1: 2017/04/13(木) 17:52:47.68 ID:NDIf1Rs60

2: 2017/04/13(木) 17:53:22.77 ID:NDIf1Rs60
――加蓮の部屋――

(何時……?)

(……夜なのかな。暗いし……。でも、ちょっとだけ、橙色……)

(豆電球……? つけてたっけ? 切って、なかったっけ……?)

(……真っ暗にしたくて……なにも、考えたくなかったから、ぜんぶ、切ったハズなのに――)

「……!」

(?)

(誰かいる? ……お母さん?)

北条加蓮「ん……」オキアガル


高森藍子「…………」


加蓮「え? 藍子……?」

藍子「……横になってて下さい、加蓮ちゃん。まだ、しんどそうだから……」

3: 2017/04/13(木) 17:53:52.93 ID:NDIf1Rs60

4: 2017/04/13(木) 17:54:22.26 ID:NDIf1Rs60
加蓮「藍子……?」

藍子「……大丈夫ですか? ……なんて聞いちゃったら、加蓮ちゃん、怒りそうですよね。気を遣うな、なんて」

藍子「あっ、ごめんなさい。いきなり色々とお話しちゃったら、加蓮ちゃん、疲れちゃいますよね」

藍子「そのまま……そう、ゆっくり、横になっていてください。大丈夫ですから……」

加蓮「……ん……」ヨコニナル

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

5: 2017/04/13(木) 17:54:52.64 ID:NDIf1Rs60
藍子「……そうだ。お水――」

加蓮「ううん、いい」

藍子「でも、」

加蓮「いらない……」

藍子「……分かりました」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

6: 2017/04/13(木) 17:55:22.32 ID:NDIf1Rs60
加蓮「……花の匂いがする」

藍子「え?」

加蓮「ほんの少しだけ……。花の匂いがする。藍子からじゃなくて、すごく、微かにだけど……ゲホッ」

藍子「! 加蓮ちゃ――」

加蓮「ふふっ、大げさだよ……ちょっぴり、咳をしただけなのにさ」

藍子「でも、加蓮ちゃんこんなに苦しそうで顔も真っ赤で!」

加蓮「豆電球しかついてないのによく……ゲホッ、分かるね」

加蓮「そんなに私の顔ばっかり見て、面白い? あはっ、やっぱり藍子って変な子だ」

加蓮「いつだったかなー……。変じゃない、って、ムキになって言ってたよね。こう、ほっぺたをぷくーってして」プクー

加蓮「あれ、面白かったなぁ。どーでもいいことなのに、藍子がムキになってるのが、すっごく面白かった」

加蓮「もっと、ムキになるべき場所とか、他にいっぱいあるのに。モバP(以下「P」)さんから、からかわれた時とか……」

藍子「…………加蓮ちゃん……」

7: 2017/04/13(木) 17:55:52.57 ID:NDIf1Rs60
加蓮「……」

加蓮「……お花見、行ったんだね。ちゃんと」

藍子「っ……」

加蓮「ほんの少しだけ、心配したんだ……。約束を千切って押しかけてきたりしないか、なんて……」

藍子「……、……そんなの、加蓮ちゃんは望んでいませんよね」

加蓮「知ってるんだ」

藍子「知ってますよ……」

加蓮「……」

藍子「……」

藍子「……どうして――」

藍子「……」

加蓮「ん?」

8: 2017/04/13(木) 17:56:22.66 ID:NDIf1Rs60
藍子「…………、……ごめんなさい」

加蓮「何で謝るの?」

藍子「加蓮ちゃん、あんなに楽しみにしてたのに……私、加蓮ちゃんを、放ったらかしにしてしまって、私だけ……」

藍子「カフェで、色々な計画をお話したのに……」

藍子「未央ちゃん達と勝負することとか、ムービーを撮って、後で編集――」

加蓮「やめて!!」

藍子「っ……」

加蓮「……ごめん。…………でもやめて」

9: 2017/04/13(木) 17:56:52.44 ID:NDIf1Rs60
加蓮「なかったの。そんなことなんて、最初からなかったの」

加蓮「最初からなかった。花見の約束なんて何もしてない」

加蓮「楽しみにしてたことなんてない。予定なんてなかっケホッ……なかったの。スケジュール帳には何も書いてないし何もワクワクなんてしてない。何もないの。なかったの!!」

藍子「そんな……」

加蓮「……ゲホッ。……無いことの話なんて、やめてよ。痛くなるだけなんだから」

藍子「…………」

加蓮「あ。……ごめん。違……ケホッ……そういうつもりじゃなくて、その……」

10: 2017/04/13(木) 17:57:22.42 ID:NDIf1Rs60
加蓮「……トイレ行ってくる」

藍子「あ、」

加蓮「手伝わなくて大丈夫。1人で行けるから」

加蓮「……1人で行かせて」

藍子「……はい」

加蓮「よいしょ、っと……」ヨロッ

藍子「…………」

加蓮「あはは……。思ったより、体力……持ってかれてるなぁ。無理、しすぎちゃったのかな、最近……」ヨロヨロ

<バタン

藍子「……」

藍子「…………」

11: 2017/04/13(木) 17:57:52.49 ID:NDIf1Rs60
藍子(――私と加蓮ちゃんは、あのカフェで色々な言葉を重ねてきました)

藍子(楽しいことも辛いことも、言葉にできるって思っています)

藍子(例え傷ついてしまっても、それで終わることはない。傷は浅い方がいいに決まっているけれど、切り傷を避けて大切な物を失うよりは、ずっといいってこと、私も……きっと加蓮ちゃんも、知っています)

藍子(……なのに)

藍子(……言葉が、何も出てこない)

藍子(抱きしめてあげたいのに今の加蓮ちゃんには触れない)

藍子(触ったら何かが崩れてしまいそうで手を伸ばすこともできない)

藍子(それなら残っているのは言葉だけなのに。なのに……)

12: 2017/04/13(木) 17:58:22.49 ID:NDIf1Rs60
藍子(……ふと、壁にかかったカレンダーが目に入りました)

藍子(今日の日付が、……ペンで、ぐしゃぐしゃに塗りつぶされていて、紙の端に、強く握りしめた跡がありました)

藍子(……)

藍子(……足音が、近づいてきまず)

藍子(着替えたばかりの服で目元を拭うのが、今の私にはせいいっぱいでした)


<バタン

加蓮「…………」

藍子「……」

藍子「……お帰りなさい、加蓮ちゃん」ニコッ

加蓮「……うん」ヨロヨロ

藍子「……」

加蓮「……」(ベッドに横になる)

13: 2017/04/13(木) 17:58:52.40 ID:NDIf1Rs60
藍子「……」

加蓮「……」

藍子「加蓮ちゃん……」

加蓮「……ん……」

藍子「カレンダー……」

藍子「……」

藍子「……私、おでこに乗せるタオルを濡らしてきます」

加蓮「だからそーいうの、」

藍子「濡らしてきます」

加蓮「……ん。分かった」

<バタン

14: 2017/04/13(木) 17:59:22.60 ID:NDIf1Rs60
加蓮「ケホッ……ぅー、あたまいたい……」

加蓮(トイレに行くついでに顔を洗ってきた。目が覚めて、状況は把握できた)

加蓮(頭がめちゃくちゃに痛くて身体がギシギシ軋む。咳は、むしろ出した方が楽になれる。そんなに熱は出てないから、寝てれば治るタイプ)

加蓮(まあ、状況分析はそれとして。……つまり、「また」なのだ)

加蓮(……例えば、外部から持ちかけられてきた――)

加蓮「ゲホゲホッ!」

加蓮(オファーとかが、10%くらいの確率で、一方的になかったことになるのと同じように)

加蓮(確率的に「起こり得る」と知っていたことが起きた。それだけのことだ)

加蓮(だから……もう1度寝れば、文字通り「無かったこと」になるに、)

加蓮「ケホッ……。いたた……」

加蓮(違いない。手足の擦り傷が、そのうち治るのと同じように……何度も受けた傷は、放っておいても修復される)

加蓮(たった、それだけのこと)

加蓮(「なかった」と、言えること)

15: 2017/04/13(木) 17:59:52.47 ID:NDIf1Rs60
加蓮(……なのにこんなにも、)

加蓮「ゲホゴホッ!」

加蓮(気持ち悪いのは、身体のせいだけじゃない)

加蓮(目を瞑ってもう1度意識を落としてしまえば終わる話を、終わらせてはならない、と思うのは)

加蓮(……でも今は、ちょっと……私も、色々ぐしゃぐしゃなんだよね……)

加蓮(今は、何もしたくないな……)


<バタン

藍子「……」

加蓮「……濡れてるよ。袖のところ」

藍子「……」

加蓮「手も、冷たそう。どんだけ水を流したのよ」

16: 2017/04/13(木) 18:00:23.86 ID:NDIf1Rs60
藍子「……真っ暗なのに。よく見えますね」

加蓮「豆電球がついてるし。あと……ほら。暗いところにずっといたら、目が慣れるでしょ」

藍子「そうかもしれません。私、さっき階下に行った時びっくりしちゃいました。すごくまぶしくて」

加蓮「ね。よくあるよね、そーいうの」

藍子「階段で、少しだけよろけてしまって」

加蓮「そーいう時に限って、お母さんが見てたりして」

藍子「加蓮ちゃんのお母さんが、……」

加蓮「……何か余計なこと言ってた?」

藍子「…………」

加蓮「……藍子?」

藍子「……これ、タオル。どうぞ」

加蓮「ん。ありがと。……冷たっ」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

17: 2017/04/13(木) 18:00:52.33 ID:NDIf1Rs60
藍子「……熱は」

加蓮「38度6分」

藍子「え」

加蓮「それか7分」

藍子「……分かるんですか?」

加蓮「慣れてるもん」

藍子「…………」

加蓮「何度も何度も起きたことだからね」

藍子「…………」

加蓮「体温計いらずの生活。ふふっ、便利でしょ?」

藍子「…………」

加蓮「そもそも、体温計なんて必要ないくらいがいいんだろうけど……」

藍子「…………」

加蓮「…………」

18: 2017/04/13(木) 18:01:22.43 ID:NDIf1Rs60
藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「……お薬。これ、加蓮ちゃんのお母さんからです」

加蓮「ん……」オキアガル

藍子「あ、そのままで……。ほら、口を開けてください」

加蓮「パス。それ失敗したら39度ルート入るから」

藍子「でも、」

加蓮「よいしょ、っと。……いたっ……。ほら、薬、貸して……」

藍子「……はい」

加蓮「ん」

19: 2017/04/13(木) 18:01:52.41 ID:NDIf1Rs60
藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……ごめん。封、破いて」

藍子「……はい」ビリッ

加蓮「さんきゅ……」ゴクゴク

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

20: 2017/04/13(木) 18:02:22.39 ID:NDIf1Rs60
加蓮「……ごめんね」

藍子「え?」

加蓮「約束、破っちゃって」

藍子「……!」

加蓮「約束なんてないって、私さっき言ったけど……なかったことにすればいいだけかもしれないけど、そんなの私の勝手な話だもん。藍子には関係ないよね」

藍子「関係無いなんてそんな……!」

加蓮「ううん。ちゃんと言わなきゃ。……よいしょ、っと」オキアガル

加蓮「約束、破ってごめん。一緒に行けなくてごめん」バッ

藍子「……」

藍子「……先に横になってください。加蓮ちゃんのお話……ちゃんと、聞きますから」

加蓮「甘えるね」ゴロン

21: 2017/04/13(木) 18:02:52.52 ID:NDIf1Rs60
加蓮「ふうっ……。それと、心配させてごめんね。大丈夫……じゃないけど……こういうこと、よくあるから」

加蓮「ふふっ、ちょっと横になってるだけで治るんだよ? ホントホント」

加蓮「藍子だって風邪を引いたりしてもすぐ治るでしょ? ……あはっ。パッションアイドルは風邪なんて引かないか」

藍子「…………」

加蓮「……薬を飲んで、病院行って……いや、病院はやめとこう。せめて行くなら元気な時に行かないと」

加蓮「こんな姿、見せたくないもん。夢は……夢のまま、守ってあげなきゃ」

藍子「……も、もうっ。元気な時に病院に行って、しんどい時に病院に行かないなんて……へ、変ですよっ」

加蓮「やっぱり? あはは、私も変だ。藍子と同じで、変だ」

藍子「絶対加蓮ちゃんの方が変ですってば~」

22: 2017/04/13(木) 18:03:22.46 ID:NDIf1Rs60
加蓮「そうかなー? ……ケホッゴホッ!」

藍子「っ……大丈夫ですか?」サスサス

加蓮「へーきへーき。こら、そんなにじっと見ても何も出てこないよ……ってか顔近いし……」

藍子「……」

加蓮「病院は……うん。行かなくても、薬を飲んで寝れば治るんだしさ」

加蓮「だから、……そんなに泣きそうな顔しないの」

加蓮「心配して気を遣ってくれるのは、……その、素直に嬉しいけど、嫌だし、しんどいから」

藍子「……しんどい、ですか……?」

加蓮「うん。しんどい。だって気遣われたらすぐ治さないといけないって焦っちゃうから」

加蓮「そんな顔させたくないな、って思ったら、ざわざわしちゃうもんね」

23: 2017/04/13(木) 18:03:53.19 ID:NDIf1Rs60
加蓮「それに」

藍子「……それに?」

加蓮「すごく、嫌なことを思うから」

藍子「…………」

加蓮「……そんな顔なんて、させたくない」

加蓮「目を背けたくなって、でも、背けたらますます自分が嫌になっちゃうよ」

加蓮「そしたら……出会わなければよかった、って。考えちゃうから」

藍子「…………やめてください、そんな考え方……!」

加蓮「あははっ。じゃーさ、藍子もその顔はやめてよ」

藍子「それは――」

加蓮「ね? 難しいでしょ?」

24: 2017/04/13(木) 18:04:22.73 ID:NDIf1Rs60
加蓮「身体の弱い人がしんどそうにしてたら、普通の人が風邪を引いた時より心配になる。そんなの当たり前のこと」

加蓮「同じだよ。私にも、私なりの当たり前って物があるんだから」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……なら、せめて……謝るのは、やめてください」

加蓮「ん……」

藍子「ちゃんと言わなきゃ、って、さっき加蓮ちゃんは言いましたよね。……加蓮ちゃんは、はっきり言いました。ごめんなさい、って」

藍子「私は、…………分かりました、って、受け止めた……つもりですから」

藍子「だからもう、謝らないでください。謝ったら、もっとしんどくなってしまいます」

25: 2017/04/13(木) 18:04:52.64 ID:NDIf1Rs60
藍子「しんどくなってしまうのが加蓮ちゃんの当たり前なら、少しでも、傷をふさいでください」

藍子「加蓮ちゃんは、いつも通りのこと、よくあること、って言っちゃうかもしれませんけれど」

藍子「それこそ、」

藍子「……それこそ……」

加蓮「うん。続けて?」

藍子「…………」

藍子「……それこそ加蓮ちゃんの勝手なことです。私にとっては、当たり前でも何でもないんですから!」

加蓮「……うん」

藍子「…………っ」ボロボロ

加蓮「泣いてるし」

藍子「泣いてばぜんっ」

26: 2017/04/13(木) 18:05:22.90 ID:NDIf1Rs60
加蓮「泣いてる藍子の顔、しっかり見えるんだけど?」

藍子「加蓮ちゃんだって、さっきっ、トイレに行ったから、目がまだ暗い部屋に慣れてないんでずっ」

加蓮「はいはい」

藍子「ぐすっ……」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「……38度3分」

藍子「え?」

加蓮「それくらいだと思う。たぶん」

藍子「……」

27: 2017/04/13(木) 18:05:52.59 ID:NDIf1Rs60
加蓮「藍子は知ってると思うけど、私、嘘をつくのは大嫌いだし気を遣うのも結構嫌いだからね?」

藍子「……加蓮ちゃんが言うなら、嘘じゃないんでしょうね」

加蓮「そう? それそのものが嘘かもしれないんだよ? 相変わらず騙されやすいんじゃないのー? ……ケホッ」

藍子「……」

加蓮「なーんてっ……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

28: 2017/04/13(木) 18:06:22.60 ID:NDIf1Rs60
加蓮「あーあ。花見、行きたかったなぁ……」

藍子「…………へ?」

加蓮「ん?」

藍子「だってさっき加蓮ちゃん、そんなのなかった、って」

加蓮「あーうん。いつもはね、こういうこと……こういうことって割とよくあるから、その度に「なかったこと」って思うようにしてるの」

加蓮「あれがやりたかった、これがやりたかった、って、いちいち言ってたらキリがないだろうし。諦めることだって大切でしょ?」

加蓮「でもさ――いたた……」(頭をおさえる)

藍子「! 加蓮ちゃんっ」

加蓮「たはは。私、かっこわるー」

29: 2017/04/13(木) 18:06:52.64 ID:NDIf1Rs60
加蓮「ほら、できないことをせがんでも周りの人は困るだけじゃん。お母さんもお父さんも。どうしようもないことを言われてもさ、困っちゃうだけでしょ?」

藍子「……でも――」

加蓮「でも?」

藍子「……なんでもないです」

加蓮「そう……」

加蓮「前に見たことあるんだよね。2人が泣いてたとこ」

加蓮「何もしてやれないんだ、って。すごく悔しそうで、悲しそうだったんだ」

加蓮「あれはちょっと……見たくなくてさ。どうすればいいかなーって思った時、あぁそっか、やりたかったことなんて無かったって思うようにすればいいや、って気付いて……気付いたっていうか見つけたっていうか」

藍子「……」

加蓮「でも……。んー……ほら、私の趣味って"藍子を困らせること"だからっ」

加蓮「今はいいかなー、なんて。……ダメ?」

藍子「……」

30: 2017/04/13(木) 18:07:22.65 ID:NDIf1Rs60
藍子「っ……」

藍子「……もうっ! そんな趣味、プロフィールに書いちゃダメですからね!」

加蓮「! ふふっ、どうしよっかなー? 今度インタビューで「オフの日は何をしてるの?」って聞かれたら、藍子を困らせてますって答えちゃおっかな?」

藍子「ダメですってば~。きっと、記者さんも困っちゃいますよ?」

加蓮「ないない。むしろ根掘り葉掘り聞いてくるに決まってる。そして面白おかしく記事になるんだ」

藍子「それ、私にまで被害が来ちゃうじゃないですかっ」

31: 2017/04/13(木) 18:07:52.70 ID:NDIf1Rs60
加蓮「逆に藍子にとってはいいことにならない? あれは加蓮ちゃんに困らされていることでウワサの藍子ちゃん! 優しくしてあげよう! ってならない?」

藍子「周りのスタッフさん、みんな優しいですから。加蓮ちゃんっぽく言うなら、余計な気遣いです!」

加蓮「そっか。ふふっ」

藍子「そうですよ、も~!」

加蓮「そっかそっかー。…………」

藍子「あははっ。加蓮ちゃんは、やっぱり加蓮ちゃんなんですから。…………」

加蓮「……」

藍子「……」

32: 2017/04/13(木) 18:08:22.71 ID:NDIf1Rs60
加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……今日は……ケホッ、もう寝るね。薬も飲んだし、起きてるとお母さんがうるさそうだし」

藍子「……、……そうですね。それが、いいと思います」

33: 2017/04/13(木) 18:08:52.70 ID:NDIf1Rs60
加蓮「藍子は帰りなよ。感染っちゃうよ」

藍子「加蓮ちゃんが何を言っても絶対に嫌です」

加蓮「インタビューで変なことを答えるよー?」

藍子「どうぞ言ってください。帰りませんから」

加蓮「……そか」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

34: 2017/04/13(木) 18:09:22.63 ID:NDIf1Rs60
加蓮「……おやすみ。……また、明日」

藍子「おやすみなさい。……また、明日。加蓮ちゃんが……少しでも、元気になっていますように……」

……。

…………。

35: 2017/04/13(木) 18:09:52.69 ID:NDIf1Rs60
加蓮(――藍子は何かを隠している)

加蓮(隠しているというより、我慢している。何かを抑え込んでいる)

加蓮(……傷ついても構わない関係。傷ついてでも一緒にいたいと思う相手)

加蓮(でもそれは、私がいつもの私である時のこと)

加蓮(ごめんね、藍子。私、自分が思っていたより傷ついていたみたい。だから、今は寝させてほしいな)

加蓮(その話は、――)

加蓮(……その、話は…………)

36: 2017/04/13(木) 18:10:23.56 ID:NDIf1Rs60
藍子(いつも通りの冗談を言っている間、時々、意地悪な笑みが崩れそうになっていました)

藍子(しんどくなるのが当たり前のこと……って、言っていたけれど、それは違う)

藍子(嘘ではないと思います。加蓮ちゃん、嘘をつくのもつかれるのも大嫌いですから)

藍子(加蓮ちゃんが、自分のことに気付いていないだけ。それか、気付いているけれど、気付いていないフリをしているだけ)

藍子(このまま放っておいたら、気持ちに蓋をしてしまう)

藍子(……毒の棘は、飲み込んでもなくならない。広がった傷は、目を逸らしても塞がったりしない)

藍子(このままではいけない)

藍子(分かっているのに)

37: 2017/04/13(木) 18:10:52.74 ID:NDIf1Rs60
――またいつか聞かせてね、の一言が、口から出ない

――傷ついて傷つけてでも手を伸ばせばよかった。……もっと、もうちょっとだけ

38: 2017/04/13(木) 18:11:22.67 ID:NDIf1Rs60


おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。


39: 2017/04/13(木) 21:59:50.03 ID:ap6EGlADO
おつですー
待ってましたー

既に泣きそうで次回も泣きそう……

引用元: 北条加蓮「……」高森藍子「……加蓮ちゃんと、桜の日の夜に」