61: 2013/09/01(日) 00:18:55.86 ID:OULNwb3Ko

第二十九夜 海


茄子「それでは、本日もアイドル百物語のお時間となりました」

ほたる「今日は……いったいどんな?」

小梅「今日の話は……海でのお話」

茄子「海ですかー。山もそうですが、海も怪談は結構聞きますよね」

ほたる「昔の……船幽霊とか……」

小梅「うん。山や海は……一つ間違えると氏と隣り合わせだし……。不思議な話もたくさんある」

茄子「海難事故はいまでも大変ですからね」


白坂小梅のラジオ百物語シリーズ

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62: 2013/09/01(日) 00:19:40.41 ID:OULNwb3Ko


小梅「うん。事故で遺体があがらないこともあるから……」

ほたる「いつまでも行方不明というのは……つらいですね」

小梅「だから……。『戻ってくる』話は多い。今回はそれはあんまり関係ないけど……」

茄子「今回はどなたのところに?」

小梅「……及川雫さん」

ほたる「及川さんはあまり海……というイメージではないですが……」

小梅「うん。だから、旅行の時のお話……みたい」

茄子「なるほど。……では、及川さんのお話です。お聞きください」

63: 2013/09/01(日) 00:20:26.46 ID:OULNwb3Ko

及川雫(16)

○一言質問
小梅「超常現象に……遭遇したい?」
雫「うーん。あんまり怖いのはいやですねー。あ、でも、件さんは会ってみたいです。牛さんなんですよねー?」

64: 2013/09/01(日) 00:22:19.56 ID:OULNwb3Ko

 こんにちは、小梅ちゃん。

 今日は怖いお話なんですよねー?
 はい?
 怖くなくてもおかしなお話ならなんでもいい?

 そうですかー。
 じゃあ、私の話でも大丈夫かなー?

 私自身は実体験だから怖いお話だと思ってるんですけど……。
 試しにプロデューサーさんに話してみたらそうでもないかなって思っちゃって。

 え?
 感じ取り方はそれぞれだから、あんまり気にしなくていい?
 なるほどー。ありがとうございます。

 じゃあ、始めますねー。
 これは、私が臨海学校で海に行った時の話ですー。

 実家の近くは、海水浴場が無いので、なかなか海に行くのって難しいんです。
 最近はお仕事でビーチに行ったりするんで、私は楽しんでるんですけどねー。

 あ、違いました。臨海学校の話でした。

65: 2013/09/01(日) 00:23:15.97 ID:OULNwb3Ko

 えっと、そういうわけで、うちの地方の学校は臨海学校として、海に出かけてくんですよー。
 私は小学校、中学校と行きました。

 今日は、中学校の時のお話です。

 臨海学校の二日目に、遠泳の時間があったんです。
 臨海学校に行ったみんながみんな遠泳したってわけじゃないんですよ。
 泳ぐのがそれほど得意じゃない人は浜辺にいましたし、漁業関連の資料館に行ったグループなんかもあったはずです。

 でも、私はせっかくの海だったんでいっぱい泳ぎたくて。
 遠泳のグループに申し込んだんですよ。

 土地の方に船を出してもらって、先生たちがその船で併走する横を、みんなで一生懸命泳ぐんです。

66: 2013/09/01(日) 00:25:28.65 ID:OULNwb3Ko

 でも、やっぱりそこまで海に慣れてませんから。
 すぐに限界って人が出てきて、その子たちは船に乗って、みんなを応援するんですね。

 私もしばらくは泳いでたんですけど、どれくらいですかねー……。
 自分では結構泳いだなってところで、船に乗ったんです。

 それからは、まだ泳いでいる友達を応援しつつ、ぼーっと波間を眺めたりしてました。
 揺れる船の上でどこまでも続く海を眺めてるって……。
 なんだか不思議な気持ちになるものですよ。

 もしかしたら、これって海の近くに住んでる人にはわかりにくい感覚かもしれませんねー。
 海が珍しいものじゃないんですものね。

 ともあれ、そうして眺めていたら、別のグループが近づいてくるのが見えたんです。
 数人の人の頭が固まってこちらに近づいてくるのが。

 地元の人かなー。
 それとも、私たちと同じく遊びに来た人かなー。
 そんなことを考えながら、そちらを見てました。

67: 2013/09/01(日) 00:26:54.93 ID:OULNwb3Ko

 ところがですね。

 近づくその人たちの様子がなんだか変なんです。
 なにが変なのか、船の上から見ている私はずっと気づかなかったんですけど……。

 そちらを見た遠泳中の友達の一人が悲鳴を上げて、ようやくわかりました。

『く、首っ!』

 彼女はそう叫んで船に転がるように上がってきたんです。

 ああ、そうか、と私は思いました。
 近づいてくる集団には、いつまで経っても体が見えなかったんです。

 水の下ですから、遠ければ見えないこともあるでしょう。
 でも、すぐそこに来ているのに、首の下にあるはずのなにも見えなかったら?
 体を動かしている気配すらなかったら?

 そうなんです。
 その首の……首たちの下にはなにもなかったんです。

 ただ、長い髪が……黒々と水に揺れるだけで……。

68: 2013/09/01(日) 00:28:13.26 ID:OULNwb3Ko

『生首が寄ってきてる!』

 誰かがそう言った途端、遠泳してた子たちはみんなパニックになりました。
 先生たちが大声で船に上がってこいと叫び、わらわらとみんなが船に取りすがり……。

 私はそんな中で、なんとなく生首をまだ見てました。

 一、二、三、四……。
 数えてみると、全部で七個。

 しかも見る限りは女の人のものばかり、七つもありました。
 そう、女の人の生首が七個

 七人も一度に亡くなられたのかな……。
 私はそんなことを思って、なんだか悲しくなりました。

 でも、そんなにたくさんの女の人の生首が見つかった、ってなったら、大きなニュースになると思いませんか?

69: 2013/09/01(日) 00:29:22.31 ID:OULNwb3Ko

 ええ、そうです。
 実際には事件として取り上げられていないことでわかるとおり、それは、海を流れてきたご遺体じゃあなかったんです。

 っていうのも……。


 けらけら笑い出したんですよ。


 その首たちが。

 それまでたしかにつぶられていたはずの目をかっと見開いて、私たちを見て……笑ってる。

 もうパニックなんてものじゃありませんでした。
 みんな、船の上で腰を抜かしてましたよ。

 そこで、騒ぎを聞きつけて、船を動かしていた地元の漁師さんが出てきました。

70: 2013/09/01(日) 00:30:34.56 ID:OULNwb3Ko

『ああ、こんなもん、相手にしちゃだめだ』

 漁師さんはそう言って、ばしんばしんと銛で海面を叩きました。
 なんだか、そのとき、笑っている生首が不満そうな顔をしたのを、覚えています。

 漁師さんは、苛立ったように、銛で何度も海面を叩き、私たちにはよくわからない言葉を首たちに投げかけました。
 ええかげんにせんと、なんとかをかけるぞとかなんとか言っていたような。
 ごめんね、耳慣れない言葉だから覚えてないんです。

 それから、漁師さんは船の運転に戻って、ぐいぐいスピードを上げ……。
 生首は、するすると離れていきました。

 どこに行くのか……そもそもどこからやってきたのか……。

 七つの生首が、お互いの真っ黒な髪をからませあいながら、波間に消えていきました。

71: 2013/09/01(日) 00:31:04.37 ID:OULNwb3Ko

 それの正体?

 ええ、先生がかなり強い調子で漁師の方に聞いていたみたいですけど……。
 知らんほうがいい、って言われて、教えてもらえなかったらしいですよ。

 あれが妖怪とかそういうものなんですかねぇ?
 考えてみれば、目の前に現れても、ただ笑ってるだけでしたけど……ねえ。

72: 2013/09/01(日) 00:32:08.17 ID:OULNwb3Ko


茄子「生首が固まって……」

ほたる「七個も……」

小梅「正体はわからないけど……漁師さんの態度からすると……。あまりよくないもの、かも」

茄子「地元の人はなんとなく知っている『悪いもの』なのかもしれませんよね」

小梅「う、うん」

ほたる「そういうものがあるんですねぇ……」

茄子「でも、七つというのは、なにかありそうですね。意味ありげな数ですし……」

小梅「きょ、凶悪な亡霊だっていう、七人ミサキ……って伝説もあるけど……」

ほたる「凶悪なんですか……」

茄子「ふうむ。いずれにしても、近づかれすぎなくてよかったのかもしれませんね」

ほたる「漁師さんが追い払ってくれなかったら……」

小梅「笑い声を聞いてるだけでも……怖い結果になる話はあるし……。ともかく、雫さんやお友達に……害がなくてよかった」

茄子「そうですね、本当に」

ほたる「さて、それでは、次のコーナーは海の……特に夏の海の怪談特集を……」


 第二十九夜 終

73: 2013/09/01(日) 00:32:35.15 ID:OULNwb3Ko

 いやあ、夏も終わりますね。ということで海でのお話を一つ。
 雫さんは泳ぐとき胸は邪魔じゃないんでしょうか。

74: 2013/09/01(日) 00:38:43.74 ID:0+KXBnTSO
おつ
はなしは画が浮かぶくらい怖ぇけど、件でちょっとわろた。牛ww

引用元: 小梅「白坂小梅のラジオ百物語」Season3