1:◆qTT9TbrQGQ 平成31年 04/21(日)01:06:28 ID:0j0
・P視点のSSです。割と短め。
・実験的に、同じ出来事を雪美視点からも書いています

2: 平成31年 04/21(日)01:12:26 ID:0j0

3: 平成31年 04/21(日)01:16:19 ID:0j0
1

いつから雨を鬱陶しいと思っていただろう。
いつから帰り道が雨のときは気が沈んでいただろう。

この日も雨だった。
けれど、この日の雨は、不思議と鬱陶しくなくて、気が沈まなくて、……心地よかった。
アイドルマスター\THE IDOLM@STER シンデレラガールズ 佐城雪美[太陽の絵の具箱]+ 1/7 完成品フィギュア
4: 平成31年 04/21(日)01:20:19 ID:0j0
2

「……はぁ、電話に出ないな」
ため息を吐きながら、今日何度聞いたか分からない発信音を聞いていた。
目の前で、雪美が不安そうな顔をして、こちらを見つめていた。
「……大丈夫だよ」
俺は微笑みながら、雪美の頭を撫でた。

佐城雪美。いま俺の目の前にいる女の子の名前だ。小学生にして、アイドルをやっている。
それで、俺はこの子のプロデューサーをしている。
……といっても、人員が足りず、今はマネージャーも兼ねているが。

俺たちは、先ほどまで東北のテレビ局へ出向いていて、今さっき東京に戻ってきた。
雪美の家の最寄り駅で、親が雪美の迎えに来ている予定だったのだが……見覚えのある人影は見当たらず、先ほどからこうして電話をしている。
雪美の親は両方ともかなり多忙らしいので、きっと急な仕事でも入ったのだろう。
それでも連絡ひとつ寄越さないのはどうかとも思うが……
まあ、今までも似たようなことはあったし、そもそも普段から余裕があれば送迎するようにしているので、「雪美を家まで送ってください」という無言の要求なのだろう。
結局、これ以上電話を鳴らしても無駄だと判断し、留守電にメッセージを残すことにした。

電話を切ると、雪美が安心した顔で、こちらを見ていた。きっと先ほどの伝言を聞いていたのだろう。
「聞いていたと思うけど……雪美の親は、仕事で忙しいみたいだから、俺が家まで送っていくよ」
雪美は、さっきまでの不安そうな顔が嘘のような笑みを浮かべ、こくりと頷いた。
「プロデューサー……ありがとう……」

5: 平成31年 04/21(日)01:28:34 ID:0j0
3

……今日は電車を使っていたので社用車も無い。タクシーを使うしかないか。経費はかさむが、仕方ないだろう。
そんなことを考えながら外に出ると、雨が降っていることに気付いた。
俺は立ち止まり、鞄から折りたたみ傘を取り出し、開いた。
雪美はどうやら傘を持っていないらしく、いつの間にか俺の傘の中に入っていた。
それを確認し、タクシー乗り場へ向かおうとした……ところで、雪美に袖を引っ張られた。

振り返ると、雪美はバス停の方をじっと見ていた。
「……どうしたんだ?」
そう聞くと、雪美は振り向いて、こう呟いた。
「……バス、乗ってみたい……」
「バスか……? タクシーよりも時間がかかると思うけど……」
雪美は、目を逸らして少し考えてから、ふふっ、と笑い、
「たまには……ゆっくり、一緒に帰るの……だめ……?」
と、いたずらっぽく囁いた。

早く帰りたいと思っていたが、たまにはのんびりバスに乗って帰るのもいいかもしれない。
きっと雪美もそんな気持ちなのだろう。
少しだけ、妖しさ……小悪魔っぽさを感じたけれど、気にしないことにした。
俺は「ちょうどいいバスがあったらな」と、無難な返事をして、バス停へと向きを変えた。

6: 平成31年 04/21(日)01:32:27 ID:0j0
4

バスの時刻表を見ると、ちょうどいいバスがもうすぐ出るようだったので、すぐに乗り込んだ。
退勤時間には少し早い時間だからか、バスの中には学生が数人座っているだけで、静かだった。
雪美は、きょろきょろとバスの中を見渡してから、真ん中くらいの席を選んで、傍まで歩いていった。
「ここが、良い席……だから……ここ、座って……」
「……良い席?」
「ここ……揺れにくいんだって……」
どこから聞いたのだろうかと、少し疑問に思いながら、俺はその席に座った。
雪美も続いて席に座り……何も言わず、そのまま俺の膝の上に飛び乗った。
少し驚いたが、雪美が俺の膝に座ってくることはたまにあることなので、そのまま膝の上へと迎え入れた。

車内ブザーが鳴り、発車しますというアナウンスと共に、ドアが閉まり、バスが動き出した

7: 平成31年 04/21(日)01:46:44 ID:0j0
5

雪美は、じっと窓の外を眺めていた。
俺もなんとなく、一緒に窓の外を眺めてみる。

外は薄暗い青で染まっていて、ビルやら他の車やらが流れている。
バスのエンジンの音やタイヤの音に混じり、雨が窓ガラスに当たる音が聞こえる。
窓の外から冷気を感じるが、膝だけは人肌で温かった。

それらを感じながら、静かに時は過ぎていった。

バスに乗っていた時間は短くなかったが、雪美と話をすることは無かった。
途中、雪美に話しかけようと顔を覗き込んだら、こちらに目線を合わせて、微笑んでから、また目線を窓に移した。
バスから外を見るの、楽しいね、なんてことを、目で言っている気がした。

話はしなかったけど、だからといって気まずさといったものは無かった。
他人と長い間いるときに、他にやることもないのに会話が無いと、気まずい雰囲気になる。
それが俺と雪美の間には一切無かった。
むしろ、沈黙が心地いいとすら感じた。

8: 平成31年 04/21(日)01:51:44 ID:0j0
6

バスから降りると同時に傘を開き、すぐに雪美を傘の中へ入れた。
「雨に当たってないか?」と確認すると、雪美は頷きながら「大丈夫」と呟いた。

バス停から雪美の家までは、少し距離があった。

「……バス、居心地、良かった……」
「……ああ。たまにはバスで帰るのも、良いな」

「……そんなくっついてたら、歩きにくくないか?」
「プロデューサー……肩、少し、濡れてるから……」

「……相合傘、だね……」
「はは、相合傘……そうだな。久々にそんな単語、聞いたなあ」

時々そんな会話を挟みながら、ゆっくりと歩いた。
ゆっくり歩いたけれど、家に着くまでの時間は短く感じられた。

9: 平成31年 04/21(日)01:57:21 ID:0j0
7

雪美が水たまりを楽しそうに蹴っていたのが、なんとなく目に留まった。
それと同時に、雪美がこっちを見て
「雨……なんだか、楽しい……ね……」
と呟いた。
ふふ、と笑いかけたところで、ある懐かしさを感じた。

小さい頃は、なんとなく雨が楽しいと感じていた。
きっと、水たまりを見たり、雨の音を聞いたり、水たまりを蹴ったりするだけで、楽しかった。
でもいつからか――自分が雨を不快と感じるようになったからか、周りが雨を嫌いと言っていたからか――雨を楽しいと感じなくなっていた。

だが、今日の俺は、雨を楽しいと感じていた。
雪美が雨を楽しんでいるからだろうか。

……ちょっと考えたが、答えは出なかった。
「楽しいね。なんでだろうね」
雪美にそう返事をしたら、雪美は、ふふっ、と笑って、よけいにくっついてきた。

そんなくっ付いたら、さすがに歩きにくいだろ、と文句を言おうとしたが、微笑む雪美を見て、やめた。
代わりに、くしゃくしゃと髪を撫でてやった。

雨は、しばらく降り続いていた。

10: 平成31年 04/21(日)02:04:18 ID:0j0
7

雪美が水たまりを楽しそうに蹴っていたのが、なんとなく目に留まった。
それと同時に、雪美がこっちを見て
「雨……なんだか、楽しい……ね……」
と呟いた。
ふふ、と笑いかけたところで、ある懐かしさを感じた。

小さい頃は、なんとなく雨が楽しいと感じていた。
きっと、水たまりを見たり、雨の音を聞いたり、水たまりを蹴ったりするだけで、楽しかった。
でもいつからか――自分が雨を不快と感じるようになったからか、周りが雨を嫌いと言っていたからか――雨を楽しいと感じなくなっていた。

だが、今日の俺は、雨を楽しいと感じていた。
雪美が雨を楽しんでいるからだろうか。

……ちょっと考えたが、答えは出なかった。
「楽しいね。なんでだろうね」
雪美にそう返事をしたら、雪美は、ふふっ、と笑って、よけいにくっついてきた。

そんなくっ付いたら、さすがに歩きにくいだろ、と文句を言おうとしたが、微笑む雪美を見て、やめた。
代わりに、くしゃくしゃと髪を撫でてやった。

雨は、しばらく降り続いていた。

11: 平成31年 04/21(日)02:12:06 ID:0j0
おしまいです。

たまにはこういうのも、どうでしょうか。
慣れないことをしたので、誤爆してしまいましたが……。

総選挙、少しだけでもいいので、佐城雪美に投票をよろしくお願いします。

引用元: 【モバマスSS】雨の中で【P side】