1: 2020/11/09(月) 19:03:15.01 ID:IGx/pt1W0
――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「3、2、1っ」

高森藍子「……っ♪」

<ぱしゃり!

加蓮「オッケーかな? ……いい写真が撮れた、って顔してる。ありがと、店員さん」

藍子「急にお願いしちゃって、ごめんなさい。ありがとうございます!」




レンアイカフェテラスシリーズ


2: 2020/11/09(月) 19:03:56.24 ID:IGx/pt1W0

3: 2020/11/09(月) 19:04:26.47 ID:IGx/pt1W0
藍子「~~~♪」

加蓮「そんなに気に入ったの? さっきの写真」

藍子「うんっ。ほら、加蓮ちゃん。見てみてっ」

加蓮「私にはいつも通りの写真にしか見えないけどね。……けど、藍子の好きな1枚って言われたら、納得しちゃうよ」

藍子「なんでもない1枚が、私にとっては大切な宝物ですから♪」

加蓮「あははっ。そっか」

藍子「うんっ」

加蓮「よかったね。店員さんも嬉しそうにしてくれてたよ」

4: 2020/11/09(月) 19:04:54.43 ID:IGx/pt1W0
藍子「店員さんも……」

加蓮「?」

藍子「ううん。今なら、胸を張って言ってもいいのかな、って思うから」

藍子「店員さん、加蓮ちゃんと……それに、私の……」

藍子「~~~~っ」

藍子「やっぱり、言い張るのは難しいですっ」

加蓮「?」

藍子「うん、それなら……店員さんは、私と加蓮ちゃん、2人の写真を撮ることが、きっと嬉しかったんですよ」

加蓮「……なるほど?」

藍子「ううぅ……」

加蓮「贔屓目とか自虐とか抜きにしても、どう考えても藍子の写真を撮れることが嬉しそうだったけどなー」

加蓮「それに、店員さんだって今の藍子がどれほどのアイドルかくらいって知ってるでしょ」

加蓮「ほらほら、藍子ちゃんの写真を、それも専属で撮れるんだよ? どれだけ名誉なこと――」

藍子「もうやめて~~~~っ」

加蓮「たははっ。からかいすぎちゃった」

藍子「……う~」

5: 2020/11/09(月) 19:05:24.90 ID:IGx/pt1W0
加蓮「ま……。昔の藍子に比べたら、そこそこ妥協点ってところかな。一応、アイドルってことで認めてあげる」

藍子「……昔のとか、加蓮ちゃんがそれを言うんですか」

加蓮「ほー?」

藍子「わっ。冗談です、ごめんなさい!」

加蓮「それで。急にどうしたの? 写真が撮りたい……ううん、撮ってもらいたいなんて。あ、もしかして。店員さんのカメラレベルをチェックしたかったとか!」

藍子「……カメラレベル?」

加蓮「どれくらい写真を撮り慣れてるか的な。数字にすると、ゲームみたいで面白そう……うーん、でもちょっと固いっていうか冷たくなっちゃうかな。格差を決めてるみたいになっちゃうかも」

藍子「それなら、他の言葉に置き換えるのはどうでしょうか。例えば「ゆるふわ級」とか。他には……他には、え~っと」

加蓮「他に思いつかないかいっ」

藍子「あ、あはは……。店員さんは、ゆるふわ級ですねっ」

加蓮「分かんないけど、なんとなくものすごい褒め言葉っぽく聞こえる」

6: 2020/11/09(月) 19:05:54.44 ID:IGx/pt1W0
藍子「って、そんなことを確かめたかった訳ではないですよ。確かに、店員さんも写真を撮ることが好きになってくれているのは、とても嬉しいですけれど……」

加蓮「藍子の後ろの壁、なんか見たことある写真だよね」

藍子「たぶん、ここ……私が、夏が終わる頃に紹介したお散歩コースの1つのハズですっ」

加蓮「その放送、ちゃんとチェックしてたよー」

藍子「あ、あはは……。あの、どこかよくないところとか――」

加蓮「ううん、別に? 確かゲストが、誰だったっけ……。そうそう、美波さんの時だ」

藍子「よく覚えていましたね」

加蓮「……ぷくくっ。あの時の藍子のコーデ、いかにも着られてますって感じだったよねー」

藍子「うぐ」

加蓮「美波さんに合わせすぎだよ、あれ。良くないとまでは言わないけど」

藍子「…………」プクー

加蓮「ん? 他に誰かから、同じようなことでも言われた?」

藍子「おかあさんから……」

加蓮「あぁ」

7: 2020/11/09(月) 19:06:24.18 ID:IGx/pt1W0
加蓮「ゆっくりお散歩するのもいいし、アスレチックで遊ぶのもいいし……ってコースだっけ」

藍子「はい。店員さんは、ゆっくりお散歩コースを選んだのかな……。写真から、そんな感じがしますっ」

加蓮「分かるの?」

藍子「なんとなく、ですけれどね。写真って、じ~っと見ていると、撮った方の心境や、その時の雰囲気……なんとなく、分かるんです」

藍子「まるで、自分もそこに、一緒に立っているみたい♪」

加蓮「写真ごとに、旅先があるみたいな話だね」

藍子「そうかも? 1枚1枚の写真が、旅先……ふふ、そうかもっ。あんまり遠くに行くのではなくても、その人の世界に、ちょっぴりだけ、旅する1枚」

加蓮「じゃあ……、」チラ

加蓮「この写真を撮った時の店員さんは、どんな気持ちだったのかな」

藍子「そうですね……。少し、想像になっちゃうかもしれませんけれど」

加蓮「いーじゃんいーじゃん。どんどん想像しちゃえっ」

藍子「なんだか、いいものを探していて、見つかった時のような1枚に見えます……。その時のうきうきとした気持ちが、伝わってきますね」

加蓮「ほうほう」

8: 2020/11/09(月) 19:06:54.64 ID:IGx/pt1W0
藍子「ひょっとして……。1人では、なかったのかも?」

加蓮「そういえば前に、街角のカフェで店員仲間と一緒だったよね? お、当たりなんだ」

藍子「気のおけない友だちと一緒に、のんびりお話しながら……。ここもいいな、ここもいいな、って。ゆっくり、歩いていくんです」

藍子「時には、なんでもないお話をしながら♪」

藍子「そして、ふと、この風景を誰かに見せてあげたいって思って……シャッターを、ぱしゃりっ」

藍子「なんてっ。少し、私の目線で考えすぎちゃったかも? でも、そんな優しい気持ちになれたのなら、いいな――」

加蓮「……だってさ」

藍子「……? 加蓮ちゃん、さっきからなんだか変な――え゛っ」

加蓮「だってさー、店員さん♪ どう? 写真探偵・藍子ちゃんの推理、どれくらい当たってた?」

藍子「あの……。いつから…………?」

加蓮「ほう。この顔の赤くなりっぷり。80%くらいは当たっていたようだね。助手として名高い限りだよ、はっはっはー」

藍子「……………………加蓮ちゃん」

加蓮「うんうん。なになにー?」

藍子「…………」プルプル

加蓮「くくくっ。で、店員さん。盗み聞きしに来たんじゃなくて、注文を取りに来たんだよね? ま、私的には藍子ちゃんのお話を盗み聞きしに来てても全然いいんだけどっ」

9: 2020/11/09(月) 19:07:24.47 ID:IGx/pt1W0
加蓮「私はさっと飲めるアップルジュースでいいや。で、藍子には怒りを鎮められるハーブティーでお願い」

藍子「……もうっ! もっ、……もおっ! 店員さん本人が目の前にいたらあんな話してません!!」

加蓮「あははははっ!」

藍子「も~……。……もぉ~~~っ!」

加蓮「何か言いたそうにしてるけど何も思いつかなかったヤツだ」

藍子「う~~~~っ」

加蓮「ハーブティーが来るまでお話もできなさそう、ゆっくり待とうっと」

……。

…………。

10: 2020/11/09(月) 19:07:54.40 ID:IGx/pt1W0
藍子「ずず……。ふうっ」

加蓮「どう? 落ち着いた?」

藍子「……いつか、ぜったい仕返ししますから」

加蓮「やれるものならー」

藍子「はぁ。……写真のお話なんですけれど」

加蓮「急に写真を撮ってもらいたかったのはって話だっけ」

藍子「そうですよ~。……加蓮ちゃん。ここで、クイズです!」

加蓮「お、これまた急に」

藍子「11月と言えば、何を思い浮かべますか?」

加蓮「……11月と言えば? んー……私たちのアニバーサリーパーティー?」

藍子「ふふ。アイドルの中のアイドル、加蓮ちゃんならではの答えですね」

加蓮「ちょ、急に何? 私は別に……」

藍子「でも、悪いとは思わないでしょっ?」

加蓮「そりゃアイドル中のアイドルって言われるのは嬉しいけど……。さては藍子、さっそく仕返しに来たね?」

藍子「えへ……。だけど、私の答えはちょっと違うんです」

11: 2020/11/09(月) 19:08:24.41 ID:IGx/pt1W0
藍子「10月の終わりには、ハロウィンがありましたよね。お仕事ではないけれど、パレードに参加させていただきました」

加蓮「盛り上がったねー。藍子も、もうちょっと大胆な仮装をすればいいのに。もっとお腹を見せてー足を見せてー、みたいなさ」

藍子「そ、それはまた今度で。そして、11月の終わりには、加蓮ちゃんの言う通り、アニバーサリーパーティーがあります」

加蓮「うんうん」

藍子「そうでなくても、12月になったら、みなさんクリスマスムードになりますよね」

加蓮「なるねー」

藍子「11月って、ハロウィンやクリスマスのような、これっ! っていう、大きなイベントはありません」

加蓮「ん……ん、確かに、言われてみればそうかも……」

藍子「あるとして、紅葉狩りに盛り上がったりくらいかな……?」

加蓮「そのうち勤労感謝の日がフィーバーしたりしてっ」

藍子「勤労感謝?」

加蓮「祝日の。いや、なんとなく思いついただけー」

12: 2020/11/09(月) 19:08:55.41 ID:IGx/pt1W0
藍子「いつか、そうなるかもしれませんね。そんな、今は大きなイベントのない11月って、すき間の季節だって思うんです」

加蓮「隙間の季節?」

藍子「ハロウィンや、クリスマスは、とっても楽しいし、みなさん大盛り上がりですね。でも……いつもそうだと、少し、疲れてしまうかも」

加蓮「む。加蓮ちゃんはもう十分健康なアイドルでーす」

藍子「くすっ。加蓮ちゃんのことではありませんよ」

加蓮「ねえ、なんかまた加蓮ちゃんを健康アイドルとして推していこうって話がちらほら聞こえるんだけどアンタなんかやった? ポテト食べようとするとどこからか妨害が入ってばっかりなんだけどー」

藍子「……特別なことのある季節があるからこそ、」

加蓮「おい」

藍子「なにもない季節。だからこそ、日常を振り返ることのできる頃。そんな、すき間の季節があってもいいなぁ……って」

加蓮「ったく。日常を振り返れる季節、か……」

藍子「はい。それに……。そうでなくても、私も加蓮ちゃんも、アイドルですから」

13: 2020/11/09(月) 19:09:24.52 ID:IGx/pt1W0
藍子「加蓮ちゃんは、今もいろんな方から注目されて」

藍子「私だって……加蓮ちゃんには、まだまだ遠く及ばないけれど……」

加蓮「……そーいう言い方はやめなさい? そんなことばっかり言ってたら、本当にいつまで経っても辿り着けなくなるよ」

藍子「ごめんなさいっ。私だって……ううんっ! 私もアイドルとして、毎日おお忙しです」

藍子「アイドルとしてやりたいことも、やらなきゃいけないことも」

藍子「いっぱいあって、なかなか落ち着くことができなくて……」

藍子「だから、少しだけ大切にしたかったの」

藍子「なんてことのない季節を」

藍子「あなたといる、なんてことのない――」

藍子「特別ではなくなった、普通の1日を♪」

加蓮「そっか。だから普通の写真なんだ」

藍子「最初は、私が加蓮ちゃんを撮ろうかなぁ、って思ったんです。少し考えて……やっぱり、一緒に撮りたいなぁ、って!」

加蓮「なにー? 私しか映ってない写真じゃ満足できないと?」

藍子「そうじゃないですよ~っ」

加蓮「あははっ」

14: 2020/11/09(月) 19:09:54.46 ID:IGx/pt1W0
藍子「でも、店員さんに撮ってもらえてよかった。……ほらっ。この写真の私と加蓮ちゃん、私と加蓮ちゃんって感じがします!」

加蓮「……えっと。あ、あー。いつも通りってこと」

藍子「この写真、今度から、撮影の時や、営業の時に遠くに出かける時、お守りとして持っていこうかな……♪」

加蓮「もしバレたらどうするー?」

藍子「? お守りを持っていることがばれてしまっても、別にいいと思いますけれど」

加蓮「それもそっか」

藍子「おかしな加蓮ちゃんっ」

15: 2020/11/09(月) 19:10:24.62 ID:IGx/pt1W0


□ ■ □ ■ □


加蓮「ふうっ……♪」

藍子「……ん、おいしっ」

加蓮「藍子につられて、今度はハーブティーを注文してみたけど……。カフェのリラックスとハーブティーのリラックス、重ね合わせて……」

藍子「アップルジュースって、飲むと少し子どもに戻った気分になりますよね。でも、カフェで飲むと、甘い味もあたたかさに変わって……つい、息を吐きたくなっちゃいます」

加蓮「重ね合わせて……」

藍子「重ね合わせて?」

加蓮「……超リラックス」

藍子「……」ズズ

加蓮「なんか言えっ」

藍子「ま、まあまあ。いいじゃないですか、超リラックス」

加蓮「慰められる方が腹立つ……」ズズ

16: 2020/11/09(月) 19:10:54.51 ID:IGx/pt1W0
加蓮「アップルジュースは子供なんだ」

藍子「ちょっぴり、よくない言い方だったかな……?」

加蓮「いやいや。子供子供。リンゴ味を選ぶヤツなんて全員子供。うん」

藍子「……なにかあったの?」

加蓮「……私さ、よく気遣いとかお節介とか、そーいうの大嫌いって言ってるじゃん」

藍子「はい」

加蓮「でもさ。こっちの都合を一切考えないで突っ込んでくるのは、それはそれでって感じだよね……」

藍子「はあ……」

加蓮「藍子も、自分がうまくできてないからって、人を巻き込んで夜明けまでレッスンとかやっちゃダメだよ?」

藍子「…………あぁ。え、夜明け?」

加蓮「夜明け」

藍子「えぇ……」

17: 2020/11/09(月) 19:11:24.33 ID:IGx/pt1W0
加蓮「……」ズズ

藍子「……」ズズ

加蓮「……なんて苦い思い出は、ハーブティーで消しちゃおうっ」

藍子「私も、アップルジュースを……ジュースだから、こう……えいっ! 一気に飲んじゃいますっ」

加蓮「お、パッションだ」

藍子「パッションアイドルですよ~っ。いやなことは、時には勢いで忘れちゃいます!」

加蓮「って、別に藍子が嫌な思いをした訳じゃないでしょー」

藍子「苦い記憶も、少しだけ。分けてもらった方が、加蓮ちゃんの心が軽くなるから」

加蓮「巻き込んじゃったか」

藍子「巻き込まれちゃいました」

加蓮「全部あのバカが悪い」

藍子「う~ん……。ごめんなさいっ。その気持ちは、1人で抱えてください」

加蓮「逆に言いだしたらびっくりするわよ。でも1人で抱えろってのは酷くない?」

18: 2020/11/09(月) 19:11:54.33 ID:IGx/pt1W0
加蓮「あーあ、ハーブティーなくなっちゃった。これから先、嫌なことがあったらどうすればいいんだー」

藍子「あとは、カフェのリラックス効果で……。目をつむって、体の力を抜いて……」

加蓮「そうしよっか」

藍子「そうしましょう」

加蓮「超リラックスー」

藍子「はふぅ……♪」

加蓮「ふわ……」

藍子「……、…………」ポチポチ

加蓮「もう。まださっきの写真を見てるの? 本物が目の前にいるのに」

藍子「加蓮ちゃん、それって、加蓮ちゃんのことを、じ~っ、と見つめてもいいってこと?」

加蓮「ダメです」

藍子「わがままっ」

加蓮「それが加蓮ちゃんですし?」

19: 2020/11/09(月) 19:12:24.63 ID:IGx/pt1W0
藍子「この写真……。誰かに、見せてあげようかな。だって、加蓮ちゃん、こんなに自然な表情でっ。珍しいじゃないですか」

藍子「あっ。もちろん、自分のことを優先して考えないといけないことは、わかっていますよ」

藍子「だから……そうですね~。アイドルとしてではなくて、私の大好きな友だちの、自然な表情♪」

加蓮「そーいうのは独り占めしときなさい」

藍子「えぇ~。でも、加蓮ちゃんの言うことも……」

加蓮「一理ある?」

藍子「私、どうしても写真を見ながらお話すると、長くなっちゃうから」

加蓮「さっきもそうなってたよねー。店員さんの写真で」

藍子「も、もうっ。加蓮ちゃん? さっきのは、まだまだしかえしの第一歩なんですからね」

加蓮「ほぉー?」

藍子「これからも、加蓮ちゃんにはいっぱい、しかえしをするんですからっ」

加蓮「うんうん。がんばれー」

藍子「……む~」

加蓮「たははっ。ま、いいんじゃない? 話が長くなっても」

20: 2020/11/09(月) 19:12:54.39 ID:IGx/pt1W0
加蓮「今日だってほら、もう3時間も経ってる」

藍子「あ……本当だ」

加蓮「4時でも、ちょっとだけ暗くなってるね。外」

藍子「冬になったら、もっと暗くなってしまいますよ」

加蓮「でも、ま。藍子といるとこうだもん。外が暗くなったらもう1日が終わり、って思うんじゃなくて。4時ってことは、まだ日付が変わるまで8時間もあるの。喋り放題だねっ」

藍子「は、8時間も? う~ん、そんなにお話できること、あるかなぁ……?」

加蓮「……」

藍子「……ぽかんっとしないでください!」

21: 2020/11/09(月) 19:13:25.15 ID:IGx/pt1W0
加蓮「前に"私達の時間"でカフェコラムを書いた時のように、藍子の話も、藍子が話したいって思う分だけ聞きたいって思う人もいるって、絶対」

藍子「う~ん……」

加蓮「私とかもそうだし」

藍子「……そうなのかな。でも……。ときどき、ものたりないって言われる方がいるんです」

加蓮「物足りない?」

藍子「私が、今日のお話はここまでです、って言ったら、少し寂しそうにしちゃうんですよ。ラジオでも、そんなお便りを頂くようになって……」

加蓮「おー」

藍子「みなさん、時計を見るとびっくりされちゃいますけれど」

加蓮「それはそうでしょー」

藍子「私も、びっくりしちゃいますっ」

加蓮「藍子もかいっ」

22: 2020/11/09(月) 19:13:55.12 ID:IGx/pt1W0
藍子「いいのかな、って思う気持ちもあるけれど……でも、話したいことがまだまだたくさんあって……」

藍子「この世界に……私の大好きな世界には、ちいさなことも、大きなこともっ。幸せや、楽しいことが、いっぱいありますから!」

加蓮「……ふふ」

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「ううん。もし、時間がなくて伝えきれないって思った時は、そう言ってあげるといいよ。そうすれば……寂しいって気持ちより、ワクワクする気持ちの方が大きくなるから」

藍子「……、」

加蓮「藍子は、幸せを見つける達人だから。私も、そうやっていっぱい幸せをもらったし……」

藍子「!」

加蓮「ま、まあ? 私のことはどーでもいいとしてっ。とにかくそんな感じ! ほら、藍子がどんなアイドルなのかもみんなに伝わる、そしてファンも増える! 一石二鳥じゃん」

藍子「……、」ウーン

藍子「加蓮ちゃんは、私のこと、応援してくれないんですか?」

加蓮「えっ」

藍子「加蓮ちゃんのことはどうでもってことは、加蓮ちゃんには、私の想いは届かないのかな……って」

加蓮「いや、あの……藍子さん?」

藍子「……」

加蓮「藍子さん??」

23: 2020/11/09(月) 19:14:24.82 ID:IGx/pt1W0
藍子「……じ~」

加蓮「……はい、そこで弱い目になるのはダメ」ベシ

藍子「いたいっ」

加蓮「うん。なかなかドキドキさせられたけど、まだ甘いかな? それじゃ70点。合格点には届かないねー」

藍子「自分でも、うまくできたかな……って思ったのに」

加蓮「それで私に仕返ししようってつもり? はー。甘く見られたもんだね。そんなのじゃ私どころか、事務所の誰にも勝てないよ」

藍子「そ、そこまで言わなくても!」

加蓮「ちびっこ相手にも、1対1で負けちゃうね」

藍子「じ、じゃあ加蓮ちゃんが味方になってください」

加蓮「私? 私は藍子がミラクル起こして勝った時の2番手だけど?」

藍子「そう言うと思ってた……。今は、ちょっとだけでもドキドキさせられたのなら、それでいいんですっ」

加蓮「ふーん。前向きだね」

24: 2020/11/09(月) 19:14:55.29 ID:IGx/pt1W0
藍子「……あ、そっか……」

加蓮「?」

藍子「加蓮ちゃん。さっきの写真、もう1回だけいいですか?」

加蓮「うん。別に何回でもいいけど……」

藍子「加蓮ちゃんにも、一緒に見てほしくて。……はい」

加蓮「んー。でも、何回見ても私にとっては普通の写真だよ。カフェで向かい合って座って、一応カメラを向けられてるから笑ってる写真……」

加蓮「改めて見せるってことは、何か特別なことがあるんだよね。藍子にとっては、なんか別の意味があるの?」

藍子「うん。すごく、すごく大きな意味が」

加蓮「……?」

藍子「加蓮ちゃん」

藍子「あなたの目で見る、今のあなたの姿。どう映っていますか?」

加蓮「どう、って。……え、自分で自分を見て評価すんの? なんかイタいんだけど」

藍子「真剣にっ。真面目なお話なんです」

加蓮「あははっ。ごめんごめん。でも、真面目に言っても……。ただの私ってことくらいしかないよ」

25: 2020/11/09(月) 19:15:54.51 ID:IGx/pt1W0
加蓮「あ、でもちょっと気が抜けちゃってるかな。言っとくけど、普段ここまで隙だらけって程じゃないんだからね? 事務所とか現場とかでは、もっとシャキっとしてるつもりだし」

藍子「はい。そうだと思いますよ」

加蓮「じゃあ何が……」

藍子「加蓮ちゃん。あのね……。さっきの、すき間の季節のお話。今が一番、足元にあるものや、手を伸ばして、届くところにあるものを、振り返りやすいなって思うんです」

藍子「だから今日、加蓮ちゃんに言いたいなって思ってて――」

藍子「加蓮ちゃんは、私にとってすっごく大切な人です」

加蓮「う、うん。ありがと……?」

藍子「これまで、たくさんの時間を過ごして……笑ったり、泣いたり。何度も、けんかしちゃったりっ」

藍子「……今だけは、怒らないで聞いてください」

藍子「こんな私と、一緒にいてくれて……」

藍子「アイドルのことだって、スローペースになっちゃう私のことを見てくれて、落ち込んだら側にいてくれること。それが、すごく嬉しいんですよ?」

26: 2020/11/09(月) 19:16:24.53 ID:IGx/pt1W0
藍子「そして――」

藍子「加蓮ちゃんが、いっぱい笑うようになってっ」

藍子「心配しなくてもいいくらいに、リラックスして、自然な表情を見せてくれるようになって……」

藍子「よかったな、って思うんです」

藍子「加蓮ちゃんが……」

藍子「加蓮ちゃんに、私の幸せを分けてあげられたのなら」

藍子「私のおかげだって、言ってくれるのなら……向かい合ってよかったなって、すごくすごく、思います」

藍子「あなたと出会えたこの世界は、時には濃い霧がかかるかもしれないけれど……」

藍子「それでも美しくて、素晴らしくて、私は大好きです。もちろん、あなたのことも!」

藍子「……くすっ。加蓮ちゃんは、もう聞き飽きちゃったって言うかな」

藍子「でも、私が言いたいの。何度だって言いたいの。今日も一緒にいてくれてありがとう、って……!」

27: 2020/11/09(月) 19:16:56.06 ID:IGx/pt1W0
加蓮「…………」

藍子「……あ、あの……」

加蓮「……。……私こそ、ありがとね。えっと……藍子みたいに、今すぐ綺麗にはまとめられないけどさ。とにかく、色々とありがとっ」

藍子「ううんっ! それだけで、十分です。ふふ……♪」

加蓮「けど、うん。聞き飽きたっていうのはホントかも?」

藍子「え~っ。いいですよ。加蓮ちゃんが聞き飽きたとしても、私が言いたいんですから。私がやりたいだけですもん!」

加蓮「はいはい。ま、聞いてあげるくらいのことはしてあげる」

28: 2020/11/09(月) 19:17:24.78 ID:IGx/pt1W0
藍子「……あはは。私、やっぱりまだ、アイドルとして甘いですね」

加蓮「ん、急にどしたの」

藍子「加蓮ちゃんのことを大好きだって言ったら……今度はみんなに、加蓮ちゃんのことを教えてあげたくなっちゃうから」

藍子「きっとこの、広くて素晴らしい世界には、まだまだ加蓮ちゃんのことを知らない方もいると思うから……」

藍子「でも加蓮ちゃんはきっと、そんなことより私のことを、って言っちゃいますよね」

加蓮「……、」

藍子「私の知っている、好きなものや、好きな人。ちいさな幸せ……」

藍子「それは、何度だって口にしたいです。いつか、世界中に伝えられるくらいに」

藍子「でも、今よりもっとすごいアイドルになって、新しい幸せも探しにいきたい。そしていつか、加蓮ちゃんの隣に――」

藍子「そのためには……加蓮ちゃんに、とられちゃ駄目……」

藍子「でも……」

藍子「どっちも、って思っちゃうのは……よくばりでしょうか?」

29: 2020/11/09(月) 19:17:54.54 ID:IGx/pt1W0
加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……アイドルって、確かにいつもいつも素の自分って訳にはいかないよね。時にはファンや、初めて見てくれる人達に向けて、偶像的なところとか、要求された顔とか。そういうのを見せないといけない時だってあるかもしれない」

加蓮「でも別に、全部が全部、そうじゃなくていいんじゃないの?」

加蓮「アイドルの高森藍子と、1人の女の子としての藍子ちゃん。そこに共通することがあっても、いいんじゃないかな」

藍子「共通すること――」

加蓮「それが私……回りにいる好きな人を教えてあげたい、って気持ちでもね。そういうアイドルがいてもいいのかなって、藍子を見てたら思うんだ」

加蓮「それでもし、藍子の話を聞いて、ファンの子や、ファンになるかもしれない子の目線が、私へ向いたとしても」

加蓮「たぶん……教えてくれた藍子のことを、忘れたりはしないと思う」

藍子「……!」

加蓮「藍子、カフェコラムを書くことで、いろんなカフェをみんなに教えてあげたでしょ?」

加蓮「それでカフェにドハマリしたからって、教えてくれた藍子のことをすっぽり忘れるとは限らないじゃん」

加蓮「っていうか……今の、幸せな顔で語る藍子を見たら、忘れることなんてできなくなっちゃうんじゃないかな……」

藍子「……、」

加蓮「たははっ。自分のことをもっと考えろー、って言い続けたの、私なんだけどね。藍子の顔を見てたら、案外こっちの方が藍子らしいかな、って思っちゃった」

藍子「ううん……」

30: 2020/11/09(月) 19:18:24.28 ID:IGx/pt1W0
加蓮「藍子は、どうしたい? 最後は、ほら。私達がいつもしてきたこと」

藍子「……やりたいって思う気持ちを、大切にすること」

加蓮「でしょ? もしそれでも気になるなら、じゃあ、藍子が私のことを教えてあげる度に、私も藍子のことを教えてあげる」

加蓮「ふふっ。私だって、好きなものを語らせたら強いんだよ? これまでにポテラーとネイラーをどれだけ増やしてきたと思ってるの?」

藍子「…………んくっ」

加蓮「お」

藍子「あはっ……。な、なんですか、ポテラーにネイラーって。ネイラーって、ネイルをする方……? だったら、ネイリストじゃないですかっ」

加蓮「ネイリストは職業だし」

藍子「もぉ……っ! ポテラーにネイラー……。あははっ……!」

加蓮「……そーいうつもりなかったんですけどー」

藍子「うくくっ……す、すみません。加蓮ちゃんの言いたいことはわかりましたからっ」

藍子「加蓮ちゃんは……加蓮ちゃんのやりたい範囲で、やってくださいっ。でも、ヒミツのことは、ヒミツにしておいてくださいね?」

加蓮「はいはい。藍子も、やりたいようにどーぞ。伝えたいこと、好きなこと、藍子の知ってる幸せ。全部ぜんぶ、世界中に広げちゃおうっ。何回も何回も言ってさ!」

藍子「はいっ!」

31: 2020/11/09(月) 19:18:55.63 ID:IGx/pt1W0
……。

…………。

加蓮「さてとっ。あっという間に7時過ぎかぁ……」

藍子「さっきのサンドイッチ、晩ご飯になっちゃいましたね」

加蓮「どうする藍子? 帰ったら、藍子のお母さんが「この前服に着られてるって言ったのは悪かったかなぁ……」とか思って、すっごい豪華なご飯を用意してたら」

藍子「……その時は、1週間くらい加蓮ちゃんの家に泊めてください」

加蓮「えー? しょうがないなー。じゃあ私が藍子の家に言って、藍子の代わりに食べてあげるね」

藍子「それじゃ意味ないですっ。それに加蓮ちゃん、食べられるの?」

加蓮「無理」

藍子「…………」ジトー

32: 2020/11/09(月) 19:19:27.87 ID:IGx/pt1W0
加蓮「……ねぇ、藍子」

藍子「うん。加蓮ちゃん」

加蓮「藍子が何度も、私のことを好きだってくれるのなら……私も、何回だって言うね」

加蓮「ゆっくりでもいいから、絶対、私のところまで歩いてきてね。ずっと待ってるから」

藍子「……うんっ」

加蓮「さ、今日はだらーっとしちゃったし、これでエネルギーも充電できたね。明日はその分、頑張ろっか! 藍子がトップアイドルになるためにっ」

藍子「よろしくお願いします。って……加蓮ちゃんのことは?」

加蓮「今私がやりたいことはこれだし」

藍子「そっか。じゃあ……よろしくお願いします!」

加蓮「2回も言ったー」

藍子「ふふ。何度も、言いたいからっ」


【おしまい】

引用元: 北条加蓮「藍子と」高森藍子「何度だって言うカフェで」