170: 2013/09/15(日) 23:06:33.24 ID:6WVB4ol6o

第三十六夜 女怪


ほたる「それでは……今日もアイドル百物語のお時間となりました」

茄子「本日はいったいどんなお話でしょうか」

小梅「今日は……昔話みたいなお話」

茄子「ほうほう」

ほたる「時代が……古いんでしょうか?」

小梅「それもあるし……。起きる出来事も、そう」

茄子「昔話も案外と怖かったり残酷だったりもしますからね」

小梅「面白く語り継いできたものだから……。派手になる部分も、ある」

ほたる「ふむふむ。ところで、今日はどなたのお話なんです?」

小梅「今日は……松山久美子さん」

茄子「それでは、松山久美子さんのお話です。どうぞお聞きください」


白坂小梅のラジオ百物語シリーズ

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171: 2013/09/15(日) 23:07:41.05 ID:6WVB4ol6o

松山久美子(21)

○一言質問
小梅「学生時代……学校に七不思議はあった?」
久美子「あったあった。有名だったのは『音楽室でピアノを弾き続ける自殺者の霊』実際は、私が一心不乱に練習してるのを目撃されたらしいんだけど」

172: 2013/09/15(日) 23:09:20.63 ID:6WVB4ol6o

 こんにちは。
 今日は怪談だっけ?

 怖い話ではなくて……昔話みたいなものでもいい?

 大丈夫?
 そう。
 なら、昔聞いた話を一つしようかな。

 これは、近所に住んでいたおばあさんに教えてもらった話。
 おばあさんのひいおばあさんが見た話だって言うから、ずいぶんと昔よね。
 もしかして、まだ江戸時代かな?
 そうかもね。

 ともあれ、とある地方に、ある男がいたの。
 普段は農家なんだけど、農閑期には山に入って猟をしたりもする……。
 まあ、当時にしてみれば普通の生活をしてた人ね。

 それで、その男が普段通りに山に入った。

173: 2013/09/15(日) 23:11:06.37 ID:6WVB4ol6o

 でもね、通い慣れている山のはずが、その日は獣の姿を見ない。
 鳥の声が遠くでするばかりで、まるで獲物の気配が無かったらしいの。

 こりゃあ困ったと思いながら、男は水場を目指した。
 地下水がわき出る泉がある場所を知っていたのね。
 そこで少し休んで猟を再開するつもりだったのでしょうね。

 ところが、泉につくと先客がいた。

 美しい女が腰のあたりまで身を沈めて、ゆっくりと髪を洗っている。
 男はその女性のあまりの美しさに、はっと息を呑んで見つめていたそうよ。

 そりゃあね、美しいものを見たら、人は惹きつけられるものよね。
 特に、山中の謎の美女なんてシチュエーションならなおさらでしょう。

174: 2013/09/15(日) 23:13:06.12 ID:6WVB4ol6o


 でも……。
 よくよく見ていると、異常に気づいた。

 女の黒髪は、まさに鴉の濡れ羽色で、美しい艶を持っていたけれど……。
 水の上に広がっている長さを含めてみたら、ずいぶんと長すぎる。
 ざっと見ても六メートルはあるんですもの。

 これは、物の怪の類だろう。
 さては、山に獣が見えないのも、こやつのせいに違いない。

 男はそう考えたみたいなの。

 ただ髪が長いだけなら、けしてありえない話ではないはずなのにね。

 ただ……。
 山中で若い女……しかもとびきりの美女が、ってなるとそう思い込んでしまうのもわからないでもないわ。

 美というのは突き抜けすぎると恐怖を呼び起こすものだしね。

175: 2013/09/15(日) 23:14:48.64 ID:6WVB4ol6o

 男は、銃を構え、女を撃った。
 狙い過たず、見事に命中。

 すると、女の体が倒れ込んだ途端、泉の水面がざわざわと揺れ出したの。
 ばしゃばしゃと波を立て、荒れ始める水面。
 それは女の体を中心に大渦となっていく。

 女の体が渦の底に引き込まれたと見るや、渦はさらに回転を増し、ついにそれは立ち上がった。
 そう、泉の水を巻き上げる竜巻が、そこに出現したのよ。

 竜巻は天にまで達し、そこら中から雲が集まり始める。

 男はここに至って、とんでもないことをしでかしてしまったと気づき、銃を投げ捨てて山を駆け下りたそうよ。

 這々の体で村の自分の家までたどり着いた頃には土砂降りの大雨で、前も見えないくらいだったって。
 村では、急に嵐のように荒れ狂い始めた天気に、皆、それぞれの家にこもっていたみたい。

176: 2013/09/15(日) 23:16:01.53 ID:6WVB4ol6o

 男は、家に戻ると、濡れた体をぬぐいもせず、自分の妻と幼い娘に事のあらましを語った。
 そうして、自分はもう駄目かもしれない、と打ち明けたんですって。

 妻は寺や神社でどうにかできないものかと言ったそうだけど、男はもうその余裕はないと応じた。

 というのも、すでに竜巻が村を襲っていたからよ。

 いくつもの家や小屋を巻き上げながら、竜巻はその男の家を目指す。
 男は妻と娘を逃がそうとしたけれど……。
 もう間に合わなかった。

 竜巻は男の家を破壊し、そして……男を空高く連れ去ってしまった。

 ……結局、その嵐と竜巻で村はかなりの被害を受けたけれど、人間や家畜は誰も傷ついたりしなかったそうよ。
 ただ一人、行方不明になった男を除いて、ね

177: 2013/09/15(日) 23:16:31.14 ID:6WVB4ol6o

 この話をしてくれたおばあさんのひいおばあさんというのが、まさにこの話に出てきた『幼い娘』なんだそうだけど……。

 その人は生涯言っていたんですって。

 あのとき、父親を連れ去ったのは、竜巻なんかじゃない。
 天を衝くような人影の……真っ白な大きな手が、父親を握りしめて行ったんだって……。

178: 2013/09/15(日) 23:18:16.16 ID:6WVB4ol6o


ほたる「神様……だったんでしょうか」

小梅「そう……だと思う。山の神か、なにかの精……」

茄子「先に手を出したのは猟師さんのほうだとはいえ、ちょっと規模がすごいですね」

小梅「そ、それでも、他人は……持って行ってないから……」

ほたる「他の人も、家は壊されちゃったみたいですけど……」

小梅「……ちょっとしたことでも、祟りはすごいしね……」

茄子「まだましだった、と思うしかないのでしょうかね」

小梅「たぶん……」

ほたる「へんなものを見たときは……見なかった振りをするほうがいいんでしょうかね……」

小梅「敬して遠ざけるのが……一番、かも」

ほたる「なるほど……」

茄子「さて、それでは次のコーナーに参りましょうか」

ほたる「そうですね。では、次のコーナーでは人気の無い場所でおかしなものを見るというシチュエーションのお話を集めて……」


 第三十六夜 終

179: 2013/09/15(日) 23:19:45.90 ID:6WVB4ol6o
本日は以上です。
『美はしきもの見し人は、はや氏の手にぞわたされつ』ということで。

180: 2013/09/16(月) 00:12:16.74 ID:TLKUHUYc0
これは自業自得としか言えないな
乙です

181: 2013/09/16(月) 00:54:17.69 ID:A9MORatJo
あなおそろしや
美しいからこそ怖いってのもわかるが、撃っちゃった以上はもうだめだわな

引用元: 小梅「白坂小梅のラジオ百物語」Season3