1: 2014/11/13(木) 17:10:47.92 ID:7+XUbpyN0.net
老人「この小瓶の中には妖精が入っておってな」

ぼく「マジかよ」

老人「持ってる人の金運をとてもとてもアップしてくれるんじゃ」

ぼく「へえ」

老人「宝くじは当たり、ギャンブルは勝ち、投資は必ず成功する」

ぼく「すごい」

老人「この小瓶を君に売ってあげよう」

ぼく「やったー」

3: 2014/11/13(木) 17:11:50.10 ID:7+XUbpyN0.net
老人「ただし、この小瓶を持つには一つ大きなリスクがあってな」

ぼく「なんだと」

老人「この小瓶を所有している間に、君が氏んでしまった場合」

ぼく「ふむ」

老人「もれなく地獄行きじゃ」

ぼく「じごく!」

老人「ありとあらゆる苦痛を一万年かけて与え続けられ
   それを一万回繰り返し、その後は何も残らない」

ぼく「B級妖怪が行ったところだ」

老人「地獄はいやじゃろう」

ぼく「いやだ…」

5: 2014/11/13(木) 17:12:49.06 ID:7+XUbpyN0.net
老人「じゃから氏ぬ前に、この小瓶を手放さなければならない」

ぼく「うん」

老人「小瓶を手放すにはルールがある」

ぼく「むむむ」

老人「一つ、自分が買った値段より安い値で売る事。あげてはダメじゃ」

ぼく「ふむ」

老人「二つ、わしが説明したリスクを全て買い手に説明する事」

ぼく「ふむふむ」

老人「最後に、脅したり、騙したり、無理やり売ったりせず、
   買い手には『合理的な判断』で買ってもらう事」

ぼく「ふ~む」

8: 2014/11/13(木) 17:14:00.05 ID:7+XUbpyN0.net
老人「これを破った場合、その場で地獄行きじゃ」

ぼく「こわい」

ぼく「ちなみに聞くけど、ぼくにいくらで売ってくれるの?」

老人「うむ、わしは小瓶の所持者ではなく、売る仕事をしてるだけでのう」

ぼく「ほう」

老人「客の言い値で売ってあげておるんじゃ」

ぼく「へえ」

老人「さあ、いくらで買うかの?」

ぼく「う~ん」

11: 2014/11/13(木) 17:15:27.50 ID:7+XUbpyN0.net
ぼく「どうせ買うなら安い方が良い気もするけど
   売る時に安すぎると、あやしまれて売れないかもしれない」

ぼく「あんまり高い値段で買っても、元を取るまでに氏んだら嫌だな」

ぼく「ほどほどに高くて、ほどほどに安く…う~ん」

老人「どうするんじゃ?」

ぼく「じゃあ…」

馬鹿「ちょっと待った」

ぼく「ん?」

馬鹿「これおかしいだろ」

ぼく「何が?」

12: 2014/11/13(木) 17:17:11.96 ID:7+XUbpyN0.net
馬鹿「まず、この小瓶を1円で買う奴はいない。
   1円より安く売れないからな」

ぼく「たしかに」

馬鹿「と言う事は2円でも買う奴はいない。
   1円の値段を付けても、買う奴はいないんだからな」

ぼく「たしかに」

馬鹿「ということは、3円でも、4円でも、5円…
   繰り返して考えれば、いくらであっても買う奴はいないんだよ」

ぼく「たしかに」

馬鹿「これが合理的な考えだ。つまり『合理的に判断する人』には
   小瓶を売る事はできない。地獄行き確定だ」

ぼく「たしかに」

16: 2014/11/13(木) 17:18:59.89 ID:7+XUbpyN0.net
老人「…」

ぼく「あぶないところだった」

馬鹿「まったくだ」

ぼく「合理的という言葉が罠だったとは」

老人「…」

アホ「ちょっと待った」

ぼく「ん?」

17: 2014/11/13(木) 17:20:14.15 ID:7+XUbpyN0.net
アホ「世の中いろんな人間がいるだろ」

ぼく「どういうこと?」

アホ「例えば、今が苦し過ぎて、地獄へ行っても良いから小瓶が欲しい人とか」

ぼく「あ~」

アホ「所持者を哀れに思って、自分が犠牲になってでも相手を救いたい人とか」

ぼく「あ~」

アホ「とんでもないマゾで、むしろ地獄で責苦を受けたい人とか」

ぼく「あ~」


アホ「そういう人達にとっては、いくらで小瓶を売買しても
   『合理的な判断』だ。地獄に行かなくても良い」

22: 2014/11/13(木) 17:24:11.34 ID:7+XUbpyN0.net
老人「…」

馬鹿「何言ってるんだ。合理的というのは客観的に正しくあるべき事だ。
   わがままな振る舞いを合理的と言うんじゃ、社会は滅茶苦茶だ」

アホ「合理的というのは自分にとって得になるかどうかだ。
   最大限自分が得をするような行動を、合理的と言うんだ」

馬鹿「お前は殺人犯やレOプ魔を合理的な人間だと言うのか」

アホ「わざわざ損をする事を選ぶのは合理的じゃないって言ってるんだ」

ぼく「まあまあ、まあまあ」

ぼく「ああ!老人がいない!」

馬鹿「あ」

アホ「あ」

23: 2014/11/13(木) 17:28:32.42 ID:7+XUbpyN0.net
ぼく「なんてことをしてくれたんだ!」

ぼく「ぼくは君たちの話を聞く前は
   10万円くらいで買って、9万くらいで売ろうと思ってたんだ」

ぼく「そもそも知らない事を考えて判断する、っていうのは無理だ」

馬鹿「まあ…」

アホ「たしかに…」

ぼく「つまり、ぼくの直感だって『合理的な判断』のはずだ」

馬鹿「直感…」

アホ「いや、間違ってない…」

24: 2014/11/13(木) 17:32:05.57 ID:7+XUbpyN0.net
ぼく「それに、ぼくみたいな人同士で小瓶を売買すれば、少なくとも何人かは
   小瓶の幸運を享受することができたんじゃないのか」

馬鹿「ううん…」

アホ「そうだけど…」

ぼく「最後の一人は不幸かもしれないけどさ
   それより多くの人は幸せになるんだ。これも合理的だ」

ぼく「つまり、客観的にも主観的にも、買った方が合理的だったんだ!」

馬鹿「…」

アホ「…」

お前ら「あの爺、詐欺師じゃね?」

ぼく「…」

馬鹿「…」

アホ「…」


 合 理 性 の ジ レ ン マ  (ロバート・スティーブンソン/瓶の中の小鬼)

25: 2014/11/13(木) 17:32:41.11 ID:vtNbt+EV0.net
良かった

26: 2014/11/13(木) 17:33:37.44 ID:2P9V6QPz0.net
落ちがうまいことついてて面白かった

引用元: 老人「ここに小瓶がある」 ぼく「うん」