1: 2020/04/12(日) 18:10:12.84 ID:hDB5WS2C0
――おしゃれなカフェ――

高森藍子「わあっ……♪ 桜のパフェ、とうとう満開になったんですねっ」

北条加蓮「待ってましたっ。じゃ、食べよっか」

藍子「はいっ。いただきます!」

加蓮「いただきます」




レンアイカフェテラスシリーズ


2: 2020/04/12(日) 18:10:46.87 ID:hDB5WS2C0

3: 2020/04/12(日) 18:11:17.55 ID:hDB5WS2C0
藍子「もぐ、もぐ……ん~~~~っ♪」

加蓮「ふふっ。いい顔するじゃん」

藍子「だってずっと待っていたんですよ。それに満開になったら絶対加蓮ちゃんと一緒に食べようって思っていて、そうしたら加蓮ちゃんの方から誘ってくれたから!」

加蓮「いいタイミングだった?」

藍子「はいっ。加蓮ちゃんも、一緒の気持ちだったんですね。……えへ♪」

加蓮「あとほら、藍子のフェスLIVEのお疲れ様会も兼ねて?」

加蓮「と言っても、みんな既にやってくれてるだろうし。今更って感じもするけどさー」

藍子「ううん、そんなことはありません。たくさんの方がお祝いしてくれることに、順番や、何番目かなんてぜんぜん関係なくて……すっごく嬉しいですもんっ」

加蓮「よかった」

4: 2020/04/12(日) 18:11:47.38 ID:hDB5WS2C0
加蓮「出遅れたー! とか思っちゃったんだよね。正直」

藍子「競争ではありませんよ~」

加蓮「久しぶりにみんなが藍子のことを大好きだって思い出しちゃったよ。独りでカフェに行った時もそうだったけど、思い出させられちゃった」

加蓮「その分今日は藍子を独り占めー♪ なんてねっ」

藍子「では、私の方こそっ。加蓮ちゃんをひとりじめです」

加蓮「えー? みんなの加蓮ちゃんを独り占めなんて、ズルじゃない?」

藍子「先に言ったのは加蓮ちゃんの方ですっ」

加蓮「ほうほう」

藍子「みんなの……って、何を言わせようとしてるんですか~」

加蓮「え? みんなの藍子ちゃんをって藍子に言わせたったけど? 大人気のアイドルだぞーって藍子が自分で自分のことを言わせようとしたけど?」

藍子「具体的に説明しなくてもいいです、分かってますから!」

加蓮「ありがとー」

藍子「褒めてないですっ」

5: 2020/04/12(日) 18:12:17.44 ID:hDB5WS2C0
加蓮「うんっ。いちごの味がいっぱいに広がって、美味しいね。これ」

藍子「前の時はまだ5分咲きだったから、カカオの部分が多かったんですよね。今日は、いちごの味がベースになって、すっきりとした甘さに変化してますっ」

加蓮「そうそう。食べても飽きてこないし、これならおかわりもいけちゃいそう?」

藍子「加蓮ちゃん。無理をしては駄目ですよ?」

加蓮「えー? ダメぇ?」

藍子「駄目です」

加蓮「藍子は厳しいなぁ」モグモグ

6: 2020/04/12(日) 18:12:47.51 ID:hDB5WS2C0
加蓮「どうだった? フェスLIVEのステージ」

藍子「そうですね――」コトン

藍子「ステージの上から見る景色が、ちょっと久しぶりだったので……それに、私が主役なんて大丈夫かな? って、最初のうちは思ってしまいました」

藍子「でも、きらびやかなステージに上がってからは」

藍子「この時間を一秒でも長く過ごしたくて……すみずみまで、全部見ちゃいたくなって!」

藍子「私、ちょっぴりわがままでしょうか?」

加蓮「何言ってんだか」

藍子「……はいっ。加蓮ちゃんなら、きっとそう言ってくれると思いました♪」

加蓮「言わせた?」

藍子「そうかもしれませんね。さっき、加蓮ちゃんが変なことを言わせようとしたから、そのおかえし」

加蓮「……、」

藍子「あ、無言で私のパフェに手を伸ばそうとしないで~っ。この大きないちごは私が食べるんですっ。……加蓮ちゃんの分はそこにあるじゃないですか!」

加蓮「ダメぇ?」

藍子「だから駄目です!」

加蓮「藍子は厳しいなぁ」

7: 2020/04/12(日) 18:13:17.84 ID:hDB5WS2C0
藍子「加蓮ちゃん。目線、ってありますよね」

加蓮「目線?」

藍子「はい。私、アイドルをやっている時に、目線を意識するようにしていて――」

藍子「できれば、ファンのみなさんと同じ高さの目線で、色々な景色や、風景や、みなさんの笑顔を見ていたくてっ」

藍子「だからステージに上がるってなった時に、やっぱりちょっとだけ、色々思っちゃったんです」

加蓮「それがさっきの不安の話に繋がる感じ?」

藍子「そうかもしれませんね。でも私、こうも思うんです」

藍子「一段高いステージから見るからこそ、見えるものがあって」

藍子「だからこそ、伝えられるものがあるって」

藍子「みなさんのこころに、伝わりきれたか……それは、今でもちょっぴり不安ですけれど」

藍子「きっと……」

藍子「……か」

藍子「加蓮ちゃんにおこられないくらいには、うまくできたかな~……なんて……」

8: 2020/04/12(日) 18:13:47.21 ID:hDB5WS2C0
加蓮「なんでそこで自信なくすんだか……」

藍子「え、えへへ。……あっ! だから、私のパフェに手を伸ばそうとするのはやめてください!」

加蓮「ダメぇ?」

藍子「だから駄目です!」

加蓮「藍子は厳しいなぁ」

藍子「厳しいとか厳しくないとかじゃありません……!」

加蓮「……なんか目がマジだしこのネタはやめとこ」

加蓮「ま、なんというか……お疲れ様、藍子」

藍子「お疲れ様でしたっ」

加蓮「ふふっ」

藍子「くすっ」

9: 2020/04/12(日) 18:14:17.15 ID:hDB5WS2C0
……。

…………。

「「ごちそうさまでした。」」

藍子「大きなLIVEも終わったということで、私、モバP(以下「P」)さんからオフの日をいっぱいもらったんです」

加蓮「ふぅん?」

藍子「春に入った頃から、ずっとレッスンを続けていましたから……今年の春を、あまり味わえていなくて」

藍子「あっ。アイドルとしては、もう十分に時間を頂きました!」

加蓮「びっくりしたー。あんだけ大きなステージに立って、まだ足りない! もっとよこせー! って言ってるのかと思った」

藍子「いくらなんでもそこまで言うことはできませんから!」

加蓮「そこまでは、ってことは、それ未満の何かなら言えるんだ」

藍子「うぅ。またそういうことをっ」

10: 2020/04/12(日) 18:14:47.08 ID:hDB5WS2C0
加蓮「ほら、アイドルとして大成功を収めた訳だし? Pさんに、何かワガママを言ってもいいんじゃないのー?」

藍子「わがまま……。でも、オフの日をもらえるだけで、私は十分ですから」

加蓮「えー」

藍子「あまりPさんに無理強いをする訳には……。今回のステージを迎えるまでにも、私と何回も相談してくれて、私のやりたいことを叶えてくれたのは、Pさんです」

藍子「わがままなら、もういっぱい言っているんです。それに――」

藍子「私だって、Pさんに何か言うのなら……アイドルとして、言いたいなって気持ちも、ちょっとだけありますから」

加蓮「……そっか」

藍子「はいっ」

加蓮「アイドルだ」

藍子「アイドルです」

加蓮「そっか」

11: 2020/04/12(日) 18:15:17.07 ID:hDB5WS2C0
藍子「桜は満開になって、場所によってはもう散り始めてしまっているみたいですけれど……。どこに行こうかな……。いろんな行きたい場所があって、迷っちゃいます」

加蓮「ふふっ。全部行っちゃえば? そのためのオフの日なんでしょ」

藍子「それもそうですけれど、やっぱり全部っていうのはちょっと難しくて。うぅ~。いつまでも悩んでしまいますね」

加蓮「そして考えてる間に春が終わっちゃうよ?」

藍子「それは言わないで~っ」

加蓮「ばーかっ」

加蓮「まぁ? どうしてもって言うなら、加蓮ちゃんのオススメの場所を教えてあげてもいいんだけど?」

藍子「そうですね……。例えば、どこですか?」

加蓮「駅裏のビルの3階に入ったジャンクフード」

藍子「そういうことじゃないです」

12: 2020/04/12(日) 18:15:47.11 ID:hDB5WS2C0
加蓮「まあ聞いてよ。ついこの前オープンしたばっかりでさー。ほら、事務所の駅から2つ東に行った駅の」

藍子「ふんふん……。えっ、そこってけっこう遠い場所のような……? そんな場所のお店のことを、よく知っていますね」

加蓮「ジャンクフードのお店の情報は常に仕入れてないと」

藍子「ふふ。加蓮ちゃんらしいっ」

加蓮「でさ、そこで春のキャンペーンやってて、ポテトのサイズ変更が無料! しかも春の限定ハンバーガーも! ってなったら、そりゃ行くしかないでしょ?」

藍子「そうかもしれませんけれど、そういうことじゃないですっ」

加蓮「えー」

藍子「加蓮ちゃんが行きたいのならついて行きますけれど……」

加蓮「私、実はもう1回行っちゃってるんだよね」

藍子「やっぱりそうですよね?」

13: 2020/04/12(日) 18:16:17.37 ID:hDB5WS2C0
加蓮「ポテト大盛りにして、限定ハンバーガー注文してさ」

藍子「ふんふん」

加蓮「食べきれなくて持って帰った」

藍子「ええぇ……」

加蓮「しなしなになってた」

藍子「電車を使うくらいの距離はありますから……。1人で行ったんですか?」

加蓮「さすがに電車を使ってまでってなると誘いにくくて……」

藍子「あ~」

加蓮「もうポテトはしばらく見たくないかも……。はぁ……」

藍子「なるほど~……」

加蓮「……何? その何かをひらめいたって顔。ちょっと? どこに連絡しようとしてんの? 今何のメッセージ送ったの? ちょっと??」

藍子「ヒミツです♪」

加蓮「なんか嫌な予感がする……」

14: 2020/04/12(日) 18:16:47.45 ID:hDB5WS2C0
加蓮「じゃあさ。内容は教えてくれなくていいから、誰に送ったかだけ教えて?」

藍子「そうですね……それだけなら。送った相手は、ネネちゃんと響子ちゃんですよ」

加蓮「アンタ絶対"今は加蓮ちゃんに栄養満点の料理を食べてもらうチャンスです!"とか送ったでしょ!」

藍子「ぎくっ」

加蓮「送り相手で即分かるわよそんなの! 絶対しばらくの間は事務所に行かないからね私。仕事の時だってPさんに家まで迎えに来てもらうから!」

藍子「え、え~っと……ほら、そんなことをしたら、Pさん困ってしまいますよ?」

加蓮「むしろもっと頼ってくれって言われてるし!」

藍子「そうなんですか?」

加蓮「うん。なんか……なんて言うんだろ。最近Pさんが妙に私のやりたいことを知りたがってて」

加蓮「分からないことがあったらすぐ言ってくれ、とか、レッスンで困ったことがあったら相談してくれ、とか」

15: 2020/04/12(日) 18:17:17.09 ID:hDB5WS2C0
加蓮「別にウザいとかじゃないし、必要以上に気遣われてるって感じでもないからいいんだけど……なんなんだろ、あれ」

藍子「う~ん……。もしかしたら、Pさんは加蓮ちゃんに頼られたいのかもしれませんね」

加蓮「ふうん……?」

藍子「ほら、加蓮ちゃん、最近はいろんなことを自分でやっちゃうようになったじゃないですか」

加蓮「んー……あぁ、まぁ、そうかも」

藍子「Pさんは、加蓮ちゃんにお願いされたいのかもしれませんよ」

加蓮「でもワガママを言い過ぎるのもって感じ、しない?」

藍子「……さっきまで、家に迎えに来てもらうって言っていたじゃないですか」

加蓮「さーなんのことだかー?」

藍子「もうっ」

加蓮「って、そんなことよりあの2人に撤回のメッセージを送らないと!」

16: 2020/04/12(日) 18:17:46.95 ID:hDB5WS2C0
藍子「まあまあ。加蓮ちゃん。2人だって、加蓮ちゃんの苦手なものはきっと避けるハズですからっ」

加蓮「そういう問題じゃなくて、そういう話をしたらすごい張り切るでしょ! 特に響子!」

藍子「それも、ほら。加蓮ちゃんに、頼られたいと思っているからです」

加蓮「Pさんと2人じゃその辺微妙に違うでしょ……。そういうこと言うなら、徹底的にワガママ言うよ? なんでもかんでも言うようにしちゃうよ?」

藍子「その時は、事務所のみなさん総出で、加蓮ちゃんのお願いを聞くことになりそうですね」

加蓮「……やめとく。逆に居心地が悪くなりそうだし」

藍子「ふふ、残念」

加蓮「藍子も想像してみなよ。周りがみんな自分のことをちやほやしてきて、何かお願いしたらすぐ叶えてくれて……っていう世界」

藍子「……、」ウーン

藍子「…………あはは」

加蓮「ね?」

17: 2020/04/12(日) 18:18:16.93 ID:hDB5WS2C0
藍子「なにごとも、ほどほどが一番ですね」

加蓮「そうそう。ってことで、さっきのメッセージも撤回しといてね?」

藍子「~♪」

加蓮「…………」ジトー

藍子「あっ、急にスマートフォンの充電がなくなりそうになってしまいました。今日はひょっとしたら、後でお母さんに連絡しないといけないかもしれません」

藍子「今日はもう、スマートフォンは使えませんね♪」

加蓮「…………」グニグニ

藍子「いひゃいいひゃいっ」

18: 2020/04/12(日) 18:18:49.31 ID:hDB5WS2C0

□ ■ □ ■ □


藍子「そういえば……」ガサゴソ

藍子「加蓮ちゃんに、はい。プレゼントです♪」

加蓮「ん? 急にどしたの……とりあえず、ありがと」

加蓮「これは……小さなシルクハット?」

藍子「はい。オフの日をもらった次の日に、雨が降ってしまって……その日は部屋の片付けや、写真の整理をしていたんです」

藍子「そうしたら、前に玩具の公演に参加させて頂いた時に使った小物が見つかって♪」

加蓮「藍子の家にあるんだ」

藍子「いくつかは手作りしましたから。終わってからも、私の家に置いていたんですよ」

加蓮「そっか。藍子らしいね。じゃあ、このシルクハットも?」

藍子「ううん。それは、私が使っていたものを参考に、新しく作りました」

19: 2020/04/12(日) 18:19:17.34 ID:hDB5WS2C0
藍子「しまっておいたのを見つけた時に、加蓮ちゃんが、ちょっと変わり種の道具を欲しがっているっていうお話を思い出して」

藍子「私が使ったのをそのまま、っていうのも、ちょっと失礼かなって思ったので、リメイクすることにしたんですっ」

藍子「一応、お母さんにも見てもらいながら作ってみましたけれど……変なところはありませんか?」

加蓮「ううん、全然。普通に雑貨屋とか帽子屋にあっても違和感ないくらいだし……むしろ、こんなにいいものをもらっちゃってもいいの?」

藍子「もちろんっ。加蓮ちゃんのために作った帽子ですよ。ぜひ、使ってあげてください」

加蓮「ありがとね、藍子」

藍子「どういたしまして♪」

20: 2020/04/12(日) 18:20:17.07 ID:hDB5WS2C0
加蓮「……よいしょ、っと。似合う?」カブリ

藍子「いつもと違う加蓮ちゃん、って感じです。でも、ちょっと……ふふ♪」

加蓮「何ー。似合わないってことー?」

藍子「ううん。違う加蓮ちゃんです。違う加蓮ちゃん。ふふっ」

加蓮「……多分褒めてくれてるんだとは思うけど、なんだか釈然としないなぁ」

藍子「これをかぶれば、どこを歩いていても加蓮ちゃんだってばれないかもしれませんね」

加蓮「そうかな。え、そんなに違う人って感じに見える?」

藍子「はい。だいぶん雰囲気が変わりますよ。ちょっとお茶目な感じの加蓮ちゃんですっ。カラフルなステッキとか、パーティーグッズを持っていそうかも?」

加蓮「たまにはそういうのもいいかな。いつもの私とは違う、すっごいカラフルな衣装を着て、ステージに上がったりして」

21: 2020/04/12(日) 18:20:49.22 ID:hDB5WS2C0
藍子「どんなステージにしてみますか?」

加蓮「えー、そうだねー。誰か他のアイドルを呼んで、トーク……ううん、コントでもしてみよっか」

藍子「コント?」

加蓮「ま、さすがにお笑い組には勝てないかもしれないけどさ。こう……ここで藍子とやってるような話をしてみたり――」

加蓮「あ、でも、全部バラしちゃったらしばらくの間藍子が外を歩けなくなるかもしれないから、ほどほどにしなきゃっ」

藍子「……あの? どれをお話するつもりなんですか?」

加蓮「知りたい?」

藍子「いいですっ! それにっ……そ、そういうお話をするのなら、加蓮ちゃんの方こそあまり言わない方がいいことがあるじゃないですか!」

加蓮「ほー?」

藍子「例えば……昔のお話とかっ」

加蓮「……け、結構な切り札を出してくるね?」キョトン

藍子「あっ。……すみません、つい」

加蓮「ふふ。強かになっちゃってー」ツン

22: 2020/04/12(日) 18:21:17.16 ID:hDB5WS2C0
加蓮「ところでなんでプレゼント? 私、藍子に何かしたっけ。それとも今日って何かあった日だっけ?」

藍子「ううん、何も。私がただ、加蓮ちゃんに贈ってあげたいなぁって思っただけですよ」

加蓮「そーいうものなのかな……」

藍子「そ~いうものなんです♪」

加蓮「そっか。藍子だもんね」

藍子「?」

加蓮「褒めてる褒めてる」

藍子「じゃあ……わ~い?」

加蓮「ふふっ」

23: 2020/04/12(日) 18:21:47.31 ID:hDB5WS2C0
加蓮「それにしても、そんなにイメージが違って見えるのかなぁ、これ。確かに私らしくないって感じだし、そもそもシルクハットなんてかぶったことなかったけど」

藍子「変装にも、使えるかもしれませんね」

加蓮「今度いつか試してみよっか」

藍子「それなら、私も変装道具を探さなきゃ」

加蓮「もしそれでバレたら――」

藍子「ばれてしまったら?」

加蓮「私のことを見つけてくれた人へお礼に、その場でLIVEでもしちゃおっか♪」

藍子「ふふ。加蓮ちゃんが急に街中でステージを作ったら、みなさんビックリしちゃいそうですね――」

藍子「あれっ? もしかして、それって私も参加するんですか?」

加蓮「何言ってんの、当たり前でしょ」

24: 2020/04/12(日) 18:22:17.42 ID:hDB5WS2C0
藍子「……わ、私は遠慮しておきま、」

加蓮「何ならバレた瞬間に私がMCになりきって"みんなー! 今日はアイドルの高森藍子ちゃんがゲリラLIVEに来てくれたよー!"とか言ってもいいよ?」

藍子「やめて~っ! そんなことされたら、私、それこそ外を歩けなくなってしまいますっ」

加蓮「普段の私服でLIVEをしているところを、たまたま藍子の近所の人が通りかかって――」

藍子「んんんんん~~~~っ!」グイ

加蓮「もご」

藍子「加蓮ちゃん。加蓮、ちゃん……!」ゼーハー

加蓮「もご、もごもご」

25: 2020/04/12(日) 18:23:47.18 ID:hDB5WS2C0
加蓮「ぷはぁ。……顔が怖いよ?」

藍子「そうさせたのは加蓮ちゃんです……っ!」

加蓮「藍子にはちょっと刺激的すぎちゃったかもね」

藍子「もうっ。……せめて、加蓮ちゃんと一緒に歌うくらいなら、頑張ってみますから」

加蓮「ほう」

藍子「進んでやりたい訳ではありませんっ」

26: 2020/04/12(日) 18:24:17.18 ID:hDB5WS2C0
……。

…………。

加蓮「帽子って言えばさ、1つ思い出した話があって」

藍子「何ですか~?」

加蓮「ちょっと待ってね。まだ確かスマフォの中に――」ポチポチ

加蓮「あったあった。見てみてー」

藍子「これは……加蓮ちゃんの自撮り写真? ううん、誰かに撮ってもらった写真みたいですね。ひょっとして、Pさんが?」

加蓮「さすが写真探偵。お見通しだね」

藍子「なんだかすっごく楽しそう♪ それになんだか、清楚で大人っぽいって感じがして――」

藍子「あっ。帽子って、これのことですか?」

加蓮「そうそう。これ、結構前の写真なの。Pさんに遊園地に連れてってもらった時のね」

27: 2020/04/12(日) 18:24:46.98 ID:hDB5WS2C0
藍子「へぇ~……。Pさんと遊園地って、……ひょっとして、デートだったり?」

加蓮「ふふっ。どうだろうね?」

藍子「わ、わぁっ」

加蓮「なんてね。残念。これ、LIVEステージが終わった後にちょっとだけ遊んだだけなの」

藍子「なんだ。そうだったんですね。ちょっぴりびっくりしちゃいました」

加蓮「ほら、直前までLIVEをしていた……一応? まあ、そこそこ有名なアイドルだし?」

藍子「加蓮ちゃん。いつもこういうお話をする時に、堂々と言えっ、って言ってくれるのは、加蓮ちゃんじゃないですか?」

加蓮「人にさせるのと自分でするのとでは違うでしょ」

藍子「え~っ?」

加蓮「まあそれはそれとして」

藍子「むぅ。すぐはぐらかしちゃうんですから」

28: 2020/04/12(日) 18:25:16.90 ID:hDB5WS2C0
加蓮「軽く変装しなきゃってことで、用意したのがこの帽子なの。これね、お母さんから借りたものなんだー」

藍子「ふんふん」

加蓮「変装なんだけど、ファッションでもある帽子。ちょっと思い出深いなぁ……って。つい思い出しちゃった」

藍子「変装なのに、ファッション?」

加蓮「うん。えーっとね……。ちょっと変な説明になっちゃうんだけどさ」

加蓮「遊園地でLIVEすることと、その後に少しだけ遊ぶ時間があるのは前々から決まってたことなの」

加蓮「で、遊園地なんてほとんど行ったことのない場所だったし――」

加蓮「せっかくなら、しっかり調べて楽しみたいじゃん? 時間が限られてるんだから」

藍子「ですねっ」

29: 2020/04/12(日) 18:25:47.66 ID:hDB5WS2C0
加蓮「その延長線上っていうのかな。じゃあ格好もこだわらなきゃ、ってなって、お母さんに相談してみたの」

加蓮「そしたらこの帽子を貸してくれて。これさ、お母さんがお父さんとデートする時に、よくかぶってた帽子なんだってさ」

藍子「わぁ……!」

加蓮「別にデートじゃないし、って何回も言ったけど、お母さんぜんぜん聞いてくれなくてー」

藍子「ふふっ」

加蓮「遊園地でも、ジェットコースターとかフリーフォールとかの絶叫系に乗りたいから帽子はむしろ邪魔になるよって言ったのに、そしたら今度はもうちょっとお淑やかな乗り物を選びなさいって言われてっ」

加蓮「最後には着ていく服まで指定されちゃった。それがこの時の格好なの」

藍子「なるほど~。あまり加蓮ちゃんが着ることのない服だなって思ったら、そういうことだったんですね」

加蓮「ま、遊園地では絶叫系をハシゴしちゃったけどね♪」

藍子「え~っ。もったいないですっ。せっかくのチャンスなのに」

加蓮「だって乗りたかったんだもん。ジェットコースター。まだ全部は制覇できてないから、また今度行かなきゃっ」

30: 2020/04/12(日) 18:26:17.78 ID:hDB5WS2C0
藍子「ここの遊園地って確か……あの海沿いにある場所のですよね?」

加蓮「うん。よく分かったねー」

藍子「後ろの風景や乗り物に見覚えがあって。私は行ったことはないんですけれど、クラスの友だちが前にお話していたのを聞いたことがあるんです」

藍子「確か、乗り物のアトラクションだけでもけっこうな数があるみたいで……。制覇するのは、なかなか大変そうですね」

加蓮「体力を温存していかなきゃね」

藍子「くれぐれも、無理をしちゃ駄目ですよ?」

加蓮「わかってまーす。藍子、うっさい」

藍子「ごめんなさいっ」

31: 2020/04/12(日) 18:26:47.25 ID:hDB5WS2C0
……。

…………。

<あ、やったっ。いた! こんにちは、藍子さん!
<こんにちは。えっと……お邪魔します?

藍子「こんにちはっ」

加蓮「やっほー。ふふっ。お邪魔されまーす」

加蓮「あーあ。せっかく藍子と2人きりだったのになー」

藍子「こらっ」

加蓮「くくっ」

加蓮「なんだか、改めてこうやって思い出を辿っていくのも、悪くないものだね」

藍子「春のLIVEのことと、玩具の公演のお話と、加蓮ちゃんがPさんと一緒に行った遊園地のことっ」ユビオリカゾエ

加蓮「だから、遊園地のはLIVEのついでだって言ってるでしょー?」

藍子「ふふっ。つい、数に入れてしまいました」

32: 2020/04/12(日) 18:27:17.53 ID:hDB5WS2C0
加蓮「昔話って言うと、どうも良くないイメージがありすぎるけど……や、まあ、それって私が原因なんだけど」

藍子「あ~……」

加蓮「こういう思い出話なら、たまにはいいかなって。あっ、でも、だからっていつまでも昔のことばっかり振り返るのは嫌だよ?」

加蓮「せっかく藍子といるんだし。これからやってみたいこととか、来週の予定を立てたりとか。あと、藍子の弱みを握ったりとか?」

藍子「最後のはしなくていいですっ」

加蓮「あははっ」

藍子「そうですね……。加蓮ちゃんの気持ちも、すっごく分かりますよ」

藍子「でも――今は、ちょっと違う気持ちかも」

加蓮「そう?」

藍子「思い出話をしたから、ってだけではないんですけれど……ときどきでいいから、そこにあるものを、一つ一つ、たまには確かめ直したいな、って」

33: 2020/04/12(日) 18:27:47.03 ID:hDB5WS2C0
藍子「昔撮った写真や、使っていた道具を取り出して、その時に思いを馳せたりしながら……」

藍子「あっ。でも、その後になったら、これからはこういうことをしたいな、って思ったりもするから……そこは、加蓮ちゃんとおんなじかもしれませんね♪」

加蓮「確かめ直す……再認識、かぁ」

藍子「ねえ、加蓮ちゃんっ」

加蓮「なにー? 藍子」

藍子「加蓮ちゃんにとって、私って、どんな人に見えていますか?」

加蓮「……?」

藍子「再認識ですよ。分かっていることだって、たまには言葉にしてみましょ?」

藍子「ひょっとしたら、新しいものが見つかるかもしれませんし――見つからなくても、それはそれでいいじゃないですか♪」

加蓮「たまには言葉に、かぁ。藍子のこと……。藍子のこと」

34: 2020/04/12(日) 18:28:17.14 ID:hDB5WS2C0
藍子「あまり考えないで、思いついたことを、ぱっ、と言ってくださいっ」

加蓮「じゃあ……ゆるふわ?」

藍子「……も、もうちょっとだけ、他にも」

加蓮「はぁ? パッと言えって言ったからパッと言ったんだけど。結局それって、考えて言えって要求してるようなもんじゃない!?」

藍子「だって、いざ言ってもらえるって思ったら、やっぱり、他のことも言ってほしいなって……思っちゃって」

加蓮「ワガママっ。ああ分かった今浮かんだ! 藍子はワガママな子!」

藍子「そっ、それを言うなら、加蓮ちゃんだってそうとうわがままな女の子ですよね!」

加蓮「そうだけどそれが何よ!」

藍子「ひらきなおってるっ」

加蓮「藍子こそ、私がわがままなんてそれこそ分かりきってることじゃないの。他には何かないの?」

藍子「う~ん……そうですね。私が見ている、加蓮ちゃん」

35: 2020/04/12(日) 18:28:47.02 ID:hDB5WS2C0
藍子「やっぱり、アイドルとしてすっごくキラキラしています! あと、意地悪なところはあるけれどすっごく優しくて。助けて、って言わなくても、困っているのを見つけたらすぐに手を差し伸べてくれて――」

藍子「そうそう。いろんなことに挑戦するのが好きですよね。できないことでも、努力して、できるようになって……しかも努力しているところを誰にも見せないでいられるのって、すごいことだと思いますよ」

藍子「あとは……辛いことにも、正面から向かい合えること。私は、そういうのは避けちゃうこともあるから――」

藍子「って、加蓮ちゃん……? あの、どうして机に突っ伏せて?」

<じー
<じー
<じー

藍子「わっ。おふたりとも、いつの間に? あっ、店員さんまで!」

<はっ。つい聞き入っちゃってた……!
<はっ。……な、何話してるんだろうって言うから!
<はっ

36: 2020/04/12(日) 18:29:17.33 ID:hDB5WS2C0
加蓮「アンタねぇ……!」

藍子「? えっと、あの……?」

加蓮「ハァ……。はいはい、そこの野次馬共はあっち行けっ。……もー。そんなに真面目に言われたら恥ずかしいよ。さすがに」

藍子「つい、楽しくなっちゃって」

加蓮「私のことを話すことが?」

藍子「加蓮ちゃんのことをお話することが」

加蓮「……」ジー

藍子「?」

37: 2020/04/12(日) 18:29:47.27 ID:hDB5WS2C0
加蓮「……じゃあ私も言ってやるっ。藍子って言ったらやっぱり優しさだよね。想いを受け止めてくれる優しさ。それから悪い時にはちゃんと悪いって言ってくれて、いいことだったら自分のことのように喜んでくれるよね」

藍子「そ、そうでしょうか。それは大げさに言っているような……? 悪い時っていうのなら、加蓮ちゃんこそ、ちょっぴりうまくいかなかったり機嫌が悪い時に、言ってほしいことをビシッと言ってくれるところがありますっ」

加蓮「まだあるよ。努力の話だっけ? 藍子って一歩一歩の努力がいつまでも続いてて、見てたら一緒に頑張ろうって思わせる気持ちになるよねー」

藍子「加蓮ちゃんだって。できないって言うことが絶対ないくらいの頑張り屋さんですっ」

加蓮「あと話。ただのお喋りなのに聞いててすごく気持ちよくて、それってたぶん藍子が相手に楽しんでもらおうって気持ちをいっぱい持ってるからだと思うんだ」

藍子「加蓮ちゃんは、お話している間にときどき、お話を聞くよ? って顔になって、それでもっと会話を弾ませるのが得意です!」

加蓮「あとは――」

藍子「それから――」

38: 2020/04/12(日) 18:30:17.50 ID:hDB5WS2C0
――しばらくが経過して――

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「…………うん」カオマッカ

藍子「…………その」カオマッカ

加蓮「こういうのは、相手に直接じゃなくて、誰か他の人に教えてあげる方がいいよね……きっと……」

藍子「あ、あはははは……あはは……」

39: 2020/04/12(日) 18:31:43.78 ID:hDB5WS2C0

【おしまい】


最近の供給量があまりに多すぎて、嬉しいですけれど、お腹いっぱいになりそうです。ごちそうさまです。

引用元: 高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「再認識するカフェで」