1: 2010/10/14(木) 00:22:23.40 ID:2alNmdAl0
サーニャ「ねぇエイラ、マルセイユ大尉、頼んだら写真にサインしてくれないかな?」

サーニャの、その一言が始まりだった。

『ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ大尉』
『通称アフリカの星』
『戦績もさることながらその端麗な容姿からファン多し……』
『さながら人類にとっての希望の「星」である』

エイラ「か……」
そう書かれた記事を見ながら、私は廊下を一人歩いていた。
エイラ「サーニャの性格じゃ、まず頼むことも無理そうだし……
    私が頼もうにも、シャーリーも『サインはしない』って言ってたし、断られそうダナ」

写真をもう一度、見る。
そこに写るマルセイユ大尉は凛々しく、雄々しくあった。
サーニャが憧れる「かっこいい」存在。
それがとても、とてもたまらなく私の心を揺さぶる。

エイラ「いや、きっと私には断られたい理由があるのかもしれないナ……」

5: 2010/10/14(木) 00:25:55.94 ID:2alNmdAl0
そこではたりと、ツンツンメガネ……ペリーヌと出会った。

ペリーヌ「あらエイラさん、暗い顔してどうしましたの?」
いつもの上品な口調で語りかけてくる。

そのメガネを……いや顔をじっと見る。
エイラ「……」
ペリーヌ「?」

そして、思いつく、名案を。
サーニャが喜んでくれるなら、私は何だってやれるはずだ。
それがチームだ。
ペリーヌの肩を掴む。

ペリーヌ「え? な、なにを……」
エイラ「ツンツンメガネ……いやペリーヌ! ちょっと手伝ってくれ!」
私は真剣な眼差しで、言った。

ペリーヌ「……へ?」

10: 2010/10/14(木) 00:29:56.06 ID:2alNmdAl0
そして私たちは訓練場へと来ていた。

ペリーヌ「……それでこのカメラは一体なんですの?」
その手にはカメラが握られている。

エイラ「わ、私をかっこよく撮って欲しいんだ」
何か凄く恥ずかしいことを言ってしまってる気がするが、これもサーニャのためだ。

ペリーヌ「かっこよく……?」
エイラ「そうだ、サーニャがアイツのサインを欲しがる理由は、それ以外にないからナ!」
ペリーヌ「はい?」
そう、間違ってはいないはずだ。

エイラ「つまりアイツよりかっこいい写真なら、サーニャも喜んでくれるはずナンダ!」
ペリーヌ「イマイチ事情が……」
エイラ「いいからとりあえず撮ってくれー!」
事情を理解出来ないペリーヌを急かす。

ペリーヌ「な、何だか分からないけど分かりましたわ!」
気迫に気圧されたペリーヌがカメラをこちらに向ける。
エイラ「タノム!」

思いつく、もっともかっこいいポーズを取る。
そして表情もキリリとキメる。
今日のエイラ・イルマタル・ユーティライネンは一味違うゾ!

ペリーヌ「それじゃあ、いきますわよ!」
掛け声。
そして青空の下、シャッターが切られた。

13: 2010/10/14(木) 00:38:42.26 ID:2alNmdAl0
そして少し経ち、ペリーヌの部屋で私は現像を待っていた。
私の部屋ではサーニャがすやすやと寝ているからだ。
部屋の主に入れてもらった紅茶は既になくなり、私は少し傾いた陽光を浴びながらテーブルについている。

と、そこで部屋の主が帰ってきた。
ペリーヌ「エイラさん、諜報部に頼んで現像して来てもらいましたけど……」
エイラ「デキタカ!」
思わず大きな音を立てて立ち上がる。

エイラ「ミセテクレ!!」
クワッと目を見開いて求める。

ペリーヌ「お、落ち着いて下さる!?」

14: 2010/10/14(木) 00:40:06.63 ID:2alNmdAl0
そして机の上に並べられるいくつもの私の写真たち。
こうもポーズをとった自分の写真が並べられると、とても恥ずかしい。
しかしこの中からサーニャが喜んでくれる「かっこいい」写真を選ばないと。
エイラ「なー、ツンツンメガネはどれがかっこいいと思う?」

一緒に選んでいるペリーヌに聞いてみる。
ペリーヌ「手伝って差し上げてるんですから名前で呼んでくださる?」
エイラ「はいはいペリーヌペリーヌ」
ペリーヌ「なんてやる気のない!」

エイラ「それでペリーヌはどれがいいと思う?」
癇癪を起こすペリーヌを無視して、話を進める。
ペリーヌ「まったく……うーん、やっぱりキチンと敬礼してる写真とか……」
エイラ「私的には慣れてないポーズだからなんかいまいちだったんダガ……」

と、コンコンとドアがノックされる。
来客がドアを開け、入ってくる。
芳佳「ペリーヌさん、3時からミーティングが……あれ、エイラさんも何してるんです?」
ミヤフジヨシカ……。
エイラ「いやソノ……」

つい、困った声が出てしまった。

15: 2010/10/14(木) 00:46:37.16 ID:2alNmdAl0
芳佳「わー! エイラさんの写真がたくさん! どうしたんです? こんなに」
ミヤフジはサーニャの友達だ。
もしかしたらサーニャの好みを把握しているかもしれない。

エイラ「な、なあミヤフジはどれが一番かっこいいと思う?」
芳佳「えっ、私ですか?」

聞かれてミヤフジは少し困った顔をしたが、写真を眺め始めた。
芳佳「そうだなー」
視線を動かし選ぶ芳佳をジッと見守る。
芳佳「私なら、これかな?」

手にした写真は、空を見上げた私の横顔。
エイラ「それかー……」
最も、選んでほしくなかった写真。
ペリーヌ「あら……それは……」
だけど、それはミヤフジには分からない。

そしてそれを分からないミヤフジは、理由を語る。
芳佳「だって、やっぱり空駆けるウィッチですから……
   空に思いを馳せて、遠い目線はきっと守るべき人を思ってて……凄くかっこいいと思います!」

力説されてしまう。
でも、でもソレはダメナンダ……。

17: 2010/10/14(木) 00:49:08.94 ID:2alNmdAl0
芳佳「それに……」
だけど、ミヤフジは、さらに続ける。

エイラ「それにきっと、サーニャちゃんはエイラさんの写真なら何でも喜んでくれると思いますよ」

ミヤフジは笑顔でそう言ってくれた。
私は……私はサーニャのことなんて一度も。

ミヤフジはニコニコと、いつもの顔で笑っていた。

18: 2010/10/14(木) 00:55:29.81 ID:2alNmdAl0
そして再び夕暮れの訓練場。

サインをした、ミヤフジが選んだ写真を手に私は黄昏ていた。
エイラ「いや、よく考えると凄く恥ずかしいゾ……これは……」

自分で写真を撮って自分でサインをして自分で渡すというのは。
ひょっとして私はとても馬鹿なことをしているのではないか。
いやでもせっかく撮ったし、ツンツンメガネやミヤフジも協力してくれた……。
しかしコレは……。
などと悩んでいると、背後に気配。

エーリカ「エーイーラー!」
突然誰かに抱きつかれた。
顔を見れば今一番会いたくない顔、エーリカ・ハルトマンの顔がそこにあった。

エイラ「う、うわっ! 黒い悪魔!」
エーリカ「なになに? 何見てるの?」

ひょいと写真取り上げられてしまう。

エイラ「あっ」

19: 2010/10/14(木) 01:00:09.13 ID:2alNmdAl0
エーリカ「ん? 何これ写真? えっと、エイラ……でぃあ……サーニャ?」
声に出してサインを読み上げられ、顔が赤くなるのが自分で分かる。

エイラ「い、いや、これは違うンダ……」
言い訳……何か言い訳を。
だが、遅い。

エーリカ「分かった、これをサーニャに届ければいいんだね!」
エイラ「え? ち、違っ!」
呼び止めようとするも、悪魔は俊足で走り去っていった。

エイラ「ち、チガウンダ……」
言い訳を考えるも、悪魔の姿はもうない。

エイラ「カ、カエシテクレー!!」
涙目で叫ぶ私の声が、夕暮れへと悲しくこだました。

23: 2010/10/14(木) 01:04:07.01 ID:2alNmdAl0
私、サーニャ・V・リトヴャクは夜間哨戒に備えて準備をしていた。

私の部屋は相部屋だけど、相方の姿はずっと見ていない。
朝からずっと、エイラとは会っていなかった。
いつも一緒のエイラが、いない。
何か嫌われるようなことをしたのかと、少し不安になってしまう。
そんなことを考えていると、ドアが強くノックされた。
その音で、来客はルッキーニちゃんかハルトマンさんだと分かる。

エーリカ「サーにゃん!」

そしてドアを開けて入ってきたのは、ハルトマンさんだった。

26: 2010/10/14(木) 01:09:00.53 ID:2alNmdAl0
サーニャ「ハルトマンさんどうしたんですか?」

エーリカ「これ、エイラから!」
そして遠慮無く部屋へ入ってくるなり、一枚の写真を差し出された。

サーニャ「エイラの、写真? それにサインも……」
ふと、先日自分が言った言葉を思い出す。
何気なく言ったことだった。
でもそれはエイラにとって大切なことだったんだと、少し後悔をしてしまう。
だけど同時に、エイラと会っていない理由に気づいてとても安心する。

エーリカ「じゃ、あたしはこれで!」
サーニャ「あ、あの」
部屋を出ていこうとしたハルトマンさんを呼び止める。

エーリカ「ん?」
サーニャ「ありがとうございました」
感謝の言葉をハルトマンさんに伝える。

だけど。
エーリカ「お礼、する相手違うよ?」
笑って、そう返される。

サーニャ「えっ……あっ、えっと」

エーリカ「ちゃんと言ってあげないとダメダメだよ? それじゃーお仕事頑張ってね」

そう言い残してハルトマンさんは部屋を出ていってしまった。

28: 2010/10/14(木) 01:12:47.75 ID:2alNmdAl0
改めて写真を見直す。
エイラは遠く、どこまでも高く、遥かに澄んだ場所を見ている。
まっすぐな視線は、きっと強い意志。
いつか、空より高い場所で交し合った。

サーニャ「エイラったら、そんな表情してなくったってちゃんと分かってるよ……」

ふと鏡を見る。
いつか、お返しをしないと。

サーニャ「私も今度、撮ってもらおうかなぁ……」

29: 2010/10/14(木) 01:16:22.11 ID:2alNmdAl0
そして夜、私エイラ・イルマタル・ユーティライネンは部屋で枕を抱いて悶えていた。
サーニャは夜間哨戒へと飛んで行った。
私は体調不良を理由に僚機を断った。

サーニャは喜んでくれた。
お礼も言われた。
だけど。
だけども。
エイラ「うわーナンデよりにもよってあんな写真を選んだんダ……!」

あんな、あんな写真を……。

30: 2010/10/14(木) 01:25:08.47 ID:2alNmdAl0
瞬間を回想する。
ペリーヌ「じゃあ次、最後いきますわよ!」
もうフィルムも私の精神力も最後だ。
(サーニャ……サーニャはどんな写真なら……)

ペリーヌ「1(アン)!、2(ドゥ)!」
ラストへ向けてガリア式のカウントが始まるが、ここまで納得のいく構図は撮れてはいない。
刻限だけが迫る、まるで刑の執行だ。
(サーニャ……!)

と、突然空から、鳥の声が聞こえた。
集中しすぎた意識が視線を空へと向けてしまう。
エイラ「うあっ……」
そして太陽の眩しくてで目を細めてしまう。
(しまった!)」

ペリーヌ「3(トロワ)!」

パシャッ!

エイラ「あ……」
ペリーヌ「あ……」

そう、これが顛末。
ミヤフジが語ったようなことなんて、ちっぽけもないタダの写真。

エイラ「ゴメンヨ……ごめんよサーニャぁあああ」
そして私は枕の中で涙を流し続け、夜は無常にも過ぎてゆく……。

32: 2010/10/14(木) 01:32:11.63 ID:2alNmdAl0
追記。

記録:宮藤芳佳。

あの日以来、何故かエイラさんはずっと私を恨んだような目で見てきます。
そしてサーニャちゃんと目を合わせるたびに、凄く申し訳なさそうな顔をしています。
何かあったのかな?

あのあと、エイラさんは余った写真を私に処分するように渡しました。
だけど人の写真を処分するのは、あまり気がすすみません。

なので私が(勝手に)貰うことにしました。
私の手の中にはいっぱいの、そして様々なエイラさんがあります。
ちょっとエOチなのもあります。
思わず顔がニヤケちゃうほど、私は幸せです。

リーネ「芳佳ちゃん……」

何かリーネちゃんがジト目でこっちを見てるけど、私はとても幸せです。

以上、報告終わり。

33: 2010/10/14(木) 01:35:08.64 ID:2alNmdAl0
完結です
読んでくれた人ありがとうございます

既に何人かレスしてる通り、フミカネさんの没案が原案です
所詮二次創作なんで誤字とかキャラ崩れとかあっても気にしないで下さい

あと短くてごめん
ああ疲れた

34: 2010/10/14(木) 01:36:34.34 ID:3D4q+dFt0
乙!エイラーニャいいよエイラーニャ

37: 2010/10/14(木) 01:44:56.29 ID:mUg4a8/J0

引用元: サーニャ「マルセイユ大尉のサインが欲しいな……」