1: 2015/11/29(日) 14:14:31.51 ID:oyrpMvNz0
――ね、そこのあなたっ

――……アタシ?

――そうそう。何してんのかなーって

――…………


――あなた、アイドルをやってみない?




アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(5) (電撃コミックスEX)

2: 2015/11/29(日) 14:15:02.64 ID:oyrpMvNz0
――まえがき――

単発作品です。短くはありません。
独自設定と原作無視のオンパレードです。ご理解の上、お進みくださいませ。


3: 2015/11/29(日) 14:15:39.90 ID:oyrpMvNz0
――レッスンスタジオ・昼――

喜多見柚「とやっ。と、っとっと」グラッ

柚「ふうっ。レッスンってムズいね! アタシ、もっと簡単なのかな~って思っちゃってた」

北条加蓮「あはは、こんなもんだよ」

柚「できるようになるまで何回かかるんだろ……歌いながら踊るなんて絶対ムリっ。っていうか歌うだけでも上手くできないし、踊るのもぜんぜんっ」

柚「ビジュアル、レッスン? なんて訳分かんないよ。アタシ、楽しいことしか考えてないもん。悲しい演技なんてぜんぜんできないや」

加蓮「そうだったね。何やっても楽しそうだった」

柚「やっぱり!? むー……」

加蓮「でも、それっていいことだよ。だって何やっても楽しそうに見えるんだよ? その方が、見てる側も楽しいんじゃないかな」

柚「……そなの?」

加蓮「うん」

4: 2015/11/29(日) 14:16:08.32 ID:oyrpMvNz0
柚「プロデューサーも?」

加蓮「私も。つまんなさそうに踊るより、楽しそうに踊ってる姿を見たいに決まってるよ。そういうアイドル、見たことない?」

柚「……そういえばテレビのアイドル、みんな楽しそうにしてるっ」

加蓮「でしょ?」

柚「じゃあ、アタシもそんな感じでやってみる!」スクッ

加蓮「…………」カチッ

<~~♪

柚「よぉーし!」

柚「ほっ、ほっ」タッタッ

柚「よっ、とっ」タタツ

柚「おわわっ」ズテッ

柚「……む、難しいっ」

加蓮「ふふっ。……ちょっと、休憩にしよっか」

5: 2015/11/29(日) 14:16:43.70 ID:oyrpMvNz0
――休憩中――

柚「つかれたー。スポドリが美味しい♪」ゴクゴク

柚「にしてもプロデューサーってホントにプロデューサーだったんだねっ」

加蓮「ん? どゆこと?」

柚「だってほら、最初に話しかけた時は……なんなのか分かんなくて。もしかしてナンパ!? とか思っちゃったりっ」

加蓮「…………いやあの、私、女なんだけど」

柚「あ、違う違う、男の人みたいに見えたとかじゃないのっ。それだけ分からなかったってこと!」

柚「でもこうして見ると、なんだかすっごくプロデューサーっぽい感じ! スーツも着てるしっ」

加蓮「もう、言いたいことは分かるけどちゃんとプロデューサーだよ。ほら、名刺だって渡したじゃん」

柚「うんっ。ちゃんと持ってるよ」ゴソゴソ

6: 2015/11/29(日) 14:17:13.60 ID:oyrpMvNz0
――回想 12月24日・夜――

加蓮『ね、そこのあなたっ』

柚『……アタシ?』

加蓮『そうそう。何してんのかなーって』

柚『…………?』

加蓮『せっかくのクリスマスイブなのに、つまらなさそーな顔してるなーって思ってさ。って、私も1人なんだけどね』アハハ

柚『…………アタシに、何か用?』

加蓮『用ってほどじゃあないかなぁ。こんな夜にブランコに座ってたから、ちょっと気になっただけだよ。ね、何してたの?』(隣のブランコに腰掛ける)

柚『なんにも』

加蓮『そうなんだ』

7: 2015/11/29(日) 14:17:43.62 ID:oyrpMvNz0
柚『……せっかくのクリスマスイブだから、何か面白いことやってないかなーってぶらついてたんだ』

柚『でも、なんにも見つかんなかった』

加蓮『見つかんないの?』

柚『うん。なんにも』

柚『……面白くないやっ』キーコキーコ

柚『なんてゆーか……面白くないっ』

加蓮『そっかー……』

柚『…………』

加蓮『面白いこと、探してるの?』

柚『うん』

加蓮『ワクワクするようなこと?』

柚『うん』

加蓮『何か、やってみたいんだ』

柚『うんっ』

加蓮『じゃあさ』


加蓮『あなた、アイドルをやってみない?』


――回想終了――

8: 2015/11/29(日) 14:18:13.51 ID:oyrpMvNz0
柚「えと、名刺名刺っ……あった! 『CGプロダクション プロデューサー代理 北条加蓮』……って代理じゃん!」

加蓮「言ってなかったっけ? ぶっちゃけ手伝いみたいなもの、っていうか手伝い」

柚「じゃあプロデューサーじゃないの?」

加蓮「プロデューサーはプロデューサーだよ」

柚「代理なのに?」

加蓮「代理でもプロデューサーです」

柚「むむ…………」ジー

加蓮「あ、疑ってる顔してる。分かった分かった。じゃあ証拠を見せてあげよう」

加蓮「実はさ。あなたに……えっと、柚、でいい?」

柚「いーよー」

加蓮「じゃあ柚。実は、小さいヤツだけど、柚に仕事があります」

柚「……仕事?」

加蓮「うん、仕事」

9: 2015/11/29(日) 14:18:44.09 ID:oyrpMvNz0
柚「アイドルの?」

加蓮「アイドルの」

柚「アタシに?」

加蓮「柚に」

柚「……アイドルの?」

加蓮「アイドルのだってば」

柚「…………え、ええええええええ!!? いやいやいやアタシこの前レッスン始めたばっかりだよ!?」

加蓮「でもお仕事があります。って言っても他の人から回してもらった物なんだけどね」

加蓮「今ね、郊外のイルミネーションロードでイベントやってるんだ。駆け出しアイドルとかアイドルの卵で集まって、LIVEで盛り上がろうって企画でさ」

柚「そんなのあるの!? し、知らなかったっ」

加蓮「柚が見つけてたら面白そうって言ってたかもね」

10: 2015/11/29(日) 14:19:13.41 ID:oyrpMvNz0
加蓮「それで、そこに1人空きがあるみたいだから、じゃあどうかって聞いてみたんだ。そしたらオッケーもらえたよ」

加蓮「この前アイドルになったばっかりって、まさにアイドルの卵らしいって面白がられて。そーいう子もけっこういるんだって」

柚「…………」

加蓮「どう? ……やっぱりまだ早すぎた?」

柚「…………」

加蓮「……そうだよね、急にこんなこと言われても困るか。レッスンだってまだまだ始めたてだし、やっぱり――」

柚「……ううんっ」

柚「えと、やってみたい……カモ。よく分かんないけど、歌って踊ればいいんだよね」

加蓮「お。そうだよ。歌って踊って、楽しませればいいの」

11: 2015/11/29(日) 14:19:43.54 ID:oyrpMvNz0
柚「……でも、いいのかな。アタシ、フツーのことしかできないよ? アイドルってこうもっと、ぎゅいぎゅいぎゅい! って踊ってたり、わーーーーっ、って歌ってたりしない? そんなことできないよ?」

加蓮「ぎ、ぎゅいぎゅい……? 確かにそうかもしれないけど、あのね、さっきも言ったでしょ」

加蓮「まずは柚にやりたいようにやってほしいって。上手く……ええと、ぎゅいぎゅい、って踊るんじゃなくて、柚のやりたいようにやってほしいの」

柚「……分かったっ。プロデューサーが言うなら、そうするっ」

加蓮「うん」

柚「アイドルデビューか~。アイドルデビュー……へへっ♪ なんだかすっごく面白そう!」

加蓮「ふふっ、いい笑顔してるね。その調子その調子っ」

柚「いい顔してた!?」

加蓮「してたよ。知らない人がみんな一発でファンになるような顔」

柚「やったっ」

加蓮「柚のそういう顔がもっと見たいな、私」

柚「きゃーっきゃーっ!」

12: 2015/11/29(日) 14:20:13.52 ID:oyrpMvNz0
加蓮「でも、柚」

加蓮「イベントまでまだもう少し時間があるから、もうちょっと練習しよっか」

柚「え?」

加蓮「代理でも何でも、私はプロデューサーだからね。いくらアイドルの卵で集まるイベントだっていっても、やれるところまでやらなきゃ」

加蓮「さて、さっきまではほとんど初めて状態だったから遠慮してたけど、今度はビシバシやっていくよ!」

柚「ええええ――っ! あ、え、えと、お手柔らかにっ」

13: 2015/11/29(日) 14:20:43.41 ID:oyrpMvNz0
――数日後 レッスンスタジオ――

加蓮「もしもし? ……うん、分かった。すぐに行くね」ピッ

加蓮「柚。時間。行くよ」

柚「…………」カチコチ

加蓮「……どしたの? カチコチに固まって。できたー! ってさっき喜んでたのに」

柚「ぷ、プロデューサー。アタシ今からアイドルになるんだよね」

柚「これ、この服、衣装なんだよね。これでアタシ、外に出て歌うんだよね」

加蓮「うん。……怖気づいた?」

柚「おおお怖気づいてなんてないもんっ。ただちょっと、えと、緊張する……」

加蓮「そっかぁ……」

柚「…………」

14: 2015/11/29(日) 14:21:13.53 ID:oyrpMvNz0
柚「……だってしょうがないじゃん! 人前で歌うのなんてカラオケの時だけだもん! 友だちとだけだよ! 知らない人の前で歌ったことなんてないしっ」

加蓮「えー、何回も私の前で歌ったのに?」

柚「それちょっと違うよ!」

加蓮「やったことがないから、今から始めるの。柚のアイドルをね」

柚「分かってるけど~~~~……っ」

加蓮「うーん……そうだ。ね、柚。ちょっと待ってて」

加蓮「えっと、どこに入れてたっけな……」ガサゴソ

柚「……?」

加蓮「あった。ちょっと失礼するね」(柚の髪に触る)

柚「ひゃっ。くす、くすぐったいっ」

加蓮「んー、短すぎて難しいなー……留めるしちゃおっと。よいしょ」パチッ

加蓮「はい終わり。どう?」

15: 2015/11/29(日) 14:21:47.69 ID:oyrpMvNz0
柚「…………?」カガミヲミル

加蓮「髪留め。ユズの花のね」

柚「アタシ?」

加蓮「うん。柚と同じ名前の、ユズの花。柚のアイドルデビュー記念ってことで」

加蓮「これをつけて、私はアイドルだーっ、ってしっかり言ってきなさい」

加蓮「怖気づいた時はこれを触って思い出しなさい。あなたの笑顔を見たがってる人がいる、って」

柚「プロデューサー……。……って、これちょっと恥ずかしいよ! アタシはアイドルだーじゃなくて、アタシは柚だーって大声で言ってるみたいな感じがするっ」

加蓮「アイドルってそういう物なの。ボーカルレッスンをしていた時、間奏でアドリブ入れて叫んでたのはどこの誰?」

柚「ううっ……だって、そうしたら楽しくできるかなって思って」

加蓮「……!」

加蓮「じゃあやってみよう! 何にも恥ずかしくないよ。大丈夫。私が見ててあげる!」

柚「…………」サワ

柚「……やってみるっ。アタシ、やってみるね」

加蓮「あはは、やっとやる気になってくれた。じゃ、行こう、柚」

柚「うんっ。いくよーっ」

16: 2015/11/29(日) 14:22:13.59 ID:oyrpMvNz0
――イベント終了後の帰り道――

加蓮「お疲れ、ゆ――」

柚「~~~♪ ~~~~♪ ~~~~♪」クルクル

加蓮「ず……聞いてないな」

柚「~~~~~♪」

加蓮(ま、しょうがないっか。あんなに楽しそうにしてたし、興奮冷めやらぬって感じだもんね)クス

加蓮(……ホントに。羨ましいくらい、楽しそうだったなぁ)

加蓮「柚。ほら、前に木があるよ、危ないよ……ああもうっ今度は人にぶつかりそうになってる!」ダキッ

柚「わわわ!? ……あ、アレ? あっ、ありがとうプロデューサーサン!」

加蓮「楽しかったのは分かったからせめて前を向いて歩いてよ。見てて危なっかしいよ、すごく」

柚「はーいっ」

17: 2015/11/29(日) 14:22:43.45 ID:oyrpMvNz0
柚「ねープロデューサー。アイドルって面白いんだね!」

加蓮「ん?」

柚「アタシが歌い出したらさ、通りかかった人がきょとんってするんだ。でもすぐに、楽しそうに笑ってくれた。あとねっ一緒に歌ってくれたよ!」

柚「こけちゃった時に、がんばれ、って言ってくれた。それからそれから、終わった後には拍手もしてくれて!」

柚「それとアタシと同じような人がいた! えっと、アイドルになったばかりって人っ。LIVEバトル、1回だけ勝てたよ!」

柚「そん時もお客さんすっごい盛り上がってくれてっ。最後には10人くらいいたのかな。アタシのファンになってくれたのかなっ」

柚「……また、アタシが歌ってたら聞いてくれるかな。聞いてくれたら嬉しいな!」

柚「へへっ♪」

18: 2015/11/29(日) 14:23:13.40 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………そっか。面白いでしょ? アイドル」

柚「うん、面白い! アタシもっともっと歌いたい。歌って踊って、あと、ちょっぴりセクシーなのっ。もっと頑張ったらいろんな服も着られる?」

加蓮「うん、着られる着られる」

柚「そっかっ。……プロデューサーの言う通りだね。アイドルって面白くて、すっごくワクワクする!」

加蓮「…………」クスッ

加蓮「良かったね、見つけられて。面白そうなこと」

柚「見つけてくれたのはプロデューサーの方だよ!」

加蓮「え?」

柚「だってこれって、プロデューサーがアタシを見つけてくれたからできたことだよね。だからありがと、プロデューサー!」

柚「……うーん、なんだかちょっぴり堅苦しいかも。じゃあ――」

柚「加蓮……サン! 加蓮サン! これでいいやっ」

19: 2015/11/29(日) 14:23:43.61 ID:oyrpMvNz0
柚「ね、加蓮サン。アタシ加蓮サンに声かけてもらってよかった。だって、こんなに面白いことを見つけられたんだから!」

加蓮「……あはは……まだまだこれからだよ。新しい歌も新しい振付もどんどん覚えて、もっとたくさんの人に見てもらわなきゃ。それがアイドルだからね」

柚「うんっ」

加蓮「その為にももっとビシバシ行かなきゃね~?」

柚「ぎゃーっ。か、加蓮サンっ怒ると怖いからその、や、やわらか~く、ね? やわらか~く」

加蓮「さっきのレッスンのこと?」

柚「うんっ。加蓮サンちょっと言い方きつかったから……」

加蓮「わ……ホント? 自覚なかったかも……気をつけるね」

柚「ううんっ、大丈夫! でも柔らかい方がアタシは好きだよ♪」

加蓮「うん、分かった。……そうだっ。じゃあお詫びと、あと初LIVE記念に。ほら、あったかい飲み物でもどう?」スッ

柚「やたっ。じゃあ、ココア! たっぷり甘いヤツっ」

加蓮「それなら私もそれにしよっかな」ガサゴソ

20: 2015/11/29(日) 14:24:13.46 ID:oyrpMvNz0
加蓮「っと……はい、柚」

柚「へへっ。じゃあ、アタシの初LIVE記念! と、加蓮サンのごめんなさい記念にっ」

加蓮「乾杯♪」



――こうして、私たちの物語は始まった。長く長く続く、アイドルとプロデューサーの物語が。

21: 2015/11/29(日) 14:24:43.93 ID:oyrpMvNz0
――1月 事務所・夕方――

加蓮「こんにちはー」

柚「あっプロデューサーサン、じゃなかった加蓮サン! こんにち…………えっ?」

加蓮「やほ、柚。今日も早いね。あれ……レッスンまでまだけっこう時間ない? ふふっ、やる気が余り過ぎだよ」

柚「…………」パクパク

加蓮「さて、何か仕事は回してもらってるかなっと…………」

加蓮「……どしたの?」

柚「かっ、かっ」

加蓮「か?」

柚「加蓮サンっ制服着てる!?」

加蓮「制服って……そりゃ学校帰りだもん。いや柚だって同じでしょ? 制服を着てるってことは」

柚「がっこう!?」

22: 2015/11/29(日) 14:25:13.46 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ん、やっぱり先に着替えて来よ。このままじゃ仕事してるって感じがしないし……」

加蓮「……? 学校がどうかした?」

柚「え、だって、加蓮サンってプロデューサーサンで……なのに学校?」

加蓮「言ってなかったっけ。私、高校生だよ」

柚「うっそぉ!?」

加蓮「っと、ちょっと着替えてくるね」

柚「う、うん」

<スタスタ

柚「……ええぇ!?」

23: 2015/11/29(日) 14:25:43.56 ID:oyrpMvNz0
――レディーススーツに着替えてきました――

加蓮「これでよしっ。うん、頭も切り替わるね!」

柚「加蓮サンがプロデューサーサンになって帰って来た! え、えと、もしかして加蓮サンのお姉サン!?」

加蓮「どっちも私だよ。だからね、学生なの私。学生でプロデューサー代理」

柚「そ、そうなんだ」

加蓮「柚だって、学生でアイドルでしょ? それとおんなじだよ」

柚「あれっ? あ、そっか。そうだった。……あははっ、加蓮サンとお揃いだ!」

加蓮「うんうん、お揃い。さて、私はメールチェックを――」

柚「ね、ね、加蓮サンっ。何かして遊ぼうよっ。レッスンまでひまーっ」

加蓮「あのね、私は仕事しないといけないの。柚にどんな仕事を選べばいいか考えないといけないの」

柚「アタシに?」

24: 2015/11/29(日) 14:26:13.69 ID:oyrpMvNz0
加蓮「柚だって変な仕事を回されたら嫌でしょ?」

柚「う~~~ん、それはヤだけど……変な仕事ってどんな仕事?」

加蓮「変な仕事は変な仕事」カチカチ

加蓮「…………うぇ……駄目だ。契約文面の読み方とかさっぱり分からない……後で頼んどこ……」

柚「ねーねー加蓮サン遊ぼうよー」グイグイ

加蓮「大人しく座ってなさいよ……」

柚「もっとこう、身体動かさなきゃダメだよっ! バトミントンしよーっ!」

加蓮「バドミントン、好きなの?」

柚「うんっ。アタシ、バト部やってるんだ。こう見えてもなかなかやるんだぞーっ」

加蓮「ふうん」

柚「ってことで、加蓮サンもやろう!」

加蓮「ごめん、私そういうのはさっぱりだから」

25: 2015/11/29(日) 14:26:43.55 ID:oyrpMvNz0
柚「えーっ。ヘタクソでも大丈夫っ! アタシが教えてあげるっ」

加蓮「そういう問題じゃなくてね――」

<ガチャ

「戻りましたー。ああ加蓮、もう来てたのか」

加蓮「ん、モバP(以下「P」)さん。お疲れ様」

P「ああ。っと、そっちの子が柚ちゃんだな」

加蓮「うん。そういえば顔を合わせるのは初めてだっけ。あ、柚、この人は――」

柚「だれ? あっ分かった! 加蓮サンの彼氏サン!」

P「ぶっ!!」

加蓮「……。……さすが柚、よく分かってるね。こっち、私の彼氏のPさん♪」

柚「やっぱりっ」

26: 2015/11/29(日) 14:27:13.50 ID:oyrpMvNz0
P「アホか! 違うわ!」

柚「えー?」

P「あのな、加蓮、前から言ってるがそういう冗談はやめろ!」

加蓮「だって今なら別に彼氏彼女でも問題ないでしょ?」

P「いずれ問題になるかもしれないだろ……っていうか今でも問題になる!」

加蓮「ちぇ」

柚「?? 違うの?」

加蓮「上司」

柚「じょうし?」

加蓮「そ。ほら、前に仕事を回してもらったって言ったでしょ? それ、この人から回してもらったの。この人、私の上司」

P「あー、コイツの上司のPだ」

柚「そっか。はじめまして! 喜多見柚ですっ」

加蓮「お、私が教えた挨拶。しっかりできてるね」

27: 2015/11/29(日) 14:27:43.76 ID:oyrpMvNz0
柚「へへっ♪ 笑顔が大切なんだよね!」

加蓮「そうそう」

P「こちらこそ初めまして。Pです。……ったく、相変わらず加蓮は加蓮だな」

柚「えと、P……サン? もプロデューサーサンなの?」

P「ん? そうだよ、加蓮と同じだ」

柚「そうなんだっ。アタシ、プロデューサーサンってみんな加蓮サンみたいな人がやってるのかなって思ってたとこなんだっ」

加蓮「私みたいな?」

柚「えとー、アタシと同い年くらいの人っ」

P「はは、いやいや。加蓮が特殊なんだよ。普通は大人がやるもんだ」

柚「やっぱり?」

加蓮「私は代理でーす」

28: 2015/11/29(日) 14:28:14.02 ID:oyrpMvNz0
柚「プロデューサーサンって難しいんだね。よく分かんなくなってきちゃった」

P「ほら、俺じゃ女子中学生とか女子高生のことがわかりにくいからな。こういうのは現役アドバイザーがいてこそだ」

加蓮「Pさん鈍感で女心が分かってないもんね」

柚「じゃあアタシも教えてあげる!」

P「ありがとう。頼りにしているぞ」

P「にしても聞いていたより元気そうな子だな」

加蓮「でしょ? あ、それでPさん。この辺のオファーなんて柚に合いそうなんだけど契約文面の読み方が分かんなくて……。これそのまま流していいヤツ?」

P「あー、後で見とくからどのメールかだけ教えてくれ」

加蓮「はーい。Pさんのアドレスに送っとくね」カチカチ

加蓮「Pさんこれから会議?」

P「ああ。上司からイヤミを並び立てられる素晴らしい時間だ」

加蓮「そ、そう……頑張ってね……」

29: 2015/11/29(日) 14:28:43.51 ID:oyrpMvNz0
P「ま、イヤミを言われるだけで加蓮をプロデューサーにできるならな。必要経費として十分すぎだ」

加蓮「…………」

柚「どゆこと?」

P「はっはっは。んじゃ行ってくるか」スクッ

柚「???」

加蓮「行ってらっしゃい……。さて、私はやれることやらなきゃ」

柚「えーっ。バトミントンやろうよバトミントンーっ」クイクイ

加蓮「やらないってば」

P「あ、柚ちゃん。加蓮は体力がガタガタだから、そういうのは少しだけ控えてやってくれ」

柚「そなの?」

加蓮「ま、ちょっとね」

30: 2015/11/29(日) 14:29:13.97 ID:oyrpMvNz0
柚「分かった! じゃあ室内で遊べることやろっ。……今は持ってないからまた明日ね!」

加蓮「いや、だから私は仕事――」

P「遊んでやったらどうだ? 柚ちゃんも退屈なのは嫌だろう」

柚「さっすが分かってるっ。柚は退屈なの嫌だぞーっ」

加蓮「はいはい……もうっ。Pさん、行くならさっさと行ってきてよ」

P「おっとそうだった。じゃな」バタン

柚「何がいい? トランプ? ゲーム? そういえばアタシ今はまってるゲームあるんだっ」

加蓮「カバンに入れて持ってくるの? 先生に見つかっても知らないよ」

柚「だいじょーぶ! 逃げ足は早い方だからっ」

加蓮「逃げてばっかりってことかい」

31: 2015/11/29(日) 14:29:44.00 ID:oyrpMvNz0
――少し経ってから――

加蓮「と……そろそろレッスンルームが空く時間だね。柚、行くよ」

柚「えーもう? 加蓮サン加蓮サン、あんまりツノ生やさないでね? こんな感じに!」ニョキッ

加蓮「柚がツノを生やさせるのが悪い」

柚「アタシのせい!? う、うう~、だってまだぜんぜん上手くできないもん……」

P「あんまり厳しくしすぎるなよー」(←会議から戻ってきた)

加蓮「私には私のやり方があるの。ほら、ぐずぐず言ってないでさっさと行くよ」

柚「はぁーい……」

加蓮「……終わったらお菓子でも買ってあげるから」

柚「ホント!? じゃあじゃあ、チョコスティックがいい! それなら頑張れるかもっ」

加蓮「ふふっ。覚えとくね」

柚「うんっ」

<スタスタ 今日は演技力レッスンだね
<スタスタ 演技はまだニガテー

P「……はは、いい感じじゃないか」

32: 2015/11/29(日) 14:30:13.50 ID:oyrpMvNz0
――レッスンルーム――

柚「ど、どお? アタシの演技っ。って言ってもやったことないからぜんぜんだけどっ」

加蓮「ん~~~」

柚「やっぱり、だめ……? あのっ、そのっ、えっと…………」

加蓮「え? あ、ごめんごめん、ダメとかじゃなくて……いやダメはダメなんだけど……」

柚「ダメなんじゃん!?」

加蓮「……うーん。分かった。柚、ちょっと台本を貸して」

柚「え? うん」スッ

加蓮「えーいっ」ポイ

柚「ええっ!? アタシまだセリフ覚えてないよ!? っていうか覚えろって言われてないし!」

加蓮「さて柚。今から私がお題を出します。それに沿って柚が思う演技をしてみて」

柚「お、お題?」

33: 2015/11/29(日) 14:30:43.45 ID:oyrpMvNz0
加蓮「はいお題。『欲しかったお菓子をプレゼントしてもらえた』」

柚「お菓子っ!? えとっ……欲しかったお菓子……」

加蓮「なんでもいいよ。チョコスティックだっけ? それでもいいし」

柚「……『チョコスティック!? やったーっ、アタシこれ食べたかったんだ!』」

加蓮「よし。お題、『目の前でそのお菓子を食べられました』」

柚「『こらーっ、それアタシのお菓子! 返せーっ』」ガックガック

加蓮「ちょっ揺らすな揺れ揺れ」オロロロロ

柚「はっ! ご、ごめんなさい加蓮サンっホントに食べられちゃった気がして!」

加蓮「ふー、ふー……ごほんっ。お題『お菓子の賞味期限が1ヶ月くらい過ぎてました』」

柚「『…………ううっ』」

加蓮「…………」

34: 2015/11/29(日) 14:31:13.57 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ドンマイ。代わりに明日、私がそのお菓子を2つ買ってあげるね」

柚「ホント!? やりっ。絶対だよ、絶対にだよ! あっ2つも買ってくれるんだ! じゃあじゃあ、加蓮サンとはんぶんこっ」

加蓮「え、私も?」

柚「うん。それで一緒に食べるんだ。へへっ♪」

加蓮「私はいいよ。どっちも柚が食べなって」

柚「遠慮するなんて加蓮サンらしくないぞーっ」

加蓮「…………」フフッ

加蓮「はい、しゅーりょー」パンパン

柚「へ? なにが?」

加蓮「何がって、これレッスンだよ? ここレッスンルームで今は演技力レッスン中。忘れたの?」

柚「あっ」

加蓮「うん。柚。今から言うことをよーく覚えて、そして何回も繰り返しなさい」

柚「ごくっ……!」

35: 2015/11/29(日) 14:31:43.41 ID:oyrpMvNz0
加蓮「柚」

加蓮「――いつでもどんな時でも、柚のやりたいようにやりなさい」

柚「アタシの、やりたいように……ってそれ前も聞いたよ?」

加蓮「大切だから何回も言うの。台本があるならその中でやりたいことを見つけなさい。歌詞があったら歌いたいように歌いなさい。ちょっとくらいならアドリブを入れてもいい」

加蓮「そしてそれを覚えるの。もちろん、最低限の指示は聞かなきゃいけないけど……」

加蓮「ほら、例えばさ、こうやったら面白くなりそうとかああやったら楽しくなりそうとか、そういうの思いついたらどんどんやっていくの」

加蓮「……うん、そんな感じ」

柚「うんっ。えと、アタシはアタシのやりたいようにやるっ」

加蓮「そうそう」

柚「アタシはアイドルがやりたいっ」

加蓮「うんうん」

36: 2015/11/29(日) 14:32:13.55 ID:oyrpMvNz0
柚「じゃあ――ええと、もっとレッスン! 加蓮サンっもっとレッスンして!」

加蓮「ん」

柚「さっきの台本、もっかいやってみたいなっ。アタシもっとやってみたいことがあるんだ。えっと、怒るシーンとかこう、がーっ、って感じでツノを生やして」

柚「あれっそれじゃアタシ加蓮サンだ!」

加蓮「……ねえ柚。どうして怒るシーンをやったら私になるの?」

柚「だって怒った加蓮サンっていっつも鬼みたいでギャー! ごめんなさいその顔やめてっ夢に出る! ってか出た! 一昨日に出た! 起きてドタドタしてたらお母さんに笑われちゃったんだよ!? だからやめて加蓮サン~~~!」

37: 2015/11/29(日) 14:32:43.41 ID:oyrpMvNz0
――事務所――

加蓮「ただいま」

P「おう。柚ちゃんは?」

加蓮「先に帰るって」

P「そうか」

P「…………どうだ? プロデューサーになった気分は」

加蓮「ん……まだよく分かんないよ」

P「ま、最初はそんなもんだ」

加蓮「ただ、なんかいいなって思った」

P「おっ」

加蓮「柚が……楽しそうにしてるのが、なんかいいなって思ったの」

加蓮「最初に見た時、すごくつまらなさそうにしてたから……思わず声をかけちゃったけど」

加蓮「アイドルやりたい、アイドルが面白いって言ってくれた時、なんかちょっと嬉しかったんだ。声をかけてよかったな、って思えて」

加蓮「プロデューサーって……こういう気分なんだね」

P「…………」

38: 2015/11/29(日) 14:33:13.80 ID:oyrpMvNz0
加蓮「あ、でも私がプロデューサーやってていいのかな? って今更だよね。ほら、今はまだただの代理っていうか手伝いだし大したことしてないけどさ。これからも続けてたら、Pさんに迷惑かけたりしない?」

加蓮「Pさんだけじゃなくて、プロダクションにも」

P「そうだなー……加蓮」

加蓮「うん」

P「これ。俺からのプレゼントだ」スッ

加蓮「……これ……名刺? これならもう持ってるよ? プレゼントって――」

P「肩書のところをよく見てみろよ」


名刺『CGプロダクション プロデューサー 北条加蓮』


加蓮「あ、"代理"がない……」

39: 2015/11/29(日) 14:33:43.56 ID:oyrpMvNz0
P「さっきの会議の時にな。加蓮がプロデューサーをやることについて少し話し合ったんだ」

加蓮「……え!? あれ私のことだったの!?」

P「ああ。いやー上からすげえあれこれ言われたよ。お前何考えてんの? 馬鹿なの? ってずっと言われたぞ」

P「各種契約やら何やらは俺が上司となって通すことにするし、若い子のセルフプロデュースがあるなら若い子のプロデューサーがいてもいいだろうって突っぱね続けてみたんだ」

加蓮「確かに、そういう人たまにいるけど……」

P「最後には上の面々も諦めてなー。一部は面白そうだとかきっと話題になるとか言ってるし。ってことで加蓮、晴れて代理は卒業。今日からは俺と同じプロデューサーだ」

加蓮「…………」マジマジ

P「加蓮。俺がサポートするから、やれるところまでやってみろ。大丈夫。加蓮に迷惑をかけられるのなんて昔から慣れっこだからな」

加蓮「…………Pさん……」

40: 2015/11/29(日) 14:34:13.41 ID:oyrpMvNz0
P「それに俺は柚ちゃんを担当するつもりないぞ?」

加蓮「え?」

P「そりゃ加蓮の代わりに送迎とかはしてもいいし、加蓮ができないっていうなら引き継ぐけど……」

P「俺の担当は昔も今も1人しかいないんだ。できれば、柚ちゃんは加蓮に担当してほしいって思ってる」

加蓮「…………何か言われないの? プロデューサーなのに担当アイドルがいない状態って」

P「え? イヤミ言われまくったけど? いいご身分ですねーとかさぞかし楽してるんでしょうねーとか」

加蓮「やっぱり……」

P「ま、そんなの知ったことじゃねえよ。俺は、加蓮がやりたいようにできればそれでいい」

P「だから……おう、そういうことだ。あ、必要なことはどんどん教えていくからな」

加蓮「…………うん。やってみる」

P「おーし。さて、俺らも帰りますか。送ってくぞ?」

加蓮「うんっ」

41: 2015/11/29(日) 14:34:43.52 ID:oyrpMvNz0
P「あ、ごめん、さっきの名刺なんだけどさ。やっぱ改めて作りなおしてから渡すわ」

加蓮「どうして?」

P「いやほら、プロデューサーの前に『喜多見柚専属担当』って書いた方がそれっぽくならね?」

加蓮「……あははっ、そうだね!」

42: 2015/11/29(日) 14:35:13.57 ID:oyrpMvNz0
――2月 病院の出口――

<ガーッ

加蓮「…………わ、涼し……♪」

<ブーッ、ブーッ

加蓮「……ん?」ガサゴソ

加蓮「…………」ハァ

<ポチ

加蓮「もしもーし? お母さん? はいはい、病院の帰り道。今からプロダクションに行くとこ……用がないなら切るよ?」

加蓮「うん。そう。手伝いっていうか代理っていうか。言っとくけど、やめろって言われてもやめないからね――」

加蓮「……はいはい。分かってるならいーよ」

加蓮「え? ……分かってまーす。そっちはやってないし誘われてもやらない。そういう約束だったでしょ?」

加蓮「はいはい。じゃあね」ポチ

加蓮「…………はー」

加蓮「にしても…………」チラ

43: 2015/11/29(日) 14:35:43.54 ID:oyrpMvNz0
――回想 病院の診察室――

『覚えておきたまえ。キミは生きていることが不思議なくらいなんだよ』

『……知ってる? それは失礼したかな』

『動くなと言っても言うことなんて聞いてくれないだろう? 動かなければどうにかなる物でもないからね』

『繰り返すが、決して無理はしないように。走ったら氏ぬと思いなさい。いいね』

――回想終了――


加蓮「どうせ不思議な状態なら、もうちょっと……、……はー」

加蓮「さて、事務所事務所っと」ハヤアルキ

<赤信号

加蓮「おっと」

加蓮「…………」ジー

加蓮「…………ハァ」

44: 2015/11/29(日) 14:36:13.54 ID:oyrpMvNz0
――事務所――

加蓮「こんにちはー……わっ、雛壇がある!」

P「ああ加蓮。どうだ、立派なモンだろう。倉庫の方にしまってあったから発掘してきたんだ」

加蓮「へーこんなのあったんだ。すごい……」

柚「あっこんにちは加蓮サン! これ、ひなあられ! 加蓮サンも一緒に食べよっ」

加蓮「柚。こんにちは。ひなあられかー。……え、っていうかどっちも早くない? まだ2月になったばっかりだよ?」

P「おいおい加蓮。時代を先取りするのはプロデューサーの義務だぞ? 加蓮もプロデューサーならそこんところはきっちりしようぜ」

加蓮「そういう問題?」

柚「そういう問題!」

加蓮「そうなんだ……」

柚「分かんないけどっ」

45: 2015/11/29(日) 14:36:43.58 ID:oyrpMvNz0
柚「まま、とりあえず。加蓮サン、あーん!」スッ

加蓮「あ、うん」アーン

加蓮「…………」モグモグ

柚「加蓮サンもひなあられ食べた! これで加蓮サンもサボり仲間だねっ」ニパッ

加蓮「やっぱサボってたんかいっ」スパーン

柚「きゃっ」

柚「えーだってーPサンがやるって言うんだもんー。力仕事は任せろー、って言ってくれた!」

P「おう、任せろ!」

柚「アタシはひなあられを食べる係! ひなあられうまーっ」パクパク

加蓮「…………」ジトー

柚「あ、なくなっちゃった。おかわりあるかな? アタシ探してくるっ」ビュー

加蓮「…………」

加蓮「…………お疲れ、Pさん」スタスタ

46: 2015/11/29(日) 14:37:13.42 ID:oyrpMvNz0
P「なんだ加蓮。手伝ってくれるのか?」

加蓮「いやまあ……男の人が1人で雛壇を飾ってるのってさ……」

加蓮「正直、ちょっとイタい」

P「そ、そうか。いや、でもいいんだぞ? 俺1人でやるぞ? 人形って意外と重たくてな、変にデカイから体力だってけっこう食うし――」

加蓮「…………」ガサゴソ

P「だよなー」

P「あ、加蓮、その人形はここだ。五人囃子は左から――」

加蓮「詳しいんだね……」

P「プロデューサーの義務だからな」

加蓮「何が?」

47: 2015/11/29(日) 14:37:43.69 ID:oyrpMvNz0
――飾り付け中――

加蓮「あのさ」

P「んー?」カザリカザリ

加蓮「病院、行ってきた。定期検診」

P「…………」ピタッ

P「……ん、そうか。どうだった?」

加蓮「どうも何もいつも通りだよ。無理な運動はするなってだけ。ご安心ください、極めて健康です」オドケワライ

P「そっか」

加蓮「ん」ハイ

P「…………」オウ

加蓮「…………あと、なんで生きてんのかって言われた。……ごめん間違えた。生きてるのが不思議だって言われた」

P「…………」

48: 2015/11/29(日) 14:38:13.84 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………ごめんね」

P「何がだよ」

加蓮「何って、私のこと――」

P「はは、いいって。何度も聞いたからな。それにほら、今の加蓮はプロデューサーだろ?」ガシガシ

加蓮「あ、ちょ、頭撫でるなっ」

P「柚ちゃん、いい子だな。さっきずっと加蓮の話を聞かされっぱなしだったぞ」

加蓮「ひなあられを食べながら?」

P「ひなあられを食いながら」

加蓮「そっか」

P「ああ」

P「いつもいろいろ考えてて、いろんなこと教えてくれて」

P「アイドルがどんどん楽しくなっていく、ってさ」

加蓮「ふうん……」

49: 2015/11/29(日) 14:38:43.38 ID:oyrpMvNz0
P「っと、もうちょい首は上向きにしないと暗いな……こっちは左右の置き位置のバランスが……」

加蓮「……もしかしてPさん、飾り付けるのハマっちゃった?」

P「俺もプロデューサーだからな」ドヤ

加蓮「そ、そう……」

P「今日も残業確定だけど、上には雛壇を飾っていたら仕事が遅くなりましたって正直に言うつもりだ」

加蓮「……また嫌味とか言われちゃうよ?」

P「ウケ狙いの一点賭け、失敗したら酒の席のネタ行きだ」

加蓮「……大人ってすごいんだね」

P「大人はなんでも笑い飛ばせるんだよ。だから加蓮。あんま考えすぎんなよ。笑い飛ばせるところは笑い飛ばそう」

加蓮「……ん」

P「おっと、それよりも飾り付けを進めなければ……加蓮もそのうち病みつきになるぞ? ほらほら、一緒に飾ろう!」

加蓮「重たいから1人でやるって言ったのにー」

50: 2015/11/29(日) 14:39:13.43 ID:oyrpMvNz0
<ドタドタ

柚「ひなあられあったよーっ。加蓮サンも一緒に……あれぇ!? 加蓮サンまでそっちいっちゃった」

柚「だったらアタシも手伝おっと」

加蓮「…………」ジー

柚「……? なに?」

加蓮「…………」チラ

P「おいおい胴体がちょっと汚れてるじゃないか。こういうのってどう掃除するんだっけか――」

加蓮「……邪魔しちゃ悪いから、一緒にひなあられ食べて見てよっか」

柚「! そうしよそうしよ! へへっ、これで加蓮サンもサボり仲――じゃないや、ひなあられ仲間!」グッ

加蓮「むぐ」

加蓮「…………」ポリポリ

51: 2015/11/29(日) 14:39:43.45 ID:oyrpMvNz0
柚「あと甘酒もあるよ! あっち行こっ加蓮サン!」

加蓮「はーい。Pさん、ごめんけどお願いね」

P「こっちは髪の部分が少し湿気て……ん? なんだ加蓮」

加蓮「なんでもないでーす」

52: 2015/11/29(日) 14:40:14.07 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

……。

…………。

53: 2015/11/29(日) 14:40:43.72 ID:oyrpMvNz0
――営業先――

「へー、Pさんとこもセルフプロデュース始めたの。最近流行ってるよね~若い子がそういうのって。トラブったとかよく聞くけど大丈夫なの?」

「……え? 違う? プロデューサーとして? あ、ああそうなんだ。へー」

「ううん……いいのかなぁ……。あ、持ち帰ってちゃんと検討するんだ。はあ。それならまあ……」

「で? 誰の営業? あ、資料あるのね。ふうん、喜多見柚ちゃんか」

「うーん。今はちょっと任せられるのはないかなぁ。うん、済まないね」



――営業先――

「は? プロデューサー? いや君どう見ても子供……名刺? いや、あのね、ここは学生が勉強しに来るところじゃなくてさ?」



――営業先――

「いやまあ話くらいは聞きますが……それならそれで、上司の方と一緒にいらしたらどうでしょうか?」

「任されている? はあ、そうですか……」

54: 2015/11/29(日) 14:41:13.47 ID:oyrpMvNz0
――営業先との電話――

『うちはお断りだ! 流行だの若者の社会進出だの馬鹿馬鹿しい。下手な契約で裁判沙汰にでもなったら責任取れるのか? お?』

『プロデューサー? だったらなおさらだ!』



――営業先――

「プロデューサー。へー、面白い。是非とも話を聞こうじゃないか。……え? 意外? この業界は流行が命だからね。流行を見つけたらまず乗れ! これ常識でしょ」

「それでそれでどんな子を? ふうん、喜多見柚ちゃん。資料と、ああLIVE映像もあるのね」

「これは……去年にやってたイルミネーションイベントか。僕も見に行ったなー。パッとしなかった印象だけど」

「ふんふん……ふん……、あー、ごめんね。駄目だ。うちで回せる仕事はないね」

「なんていうか、インパクトがないんだよねー。アイドルなんていくらでもいる訳だし? この子はちょっとフツーすぎるよ。生き残るのキツイんじゃないかなぁ」

「おっと、ごめんごめん」

55: 2015/11/29(日) 14:41:43.37 ID:oyrpMvNz0
――ファミレス――

加蓮「ぅあー」ツップセ

加蓮「疲れたぁ……」

加蓮「はー…………」

加蓮「まだお昼なのに……歩きまわったからかな……」

加蓮「…………」

加蓮「……なーにやってんだ、私……」

加蓮「はは。ホント、何やってんだろ……」

加蓮「…………はぁ」

<ブーッブーッ

加蓮「…………」ガサゴソ

加蓮「……もしもーし? Pさん?」

56: 2015/11/29(日) 14:42:13.52 ID:oyrpMvNz0
P『加蓮。今は帰りか? ちゃんと休み休みやってるか? 車いるか?』

加蓮「初っ端からそれ? ホント過保護だよねPさん……」

P『加蓮だからな。それより車は、』

加蓮「うっさい。1人で帰るから放っといて」

P『だがな――』

加蓮「放っといて」

P『……そうか』

加蓮「…………あ」

加蓮「ごめん……、ちょっとイライラしてた」

P『いや……ってことは営業は』

加蓮「さっぱり。既存のとこはさすがに話を聞いてくれたけど任せられる仕事がないんだってさ。新規は……論外。上司と一緒に来いって言われたり学生が勉強しに来るところじゃないって言われたり」

P『やっぱりキツイか……。若い子のセルフプロデュースが増え気味って聞いたからいけると思ったんだがなぁ』

57: 2015/11/29(日) 14:42:43.47 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……一箇所だけ、面白そうだから聞いてくれたって場所があったんだけどさ」

P『お、どうだった?』

加蓮「…………」

P『……加蓮?』

加蓮「……とにかく総空振りです。無駄に疲れただけでした」

P『あ、ああ。資料とか映像とか渡せた?』

加蓮「一応ね。渡して、駄目って言われたとこもあったけど」

P『厳しいな』

加蓮「うん。……あーもうあのヘラヘラした顔思い出したらまたムカついてきた! ……もうっ」

P『ははっ』

加蓮「笑うなぁ」

P『悪い』

58: 2015/11/29(日) 14:43:13.53 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………ふふっ」

P『……お前だって笑ってんじゃねえか』

加蓮「べっつにー。叫んだらちょっとスッキリしちゃったかも」

P『お前って単純なのか複雑なのかよー分からんな……』

加蓮「あ、ひどーい。女の子に向かってそういう扱いはよくないぞー?」

P『今は誰も担当してねえし、怒る女の子がいねえし』

加蓮「私が怒る」

P『はいはい』

加蓮「はー。……ホント、何やってんだろー私って感じ」

P『ん?』

加蓮「いや、あのさ……クタクタになってイライラさせられて、何やってんだろうねーって……」

加蓮「……あはは、ごめん。ちょっと疲れちゃってるかも……あ、身体がじゃないよ? Pさんだって愚痴を言いたくなる時くらい……」

加蓮「…………ごめん」

59: 2015/11/29(日) 14:43:43.48 ID:oyrpMvNz0
P『…………』

P『……なあ加蓮。交代するか? 前みたいに、俺が営業で仕事を探してきて加蓮が割り振る、それでもいいじゃないか』

加蓮「…………」

P『プロデューサーの仕事は一面的じゃない。1人が全部をやる必要なんてないんだ。前も言ったけど、アイドルのケアをすることだって大切な仕事だし、その方が加蓮には楽だろう』

P『楽してばっかって言われるかもしれねえけど、キツイのを回避できるなら回避するに越したことはないだろ?』

加蓮「…………」

P『……いつでも言ってくれよ』

加蓮「うん……ううん、今はいい。もうちょっと頑張ってみる」オキアガル

P『分かった』

60: 2015/11/29(日) 14:44:13.47 ID:oyrpMvNz0
P『資料は渡せたんだよな? それなら進展してるじゃないか。先週は1つも渡せないで終わったんだろ?』

加蓮「やなこと思い出させないでよ」

P『そうしたらまた笑い飛ばしていこう』

加蓮「そーだね……よしっと。今から帰るね。何かお菓子とかいる?」

P『残念だが』

加蓮「?」

P『さっき来た柚ちゃんが大量に持ち込んで、冷蔵庫がパンクしかけてる』

加蓮「あ……あははっ、まったく柚は……。あ、グレープ味のプリンがあったらとっといてね。それ柚が私に買ってきたのなんだからっ」

P『お、それは美味いから食えってフリか?』

61: 2015/11/29(日) 14:44:43.37 ID:oyrpMvNz0
加蓮「違うっ! ちょ、食べてたらホント許さないからねPさん!」

P『はいはい。気をつけて帰ってこいよ~』ガチャ

加蓮「…………」ツーツー

加蓮「…………」

加蓮「…………」ミアゲル

加蓮「はー……ホント、何やってんだろ、私……」ツップセ

62: 2015/11/29(日) 14:45:13.57 ID:oyrpMvNz0
――事務所――

加蓮「ただいまー……」

柚「お帰り加蓮サンっ」

加蓮「柚」

柚「そしてアタシもお疲れ!」

加蓮「どゆこと?」

柚「さっきレッスン終わったばっかりなんだ」

加蓮「そっか。じゃあ、柚も私もお疲れ様」

柚「おそろいだ!」

加蓮「そだね、お揃い」

加蓮「どう? トレーナーさんとのレッスンも慣れてきた?」

柚「うんっ。優しく教えてくれたから大丈夫だった! それにアタシ、ダンスに光る物があるって褒められたよ。加蓮サンが教えてくれたお陰だねっ」

加蓮「そっか」

63: 2015/11/29(日) 14:45:43.50 ID:oyrpMvNz0
柚「それ以外はまだまだだーって言われちゃったけど、これから頑張るんだ。トレーナーサンも、一緒に頑張っていきましょうってさ!」

柚「……?? どしたの? なんかこう、眉のとこがぐにーってなってるよ?」グニー

加蓮「あはは、ごめんごめん。ちょっと疲れちゃって」

加蓮(……何の皮肉だ。よりによって褒められた部分がそれ――)

P「疲れてるだと!?」シュバ

柚「わ!?」

P「やはりか! 電話した時からそうだとは思っていたが……ほら、ソファに横になってしっかり休め! ミルクココア入れてくるからそれを飲んで身体をしっかりと!」グイッ

加蓮「ああもうホントに過保――あっ、ちょ、」

P「ほら座る! 横になる!」バッ

加蓮「きゃっ」

P「よし、次はミルクココアだ!」シュタッ

64: 2015/11/29(日) 14:46:13.62 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………」

柚「…………」ポカーン

加蓮「…………」

柚「…………お、お姫様?」

加蓮「じゃああっちはウザい執事」

加蓮「ホント、Pさんってば……」

柚「でも加蓮サンちょっと嬉しそう?」

加蓮「ああん!?」

柚「ギャー! ツノ、ツノ引っ込めてー!」

65: 2015/11/29(日) 14:46:44.01 ID:oyrpMvNz0



加蓮「…………おいし」(ミルクココア飲んでる)

柚「アタシの分までありがとっ」ゴクゴク

P「いやいや。それより加蓮が動かないかそこで見張っててくれ、柚ちゃん」

柚「あいあいさー!」ビシッ

加蓮「もう。たかが歩いただけなのに……Pさんだって歩くと疲れるでしょ? 同じだよ、もう……」

P「そうは言ってもな」

加蓮「はいはい。それより柚。どう? 次のプチLIVE、上手くできそう?」

柚「んー……まだ、歌詞がたまに飛んじゃう」

加蓮「そっか」

柚「歌うだけならできるけど、踊りながら歌うのは難しいね」

加蓮「そう? クリスマスの時は上手くやってたじゃん」

柚「あれは……そのー、やらないと! って思ってたからっ」

加蓮「そっか」

66: 2015/11/29(日) 14:47:13.91 ID:oyrpMvNz0
柚「でもアタシ頑張るね! 加蓮サンだって頑張ってるんだから、アタシも頑張らなきゃ!」

加蓮「…………」

柚「うーん。加蓮サン加蓮サン。どうやったらアタシ上手くできるかな? 他のアイドルみたいに、こう、ビシって」

加蓮「柚」ポス

柚「ふみゅ」

加蓮「私が言ったこと思い出す。はい復唱」

柚「えとっ……あ、やりたいように、楽しく!」

加蓮「そうそう。上手くやるより、楽しくやろうっ」

柚「あいあいさー!」

柚「楽しくかー。どうやったら楽しくなるだろ。うーん……」ウーン

柚「そうだ!」(立ち上がる)

加蓮「?」

67: 2015/11/29(日) 14:47:43.56 ID:oyrpMvNz0
柚「あのね。ここんところ」タンタン

柚「こんなふうにっ」サッ

柚「えいっ」ギュイギュイ

柚「……って感じに回ってみたい! そしたらきっと楽しいと思うんだっ」

加蓮「…………」

加蓮「ごめん、ここんとこってそこどこ?」

柚「あれっ伝わってない!? 間奏のとこだよっ。ほら、たーたたたたんったたんってとこ!」

加蓮「ああ、間奏ね。そこならいいんじゃない? 歌詞が飛ぶこともないだろうし」

柚「やたっ。あ、それからそれから、最後のサビの前でも回ってみたい!」

柚「こんな風にっ」ギュイギュイ

柚「わっ」ツルッ

柚「ぎゃふん」ズテ

加蓮「…………ぷっ……くくっ……!」

68: 2015/11/29(日) 14:48:14.00 ID:oyrpMvNz0
柚「あー! 加蓮サン笑った! 笑うなー!」ポカポカ

加蓮「ごめんごめん、ごめんってば。ぷくくっ……い、いいんじゃない? その方が楽しそ……くくっ……」

柚「加蓮サンひどいっ。もう、もう!」

加蓮「あー、ごほん、ごほん……くくっ……ほら、まずは回っても転ばないように…………ぷぷっ……」

柚「まだ笑う!?」

加蓮「いや、こけた瞬間の柚の顔を思い出すと……あはははっ…………」プルプル

柚「もーっ、そんなに笑う加蓮サン大っ嫌い!」

加蓮「ごめん、ごめんってば。ほら、柚。途中で買ってきたチョコバーあげるからっ」スッ

柚「あ、アタシはお菓子で釣られる女の子じゃないもんっ。それもう卒業した!」

加蓮「そう? じゃあ私が食べ――」

柚「…………」ウズウズ

69: 2015/11/29(日) 14:48:43.58 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………」

柚「…………」ユズユズ

加蓮「……あーん」

柚「あむっ♪ うまーっ!」

加蓮「…………くくっ」

柚「あー! また笑うー!」

加蓮「あははっ」

70: 2015/11/29(日) 14:49:13.48 ID:oyrpMvNz0



P「あれ? 加蓮、結局お菓子を買って来たのか」

加蓮「柚用のでーす。Pさんにはありませーん」

P「え」

加蓮「はい、あーん」

柚「あむっ。ん~~♪」

P「え、待って、俺の分は?」

加蓮「ない」

P「何で!?」

加蓮「何でも」

P「!?」

71: 2015/11/29(日) 14:49:43.53 ID:oyrpMvNz0
――撮影スタジオ――

「はーい、もっと笑って笑って! 楽しそうに!」

柚「こ、こうっ」

「うーんまだ堅いね。作り笑顔じゃなくて自然な感じで!」

柚「にぱっ」

「そうそう……うーん少し違うなぁ。もっとこう、アイドルっぽく!」

柚「はいっ。に、にぱっ」

「じゃあ少し動いてみようか。まずは――」

72: 2015/11/29(日) 14:50:13.81 ID:oyrpMvNz0



柚「ふーっ」

加蓮「お疲れ、柚」

柚「加蓮サンっ。……あはは、なかなか上手くできなくや」

加蓮「ん……」

柚「アタシ、やっぱりアイドルっぽくないよね。カメラマンサンからも言われちゃった」

加蓮「それでいい……って言っても難しっか」

柚「前にやった時も上手くいかなくて、すっごい時間かかったし……難しいねっ」

加蓮「……そだね。でもカメラさん、いいねって言うこともあったでしょ?」

柚「そだけど……」

加蓮「後で見本もらえるから一緒に選ぼうよ。可愛く撮られてる柚を」

柚「いっしょに?」

加蓮「一緒に」

73: 2015/11/29(日) 14:50:44.85 ID:oyrpMvNz0
柚「ぅー、変な顔で映ってたらヤダな……あ、あんまり見ないでね?」

加蓮「え? やだ」

柚「えーっ!?」

加蓮「あははっ。ほら、それも記念だって♪」

柚「うぅ。じ、じゃああんまり見られないところに置いといてよ?」

加蓮「しょうがないなぁ。じゃあ誰も見ないとこにしまっとくから」

加蓮「……ほら、柚。休憩終わりだよ。もうちょっと頑張ってみよ? 見ててあげるから」

柚「はーい……」ショボン

加蓮「……柚」

柚「?」クルッ

加蓮「失敗しても大丈夫。ここには、柚の失敗を笑う人なんていないから。だから思いっきり――」

柚「……加蓮サン、こん前、思いっきり笑ってた」

加蓮「え?」

74: 2015/11/29(日) 14:51:13.69 ID:oyrpMvNz0
柚「転んだ時に」

加蓮「あ。……え、もしかして気にしてた……?」

柚「…………」ウツムキ

加蓮「分かった。ごめんね。もう笑わないから」

加蓮「柚が失敗しても、絶対に笑わない。冗談でも笑わない。……ね?」ポンポン

柚「……うん」

加蓮「ほら、顔を上げて。楽しいアイドルの時間だよ」

柚「楽しい、アイドルの時間……」

加蓮「うん。写真を撮られること、笑顔を撮られることも楽しんでいこうよ!」

柚「……楽しんで、いいの?」

加蓮「楽しんじゃいけないことなんて1つもないんだよ。ほらほら、行った行った!」ズイ

柚「わっ。押さないでー!」

75: 2015/11/29(日) 14:51:43.60 ID:oyrpMvNz0
――事務所――

柚「決めた! アタシこの写真がいい!」

加蓮「えー、こっちの方がよくない?」

柚「でもそっち、ふにゃってなっててカッコ悪いっ」

加蓮「それが柚らしくて可愛いんじゃん。あ、この子は堅苦しくないな、って分かってくれるよ」

柚「えー! アタシもっとビシっとしたいな!」

加蓮「うーん……」

柚「むー……でも加蓮サンがそう言うなら、そっちでもいいよ」

加蓮「え? ……あー、でもこの写真、ちょっとかっこ悪いかも?」

柚「どっち!? どっちなの加蓮サン!?」

加蓮「ほら、柚に言われてみればって感じでさ。そっちの写真にしちゃおっか?」

柚「……でもアタシも、加蓮サンに言われてみればそっちのふにゃってした顔もいいかもっ」

加蓮「えー、柚こそどっちよ」

76: 2015/11/29(日) 14:52:13.46 ID:oyrpMvNz0
柚「…………」

加蓮「柚?」

柚「……これハズい! なんでアタシ自分の顔をこんなにじーって見てんの!? やめてーっ、なんかすっごいハズい!」

加蓮「え、そう?」

柚「ハズいよ! 加蓮サンだって自分の写真とか見てたらハズいでしょ!?」

加蓮「いや、全然……?」

柚「アタシはハズいの!」

加蓮「そ、そう。でもそれは慣れなきゃ。自分がどんな顔をしてるかなんて、こうでもしないと分からないんだよ?」

加蓮「ほら、ステージとかでさ。キリッとしているつもりでいたら実はふにゃってしてました、なんてダサいでしょ?」

柚「それは……そうだ!」

77: 2015/11/29(日) 14:52:43.50 ID:oyrpMvNz0
柚「じゃあアタシ頑張ってみる。ハズくならなくなるようにっ。……むー、むむー」ジー

柚「……やっぱムリー! 加蓮サンが決めていいよっ。ふにゃっとしててもキリッとしててもいいから!」

柚「そんで、ステージでアタシがキリってできてるかも加蓮サンが見て~!」

加蓮「…………。えー、私1人じゃ決めきれないなー。柚が手伝ってくれたら嬉しいんだけどなー」

柚「えーっ! じ、じゃあもうちょっとだけ頑張るっ」

柚「むむー…………」ジー

柚「……やっぱムリ!」

加蓮「ふふっ」

78: 2015/11/29(日) 14:53:13.59 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

……。

…………。

79: 2015/11/29(日) 14:53:44.34 ID:oyrpMvNz0
――営業先――

「うーん……面白そうだし可愛い子だとは思うんだけどねー……うーん……」

「本人は今日いないの? あーそっか学校か。いやいや君もなんじゃ……休ませてもらって? ふうん、まるでアイドルみたいだね……え? どうしたの、急に恐い顔して」



――営業先――

「うん、ちょうどセルフプロデュース枠ってことで1人くらい出してみたかったんだよね。え? あれ、君じゃなくて違う子の仕事?」

「ちょっと拝見……いやー、この子にか。何かあるかなぁ、任せられる案件……」

「っていうか君の方がアイドル向いてるんじゃない?」


――営業先――

「君が例の。言っとくけどうちはあんまり変なことやりたくないから。挑戦とか新境地とか。そういうことやるから痛い目に遭うんだ」

「話だけでも? お断りです」



――営業先――

「そうかー、時代は変わりつつあるんだねぇ。君みたいな若い子がプロデューサーを」

「ま、若いからって贔屓はしないよ。とりあえず資料から見ようか」

「ふむ。ふむ。……LIVE映像も? どれ」

「……うーん、どうだろう。ちょっとパンチが弱いかな。素材はいいからよそなら何か任せられる物があるんじゃないかねぇ」

80: 2015/11/29(日) 14:54:13.68 ID:oyrpMvNz0
――事務所――

加蓮「ただいま!」バタン!

柚「!」ビクッ

P「お、おう、お帰り。今日はまた荒れてるな……」

加蓮「…………」ドサッ

柚「あ、あの加蓮サン――」

加蓮「何」ギロ

柚「っ」

P「おいおい……」

柚「え、えっとね。今日の、レッスンのこと――」

加蓮「レッスン――」

加蓮「…………」

加蓮「……ちょっと後にしてもらっていい? 私、あちこち歩きまわってちょっと疲れてるの。少し静かにさせてよ」

柚「う、うん。ごめんね……」

P「おい――」

81: 2015/11/29(日) 14:54:43.37 ID:oyrpMvNz0
加蓮「別に……。アンタはいつでも元気でいいよね……羨ましいよ。私なんてちょっと歩いただけでクタクタに――」

P「おい加蓮!」

加蓮「っ!」ハッ

柚「ご、ごめんなさいっ! あの……えと……あ、アタシちょっとコンビニ行ってくるっ!」タタッ

<バタン

P「おい、おい加蓮……」

加蓮「……………………っ」(ソファに座る)

加蓮「……………………なにやってんだ私…………っ……!!」ギリ

82: 2015/11/29(日) 14:55:13.50 ID:oyrpMvNz0
P「…………」

加蓮「…………」

P「…………」

加蓮「……何やってんだ、私…………」

P「…………」

加蓮「うぁー……………………」アタマカカエ

83: 2015/11/29(日) 14:55:43.50 ID:oyrpMvNz0
――10分後――

柚「た、ただいま~……」

加蓮「柚……」

柚「か……加蓮サン! あのね、その……コンビニでポテト買って来たよ! 加蓮サンが好きだって言ってたヤツ!」

柚「一緒に食べよ! …………いい?」

加蓮「…………」

加蓮「…………えっと……その、さっきは」グゥ

P「お」

柚「あ!」

加蓮「!」

加蓮「いや、違っ……今の私じゃなくてっ、ゆ、柚でしょ!」

84: 2015/11/29(日) 14:56:13.54 ID:oyrpMvNz0
柚「アタシ違うよー? 買ってきたチョコパン途中で食べちゃったもん。帰ったら食べよって思ったんだけど我慢できなくてっ」

P「そーいえばそろそろ腹が空く頃だなー小腹が空いてきたなーお腹が鳴るのもしょうがないなー」

柚「もちろんPサンの分もあるよ!」

P「お、マジかー、柚ちゃんは優しいなぁ」

柚「でっしょーでっしょー?」

加蓮「…………」

加蓮「…………あ、あのさ、柚。私もその……ポテト、いい?」

柚「うんっ。はい、どうぞ」スッ

加蓮「ありがと」モグモグ

柚「ポテトー、ポテトー♪ アタシもポテトー♪ あ、それからこれ、大福4つ! へへっ、敢えて4つにしたんだ。残り1つを賭けて、アタシと加蓮サンとPサンでバトルだ!」

柚「何にする? じゃんけん? あっち向いてホイ?」

85: 2015/11/29(日) 14:56:43.77 ID:oyrpMvNz0
P「おっ、いいな。ちょうど甘いところが欲しいと思ってたところなんだ、俺も負けないぞ?」ウデマクリ

柚「強敵の予感! 加蓮サン加蓮サン、一緒に協力して倒そ!」

柚「その後は柚と加蓮サンのバトルだ! へへっ、ライバルと協力なんて少年漫画っぽい? でもちゃんと最後には決着つけるんだよねっ」

加蓮「…………、……あははっ。しょうがないなぁ。Pさん、ごめんね? 柚からお願いされちゃったからっ」

P「おのれー加蓮ー。あの日の誓いはどこへ行ったんだー」

加蓮「えー、なにそれー?」

柚「あっそうだ、アタシ手を洗ってくる!」タタッ

加蓮「行ってらっしゃーい」

加蓮「…………」

P「…………」

86: 2015/11/29(日) 14:57:13.83 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………ち、ちゃんと謝るよ」

P「いや俺まだ何も言ってない」

加蓮「目が言ってる!」

P「マジか」

柚「ただいまー! さーおやつタイム! ねね、バトルなんだけどアタシ面白いルール考えたんだ! あのね――」

加蓮「あ、その前に柚。その……」

柚「?」

加蓮「さっきはごめんね? ちょっとイライラしちゃってて……その……、……ごめんっ!」ガバ

柚「えー? なんのこと? アタシは5分前のことをすぐ忘れるんだ。楽しいことはぜんぶ覚えてるケドっ」

加蓮「……、……柚……」

87: 2015/11/29(日) 14:57:43.54 ID:oyrpMvNz0
柚「コンビニに行く前のことなんてぜんぶ忘れちゃった。だから安心して加蓮サン!」

加蓮「……うん。ええと……それじゃあ……」

柚「ん?」ニパニパ

加蓮「……あ、アンタの脳みそは空っぽか~っ」グリグリ

柚「わーっ、やめてーっ。ぐしゃぐしゃになるー」

加蓮「ぐしゃぐしゃになれーっ」

柚「きゃーっ! Pサン助けて!」

P「おお、このポテト旨えな……」

柚「あれーっ!?」

加蓮「わしわしわしわし……ふうっ。ふふっ。ありがとね、柚」

柚「どうしたしまして! あっ、でもさ、イライラしちゃうのはしょうがないと思うな! アタシもそーいうことあるもん」

加蓮「あるの?」

P「あるのか?」

柚「ないかも!」

88: 2015/11/29(日) 14:58:13.47 ID:oyrpMvNz0
柚「それでも、アタシじゃなくても友達がそういうことなったりするから! 加蓮サンもだいじょーぶ」

柚「ちょっぴり怖かったけど……大丈夫!」

柚「ささ、加蓮サンも嫌なことは忘れてポテトもいっこど~ぞ。Pサンも絶賛だよっ。はい、あーんっ♪」

加蓮「むぐっ」モグモグ

P「…………ははっ」

加蓮「む、女の子が食べてるところに笑うなんて失礼だよ」

柚「笑うな~!」

P「おいおい、柚ちゃんまでか」

柚「あ、やっぱ今のナシっ。笑っていこう! えーと、あはは! 加蓮サン変な顔――ギャー痛い痛い痛い! ぐ、ぐりぐりしないで、ぐりぐりしーなーいーでー!」

加蓮「誰が変な顔だ。ん? 誰が変な顔だ?」オラオラオラオラ

柚「ごーめーんーなーさーいー!」イーターイー

P「……たははっ」

89: 2015/11/29(日) 14:58:43.46 ID:oyrpMvNz0
――しばらくして――

柚「ぐわー、Pサン大人げないぞー」

加蓮「大人げないぞー」

P「はっはっは、またいつでもかかってくるがいい」フハハハハ

柚「まさかあそこで、じゃんけんに負けたからってピコピコハンマーをさっとガードしてくるとはっ」

加蓮「柚がびっくりしてる間にボウルをひったくってガードだもんね。あの動きはガチだったよ」

柚「そんなに大福食べたかったのー? アタシもっと買ってくればよかった?」

P「こういうのは限定品だからこそだよ。もし柚ちゃんが10個も20個も買ってきてたら、こんなにマジにはならなかったさ」ドヤッ

加蓮「いい笑顔で言うけど大福かっさらっていった後だよあれ。子供みたいにマジになった後なんだよあれ」

柚「でも全力バトル面白かった! またやろうねっ」

90: 2015/11/29(日) 14:59:13.48 ID:oyrpMvNz0
P「はーっはっはっは、いつでもかかっておいでなさい」

加蓮「ボスっぽさが増したね……」

柚「ふはははは~とか言いそう!」

P「ふはははは。では負けた2人の為の健闘をたたえ、我はお茶でも淹れてこよう」スクッ

柚「アフターフォローまで万全だっ」

加蓮「親切なボスだねー」

91: 2015/11/29(日) 14:59:43.62 ID:oyrpMvNz0



加蓮「……あ、そういえばさ柚。私が帰ってきた時、レッスンのことって言ってたよね」

柚「うーん……そうだっけ? ……あ、そうだった!」

加蓮「聞かせてもらってもいい?」

柚「いいよー。あのね……」

柚「えっと…………」

柚「…………」

加蓮「ん? どったの?」

柚「あのね。アタシ……このままでいいのかなー、とかっ、その、ちょっぴりだけっ、思っちゃった……感じ?」

加蓮「ん……?」

P「ただいま。お茶を――ん?」

92: 2015/11/29(日) 15:01:13.41 ID:oyrpMvNz0
加蓮「詳しく聞かせてよ。気になっちゃうでしょ?」

柚「……うん。今日、レッスンの時にさ……トレーナーサンから、もっとアイドルらしく! って言われちゃったの」

加蓮「…………」

P「…………」

柚「アタシ、昔からよくフツーって言われるの。アイドルらしくって言われても……よく、分かんなくて」

柚「でも今のままじゃ駄目だってことは分かったから……アタシ、このままでいいのかなって思っちゃった」

柚「あっ、あのね! 加蓮サンの言葉はちゃんと覚えてるよ。やりたいように、だよね。……でもさ……」

柚「アタシ、なかなか上手くできなくて……それにトレーナーサン言ってたんだ。他のみんなは大きなLIVEとかやってるって。テレビに出たり、ラジオに出たり、それにCD出すって人もいるって言ってたんだ」

柚「アタシが上手くいかなかったら、加蓮サンもガッカリすると思うし……」

柚「このままでいいのかな、アタシ」

加蓮「…………」

93: 2015/11/29(日) 15:01:43.65 ID:oyrpMvNz0
柚「…………」

P「…………」

加蓮「…………柚」

柚「うん……」

加蓮「1つ、謝らないといけないことがあるの」

柚「なに?」

加蓮「ううん、2つかな……。まず1つ目。大きな仕事をもってこれないのはごめん。私のせいだ」

柚「かっ、加蓮サンのせいじゃないよっ。アタシが上手くできないから――」

加蓮「ううん。私のせいだよ。柚の魅力を伝えきれてない。柚なら任せられるってほどのことができていない」

P「加蓮……」

94: 2015/11/29(日) 15:02:13.53 ID:oyrpMvNz0
加蓮「だけど……だけど、っていうのも変だけど、だからって柚がアイドルらしくないってことは絶対にない」

加蓮「トレーナーさんからもよく、楽しそうにやってますって報告受けるもん。LIVEの日が私も楽しみです! って言われたこともあったんだ」

柚「トレーナーサンが……」

加蓮「柚のそういうところ……トレーナーさんでも楽しませられるのは、じゅうぶんアイドルだよ」

加蓮「それとね、もう1つ」

加蓮「私、柚にやりたいようにやれっていっつも言うけどさ……あれ、半分くらい私のワガママなんだ」

柚「ワガママ?」

加蓮「うん。ええっとさ……どう説明しよっかな……私ね、ちっちゃい頃から周りの人にずっと言われてたの。あれをやるなこれをやるな、って。今でも言われてる」

柚「そうなの?」

95: 2015/11/29(日) 15:02:43.37 ID:oyrpMvNz0
加蓮「うん。だからさ……だからこそ、柚にはやりたいようにやってほしいの」

加蓮「あの日、最初に柚を見た時にね。柚を見てさ、やりたいことがないって顔してるって思った。つまんなさそうだなって思って、つい声をかけちゃって」

加蓮「その後に柚が、アイドルをやりたい、アイドルが楽しいって言ってくれたから……それなら遠慮はしてほしくないっていうかさ。周りに合わせるとか、アイドルってこんな感じだからそういう風にやらないとって思ってほしくないっていうか」

加蓮「柚のやりたいことを見つけて、やってほしいなって……ずっと思ってて」

加蓮「それを、私の代わり……なんて押し付けがましいことをしてたんだ。私の代わりにやってほしい、って」

加蓮「ごめんね、柚」

柚「…………」

96: 2015/11/29(日) 15:03:13.45 ID:oyrpMvNz0
加蓮「でも信じて。柚はやりたいようにやっていい。いつかきっと成功する――ううん、成功させてみせる。それがプロデューサーの役割だもん」

加蓮「結果が出ないのは辛いよね。それは私も分かってる。でも柚、その、これも私のワガママだけど……もうちょっとだけ、頑張ってほしいんだ」

加蓮「私も頑張るから。柚の笑顔を魅せられるステージ、絶対に用意するから」

加蓮「だから――」

柚「…………」

柚「……へへっ」

加蓮「…………柚」

柚「だいじょーぶ。あの時、加蓮サン、柚を見つけてくれたよね。他にもいっぱい女の子はいたのに、柚を見つけてくれた」

柚「女の子なんて星の数ほどいるでしょ? でもアタシの事、人込みの中で見つけ出してくれたのは……加蓮サンだけなんだよっ!」

柚「だから……信じてあげるっ」

加蓮「…………」

柚「ねっ♪」

97: 2015/11/29(日) 15:03:43.39 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………、なにおう。偉そうにっ」グシャグシャ

柚「あぷっ。あ、アタシはアイドル様だぞーっ」

加蓮「このーっ」グシャグシャ

柚「あぷぷっ。今はまだ頼りないかもしれないけど、でもアイドル様だーっ。丁重に扱えーっ」

加蓮「なら私はプロデューサー様だーっ」グシャグシャ

柚「あぷぷぷっ……や、やめてー! ボサボサになるーっ」

加蓮「ふうっ」

柚「へへっ♪」

柚「加蓮サンよく言うよね。やりたいことを見つけなさいって。どういうことやりたいかなーって探すの、最近楽しくなってきたんだっ」

柚「そんで、それをやって二倍楽しい! 楽しいことばっかりなんだよ。加蓮サンが教えてくれたことなんだから!」

柚「えと……さっきのは、その、さっきの加蓮サンと同じ! ちょびっと弱気になっちゃってただけ、ですっ」

98: 2015/11/29(日) 15:04:13.33 ID:oyrpMvNz0
加蓮「うん……うん、そっか」

加蓮「あ、そうだ。Pさん、今の話聞いてた?」

P「ん? ああ」

加蓮「前に電話で言ってくれたじゃん。キツイなら交代してもいいって。あれ、やっぱりナシ!」

加蓮「柚のプロデュース、やっぱり私にやらせてよ!」

柚「!」

加蓮「私にやらせてよ。プロデューサーをじゃなくて、柚のプロデュースを!」

加蓮「どんな理由でも、最初にやるって言ったのは私なんだし……前にPさんに交代するかって聞かれた時、一瞬だけ迷っちゃったけどさ」

加蓮「失敗したから辞めるなんてカッコ悪いもん。それに、柚が信じるって言ってくれたから」グイ

柚「わっ」

99: 2015/11/29(日) 15:04:43.62 ID:oyrpMvNz0
加蓮「私がグチグチしててもしょうがないよね。柚にはやりたいように思う存分やってほしいし……」

加蓮「だから、私にやらせて。……上手くいかなくても、もう泣き言なんて言わない。さっきみたいなことも絶対にしないから……」

加蓮「……お願いしますっ」

P「加蓮…………」

P「ま、加蓮ならそう言うだろうと思ってたよ」

加蓮「……ふふっ。ありがと、Pさん」

P「いやでも泣き言は別にいいんじゃないか? 人間、愚痴りたくなる時くらいあるさ」

柚「そーそー。アタシだってグチりたくなる時が…………あるっけ?」

P「それもなさそうに見える」

加蓮「あ、私もそう見えるー」

100: 2015/11/29(日) 15:05:13.35 ID:oyrpMvNz0
柚「じゃあこれもアタシの友達! 友達がね、よくグチるから大丈夫! 加蓮サンももっとグチっていこう!」

加蓮「ううん、そういう訳にはいかないよ……。柚も怖がらせちゃったし」

柚「だだだ誰がビビリだ! アタシそんなんじゃないし、ないしっ。……ただそのー、ちょっと、びっくりしたかな?」

加蓮「……んー……でも、ごめんね。びっくりさせちゃって」

柚「今日の加蓮サンは謝ってばっかりだねっ」

加蓮「え? ……そういえばそうかも」

柚「でもそんな日もあるよ!」

P「誰だって、調子悪い時くらいあるよな」

柚「きっとこう、加蓮サンは今日の占いビリだったんだ! 明日はいいことあるよっ」

加蓮「……あははっ、だといいね」

101: 2015/11/29(日) 15:05:43.42 ID:oyrpMvNz0
柚「終わったことはぜんぶ忘れちゃおう。ほらほら、アタシの大福の残り半分! はいっ」

加蓮「ありがと。じゃあ、私も半分にして……はい、柚にあげる」

柚「やったっ、加蓮サン優し――あれ? これ変わってなくない?」

加蓮「ふふっ、そうかもね」

柚「あれー?」

加蓮「はー。…………柚」

柚「うんっ」

加蓮「……お互い、迷わないでやっていこっか。私も、そうするから」

柚「……? 加蓮サンも迷子サンだったの?」

加蓮「ん、まあ、ちょっとね――」

柚「だったらお揃いだっ♪ ……あれ? アタシと加蓮サンってよくお揃いになるよね。もしかしてお似合い? お似合い? きゃーっ、照れちゃうなーっ」バシバシ

加蓮「こら、痛い痛いっ」

102: 2015/11/29(日) 15:06:13.46 ID:oyrpMvNz0
P「さてと。俺もやりますか!」

柚「おお、加蓮サンにつられてPサンまで燃えてる!」

加蓮「燃えちゃってるね」

P「部下には負けとれん。さー今日も打ち合わせだ、上からイヤミを言われる時間だ、ふははははー」

加蓮「悪役も大変なんだね……」

柚「ボスなのに?」

加蓮「ボスなのに」

P「ほらあれだ、きっとゲームの中ボスとかってこういう気持ちだろうなー。下からはそっぽを向かれ上からはこきつかわれ」トオイメ

柚「加蓮サンはもっとPサンに優しくしてあげるべきだー」

加蓮「え、私が悪いの?」

柚「さー?」

加蓮「…………」

P「今日も大切な部下を守る為にイヤミを言われ続けるぞー、やるぞー、俺ー」トオイメ

加蓮「お、お願いします……?」

103: 2015/11/29(日) 15:06:43.49 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

……。

…………。

104: 2015/11/29(日) 15:07:13.71 ID:oyrpMvNz0
――営業先――

「なるほど、喜多見柚ちゃんか……。ああ、LIVE映像は見させてもらったよ。前に送ってもらったヤツ」

「そうだね、この辺の仕事なんかはどうだろう。あんまり大きい物とは言えないけど、似合うんじゃないかな? 場を盛り上げるのとか得意そうだし」

「うん、検討してくれていいよ。良い返事を期待しようか」



――営業先――

「ああ、君が噂の。一度会って話を聞いてみたかったんだよねー、どういうつもりなのかって」

「いや君どう見ても学生でしょ? そりゃー学生が社長で会社経営とか学生アイドルがセルフプロデュースとかさ、よく言うけどさ? 実際何考えてんの?」

「子供は子供の、大人は大人の領域。普通に考えてそうだろう?」

「……ほら、そうやってすぐに嫌な顔をする。これだから子供は――」



――営業先――

「え、プロデューサーなの君? ち、ちょっと確認させてもらっていいかな」

「……あー、電話させてもらったけど本当にプロデューサーなんだね。はー、僕もいろんな人と仕事してきたけどこんなのは初めてだね……どうしたらいいんだろうこれ?」

「そんなことよりアイドルを見てくれ? ああそっか、プロデューサーだもんね」

「うーん……パッとしないなぁ。それより君がやってみないかい? 10代のプロデューサーが! とか話題に――駄目? そうか。残念」

105: 2015/11/29(日) 15:07:43.37 ID:oyrpMvNz0
――営業先――

「君が噂のプロデューサーですね。アポが来た時にはついに来たかとつい身構えましたよ……おっと私事で失礼」

「喜多見柚ちゃんですね。なるほど、パッションあふれる女の子……あー、申し訳ありませんがうちではちょっと難しいですね。うち今、そういうのやっていないんですよ」

「こう、身近なアイドルがありふれているからこそ昔ならではのアイドルっぽいアイドルをって風潮になっていまして。ちょっとこの子にはキツイのではないかと……」

「いえいえ。……そう悲しい顔をされないでください。今日は貴重なお話ありがとうございました。また別の企画が立ち上がったらこちらから連絡させていただきますね」


――営業先――

「……え? インターンシップ? あ、違うのか」

「見たとこ高校生……くらいだよね。はー、最近の高校生は何考えてるのかさっぱりでねー」

「ちょっと聞いてくれるかい。この前なんて娘がね――」

106: 2015/11/29(日) 15:08:13.42 ID:oyrpMvNz0
――数時間後 車内――

加蓮「つかれた」バタン

P「お疲れ。やっぱり車で迎えに行って正解だったな。できれば最初から車を出したかったんだが……」

加蓮「Pさん会議だったんでしょ? しょーがないよ……」ベチョ

柚「加蓮サン、ちょっと前からずっとこうだったよ。移動してる時にアタシが話しかけても反応薄かったしー、つまんなかったっ」

加蓮「つまらなくて悪かったねぇ」ベチョ

P「帰ったら存分に休め。あ、何なら今からどっか休めるとこ入るか? その方がいいな、そうしよう」

加蓮「…………休めるところに入るか? なんてPさんえOちいんだー」

P「は? …………はぁ!?」

柚「???」

P「いやお前っ、俺はそういうつもりじゃ……最初にその発想するお前の方がえ、え、そうだろうが!」

加蓮「あははっ、顔真っ赤ー」

P「ああもう、とっとと帰るぞ!」

107: 2015/11/29(日) 15:08:43.47 ID:oyrpMvNz0
加蓮「Pさんってこういうのに免疫ない系だっけ」

P「さーて、安全運転安全運転! あ、そうだ加蓮。営業はどうだ。上司として聞いておかなきゃな。"上司"としてな」

加蓮「流したな。うーん……やっぱ柚と一緒の方が反応はいい感じだよ」

柚「そなの?」

加蓮「うん。いつもはこう……もっと厳しいかも」

P「せっかくの土日だもんな」

加蓮「でもそれ以上に、学生2人が遊びに来たみたいな対応されることがあってウザかった」

P「あー……」

柚「最近の高校生って何考えてんのか分かんないー、みたいな話を聞かされちゃったよね」

加蓮「そーそー。なんか娘が反抗期で訳分からなくて、とかなんとか」

柚「そのせいでアイドルからもちょっと避けられちゃってるんだって!」

加蓮「いろいろ話してたら最後には、参考にさせていただきますってすごい礼儀正しくなってさー」

柚「終わった後に、あれっアイドルの話は!? ってなっちゃってっ」

加蓮「2人揃って頭を抱えたんだっけ」

P「ぷはっ……ははっ、お、面白いことやってるんだな、2人とも」

加蓮「笑い話じゃなーいー」パタパタ

柚「そーだそーだっ」パタパタ

108: 2015/11/29(日) 15:09:13.48 ID:oyrpMvNz0
P「はいはい、悪かったよ。おっと赤信号」ブレーキ

P「ま、その……なんだ。いつかはいい結果が出るさ。気長にやっていこう」

加蓮「大丈夫。私は柚のプロデューサーだもんね」

柚「そしてアタシが加蓮サンのアイドル!」

加蓮「やるって決めたんだからやるよ。もう泣き言も弱音もいらないよ。そういうの、好きじゃないもん」

P「加蓮……」

加蓮「それに、そんなことしてたら頑張ってる柚にも失礼だもん」

柚「えー? 柚は別にいいのに。加蓮サンはもっと柔らかくなっていいと思うな!」

加蓮「柔らかく?」

柚「まろやかに!」

加蓮「まろやかに」

柚「そんでもってー、コクがある!」

加蓮「コクがあるんだ」

柚「最後に牛乳を入れよう!」

加蓮「シチューかっ」ズビシ

柚「あたっ」

109: 2015/11/29(日) 15:09:43.51 ID:oyrpMvNz0
P「おいしそうだな」

加蓮「女の子においしそうって言うなんてPさんえっ」

P「すぐそっちに持ってくお前の方だろそれは! 中学生の男子か!」

加蓮「社会人の女子でーす。高校生兼社会人」

柚「加蓮サンってカレーって言うよりシチューって感じだよね。Pサンもそう思わない?」

P「お、おう?」

加蓮「じゃあカレーらしい人ってどういう人なの?」

柚「うーん。Pサンみたいな人?」

P「俺か」

加蓮「Pさんがカレーかぁ。……あ、でもなんとなく分かるかも」

柚「でしょでしょ?」

110: 2015/11/29(日) 15:10:13.48 ID:oyrpMvNz0
加蓮「でも一応だけ聞いとこ。Pさんのどの辺がカレーだと思う?」

柚「うーん。どこだろ。顔の形……とか?」

加蓮「分かった。真面目に考えない方がいいってことだね」

柚「そゆこと!」

加蓮「自分で言うんかい……」

P「カレーはみんな大好きだからな」

加蓮「でもPさんは上の人達からアレな感じだよね、今」

P「カレーはな、パッと見たら美味しそうだって期待されるからさ。変なカレーは変な料理よりヘイト稼ぐんだ、余計に」

加蓮「えーと……つまり期待された後にガッカリされたってこと?」

P「まあ最初から期待されてるかも怪しいもんだが」

加蓮「…………うーん」

111: 2015/11/29(日) 15:10:43.52 ID:oyrpMvNz0
柚「加蓮サン加蓮サン。真面目に考え過ぎたら疲れちゃうよ? たまにはお休みして、アイスクリームみたいになろう!」

加蓮「アイス?」

柚「アイス!」

加蓮「なんでアイス」

柚「アイスって美味しいじゃん! さすがに今食べるのはちょっと早いけどっ」

加蓮「…………Pさん助けて。担当アイドルについていけない」

P「それは全国数百万人のプロデューサーが皆等しく抱える課題だ。頑張れ」

加蓮「マジ? 大変なんだね、プロデューサーって……」

P「そして上司が何を言ってるのか分からないのも全国数億人のサラリーマンが等しく抱える課題だ」

加蓮「ホントに大変だー」

P「さて、青信号っと」アクセル

……。

…………。

112: 2015/11/29(日) 15:11:13.43 ID:oyrpMvNz0
P「よし、柚ちゃん到着だ」

柚「もう着いちゃったかー。じゃあ、お疲れ様! 加蓮サン、Pサン!」

加蓮「お疲れ様」

柚「また明日ねっ」バイバーイ

P「おーう」

ブロロロロ...

加蓮「さて、私たちは事務所に戻らなきゃ」

P「……あのさ加蓮、」

加蓮「いいから。プロデューサーとして最低限のことくらいはやるよ。営業が終わったら書類整理、あと必要ならメールや電話で連絡。きっちりPさんにも報告しなきゃ」

P「……はいはい、仰せのままに」

113: 2015/11/29(日) 15:11:43.35 ID:oyrpMvNz0



ブロロロロ...

P「そういえば加蓮。お前が営業に回ってること、ちょっと有名になっているみたいだぞ?」

加蓮「そなの?」

P「別件で打ち合わせに行った時とか、そういえばお宅って若い子が営業やってません? とか割と聞かれるんだ」

加蓮「そういえば、噂のとか例のとかって言われたっけ」

P「うちの事務所にも電話が来てるらしい」

P「面白そうだからうちも話してみたいっていうのと、あとはまあ……どうしてもさ。あんな子供が営業してるなんてどういうことだ! みたいなのもあるって」

加蓮「……やっぱそう見られちゃうよね」

P「しょうがないさ」

加蓮「もしかしてその電話のことって、上の人から聞いたの? Pさんの上司の人から」

P「おう。はは、この前とかまたイヤミを言われたぞ? お陰でうちのプロダクションがイロモノみたいに見られてるって」

加蓮「……ごめん」

114: 2015/11/29(日) 15:12:13.57 ID:oyrpMvNz0
P「まあ待て、続きを聞け。そこで俺はこう言ってやったんだ。何を言っているんですか、うちの事務所系列は社長を筆頭に最初からイロモノづくしじゃないですか、っていうか狙ってる面あるでしょ? って」

加蓮「確かに、個性派揃いだもんね」

P「そしたらみんなして黙りこんでさ。そして数時間後、俺の元に大量のタスクが振り込まれてきた」

加蓮「え、大丈夫なのそれ?」

P「事務職舐めんなよ? それにこれもチャンスだ。1日じゃ無理だと思われてるのを1日で片付けてドヤ顔するってドラマとかでよくあるシチュだろ? 俺、ああいうの憧れててさ」

加蓮「あははっ、ちょっと分かるかも」

P「まあ3日かかったけど」

加蓮「かっこわるーい」

P「しかし上司は1週間はかかるだろうと予測していたんだとさ。結果オーライだな」

加蓮「よかったね、Pさん」

P「悔しまみれのイヤミが耳に心地よかったぞ」

加蓮「性格わるーい」

115: 2015/11/29(日) 15:12:43.45 ID:oyrpMvNz0
P「はっはっは。それにな――」

加蓮「それに?」

P「…………まあその、なんだ。この前さ、柚ちゃんのプロデューサーは自分がやるって加蓮が言った時にさ」

P「なんていうかな。ああ、俺の知ってる加蓮だ、って思ってさ」

加蓮「…………」

P「やりたいことを見つけたら、無理でも無茶でも突き通す。多少何かあろうとすぐに起き上がる。簡単には諦めたりしない。そういうのが、俺の惚れ――知ってる加蓮だ」

P「どんなことになっても、加蓮が俺の知る加蓮でホッとした」

P「それに、そういうのを見たら、俺だって頑張らないとってなってさ。1週間分の書類を3日で片付けるなんて余裕も余裕だってもんだ」

加蓮「そっか……」

加蓮「…………」

116: 2015/11/29(日) 15:13:13.21 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……ん? さっき、『俺の惚れた』って言った?」

P「げっ」

加蓮「惚れたって言った!? ねえねえ、言ったでしょ!」グイグイ

P「き、聞き流せよそういうのは!」

加蓮「ふっふーん。そっかぁ、やっぱりPさんは私のことが好きなんだねー。ふふっ。ねえ、やっぱりどこかで休憩――」

P「せん!」

P「これはその、いわゆるアレだ、人として惚れたってヤツだ! 男とか女じゃなくて!」

加蓮「ちぇ。意地なんて張らなくていいのに」

P「世界中の誰よりもお前にだけは言われたくないわ! ……くそっ真面目な話をしてたらすぐこうだ! なんでだよ、前の加蓮はもっとこう、真面目ムード一色って感じだったろ!」

加蓮「そっかなー。柚に影響されたかも?」

117: 2015/11/29(日) 15:13:43.52 ID:oyrpMvNz0
P「柚ちゃんか。恐いなぁあの子は。話してたら俺まで学生に戻った気分になりやがる」

加蓮「柚と話してるPさんって、なんか子供っぽくなるよね」

P「やっぱそうなってる? ……まあいいや。ともあれ、あんま迷惑とか考えなくていいんだぞ? 加蓮が成功するまでの必要経費だって思えばいいさ」

加蓮「……うん」

P「あ、でも無理はするなよ。疲れたらすぐに連絡しろ……いや、そう言っても加蓮はしないよな。じゃあ俺が連絡した時は素直に疲れたと言え……で素直になったら苦労しねえか。ううむ……」

加蓮「何1人でブツブツ言ってるの? それにPさん、やっぱり心配性すぎだってば」

P「誰かが見てないとお前、ブレーキぶっ壊して突っ走り続けるだろ」

加蓮「それは……そうかもしれないけど」

P「だろ? ううむ……やっぱり外回り系の営業は俺が――」

加蓮「やだ。私がやる」

P「だよなぁ……」

118: 2015/11/29(日) 15:14:13.95 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………」

P「…………分かったよ。でも心配くらいはさせてくれよ?」

加蓮「うん」

ブロロロロ...

119: 2015/11/29(日) 15:14:43.54 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

……。

…………。

120: 2015/11/29(日) 15:15:13.38 ID:oyrpMvNz0
――営業先――

「へぇ、プロデューサーなんだ君。セルフプロデュースってヤツ? え? 違う?」

「喜多見柚ちゃんか……あー知ってる知ってる。前にデパートのイベントに出てた子でしょ」

「意外? いやいや、こういう業界は足こそ最大の武器って言うだろう? 言ってるの僕だけだけど」

「それに気になってたんだよね。あ、楽しそうにやってる、って。へえ、君んところのアイドルだったんだ」

「資料があるの? ちょっと見せてよ……ふむふむ、なるほど。へえ、いい顔してるね。この子はきっと大物になるよ――大物にしてみせる? ほお」

「あ、LIVE映像もあるんだ。今見ていいかい?」

「……へえ…………」

「うん。そうだね……これは……うーむ……」

「レッスンの映像まであるの? ちょっと拝見。……ふむ……」

「よし、分かった。良ければ今度、このLIVEの枠が空いてるからさ、柚ちゃん? に出てもらえないかな」

121: 2015/11/29(日) 15:15:43.74 ID:oyrpMvNz0
「あれ、意外そうな顔してるね。上手くいくとは思わなかった? あはは、確かにこの業界、頭が堅いの多いよね。分かる分かる」

「でもこれからは新しい時代だ。若い子のアイドルデビューも増えてるんだから、若い子のプロデューサーデビューがあって当然」

「うん? もちろん持ち帰っていいよ。契約は大人を介した方がトラブルも少ないからね」

「え? 仕事の範囲と契約料……まだ試算だけどこれくらいを考えているかな。費用負担はこれくらいで……」

「……なるほど。持ち帰る前にいくつか聞きたい訳。もちろん話せる範囲で話そう。これで信じてくれるかな?」

「いやいや、謝らなくていいとも。こんな業界だから疑い深くなるのは当然だろう」

「それに君はアイドルを大切にしているみたいだね。見ていて分かるよ。変な契約でアイドルを傷つける話はよくあるからねえ」

「もういいかい? ……じゃあ、そっちで詰めてからまたってことで。こっちとしては快い返事を期待してるけどね。次は……3日後とかどうかな。オッケー? よし、じゃあそのPさんって上司と一緒に。ああ、もちろん柚ちゃんともだね」

122: 2015/11/29(日) 15:16:13.35 ID:oyrpMvNz0
「いやいやこっちこそ。そんなに頭を下げられると恐縮しちゃうなー」

「あ、そうだ。1つだけ質問いいかな?」


「君、もしかして前にさ、」

123: 2015/11/29(日) 15:16:43.65 ID:oyrpMvNz0
――事務所――

加蓮「ただいま! 柚、柚いる!?」

P「うおっ。なんだ加蓮。いつになくハイテンションだな」

加蓮「柚は!?」

P「柚ちゃんならその辺に……あれ、いないな。トイレにでも行ったか」

加蓮「うーっ、こんな時に限って!」

P「おいおい何があったんだ?」

加蓮「それが実は――」

<ガチャ

柚「あ、加蓮サン! おかえり――」

加蓮「柚ーっ!」ダキッ

柚「わぷっ!? な、なになに!? 加蓮サンどしたの!?」

124: 2015/11/29(日) 15:17:14.21 ID:oyrpMvNz0
加蓮「見て、見て見て! これ、柚の仕事! LIVE! 取ってきた!」

柚「LIVE――お、アタシこのイベント知ってる! 毎年4回やってるヤツだよねっ。って……え? アタシに、このLIVE……?」

加蓮「うんっ。ほら、ローカルだけじゃなくて全国放送のテレビも来るし記者だっていっぱい!」

P「お、おいちょっと見せろっ。……これ、え、この仕事、加蓮お前……!?」

柚「アタシが出られるの!?」

加蓮「うん。うんっ。柚の映像を見せたら是非って。3日後にPさんと柚を連れて来いって。すごい良い反応だった! 面白そうだって言ってくれた!」

P「そっか……そっか! よかったな加蓮! 柚ちゃんも!」

柚「アタシ……うんっ! あの、えと、れ、レッスンだっ。今からいっぱいレッスンっ」

加蓮「うん! 行こ、柚!」

P「あ、おいちょっと詳しく――」

<バタン
<ね、ね、何歌お! この前のがいいかな、それともこっちがいいかなっ
<全部やっちゃおうよ! 何曲か歌えるLIVEだし!
<じゃあ練習しなきゃ! 全部!

P「……はは」ヒロイアゲ

125: 2015/11/29(日) 15:17:43.79 ID:oyrpMvNz0
P「まったく、仮にも上司なんだぞ俺は? まったく」

P「それに書類を投げっぱなしにするなよ……ん?」

P「この担当者、確か前に――」

126: 2015/11/29(日) 15:18:13.42 ID:oyrpMvNz0
――レッスンスタジオ――

柚「~~♪ ~~~♪」クルッ

柚「とや~~~っ」ギュイギュイ

柚「えいっ」シュタッ

柚「~~~~~~♪」

……。

…………。

柚「はいっ」ビシッ

トレーナー「そこまで! 喜多見さん、すごく良くなってるじゃないですか!」

柚「へへっ、そう?」

トレ「今度、大きなLIVEがあるんですよね。よーし、ではもうワンステップを目指しましょうか! 今の喜多見さんならできますよ、絶対に!」

柚「やってみるっ。お願いします、トレーナーさん!」

……。

…………。

127: 2015/11/29(日) 15:18:43.56 ID:oyrpMvNz0
トレ「ワンツースリーフォー、ワンツースリーフォー! もっと笑顔で!」

柚「うんっ。~~~~♪ ~~~~~♪」

トレ「動きが疎かになってますよ! もっと大きく動いて!」

柚「~~~~、~~~~~」グイグイ

トレ「今度は歌が雑になってます! しっかり集中してください!」

柚「はいっ! ~~~~♪ ~~~~~♪」グイグイ

トレ「そうそうその調子! そこでターンっ」

トレ「そこまで!」

柚「はっ、はっ……へへっ……アイドルってこんな感じなんだ。アタシ、今すごくそれが分かってるっ。いい感じかも!」

トレ「はい、とってもいいですよ!」

柚「でもアタシ……もっとやりたいようにやるっ。加蓮サン――プロデューサーサンとそう約束してるんだっ。えと、いいのかな、もっとやっても」

トレ「ふふ、前にプロデューサーさんが言っていましたよ。喜多見さんは自由にやっている方が魅力的だって。私も、そう思います」

トレ「……新しい振り付け、考えてみますか?」

柚「やるやる!」

128: 2015/11/29(日) 15:19:13.41 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

柚「~~~♪ ~~~♪! ~~~~~♪」グイグイ

トレ「ワン、ツー、スリー! もっと大きく見せてもいいですよ! もっと楽しそうに!」

柚「はいっ! ~~~~~~♪」

加蓮「…………」

トレ「そこまで! ……どうですか、北条さん。いえ、プロデューサーさん」

加蓮「…………柚」

柚「は、はいっ」ビクッ

加蓮「いい顔してるじゃん。それでこそ柚だよ……それでこそ、柚だよ!」グッ

柚「……へへっ♪ だって加蓮サン、アタシを信じてくれるんだもん。アタシも、もっと頑張らなくちゃ!」

柚「トレーナーサン、もっかい!」

トレ「大丈夫ですか? そろそろ休憩――」

柚「いいのっ。加蓮サンの前でいいとこ見せなきゃっ」

129: 2015/11/29(日) 15:19:43.68 ID:oyrpMvNz0
加蓮「こーら。私の前じゃなくて、ファンの前でいいとこ見せるんでしょ?」

柚「そだった! じゃあ今は加蓮サンがアタシのファンだ!」

加蓮「ふふっ、じゃあコール入れてあげるね」

柚「ホント!? もっともっとやる気出ちゃうっ」

トレ「やりすぎて転倒しないようにしてくださいね? じゃ、頭からもう1度――」

……。

柚「ぎゃうっ」ズテッ

トレ「あ……」

柚「あ、アハハ……調子乗っちゃった?」

トレ「あー……もっと調子に乗ってる方がそこにいらっしゃいますから」

加蓮「ぜー、ぜー……ぜ、全力出しすぎたぁ……」ゼェハァ

130: 2015/11/29(日) 15:20:13.48 ID:oyrpMvNz0
柚「あ、アハハ。でも加蓮サンの声、ちゃんと聞こえてたよ。だからやる気になりすぎちゃったっ」

加蓮「……大丈夫。バランス、取っていこう。転ばないギリギリのところまでテンション上げていこう。きっとみんな、そんな柚を望んでるから」

柚「はーいっ。やってみる!」

トレ「ふふ。いいアドバイスするんですね」

加蓮「……これでもプロデューサーですから、ゲホッ! あ、こら柚、まだ曲かかってないんだから踊り出すなっ」

……。

…………。

トレ「――そこまで! もう完璧ですね。これなら明日のLIVEも問題ないでしょう!」

柚「はぁ、はぁ、や、やったっ」

131: 2015/11/29(日) 15:20:43.37 ID:oyrpMvNz0
加蓮「うん。ダンスもオッケー、ボーカルも問題なし。衣装もこの前に合わせてみたからいい――――――……あ!」

柚「へ?」

加蓮「ヤバ……ッ! MCパート! 何喋るか考えてない!」

柚「え、えむしー?」

加蓮「ほら、曲と曲の間になんか喋るヤツ! 今まで柚って1曲だけのLIVEばっかだったから最初と最後だけでよかったけど今回は……!」

加蓮「どうしよ……今から台本作る? 柚に覚えさせる? 間に合うかな……とにかく簡単に、いやでもそれじゃファンを増やせるか……」

トレ「大丈夫だと思いますよ、プロデューサーさん」

加蓮「……へ?」

トレ「喜多見さん、アドリブにすごく強いですから。気がつけば新しい振付が増えてて、でもしっかりダンスは構成できてて。って、それくらいプロデューサーさんなら知っているのでは?」

加蓮「柚…………」

柚「?」

132: 2015/11/29(日) 15:21:13.48 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……そか。そうだね。堅苦しく考えすぎてもダメか」

トレ「でも最低限、喋ることくらいは決めておきましょう。はい、今日のレッスンはここまで! 喜多見さん、あとは体をしっかり休めておいてくださいね」

柚「はーいっ」

トレ「まだお昼ですし、これからでも間に合いますよ。プロデューサーさん」

加蓮「……オッケ。柚、シャワー浴びて事務所に戻ろう。ミーティングだ」

柚「うんっ。先に行ってて。アタシもすぐ行くから!」

……。

…………。

133: 2015/11/29(日) 15:21:43.51 ID:oyrpMvNz0
――事務所――

加蓮「――ってこと。MCパートについては分かった?」

柚「うんっと……何か喋ればいいんだよね?」

加蓮「そ。今日はありがとー、とか、次はこの歌、とか。最低限はその辺り。あとは……最近にあったこととか、LIVEで伝えたいこととかそういうの」

加蓮「ファンが聞いてて楽しいって思うためにやるの。何かある? 喋るネタ」

柚「うーん…………」

柚「伝えたいこと……?」

加蓮「ん?」

柚「うーん…………」

柚「加蓮サンの話とか?」

加蓮「それは――……ちょっとマズイかも。もっと他のない?」

134: 2015/11/29(日) 15:22:13.82 ID:oyrpMvNz0
柚「じゃあ、レッスンのこととか? あっ、学校のこととか!」

加蓮「そうそうそんな感じ」

柚「お菓子が美味しかった話っ」

加蓮「それは……LIVEとしてどうなんだろ? でも他にないならそれでいっか……」

柚「うーん……伝えたいことなんて、ぜんぜん思いつかないよ……」

加蓮「…………」

加蓮(簡単に見つかる方が珍しいのか……)

加蓮「大丈夫、柚。じっくり考えていこう。まだ明日まで時間はあるんだから」

柚「うんっ」

……。

…………。

135: 2015/11/29(日) 15:22:43.92 ID:oyrpMvNz0
柚「――――」

加蓮「――――」

柚「――!」

加蓮「――――!!」

……。

…………。

136: 2015/11/29(日) 15:23:13.54 ID:oyrpMvNz0
――夜――

柚『って感じでどお?』

加蓮「あのねぇ、もう事務所で結論出したでしょ! っていうか早く寝なさいよ!」

柚『だって寝る前に思いついたからっ。で、どうかなどうかな。楽しいって思ってもらえる?』

加蓮「ああもう……! もらえると思うけど、アンタそれ覚えられるの?」

柚『だいじょーぶ。いざとなったらアドリブで喋るっ』

加蓮「不安極まりないこと言うのやめて!」

柚『えーっ。アタシを信じてくれないんだー。加蓮サンのケチー』

加蓮「ケチってそういう……ああもういい、もういいからそれでいいから早く寝なさい。明日のために体力温存しなさいよ」

柚『はーいっ。……あー! また思いついた。ねえねえ、こういうのは――』

加蓮「いいから早く寝ろ!!」

137: 2015/11/29(日) 15:23:44.01 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

……。

…………。

138: 2015/11/29(日) 15:24:13.41 ID:oyrpMvNz0
――LIVE当日――

舞台袖から見たらどうだ? というPさんの提案を一蹴して、私たちは客席側から柚を見ていた。
歌声と声援が吸い込まれるような青空の下、柚が踊る。跳びはねる。叫ぶように歌う。情熱的なアップテンポの歌を我が物として。
客を、いい意味で疲れさせるステージだった。

『君と僕の時が♪ 連なって流れてく♪』

柚に与えられたのは3曲。うち、今が2曲目。事前から告知はしていたけれど、今回のLIVEで初披露となった新曲だ。
出だしはファンからのコールがズレにズレ、柚も少しやり辛そうだった。
でも。
Bメロ辺りで気づいたファンが多かった。相当に単調な歌だ。コールを入れやすい。現にLIVE慣れしているようなファンは1番でこちらの想定通りに声を上げてくれた。
その上で柚が間奏で、「コールお願いーっ!!」って叫ぶものだから。

139: 2015/11/29(日) 15:24:43.77 ID:oyrpMvNz0
『遥か永久の時が♪ 繋がっていく♪』

2番になるともう定番の1曲と言わんばかりの盛り上がりを見せていた。それを察知した柚が歌いながらもくるくる回り出す。柚風に言うならばぎゅいぎゅいと回り出す。
サビに入った途端に思いっきりジャンプしたら、客席も同じ動きを見せてくれた。
笑顔の上に喜色が塗りたくられる。声がさらに、弾んでいく。

『笑ってよ、ねえ♪ キラリ煌めいて♪』

「……どうだ? 加蓮」

ふと。
ぽつりと呟く声が、聞こえた。

「…………」
「っと、すまん」
「ううん。ねえ、Pさん。……なんだかさ。こうやって見るのって、いいね」
「だろ?」

140: 2015/11/29(日) 15:25:13.44 ID:oyrpMvNz0
『君が笑ってくれれば♪ 僕もまた前を向ける♪』

「……柚、ちゃんとアイドルになれたんだね」
「おいおい、何をいまさら」
「これ、私が取ってきた仕事なんだよね」
「そうだな。加蓮が取ってきた仕事だ」
「柚のこと……ちゃんと、アイドルにできたんだよね、私」
「ああ。お前の力だ」
「……そっか」

『こんなにも、ほら♪ 空は綺麗なんだから――♪』

ラストのサビ前の間奏でも柚は見ている側に不安をもたらすほど派手なダンスを披露し、サビに入っても勢いは衰えず。
何重ものヒートアップを上乗せして、空気を轟かせたまま2曲目を終えた。
肩で息をしつつも、いぇーい! と笑顔を振りまく。
拍手と歓声が鳴り止むタイミングを見計らって、柚はマイクを掴んだ。そして。

141: 2015/11/29(日) 15:25:43.75 ID:oyrpMvNz0
「みんなーっ! はじめましてーっ!!」

――MCパート。
ここだけが不安だった。結局、日付が変わる頃までグダグダとやっていた場所。
手の内に汗が浮かぶ。ぎゅっと握っても心臓の高鳴りは抑えられない。
大丈夫、大丈夫……言い聞かせた上から不安が覆いかぶさる。

そんな私へ。
柚が、にこっ、と笑った。
いつもの無邪気で可愛らしい笑みとは少し違った。少し違う……女の子らしさよりも、女性らしさの強い笑顔。

<はじめてじゃないぞー!

と叫ぶファンがいた。柚が、そっちの方を向く。

「へへっ、ありがとー! じゃあ、やっほー! 柚だよー!!」

やっほー!! と色々な人の声が重なる。定番の挨拶が決まった瞬間だった。

142: 2015/11/29(日) 15:26:13.48 ID:oyrpMvNz0
「2曲続けてやってみましたっ。どうかな、えと、楽しめたかなっ。
アタシ――えとっ、難しいことはよく分かんないけど、1つだけ、こう、言ってみたいことがあってっ。
その……アタシ、まだまだだけど。ダンスも歌も、ちょっぴりへたっぴだけど。
でも、楽しんでほしいな! ここにいる人、みんなっ! 楽しいって言ってほしい!
……ううんっ。
楽しんでいけーっ!! 3曲目、行っくぞー!!」

<わああああああああああああ――っ!!

…………。

「あははっ……」
「加蓮?」
「ううん。変なの。そっか。そうだよね。そうだったね……」

最初から、そうだったね。
伝えたいことがないなんて、そんなこと――

143: 2015/11/29(日) 15:26:43.48 ID:oyrpMvNz0
イントロが流れ出す。勢いよりも明るさ重視の、みんなで歌うと盛り上がりそうな歌。柚が、これまで何度も歌ってきた歌。
キターッ! と叫んでいるファンがいる。柚が大きく手を振っている。
でも、柚の口から聞こえ出した歌声は――これまで聞いたものと、ぜんぜん違っていた。
芯が強くて、まっすぐ前を向いていて。もう柚から目を離せないような力強さと、自然に笑顔になれる楽しさ。

喜多見柚というアイドルを、全身で象徴するような歌だった。

……。

…………。

144: 2015/11/29(日) 15:27:13.79 ID:oyrpMvNz0
――LIVE終了後・楽屋――

柚「はぁ、はぁ……あっ、加蓮サンにPサンも! ねえねえ見ててくれた!? アタシのLIVE、見ててくれた!?」

加蓮「お疲れ様、柚……見てたよ。もうずっと。いっぱいにね」

P「そうそう。加蓮なんか3曲目の途中で泣きそうになっててな――」

加蓮「あ、ちょ、それは言わないのっ」

柚「そっか。……ふふっ!」

柚「あのね、加蓮サン。Pサン」

柚「アタシ――楽しかった! すっごく楽しかった! えと、今までで一番っ! これがアイドルなんだよね。へへっ!」

加蓮「……うんっ。これが、アイドルなんだよ」

柚「へへっ♪」

加蓮「……ふふっ♪」

145: 2015/11/29(日) 15:27:43.55 ID:oyrpMvNz0
――少し時間が経過して――

P「じゃ、俺は車を回してくる。柚ちゃん、加蓮。帰り支度が終わったらまた電話してくれ」

加蓮「はーいっ」

柚「あいあいさー!」

加蓮「……舞台は終わった。挨拶周りも済んだ。はぁ~~~……やっと終わったぁ~~~」ドサッ

柚「えー、加蓮サンもうお疲れ? ねね、打ち上げパーティーやろうよ! 事務所で、加蓮サンとPサンと3人でっ」

加蓮「うぇー……もうヤダ。くたびれたよ。私、横になってていい?」

柚「じゃあアタシがいっぱい話すから、加蓮サンは聞いててっ」

加蓮「それなら、まあ……」

柚「でもたまには話してね。加蓮サンの話も聞いてみたいな♪」

加蓮「はぁーい」

146: 2015/11/29(日) 15:28:13.37 ID:oyrpMvNz0
柚「あっ、それと次のミーティングもやっちゃおうっ」

加蓮「打ち上げなのに?」

柚「挨拶してた時、いろんな人が次も次もって言ってくれたから! 休んでる暇なんてないっ」

加蓮「ホントね。挨拶回りの時もみんな凄いって言ってたよね……営業とはぜんぜん反応が違っててさ……私まで嬉しくなっちゃった」

柚「アタシも! もしかしてアタシ、明日から学校行けないくらい忙しくなったり? それってすごく有名アイドルって感じ! 学校で話題になったりしちゃうかもっ。えへえへ」

加蓮「浮かれちゃって、もー」グシグシ

柚「わぷっ。……えへへぇ」

加蓮「ふふっ。……どう? これからも私と一緒に、アイドル続けてくれる?」

柚「え? あったりまえだよ! どしたの急にー。加蓮サン、センチメンタルな気分?」

加蓮「あはは。色々あるの、色々」

147: 2015/11/29(日) 15:28:43.46 ID:oyrpMvNz0
柚「そっかー。しょうがないなー。加蓮サンがお願いするなら、やってあげてもいいよっ」

加蓮「生意気なーっ!」グシャグシャ

柚「わーっ」

加蓮「このっこのっ」

柚「わぷぷーっ」

148: 2015/11/29(日) 15:29:13.38 ID:oyrpMvNz0



柚「……ねえ、加蓮サン」

加蓮「んー? 髪はセットし直したし汗も大丈夫でしょ? そろそろPさん呼んでいい?」

柚「あ、あの、その前にいっこだけ」

加蓮「ん?」

柚「あのね、加蓮サン。その……アリガト!」

加蓮「……どしたの急に」

柚「たはは。あのね。そのー、今までアリガト! なんて、あはは、ちょっぴり気が早いけどっ」

柚「アタシ、今まで面白いこと探して、いろんなことやってみて……一緒にやってくれる人、いなかった訳じゃないけど、すぐに呆れてどっか行っちゃってたんだ」

柚「またお前か、付き合ってられない、って顔されちゃって」

柚「でも加蓮サンはずっとアタシに一緒にいてくれた」

柚「飽きっぽくて、ふつーで、ぜんぜんアイドルらしくなくて……ワガママばっかのアタシと一緒にいてくれた」

149: 2015/11/29(日) 15:29:44.17 ID:oyrpMvNz0
柚「だから、ありがとう」

柚「あの冬の日に出会えて――運命みたいだ、って思って」

柚「それから、こうして桜の季節も一緒に過ごせて……嬉しいなっ……」

柚「……加蓮サンも……そう思ってくれるといいな……」グスッ

加蓮「…………」

柚「…………」グスグス

加蓮「……はい」(ハンカチを渡す)

柚「うんっ……」フキフキ

加蓮「柚」

加蓮「私の方こそ、ありがとう。あの時……柚、上手くいかないって苦しんでたのに、私こそワガママ言ってたのに、信じてくれて」

加蓮「こんな素敵な姿を見せてくれて、ありがとう」

加蓮「私……プロデューサーになってよかった。柚のプロデューサーで、よかった!」

柚「……へ、へへっ♪」

加蓮「……あははっ♪」

150: 2015/11/29(日) 15:30:13.41 ID:oyrpMvNz0
柚「も、もー、もー。加蓮サンってば、てれ、照れちゃうっ」

加蓮「柚の方こそ、も、もう。もらい泣きしそうになったじゃない……っ」グスッ

柚「あ! 加蓮サンちょっと泣いてる? 泣いてる!」

加蓮「泣いてないし! 柚こそ、鼻水出てる!」

柚「えっウソ!? ……ホントだ! だ、だってその、その、……も、もーっ。Pサン呼ぶなら早く呼んで! あっ待って今はダメ! アタシが泣き止んでから!」

柚「そんで帰ったらみんなでパーティーだっ。……よし! もう呼んでも大丈夫だよっ」

加蓮「そうだね、帰ったらパーティー、やろっか!」

加蓮「あ、もしもしPさん? うん、もういいよ。大丈夫。え? あはは、ちょっと秘密の話。気になる? 気になる? ……そっかー、残念。車、お願いね」ポチ

加蓮「じゃ、帰ろっか、柚」

柚「あいあいさー!」

151: 2015/11/29(日) 15:30:43.49 ID:oyrpMvNz0
<次はアタシ、セクシーな衣装が着てみたいっ
<えー? 柚がぁ? ……ぷっ
<あー鼻で笑ったなぁ! 加蓮サンだってどきどきさせてやるっ
<ふふっ、それは楽しみだね

152: 2015/11/29(日) 15:31:13.39 ID:oyrpMvNz0
――10月 フェス会場――

加蓮「はい、じゃあ……お願いします」

<スタスタ

加蓮「ふうっ……」

加蓮「…………」チラ


<裕美ちゃん裕美ちゃん。トリック・オア・トリート!
<ええっ!? それ、何回目……!?
<お菓子もうないんだね! じゃあ柚がイタズラしちゃうっ
<あ、あの柚ちゃん? どうしてじりじり寄ってくる……のかな? ……真奈美さん、助けて!
<こらこら柚。まだLIVEまで時間があるんだ。落ち着いて待っていなさい
<えーだってヒマー


加蓮(雛祭りのLIVEから、半年と少しが経った)

153: 2015/11/29(日) 15:31:43.50 ID:oyrpMvNz0
加蓮(今日はドリームLIVEフェスティバル。「夢の共演」をモチーフとしたこのLIVEでは、色々な事務所から色々なアイドルが集まってユニットを組む)

加蓮(柚も抜擢された。ハロウィンシーズンということで、ユニット名「ハロウィンヴァンパイア」。14歳の子と25歳の人と組んでLIVEをする)

加蓮(ユニット、か……)

加蓮(…………)

加蓮(…………ここからは、私の知らない世界だ)

154: 2015/11/29(日) 15:32:13.48 ID:oyrpMvNz0



柚「加蓮サン加蓮サンっ」

加蓮「お、柚。他の2人とはいいの?」

柚「んっとね、退屈だから遊んでたらスタッフサンにこれ渡されちゃった! プロデューサーサンに渡してほしいんだって。ねね、開けてみようよ。ひょっとしたらアタシ宛て!?」

加蓮「柚に渡して私に回すってことはきっとそうだろうね。でも気が早いなぁ」

柚「お仕事やってる時に別のお仕事が来たりするよね。アタシもう慣れちゃったっ」

加蓮「あはは……うん、これは後で見ておくね」

柚「えー? 今開けないの?」

加蓮「帰ってじっくり見たいもん」

155: 2015/11/29(日) 15:32:43.35 ID:oyrpMvNz0
加蓮「どう? 1人じゃないLIVEは。歌えそう?」

柚「オッケーオッケー。アタシに任せなさいっ。裕美チャンも真奈美サンも、一緒だったら楽しいって言ってくれる!」

加蓮「よかった。……ん?」

加蓮(その2人が、少し離れたところからこっちを見ていた。柚もそれに気づいたらしく――)

柚「あっ2人とも! こっちこっちー! えとねっ、アタシのプロデューサーサン。加蓮サンっ」

加蓮(柚が大きく手を振ると、2人は互いに目を合わせ、少し躊躇ってからこっちに歩いてきた)

156: 2015/11/29(日) 15:33:13.37 ID:oyrpMvNz0



関裕美「あっ……こんにちは。あの、柚ちゃんの、プロデューサーさん……ですよね?」

木場真奈美「柚の話を聞いてまだ半信半疑だったが、本当に柚と同い年の子がプロデューサーをやっているのだな。ああ、私は木場真奈美だ。短い間だけどよろしく頼むよ」

加蓮「私は北条加蓮。柚のプロデューサーだよ。こちらこそ、よろしくお願いします」

裕美「関裕美です。……あ、これは睨んでるんじゃなくてもともと……」

柚「でも裕美チャン笑うとカワイイんだよ! ねっ真奈美サン!」

真奈美「ああ。笑えば誰もが魅力的に思うだろう」

裕美「そうかな……?」

真奈美「自信を持つと良いさ」

柚「そーそー! アタシなんて笑ってても転ぶ時には転ぶんだしっ」

真奈美「こらこら、柚。それは胸を張って言うことではないぞ?」

柚「ごめんなさーいっ」

加蓮「…………」クスッ

157: 2015/11/29(日) 15:33:43.32 ID:oyrpMvNz0
加蓮(柚への心配はほとんどなかった。誰にでも仲良くなれる子だから……ただ、僅かに。ほんの僅かだけ)

加蓮(少しだけ――ずるい、って気持ちが……)

柚「おっと、加蓮サン置いてけぼりになってる! えと、えと、加蓮サンだって笑うと可愛いよ!」

加蓮「え?」

柚「でも怒るとツノが生える!」

裕美「……つの? が生えるの?」

柚「ツノが生えるのっ」

加蓮「…………」ピキピキ

真奈美「はは……確かに私から見ても、プロデューサーというよりはアイドルに向いていると見えるね」

加蓮「冗談。私は柚のプロデューサーです。こっちこそよろしくね。柚のこと、お願い」

真奈美「任されたよ」

158: 2015/11/29(日) 15:34:13.46 ID:oyrpMvNz0
加蓮「裕美ちゃんも。柚、やかましくてうっさいかもしれないけど、いい子だから許してあげてね」

柚「ちょ、加蓮サン言い方ひどくない!?」

裕美「あ、それは分かってます……から……でも、柚ちゃん元気だし、笑顔がとてもステキだなって」

柚「えー裕美チャンだって可愛いのにー」

真奈美「おっと、そろそろ私たちのリハーサルの時間みたいだな。それではプロデューサー君。積もる話はまた後でしようか」

真奈美「フッ、LIVE中の柚のことは任せたまえ。裕美だっていることだ。大丈夫だろう」

裕美「えっ!? わ、私……!?」

柚「えーっアタシの方がお姉サン!」

加蓮「はいはい、柚。裕美ちゃんのことも困らせないようにね」

柚「はーいっ」

159: 2015/11/29(日) 15:34:43.51 ID:oyrpMvNz0
加蓮「リハ、私もちゃんと見とくから」

柚「うんっ。加蓮サンに見てもらってたら大丈夫だっ」

加蓮「ふふっ。それと、柚。ユニットでのLIVEでもソロと同じ――」

柚「アタシはアタシのやりたいように! うまくやるんじゃなくて楽しくやろう! ……でしょ?」

加蓮「分かってんじゃん♪」

柚「へへっ、毎回やってたから加蓮サンの言うこと読めちゃった!」

加蓮「ふふっ。じゃ、行ってらっしゃい、柚」

柚「行ってきまーすっ!」

(拳を軽くぶつけあう)

<スタスタスタ

160: 2015/11/29(日) 15:35:13.43 ID:oyrpMvNz0
真奈美「なるほど。見かけによらず……は失礼かな。柚があれだけ気に入る理由もなんとなく分かるよ。フッ、プロデューサーよりアイドルに向いていると言った自分が恥ずかしいな」

裕美「柚ちゃんのプロデューサーさん、すごく柚ちゃんを大切にしてるんだね。私にも分かるよ……!」

柚「そ、そっかなー。加蓮サンってば心配性なんだからっ♪ あ、でも加蓮サンは心配されるの嫌がるんだ。よく過保護だって怒ってるっ」

真奈美「ほうほう」

裕美「過保護……って、柚ちゃんに?」

柚「ううんっ。えとね、Pサンっていう加蓮サンの上司サンがいて――」

161: 2015/11/29(日) 15:35:43.79 ID:oyrpMvNz0
それから3人のリハーサルは無事終了し、LIVEも大盛況のまま終了した。
今日の予定が終了しても柚はずっと喋っていた。帰ろうと促してももうちょっとと繰り返すばっかり。
まあ、急ぎの用事もないし、改めてミーティングとして話し合うこともない。向こうの迷惑にならない程度に、とことん付き合ってあげようと思っていた。

思っていたけど――



柚「えーっ。まだ喋り足りないっ。もうちょっとだけ! ね、いいでしょ?」

加蓮「あのね……それ何回目? 向こうの2人にだって用事があるんだし、っていうか元気だなアンタ」

柚「加蓮サンとは違うのー!」

加蓮「うっわームカつく。ほら、明後日のLIVEだってあるんでしょ? 身体はしっかり休めなきゃ」

加蓮「っていうか明後日にまた話せばいいじゃない……」

柚「今日しか話せないことは今日しか話せないの! ……加蓮サンのケチ!」

加蓮「はいはい、屁理屈こねてないで帰りながら今日の反省会でもやるよ。Pさんだってずっと車で待ってくれてるんだし」

柚「むー」

162: 2015/11/29(日) 15:36:13.68 ID:oyrpMvNz0
加蓮「さて、それじゃ今日は――」


「……加蓮……!?」


加蓮「――――――――っ!」

柚「?」

「……やっぱり! 加蓮だろ!? なあ! アタシのこと覚えてるか? ……って忘れるわけないよな! はは!」

加蓮「…………」

柚「だれ?」

「久しぶりだな~! 元気そうじゃないか! って、ここにいるってことは……もしかして、病気が治ったのか!?」

加蓮「…………!!」

柚「……病気?」

163: 2015/11/29(日) 15:36:43.29 ID:oyrpMvNz0
「そうなんだろ! ……おい、なんとか言えよ~加蓮。つれないじゃんか。アイドルに復帰したなら復帰したって言えよな~!」

「それともアタシをびっくりさせようとしてたのか? 昔からそういうとこあるよな~加蓮は。まったく、ずっこいなぁ!」

柚「…………加蓮サン? えと、あの、」

加蓮「柚、行くよ。Pさん待たせてる」

柚「えっ、でも」

加蓮「いいから」

「え……ちょ、おい、加蓮! なんで何も言わねえんだよ! まさかホントにアタシのこと……! 嘘だろ!?」

「アタシも凛もずっと待ってたんだぞ、加蓮が戻ってくるの! そうしたら今度こそ一緒にステージに上がろうって――」

「おい、あの時の約束、忘れたのかよ! っていうか何か言ってくれよ!」

柚「あの、」

加蓮「いいからさっさと行くよ! 次の仕事だってあるんだから!」

柚「でも……う、うんっ。待って加蓮サンっ」

「……何か、言ってよ……!」

……。

…………。

164: 2015/11/29(日) 15:37:13.52 ID:oyrpMvNz0
――翌日 事務所――

加蓮「…………」カタカタ

P「……加蓮? お前どうしたんだよ。ちょっと前からずっと……柚ちゃん怖がってるぞ?」

加蓮「……はいPさん。これ柚に回ってきた仕事の概要。そのまま受けても大丈夫?」

P「え? あ、ああ。ちょっと待ってろ、こっちで確認を――確認するからお前、その間に」

加蓮「さて、次はっと……」

P「…………」

柚「…………加蓮サン」

加蓮「何?」

柚「あ、ううんっ。えと、その、ち、ちょっと息抜きとかどうかな~って……なんでもないですっ」

加蓮「そ」カタカタ

柚「ぅう…………」

P「…………」

165: 2015/11/29(日) 15:37:43.49 ID:oyrpMvNz0
加蓮「おしまい。いい時間だね。ちょっと早いけど柚、レッスンスタジオ行こう」

柚「う、うん。……あの、加蓮サン。この前、加蓮サンを知ってたっぽい人――」

加蓮「さっさと行くよ。ほら、明日もまた出番があるんでしょ? おかしなとこがないか、1回通すだけだから」

柚「うん…………」

P「…………」

<ガチャ

P「加蓮を知ってたっぽい人? ……まさか」

166: 2015/11/29(日) 15:38:13.47 ID:oyrpMvNz0
――柚のレッスン終了後 事務所――

加蓮「…………」カタカタ

柚「…………」

P「…………」カタカタ

P(……静かすぎて気まずい。加蓮と柚ちゃんがいて、これほど静かだった時はない。なんとかしたいとは思うが……)

P(気になるのは、柚ちゃんの言っていた「加蓮を知っていた人」)

P(加蓮がこうなったのはドリームLIVEフェスティバルの後からだ。ドリフェス……となると、やっぱり)

P「加蓮」

加蓮「何?」

P「いや――」

167: 2015/11/29(日) 15:38:43.45 ID:oyrpMvNz0
P(――"出会ったばかりの頃"の加蓮よりも、酷い。"元担当"の俺でもこんな加蓮は見たことがない)

P(思わず怯んでしまった。……それじゃ駄目だろうと理性が叱責するも、続く言葉が思いつかない)

P(結局――)

P「お前、何があったのか知らんが……ずっとこのままやるつもりか? ……それでいいとは加蓮も思ってはいないだろ」

加蓮「…………」

P「あのな――」

P「…………」

P「…………」カタカタ

加蓮「…………」カタカタ

柚「…………」

柚「あ、あの。今日アタシもう帰るね。えと、加蓮サン、また明日っ」

<バタン

加蓮「…………」

P「…………」

168: 2015/11/29(日) 15:39:13.39 ID:oyrpMvNz0
――翌日 フェス会場――

柚「裕美チャン、真奈美サン。アタシちょっと探してる人いるんだ。ごめんっ、本番までには絶対戻ってくるからっ」タタッ

<タタタッ

柚「えとっ…………」キョロキョロ

柚「ええとっ…………」スタスタ

柚「……あ! いた! あの! そこの……だ、誰だっけ? そ、そこの人!」

「ん? アタシ……?」

柚「そうそう! あのっ……か、加蓮サンのこと知ってるんだよね! そのことアタシに教えて!」

「! そういえば、加蓮と一緒にいた……」

169: 2015/11/29(日) 15:39:43.55 ID:oyrpMvNz0
柚「喜多見柚! はじめましてっ! ……じゃなかった。いやはじめましてだケド! そうじゃなくて! えとっ……」

「……???」

「あー、アタシは奈緒」

神谷奈緒「神谷奈緒だよ」

170: 2015/11/29(日) 15:40:13.52 ID:oyrpMvNz0
――即席のカフェコーナー――

奈緒「はー、ほんとアイドルってすごいよな。会場の中にカフェ作ってそこでもアイドルだってさ。はは、もしかしたらスタッフの中に混じってたりしたりな?」

柚「そうかもっ。加蓮サンもあっちこっちでいろんな人と話してるみたい。アタシのお仕事のこととか」

奈緒「そっかー……」

柚「…………」ズズ

奈緒「…………」ズズ

奈緒「なあ。えっと、柚ちゃん、だっけ……?」

柚「うん」

奈緒「加蓮は……アイツは本当に……プロデューサーを、やってるのか?」

柚「……うん。アタシのプロデューサーサンだよ」

171: 2015/11/29(日) 15:40:43.38 ID:oyrpMvNz0
奈緒「そっかぁ……噂には聞いてたんだけどマジだったかぁ……。凛が聞いたら何を言うかなぁ……」

柚「…………」

奈緒「あ、ゴメン。……凛っていうのはアタシとユニット組んでるアイドルのことで……加蓮も、本当ならそこにいた筈なんだ」

奈緒「アタシと凛と、加蓮のユニット。色々あって、今はアタシと凛は別の部署にいるんだけどな」

柚「……あの。奈緒、サン」

奈緒「ん?」

柚「加蓮サンって……プロデューサーじゃなくて、アイドルだったの……?」

奈緒「……元、な。元アイドル。アタシ達がユニットを組んで、さあLIVEだってなった直前に倒れちゃって――」

172: 2015/11/29(日) 15:41:14.06 ID:oyrpMvNz0
――フェス会場・別の場所――

加蓮「え? 探してる人がいる?」

裕美「う、うん。そういってどこかに行っちゃったけど……プロデューサーさんのことじゃなかったんだね」

真奈美「少し急いでいるようだったな」

加蓮「そう……」

加蓮(探していた、って…………)

加蓮「……教えてくれてありがとう。ちょっと探してみる。ごめん、うちの柚が迷惑かけて」

真奈美「フッ、なんてことはないさ。こっちで見つかったら連絡をした方がいいかな?」

加蓮「うん、是非お願いっ」

<テクテク

裕美「……私たちも、探した方がいいのかな?」

真奈美「そうだな。邪魔にならない程度に探してみようか」

173: 2015/11/29(日) 15:41:43.20 ID:oyrpMvNz0



<スタスタ
<スタスタ

加蓮「ああもう、あの子いったいどこに――」ハヤアルキ

<あ、いた!

加蓮「ん?」

「北条さんですよね? あの、喜多見さんとこのプロデューサーっていう……本当に女子高生くらいの年齢なんですね……」

加蓮「……?」

「ああ失礼。私、◯◯という雑誌の者でして――」

174: 2015/11/29(日) 15:42:13.66 ID:oyrpMvNz0
――フェス会場・即席のカフェコーナー――

柚「加蓮サンが、アイドル……? 倒れちゃった……!?」

奈緒「加蓮さ、もともと病気かなんかで体が弱いんだ。入院したこともあるって言ってたかなぁ……」

柚「病気!? 入院!?」

奈緒「いつもアタシや凛が心配しててさ、アイツは大丈夫だって言うんだけど、ある時に思いっきりぶっ倒れたことがあって……」

奈緒「それから、医者だったか親だったかにしばらくアイドルはやるなって言われたらしいんだ」

奈緒「でも加蓮はアイドルをやりたがってて……今は無理だけど、体が回復したらって許可されてた」

奈緒「アタシも凛も、きっといつか戻ってきてくれるって……2人でユニット組んで、アイドルをやりながら加蓮を待ってた」

奈緒「アタシ達は育成枠ってことで別の部署に移されたけど、いつか加蓮もこっちに来るだろうって」

奈緒「加蓮もいろんな人から、これからが楽しみなアイドルだって言われてたからさ」

奈緒「……はは、それがまさか、プロデューサーになって帰ってくるなんて」

175: 2015/11/29(日) 15:42:43.60 ID:oyrpMvNz0
奈緒「加蓮にはよくびっくりさせられてたけど、こればっかりは過去最大のびっくりだよ……はは、あん時のアタシ、間抜けだったろうなぁ」

柚「…………」

奈緒「…………あ、あはは……そゆこと」

柚「加蓮サンが、アイドル……なのに、アタシのプロデューサーサン……?」

奈緒「うん――」


加蓮「ハァ、ハァ、み、見つけた……!」


奈緒「!」柚「!」

加蓮「はーっ、はーっ…………」チラ

奈緒「加蓮……」

176: 2015/11/29(日) 15:43:13.54 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………久しぶり、奈緒」

奈緒「!」

加蓮「びっくりした? 私がここにいて」

奈緒「…………そりゃ、びっくりもするよ……なあ、加蓮、どういうことなんだよ。プロデューサーやってるって、どういう……!」

柚「……ねえ加蓮サン。前にアイドルやってたって、ホント?」

加蓮「……うん。どっちも、本当だよ」

柚「病気で倒れたって、ホント?」

加蓮「うん」

柚「…………」

加蓮「……あんまり話したい話じゃないし、わざわざ言うことでもじゃないでしょ? それに……今の私は柚のプロデューサーだよ。例え元アイドルでも関係なく、今の私はプロデューサー」

加蓮「ちゃんと仕事を取ってきて、レッスン見て、事務仕事だってやってるでしょ?」

177: 2015/11/29(日) 15:43:43.54 ID:oyrpMvNz0
加蓮「例え元アイドルでも、私は――」

加蓮「…………」

加蓮「…………ごめん。そういうことじゃないよね……そういうことじゃ……」

柚「…………加蓮サン……」

加蓮「……隠しててごめん。……元アイドルだってのも、奈緒とユニット組んでたってのも、ぜんぶ本当のことだよ」

柚「…………」

奈緒「なあ加蓮。その、体の方はどうなってるんだ? 今もアイドルはまだ――」

加蓮「うん。無理だよ。まだアイドルはできない」

加蓮「定期検診の度に医者とお母さん、ついでにPさんから止められてる。プロデューサーやってる時も、走るのは厳禁」

加蓮「だから今だって、ずっと早歩きで柚を探してたんだ……それでもご覧の有様だけどね」アセダク

奈緒「…………」

178: 2015/11/29(日) 15:44:13.49 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ちょっとでも疲れを感じたら休め。さんざん言われてるよ。その辺の条件があって、プロデューサーとしての行動は認められてるけど」

奈緒「そっか……。やっぱりまだ、無理なんだな」

加蓮「奈緒。まだ私のこと待ってるの?」

加蓮「……私のことなんて待たなくていいのに」

奈緒「!」

加蓮「もしアイドルに復帰できてもただのポンコツだよ? もうレッスンなんてずっとやってないし。それに、どーせまた倒れるだろうし」

加蓮「将来が楽しみなんてもう昔のこと。変に期待されるのも辛いし……だからさ、」

奈緒「そんなの関係ないよ!」

加蓮「っ」

奈緒「……そんなの、何度だって凛と話したよ。もしかしたら加蓮のことを忘れた方がいいかもしれないって思ったことだってあった!」

奈緒「でもさ、やっぱ違うんだよ! アタシ達3人でトライアドプリムスなんだよ! 育成枠とか期待のアイドルとか関係なくさ!」

179: 2015/11/29(日) 15:44:43.85 ID:oyrpMvNz0
奈緒「今……今さ、アタシと凛、トライアドプリムスを名乗ってないんだ。それは加蓮が戻ってきてから名乗ろうって決めてるんだ! だからっ――」

加蓮「……ふふっ。相変わらず頭に血が昇ったらツンの欠片も見せなくなるね、奈緒」

奈緒「! からかうなよっ。アタシも凛も、加蓮のこと本当に……本当に待ち続けて……っ!」

加蓮「…………」

柚「……ねえ、加蓮サン」

加蓮「何?」

柚「……ううん、分かんない。アタシ、どう思えばいいのか分かんないや……。加蓮サンがアイドルやってたって聞いてびっくりしたけど、どう思えばいいのかぜんぜん分かんない……」

加蓮「…………柚」

加蓮「……上手くやるよりも」

柚「やりたいようにやろうっ! ……だよ、ね?」

180: 2015/11/29(日) 15:45:13.76 ID:oyrpMvNz0
加蓮「うん。……今まで隠しててごめん。許せとか言わないけど……ぜんぶ、後付になるけど」

加蓮「いつか説明はしようって思ってたし、柚から聞かれたら話そうって……でもあの時は、奈緒を見た時は……その、心の準備ができてなかったのと……あと……」

加蓮「……奈緒が、アイドルの衣装を着てたの見て……なんか、頭の中が切れちゃった」

柚「え?」

奈緒「アタシの、衣装?」

加蓮「…………ねえ、柚。奈緒も……。私の話、聞いてくれる?」

柚「…………」ミアワセ 奈緒「…………」ミアワセ

加蓮「…………」ウツムキ

柚「うん、聞く。ごっちゃごっちゃで訳分かんないし!」

奈緒「アタシも……加蓮が何を思ってプロデューサーやってるのか、聞きたい」

加蓮「……うん。分かった。話すね」

181: 2015/11/29(日) 15:45:43.60 ID:oyrpMvNz0



加蓮「私ね……小さい頃からよく入院してたんだ。体力がなくて、ちょっと走るだけでガタガタで」

加蓮「小さい時、なんにもない世界で……テレビだけが外の世界を見せてくれた。そしてそこで、私はキラキラ輝くアイドルを見たんだ」

加蓮「私もなりたい」

加蓮「無理かもしれないけど、無茶かもしれないけど、私もアイドルになりたい」

加蓮「みんなに反対されたけど、ある時、Pさんに拾われたんだ。柚の雛祭りLIVEと同じくらいのステージにも立った」

加蓮「ずっと秘めてた夢が叶ったんだ。身体もずっと問題なくて。奈緒の言う通り、周りから期待されてたけど……私の身体は、そんな楽観的な物じゃなかったみたい」

加蓮「爆発した」

加蓮「結構な間、入院することになって。Pさんと両親、あと医者から、アイドルを続けることは無理だと言われた。やるな、じゃなくて、無理だって」

加蓮「でも、夢を諦めたくなかった。何にもない世界で見つけた、たった一筋の光だったもん」

加蓮「だから倒れた時、アイドルは無理だって言われた後も、必氏に食い下がって」

182: 2015/11/29(日) 15:46:13.54 ID:oyrpMvNz0
加蓮「そしたら医者が、身体が前みたいに回復したら認めてもいいって。アイドルをやることを。それでもいろんな配慮は必要だって言ってたけどね」

加蓮「家でじっとしてればよかったんだけど……休んでたら回復するもんじゃない、そもそも回復するかどうかも分からない、って言われてた」

加蓮「つまり、歩いてても立ち止まってても、回復する時にはするし、しない時にはしないって」

加蓮「それならさ。アイドルができない間も、アイドルに触れていたかった。夢を失いたくないし、何かしている気になれる」

加蓮「……気になれるだけだって分かってても、何もしないで療養するなんて耐えられなかった」

加蓮「Pさんにお願いした。何か手伝うことはないかって。アイドルはできないけど、アイドルに関わる何かはできないかって」

加蓮「Pさんは私に、プロデューサーの手伝いをすればいいって提案したんだ」

183: 2015/11/29(日) 15:46:43.43 ID:oyrpMvNz0
加蓮「メチャクチャ無理したっぽい。上の人たちと揉めてるのも何回も見た。でもやがて、私はプロデューサー代理って立場になれた」

加蓮「それからすぐだよ。柚のことを見つけて、スカウトしたのは」

加蓮「…………」

加蓮「…………以上。加蓮ちゃんの秘密のお話でした」

184: 2015/11/29(日) 15:47:13.67 ID:oyrpMvNz0



柚「…………」

奈緒「…………」

加蓮「…………」

柚「……あの、さ。ってことは加蓮サン、もし体がよくなったら……アタシのプロデューサーサンやめて、アイドルに戻るんだ」

加蓮「…………それがさ……最初は、そうするつもり満々だったんだ」

柚「…………」

加蓮「さっきも言ったけど、復帰するまでアイドルに離れているのが嫌で、だからPさんの手伝いを始めたっていうのが最初だし」

加蓮「それだけだったんだけど、でも……いつ頃からかな。ほら、柚の雛祭りLIVEよりも前、なかなか大きな仕事を持ってこれなかった頃にさ」

加蓮「営業が何度も上手くいかなくて、結局はPさんに頼ってばっかりで。なんで私ってこんなことやってるんだろーってイライラしてたんだけど……柚を見たら、やらなきゃ、って燃えたんだ」

柚「アタシを……?」

185: 2015/11/29(日) 15:47:43.43 ID:oyrpMvNz0
加蓮「だって柚、あんなに楽しそうにやってるもん。じゃあ私もやらないと、って」

加蓮「Pさんに、柚のプロデュースは私がやるんだ、って言ったら、もういろいろと吹っ切れちゃって……すうって消えたんだ。なんだか、いろんな物が消えちゃって」

加蓮「うん、そんな感じ」

奈緒「え……? ま、待てよ加蓮!」

加蓮「ん?」

奈緒「じゃあ、もしかして……まさか……もうアイドルに戻るつもりは――!?」

加蓮「…………」

加蓮「…………ごめん、奈緒」

奈緒「……っ!!」

186: 2015/11/29(日) 15:48:13.89 ID:oyrpMvNz0
加蓮「あのね。さっき、柚を探してる間に雑誌の人に捕まってたの。私のインタビューをやりたいって何度も何度も言ってきて」

柚「加蓮サンの?」

加蓮「そ。私の。最初はもうアイドルじゃないんだしって断ったんだけどさ。そうじゃなくて、プロデューサーとしての私にインタビューがしたいって言うんだ」

加蓮「前に、営業先の人からプロデューサーじゃなくてアイドルだって思われたことが何回もあった。セルフプロデュース? って聞かれたこととかもね」

加蓮「でも、たまにいるんだ。私をプロデューサーだって見てくれる人が」

加蓮「柚の雛祭りLIVEの時もそう」


『君、もしかして前にさ、アイドルやってなかった? 北条加蓮って聞き覚えがあるんだよね。1度だけ大きめのLIVEに出たのを見たことがあったような……』

『あ、やっぱりそうなの? そっかー。うん? でも今の君はプロデューサーなんでしょ。じゃあうちはLIVE開催者として君の話を聞くよ』

『……今は秘密にしておいてくれ? 分かった分かった。何かワケアリなんだね。じゃあ今のことは聞かなかったことにしよう』


加蓮「雑誌の人もそう。そりゃいいネタにはなると思うよ? ただの話題作りの為かもしれない」

加蓮「でも……何だったとしても、柚のプロデューサーだって見られたことがすっごく嬉しかった」

187: 2015/11/29(日) 15:48:43.68 ID:oyrpMvNz0
加蓮「もし今、身体が完全回復して……柚や奈緒、凛みたいに歌って踊れるようになっても……」

加蓮「私は、アイドルに戻るつもりはない」

奈緒「!!」

加蓮「……だから、奈緒。だから……私のことは、もう待たないで」

奈緒「…………!!」

奈緒「く……うっ…………」

柚「加蓮サン……奈緒サン……」

加蓮「…………」

奈緒「そ、っか……は、はっ……あ、のさ。加蓮の噂、そのっ、プロデューサーやってるって噂を聞いた時、凛と話したんだ」

奈緒「加蓮って……もしかしたらもう、アイドルに復帰するつもりないんじゃないか、って……」

奈緒「でも、アタシも凛も、加蓮のアイドルへの情熱、知ってたからさ……ないよなー、って笑ってたんだ。ただのデマだよなー、って」

奈緒「なのに……マジかよ……! なあっ…………!」

加蓮「……ごめんなさい」

188: 2015/11/29(日) 15:49:13.45 ID:oyrpMvNz0
奈緒「そっか…………そっかぁ………………」

奈緒「うぁ……あぁぁぁ…………!」

加蓮「…………」メヲフセル

柚「加蓮サン……」

加蓮「…………柚。戻ろ。裕美ちゃんと真奈美さんが探してたよ。それに、そろそろLIVEの時間だ」

柚「でも、」

加蓮「じゃあ――」ガタッ

奈緒「……待ってよ!」ガシ

加蓮「奈緒…………?」

奈緒「駄目だよ。やっぱりこんなの納得いかない!」

189: 2015/11/29(日) 15:49:43.69 ID:oyrpMvNz0
奈緒「なあ。ウソなんだろ? ……ウソなんだよね? なんでそんな体でアイドルやってんだってケンカした時に言ったことアタシ覚えてんだぞ! でもなりたいってずっと突っぱねてたこと……凛と大ゲンカした加蓮のこと覚えてんだ!」

奈緒「もうアイドルになんて……ウソ、なんだよな。そうだよな。加蓮って前からそうだ。ウソとか冗談とかよく言って、アタシをからかって……でも……でも、ついちゃいけないウソってあると思うんだよ!」

奈緒「いや……そっか。病気がなかなか治らないからそういうこと言ってるだけなんだよな! 大丈夫だぞ! アタシも凛も、ずっとずっと待ってるから! その……待ってるから……」

加蓮「…………」

奈緒「なあ……っ……!」

加蓮「…………奈緒。嘘でも、強がりでもない。ぜんぶ、私の本心だ」

奈緒「……っ…………!!」

加蓮「…………」

奈緒「じゃあ……なら……ならあの時のこと! 一緒に頑張って凛に追いつこうって決めた時のこと! 忘れたとは言わせねえぞ! 忘れたなんて……っ」

加蓮「奈緒」

加蓮「……私が嘘ついてないって、それは奈緒が一番よく――」

加蓮「…………」

奈緒「くうっ……………………」

190: 2015/11/29(日) 15:50:13.65 ID:oyrpMvNz0
柚「――加蓮サン!」

加蓮「柚……?}

柚「アタシ……加蓮サンのことまだまだよく分かってないっ。奈緒サンみたいに知ってないよ。でも、でもさ!」

柚「あの……も、もしさ。もし加蓮サンの、病気? が治ったら、アイドル、やったらいいんじゃないかなっ」

加蓮「…………言ったでしょ? 私はプロデューサーで――」

柚「その時は、ほらっ。プロデューサーでアイドルっ。加蓮サンならどっちもできるよ!」

加蓮「あのね。馬鹿言わないの。私に頼ってばっかりの癖に」

柚「うぐっ。そ、そこはアタシが頑張ってですな、そのですな……」

加蓮「どっちにしても、今は柚のプロデュースをさせてよ。私、それが一番やりたいことなんだから」

加蓮「言ったよね。柚にやりたいようにやれって言う理由の1つに、昔からやるなってばっかり言われてたからって」

柚「! それ、もしかして入院してたから?」

191: 2015/11/29(日) 15:50:43.54 ID:oyrpMvNz0
加蓮「うん。今は……できるんだよ。できないことはあるんだけど、できることもある。やりたいこともある……やりたいことが、できるの」

加蓮「強がりでもウソでもなくてさ。本当に今、柚のプロデュースを一番やりたいの」

奈緒「…………っ」

柚「じゃあ、じゃあさっ。病気が治ったら、アタシと一緒にアイドルやろうよっ。あっ、もちろん奈緒サンと……えと、凛サン? だっけ? とも!」

加蓮「あのさ、柚……私の話を――」

柚「そしたらほらっ、一緒にプロデューサーもできるよっ。あの、その時はアタシが加蓮サンのプロデューサーもしてあげるっ」

柚「アタシはアイドルでプロデューサー、加蓮サンもプロデューサーでアイドル!」

柚「苦手なことだっていっぱい勉強するよ! 今までアイドルでできたんだから、プロデューサーだってできるハズっ」

加蓮「…………」

192: 2015/11/29(日) 15:51:13.55 ID:oyrpMvNz0
奈緒「加蓮……加蓮が何って言っても、アタシは信じてる。加蓮がアイドルを辞めたいなんて本気で思ってないってこと!」

奈緒「倒れた時だって、必氏にアイドルやりたいって言ったんだろ!?」

奈緒「アタシは信じてる。加蓮の想いの強さを!」

加蓮「…………」

加蓮「…………」チラ

奈緒「っ…………!」

加蓮「…………」チラ

柚「加蓮サン……」

加蓮「…………」

193: 2015/11/29(日) 15:51:43.96 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……くくっ…………くくくくっ…………!」

奈緒「え?」柚「へ?」

加蓮「あははっ!! おっかし……! 奈緒、想いの強さを信じてるって……ぷぷっ」

奈緒「なあっ! アタシこれでも真剣なんだぞ!?」

加蓮「ふふっ。奈緒のそーいうとこ変わってないね。アタシは信じてる……だって。ふふっ! まるでお芝居みたい……」

奈緒「だ、だからアタシは真剣に……!」

加蓮「分かってる。それが奈緒だもんね。……ちょっぴり羨ましいかも」

加蓮「柚も。苦手なことだったら勉強する? アンタ、テストの度に私に泣きついてギリギリ赤点回避してるでしょ。笑わせないでよ」

柚「それとこれとは別だもん。加蓮サンのことならもっと頑張れるっ」

加蓮「はーっ。……もう。馬鹿」

194: 2015/11/29(日) 15:52:14.52 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……はいはい。じゃあ病気が治って、あと柚のプロデュースが一段落ついたらね。もうどんだけ先の話になるか分かんないけど――」

奈緒「ホントかっ!? ホントなんだな! ウソでした~とか冗談でした~とは言わせねえぞっ!」ガシ

加蓮「わっ。ちょ! ……嘘じゃないってば。でもホントに何年かかるか分からない話だよ? もしかしたらアイドルって言えない年齢になって――」

奈緒「それでも! ……アタシも、それに凛もきっと! ずっと加蓮のこと待ってるから!」

奈緒「約束だからな!」

加蓮「…………」

柚「じゃあアタシからも約束っ。いつか一緒にアイドルやろっ。そしたら……今も楽しいけど、そしたらもっと楽しいよ!」

加蓮「…………もー」

加蓮「じゃあ、約束ね」

奈緒「約束だ!」

柚「約束っ」

加蓮「もう…………」

195: 2015/11/29(日) 15:52:43.52 ID:oyrpMvNz0
――フェス会場――

柚「ただいまーっ。お待たせ!」

真奈美「柚。ちょうど20分前だな。あと10秒したら連絡を入れようと裕美と話し合ってきたところだぞ」

裕美「柚ちゃん、おかえりなさい。探してた人……見つかった?」

柚「うんっ。それに……へへっ♪」

真奈美「……?」裕美「……?」

加蓮「…………」ベチッ

柚「あたっ! なんではたいたの~」

加蓮「裕美ちゃん、真奈美さん、ごめん。うちの柚が迷惑かけて。ちょっと遅くなっちゃった」

真奈美「いや、それは構わないが……ん? プロデューサー君。ええと、加蓮だったか。加蓮。何かあったのかな?」

加蓮「え?」

真奈美「心なしかいい顔をしているような――」

柚「ナイショ!」

196: 2015/11/29(日) 15:53:13.47 ID:oyrpMvNz0
真奈美「フッ、それなら詮索はやめておこう。さ、柚、裕美。LIVEの時間だ。行こうか」

裕美「えっ……そんな言い方されたら、私、気になるんだけど……!?」

柚「へっへー。行こ行こっ。加蓮サン、行ってきます! 今日もアタシをしっかり見ててね!」

加蓮「はーい。……でも裕美ちゃんにかぶりつくのはやめなさいよ?」

裕美「!!」

柚「ふっふっふー、どうしよっかなー?」

裕美「…………!!??」サーッ

真奈美「こら柚。裕美が青い顔をしているぞ」

柚「じゃあやめとく!」

<スタスタ...

加蓮「ふうっ」

197: 2015/11/29(日) 15:53:43.49 ID:oyrpMvNz0
奈緒「……なんていうか、ホントにプロデューサーなんだな、加蓮」

加蓮「わっ!? び、びっくりしたぁ……」

加蓮「うん。見ての通り。プロデューサーだよ。れっきとしたプロデューサー」

奈緒「そっかぁ……」

加蓮「……何?」

奈緒「いや、違うんだ。さっきは、加蓮がプロデューサーなんてって思ったけど……」チラ


<じゃあ真奈美サンにがぶーってしちゃおう!
<フフ、本気で私にイタズラする気かい?
<…………ひ、裕美ちゃん、いっけー
<えええっ!?


奈緒「加蓮がプロデューサーにこだわるのも、ちょっと分かる気がしてさ」

加蓮「……たはは。でしょー?」

198: 2015/11/29(日) 15:54:14.38 ID:oyrpMvNz0
奈緒「まっ、アタシは加蓮がアイドルに復帰するのを待ち続けるけどな!」

加蓮「えー。無駄になっても知らないよ?」

奈緒「でも、よく考えたら加蓮ってこういう時にウソをついたことないって思ってさ。へへっ!」

加蓮「なにそれ。まったく」

199: 2015/11/29(日) 15:54:44.35 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

加蓮「もしもし。Pさん」

加蓮「うん。奈緒に会った。……それから私のこと、ぜんぶ柚に話した」

加蓮「うん。うん。……うん。あ、ごめんねPさん。ここんところイライラしちゃってて。迷惑、かけたよね……?」

加蓮「慣れっこ、って……もう。Pさんって相変わらず優しいんだね……ちょっとくらい責めてもいいのに……」

加蓮「あ、それでね。柚と奈緒と約束したんだ。回復したらアイドルに戻って、一緒にやろうって」

加蓮「……はいはい。分かってるよ。今すぐなんて言わないよ……それに、まだまだ柚のプロデューサーは続けるよ。それも変わんない」

加蓮「うん。……うん。あ、柚のLIVEの時間だ。え? Pさんも見に来る? ふふっ、それならえっと、今いる場所は――」

200: 2015/11/29(日) 15:55:13.45 ID:oyrpMvNz0
――数日後 喫茶店――

「いやあ、最初に聞いた時は驚いたよ。まさかこんな子がプロデューサー!? って」

加蓮「よく言われます、それ」

「でもほら、◯◯んところの……柚ちゃんがLIVEしたところがさ、うちに情報をくれて。それで君に取材してみたかったんだよね~。あそこの企画担当、実は僕の兄なんだ」

加蓮「それでノリが似ているんですね」

「そうかい? でもデスクがそんなの放っとけってうるさくて。で、最近はさ。セルフプロデュース? って言うの? そういうの増えてきたじゃん? だからここらで1つ、加蓮ちゃんの記事を作ろう! ってなってさ」

加蓮「そうだったんですか」

「ま、セルフプロデュースって言っても契約なんかは大人を介しているみたいだけどね。加蓮ちゃんもそうなんだろう?」

加蓮「ええ」

201: 2015/11/29(日) 15:55:43.97 ID:oyrpMvNz0
「だよねー。正直、業界の大多数からも子どもにそういうことさせるのはどうかって言ってるし……あ、でもね、実はこれ、ここだけの話なんだけどさ……」

「ほら、最近、いろんな年齢制限を下げようって動きがあるでしょ? お酒とか、選挙権とか。あれって若い子のセルフプロデュースの風潮ができつつある芸能界と関係があるとかないとか……」

加蓮「そうなんですか?」

「あくまでその筋から聞いた噂だよ。ほら、そういう世界の人たちって何かとそれっぽい理由を求めてるからね。世論とか体裁とか……」

「おっと、今は加蓮ちゃんへのインタビューだったね。っていうかさー加蓮ちゃん。もっと柔らかくしていいよ? プロデューサーってことで堅くなってるのかもしれないけど」

加蓮「…………」

「ああ、僕らはね、そう、セルフプロデュース推進派っていうのかな。若者にはどんどん活躍してほしいって思ってるんだ」

202: 2015/11/29(日) 15:56:13.38 ID:oyrpMvNz0
「ここで若くて有能プロデューサーからガツン! と言ってほしいなんて思ってたりもね」

「だからこう、ありのまま喋ってほしいっていうか。あ、もちろん言える範囲で大丈夫だからね。何もアイドルのことを根掘り葉掘りって訳じゃないから。今時そーいうのは流行んないんだよね。スキャンダルとかでっち上げたら叩かれるのこっちだしさー」

加蓮「……じゃあ、いつものモードで。ふふっ」ヨイショ

「お、座り直して気合入れてるねー。じゃあさっそく質問行くから、軽~い気持ちで答えてね! まずは――」

203: 2015/11/29(日) 15:56:43.44 ID:oyrpMvNz0
――1週間後 事務所――

『「若いからって門前払いした人たち、みんな見返してやる!」女子高生プロデューサーは語る――』

加蓮「…………」プルプル

柚「加蓮サン、すっごくプロっぽくてっカッコイイ! プロのプロデューサーだっ」

P「へー、よくできてるじゃないか。『正直アイドルにならないかって誘いはあります。でも今はプロデューサー一筋ですから!』とか、ははっ、加蓮が力強く言ってる顔が目に浮かぶな」

柚「『情熱を持ってやれば、必ず聞いてくれる人はいます。今の世の中こそそれが一番大事だって、身を持って知らしめたいですね』だって! これも加蓮サン言いそう!」

P「『私だって、担当アイドルを愛してますから』かー。俺も聞いてみたかったなぁ」

柚「え、それって……あ、あはは、アタシちょっと照れちゃうかもっ」クネクネ

加蓮「…………」プルプル

柚「? どったの加蓮サン?」

加蓮「あ……あんのクソ記者アアアアアアアアアアアァァァ!!!」ヒュッ!

<バシッ!

柚「わっ」

204: 2015/11/29(日) 15:57:13.74 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ゲホッ……私ここまで言ってない! そりゃ門前払いした営業先が私の話を聞いてくれると嬉しいくらいは言ったかもしれないけどさぁ! これじゃまるでケンカ売ってるみたいじゃん!!」

P「いや、芸能雑誌ってだいたいこんなもんだろ……」

柚「みんな大げさに書くの好きだよねっ」

加蓮「あと誰が情熱を持ってやれば、よ! そんなこと言ってないしゲホッ!」

P「その辺はほら、加蓮の普段の態度っていうかな」

柚「加蓮サン見てたらアタシまで気合入っちゃうっ」

加蓮「くっそぉ、大げさにするのとか流行らないって言ってたのあっち……あああああ騙されたああああああああ~~~!」

P「お、おう。加蓮が人に騙されるのって珍しいな」

加蓮「うううううう~~~~~!!」

柚「加蓮サン加蓮サンっ。どーどー。ほらっレモン飴あるよ! これ食べてリラックス~、リラックス~」

加蓮「むぐっ」

加蓮「……………………」バリボリバリボリ

205: 2015/11/29(日) 15:57:43.57 ID:oyrpMvNz0
柚「噛むんじゃなくて舐めろーっ」

P「すげえ顔してんな……」

加蓮「見んなっ!」

P「おう」サッ

加蓮「ガリッ! ……ちっくしょー、油断したぁ……明日からどんな顔で学校通えばいいのよ……」ギリリ

P「ドンマイ。もうそっち向いていいか?」

加蓮「…………どーぞ」

柚「じゃー次はアタシがすごいこと言ってくる! そしたら加蓮サンの仲間!」

加蓮「やめろ」ガシ

柚「きゃっ」

206: 2015/11/29(日) 15:58:13.27 ID:oyrpMvNz0
加蓮「そうしたらもうホントに面倒になるんだから。あのね、大きめのLIVE1回だけやって退場したような泡沫アイドルでさえ物好きが病院まで追っかけてくるんだからね」

P「おーい、勢いで言うのはいいが自分で自分を泡沫とか言うなよ~。俺まで悲しくなるぞ~」

加蓮「柚はその辺、ちょっとナメすぎ。私やPさんに迷惑かけたくないでしょ?」

柚「う、うん」

P「ま、この件はこれでいいじゃないか。芸能界なんてこんなもんだし、言わせたい連中には言わせとけばいいんだ。そっから逆転するのとか加蓮の好みだろ?」

加蓮「ま、ね……ハァ……」

柚「えとっ、疲れた時には甘い物! 加蓮サンにはこっちのマシュマロをあげるっ」

加蓮「むぐ」

加蓮「…………ハァ」

207: 2015/11/29(日) 15:58:43.50 ID:oyrpMvNz0
柚「おかわりどぞっ♪」

加蓮「むぐ」

加蓮「…………あ、これ甘くて美味し……♪」

柚「でしょでしょ!」

加蓮「はー……、よいしょ、っと」ザッシヒロイ

加蓮「……あ。うん……今のはちょっと忘れて」

P「おう、忘れた忘れた」ニヤニヤ

加蓮「忘れたって顔してない!」

柚「アタシは頑張って覚えとくねっ」

加蓮「柚まで! 嫌なことは5分で忘れるんじゃなかったの!?」

208: 2015/11/29(日) 15:59:13.46 ID:oyrpMvNz0
柚「やなことじゃないもーん。ささ、アタシはレッスンに行かなきゃっ」

P「さて、仕事仕事。部下には負けてられないぞー」

加蓮「ちょ、柚、Pさん。話はまだ――あー、もー!」スタッ

加蓮「…………」パラパラ

加蓮「もー…………」

209: 2015/11/29(日) 15:59:43.54 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

……。

…………。

210: 2015/11/29(日) 16:00:13.43 ID:oyrpMvNz0
加蓮(それから、少しの月日が流れた)

加蓮(裕美ちゃんや真奈美さんとは、連絡先を交換したらしいけれど……それ以降、一緒に遊びに行っただとか仕事の話があったということはなく)

加蓮(柚はまた、ソロの仕事を繰り返し続けていた)



――11月 学校帰り――

加蓮「ふぁ……。ねむい……さむい……」ゴシゴシ

加蓮「えっと……帰ったら着替えて、◯◯事務所のとこで打ち合わせして、柚の報告を聞いて……」テチョウパラパラ

加蓮「明日はどうやっても休まないといけないなー、学校……」

加蓮「…………」クルッ

加蓮(振り返る。微かに見える校舎に、思うことは何もない)

加蓮(柚が忙しくなってから、自分が学生という気がしなくなってきた。昼に抜けたり、逆に昼から登校することもザラにあるし)

加蓮(Pさんの協力もあって、学校や親には説明しているけれど……変な感じ)

加蓮「あはは……前見て歩こ」

211: 2015/11/29(日) 16:00:43.60 ID:oyrpMvNz0
加蓮「えっと、確か今日の柚のレッスンスケジュールは……」パラパラ

加蓮「……ん?」

<ごんっ

加蓮「あ……ったぁ……!」

加蓮「! ……うぁー」キョロキョロ

<チラッ
<クスクス

加蓮「…………///」ハヤアルキ

加蓮「ふう……おのれ電柱め……ああもう、ホントに前見て歩かなきゃ……」

加蓮「…………」テクテク

加蓮「……次の振り付けの進行がちょっと遅れてるんだっけ。私も時間を作って見てあげないとなー。他には……」パラパラ


柚「あ、加蓮サン!」


加蓮「お?」パタン

柚「やっぱり加蓮サンだ。やっほー!」タタッ

212: 2015/11/29(日) 16:01:13.55 ID:oyrpMvNz0
加蓮「柚。学校帰り?」

柚「うんっ。加蓮サンもだよね。もしかしてー、アタシのこと迎えに来てくれたりっ?」

加蓮「…………さて、柚の次のレッスンはマストレさんに……」

柚「無視!? ってマストレサンはやめてーっ。あの人すごく恐いから! 加蓮サンが鬼ならマストレサンは閻魔大王だっ」

加蓮「誰が鬼だ」ムギュ

柚「ごめんなふぁい」

加蓮「……柚って、いつもこの道を通って事務所に行ってんの?」

柚「そだよー。あっちの方! 電車使った方が早いんだけどこの時間はいっつも混んじゃうから、アタシ歩いてるんだ。歩いてもそんなにかかんないしっ」

加蓮「す、すごいね……」

柚「今日はホームルームが早く終わったから、混む前に電車に乗れたんだ。あ、加蓮サンは?」

加蓮「私はこっち」スイ

柚「そうなんだ。じゃあ加蓮サンもいつもここ通ってるの?」

加蓮「うん。会わなかったのが不思議なくらいだね」

213: 2015/11/29(日) 16:01:43.70 ID:oyrpMvNz0
柚「ね、ね。それじゃ一緒に行こうよ! 今日もレッスンだよねっ。アタシ楽しみ! ……ま、マストレサン以外なら」

加蓮「そんなに嫌かー」

加蓮「私、マストレさんのレッスンって受けたことないんだよね。ベテトレさんまで」

柚「そうなんだっ。じゃあ、アタシが加蓮サンの分まで代わりに……代わりに……や、やっぱりやだっ」

加蓮「そんなに?」

柚「うー……加蓮サンがどうしてもって言うなら、やるけどさぁ……」

加蓮「はいはい、分かった。じゃあ、どうしてもって時だけにしとくから」

柚「やたっ」

加蓮「それよりどうなの? 次の曲の振り付け。遅れてるって報告を聞いてるけど?」

柚「うぐ。そ、それは、そのー……あ、あのね。テンション上がるとついミスっちゃうっていうかー、でもテンションあげないとトレーナーサンに面白くないって言われるし、ええと……」

加蓮「よし、マストレさんの指導だね」パラパラ

柚「もうちょっと! もうちょっとだけ時間ください!」

214: 2015/11/29(日) 16:02:13.52 ID:oyrpMvNz0
加蓮「はーい。今日はちょっと無理だけど、明日……うん、明日あたり私も見てあげよっか。営業に出る前の10分だけになるけど」

柚「ホント!? それならできるかも! やっぱりアタシ、加蓮サンに見てもらってる時が一番イイ感じな気がする!」

加蓮「そっか」

柚「そーそー♪」ニヘニヘ

加蓮「…………」

柚「ン? どしたの、加蓮サン」

加蓮「ううん、なんでも」

柚「?? そういえば加蓮サン制服だね!」ツンツン

加蓮「……? そりゃ学校帰りだし……今さら?」ツツカレ

柚「加蓮サンの制服って運が良くないと見られないし。加蓮サンが事務所に来て着替えるまでの間だけ。だから加蓮サンの制服を見れた日は、柚のラッキーデーなんだ♪」

柚「事務所でもずっと制服でいいんだよ? そしたら毎日がラッキーデーだ♪」

加蓮「んー、いや、制服で事務仕事ってホント落ち着かないし、営業に出る時なんかはスーツじゃないと。ごめんね?」

柚「むー。……でもいいや。今、こうやって制服の加蓮サンと歩いてるもんねっ」

215: 2015/11/29(日) 16:02:43.48 ID:oyrpMvNz0
加蓮「それって何か違うの?」

柚「違う違う、ぜんぜん違うよ! いつもは加蓮サン、プロデューサーって感じだもん。でも今は同じ高校生って感じ!」

柚「クラスメイトとかー、部活仲間とか! そんな気がするっ」

柚「それがすっごくいいんだ。なんでか分かんないけど、すごくいい!」

柚「あっでもプロデューサーサンの加蓮サンもすごくいいよ!」

加蓮「ありがとっ。アタシも、なんだかこうしてると柚と一緒に学校の廊下を歩いてる気分になれるよ」

柚「でしょでしょ!」

加蓮「ただ歩いてるだけなのに、不思議だねー」

柚「うんうんっ」

柚「そうだ! 今度さ、アタシの学校の参観日に来ない? 加蓮サンならきっと大丈夫っ」

加蓮「私が行くのー?」

216: 2015/11/29(日) 16:03:13.47 ID:oyrpMvNz0
柚「あ、でも加蓮サンが学校に来たらパニックになっちゃうかも。加蓮サン有名人だしー、こん前テレビにも出てた!」

加蓮「ああ、あれね……。今が旬のプロデューサーに聞く! って。私はいいから柚を特集してって何度言っても聞いてくれないのよね……」

柚「アタシの友達も見たって。会いたいって言ってたよ! ……はっ。もしやアタシのライバルは加蓮サン!?」

加蓮「アタシが?」

柚「ぐ、ぐぬぬ~っ。アタシの方がいっぱい注目されてるもんね! ……たぶん!」

柚「ねねっ、今度、アタシの学校に遊びに来てよ! バド部のみんなも紹介するからっ」テケテケ

柚「だめ?」

加蓮「も~…………時間があったらね……」

柚「やったっ。連絡しとこっ」

217: 2015/11/29(日) 16:03:43.43 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………」ガシ(腕を掴む)

柚「あ、あれ?」

加蓮「あのね……柚もだし、私も忙しいの。だから今連絡されてもすぐには――」

柚「…………」ウルウル

加蓮「……………もぉ………」ガシガシ(頭を掻く)

加蓮「……近い内に時間を取ってあげるから。今すぐっていうのはホントに難しいの。お願い、分かってよ」

柚「……あいあいさー! じゃあアタシ、楽しみにしとくっ」

加蓮「うん。あ……見えて来たよ、プロダクション」

柚「えー、もう?」

加蓮「残念そうだね」

柚「だって、加蓮サンと歩く時間が終わっちゃっうもん。ちょっぴり残念っ」

加蓮「…………」

218: 2015/11/29(日) 16:04:13.98 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……私、基本的にあの時間にあそこを歩いてるから。一緒に歩きたかったら時間を合わせなさい」

柚「! ホント!? いいの!? じゃあアタシっホームルーム終わったらすぐ行く! そんで加蓮サンを待ち伏せするんだっ」

柚「こう、わっ! ってびっくりさせて~、それからそれから……へへっ♪」

加蓮「…………」フウ

219: 2015/11/29(日) 16:04:44.00 ID:oyrpMvNz0
加蓮(にへへにへへと笑い出す挙動不審少女を引っ張りながら、事務所へと入る)

加蓮(スーツに着替えたら、もう学生気分は終わり。ここからの私はプロデューサーだ)


加蓮「じゃ、行ってきます」

柚「行ってらっしゃーい! アタシもレッスン行ってくるねっ」

P「2人とも気をつけるんだぞ。……さて、俺もっと」


……でも、ちょっとだけ。
明日の学校帰りの道が、楽しみになったかもしれない。

220: 2015/11/29(日) 16:05:13.48 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

……。

…………。

221: 2015/11/29(日) 16:05:43.77 ID:oyrpMvNz0
加蓮(柚はいろんなお仕事をしている)

加蓮(本当にいろんなお仕事をしている)

加蓮(誰とでも仲良くなれる人懐っこさと、ちょっと失敗したくらいじゃ引っ込まない笑顔は、どこへ行っても重宝された)

加蓮(たまにレッスンを見に行けば、やっぱりまだ失敗することは多くて目が離せなくなる。でも、同時に大丈夫だと思える信頼もあった)

加蓮(……ただ、1つだけ。どうしても、気になることがあった)

加蓮(これは、私が事務仕事に没頭していて、柚はオフだけど事務所に遊びに来ていた日の出来事)



――12月 事務所――

柚「…………」ジー

加蓮「…………」カタカタ

加蓮「あ、Pさん、メール……こっちのじゃないみたい。そっちで見てもらえる?」

P「おーう。ああ、これ俺のだわ……っと、そういえば加蓮。前に出してきた企画書のチェック終わったぞ」

222: 2015/11/29(日) 16:06:14.59 ID:oyrpMvNz0
加蓮「どうだった? 行けそう?」

P「要確認。大筋はいいけど細かいとこが変になってる」

加蓮「げ、マジ……? 何度も見たのに」

柚「…………」ジー

P「最初はそんなもんさ。修正したらまた見ておくから」

加蓮「もう最初じゃないよ。……難しいなぁ。勉強だけでどうにかなる物じゃないね、これ」

P「実践あるのみだな」

柚「…………」ジー

加蓮「あ、Pさんからの宿題も提出しといたけど、変なとこなかった?」

P「ん、そっちは返信済み……いけね、未送信BOXに入れたまんまだったわ」カチカチ

P「そっちはだいたい問題なかったぞ。もう事務仕事は任せても大丈夫そうだな」


223: 2015/11/29(日) 16:06:43.48 ID:oyrpMvNz0
加蓮「そっか。よかった。でもチェックだけはしてよ? 変な契約とかしたら柚にも迷惑かけるんだし」

P「もちろん。忙しい時でも、それは加蓮を優先するよ」

加蓮「ありがと。……っていうかPさん、相変わらず事務とか営業の仕事しかしないんだね。担当アイドルつけたりしないんだ」

P「俺にとっては今でも加蓮が唯一無二の担当さ」ドヤ

加蓮「私はプロデューサーでーす」

加蓮「Pさんがいつ女の子をスカウトしてくるかなーって、実はちょっぴり楽しみにしてるんだけど」

P「はは。実は加蓮の上司ってのがちょっと楽しくて。今の俺はこれが性に合っているっていうか」

P「上からはいいから誰か担当をつけろってうるさいんだがな」ハハ

加蓮「……言っとくけど柚は渡さないよ?」

P「まだ何も言ってねえ」

P「加蓮はどうなんだ? もしアイドルに……待て、今のはナシだ。大人しくしてろ。いいか、大人しくしてろよ! 余計なこと考えるんじゃないぞ!? 今は自分の身体のことを優先してから――」

加蓮「こっちこそまだ何も言ってないよ」

224: 2015/11/29(日) 16:07:13.48 ID:oyrpMvNz0
P「ああやっぱり加蓮にはここで大人してもらった方がいいか、次の外回りは、」

加蓮「無茶しない範囲で許してくれたのPさんでしょ……。それに今は柚のプロデュースをしたいんだって。アイドルに復帰しようなんて――」


奈緒『それでも! ……アタシも、それに凛もきっと! ずっと加蓮のこと待ってる! 約束だからな!』

柚『じゃあアタシからも約束っ。いつか一緒にアイドルやろっ。そしたら……今も楽しいけど、そしたらもっと楽しいよ!』


加蓮「……復帰するのは……病気がもしも治って、それから柚のプロデュースが終わってから! そんなのずっと先のことだよ……今すぐ復帰したいなんて思ってないから!」

P「はっ。そ、そうか。そうだったな」

加蓮「うん。……でも、いろいろとごめんね?」

P「じゃあ俺はもうしばらく加蓮の上司を続けるかな」

加蓮「お願いします、Pさん」

P「おうよ」

225: 2015/11/29(日) 16:07:43.57 ID:oyrpMvNz0
加蓮「でも私に気なんて遣わなくていいんだよ? 私のことなんて放っといて、誰か担当してあげたら?」

P「気なんて遣ってねえよ。加蓮っぽく言うなら、今は加蓮の上司をしていたいんだ」

P「ぶっちゃけ俺は、加蓮は今のままいてほしいと思う。前より安心して見ていられるからな」

加蓮「そっか」

P「あ、でも、もしも……ってことがあったら相談してくれよ? いやできればあってほしくないんだが……でもなぁ……」

加蓮「はーいっ。なんたって上司だもんね。報連相は会社の基本!」

P「いやそうじゃなくてだな……まあ、いっか」

柚「…………」ジー

加蓮「…………」カタカタ

加蓮「……? 柚? どしたの? ドーナツじーって見て。いらないなら私もらうよ?」

柚「うーん……あんまりいらないカモ。加蓮サン、あげる」

加蓮「ありがとー」ヨイショ

226: 2015/11/29(日) 16:08:13.45 ID:oyrpMvNz0
加蓮「よっと」スワル

加蓮「あむあむ……あっまぁ……」

柚「じゃーアタシがコーヒー淹れてあげるっ」

加蓮「あはは、ごめん。さっき飲んじゃったから」

柚「えー」

加蓮「珍しいね、柚がお菓子に食いつかないなんて。なんか先週までずっとドーナツばっかり買ってきてたのに。飽きた?」

柚「飽きたっていうか……最近、連絡してないなーって」

加蓮「連絡?」

柚「法子チャンと拓海サン」

加蓮「えーっと……あー、前のドリフェスで一緒になった2人だよね」

柚「フェス終わったら遊びに行こーって言ってたんだけどさ。なんだか、いいやってなっちゃって」

加蓮「柚は飽きっぽいもんね。あ、ドーナツごちそうさま」

柚「…………」

227: 2015/11/29(日) 16:08:43.57 ID:oyrpMvNz0
加蓮「あ、そうだ柚。次のドリフェスにも出てほしいってオファーあったけど、どうする?」

柚「……出たいっ」

加蓮「オッケー。ユニットは……別、でいいんだよね?」

柚「うん」

加蓮「じゃあ向こうに任せちゃおう。誰と当たるか今から楽しみだね」

柚「……うん」

P「最近はドリフェスとかツアーイベントとかで作った即席ユニットが流行りだすってこと増えだしたよなぁ……」カタカタ

加蓮「ちょ、Pさん――」

柚「アタシもそうした方がいい? そうした方が加蓮サン安心できる……?」

加蓮「…………」ギロ

P「……すまん」

228: 2015/11/29(日) 16:09:13.36 ID:oyrpMvNz0


加蓮(……柚について、気になっていることが1つ)

加蓮(柚が入ったユニットは、どうも長続きしない)

加蓮(初めて参加したドリフェスの時の、裕美ちゃんと真奈美さんもそうだった。もうぜんぜん連絡を取っていないらしい)


加蓮「……大丈夫。柚のやりたいようにやろう。ほら、合わない相手だっているじゃん。無理矢理に合わせようとしても柚が疲れちゃうだけだよ」

柚「そっかなー……でも、アタシ」

加蓮「私のことなら気にしないで。ソロのお仕事だって即席ユニットのお仕事だって、選べるくらいにはなってるんだから」

柚「そなの?」

加蓮「うんうん。いろんな人が柚に、企画とか番組とかLIVEとかに参加してほしいって言ってるの」

加蓮「柚がやりたくないって思ったら、やらなくても大丈夫なんだよ」

柚「……そっか」

229: 2015/11/29(日) 16:09:43.36 ID:oyrpMvNz0
加蓮「あ、でも柚のやりたいことがあったら言ってね。そっちに営業かけてみるから」

柚「はーい」

加蓮「…………」


加蓮(柚の成長は早い。柚自身も、柚への評価のことも)

加蓮(もっとステップアップを目指すなら、そろそろ固定的なユニットが欲しいのは間違いない。……って、まあこれはPさんに教えてもらったことなんだけど)

加蓮(私も……柚にできることを増やす、活躍の幅を広める、どっちの意味でもユニットは欲しいと思う)

加蓮(でも、本人がこれだもん。……様子見、かな)


加蓮「さて、と。Pさん。今できる書類はだいたい片付いたよ。そっちにメールも送ってるし……送らないといけないのはこっちにまとめてるから」

P「うーっす。事務仕事も早くなったなー。俺のもやってくれよー加蓮」

加蓮「ごめん、柚のことで手一杯だから」

P「マジかー」

230: 2015/11/29(日) 16:10:13.50 ID:oyrpMvNz0
加蓮「だいたい私が残業するとか残って手伝うって言ったらすごい勢いで家に帰れって言うじゃん」

P「そりゃそうだろ。お前、夜になったらしんどそうになってるし、外に出た日には昼でへばってるじゃねえか」

加蓮「でしょ? さーて、次はっと――」

柚「ねね、加蓮サン加蓮サン。今忙しい?」

加蓮「え? ううん、一段落したとこ」

柚「じゃあさ、アタシと遊ぼっ。バトミントン……は加蓮サンできないんだっけ。うーん……ちょっとだけでも、駄目?」

加蓮「……ごめん、運動全般はホントに駄目なの」

柚「そういえばアタシ加蓮サンが走ってるとこ見たことないっ。いっつも早歩きだよね」

加蓮「そーゆーこと」

231: 2015/11/29(日) 16:10:43.30 ID:oyrpMvNz0
柚「……それでもいいやっ。ちょっと遊ぼーよ! ねね、いいでしょ。ねーっ」グイグイ

加蓮「わ、もうっ……ごめんPさん。ちょっと行ってくるね」

P「お、おう。くれぐれも無理な――」

加蓮「分かってるってば」

柚「ささっ、行こ行こ! アタシ加蓮サンと一緒にできる遊び思いついたんだ!」

加蓮「分かったから、分かったから引っ張らないでよっ」

<バタン!
<スタスタ...

P「さーて、今日も俺は残業ですよーっと」

232: 2015/11/29(日) 16:11:13.64 ID:oyrpMvNz0
――近所の公園――

柚「いくぞぉ、柚スマーッシュ!」ポコン

加蓮「よっ」キャッチ

柚「加蓮サンうまいっ」テテッ

加蓮「はい」つシャトル

柚「アリガト! よっと」テテッ

柚「第二弾~、柚アターック!」ポコン

加蓮「わ」トリソコネ

柚「加蓮サン、ヘタクソだぞーっ」テテッ

加蓮「ごめんごめん」つシャトル

柚「次こそ柚のショット、しっかり受け止めてよね、加蓮サン!」

233: 2015/11/29(日) 16:11:43.38 ID:oyrpMvNz0
柚「えいやっ」ポコッ

加蓮「お」キャッチ

柚「やたっ」テテッ

加蓮「いいとこ打つじゃん」つシャトル

柚「練習の成果だねっ!」テテッ

柚「じゃー次はー! ひねりも入れて、とりゃー!」ポコン

加蓮「よっと」キャッチ

柚「へへっ」テテッ

加蓮「…………」つシャトル

柚「いっくぞぉ!」テテッ

加蓮「…………」

234: 2015/11/29(日) 16:12:13.49 ID:oyrpMvNz0
何をしているかというと。

1.柚が私の立っている場所にゆるめのショットを打ちます(気合の入れた声を出していますがショットは緩いです)
2.私がそれを取ります(たまに取りこぼします)
3.柚がこっちまで駆けてきます
4.私がシャトルを渡します
5.受け取った柚が元の場所に戻ります
(1に戻ります)

…………まるで自分で骨を投げて自分で取りに行く犬だ。や、確かに柚ってどこか犬っぽいけどね。


柚「えいやっ」スカッ

柚「あ、あれっ」

柚「もっかい! とりゃー」ポコッ

加蓮「ん」キャッチ

柚「さっすが加蓮サン!」テテッ

加蓮「…………」ジー

235: 2015/11/29(日) 16:12:43.67 ID:oyrpMvNz0
加蓮「あ、柚。そこでストップ」

柚「え?」

加蓮「……せーのっ」フリカブリ


加蓮(キャッチしたシャトルを投げてみた)

加蓮(5歩の距離が空いていた柚の少し前に、ぽてっ、と落ちた)


加蓮「…………」

柚「…………」

加蓮「…………」

柚「…………」

加蓮「…………実はアタシ、箸より重たい物を持ったことがないんです」

柚「えーっ!? いつも書類とか持ってるじゃん!」

236: 2015/11/29(日) 16:13:13.38 ID:oyrpMvNz0
柚「よいしょ」ヒロイ

加蓮「あっはは……今ちょっと泣きそう」

加蓮「あっはっはー……」

柚「じゃあアタシが頭を撫でてあげるっ」

加蓮「え、ちょっといいってば」

柚「いいからいいから。加蓮サン加蓮サン、元気になれ~」ナデナデ

加蓮「わ、もう……アタシは子供かっ」

柚「そんなんじゃ、アイドルとしてやっていけないぞ~?」

加蓮「…………」

柚「加蓮サンは、病気を治して、そんでアタシとアイドルやるんでしょ? 失敗しただけで泣いてたら笑われちゃうっ。それでも頑張らなきゃっ。その時には、アタシがついててあげるから」

加蓮「…………柚……」

237: 2015/11/29(日) 16:13:43.50 ID:oyrpMvNz0
柚「もし治ったらって加蓮サン言ったけど、そーじゃなくてさっ」

柚「治そうよ! 病気! 頑張って治して、一緒にステージに立と!」

加蓮「あはは……無茶言うなぁ。できたら苦労しないよ」

柚「できるよ! アタシも手伝うもんっ。アタシと加蓮サンなら何だってできる♪ でしょ?」

柚「アタシがアイドルできたんだから、加蓮サンが病気を治すのだってできるハズ!」

柚「それに、奇跡を待ってるだけなんて加蓮サンらしくないよ。加蓮サンだったらきっとこう言うよね」

柚「奇跡は起こすもの!」

柚「ってさ!」

加蓮「…………」

柚「でさ、病気が治った時……じゃなかった、治した時に体力がからっぽだったら、加蓮サン困っちゃうっ」

柚「だから、今のうちに元気になって体力をつけるのだ~」

238: 2015/11/29(日) 16:14:13.48 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……そうだね。体力がないままじゃ、柚にも迷惑かけるもんね」

柚「何がいいかな。キャッチボールとか? ちょっと男の子っぽいっかっ」

柚「あっそうだ、アタシあれやってみたいな! こう、えいやーって投げるヤツ! LIVEでやりたい!」

加蓮「へ?」

柚「何投げよー。ブーケ……は花嫁サンだよね。きゃっ、結婚なんて柚には早いよ!」

加蓮「……いや、アンタさっきまで私の体力の話してたのに、今度は柚のLIVEの話?」

柚「シャトル投げちゃおっかな。ほら、柚のサインをつけたりして!」

柚「プレミアになったりして~? くふふくふふ、そういうのいいっ、すごくいいよっ」

加蓮「ふふっ。いいかもね」

柚「じゃーサインを書く練習だ! 加蓮サン帰ろっ。こう、しゅしゅしゅ~って綺麗に書くのやってみたくてっ」

加蓮「ここに来たばっかりなのに?」

柚「もっとやりたいことを見つけちゃったから! ねっ」

239: 2015/11/29(日) 16:14:43.44 ID:oyrpMvNz0
柚「あ、でも加蓮サンは走っちゃ駄目だからゆっくり歩かなきゃ」

柚「……走れないと、アイドルなれないよ?」

加蓮「あれ、話戻すんだ。回復したら走れるようになるから……」

柚「じゃーやっぱり病気を治すのが先だね!」

加蓮「そうだね。なんか柚と一緒にいると、どんな無理なことでもできそうな気がしてくるから恐いよ……」

柚「こわくないこわくないっ」

柚「加蓮サンとの約束、アタシは忘れてないからね! アタシの隣には加蓮サンがいるんだっ。今はアイドルとプロデューサーサンだけだけど、アイドルとアイドルとしても隣にいてほしいな♪」

加蓮「…………そっか」

柚「うんっ」

加蓮「そっか」

柚「うんうんっ」

240: 2015/11/29(日) 16:15:13.46 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

……。

…………。

241: 2015/11/29(日) 16:15:43.56 ID:oyrpMvNz0
加蓮(それからまた、月日が流れる)

加蓮(「バラエティに面白みが足りないと感じたら喜多見柚にオファーをかけろ」。柚にはそんな評判がついてまわるようになった)

加蓮(単に笑わせるだけじゃない。意表を突いてくることがとても多い)

加蓮(特に、細かい動きが台本で指定されていないシーンでは多くの人が柚に驚かされる。私も含めて)

加蓮(これは、そんなことがよく感じられる一幕)



――1月 イタリアンチャレンジクッキング・撮影現場――

<……カット! では少し休憩でー!

柚「はいはーいっ」テケテケ

柚「加蓮サン加蓮サンっ」

加蓮「お疲れ、柚。……真っ先に私のとこに来て大丈夫なの? 他のみんなは……」

柚「だいじょーぶだいじょーぶ! 今んとこ順調!」

242: 2015/11/29(日) 16:16:13.26 ID:oyrpMvNz0
柚「あとはー、面白いコメントができるか! へへっ、審査員役って大変だ!」

加蓮「とか言ってすっごく楽しそうだねっ」

柚「バレた? でも他の役もおもしろそうだよねっ。つぎはどの役がイイかなー。やっぱMC? 狙うならMCっきゃないよね!」

柚「ねね、「喜多見柚のチャレンジクッキング」とかどお? いろんなゲストを呼んでいろんな料理を食べさせてもらうんだっ」

加蓮「ふふっ、それも面白そう。今度また考えてみよっか」


加蓮(今回は、色々なアイドルが集まって料理を披露するクッキング番組)

加蓮(練習の段階からカメラが入っていた。その間、審査員役の柚には出番はなかった筈だけど)

加蓮(そこはさすが柚。あっという間に初対面のアイドル達と仲良くなって、あの手この手で盛り上げていた)

加蓮(今日はいよいよ、料理のお披露目、それから柚が審査員役として活躍する、収録最終日)

243: 2015/11/29(日) 16:16:43.56 ID:oyrpMvNz0

柚「やたっ。……あ、でもそのー、アタシはチャレンジクッキングっていうより達人クッキングとかの方がいいカモ……」

加蓮「そのこころは?」

柚「……えとっ」

柚「…………あのね」

柚「………………甘くない飴とか、ある? 加蓮サンがよく舐めてるやつっ」ヒソヒソ

加蓮「…………」ピト

柚「熱なんてないよ!? そうじゃなくて、その、えっとぉ……」チラ

柚「……(小声)ありすチャンのイチゴづくしでそろそろ胸焼けしちゃいそう」

加蓮「ああ、うん……あれはね、うん……。頑張れ柚……」

加蓮「飴、あったかなー……」ガサゴソ

加蓮「はい。ハッカ味の飴でいい?」

柚「ハッカ?」

加蓮「ハッカ」

244: 2015/11/29(日) 16:17:13.67 ID:oyrpMvNz0
柚「そっかー、ハッカかー」

加蓮「……?」

柚「ハッカって言えばアタシ今……あっ、これナイショのお話だった! なんでもないっなんでもないっ」

加蓮「……?? ええと、ここはなんでもないって言われたら余計に気になるから吐けって言えばいいの?」

柚「だめーっ。ほ、ホントにナイショなの! 特に加蓮サンにはナイショだって言われててっ」

加蓮「言われてて?」

柚「あっ」

加蓮「ってことは大元はPさんあたりか」

柚「だ、だめっ、ホントだめっ。ね、ね! その、あっ、いつか教えてあげるからっ」

柚「ほらっ、加蓮サンだって前は柚に秘密にしてたんだから、その、アイドルのこととかっ。だから、ね! これでおあいこってことでっ」

加蓮「それ言われると弱いなぁ……。変なことじゃないんだよね?」

柚「それはもちろんっ」

245: 2015/11/29(日) 16:17:43.53 ID:oyrpMvNz0
加蓮「じゃあ、いつか教えてくれるのを楽しみにしとくね」

柚「うん、うんっ」

加蓮「変なの。……はい、飴。あ、だいぶキツイ味だけど大丈夫? でもこれしかなくて」

柚「だいじょーぶ。ありがとね加蓮サン。えいっ」パク

柚「……~~~~~~~!!!??」ジタバタ

加蓮「あー」

柚「ケホッ……へ、へいきっ。また加蓮サンとお揃いが1つ増えたっ」

加蓮「お揃いが好きだよね、柚」

柚「こーしたら一心同体って感じがして! えへへっ」

加蓮「……じゃあ今度は柚の好きな飴を教えてよ。それを食べたら、またお揃いでしょ?」

柚「やたっ。今度持ってくるねっ。でも今はお仕事のお話だ♪」

柚「えと、どお? こんな感じでいい?」

246: 2015/11/29(日) 16:18:13.58 ID:oyrpMvNz0
加蓮「柚」

柚「はいっ」

加蓮「柚がやりたいようにやってる限り、駄目なんて絶対言わないってば」

柚「そっかー」

加蓮「うん。だいたい遠慮なんてしてたら他の共演者に注目持ってかれるよ? 地味だって思われちゃうよ?」

柚「それはヤダ! じゃあ、後半からはもっとアタシの本気だっ」

加蓮「うんうん」

柚「後半はいよいよみんなの料理のお披露目だ♪ 前半は練習ばっかで、アタシ味見役とかアドバイス役とかばっかで退屈だったから、楽しみ!」

加蓮「柚の本領発揮だね」

柚「でもアタシはあまあまじゃないからねっ。ビシっと行っちゃうよ! ビシっと!」

加蓮「…………ぷっ」

247: 2015/11/29(日) 16:18:43.44 ID:oyrpMvNz0
柚「あー! 笑ったな! 加蓮サンアタシのこと笑った!」

加蓮「いや、柚がびしっとって……ぷぷっ……ぷぷぷっ…………」

柚「まだ笑う! こうなったら目にもの見せてやるっ。しっかりアタシを見といてね! 今日の柚はひと味違うよ!」

248: 2015/11/29(日) 16:19:13.55 ID:oyrpMvNz0
――撮影中――

「さあ、ここで審査員役の柚さんが一口! これまたインパクトの凄まじい料理ですが、どのようなコメントが飛び出てくるんでしょうか!!」

ついちごパスタ

柚「…………」パク

橘ありす「…………」ドキドキ

柚「……ありすチャン」

ありす「!」

柚「実は最初から思ってたんだ。イタリアンにイチゴを持ってくるってどーゆーことなのって」

ありす「…………」ウツムキ

柚「エト……これでいいって思ってたの? 変だって思わなかったの?」

ありす「…………」プルプル

249: 2015/11/29(日) 16:19:43.59 ID:oyrpMvNz0

<ザワザワ
<ザワザワ
<え、これまずいんじゃ……?
<カメラどうする? 一旦止めるか?

柚「…………」パク

ありす「あの…………柚さん。私は――」

柚「そういえばありすチャン、橘サンって呼んでって何度も言ってたよね。じゃあ――橘サン」

ありす「!」ビクッ

柚「…………」パク


柚「――合格っ! これ、すっごく面白い! 食べたことない味がする!」


ありす「!!」

<ザワザワ
<ザワザワ

柚「へへっ♪ えとねっ、琴歌サンの綺麗で美味しい料理もゆっきーのパワフル料理もいいけどっ、こーいうのもアリだと思う!」

250: 2015/11/29(日) 16:20:13.43 ID:oyrpMvNz0
柚「だから合格っ! ありすチャ……橘サンには、イチゴ特別賞を進呈だっ♪」

ありす「柚さん……! あ、あのっ……」ナミダヌグイ

ありす「私のこと……ありす、でいいです……その、もっと感想、聞かせてください!」

柚「いーよっ! あ、そうだありすチャンも一緒に食べよう! 琴歌サンもゆっきーも! そうだ、今からはみんなで食べるコーナーっ! 料理をした後は、こうやって盛り上がらないとね!」

ありす「……はい!」

251: 2015/11/29(日) 16:20:43.40 ID:oyrpMvNz0
――帰り道――

加蓮「おい」

柚「な、なにカナ~?」

加蓮「さっきの。最後の。何」

柚「え、ええっとぉ……えとね、あれは加蓮サンのマネ!」

加蓮「はあ!?」

柚「びしってやってやろー! って思ったら、加蓮サンの顔が出てきて、そんでマネしてみた!」

柚「あっ、違うよ。思いつかないから加蓮サンのマネしたんじゃなくて、アタシが加蓮サンのマネをしてみたいって思ったんだ!」

柚「ちゃーんと、やりたいようにやったよ、アタシ!」

加蓮「私の……真似? あのできそこないのツンデレみたいなのが……?」

柚「加蓮サンって厳しくてあまあまだよね、柚に。アタシそーゆーとこ好きだよ! なんかいろんな味があってお得って感じ!」

柚「あ、でも最近の加蓮サンはまろやかになったかも。ホントにシチューになったみたい!」

加蓮「…………」

252: 2015/11/29(日) 16:22:13.50 ID:oyrpMvNz0
加蓮「で、その結果があのできそこないのツンデレって訳?」

柚「できそこないって言うな~。ありすチャンだって喜んでくれたし、あの後スタッフサンも美味しそうにみんなの料理食べてたし!」

柚「番組盛り上がったからいいでしょ~?」スリスリ

加蓮「じゃれついてくんなっ」グイ

柚「きゃうっ」

加蓮「……ま、いっか。柚の言う通り、盛り上がったのはホントなんだし……」

加蓮「あ、そうだ。私の側にいたディレクターさんがびっくりしてたよ。ああいうこともできるのかって褒めてた」

加蓮「それまで練習の時とか他の料理の時とか、柚が褒めっぱなしだったからだろうね」

柚「でしょー! でしょー!」

加蓮「ふふっ。文句ばっか言っても始まらないよね。じゃあ、さすが柚ってことで終わりにしよっかっ」

柚「やったー!」

加蓮「ふふっ」

253: 2015/11/29(日) 16:22:45.61 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………で、さ」


ありす「…………♪」ギュー


加蓮「反対側になんかひっついてきてんだけどこれどうすんの?」

柚「あ、あははっ。なんだかありすチャンに懐かれちゃった。これで柚もお姉サン?」

加蓮「なんかこのままうちの事務所についてくる勢いなんだけど……。あ、えっと、ありすちゃんだっけ。そっちの事務所には――」

ありす「橘、です。橘と呼んでください」キリッ

加蓮「え、あ、うん。ごめん。じゃあ橘さん……。いやあの、事務所――」

ありす「プロデューサーさんとはもうお話しました。今日の収録のこととか……アイドルのこととか、学校のお話とか」

ありす「詳しいことは、今日は疲れているだろうからまた明日って。気遣わなくてもいいのに……」

ありす「それに、柚さんともっとお話したいって言ったら、笑って許してくれて」

ありす「だから……今日は、いいかなって」ギュ

柚「へへっ♪ そゆことー」

加蓮「そ、そう」

254: 2015/11/29(日) 16:23:13.92 ID:oyrpMvNz0
柚「じゃーこのまま打ち上げだー! 番組終わったし、みんなで打ち上げしよう! おーい、琴歌サンもゆっきーも一緒に行こーっ」

<そうですわね。P様もご一緒しませんか?
<お、いいねいいねー! ひと仕事終わった後のアレ、いっちゃおっか!

柚「加蓮サン加蓮サン、会場どこにする? あっちの事務所にしちゃおっか。ドンチャン騒いじゃおーっ!」

加蓮「……うん。そうだね。騒いじゃおっか」

柚「あっ、もしかして加蓮サンお疲れっ? 無理しない方がいいのカナ……」

加蓮「ふふっ。まだ大丈夫だよ。たまには、こういうのもいいでしょっ」

柚「だよねだよね! ささ、レッツゴー!」タタッ

ありす「あ、待ってください柚さん!」タタッ

<打ち上げそっちの事務所でいいー?
<あたし達の事務所? いいよー!
<楽しくなりそうですわ。晩ご飯はどうしましょうか?
<Pさんに連絡しておかなきゃ……、……Pさんも、誘ったら来てくれるかな……?

加蓮「…………」

255: 2015/11/29(日) 16:23:43.69 ID:oyrpMvNz0
加蓮(……楽しそうにしていても、時が経てばまた疎遠になるのかもしれない)

加蓮(それとも、今度こそここが柚の居場所になるのだろうか)

加蓮(少しだけ胸につっかえる物を感じつつも、私も早歩きでみんなの中に混ざることにした)

256: 2015/11/29(日) 16:24:13.44 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

……。

…………。