38: 2013/06/08(土) 00:44:22.87 ID:ft/YjGomo

第十六夜 首飾り


茄子「さて、本日もそろそろアイドル百物語のお時間となりました」

ほたる「……久しぶりですね。この感じ」

小梅「う、うん。通常進行は……久しぶり」

茄子「たしかにそうですね。さて、今日は、少々変わったお話のようですね?」

小梅「うん。霊とかそういうのは……出てこない。でも、とても怖い……。いろんな意味で怖いお話」

ほたる「……いったいどんな……」

茄子「今回は、お聞きいただく前に、リスナーの皆様にお知らせがあります。今回のお話には、人種差別とそれにまつわる悲惨な出来事が含まれます」

小梅「そ、そういうことに……耐性のない人は……注意」

茄子「付け加えまして、当然のことながら、当番組は差別や虐待、拷問等の行為を肯定するものではありません。どうか、その旨ご承知おきください」

ほたる「え、ええと、今日は……その……どなたのところに……?」

小梅「今日は……高橋礼子さん」

茄子「では、お聞きください」


白坂小梅のラジオ百物語シリーズ

アイドルマスター シンデレラガールズ 白坂小梅 ハロウィンナイトメアVer. 1/7スケール ABS&PVC製 塗装済み完成品フィギュア
39: 2013/06/08(土) 00:45:56.14 ID:ft/YjGomo

高橋礼子(31)


○一言質問
小梅「最後の晩餐が選べるとしたら……なにを食べたい?」
礼子「誰と食べるかに比べたら、何を食べるかはさして重要じゃないわね」

40: 2013/06/08(土) 00:47:01.86 ID:ft/YjGomo

 怪談かあ。
 うん、怪談……。

 そうね、じゃあ、ちょっと珍しいお話をしましょうか。

 これは、とあるバーで出会ったバーテンダーのお話。

 小梅ちゃんはいまいくつ? 13歳?
 そう。じゃあ、あと7年して、成人したら連れて行ってもらうといいわ。
 ただし、アルコールはあうあわないがあるから、アルコール抜きでも楽しめる、いいバーにね。

 あら、脱線しちゃった。

 そうね、あれは、もう7、8年は前の話になるのかしらね。
 私もまだ小娘って言われるくらいの年齢で、結構無茶してたかもしれないわね。

 そのバーに行き着いた経緯はよく覚えてないわ。
 たぶん誰かの紹介だと思うけれど、その誰かと知り合ったのも、どこかお酒の席でしょうしね。

 狭苦しいバーだけど、いつ行ってもやっているし、閉まってても、電話すればマスターが来て開けてくれるなんて店だった。

 夜遊びして、最後に行き着く、そんなところ。

41: 2013/06/08(土) 00:48:16.92 ID:ft/YjGomo

 そのバーに、ある時から黒人のバーテンダーが入ってきたの。
 年はその頃でも50を越えてたと思うけど、定かではないわね。

 その人は、梅雨や夏の真っ盛りでも襟の高いシャツを着て、ぴっちりネクタイを締めてたわ。

 バーテンダーっていうと、白いシャツにベストってイメージがあるし、実際、それが一番動きやすいと当人たちは言うものなのよ。
 でも、だからって首が全部隠れるような高い襟のシャツである必要はないわよね?

 しかも、外国の出身なら、日本の梅雨なんて耐え難い湿度でしょうにね。

 ましてや、その店は、夏になるとマスターがネクタイ外しちゃう程度には緩い店だったし。

 だから、その人が店に入ってしばらくして……仲良くなったと思った頃に、訊いてみたのよ、私。
 なんでそんな格好なの? って。

 でも教えてくれなかったわ。
 ただ、微笑むだけで。

 いまだったら、それ以上は踏み込まなかったでしょうね。
 でも、その頃はまだ若くて……なんて言うんでしょうね。お節介だったのよね。

 だからと言って、問い詰めるのはスマートじゃないわ。

42: 2013/06/08(土) 00:49:31.39 ID:ft/YjGomo

 だから、その人を誘って、飲みに行ったの。
 そこの常連みんなで、歓迎会ってことで。

 もうバーに来てから半年近く経ってたけど、飲み屋に居着くかどうかって、正直わからないものだしね。
 マスターもちょうどいいって喜んでくれてたわ。

 色んなお店をみんなで飲み歩いて、最後にそのバーを貸し切って、朝まで飲むって予定。

 その人は、楽しそうに飲んでいたけど、ずっとシャツは襟の高いのを閉めたままでね。
 普段はベストなのに、プライベートだからってジャケットまで着てたから、よけい堅苦しかったかもしれないわね。

 私は機をうかがったわ。
 結局、当のバーに行き着いて、みんなが潰れだして……。
 私と、もう一人――商社マンの男性と、その人だけが起きてるって状態になったの。

 ここだ、と思ってね。
 高いお酒を三人で飲んで、そして、訊いてみたのよ。
 その襟の下になにか隠してるの? ってね。

 そうしたら、彼はしばらく私たちをじっと見た後、君たちにならいいか、と言って、ネクタイを外して、ぐいとシャツを開いたの。

 そこには、ひどい火傷の痕があったわ。首から胸にかけてね。

43: 2013/06/08(土) 00:50:36.48 ID:ft/YjGomo

『氏のネックレスって知ってるかい?』

 彼は服を戻しながら、陰鬱な表情で話し始めたわ。

『南アのアパルトヘイトの頃に流行ったリンチの手法だよ。タイヤを首に乗せ、それを焼くんだ』

 小梅ちゃんはアパルトヘイトなんて知らないわよね?
 私だって詳しく知っているわけじゃないけれど、南アフリカの人種隔離政策ね。

 ひとまずは白人と黒人、そして、白人同士や黒人同士も憎み合い、いがみあう結果となったっていうのがわかればいいと思うわ。

 そんな憎悪のただなかで生まれたのが、氏のネックレスっていう凄惨なリンチの手法。

 ただ、彼は南アフリカの出身じゃなかった。
 アフリカはアフリカでも別の国の出身で、いまはアメリカ国籍なんだと言っていた。

 なぜ、アメリカ人になったか、ならざるをえなかったかを、ネックレスの話も交えて、彼は語ってくれたわ。

44: 2013/06/08(土) 00:52:13.35 ID:ft/YjGomo

 彼の生まれ故郷では、とある二つの部族が敵対していたんですって。
 ここでは、仮に『ロ族』と『ハ族』とでもしておきましょうか。
 うん、『いろは』の、ろはね。

 両者の敵対関係は、ずっと昔からのものだったけれど、二十年ほど前に頂点に達して、内戦がはじまってしまった。

 内戦は隣国やらいろいろな勢力の思惑が絡み合って、とんでもなく激化して……。
 ついに、ハ族のほうが、ロ族を虐頃する……なんて事態にまで至ってしまったようね。

 彼が『氏のネックレス』を受けたのは、そんな虐殺行為の最中。

 ハ族の戦闘部隊に捕まった彼は、家族はじめ村の人間たちが見ている前で『氏のネックレス』のリンチを受け、氏なない程度になぶられた。

『奴らは、俺にしるしをつけて、生き証人にしたかったんだよ』

 彼はそう言っていたわ。

 彼以外の村人は一人残らず殺されたそうよ。
 家族たちが、一緒に暮らしていた村人たちが、次々に殺されていくのを半氏半生の状態で見せつけられ、恐怖を語り継ぐ証人となるよう生かされた。
 彼はそう語っていたわ。

45: 2013/06/08(土) 00:52:58.67 ID:ft/YjGomo

 その後、彼は幸運にも混乱する故郷から逃げ出すことに成功し、アメリカに亡命。
 今に至る、ともね。

 そうして語り終えてから、彼は細い声で、私の知らない歌を歌い始めた。

 たぶん、日本で知っている人はほとんどいないだろう現地の言葉で、私たちが聞いたことのない歌を、歌ってた。


 その目から、ひたすらに涙を流しながら。

46: 2013/06/08(土) 00:54:16.16 ID:ft/YjGomo

 何とも言えない感情を抱きながらも朝を迎え、酔っ払いどもをなんとかタクシーや始発に追いやって。
 そうして、私も帰ろうとしたとき、彼の話を一緒に聞いていた男性がやってきたの。

 場所を変えて話せないかとね。

 あまりに真剣な様子に、私はうなずいていたわ。
 男の人と二人っきりで……なんて、相手に勘違いさせてもいいと思わない限りはしないポリシーだったのだけれど。

『あの人の言うことはあまり信じない方がいいですよ』

 さっきまでいたバーとは打って変わって騒がしい立ち飲み屋で、彼はそう切り出したわ。

 もちろん、私は何を言うのかと食ってかかった。
 なにしろ、あの人の語り口は実に重苦しく、生々しいもので、疑う要素なんてみじんもなかったから。

 まして、あんな寂しく歌うのを聴いて……と、憤っていた所もあるかもしれないわ。

 でも、彼は首を振って、自分はアフリカのとある国に赴任していたことがあるというの。
 それは、さっきの話にあったロ族とハ族が内戦を起こした国の隣国にあたると。

『大まかな話は嘘じゃないんです。内戦はあったし、虐殺もあった。南ア生まれのネックレスも、二つの部族の中で多用されたと聞いてます』

47: 2013/06/08(土) 00:55:51.43 ID:ft/YjGomo

 だったら、と私が言うと、彼は目を伏せて言ったの。

『ネックレスってのは、あんな程度の傷しか残らない生やさしいものじゃないんです』

 え? と聞き返したのを覚えてる。
 なにも言葉にならなかったのを。

『タイヤに火をつける。それは間違ってないけど、タイヤにガソリンを振りまいてから火をつける。
だから、すぐに燃え上がって、熱で収縮したタイヤが首を締め付ける。
溶けたタイヤがべっとりと膚に張り付きながらね』

 あんまりにもひどい話だからか、彼は何度も焼酎を呷りながら続けてたわ。

『やられたほうは窒息と熱で暴れ回る、そんな処刑方法なんです』

 絶句する私を前に、彼は何度も首を振った。

『もし生き残れても、喉も顔も焼けてしまう。どれだけ早く助けられても、首回りだけで済むはずがない。なによりも、さっき歌ってた、あの歌……』

 そこで、彼は黙りこくってしまったわ。
 その口を開かせるのには、さらに二杯ほど飲ませないといけなかったわね。


『あれは、ロ族のものじゃない。虐殺をしていた、ハ族のほうの歌なんですよ』


.

48: 2013/06/08(土) 00:57:22.99 ID:ft/YjGomo

 彼の話はそこで終わり。

 そして、私の話も、ここで終わり。

 バーテンダーが本当はどんな経験をしてきたのかなんて、探ること、私にはできなかった。
 するつもりもなかった。

 商社マンの彼の話の裏付けをとることも出来なかった。

 あのバーテンダーは虐殺の犠牲者だったかもしれない。
 あるいは、それを装うことで自分が犯した罪を忘れようとする加害者側だったかもしれない。

 私にはわからないし、そこまで踏み込むつもりもない。

 ただ、世間にはこんな話もあるって、それだけのこと。

 え?
 バーテンダーの黒人さんはどうしてるかって?

 さあ、いまはどうしてるのかしら。


 あのバーは、もうとうに潰れてしまったから。



.

49: 2013/06/08(土) 00:58:07.80 ID:ft/YjGomo


ほたる「これは……」

茄子「怪談、と言っていいのかためらわれますが、しかし……」

小梅「れ、礼子さんが言うとおり、こんな話も……ある。悲しくて……不気味な話。これもきっと怪談……だと思う」

ほたる「……そうかもしれませんが、私にはわかりません。頃しあいをすることも、そんな残酷なことをすることも……」

茄子「わからないほうが……いいのかもしれません。共感してもしかたのないことはありますから……」

小梅「う、うん」

茄子「でも、もし、この人が加害者側だったとしたら……」

小梅「な、なに?」

茄子「いえ、こうして、被害者を装うことでしか生きていけないとしたら……。それは、きっと、とても……」

ほたる「……なんでしょう?」

茄子「いえ……。口にしない方がいい気がします。すいません」

小梅「そ、そう……」

ほたる「……次のコーナー、行きましょう。今日は、みなさんからのメールやお手紙の中で気になったものを……」



 第十六夜 終

50: 2013/06/08(土) 00:59:21.77 ID:ft/YjGomo
本日は以上です。
予想以上にきつい話になってしまった気がします。

51: 2013/06/08(土) 01:13:55.35 ID:0gK52n0G0
霊の話より精神的にくる
乙です

52: 2013/06/08(土) 01:17:02.29 ID:ORHfscGfo
おつ
本当に怖いのは生きている人間とな

引用元: 小梅「白坂小梅のラジオ百物語」 Season 2