1: 2012/02/12(日) 22:03:17.68 ID:wEYuFUxr0

ハルヒとキョン
~ある日のこと~

 考えたことも無かった。あたしが、誰かを好きになるなんて。
 夕焼けの差す校庭で、部活動に励む運動部の人達を眺めている。
きっと、それぞれがそれぞれの目標を持って努力している。

 文芸部室では、今頃団の活動が行われているだろう。
それとも、あたしがいないこの状況で、皆は思い思いのことをして楽しんでいるのかもしれない。
でも、あたしにはそんなことはどうでもいいことだった。

 突然の閃きで、流れるように作ったSOS団のことは、もちろん好きだし、かけがえのないものだと思っている。
でも、今この時は、この瞬間だけは、あたしの中の感情が、それらに勝ってしまっていた。

3: 2012/02/12(日) 22:04:42.68 ID:wEYuFUxr0

 気づいたのは些細なことだった。授業中、あいつの背中をつついて遊んでいる時に、ふと思ったのだ。
あたしは、自然と頬が緩んでいた。楽しくて、堪らなかった。

 気づいた時には遅かった。どうして、なんて疑問はなく、ただ好きだった。
自然と湧き上がる胸の内と、視界に映るあいつの姿に、あたしの感情は高鳴った。
これが好きなんだと、これが精神病の一種なんだと、まるで歩き方を最初から知っていたように、
あたしの頭の中でスッと理解した。あの時の感覚は、これから先も忘れないと思う。


5: 2012/02/12(日) 22:05:25.78 ID:wEYuFUxr0

 何故団活に参加せずに、こんなとこにいるのかはあたしにも分からなかった。
だから、キョンに

「どうした、行かないのか?」

なんて聞かれても、わからない、としか答えることができなかった。
そんなあたしの姿をみて、あいつは不思議そうな顔をしていた。
奇妙奇天烈というより、そっとしておいてやろう、という感じだ。


7: 2012/02/12(日) 22:06:29.87 ID:wEYuFUxr0

 あたしはあの時の夢のことを思い出していた。
あたしとあいつは、あの夢の中で、確かにお互いの唇を合わせた。
キスというより、本当に唇を合わせたという感じだ。

 あの日の翌日、あたしが髪を結って登校すると、開口一番にあいつは似合うと言った。
しかしそのことについて、あたしは何も返事をしなかった。
その理由は、あいつがそう言うであろうことも、
あたしが返事をしなくてもあいつは満足するであろうことも、いつの間にか理解していたからだ。

 あれからというものの、あたしはあいつのことをよく見るようになっていた。
今思えば、という類の話なのだけど。
 あいつが寒さを感じた時、マフラーに顔を埋めることも、
何かについて考えているとき、その対象を見つめていることも、
困ったような顔をするその一瞬前に、すごく優しい顔をすることも、きっと、あの後から気がついたことなのだろう。


8: 2012/02/12(日) 22:07:17.40 ID:wEYuFUxr0

 吐く息が白く、目の前の窓を曇らせた。
さっきまで目標に向かって走っていた運動部の人々は、談笑しながら校庭を歩いていく。
その姿をみて、

「ああ、もう下校の時間なのね」

と思った。

 羽織っている白いダウンジャケットを、気持ちを切り替えるように整えた。
シャカシャカと、素材の擦れる音が漏れる。
あたりはオレンジ色で、周りには誰一人として居なかった。


10: 2012/02/12(日) 22:08:03.48 ID:wEYuFUxr0


「皆は、もう帰ったわよね」

と、弱々しく呟く。
 団活に参加せず、こんなところで時間を潰してみたけれど、なんの解決にもならなかった。

 思考より、結果を誰もが恐れるけれど、あたしには思考することの方がずっと恐ろしい。
前に進んだようで、その実何も変わっていないからだ。
今日のこの時間も、それと同じだった。
全く時間を無駄にしたものだわ、と思うと、
なんだか目の前の景色が途端につまらなく感じた。


13: 2012/02/12(日) 22:10:02.78 ID:wEYuFUxr0


 「はぁ……」

 深くため息をついたあたしは、鞄を肩に掛け直した。

 これから帰路につき、ご飯を食べて、普通にお風呂に入って、つまらない時間を過ごすのだろう。
そう考えながら、ふとふりかえり、歩き出す。

 数歩進んだところだろうか。俯いていたあたしの頭上から、

「よっ」

と、浮かんだ声がした。
「何よ」ーーそう思いながら顔をあげると、そこにはあいつがいた。
マフラーに顔をうずめ、寒そうに両手をポケットに入れている。
ほんのりと、鼻の頭が赤い。
カーキ色のコートが、ゆらりと少しだけ揺れた。


14: 2012/02/12(日) 22:11:12.82 ID:wEYuFUxr0

「こんなとこで何やってんだ」

 そう言いながら見つめるあいつの顔は、呆れたという顔と、疑問と、安堵が混ざっていた。

「別に、ちょっとね」

と、答えたあたしに、あいつは

「……なんだかな」

と、微笑んでみせた。
なんでそこで微笑むのか、あたしには分からなかったけれど、
あたしの心はさっきまでのつまらない気持ちを忘れ、澄み切ったようだった。

「そうだ、キョン。あんた、あたしと一緒に帰りなさいよ」

と、唐突に注文してみた。
恥じらいや戸惑いは全くと言っていいほどなかった。
こんなにも自然に話せたのは、いつぶりだろう。

17: 2012/02/12(日) 22:12:48.05 ID:wEYuFUxr0

 するとあいつは、困ったように笑い、「へいへい」と一人呟くと、あたしの手をとった。

 そうして歩き出す。
雪も、人も、犬も、幸せに見えた。
あたしはふと思った。
きっと、こいつに思いをぶつけるのは、まだまだ先になるだろうと。
そうしてその時は、こいつの返事を待たずとも、あたしにはわかってしまうだろうと。

「何をニヤニヤしてるんだ?」

という問いかけを無視して、あたしは一人微笑んだ。

ハルヒとキョン
終わり

18: 2012/02/12(日) 22:13:21.75 ID:wEYuFUxr0

キョンと古泉一樹
~「……もちろんです」~

 どうやら一番乗りらしい。いつも賑やかな文芸部室に、一人ぽつんと佇む。
吐く息の白さが、妙に冷たい。
 毎日の文芸部室を思うと、今やここは海底のように静かだ。
 緑の窓枠の向こう側には夕陽が輝き、俺はそれをただボーッと眺めていた。

 数歩先にある電気ストーブへと歩み寄る。かじかんだ指先で、なんとかスイッチをつけた。
カタカタという音が響き、情緒的な暖かさを感じる。
 しばらくの間、俺はここにいようと決めた。

21: 2012/02/12(日) 22:14:44.28 ID:wEYuFUxr0

「今日の団活は何をするのやら」

 窓を透け、床に染み込む陽を見つめつつ、ストーブに両手をかざす。
冷えた指先からじんわりと、痺れるように温まっていく。

 最近はハルヒのやつも落ち着いてきているらしい。
先週の不思議探索では、また突拍子もないことを言われると覚悟して行ったのだが、
蓋を開けてみれば、いつもの喫茶店でただだべるという、極めて理想的で、平和な活動だった。
正直に言うと、拍子が抜けた、という感想である。

 強いて言うならば、最中、唐突に不思議な感覚に見舞われたのが印象的だった。
だがそれは、異能力の類によるものでは無く、
俺の中の潜在的な意識がもたらした不思議、だった。

 突然、そこに居ることに違和感を覚えたのだ。
一種の奇跡のようなものを感じたのである。
俺は何故こいつらと仲良くなれたのだ、だとか、
俺はなんでこの町で生活しているのだ、という、奇跡のようなものを。
まるで、幸福に包まれた自分を抑制するように、俺は俺の意識に問いかけていた。
この幸せの中にいる俺は、本当に俺なんだろうか、という感じで。

22: 2012/02/12(日) 22:16:03.84 ID:wEYuFUxr0

 赤ともオレンジとも表しにくい光を灯らせながら、電気ストーブが変わらず俺の身体を温めてくれている。

「それにしても遅いな」

と一人呟いた。

 ハルヒのやつは柄にも無く廊下で黄昏ていた。感傷的な顔をしていて、
そっとしておいてやろうと思った。
一応団活にいかないのかと誘ってはみたのだが、
「わからない」と気の抜けた返事を貰ったので、仕方なく一人でここまでやってきたのだ。

23: 2012/02/12(日) 22:16:44.40 ID:wEYuFUxr0

「今日は冷えますね、本当に」

 文芸部室の扉が開く音がして、犬のように人懐っこい顔の古泉が現れた。
同時に、「あなただけですか?」と俺に問いかける。
そして、
「クラスの手伝いによって遅刻してしまったので、てっきり涼宮さんに怒られてしまうかと」
とも。

26: 2012/02/12(日) 22:17:36.21 ID:wEYuFUxr0

 身につけていた防寒具を椅子にかけ、古泉はギシッと席についた。
暖を取っている俺の姿を見て、何やらニヤついている。
ああ、わかってるさ。
こいつは、他の団員の情報を、俺が口にするのを待っているのだ。
「僕は話したのだから、あなたの番ですよ」とでも言うように。

「言っておくが、二人については知らないからな」

ニヤついていた古泉の表情が、さらにニヤつく。
なぜだかわからないが、癪に障る。

「そうですか。ま、涼宮さんが来ていない以上、今日は自由ということでよろしいでしょう」

 いつの間にかテーブルの上に用意されているオセロを、カチャカチャと鳴らす。
「僕は白で」という古泉の一言が、静かな文芸部室に響いた。

27: 2012/02/12(日) 22:18:31.20 ID:wEYuFUxr0

 盤上は黒に染まり、コートを脱いでも支障のないくらいには温もってきた。
 自分で入れたお茶を啜り、天井を見つめる。
指先をコツコツと鳴らし、耽るようにため息を吐いた。

「お前は、幸福感が怖くなることはないか?」

 昨日の団活以来、何故か引っかかっていたのだ。
目の前の男は、普段の表情はあれど、中々の苦労を重ねてきているはずだった。


28: 2012/02/12(日) 22:19:35.08 ID:wEYuFUxr0

「幸福感……ですか。そうですね。
 怖いという表現が当てはまるかどうかは分かりかねますが、
 不思議に思うことはあります。特に、ここ最近は」

俺の問いかけに対して、一瞬眩しいものを見るかのように目を細めたが、
すぐにいつもの顔に戻り、古泉はそう言った。

「いつかお話したように、涼宮さんは高校に入学されてから本当に変わりました。
 中学時代はまさに激動の日々という感じでして。それが今となっては、
 することが何もない日があるんですよ。そういう時には、とても不思議な気持ちになりますね。
 何もないのですから。僕はこんなことをしていていいのだろうか、なんて、
 簡単に言えば、時間の使い方を知らないのです。それで、余計なことを考えてしまうのかもしれませんね」

顎を組んだ両指の上に乗せ、必要以上に微笑む。
こいつの顔は、本当に何を考えているのか読み取れない。
しかし、今回に限っては、その表情は本音を喋ってしまったことに対する誤魔化しのように見えた。

 「あなたは、どうなのですか?」

 表情を崩さないまま、古泉が問いかけてきた。
お決まりの、「あなたの番ですよ」ということらしい。

29: 2012/02/12(日) 22:20:30.19 ID:wEYuFUxr0

 俺は、先週の不思議探索で感じたことを、洗いざらい古泉に話した。
話を聞き終わった古泉は、茫然としていた。

「まさかあなたの口からそのような言葉を聞くことができるとは……」

開口一番のその言葉に、俺は苦笑いするしかなかった。
俺も変わったのだろう。
ハルヒが変わったように、俺も。

 「どうすればいいと思う?」

 極めて抽象的な質問に、古泉は頭をひねらせた。

 気づけば、俺は当然のごとくこいつに相談を持ち掛けていた。
産まれたヒナが、目の前の生物を親だと思い込んでしまうように。極めて自然に。
そして、無意識に。それしか頼ることができない、弱さのようなものなのだろうか。
それも、ハルヒの能力諸々のしがらみから全く外れた相談を、だ。
不思議だった。考えられなかった。

そんな感情を、目の前の俺の問いかけに頭を悩ませている男を見て、抱いていた。

31: 2012/02/12(日) 22:21:03.05 ID:wEYuFUxr0

 「……幸福感に実感が湧かないのなら、自ら歩み寄るしかないのでは」

数分考えた後、古泉が出した答えはこれだった。
なるほど、と思った。実に理にかなっている。
得体の知れないものが目の前に浮かんでいるのなら、掴んでよく見てみるといい。
しかしそれは……。

「非常に勇気のいることですけどね。
 ここからは僕の主観ですが、SOS団の方々なら、きっと大丈夫でしょう」

古泉はそう言った。

「それは、お前も例外ではないのか?」

「……もちろんです」

32: 2012/02/12(日) 22:21:57.95 ID:wEYuFUxr0

 ひたひたと雪が窓を打ち、溶けては流れを繰り返している。
沸騰したやかんからは湯気がのぼり、静かで慌ただしい音を鳴らす。
壁一杯に敷き詰められた本には、埃一つついていない。

 俺は湯呑みを持ち上げ、温かいお茶を一口飲んだ。
古泉は窓際に立ち、こちらに背を向けている。
しかし、景色を眺めているという訳では無さそうだった。
しゅうしゅうというやかんの音と、時折鳴る老朽した椅子の音以外は、何も聞こえてこなかった。

 ぼんやりと天井を見つめる。鼻を刺すような空気の冷たさはなく、ひどく落ち着いていた。

33: 2012/02/12(日) 22:23:19.25 ID:wEYuFUxr0

「涼宮さんは、どうされているのです?」

背を向けたまま、古泉が言った。

「さあな。一人黄昏ていたぞ。一応声をかけてみたんだが、ここには来そうもない感じだった」

続けて話す。

「何を考えているのやら、てんでわからんが、あいつらしくない表情だったよ。
 何か悩んでいることでもあるのかもしれないな。俺にはわからないが。
 まあ、聞いてやらんこともないが、あいつが何も言わんなら、それは俺がどうこう言うことでは……」

そこで、俺の口は止まった。
と同時に、古泉がこちらを振り向く。

「誤魔化せないですね」

34: 2012/02/12(日) 22:24:31.03 ID:wEYuFUxr0

 妙に流暢に言葉が出てくるもんだ、と我ながら関心していた。
自分で話しながら、自分の言葉を聞いていた。
別の誰かの言葉を聞いているかのように、上辺だけがスラスラと言葉を紡いだ。

「俺は、あいつのことが心配で堪らないんだ」

 そうハッと気づいた俺に、古泉の言葉がさらに追い打ちをかけた。

「掴むべきではないでしょうか。あなた自身理解していないのでしょう?
 今、あなたの胸の内にある感情のことを」

その通りだ。お前の言う通りだ……古泉。
コートを掴み、鞄を肩に掛けた。
俺の背中で、きっと古泉はこちらを見ている。

35: 2012/02/12(日) 22:25:24.38 ID:wEYuFUxr0

 そう思うと、柄じゃないがなんだか気恥ずかしくなって、俺は背を向けたままでしか言うことができなかった。

「すまん、古泉。感謝する。
 それと、よかったら……また相談に乗ってくれないか」

恐らく後ろでニヤニヤと微笑んでいるであろう古泉が、

「よろこんで」

と、確かな口調で言った。

キョンと古泉一樹
終わり。

37: 2012/02/12(日) 22:26:10.78 ID:wEYuFUxr0

長門と朝比奈みくる。と古泉
~「言わなきゃ、伝わりませんよね」~

 目の前で、朝比奈みくるが俯いている。
心拍数の上昇を感知しているけれど、彼女の挙動に目に見えるような変化はない。

 文芸部室に向かう途中、突然呼び止められた。

「立ち止まらせてすみません」

 彼女は私の持っていた本を抱きかかえ、数歩ふらつく。
「無理はしなくていい」という私の発言に、
「呼び止めたのは私の方ですから」と、律儀に返答する。

38: 2012/02/12(日) 22:27:10.16 ID:wEYuFUxr0

 そこからは彼女の発言をただ待ち続けていた。
まるで、私と朝比奈みくるではなく、周りの景色が動いているような、そんな感覚。
時間だけが刻一刻と、容赦なく進んでいく。

「このままだと涼宮さんに怒られちゃいます」

と、朝比奈みくるが自分に言い聞かせるように小さく呟いた。

 涼宮ハルヒは、今日文芸部室に向かうことはない。
だから、大丈夫。

39: 2012/02/12(日) 22:27:46.00 ID:wEYuFUxr0

 抱えた本がズリズリと、朝比奈みくるの腕から落ち始めた。
私はそれらを受け止め、
「図書室」
と伝え、廊下を歩き始める。
朝比奈みくるは「すみません……」と力無く謝っていた。
私は振り返り、彼女が歩き始めるのを待つことにした。

 図書室に到着し、抱えていた本を返却する。
「あ、それ……ここで借りた本だったんですね」
と朝比奈みくるが聞くので、私は頷いた。

40: 2012/02/12(日) 22:28:21.03 ID:wEYuFUxr0

 森の中、ベンチに座っているような静けさが漂っている。
時折聞こえてくる人の話し声が心地いいと、朝比奈みくるは言う。

「まるで、小鳥の鳴き声みたいです」

続けて、そう言った。
そして、返事を待つように微笑んだまま私を見つめている。
だから、
「あなたの囁く声も他の人にはそう聞こえているかもしれない」と言ったら、
朝比奈みくるは照れたように慌てていた。


41: 2012/02/12(日) 22:29:02.60 ID:wEYuFUxr0

 「何か用事があったはず」

 読み耽っていたハードカバーを閉じたところで、朝比奈みくるに問う。
「あなたは私を呼び止めた」
この言葉に、彼女はたじろいだ。

「あ、いやっ、えっと……そのぉ……」

俯き、目だけはこちらに向いている。
「わかって欲しい」というような視線。
私は、手元に置いていた本を少し横にずらし、朝比奈みくるを見つめた。
「わからない」と、目で訴えているつもり。

「そ、そうですよね……言わなきゃ、伝わりませんよね」

コクリと、小さく頷く。

「すぅー……はぁー……あ、あのっ! 長門さん!」


42: 2012/02/12(日) 22:29:44.38 ID:wEYuFUxr0

 綿のように降る雪が、隣を音もなく歩く長門さんの髪に、落ちては消えてを繰り返している。
その中の一つが、彼女の少しだけ赤くなった鼻にちょこんと落ち、私は思わず微笑んでしまった。
それが見つかって、長門さんに視線を向けられる。

「何がおかしいの?」

実際に口に出してはいないけれど、長門さんの目はそんな風だった。
なので、

「なっ、なんでもないです」

と言ってみると、長門さんはまた前に向き直った。
長門さんと深く会話ができたみたいで、素直に嬉しいと思った。


45: 2012/02/12(日) 22:30:11.63 ID:wEYuFUxr0

 「おや、珍しいですね」

 長い下り坂を背景に、古泉くんが立っている。
珍しい、というのは、今の私と長門さんの状況に対する、率直な感想だと思う。
私も、第三者としてこの場に遭遇していたら、きっと同じことを言った。
だから、古泉くんには、

「ですよね」

と、意味ありげに返答しておいた。

47: 2012/02/12(日) 22:31:02.11 ID:wEYuFUxr0

 「……」

 ふと気が付くと、長門さんが前方を指差している。
そこには、なんと涼宮さんを引っ張るキョンくんの姿があった。
それをちらりとみた後、古泉くんが、

「おや、バレてしまいましたか」

と、悪戯に笑った。
人差し指で前髪を払い、困ったように両手をあげる。
その仕草に、古泉くんのお茶目な一面を垣間見てしまった。
なんだか新鮮だったけど、いけないことはいけないので、

「ダメですよ!」

と、叱っておいた。
爽やかに笑う古泉くんは、「すみません」と言う。
本当に反省してるのかな、と思ったけれど、初々しい二人を追いかけたくなる気持ちが
ほんの少しだけわかってしまうので、それ以上追及するのはやめることにした。

48: 2012/02/12(日) 22:31:48.70 ID:wEYuFUxr0

 「本題ですが、どうしてお二人は?」

何かを見透かすような目で私を見つめている。

「ち、違いますよ!未来とか長門さんの思念体とかは、関係ないですから!」

古泉くんの目というのは、本当に優秀だ。
その証拠に、今は先程までの探るような目つきから一変し、
言葉を使わずとも私を安心させてくれている。

「そうですか。しかし、そうなると益々僕の興味が駆り立てられるわけですが……」

また、悪戯に笑う。

49: 2012/02/12(日) 22:32:36.00 ID:wEYuFUxr0

「もう!からかわないで下さいよ!」

そう言ったら、「これはこれは、デリカシーがありませんでしたね」と。
絶対に、狙ってやっている。私のほっぺは、多分赤いだろう。
それなのに憎めないのが、古泉くんのずるいところでもある。

「たまにはいいですね。お互いのしがらみを超えて、こうして話すというのも。
 あなた方が一緒に下校されている理由はわかりませんが……」

古泉くんの口角が、ニヤッと上がる。

「とても、新鮮なことだと思います」

そして、羨望の視線を向けられた。

50: 2012/02/12(日) 22:33:48.51 ID:wEYuFUxr0

 「一度、3人で集まってみましょうか。その日だけは、何もかもを忘れて。
 って、それはちょっと甘えすぎかもしれませんね」

 少しだけ、深入りしすぎたかもしれない。と、そう思った。
とても形容しがたい関係の私たちは、相手に対する境界線のようなものが、すごく不明確だ。
だから、最後に『甘えすぎ』なんて言葉を付け足してしまった。
相手が、断りやすいように。そして、自分が諦めやすいように。

「許可が下りた」

「えっ?」

思わず、言ってしまった。
頬をなでるような冷たい風に、僅かにスカートを揺らしながら、長門さんがこちらを向いた。

52: 2012/02/12(日) 22:34:29.98 ID:wEYuFUxr0

「今日のあなたの行動は、私という個体にとって、明瞭ではなかった。
 でも、今の発言で理解した。
 あなたは、私、もしくは私たちと、親睦を深めたいと思っている?」

開いた口が塞がらないというより、慌てすぎて舌を噛みそうになってしまった。

「あわ、わ、な、なが、長門さ」

「……これはこれは、驚きましたね」

まるで面白くて仕方が無いものを見つけたような顔で、古泉くんが私を見る。

53: 2012/02/12(日) 22:35:28.24 ID:wEYuFUxr0
「あなたが図書室で私と一緒に下校してみたいと言ったことと、
 先程の発言により情報統合思念体はあなたに対する警戒レベルを引き下げた。
 ……古泉一樹、あなたは?」

「まさか、断るとでも?」

顎に手を添え、微笑んだまま長門さんを見つめる。

「……そう」

同時に、二人が私を見た。
「あなたは、どうする?」と、わかりきったことを、その顔で聞いてきた。
長い長い下り坂の向こうに、広がる街並みを眺め、
鼻の奥を心地よくくすぐる冷たい風を吸い込み、
私は笑顔でこう言った。

「おねがいしますっ」

長門と朝比奈みくる。と古泉
終わり。

54: 2012/02/12(日) 22:36:16.48 ID:wEYuFUxr0

~その時~

「あたしね、されることはあっても、今まで自分から告白なんてしたこと無かったのよ」

「あたしね、こんな風に対峙して思いを伝えるなんてこと、初めてなのよ」

「でもね、今回に限っては、それをしようって思ったの。そうしないといけないって思ったの」

「だからね、だからこそ、あたしは本気だって思うの」

「あんたのことが、本当に本当に、正真正銘、嘘一切無しで」

「好きだ、って、思ったの」

「だからね、そのあたしの気持ちに、答えて欲しいって、思ってるのよ」

「……だからね?キョン」

「あんた……あたしと、付き合いなさい!!!!!
 以上!!!!!」

本当の終わり

58: 2012/02/12(日) 22:37:23.13 ID:wEYuFUxr0
短編集みたいにSOS団の一日をなぞってみたかった
一人で楽しんだ
ありがとうございました

60: 2012/02/12(日) 22:38:48.82 ID:GvoQM66OO

引用元: ハルヒ「あたし、自分から告白したことないのよね」