162: 2013/06/22(土) 16:18:46.06 ID:7DuFO0uOo

第二十三夜 タナベのおじちゃん


奈緒「さて、本日もアイドル百物語のお時間となりました。……実は言ってみたかったんだよね、これ」

加蓮「奈緒はこの番組好きだもんね」

凛「好きなのはいいけど、怖すぎて涙目になってまで聞いてるのはどうかと思う」

奈緒「ばっ、ちっ、おまっ」

茄子「音声だけだと伝わりにくいですが、ただいま奈緒さんは真っ赤になってます」

奈緒「茄子さぁん!」

小梅「ふふっ。でも……聞いてくれてるのは嬉しい」

ほたる「……本当に」

奈緒「う、うん。まあ、ね。加蓮たちも聞いてるけどな」

凛「アイドル百物語の部分は事務所のほうで録音してくれてるしね」


白坂小梅のラジオ百物語シリーズ

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163: 2013/06/22(土) 16:19:31.10 ID:7DuFO0uOo


加蓮「そうそう。色んなアイドルの語りが聞けるから、勉強にもなるし」

茄子「台本ではない一人語りという意味では貴重なサンプルかもしれませんね」

ほたる「……なるほど」

加蓮「でも、たまに本気で怖いのあるよねー」

小梅「そう……かな?」

凛「臨場感あるやつはきついね。三人はもう慣れた?」

小梅「私は……楽しい」

ほたる「そりゃ、小梅さんは……。私は、えっと、たまに泣いちゃいます……。怖いっていうより悲しくて……」

茄子「たしかに悲しかったりつらいお話の時は、胸がざわつきますね。お化けの系統で怖いお話は、ぞっとしますが、楽しい部分もありますね」

奈緒「そんなものかー。やってるほうもいろいろ思うんだな」

164: 2013/06/22(土) 16:20:02.44 ID:7DuFO0uOo


加蓮「番組に名前を冠してる人は楽しみまくりみたいだけどね」

小梅「えへへ……」

凛「それはともかく、そろそろ話にいく時間じゃない?」

ほたる「そうですね、そろそろ……」

奈緒「今日は加蓮だな」

加蓮「うん」

茄子「では、北条加蓮さんのお話となります。どうぞお聞きください」

165: 2013/06/22(土) 16:20:37.57 ID:7DuFO0uOo

渋谷凛(15)北条加蓮(16)神谷奈緒(17)

○一言質問
小梅「この世で一番……怖いものってなんだと思う?」
加蓮「暗闇」

166: 2013/06/22(土) 16:22:13.46 ID:7DuFO0uOo

 ええと、北条加蓮です。
 ……って、それは別にいいんだっけ。

 私、あまり体が強くなくて、いまもたまに体調崩したりするんだよね。
 でも、それはなんていうのかな、せいぜい二、三日で復帰できる程度で……。

 昔はね、もっとひどかった。
 特に子供の頃とか、入院してた期間のほうが長かったんじゃないかって思うような年もあったくらい。

 だから、正直言うと、いまアイドルやってたりするのが信じられないくらいだよ。
 夢なんじゃないかってね。

 ま、それはともかく、今回はそのよく入院してた頃の話を一つするね。

 入院ってさ、本当に退屈なんだよ。
 特に子供のうちは、なにもしないってことが、すごいストレスになるの。
 
 うーん。
 みんなは小児病棟に長期入院とかしたことないだろうから、なかなか想像できないかもしれないね。

167: 2013/06/22(土) 16:23:26.49 ID:7DuFO0uOo

 でもさ、たとえば、小学校の頃、熱を出して学校を休んでる日。
 本当にきつい時はそれこそ意識もないけど、多少良くなったら、ちょっと遊び始めたりしたでしょ?
 もちろん、普段通りとはいかないけどさ。

 それと同じで、小児病棟の子たちも、退屈するし、出来ることなら遊びたがるんだよね。
 もちろん、きついときはベッドにいるしかないけど、そうじゃない時ってのもあるわけで。

 それで、そんな時は小児病棟のプレイルームに行ったり、病院の中を散歩したりするんだ。

 初めて入院した病院だったりすると、病院中を巡るのは、『探検』で、それだけでも楽しいもんだよ。
 ただ、私はさっきも言ったとおり何度も入院してたし、期間も結構長くてさ。

 病院の施設っていう意味では、もう知り尽くしちゃってたんだ。
 小児病棟だけじゃなくて、大人たちの入院してる病棟も。

 といって、プレイルームはね……。

 これは別に明確なルールじゃないんだけど……。
 その、治る見込みが少ない子優先、なんだよね。

 そうだね、ガンとか白血病とか。
 病名までは知らないけど……次の入院では姿を見なかった子とか、いたよ。

168: 2013/06/22(土) 16:24:27.51 ID:7DuFO0uOo

 ええと、話を戻して、病院を探検し尽くすと、病院内の散策は様相を変えてくるんだ。
 うろうろと一人で歩くっていうより、知り合いの人たちと会っておしゃべりするのが目的になってくるの。

 それまでの探検で知り合ってた大人たちが、おお、来たなって相手してくれるわけ。

 あっちもお見舞いが来ている時以外は暇だからね。子供の相手するのも、いい暇つぶしだったんじゃないかな?

 それで、私が仲の良かった大人の人に、タナベのおじちゃんってのがいてね。

 いや、実際にはタナベって名前じゃなかったと思うな。
 たしか、タナベって土地の出身か、タナベってつく名前の会社の人だったか、そんな感じだったはず。
 要はタナベってあだ名のおじちゃん。

 ただ、あの頃の私にはすごいおじさんに見えてたけど、いま思い返すと……。
 たぶん、四十代、いっても五十になるかならないかくらいだったんじゃないかな。

169: 2013/06/22(土) 16:26:07.33 ID:7DuFO0uOo

 そのおじちゃんがね、よく私を相手にしてくれていたのは、喫煙室に行けないからだったんだ。

 喫煙室が一種の社交場みたいになってるところって、昔は多かったんでしょ?
 病院の場合、ご飯はそれぞれの容態にあったのがベッドで出されるから、余計に喫煙室が大人たちの集まる場所になってたんだよね。
 なにしろすることないし。

 でも、タナベのおじちゃんは呼吸器系の病気で、煙草を止められてた。

『もう普通の人の何倍も吸っちゃったからね』

 おじちゃんはそんなことを言ってた。

 私が気づいてないと思ってだろうけど、喫煙室のほうをうらやましそうに見つめてたこともよくあったよ。
 たぶん、入院するまでは、煙草が大好きだったんだろうね。

 側にいるだけであんな煙たいの、なんで好きなのかよくわからないけど……。
 まあ、嗜好品なんてそんなものかも。

 ともあれ、そんなタナベのおじちゃんは、私のお気に入りだった。
 だって、私のおしゃべりにいつまでもつきあってくれるのはタナベのおじちゃんくらいだったから。

170: 2013/06/22(土) 16:27:08.29 ID:7DuFO0uOo

 他の人も、ずいぶん根気よくお話きいてくれたとは思うよ。
 だけど、やっぱり、小さな女の子の、内容もすっとびまくりの話につきあうのって大変だと思うんだ。
 タナベのおじちゃんはよくもまあ長々とつきあってたものだよ。

 うん、ありがたいことだよね。

 さて、これはとある夜の話。
 どうしても寝付けなくて、消灯時間後に病室を抜け出したことがあったの。

 しかも、ナースステーションを身を隠して通過して、一般病棟まで探検に行っちゃった。

 誰もいない廊下を、音を立てないように気をつけてひょこひょこ進むのは、なかなか楽しかった記憶がある。
 いけないことしてるって自覚もあったしね。

 そうして、一般病棟のとある階、タナベのおじちゃんが入院していた階にまで行ったとき。

 廊下の突き当たり……喫煙室に明かりがついてるのに気づいたの。

171: 2013/06/22(土) 16:28:55.81 ID:7DuFO0uOo

 あれ、誰かいるんだ。

 そう思って、私は近づいていった。

 そうしたら、そこにタナベのおじちゃんがいたんだ。
 煙草をくわえて、満足そうに煙を吸い込んでいるタナベのおじちゃんが。

 私は立ち止まって、廊下と喫煙室を分けている透明な壁越しにおじちゃんのことを見つめていた。

 すると、おじちゃんは私に気づいて、にかって笑ったの。

 こう、いたずらを見つかっちゃったかのような、それでいてすっきりしたみたいな、そんな笑顔。

 それから、おじちゃんは一度大きく煙を吸い込むと、ぱっと消えちゃった。
 まるで煙みたいにね。

 そう、もうわかってると思うけど。

 タナベのおじちゃんはその日の一週間前にはもう亡くなってたんだよね。

 どうしても、最後に思い切り煙草を吸っておきたかったんじゃないかな。
 きっとね。

172: 2013/06/22(土) 16:29:32.76 ID:7DuFO0uOo


奈緒「……なんていうかさ、ありがちだけど……」

凛「見た当人から聞くと、いろいろ思うね」

加蓮「まあね。でも、正直、こんなの珍しくないよ」

ほたる「……そうなんですか……」

小梅「清良さんも、いろいろと知ってて教えてくれた……。電波には乗せない約束だから、話せない、けど」

茄子「人の生き氏にが日常的にある場所ですからね……」

加蓮「といって悲しいことばかりでもないけどね」

凛「うん、そうだね」

奈緒「しかし、煙草かぁ……。そんなに執着することなのかな?」

小梅「いろんな……理由で霊は出てくるみたいだから。なんてことないことでも……」

茄子「こだわりというのはそれぞれですからね」

173: 2013/06/22(土) 16:30:03.97 ID:7DuFO0uOo


ほたる「でも……今回のようなのはともかく、普通はあんまり出てこられても、ですね」

加蓮「たしかにね。私だって、おじちゃんじゃなかったら、怖すぎるよ」

凛「でも、そこは加蓮だからこそ出てきたんじゃないの?」

小梅「そ、そうかも」

加蓮「そうかなー。そうだといいね」

ほたる「では、次のコーナーでは、近しい故人が現れたというお話を集めて……」



 第二十三夜 終

174: 2013/06/22(土) 16:30:35.06 ID:7DuFO0uOo
 本日は以上です。
 清良さんで病院ネタを避けたので、加蓮はストレートに入院してた時の話で。

175: 2013/06/22(土) 18:51:04.75 ID:RMbNPFRS0
入院中はマジでヒマだったな。メシくらいしか楽しみがなかったよ。
しかしそのメシもマズい病院食だった日にはもう……

176: 2013/06/23(日) 02:59:53.84 ID:vaE57amGo
俺も昔は自家中毒でよく入院してたなぁ…
泣きながら帰ろうとする親追いかけてたわwwwwww

引用元: 小梅「白坂小梅のラジオ百物語」 Season 2