21: 2013/06/05(水) 22:48:59.06 ID:e8iPclwEo

第十五夜 おばあさん


茄子「みなさん、お久しぶりです。鷹富士茄子です」

ほたる「……こんばんは。同じくお久しぶりの白菊ほたるです」

小梅「さ、三人揃うのは、ひ、久しぶり」



白坂小梅のラジオ百物語シリーズ

アイドルマスター シンデレラガールズ 白坂小梅 ハロウィンナイトメアVer. 1/7スケール ABS&PVC製 塗装済み完成品フィギュア

22: 2013/06/05(水) 22:50:15.63 ID:e8iPclwEo


茄子「前回は第二シーズンの幕開けということで、松永涼さんにゲストに来ていただきましたが、いかがでしたか?」

小梅「……楽しかった。でも、三人も……落ち着く」

ほたる「よかった……」

茄子「はい。これからも三人でがんばっていきましょうね。さて、前回が特別な回であったということもあり、今回は、アイドル百物語から始めていきます」

ほたる「……第二シーズン開始についてのお手紙や、松永涼さん出演に関する感想などは、後でゆっくり読む時間を取っていきますね」

小梅「うん。それで、えっと……今日のお話は……『執着』のお話、かな……?」

ほたる「執着、ですか」

茄子「心霊ものだとあまりに何事かに執着すると、それに取り憑いてしまったりしますよね」

小梅「……うん。むしろ、だからこそ幽霊になったり……って場合もよくある」

ほたる「なるほど……」

茄子「それで、今日はどなたのお話なんでしょうか?」

小梅「……今日は相川千夏さん」

ほたる「それでは……お聞きください」

23: 2013/06/05(水) 22:50:53.57 ID:e8iPclwEo

相川千夏(23)
○一言質問
小梅「幽霊と話せたら……なにを訊いてみたい?」
千夏「霊に言語の壁はあるのかどうかね。ないとしたら、あちらでは文学は成立しうるのか、とか」

24: 2013/06/05(水) 22:52:06.73 ID:e8iPclwEo


 怪談……ね。

 わいわい話すような話ではないけれど、私が経験したことで良かったら聞いてちょうだい。

 あれは、私が上京したての頃。
 とあるマンションに入居したことから始まる話。

 その頃住んでいたのは、典型的な東京のベッドタウンで……。
 その地域自体はそう便利でもなかったけれど、マンションが駅の近くだったから、その点では便利だったわ。

 そのマンションはもちろんオートロックで、その上ロビーには管理人さんもいて、そういう意味では安心して入居したのよね。

 そうして、生活を初めて、気づいたことがあったの。
 朝や昼にロビーに下りて外に出ると、必ずおばあさんが、ロビーの椅子に座ってるの。

 上品な身なりの、小さなおばあさんでね。
 椅子に埋もれるように座って、たいていは日差しの中でこっくりこっくり船を漕いでいたわ。

 眠っている顔を見ている限りでは、しわくちゃだけど、とても優しそうなおばあさん。

 夜帰ってくるときには見かけなかったけれど、午後早めの時間に用事があって戻った時とかには見かけたこともあった。

25: 2013/06/05(水) 22:53:49.05 ID:e8iPclwEo


 だから、なんとなくだけど、夕方にはお部屋に戻ってるんだろうなって、そう思ってたの。
 そうじゃないと知ったのは、だいぶ後になってからだけど……。

 ともあれ、そんな風にそこで暮らし初めて、最初のばたばたした期間が過ぎて……。
 そうね、入居から半年くらいしてからのことだったと思うわ。

 深夜に、チャイムが鳴ったの。

 たしか、夜中の二時すぎだったと思う。
 こんな時間に非常識だって、最初は無視してたのよね。眠かったし。

 でも、あんまり鳴らし続けるものだから、目が完全に覚めちゃって。
 どんな奴が来てるのか、見てやろうって、ドアホンのモニターを覗いてみたの。

 変な奴だったら、管理会社や警察に連絡してやろうと思って。

 そうしたら、さっき言ったおばあさんがそこに立ってたのよね。

 私、びっくりしてしまって、お部屋をお間違えじゃないですか、ってドアホン越しに声をかけたの。

 そうしたら、おばあさんはどこか焦点の合ってないような目で、じーっとドアを見つめた後、ぺこってお辞儀して、どこかへ行ってしまったわ。

26: 2013/06/05(水) 22:55:09.33 ID:e8iPclwEo


 私としては眠いところを起こされたって苛々はあったけど……。
 ご老人だし、しかたないわよね、と自分を納得させてベッドに戻ることにした。

 翌日にはそんなことすっかり忘れてたわ。
 忘れてたというか、どうでもいいと思ってたのね。

 ところが……。
 また来たのよ。

 それから、一週間くらいだったかしら。

 また、深夜にチャイムの嵐。
 モニターを見たらあのおばあさんで、さすがに閉口したわ。

『また部屋をお間違えですよ』

 ってそう言う声も一度目とは違って、だいぶ冷たかったんじゃないかしら。

 今度も、そのまま帰ってくれるものと思ったんだけど……。

 突然奇声をあげて、暴れ出したのよ。
 いつもの穏やかな表情なんて吹き飛んだ、もうとんでもない憤怒の相でね。

 ドアは蹴るわ、周りの壁は殴るわ、すごい音と衝撃で。

 とてもあんな小さな体が出せるものだとは思えないくらいだった。

27: 2013/06/05(水) 22:56:42.90 ID:e8iPclwEo


 最初は呆然としてたけど、ともかく、すぐに警察に電話したわ。
 管理会社と管理人にもね。

 そこからはじまった大騒ぎはあまり詳しく話してもしかたないでしょう。
 ただ、本気で疲れたとだけ言っておくわ。

 結局、おばあさんは警察に連れて行かれて……。
 私はその日一日寝不足だったわ。

 へこんだドアのこととか、そのほかのことは全部管理会社に任せてたから、私としては、それで一件落着になると、そう思っていたの。
 おばあさんはもしかしたらぼけてしまったのかもしれないけど、それはご家族に任せることだものね。

 実際、その後はロビーでおばあさんの姿を見ることはなかったし、どこかで面倒を見てもらっているのだって、そう思ってた。

 そううまく行ったのなら、ここで怪談として話すこともないわけだけど。

28: 2013/06/05(水) 22:57:42.00 ID:e8iPclwEo

 そう、また来たのよ。

 たしか、一ヶ月くらい後だった。

 今度はチャイムすら鳴らさず、ドアをどかんどかん叩いて蹴って、何かを叫んでる。

 怖くてとにかくすぐに警察を呼んだけれど、連れていかれるまで、ずっとおばあさんはしわがれた声を張り上げてた。

『出てけ! 返せ!』

 ってね。

 そこまで来ると、さすがに不審にもなるわ。
 私は、事情を知っているような顔をしている管理人さんを追求することにしたの。

『あの人はね、元々、この土地の地主さんだったんだよ』

 渋る管理人さんは、食い下がる私にそう言ったわ。

 詳しく聞くとね、こういうことらしかった。

 駅前からずっと広がる土地は、元々その地主さんの一族が所有していた。
 けれど、おばあさんと結婚して婿に入った人が、事業に失敗してしまったんだそうよ。

29: 2013/06/05(水) 22:59:12.85 ID:e8iPclwEo

 土地を切り売りして、膨大な借金を返済していたおばあさんたち。
 けれど、今度は土地の売買で騙されて、ついに本家の土地を売ることになったそうなの。

 その本家があった土地に建ったのが、私が住んでいたマンション。

 おばあさんたちは、売却の条件の中でそのマンションの中の一室を得ることになっていたのだけれど、その部屋というのが……。

 うん、ご想像の通り。
 私が住んでいた、その部屋だったわけ。

 最後に残った財産のはずの部屋も手放すことになった経緯については、管理人さんも口を濁していたわ。
 ただ、まあ、いろいろとあったのでしょうね。
 本当に、いろいろと。

 ロビーにいたのは、管理人さんが同情して、昼間だけ入れさせてあげていたらしいわ。
 長年住んでいた所が懐かしいんだろうって、そう思ってのことでしょう。

 ただ、その情けが、私の部屋への迷惑につながったと思うと腹立たしいけれど。

 管理人さんの目を盗んで、夜中までマンションの中に潜んでいたおばあさんの行動力もすごいけどね。

30: 2013/06/05(水) 23:01:02.36 ID:e8iPclwEo

 ただ、わからないのは、最後の襲撃よね。

 管理人さんは、もうロビーには入れていなかった。
 なにより、その日、警察からかかってきた電話が不思議でならなかったわ。

『あの……そちらに、あのおばあさんは……いませんよね?』

 って言ってくるから、何事かと思ったら、パトカーで連行中に消えたんですって、
 あのおばあさん。

 訳のわからないこと言わないで、きちんと保護してください、って言ったけれど、なんだかよくわからない反応でね。

 私は、自分の安全に関わることだし、警察は一体どういうつもりかと、抗議したのよ。

 まあ、今思い返してもかなり猛烈に食ってかかったから、次のようなことを漏らしたんでしょうね。
 私は余計混乱させられたけど。

『実は……。以前保護した一週間後に、亡くなっているらしいんです。あの人』


 ……さて、私の見たものは、警察官たちが引っ張っていったのは、一体なんだったのかしらね。


 その後すぐに引っ越してしまったから、私にはわからないけれど。

 もしかしたら、未だに、あのおばあさんはあの部屋を返せと、暴れに来ているのではないかしら……?

31: 2013/06/05(水) 23:02:22.51 ID:e8iPclwEo


茄子「……なるほど、これは執着のお話ですね」

ほたる「……まるっきり普通の人にしか見えなかった……その、幽霊、ということなんでしょうか……?」

小梅「……当人がまだ生きていると信じ切っていたりすると……。そういうこともある」

茄子「生きてると信じ込んでるですか。それはなんだか……困りますね」

ほたる「……このおばあさんの場合、話も聞いてくれなさそうな……」

小梅「……たいていは、聞いてくれない……。だから、お経とかを唱えてもまるで無駄な相手も……結構、いる」

茄子「なるほど。まずは相手に届かなければ意味はないと」

小梅「う、うん。大変」

ほたる「ええと、次のコーナーでは、今回の相川さんのお話にちなんで、ある物に執着したばかりに奇怪な出来事に巻き込まれていくお話を取り上げて……」



 第十五夜 終

32: 2013/06/05(水) 23:02:56.60 ID:e8iPclwEo
本日は以上です。
土地がらみは怖いですよね。

35: 2013/06/05(水) 23:15:27.77 ID:jrHXto6M0
深夜にチャイムの時点で充分怖い

37: 2013/06/06(木) 08:05:40.01 ID:qw86ITcJo
でも、氏んでるの自覚したらドアすり抜けて来そうだから、やだな。

引用元: 小梅「白坂小梅のラジオ百物語」 Season 2