1:◆oNDhRi.Qoo 2014/08/09(土)04:19:21 ID:209kQS6cr
ーー【魔王城 王室】ーー
魔王「…………」
バアンッ!!
側近「ハァ……ハァッ……ま、魔王様!」
魔王「……どうかしたか? そんなに慌てて」
側近「勇者です! 勇者が魔王城に現れました!」
魔王「勇者か……城内の様子は?」
側近「現在勇者はモンスター達を凄まじい勢いで討伐しながらこちらに向かっております! ここに辿り着くのも時間の問題かと!」
魔王「そうか……では、迎え撃たねばなるまいな」
側近「魔王様、しかし問題が……」
魔王「問題? どんな問題だ?」
側近「それが、今回の勇者は……」
勇者「俺が、どうしたって?」
2: 2014/08/09(土)04:20:29 ID:209kQS6cr
側近「なっ!? ゆ、勇者!?」
勇者「なぁ……俺が、どうしたんだよ?」
側近「貴様! 聞いていたのか!?」
勇者「聞いたも何も、扉全開にされちゃ嫌でも聞こえちまうさ」
側近「そ、そんな……私のミスが……」
勇者「で、もう一度、最後に聞いておく」カツカツ
側近「ひ、ひぃ!! く、来るな!!」
勇者「俺が、なんだって?」
側近「あ……ああああああああ!!」
勇者「オイオイ、そんな怯えんなよ。興奮しちまうだろ?」スッ
側近「や、やめてくれええええ!!」
勇者「ハイ、時間切れでーす」
ザシュッ!!
側近「が……はっ……」
バタンッ
勇者「まったく……最後だって言ったのによ……」
魔王「……なるほど」
勇者「ん? あぁ、魔王様か。悪いね、アンタの仲間、皆頃しにしちまったわ」
3: 2014/08/09(土)04:21:30 ID:209kQS6cr
魔王「なに、構わんさ」
勇者「ほーぅ、お仲間が殺されたってのに、やけに冷静だな」
魔王「勇者と戦う事こそが、モンスターの使命だ。そして、それを迎え撃たねばならないのも、勇者の使命であろう?」
勇者「さぁな。使命だとか、そんな事考えた事ねえから」
魔王「……なるほど、これはまた、面白い勇者だな」
勇者「……なぁ、魔王。アンタに一つ頼みがあるんだ」
魔王「頼み? それはどのような?」
勇者「そう身構えんなよ。なぁに、勇者様の些細な願いって奴だ」
魔王「…………」
勇者「腹減ってんだ。飯食わしてくれよ」
魔王「……くくっ、まったく。本当に、面白い勇者だ」
勇者「あー、そういうのいいから。飯食わしてくれんの?くれないの?」
魔王「よろしい、すぐに用意しよう」
4: 2014/08/09(土)04:22:18 ID:209kQS6cr
ーー【魔王城 食堂】ーー
勇者「ほぉ、凄いもんだな。一瞬でこんだけのご馳走用意しちまうとは」
魔王「これも魔法で用意した物だ。口に合うかは分からぬがな」
勇者「あー、大丈夫。味とかそういうのは」
魔王「む? そうか?」
勇者「あぁ。俺もう味覚ねえから」
魔王「……そうか」
勇者「そんじゃ、いただきまーす!!」
ガツガツ バグバク
魔王「……では、私もいただくとしよう」
勇者「ほーほ(どーぞ)」ガツガツ
魔王「……食事をしながら喋るのは、やめた方がいいぞ」
勇者「はんへほ?(なんでよ?)」ガツガツ
魔王「同席する相手に、イイ印象を与えないからな」
勇者「…………」
5: 2014/08/09(土)04:23:03 ID:209kQS6cr
ガツガツ ゴクンッ
勇者「別に俺は他人の印象なんざ気にして生きてねぇ」
魔王「ふっ、そうか」
勇者「それに、だ」
魔王「それに?」
勇者「俺は勇者だ。魔王に不快な思いさせて何が悪い」
ガツガツ バクバク
魔王「……なるほど。正論だな」
勇者「ほーはろ(そーだろ?)」ガツガツ
魔王「……しかし、感心は出来ないな」
勇者「はっほ(あっそ)」ガツガツ
7: 2014/08/09(土)04:24:02 ID:209kQS6cr
ーーー
勇者「ふー、食った食った」
魔王「どうだったかね?魔王城での食事は?」
勇者「あー、量は最高。見た目を綺麗だったし、文句無しだね」
魔王「…………一つ、聞きたい」
勇者「あ? 何を?」
魔王「何故、味覚を失った?」
勇者「…………」
魔王「答えたくなければ答えなくても構わない」
勇者「コーヒー」
魔王「……は?」
勇者「だから、コーヒー。一杯飲ませてくれ」
魔王「……いいだろう。今出してやる」
勇者「コーヒーでも飲みながら、お喋りしようぜ?」
魔王「…………」
勇者「な? どうだ?」
魔王「……期待するぞ」
勇者「おう。勝手にしろ」
9: 2014/08/09(土)04:24:40 ID:209kQS6cr
ーーー
勇者「おーおー、見事な匂いですこと」
魔王「ほう、分かるか?」
勇者「まぁな。コーヒーにはちとうるさいぜ?」
魔王「……そうか」
勇者「さーてと」スッ
魔王「ほう、ミルクは入れる派か」
勇者「……まぁね」
ズッ……
魔王「…………」
勇者「…………」
カタッ
勇者「……さて、じゃあお喋りしようか。魔王様」
魔王「待ちわびたぞ。勇者殿」
10: 2014/08/09(土)04:25:22 ID:209kQS6cr
勇者「さーて、じゃあ質疑応答と行こうぜ。あ、答えないってのは無しだ」
魔王「ほう、それでよろしいのか?」
勇者「あぁ。俺もアンタに聞きたい事があるからな」
魔王「そうか。では、私から聞かせていただこうか」
勇者「どうぞ」
魔王「では一つ。魔王城に乗り込んだのは勇者殿一人か?」
勇者「……あぁ、俺一人だ」
魔王「……そうか。では……」
勇者「おーっと、その前に、次は俺の番だ」
魔王「おっと、そうだったな。すまない」
勇者「なぁに、時間はたっぷりあるんだ。ゆっくりお喋りしようぜ」
11: 2014/08/09(土)04:26:20 ID:209kQS6cr
魔王「では、勇者殿の番だ」
勇者「そうだな……なんて、一つ目は決まってるんだけどね」
魔王「ほう」
勇者「質問その1、何故俺を生かしている?」
魔王「…………」
勇者「そう難しい顔するな。正直に答えればいいんだからな」
魔王「……興味」
勇者「…………」
魔王「興味があった。それだけだ」
勇者「……なるほどねぇ。興味、か」
魔王「………」
勇者「魔王様の興味で、俺は今も生かされてる、と」
12: 2014/08/09(土)04:27:29 ID:209kQS6cr
魔王「……では、次の質問と行こうか」
勇者「ハイハイどうぞ」
魔王「では……何故私に向かってこない?」
勇者「食後で腹一杯だからだよ」
魔王「…………」
勇者「いや、マジで。ぶっちゃけさっきだって腹減ってなきゃ首落としてたよ」
魔王「……面白い冗談だな」
勇者「冗談に聞こえたか?」
魔王「…………」
勇者「ハイハイ、それじゃあ俺の番な」
13: 2014/08/09(土)04:28:12 ID:209kQS6cr
勇者「質問その2、アンタはモンスターに殺された人間の事、どれくらい把握してる?」
魔王「…………」
勇者「はーい早く答えて答えて」
魔王「……どこでどれくらいの人数が殺された。その中にはこんな人間がいた。こんな風に大雑把にしか把握していない」
勇者「ふーん。そうかいそうかい。なるほどね」
魔王「……では、次は私の番でいいか?」
勇者「ん、いいよ。ハイどうぞ」
魔王「…………」
勇者「ん? 何? どうかした?」
魔王「……いや、質問を考えてるだけだ」
勇者「あっそ。早くしてね」ズッ……
魔王「……あぁ」
14: 2014/08/09(土)04:28:49 ID:209kQS6cr
魔王「……では、これにしようか」
勇者「ん? 何?」
魔王「仲間は、どうした?」
勇者「…………」カタッ
魔王「答えないのは無し、なのだろう?」
勇者「……あー、いいよ。答えるから」
魔王「そうか」
勇者「……何から話すかな」
魔王「……仲間はいたんだな」
勇者「あ? 分かって聞いたんじゃねえのか?」
魔王「いや、知らなかったよ」
勇者「……仲間はもういない」
魔王「…………」
勇者「……皆、モンスターに殺されたよ」
15: 2014/08/09(土)04:29:29 ID:209kQS6cr
勇者「元々俺には三人の仲間がいた。そんで、それぞれが道中で氏んだんだ」
魔王「……すまない、と言うべきだろうか」
勇者「いいよ。俺達に牙を向くのがモンスターの使命、だしょ?」
魔王「……そうだな」
勇者「それよりどうだ? 勇者に謝る魔王様なんて、モンスターからすれば目を疑っちまう光景だぞ?」
魔王「……確かにそうだな」
勇者「ま、皆頃しにしたけどね」
魔王「…………」
勇者「おいおい黙るなよ。今の笑う所だぞ?」
魔王「いや、笑えない冗談だ」
勇者「……ま、冗談じゃないけどさ」
16: 2014/08/09(土)04:30:06 ID:209kQS6cr
勇者「さて、じゃあ魔王様が俺のブラックな所を探ってきたことだし、俺もちょっと質問の内容変えてくかな」
魔王「ほう。この魔王の心の闇を探るとでも?」
勇者「いいねぇ、それも捨てがたい。けど、まずはこれを聞かせてもらうぜ」
魔王「ほう、なんだ?」
勇者「質問その3、アンタは、この質疑応答中、何回嘘をついた?」
魔王「…………」
勇者「先に言っておく。俺はアンタの嘘を見破ってる」
魔王「…………そうか」
勇者「言うなれば、これは確認。答え合わせだ」
魔王「…………」
勇者「さて、何回だ? 魔王様」
18: 2014/08/09(土)04:30:51 ID:209kQS6cr
魔王「……少々、侮っていたのかもしれないな」
勇者「この俺をか?」
魔王「あぁ。しかし、忘れていたよ」
勇者「………」
魔王「お前は、勇者だと言う事をな。勇者殿」
勇者「……で、何回?」
魔王「…………答えは3……いや、4回、だ」
勇者「4? ……あぁ、さっきのか」
魔王「あぁ、さっきのだ」
勇者「そっかそっか……そうだよな」
魔王「あぁ、そうだ」
勇者「……さて、魔王様。次で質疑応答は終わりにしようか」
魔王「うむ、そうしよう」
19: 2014/08/09(土)04:31:40 ID:209kQS6cr
勇者「最後くらいは、お互い嘘は無しだ。魔王」
魔王「あぁ、そうだな。勇者」
勇者「じゃあ、魔王。アンタからだ」
魔王「そうか……では、この質問にしようか」
勇者「いいぜ。何でも答えてやるよ」
魔王「お前は、自分の母親の事を知っているか?」
勇者「…………いや、まだ知らない」
魔王「ほほう……まだ、か」
勇者「あぁ。今度、父親に聞こうと思う」
魔王「知ることが出来るといいな」
勇者「ぶっ頃してでも聞き出してやるさ」
魔王「ふっ、恐ろしい勇者だ」
20: 2014/08/09(土)04:32:21 ID:209kQS6cr
勇者「さて、じゃあ俺の番だな」
魔王「あぁ、お前の番だ」
勇者「……実はな、最後の質問も決めてたんだ」
魔王「ほう」
勇者「まだまだ聞きてえ事はあるさ、お互い」
魔王「あぁ。貴様の味覚の事や、コーヒーにミルクを入れる理由の事。まだまだ聞き足りない」
勇者「でも、時間は有限だ。たっぷりあるのと無限は違う」
魔王「そうだな。本当に心惜しい」
勇者「でもまぁ、アレだ。とりあえず終わりにしようか」
21: 2014/08/09(土)04:32:57 ID:209kQS6cr
勇者「質問その4、俺の母親は誰だ?」
魔王「私を頃して聞いてみろ」
22: 2014/08/09(土)04:33:29 ID:209kQS6cr
ーー【魔王城 王室】ーー
勇者「ハァ……ハァ……」
魔王「…………」
勇者「さぁて、どうやらこの戦い、俺の勝ちみたいだ、魔王」
魔王「…………そのようだな」
勇者「約束通り、母親の事は聞かせてもらう」
魔王「…………答えないのは、無し、だったか」
勇者「あぁ、最後までルールは守ってもらうぜ」
魔王「……一つ、聞かせてくれ」
勇者「……聞いてやる。答えるかは別だ」
魔王「何故味覚の無いお前が、ミルクを入れた?」
勇者「……俺には好きな人がいた」
魔王「…………」
勇者「そいつは俺と一緒に旅をして、ここに来る途中でモンスターに殺された」
魔王「…………すまなかった」
勇者「……アレは、そいつを忘れないように、俺がそいつの真似をしてるだけだ」
魔王「…………そうか」
23: 2014/08/09(土)04:34:05 ID:209kQS6cr
勇者「……さぁて、そんじゃくたばる前に聞かせてもらうぜ!?母親の事をな!!」
魔王「…………そうか」
勇者「簡単にくたばれると思うなよ? 母親の事を聞くまでは回復薬使ってでもくたばらせねえからな!」
魔王「……それは人間のための物だ。モンスターに効果は無い」
勇者「何言ってんだ。こんな糞マズイんだぞ? 超良薬だ、モンスターにだって効くさ!」
魔王「ほう……そんなにマズイのか」
勇者「あぁ! 道中浴びるほど飲んだ俺が保証してやる!」
魔王「……それは、信頼出来るな」
勇者「…………聞かせてくれ。俺の母親の話を」
魔王「…………聞かせてやる。俺の愛した人の話を」
24: 2014/08/09(土)04:34:40 ID:209kQS6cr
ーー【国王の城 王室】ーー
国王「おお、勇者よ! 良くぞ、良くぞ戻られた!!」
勇者「そうっすね。本当、良く戻ってこれたわ、俺」
国王「憎き魔王を倒した事! 国民を代表して礼を言おう!」
勇者「あー、礼なら形にしてくれると嬉しいんですが」
国王「む、そうか。では、巨万の富を勇者殿に……」
勇者「あ、俺の欲しいの金じゃないんすよ。まぁ貰うけど」
国王「では、勇者殿の望む物とは?」
勇者「……女王」
国王「へ?」
勇者「女王と、二人で話がしたいんだ」
国王「女王と? いや、構わないが、何故?」
勇者「…………そうだな。色々話すことあるけど、とりあえず伝えなきゃならない事があるんですわ」
国王「……伝えたい事?」
勇者「ええ……父さんに会って来たって」
25: 2014/08/09(土)04:35:37 ID:209kQS6cr
ーー【どこかの村 誰かの家】ーー
少年「お母さん! あのお話聞かせて!」
母親「あら、またあのお話?」
少年「うん!」
母親「やれやれ……昔々、一人のお姫様が悪い人に連れ去られてしまいました」
少年「うん、それで!?」
母親「連れ去られたお姫様は、悪い人達に閉じ込められてしまいましたが、悪い人達の中の一人に助けてもらいました」
少年「それで!? それで!?」
母親「やがてお姫様とお姫様を助けた人は恋に落ち、二人は互いに想い合う仲になりましたが、城の騎士達がお姫様助けに来て、二人は離れ離れになりました」
少年「うん! うん!」
母親「城に戻ったお姫様はしばらくして、助けてくれた人の子供を産み、お姫様はその子供を大切に育て、お姫様を助けた人は子供の事を聞き、密かに喜びましたとさ。おしまい」
少年「……お母さん、これって本当にあったお話?」
母親「ううん。きっと作り話よ」
少年「そっか!」
母親「ほら、早く寝なさい」
少年「うん! おやすみ、ママ」
母親「おやすみなさい」
26: 2014/08/09(土)04:37:05 ID:209kQS6cr
終わり。
最後まで読んでくれた人、ありがとうございました。
ちなみに一番悩んだのはタイトルでした。
28: 2014/08/09(土)04:39:14 ID:MKqY6bdb8
王じゃなくて魔王か
29: 2014/08/09(土)04:40:08 ID:QUvTvzdSa
乙
引用元: 魔王「私を殺して聞いてみろ」
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります