139: 2013/09/11(水) 22:53:30.38 ID:QtcPKr1ho

第三十四夜 ペンダント


ほたる「……それでは、本日もアイドル百物語のお時間となります」

茄子「さて、今日のお話は?」

小梅「きょ、今日も……呪いの話、かな?」

ほたる「つ、続きますね……」

小梅「うん……。丑の刻参りの話が有名なように……。人を呪うっていうのは……よくあることだから……」

茄子「憎しみや嫌悪の感情はどうしても生じますからね……。それを呪いという形にするのは、理解できませんが……」

ほたる「そうですよね……。なんで嫌いな人にそこまで……」

小梅「理解しようとしないほうがいい……よ」

ほたる「うーん……」

茄子「そういうものかもしれませんね。ところで、今日はどなたが?」

小梅「今日は……大西由里子さん」

茄子「ほうほう。では、由里子さんのお話、お聞きくださいませ」


白坂小梅のラジオ百物語シリーズ

アイドルマスター シンデレラガールズ 白坂小梅 ハロウィンナイトメアVer. 1/7スケール ABS&PVC製 塗装済み完成品フィギュア
140: 2013/09/11(水) 22:54:58.27 ID:QtcPKr1ho

大西由里子(20)

○一言質問
小梅「氏ぬ前に……なにを願うと思う?」
由里子「やっぱり、『積み荷を燃やして』だじぇ!」

141: 2013/09/11(水) 22:56:50.45 ID:QtcPKr1ho

 やっほ、小梅ちゃん。
 ユリユリの登場だよ!

 いやー、相変わらずちんまくてかわいいよねー。
 目隠れ小動物系女子って感じ?

 え?
 プロデューサー、なに?
 ああ、大丈夫大丈夫。
 さすがに小梅ちゃんにやばいことは言わないからさー。

 でも、小梅ちゃん男体化もなかなか……。
 あ、なんでもない、なんでもないよっ。

 ええっと、怪談でした。
 うん。

 残念ながら、あたし自身はそういう経験はないんだよねー。
 でも、実際見ちゃったら、憑依系の妄想とかはかどっちゃうかもね。

 まあ、それはともかく、こないだ泰葉っちが話してたの聞いて思い出したことがあるんだ。
 ほら、事務所に送られてくるものの話、してたでしょ?
 そう、あの髪の毛ごっそりってやつ。

 それに似たような話を、知り合いから聞いたことあるんだよね、あたし。

142: 2013/09/11(水) 22:58:55.16 ID:QtcPKr1ho

 えっと、小梅ちゃんは、同人誌とかわかる?
 あ、比奈っちからもらったことあるんだ。

 じゃあ、わかるか。

 そうそう。
 好きな人がね、漫画描いたり、小説書いたりいろいろするんだよね。

 それでさ……なんていうか、そういう業界ってあるわけさ。
 描いて売ってる人と、それを買うファンたちのコミュニティね。

 で、これは、結構売れてる……大手って言われてる売り手のお姉さんから聞いた話。

 その人はあたしが話を聞いたときでも、同人歴がもう二〇年近かったって人なんだけどね。
 いろいろと送られてきたって言ってたよ。

 同人誌ってさ、イベントで売るだけじゃなくて、通販ってするのよ。
 うん、郵送とかで送るのね。
 だから、自分の住所って晒してたりするんだ。
 自分の出した同人誌とかでね。

 まあ、いまは、大手はショップ委託も多いけど……。
 ああ、うん、話がそれたじぇ。

 そんなわけで、直に色んなものが送られて来ちゃうわけ。
 アイドルやプロ漫画家みたいに事務所や編集部を通すわけじゃないからね。

143: 2013/09/11(水) 23:00:51.98 ID:QtcPKr1ho

 ファンになってくれた人の生の声が聞けるのは嬉しいけど、その分、生の悪意もいっぱい向けられたって、お姉さんは言ってたな。

 んー。
 なんで、そんな悪意を向けられるかっていうと……。

 まあ、やっぱり好きだから、かな。

 その人が同人誌で扱ってるものが自分も好きで、でも、ちょっとだけ意見が違う。
 そのことでまずかちんとくる。

 しかも、売れてる人ってのは、やっぱりうまいんだわ。
 絵自体もそうだけど、話の作りや、雰囲気が、うまいの。

 でも、普通はそんなこと出来ないのね。
 だから、嫉妬も入る。

 なんで自分は出来ないんだ。
 なんでこの人はこんなことを描くんだ。
 私が見たいものを、なんで作らないんだ。

 そんな風に許せないことが重なっていって、憎悪に変わっちゃう。
 世の中には、そんな人がいるんだじぇ。

144: 2013/09/11(水) 23:02:56.34 ID:QtcPKr1ho

 でも、わかりやすい憎悪は、心情的にはきついけど、慣れちゃえばそんなもんだと割り切れる。
 まだましなもんだってお姉さんは言ってた。

 たとえば古典的なカミソリや、きちゃないものや、虫の氏骸の類なら、処分すれば終わりだから。

『気持ち悪いけど、結局はその場だけだものね』

 お姉さんはそんな風に笑ってたよ。

 じゃあ、なにが怖いか。
 それが今回の本題。

 ある時、ファンからの手紙に、プレゼントが入っていたんだって。


 真っ白な素材で作られた、とあるデザインのペンダント。


 それは、お姉さんが描いてた漫画の主人公が使っている武器を象ったもので、とても精巧に細工されてたらしいんだ。

 ファンからの手紙には、象牙を自分が加工したもので、もしよかったらつけてください、って書いてあったそうでね。
 お姉さんは喜んでそのペンダントを身につけた。

145: 2013/09/11(水) 23:04:14.59 ID:QtcPKr1ho

 それから、数日経った頃。

 お姉さんは部屋に帰る度に、なにかいやなにおいがすることに気づいたらしいのよ。
 下水管がつまったんじゃないかと思う……腐ったようなにおい。

 生ゴミを腐らせたかと確認したけど、そんな様子はない。
 住んでいたマンションの管理会社に連絡してみたけど、定期的に業者を入れているから、配水管が詰まるわけがないと返事をされた。

 それでも、気が滅入るようないやなにおいがする。

 ついには自分で業者を呼んで水回りを見てもらったりもしたけど、異常がないと言われる始末でね。

 会社とかではそんなにおいはしないから、鼻がおかしくなったわけじゃない。
 でも、部屋に帰るととても落ち着いていられないようなにおいがする。

 おかげで同人活動もはかどらないし、夜中も熟睡できずに何度も起きるくらいになっちゃった。

146: 2013/09/11(水) 23:06:57.83 ID:QtcPKr1ho

 とにかくどこからにおいがするのか、なんとか探り当てようと一晩中部屋の中をうろつきまわったりとかもしたらしいよ。

『そのときは、もうおかしくなりかけてたんでしょうね』

 そうして、はじめてにおいに気づいてから、二週間ほど経ったある日。
 お姉さんは近いうちに実家の法事に帰る用があるからと、服とお数珠を確認しようとしたらしいのね。

 すると、ずっと昔にお祖母さんからもらったお数珠が、ばらばらになってる。
 はじけ飛ぶようにして散らばってる上に、いくつかの珠は粉々になってたんだ。

 それを見た途端、お姉さんはとるものもとりあえず部屋を出て、地元へ向かう列車に飛び乗ってたらしい。

147: 2013/09/11(水) 23:08:21.90 ID:QtcPKr1ho

『あのときは、絶対、実家でなにかあったかあるかすると思ったのよ』

 ところがさ、とお姉さんは苦笑してたな。

 お姉さんは地元に着く前に電話をかけて、家族の無事を確かめると、お寺さんに向かったんだって。
 いまのところ家族になにもないのなら、数珠が壊れたことを相談しようってわけだね。

 ところが、境内に入る前に、大声で怒鳴られた。

『なんてものをつけとるか!』

 お姉さんにとっても昔なじみの住職さんが、見たこと無いようなものすごい顔で怒っていたそうだよ。

 そして、住職はお姉さんのペンダントを外させた。
 受け取りながら、住職はこう言ったんだって。

『髑髏を首からさげるなんぞ、なにをやっているのやら』

 って。

148: 2013/09/11(水) 23:09:06.00 ID:QtcPKr1ho

 象牙だって言われてたそれは、人の骨で作られたものだったんだってさ。

 数珠が守ってくれなかったら、腐ったにおいだけじゃあ済まなかったとも言われたらしいよ。
 どうなってたかは……わからないけど。

『だからさ、タチが悪いのは、善意を装っているものだね。あいつらのはさ、本物の善意と見分けがつかないくらい、巧妙だよ』

 お姉さんはそんな風にしみじみ言ってたよ。


 ……ほんと、ろくでもないのはいるんだよねぇ。

149: 2013/09/11(水) 23:10:35.07 ID:QtcPKr1ho


茄子「人の骨を削ってペンダントですか……」

ほたる「材料もそうですが……。そこまで加工するのも気分がいいものじゃありませんよね……」

小梅「呪う当人は……もう、きっとおかしくなってるから……」

ほたる「やはり……そういうものなのでしょうか」

茄子「当人には落ち度がなさそうなのが、理不尽ですよね」

小梅「うん。アイドルもそうだけど……目立つだけでも、嫌がる人はいるから……」

ほたる「確かに……」

茄子「ただ、私たちはファンの皆さんから、すごい力をもらってますからね。ねじくれた思いの何十倍もの声援を」

小梅「……それは、思う……。ファンのみんなに喜んでもらうと……とても、うれしいし、力が……出る」

ほたる「たしかにいろいろとわきでてきますよね」

茄子「ええ。本当にみなさんの応援が私たちを支えてくれてます」

小梅「ありがとう……」

ほたる「さて、それでは、次のコーナーでは、この番組に届いたリスナーのとっておきの怪談を……」


 第三十四夜 終

150: 2013/09/11(水) 23:11:05.96 ID:QtcPKr1ho
注:積み荷を燃やして
元は『風の谷のナウシカ』のアスベルの双子の妹ラステルの台詞。
オタク業界では、アヤシイものを処分してくれという意。

そんなわけで、本日は以上です。
三次元も完全にテリトリーとしつつあるユリユリはさすがです。

151: 2013/09/11(水) 23:40:52.05 ID:qTq5yQ8Ao
象牙も人の骨も触ったことないけど、やっぱ似てるもんなんかね

152: 2013/09/12(木) 00:37:09.82 ID:oHg1bRnDO
象牙も人骨も、日頃から馴染みがないなら似てなくても気付けないんじゃないか

引用元: 小梅「白坂小梅のラジオ百物語」Season3