1: 2015/01/25(日) 23:33:36.34 ID:a2s0nEis.net
メモ

・書き溜めあり
・細かな部分で勝手な設定あり
・意識的に読みにくくしている部分があります

次より始めます

2: 2015/01/25(日) 23:35:02.38 ID:a2s0nEis.net
―――


海未「今日もμ'sの練習に家での稽古と、活発に動いた良い一日でした」

海未「あとは寝るだけですけど、少しだけ読書でもしましょうか」

海未「ちょうど新しいシリーズ物のミステリーをまとめ買いしたところですし」

海未「……いえ、やはり後日に回しましょう」

海未「少し早い時間かもしれませんが、今日はお休みすることにします」

海未「明日も朝早いですし、休むに越したことはありませんよね」

海未「…………おや、携帯が」

海未「LINE……花陽からですか」

海未「世間的にはまだ起きていてもおかしくない時間ですが、とはいえ夜も遅くにどうしたのでしょう」

海未「……文章ではなく、画像……見てみますか」



花陽『(食卓に並ぶうなぎの蒲焼の画像)』

6: 2015/01/25(日) 23:39:08.56 ID:a2s0nEis.net
海未「……うん?」

海未「鰻……ですね……」

海未「……………………」

海未「待てども文章が送られてこないあたり、花陽の目的はこの画像だけを送ることだったのでしょうか」

海未「意図を測りかねます」

海未「…………夕飯をとってから時間も経っていますし、この時間に鰻の画像とは」

海未「食欲的な意味で、凶悪なものですね……」

海未「と、とりあえず、花陽に返事をしなければなりません」



海未『こんばんは。
   見たところ鰻が食卓に並んでいる画像のようですが、どうかしましたか?』



海未「こんなところでいいですよね」

13: 2015/01/25(日) 23:44:12.81 ID:a2s0nEis.net
海未「食卓の画像を写真に撮るというのは、少々行儀がよろしくない気もするのですが」

海未「ああでも、個人ブログなどで、良く食事の写真を上げている人はいますし」

海未「世間的には普通の行為であって、私が少々厳しく考えすぎなのでしょうか?」

海未「花陽も自宅の食事風景を何気なく撮っただけですかね」

海未「しかし料理の画像を撮るのはいいとして、なぜその画像を私に送ってきたのでしょう?」

海未「私、人様の食事を、画像でもいいから求めているように見間違えられる程、物欲しそうにしていたのでしょうか……」

海未「いえいえまさか、そんな、それこそ花陽や穂乃果や凛じゃありませんし」

海未「…………そうこう考えているうちに返事がきました」



花陽『今日おうちで出た夕御飯の写真です
   美味しそうだったから思わず撮影しちゃったんだ』



海未「まあ……そうですよね」

海未「そのままと言いますか、見ればわかると言いますか」

海未「花陽のことです、そう穿った見方をすることもありませんでしたね」

23: 2015/01/25(日) 23:48:55.08 ID:a2s0nEis.net
海未「しかし……他意はないとしても、この画像を私に送る意図がわからないままです」

海未「自宅の食事風景を撮影して送る……いえ、風景ではなく、その日のメニューを送ってきたということですね」

海未「それを私に送ってくる理由…………」

海未「さては、花陽は私に感想を求めているのでしょうか?」

海未「別段食レポの類を得意にしていると言った覚えはありませんけど……」

海未「ですが、感想を求めているという推測はそう的外れでもない気がしてきました」

海未「人に画像を送るのであれば、何かしらの反応を求めての行為ですよね」

海未「画像を送られてきて、それに対する感想を述べないというのもまた失礼な話です」

海未「ここは一つ、素直に感想を返しておきましょう」



海未『とても美味しそうな鰻ですね。
   表面に塗られたタレは美しさを感じさせる程に艶やかで、濃厚な風味が漂ってくるようです。
   輝きのある表面の中には、鰻の身の窪みがはっきりと見て取れて、豊かな厚みと弾力を感じさせます。
   仄かに沸き立つ湯気からは出来たての暖かさを感じられ、食欲を一層掻き立てますね。
   僅かに山椒をかけただけのシンプルな仕上がりは、鰻本来の魅力を引き立てる良いアクセントです。
   画面端の小皿に映る子ネギと、そしてその横にあるのはミョウガですね、好みに合わせた薬味を選べるのも楽しめます。
   個人的な好みの話になりますが、私は山葵を少し付けて食べるのが好きです。』



海未「……ばっちりです!」

海未「画像から見て取れる内容を連ね、自分の感想も織り交ぜて……レビューとはこういったものですよね」

海未「変なことも言ってませんし、送信しましょう」

26: 2015/01/25(日) 23:53:20.49 ID:a2s0nEis.net
海未「さて、これで感想を求めていたという推測があっていればいいのですが」

海未「…………」

海未「いけません……流石にこの時間帯の、食事の画像というものは……」

海未「もう後は寝るだけだというのに、なぜこうも食欲が沸いてしまうのでしょう」

海未「日頃穂乃果や花陽に食事制限については強く言っているのですから、夜食を取ることなどあってはなりません」

海未「花陽も、せめてもう少し早い時間に画像を送ってくれればいいものを……なぜこんな時間に……」

海未「ふう…………落ち着きましょう。寝る前に感じる食欲というものは、総じて一時的なものです」

海未「世間的にはまだ十分活動的な時間帯かもしれませんし、花陽も他意はないのでしょう」

海未「そう、世間的にはまだ十分活動的な時間帯なんですよね……」

海未「それなら、少しだけなら何か口にしたって…………いえ、やはり落ち着きなさい私」

海未「どの道この時間帯の食事は褒められたものではないでしょう」

海未「…………うん? よもや花陽は、普段からこんな遅い時間に食事をとっているのでしょうか?」

海未「だからこんな時間に画像を送ってきたのでは?」

海未「だとすれば、健康的にも体型的にもよろしくはありません。一度注意を促した方が……」

海未「いやいや早計はいけません。仮にそうだとして、理由があるのかも」

海未「そう、例えば、御家庭の都合だとしたら?」

海未「御両親の帰宅が遅く、食事をとるタイミングが遅れているだけやも」

海未「一概に注意をするのもよくありませんね……そういった事情があるのか、今度聞いてみましょう」

29: 2015/01/25(日) 23:54:59.28 ID:a2s0nEis.net
海未「…………おや、返事がきましたね」

海未「私の感想がおかしくなければよかったのですが……」



花陽『(食卓に並ぶうなぎの茶漬けの画像)』



海未「……………………」

海未「落ち着きましょう」

海未「……鰻、ですね」

海未「続けざまの鰻……御茶漬けですから、食事の締めといったところでしょうか」

海未「………………美味しそう」

海未「はっ! 私、今なにか言いましたか?」

海未「まさかそんな、食欲に屈するなど、そんなことがあってはなりません」

海未「……あら、花陽から追記が」

30: 2015/01/25(日) 23:58:58.90 ID:a2s0nEis.net
花陽『さっきのうなぎをお茶漬けにしてみたの
   お茶漬けも美味しかったよ

花陽『私の家ではうなぎにわさびはつけないから今度やってみるね』



海未「やはり先ほどの食事の続きでしたね」

海未「ですが、先ほどの蒲焼の時点で、十分白米が盛られていたような……その後にまだこれだけ食すのでしょうか?」

海未「やはりここは改めて、花陽に食事制限の徹底を…………」

海未「いえ、今考えるのはそこではありません」

海未「なぜ今度は鰻の御茶漬け画像を私に送ってきたのでしょう……」

海未「先程同様、再び私に食事レビューをしろ、ということでしょうか?」

海未「つまり先程の私の感想は、そう悪いものではなかった、ということですかね…………ふふっ」

海未「いや喜んでいる場合ではありません。結局花陽の意図はわからないままです」

海未「一体なぜこんな画像を……やはり感想を求めてるとしか思えませんが」

海未「まずは一言感想を述べておきましょう。画像に触れずにおくのはやはり失礼でしょうし」

35: 2015/01/26(月) 00:02:49.72 ID:nX9gwuv/.net
海未『先程の蒲焼とはまた異なる魅力のあるメニューですね。
   湿ったことにより色合いが増したのか、鰻の身と白米とのコントラストが際立っています。
   また、お茶をかけられたことで鰻の身がしっとりとして、より柔らかな食感を予感させます。
   御茶漬けでの食し方では、先程の子ネギやミョウガといった薬味が一層効果的な味わいや食感を生み出すことでしょう。
   お茶の熱さで湯気が激しく立ち上っていて、温かみのある家庭的料理の色合いが強まりましたね。
   鰻の御茶漬けでは、お茶もいいですが、白湯をかけることでも、鰻本来の味わいを一層感じられてまた一興です。
   私は御茶漬けでは梅が好きなのですが、以前鰻と合わせてみたところ、鰻との相性も面白いものでしたよ。』



海未「手短に書いてしまいましたがこんなところでしょう」

海未「そうだ、付け加えておかなければ……」



海未『ところで、なぜ私にこうした素敵な料理の画像を送ってくれたのでしょうか?』



海未「この言い回しなら、画像を送ってきたことが迷惑ではないのだよ、と受け取ってもらえますよね」

海未「事実素敵な料理画像でしたし、いたずらに褒めているわけでもなく、迷惑でもありません」

海未「ただ……こちらにまで食欲が伝播してしまうことが問題なだけで」

海未「正確には食欲が移ることではなく、食事を取るべきではない時間帯に食欲を感じてしまうことが問題なのですが……」

海未「……………………」

海未「……いけませんっ! いけませんよ、園田海未! 何を考えているのです! 我慢しなさい!」

39: 2015/01/26(月) 00:07:18.75 ID:nX9gwuv/.net
海未「……ほら、不必要な葛藤をしている間に返事がきてしまったではありませんか」



花陽『とっても美味しかったしとっても素敵な料理だったから送りたくなったの』

花陽『そろそろ海未ちゃんは寝る時間だよね
   おやすみなさい』



海未「こちらの就寝時間は把握しているようですね」

海未「そうであるならなぜこの時間帯に……お陰で食欲が……」

海未「花陽のことですから、純粋に好きなものを誰かと共有したかっただけなのでしょうけど」

海未「私が寝る直前に画像を見て、沸き上がる食欲に対し煩悶することまでは考えていないのでしょうね」

海未「……さあ、改めて冷静になりましょう。ここで屈服するわけがないでしょうに」

海未「花陽から素敵な画像が送られてきた。それが偶然寝る直前だった」

海未「それだけのことです」

海未「ここで下手に我慢したり意地を張るようなら、花陽に対して、それこそ不必要な怨み辛みを抱いてしまうではないですか」

海未「私が多少なり煩悶したのは己の未熟さ故です。己を顧みて、反省しましょう」

海未「さあ、いい時間になりました。今日は休んで、また明日に備えましょうか」

海未「…………ああ、そうですね。忘れていました」

海未「良い画像でした、ありがとうございます、おやすみなさい……と。よし、これでいいでしょう」

45: 2015/01/26(月) 00:11:42.89 ID:nX9gwuv/.net
区切る予定でしたが
飯テロ画像が面白いので
30分程度休憩入れた後もう一章分くらい続けます

60: 2015/01/26(月) 00:44:05.51 ID:nX9gwuv/.net
―――


海未「結局先日の花陽の画像は何だったのでしょうね」

海未「花陽に聞いても、ただ送りたくなっただけ、としか答えてもらえませんでしたけど」

海未「明らかに花陽の態度に含みがあったんですよね……なにか、意味ありげな様子で」

海未「あの手この手で聞き出そうとしても頑として答えてもらえませんでしたし」

海未「そのうち何の話か理解していないのに、凛とにこが面白がって花陽にまとわりついてきて」

海未「強引な聞き方に塞ぎ込んでしまった花陽を、終いにはくすぐったり、服を脱がそうとしたりして」

海未「おかげで花陽が困っていたので助けなくてはなりませんでした」

海未「まったく、あの二人は悪ふざけが過ぎるのです」

海未「とは言えきっかけは、私が花陽から色々と聞き出そうとしたことでしたね……」

海未「凛とにこから助けた際に花陽から礼を言われましたけど」

海未「むしろ私は侘びを入れるべきかもしれません」

海未「…………ですが、あのときは有耶無耶にしてしまいましたけど、そもそもは花陽の画像が原因じゃないですか」

海未「食べ物の画像を送りたくなっただけ、とは、とても思えないのですが……」

62: 2015/01/26(月) 00:48:07.55 ID:nX9gwuv/.net
海未「ううむ、どことなく疑い深くなっていますね」

海未「先日は遅い時間帯での食欲を押さえつけるために色々思い巡らせたせいか、なにかと考えすぎてしまいました」

海未「そういえば、小泉家は別段遅い時間に夕飯をとる家庭環境ではないとのことでしたね」

海未「健康を損なう食習慣ではなくてよかったです」

海未「……しかし、なればこそやはり、先日あの時間帯にわざわざ食事画像を送ってきたのには理由が……?」

海未「ええい、そんなことはありません! 花陽を疑うなど、疑心暗鬼の極みです」

海未「駄目ですね、先日のように、起きていると無駄な考えばかり浮かんできます」

海未「こんな日はさっさと寝ましょう。明日は弓道部の朝練に顔を出さなければいけないのですから」

海未「…………おや。携帯が」

海未「遅い時間になんでしょう…………また花陽がLINEで何か送ってきたんですかね。なんて、ふふっ」

海未「…………」

海未「……本当に花陽がLINEで画像を送ってきました」

海未「と、とりあえず見てみましょう」

63: 2015/01/26(月) 00:50:04.82 ID:nX9gwuv/.net
花陽『(食卓に並んだ水羊羹の画像)』



海未「また食べ物の画像……背景からして、先日同様花陽の御自宅でしょう」

海未「これは、羊羹……いえ、このツヤと形状からして…………」



海未『こんばんは。
   いつぞやの様に深い時間帯での食事画像ですね。
   今回は食後のデザートでしょうか。
   こちらは学校の近所にある有名な老舗の和菓子屋で売っている水羊羹ですか?』



海未「この形には見覚えがあります」

海未「お母様がよく買ってきてくれますし、個人的にもたまに買いに行きますからね」

海未「穂むらのお饅頭には勝てませんが、それでもこちらの水羊羹は絶品です」

66: 2015/01/26(月) 00:59:08.49 ID:nX9gwuv/.net
海未「ところで花陽は、実は私は和菓子の中でも水羊羹が一番好きだと知っていて、この画像を送ってきたのでしょうか?」

海未「一番好きな和菓子が水羊羹だとは、意識して言わずにいるつもりなのですが」

海未「間違ってでも口にしたら、穂むらのお饅頭はどうなのだと穂乃果が口うるさく迫って来ますからね……」

海未「……返事がきました」



花陽『凄いね見ただけでわかるんだね
   そうなのあのお店の水ようかんだよ』

花陽『今日おみやげでもらったんだ
   とっても甘くて美味しかったよ』



海未「ふむ。私の水羊羹好きを意識した上で、というわけではなさそうですね」

海未「……そんなことより、問題は、やはりこの時間帯での食べ物画像です……しかも好物ときています」

海未「うう、空腹が……」

68: 2015/01/26(月) 01:05:59.01 ID:nX9gwuv/.net
海未「はあ……下手に考え込む前に、まずは一言だけでも感想を述べておきましょう」

海未「先日同様に食べ物の画像を送ってきたのですから、また同様に感想を返せばいいですよね」

海未「この水羊羹に関してなら色々と言えることもあるでしょう」



海未『近隣では随分と有名な和菓子屋ですし、我が家でもよく出されるのです。
   こちらの水羊羹の何が良いかと言えば、まずはその見た目の素晴らしさでしょう。
   餡のツヤやかさはとても美しく、本来暗い色合いである餡は、光を浴びれば輝かん程の光沢に包まれます。
   見た目からも感じられる質感の柔らかさは水羊羹の特徴でもあり、普通の羊羹との差の一つですね。
   楊枝を入れれば抵抗感無く切れてしまう程の柔らかさは、口にする前から舌触りの滑らかさを想起させます。
   口に含めば、真っ先に感じる餡の甘い香りはそれだけで胸を満たしますね。
   そしてその香りに負けない程の甘味は、舌に触れた瞬間に口の中全域に広がり、更なる充足感を与えてくれます。
   口にするとすぐに溶けてしまう餡は、それでいて後味をしっかりと残し、且つ、くどさを全く感じさせません。
   一口で十分満足できると同時に次の一口を求めてしまうという、魅惑のひと品だと私は思っています。
   花陽の御家庭で出された水羊羹は、特に混ざりけのないプレーンなもののようですね。
   個人的なお勧めは豆入りの水羊羹で、こちらは餡と豆の食感のアクセントが強く感じられるものです。
   和菓子は味が凝縮されている分、飽きがきやすいと言われる食べ物です。
   味や食感に変化が欲しい時などは是非とも御賞味下さい。』
   


海未「ふむ。今回は多少なりまともな文面になったでしょうか」

海未「実際に口にしたことのある商品というのは強みですね」

海未「食事のレビューというよりは、商品のレポートのようになりましたが、良しとしましょう」

海未「そもそも画像に対する感想ですから、形態に括りなどありませんよね」

70: 2015/01/26(月) 01:12:07.71 ID:nX9gwuv/.net
海未「思いがけず熱の篭ったレビューを送ってしまった分、食べたいという欲求が余計に沸いてきてしまいました」

海未「ですが無論のこと口にすることはできません」

海未「そもそもこんな遅い時間にお店は開いていませんし」

海未「…………もしかしたら、都合良く買い置きが家にあったりして……」

海未「……はっ!」

海未「いけません! 何を考えているのですか私は!」

海未「仮に、万が一、何かの間違いでそんなことがあったとしても、口にしてはいけないのです!」

海未「そうです、それにまさか、本当に家に置いてあるわけないじゃないですか」

海未「……ああ、しかしながら、この湧き上がる食欲は無視することができません」

海未「水羊羹がなくても、台所に行けば、何かしら口にするものはあるのでしょうね……」

海未「っ……! だから、それがいけないのだと! 言っているのに!」

海未「物の内容ではなく、タイミングがいけないのです!」

海未「……わかりました、食べましょう。ですが明日の話です」

海未「明日、自分で水羊羹を買えばいいだけのこと」

海未「ですから今日は食べ物のことを忘れ、さっさと寝てしまえばいいのです」

海未「大体、先日といい今日といい、なぜ花陽はこの時間帯になって食べ物の画像を送ってくるのでしょうか」

72: 2015/01/26(月) 01:15:27.00 ID:nX9gwuv/.net
海未「…………返事がきませんね」

海未「今回の水羊羹は事前知識がある分、前回よりはまともな感想を送れたと自負しているのですが……」

海未「ま、まあ、感想を求めているのは花陽の方です」

海未「私が感想文の反応を求めるべきではありませんね」

海未「何だかんだで深い時間、花陽だって今日は眠ってしまったのかも…………あ」

海未「返事がきました! どれどれ見てみましょう」



花陽『へえー海未ちゃん詳しいんだね
   また今度なにか送るね』



海未「……………………これだけっ!?」

76: 2015/01/26(月) 01:21:25.74 ID:nX9gwuv/.net
海未「……い、いえ、ですから、感想が返ってくることを私が期待すること自体間違っているのです」

海未「返事が短くても、だからそれがなにというわけでは決してなく……」

海未「…………」

海未「なんでしょう、食欲を抑え付けるストレスのせいで、神経が過敏にでもなっているのでしょうか」

海未「花陽からの返事の簡素さ具合に思いの外ショックを受けています」

海未「……」

海未「結構、頑張って、まともなことを書けたと思ったんですが…………」

海未「…………」

海未「こらこら! 何を勝手に落ち込んでいるのでしょう」

海未「個人的な手応えと相手方の受け取り方に差異が生じるのはすべからく世の理ではありませんか」

海未「そうです、そもそもは花陽が食べ物の画像を私に送り、私がそれに感想を返すだけなのです」

海未「今回もそうしたコミュニケーションが取れたのだから、何ら問題はありません」

海未「……強いていえば、この溢れ出る食欲が問題ですが」

海未「まあそれはよしとしましょう。寝てしまえば過ぎ去ることです」

海未「明日も早いですし、余計なことを忘れるためにも寝ましょうか」

78: 2015/01/26(月) 01:26:09.75 ID:nX9gwuv/.net
海未「……結局、花陽はなぜ私に食べ物の画像を送ってくるのでしょう」

海未「この手の画像なら、例えば凛の方がよほど喜ぶと思うのですが」

海未「時間帯さえ気にしなければ気にかける程のことでもありませんが、その時間帯が問題なんですよね」

海未「先ほどの花陽からの返事には、また送る、とありましたけど」

海未「今後も同様のことがあるのでしょうか?」

海未「食べ物の画像が送られること自体は、何も問題もないんですけど」

海未「……せめて今後は、もう少し早い時間帯に届くことを祈りましょう」

海未「さて、明日も忙しいです。ゆっくり休んで、体力を養いましょうか」

海未「…………ああそうだ、また忘れるところでした」

海未「また送られるようなら期待しています、と……よし」

海未「おやすみなさい」

121: 2015/01/26(月) 23:27:25.54 ID:nX9gwuv/.net
―――


海未「予習をしていたら、割と時間が経っていました」

海未「今日はこのあたりで切り上げて、そろそろ寝ましょう」

海未「…………」

海未「どうにも最近、夜の深い時間になると、花陽から食べ物の画像が届くのではないかとそわそわします」

海未「まあ気にしてもどうにもなりませんし、必ずしも毎日画像が送られるわけでもありません」

海未「勤めて意識することもないですね」

海未「……ああ、夜遅い時間と言えば、最近花陽が夜に眠れないとか」

海未「私は寝付きがよいので、何か秘訣はあるのかと聞かれましたけど」

海未「話を伺う限り、不眠症等の類ではなく、どうやら花陽は最近懸案事項に悩まされているようでしたね」

海未「何に悩んでいるのかはわかりませんが、物事を後ろ向きに考えがちな花陽のことです」

海未「夜寝る際など、一人で物思いに耽り、マイナス思考に陥るのでしょう」

海未「一人で考えて、不安になって、どうにも気にかかって眠れなくなるケースです」

海未「そういう人の場合、悩みを抱え込まず、誰かに話を聞いてもらうのがいいですよね」

海未「花陽もそのようにしてみると言っていましたが、その後の経過はどうなったのでしょうか」

海未「多少なり悩みを解決できたのならいいのですが」

海未「また何かしら悩みがあれば、その都度花陽の話を伺ってみましょう」

122: 2015/01/26(月) 23:30:49.01 ID:nX9gwuv/.net
海未「…………色々考えていても、花陽からの画像が届く気配はありませんね」

海未「私も余計なことを考えすぎなのかもしれません」

海未「花陽と同じ傾向ですね、ふふっ」

海未「食べ物の画像といえば、今日希から面白い話を聞きました」

海未「食欲が沸いても実際食事をするのを躊躇うような時間帯に、不意に料理画像を見せつける行為」

海未「これを、俗に飯テロと言うのだとか」

海未「……疑うまでもなく、花陽が私に画像を送ってくる行為も該当しますよね?」

海未「ですが、仮にもテロだなんて物騒な言葉が付いている行為です」

海未「そのような悪意を花陽が持っているとは思えません」

海未「希はよく絵里に飯テロ画像を送り、半々の割合で呆れられるか激怒されるかと言っていましたけど」

海未「希が行う飯テロ行為は悪戯の類なのでしょう」

海未「さて、では花陽が私に飯テロを行っているとして、そこにはどんな意図があるのでしょうか?」

海未「無差別な飯テロを児戯の如く行っているのか、あるいは私に焦点を絞った企みなのか」

海未「…………まるで見当がつきません」

123: 2015/01/26(月) 23:33:09.99 ID:nX9gwuv/.net
海未「……おや、携帯に反応が」

海未「あ、反射的にタップしてしまいました、けど……LINEの、画像……」



花陽『(食卓に並ぶチャーハンの画像)』



海未「…………きました、か」

海未「噂をすれば何とやらと言いますが……いやしかし、これは由々しき問題です」

海未「だって、チャーハンですよ?」

海未「こんなのどう見たって美味しそうではありませんか!」

海未「ああ、意識してはいけないと思えば思うほど、内から沸き上がる食欲の憎さよ」

海未「日々絶えず研鑽を積んでいる自負がありましたが、予想外の観点から己の未熟さを感じさせられますね」

124: 2015/01/26(月) 23:39:44.91 ID:nX9gwuv/.net
海未「さあ切り替えましょう。本日の相手はチャーハンです」

海未「今回は最初から料理についで触れるのではなく、画像を送る意図でも探ってみましょうか」



海未『こんばんは。
   今回も実に美味しそうな料理画像ですね。
   本日の御自宅で出された料理でしょうか?
   食事風景の楽しさをお裾分けしていただいているようで嬉しいです。
   ところで、なぜ何度も私にこうした画像を送ってもらえるのでしょう?』



海未「ふむ……特に失礼にあたる表現はないでしょう」

海未「根本的な疑問があるのなら、最初からそこをきちんと説明してもらっていればよかったですね」

海未「私としたことがアプローチの仕方を間違えてしまいました」

海未「この判断力の乱れは、飯テロ画像の引き起こす魔力なのでしょうか……?」

海未「っと、花陽からの反応が早いですね、もう返事がきました」



花陽『(チャーハンがレンゲに掬われてアップになっている画像)』



海未「…………」

海未「へん、じ?」

128: 2015/01/26(月) 23:46:08.35 ID:nX9gwuv/.net
海未「落ち着くのです園田海未」

海未「どうにも上手くいきませんね……この違和感の原因はなんでしょう」

海未「……考えずとも、花陽と真っ当なコミュニケーションを取れていないことにありますね」

海未「私の問いに対して、なぜ新たな飯テロ画像を?」

海未「…………」

海未「……美味しそう」

海未「いやいやいやいや駄目ですよ! こうなっては花陽の思うツボです!」

海未「いえ私を飯テロ画像にかぶりつかせようと花陽が意図してるかわからないので思うツボなのかどうかハッキリしませんけど」

海未「…………そんなことどうだっていいです」

海未「はあ、どうにも調子が狂います……この時間帯のチャーハン画像は、もはや試練ですよ」

海未「しかし、冷静になると、これはこれで困りものですね」

海未「二枚目の画像に対する返事、一体何を返せばいいのでしょう?」

海未「先程の私の問いは無視された形ですし、それを繰り返すというのもなんだかしつこいようで……」

海未「これまで通りに感想レビューを送ったところで、私に飯テロ画像を送る理由は解明されません」

海未「はて、これは悩みどころです……」

130: 2015/01/26(月) 23:50:12.10 ID:nX9gwuv/.net
海未「うーん……………………」

海未「…………おや?」

海未「先に花陽からLINEがきましたね……ちょっと悩みすぎたのでしょうか」

海未「何かしら飯テロ画像のフォローがあればいいのですが」

海未「……ん?」



花陽『(先程とは違うチャーハンの画像)』



海未「……………………」

海未「…………あら、連投でまた何かきました」



花陽『(二つ目のチャーハンがレンゲに掬われてアップになっている画像)』



海未「えー…………」

海未「わけがわかりません」

132: 2015/01/26(月) 23:56:46.58 ID:nX9gwuv/.net
海未『本日の食事風景ではなかったのですね?
   花陽は普段からチャーハン画像を保存しているのでしょうか?』



海未「反射的に思ったことをストレートに聞いてしまいましたけど……」

海未「これまでこちらからの問いは、なぜかはぐらかされますし」

海未「また新しいチャーハンの画像で返事替わりにされてしまったらどうしましょう……」

海未「まさか三つ目なんてそんな……おや、もう返事が。今日は全体的に早いですね」



花陽『チャーハンじゃなくても
   美味しそうな料理や商品はよく画像で残してるよ
   見ていて美味しそうだなって思う画像って幸せになるよね』

花陽『海未ちゃんは美味しそうな食べ物の画像って
   見ていて良いなって思わない?』



海未「やっと文章で返してくれました……」

海未「なるほど、食事風景の画像収集は、花陽の趣味のようなものでしたか」

海未「単に食欲を補完する実利目的だけではなく、暖かさやのどかさ、幸福感が伝わってくる画像ばかりですものね」

海未「画像から、花陽の朗らかな性格が感じ取れるようです」

135: 2015/01/26(月) 23:59:48.34 ID:nX9gwuv/.net
海未「どうにも私の問いからはズレてきていますが……花陽の話に合わせるとしましょう」



海未『確かに食べ物の画像というものはいいですね。
   見ているだけで味覚を刺激させるような魅力があります。
   料理の画像の中には美しい見た目の物も多く、視覚的な楽しみ方もできますね。
   過去に実際に食した料理の画像などを見れば、かつて口にした時の感動を追体験できるようです。
   私も料理画像は見ていて楽しいと思いますよ。』



海未「こうして自分の考えを文にしてみるとわかってきますね」

海未「花陽が私に食べ物の画像を送ってくるのは、純粋に好きなものを共有したいという考え方な気がします」

海未「何かしら良いと思った画像をLINEなどで友人知人に送る行為はごく自然のものです」

海未「私だって料理画像は良いと思いますし、食事が好きな花陽なら尚更のこと」

海未「食べ物の画像を見て嫌な気になる人もそういないでしょう」

海未「……まあ、画像を送る対象がなぜ私なのか、という疑問は残ったままなのですけれど」

海未「さて、花陽の反応はどういったものでしょうか」



花陽『海未ちゃんも食べ物の画像が好きみたいでよかったあ』

花陽『また今度良い料理の画像があったら送るね』



海未「やはり、自分の好きなものを共有したいという心理ですね」

海未「花陽のことです、純粋に捉えてみればすぐわかることでした」

136: 2015/01/27(火) 00:04:54.79 ID:ui6aW1uy.net
海未「希から飯テロなんていう、響きが物騒な言葉を教えてもらったせいか、変に構えてしまいましたが」

海未「画像を送ってくる意図はいたって普通の理由のようですね」

海未「自分の好きなものを共有したいという欲求なんて、いたって普通の感情ではありませんか」

海未「…………なぜ画像を送る相手が私なのか、聞きそびれましたけど」

海未「とはいえ今日のところは良しとしましょう」

海未「LINE上では食べ物の画像で曖昧にはぐらかされても」

海未「後日、直接花陽に聞いてみてもいいでしょうし」

海未「……まあ、最初に飯テロ画像を送られてきた際」

海未「花陽に直接理由を聞いても、やっぱりはぐらかされましたけどね」

海未「答えてもらえない理由……隠す程の理由があるのでしょうか?」

海未「……おや、予想外に時間が経っていましたね」

海未「今日も休む直前に盛り上がってしまいましたが、睡眠時間をいたずらに削ることはできません」

海未「そろそろお休みするとしましょう」

137: 2015/01/27(火) 00:08:11.86 ID:ui6aW1uy.net
海未「…………ああ、そうです、また忘れるところでした」



海未『料理画像は食欲を代替的に保管してくれるので、苦手な人は少ないでしょうね。
   食に関してのこだわりが強い花陽のことです、また素敵な画像を送ってもらえると期待しています。
   そして遅ればせながら、本日のチャーハン画像もとても素敵なものでしたよ。
   一つ目のチャーハンは典型的な中華料理風の見た目で、形も綺麗な半球型に盛られていましたね。
   家庭料理では割と難しいとされている卵の処理も上手くいったのでしょう、黄金色に輝く米粒は美しいの一言でした。
   具材も人参、ピーマン、玉ねぎ、ベーコンと、スタンダートながらも色合いの良いラインナップですね。
   美しさと馴染みやすさの合わせ技で、美味しさをわかりやすく、そして力強く想起させるひと品です。
   レンゲで掬った画像から沸き立つ湯気の量からも、熱と香りが漂ってくるかのようでした。』

海未『二つ目のチャーハンはまた一味違った和風チャーハンですね。
   具材もしらす、わかめ、ひじき、ツナと一風変わったもので、面白味があります。
   一見して見た目が淡白になりがちですが、上に鰹節と子ネギが乗ることで見た目を補うと同時に、香りも豊かにしていますね。
   アップの画像で見えるご飯の色合いから、おそらくめんつゆでの下味を行ったのでしょう。
   和風の要素が更に強まり、個性的な料理だと感じました。
   先ほどの中華風とは違って米粒がしっとりしていますが、和風チャーハンとしてはこれもまた良いのかもしれません。
   チャーハンを典型的な中華風のイメージで捉えている方には是非ともお勧めして欲しいひと品でした。
   さて、中々に深い時間になってきましたので、本日はお先に失礼しようと思います。
   また明日、練習の際にでもお会いましょう。
   おやすみなさい。』



海未「これでよし」

145: 2015/01/27(火) 00:35:42.64 ID:ui6aW1uy.net
―――


海未「…………ふう、良いミステリー小説でした」

海未「仕掛け自体は簡単且つ有り体なものでしたが、それ故に愛らしく、親しみやすさがありますね」

海未「こちらの作者さんはこの手の仕掛けが得意なのでしょう、前回のシリーズもそのような感じでした」

海未「少し前に、花陽にお勧めの作家や作品を聞かれましたけど」

海未「読書入門として適切だと思い、前回のシリーズものを貸しましたね」

海未「毎日μ'sのダンスレッスンに追われて大変かもしれませんが」

海未「花陽も少しずつ読んでもらえれば、共通の読書話ができるようになるので楽しみです」

海未「読書、特に小説の話となると、共通の話題を探すのが大変ですからね」

海未「余りにも世に出る作品が多く、世間的な話題作くらいでしか共通の読書体験ができません」

海未「それでもことりや花陽でしたらいざ知らず、穂乃果などはその手の話題作ですら読まないんですから……」

海未「まあ、本来読書とは個人で完結できる行為ではありますけど」

海未「それでも同士を求める思いは自然と溢れ出るものなのです……」

147: 2015/01/27(火) 00:41:12.07 ID:ui6aW1uy.net
海未「はて、一冊読み終わってもまだこんな時間ですか」

海未「μ'sの練習も休み、弓道部も休み、となると、随分と時間が空きますね」

海未「誰かとどこかに出向くこともなく、なんとなく今日はすぐに帰宅して」

海未「それならば今日は徹底的に体を休める日にしようと決めたものの」

海未「家でのトレーニングも稽古ごともできなくなりますし、随分とやることが限られます」

海未「それなら久しぶりに読書でも、と思いましたが」

海未「いい時間潰しにはなっても、流石に時間を持て余します」

海未「かと言って、シリーズの続きを読むには夕飯の時間が近いですし」

海未「夕飯の支度を手伝おうにも、お母様には今日くらいゆっくりするといいと言われましたし」

海未「どうしたものでしょう……」

148: 2015/01/27(火) 00:43:55.58 ID:ui6aW1uy.net
海未「ん、携帯が」

海未「なんでしょう……花陽からのLINEですか」

海未「…………」

海未「花陽、LINE、とくると、近頃では飯テロ画像を連想してしまいますけど……」

海未「とはいえ飯テロは普段は夜遅くにきますし、今は夕飯時です」

海未「流石に別件でしょう」



花陽『(パックに入った焼きそばが三つ並ぶ画像)』



海未「…………」

海未「定形を破ってきましたね……」

153: 2015/01/27(火) 00:53:59.33 ID:ui6aW1uy.net
海未「本日の飯テロは、今までと違って深夜帯ではありませんね」

海未「しかしながら、夕飯前ということもあり、食欲が沸き出してきて堪りません」

海未「ああ、早く夕飯の支度は整いませんでしょうか……」

海未「こんなことならお母様の言葉に甘えず、私も支度を手伝えばよかったです」

海未「……おや、よく見るとこの焼きそば画像、どうも屋外で撮ったようですね」

海未「そういえば今日、帰りに凛が確か…………」

海未「ふむ。野外で、パックに入った焼きそば、ということも加味すると、こういうことでしょうか」



海未『こんばんは。
   パックに入った焼きそば、という画は親しみを覚えますね。
   今日の学校帰り、凛が夕方から縁日があると言っていましたが、そちらに出向いているのですか?』



海未「思い返せば、凛が縁日のことを楽しそうに話していましたね」

海未「μ'sの練習もなかったことですし、たまの羽休め、いえ、羽を伸ばしに行ったのでしょう」

155: 2015/01/27(火) 00:58:20.78 ID:ui6aW1uy.net
花陽『そうなの今お祭りに来てて焼きそばを食べてるんだ
   凛ちゃんと真姫ちゃんも一緒なの』



海未「凛と真姫も一緒ですか、ふふ、微笑ましいです」

海未「花陽や凛のことです、縁日では屋台などの出店を主目的に捉えているのでしょう」

海未「縁日とは、元は参詣するにあたり縁の良い日のことですが」

海未「現代的な捉え方では出店ありきですものね」

海未「かく言う私も以前、穂乃果とことりと一緒にお祭り目的で縁日に行きましたね」

海未「確か、示し合わせたはずがことりと私だけ浴衣で行って、穂乃果だけ私服のままで」

海未「それに拗ねた穂乃果が屋台の出し物をやけ食いしている一方、私とことりは水風船を釣って遊んだりして」

海未「すると私たちだけが水風船を持っていることに穂乃果は余計拗ねてしまって」

海未「でも私たちが屋台の食べ物をあげると、あっという間に機嫌を直していました」

海未「ふふっ、なんだか懐かしいです」

156: 2015/01/27(火) 01:05:00.67 ID:ui6aW1uy.net
海未「思い出に一頻り浸ったところで、送られてきた焼きそば画像の対処をしましょうか」

海未「また随分と撮り方が上手ですね……夕飯前の空腹もあって、食欲が凄まじいことに……」

海未「いけません、見ているだけではよだれが止まらず酷いことになります」

海未「例の如く画像に対する返信でもしましょう」



海未『焼きそばは縁日に並ぶ屋台の中でも定番メニューですね。
   花陽が買ったものはスタンダートなソース焼きそばですか。
   定番メニューだけに美味しそうな様子が画像越しにも素直に伝わってきます。
   中央に盛られた紅しょうがは赤味が強く、色映えがして良いですね。
   大量に振りかけられた青のりも風味を豊かにしてくれるので、これくらいかけてあると嬉しいです。
   こうした食べ物は、ふと思い出してみては食べたくなります。』



海未「ああ、なんだか縁日に行きたくなってきました」

海未「せっかくの休養日和でしたけど、どこかに出向いてみてもよかったかもしれません」

海未「学生のうちですから、遊び事であっても、様々な物事に触れておきたいところです」

海未「今度みんなと一緒にどこかへ……ああ、返事がきました」

海未「縁日にいるというのなら、また食べ物の画像ですかね」



花陽『(パックに入った焼きそばの画像)』



海未「……うん?」

157: 2015/01/27(火) 01:09:56.53 ID:ui6aW1uy.net
海未「食べ物の画像ではありますけど……また焼きそば、ですか」

海未「個数は一つ、麺の色合いも違いますし、先程とは別の焼きそばですよね」

海未「麺の色がプレーンに近く、具にエビやイカが入っているあたり、塩焼きそばでしょうか」

海未「塩焼きそば、好きなんですよね……」

海未「素材の旨みをより一層強く感じられますし、海鮮との相性もバッチリです」

海未「名前が海未だけあってか、どうにも魚介類には弱いんです」

海未「しかしまた焼きそば画像とは……別の屋台で買ったのでしょうか」

海未「花陽はそこまで焼きそばが好物でしたっけ?」

海未「……いえ、よく見たら、背景が先程の場所とは違うようですね」

海未「ということは……今花陽たちがいる縁日の場ではなく、過去に花陽が撮影した画像ということでしょうか?」

158: 2015/01/27(火) 01:16:56.00 ID:ui6aW1uy.net
海未『先程とは別の焼きそばですよね。
   そして撮影した場所も別のところのようです。
   わざわざ過去の画像を送ってもらったのでしょうか?
   普段から縁日などに行った際も、焼きそばの画像などを保存しているのですか?』



海未「まあ、そういうことなんでしょうね……」



花陽『前に別のお祭りで行ったときに食べた焼きそばだよ』

花陽『お祭りとかに行って出店とかを回ると
   食べ物が全部美味しそうでいつも画像に残しちゃうの』



海未「まあ、そういうことでしょうね……」

海未「しかし、わざわざ過去の画像を漁って送ってくるとは予想外です」

海未「先日のチャーハンの飯テロ画像では、同じ品目の画像を連投するのもまだわかりますけど」

海未「今回は周囲に焼きそば以外の出店も数多くあるでしょうに、わざわざ同じ料理画像を送ってくるとは」

海未「同じ品目を続けることにこだわりでもあるのでしょうか……」

海未「おや、そうこう考えているうちにまた画像がきました」



花陽『(パックに入った焼きそばの画像)』



海未「……………………」

159: 2015/01/27(火) 01:22:38.45 ID:ui6aW1uy.net
海未「これ…………は……」

海未「ま、また、違う焼きそばの画像ですね」

海未「一枚目同様ソース焼きそばですが、なんと上に目玉焼きが乗っています」

海未「たまに屋台でもこの手の焼きそばを見ますが、これだけで随分と豪華さが増すんですよね」

海未「目玉焼きとソースの相性も素晴らしく、更に焼きそばも楽しめるという、一度に二種類の贅沢な味わいができます」

海未「ああ、こんなボリューミーな画像を見せられて、一体どう返事をしましょうか」

海未「…………画像を見ながら考えていると、余計に空腹が……」

海未「夕飯の支度はまだでしょうか」

海未「……なんだか、夕飯をせっつくなんて、卑しい人間のようです」

海未「今は夕飯を我慢しつつ、花陽に返事でもしましょう」

海未「また感想でも……おや、また着信ですか?」



花陽『(パックに入った焼きそばの画像)』



海未「…………っ!」

161: 2015/01/27(火) 01:28:10.67 ID:ui6aW1uy.net
海未「今度はマヨネーズがたっぷりかかった焼きそばですか」

海未「しかもタコさんウィンナー入り!」

海未「マヨネーズがかかった焼きそばはまろやかさとコクが増して、食べると胃も心も満たされるのです」

海未「普段はカ口リーを気にしてあまり口にしませんが、その分いざ食べるとなると、凄まじい幸福感を覚えます」

海未「そしてタコさんウィンナーの愛らしくも美味しさを予感させる存在感ときたら!」

海未「ああ! お腹が空きました! 夕飯はまだでしょうか!?」

海未「くう……こんな、自分が卑しく小さな人間だと思い知らされるとは……おのれ花陽!」

海未「拷問か何かなのですか……」

海未「……………………お腹が空きすぎて返事をする気も起きません」

海未「いえ、返信はしますけど、今はそんな気分ではないというか、せめて空腹を満たしてからというか」

海未「……花陽は今頃、最初の画像の焼きそばを、凛や真姫と一緒に楽しく食べているのでしょうね」

海未「もしくは、もう別の屋台の出し物でも口にしているのでしょうか」

海未「ああ、屋台の出店で売られる食べ物が次々と浮かんできては、頭のなかをぐるぐると巡っていきます……」

163: 2015/01/27(火) 01:34:50.16 ID:ui6aW1uy.net
海未「……………………はっ!」

海未「うっかり妄想に更けてしまいましたが、携帯の着信で現実に引き戻されました」

海未「着信……また、花陽からのLINEですよね……?」



花陽『(パックに入った焼きそばの画像)』



海未「……ええ、もうわかってましたよ」

海未「いい加減予想がつきますよ! 今日はとことん焼きそばデーだということに!」

海未「次はオムレツ付きの焼きそば、通称オムソバですか!」

海未「目玉焼きとは違った卵の使用法にして、ボリュームと満足感を一層上乗せさせる魅惑のひと品!」

海未「焼きそばのソース、オムレツにマヨネーズ、そしてケチャップをかけるという調味料の三重奏!」

海未「絡み合う味わいは互いを刺激しつつも最終的には見事な調和を見せ魅惑の味わいを生み出します!」

海未「この手のオムソバに定番の具となる豚バラスライスも更にボリューム感を上乗せしますね!」

海未「麺のスルスルと食せる感と対照的な、食べごたえのある肉の歯ごたえ!」

海未「もう見た目からしても味わいからしても、微塵の飽きを感じさせぬとばかりに味と物量の暴力的な侵攻です!」

海未「この圧力に見舞われては、どれほどの空腹感も一撃で打倒されてしまうことでしょう!」

海未「オムソバ…………もはやその存在感は圧倒的且つ暴力的且つ神秘的」

海未「キリストが最後の晩餐として食した場であっても、オムソバであれば、相応しい料理として受け入れられるかもしれませんね……」

167: 2015/01/27(火) 01:40:11.89 ID:ui6aW1uy.net
海未「…………」

海未「……ああ、余りの空腹感に、多少ピントのズレた発想をしていた気がします」

海未「しかもいつの間にか花陽から追記がきてるではありませんか」

海未「そのことにも気づかずにいたとは、余程自制を保てなかったのでしょうか……」

海未「ひとまず追記を確認しましょう」



花陽『焼きそばの画像はこれで終わりです
   凛ちゃんと真姫ちゃんと縁日楽しんでくるね』

花陽『今度海未ちゃんとも縁日とかお祭りに行きたいね』



海未「……」

海未「そうですね、縁日……いいですね」

海未「…………」

海未「でも、今は駄目ですね……空腹が、空腹があ…………」

海未「もうダメです、夕飯の支度を手伝いに行くという名目で、一刻も早く食事の場につきましょう」

海未「花陽への返事はその後でいいです……もう、今日は感想レビューを送る気もおきません」

海未「ああ、夕飯……台所に、支度の手伝いを……ああ……焼きそば……早く、夕飯……」

199: 2015/01/27(火) 22:36:15.49 ID:y2l/4Edz.net
―――


海未「ん…………ふうぅ……」

海未「今日はよく動いた気がしますね、まだ早い時間ですが、いい感じに睡魔がやってきています」

海未「明日の支度も問題ありませんし、素直に寝ましょう」

海未「それではおやすみなさい」

海未「……」

海未「…………」

海未「……………………ん?」

海未「携帯に反応が……寝入る前で助かりました」

海未「電気……付けないでもいいですね、すぐに終わる用事かもしれません」

海未「誰からでしょう……」



花陽『(紫色した歪な形の饅頭状の物がたくさん並んだ画像)』



海未「?」

海未「なんでしょう、コレ」

海未「一応お皿に並んでいますし、食べ物、ですかね?」

200: 2015/01/27(火) 22:42:17.45 ID:y2l/4Edz.net
花陽『今日親戚筋で沖縄の人が来て
   何か料理を作ってもらうことになって作ってもらったの』



海未「やはり食べ物でしたか」

海未「というかいつもの花陽からの飯テロじゃないですか、変なものに捕まってしまいました」

海未「……しかし、何の食べ物かまるで見当がつきません」

海未「紫色で饅頭のような物、となると、和菓子の類ですかね?」



花陽『沖縄の郷土料理で
   ンムクジアンダギーって言うんだって』



海未「ん? え? ん、んむ、ンムくじ……」

海未「噛まずに言える気がしません」

海未「ちょっと、何のことか気になってきました……ひとまず明かりを付けて起きましょう」

205: 2015/01/27(火) 22:48:16.23 ID:y2l/4Edz.net
海未『まるで見聞きしたことのない料理ですが、形状からしてお菓子の類の料理でしょうか?』

花陽『お芋料理だからお芋の甘味はあるけど
   揚げてるから揚げ物になるのかな?

花陽『でもおやつで食べるって言ってたよ』



海未「なるほど、確かアンダギーとは沖縄の言葉で揚げ物を意味しましたか」

海未「おやつ感覚で食すのであれば、サーターアンダギーの類ですかね」

海未「芋料理であるそうですし、サーターアンダギーの芋版、という感じでしょうか?」



花陽『確かにそんな感じだったかも
   サーターアンダギーよりは甘くなかったかな』



海未「なるほど、予想通りですね」



花陽『外はサクッとしてて
   中はもちもちしてたよ』



海未「食感はサーターアンダギーより食べごたえがありそうです」

206: 2015/01/27(火) 22:51:41.43 ID:y2l/4Edz.net
海未『色合いがはっきりとした紫色で鮮やかですね』

花陽『沖縄で取れる紅芋っていうのを
   蒸してからペーストにして作るから
   お芋の色がハッキリと残ってるよね』



海未「紅芋……普段あまり見ないような鮮やかな紫は、沖縄ならではの素材を使用しているからでしょうか」



花陽『沖縄の調理だから初めて食べるけど
   なんとなく懐かしい味がしたんだ』



海未「郷土料理というだけあって、故郷の味、ということなのでしょう」

海未「ふるさとの味というものはそれだけで価値があると言いますが、きっとこの料理もそうなのでしょうね」

海未「……………………」

海未「……困りました」

海未「実際に口にしたことがない料理なので、比較や想像でしかモノを語れません……」

207: 2015/01/27(火) 22:55:31.41 ID:y2l/4Edz.net
海未「はて、どのようにコメントすればよいのでしょう……」

海未「…………」

海未「……ああっ、そうこうしているうちにまた花陽から」



花陽『ほっこりした食べ物のこと考えてたら
   なんだか眠くなってきちゃった
   ちょっと早いけど今日は寝るね』

花陽『また明日学校でね
   おやすみなさい』



海未「何も言い返せないうちに花陽が寝てしまいました……」

海未「とりあえず返信だけして……おやすみなさい、と」

209: 2015/01/27(火) 22:59:30.89 ID:y2l/4Edz.net
海未「ふむ……」

海未「んむ、んむく、ンムクジアンダギー、ですか。結局どのような料理なのでしょう」

海未「紅芋を蒸して捏ねて揚げたもので、郷土料理で、ほっこりした食べ物」

海未「わかるような、わからないような……」

海未「そもそも料理名の時点で謎のある食べ物です。なんですか、『ん』で始まる料理名だなんて」

海未「いえ、沖縄の方では割と普通の言葉かもしれません、無闇に非難するわけには……」

海未「見た目に関しては、あんなに鮮やかな紫色をしていて、蠱惑的な魅力がありましたね」

海未「お饅頭のような見た目でしたけど、食感は硬いのでしょうか、それとも柔らかいのでしょうか」

海未「花陽は、外はサクッと、中はもちもち、と言っていましたね」

海未「もちもち……弾力があるのか、噛みごたえがあるということなのか」

海未「…………なんだか、今までの飯テロと違って、即時的な食への誘惑は幾分かマシですけど」

海未「得体の知れない食べ物の画像を見せ付けられると、それはそれで随分意識を持って行かれます」

海未「あまりに気になりすぎて、睡魔がどこかへいってしまいました」

海未「意味合いは若干違えど、これもまた立派な飯テロなのでしょう」

海未「ああ、このままではンムクジアンダギーに苛まれて、眠れなくなってしまうではありませんか……」

210: 2015/01/27(火) 23:11:18.11 ID:y2l/4Edz.net
―――


海未「ふう……疲れました」

海未「今日は収穫と課題の残る一日でしたね」

海未「近頃気になる花陽からの飯テロについて、改めて色々聞いてみました」

海未「まずは先日のンムクジアンダギーについてですね」

海未「なんと、私が気にかかっていることを見越して、小泉家に残っていた分を持ってきてくれたではありませんか」

海未「危うく穂乃果や凛に食べ尽くされるところでしたけど……」

海未「ですが花陽の言っていた通り、郷土料理特有の心安らぐ味わいでしたね」

海未「揚げたてではないのでサクリとした食感はありませんでしたが、もちもちとした口触り良い食感でした」

海未「芋の風味も香ばしく、初めて口にしながらもどこか懐かしさを感じましたし」

海未「旅行で行った際などは口にする機会は少ないかもしれませんが、また現地でも食べてみたいですね」

海未「とまあ、先日の気になった料理について知ることができたのはよかったものの」

海未「なぜ私に飯テロ画像を送るのか、という根本の疑問に関しては、またはぐからされてしまいました……」

211: 2015/01/27(火) 23:18:08.57 ID:y2l/4Edz.net
海未「ふーむ……なぜ、花陽は私に飯テロをする理由を話してくれないのでしょう?」

海未「飯テロをしていること自体は皆に隠している様子はありませんでしたし」

海未「私以外の誰かに飯テロをしているわけでもないそうですし……」

海未「まったくもう……花陽には、こういうハッキリとしないところがあるんですよね」

海未「元々引っ込み思案な性格で、物事をハッキリ伝えることが苦手だと言っていましたけど」

海未「そうした面は花陽自身も気にしていて、以前相談に乗ったこともありましたね」

海未「ですが、性格面の差というものはあって当然のこと、無理に矯正することでもありません」

海未「花陽は花陽のままで良いところは沢山あります」

海未「ありのままの花陽のままでいい、と、以前は結論づけました」

海未「物事の伝え方など、直接的でなくとも、いくらでも遠まわしにして伝えれば良いのですから」

海未「花陽にそう言った時にも、随分と安心した様子でしたしね」

海未「花陽は自分のリズムでやっていくのが合っているのでしょう」

海未「…………はて」

海未「確かこうした相談に乗ったのは、飯テロ画像が送られてくるようになった直前でしたか」

海未「……もしや、この飯テロには、隠された花陽からの遠まわしなメッセージが……?」

海未「…………」

海未「考えすぎですね……最近読んでいるミステリーの影響でも受けているのでしょうか」

海未「ミステリーといえば、シリーズの続きを読んでいませんでしたね……どこに置きましたっけ」

213: 2015/01/27(火) 23:23:24.40 ID:y2l/4Edz.net
海未「ありました、コレですコレ」

海未「どうせですし、このまま眠たくなるまで読書でも……うん?」

海未「なんでしょう、携帯が」

海未「…………このタイミングの妙は、作為的なものを感じてしまいますね」

海未「また花陽から飯テロ画像がきました……」



花陽『(食卓に並ぶすき焼きの画像)』



海未「すき焼きとは、また随分と、凶悪なテロ画像ではありませんか……」

海未「しかもこれ、完全に私に見せつけるための画像ですね」

海未「鍋のセッティングや具材の並べ方が料理雑誌の写真レベルの力の入れ具合です」

海未「…………ぁあああ何の覚悟もしないまま画像を見てしまったせいで胃に大ダメージです」

海未「お腹、空いてきました…………」

215: 2015/01/27(火) 23:31:14.15 ID:y2l/4Edz.net
海未「嘆いていても仕方がありません」

海未「ここは原点に帰って、素直に感想レビューでも返しましょう」

海未「いやまあ、別に原点に帰る必要はないんですけど……」



海未『こんばんは。
   本日の食事画像は、家庭料理の御馳走の定番、すき焼きですね。
   写真の取り方も料理雑誌さながらで、見ているだけで食欲が沸いてきます。
   具材はスタンダードに、長ネギ、椎茸、人参、焼き豆腐、水菜、そしてメインの牛肉ですか。
   まだ火の入っていない牛肉からは程よい霜の様子も見受けられ、メイン食材の貫禄を感じます。
   この画像で一際食欲をそそるのは、煮立つ割り下と沸き立つ湯気ですね。
   やはりすき焼きと言えばアツアツのままいただくのが最も美味しい食べ方だと思います。
   定番の贅沢メニューとして、実に素晴らしい画像です。
   ちなみに私はすき焼きにはえのき茸を好んで入れています。』



海未「…………」

海未「わかってはいるのに……レビューをすると、更に空腹感を強く感じてしまいます」

海未「明日は是非とも我が家でもすき焼きにしてもらいましょう」

海未「……うう、明日が待ち遠しいです」

216: 2015/01/27(火) 23:40:23.63 ID:y2l/4Edz.net
海未「ああ、すき焼きは駄目です、食欲を抑えきれません」

海未「もう追撃の飯テロでもいいですから、何か気を紛らわせるものが欲しいです」

海未「その飯テロ画像の追撃のショックで、食欲を反転させて落ち着かなければ…………」

海未「……待ちなさい、なんですか食欲が反転するって。冷静になりなさい私」

海未「冷静に……ああ、冷静……冷静、に…………ぁあああ」

海未「花陽、早く返事を下さい、早く返事を……あ、きました」

海未「この際です、気分に紛れが生じるのであれば、本当に追撃の飯テロ画像でも許します!」



花陽『(牛肉にしっかり火が通ったすき焼き鍋に箸が伸びている画像)』



海未「来てしまいました! わかっていたのに! 先程よりも大きな衝撃が!」

海未「火の通っていない牛肉の赤みある色合いが落ち着いて、目ではなく舌で楽しめと言わんばかりの重厚感!」

海未「鍋からひと掬いすれば、割り下とも肉汁とも知れぬ幸福の露が滴り落ちる悦楽!」

海未「口にしてまず感じる熱量の強さ、そしてそれが収まると押し寄せてくる、すき焼き肉から溢れる味わいの天国!」

海未「ああ、すき焼き! 地球が一つの大きなすき焼き鍋だったらよかったのに…………」

218: 2015/01/27(火) 23:46:21.57 ID:y2l/4Edz.net
海未「ふう、ふう…………さあ落ち着くのです園田海未」

海未「食欲が反転して逆に落ち着くと言っていたでしょう!」

海未「自分で言い出したことです! 追撃でも甘んじて受け入れると!」

海未「なればこそ乗り越えるのです! 今ここで、食欲に屈することなど、決してできはしないのですから!」

海未「さあ、念じるのです…………食欲が反転すると」

海未「食欲が反転する…………食欲が反転する…………」

海未「……………………」

海未「あれ、信じられないことに、本当に食欲が反転しましたよ?」

海未「正確には反転したのかどうかはわかりませんが、本当に落ち着いてきましたね」

海未「どんな下らないことであっても、集中すれば己を律することができる、ということですか」

海未「なんとも無価値な発見です……」

220: 2015/01/27(火) 23:52:38.53 ID:y2l/4Edz.net
海未「思いがけず自分自身の精神的強度を自覚してしまいました」

海未「さて落ち着いたところで、ひとまずは感想レビューですよね」

海未「今なら冷静な感想を書ける気がします……普段も文面上は冷静を保っているつもりですけど」



海未『牛肉に火が入り、食べる直前といった様子ですね。
   食事は食べる瞬間も良いものですが、食べる直前の待機時間もまた楽しいものですね。
   我慢しなければならない小さな苦しみと、もう少しで今の欲求を満たすことができるという期待感のせめぎ合い。
   空腹は最高の調味料と言うだけあって、多少の我慢もまた料理をより美味しくさせるコツですよね。
   先程の画像から今の画像にかけて経過した僅かな時間は、花陽の楽しみが凝縮されていた至福の時間なのでしょう。』



海未「よし、いい感じに簡潔にまとめられた気がします」

海未「我慢することもまた、食事の楽しみを増幅させるコツである」

海未「自分の言葉ながら、今の私自身を後押ししてくれる言葉ですね」

海未「これで花陽からの飯テロも冷静に受け止められそうです」

221: 2015/01/27(火) 23:58:08.90 ID:y2l/4Edz.net
海未「一段落ついたところで、改めて飯テロ画像について考えてみましょう」

海未「花陽はなぜ私に飯テロ画像を送り、そしてなぜ、その理由を言おうとしないのか?」

海未「理由を言わない、しかし飯テロを通じて伝えようとしていることがある、ということですかね」

海未「飯テロで伝えられるメッセージ性……果たしてそのようなものがあるのでしょうか?」



花陽『今日は久しぶりにすき焼きをしたんだ
   凄い美味しかったよ』

花陽『そうだねすき焼きは煮えるのを待つ間も楽しいよね
   でも私はつい早く早くって思っちゃうなあ』



海未「ふふっ、実に花陽らしい素直な返事です」

海未「本当に花陽は食べることが好きなのですね。花陽にとって、食事は本当に大切なことなのでしょう」

海未「そんな、花陽にとって大切な食事画像を送ってもらえることは、少なくとも好意的な表現ではありますよね」

海未「単なる御裾分け精神で送った画像が、結果的に飯テロに繋がっているだけ、なのでしょうか……?」

222: 2015/01/28(水) 00:01:52.69 ID:pDpnVarq.net
海未『具材の仕込みから着手していると、具材を鍋に入れてから煮立つまではむしろ早いですよ。
   すき焼きでは、仕込みで切ったりした具材の形のまま、最終的に口にすることになりますよね。
   なので仕込みの時点でも、これを後で食べるのか、という密かな楽しみ方ができるのです。
   また、具材に幅のある料理でもあるので、好きな具材を選んで入れられる特権もありますよ。』



海未「花陽は自分の考えを素直に伝えるのが苦手だということでしたね」

海未「なので飯テロ画像をクッションにして、間接的に何かを私に伝えているのかも?」



花陽『海未ちゃんは普段からご飯のお手伝いをするんだね』

花陽『私は食べるのは好きだけどあまりお手伝いはしないから
   今度からもう少し料理も頑張ろうかな』



海未「しかし、飯テロに隠された理由だなんて、まるで見当がつきませんけど……」

海未「ひょっとして、世間では飯テロを通じて、何かしらのメッセージを伝えることが流行っているとか?」



海未『食事が好きな花陽でしたら料理もすぐに覚えられると思いますよ。
   好きこそものの上手なれ、とも言います。
   関心のあることは自然と身につくものです。』



海未「そのような流行があるとは思えませんが、仮にあったとしても、花陽がそれに則ったかどうかは別問題です」

海未「やはりここは、花陽の意図をなぞることを意識するべきなのでしょう」

225: 2015/01/28(水) 00:05:32.49 ID:pDpnVarq.net
花陽『やっぱり普通の料理を普通に送ると
   海未ちゃんと色々話せるからよかった』



海未「うん?」

海未「これはどういうことでしょうか……」



花陽『最近ご飯の画像送ったときは一気に送りすぎたり
   珍しすぎる食べ物送ったりしてたから
   あまり海未ちゃんと話せなかったなあって』



海未「なるほど、合点がいきました」

海未「例えば先日のンムクジアンダギー」

海未「私が実際に口にしたことがないので、大した反応ができませんでした」

海未「そしてその前の飯テロだった焼きそば」

海未「花陽が立て続けに画像を送ってきたことで、私が空腹に負け、大して反応を返せませんでした」

海未「そういう意味では、本日のすき焼きは会話が成り立ちましたね」

海未「花陽はそういうところを気にしていたのですか……ふむ、つまり?」



海未『花陽は食事の画像を私に送ることで、私との交友を持とうとしたのですか?』



海未「つまりはこういうことですよね?」

228: 2015/01/28(水) 00:10:08.17 ID:pDpnVarq.net
花陽『せっかくご飯の画像を送ったんだから
   二人で色々とお話できたらなって思ってたの』

花陽『だから私だけが知ってるものだったり
   海未ちゃんの方がよく知ってる商品とかは
   選択を間違っちゃったのかもしれないね』



海未「なるほど、以前の水羊羹の際にも、私が一方的にレビューをして話が終わりましたね」

海未「そうした意味合いでは、家庭料理に絞るのは会話を続ける上で適切だったのでしょう」



花陽『だけど画像を送る食べ物は決まっていたから
   仕方なかったんだ』



海未「おや? これまた気になる発言がありますね」

海未「送る食べ物は決まっていた、ですか」

海未「すなわち飯テロのメニューにはそれぞれ意味がある、ということ、ですよね?」

海未「本当に花陽は、飯テロに何かしらの意図を含んでいるのでしょうか……?」

235: 2015/01/28(水) 00:16:26.49 ID:pDpnVarq.net
海未『私に送る料理メニューにはこだわりがあったのでしょうか?』

花陽『えっと……
   また次のときに教えるってことでいい?』



海未「またはぐらかされました……しかし、次の機会には、ですか」



花陽『今まで聞かれても答えなかったけど
   なんで海未ちゃんに画像を送るのかも一緒に答えるから』



海未「ほほう?」

海未「これまではぐらかしていた、私に飯テロ画像を送る理由も一緒に、ですか」

海未「しかしなぜ次なのでしょう……次の飯テロがよほど大事だということでしょうか?」

海未「いずれにせよ理由があるというのなら、もう一度くらい待っても……」

海未「ああしかし、それではまた次の飯テロを耐えねばなりません!」

海未「くっ、物事に秘められた真実をこの手に掴むためには、痛みを伴わなければならないということですか」

海未「現実とは、かくも苦痛に満ちた、悲しむべき世界なのですね…………」

海未「……飯テロのダメージを払拭しきれていないのか、少しばかりテンションがおかしいです」

海未「ともかくも次回の飯テロで花陽がなにか教えてくれるというのなら、それを待つことにしましょう」

海未「今まで何も収穫がなかったことに比べれば、一歩前進です」

242: 2015/01/28(水) 00:21:25.62 ID:pDpnVarq.net
海未『わかりました、ではそのあたりの疑問は次回へ持ち越しということで。
   せっかく料理の話になりましたし、いずれ一緒に料理でもしてみましょう。』

花陽『海未ちゃんと料理してみたいなあ
   下手かもしれないけど頑張るね』



海未「ん…………ふう、色々考えいたら、随分と時間が経っていました」

海未「飯テロについて考えるのはまた後日に回して、今日はお休みしましょうか」



海未『いずれそういった機会を作ってみましょうね。
   さて本日は深い時間になってきたので、そろそろお休みしようと思います。
   また明日学校で会いましょう。
   おやすみなさい。』



海未「明日も朝からダンスの練習です、頑張らなければ……」

海未「そして一日が終われば、是非とも我が家でも、すき焼きを、食べましょう………………………………すう、すう」



花陽『楽しみにしてるね
   また明日
   おやすみなさい』

285: 2015/01/28(水) 22:19:59.02 ID:ZEuxBr80.net
再開します

290: 2015/01/28(水) 22:28:00.40 ID:ZEuxBr80.net
―――


海未「……………………はあ」

海未「圧倒的な無気力感です……」

海未「読書は良いものですし、余韻に浸るのも好きですが」

海未「その後やってくる虚脱感は、如何ともし難いですね……」

海未「とりわけシリーズの最終作を読み終わったときにはもう……………………はあ」

海未「それにしても、今回のミステリーシリーズもまた、ギミック自体は簡単なもので徹底されていましたね」

海未「前回のシリーズもそうでしたし……ああでも、前回はまさかの、本編外で驚きの仕掛けがありましたっけ」

海未「驚き、と言っても、仕掛け自体はよく見るようなものでしたが」

海未「確かシリーズの作品名の頭文字を並べて読むと、実はシリーズ最大の謎が云々、というタイプでしたね」

海未「実は今シリーズも…………いえ、そんなことはありませんでしたか」

海未「同じ仕掛けを続けてしまえば、すぐにわかってしまいますからね」

海未「前回のシリーズは、頭文字を並べるとどういう言葉になりましたっけ」

海未「あ……そうでした、そのシリーズは花陽に貸していました」

海未「結構前に貸しましたけど、花陽はどの程度読み終わりましたかね」

海未「花陽がシリーズを読み終わるのをゆっくり待ちつつ、読み終えたなら答えを聞いてみることにしましょう」

291: 2015/01/28(水) 22:32:24.23 ID:ZEuxBr80.net
海未「ふう…………時刻もいい頃合にして、心地良い疲労感と脱力感を感じます」

海未「……………………」

海未「ですが、本を読み終えて感情が昂ぶっているためなのでしょう、まるで眠れる気がしません」

海未「まったく、夜更かしはいけないというのに……」

海未「とは言えシリーズものの最終巻なのです、多少気が昂ぶってしまうのは仕方がないですよね」

海未「……なぜ自分に言い訳しているのでしょうね」

海未「日頃夜更かしは良くないと言っている以上、こんな姿、みんなにはとても見せられません」

海未「…………」

海未「こういうタイミングなら、花陽からの飯テロ画像がくれば、ちょうど良い時間潰しになるんですけどね」

海未「空腹感もそうありませんし、今ならちょうどいいんですけどねえ…………きませんかねえ…………」

海未「……………………」

海未「…………きませんね……まあ、そう都合良くはきませんよね……」

292: 2015/01/28(水) 22:35:47.28 ID:ZEuxBr80.net
海未「そう言えば、次の飯テロ時に、メニューのこだわりについて話すと言ってましたね」

海未「これまでの飯テロメニューの選択には、何かしらの意味があるということですか」

海未「果たしてどのようなこだわりがあるのでしょう……そして次にやってくる飯テロメニューとは?」

海未「……ふふっ」

海未「なぜだか、少しだけ花陽からの飯テロが楽しみになってきています」

海未「次でこだわりを明かすというのですから、余程特別な料理なのでしょうか」

海未「例えば、前回のすき焼きも十分豪勢でしたが、それを超越してしまう程の豪勢な料理とか」

海未「ああ、私の食欲は、その衝撃に耐えられるのでしょうか……」

海未「いえいえ、そんな弱気ではいけません」

海未「夕飯時に飯テロされた焼きそばのときはともかく、深夜帯の飯テロには屈せずにきたではありませんか」

海未「そうです、如何なる豪勢な料理であっても、己を律すれば何ら問題はないのです」

294: 2015/01/28(水) 22:40:35.22 ID:ZEuxBr80.net
海未「…………」

海未「まずいですね……」

海未「飯テロもなにもきてないのに、飯テロを想像しただけで、収まっていたはずの食欲が……」

海未「完全に墓穴を掘っているではありませんか、情けないです」

海未「褒められたことではないですが、いずれ体型を気にしないでいいときがきたら、一度夜食でも…………」

海未「否、やはり夜深い時間の食事というものは自粛するべきです!」

海未「食事は朝にたくさん食べ、夜は程々にするべきであって……」

海未「…………感情に従うなら、夕飯や夜食の方が、より満足感を感じてしまうんですよね……」

海未「あ」

海未「きました…………花陽からの、LINE…………」

海未「……さて、戦いのときです」

海未「どれほど豪勢な料理であっても、私は真正面から受けきってみせましょう! いざ!」

295: 2015/01/28(水) 22:42:52.05 ID:ZEuxBr80.net
花陽『(食卓に並ぶきのこご飯の画像)』



海未「……………………」

海未「……………………きのこごはん」

海未「…………きのこの、炊き込みご飯、ですよね?」

海未「……………………」

海未「いや、まあ、勝手に豪勢な料理がくるんだろうなーという予想を立てていただけですけど」

海未「それにしたって……今までの飯テロの中でも、一際、その、なんと言うか」

海未「質素、ですよね?」

海未「今回の飯テロと同時に、飯テロに関する疑問に答えるということでしたけど」

海未「ある意味区切りともなるタイミングのメニューが、きのこご飯、ですか……」

299: 2015/01/28(水) 22:48:27.44 ID:ZEuxBr80.net
海未「ふうむ……構えていた分、少しばかり肩透かしを喰らってしまいました」

海未「ひとまず感想レビューを、とは思うものの」

海未「肩透かし感に加え、メニュー自体も質素となると、少々感想を述べにくいですね」

海未「なぜ、きのこご飯なのでしょう……?」

海未「……………………」

海未「なんだかこのきのこご飯」

海未「確かに今までの飯テロと比べると質素なんですが、よく見ると、味がある画像というか」

海未「言葉にしずらいですが、仄かに惹かれるところがありますね」



海未『こんばんは。
   本日の料理画像はきのこご飯ですね。
   これまでと比較すると、家庭料理の食事という様子が際立ちます。
   具材のきのこ類が割と大きなぶつ切りで入っているのは、小泉家の特色なのでしょうか。
   しめじ、舞茸、松茸と、シンプルなラインナップながらも欲しいきのこ類が揃っていますね。
   きのこの炊き込みご飯と言えば、何よりも香り高さが魅力です。
   臭み消しの生姜を多めに刻んで交ぜておくと、生姜自体の香りも楽しめていいですよね。
   事前にきのこ類をごま油で軽く炒めておくと、香ばしさも増すので私は好きです。
   炊き込みご飯では、人参や細ネギやミツバで色合いを鮮やかにするのも綺麗ですね。
   こちらのきのこご飯はそうした工夫を排していますが、それによりきのこ自体の色合いが強まっています。
   素朴なメニューを一層素朴にすることで、目玉たるきのこの、そしてお米の存在感がより映えますね。
   こうした作り方は小泉家のこだわりなのでしょうか?』



海未「メニューの主役を引き立たせた、温かみのあるひと品です」

海未「不思議とレビューにも熱がこもってしまいました」

海未「最近炊き込みご飯を作っていませんでしたが、こういう一手間も楽しいですよね」

302: 2015/01/28(水) 22:57:14.64 ID:ZEuxBr80.net
海未「……さて、返事がきました」

海未「区切りの飯テロですし、花陽の意気込みも気になるところです」



花陽『そうなんだ
   きのこご飯でも色々工夫できることがあるんだね
   次に作るときは頑張ってみるね』



海未「…………区切りのメニューにしては、割と淡白な返事ですね」

海未「ところで……ふむ、これは、つまり?」



海未『文面からすると、今回の料理は花陽が作ったのでしょうか?』

花陽『そうなの
   今度一緒に料理しようってこの前話したから
   練習しようかなって』

花陽『だけどきのこを小さく切れなかったり
   あまり工夫もできなくて
   上手にできたのかわからないや』


海未「なるほど、今までの料理画像とは少し異なる意味合いでの魅力を感じていましたが」

海未「もしかしたら、花陽の手作りだったから、かもしれませんね」

海未「余計な手間をかけていない分、素材の色がより輝く……なんだか花陽らしい料理です」

304: 2015/01/28(水) 23:03:44.81 ID:ZEuxBr80.net
花陽『最後の料理は自分で作ってみたかったの』



海未「……最後、とな?」

海未「今回のきのこご飯で、花陽からの飯テロは最後ということですか?」



花陽『今日で料理画像で伝えたいことは終わりなの
   最後の料理は自分で作ったものを送りたかったんだ』



海未「そうだったのですね」

海未「私に見せるために、わざわざ自分で作ってくれたなんて、ありがたい話です」

海未「そして……料理画像で私に伝えたかったこと、ですか」

307: 2015/01/28(水) 23:08:22.34 ID:ZEuxBr80.net
花陽『料理を作るなら好きなお米で何かしたくって
   それでメニューを考えたら
   きのこご飯くらいしか選択肢がなかったの』

海未『お米の好きな花陽らしいチョイスだと思います。
   そして、メニューにもこだわりがあると言っていましたね。
   お米を使う理由はともかく、きのこご飯、である必要性があったのですね?』

花陽『うん
   始めの言葉が「き」だから』



海未「おや?」

海未「頭文字……?」

海未「なぜだか、妙な一致を感じますね」

314: 2015/01/28(水) 23:12:11.83 ID:ZEuxBr80.net
花陽『あのね
   今日で海未ちゃんに料理の画像を送る理由を教えるって言ってたから
   教えるね』



海未「そうですね、ずっと気になっていたことでした」



花陽『教えるけど
   こんなことを言うなんて
   変な人だなって思わないでね』



海未「変な人、とは、どういうことでしょう?」



花陽『前に海未ちゃんに
   オススメの本を借りたいって話したとき
   ミステリーのシリーズを借りたよね』



海未「先程ちょうどそのことを考えていましたね」



花陽『それのトリックを借りてね
   これまで海未ちゃんに送った料理の名前で
   頭文字を並べて言葉を作ったの』



海未「頭文字…………やはり、花陽に貸したミステリーシリーズのことでしたか」

318: 2015/01/28(水) 23:16:01.67 ID:ZEuxBr80.net
海未「頭文字を並べてのメッセージ、ですか」

海未「では、今までの飯テロのメニューを並べてみましょう」



一日目:鰻の蒲焼・御茶漬け

二日目:水羊羹

三日目:チャーハン

四日目:焼きそば

五日目:ンムクジアンダギー

六日目:すき焼き

七日目:きのこご飯



海未「件のシリーズでは、頭文字そのものではなく、平仮名の読み一文字を繋げていましたか」

海未「となると、花陽からのメッセージも、同じ要領ですよね」

海未「えーと……う、み、ち、や、ん、………………………………」

海未「……………………………………………………」

329: 2015/01/28(水) 23:24:56.73 ID:ZEuxBr80.net
海未「……………………なっ!」

海未「なっ、こっ、えっ、ちょ、え、なん、なんでっ、こっ、これっ」

海未「こっ、こんな、はな、はなよっ、えっ、わた、えっ!?」

海未「……………………」

海未「いやいやいやいや!」

海未「お、落ち着きましょう、園田海未、落ち着きなさい!」

海未「え…………っと」

海未「さ、流石に、間違いではありませんよね……」

海未「花陽がこうだって言っていたわけですし……」

海未「…………」

海未「わ、私、こういうのに弱いんです…………」

海未「冷静に……冷静に、ならなければ」

333: 2015/01/28(水) 23:31:18.79 ID:ZEuxBr80.net
海未「……………………ふう」

海未「顔を洗うついでに頭から水を被って、お茶を飲んだらようやく落ち着いてきました」

海未「さて…………対峙しますか」

海未「花陽の、めっ、メッセージ、ですか」

海未「…………ふむ」

海未「まずは、文面の意味を正しく捉えましょう」

海未「意味合いは、まあ、言葉通りなのでしょうね……他に受け取りようがありません」

海未「そして、先程は自制を失ってしまいましたけど」

海未「その、これは別に、他意は無いと言いますか……」

海未「へ、変な意味合いではなく、花陽のことですから、言葉のまま、素直な気持ちなのでしょう」

海未「こんなことを言って変な人と思わないで欲しい、とも言っていましたし」

海未「振り返ってみても、その……………………そ、そのような素振りは微塵もありませんでしたし!」

海未「なのでこの言葉は、あくまでも友人として、先輩として、仲間としてのものなのでしょう」

海未「とはいえ、随分とストレートな表現ですね」

海未「花陽にしては珍しいと言いますか、普段とは真逆と言いますか」

海未「ああでも、文面とは対照的に、伝え方は手間のかかる遠まわしなやり口でしたね」

海未「そこはいつもの花陽らしいと言うべきでしょうか」

337: 2015/01/28(水) 23:35:22.49 ID:ZEuxBr80.net
海未「…………あ」

海未「……なんでしょうね、少しずつ読めてきました」

海未「なぜ花陽が私に、このようなメッセージをくれたのか、その理由はわかりませんが」

海未「なぜ花陽が、このような遠まわしなことをしてきたのか」

海未「…………」

海未「花陽から最後の着信がきてから、割と時間が経ってしまいましたね」

海未「冷静さを失っていたり、冷静さを取り戻すためお茶を淹れたりしてましたから……」

海未「花陽も、私にこうしたメッセージを送ってから、ずっと返事を待ってますよね」

海未「……変な人だと思わないで欲しい、と言っていましたか」

海未「こうした一連のやり取りを行うにあたり、花陽も相当勇気を振り絞ったのでしょうね」

海未「そして、頭文字のメッセージ」

海未「こういう文面なのです、すぐにでも返事は欲しいですよね」

海未「…………」

海未「さて、応えていきましょうか」



ピッピッピッ

プルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル



海未「……もしもし。夜分遅くにすみません、花陽。私です」

342: 2015/01/28(水) 23:46:23.39 ID:ZEuxBr80.net
花陽『……も、もしもし、海未ちゃん。こんばんは』

海未「はい、こんばんは。返事が遅くなってしまい、すみませんでした」

海未「花陽が返事を待っているタイミングで、すぐに答えられなかったのは、よくありませんでしたね」

花陽『そ、そんなことないよ! 私が勝手に、その、送っただけだから』

海未「いえ、本来気づくべきことに、我を失ったことですぐに気づけなかったのは反省点です」

海未「ですが、しっかりと受け取りましたよ。ありがとうございました」

花陽『あ…………う、うん』

海未「嬉しかったですよ、メッセージ」

花陽『……………………うん』

343: 2015/01/28(水) 23:50:34.86 ID:ZEuxBr80.net
海未「しかしまあ、結構な工夫と言いますか、遠回りをしましたね」

海未「わざわざ聞き覚えもないような料理名を探すことになって、大変だったでしょう」

花陽『アハハ……「ん」の料理は、ちょっと難しかったよ』

海未「……その遠回りも、素直に物事を伝えることが苦手な花陽が、精一杯頑張った結果なのですよね」

花陽『わ、私、まだ素直に気持ちを伝えたりするのが、少し怖いことがあるの』

花陽『だけど、前に海未ちゃんに相談したとき、海未ちゃんはそのままの私でいいって言ってくれたから』

花陽『私、ホッとして、嬉しかった……』

海未「ええ、花陽はそのままでいいんですよ」

海未「遠回りをしても、きちんと思いは、伝わったのですから」

344: 2015/01/28(水) 23:55:47.02 ID:ZEuxBr80.net
海未「いくつか聞きたいことがあるのですが」

花陽『うん、今日はちゃんと答えるよ』

海未「そうですね……まず、飯テロ、ってわかりますか?」

花陽『あ、わかるよ。絵里ちゃんから聞いたんだ』

海未「絵里ですか? 希ではなく?」

花陽『食べ物の画像を送ろうとするなら、どうすればいいかな、って絵里ちゃんに相談したときに』

花陽『絵里ちゃん、希ちゃんから飯テロをよくされて、面白いけど場合によっては笑えないって言ってたの』

海未「ああ、では、料理画像を夜の深い時間帯に送ってきたのは、意識的なものでしたか」

花陽『うん。希ちゃんになんで飯テロをするのかなって聞いてみたんだけど』

花陽『食べ物の画像を送るなら、やっぱり強く印象に残る時間帯に送るんがええんや! って言ってた』

海未「理屈はわかりますが、希は単に面白半分でやっているだけでしょうに……」

花陽『飯テロ画像の話を聞いて、私も食べることが好きだから、どうせ送るならそういう時間にしようかなあって』

海未「テロの知識は希に学んだとして、食べ物画像を送る発想は花陽自身のものなのですか?」

花陽『そうだよ。私が好きなもので、何か、海未ちゃんにあげられるものはないかなあって考えたんだけど』

花陽『私は料理を写真に撮るのが好きで、画像を見返すと幸せになれるから』

花陽『これなら、私が海未ちゃんにあげるものにしていいかなって思ったんだ』

海未「そうでしたか」

347: 2015/01/29(木) 00:00:52.05 ID:6M8sZH7e.net
海未「花陽にとって大事なものを、私に分けてくれたのはなぜでしょう?」

花陽『それは……私はいつも、海未ちゃんに、色々してもらってばかりだから』

海未「私に、ですか?」

花陽『うん。例えば、今回案を貰った、ミステリー小説を貸してもらったのもそうだよ』

花陽『本には興味はあるけど、私は海未ちゃん程は本を読んでいないから、私から貸せるものはないと思うし』

海未「書物の数は膨大なものですから、そのようなことはありませんよ」

花陽『そっか。だけど、やっぱり本のことは、私より海未ちゃんのほうがわかってると思うの』

花陽『だからそのお返しで、私から何かあげられるものは何かなって考えたら』

花陽『私の方が詳しくて、あげられるものって言ったら、私の好きなものになっちゃった』

海未「そうですね。食べ物と言えば、確かに花陽のほうが私よりも詳しいです」

花陽『だよね、えへへ』

351: 2015/01/29(木) 00:05:38.96 ID:6M8sZH7e.net
花陽『あとね、海未ちゃんからは、物以外でも、いつも何かしてもらってばかりなの』

海未「私が花陽に、ですか」

花陽『うん。いつも、私のことを助けてくれる』

花陽『困ってることがあったら相談に乗ってくれる、わからないことがあったら教えてくれる』

海未「そうでしたか。特に、何かを施しているつもりはなかったのですが」

花陽『最近のことだったら、凛ちゃんやにこちゃんがからかってきたときに助けてくれたり』

海未「あれは……元々は、私が花陽に飯テロについて、しつこく聞き出そうとしたのがきっかけですがね」

花陽『あとは、夜考え事をして眠れないって悩んでいたら、誰かに話すといいってアドバイスしてくれたよ』

花陽『それからは色々な人に話を聞いてもらってたんだ』

花陽『最近だと、縁日に行ったときに、凛ちゃんや真姫ちゃんに話を聞いてもらったりしたよ』

海未「そうだったのですか」

花陽『実は、悩み事って、今回のことだったんだけどね』

花陽『どうやって、食べ物画像を通じて、海未ちゃんに伝えようかなあ、って』

海未「それは……余計な悩みを増やしてしまいましたね」

花陽『違うの。私が、海未ちゃんに伝えたいって、思ったんだよ』

352: 2015/01/29(木) 00:10:37.12 ID:6M8sZH7e.net
花陽『海未ちゃんはね、特別なことがなくったって、いつも私を助けてくれるの』

花陽『普段のμ'sの練習だって、海未ちゃんは指揮をとりながら、私たちを支えてくれてる』

花陽『歌もダンスも、いつも海未ちゃんに教えてもらってるよね』

海未「確かに、練習中はみんなのことをよく見たり、花陽にもよく指導をしています」

花陽『練習のときだけじゃない、毎日の個人的な話もそうだよ』

花陽『物知りで、頼りがいのある海未ちゃんだから、いつもみんな頼ってる』

花陽『私だけじゃなくて、みんなの相談に乗ったりしてるから』

花陽『私が海未ちゃんにいつも助けてもらってるってことに、気づいてないかもしれないけど』

海未「そうですね……花陽の言うとおり、意識してそのような手助けをしている自覚はありませんでした」

海未「日頃からみんなに色々と教えたりすることは、私にとっては性分なのでしょう」

353: 2015/01/29(木) 00:13:34.83 ID:6M8sZH7e.net
花陽『だけどね、私は海未ちゃんに教えてもらって、助けてもらって、いつも嬉しかったよ』

花陽『私やみんなは、海未ちゃんからの親切を、当たり前のように受け取っているけど」

花陽『でもそれって、本当はとってもありがたいことだなあ、って』

海未「私の行いが花陽のためになっていたというのなら、それだけで私は報われますよ」

花陽『海未ちゃんは、そうやって見返りは求めたりしないんだろうなって思ってた』

花陽『でも私は、一度ちゃんと、海未ちゃんに気持ちを伝えたかったの』

花陽『いつも世話をしてくれてありがとう、面倒を見てくれてありがとう、大好きだよ、って』

花陽『だけど、海未ちゃんにとっては普通のことを、改まって素直に伝えるのが恥ずかしくて』

花陽『それに私にとっては、心から思っていることを伝えるのに』

花陽『そのまま気持ちを言うだけでいいのかなって、迷っちゃったの』

海未「その結果が、繰り返し送られた料理画像を通じたメッセージ、だったのですね」

花陽『うん。色々と紛らわしかったり、変な時間に送ったりして、ごめんなさい』

355: 2015/01/29(木) 00:17:31.34 ID:6M8sZH7e.net
海未「…………花陽」

花陽『なに?』

海未「私にとって、日頃の練習や、みんなとの会話というものは」

海未「楽しくありながらも、決して全てが特別というわけではありませんでした」

花陽『うん』

海未「ですが、そうした日常の中でも、誰かにとって為になっている」

海未「誰かにとっての報いとなり、救いとなり、喜びとなっている」

海未「それは、とても素敵なことですね」

海未「私の大切な人たちと過ごす毎日が、私の大切な人たちの幸せになっているのです」

海未「そして同時に、私の幸せにもなるのです」

海未「花陽たちと過ごす日々は、掛け替えのない、本当に楽しい、素晴らしい時間です」

356: 2015/01/29(木) 00:20:59.05 ID:6M8sZH7e.net
花陽『……私もそうだよ』

花陽『毎日、練習して、お喋りして、いつも凄い楽しい』

花陽『私、海未ちゃんたちと一緒に、μ'sをやっていて良かった!』

海未「私も同じ気持ちです」

海未「そして、何気なさ過ぎて気づくことのなかった、この大切な事実を」

海未「花陽のお陰で、こうして改めて気づくことができました」

海未「ありがとうございます、花陽」

花陽『海未ちゃん……』

花陽『ううん、私こそ、いつもありがとう……!』

海未「はい、どういたしまして」

357: 2015/01/29(木) 00:25:21.60 ID:6M8sZH7e.net
―――


海未「……ふう」

海未「ああ、わかってはいましたけど、こんな遅い時間になってしまいました」

海未「夜遅くに長電話なんて、いつぶりでしょうか」

海未「…………ふふっ」

海未「今日くらいは、夜更しも良しとしましょう」

海未「なんでしょうね、胸が満たされて、眠れそうにありません」

海未「何かしましょうかね……ちょうど本はシリーズを読み終えてしまいましたし……」

海未「ああそうです、花陽に改めて一言挨拶でもしておきましょうか」

海未「電話の後でも、一応お休みの一言でも残しておくのは礼儀ですよね」

海未「ええと、花陽とのLINE、っと」

海未「あ」

海未「……………………」

海未「…………ふふふふっ」

海未「ううん、これはいけませんね、深夜テンションです。普段の私の考えではありません」

海未「……でも、いいですよね? 花陽からやってきたことですから」

358: 2015/01/29(木) 00:35:08.73 ID:6M8sZH7e.net
海未『わざわざ電話をかけてしまい、先程は失礼しました。
   たいへん手間のかかった一連の飯テロでしたが、私も楽しめましたよ。
   しかし、やはり深い時間での料理画像、というものは凶悪ですね。
   もう少し早い時間帯に画像をいただければ、今後は素直に楽しめると思います。
   すてきな料理画像ばかりでしたので、よろしければまた色々と教えてください。
   きのこご飯のように、花陽が作った料理もまた見てみたいですね。
   ですので、先日言ったように、近いうちに一緒に料理でもしてみましょう。
   すぐに料理の腕前が上達せずとも、繰り返し練習すれば、花陽ならきっと上達するはずです。
   よろしければ考えてみてください。


   それでは今日はお先にお休みします。
   私からのメッセージ、ちゃんと受け取ってくださいね?』



海未「ふふっ、では写真を撮りに、台所へ参りましょう」

海未「明日の朝食用に作り置きしてある、ハンバーグが、ありますからね」



おわり

359: 2015/01/29(木) 00:36:20.64 ID:3osZ4Xdg.net
これは貴重なうみぱなだった。

そしてありがとう。

360: 2015/01/29(木) 00:37:36.98 ID:TRjnbijd.net

次の写真は茄子の煮浸しかな

374: 2015/01/29(木) 00:50:47.48 ID:6M8sZH7e.net
終了です
ご覧頂いた皆様
並びにスレ内の全飯テロ画像に感謝を

海未ちゃんのラストメッセージのダブルミーニングについては
この世界観のLINEは海未ちゃんの一文くらいは改行無しで表記できるものとしておいてください

引用元: 海未「また花陽から飯テロ画像がきました……」