1: 2020/04/20(月) 18:43:02.26 ID:Zj/CoOFC0
――おしゃれなカフェテラス――

高森藍子「――それで、その時に椅子に座っていた猫さんが……」

<ぼーん、ぼーん

藍子「大きなあくびをしたんです。すると……えっ? 時計の音……?」

北条加蓮「今の、店内からだよね。ここまで聞こえてくるんだ……」




レンアイカフェテラスシリーズ


2: 2020/04/20(月) 18:43:37.15 ID:Zj/CoOFC0

3: 2020/04/20(月) 18:44:06.98 ID:Zj/CoOFC0
<ぼーん、ぼーん・・・

藍子「~♪」

加蓮「――、」

加蓮「……ふふっ」

……。

…………。

4: 2020/04/20(月) 18:44:37.04 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「ん……」

藍子「止まりましたね。……時間を知らせる時計の音って、すぐ近くで聞くと焦ってしまいますけれど……」

藍子「遠くから聞くと、そっか、今はそういう時間なんですね、って教えてもらっているみたいで、なんだか気持ちが暖かくなっちゃいますっ」

加蓮「うん。なんとなく分かるかな。あと、聞いてるだけでちょっと大人になれた気分?」

藍子「ふふっ。それもありますね♪」

藍子「事務所に1人でいる時に、みなさんの声がドアの向こうから聞こえて、レッスンやお仕事から帰って来たのが分かった時と似ていて……」

藍子「なんだか、お茶を淹れに立ち上がってしまいたくなりますっ」

加蓮「私なら"お土産ー♪"って甘えた声を出す練習をするところかなー」

藍子「加蓮ちゃん。それではくいしんぼうさんってことになっちゃいますよ?」

加蓮「藍子だって結構食べるでしょー」

藍子「最近は加蓮ちゃんの方がいっぱい食べて――」

5: 2020/04/20(月) 18:45:06.79 ID:Zj/CoOFC0
藍子「……甘えた声?」

加蓮「うん、甘えた声」

藍子「…………。?」

加蓮「え、何その気色悪い物を見る目……?」

藍子「そんな目で見たつもりはありませんけれど……。加蓮ちゃんが?」

加蓮「私が」

藍子「甘えた声?」

加蓮「甘えた声」

藍子「……とっても失礼かもしれませんけれど、言ってもいいですか?」

加蓮「ん?」

藍子「たぶん、加蓮ちゃんがそういう声で誰かに話しかけたら、大半の人は警戒してしまうと思います……」

加蓮「今から甘え上手なアイドルってなれると思う?」

藍子「やめた方がいいです」

6: 2020/04/20(月) 18:45:37.27 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「ダメぇ? この前ドラマで高校生姉妹の末っ子役をやってから、あ、これ私にハマり役かも、って気付いちゃったんだよね」

加蓮「私の一言で周りのみんなが動いてくれる。私に尽くしてくれる、って」

藍子「……それは甘え上手とはちょっと違うような?」

加蓮「やっぱり? じゃあさ、真の末っ子になる為の練習的な」

藍子「真の末っ子」

加蓮「真の末っ子」

藍子「くすっ。何ですか、それ~」

加蓮「ね。なんだろーね、真の末っ子って」

7: 2020/04/20(月) 18:46:06.69 ID:Zj/CoOFC0
藍子「何かほしいものがあったら、加蓮ちゃんらしく素直に言いましょ? きっと、みなさんにも伝わると思いますから」

藍子「逆に、加蓮ちゃんが正直な気持ちで言った頼みごとなら、みんな喜んで引き受けてくださると思いますっ」

加蓮「そっか。それはそれで嬉しいけど……。お菓子をください、って真顔で言うの?」

藍子「そこは……ちょっぴり、笑顔で?」

加蓮「これくらい?」ニコ

藍子「もう一声っ」

加蓮「こうっ」ニコッ

藍子「うんうん。その顔で、今度お願いしてみましょう。すると、たちまち加蓮ちゃんの手元にはお菓子の山ができちゃいますね♪」

加蓮「きっと食べきれなくなっちゃうよ。藍子も一緒に食べる?」

藍子「やった♪」

加蓮「これからは事務所では私の近くにずっといるといいよ。そうしたらお菓子が食べ放題になるし?」

藍子「それは……魅力的ですね……!」

加蓮「でしょでしょ?」

8: 2020/04/20(月) 18:46:36.89 ID:Zj/CoOFC0
藍子「あっ……」

加蓮「?」

藍子「ひょっとして、加蓮ちゃん。今のは、私にずっといてほしいっていうことですか?」

加蓮「ごめん、そういうのじゃないから」

藍子「なにも真顔で断言しなくてもいいじゃないですかっ。いつも加蓮ちゃんの言ってることなのにっ」

加蓮「そうだっけ?」

藍子「加蓮ちゃんがそういうことを言うのなら……。嫌だって言っても、ずっとくっついていますからね?」

加蓮「お仕事とかレッスンに行けなくなっちゃうよ? ううん、それよりも……私が事務所にいる限り、藍子はお散歩に行けないってことになっちゃうよ?」

藍子「……む~~~!」

加蓮「あはははっ」

9: 2020/04/20(月) 18:47:06.88 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「でも、諦めきれないなぁ。末っ子系アイドル」

藍子「よっぽど楽しかったんですね。末っ子系アイドル、ですか……」

加蓮「甘えん坊って言ったらなんかよくないイメージになりそうだし、女の子ってそういうのあんまり好きじゃないからね」

加蓮「末っ子って言ったら悪く聞こえないし、どういう感じなのかもわかりやすくない?」

藍子「たしかに……。あっ。加蓮ちゃんが末っ子ということは、私の方がお姉ちゃんってことですよね?」

加蓮「やっぱやめた。よく考えてみたら私1人っ子だし」

藍子「末っ子アイドル、いいと思いますっ」

加蓮「今の会話なかったことにしよっか」

10: 2020/04/20(月) 18:48:06.74 ID:Zj/CoOFC0
藍子「そもそも、もともと私の方が誕生日が早いじゃないですか。私がお姉ちゃんで、……そうだっ、末っ子ということはお姉ちゃんがもう1人いた方がいいですよね」

加蓮「なんかアンタ急に元気になったね? ……で、誰を巻き込む気かなー?」

藍子「加蓮ちゃんだって、乗り気じゃないですか。巻き込むってお話になったから?」

加蓮「やっぱりこーいう話はここじゃないとできないもんねっ」

藍子「加蓮ちゃんのお姉ちゃんだから……凛ちゃんか、響子ちゃんはどうでしょう。確か2人とも、誕生日は8月10日だったハズっ」

藍子「これなら加蓮ちゃんが末っ子って分かってもらえて、私もお姉ちゃんだということがみなさんに伝わります!」

加蓮「凛と響子かー。でも、2人とも私達より1つ下だよ?」

藍子「そんなことは関係ありません。大事なのは、その人がお姉ちゃんっぽいかどうかですっ」

加蓮「推すねー」

11: 2020/04/20(月) 18:48:40.24 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「響子はいいけど、凛はダメ」

藍子「え?」

加蓮「凛は、そういうのじゃないから」

藍子「……そうでしたね。ごめんなさいっ」

加蓮「いいよいいよ。響子は……響子ってさ、確かに家庭的なとこあるし、いつもお嫁さんにしたいアイドル候補でトップ争いしてるし、あと……実際にお姉ちゃんなんだっけ?」

藍子「はい。弟さんや妹さんがいるみたいです。帰省された後には、よく家族でのお話をしているのを耳にしますね」

加蓮「そっか。……改めて考えるとさ、それで地元から東京に来て、それからアイドルやって……って、けっこうすごいことなんだよね」

藍子「私たちは、ずっと東京ですもんね」

加蓮「ね」

12: 2020/04/20(月) 18:49:06.88 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「だからこそかなぁ。響子の方が末っ子って感じがしない?」

藍子「響子ちゃんの方が?」

加蓮「見守ってあげたい的な。ふふっ、大きなお世話、余計なお節介かもしれないけどね」

藍子「加蓮ちゃん。そういう時は、応援してあげたい、って言いましょ? これなら、おせっかいにもならないハズですから」

加蓮「いいね、その言葉。応援……応援かぁ」

藍子「加蓮ちゃんのことだって、加蓮ちゃんから見たらお節介かもしれませんけれど、きっとみなさん、加蓮ちゃんを応援しているからこそですよ♪」

加蓮「まだ何も言ってないんだけどー?」

13: 2020/04/20(月) 18:49:37.00 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「面倒くさくて性格がねじ曲がってて、スキを見せるとすぐちょっかいかける加蓮ちゃんと、リアルお姉ちゃんの響子。2人の面倒を、藍子1人で見きれるかなー?」

藍子「……それならまずは、私1人で面倒を見られるように、加蓮ちゃんの性格を素直にするところから始めましょう」

加蓮「えー」

藍子「もう。……まだ、そうやって自分のことを悪く言うんですか?」

加蓮「…………あー。言い過ぎた?」

藍子「はい。言い過ぎました」

藍子「……ううん、加蓮ちゃんには、こう言った方が効果があるのかな」

藍子「加蓮ちゃん。あなたのそういうお話は、私は聞きたくありません」

藍子「お話をするなら、もっと別のことにしてください」

加蓮「……、」

藍子「……ね?」

加蓮「……弱いなぁ。そーいうこと言われると」

加蓮「じゃあ……」

加蓮「……ん。気をつける」

藍子「はいっ」

加蓮「面倒くさいまでは言ってもいい?」

藍子「…………」ジトー

加蓮「ごめん」

14: 2020/04/20(月) 18:50:07.05 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「これさ。この話って、絶対前にもしてるよね」

藍子「していますよ。……何回言っても加蓮ちゃんが何回も繰り返すんですもん」ジトー

加蓮「あ、あはは……」

藍子「あっ、そうだ。もしも加蓮ちゃんがまた同じことを言ったら、この前みたいに、加蓮ちゃんのことをいっぱい褒めちゃいますからっ」

藍子「その時他に誰が……たとえば、モバP(以下「P」)さんや、響子ちゃんや、それこそ凛ちゃんでも。誰がいても、絶対にやりますからね~?」

加蓮「えーっと……。手加減は?」

藍子「しません」

加蓮「凛や奈緒の前でそれやられると、こう、私の立場的なものが」

藍子「知りません」

加蓮「ば、場所を移してならいくらでも聞いてあげるからっ」

藍子「その場で言います。絶対に言います」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……気をつけることにするね」

藍子「そうしてくださいっ」

15: 2020/04/20(月) 18:50:38.11 ID:Zj/CoOFC0
……。

…………。

加蓮「何か注文しよっか。お腹もすいてきたし」

藍子「そうしましょうっ。加蓮ちゃんは、なにの気分?」

加蓮「んー…………。難しくない? ちょっと半端な気温でさ。しかも曇っちゃってるし」

藍子「ですね……。もしかしたら、雨が降るのかも」

加蓮「天気予報は大丈夫っぽかったけど、雨が降ったら……ま、ここで――ここって言っても店内の方だけど。のんびりしよっか」

藍子「雨がずっと止まないままなら、迎えに来てもらいますか?」

加蓮「たまにはコンビニで傘買って、2人で歩いて帰ってみる?」

藍子「くすっ。それもいいかも?」

16: 2020/04/20(月) 18:51:11.59 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「雨の話は雨が降った時ってことで、今は注文なんだけど……。ピンと来ないし……。藍子ー、メニュー貸してー」

藍子「はい。どうぞ」スッ

加蓮「サンキュ」

加蓮「パンケーキ……ほど甘いものは食べたくない」

藍子「コーヒーと一緒になら、どうですか?」

加蓮「それもパス。コーヒーじゃないんだよね」

藍子「ということは、ココア?」

加蓮「ちがうのー」

藍子「では、はじける味のジュースなんてどうでしょう」

加蓮「それは夏になってから!」

藍子「アップルティーは?」

加蓮「今りんごを見ると別の末っ子みたいなヤツが頭に浮かぶからNG」

藍子「ふふ。末っ子の加蓮ちゃんは、気難しいんですね」

加蓮「今は1人っ子だし」

17: 2020/04/20(月) 18:52:06.58 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「……ダメだー、思いつかない。藍子、なんか頼んで」ポイ

藍子「はぁい」

加蓮「間違えたら罰ゲームね」

藍子「は~い……い!?」

加蓮「今はいって言ったね? じゃースタート♪」

藍子「待ってくださいっ。罰ゲームって……それに、条件が厳しすぎます! 加蓮ちゃん、たぶん自分でもこれだっていうものを思いついていませんよね?」

加蓮「そうだよ? だから藍子にお願いしたんだし」

藍子「正解がないクイズに罰ゲームを用意するのは、駄目だと思いますっ」

加蓮「えーっ。藍子ならきっと、私も気付いていない私の本音を見つけてくれると思ったんだけどな……?」

藍子「う……」

藍子「……それならせめて、外しても怒らないでください」

加蓮「しょうがないなぁ。貸し1つだよ?」

藍子「はぁい」

加蓮「……あはは。まぁいっか」

18: 2020/04/20(月) 18:52:37.08 ID:Zj/CoOFC0
藍子「コーヒーの気分ではなくて、ココアでもなくて、パンケーキほど甘い物の気分でもなくて――」

藍子「ってことは、定食とかなら食べたいって思うのかな?」パラパラ

藍子「……?」

藍子[加蓮ちゃん。これ、これ。ちょっと見てくださいっ」

加蓮「んー?」

藍子「メニューの説明欄のところ。なんだか変わっていませんか?」

加蓮「どれどれ? ……ホントだ。"これはいつものお昼ごはん。ひとかけらだけの変化が最大の隠し味"――内容もだけど、文字がなんかオシャレっぽくなってない?」

藍子「ですよねっ」

加蓮「全部がこうなって……はないみたい。定食のとこだけかな?」

藍子「おためしで変えてみたのかもしれませんね」

19: 2020/04/20(月) 18:53:07.25 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「ひとかけらの変化が隠し味っていうのは正直ビミョーだけど」

藍子「いいじゃないですか~。ちょっとしたことが隠し味なんて、なんだか素敵っ」

藍子「これを食べて、ひとかけらの変化を見つけて……」

藍子「そうしたら、いつも歩く道にも同じように、ちいさな変化を探せるようになるんです」

藍子「なにげない時間にも、楽しみが1つ、増えるかもしれませんね」

藍子「歩く道だけではないかも? 加蓮ちゃんに例えるなら、毎日のレッスンや、Pさんとのお喋りも」

藍子「同じように見えて、昨日とはほんの少しだけ違う、そんな風になるかもっ」

加蓮「……、」

藍子「……あ」

藍子「あはは……。つい、熱が入ってしまいました」

加蓮「……たはは。ここはいつものラジオの収録現場じゃないんだよー?」

藍子「うぅ、つい」

加蓮「ま、じゃあ藍子ちゃんオススメの、ちょっとだけ変化したお昼ごはんを頼んでみよっか」

藍子「はいっ♪」

20: 2020/04/20(月) 18:53:39.23 ID:Zj/CoOFC0


□ ■ □ ■ □


「「ごちそうさまでした。」」


加蓮「……ひとかけらの変化、だっけ。藍子、気付けた?」

藍子「はい。分かりましたよ。まずはお米の――」

藍子「……」

藍子「あとは、加蓮ちゃんが自分で気がつくことが大事ですよね♪」

加蓮「いやいや。待ちなさい。後は、って、アンタ何も言ってないでしょ。せめてヒントくらいよこしなさいよ!」

藍子「ふふっ。加蓮ちゃんのその負けず嫌いな心で見つけた方が、きっと加蓮ちゃんのためにもなりますから」

加蓮「ぐぬぬ……。ちょっと自分が有利だからって。調子に乗ってーっ!」

藍子「きゃ~っ」

21: 2020/04/20(月) 18:54:07.34 ID:Zj/CoOFC0
<ぼーん、ぼーん


加蓮「ん……」

藍子「また、時計の音……。2時でしょうか?」

加蓮「2時かな?」

藍子「2時ですねっ」

加蓮「もうちょっと晴れてたら、ちょっとだけ眠りたかったのに」

藍子「空が全く見えないくらいにまで曇ってしまいましたね……」

加蓮「中に入る?」

藍子「そうしましょうか」

22: 2020/04/20(月) 18:55:07.04 ID:Zj/CoOFC0
――おしゃれなカフェ・店内――

加蓮「見事に誰もいない……」

藍子「そんな日もありますよ。店員さ~ん。中の席に移ってもいいですか?」

加蓮「外だと気持ちがジメジメしちゃってさ」

藍子「え、そうだったんですか?」

加蓮「……ごめん、ちょっと盛った。でも入った時になんだかホッとしたのはホントのことだよ」

藍子「なんだかいい香りもしましたよね」

加蓮「ね。アロマっぽいけどアロマとは違うような……」

藍子「店員さん? ――へぇ~。新しいインテリアとして試しに入れてみたんですか?」

加蓮「カフェ用のアロマ……そういうのもあるの?」

藍子「そうですね。一般的なアロマをそのまま使ってしまうと、食べ物や飲み物の香りや味と混ざって変化してしまうこともあるみたいです」

23: 2020/04/20(月) 18:55:37.17 ID:Zj/CoOFC0
藍子「香りづけや雰囲気つくりのために、別のものを用意する方も多いみたいですが……」

藍子「カフェの店員さんや店長さんが愛用されているものも、色々とあるみたいですよ。確か、それを専門にされてらっしゃる方が最近お店を開いたって、何かのニュースで――」

加蓮「……ふふっ。店員さん、今ちいさくジャンプしたね? 藍子に気付いてもらえたのがそんなに嬉しかったんだ」

藍子「私も今度、行ってみようと思ってるんです」

加蓮「ふぅん? カフェ"ゆるふわ"でもオープンするつもり?」

藍子「残念ながら、今のところその予定はありません。でも、もしオープンすることになったら、店員さんもライバルですねっ」

加蓮「だってさー、店員さ……いや店員さん。そこまでこの世の終わりみたいな顔をしなくても」

藍子「あ、あれっ? 一緒に頑張りましょうって意味だったんですけれど……」

24: 2020/04/20(月) 18:56:06.67 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「藍子は自分の強さが分かってないからねー」

藍子「そんなことはありませんっ。……たぶん」

加蓮「へー?」

藍子「こ、これでもアイドルですから。それに、どうやったら自分をよく見てもらえるかは、加蓮ちゃんからいっぱい教えてもらいましたっ」

加蓮「とか言ってるんだよこの子。無自覚って怖いよねー」

藍子「えっ。店員さん、どうしてそんなに激しく頷くんですか!?」

加蓮「いつもの席使うねー。ほら、藍子。置いてくよー?」

藍子「待って~っ」

25: 2020/04/20(月) 18:56:37.32 ID:Zj/CoOFC0
……。

…………。

加蓮「ずず……」

藍子「ごくごく……」

加蓮「ふうっ」

藍子「ふう……♪」

加蓮「結局、加蓮ちゃんはコーヒーの気分でしたとさ」

藍子「最初に一口飲んだ時、なんだかほっこりしてましたね♪」

加蓮「そう?」

藍子「あの瞬間の加蓮ちゃん、写真に撮ってみんなに見せてあげたかったなぁ……」

加蓮「お菓子1ヶ月分ね」

藍子「お菓子は、みなさんからもらうことにしたんじゃなかったんですか?」

加蓮「みんなからもらって、藍子からも巻き上げる」

藍子「巻き上げないでっ」

26: 2020/04/20(月) 18:57:06.84 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「今の1ヶ月分っていうのは、藍子に1ヶ月分を買ってもらうんじゃなくて、藍子が食べる分って意味だから」

藍子「駄目っ」

加蓮「じゃ写真は撮らせてあげない」

藍子「……」

藍子「……それなら……」ボソ

加蓮「……隠し撮りしてるって分かったら1年分お菓子を巻き上げ続けるから」

藍子「ぎくっ」

加蓮「全く。ホント、藍子ってばちょっと油断するとこうだよねー」

藍子「加蓮ちゃんには言われたくありませんっ」

加蓮「あははっ」

27: 2020/04/20(月) 18:57:39.18 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「さっきから聞こえてた時計、あっちの大きいヤツのかな? 前は暖炉ストーブを置いてた場所の」

藍子「そうみたいですね。満開の桜の置物と、その隣の古時計……。鮮やかさとレトロな感じが一緒になっていて、なんだか心が落ち着きますね……」

加蓮「レトロかぁ。……カフェで時計って言ったら、前に藍子と行ったカフェを思い出すなぁ」

藍子「それって、謎解きのカフェ?」

加蓮「そうそう。あのおじいさん、元気にしてるかな?」

藍子「きっと、今日もいらっしゃったお客さんのために、謎解きを考えていますよ」

加蓮「結局あの時1回しか行ってないし……。常連の人には、もうちょっと難しい問題を出すって言ってたよね」

藍子「今度、オフの日に行ってみますか?」

加蓮「んー……。分かんない。行きたいなー、でもやっぱりいいかなーって思って、結局ここに戻ってきそう」

藍子「ふふ。落ち着く場所が一番です♪」

加蓮「たまには冒険したいって思うこともあるけど……それは、今じゃないかも」

藍子「残念」

28: 2020/04/20(月) 18:58:07.20 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「……、」

藍子「ごくごく……。ごちそうさまでした♪」コトン

藍子「……? 加蓮ちゃん?」

加蓮「いや……。そういえば話してなかったけどさ、この前、ほら、街角のカフェに行ったって言ったじゃん」

藍子「はい。そうですね?」

加蓮「あの時――」

加蓮「……、」チラ

加蓮「……(ちょっと小声になって)店員さんを見かけたの。ここの店員さん」

藍子「……えっ?」

29: 2020/04/20(月) 18:58:37.08 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「うん。私もすごくびっくりした。外だったし、もう1人別の女の人と一緒だったから声はかけてないんだけどさ――」

藍子「そうだったんですね……。偶然、起きちゃいましたね♪」

加蓮「あははっ。私も同じこと思った」

加蓮「でさ。そのもう1人の女の人、どこかで見たことがあって――」

藍子「ふんふん」

加蓮「心当たりってある? えっとさ、たぶん20代なんだけどちょっと落ち着いた感じで、どこかのカフェの店員さんだと思う」

藍子「う~ん……?」

加蓮「その2人がなんか話してて、一瞬だけど藍子の名前を出してたから……。何か心当たりとかあるかなって」

藍子「私の名前、ですか。心当たりは特には……。応援してくださっている、ということなら、すっごく嬉しいですけれど……」

加蓮「そっか。ま、カフェで見たよってだけのことなんだけどね」

藍子「ふふっ」

30: 2020/04/20(月) 18:59:37.42 ID:Zj/CoOFC0
藍子「……、」

藍子「……もう1人の方って、もしかして、郊外のカフェの……?」

加蓮「郊外の――」

藍子「ほら、私と加蓮ちゃんがカフェ巡りをしている時に行った、田舎の中みたいな静かなカフェの……。春菜ちゃんに眼鏡を借りて、あと、私が"ひょうろんか"をした時のっ」

加蓮「あー……あーっ! 藍子がすっごい間抜けだった時の!」

藍子「確かにそうかもしれませんけど最初に思い出すのがそれなんですか!?」

加蓮「だってさ……くくっ……メガネをこう、くいってやった藍子が、結局甘々の採点しかできなくて……あはっ、あはははっ……!」

藍子「も~っ! そうじゃなくてっ! カフェのこととか、あと、店員さんのことっ! 郊外のカフェの店員さんで、あっているんですか?」

加蓮「どうだろ。あんまり記憶にないけど……。他に思いつく場所もないし、あってるんじゃない?」

藍子「やった♪」

31: 2020/04/20(月) 19:00:07.18 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「よく分かったね?」

藍子「加蓮ちゃんの行ったことがあるカフェのうち、加蓮ちゃんが教えてくれた特徴に一致する店員さんのいるカフェは、そこしかありませんでしたから」

加蓮「……えーっと、そういうの覚えてるの?」

藍子「はい、覚えていますよ。……そんなに嫌そうな顔しなくても。なんで自分をぎゅっと抱きしめて席のはしっこに擦り寄るんですかっ」

加蓮「確かに今更かもしれないけど……。いいんだけどさ……」

加蓮「郊外のカフェの店員さんかー。あの人も、藍子のことを応援してくれてるんだね」

藍子「もしそうなら……その……。……えへへっ」

加蓮「ふふっ。よかったね?」

藍子「はいっ♪」

32: 2020/04/20(月) 19:00:39.25 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「話してたらちょっとずつ思い出してきたよ。前に行ったカフェの店員さんの顔」

加蓮「って言っても、謎解きカフェ以外の店員さんとはほとんど話してもないから、あんまり印象に残ってないんだけどね」

藍子「でも、ひょっとしたら、加蓮ちゃんのことも応援してくださっているかもしれませんよ?」

加蓮「藍子にくっついてきただけのなんか態度の悪い女の子、ってくらいにしか見られてないかもしれな――」

藍子「…………」ジトー

加蓮「待って。いや、これは事実でしょ。……考え込むなっ。別に褒めてほしいとか思ってな――って、ツンデレは奈緒のキャラ! 私じゃない!」

藍子「そうなんですか?」

加蓮「当たり前でしょ!」

33: 2020/04/20(月) 19:01:08.89 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「……あ……。違う、もう1人いるんだ。話したことのある店員さん」

藍子「もう1人? ……あぁ。今日までのカフェの――」

加蓮「店員さん"だった"人」

藍子「……」

加蓮「他の店員さんには、会おうと思えば会えるけど……あの人だけは、そっか。無理なんだ……」

藍子「……加蓮ちゃんが、街角のカフェに行って、偶然ここのカフェの店員さんを見つけた時と同じように――」

藍子「覚えてさえいれば、また、どこかで偶然が起こるかもしれませんよ?」

藍子「……加蓮ちゃん、いつもすごく頑張っているから」

藍子「素直になれば、きっと……神様だって、加蓮ちゃんのお願いを引き受けてくれます」

加蓮「それは――」

34: 2020/04/20(月) 19:01:38.61 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「……じゃあ、今だけ」

加蓮「いつかまた、あの人に会って ……私も藍子も元気だよ、今日もカフェにいるよ、って、伝えてあげたいな――」



<~~~♪



加蓮「え?」

藍子「加蓮ちゃんのスマートフォン……? ひょっとして――」

加蓮「って。そんな訳ないでしょ。連絡先だって交換してないし、仮にしてたとしても連絡してくる理由がないもんっ」

加蓮「……ほら、これ。Pさんからの連絡!」

藍子「そうみたいですね……もしかしたら、って思っちゃいました」

35: 2020/04/20(月) 19:02:07.28 ID:Zj/CoOFC0
加蓮「もう……。私だって一瞬思っちゃったけど……Pさん、タイミング悪すぎ! 今度ポテト奢らせるからっ」

藍子「あはは……。Pさんがちょっぴりかわいそうですけれど、それで加蓮ちゃんの機嫌が治るなら……じゃあ、私はハンバーガーを買ってきますね?」

加蓮「藍子はいいんだよ。っていうか藍子の分まで買わせる!」

藍子「それなら3人で買いに行きましょ?」

加蓮「それでもいいかもね。ついでに限定のセットとか頼んでやろ。普段は絶対食べないヤツ! で、帰りに飲みながら歩くシェイクと、ついでに途中でコンビニにも寄って――」

藍子「……ご、ごめんなさいPさん。加蓮ちゃんに火を点けてしまいました」

36: 2020/04/20(月) 19:02:37.18 ID:Zj/CoOFC0
藍子「それで、Pさんはなんて?」

加蓮「んーっと……」ポチポチ

加蓮「……、」

加蓮「…………、」

加蓮「…………はぁ?」

藍子「?」

加蓮「いや、まずなんでこれを私に送ってくるの? 藍子と連絡先を間違えた……って感じの文章じゃないよね。なんでビミョーに回りくどいこと……?」

藍子「私にも関係あることなんですか?」

加蓮「ん」ミセル

藍子「ふんふん……えっと……?」

37: 2020/04/20(月) 19:03:07.18 ID:Zj/CoOFC0
『今藍子と一緒にいるかな?
藍子への依頼が来ているんだ。前に藍子がコラムを書いたカフェの店員の、それも何人もの名前が入っている。

俺としては是非引き受けてほしいし、
藍子がやるって言うのなら掲載する雑誌側には掛け合うし、その準備はもうできているんだ。どうだろう?

やってほしいことは――』

38: 2020/04/20(月) 19:03:38.42 ID:Zj/CoOFC0

【おしまい】


<あとがき?>
以下は過去に藍子と加蓮が行ったことがあり、店員さんが明確に登場したカフェの(お話の)一覧です。
読んでおいていただけると、これからのお話をもっと楽しんで頂けると思います。またよろしければ、お時間あります時に。

第55話 北条加蓮「藍子と」高森藍子「郊外のカフェで」
第56話 高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「謎解きと時計のカフェで」
第59話 北条加蓮「藍子と」高森藍子「今日までのカフェで」

引用元: 高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「時計の音が聞こえたカフェテラスで」