1: 2014/12/13(土) 00:20:36.67 ID:sBIVseC2a.net
魔法使い「そうですよ、シンデレラ」

シンデレラ「でも私、自分を19歳くらいだと思ってたわ。成長期って言えるのかしら?」

魔法使い「それはディズニー版のお話ですよ、シンデレラ。もともとは14歳くらいの娘の話なのです」

シンデレラ「そうなの……その歳なら、まだ成長するわよね」

魔法使い「そうですよ、シンデレラ。だから、はやく王子様と会って、ガラスの靴を履かなければなりません」

シンデレラ「サイズが合わなくなっちゃうものね……ちょっと待って」

魔法使い「どうしました?」

4: 2014/12/13(土) 00:26:01.25 ID:sBIVseC2a.net
シンデレラ「順当に行けば、私このあと王子様と結婚するのよね?」

魔法使い「その通りですよ、シンデレラ」

シンデレラ「昨日の舞踏会で、私を見そめてくださったのよね?」

魔法使い「そうですね」

シンデレラ「それで私はじつは14歳で……つまり王子様は口リコンなの?」

魔法使い「21世紀の日本の感覚で判断してはいけませんよ、シンデレラ」

シンデレラ「えらくピンポイントに時代と地域を指定するわね」

6: 2014/12/13(土) 00:37:03.22 ID:sBIVseC2a.net
魔法使い「14歳での結婚は、近代ヨーロッパでは珍しくありません。安心なさい、シンデレラ」

シンデレラ「うーん……でも、やっぱり不安だわ」

魔法使い「愛する王子様と結ばれるのですよ。何が不安なのです?」

シンデレラ「だって、たった数十分踊っただけで伴侶を決めるなんて、ちょっと惚れっぽすぎないかしら?」

魔法使い「それだけあなたが魅力的なのですよ、シンデレラ」

シンデレラ「私より綺麗な女性なんてたくさんいるし、王子様に近づく人も将来たくさんいると思うの。そういう人たちに王子様が心動かされないなんて言えるかしら?」

魔法使い「大丈夫。王侯貴族が側室を持つなど、近代までは当然のことです。気にしてはなりませんよ、シンデレラ」

8: 2014/12/13(土) 00:43:07.82 ID:sBIVseC2a.net
シンデレラ「そう……それと、少し気になるのだけれど」

魔法使い「まだあるのですか?」

シンデレラ「あなた、誰なの?」

魔法使い「親切な魔法使いですよ、シンデレラ。あなたはわたしに、一晩の宿と食事をくれたではありませんか。そのお礼です」

シンデレラ「そこが納得いかないの。かまどの横のほこりっぽい寝床と硬いパンに野菜の切れ端のスープの見返りが王妃の座って、話が美味すぎないかしら?」

魔法使い「正直な者、やさしい者が報われるものお話ですから、それで良いのです」

9: 2014/12/13(土) 00:56:40.57 ID:sBIVseC2a.net
シンデレラ「じゃあ、最後に質問。いつまでもいつまでも、幸せに暮らしました……いつまで? 私は氏なないの?」

魔法使い「物語を読んだ人が、その結末を忘れない限り、あなたはずっと若く健康に、幸せに暮らせるのですよ。シンデレラ」

シンデレラ「そう……なのね」

魔法使い「さあ、王子様の行列の音が近づいてきましたよ」

シンデレラ「魔法使いのお婆さん」

魔法使い「どうしました? 悲しい顔は似合いませんよ、シンデレラ」

シンデレラ「王子様と結婚して、ずっとずっと若くて健康で、悩みもなく幸せに暮らせるようになったら、私はこうして疑ったり悩んだりするのかしら?」

魔法使い「悩むことも、疑うことも、もう要らなくなるのですよ、シンデレラ」

シンデレラ「そうなったとして、それで私は成長できるのかしら?」

10: 2014/12/13(土) 01:00:31.23 ID:sBIVseC2a.net
魔法使い「永遠になった者に成長はあり得ません。ただ永遠の幸福があるのですよ、シンデレラ」

シンデレラ「それって、人間としては氏んでないかしら?」

魔法使い「冷たい残飯のような食事を食べ、灰だらけの台所で眠る毎日から抜け出せるのです。何を悩む必要がありますか?」

シンデレラ「……」

魔法使い「このみじめな日々から抜け出せる、これが最初で最後の機会なのですよ」

シンデレラ「最初で……最後?」

魔法使い「そうです。ほら、王子様の行列が家の前まで来ています! お姉さまたちはガラスの靴を履けなかった。駆けだして! 玄関のところで王子様を呼び止めるのです!」

12: 2014/12/13(土) 01:08:44.52 ID:sBIVseC2a.net
シンデレラ「……」

魔法使い「何をしているのです! 早く!」

シンデレラ「魔法使いさん、あなたのお名前はなんて言うの?」

魔法使い「行列が行ってしまう……やっぱり、あのときと同じ……」

シンデレラ「あなた、今まで生きてきて、楽しいことはなかったの? つらいことだけだったの?」

魔法使い「そうでなければ、あなたにこうして会いに来ていませんよ」

シンデレラ「でも、たくさん悩んで、考えて、勉強して、努力して、その末の姿があなたなら、私はとても誇りに思うわ」

魔法使い「あなたは若いからそう思える……こうして、後悔することになるんですよ、シンデレラ」

14: 2014/12/13(土) 01:16:02.62 ID:sBIVseC2a.net
シンデレラ「本当に、ただ後悔しているだけ?」

魔法使い「いいえ。あなたがその選択をしたことを、ほんの少しだけ誇らしく思います。シンデレラ」

シンデレラ「そう」

魔法使い「もちろん、愚かだとも思います」

シンデレラ「私もそう思う……あれ? なんだか、あなたの姿が透けて見えるのだけれど」

魔法使い「必要な時間しか、留まれない魔法なのです。お別れね、シンデレラ」

シンデレラ「素敵な舞踏会だったわ。ありがとう」

魔法使い「……がんばってね」

シンデレラ「うん」

16: 2014/12/13(土) 01:25:20.62 ID:sBIVseC2a.net
シンデレラ「……消えちゃった」

シンデレラ「あの魔法使い……やっぱり私の……」

継母「シンデレラ! お庭に落ち葉が落ちてるわ!! 王子様にみっともないお庭をお見せして、大変な恥ですよ!!!」

シンデレラ「ああもう……はーい、すぐお掃除します」

姉1「それと洗濯! 手洗いでしっかりとね!!」

シンデレラ「はーい、すぐにー」

姉2「舞踏会で使ったコートにブラシ掛けもね」

シンデレラ「はあいー……ああもう、次から次に」

シンデレラ「こんなとき、あの人みたいに魔法が使えれば良いのだけれど」

シンデレラ「……そういえばあの人、魔法を使うときに呪文を唱えてたわね」

シンデレラ「たしか……」

シンデレラ「ビビディ……バビディ……ブー!」




おわり

引用元: シンデレラ「成長期?」