやる。
 きっと、莉嘉の可愛さにビックリするんだから!
 合格するとも限らない……なんて、そんな言葉を後悔する位ね★


「あと……一つだけ、アドバイス」


 これから、何度もこの部屋には来るコトになるだろうから。


「観葉植物とかさ、置いた方が良くない?」


 その方が、絶対イケてるって★

96: 2018/10/10(水) 00:48:55 ID:Ot0fvhgg
おわり

引用元: 武内P「渋谷さんのお尻にマイクが!?」