1: 2015/01/18(日) 23:27:36.64 ID:+TpbeCiu.net
先日録音した、にこりんぱなラジオの編集作業中。

私と花陽と凛でお喋りしていたら、急に花陽がぶっ込んできた。

「にこちゃんと希ちゃんって、どうしてそんなに息が合ってるの?」

花陽からの純粋さ100パーセントの言葉に、ウッと喉を詰まらせる。

ぴゅあっぴゅあな瞳で見つめられながらの質問を適当に流せるわけがない。卑怯だ。

2: 2015/01/18(日) 23:28:37.44 ID:+TpbeCiu.net
「あっ、それ凛も気になってた!穂乃果ちゃんの家でお餅ついてたときも、すごい息合ってたし!」

大して私のことに興味を持たない凛までもが話に食いついてきた。

しかも、あの時もこの時も、と疑問を感じた場面を並べ立てている。

よくもまあ、急な話でそんなにすらすら出てくるものだと感心してしまう。

実は私に結構興味持っていたりするんだろうか?などと馬鹿なことを考える。

4: 2015/01/18(日) 23:29:38.03 ID:+TpbeCiu.net
「普通よ普通。一年生の頃から付き合いがあるから、その分あんた達より息が合ってるだけよ」

「そうかなあ?」

「えー、でも。親友(自称)の絵里ちゃんより息合ってないかにゃ?」

「凛、別に(自称)じゃないから。希も言ってるから。面倒くさい絵里が聞いてたら面倒な事になって面倒でしょうが」

「そんなに面倒を連呼しなくても……」

「希ちゃんは絵里ちゃんと凄く仲良しだけど、にこちゃんには何か違う感じがするにゃ」

6: 2015/01/18(日) 23:32:09.93 ID:+TpbeCiu.net
無駄に鋭い一年生たち。

いや、もしかしたら他のメンバーも言わないだけで同じようなことを思ってるのかもしれないけど。

どうやって誤魔化そう。昔のことは出来るだけ言いたくないし。

ここは切っ掛けを作った花陽に水を向けて、適当に話を変えよう。

「そもそも、花陽はなんでそんなこと気になったのよ」

「ラジオのゲストが希ちゃんだったよね?それで―――にこちゃんとの掛け合いが、すっごくすっごく面白かったの!」

「え、そ、そうだった?」

8: 2015/01/18(日) 23:33:55.04 ID:+TpbeCiu.net
「そうだよ!にこりんぱな史上最高の出来だったよ!ラジオっ子だからわかるの!

 二人の絶妙の間と見事な受け答え!機転の効いた言葉回し!

 μ’sにこんな逸材コンビが眠っていたなんて……。にこちゃんと希ちゃんだけで新しい番組を一つ持てます!」

「……」

「はっ!ご、ごめんにこちゃん、熱くなっちゃって…。とにかく、そういう理由です…」

面白かった、か。嬉しいような、悲しいような複雑な気分。

希との日々は無駄ではなかったんだ。

やっぱり、気が変わった。この二人になら、話してもいい気がする。

9: 2015/01/18(日) 23:35:15.38 ID:+TpbeCiu.net
「はぁー、仕方ないわね。全部話すわ。だけど絶対誰にも言っちゃダメよ?あんた達だけに言うんだからね」

「うん」

「わかったにゃ!」

そして私は語り始める。

二年前から始まった、私と希の秘密の関係を。

10: 2015/01/18(日) 23:36:18.06 ID:+TpbeCiu.net



こんこん、とノックの音が聞こえたが無視。

どうせこの部屋にやってくるのは一人しかいない。

それにそいつは返事をしなくても入ってくる。

「にこっち、元気ー?」

ほら、入ってきた。

返事を聞かないなら最初からノックをするなと言いたい。

まあ、まったく返事をしない私も悪いんだけど。

12: 2015/01/18(日) 23:37:20.44 ID:+TpbeCiu.net
「聞いてる?お~い」

この女は東條希。私のファンを自称する占い女だ。

随分前から部室に顔を出していたが、ここ最近は入り浸っている。

「あんたまた来たの?暇なの?」

ハァー、と息をついてから返事をする。これもいつものこと。

「いややな~。にこっちに会うために時間作ってるんやん」

「私は会いたくない。帰れ」

奴は部室にやってきては、私にちょっかいを出してくる。

「そんなこと言わんと、もっと構ってや~」

13: 2015/01/18(日) 23:38:18.62 ID:+TpbeCiu.net
思わずじとーっとした目を向けてしまう。

「あんた絢瀬絵里と仲良いんでしょ。そっちに構ってもらわなくていいわけ?」

最近、あの有名な絢瀬絵里と仲良くしているところをよく見かける。

わざわざ私のところにこなくとも絢瀬絵里に構ってもらえばいいものを。

「にこっちはあかんね。うちはえりちには構いたいタイプで、にこっちには構われたいタイプやの。これわからへんかな~?」

15: 2015/01/18(日) 23:39:47.74 ID:+TpbeCiu.net
ちちち、と指を振りながらどや顔をしている。

むかついたので、この話は無理やり切り上げることにした。

「知るか。で、今日は何の用なのよ」

「えー?だから、にこっちに構ってもらいに…」

「嘘ね。それだけじゃないでしょ?」

ここのところの希はおかしい。

部室にやってくる頻度が増えただけではない。

顔を見せるたびに何か言いたげな表情になって、結局何も言わずに帰っていく。

そろそろ面倒くさいので直球で聞くことにした。

16: 2015/01/18(日) 23:41:20.41 ID:+TpbeCiu.net
「あんた何か言いたいことあるんでしょ?ずっと気になってたのよね。いい加減に言いなさいよ」

「……気付いてたんや」

「あんたの顔みてれば誰でもわかるわ」

「ふふっ、やっぱりにこっちじゃないとあかんわ」

嬉しそうな顔で笑っている。

一体何が私でないといけないんだろう。

「お願いがあるんよ」

「ふぅん?ま、聞くだけ聞いてあげるわ」

お願いと来たか。

なんだかんだ言って、こいつには救われているところがあるし。

叶えてあげられるものなら叶えてあげなくもない。

17: 2015/01/18(日) 23:43:14.58 ID:+TpbeCiu.net
「あんな、うちと……付き合ってほしいねん!!」

付き合う?誰がと誰が?……私と希が?

「ハァァァァーー!?」

「……あ、ちゃう!ちゃうんや!そういう意味ちゃう!だから逃げんといて」

「ごめんなさい、東條さん。私ノーマルなんです」

「ちゃうってにこっち!いつもみたいに希って呼んでよ!」

必氏の形相で否定している希を見るに、本当にそういう意味ではないようだけど。

わざわざ部屋の隅に逃げなくても良かったかしら。

「だって、あんたわしわしとかいって胸揉んでくるじゃない。あれってそういうことだったのかなって思って」

「わしわしはコミュニケーションやから!」

体格差からも言って本気で襲われたら逃げられないのだ。

普段わしわししてくる相手から、急に愛の告白されたら身の危険を感じても仕方ないと思う。

18: 2015/01/18(日) 23:44:54.06 ID:+TpbeCiu.net
「じゃあ、何なのよ」

「……うちと、コンビ組んでほしいんや」

「コンビ?何のよ?」

「お笑いの」

「は?」

「うちの相方になって、お笑いの練習に付き合ってほしいんよ!」

「はぁぁぁぁーー?」

さっきの付き合うとは別の意味で爆弾発言だった。

20: 2015/01/18(日) 23:59:07.71 ID:+TpbeCiu.net



「だから、息が合ってるってわけ」

「えっと、つまり。にこちゃんと希ちゃんは、二年間ずっと」

「お笑いの練習してたってことかにゃ?」

「……そういうことよ。希はかなりのお笑い好きでね、自分でもやりたくなったみたい」

ついに、アイドル研究部じゃなくて、お笑い研究部だった日々を話してしまった。

21: 2015/01/19(月) 00:00:28.89 ID:85Qq+LxV.net
私だって最初は拒否した。だけど、希は諦めなかった。

休み時間の度に、捨てられた子犬のような目で見つめてきたり。

放課後になると、部室に来ては拝み倒してきたり。

挙句の果てには床に転がって駄々までこねていた。

最後には、アイドルに必要なトーク力を磨く練習になるという頃し文句を言われて。

練習に付き合うぐらいならいいかなという気になってしまった。

そして晴れて私は希とコンビを組んで、毎日をお笑いの研究に費やすことになったのだ。

22: 2015/01/19(月) 00:01:47.59 ID:85Qq+LxV.net
「あはは、笑っていいのよ。私はずっとアイドル研究部でお笑い研究をしてたのよ」

「にこちゃん……」

「μ’sの活動をするようになったから、もうやってないけどね」

希から、やめようと言ってきた。

私のアイ活に専念したい気持ちを汲み取って、そう言ったんだと思う。

反対せずに受け入れたけど、どこか寂しい気持ちがあったのも事実だ。

「まあでも、希には感謝してるのよ。あんた達も知ってると思うけど、私はずっと独りだったから」

二人でああだこうだとネタを考えたり、漫才やコントを見て研究したり。

あの頃を思い出すだけで、楽しい、暖かい気持ちが蘇ってくる。

独りでいた時には感じられなかった、ぬくもりがあった。

23: 2015/01/19(月) 00:03:22.74 ID:85Qq+LxV.net
「一応言っとくけど、アイドル研究してなかったわけじゃないからね?そこは勘違いしないように……ってなんで泣いてんのよ!」

花陽と凛が号泣している。

窓の外を見ながら語っていたから振り向いてびっくりした。

え、どういうこと?何か泣くようなところあった?

「ぐすっ…ぅぇぇ…」

「いい話だにゃぁぁ」

「ちょ、ちょっと。別に泣かせるつもりで話したんじゃないんだけど」

いや、確かに少しはしんみりとはしてたけどね?

24: 2015/01/19(月) 00:05:12.94 ID:85Qq+LxV.net
「にこちゃんが、独りじゃなかったんだって思ったら…っ…涙が出てきちゃって」

「昔を思い出してる時の優しい表情を見てたら、すごく泣けてきたにゃ」

「……」

この娘たち良い子すぎでしょ。

やばい、なんだか貰い泣きしそうになってきた。我慢しろ私。

「は、はーん!とはいっても、お笑い研究をやめる切っ掛けは私だったし、実は希には恨まれてるかもしれな―――」

「そんなことないにゃ!」

「えっ」

「凛、知ってるよ。皆と騒いでる時のにこちゃんを、優しい目で見てる希ちゃんのこと」

あ、駄目。泣きそう。

精一杯強がろうとしたところを凛にトドメを刺された。

25: 2015/01/19(月) 00:08:13.85 ID:85Qq+LxV.net
一年生の前で泣くのはちょっと、いやかなり恥ずかしい。

誰か部室の雰囲気を変えてくれないかな。凛の言葉に感極まったのか、二人ともまた泣いてるし。

私の涙腺にも我慢の限界というものがある。

このままではせり上がってくる涙を押さえ込めそうにない。

そんなことを考えていたら、扉の向こうに人影が見えた。誰か来たみたい。

絵里や海未あたりが、空気を破壊してくれたら泣かずにすむかも。

ぎぃ、と扉が開く。

「にこっち、元気ー?」

あ―――。

26: 2015/01/19(月) 00:09:51.23 ID:85Qq+LxV.net



「なあなあ、にこっち。結局なんやったの?」

「何でもないってば」

「あれだけ泣いといて何でもないはないやん」

希が入ってきて、ぼろぼろと涙を零し始めた私。

元から泣いていた花陽と凛も、さらに泣き始めて、落ち着くまでに時間がかかってしまった。

27: 2015/01/19(月) 00:11:11.06 ID:85Qq+LxV.net
「くく。それにしても、あんたの動揺してた姿はだいぶ笑えたわ」

大泣きしている私達を前に、ずっとおろおろとしていた希を思い出す。

なかなかのうろたえっぷりだった。

「もー!真面目に答えてや。うちは心配してるんよ?」

「ごめんごめん。でも言わないわよ」

「……花陽ちゃんと凛ちゃんも、泣いてた理由教えてくれへんし。一体何やの」

泣いていた理由を話すのは恥ずかしいので、何も答えていない。

花陽と凛も、黙っていてくれた。

ちなみ二人は生暖かい目を私達に向けながら、どこかへ出かけていった。

28: 2015/01/19(月) 00:12:27.07 ID:85Qq+LxV.net
「まあまあ。教えないかわりに、あとでパフェ奢ってあげるわよ」

「それはそれで意味わからへんねんけど……」

納得いかないような顔をしている。

したり顔が標準装備の希がこういう顔をしていると嬉しくなるのよね。

「たまには二人でお茶するってのも悪くないと思うけど」

「そりゃ、ええんやけど」

希がうー、と唸っている。

まだ話を押すべきか引くべきか悩んでいるようだ。

29: 2015/01/19(月) 00:13:55.90 ID:85Qq+LxV.net
私はというと、滅多に握れない主導権を握っているので、顔がニヤニヤしている。

「ぷふっ、たまにはあんたの知らないことがあってもいいじゃない」

あえて煽ってみる。
……あ、希の顔が眉がハの字になっていっている。

「―――にこっちのあほっ。たっかいパフェ頼むからね!後悔してもしらんよ!」

拗ねてしまったみたいで、希にそっぽを向かれた。唇も尖っている。

どうにかして機嫌を直さねば。高いの頼まれたら困るし。

30: 2015/01/19(月) 00:15:03.83 ID:85Qq+LxV.net
「のぞみ、ほらこっち向いてよ」

「……何やの」

「許してのぞみん♪」

「……そんな可愛い声で言っても、高いの頼むからね」

「ほらほら、にっこにっこにー!」

「……」

うーん、妹達ならこれでキャッキャと喜んでくれるのだけど、流石に駄目か。

このままでは本当にたっかいパフェを頼まれてしまう。

31: 2015/01/19(月) 00:19:08.84 ID:85Qq+LxV.net
他に希の機嫌を直せるようなことと言ったら、今回のこうなった発端になったアレくらいかな。

実は、μ’sにも余裕が出てきたし、そろそろいいかなとは思っていたのだ。

「あーあ。高いパフェ頼んじゃったら、ノート買うお金なくなっちゃうんだけど」

「……?」

「新しいノート、切れてたでしょ?」

ここまで言えば、勘の良い希ならわかるだろう。

お笑い研究をやめたときに、ネタ帳に使っていたノートをちょうど使いきっていたことを。

32: 2015/01/19(月) 00:20:04.42 ID:85Qq+LxV.net
「にこっち、それって」

「私はね、希」

あんたに、救われていたことを知っている。

それを口にはしないけど。

報いたいとは思っているんだ。

「たまには、またあんたの練習に付き合ってもいいと思ってる」

「……ほんまに、ええの?」

「いいに決まってるじゃない。私はあんたの、あ、相方なのよ?」

未だに相方という呼称を使うのはちょっと恥ずかしい。

でも、これで機嫌直るはずよね―――って。

33: 2015/01/19(月) 00:21:04.11 ID:85Qq+LxV.net
「に、にこっちぃぃ…。ううっ…ぐすっ…」

「ちょっ、何泣いてんのよ!」

また泣かれてしまった。今日は一体なんなのだろう。

「だって、だってえ……嬉しいんやもん……」

「あーもう泣くの禁止!ほら、パフェ食べに行くわよ!安いのにしてよね」

「まだ、部活中、やけど…ぐすっ」

「ラジオの編集は終わってるし、今日は終わり!部長権限で今決めたわ」

スマホを取り出し、他のメンバーに部活終了の連絡を一方的に送る。

部室の鍵をかけるのは花陽に頼んでおいた。

34: 2015/01/19(月) 00:22:04.51 ID:85Qq+LxV.net
「……ふふ、何なんそれ。横暴やで」

お、やっと泣き止んだわね。

また泣かれたら困るからさっさと連れだそう。

ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪

スマホがやかましい。どうせ絵里か海未からお怒りのメッセージが届いているのだろう。

うるさいので電源をオフにする。

メッセージを返信しない、電話に出ないとなったら近いうちに部室にやってくるだろう。

その前に脱出しなければ。

35: 2015/01/19(月) 00:23:59.36 ID:85Qq+LxV.net
「希、ちんたらしない!誰か来る前にさっさと行くわよ!帰る準備は終わってるわね?」

希の手を掴んで、走りだす。

急激な運動に息が弾んで、なにより心が弾みだしていた。

胸の中に青空が広がった様な気さえするほどに、鼓動が膨らんでいる。

「ほんとに、強引なんやから!」

希の楽しそうな声に、自然と笑みが浮かんでくる。

髪を振り乱しながら、鞄を振り回しながら、廊下を走る私と希。

一度手放してしまった、かけがえのない希との時間。

もう絶対に手放さないからね。



少女が二人。
手をつないで、青春を走っていた。

36: 2015/01/19(月) 00:24:28.18 ID:85Qq+LxV.net
おわり

37: 2015/01/19(月) 00:27:46.11 ID:XRVqUfFK.net
乙さわやかでなんか沁みたわ

43: 2015/01/19(月) 00:43:14.46 ID:85Qq+LxV.net
話の一貫性と展開が急じゃないかが少し自信なかったんだが
どんなもんでしょう?

53: 2015/01/19(月) 23:35:24.73 ID:85Qq+LxV.net
感想アザシター

引用元: にこ「のぞみののぞみ」