1: 2013/05/15(水) 00:36:30.98 ID:cxYmXlJB0
アイマスのssです。
AC版か箱マスの春香endと、アニマス23~25話をご存じないと余計に訳が分からないssです。
ご注意ください。
4: 2013/05/15(水) 00:39:36.48 ID:cxYmXlJB0
撮影スタジオ。

カメラマン「目線こっちに下さ~い」

春香「あ、はい」

パシャッ!パシャッ!

カメラマン「OKで~す」

春香「ありがとうございました!」ペコリ

スタッフ「天海さん、この後時間ある?次回の打ち合わせしたいんだけど」

春香「ごめんなさい。この後はすぐに移動しないといけなくて……」

6: 2013/05/15(水) 00:40:16.33 ID:cxYmXlJB0
スタッフ「ありゃ、そうなんだ」

春香「すみません……」

スタッフ「いやいや、こっちの都合で言っただけだから。それにしても忙しいよねぇ」

カメラマン「お疲れ様、天海さん」

春香「あ、お疲れさまです」

カメラマン「今の話だけど、本当にちょっと前まで皆で選材写真撮りに来てたのにね」

スタッフ「あっという間に人気アイドルだもんなぁ~」

春香「い、いえいえっ、みんなはともかく、私なんかまだまだです」

8: 2013/05/15(水) 00:41:05.21 ID:cxYmXlJB0
スタッフ「ははっ、何言ってるの。今年の好感度調査でも1位だったじゃない」

カメラマン「ああ、そうでしたよね。2位に大差を付けて、文句無しの1位だもんなぁ」

春香「あはは……」

スタッフ「あれ、どうしたの?」

春香「えっと、その1位ってピンと来なくって……」

スタッフ「あははは! 案外本人はそんなもんなのかな」

カメラマン「あれ、天海さん、時間は大丈夫なの?」

春香「え……あああっ!そっ、それじゃあ私っ――!」

9: 2013/05/15(水) 00:41:52.86 ID:cxYmXlJB0
スタッフ「ああ、引き止めちゃって悪かったね」

カメラマン「次回もよろしく頼むよ、天海さん」

春香「はいっ!次回もよろしくお願いします!失礼しまーす!」タッタッタッ!

――バタン。

カメラマン「………どう思います?」

スタッフ「良い子なんだけど、アイドルとしては今一つかな」

カメラマン「ですよねぇ。ランキングとかにも、あんまり興味なさそうですし」

スタッフ「案外きっかけさえあれば、あっさり引退しちゃうかもしれないなぁ」

11: 2013/05/15(水) 00:43:09.86 ID:cxYmXlJB0
「えっと、次はCM撮影で、その後はTV収録……」


765プロ初のライブが成功して。

ファンからも覚えてもらえるようになって。

やりたかった仕事にも、少しずつ挑戦できるようになって。

みんな、すごく充実しています。


――でも、そんな中、私は……。


「今週も、ずっと一人のお仕事かぁ……」


ライブの惰性でお仕事をしているような、そんな感覚を引きずっていました。

12: 2013/05/15(水) 00:43:45.04 ID:cxYmXlJB0
「なんでこんなに、力が入らないんだろ……?」


少し前までは、あんなに張り切っていたのに。

せっかく、目指していたアイドルになれたのに。


「ううん。今年は年越しライブもあるんだし」


思い出すのは前回のライブ。

竜宮小町が到着するまで、みんなで必氏に場を繋いで……。


「そうだよ。また、みんなで頑張らないと」


そう思うと、少しだけ力が湧いてくるような気がしました。

13: 2013/05/15(水) 00:44:31.91 ID:cxYmXlJB0
From:春香
『年越しライブの練習来れそう?よかったら来てね(^^)/』

雪歩「うぅ、今日も行けそうにないよぉ~」

真「どうしたの?」

雪歩「あ、真ちゃん。年越しライブの練習なんだけど……」

真「あ~……今日もちょっと、参加するの難しそうだよね?」

雪歩「わ、私っ!このお仕事ずっとやってみたくて、それでっ!」

真「雪歩。自分のやりたい仕事があるのは、みんな一緒だからさ」

雪歩「うん……ごめんね、変なこと言い出して……」

14: 2013/05/15(水) 00:45:02.99 ID:cxYmXlJB0
From:春香
『午後からライブの練習します!来れそうですか?』

あずさ「あらあら、年越しライブの練習ですって、どうしようかしら~」

伊織「ちょっ!これから歌番組の収録なのよ!?」

あずさ「えっと~、時間は午後からみたいだけど……」

亜美「無理だYO! ここの収録って、いっつも長引くじゃんかぁ!」

伊織「今日は私達がメインなんだし、目の前の仕事に集中すんのよ!」

あずさ「それもそうよね。今日のところは仕方ないかしら~」

15: 2013/05/15(水) 00:46:07.37 ID:cxYmXlJB0
From:春香
『今日はみんなお仕事早く終わるし、ちょっとだけ合わせてみない?』

やよい「あぅ~、今日は早く帰って夕ご飯を作らないと……」

真美「あー、それなら仕方ないっしょ」

やよい「で、でもぉ……」

真美「亜美からのメールで、竜宮小町も欠席だって言ってたし」

やよい「え、伊織ちゃん達も欠席なんだ~」

真美「うん。だから、行ってもみんなでは合わせらんないっしょ」

17: 2013/05/15(水) 00:47:30.55 ID:cxYmXlJB0
From:春香
『美希と真と練習してます!これたら来てね^^』

響「うあぁん!今日も無理だぞぉ~!」

貴音「年越しライブの練習、如何ともし難いですね」

響「自分、このあと取材が入っちゃって、それはどうしても受けたいんだ」

貴音「わたくしも、急遽こまーしゃるそんぐの収録が前倒しになったので」

響「仕方、ないよね……」

貴音「致し方ないでしょう……」

18: 2013/05/15(水) 00:48:42.52 ID:cxYmXlJB0
数日後、ダンススタジオ。

春香「おはようございまーす!」

シーン……。

春香「わ、私ったら、恥ずかし……」カァ~

――priri!piriri!

春香「あれ、美希からだ……もしもーし?」

美希『もしもし春香ぁ? 今日ね、舞台の練習あるんだけど、一緒に行かない?』

春香「え? 今日の舞台練習はスケジュールに入ってないよね?」

19: 2013/05/15(水) 00:49:34.60 ID:cxYmXlJB0
美希『うん。だから自主参加なの!』

春香「え! でもっ、今日は年越しライブの練習が……」

美希『そうだっけ? でも、ハニーからはOK出たよ?』

春香「ええっ!そんなぁっ!?」

美希『あとね、律子…さんが、今日もでこちゃん達来れない~って』

春香「え……そうなんだ……」

美希『うん。そのうちメールも回って来るんじゃないかな?』

春香「だっ、だったら!私達だけでも練習しようよ!」

20: 2013/05/15(水) 00:51:03.50 ID:cxYmXlJB0
美希『ん~……ミキ的には、春香はもうライブの練習しなくても大丈夫って思うな』

春香「そんなことないよぉ!」

美希『そんなことあるの。ミキ、みんなの練習見たけど春香が一番上手だよ?』

春香「そんなっ……それに、みんなで合わせなきゃ意味ないよ!」

美希『んーん、春香はもう曲に合わせて動けるから、あとはミキ達が合わせれば良いの』

春香「でもっ!」

美希『それにミキね、今度の舞台の主役、絶対にやりたいんだ』

21: 2013/05/15(水) 00:52:27.56 ID:cxYmXlJB0
美希『これは、ハニーがくれたチャンスだって思うから』

春香「美希……」

美希『主役のミキを、ハニーに見てもらいたいの!』

春香(そっか……今度の舞台は、美希にとってのチャンスなんだ……)

美希『だからね、今は舞台の方に集中したいんだ』

春香「うん、そっか………ごめん美希……私は、行けないや……ごめん」ピ!

ブツッ…ツーツー…。

春香「やっぱり、みんなの邪魔しちゃってるのかな……」

22: 2013/05/15(水) 00:54:47.06 ID:cxYmXlJB0
ガチャ!

千早「おはようございます!」

春香「ッ!! ち、千早ちゃん………おはよう!」

千早「ごめんなさい春香」ペコリ

春香「いきなりどうしたの!?」

千早「今日の練習だけど、急に海外レコーディングの打合せが入ってしまって」

春香「えっ!こんなところに居て大丈夫なの?」

千早「タクシーを拾えればなんとか……」

24: 2013/05/15(水) 00:57:51.64 ID:cxYmXlJB0
春香「それなら早く!っていうか何で来ちゃったの!?」

千早「私、昨日の練習もドタキャンしちゃったから……」

春香「嬉しいけど、メールで大丈夫だよ?」

千早(本当は春香が心配で……なんて、余計に気を遣わせちゃうわよね)

春香「とにかく急がなきゃ!せっかくのチャンス――なん、だから……」

千早「は、春香?」

春香「……ううん、なんでもない。ほら、急がないと!」

千早「ええ。本当にごめんなさい。それじゃあ――」タタッ…

25: 2013/05/15(水) 01:00:36.01 ID:cxYmXlJB0
――バタン。

春香「…………えへへ、そうだよね」カチカチ…

From:雪歩
『ごめんね。練習行けそうにないよ…>_<。このお仕事は納得行くまでやりたくて…』

From:あずさ
『ごめんなさいね。今日は竜宮小町がメインだし、収録が長引いちゃいそうだから』

From:やよい
『ごめんなさい~;_; 今日は早く帰って晩ご飯を作らないといけないんです…』

From:響
『ごめん!このあと取材が入っちゃって、地元の情報誌に載る記事だし受けたいんだ』

春香(みんな、アイドルになった目的があって、目標があって、夢があって……)

26: 2013/05/15(水) 01:02:28.02 ID:cxYmXlJB0
春香「そうだよ。いつだったか、美希や千早ちゃんだって……」

――アイドルって何かしら。

春香「私は……」

――ミキ的には、キラキラ輝いてる人だと思うな!見た人みんながドキドキしちゃう感じ!

春香「私の……」

――人の心に、幸せを届けることができる人のことなのかもしれない。私はそれを歌でしたい。

春香「私の、夢は……」

――。

27: 2013/05/15(水) 01:04:13.68 ID:cxYmXlJB0
事務所。

春香「お疲れさまです……」

小鳥「あら、春香ちゃん。お疲れ様~」

春香「あの、プロデューサーさんは……?」

小鳥「今あっちで電話中なの。ほら、聞こえるでしょ?」

『はい。そこはお客さんの反応を見て……』

『そうです!それが皆で作り上げる765プロのライブなんですよ!』

春香(みんなで、作り上げる――)

28: 2013/05/15(水) 01:06:50.63 ID:cxYmXlJB0
小鳥「年越しライブの打ち合わせだから、少し長くなっちゃうと思うけど」

春香「………」

小鳥「春香ちゃん?」

春香「あ、いえ、今日はもう帰りますね」

小鳥「え、でも、何か用事があったんじゃ……」

春香「えへへ、もう大丈夫になりました!お疲れさまでしたー!」タッタッタッ!

バタン。

春香(そうだよ。やっぱり“みんなで”やらなくちゃ!)

――。

29: 2013/05/15(水) 01:09:27.23 ID:cxYmXlJB0
翌日、ダンススタジオ。

真「今日も全員では集まれなかったね」

響「仕方ないさー。自分も一時間後には出ないといけないし」

雪歩「私も、次のお仕事があるから長くいられないよぉ」

千早「こんな調子で大丈夫なのかしら……」

春香「………」

千早「春香?」

春香「これじゃ、ダメだよ……」

30: 2013/05/15(水) 01:15:26.35 ID:cxYmXlJB0
真「え……」

春香「このままじゃ、みんなバラバラで、ライブもダメになっちゃうよ!」

雪歩「で、でもぉ、みんなお仕事があるし……」

春香「今は、今だけは、年越しライブに集中できないかな!?」

貴音「春香……それはわがままというものです」

響「そっ、そうだぞ! 自分だってもっと練習したいけど、仕事が……」

春香「でも!前みたいにみんなで頑張らないと!」

真「今と前とじゃ状況が違うよ……」

31: 2013/05/15(水) 01:17:21.38 ID:cxYmXlJB0
春香「でも……それでもっ!」

律子「そこまでよ」

春香「ッ――律子、さん?」

律子「はぁ、プロデューサーに頼まれて迎えに来てみれば……春香、行くわよ」

春香「え……どこにですか?」

律子「舞台の練習よ。美希はちゃんと自主参加してるわよ」

春香「そんな!今日は年越しライブの練習をみんなでって!」

律子「分ってる。でも、これは春香にとってチャンスなの」

32: 2013/05/15(水) 01:19:35.31 ID:cxYmXlJB0
律子「それに、プロデューサーの意向でもあるわ」

春香「ッ!! そんなっ………だって、プロデューサーさんは……」

千早「は、春香……」

律子「良い?さっき春香は、今だけはライブの練習をって言ったけど」

春香「はい……」

律子「お願いだから、今だけは舞台の方に集中して」

春香(――私、ほんと何やってるんだろ………)

――。

33: 2013/05/15(水) 01:21:38.34 ID:cxYmXlJB0
数日後、舞台練習。

美希「ねぇ、春香。最近はライブ練習のお知らせメールしてないの?」

春香「うん……しばらくは控えるように言われちゃって……えへへ」

美希「そーなんだ……」

春香「あ、えっと、話は変わるけど、この舞台、美希と一緒で良かったよ」

美希「そうなの?」

春香「うん。私一人だったら心細くて……一緒に頑張ろうね!」

34: 2013/05/15(水) 01:25:19.55 ID:cxYmXlJB0
美希「うーん、それはやなの」

春香「え……」

美希「前にも言ったよね。ミキ、絶対に主役をやりたいんだ」

春香「う、うん、でもさ……」

美希「だから、一緒に頑張るっていうのは違うんじゃないかな」

春香「み、美希……」

美希「だからね春香――」

スタッフ「すみませーん。次、星井さんからでお願いしまーす!」

38: 2013/05/15(水) 01:29:46.28 ID:cxYmXlJB0
春香「…………」トボトボ…


――だからね春香、ミキ、負けないよ。


春香(私だけ、そういう覚悟ができてないのかな……)トボトボ…

 「おーい、美希~、春香~」

 「ハニッ……プロデューサー♪」

春香「プロデューサーさん……そうだ、プロデューサーさんに相談すればっ」クルッ

グラッ――。

春香「あれ?」フラッ…

 「ッ!! 春香ぁあっ!!」バッ!

39: 2013/05/15(水) 01:30:18.66 ID:cxYmXlJB0
――ドォンッ!!


スタッフ「オ、オイッ!誰か落ちたぞ!!」

スタッフ「なんでセリが下がってるんだよ!?」

美希「はっ、ハ――~ッ!!」ドタドタ

スタッフ「星井さんっ!危ないですから下がって!」

監督「救急車だ!早くしろ!」

春香(ぷろ、でゅーさ……さん……?)

――

40: 2013/05/15(水) 01:31:51.31 ID:cxYmXlJB0
病院。

亜美・真美「「りっちゃん!」」ドタドタ!

千早「律子!」タッタッタッ!

律子「しーっ…!気持ちは分かるけど、静かに……!」

雪歩「あのねっ、さっきお医者さんが来て、治療は終わったって!」

千早「そう……なら、もう大丈夫なのね?」

貴音「それが、頭を打っているようで……」

響「お医者さんは、いつ意識が戻るか分からないって言ってたぞ……」

伊織「もし目を覚まさなかったら、この病院潰してやるんだから……」

42: 2013/05/15(水) 01:35:44.70 ID:cxYmXlJB0
真「い、伊織ぃ……って、あれ、そういえば美希は?」

小鳥「美希ちゃんは、現場からずっと付き添っていたから……」

律子「ずっと気を張ってたし、今は受付のところで休ませてるわ」

あずさ「一人で大丈夫でしょうか?」

小鳥「いえ、一応一人ではないんですけど……」

律子「でも、もう一人もあの様子じゃ……」

小鳥「私、ちょっと見てきますね」

千早(春香……)

――。

43: 2013/05/15(水) 01:37:00.12 ID:cxYmXlJB0
後日、事務所。

ガチャ。

律子「お疲れ様です」

小鳥「あ、お帰りなさい律子さん」

律子「ふぅ、伊織達は現場から直帰させました」

小鳥「みんなは大丈夫そうですか?」

律子「あの子達の方がよっぽど強いです。私なんか、力が抜けちゃって……」

小鳥「そうですね、私も同じです……」

44: 2013/05/15(水) 01:39:40.46 ID:cxYmXlJB0
小鳥「今日は病院には?」

律子「朝行って来ました」

小鳥「じゃあ、プロデューサーさんもまだ……?」

律子「はい……」

小鳥「そうですか……」

律子「そのプロデューサーの担当の子達はどうですか?」

小鳥「社長が頑張ってくれてます。ふふっ、現役の頃を思い出すって」

律子「それなら安心ですね」

45: 2013/05/15(水) 01:40:55.85 ID:cxYmXlJB0
律子「それと、年越しライブの練習はどんな感じでしょう?」

小鳥「えっと、私も直接は知らないんですけど……」

律子「あ、そうですよね。私ったら……すみません」

小鳥「い、いえいえっ、今日は真ちゃんと響ちゃんが来てたみたいですよ?」

律子「二人だけ……やっぱり、出席率が悪いですね」

小鳥「春香ちゃんも心配してましたけど、全体練習がなくて大丈夫でしょうか」

律子「みんな、今は自分達の仕事を一生懸命やってますから、仕方ないですよ」

――。

46: 2013/05/15(水) 01:41:57.36 ID:cxYmXlJB0
病室。

春香「ごめんなさい…グスッ…ごめんなさい……っ」

P「春香が謝ることなんて、何にもないんだぞ?」

春香「ひッ、ぅ……ふぇぇ…ぶろ゛でゅーざッ…ざ、ん」ポロポロ…

P「おいおい……ほら、こっちおいで」

春香「うっ…っ…ぅわあぁあぁああぁあん!!」

P「よしよし」ナデナデ

春香(ぷろでゅーさーさん、ぷろでゅーさーさんっ……!)

48: 2013/05/15(水) 01:43:52.33 ID:cxYmXlJB0
春香「ひっ…うぅ……ぐすっ……」

P「少しは落ち着いたか?」

春香「あ゛ぃ…ごぇん、なざぃ……」

P「あはは、何謝ってるんだよ」

春香「わた…ひっ、の……せぇ、で……」

P「ほら、アイドルが泣いて良いのは、ライブの終わりと引退のときだぞ?」

春香「ふぁい……」

P「とにかく、今は春香もゆっくり休むんだ」ポムポム

――

50: 2013/05/15(水) 01:45:32.90 ID:cxYmXlJB0
翌日、ダンススタジオ。

千早「やっぱり、人数が集まらないわね」

貴音「致し方ないでしょう。皆、それぞれの仕事があります」

真「それにさ、今日はまだ来てる方だよ」

雪歩「そうだよね。春香ちゃんがいたら、喜んだかな……」

真美「はるるん……」

全員「「「「…………」」」」

51: 2013/05/15(水) 01:47:09.79 ID:cxYmXlJB0
真「ボク達大丈夫かな……。今はプロデューサーもいないし……」

貴音「なればこそ、今はわたくし達だけでも精一杯練習すべきです」

真美「はるるんが復活したとき、すぐに合わせられるようにしなきゃね!」

雪歩「私、初ライブの練習のとき足引っ張っちゃったし、今度こそやりますぅ!」

千早(春香。私達頑張るから……)

真美「んじゃ、曲かけるYO!」

千早(だから、あなたも早く戻って来て――)

――。

52: 2013/05/15(水) 01:49:24.97 ID:cxYmXlJB0
病室。

春香「あの、こんにちは……」

P「ん? やぁ、春香」

春香「え、えっと……」

春香(うぅ、昨日あんなに縋り付いて泣いちゃったし、恥ずかしぃ……)

P「どうしたんだ、入らないのか?」

春香「あ、いえ、失礼しマスっ!」

P「ははっ、何緊張してるんだよ」

春香「キ、緊張してないですヨ?」

53: 2013/05/15(水) 01:50:59.33 ID:cxYmXlJB0
P「う~ん……あ、わかったぞ!」

春香「ふぇ!?」

P「昨日あんなに泣いちゃったからなぁ~?」ニヤニヤ

春香「プ、プロデューサーさんっ、いじわるですよぉ!」

P「あはははっ!」

春香「うぅ~」ジトー

P「おっと、そんな可愛い上目遣いで睨まないでくれヨ」ニヤニヤ

春香「た、性質が悪いですよぉ~!」カァ~

54: 2013/05/15(水) 01:53:33.37 ID:cxYmXlJB0
P「ははっ、じゃあ、お詫びに緊張を解くおまじないをしよう」

春香「おまじないですか?」

P「ああ、前にもやったろ? まずは手を出してぇ~」

春香「は、はい」

P「人という字を書いてぇ~」

春香「く、くすぐったいです……プロデューサーさんっ」

P「そして今書いた人の字を~~飲み込む!!」

春香「ふぇ!?い、いきなり飲み込めませんよぉ~」

P「おいおい、あの時と同じだなぁ……ほら、お水」

春香「あ、どうも……んぐんぐ……」

春香(…………ん?)

――

56: 2013/05/15(水) 01:56:56.48 ID:cxYmXlJB0
翌日、収録現場。

スタッフ「ねぇねぇ、天海さんってお休み中なんでしょ?大丈夫なの?」

亜美「えっ!?あ、あぁ~、えっとぉ~」

亜美「(ど→しよ、いおりん!?)」ヒソヒソ

伊織「(あんま言っちゃダメって、律子に言われてるんだからね!)」ヒソヒソ

あずさ「あの、すみません。私達も詳しいことは……」

スタッフ「あ、そうだよねぇ。これだけ別々に仕事してたら分かるわけないよねぇ」

伊織「なっ! ち、ちがっ……!」

あずさ「いえ、そういう訳では、ないんですけど……」

57: 2013/05/15(水) 01:58:16.96 ID:cxYmXlJB0
ロケ現場。

スタッフ「同じ事務所って言っても、ファン獲得のライバルでもあるわけだし」

響「えっ!?」

スタッフ「自分達の仕事もある訳だから、お互いの状況なんて分かんないよね」

やよい「えっと、そのぉ……」

スタッフ「まぁ、個人で売れてるんだし、765プロってことに拘らなくてもねぇ」

響「そ、そんなことっ!」

やよい「ない、です……」

――。

58: 2013/05/15(水) 01:59:41.81 ID:cxYmXlJB0
病室。

春香「こんにちは、プロデューサーさん」

P「やぁ、春香」

春香「えへへ、今日はお菓子を作って来たんです」

P「おお!って、嬉しいけど、そんなに気を使わなくて良いんだぞ?」

春香「好きでやってることですから。じゃ~ん、今日はフルーツケーキですよ♪」

P「おっ、フルーツケーキといえば――」

春香「どうかしましたか?」

60: 2013/05/15(水) 02:02:12.64 ID:cxYmXlJB0
P「いやさ、前に春香が寝不足になるくらいレシピで悩んでたな~って」

春香「え?」

P「ちょっと思い出してな。それじゃ、早速いただきまーす!」

春香「あ、どうぞどうぞ」

P「モグモグ……うん!相変わらず、春香のお菓子は美味しいな!」

春香「えへへ、お菓子作りなら任せてください!」エッヘン!

P「あとは、たまにやるドジを直せば完璧だな~」ニヤニヤ

春香「うっ……それは自信ないですよぉ」

62: 2013/05/15(水) 02:03:48.64 ID:cxYmXlJB0
P「おいおい、自信ないのかよ」

春香「だって、私ドジですし……」

P「いつだったか、間違えて焦げた方のクッキー持って来ちゃったしな~」

春香「うぅ~、プロデューサーさぁん……」

P「あはは、ごめんごめん、いじめすぎたかな?」ナデナデ

春香「そ、そうですよぉ………えへへ」

春香(――って、あれ?)

――

63: 2013/05/15(水) 02:06:11.32 ID:cxYmXlJB0
翌日、社長室。

社長「どうかね律子君。アイドル達の様子は?」

律子「仕事はなんとか……ですが、やっぱり全体的に沈んでいますね」

社長「そうか、今は彼も天海君も不在だからね」

律子「はい。特に春香は、前回のライブでもムードメーカーでしたから」

社長「うむ。吉澤君も指摘していたが、彼女の明るさには随分救われた」

律子「吉澤記者が……ええ。本当にその通りですよ」

社長「だから、それだけに残念な知らせがあるのだよ」

64: 2013/05/15(水) 02:09:09.25 ID:cxYmXlJB0
社長「天海君の出演している番組側から、出演者変更の連絡が来た」

律子「そっ、それって!春香は降板っていうことですか!?」

社長「そこまではっきりとは言わなかったが、事実上の降板だろう」

律子「そんな……」

社長「今のところ先方は、代わりのアイドルを765プロからと言ってくれている」

律子「そう、ですか………仕方ないこと、なんですよね……?」

社長「厳しいかもしれないが、この世界では至極当然のことだ」

律子(春香……)

――。

66: 2013/05/15(水) 02:10:20.00 ID:cxYmXlJB0
病室。

春香「こんにちは、プロデューサーさん」

P「やぁ、春香。お疲れ様」

春香「ぁ……」

P「ん、どうした?」

春香「な、なんでもないです……アハハ」

P「そうか?」

春香「それよりも、今日はクッキーを焼いて来ました!どうぞ!」

P「お、おお。それじゃあ、早速頂こうかな。あ~…む」

67: 2013/05/15(水) 02:11:33.18 ID:cxYmXlJB0
P「ムグムグ……うん、いつも通り美味いよ」

春香「へへっ、良かったぁ~♪」

P「春香って、小さい頃はお菓子職人になるのが夢だったんだもんな」

春香「え……」

P「どうかしたか?」

春香(私、プロデューサーさんにそんな話したかなぁ?)

P「お~い、春香ぁ~」

春香「あっ、すみません」

68: 2013/05/15(水) 02:12:28.71 ID:cxYmXlJB0
P「いやいや……そういえば、ここ最近、仕事の方はどうだなんだ?」

春香「えっと……一人のお仕事が多いですけど、なんとか……」

P「ふむ、春香は皆とする仕事が好きかい?」

春香「それは…………好き、ですけど……」

P「うん、そうかそうか」

春香(でも、元はと言えば、私がそのことで悩んでた所為で……)

P「それはすごく良いことだ。春香の魅力の一つだな」

69: 2013/05/15(水) 02:14:53.53 ID:cxYmXlJB0
春香「魅力、ですか?」

P「ああ。皆との時間を大切に思えるんだ、春香は優しいよ」

春香「そんなこと……」

P「そういえば、春香が皆で歌うのが好きなのって、歌のお姉さんとの思い出だったよな」

春香「歌の、お姉さん……?」

P「小さい頃に、公園で知り合ったお姉さんと友達と、皆で歌を歌ったって」

春香(っ――…………)

P「それで、通りがかった人達が聞いて拍手をしてくれたんだよな」


(あぁ……そっか……)

71: 2013/05/15(水) 02:16:35.08 ID:cxYmXlJB0
(そういうことだったんだ……)


たとえば、初めてのミーティング。

一緒に繁華街を歩いて、ケーキやお菓子、小さい頃の夢の話をした。


『パティシエになるのが、夢だったりしたこともあったんです』

『今からでもなれるさ。どうだ春香、職人を目指したら?』

『ええっ!今からですか!?でも私、今は歌が大事だし……』

『いやいや、歌のパティシエを目指すっていうのはどうかな?』


ちょっぴりキザな言い回しだったけど、嬉しくて舞い上がったのを覚えてる。

72: 2013/05/15(水) 02:17:31.28 ID:cxYmXlJB0
(他にも……)


たとえば、昼の公園。

歌を頑張る理由を聞かれて、はじめて他人に話した。


『お姉さんと友達とみんなで歌ってると、周りに人が集まって来て』

『もしかして、褒められた?』

『はい!みんなに拍手してもらえて、ふふふっ』

『それが、春香が歌を頑張るきっかけになったんだな』


あなたに話して、自分がアイドルを目指した理由を、自覚したのを覚えてる。

73: 2013/05/15(水) 02:19:19.87 ID:cxYmXlJB0
少し無理して頑張ったCDショップの店頭販売も。

いきなり好きな男性を聞かれた雑誌取材の練習も。

ひたすら走り抜いたPV撮影も。

はじめてドラマに出演させてもらうことになったレコーディングも。

そして、最後のドーム公演も。

どの時にも、私の側には、プロデューサーさんが居てくれたのを覚えてる。


(そうだよ。アイドルランキングが上がる度に喜んで、二人で新しい目標を立てたっけ)


……。

74: 2013/05/15(水) 02:21:58.08 ID:cxYmXlJB0
P「つまりさ、アイドルを目指した理由が“皆で歌いたい”っていう――」

春香「ふふっ」

P「春香?」

春香「でも結局、そのことで悩んで、みんなに迷惑掛けちゃいました」

P「そうか?」

春香「はい、心配も掛けちゃってます。今も、こうしてる間にも」

P「……ははっ、気付いたのか?」

春香「気付いちゃいました」

75: 2013/05/15(水) 02:23:50.60 ID:cxYmXlJB0
春香「これは、私の夢なんですね」


P「ああ、その通りだ」

76: 2013/05/15(水) 02:25:01.18 ID:cxYmXlJB0
P「春香は、舞台から落ちて病院に運ばれたんだ」

春香「そして、私は今もベッドの上なんですね」

P「ああ。でも、どうして気が付いたんだ?」

春香「だって、小さい頃の話なんて、プロデューサーさんにしたことないですから」

P「そうだな。ここでの春香は、担当プロデューサーとそんな話はしていない」

春香「でも不思議です」

P「うん?」

春香「体験していないのに、あなたとの思い出は、ずっと側にあったんですね」

77: 2013/05/15(水) 02:26:16.30 ID:cxYmXlJB0
P「俺との記憶は、天海春香のルーツでもあるからな、きっとどこかで覚えてるのさ」

春香「うふっ、ちょっとキザですよ、プロデューサーさん♪」

P「本当だな、確かにキザだ、あはははは!」

春香「もう、プロデューサーさんったら……」

P「いやぁ、あははっ!」

春香「うふふっ」

P「ふぅ………なぁ、春香」

春香「………はい」

78: 2013/05/15(水) 02:30:30.38 ID:cxYmXlJB0
P「一つ、わがままを言わせてくれるか?」

春香「はい」

P「俺は、春香にトップアイドルになってほしい」

春香「はい」

P「他の誰でもない。春香になってほしいんだ」

春香「………」

P「聞き届けてくれるかい?」

春香「もう……本当にわがままですよ、プロデューサーさん」

79: 2013/05/15(水) 02:32:16.82 ID:cxYmXlJB0
春香「でも、聞いちゃいます。ちょっとシャクですけど!」

P「え、癪?」

春香「だって、自分を振った人のわがままを聞くんですよ?」

P「なっ!……は、春香?」

春香「全部思い出しちゃいました。よくも振ってくれましたね?」

P「いやっ!あれは春香の将来を思ってだなぁ!」

春香「むぅ~っ………ふふっ、わかってますよ」

80: 2013/05/15(水) 02:34:11.67 ID:cxYmXlJB0
春香「だから、今度もプロデューサーさんの言うこと聞いちゃいます」

P「良いのか? それはきっと、ここの春香が望む“皆で”じゃないぞ」

春香「そうですね……うふふっ」

P「春香?」

春香「前に、美希と千早ちゃんと、アイドルってなんだろうって話したんです」

春香「そのとき、二人はちゃんと答えを持っていたのに、私は答えられませんでした」

P「アイドルとは……か。二人はなんて答えたんだ?」

82: 2013/05/15(水) 02:38:06.31 ID:cxYmXlJB0
春香「美希はキラキラ輝いてる人。千早ちゃんは幸せを届ける人。あと、それを歌でしたいとも」

P「なるほど。言い換えれば、アイドルとしての夢や目標ってことだもんな」

春香「はい。そして私の夢は、“みんなで楽しく歌うこと”でした」

P「春香の夢は、前回のライブで実現していたわけだ」

春香「でも、思いがけず夢が形になって、そのあとは力が抜けちゃってましたけど」

P「仕方ないさ。それに、周りの変化もあって戸惑もあったんだろう」

春香「えへへ、白状すると、競争とかランキングとか、ついて行けてませんでした」

P「ははっ、正直だな。今も同じ気持ちかい?」

春香「いいえ。おかげさまで、新しい夢を見つけましたから」

83: 2013/05/15(水) 02:39:15.90 ID:cxYmXlJB0
春香「私の夢は、思い描くアイドルは、あなたの理想のアイドルです」

P「あぁ――………ありがとう、春香」

春香「いいえ、こちらこそです」

P「やり方は分るか?」

春香「あなたから教わりましたから」

P「そうか、じゃあ……」


“行っておいで、春香。”


春香「っ……はい!行ってきますっ、プロデューサーさん!」

――

84: 2013/05/15(水) 02:41:05.84 ID:cxYmXlJB0
病室。

春香「う…ぅ……」

赤羽根P「は、春香? 春香っ!?」

春香「うぅ……?」

赤羽根P「春香っ!目を覚ましたのかっ!?」

春香「ぷろでゅーさ、さん?」

赤羽根P「ちょ、ちょっと待ってろ!今お医者さん呼ぶからな!」

春香(……私、頑張りますよ、プロデューサーさん)

――。

85: 2013/05/15(水) 02:42:31.63 ID:cxYmXlJB0
数週間後。

年越しライブ当日、控え室。

響「いよいよだな、年越しライブ!」

真「うん。歌もダンスもなんとか形になったし」

雪歩「でも、あんまり練習できなかったし、ちょっと不安だよぉ」

貴音「確かに、前回のらいぶに比べ、練習量が少なかったですね」

真美「そんなのへ→きだYO!ステージに立っちゃえばなんとかなるって!」

あずさ「それもそうよね。ここまで来たら、頑張るしかないわよね」

86: 2013/05/15(水) 02:43:45.77 ID:cxYmXlJB0
亜美「ってゆ→か、はるるんが出られないのはイタイYO!」

美希「まったくなの。春香が一番上手なのにぃ……」

春香「うぅ……めんぼくないです……」

伊織「ま、今回は伊織ちゃんの華麗なステージを見てることね!」

千早「私達、春香の分まで頑張ってくるから」

やよい「うっうー!がんばりますよー!」

春香「えへへ、ありがとう……」

87: 2013/05/15(水) 02:45:55.31 ID:cxYmXlJB0
赤羽根P「春香……」

春香「あ、お疲れ様です、プロデューサーさん」

赤羽根P「改めてすまなかった」

春香「へ?」

赤羽根P「今回のこと、俺がちゃんとしていれば、こんなことには……」

春香「なっ、何言ってるんですか! 舞台から落ちたのは、完全に私のドジですよ!?」

律子「いや、それも違うから、あれは完全に舞台側の不備よ」

88: 2013/05/15(水) 02:47:14.60 ID:cxYmXlJB0
赤羽根P「それだけじゃないんだ。事故の後、俺はプロデューサーの仕事まで放棄していた」

真「でも、それこそずっと春香の付き添いだったわけですし」

雪歩「そうですよぉ~」

赤羽根P「いや、皆にもたくさん迷惑を掛けた。本当にすまなかった!」

伊織「べ、別に、あんた一人抜けたくらい、どってことなかったわよ!」

響「そうだぞ! 自分は完璧だし、なんくるなかったさー!」

貴音「どうか気に病まれないよう、プロデューサー」

89: 2013/05/15(水) 02:48:35.57 ID:cxYmXlJB0
赤羽根P「み、皆……」

真美「あれあれぇ~、兄ちゃん涙目ぇ→?」

亜美「え→!見せて見せてぇ~!」

赤羽根P「うわっ!?ちょっ!やめっ……!!」

やよい「あ、プロデューサー赤くなってますー」

あずさ「あらあら、可愛らしいですね~」

貴音「ふふっ、まことその通りですね」

赤羽根P「か、勘弁してくれ……」

90: 2013/05/15(水) 02:50:42.64 ID:cxYmXlJB0
律子「はいはい、遊んでないで、ちゃんと身体をほぐしておくのよー」

小鳥「あと、今の内に何かお腹の中に入れておいてねー」

全員「「「「はーい!」」」」

美希「ミキ、おにぎり食べたいの!」

律子「あ、食べ物も飲み物も、今は別の控え室に置いてあるんだったわ」

美希「えぇー」

春香「私が案内するよ。行こう、美希」

美希「うん!」

91: 2013/05/15(水) 02:56:19.48 ID:cxYmXlJB0
別室。

美希「もぐもぐ……」

春香「はい、飲み物もどうぞ」

美希「ありがとなの」

春香「いよいよだね、年越しライブ」

美希「うん。いっぱいキラキラしたミキを、みんなに見てもらうの!」

春香「そうだね。お客さん全員の記憶に残るライブになると良いよね」

美希「………春香?」

92: 2013/05/15(水) 03:02:38.43 ID:cxYmXlJB0
春香「ん、なに?」

美希「春香、なんだか変わったの」

春香「え?」

美希「落ち着いてるって言うか、すごくまっすぐ~ってカンジ」

春香「そうかな……」

美希「うん。なにかあったの?」

春香「……前に、アイドルってなんだろうって、話したことあったよね」

美希「あ、うん」

94: 2013/05/15(水) 03:04:55.94 ID:cxYmXlJB0
春香「私もね、答えを見つけたんだ」

美希「ふぅん、ぜひ教えてほしいの!」

春香「それはヒミツです♪」

美希「えぇー、そんなのってないの~」

春香「ごめんね。でも……」

美希「春香?」

春香「私、負けないよ」

美希「……うんっ、ミキも負けないの!」

――。

95: 2013/05/15(水) 03:06:10.64 ID:cxYmXlJB0
765プロ初の年越しライブ。

みんな練習不足を心配してたけど、そんなこと全然なくって。

最後までしっかりと、最高のステージを見せてくれました。

律子さんは、『プロなんだから当然!』って言ってたけど。

お客さんも喜んでくれて。

ファンもたくさん増えて。

メディアにも注目されて。

私には、みんなが眩し過ぎるくらい輝いて見えました。

96: 2013/05/15(水) 03:07:37.58 ID:cxYmXlJB0
新年になって。

年越しライブの評判もあって、765プロがますます忙しくなる中。

私はというと、怪我の治療やら検査やらで、しばらくお仕事はお休み。

お仕事は減ってくし、ファンからは忘れられちゃうし、置いてけぼりです。

それに、再起ってすごくすごく大変で、正直へこたれちゃいそうでした……。


「……でも、約束ですからね――

97: 2013/05/15(水) 03:09:25.66 ID:cxYmXlJB0
61週後、ドーム公演。


――私、ここまで来ましたよ、プロデューサーさん」


かつて訪れた夢のステージ。

前と違うのは、彼が隣にいないこと。


(あなたとやったことを思い出しながら、一つ一つ登って来たんです)


営業、取材、撮影、レコーディング、ライブ……。

本来ならば知りえない、天海春香の原初の記憶。


(私は、あなたの理想のアイドルになれましたか?)


“………。”


「ちぇ、まだダメですかぁ~……ふふっ」


そうして、今日も答えは得られない。――ステージの幕が上がる。

98: 2013/05/15(水) 03:14:22.65 ID:cxYmXlJB0
ドーム公演、ゲスト控室。

千早「すごい歓声ね、地響きがしてる……」

美希「相変わらず、春香さんのライブはすごいの!」

赤羽根P「春香のライブは、遠い席のお客さんも楽しめるように工夫されてるからな」

千早「だから、いつも春香は、顔を少し上げて声が通る歌い方をしているんですね」

赤羽根P「ああ。実に春香らしい気遣いだよ」

美希「うーん……ミキ、それはちょっと違うって思うな」

千早「どういうことなの?」

美希「春香さんはね、もっと遠くにいる誰かに向けて歌ってるの」

99: 2013/05/15(水) 03:15:25.27 ID:cxYmXlJB0
千早「遠くにいる、誰か?」

美希「そうなの。いろんな気持ちを込めてね、歌ってるの」

千早「なんだか、少し悲しい感じね……」

美希「でもね、だからこそ、みんな応援したくなっちゃうんだって思うな」

千早「春香を応援したくなるのは、歌の表現効果なんじゃなくて、ただ純粋に一生懸命だから……」

美希「うん!ミキね、春香さんに負けないよって言ったのに、すっかりファンになっちゃったの!」

千早「そうね。私も同じようなものかしら、ふふっ」

スタッフ「如月さん、星井さん、準備の方お願いしまーす!」

100: 2013/05/15(水) 03:18:36.96 ID:cxYmXlJB0
ステージ。

春香『みんなー!今日は、765プロから特別ゲストが来てるんですよー!』

春香『早速呼んじゃいますね~……千早ちゃーん!美希ぃー!』

千早『皆さんっ、こんばんわ!』

美希『みんなよろしくねっ☆ そして春香さん、会いたかったのー!!』ダキッ

春香『うわわ!?って、やっぱり“さん”付けは変だよぉ~』

美希『いーの!ミキ、春香さんのこと尊敬してるんだから♪』

千早『二人とも、お客さんに笑われてるわよ?』

春香『うぅ……つ、次の曲!次の曲行きますよーっ!』

――。

101: 2013/05/15(水) 03:33:27.43 ID:cxYmXlJB0
春、昼の公園。

満開の桜に彩られた公園には、子供達の元気な歌声が響いていた。


「楽しそうだなぁ~♪」


以前の自分だったら、一体どんな風に見えていただろう。

夢や目標を失ったまま、もしかしたら幼い頃の幻覚でも見ていたかもしれない。

そして、失意の私は、幼い頃の自分に向けこう尋ねるのだ。


 『ねぇ、私はどうしてアイドルになりたかったの?』

 『あいどるになってね、みんなでたのしく、おうたをうたうの!』


きっとこれも一つの答えで、一つの結末に辿り着けたに違いない。

102: 2013/05/15(水) 03:36:23.78 ID:cxYmXlJB0
「でも、もう思い出しちゃったから……」


歌のお姉さん。一緒に歌った友達。拍手してくれた人々。

そして、それを思い出させてくれた、あの人のこと。


「プロデューサーさん……」


私はこれからも、色々な場所でアイドルをするでしょう。

そして、その場所では、あなたを思い出すことはないのかもしれない。

でも、それでも、『天海春香』が最後に戻る場所は――。

104: 2013/05/15(水) 03:37:36.24 ID:cxYmXlJB0
「いつか、アイドルを辞めたときは、あなたのところへ戻っても良いですよね……」


“ああ。そのときは、あの話の続きをしよう。

 春香の気持ちが、変わっていなければね――”


「うふふっ♪」


天を仰げば、私を照らす、あの人の笑顔みたいな太陽が輝いている。

私は目を細め、遥か彼方のあなたに向けて。


春香「プロデューサーさんのいじわるっ♪」


――。

105: 2013/05/15(水) 03:39:53.58 ID:cxYmXlJB0
epilogue

長い長い時が経ち、誰もが一人の少女がアイドルであったことを忘れ去った頃。


「色んなことがあったなぁ~」


一人の少女が、街灯に照らし出された夜道を歩いていた。


「最初は、765プロってアイドル9人だったんだよねぇ」


懐かしい夜風を頬に感じ、遠い昔に思いを馳せる。


「そこに、美希や響、貴音さんが加わって――」

「そういえば、美希が961プロに移籍しちゃったこともあったなぁ」

「律子さんがプロデューサーで、伊織達とフェスで競争したりもしたっけ」


それらは、全てが終わらなければ見ることのできない、思い出の俯瞰風景。

108: 2013/05/15(水) 04:23:01.65 ID:cxYmXlJB0
「長かったけど、やっと戻って来れたんだ」


街灯に照らし出された夜道。

ここはかつて、彼女が大切な人と歩き、別れた場所。


「ここで終わって、始まったんだよね……」


多くの思い出が色褪せる中、それだけは鮮明に覚えている。

天海春香のルーツ。

大切な人と歩んだ、光り輝く61週間。

彼女が生まれ、アイドルとなった、一番最初の物語。

109: 2013/05/15(水) 04:33:09.69 ID:cxYmXlJB0
「やぁ、春香。お疲れ様」


待ち望んだ声。


「ふふっ、お疲れさまです、プロデューサーさん♪」


長い長い時を繋ぐ挨拶。


「私……トップアイドルになれてましたか?」

「ああ、もちろんだ。春香はトップアイドルだった!」


会話は、昨日まで一緒だったかのように軽やかだった。

110: 2013/05/15(水) 04:35:29.86 ID:cxYmXlJB0
「えへへ、私なんかでも、トップアイドルになれたんですね」

「当然だよ。何せ春香は、俺が唯一、感情を押し頃してでも業界に残したアイドルなんだから」

「え……? あの、それって――」

「俺と春香の物語だけは、あの時に終わってないからな」

「プロデューサーさん?」

「だから、今度は俺から言わせてもらうよ」


向き合った二人は、あの時と全く同じ姿で。

違うとするなら、それは話の結末。

111: 2013/05/15(水) 04:40:03.42 ID:cxYmXlJB0
遠い昔に始まった物語は、


「春香」


長い長い時を経て、


「は、はい」


忘れ去られたこの場所で、


「俺さ、ずっと春香のことが――」


ようやく終わりを迎える。



アイドルだった少女の、初恋の成就によって――。


END

112: 2013/05/15(水) 04:42:06.49 ID:cxYmXlJB0
おわりです。お目汚し大変失礼しました。

114: 2013/05/15(水) 04:51:53.95 ID:RpBGaFrW0
うはw完走www
まぁ、おつ

引用元: 春香「プロデューサーさんのいじわるっ♪」