52: 2013/10/16(水) 00:28:19.48 ID:8Gr3rzKXo

第四十二夜 月下


ほたる「……なかなか興味深いメールでしたね。では、そろそろ次のコーナーに……」

小梅「次は……アイドル百物語」

茄子「さてさて、今日はどんなお話なのでしょうね」

小梅「今日は肝試しが舞台……だから、典型的と言えば典型的」

ほたる「なるほど……。たしかによく聞きます」

茄子「肝試しとはいうものの、実際に怖いことに出会うことを想定していることってあんまりないですからね」

ほたる「そこに『なにか』が紛れ込む恐ろしさ、ですかね」

小梅「うん。スリルを楽しもうとする人が多くて……。本当に、事が起きるのを期待している人は……あんまりいないから……」

ほたる「小梅さんはどちらかというと……期待してますよね?」


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53: 2013/10/16(水) 00:30:04.51 ID:8Gr3rzKXo

小梅「う、うん。……えへへ」

ほたる「……やっぱり」

茄子「ふふ。さて、そんな想定外の出来事に巻き込まれたお話をしてくれるのは、さて、どなたなのでしょう?」

小梅「今日は……橘ありすさん」

茄子「ほうほう」

小梅「しかも、この夏……経験したばかりのお話をしてくれた」

茄子「それは楽しみですね。では、橘ありすさんのお話です。どうぞお聞きください」

54: 2013/10/16(水) 00:30:32.43 ID:8Gr3rzKXo

橘ありす(12)

○一言質問
小梅「怖いものは……好き?」
ありす「急に驚かされるのは好きではありません。でも、出来事を通じていろんなことを考えられるのは嫌いじゃありませんよ」

55: 2013/10/16(水) 00:32:03.21 ID:8Gr3rzKXo

 どうも、小梅さん。

 今日は怪談でしたか。
 素人語りで果たしてどこまで面白くできるものかわかりませんが、なんとかやってみましょう。

 え?
 そんな難しく考えなくていい?

 ……そういうものでしょうか。
 まあ、小梅さんがそう言うのならそうなのでしょうね。

 ともあれ、話を始めます。

 これは、今年の夏……。
 まさに夏真っ盛りの頃のお話です。

 私の地元で夏祭りの期間があって、その中で、肝試し大会がありました。
 その時のお話です。

 正直、地域の人々の主催というだけあって、子供だましのイベントです。

 大人たちが驚かせ役をやっていることくらい、小学校低学年でも気づいているような。

56: 2013/10/16(水) 00:33:09.29 ID:8Gr3rzKXo

 やっている場所も、夏祭りの中心となる神社の枝宮がある山ですからね。

 地元の子供たちには土地勘ばっちりのところです。
 いくら周囲が暗いからってそうそう恐ろしく思うものではありません。

 とはいっても、イベントごとです。
 参加する人たちはそれなりに楽しんでいたんじゃないでしょうか。

 私はというと、その夏祭りでライブステージがあるということで、そちらのほうが気になっていました。
 正直、肝試しについては私たちを呼んでそのステージをやってもらうことへの……義理みたいな気持ちで参加していましたね。

 ああ、呼ばれていたのは、私と結城さんです。
 ええ、結城晴さん。

 ですから、肝試しの時も、彼女と一緒に行動しました。
 二人組で歩くということだったので。

 さすがに、アイドルを見知らぬ子と組ませるわけにはいきませんからね。

57: 2013/10/16(水) 00:35:01.89 ID:8Gr3rzKXo

 さて、そうして、肝試しは始まり……。
 一組ごとに出発していきました。

 安全のことも考えているんでしょうね。
 前後の組の持つ懐中電灯が見えるくらいの出発間隔でした。

 ただ、組になった同士は必ず手をつないでいろと言われたのはちょっと辟易しましたね。
 いえ、別に嫌なわけではないのですが……。
 ただ……いくら同じ事務所のアイドルとはいえ、普段はそんなことしないでしょう?

 年の離れた人につないでろと言われるのはわかるんですが……。

 ああ、すいません。
 話がそれました。

 ともあれ、手をつないで歩き出して……。

 よくあるようなびっくりな仕掛けにあきれながら、コースの半分ほどを来たところで、彼女が言いました。

『おい、気づいているか?』

 なにを言っているんだろうと思いました。
 しかし、彼女は真剣な声で続けます。

58: 2013/10/16(水) 00:36:41.29 ID:8Gr3rzKXo

『前と後ろの懐中電灯、見えなくなってる』

 言われて慌てて確かめると、たしかに、見えません。
 月の照らす中、灯りと言えば、私たちが持っている懐中電灯だけになっていました。

『ついでに、どうも……同じ所を歩いてる気がする』

 さすがにこれには失笑しました。
 そんな、いかにもなことで怖がらせようとするなんて。

 しかし、彼女は怒るでも拗ねるでもなく、静かに『注意してろ』と言うだけです。

 そして……。

 私は愕然としました。

 そのとき、私たちは、山腹を切り開いた遊歩道のような場所を歩いていたのですが……。
 驚いたことに、どれだけ行っても、それが終わらないのです。

 私たちが歩いた時間だけ進めば、すぐに次の景色……お宮の周りの森が見えてくるはずなのに。

『わかったか?』

 もう一度問いかける彼女に、私はうなずくしかありませんでした。

59: 2013/10/16(水) 00:37:52.86 ID:8Gr3rzKXo

 私たちは止まることも出来ず、ただただ歩き続けました。
 まるで変わらない月下の景色におののきながら。

 しかし、途中で私は思い出しました。
 この遊歩道には、下の街区へ向けての階段があるはずだと。

 石造りの……実に古くさい、しかも急な階段ですが、そのつながる先は、人里です。

 ふと横を見れば、思っていたとおりの場所に、それはありました。

 これを下りましょう。
 ほっとしながら私が言うのに、つないだ手の先からは、抵抗が感じられます。

 私は不満に思いながら、彼女を振り返りました。

『おい、ありす』

 名前ではなく、苗字で呼ぶように、と思わず訂正する間もなく、彼女は続けます。

『その先、よく見てみろ』

 言われて見直した、その先……。

60: 2013/10/16(水) 00:39:16.04 ID:8Gr3rzKXo


 そこに、闇がありました。


 月明かりの下、それを圧するように人工の光を放っているはずの街はどこにもなく……。
 ただただ闇があったんです。

『停電、ってわきゃあねえよな』

 街灯も窓から漏れる光もないその闇に言い捨てて、彼女はぎゅっと強く私の手を握りました。

『こういう時は、気合いだってさ。木場さんが言ってた』

 そう言う彼女の手も……そして、私の体も震えているのに、私はようやくのように気づきました。

『行くぞ。……南無八幡大菩薩!』

 急に、そんな風に叫ぶと、私の手を引っ張って、猛ダッシュを開始する彼女。
 もちろん、私も走るしかありませんでした。

61: 2013/10/16(水) 00:40:10.78 ID:8Gr3rzKXo

 前も見ず、夢中で走り……。

 そして、私たちはいつの間にか、皆の集合地点に着いていましたよ。
 順番をすっとばして急に現れた私たちに、大人たちは目を丸くしていましたけど。

 ええ。

 ずっと歩いていたはずなのに、そんな時間はなかったかのように、私たちは本来あるべき順番よりずっと早く着いてしまっていたんです。

 でも、正直、私たちにはそんなことはどうでもよいことでした。
 月の光も通さないような……あの分厚い……息苦しい闇から逃れられたことに比べれば。

62: 2013/10/16(水) 00:41:33.55 ID:8Gr3rzKXo


ほたる「闇……ですか」

茄子「前回の菜々さんの時も、階段でしたが……。なにかあるんですかね?」

小梅「階段は……道以上に明らかに二つの場所を結ぶから……そういう意味では……」

茄子「なるほど……」

小梅「それに、上る、下るという行為が……異界への移動を象徴する、のかも」

ほたる「天国とか地獄とか、この世の上か下にありそうな感じですもんね」

小梅「うん。……それに」

茄子「それに?」

小梅「山の上、という場所がもう、人の世界から見ると……」

茄子「神域であり異界である……というところですか?」

小梅「う、うん」

ほたる「ううむ……」

茄子「あまり気軽に考えていると、おかしなことも起こる、と。そういうことですかね」

小梅「それはそれで……楽しいけど」

ほたる「いや……出来れば平穏なほうがいいのですが……。ともあれ、次のコーナーに参りましょう。今回は各地の祭についての……」


 第四十二夜 終

63: 2013/10/16(水) 00:42:12.38 ID:8Gr3rzKXo

 少し遅くなりましたが、本日は以上です。
 ありすと小梅は同郷(兵庫県)ですが、ありすは神戸近辺、小梅は伊丹の方だとなんとなく思います。

64: 2013/10/16(水) 02:14:57.40 ID:Oo6S+iiYo
晴ちゃんがイケメンすぎる

65: 2013/10/16(水) 03:58:42.08 ID:WHRvOsYqo
はるありコンビいいね

引用元: 小梅「白坂小梅のラジオ百物語」Season4