149: 2013/10/29(火) 23:16:54.18 ID:oJ4CsgQKo

第四十八夜 流星


ほたる「それでは……本日もアイドル百物語のお時間です」

茄子「さて、今日はどんなお話なのでしょう」

小梅「今日は……星のお話」

ほたる「星……ですか?」

小梅「うん。空に光る……星」

茄子「星ですか。神話でも星座にまつわるものは、悲喜こもごもですよね」

ほたる「織姫と彦星みたいに引き裂かれるのもありますしね……」

茄子「美しいお話も多いのですけれどね」

小梅「今日のはどうかな? 少なくともスプラッタでは……ない」

ほたる「ま、まあ、いきなり血が流れる話は想像しにくい……ですが」

茄子「ともあれ、実際に聞いてみましょうか。さて、今日はどなたから?」

小梅「今日は……小日向美穂さん」

ほたる「では、小日向美穂さんです。どうぞお聞きください」


白坂小梅のラジオ百物語シリーズ

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150: 2013/10/29(火) 23:18:03.39 ID:oJ4CsgQKo

小日向美穂(17)

○一言質問
小梅「どうして……蘭子ちゃんみたいに話さないの?」
美穂「ふぇ?……あ、あの、小梅ちゃん、あれは熊本弁じゃないよ……?」

151: 2013/10/29(火) 23:19:15.77 ID:oJ4CsgQKo

 こんばんは、小梅ちゃん。
 今日はよろしくお願いします。

 ええっと、怪談……かあ。

 怖いお話はあまり知らないんですけど、以前聞いて不思議だなあと思ったお話があるので、それをお話ししますね。

 以前、戦国時代のお姫様の役をやったことがあったんですけど、そのときの衣装さんから聞いたお話です。

 その衣装さんは、それなりのお年の男の方なんですけれど。
 なんていうか……中性的な方で。
 ああ、うん。
 この業界にたまにいる、同性の人が好きな男性って感じでもなかったよ。

 だからってもう枯れたって雰囲気でもなくて……。
 そのあたりが不思議な人でした。

 そして、その人が喋る度、とても良い香りが漂うんです。
 といっても、いわゆる口臭対策の製品みたいな、嫌なにおいを消すために刺激の強めな香りを加えてるという感じの奴じゃなくて。

152: 2013/10/29(火) 23:20:01.74 ID:oJ4CsgQKo

 ほのかだけど、なんだか、とても心地良い香りでした。

 そして、その人が話していると、自然とみんな黙って話を聞いちゃうんです。

 わたし、そのお仕事の間一緒にいて、ほんとすごいなあと思ってて。
 ある時、思い切って聞いてみたんです。

 食べるものとか、気をつけていらっしゃるんですかとか、そんな感じで切り出したように思います。

 すると、その人は、一つ笑ってから話してくれました。

『実は、僕は流れ星を呑み込んだんですよ』

 って。

 私が目を白黒させていると、その人はゆっくりと詳しい話をしてくれました。

153: 2013/10/29(火) 23:23:06.26 ID:oJ4CsgQKo

 その人が若い頃……私と小梅ちゃんの間くらいの年の頃。
 その人は、天体観測が趣味だったそうです。

 晴れた夜には必ず望遠鏡を覗いて、特に時間のある時は、星のよく見える場所に出かけることにしてたとか。

 そして、とある夜。
 その日は特によく晴れて、星の光がよく見えていたそうです。
 彼は、早速お気に入りの場所へ向かいます。

 そうして、その場所について星の並びを追っている時、彼は空に一つ星が流れるのを見つけました。
 望遠鏡で詳しく見ようと思いましたが、すぐに消えてしまったそうです。

 ところが、残念だなと思って顔を上げると、周囲がまばゆい光に包まれている。

 まるで突然昼間になったかのように明るい光に、彼は呆然と立ち尽くしました。

『星が落ちてきている。直感的にそう思ったものです。夢中になって覚えた天文学の知識とかをすっとばしてね』

 光はどんどん強くなり、ついには目を開けているのもつらくなるほど。
 ですが、彼は目を閉じることは出来ませんでした。

 光が……燃えるような光が、彼をめがけて飛んで来ていることがわかっていたからです。

 逃げることすら出来ず、彼はそれを見つめていました。

 なぜか、彼のいるその場所に落ちてくるというよりは、彼その人を目標としてやってくるんだという意識があったんだそうですよ。

154: 2013/10/29(火) 23:24:41.38 ID:oJ4CsgQKo

 そして、ついに彼の目もくらみましたが、不意にその光の圧力が消えました。

 懸命に目をこすり、あたりを見れば、光はすっかりなくなっている。
 けれど、その代わりに……。

 周囲を照らしていた光が全て凝結したような、美しい女性がそこに立っていたんだそうです。

 白い肌を惜しげもなくさらして、神々しいまでの美を体現した女性は、数歩で距離を詰めると、そのままの勢いで彼を強く抱きしめました。

『なんだか、泣きたくなるくらい心地よかったですよ。幼い頃、母にあやされていた時のような』

 驚きも恐怖も全て消し去るような、そんな香りが、彼を包みました。

 次いで、彼の唇を柔らかな感触が覆います。
 キスをしている!
 そう思った次の瞬間には、つるり、となにかが滑り込む感触。

 なんと、彼女の体が、彼の口からするすると入り込んでいくではありませんか。
 まるで水に変わったかのように、彼の口から呑み込まれていく女の人。

 全て呑み込んだ後でも、彼は微動だに出来ずにいたそうです。

155: 2013/10/29(火) 23:25:28.20 ID:oJ4CsgQKo

『正直、全てが夢だったと思いたかったんですが』

 呆けたように朝までそこでへたりこみ、なんとか正気を取り戻して家に帰った後で、彼は自分の異変に気づいたとか。

『あれ以来、口を開くと、あの女性の体から立ち上っていた香りが漂うになりましてね』

 そして、その香りを感じた人たちは、みな、彼の言うことを熱心に聞くようになった。
 そう、言っていました。

『ついでに、僕は恋愛感情というのを持たなくなりました』

 その人は、そこで、実に幸せそうな照れ笑いを浮かべていました。

『まあ、それも当たり前ですよね。なにしろ、僕の運命の女性はこの体の中にいるんですから』

 そう言って。

156: 2013/10/29(火) 23:27:10.71 ID:oJ4CsgQKo


茄子「星が女性に変じ、それが体の中に……ですか」

ほたる「聞きようによっては……素敵なお話ですが……」

茄子「奇妙ですけど、当人は幸せのようですしね」

小梅「これは……えと、天女の伝説のバリエーション、になるのかな」

茄子「天女ですか」

小梅「うん。羽衣を無くした天女……」

ほたる「羽衣がなくて天に帰れなくなる……でしたっけ」

小梅「そう……。そして、羽衣を見つけて天に帰ったその天女は……北斗七星や昴なんかの星を構成する一人だったり……する」

茄子「なるほど。まあ、今回は、あちらからやってくるようですが……」

小梅「天女が、押しかけ女房になる話も……ある、から」

ほたる「ふうむ……」

157: 2013/10/29(火) 23:27:54.42 ID:oJ4CsgQKo


茄子「天女の加護があるというのは心強いですね。それにしても、美嘉さんのお話でもありましたが、良い香りというのは共通なのでしょうか?」

小梅「ん……。香りだけじゃなく、徳を積み、神性が高まると、五感全てに対してよい効果を発する……と考えられてる」

ほたる「それは……素直に良いですね」

小梅「うん……」

茄子「我々も自然とそうなれるといいのですけれど、凡俗には難しいですかね。さて、それでは、次のコーナーに参りましょうか」

ほたる「はい。それでは、次のコーナーでは、世界各地の星の神話にまつわる……」


 第四十八夜 終

158: 2013/10/29(火) 23:28:32.00 ID:oJ4CsgQKo

 本日は以上となります。
 シンデレラガールズはクリスマスロードからの参加だったので、美穂ちゃんは初めての衣装アイドルでしたね。

159: 2013/10/29(火) 23:40:31.48 ID:Q39W+YCy0

なんだか不思議すぎてコメントしづらいなぁ・・・面白いけど

160: 2013/10/29(火) 23:45:19.72 ID:PSSfRnjD0
いい話と言っていいかわからないし、不思議な話としか言えないな
乙です

引用元: 小梅「白坂小梅のラジオ百物語」Season4