4: 2018/01/26(金) 01:17:29.34 ID:9QtHLtss0.net




     

ーーひっぐ、うぐ、ひっ、ひっく


ーーここにいたんだね、ちかちゃん


ーー っ!よーちゃ……なんで


ーーもうだいじょーぶだよ、あいつらやっつけておいたから!


ーー ……


ーーちかちゃん?


ーーちか、どうしてこんな名まえなのかな……


ーーえ……


ーーかみの毛だってこんなに長くて


ーーちかちゃ……どうしてハサミなんか持って……


ーーもういやだ……こんなかみっ!


ーー!!?だめ!ちかちゃん!!!
 
  

 ジャキンッ


  



5: 2018/01/26(金) 01:18:03.84 ID:9QtHLtss0.net



   
 

      
千歌「!!」ハッ


  ピピピピッ   
          ピピピピッ

ピピピ
   カチッ


千歌「……夢……か」

千歌「なつかしい夢だったな……」

千歌「……」

千歌「あの時は前髪を短く切りすぎてかえってかっこ悪くなっちゃったんだよね」

7: 2018/01/26(金) 01:19:03.88 ID:9QtHLtss0.net
千歌「今くらいなら許容範囲かな」サラ…

千歌「……」

千歌「本当はもっと……」


  ーー ……どうかな、よーちゃん


千歌「もっと短くしたいけれど」


  ーーこれでぼくも


千歌「お父さんみたいに」


  ーーおとこらしくなったかな

  

  < チカー! ゴハンデキタゾー! ハヤクオキロー!


千歌「!はいはーい今いくー!」

千歌「よいしょっ……あっ痛ぅ!」ビキッ

千歌「くぅ……こりゃ寝違えたかな……」

千歌「今日はプール開きなのによりによって……つつつ」ズキズキ


  < チカー!


千歌「わかってるってー!今行くからー!ててて」






8: 2018/01/26(金) 01:20:06.30 ID:9QtHLtss0.net





   
  ーーちかちゃん

  ーーよーはどんなちかちゃんもだいすきだよ

    




9: 2018/01/26(金) 01:20:39.79 ID:9QtHLtss0.net





 
千歌「……」モグモグ

美渡「……」モソモソ

志満「……」

志満「ねぇ千歌」

千歌「ふぁい?」ムグムグ

美渡「お前また髪切っただろ」

千歌「!?むぐんぐ……んくっ、な、なんの話かな……?」メソラシ

美渡「とぼけても無駄。すぐわかるんだよ」

千歌「はい分かってないー!冤罪!冤罪!」

志満「まぁそのぐらいなら許容範囲だから、いいけれど」

千歌「!ほら、別に良いってさ」

美渡「やっぱり切ってんじゃん」

千歌「」

10: 2018/01/26(金) 01:21:15.82 ID:9QtHLtss0.net
志満「それは今はいいのよ。問題じゃないの」

千歌「しまねぇ……」パァァ

志満「それよりこれは何?」スッ

千歌「」

美渡「えーなになに?ヒゲ用ヘアコンタクト……これであなたも男の中の男になれま……ぶっ」

千歌「」

美渡「ぶはははははははっ!!なにこれ!!!」

志満「今朝、千歌のズボンを洗濯しようとしたらポケットに入ってたのよ。レシートと一緒にね」

美渡「え?まさか千歌が買ったの?必氏すぎるでしょ!!あははははは」

千歌「うう……」カァァ

志満「日付は昨日で未開封……まさかこんなの付けて学校に行く気だったの?」

千歌「し、仕方ないじゃん!女子みたいだってからかわれるんだもん!」

11: 2018/01/26(金) 01:22:06.92 ID:9QtHLtss0.net
千歌「こんな女みたいな名前と顔と髪型じゃ、ヒゲでも生やさないとやってられないよ!」

美渡「へぇー、なら生やせばいいじゃん?」ニヤニヤ

千歌「……んだもん」

美渡「お?」プルプル

千歌「生えないんだよ!まだ!中学生だから生えないの!」

美渡「え?それで付けヒゲすることにしたって……?そりゃ……そりゃあ……め、名案だなぁ」プルプルプル

千歌「ふ、ふん、笑いたければ笑えばいいよ。あと数年もすれば美渡ねぇがひれ伏すような立派なヒゲを生やしてみせるんだから!」

美渡「」

志満「千歌」

千歌「なに」

志満「笑いすぎて痙攣し始めてるから、それ以上笑わせるようなこと言っちゃだめ」

美渡「……っ!……っ!」ピクッ ピクッ

千歌「くっ!」ムカー

12: 2018/01/26(金) 01:22:36.88 ID:9QtHLtss0.net
千歌「ごちそうさま!もう行ってくる!」

志満「曜ちゃんまだ来てないわよ?」

千歌「表で待つよ!」

志満「今日からプールでしょ?はい水着」

千歌「あ、そうだった。ありがと……ってこれ女子のが混ざってるよ!」

志満「あら、ごめんなさい。昔の美渡のが紛れ込んでたのね。でも念のために持って行ったら?」

千歌「意味わかんないよ!」ブンナゲッ

美渡「」ペシッ

13: 2018/01/26(金) 01:23:36.55 ID:9QtHLtss0.net
千歌「いちいちからかわないでよ!今朝はただでさえ嫌なこと思い出して気分悪いのに!」ムカムカ

志満「嫌なこと?」

千歌「別に、ただの夢」

志満「……夢で嫌なことを思い出したの?どんなこと?」

千歌「どんなって、小学校一年くらいの頃……ーーってだから思い出させないでってば!」

志満「……」

千歌「しかも寝違えてお尻と腰が筋肉痛みたいになってるし最悪だよ」ブツブツ

志満「筋肉痛……鎖骨の近くはどう?」

千歌「鎖骨?それは別に何も……」

志満「そう……」

14: 2018/01/26(金) 01:24:23.78 ID:9QtHLtss0.net
千歌「……?それじゃ、今度こそ行くからね」

志満「千歌」

千歌「なに?まだ何かあるの?」

志満「まだ何もないわ。でも、もし何かあったら落ち着いて電話してきなさい」

千歌「?なにそれ」

志満「……わかったわね?」

千歌「はいはい。行ってきまーす」ガチャ

志満「ハイは一回」

千歌「はい!」バタン


  

志満「大丈夫かしら……」

美渡「……大丈夫でしょ。私らだって大丈夫だったんだから」

志満「そう、ね……」

15: 2018/01/26(金) 01:24:55.64 ID:9QtHLtss0.net
美渡「……」

志満「ところで美渡は大丈夫なの?」

美渡「なにが」

志満「もう仕事に行く時間すぎてるけど」

美渡「!!!」ガタッ バタバタ

志満「……やれやれ」

志満「あ、そうだ、お母さんにメール送っとかなきゃ」パタパタ


 



16: 2018/01/26(金) 01:26:32.65 ID:9QtHLtss0.net





 
千歌「ったくもう、なんであのバカ姉はいつもいつも……」

曜「ちーかくん!」

千歌「あっ、よーちゃん!おはよう!」

曜「おはヨーソロー!ってどうしたの?眉間にシワなんかよせて」

千歌「ああうん、ちょっとね」

曜「また美渡ねぇと喧嘩でもしたの?」

千歌「まぁ……そんなとこかな」

曜「だめだよ仲良くしなきゃ。血をわけたお兄ちゃ、じゃなかったお姉ちゃんなんだから」

千歌「ぷっ……今お兄ちゃんって言おうとした?」プクク

曜「いやぁ、なんか昔はお兄ちゃんっぽかったからついつい」タハハ

17: 2018/01/26(金) 01:27:18.32 ID:9QtHLtss0.net
千歌「たしかにガキ大将って感じだったもんね」

千歌「ぼくも、美渡ねぇが中学に上がってセーラー服着てるのを見るまでそう思い込んでたもん」

曜「さすがに気付こうよ」アハハ

千歌「だって家でも男物の服ばかり着てたし、喋り方も乱暴だし」

曜「そういえば果南ちゃんが私たちより歳上ってことにも気付いてなかったよね」

千歌「う……あれはほら、いつも一緒だったからてっきり同学年かと」

曜「あはは。それで、喧嘩の原因は何なの?」

千歌「……細かい内容は伏せるけど」

曜「ふんふむ?」

曜(伏せるってことは恥ずかしい内容なのかな)

18: 2018/01/26(金) 01:28:02.58 ID:9QtHLtss0.net



曜「なるほど、よーするに、また女の子扱いされちゃったと」

千歌「そうなんだよ!酷いと思わない? ぼくは男なのに」

曜「そうだねぇ」

曜(でも千歌くんって女の子みたいな見た目だから、気持ちは分かるなぁ)

千歌「まず名前!なんだよチカって!チカだけじゃ女の子だと思われるじゃん!せめて何か前につけてよ!」

曜「んん?どういう意味?」

千歌「成親(なりちか)とか盛親(もりちか)とか!」

曜「政争に負けて流刑先で餓氏したり大坂の陣で敗走して処刑されそうな名前だね……」

19: 2018/01/26(金) 01:28:48.73 ID:9QtHLtss0.net
千歌「とにかくチカだけじゃ女の子っぽくて嫌なの!」

曜「んー……ありちか……いりちか……うりちか……エリチカ?」
 
   

  「っ!!」ピクン

  「ぅえりちゃん?」
 
  「今たしかに東の彼方から……いえ……なんでもないわ……」フッ

  「そっちは西にゃ」

  「厨二病やね」

  

千歌「それとこの残念な髪だよ!」

曜「え、まっすぐでサラサラしててきれいな髪だと思うけど。髪型もショートボブでかわい……あっ」

千歌「ありがと!きっと女の子なら喜ぶよ!でも残念、ぼくは男でしたー!」

曜「お、落ち着いて千歌くん、ええと、ほら、ボーイッシュで可愛、じゃなかったかっこいいよ!ひゅーっ!」

千歌「そりゃボーイだからね!」プクー

曜「!そ、そうでした。うん、男らしい!漢と書いてオトコ!」アセアセ

20: 2018/01/26(金) 01:29:21.20 ID:9QtHLtss0.net
千歌「本当に?」

曜「う、うん」

千歌「ほんとーにそう思ってる?」ズッ

曜「う……」

千歌「よーちゃん?」ズイッ

曜「……その……角度によっては」

千歌「よっては?」ズイズイッ

曜「そう見えなくもないような気がしないでもないというか、てか近いよー///」

千歌「チカだけに……」

曜「そういう意味じゃなくて……////」

21: 2018/01/26(金) 01:30:33.27 ID:9QtHLtss0.net
千歌「……わかってるよ。こんな髪型全然男らしくないってことくらい」スッ

曜(やっと離れてくれた……////)ドキドキ

千歌「髪をこれ以上短くしちゃだめなんて、意味わかんないよ……」

曜「高海家の家訓だっけ?」

千歌「うん……詳しい理由は教えてくれないけど、あの祠と関係あるみたい」

曜「旅館の裏山の、だよね」

千歌「でもそれ以上は……知らない理由のためにこんな家訓を守らされる方の気にもなってほしいよ」

曜「千歌くん……」

千歌「だからせめてヒゲで我慢を……っとなんでもない」

曜「ヒゲ?」

千歌「なんでもないよ」

曜(ヒゲって……こんなにお肌スベスベなのにどうやって)

22: 2018/01/26(金) 01:31:37.50 ID:9QtHLtss0.net
千歌「と、ところでさ!今日からプール開きでしょ!?水泳の時間が楽しみだね!」

曜「あー、私たちもう二年生だから海での遠泳授業が始まるね」

千歌「遠泳かぁ……それはちょっとなぁ……」

曜「え?千歌くん海で泳ぐの好きでしょ?」

千歌「海に飛び込んで漂ったり潜ったりするのは好きだけど、遠泳は疲れるから……」

曜「ああ……」

千歌「よーちゃんは好きだよね、水泳部だし」

曜「まぁ好きだけど……海で泳ぐなら千歌くんと一緒がいいから……」

23: 2018/01/26(金) 01:32:38.81 ID:9QtHLtss0.net
千歌「それは仕方ないよ。だって課題内容は男女別々なんだからさ」

曜「先生は同じなのに……」

千歌「生徒が少ないからね」

曜「どうせほとんど合同なんだから内容も同じにすればいいのに」

千歌「先生的にもそっちのが楽だろうけど、やっぱり分けないと不都合が多いんだと思うよ」

曜「むー……」

千歌「あ、でもよーちゃんが一緒だったら遠泳も楽しくできたかも」

曜「……え」

千歌「僕はよーちゃんが泳いでるのを見るの好きだし、一緒に泳ぐのも好きだからね」ニコッ

曜「!そ、そっか////えへへ////」

24: 2018/01/26(金) 01:33:44.40 ID:9QtHLtss0.net
曜「それで水着はちゃんと持ってきたの?」

千歌「うん、ってか志満ねぇが美渡ねぇの昔の水着を一緒に入れててさ、そこでまたブチギレですよ」

曜「あはは、でもわざとじゃないんでしょ?」

千歌「いーや、わざとだよ多分。だってそれが分かってからも持って行かせようとしてたし」プクー

曜「女子のスク水着た千歌くんかぁ」ボソ

曜(あ……だめだ似合っちゃってる////)

千歌「あーでも今朝寝違えちゃって、ちゃんと泳げるかな……」

曜「えっ、首とか?」

千歌「んーん。腰というかお尻というか」

曜「お尻って……初めて聞いたよそんな面白い寝違え方」

千歌「ぼくも初めてなった」

25: 2018/01/26(金) 01:34:33.04 ID:9QtHLtss0.net
曜「ちょっと想像がしにくいんだけど、大変だね?」

千歌「うーん、でも多少マシになったかな」

曜「バタ足できそう?」

千歌「バタ足は大丈夫だと思うけど……平泳ぎが心配だな」

曜「まぁプール初日はいつも水に入るだけだったりするから、せいぜいクロールのフォームを確かめるところまでじゃないかな」

千歌「だといいんだけど……ところで曜ちゃんはちゃんと水着持ってきたの?」

曜「もっちろん!忘れないように下に着てきてるであります!」スカートペラッ

千歌「わぁっ!?////」

曜「大丈夫だよ!ほら水着だから!」ペローッ

千歌「わかった、わかったからもうスカート下ろして!////」

曜「……?うん」

26: 2018/01/26(金) 01:35:32.91 ID:9QtHLtss0.net
千歌「こほん、渡辺1等海曹!」

曜「は、はい!なんでありますか高海海曹長どの!」

千歌「女の子が人前でスカートをめくったりしてはいけません」メッ

曜「えっ、でも他人前じゃなくて千歌前だし、水着だし」

千歌「それもダメなの!ぼくだって男なんだから気を付けてよ!///」

曜「はーい……あっ!新しく赴任してきた先生だ」

千歌「ほんとだ。おはようございまーす!」

先生「おう、おはようさん、お嬢さんたち!」ジテンシャ キコキコ

千歌「!?」

27: 2018/01/26(金) 01:35:58.71 ID:9QtHLtss0.net
先生「もうすぐ閉門だぞー!遅刻するなよー!」スイーッ

千歌「……」ワナワナ

曜「ち、千歌くん……?」

千歌「誰が……」

曜「え」

千歌「誰がお嬢さんだーっ!」ダッ

曜「ちょ、待ってよ千歌くーん!」タッ

 




28: 2018/01/26(金) 01:38:00.25 ID:9QtHLtss0.net




 

~朝のHR後~

   
 
千歌「……」ブツブツ

曜「ちーかくんっ♪ ってまだむくれてるのー?」

千歌「だって」

曜「ほら、あの先生、先週から臨時で来たばかりの非常勤さんだしさ……」

千歌「……それって知らない人からは女の子と間違えられても仕方ないって意味?」ジトー

曜「あ、えーと……」シマッタ

千歌「あの後何て言われたか覚えてる?」

曜「んと、『そういう時期もある』だっけ……ほら成長期の途中だから、どちらか分からない時期もあるってことで」アハハ…

千歌「……」

29: 2018/01/26(金) 01:39:21.03 ID:9QtHLtss0.net
曜「いつかは男の子に見えるようになるって言いたかったんじゃないかな!」

千歌「……」

曜「……多分」メソラシ

千歌「……その前に『男子の真似をしたい年頃なんだよな』って」

曜「う」

千歌「『でも校則は校則だからちゃんと明日からは指定のセーラー服で来なさい』って」

曜(やっぱり覚えてたか……)

曜「あっ!と、ところで二時間目の数学の宿題やってきた?」

千歌「へ?」

曜「数学の宿題」

千歌「しゅく……だい……?」ナニソレ

曜「ほら43ページの練習問題1から44ページの練習問題4までってやつ」

千歌「……すっかり忘れてた」

曜「あらら。でも今日ってたしかタ行からだから、千歌くん絶対に当たる日だよね」

30: 2018/01/26(金) 01:40:19.80 ID:9QtHLtss0.net
千歌「ど、どどどうしよ……」アワワ

曜「どうするも何も、今から頑張るしか」アハハ

千歌「……よーちゃん」

曜「ん?」

千歌「お願い!宿題見せて!」ペコー

曜「はっはっはっ」

千歌「え、何その笑い」

曜「私はワ行の渡辺ですよ、タ行の高海くん」

千歌「あ」

曜「当たらない日に私が宿題をやってきてるとでも?」エヘン

千歌「……」

曜「わー、アホを見る目だー」

31: 2018/01/26(金) 01:41:15.96 ID:9QtHLtss0.net
曜「ま、まぁでも二時間目なんだし今から頑張ればギリギリ間に合うかも」

千歌「一時間目は国語か……よしっ、隠れてすればなんとか……」バッ

曜(朗読の順番も回ってきそうだけど……)

千歌「……」カキカキカキ

曜「ま、いっか」


   
 
    



32: 2018/01/26(金) 01:41:51.32 ID:9QtHLtss0.net





   
  ーー渡辺ってさぁ、男みたいだよな


  ーーあ~分かるわ男女ってやつ?


  ーーそうそう、この前もいつも一緒にいる女男からかってたら追いかけてきてさぁ


  ーー男子便所に逃げ込んだらそのまま入ってきたんだろ?


  ーー五年生の◯◯くんが蹴られて泣かされたってよ


  ーーありえねー!ほんとに女かよ!


  ーー将来の夢は船長だってよ。海の男ってやつ?


  ーーぷっ、だっせぇ。


ーーおい


  ーーあ?


ーーあやまれ


  ーーなんだこいつ、女男って言われて怒ってんのか?


  ーー気持ち悪いんだよ、この女男!


  ーーまた泣かされたいの…ぐぁっ!?!?

 
  

ーー曜ちゃんに謝れっつってんだよ!!

   
    
        

千歌「!!!」ハッ

33: 2018/01/26(金) 01:43:09.75 ID:9QtHLtss0.net
千歌「……」

千歌「……なんだまた夢か」ジュルリ

「ほぅ、どんな夢だったのかな?」

千歌「昔の夢……子どもの頃の……最近よく見るような気がする……」

「良い夢だったかね?」

千歌「よく覚えてないけどあまり良い夢じゃ 「千歌くん!」 ……へ?」

曜「前!前!」ヒソヒソ

千歌「?よーちゃ……んっ!?」


先生「ほう、そうかね。悪い夢だったかね」ゴゴゴ


千歌「」

34: 2018/01/26(金) 01:44:19.66 ID:9QtHLtss0.net
先生「それはな、授業中に熟睡する不真面目な態度に対するやましい気持ちが見せた凶夢というやつだ」

千歌「」

曜(あちゃー……)

先生「さて、おはよう高海くん。君には寝起きの脳に効く練習問題をあげよう」

千歌「」

先生「どうした?これを解く公式はちゃんと教えたはずだ。さぁ前に出て解きなさい」


 
千歌「」


   




36: 2018/01/26(金) 01:45:59.85 ID:9QtHLtss0.net




  

キーンコーンカーンコーン

   

千歌「」プシュー

曜「大丈夫?」

千歌「……あんなの習ったっけ」

曜「まぁ、一応」

千歌「まじで……?」

曜「千歌ちゃんが寝てる時に」

千歌「いけずだぁ!!」

曜「あはは」

37: 2018/01/26(金) 01:47:16.93 ID:9QtHLtss0.net
千歌「うう……それなら隣の席なんだから教えてくれても……」

曜「何言ってんの!」

千歌「あっ……ごめん、また僕よーちゃんに頼ろうとしt

曜「私にあんな問題分かるわけないでしょ!」ドン!

千歌「あ、そっちすか」

曜「用意された武器を使えるようになるにはレベル上げしないと駄目なのだ!」

千歌「宿題というレベル上げをしてきてなかったようですが」

曜「……い、今はまだ時ではないのだ」

千歌「……」ジトー

曜「そ、それよりそろそろ体育だからプールに移動しないと」

千歌「あっそうだった!早く行かなきゃ遅刻になっちゃ」ズキッ

千歌「っ!?」

38: 2018/01/26(金) 01:48:14.52 ID:9QtHLtss0.net
曜「えっどうしたの?」

千歌「ま、また寝違えた」

曜「あーほら授業中に居眠りしてるからー。どの辺?」

千歌「今度は首の下……」

曜「首の下って胸の辺?どれどれ」サスサス


 フニッ


曜(えっ?)ドキ

千歌「い痛っ」

曜「あっ、ご、ごめん!」

39: 2018/01/26(金) 01:49:46.06 ID:9QtHLtss0.net
曜(今……なんか……)

千歌「いつつつ……クロールできるかなこれ。せっかく筋トレで胸筋ついてきたのに」

曜(あ、なんだ胸筋か)

千歌「よーちゃん?」

曜「!あ、そ、そうだね、一応事情だけ話してゆっくり泳ぐ感じにすればいいんじゃないかな」

千歌「ん、ゆっくりならなんとか」イテテ

曜「プールの水温で冷却されるから多少マシなはずだよ」

千歌「なるほど……かしこーい!さすが曜ちゃん選手!」

曜「えへへ////」

日直「おーい、教室の鍵閉めるから早く出ろよ」

千歌「あっごめんごめん!」

曜「今出るよー!」
  


  



40: 2018/01/26(金) 01:50:59.25 ID:9QtHLtss0.net




  

~更衣室~

 

千歌「着ー替え着替えー♪」ガチャッ


男子ABCDEF「「「「「「 !!?!? 」」」」」」


千歌「うーん」キョロキョロ

男子A「……」

千歌「よし、ここのロッカーにしよ」

男子B「……」

千歌「……」ボタンプチプチ

男子C「……」

千歌(良かった、痛みが少し引いてきてる)

男子D「……」

千歌(痛くて脱げないかと思ったけど、これなら何とか着替えられそう♪)

男子E「……」

千歌「ふんふんふーん♪」

男子F「……」

千歌「~♪」スルッ  


  パサッ


男子ABCDEF「「「「「「 ……っ!!! 」」」」」」ゴクリ

41: 2018/01/26(金) 01:52:05.00 ID:9QtHLtss0.net
千歌「えーと海パン海パン、海パンはどこいったかな、っと……」

千歌「……ん?」

男子ABCDEF「「「「「「 …… 」」」」」」ジーッ

千歌「なんだよお前ら」

男子A「!な、なんでもねーよ?」

千歌「いやこっち見てたじゃん」

男子B「べ、べべ別に見てねーし」プイッ

千歌「今さら目線そらされても……」

42: 2018/01/26(金) 01:52:44.92 ID:9QtHLtss0.net
男子C「お、俺はあれだ、お前の使ってるロッカーに付いてるワックスのカスが気になってだな」

男子D「そうそう!俺もそれ!」

千歌「げっほんとだ!うわぁ手に白いのがついちゃったよ……」

男子E「……!」ピクン

千歌「前の時間の奴らが髪整えようとしてこぼしたのかな……ねばねばしてて気持ち悪い……」ニチャニチャ

男子F「……!!」ムク

千歌「くんくん……うぇ、においキツい……」


男子ABCDEF「「「「「「 」」」」」」


千歌「さっさと着替えて手洗いにいこ……え?」

千歌「何してんの?」

43: 2018/01/26(金) 01:53:27.81 ID:9QtHLtss0.net
男子D「い、いいい、いや別に……」

千歌「みんなで前屈なんかして」

男子B「プ、プールサイドに行く前に腕立てでもしよっかなーと」

男子F「お、俺も!」

男子A「よ、よーし、1、2、3、4」

男子E「5!6!7!8!9!」

千歌「ふーん……」

男子B「はぁはぁお前もどうだ高海!」

男子C「おいバカ!」ヒソッ

男子B「あっ!え、えと」

千歌「ぼくはいいや。寝違えてて痛いし」ヌギヌギ

男子CB「そ、そうか……」ホッ

千歌「というか手を洗いに行きたいし」ハキハキ

45: 2018/01/26(金) 01:54:33.91 ID:9QtHLtss0.net
千歌「よし、っと。先に行ってるからねー」

男子ABCDEF「「「「「「  おう!  」」」」」」


 ガチャ

     バタンッ


男子ABCDEF「「「「「「  ……  」」」」」」ハァー

男子F「今のはやばかった」

男子B「ちくしょう誰だよこんなところにワックスこぼしたの。ファインプレーかよ」

男子D「海パンの時にファインプレーされても全然ファインじゃねぇよ」

男子A「てか一番やばいのはあいつだよ、高海!一年の時よりやばくね!?」

男子C「それな。前から女っぽかったけどなんつーか……」

男子F「ぶっちゃけ最初、女子が入ってきたのかと思った」

46: 2018/01/26(金) 01:55:18.36 ID:9QtHLtss0.net
男子D「胸がないから男なんだろうけど……」

男子A「待て……胸、無かったか?」

男子C「おいやめろ」ピクン

男子B「たしかに見ようによっちゃちょっと膨らんでるようにも」

男子C「やめろって、俺をこれ以上危険領域に引き込むな」ムク

男子F「そういや渡辺と筋トレしてたら胸筋がついてきたとか嬉しそうに言ってたっけ」

男子E「渡辺と筋トレ……渡辺に抑えられて汗だくになりながら筋トレする高海……」

男子C「だからやめろって……!」ムクムク

男子D「でも何かいいよね……」

男子A「いい……」

男子C「いい加減にしろ……!」ギンギン

男子B「お前は給食のおばちゃんのことでも考えてろ」

男子C「おうふ」シナシナ…







47: 2018/01/26(金) 01:56:16.13 ID:9QtHLtss0.net






ピーッ


先生「準備運動そこまでー!太ももとふくらはぎの裏、よくほぐれたかー?」


< ハーイ !
            < ウッス
     < ハイ!


先生「男子、声がちいせーぞ!」


            < ウィーッス !!


千歌(よし、かなりマシになったぞ)カタ グルグル

千歌(これならクロールくらいならいけそう)


先生「それじゃ今日から平泳ぎの練習を」


千歌(げっ……)


先生「と思ったが、初日だから今日は自由に泳いでいいぞ!」


千歌「!!」

曜「自由!?」パァァ

48: 2018/01/26(金) 01:57:29.43 ID:9QtHLtss0.net
先生「いいか、水に慣れるための時間だからな!危ないことはするなよ!」


千歌「っし!っし!!」ガッツポーズ

曜「やたっ」ガッツポーズ


先生「特に、学校帰りに海に飛び込んでるやつ、約2名!」


曜千歌「「!?」」


< ダレノコト?
             < 2メイ?
      < ダレ?


曜(やばい)タラ

千歌(バレてる……?)タラタラ


先生「ここは海じゃなくてプールだからな!飛び込んだりしたら床に刺さるぞ!」

先生「あと地域の人が心配してるから程々にするよーに!わかったなー!」

49: 2018/01/26(金) 01:58:55.84 ID:9QtHLtss0.net
千歌(……良かった、先生が見てるのは別の子だ)ホッ

曜(他にも寄り道して飛び込んでる子いるんだな……)ホッ


先生「わかったな!高海!渡辺!」


曜千歌「「!?」」


< ア、ヤッパリ
              < ナンダー

    < チュウガクセイ ナノニ マダトビコンデルノ?

                 < クスクス


先生「内浦ですぐ海に飛び込む悪ガキなんてお前らしかいないんだから、返事くらいしとけ!」

曜「は……///」

千歌「はい……///」

50: 2018/01/26(金) 01:59:53.38 ID:9QtHLtss0.net
先生「それじゃ今から20分自由時間!かけ水した者から入ってよし!」


< ワァァァァァァ!!

 バシャーン  
         パチャッ
    ドブンッ


千歌「うひゃっ!つめたーい!気持ちいー」

曜「千歌くん!一緒に潜水25mしよ……って、スジ痛めてたんだっけ」

千歌「ううん、いいよ。だいぶマシになったから」

曜「そっか、よかった!」

千歌「でもただ潜水して泳ぐだけじゃ面白くないし、何かないかな」

曜「んー……なら、にらめっこしながらとかは?」

千歌「それだと泳げないよ」

曜「だいじょーぶ!プールの底で横に寝そべるようにして、手と腕だけで進むの」

千歌「んと、ヒメハゼみたいな感じ?」

曜「第三匍匐前進みたいな感じであります!」

千歌「んん、そっちの例えはちょっとよくわからないけど、なんとなく把握したよ」

51: 2018/01/26(金) 02:00:46.17 ID:9QtHLtss0.net
曜「笑って浮上しちゃったら負けってことで!」

千歌「おっけー!それじゃいくよー、いっせーのー」スゥー

曜「でっ!」ドブン
     

   
    

ポコ

     ポコ


     
千歌「……」アップップー

曜「……」プー

千歌(ぷっ……危ない危ない、ちょっと笑いそうになった)

曜「……」ヨリメ

千歌(ふふ、無駄だよ曜ちゃん。その顔はもう見慣れたのだ)


千歌(……それにしても)


千歌(やっぱり曜ちゃんって、かわいいな)

52: 2018/01/26(金) 02:02:05.89 ID:9QtHLtss0.net
千歌(変顔してても整ってるってわかる)

千歌(……)

千歌(最近また女の子らしくなったよね。小学校のころは男みたいだってからかわれてたのに)

千歌(あいつらも今の曜ちゃんを見て、女の子だって意識してるのかな)

千歌(もしかしすると好きになっちゃってたりして)

千歌(……)モヤ…

千歌(……今更遅いっての!ぼくはずっと前から知ってたもんね)

千歌(曜ちゃんだってあいつらのことなんて……)

千歌(……)

千歌(でもあいつらもあいつらで男らしくなっていってるよな……)

千歌(バスケ部のあいつは背高いし、柔道部のあいつは筋肉もりもりだし、野球部のあいつは坊主だし)

千歌(陸上のあいつなんて男のぼくから見てもカッコイイし……)

千歌(……それに引き換えぼくは)チラッ

53: 2018/01/26(金) 02:03:13.44 ID:9QtHLtss0.net
千歌(平均よりも低い背丈、細い手足、狭い肩幅、長い髪……)

千歌(あ、でも胸筋は少しついてきたような気が)フニ

千歌(……)フニフニ

千歌(……うん、上質な筋肉は柔らかいものだって聞いたし)

千歌(脂肪なんかじゃない!筋肉、これ筋肉だよ!)

千歌(……)

千歌(……曜ちゃんもやっぱり男らしい男が好きなのかな)

千歌(あいつらみたいな……え?)


曜「……!……!」ブンブン


千歌(なに?曜ちゃんなんで手をバタバタし


 
  ゴツンッ

 
   
千歌「」ゴボォ

54: 2018/01/26(金) 02:04:19.32 ID:9QtHLtss0.net
曜「……ぷはっ!千歌くん!?千歌くん!!」

千歌「」プカー

曜「大丈夫!?思いっきり頭ぶつけた音したけど!」

千歌「い、いつの間にか25m進んでたんだね……」イテテ

曜「だから知らせたのに直進するから……痛いのはこのへん?」サスサス

千歌「いてて……あはは、ちょっとボーっとしてて」

曜「ちょっと頭見せて」リョウテ デアタマ グイッ

千歌「わわっ」グラッ

曜「うーん、血は出てないね」ジーッ

千歌(よ、よよ、よーちゃんの胸が目の前に……!////)カァァ

56: 2018/01/26(金) 02:06:32.28 ID:9QtHLtss0.net

曜「たんこぶも……よかった、ほとんど腫れてないよ!」

千歌(だめっ、こんなの刺激が強すぎて////)

千歌(海パン姿なのに……反応しちゃーー)モゾ
    
         

   
千歌「……ーーえ?」

   

              

曜「?どうしたの?」

千歌「……」

曜「おーい」

千歌「……」 

58: 2018/01/26(金) 02:08:11.24 ID:9QtHLtss0.net
曜「ちーかーくーんー?」

千歌「……え」

曜「どうしたの急に固まっちゃっ

千歌「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」

曜「えっ」

千歌「すぐ戻るから」ザバッ

曜「あっ、う、うん」

千歌「……」ペタペタペタ


 



60: 2018/01/26(金) 02:09:23.78 ID:9QtHLtss0.net




  
~プールサイド男子便所~

 

千歌「う、そ、だろ……?」

千歌「……」

千歌「いやいやいやいや」

千歌「いやいや……」

千歌「……」

千歌「……うっそだぁ……」

千歌「ぼくの」

千歌「……おちんちん、が、なーー」

千歌「いや待てよ冷たいプールに入ったから」ブツブツ

61: 2018/01/26(金) 02:10:48.64 ID:9QtHLtss0.net
千歌「だから縮こまってしまってるだけじゃないの?そうだ、そうに違いないよ」

千歌「もっとちゃんと脱いで引っ張りだせば……個室個室」 キィ バタン

千歌「ここに隠れてるはず」ゴソゴソ

千歌「……は?」

千歌「なにこのシワみたいな縦線……」

千歌「……とりあえず広げーー」

千歌「」

千歌「」

千歌「」

  




62: 2018/01/26(金) 02:11:43.16 ID:9QtHLtss0.net




  

千歌「あの、先生」

先生「おっ戻ってきたか。入る前にちゃんと腰洗い槽を通ってきたか?」

千歌「はい、いいえ、ちょっと保健室行っていいですか」

先生「え?どこか調子悪いのか?」

千歌「……まぁ」

曜「千歌くん……やっぱりさっき頭打ったのが……」

千歌「ああ、うん、そんなとこ、かな」アハハ…

先生「たしかに顔が真っ青だな……大丈夫か?一人で行けるか?」

千歌「はいそれは平気です」

先生「そうか。もし気持ち悪くなったら頼んで病院に連れて行ってもらえよ?頭の打撲は恐いからな」

63: 2018/01/26(金) 02:12:44.92 ID:9QtHLtss0.net
曜「わ、私もついて行こうか……?」

千歌「ううん、今年最初のプールなんだから曜ちゃんは楽しんでて。ね?」

曜「プールなんて水泳部だからいつでも入れるよ!だから」

千歌「ありがとう、でも本当に大丈夫だから」ニコッ

曜「う……」


 
  ペタペタ


 ガラッ  ピシャ


 
曜「……千歌くん」

  

   




65: 2018/01/26(金) 02:13:54.71 ID:9QtHLtss0.net





千歌「……」


  prrrrr prrrrr


  ーーもし何かあったら、落ち着いて電話してきなさい


千歌「……何か、か」


  prrr    

      カチャ


志満『……もしもし?』

千歌「……」

志満『ーー何か、あったのね?』

千歌「その……何ていえばいいのか」

志満『いいえ、ごめんなさい。何かあったのではなく』

志満『……なくなったのね?』

66: 2018/01/26(金) 02:14:53.18 ID:9QtHLtss0.net
千歌「!……わかるの?」

志満『……ええ、まぁ』

千歌「ぼく……ぼくどうしたらいいか、わ、わからなくて」ジワ

志満『千歌、落ち着きなさい』

千歌「夢なのかな、また嫌な夢を見てるのかなっ……」ヒック

志満『落ち着いて、今どこに』

千歌「落ち着けるわけないだろ!こんな……こんなの……」ポロポロ

志満『うん……そうね、ごめんなさい』

千歌「うっ……うっ……」

68: 2018/01/26(金) 02:16:48.44 ID:9QtHLtss0.net
志満『とりあえず今から迎えに行くから、校門の前で待ってなさい』

千歌「でも授業が……」

志満『学校にはこっちから電話しておくから大丈夫よ』

千歌「……わかった」

志満『それじゃ10分後に』ガチャッ

千歌「……」 

千歌「……」グシグシ

千歌「荷物、取りに行かなきゃ」

千歌「そのあと曜ちゃんにメッセ入れて……」

千歌「……なんて言えばいいんだよ……こんなの言えるわけ……」

千歌「……」


  
 
    ワー ワー  
          キャハハハハ

  バシャーン
               コラー! トビコムナ ッテ イッタダロ!!

        ゴメンナサーイ

  

千歌「……」  

千歌「……自販のみかんジュースでも飲もう」トボトボ






69: 2018/01/26(金) 02:17:57.44 ID:9QtHLtss0.net




 

~十千万~


  
 ミーン

    ミーンミンミンミンミン…

          カナカナカナカナカナ…
                        カナカナカナカナカナ…

  ミーン   ミーンミンミン…


  
志満「……」セイザ

千歌「……」セイザ


 チリーン…
       チリリーン…


志満「……」

志満「さて……」

千歌「……」

志満「どこから話そうかな」

千歌「……」

志満「まず確認、ね。その……あれが無くなっちゃったのに気付いたのはいつ?」

千歌「……さっき……体育の時間中に」

70: 2018/01/26(金) 02:18:40.85 ID:9QtHLtss0.net
志満「その時何してた?」

千歌「泳いで……」

志満「ごめんね、言葉が足りなかったわ。その時、何を見たのかしら?」

千歌「何、ってそんなの覚えて………………ぁ」

志満「なに?」

千歌「べ、別に///ってそれとこれと何の関係が」

志満「それは…


   < 千歌ぁっ!!!!!


千歌「へ……」


ドタドタドタドタ

     ガチャ バーンッ


美渡「千歌!!大丈夫か!!?」

71: 2018/01/26(金) 02:19:38.35 ID:9QtHLtss0.net
千歌「え、えっ?なんで?仕事は」

美渡「そんなもんどうでもいい!」グイッ

千歌「わわっ」ヨロ


 ギュッ


千歌「み、美渡ねぇ……?」

美渡「つらかったな……」ギュウウ

千歌「え、と」

美渡「泣きたければ泣いてもいいんだよ。そう簡単に割り切れることじゃない」

千歌「……美渡ねぇ」

美渡「でも高海に生まれたからにはいつかこうなる運命だったんだ」

千歌「え……?」

美渡「まだ聞いてないのか?」

志満「今から話そうとしていたのよ」

美渡「……そう、今からか」ギュッ

72: 2018/01/26(金) 02:20:38.34 ID:9QtHLtss0.net
千歌「美渡ねぇ……そろそろ……」

美渡「つらい話だからこのまま聞いた方がいい。気休めにしかならないと思うけど」

千歌「ありがと……でも、もうさっき散々泣いたから……大丈夫だよ」ニコ

美渡「でも……」

千歌「もう覚悟はできてるから……これ……もう戻らないんでしょ?」

美渡「……」

志満「……ええ」


志満「千歌、あなたはもう二度と男の子には戻れない」


 
志満「一生女の子として生きていかなければならないの」

  

千歌「……」
  

 



73: 2018/01/26(金) 02:21:43.56 ID:9QtHLtss0.net




 
    
志満「お父さんが婿養子なのは知ってるわね?」

千歌「うん。おじいちゃんとひいおじいちゃんもだよね。高海家は男が生まれにくいんだって」

志満「そうね、その通りよ。ただし生まれにくいわけではないわ」

千歌「え?」

美渡「男は普通に生まれてくる。お前がそうだったように……そして……」

美渡「……私たちがそうだったように」

千歌「……!もしかして」

美渡「私も志満ねぇも、生まれた時は男だったんだ」

志満「小学校のころの美渡を覚えてる?」

千歌「……うっすらとは」

志満「男の子っぽかったでしょ?」

74: 2018/01/26(金) 02:23:00.30 ID:9QtHLtss0.net
千歌「……」


   ーー僕も、美渡ねぇが中学に上がってセーラー服着てるのを見るまでそう思い込んでたもん


千歌「……勘違いかと思ってた」

志満「この子が“転化”したのは小学5年生の終わり頃だったわ」

千歌「転化?」

志満「高海家に生まれた男は例外なく、ある日突然に女になる。お母さんはこれを転化と呼んでいたわ」

美渡「昔あった嫌なことを夢で見るようになって、変なところが筋肉痛になり始めたと思ったら」

美渡「そこからはあっという間だった」

千歌「っ!それってぼくと同じ……」

志満「これは予兆。どうしてそうなるのかは分からないけれど……」

77: 2018/01/26(金) 02:25:21.31 ID:9QtHLtss0.net
志満「もしかすると嫌な思い出を見せることで、過去と決別させようとしているのかもしれない」

千歌「させようとしてる、って誰が」

美渡「裏山の祠の神様が関係してるんだってさ。よくは知らない」

志満「だから高海に生まれればその時点で性別に関わりなく祠の祝子(はふりこ)となり、女の名前を与えられる」

千歌「はふり、こ……?」

志満「祝う子と書いて祝子。巫女のことよ」

志満「言い伝えでは神様からの祝福の証だと言われてるわ……一応」

美渡「祟りと言った方がいいかもしれないけどね」ボソ

78: 2018/01/26(金) 02:26:45.04 ID:9QtHLtss0.net
志満「こらっ」

美渡「……だって……こんなの理不尽すぎるでしょ」

千歌「そんな、どうして」

志満「神様とご先祖様の間に何があったのかは分からないわ。経緯は忘れ去られて結果だけが残ったの」

志満「ううん、もしかすると伝えたくなかったのかもしれない。それだけの事があったのでしょうね」

志満「神社の宮司様や禰宜様と違って、特別何か神事をしなければいけないわけではない……ただ」

美渡「ただ、この家に生まれた者は遅かれ早かれ女になって……そして子を産む」

千歌「……!」

美渡「それが高海の宿命なんだ」

千歌「赤ちゃんを……産む……?私たちが……?」

千歌「それってつまり、男と……ってことだよね……」ブルッ

美渡「……」

千歌「でも、ぼくが……男と……男なのに……そんな……」カタカタカタ

美渡「……」ギュ

志満「……」

志満「……本当ならね」

千歌「え……?」

80: 2018/01/26(金) 02:28:15.13 ID:9QtHLtss0.net
志満「でも千歌たちは大丈夫よ」

美渡「……」

千歌「……どういうこと?」

志満「世継ぎの子たちは私が産むから」

美渡「っ!わ、私も」

志満「無理しないで、美渡」

美渡「!」

志満「あなたはまだ完全には心が “引きずられてない” のでしょう?」

美渡「……」

千歌「?」

志満「私たちのお母さんはね、心が男性の内にお父さんと結婚したの」

千歌「……え」

82: 2018/01/26(金) 02:29:29.44 ID:9QtHLtss0.net
志満「会ったこともない許嫁、それも恋愛対象ではない性別の人。そんな人と家庭を築き、家系を守らなければいけない」

志満「頭では仕方のない事と分かっていても、それは想像を絶する重荷だったと思うわ」

千歌「そんな……お父さんもお母さんも、そんなそぶりを見せたこと一度も」

志満「お父さんはね、全て事情を知った上でお母さんの支えになろうとすごく頑張ったんだって」

志満「だから、次第にお母さんの中に女性の心が表れ始めて、いつしか心の大半を占めるようになった」

志満「人間としてだけじゃなく、男性として、伴侶としてお父さんを愛せるようになっていったの」

志満「でも、今でも時たま昔の “男だった自分” が浮かび上がってきて……」

志満「……だから定期的に別居して、独りの寂しさを噛みしめるようにしてるんだって」

志満「夫が恋しい妻の心を、子どもに会いたい母親の心を、自分の身体に思い出させるために」

千歌「それでいつも東京に……でもそんなの……お母さんは、苦しくないの?」

美渡「苦しいと思うよ。でも母さんにとっては、自分が母さんでいられなくなる方が辛いんだって」

千歌「……っ」

83: 2018/01/26(金) 02:31:17.57 ID:9QtHLtss0.net
志満「母さんは私たちにそんな辛い思いをさせたくなくて、どうにかして娘を産もうと頑張ったの」

美渡「……結局三人とも男の子だったけれどね」

志満「ただ、不幸中の幸いで私は性別の境が曖昧な幼少期に転化することができた」

志満「だから私は女として、何の負担もなく生きていけるのよ」

千歌「志満ねぇ……」

志満「だからね、千歌、あなたは自由に生きなさい」スッ

千歌「……ハサミ……?」


志満「家訓の遵守は今日までで終わり」


千歌「!」


志満「髪を切ることもできるし、改名もできるわ。家裁への提出書類は用意済みよ」


千歌「ちょ、ちょっと待って急に言われても」

85: 2018/01/26(金) 02:33:52.25 ID:9QtHLtss0.net
志満「さっき私言ったわよね。これから一生女の子として生きていかなければならないって」

志満「実際、あなたの身体はこれからどんどん女の子になっていく。それは避けられないわ」

千歌「……」

志満「でもね、心は自由よ。心だけは選ぶことができる」

志満「あなたの心は、男にも女にもなることができるの」

千歌「……そんな、簡単にいくと思えないよ……自由なんかじゃ……」

志満「ええ。自由といっても残酷な自由よ。大海原に取り残された小舟のように、ままならない自由」

志満「常に高波に苛まれ、何度も転覆しては這い上がろうともがくことになる」

千歌「……」

志満「けれど漂い続けていれば、寄る辺はいつか必ず見つかるわ」

千歌「……」

志満「私はもうここから動くことはできないけれど」

千歌「……!」

志満「私はそれでいいと思ってる」

千歌「……本当に?それって、ぼくの自由のために志満ねぇが不幸になるってことでしょ?そんなの」

86: 2018/01/26(金) 02:35:32.96 ID:9QtHLtss0.net
志満「そうじゃないわ。幸せの形は人によって異なるもの」

志満「さっきも言った通り、私は物心ついた時にはすでに女だったのだから」

志満「あなたの幸せと私の幸せは別のものなのよ」


志満「高海志満の幸せは、名前のとおり “島” であること」


志満「志満として、母なる島として、伴侶を見つけてたくさん産むことが私の幸せなの。母さんのようにね」


千歌「しま……ねぇ……」


 
志満「だから、あなたはあなたの幸せを掴みなさい。千歌」

   

   




87: 2018/01/26(金) 02:36:46.45 ID:9QtHLtss0.net



  
 

美渡「ねぇ」

志満「なに?」

美渡「言わなくて良かったの?」

志満「何を?」

美渡「たくさん子どもを産むってことはさ、母さんみたいになるってことでしょ」

志満「……」

美渡「千歌を産む前の母さんはもう少し大人の姿で、少なくとも高校生ぐらいには見えた」

美渡「そして……」

美渡「……私を産む前の写真では、さらに年上の姿だった」

志満「……」

88: 2018/01/26(金) 02:40:34.45 ID:9QtHLtss0.net
美渡「もし高海の子を産むことが、“自分の身体の時間を削る” ということを意味するのならば……」

志満「そうね、そうかもしれないわ」

美渡「やっぱり私も」

志満「美渡!」

美渡「……」ビクッ

志満「だめよ、そういうことを勢いで言っちゃ。言葉で自分を縛っちゃだめ」

美渡「でも」

志満「あなたには彼女がいるんでしょう?」

美渡「向こうは普通の子だよ。今は女子校時代のノリで付き合っていても、いつ普通の幸せに戻りたくなるか」

志満「それはあなたが決めることではないわ」

89: 2018/01/26(金) 02:43:10.99 ID:9QtHLtss0.net
美渡「……それに私だって二次性徴より前に転化したから、いつ女の心に引きずられるかわからない」

志満「そうなったらその時にまた選択すればいい。あなたは私たち三人の中で最も選択の幅が広いのだから」

美渡「……千歌は」

志満「千歌は転化が遅すぎた」

志満「いつその時が来てもいいように家訓を守らせてきたけれど、それが男らしさへの執着につながってしまったのね」

志満「思春期になるまで転化せず、男の子の心を得てから転化するなんて……私のせいだわ」

美渡「!志満ねぇのせいなんかじゃ……私が反発して中学まで男を演じ続けてたからあいつは感化されて」

志満「それは違う!」

90: 2018/01/26(金) 02:45:23.15 ID:9QtHLtss0.net
美渡「……」

志満「……」

志満「……ごめんなさい、責任の被り合いをしてもしかたないわね」

美渡「千歌は、本当に大丈夫なのかな」

美渡「小学生のうちに転化を済ませた私でさえ辛くて仕方なかったのに」

志満「……わからない」

志満「自由なんて言ったけれど本当は母さんと同じ。ひどく苦しい道を歩まなければならないかもしれない」

志満「せめて私にできることは高海の義務からの解放だけ……でも」

美渡「でも?」

志満「千歌にはあの子がいるから、もしかすると」

美渡「……ああ」

 

美渡「上手くいけば、だけどな」

  





91: 2018/01/26(金) 02:46:50.51 ID:9QtHLtss0.net



  


~1週間後の夕方、千歌の部屋~
 

  
  カナカナカナカナ…

           カナカナカナ…

  

千歌(あれから日を追うごとにぼくの身体は女の子のそれへと変化していった)

千歌(役所と学校へはすでに報告を済ませたけれど、公の場で明かすのはまだ抵抗がある)

千歌(とはいえ、日に日に大きくなる胸と腰の丸みを、バストバンドと冬用の学ランで隠すのも限界が近かった)

千歌(セミの鳴き声はますます存在感を増し、内浦に本格的な夏の到来を告げている)

千歌(近いうちに打ち明けなければならない)

千歌(早い方がいい。明日、いや今日にでも行動するべきだ)

千歌(……)

千歌(意気込んではみるものの、その時のみんなの反応を想像すると決意がたちまち萎んでいく)

千歌(長引けばそれだけ苦しくなると分かっているのに)

93: 2018/01/26(金) 02:48:05.98 ID:9QtHLtss0.net
千歌(今まで仲良くしていた男子たちは、僕を異性として見るようになるのだろうか)

千歌(女子たちは、この間まで男子だった僕を同性として受け入れてくれるのだろうか)

千歌(……いや、男子でも女子でもない、気持ちの悪いナニカとして見てくるのではないか)

千歌(最も考えたくないそれが、最も高い可能性であるということを)


 
  ーーなんだこいつ、女男って言われて怒ってんのか?

  ーー気持ち悪いんだよ、この女男!

  

千歌(僕は身をもって知っていた)


  
    ーーもうだいじょーぶだよ、あいつらやっつけておいたから!

  
  
千歌(……曜ちゃん)

99: 2018/01/26(金) 02:49:05.29 ID:9QtHLtss0.net
千歌(曜ちゃんはこんな僕をどう見るんだろう)

千歌(男の心のまま女になったぼくを……)

千歌(曜ちゃんは優しいからきっと表には出さないけれど……もし……)

千歌(……もし気持ち悪がられて……避けられるようになったら)

千歌(……)

千歌「……あーもう!」

千歌「明日だ!明日全部言おう!」

千歌「放課後、曜ちゃんの部活が終わってから待ち合わせして……」

千歌「もしかすると……もしかすると全部終わってしまうかもだけど……」グ…

千歌「……ずっと嘘をつき続けるよりマシだ」ググ…

千歌「決意が変わらないうちに曜ちゃんにメッセをーー」
 

 ブブーッ 
      ブブーッ


千歌「ーーえ?」


 
___________________________________________
メッセージ:
From よーちゃん

  今、千歌くんの家の前にいるんだけど、出てこられる?
___________________________________________

     

 



104: 2018/01/26(金) 02:49:56.68 ID:9QtHLtss0.net





  

千歌「曜ちゃん!」

千歌「あれ?」キョロキョロ

千歌「前って……どこ?」

曜「おーい!こっちこっち!」

千歌「!砂浜の方から……あっ」

曜「こっちだよー」エヘヘ

千歌「よーちゃん!ってどうしたのその格好、水着じゃん」

曜「んー、泳いでた!」

千歌「そりゃ見ればわかるけど、一人で?」

曜「さっきまではね」

千歌「へ?」

108: 2018/01/26(金) 02:50:28.57 ID:9QtHLtss0.net
曜「今は千歌くんがいるから二人!ね?久しぶりに泳ごうよ!」

千歌「……えっと、急すぎるから……その……」

曜「いつも急に飛び込んでたじゃん。一緒にさ」

千歌「……」

曜「千歌くん?」ドシタノ?

千歌「……あのね、曜ちゃんに言わなくちゃいけないことがあるんだ」ドクン

曜「言わなくちゃいけないこと?」

115: 2018/01/26(金) 02:51:23.07 ID:9QtHLtss0.net
千歌「本当は明日言うつもりだったけど……」ドクンドクン

千歌「……」スーッ

千歌「……」ハァー

千歌「実は、ぼく……!」


  
  ーー気持ち悪いんだよ、この女男!
  


千歌「!!」ゾッ

千歌「……!……!……っ」パクパク

曜「……」

千歌「ぼ……く……」

千歌(ダメだ……声が出な)

曜「ねぇ千歌くん」

120: 2018/01/26(金) 02:52:14.77 ID:9QtHLtss0.net
千歌「……え」

曜「小学校のころ私が男子に陰口を言われてたの覚えてる?」

千歌「……うん」

曜「男女って呼ばれてさ。まぁみんな子どもだったし、私自身もあまり女らしくなかったのもあるから仕方ないんだけど」

曜「でも正直、キツかったんだ。特に、パパの仕事を笑われた時は涙が出そうになった」アハハ

千歌「……」

曜「もう傷つくのが嫌で、パパの仕事を傷つけられるのが嫌で」

曜「パパのことを口にするのも、船長さんになる夢を話すことも嫌になって」

曜「夢を持つことすらやめようとした時期があったんだ」

千歌「ごめん……」

127: 2018/01/26(金) 02:53:14.85 ID:9QtHLtss0.net
曜「へっ?なんで謝るの?」

千歌「そんなに悩んでたなんて知らなかった……しかも、きっとぼくのせいで」

曜「ぅええっ、なんでそうなるの」

千歌「だってぼくが女みたいじゃなければ曜ちゃんがあいつらと喧嘩する理由なんてなかったわけだし……」

曜「……んー、きっと別の理由で衝突してたと思うよ。小学校の男女なんてそんなものだし」

千歌「でもキツかったんでしょ?」

曜「うん……でもね」

曜「でも、あの時千歌くんが本気で怒ってくれたから」

千歌「……!覚えてたの?」

曜「あはは、そりゃ覚えてるよ。だってあの千歌ちゃんが男子グループと殴り合いの大喧嘩をしたんだもん」

曜「しかも全員泣かしちゃったんだから、その年の内浦3大ニュースの一つだよ」

千歌「え、泣かした……?ぼくが?」タラ

曜「怪我は千歌くんの方が多かったけどね。謝れ!って怒鳴りながら何度も向かっていくもんだから」

千歌「んん……なんだかあの辺あまり記憶がないんだよね……そこまでキレてたっけ」タラタラ

曜「怪獣みたいだったよ。ガオーって感じで」クスクス

千歌「怪獣って……」

136: 2018/01/26(金) 02:55:04.99 ID:9QtHLtss0.net
曜「でもあの一件で誰も千歌くんをからかったりしなくなった」

曜「そして私もーー」


曜「ーー私も、私が私のままで居ること嫌いにならずに済んだ」


曜「千歌くんが、私を守ってくれたから」


千歌「……」

曜「ねぇ千歌くん」

曜「千歌くんが、もし今なにかを抱えていて、自分のことを嫌いになりかけてるなら、思い出してほしいんだ」

千歌「え……」

 

曜「私はどんな千歌くんも」


  
  ーーよーはどんなちかちゃんも

  
 
曜「絶対に嫌いになったりしないよ」

  

  ーーだいすきだよ


  
千歌「……よーちゃ」ジワ

152: 2018/01/26(金) 02:58:07.07 ID:9QtHLtss0.net
曜「だから未来に対して臆病になる必要なんてないの」

曜「千歌くんは一人じゃない。私がいるんだから」

千歌「……」ジワ

曜「はい!勇気のおすそ分け!///」

曜「いやー改めて言うと照れますなー////」アハハ

千歌(そっか……曜ちゃんはずっとここにいたんだ)

158: 2018/01/26(金) 02:59:02.11 ID:9QtHLtss0.net
千歌(曜ちゃんは)

千歌(ぼくがいじめられていた時も、いじめられなくなってからも、ずっと側にいてくれた)


 
  ーーあなたは大海原に取り残された小舟のようなもの
 
 

千歌(高海の宿命)

千歌(これからずっと、荒くて高い海に翻弄される運命……だけれど)

  

  ーーけれど漂い続けていれば、寄る辺はいつか必ず見つかるわ

  

千歌(漂い続ける必要なんかない)

千歌(高海千歌という舟には、ずっと前から、渡ることのできる辺〔ほとり〕があったんだ)


曜「千歌ちゃん?」


千歌(渡辺曜という寄る辺が)
   

   
千歌「あのね、よーちゃん」

  

  ーーあなたはあなたの幸せを掴みなさい


 
     
千歌「ぼく、実はーー」
 
   
   




178: 2018/01/26(金) 03:03:40.80 ID:9QtHLtss0.net



  
      
     
曜「ちーかちゃん!学校行こー!……あれ?」

志満「あら曜ちゃんいらっしゃい」

曜「おはようございます。えっと、千歌ちゃんは」

美渡「千歌ならご近所に制服を借りに行ってるぞ」

曜「制服……?」

美渡「セーラー服。曜が今着てるのと同じやつ」

志満「美渡の時は私のお下がりをあげてたんだけど、あれから制服が変更されてしまったからね」

曜「ああそれで……」

183: 2018/01/26(金) 03:04:35.96 ID:9QtHLtss0.net
志満「問題はサイズだけど……」

美渡「あの家の娘さん、かなり大柄だったからな……」

曜「あ、それなら私のを貸しましょうか!」

志満「え?」

曜「ほら、千歌ちゃんと私って背丈同じだし、体格もほとんど一緒だから」

志満「それは……ありがたいけれど、曜ちゃんの着替えがなくなると困るでしょう?」

曜「ううん、うちもともと予備が4着あるんで大丈夫です!今も1着持ち歩いてますし」

美渡(なんで……?)

186: 2018/01/26(金) 03:05:20.59 ID:9QtHLtss0.net
曜「えへへ、いつ海に飛び込む機会があるか分からないし、いつ千歌ちゃんが着たいって言っても大丈夫なようにと思って////」

志満「……とりあえず着衣泳する癖はやめようね」

曜「はーい」

美渡「って、まさか男の時すでに着せる気だったのか!?」

曜「ほら、千歌ちゃんにいろんな制服着て欲しいなって思うでしょ?」

美渡「いやそんな当たり前のように言われても、あいつ男だったんだぞ?」

曜「分かってないなー美渡ねぇはー」ヤレヤレ

美渡「いやいやいや」

志満「……一理あるわね」

美渡「は?」

192: 2018/01/26(金) 03:07:00.10 ID:9QtHLtss0.net
曜「あ、困ってるかもと思って下着も持ってきました!」ビシッ

志満「さすが曜ちゃんね」

美渡「いやサイズが違うでしょ」

曜「ふっふっふ、昨日確かめたんだけど、なんと私とほぼ同じだったんだよねー!」

美渡「へ?」

曜「何でかはわからないけど、トップもアンダーも殆ど同じ!私の方が鍛えてる分、少し誤差はあるけど」

美渡「ーーあっ……ふーん」ニヤ

曜「へ?何その反応」

志満「なるほど」

曜「え、え、何……?」

197: 2018/01/26(金) 03:07:51.12 ID:9QtHLtss0.net
志満「あの子が転化した時、誰と一緒にいたか覚えてる?」

曜「えー……っと、転化した時っていうと……」

美渡「プールの授業中な」ニヤニヤ

曜「ええと……」

曜「……わたし?だったような。何か関係あるんですか?」

志満「転化の仕組みについては私たちもよく分かってないんだけどね」

志満「ただ、これまでの記録からいくつかの法則性があることが分かっているの」

曜「法則性?」

203: 2018/01/26(金) 03:09:06.10 ID:9QtHLtss0.net
志満「まず、その者の姿を基にしながらも女性としての体躯は転化直前に見た女性に酷似する」

美渡「ただし誰でもいいわけじゃないぞ。年齢が近く血の繋がった者、または……」ニヤニヤ

志満「強く想いを寄せた相手、ね」ニコッ

曜「えーっと、それってつまり」

曜「……」

曜「……えっ?///」 ボンッ


千歌「ただいまー」ガラガラ


曜「」ビクッ

千歌「やっぱダメだったー、服ぶかぶかー……って曜ちゃんもう来てたんだ」

曜「お、おかえり?////」グググ

213: 2018/01/26(金) 03:11:07.74 ID:9QtHLtss0.net
千歌「どしたの?斜め上に顔を反らせて」

曜「ナンデモナイヨー////」

千歌「あ、もしかして寝違えちゃった?」ワクワク

曜「む!違うよ!」クルッ

千歌「えー、なぁんだ。珍しいよーちゃんが見られると思ったのに」ガッカリ

曜「同じ日にお尻と胸を寝違えた千歌ちゃんじゃあるまいし」

千歌「あれは転化の予兆だったって判明したからなぁ。成長痛みたいなものだよ」

曜「むぅ……あっ成長で思い出した。これ着てみてよ」

千歌「あっ、制服! と……そ、それは……!?///」

曜「ブラジャーだよ」ニヤリ

219: 2018/01/26(金) 03:12:21.27 ID:9QtHLtss0.net
千歌「べ、別にいいよ……いらないよ……///」

曜「私のだからぴったり合うはずだよ?」

千歌「よ!よーちゃんの!?//// いやいやいや////」

曜「私のじゃ嫌なの……?」シュン

千歌「ち、ちが!そういう問題じゃなくて……っていうかブラジャーなんてしなくて大丈夫だから!////」

曜「いや大丈夫なわけないから。透けたらどうすんの」

千歌「絆創膏つけてるから平気だよ!////」

曜「はいはい。走ると痛いし形だって崩れていくんだからね。結構大きい方なんだから気をつけないと」

美渡「おー、その調子でおっOいビギナーの千歌に色々教えてくれたまえ、渡辺おっOいプロ」

千歌「え、なにそのイヤな肩書き」

曜「了解しました!はりきって千歌ちゃんのおっOいをお世話するであります!」ビシッ

千歌「曜ちゃんまで!?ってなにこのノリ!?下品だよ!」

225: 2018/01/26(金) 03:13:17.59 ID:9QtHLtss0.net
曜「いいじゃん女の子同士なんだから」

千歌「女の子ってこんな会話してるの!?」

曜「相手が千歌ちゃんだからだよ……///」ボソ

千歌「えっ////」

曜「なんちゃってヨーソローなぁ」ニシシ

千歌「!!からかうのやめてよ!」

曜「ほら、これからずっと女子の生活しなきゃいけないんだから慣れとかないと」ヌイデ

千歌「え、ちょ、待」

229: 2018/01/26(金) 03:14:07.46 ID:9QtHLtss0.net
曜「ほら脱がないと着替えられないじゃん。あ、私も脱ごうか?」

千歌「っ!! ////」

曜(かわいいなぁ)クスクス

千歌「あっその笑い!またからかったでしょ!」ガーッ

曜「あはははは」

志満「……」

美渡「……」

千歌「あーもー、いまだに自分の裸を見るのだって恥ずかしいのに……ん?」

曜「慣れだよ慣れ!男だったことないから分からないけど……え?」

志満「……」 

美渡「……」 

241: 2018/01/26(金) 03:16:50.20 ID:9QtHLtss0.net
千歌「え?なに?二人とも黙りこんで」

曜(嬉しそうにこっちを見てる?)

志満「ううん……ちょっとね」クス

美渡「……」フッ

千歌「ぅゎ……美渡ねぇが優しげに微笑んでる……気持ち悪い……」

美渡「んだとこら」グリグリ

千歌「ぎゃー!DV反対ー!」

志満「さ、もうこんな時間よ。二人ともそろそろ支度しないと学校に遅れるわよ」

曜「はーい。ほら、千歌ちゃん着替えにいこ!手伝ってあげる!」グイグイ

千歌「ちょ、ちょっと待って!一人で着替えられるからー!」バタバタ
   

         
 み完!

247: 2018/01/26(金) 03:17:51.59 ID:9QtHLtss0.net
【おまけ1】


先生「えー、さっきも話したとおり高海は今日から女子として生活することになる」


男子ABCDEF「「「「「「  ……  」」」」」」 


先生「厳密にいえば一週間前からだが……お前たちに明かすのは今朝が初めてだ」


男子ABCDEF「「「「「「  ……  」」」」」」


先生「まぁなんだ。性別が変わっただけで高海は高海だ。今まで通り仲良くしてやってくれ」


男子ABCDEF「「「「「「  ……  」」」」」」


千歌「よ、よろしくお願いします////」


男子ABCDEF「「「「「「  ……  」」」」」」


先生「それじゃHR終わり!次、移動教室だから遅れんなよー」

252: 2018/01/26(金) 03:18:46.73 ID:9QtHLtss0.net
男子ABCDEF「「「「「「 …… 」」」」」」

男A「おい、俺は夢を見てるのか?」

男B「ああ……そうかもしれん」

男C「は?だったらなんでお前ら俺の夢の中に入り込んでんだよ、気持ち悪い」

男D「俺の夢だろ?」

男E「いや待て、世の中は全て蝶が見る夢だという説を聞いたことがある」

男F「うるせぇ!そんなことより高海だ!」

男B「誰か話しかけてみろよ」

男D「いや、でも、女子だし///」

男E「一週間前からって言ってたな……一週間前っていやたしか……」ハッ

男A「……気付いてしまったか」


男子ABCDEF「「「「「「 …… 」」」」」」


千歌「あれ、みんな何してんの」


男子ABCDEF「「「「「「 !!!?!? 」」」」」」ビクッ 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)

257: 2018/01/26(金) 03:19:31.75 ID:9QtHLtss0.net
千歌「早く実験室行かないと遅刻しちゃうよ?」

男子E「お、おう」

男子F「悪いが先に行ってくれ」

千歌「どうしたの?調子悪い?」

男子D「今はちょっと立てないんだ」

男子C「ある意味立って(ドゴォ!)…ぐはぁ!」

男子A「なんでもない、気にするな」ヒリヒリ

千歌「う、うん……?」

曜「ちーかちゃん!一緒に行こー!」ギュッ

千歌「わわっ////急に後ろから抱きついたら危ないよー///」

267: 2018/01/26(金) 03:21:19.79 ID:9QtHLtss0.net
曜「ごめんごめん」アハハ

千歌「はい手////」ギュッ

曜「うん!////」ギュッ

千歌「んじゃ、ぼく、じゃなかった、私たち先行ってるね」

曜「遅れちゃだめだよー?」


男子ABCDEF「「「「「「 ……うぃっす 」」」」」」


曜「そういえば宿題やったー?」テクテク

千歌「げっ、宿題なんてあったっけ……!?」テクテク

曜「うっそー」

千歌「このー!」


 キャッキャ
      ウフフ
 

  
男子ABCDEF「「「「「「 …… 」」」」」」

270: 2018/01/26(金) 03:21:45.12 ID:9QtHLtss0.net
男子E「なぁ、高海と渡辺ってさぁ……」

男子F「左様」

男子D「いいよね……」

男子A「いい……」

男子C「いい加減にしろ……!」ギンギン

男子B「お前は駄菓子屋の婆ちゃんのことでも考えてろ」

男子C「おうふ」シナシナ…

275: 2018/01/26(金) 03:22:32.07 ID:9QtHLtss0.net
【おまけ2】


~更衣室~

 

曜「さー待ちに待ったプールの時間だよー!」ヒャッホーイ

女子A「ほんと曜って泳ぐの好きだよねぇ」

女子B「プールの中で住んでてもおかしくないくらい」アハハ

曜「はっ、その手が」

女子C「ねーよ」

女子D「あれ?そういえば高海くんは?」

曜「あれ?さっきまで一緒にいたのに……千歌ちゃーん?あっもしかして」ガチャッ

千歌「!!////」モジモジ

284: 2018/01/26(金) 03:23:58.11 ID:9QtHLtss0.net
曜「ちーかちゃんっ、早く着替えないと遅れちゃうよー?」

千歌「だ、だってまだ女の子たちが着替えてるから////」

曜「いや千歌ちゃんも女の子でしょ」

千歌「でも、この間まで男だったし……みんな嫌なんじゃないかなって」

曜「あー……」

女子C「あ、うちらは大丈夫。へーきへーき」

女子B「そうそう!高海くんなら気にならないから!」

女子D「高海くんなら男でも気にならなかったかも」

女子A「もともと女の子みたいだったしね」

千歌(そ、それはそれで傷つく)

曜「……んー私は男の子だった時なら嫌だったと思う」

千歌「え……」ガーン

292: 2018/01/26(金) 03:25:23.31 ID:9QtHLtss0.net
曜「だって、千歌ちゃん意外と男らしくてカッコよかったし///」

千歌「……!///」カァァ

曜「今も恥ずかしくないって言ったら嘘になるけど、千歌ちゃんともっと仲良くなれるって思ったら嬉しいから////」

千歌「う……////」

女子B(なにこれ砂糖吐きそう)

女子D(尊い)

女子A(ネトゲチャットでりこっぴー♪さんが語ってたこと少しわかったかも)

298: 2018/01/26(金) 03:26:33.01 ID:9QtHLtss0.net
女子C「いーからほら入って入って!女子のスク水初めてなんでしょ?早めに着替え始めないと」

千歌「あの、その……」

千歌「お邪魔します……///」ウルウル


女子ABD「「「「 ……!//// 」」」」キュン


女子C「はーい、それじゃまずスカートの中でパンツを脱いで、下から……」

曜「むっ!千歌ちゃんは私が着替えさせるから!」

女子C「……あーはいはい。出すぎたことでした」クス

千歌「よ、よーちゃん」

曜「あ……ごめんねC、せっかく手伝ってくれようとしたのに」シュン

女子C(かわいいなぁ)

305: 2018/01/26(金) 03:27:59.25 ID:9QtHLtss0.net
【おまけ3】


~沼津のとあるBARー~
 

「それにしてもこうして一緒に飲むのは久しぶりね」

「そうだね。というか一人で飲むのも久しぶりだよ」

「あら、あなたってかなり呑める方だったと思ったけど?」

「この成りじゃどこの店も入れないよ。お酒を買うことだってできないもん」

「そうね……」

「あははジョークだから、笑って流してほしいな」

「……今度はいつまでこっちにいられるの?」

「さぁ……でもあの子たちを見てたら、無性に君に会いたくなってさ」

「……」

313: 2018/01/26(金) 03:29:13.43 ID:9QtHLtss0.net
「夫のことは愛してるよ。子ども達のことも大好きで、母親の自覚だってちゃんとある。でもこれはそれとは別の感情だから」

「……」

「ほんと厄介な身体だよね、あはは」

「……身体は関係ないわ」

「え?」

「私はそんなの関係なく、同じ気持ちだもの」

「……そっか。ごめんね苦しめちゃって」

「ほんと苦しいわ」

「ごめん」

320: 2018/01/26(金) 03:30:12.90 ID:9QtHLtss0.net
「でも一生この苦しさと付き合っていくつもり。絶対に手を離したりしないんだから」

「……ありがとう」

「あの子たちにはこんな思いさせたくないけど」

「大丈夫だよ。私たちの子だもの」

「ふふ、そうね」

「……ねぇ」

「ん?」

「曜ちゃんを産んでくれてありがとうね」

「こちらこそ。千歌ちゃんを産んでくれてありがとう」

「願わくばあの子たちが」

「あの子たち自身の幸せを見つけますように」

  

千歌母&曜母「「 乾杯 」」チンッ


   

今度こそ  み完!

325: 2018/01/26(金) 03:31:03.12 ID:Wy58NnFR0.net
おつ
おもしろかった

335: 2018/01/26(金) 03:32:44.85 ID:I9+Xiu4G0.net
おつ!よう頑張った!

367: 2018/01/26(金) 03:38:39.18 ID:9QtHLtss0.net

375: 2018/01/26(金) 03:39:57.98 ID:9QtHLtss0.net
いっぱい書きすぎよ。が出てくるので一言だけ
ボクガール風の流れにしようとしたのに重くなってスマソ
読んでくれてありがとうございました(代行してくれた>>1もありがとう)

引用元: 千歌「高い海を渡って」曜「ヨーソロー!」