257: 2015/11/29(日) 16:24:43.74 ID:oyrpMvNz0
――3月 にぎやかな喫茶店――

加蓮「…………」ズズ

加蓮「…………」ボー

加蓮「…………」パラパラ

加蓮「…………」チラ

<カランコロン

<いらっしゃいませー
<あの、待ち合わせをしていて……ええと……
<あっ、見つかりました。ありがとうございます

加蓮「…………」

<テクテク

「北条さん、ですよね。待たせてしまいすみません」

加蓮「ううん。こっちの方が早く来すぎただけだし……」

<ご注文は?

加蓮「えっと……何飲む?」

「では、コーヒーで」ペコリ

<かしこまりましたー


アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(5) (電撃コミックスEX)
258: 2015/11/29(日) 16:25:13.66 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………コーヒー、よく飲むんだ」

「はい。あっ……改めて、初めまして」

綾瀬穂乃香「綾瀬穂乃香。アイドルです」

加蓮「北条加蓮。プロデューサーです」

穂乃香「…………」

加蓮「…………」

加蓮(か、堅苦しい…………)


加蓮(春の始まりの頃、柚にまた新しいユニットの提案が持ちかけられた)

加蓮(別の部署で既に設立されているユニットに柚が追加加入するという、ちょっと珍しいパターン)

加蓮(と言っても、Pさん曰くたまにあることらしいけど)


加蓮「そっちのプロデューサーさんは? 打ち合わせだって聞いてきたんだけど……」

穂乃香「フリルドP(以下「フリP」)さん、いえプロデューサーさんは今日どうしても多忙で……できるところまで話を聞いてくるようにと言われました」

加蓮「あれ、そうなんだ……」

259: 2015/11/29(日) 16:25:43.55 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「大丈夫です。こう見えても、セルフプロデュースの心得は持っています」

加蓮「え? そうなの?」

穂乃香「はい。まだまだ半人前ですが……少しでも頼りにされたくて」

加蓮「へー……じゃああなた相手でいいかな。えっと……穂乃香……さん?」

穂乃香「はい。穂乃香です」

加蓮「…………」

穂乃香「…………?」

加蓮「…………」

穂乃香「…………私は穂乃香ですが……」キョトン

加蓮「い、いや、ええと……」

<コーヒー、お待ちしました

穂乃香「ありがとうございます。いただきます」パン

穂乃香「……♪」ズズ

加蓮(…………やり辛い……!)

260: 2015/11/29(日) 16:26:13.52 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「ふう……」コトン

穂乃香「私、こういった打ち合わせの前には、いつもコーヒーを飲むようにしているんです。そうすると少し、大人になれる気がして……」

加蓮「へ、へー。私も今度、試してみよっかな」

穂乃香「頭の切り替えは大事です。では、打ち合わせを始めましょう。今日はフリルドスクエアのことですよね」

加蓮「うん。うちの柚が入るってことになるけど……もう会ってるんだったっけ?」

穂乃香「最近はよく一緒に遊ぶようになりました。私、いつも柚ちゃんから色々なことを学ばせてもらってます。ユニットのことは、私にとってもとてもいい機会です」

穂乃香「だからよろしくお願いします、プロデューサーさん」ペコリ

加蓮「よ、よろしくお願いします……」

261: 2015/11/29(日) 16:26:43.49 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………」

穂乃香「…………?」

加蓮「…………」

穂乃香「…………それとも、加蓮さん、と呼んだ方が?」

加蓮「え……あ、ああ、ううん、どっちでもいいよ。って私の方が年下なんだし、そんな畏まらなくてもいいし……」

穂乃香「それなら……加蓮ちゃん、で」

加蓮「うん、それで。……あはは、でもなんかこそばゆいね……」

穂乃香「加蓮さ……加蓮ちゃんの方が年下なんですね。私、てっきり……柚ちゃんの話を聞いていた時も、噂を聞いた時も、もっと大人の方なのかと」

加蓮「え、噂?」

穂乃香「はい。色々なスタッフさんから、とてもしっかりした方だと聞いています。私も……噂を聞く度に見習わなければと思うのですが、なかなか難しいですね」

穂乃香「あ、失礼しました。話が逸れてしまって……では、打ち合わせをやりましょう」

加蓮「う、うん」

262: 2015/11/29(日) 16:27:13.49 ID:oyrpMvNz0
加蓮「と言ってもとりあえず今日は顔見せくらいで、あーっと、次のLIVEの話くらいはしておきたいんだけど……いい、……です、か?」

穂乃香「はい。よろしくお願いしますね……あっ、そんなに堅苦しくならなくても……」

加蓮(私より数倍堅苦しい人が何を言う……!)

穂乃香「加蓮ちゃんのことは、柚ちゃんからよく聞いていますから……」

加蓮「そういえばあの子、私のことなんて言ってた?」

穂乃香「面白いプロデューサーさんだって……ふふっ、いつも一緒にいて楽しいって言っていました」

穂乃香「だから、今日は会うのが楽しみで。できれば、柚ちゃんに接するみたいにしてくれた方が……」

穂乃香「是非お願いします。せっかくですから、楽しんでやりましょう!」

加蓮「…………そ、そだねー……んっと……じゃ、まあ、頑張ってやってみる……」


加蓮(ちょっと意外だった。楽しんでやる、なんて言葉が出てくるのが)

263: 2015/11/29(日) 16:27:43.58 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「ふふ。それで、LIVEのお話です。私と忍ちゃんのユニットに、柚ちゃんが加わるんですよね……今からすっごく楽しみです!」

加蓮「うん。えーと、次のイベントの時。柚のユニットデビューってことで主役にさせてもらってるけど……」

加蓮「そっちがどういうLIVEにするつもりかをまずは聞きたいかな」

穂乃香「そうですね。せっかく柚ちゃんが加わるのですから、今までよりもっと楽しく……楽しいことを伝えられる舞台……にしたいですね」

加蓮「ああ、柚が好きそーなことだ」

穂乃香「やっぱり……。柚ちゃん、いつも場を楽しませようとしてくれてて。でも一番楽しそうなのも柚ちゃんなんです」

加蓮「分かる分かる。バラエティ分野なんかもう仕事が向こうから来る状態でさっ」

穂乃香「テレビでよく見ます。とても参考になるので、つい録画して何度も見返しちゃって」

加蓮「さ、参考に? え、あの、ちょっと失礼だけど柚と穂乃香さんじゃタイプが真逆じゃないかな……?」

穂乃香「いえ。場を盛り上げる方法は、柚ちゃんが私の先生です」

加蓮「先生!?」

264: 2015/11/29(日) 16:28:13.78 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「私、よく現場で真面目過ぎるって言われるんです。フリPさ……プロデューサーさんからも、もっと楽しんでいいって」

穂乃香「もっとアイドルらしく、楽しさを伝えられればって。だから柚ちゃんは、私にとって先生……」

加蓮「そ、そう……」

穂乃香「あ……すみません。ちょっとしゃべりすぎちゃいましたね。今日は、あくまで打ち合わせ……」

加蓮「そ、そだね。じゃあ仕切り直しで……って言っても、これ柚をそのまま放り込んでもいいっぽいね」

穂乃香「そんな。柚ちゃんはネコじゃないんですから」

加蓮「……へ?」

穂乃香「放り込む、なんて」

加蓮「あ……あは、あはは。物の例えよ物の例え。ホントに放り投げる訳ないじゃん」

穂乃香「そうだったんですか? よかった」ホッ

加蓮「……………………」コメカミオサエ

265: 2015/11/29(日) 16:28:44.21 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……じゃあ……柚にはいつも通りにって伝えとくね……」

穂乃香「はい。私の方こそ、ついていけるように精進しなければ……」

穂乃香「よければ本番までに、レッスンの機会を頂けませんか? まだまだ、柚ちゃんに学べることはいっぱいある筈です」

加蓮「う、うん。うちの柚にもいい刺激になると思うよ……」

加蓮「じゃあスケジュールの調節を……あ、そっか、次の収録日が未定なんだった……ごめん穂乃香さん。連絡先もらっていい? こっちちょっとスケジュールがつまっちゃって、いいとこ見つけたら連絡するから」

穂乃香「はい」スッ

加蓮「ん……」

加蓮「よしっと。んー……他に打ち合わせできることは」


加蓮(手帳をパラパラとめくる。……どれもこれも、柚を連れて来て話した方が良さそうなことばかりだ。ちょっと後悔)

266: 2015/11/29(日) 16:29:13.46 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ステージ衣装……はまだ用意できていないんだっけ。舞台構成……はそっちに任せるって決めてるし、レッスンスタジオの確保はスケジュールが上がってからか」

加蓮「どれも事務所でやった方がよさそうな話だなぁ……。あとは……」

穂乃香「…………」クスッ

加蓮「……? どうかした?」

穂乃香「あ、いえ、ごめんなさい」

加蓮「……?」

穂乃香「ただ……セルフプロデュースをやっていると、どうしても色々な人を見ることになりますから……あなたとなら、良い仕事ができそうだな、と思いまして」

加蓮「そ、そう? ありがと……」

穂乃香「今日は親睦だけで、と考えていた私が少しだけ恥ずかしい……。もっと用意するべきでした」

加蓮「いやぁ……今日もその、事務所を出る前にPさん……えっと、私の上司からね? 準備しすぎだって笑われちゃって」アハハ

267: 2015/11/29(日) 16:29:43.54 ID:oyrpMvNz0
加蓮「顔合わせなんだからもっと気軽にでいいだろーっ、なんて言われちゃってさっ」

穂乃香「ふふっ。ではせっかくですから、もう少し打ち合わせをしましょう。Pさ……プロデューサーさんから舞台の構成は任されているんです。あとは、柚ちゃんの動きを合わせれば……」

加蓮「だいたいの下地ができる、か。立ち位置が分かってればレッスンもやりやすいね」

加蓮「じゃあちょっと、考えてる構成って教えてくれる?」

穂乃香「はい。まだ合わせていないのであくまで仮定ですが……まず入りは――」

加蓮「ふんふん――」

268: 2015/11/29(日) 16:30:13.54 ID:oyrpMvNz0
加蓮(穂乃香さんから想定していた構成を聞いた。もうそのまま通してもいいくらいに練りこまれていて、正直びっくりした)


穂乃香「やっぱり……加蓮ちゃんとなら良い仕事ができそうです!」

穂乃香「……あっ、すみません。その、つい感心してしまって……」

加蓮「ううん、こっちこそ。まだ柚とレッスンもやってないんでしょ? なのに柚が入った時の想定がこんなにできてるなんて」

穂乃香「あくまで想像ですから……やってみたら、上手くできなくなるかも」

加蓮「できると思うけどなー」

加蓮「…………」

加蓮「ね、ちょっと聞いてもいい?」

穂乃香「……? はい」

加蓮「セルフプロデュース、してるんだよね。それってどんな感じ? やっぱり……大変?」

穂乃香「どうなんでしょうか……あんまり大変だとは。自分で自分を表現する為に、必要なことだと思っています」

加蓮「自分で自分を?」

269: 2015/11/29(日) 16:30:43.51 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「もちろん、プロデューサーさんに委ねるのも悪くはありません。プロデューサーさんからは、いっぱいのものを受け取りました」

穂乃香「私みたいな者がアイドルをやれているのは、すべてプロデューサーさんのお陰です」

穂乃香「だからこそ、そんなプロデューサーさんの役に立たなければ……そう、思って」

穂乃香「それにアイドルとして、自力でどこまで表現できるか試してみたいんです」

穂乃香「セルフプロデュースは、その為にやっているんです」

加蓮「なるほど……」

穂乃香「行けるところまで行く為のことや、やらなければならないことをやる為のことを、大変だと思うことはあまりありません」

穂乃香「……でも、周りからはよく、もっと肩の力を抜けって言われてしまいますが」

加蓮「それは分かるなぁ」

270: 2015/11/29(日) 16:31:13.56 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「加蓮ちゃんもそう思いますか? 実は、柚ちゃんからもよく言われるんです。……ごほんっ」

加蓮「?」

穂乃香「『もっとやわらか~く行こうっ、穂乃香チャン!』……どうですか? 似ていましたかっ?」ワクワク

加蓮「…………穂乃香さん」

加蓮「モノマネは、真顔でする物じゃないと思う…………」

穂乃香「そうですか……私も、まだまだですね」クスッ

加蓮「……………………い、言い方は、似てた……よ……?」ヒクヒク

穂乃香「よかった」フフッ

穂乃香「セルフプロデュースのことなら教えられる範囲で教えます。もしかして柚ちゃんに……?」

加蓮「あー……あ、あはは、ちょっと違って。その、アイドル視点とプロデュース視点で考えたら何か見えてくるかなーって、あははっ、そんな感じ!」

穂乃香「なるほど……。加蓮ちゃんも勉強家なんですね」

加蓮「やめてよっ。努力するのとかそんなに好きじゃないし……」

271: 2015/11/29(日) 16:31:43.92 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「よろしければまた、こうしてお話しませんか? 私、あなたから色々と学びたいから……ご迷惑でなければ」

加蓮「それはぜんぜんいーけど。じゃあ、また次の打ち合わせの時にでも」

穂乃香「はい。あっ、もうこんな時間……。30分後にレッスンがあるんです。今日は、失礼します」

加蓮「あー、ごめんね長々と。また柚も合わせて話しあおっか」

穂乃香「はい、また是非」スクッ

穂乃香「それでは、今日は失礼します」スクッフカブカ

<950円になります
<はい
<ありがとうございました~
<ありがとうございました。ごちそうさまです

加蓮「……不思議な人」ズズ

加蓮「げ。紅茶、冷えてる」

272: 2015/11/29(日) 16:32:13.58 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………」

加蓮「…………あれ、もしかして私の分まで会計してくれた……?」

加蓮「…………」ズズ

273: 2015/11/29(日) 16:32:43.46 ID:oyrpMvNz0
――数日後 事務所――

柚「加蓮サン加蓮サンっ」

加蓮「なにー? 今ちょっと書類整理で忙しいんだけど」

柚「それ昨日も一昨日も言ってた! しかも加蓮サン、学校帰りに待ち伏せしてても現れないし!」

加蓮「昨日と一昨日は休んでたの。仕事が多すぎてちょっと」

柚「そなんだ。ちぇーっ。土曜日と日曜日は加蓮サン、スーツしか着てないから見ててつまんないっ。スーツの加蓮サンもいい感じだけどね♪」

加蓮「ごめんね……っていうか柚、大人しくしときなさいよ。今日は穂乃香さん達が来るんでしょ? 座って待ってなさい」

柚「やだ! つまんないもんっ」

加蓮「堂々と言うかぁ」

柚「あ、それでさ!」

柚「へへっ。じゃーん! 見て見て。アタシのデフォルメぬいぐるみ! 可愛いでしょー可愛いでしょー」

加蓮「……それ、どしたの?」チラ

274: 2015/11/29(日) 16:33:13.50 ID:oyrpMvNz0
柚「えとねー、穂乃香チャンと忍チャンが作ってくれた! 手編みなんだって、これ!」

加蓮「手編み? すごいね……わっ、細かいところまで作りこまれてる。ホントにすごいな……」

柚「すごいよねー。アタシこんなの作れないよ。編み物だって5分で飽きちゃったっ」

柚「忍チャンってすごい集中力なんだよ。あっ忍チャンっていうのは一緒のユニットの真面目サン! もうすっごく真面目サン! 穂乃香チャンとどっちが真面目サンだろ?」

柚「そういえば加蓮サン、穂乃香チャンと会ったんだよねっ。アタシもついていきたかったー」

加蓮「私も連れて行けば良かったって思ってたとこ。間が悪かったね」

柚「おそろい!」

加蓮「はいはい、お揃いお揃い」クス

柚「穂乃香チャンも加蓮サンも真面目だからお似合いだね。あっでも穂乃香チャンは渡さないぞー」

柚「そして加蓮サンは穂乃香チャンに渡さない!」

加蓮「つまりアンタが独り占めしたいと」

275: 2015/11/29(日) 16:33:43.32 ID:oyrpMvNz0
柚「へへっ♪ 今日は一緒にレッスンだけど、明日いつものカフェで編み物の続きやるんだ。アタシは見学っ」

柚「大丈夫! レッスンには遅れないから。遅刻したらトレーナーサンに怒鳴られちゃうっ」

柚「明日は何のお土産もってこっかなー。マンガにしよっかな。穂乃香チャンあんまり読んだことないって言うから貸してあげるんだ♪」

柚「今日はウカツだったなー。来て思い出したんだ。あ! 今日は穂乃香チャン達が来る日だ! って。今度からここにもマンガ置いてこっかなー。加蓮サン、いい?」

加蓮「…………」

柚「むむ。加蓮サン、聞いてる?」

加蓮「うん、聞いてるよ。マンガは……ま、程々に置くなら――」

柚「仕事しながらは聞いてるって言わないんだー! こっち来てちょっと休憩しようよっ。アタシが来てから加蓮サンずっとパソコンの前に座ってるよ?」

加蓮「ん……あとちょっとやったら休憩……」ブワン

加蓮「……っ」メヲオサエル

276: 2015/11/29(日) 16:34:13.52 ID:oyrpMvNz0
柚「目がお疲れみたいですな。目薬いる? ささっ、こっちこっち!」グイグイ

加蓮「わ、もう……引っ張らないで」

柚「加蓮サンはソファに座るー」

加蓮「もうっ……」スワリ

柚「そして柚がー……えーいっ!」ダイブ!

加蓮「ぐぇ」

柚「すごい声した! 今のどうやったの? くえっ……なんか違うっ」

加蓮「ひ、人を潰しておいて言うことはそれだけか……?」ヒクヒク

柚「あははっ、ごめんなさい加蓮サン♪」

柚「それでどこまで話したっけ? えっと、そうそう、その時に忍チャンがアタシになんでだーって突っ込んで!」

加蓮「いや、どの時よ。漫画を貸すって話じゃなかったの?」

柚「そだっけ? 加蓮サン何かオススメある? そんでー、穂乃香チャンと一緒に読む!」

277: 2015/11/29(日) 16:34:43.44 ID:oyrpMvNz0
加蓮「忍ちゃん、って子とは?」

柚「もちろん一緒だよ! みんなで読書会っ。ちょっと頭よさそうに見える? 柚、インテリ系?」

加蓮「漫画なのに」

柚「漫画でも読書! 今度、加蓮サンとも一緒に読みたいな♪」

加蓮「漫画かー……暇な時にはよく読んでたなぁ」

柚「こう、ごろごろしながら読むの楽しいよねっ」ゴロゴロ

加蓮「だねっ」

柚「アタシがテーブルにぐてってなってるの見て、忍チャンが呆れて言うんだ。カッコ悪いって! ひどくない?」

加蓮「え、また何の話?」

柚「編み物してる時っ。飽きて、こう、ぐでーってなったらね」グデー

柚「忍チャンがカッコ悪いって言って、アタシがこう、なにおう! って言って!」クワッ

278: 2015/11/29(日) 16:35:13.52 ID:oyrpMvNz0
柚「そっからそっから、穂乃香チャンがあわあわしてるんだけど何も言ってこないんだ♪ 慌ててる穂乃香チャン、ちょっと可愛かった!」

加蓮「可愛い……?」

柚「可愛い子だよ~。あと、キラキラってしてる!」

加蓮「そうなんだ」

柚「あとねあとね!」

柚「……あっ。アタシ、ちょっと喋り過ぎ? これじゃ加蓮サンの休憩にならないね」

加蓮「え? ……ううん。柚の話、聞いてるの楽しいよ」

柚「ホント!?」

加蓮「私が話さなくて済む、つまり楽ができる」

柚「ただの横着だー!?」

加蓮「なんてねっ。でも柚、珍しいね。友達の話をガンガン振ってくるのって」

柚「そ、そお? うっとーしくない?」

加蓮「うん。仕事させろ♪」

279: 2015/11/29(日) 16:35:43.64 ID:oyrpMvNz0
柚「それは駄目っ。加蓮サンはここで回復するまで柚の話を聞くのだー」

柚「あれっ、ってことは回復したらアタシの話を聞いてくれなくなるのカナ?」

柚「……ずっと休憩してていいと思うな!」

加蓮「あはは、それじゃ仕事にならないでしょ?」

柚「アイドルの話を聞くのもプロデューサーのお仕事ーっ」

加蓮「そだね。……ね、柚」

柚「ン?」

加蓮「ううん。楽しそうだね」

柚「楽しいよ! アタシはいっつも楽しんでる♪ でも、忍チャンと穂乃香チャンといる時は、なんだか今までよりもっと楽しいんだ。へへっ、もしかして運命の相手かな?」

加蓮「…………そっか。運命の相手、見つかってよかったね」ズキ

柚「? 加蓮サン?」

加蓮「あ、ううん……」

280: 2015/11/29(日) 16:36:13.57 ID:oyrpMvNz0
柚「……だいじょーぶだいじょーぶ! アタシにとっては加蓮サンも運命の相手だっ♪」

柚「アタシの小指にはね、いっぱいの赤い糸が伸びてるの。加蓮サンに繋がってたり、忍チャンに繋がってたり、穂乃香チャンに繋がってたりっ」

柚「加蓮サンっ、指出して?」

加蓮「ん、こう?」ヒトサシユビ

柚「違う違う。小指!」

加蓮「はい」コユビ

柚「アタシの指と、ぴっぴっ。これで加蓮サンの小指にも、赤い糸っ♪」

加蓮「…………」ジー

加蓮「……ふふっ」

柚「今度、2人にもやろーっと!」

281: 2015/11/29(日) 16:36:43.40 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………」(小指をさする)


加蓮(ちょっとだけ……寂しかったのかも)

加蓮(穂乃香さんと会った時、なんとなく、このユニットは長く続きそうな気がした。柚の話を聞いて、それを確信した)

加蓮(ユニットの話を楽しそうにする、なんて、私には絶対にできないことだから。羨ましくて、ちょっと寂しかった。遠くなった気がした)

加蓮(でも…………ふふっ♪)サスリ


加蓮「っと、そろそろ穂乃香さん達が来る時間かな? 一応、レッスンスタジオの確認だけ――」

柚「あ……」

柚「ねえ、加蓮サン。ちょこっとだけ、いい?」

加蓮「うん。どうしたの?」

柚「え、えとねっ。……笑っちゃ駄目だよ! 絶対、笑っちゃ駄目!」

加蓮「……? いいけど……」

282: 2015/11/29(日) 16:37:13.57 ID:oyrpMvNz0
柚「こう言わないと加蓮サン、いっつもアタシのこと笑ってばっかだもん!」

加蓮「そ、そんなに笑ってた? ……じゃあ、絶対に笑わないから……何? 言ってみてよ」

柚「そ、その……えとね。ちょこっとだけ……ちょこっとだけ……」

柚「ちょこっとだけ……その、なでてっ。アタシのこと!」

柚「それからその、『柚はいつも頑張ってる』って言って!」

加蓮「…………そんなこと?」

柚「大切なのー!」

柚「加蓮サンにそう言ってもらえたら……アタシ、今日のレッスンきっと頑張れるから!」

加蓮「…………」

柚「ん!」ズイ

加蓮「…………」

283: 2015/11/29(日) 16:37:43.60 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……これで、いいの?」ナデナデ

柚「えへぇ……あ、あとその、ほら、さ、さっきのっ」

加蓮「そうだったね。柚。……柚はいつも、頑張ってるよ」

柚「えへへぇ……ほんと? アタシ、頑張れてる?」

加蓮「ほんとほんと。柚はいっつも頑張ってる」ナデナデ

柚「へへっ♪」

加蓮「いつも頑張ってくれてありがとね、柚。……次のオフの日に、ちょっと遊びに行こっか」

柚「! ホント!?」

加蓮「うん。そうだ。そういえば柚の友達に会うって約束、まだ果たしてないんだっけ」

柚「いいの!? やったっ」

柚「アタシのクラスでも加蓮サンの話題いっぱい出てるんだ。きっとみんな喜ぶよっ」

柚「そだっ。どうせなら学校でLIVEとかやっちゃおう! そうしたらみんな見てく――」

加蓮「ごめん、柚。もしやるなら、柚1人だけでね」

284: 2015/11/29(日) 16:38:13.60 ID:oyrpMvNz0
柚「……そっか。ごめん、アタシちょっと浮かれすぎてたカモ」

加蓮「何言ってんの。それくらいが柚でしょ? ブレーキとして私がいるんだから、安心して浮かれるだけ浮かれなさい」

柚「加蓮サン、アタシのブレーキ?」

加蓮「誰かさんがアクセル全開だからさ。アタシがブレーキにならないと、そのままどっか行っちゃうでしょー?」

柚「カモ。あーっ! 加蓮サン手が止まってる! もっと柚を撫でるのだ~」

加蓮「はいはい」ナデナデ

柚「えへへぇ。それからもうひとつのもっ」

加蓮「ん。柚は頑張ってるね。偉い偉い……」ナデナデ

柚「えへへへ……」

<ピンポーン

柚「!!!」バッ

285: 2015/11/29(日) 16:38:44.22 ID:oyrpMvNz0
加蓮「へ?」ナデ...

柚「きっと穂乃香チャンと忍チャンだ。は、離れなきゃっ!」シュタ!

加蓮「……?」スカッ

柚「あれ?」ソファニチャクチ

柚「ぎゃーっ!」ズザー

加蓮「あ、ちょ、ソファ巻き込んで――」

柚「うぎゃ!」ガン!

加蓮「あーあー、オフィスデスクに腕ぶつけちゃってる……」

加蓮「…………」チラッ

柚「あぷっ、あ、あれっ? 起き上がれない!? 加蓮サン助けてー!」

<今すごい音したよ!?
<ど、どうしましょう……。もしかして、何か事故が
<開けた方がいいのかな!?

加蓮「…………。はーい、空いてまーす」

柚「ギャー!! ちょ、タンマ!」

286: 2015/11/29(日) 16:39:13.52 ID:oyrpMvNz0
<ガチャ

穂乃香「お、お邪魔します…………柚ちゃん?」

「お邪魔しま……何これ!? って、うわぁ、柚ちゃんまた何してるの……」

加蓮「いらっしゃい、穂乃香さんと……、……もしかして忍さん?」

工藤忍「あっ、初めまして! アタシ工藤忍です……いやいやいやそれより! あの、後ろの柚ちゃん、いったい……」

加蓮「うん……まあ、事故……?」

穂乃香「柚ちゃん、大丈夫?」

柚「たーすーけーてー! 穂乃香チャン忍チャンへるぷ! へるぷ!」

忍「……柚ちゃん。パンツ丸出しで思いっきりひっくり返ってるのは、さすがにどうかと思う……」

柚「冷静な解説だめーっ!! ひ、引っ張りあげて! ついでに片付けも手伝って!」

忍「図々しいなアンタ!? ……もうっ。穂乃香ちゃん、そっち持って。せーので引き上げるよ。せーのっ」

穂乃香「えいっ」

287: 2015/11/29(日) 16:39:43.63 ID:oyrpMvNz0
柚「ぷはーっ。助かったー。アリガト! 2人が来てくれなかったらアタシあのままだったかも!」

穂乃香「その時はきっと、加蓮ちゃんが助けてくれるよ」

柚「ついさっき見捨てられたんだけどー!?」

加蓮「あと5分くらいしたら助けるつもりでしたー」

柚「すごい嘘っぽい! あと、すぐに助けてくれればいいじゃんっ」

加蓮「緊急の電話が入る予感がしたの」

柚「嘘つけーっ」

忍「…………」パチクリ

穂乃香「あ……柚ちゃん、大丈夫? ああ、すりむいちゃってる。私、バンドエード持ってるから貼ってあげるね」ガサゴソ

柚「だいじょーぶ! ほっとけば治るっ♪」

穂乃香「あっ……もうっ」

288: 2015/11/29(日) 16:40:13.66 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「こんにちは、加蓮ちゃん。未熟者ですが、本日はよろしくお願いします」フカブカ

加蓮「あ、いや、こちらこそ……柚が迷惑をかけます。というか、かけました」フカブカ

忍「うん。かけてたね、さっき」

柚「加蓮サンも忍チャンもひどいっ!」

加蓮「柚の日頃の行いを知ってるとねー……」

忍「そうそう。何かあったらたいてい柚ちゃんの仕業だよね」

加蓮「おお、分かってる」

忍「意気投合できそう?」

柚「そんなっ。それじゃまるでフリルドスクエアの失敗役=柚って風になっちゃう!」

穂乃香「あの……そんなことないから、ね?」

柚「ううっ、穂乃香チャ――」

柚「!」サッ

加蓮「……?」

穂乃香「……??」

289: 2015/11/29(日) 16:40:43.69 ID:oyrpMvNz0
加蓮(なんか今……柚が穂乃香さんに抱きつこうとして、自分からさっとかわした?)


加蓮「……レッスンまでにはまだ早いけど準備しよっか。更衣室は私が案内するよ。その間に柚。ここ片付けておいてね」

柚「アタシ1人で!?」

加蓮「うん。柚1人で。もしも、案内が終わるまでに片付いてなかったら……」ゴゴゴ

柚「ギャー! ツノ、ツノ! それ久々に見た! 久々だけど見たくなかった! 引っ込めて!」

加蓮「ふうっ。じゃ案内するね、穂乃香さんに……えーと、忍さん」

穂乃香「はい。お願いします、加蓮ちゃん」


加蓮(そのまま部屋から出ようとした――その直前)

290: 2015/11/29(日) 16:41:43.63 ID:oyrpMvNz0
柚「あ!」


加蓮(柚がささっと私の側に駆け寄って、耳元へと口を持って行って)


柚「(小声)さっきのこと、穂乃香チャンと忍チャンにはナイショにしてて!」

加蓮「(小声)さっきのこと?」

柚「(小声)加蓮サンに甘えてたこと! ね! 甘える柚なんてヘンでしょ?」

加蓮「(小声)そう? よく分かんないけど……分かった。秘密にしておけばいいんだね」

柚「(小声)ありがと! アタシ、あれでまた頑張れるからっ」

穂乃香「……?」

忍「???」

291: 2015/11/29(日) 16:42:15.02 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ううん、ごめん、なんでもない。そうだ、2人ともレッスン着は持ってきてる? こっちでも予備はあるから――」スタスタ

<大丈夫です。2着、持ってきています
<え、2着?
<前にドリンクをやってしまったことがあって
<なるほど


加蓮(ちなみに戻ってきた時、当然の如く片付けが終わっていないどころか冷蔵庫からお菓子を持ってきて頬張り私達の分まで用意してくれていたので、ご要望通りツノを生やしておいた)

加蓮(ギャー! と何度目になるか分からない悲鳴を聞くのは……正直、ちょっぴり楽しかった)

292: 2015/11/29(日) 16:42:43.74 ID:oyrpMvNz0
――1時間後――

加蓮「…………」カタカタ

加蓮「…………」チラッ

加蓮「ん、いい時間かな……。ちょっと様子見てこよっと」スクッ

加蓮「ん~~~!」ノビ

<トゥルルル

加蓮「!」ガチャ

加蓮「はい、こちらCGプロダクション第四アイドル部署――はい、はい……そうですか! 分かりました。では打ち合わせの日時を――」

加蓮「はい。はい、◯日の午後ですね。分かりました。楽しみにお待ちしております――はい、では失礼します」ガチャ

加蓮「……さて、見に行かないとっ」

293: 2015/11/29(日) 16:43:13.41 ID:oyrpMvNz0
――レッスンスタジオ――

忍「…………」(黙々とダンスレッスンをこなしている)

柚「う、う~~~~ん」

穂乃香「だからね。この時に右足を……もうちょっと前に出すの。それから、左足はこの位置で……」


加蓮「お疲れ、柚。穂乃香さんに忍さんも」

柚「あ、加蓮サンだ!」スクッ

穂乃香「お疲れ様です」

加蓮「トレーナーさんは?」

穂乃香「先ほど、休憩するようにと指示されてからその間に資料を取ってくると。今は、柚ちゃんにレッスンのことを教えているところです」

柚「穂乃香チャンの説明、分かりやすいけど分かりにくい!」

加蓮「どっちだ。えーっと、穂乃香さん。見ての通り柚はその……頭より身体で覚えるタイプだから、もしよかったら手本を見せてあげて」

加蓮「って今は休憩中だっけ」

294: 2015/11/29(日) 16:43:44.06 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「はい。休める時には休む。それも、レッスンの基本です」

加蓮「うん。…………1人、黙々とやってるのがいるけど」チラ


<えっと、こっちの動きはこうで…………


柚「忍チャンはあれでいいの!」

穂乃香「忍ちゃん、とにかく頑張り屋さんなんです。あまり邪魔はしたくありません」

加蓮「なるほどー……」

柚「それより加蓮サンどしたの? さては~、柚がいなくて寂しかったんだ!」

加蓮「いやー仕事を邪魔する子がいなくてすっごく捗ったよ。今日いっぱいかかりそうだった書類整理がもう終わっちゃった」

柚「柚いらない子!?」

穂乃香「そんなことないわよ……ね? 加蓮ちゃん」

加蓮「うんうん、いる子いる子」

295: 2015/11/29(日) 16:44:13.54 ID:oyrpMvNz0
柚「えへへぇ……はっ! そ、そーだねっ! 加蓮サンはアタシがいないと駄目だよねっ♪」

加蓮「へ? まあ、うん」

柚「加蓮サンが来たってことはー、差し入れを期待してもいいのカナ? アタシ喉が乾いちゃったなーちらっちらっ」

加蓮「そう言うと思って。はい、スポドリ」スッ

柚「やたーっ。しかもこれアタシの好きな味! さすが加蓮サン、分かってるじゃん♪」

加蓮「ふふっ。穂乃香さんもよかったら。アタシと柚のオススメなんだっ」

穂乃香「ありがとうございます」ウケトリ

加蓮「あっちの子には、また後で渡しといて」スッ

柚「忍チャーン! そろそろ休もうっ。じゃないと忍チャンへの差し入れアタシが飲んじゃうぞー!」


<もうちょっとだけー!

296: 2015/11/29(日) 16:44:43.62 ID:oyrpMvNz0
柚「駄目だこりゃ」

加蓮「ホント、すごい子なんだね……」

穂乃香「忍ちゃん、いつもこうだから。ふふ。柚ちゃん、私達ももうちょっと頑張ってみる?」

柚「アタシは休憩っ」ゴクゴク

穂乃香「じゃあ、私も」ゴクゴク

加蓮「あはは……あ、柚。休んでるところにごめん。ちょこっとだけいい?」チョイチョイ

柚「ン? なーに、加蓮サンっ」スタスタ

穂乃香「……?」

297: 2015/11/29(日) 16:45:13.40 ID:oyrpMvNz0



加蓮「実はね。さっきYテレビさんから電話が来て、今度立ち上げる番組に柚が欲しいって言ってきたんだ」

柚「! ホント!? Yテレビってあのバラエティがスゴイとこだよね! ねね、どんなお仕事!?」

加蓮「グルメレポだって。ほら、前のイタリアンクッキングを見てくれてたみたい。柚をレギュラーに欲しいってさ」

柚「やったっ。アタシやってみたい。いい? 加蓮サンっ」

加蓮「スケジュールの調節はあるけど、じゃあ受ける方向でいいんだね」

柚「うんうんっ」

加蓮「分かった。打ち合わせはこっちで進めておくから、柚はレッスンを……ね? お願いします、私のアイドルさん♪」

柚「し、しょーがないなー。加蓮サンに頼まれたらやるっきゃないよね!」


<穂乃香チャン、さっきのもっかい教えてーっ
<はい。ええと、じゃあまずはさっきの続きから……


加蓮「レッスン、少し見ていこっかな?」

298: 2015/11/29(日) 16:45:43.80 ID:oyrpMvNz0
――数日後・事務所(夜)――

柚「ただいまーっ! 加蓮サンいる!?」

加蓮「いるわよー」グデー

柚「……お疲れ?」

加蓮「この時間になるとそろそろね……はぁ。もうへとへと……」グデー

柚「そっかっ」

加蓮「ん……っと、ごめんごめん。なあに、どうしたの? 何か報告があるんでしょ?」オキアガル

柚「あ、そのままでいいよっ」

加蓮「私がヤだよ。いいからほら、教えてっ」

柚「うん。あのね、今日の収録の時にこれをプロデューサーに渡してって頼まれた!」スッ

加蓮「ふむ」

299: 2015/11/29(日) 16:46:13.53 ID:oyrpMvNz0
柚「あとね、もしよかったら番組に出てもらえないかって言われちゃった♪」

加蓮「あー、私もついていった方がよかったね。ごめんね、どうしても外せない打ち合わせがあって」

柚「加蓮サン最近付き合い悪いぞー」

加蓮「あははっ。それ、貸して?」

柚「はいっ」スッ

加蓮「ふんふん……うーん…………これちょっとスケジュール的には辛いなぁ……」

柚「そなの?」

加蓮「今は穂乃香さんや忍さんとの方に集中したいし……それにこれ、企画内容が曖昧だし、まだ当たりつけてオファーかけてるって感じかな……断ってもトゲは立たないか」

加蓮「ごめん柚。これ、断っといていい?」

柚「加蓮サンがそう言うならいいよっ」

300: 2015/11/29(日) 16:46:44.01 ID:oyrpMvNz0
加蓮「じゃあ電話しとかなきゃ。あ、そうだ。これ渡してくれたのどんな人だった?」

柚「チョビ髭でさわやか笑顔の人だった!」

加蓮「…………うーん、覚えがないってことはホントに完全新規か」

<かれーん! 車、準備できたぞー!

加蓮「すぐ行くー! これありがとね柚。私はもう帰らなきゃ……柚も乗せてもらう? Pさんの車」

柚「乗る乗る!」

加蓮「そっか。じゃあ一緒に……」スクッ

加蓮「あ」フラッ

柚「わわっ」ダキッ

301: 2015/11/29(日) 16:47:13.64 ID:oyrpMvNz0
柚「加蓮サン、ホントにヘトヘトだ! アタシが肩を貸してあげるねっ」

加蓮「ありがとー……やり過ぎもよくないね、ふふっ」

柚「ゆるーく頑張ろう!」

加蓮「ゆるーく、かー」

柚「ゆるーく!」

加蓮「ゆるーく」

302: 2015/11/29(日) 16:47:43.95 ID:oyrpMvNz0
――そのまた数日後・事務所(昼)――

柚「ただいまー」

加蓮「お帰りなさい、柚。ラジオの収録はどうだった?」

柚「バッチリ! ちゃんとLIVEの告知もしてきたよっ」

加蓮「よし。これで当日は満員だね」

柚「うんうん! あ、それで加蓮サン。えーと、はいこれっ」スッ

加蓮「封筒? もしかして、また何かオファー来ちゃった?」

柚「来ちゃった。あ、あのね。それその……」

加蓮「ん?」トリダシ

柚「あのね……あ、ううんっ。……アタシ、あんまり受けたくないかも……あっ、か、加蓮サンがやれって言うなら柚頑張っちゃうけどね!」

加蓮「あれ、珍しいね。柚がそんなこと言うなんて……」パラパラ

加蓮「って、うわ、K事務所の撮影かぁ。あれだよね。前に受けたけど酷かった奴」

303: 2015/11/29(日) 16:48:13.42 ID:oyrpMvNz0
柚「そうそう! セクハラする人がいるって噂も聞いたことある! アタシはされなかったけどっ」

加蓮「それアタシも知ってる。よし、このオファーは断ろう。大丈夫。柚が嫌がらせをされたりしないように上手くやってみせるから」

柚「ホント? 加蓮サンがそういうなら安心だね!」

加蓮「あと、受けたくない仕事があったら私には素直に言ってね? 無理矢理やれって言ったりしないから……」

柚「うーん……加蓮サンなら言わなくても分かるかも、なんて♪」

加蓮「無理」

柚「きっぱり言われたー! むむっ、まだまだアタシの片想いのようですな」

柚「片想いって言えばアタシ最近、いろんな人からオファー受けるっ。人気アイドルになったって実感できるよ!」

加蓮「前からでしょー?」

柚「へへっ♪」

304: 2015/11/29(日) 16:48:43.85 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ホント増えたよね。セルフプロデュースを始めてる子が多いのと関係してるのかな……」

柚「それって穂乃香チャンみたいな?」

加蓮「うん。ちょっと前からまた増えたみたい。若い子が自分で仕事を取って、とか」

柚「でもその分、変なオファーもあるケド。柚はお笑い芸人じゃないぞーっ」

加蓮「あと契約関係でトラブルも増えてるって聞くし。私も、ちゃんとしっかり確認しないと……」フラ

加蓮「んっ……」

柚「加蓮サン、お疲れ?」

加蓮「お疲れお疲れ。やらなきゃいけないことがホント多くて。柚ー、ちょっとは手加減してよー」ダラー

柚「アタシのせい!? そうだっ、Pサンに任せてみるのはどうかな。そしたら加蓮サンも楽できる!」

加蓮「ヤダよ。柚のプロデュースは私がやるんだし、それにただでさえ無理させてんだから」

柚「えーっ」

305: 2015/11/29(日) 16:49:13.59 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ちょっと休憩しよっと。っていうか、お笑い芸人って……何そのオファー? そんなのあったっけ?」

柚「さー。アタシにもよく分かんない。前にあったよ? いつだっけ。忘れたっ」

加蓮「あははっ、何それ。柚が分かんないならアタシにも分かんないよっ」

柚「よしっ、じゃあ忘れよう♪」

加蓮「忘れよう忘れよう!」

加蓮「でも、そういう話があったらちゃんと報告してね? 例えその場でナシになったりしても」

柚「はいっ」

加蓮「真面目にだよ?」

柚「分かってるっ」

加蓮「ならよし。……でもホント、向こうから持ちかけられるの増えてきたよね。柚は今後どんな仕事がやりたいー?」

柚「うーん、LIVEとかグルメ番組とかグラビアとかラジオとかバラエティとか、あっそれと前に穂乃香チャンが地元のオススメ紹介してたヤツ! ああいうのもどんとこいだっ」

加蓮「……それもグルメ番組じゃない?」

柚「あっそっか!」

306: 2015/11/29(日) 16:49:44.55 ID:oyrpMvNz0
加蓮「やりたいことがいっぱいあるんだね、柚」

柚「だって楽しいもん!」

加蓮「そっか……」

柚「次はどんなお仕事がやりたいカナ~? あっ、その前にレッスンしなきゃっ。穂乃香チャンも地元から戻ってきたし、また合同レッスンだ♪」

加蓮「…………ふふっ」


加蓮(……なんだか……できた、って感じがする)

加蓮(何かが、できた。……何がだろう?)

加蓮(ただ、何かができたような気がして、少し嬉しかった)


加蓮「その前に宿題をやっておきなさいよ? トレーナーさんから出された宿題」

柚「ギャーそうだったー! あ、あのね、アタシまだ上手くできないとこがあって……加蓮サンっ教えて! 穂乃香チャン達とレッスンする前に!」

307: 2015/11/29(日) 16:50:13.59 ID:oyrpMvNz0
加蓮「じゃあ、このオファーを断る電話を入れて、それからメールを送ったらね」

柚「10分以内! じゃないとアタシ、飽きて逃げちゃうぞっ」

加蓮「じゃあロープでぐるぐる巻きにしとこっかな。どこにあったっけ……?」ガサゴソ

柚「ホンキで探してる!? やめてーっ! アタシどうせなら人質じゃなくて犯人役の方やりたい! ふっふっふ、お主もワルよのぅ~」

加蓮「犯人役か、それ……?」

308: 2015/11/29(日) 16:50:43.71 ID:oyrpMvNz0
――LIVE前日・LIVE会場――

柚「アタシの調子良好っ。リハーサルもバッチリ! あとは本番を迎えるだけだね!」

加蓮「お疲れ、柚。明日も安心して見られそうだね」

柚「で、でしょー! なんたって忍チャンと穂乃香チャンもいるからね! これはもう成功するっきゃないっ。瞬き禁止だっ」

加蓮「……柚は?」

柚「へ?」

加蓮「ううん。なんでも」

柚「変な加蓮サン。あっ穂乃香チャンだ! おーいっ、穂乃香チャーン!」

<テテテッ

加蓮「自分がいるって言わないあたり、やっぱ緊張してんのかな……?」

309: 2015/11/29(日) 16:51:13.57 ID:oyrpMvNz0
<テテテッ
<そんなに急がなくても……待って、転んじゃうから

柚「あとは忍チャンだ! どこにいるかな~」キョロキョロ

穂乃香「ほっ……」(転ばずに済んだ)

穂乃香「忍ちゃんならさっき、Pさんと話していたよ? 何か、聞いていたみたい……」

柚「そっか。それは邪魔しちゃいけないなー、ウンウン」

穂乃香「お邪魔……?」

柚「そりゃーもう、ほらほら!」

穂乃香「……?? ……あ、加蓮ちゃん。お疲れ様です」ペコッ

加蓮「穂乃香さんこそ、お疲れ様です」ペコッ

柚「あははっ、2人とも堅いな~。もっとゆる~くやってこうよ!」

加蓮「穂乃香さん相手だとついね……」

310: 2015/11/29(日) 16:51:44.23 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「ふふ。頑張るね、柚ちゃん。……それで加蓮ちゃん。舞台構成はどうでしょうか。もう少し、工夫できる所があるとは思いますが……」

加蓮「あれでまだ不満足なんだね。すごいなぁ……柚も見習いなさいよ?」

柚「あーあーきこえなーい」

穂乃香「後は、本番を残すのみです。レッスンの成果を、ちゃんと出せるようにしなければ」

柚「穂乃香チャン堅い堅い! ミスってもいいから楽しむ! それくらいでやろっ♪」

穂乃香「柚ちゃん……。そうね。せっかくのLIVEだから、しっかり楽しまなきゃ……!」

柚「そーそー! 楽しければOK! それが柚ルール!」

穂乃香「ふふ。柚ちゃんの前向きさが、ちょっと羨ましい」

加蓮「そうそう。柚はちょっと考えなさすぎだけど、穂乃香さんも考え過ぎたら逆にミスるかもしれないし。気軽に考えてもいいんじゃないの?」

柚「か、考えなさすぎ!?」

311: 2015/11/29(日) 16:52:13.92 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「そう、ですね。それなら、加蓮ちゃんくらいがちょうどいいのかな……?」

柚「アタシアタシ! アタシくらいでいいと思う!」

穂乃香「難しいですね……」

加蓮「さて、リハーサルのことでちょっと確認しときたいんだけど、穂乃香さんのプロデューサーさんって今日来てるよね。どこにいるかは」

柚「あっ、アタシ探してくる! 忍チャンと一緒にいるんだよね。じゃあ簡単だ!」タタッ

加蓮「あ、ちょ」

<忍チャーン! いたら返事しなさーい!

加蓮「もう……」

「今日の柚ちゃんも、元気いっぱいですね」

加蓮「うん、いつもこうなんだ。もー大変で大変で」アハハ

加蓮「あ、そうだ。演出のことなら穂乃香さんに聞いても大丈夫かな。LIVEの構成と演出を考えたの、穂乃香さんなんだよね?」

穂乃香「Pさんと相談して決めたことですが……」

加蓮「それならえっと、ここの演出についてなんだけど――」

穂乃香「そこは、こういう表現で――」

312: 2015/11/29(日) 16:52:43.50 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「そう、ですね。それなら、加蓮ちゃんくらいがちょうどいいのかな……?」

柚「アタシアタシ! アタシくらいでいいと思う!」

穂乃香「難しいですね……」

加蓮「さて、リハーサルのことでちょっと確認しときたいんだけど、穂乃香さんのプロデューサーさんって今日来てるよね。どこにいるかは」

柚「あっ、アタシ探してくる! 忍チャンと一緒にいるんだよね。じゃあ簡単だ!」タタッ

加蓮「あ、ちょ」

<忍チャーン! いたら返事しなさーい!

加蓮「もう……」

穂乃香「今日の柚ちゃんも、元気いっぱいですね」

加蓮「うん、いつもこうなんだ。もー大変で大変で」アハハ

加蓮「あ、そうだ。演出のことなら穂乃香さんに聞いても大丈夫かな。LIVEの構成と演出を考えたの、穂乃香さんなんだよね?」

穂乃香「Pさんと相談して決めたことですが……」

加蓮「それならえっと、ここの演出についてなんだけど――」

穂乃香「そこは、こういう表現で――」

313: 2015/11/29(日) 16:53:13.66 ID:oyrpMvNz0
――10分後――

加蓮「……うんっ、大丈夫そうかな。でもホント、さすが穂乃香さんだね。やっぱり凄いなぁ……」

穂乃香「表現者として、精一杯やったつもりです。でも加蓮ちゃんの話を聞くと、まだまだだって思い知らされますね」

加蓮「謙遜しすぎだってば。ほら、柚が言ってたでしょ? もっと楽に考えようって」

穂乃香「はい。実は、リハーサルの前にも同じように――こほんっ」

穂乃香「『リハーサルから楽しんでいこっ♪ せっかくみんなでやるんだしさ!』、って」ニコッ

加蓮「……………………」

穂乃香「一応、真似をしてみたつもりですが……どうでしょうか。前よりも自然な表情でできていましたか? 実は、あれから練習してみたんです」

加蓮「練習してどうすんの、それ……?」

穂乃香「例えば、いつかモノマネとして使えたり?」

加蓮「そ、そう……」

314: 2015/11/29(日) 16:53:43.68 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「どうでした? 少しは自然になっていたでしょうか」

加蓮「まあ…………もうちょっと頑張ろう」ポン

穂乃香「そうですか……」シュン

加蓮「あの……いや、あのさ。キャラ付けとかなら、いや私が言うのもアレだけどさ。もっと別の道を探した方がいいと思うよ……?」

加蓮「ほら、一緒にいる忍さんとか。少なくとも柚よりは向いてるっていうか、似合っているんじゃないかな」

穂乃香「いえ、そういう訳では。できないことがあったら、ちょっと意地になってしまうんです。途中でやめるんじゃなくて、最後までやり遂げたい! って……」

加蓮「あ、それ分かるっ」

穂乃香「バレエでもアイドルでも、表現の幅を広げるに越したことはありません。できることは、どんどん増やしていかなきゃ」

加蓮「バレエ? もしかしてアイドルになる前にやってたとか?」

穂乃香「はい。いくつか賞を取る程度には……」

315: 2015/11/29(日) 16:54:13.91 ID:oyrpMvNz0
加蓮「すごいじゃん。なんか厳しい世界だって聞いたことあるけど」

穂乃香「はい。バレエの頃は、如何にして上を目指すかという熾烈な世界ばかりで」

穂乃香「それも嫌いではありませんが……でも私、今、アイドルをやっていて楽しいんです」

穂乃香「礼式に捕らわれることなく、自由にできる。自分で表現を考えられる。そういうことが……すごく、楽しくて」

加蓮「確かにこの世界って自由だよね。ほら、私みたいなのがプロデューサーになれたりさっ」

穂乃香「それに――」チラ

<しーのーぶーチャーン! 隠れても無駄だー、出てきなさーい! アタシから逃げられると思うな――おわっと!
<ご、ごめんなさいスタッフサン! え? 大丈夫? ……よかったっ

加蓮「柚……」

316: 2015/11/29(日) 16:55:13.54 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「はい。柚ちゃんと一緒にやっていると、今までの自分は閉塞的すぎたのかもしれないと思ってしまいます」

加蓮「あれが開放的すぎるんだって~」

穂乃香「……この業界にはまだまだ、私の知らないことがたくさんあるんですよね。そして、私だからこそできることだってある」

穂乃香「そう思うと、もっともっと色々なことを……!」

穂乃香「……あ……少し、熱くなってしまいました。でもそれだけ、柚ちゃんとやるアイドルは大切な時間なんです」

穂乃香「それに、私も……柚ちゃんに教えられることがあればいいな、って」

加蓮「きっといっぱいあるよ。柚は柚の、穂乃香さんは穂乃香さんの世界があるんだから」

<忍チャンどこー!? さては帰っちゃったかっ。あっそこのスタッフサン、忍チャン見なかった? 見てないっかー。おーい、忍チャーン!

加蓮「…………ああもう、あの子はホントに……!」アタマカカエ

穂乃香「今日も、柚ちゃんは楽しそう。自由で、まるで空を駆けまわる鳥みたい……」

加蓮「鳥かー……そうなのかも。ほっとくといっつもああなんだ。暴走して、やたら飽きっぽくて。レッスンもちゃんと見とかないといけないし」

穂乃香「ふふ、大変そうですね」

317: 2015/11/29(日) 16:55:44.03 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ほんっとに大変だよ。でもいつも楽しそうで、笑顔を振りまいてて……そんな柚が好きなんだけどね」

穂乃香「見ているだけで笑顔になっちゃう。不思議で、そしてすごい子ですね」

加蓮「うん。どこまでも突っ走って欲しいな。それを手伝う為に私がいる……なんて」

加蓮「ユニットを組んでも長続きしないしすぐ飽きちゃうし。……でも、なんだか今回は……」

加蓮「……ねえ穂乃香さん。ユニットにいる時だけでいいからさ……穂乃香さんにも、あの子のこと見てあげてほしいな」

穂乃香「私が、ですか……?」

加蓮「飛び回る鳥だって、どこか休む場所があればいいと思うし……ほ、ほらっ、私1人じゃ大変だし? 穂乃香さんにも手伝ってもらえると助かるかなー、なんてっ」

加蓮「それに、穂乃香さんってお姉さんって感じがするし……その、よ、余裕があったら、ね? いやホント柚についていくのってすごい大変だと思うし、だからちょっとだけ、そう、ちょっとだけでいいから!」

穂乃香「加蓮ちゃんのご期待に添えるかは……。でも、私でよろしければ、その役目、引き受けさせていただきますね」

318: 2015/11/29(日) 16:56:13.71 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「ユニットでも、私が一番の年上だから。私が、しっかりしなければ……」

加蓮「……あははっ」

穂乃香「私、昔から、友達と歩く時は一番後ろになるんです。なんとなく、それが私のベストポジションかな、って」

加蓮「ん?」

穂乃香「柚ちゃんは……目を離すと、すぐどこかに行っちゃいそう。頑張って追いかけなきゃいけないから、大変です」

穂乃香「でも、柚ちゃんをこれほど大切にされている方から頼まれたら……ふふ。大変なんて言ってられないですね!」

穂乃香「加蓮ちゃんが柚ちゃんのことを本当に大切にしていることは、見ていてよく分かりますから!」

加蓮「そ、そっかなー。柚がかまってかまって言うからこうなったってだけだよ。うん、きっとそう。それだけそれだけ」

穂乃香「そうですか。……ふふっ」

319: 2015/11/29(日) 16:56:43.94 ID:oyrpMvNz0
<あっいた忍チャン! えっとねー、えっと……とりあえず加蓮サンのとこ! 穂乃香チャンもいるんだよ! 行こ行こ!

加蓮「さてっと。正直、リハーサルで気になったことがあるんだよね。ちゃんと明日までに直してもらわなくちゃ」

穂乃香「名プロデューサーの本領発揮、ですね」

加蓮「そんなんじゃないって。でも……柚にとってそうなれてるなら、すごく嬉しいけどっ♪」

320: 2015/11/29(日) 16:57:13.64 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

……。

…………。

321: 2015/11/29(日) 16:57:43.60 ID:oyrpMvNz0
――LIVE当日・LIVE会場――

『数字を並べて行くよりも♪ まずは一緒にやってみましょ♪』

良い意味で、柚+αのLIVEだった。

柚はセンター。アップテンポの歌を完全に自分の物にして舞台を作り上げる。ライトオレンジに照らされいっぱいの笑顔を振りまく姿からは、昔の、音が外れてたりリズムについていけていなかったり、そんな駆け出しアイドルだった頃を全く感じさせない。
両脇には忍さんと穂乃香さん。そして数名のバックダンサーがついている。
彼女らも決して目立っていない訳ではない。穂乃香さんの手によって、舞台に上がる者、皆が注目されるような構成になっている。

それでもこの舞台は、"柚のもの"だった。
いつかの雛祭りの時とは違う。演目の一部に柚が含まれるんじゃなくて、完全に柚メインの大舞台。
柚の為に作られた舞台。

322: 2015/11/29(日) 16:58:13.70 ID:oyrpMvNz0
『ほら大きな声を出して♪ 君の声を聞かせてよ♪』

客席の方では、LIVE慣れした人たちが野太いコールを合わせ、他の人達は揃って柚を注目していた。
目を見開いている人がいる。口をぽかんと開けている人がいる。心からの笑顔を浮かべている人がいる。
柚を初めて見た人も、テレビ越しにだけ見ていた人も、何度目かになる人も。
揃って、喜多見柚というアイドルに魅了されていた。

『頑張れない時は一緒にやろう♪ ほらワン、ツー、スリーっ♪』

スリー♪ と共に柚が大きく飛び跳ねた。私の隣にいた子供が、すりー! と同じようにジャンプする。
私――は。
今ほど、自分の身体がポンコツであることを呪ったことはない。
一緒に跳べれば、よかったのに。
どの場所でもいい。ファンとしてでも、プロデューサーとしてでも……アイドルとしてでも。
柚と一緒に跳躍できたらどんなに楽しいだろう。

323: 2015/11/29(日) 16:58:43.78 ID:oyrpMvNz0
『上手にできなくても大丈夫♪ それがあなたの想いだから♪』

サビが終わる。主役が「いえ~い!」と大きく手を振る。向かって左側、ダンスを始めようとした忍さんが一瞬だけぎょっとした顔をしていた。例によってアドリブなのだろう。
穂乃香さんも少し驚いて、でもすぐに笑顔になった。忍さんを導くように一瞬だけ視線を動かす。お姉さん役と言っていた通りだ。
そして2人のダンスが始まる。柚は"ぴょんっ"と引っ込み、敢えて簡単な振り付けだけに留め残り2人を際立たせていた。

でも柚が次第にウズウズし始めて、間奏の後半からいきなり前に飛び出てきた。
やはり忍さんが「何やってんの!?」と言いたげに目をひん剥いていたけれどそれ如きで止まる柚ではない。ぎゅいぎゅいと、ぎゅいぎゅいと踊り出す。
ぎゅいぎゅいって何だろうと自問自答したくなったけれどそれ以外に言葉が思いつかないのだ。
ぎゅいぎゅいって踊ってるのだ。
あと回ってる。なんかよく分からないくらいに回ってる。5回転6回転7回転……8回転でびしっ! とポーズ。
目を回している様子が全くない。

324: 2015/11/29(日) 16:59:13.76 ID:oyrpMvNz0
『ほら私がいてあげる、例え落ち込んじゃった時でも♪』

即興まみれのダンスで客席をさらに沸かせた柚が、やや肩を上下させつつもマイクを掴む。
ノリとテンポと勢いが目立つ演目だが、このパートだけは別だ。最後の盛り上がりの前の、静まり返る場所。
柚はこの日の為に、この部分の練習を喉を頃す勢いで繰り返していた。
その為か――さっきまで十人十色にはしゃいでいた観客が、しん、と静まり返り、そして大半をポカンとさせていた。
良い意味で、だ。

『だからいつでも大丈夫……君を魅せつけてあげて♪』

自由自在で変幻自在。自分の歌も演出も、完全に自分の物にしている。
そんな姿を見ていると……なんだろう。
なんだか、ゴールを迎えたような気分になれる。

325: 2015/11/29(日) 16:59:43.41 ID:oyrpMvNz0
『ほら私が聞いてあげる、どんな音より歌よりも♪』

カラフルな舞台にセピア色が混じった。在りし日の記憶が蘇った。そうしてこの景色が、一番昔の思い出と重なる。
小さい頃に病院のベッドの上で見た夢が、ここにあった。
いつか立ちたいと思った場所。
立っているのは私じゃない。でも柚を通して、私は目指していた場所にたどり着いていた。

そうだ。
何かができたって思ったのは、きっとこのことだ。
思い描いていたのとは、少し形が違うけれど。
やりたかったことができたんだ。
行きたかったところに行けたんだ。

『ずっとどこまでも響く♪ それが君のメロディ♪』

舞台は再びアップテンポに。観客が熱気を取り戻し、最後には明らかにLIVEに不慣れっぽい人もまるで怒鳴り合うようにコールを入れていた。
曲が終わると揃って「ワアアアアアアアア――!!!」と歓声をあげた。舞台上の柚が、ちょっとびっくりする程の勢いで。

326: 2015/11/29(日) 17:00:13.57 ID:oyrpMvNz0
「わ、わっわっわっ…………み、んなっありがと~~~~~!!! いえ~~~~~い!!!!」

無数の歓声、いくつもの色のライト、そしてやりきったという想い。
すべてに応えるように、柚が大きく手を振る。

そう。これは私があの時に夢見た、煌めきのステージ。
私達の、たどり着いた場所。
いろいろなことがあった。
アイドルができなくなって、泣いた日とか。
アイドルらしくない自分に悩み続けた日とか。
プロデューサーとして壁にぶつかって、イライラした日とか。
すぐに冷めてしまって自分の居場所を見つけられないで、焦ってしまった日とか。

全部を乗り越えて、私は――私と柚は、今、やり遂げ

327: 2015/11/29(日) 17:00:43.57 ID:oyrpMvNz0
――"どくんっ"

「……………………え…………?」
「ん、どうした加蓮?」

いつの間にかPさんが右隣にいて……いや、それよりも。
今、何か……心が、大きな音を立てたような……?

328: 2015/11/29(日) 17:01:13.62 ID:oyrpMvNz0
「――ごほんっ! ここで、柚のサプライズコーナーっ!!」

…………え?

「えっとねっ。実は今日のLIVE、もう1曲やるんだ」

………………サプライズ? ……もう1曲?

「ふっふっふー。プログラムには書いてないの! だから柚サプライズっ」

私の頭の上で踊る疑問符、それから客席のどよめきをよそに、柚が話を進めていく。
サプライズ……? もう1曲って、どういうことだ。

ふと穂乃香さんがこちらをちらりと見た。ごめんなさい、と言いたげに苦笑いをしていた。
それに忍さん……いや、忍さんだけじゃなくバックダンサーの人たちも落ち着いている。

ってことは、最初から仕組んでいたってことか。
何でも喋りたがる柚がサプライズを仕組んで今の今まで秘匿にしていた。それほどの内容ってことなのか。

329: 2015/11/29(日) 17:01:43.77 ID:oyrpMvNz0
「えっと……」

観客が、サプライズってなにー? なんだー? と興味を示す。
柚は再びマイクを手に取った。少し……緊張しているというか恥ずかしがっているというか、モジモジとしている。なんだか告白をする前の女の子のように見えた。

「あ……あのねっ」

ピタリ、と客席のざわめきが止まる。

「アタシ……いろんな人に助けてもらって、ここにいるんだ。忍チャンとかー、穂乃香チャンとかー、バックダンサーのみんなとか。あとファンのみんなにプロデューサーサンにー、へへっ、数えきれないくらいに!」

指折り数えて柚が笑う。いったい、何の話――

330: 2015/11/29(日) 17:02:13.62 ID:oyrpMvNz0
「だから、そんな人達へのお礼ってことで! いつもと違う柚を見せたげるっ。あと1曲だけ聞いてって! さっきのとはぜんぜん違う歌だけど、アタシ、頑張って歌うから! だから……えっと、聞いてっ?」

お願いーっ、と付け加えた言葉に、数テンポの遅れを見せ、まずはLIVE慣れしているであろう野太い声達が「いいよー!」と揃って叫ぶ。周りの人たちも、同意するように拍手で続いた。
あはっ、と柚が笑った。僅かな不安がすっと消え、マイクから数歩下がる。
それが合図となり忍さんと穂乃香さん、それにバックダンサーの人たちが動き出した。

5秒。
次の――プログラムにない歌が始まるまでに要した時間。

331: 2015/11/29(日) 17:02:44.05 ID:oyrpMvNz0
何を歌うのか、私にも全く知らされていない。事前にレッスンを重ねてきた歌はすべて歌いきった。じゃあ、何をやるのだろう――
疑問混じりの期待と、それから不安。ぐちゃぐちゃになって、始まるまで瞬きができなかった。
そして――

そして、どこかで聞いたことのあるメロディが流れ始めた。



『薄荷-ハッカ-』

332: 2015/11/29(日) 17:03:13.51 ID:oyrpMvNz0



――~~~~♪ ~~~~~♪

最初、どこで聞いたのか思い出せなかった。
ただ、すごく懐かしい感じだけがした。

――背中だけじゃもう足りなくて 追い越してみた きみと最初の日

歌い出しから少しして、記憶が舞い戻る――頭の中に、まだ私がアイドルだった頃の日々が回想映像のように流れていく。
レッスン。LIVE。叱られた時。褒められた時。衣装。舞台。歌。
そして、今の身体ではアイドルは無理だと言われた日。

そうだ。完全に思い出した。次のメロディも次の歌詞も完璧に言い当てられる。
この歌……本当なら私が歌う筈だった……。

333: 2015/11/29(日) 17:03:43.88 ID:oyrpMvNz0
――あの時の靴も言葉も 大事にしまってあるよ

初めて自分の歌をもらえて、すごく嬉しかった。加蓮にぴったりの歌だぞ! と嬉しげに言うPさんと、子供みたいにはしゃいでたんだっけ。
何度も何度も、夜遅くまで練習したんだ。体力のコントロールなんて忘れて、身体の異変にも気付かなくて。

――だってね 勇気のカケラ きみが描く未来へ連れ出してほしい

どうしても歌いたかった。アイドルとして歌いたかった。
だからあの時、周りの大人みんながアイドルは無理だって言った時……どれだけ困らせたことか。
泣きじゃくって、叫んで、罵声を浴びせて。1日中、ずっと暴れていた。
どうしても、どうしても歌いたかった。夢見たステージに立ちたかった。

334: 2015/11/29(日) 17:04:15.16 ID:oyrpMvNz0
――神様がくれた 時間は零れる あとどれくらいかな


「この歌な、最初に歌いたいって言ったの、柚ちゃんだったんだ」

「……柚が?」

「ああ。いつだったか……加蓮の歌を歌いたい、そうしたら加蓮も思い出せるだろうから……って」

「思い出すって……」

「アイドルの楽しさだよ。柚ちゃんに聞いた。今の加蓮は柚ちゃんのプロデューサーでいたいんだ、って」

「…………」

「そうなんだろうな。無理を言ってる訳じゃないってのは俺も柚ちゃんも知ってるよ。でもな」

335: 2015/11/29(日) 17:04:43.83 ID:oyrpMvNz0
――でもゆっくりでいいんだ きみの声が響く


「それでも思い出して欲しいってさ。思い出して、またアイドルをやって欲しいって……柚ちゃん、言ってたぞ」

「…………」

「加蓮も巻き込んでのサプライズってしたのも、たぶんそういうのがあるんだと思う……」


――そんな距離が今はやさしいの 泣いちゃってもいい?


「なあ加蓮。俺は加蓮に無理をしてほしくない。けど……それ以上に、加蓮のやりたいことをやってほしいんだ」

「私の、やりたいこと……」

336: 2015/11/29(日) 17:05:13.50 ID:oyrpMvNz0
「加蓮だってよく言うだろ? やりたいようにやれって。前は……悪かった。やるなってばっかり言って、すまなかった」

「…………」

「今は――少しでも思い出したら……俺も、それから柚ちゃんも。加蓮が言い出すのを待ってるからな。……はは、無理強いなんて遠慮するなよ? 16歳をプロデューサー代理にすることよりはよっぽど簡単だよ」

「……Pさん……柚…………」

337: 2015/11/29(日) 17:05:43.71 ID:oyrpMvNz0
柚が、歌っている。つい10分前まで弾ける笑顔だった少女が、柔らかな笑顔で奏でるバラード。まるでキャラじゃないけれど、でも、先ほどとは違う意味で完成された舞台だった。
客席はうっとりと見惚れていた。
泣いている人もいた。

……サプライズも、そうだけど。柚のこんな姿なんて一度も見たことがない。


「ねえ、Pさん。……柚、この歌を歌うまで、どんくらい練習した?」

「さあなぁ。トレーナーさんから聞いただけだけど相当の練習をしたらしい。かなり困らされたって苦笑いで言ってたっけなぁ」

「…………」

338: 2015/11/29(日) 17:06:13.63 ID:oyrpMvNz0
「あ、俺はトレーナーさんに依頼出して報告を聞いてただけだぞ。柚ちゃんの担当は加蓮だからな。やり過ぎるとお前、絶対にむくれるだろ」

「…………」


得意なことはどこまでも得意で誰よりも早く身に付ける代わり、苦手なことがあったらすぐに音を上げる。
楽しそうなことにはなんにだって興味を示すけれど、興味のないことにはすぐに飽きてしまう。

339: 2015/11/29(日) 17:06:43.83 ID:oyrpMvNz0
柚はそんな子だし、欠点を指摘して疲れさせるのも嫌だったから、今までずっと柚に向いた仕事を選んできていた。
そんな柚が。
明らかに得意分野とは異なる私の歌を、これほどまでに完璧に仕上げるまで。
どれくらいの――

…………前言を、撤回しよう。
ここはゴールなんかじゃない。
やり遂げてなんていない。

340: 2015/11/29(日) 17:07:13.59 ID:oyrpMvNz0
まだまだこれからだ。この世界には、アイドルの世界には私の知らないことがいっぱいある。狭い世界の話だけで終わらせようなんて馬鹿げているにも程がある。
それに……私は約束したんだ。
病気を治して、一緒にアイドルをやろうって。

一筋だけ流れた涙を、強引に拭った。2番を歌い出した柚に、大きく首を縦に振る。
何も終わっていないんだ。約束を叶えよう。行けるところまで行こう。
終わった気になって満足するのは早い。まだまだこれから、

341: 2015/11/29(日) 17:07:43.81 ID:oyrpMvNz0
"どくんっ"

「っ…………」

また、心が、大きな音を…………。

342: 2015/11/29(日) 17:08:13.71 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

……。

…………。

343: 2015/11/29(日) 17:08:43.75 ID:oyrpMvNz0
――4月 事務所――

柚「あずきチャンとのLIVE♪ すっごい楽しみだなっ」

桃井あずき「えへへっ、あずきも同じ! 名前は何にしよう。う~ん、仲良し大作戦?」

柚「えー、あずきチャンそれ単純すぎっ。せっかくだからこう、もっと派手な名前にっ」

あずき「じゃあ、みんなで仲良し大作戦! は、あずきと柚ちゃんしかいないから、みんなじゃないよね。う~ん。ふたりは仲良し大作戦とか!」

柚「おっいいねそれ!」

あずき「みんなでおそろいステージ大作戦は、また次までのお楽しみね!」

柚「お楽しみ大作戦だっ♪」

あずき「あっ柚ちゃん、それあずきのセリフ~」

<ワイワイ
<ワイワイ

<スタッ

344: 2015/11/29(日) 17:09:13.38 ID:oyrpMvNz0
加蓮「盛り上がってるところにごめん。柚、そろそろ仕事の時間だよ。現場入りしなきゃ」

柚「えーもうそんな時間? 加蓮サン加蓮サン、あと5分っ」

加蓮「そう言って50分くらい寝てるんでしょ~?」

柚「それはお布団の時間だーっ」

あずき「あははっ♪」

加蓮「先に言ったの柚でしょ! はいはい、さっさと支度!」

柚「はーいっ」パタパタ

加蓮「もうっ……。ごめんねあずきちゃん。せっかく来てもらったのに慌ただしくて」

あずき「いえいえっ♪ ホントに柚ちゃんから聞いた通りの人なんですね!」

加蓮「それ穂乃香さんにも言われたよー」

あずき「プロデューサーさん、えっと、加蓮さん? も一緒にっ、えーっと……だ、大作戦にすることが思いつかない!?」

加蓮「…………大作戦?」

345: 2015/11/29(日) 17:09:43.68 ID:oyrpMvNz0
<タタッ

柚「ただいま! 準備オッケー、台本バッチリ! 加蓮サン、行こ!」

加蓮「早っ。じゃあ私たちは」

あずき「あっ、じゃあそこのバス停まで一緒に! ……思いついた! ちょっとだけ一緒に歩きましょう大作戦! いい?」

柚「もちろんっ。いいよね、加蓮サン!」

加蓮「ふふっ、どーぞ」

あずき「やったっ!」

346: 2015/11/29(日) 17:10:13.53 ID:oyrpMvNz0
――外――

あずき「じゃあ私はここで! 柚ちゃん、加蓮さん、撮影頑張ってね! あずきも応援しています♪」

柚「あずきチャンの応援があれば百人力だっ」

加蓮「おー珍しい、柚がちゃんと言葉を使ってる」

柚「なにそれ!? アタシがバカだって言いたいのー!?」

加蓮「え? うん」

柚「真顔で言うの禁止! ここ、こー見えてもアタシ赤点取ったことないんだからね!」

加蓮「それ私が教えてるからでしょ」

加蓮「……そういえば学業とアイドルの両立の話とか、プロデューサーならやるべきだったっけ……すっかり失念してた。じゃあ明日にでも」

347: 2015/11/29(日) 17:10:43.83 ID:oyrpMvNz0
柚「加蓮サン加蓮サン。……秘密にしといた方がいいことってあると思うな?」

加蓮「つまり見せられない成績表だと」

柚「個人情報ナントカ法!」

加蓮「うん、今度はいつもの柚だ」

柚「どういう意味ー!?」

あずき「あのぉ~……2人とも、仲良し大作戦なのはいいけど時間はいいの?」

柚「そうだった! もーっ、加蓮サンが余計なこと言うから!」

加蓮「はいはい私が悪かった悪かった。じゃあまたね、あずきちゃん」

柚「まったねー!」

あずき「ばいばーい!」

<テクテク
<テクテク

348: 2015/11/29(日) 17:11:13.49 ID:oyrpMvNz0
柚「~~~~♪」

加蓮「…………」

柚「あれっ?」

加蓮「……? どしたの? 忘れ物?」

柚「ううんっ、そうじゃなくて。加蓮サンとこーして歩くの、なんだかすごく久々カモ?」

加蓮「そうだっけ」

柚「そういえば加蓮サン、ここんとこアタシの現場に来てくれてない!」

加蓮「……最近は柚だけでも大丈夫だって思えるようになったからね」

柚「そ、そお? じゃあ今日はなんでついてきてくれたの? あっ、柚的には大歓迎! むしろずっと着いてきてほしいな。その方が楽しいに決まってるしっ」

加蓮「今日はまあ……ちょっと気まぐれみたいなものだよ、うん」

柚「加蓮サンってそういうタイプだっけ?」

349: 2015/11/29(日) 17:11:43.76 ID:oyrpMvNz0
柚「あっ加蓮サン! あそこのスイーツショップ新作を発表だって!」

柚「現場に入る前に甘いものくれたらアタシもっと頑張れるけどなー、加蓮サンに任されても大丈夫なくらい頑張れるけどなーちらっちらっ」

柚「あ、あれ? そうなったら次からずっとアタシ1人? ……どうしよ加蓮サン!」

加蓮「柚ってたまにすごい方向に話題持ってくよね……残念ながら柚があずきちゃんと喋ってる時間が長すぎたので寄る暇はありません」

柚「えーっ!? ……って加蓮サン、今ウソついた! アタシ知ってるもん。今ならまだ10分くらい余裕があるしっ、それに今日の監督サン、他のアイドルの子が遅れて来てても笑って許してたっ」

加蓮「柚。ああいうのは、顔は笑ってるけど目が笑ってないタイプなんだよ。油断しちゃダメ」

柚「それは分かるけど、でも……」

加蓮「……はいはい。すぐに買えるのがあったらね」

柚「やったー! 加蓮サンやっぱり優しいっ」

350: 2015/11/29(日) 17:12:13.35 ID:oyrpMvNz0
――スイーツショップ・外――

<どれにしよー。時間がないのに悩んじゃうなー

加蓮「…………」


――ずきっ


加蓮「んっ…………」メヲオサエ

加蓮(……今日は事務仕事、そんなにしてないのに。目がやたら疲れてる)

加蓮(それにちょっと歩いただけなのに、座り込みたくなるくらいに……)

加蓮(体調、少し崩してるかな。気をつけよ……)

柚「ただいまーっ! まだ時間大丈夫だよね!?」

加蓮「おかえり。大丈夫大丈夫。シュークリームにしたんだ」

柚「これなら歩きながらでも食べられる♪ はい加蓮サンっ!」ズイ

加蓮「……私の分も?」

351: 2015/11/29(日) 17:12:43.98 ID:oyrpMvNz0
柚「あったりまえじゃん! 2人で一緒に食べよう大作戦! あっあずきチャンっぽく言っちゃった」モグモグ

加蓮「じゃあ、いただきます……」モグ

加蓮「……………………!?」

加蓮「うぷっ……」

柚「うまーっ♪ ねね、加蓮サン。帰りにもここ寄ろう! 帰りの時はショートケーキ買って、事務所に持って帰ってみんなでパーティー――」

柚「……加蓮サン? どしたの?」

加蓮「う、ううん……」ゴクン

加蓮(なに、これ……? 甘いのは確かに苦手だけど、でも、こんな吐き気がするほどじゃ――)

加蓮「あはは……ちょっと一気に入れすぎちゃったかも……」

柚「なにそれ? 加蓮サン、ドジだ! そんなことしてもシュークリームは逃げないよ?」モグモグ

柚「……あーっ! さては先に急いで食べて、アタシの分まで横取りする気かーっ」

加蓮「そこまでがめつくないよ……」

352: 2015/11/29(日) 17:13:13.49 ID:oyrpMvNz0
柚「そっかっ。そうだったカモ。加蓮サン、いっつも差し入れとかアタシに食べなさいって言ってる」

加蓮(……………………)

柚「ね、加蓮サン。あのね――」

柚「そのー、加蓮サンももっとワガママ言っていいかもー、なんてっ」

加蓮「……柚?」

柚「や、その、ほら。アタシいっつも加蓮サンにワガママ言ってるじゃん。今もほら、スイーツショップ寄ろうって……」

柚「アタシだけがワガママ言ってるのってなんかヤダ! 加蓮サンもその……ほら、もっとアタシに言ってみて! きっと叶えてみせるからっ!」

加蓮「……あはは。じゃあ、もっと真面目にレッスンやってほしいなー?」

柚「うぐ」

加蓮「トレーナーさんから、成果はいいんだけど気分屋すぎて困るって報告を受けてるんだけどな?」

柚「そ、それはその、……アタシにできる範囲で!」

353: 2015/11/29(日) 17:13:44.19 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ふふっ。大丈夫。アタシだって柚には無理させてるし、アイドルとして頑張ってくれるだけで十分だよ」

柚「そっかっ。じゃあアタシ頑張るね! あ、でも何かあったら言ってね。もっと頑張ってみるから! ……できる範囲でっ」

加蓮「思いついたらねー」

354: 2015/11/29(日) 17:14:13.62 ID:oyrpMvNz0
――現場――

柚「じゃあ行ってきますっ! アタシの活躍、その目に焼き付けておきなさーい! なんちゃってっ♪」

<タタッ

加蓮「行ってらっしゃい……」フリフリ

加蓮「…………」

加蓮「…………」ハァ

加蓮(……手頃なパイプ椅子を引き寄せて座る。どっと疲れが湧き出てくる)

加蓮(気怠い。1日の終わりにこうなることは多いけれど、今はまだ午後2時――)

加蓮(…………)

<あ、プロデューサーさん。少しいいですか?

355: 2015/11/29(日) 17:14:43.48 ID:oyrpMvNz0
加蓮(ん…………)

加蓮「はい……何ですか?」スクッ

<番組のここの部分と……あと次回収録についてですが――

加蓮(……………………)

356: 2015/11/29(日) 17:15:13.55 ID:oyrpMvNz0
――事務所(日曜日)――

柚「おっはよーっ♪ へへっ、来ちゃった。加蓮サン遊ぼ!」

加蓮「あ、柚……遊ぼって、見ての通り私は仕事中なんだけど?」

柚「加蓮サン仕事しすぎ! ほらほら、3時はおやつの時間♪ たまには息抜きも必要だぞーっ」グイグイ

加蓮「そんなこと言っても……」

P「そうだな。加蓮、たまには休んだらどうだ? お前ここんところずっと出勤してきてるだろ」

加蓮「……プロデューサーってそういうもんじゃないの?」

P「アホぬかせ。俺だって週一で休んでるよ」

加蓮「それはPさんが事務仕事しかしてないからでしょ……っていうか、担当いなくて事務仕事だけでも週一しか休んでないんだ。Pさんこそもっと休んだら?」

P「今のお前には言われたかねーよっ」

357: 2015/11/29(日) 17:15:44.64 ID:oyrpMvNz0
柚「じゃあ、加蓮サンもPサンもお休みってことで! アタシが今決めたっ。3人で遊びに行こ!」

加蓮「うーん……ごめんね柚。どうしても今日締め切りの書類があるんだ。それは片付けないと――」ズキッ

加蓮(……痛っ……目が、やっぱり変……)

P「加蓮? ……おい加蓮!?」

加蓮「な、何よPさん。大げさだな……」

P「やっぱお前、疲れてんだろ。書類ならこっちで巻き取って出しとくから今日は休め」

柚「そーだそーだ!」

加蓮「……もう……。私の分までやったら、Pさん今日は徹夜確定だよ?」

P「俺のことは気にするなー、いいから先に行けー」

柚「あっそれマンガで見た!」

P「男なら一度は言ってみたいセリフ、不動の第一位だな」

358: 2015/11/29(日) 17:16:13.38 ID:oyrpMvNz0
加蓮「でもそれ、言った側に氏亡フラグが立ってるよ?」

P「知らないのか加蓮。プロデューサーは不氏身なんだ」

加蓮「じゃあ私も不氏身じゃん」

P「不氏鳥だって飛び回った後は巣に戻って寝るだろ。そういう時間が必要なんだよ」

柚「見たことあるの?」

P「ない」

加蓮「はいはい……もう。じゃあPさん。……ごめんけど、これ、お願いね」ドサッ

P「おう! ……加蓮の為に無理するのも久々だな。今日はドリンク漬けでやるか!」

柚「おっ、Pサンがやる気モードだ! 前のPサンって加蓮サンのプロデューサーサンなんだっけ?」

P「そうだったよ。思い出すなぁ、最初の頃の加蓮はもう取り付く島もないくらい――」

加蓮「待ってPさん、その話は禁止! ……柚の前では特に!」

359: 2015/11/29(日) 17:16:43.64 ID:oyrpMvNz0
柚「昔の加蓮サン!? なにそれ聞きたい!」

P「初めてのレッスンの時などは、」

加蓮「柚、行くよ! 事務所じゃ休むに休めないでしょ、どこでもいいから早く!」

柚「ぎゃー加蓮サンに連れ去られるーっ。Pサン、後で教えてねっ♪」

加蓮「教えたら1週間くらい徹夜させるからねPさん!」

P「おーう行ってこーい」

<バタン!

360: 2015/11/29(日) 17:17:13.34 ID:oyrpMvNz0
――喜多見柚の家――

加蓮「外に遊びに行くんじゃなかったの?」

柚「それでもいいんだけどー、加蓮サンお疲れみたいだったから! 今日はいっしょに、ゴロゴロしよー」ゴロゴロ

加蓮「…………ん」ヨコニナル

柚「そーいえば加蓮サン、アタシの家に来たの初めてだっけ。どうどう? アイドルの家って感じする?」

加蓮「アイドルの家、って感じはないかなぁ……柚の家って感じだ」

柚「そっかっ」

加蓮「……あのブサイクなぬいぐるみ、何? あんなの持ってた?」

<ピニャ

柚「あー、あははー、あれはえっと、ぴ、ぴにゃ……なんだっけ? ……ぴにゃ!」

加蓮「鳴き声?」

361: 2015/11/29(日) 17:17:43.80 ID:oyrpMvNz0
柚「そおじゃなくてー。あ、思い出したっぴにゃこら太だ! そういう名前のキャラクターなの。穂乃香チャンが大好きなんだ!」

加蓮「え、穂乃香さんが……?」

柚「うん、穂乃香チャンが」

加蓮「そうなんだ。穂乃香さんが、ねぇ。ちょっと意外」

柚「穂乃香チャン、ぴにゃのことになるとすごいんだよ! 前に見た時はベンチに座って、こう、これくらいのサイズのぬいぐるみをさ」コレクライ

柚「ぎゅーって抱きしめて、なんかナデナデしてたもん」

柚「そういう趣味あるんだー、って思って話しかけたら、なんか語りだして」

柚「あそこで忍チャンが来なかったらどうなっていたことか」ヤレヤレ

加蓮「あはは……ホントに意外な趣味……」

柚「忍チャンがね、またかって顔してたっ。なんか忍チャンと穂乃香チャンのプロデューサーサンと顔が似てるんだって。ぴにゃのブサイク顔」

柚「じゃーブサイクだ! って言ったら今度は忍チャンも穂乃香チャンも怒り出すし。もー訳分かんないよね」

362: 2015/11/29(日) 17:18:13.49 ID:oyrpMvNz0
柚「そんでそんで、ちょっと前にゲーセン行ったらぴにゃのぬいぐるみの前で穂乃香チャンが動かなくなって。しょーがないから取ってあげたら、みんなの分ですって言われて渡されちゃって!」

柚「でもこう、こういう風にぎゅって持ってたら落ち着くような――はっ! あ、アタシ穂乃香チャンに洗脳されちゃってる!?」

柚「…………って加蓮サン? おーい、加蓮サン。聞いてるー?」フリフリ

加蓮「ん……聞いてる、聞いてる……」メヲコスリコスリ

柚「……加蓮サン眠たいの? しょーがない、柚のお布団を貸してあげる。じっくり眠れるよ! アタシもよく遅刻しちゃいそうになってお母さんにどやされちゃうんだ」

柚「はい、加蓮サン!」ファサッ

加蓮「ありがと、柚……、…………」zzz

柚「もう寝ちゃった。そっかー、加蓮サンはそんなにお疲れだったかー」

柚「…………」

363: 2015/11/29(日) 17:18:43.45 ID:oyrpMvNz0
柚「…………」ツンツン

加蓮「ぅん…………?」プニプニ

柚「はっ。ついやっちゃってた! もー、加蓮サンが無防備だからいけないんだぞっ」

加蓮「…………くぅ…………」zzz

柚「…………」

柚「……アタシもお昼寝しよーっと」

柚「くぅ」zzz

364: 2015/11/29(日) 17:19:13.44 ID:oyrpMvNz0


……。

…………。

加蓮「…………ううん……?」ガサゴソ

加蓮「…………?」ボー

加蓮「ここ、どこ…………?」

加蓮「…………」キョロキョロ

加蓮「…………」テサグリ

加蓮「ん?」

柚「ぐおー、ぐおー……」zzz

加蓮「柚……?」

加蓮「…………あ、そっか……柚の家、だっけ……」

加蓮「寝ちゃってたか、私……ええと、スマホ、スマホ……」ガサゴソ

<22:19

加蓮「!?」ガバッ

365: 2015/11/29(日) 17:19:43.97 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ちょ――柚、起きて! 柚! もう夜!」

柚「んー、加蓮サン、うっさい……」

加蓮「もう10時なんだけど!?」

柚「じゅーじ? …………10時!?」ガバッ

柚「アタシの晩ご飯は!?」

加蓮「起きて最初に言うとこそれ!?」

加蓮「やっば……ごめん柚、私寝すぎてた!」

柚「加蓮サンったらアタシのお布団に入るなりすぐに寝ちゃってたよー」フワァ...

柚「あっそうだ、加蓮サンも晩ご飯一緒に……って、アタシの晩ご飯ー!」ドタドタ

<ご飯まだあるー!?

366: 2015/11/29(日) 17:20:13.58 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ちょ――柚、起きて! 柚! もう夜!」

柚「んー、加蓮サン、うっさい……」

加蓮「もう10時なんだけど!?」

柚「じゅーじ? …………10時!?」ガバッ

柚「アタシの晩ご飯は!?」

加蓮「起きて最初に言うとこそれ!?」

加蓮「やっば……ごめん柚、私寝すぎてた!」

柚「加蓮サンったらアタシのお布団に入るなりすぐに寝ちゃってたよー」フワァ...

柚「あっそうだ、加蓮サンも晩ご飯一緒に……って、アタシの晩ご飯ー!」ドタドタ

<ご飯まだあるー!?

367: 2015/11/29(日) 17:20:44.49 ID:oyrpMvNz0
加蓮「柚――……もうっ」ハァ

加蓮「…………」

加蓮(……なんだ、これ……!?)

加蓮(柚の家に来たのは……確か、事務所を出たのがだいたい2時だから……30分も歩いてないし……)

加蓮(短くても7時間も寝てたの、私……!?)

加蓮(しかも恐ろしいのが――)

柚「加蓮サン、晩ご飯あるって! それとお母さんが加蓮サンも一緒にって言ってたっ♪ さーさー、晩ご飯の時間ですよー」グイグイ

加蓮「柚……」ズルズル

柚「加蓮サン、自分で歩きなさーい!」

加蓮「……ん…………」

加蓮(これだけ寝て……まだ眠いし、まだ疲れてる……)

368: 2015/11/29(日) 17:21:13.52 ID:oyrpMvNz0
――翌日・街中(月曜日)――

柚「今日も加蓮サンと一緒だっ。前はアタシに任せるって言ってたのにどしたの?」

柚「ははーん、さては加蓮サンも寂しくなっちゃったんだね! アタシがいっつもいないから!」

加蓮「…………ま、ちょっとね」

柚「でもなんだか変なカンジ! 学校休んで、こーして加蓮サンと歩いてるのって。前のアタシじゃ絶対なかったからっ」

加蓮「あはは……」

加蓮「学校か。ここんとこもう全然通ってないなぁ……ずっと忙しかったもん」

柚「そういえば加蓮サンの制服ずっと見てない! う~~~~~ん」

加蓮「……何に悩んでんの?」

柚「え? アハハ、えっとね。加蓮サンの制服も見てみたいけど、スーツ着てアタシと一緒にアイドルやってる加蓮サンもいい感じだから」

柚「捨てがたいな~、迷っちゃうな~、って。ちょっとゼイタクな悩みだっ」

加蓮「ふふっ。一緒にアイドル、か……」

369: 2015/11/29(日) 17:21:43.51 ID:oyrpMvNz0
柚「あっ、そっか。今はアイドルとプロデューサーサンだね! でもいつかは、一緒にアイドル♪」

加蓮「そうだね。そんな日が来るといいね……」

<テクテク
<テクテク

柚「もうちょっとしたらこの撮影も終わっちゃうね。アタシけっこう好きだったんだけどなー。監督サンいい人だし、いろんなスタッフサンいて面白かったし」

柚「終わっちゃうの、ちょっとだけ寂しいな」

柚「……なーんてっ。悩むなんてアタシらしくないっ。だよね、加蓮サン!」

加蓮「…………」

柚「加蓮サン?」

加蓮「え? あ、あはは、そうだね。柚らしくないね」

柚「…………?」

370: 2015/11/29(日) 17:22:13.54 ID:oyrpMvNz0
加蓮「柚はこう、次だー、やるぞー! みたいに構えてなきゃっ」

柚「そーそー。ってことで加蓮プロデューサーサン、次の仕事も楽しみにしてるよっ♪」

加蓮「困ったなー、プレッシャーだなー。アタシ実はそーいうの弱くてさー」

柚「…………」キョトン

加蓮「コラ、何言ってんのって顔すんなっ。私だって緊張する時には緊張するんだから」

柚「そっかなー」

加蓮「大丈夫。柚の仕事はずっと、私が取ってきてあげるから……」

柚「うんうんっ。加蓮サンとならどこまでもいけるね! って、どこまでいけるんだろ? うーん……トップアイドル?」

柚「トップアイドル目指しちゃう? 加蓮サンとならそれも悪くないかなー? どおどお? アタシ、トップアイドルになれる?」

柚「あ、でも加蓮サンがアイドルになったら加蓮サンもライバルになっちゃう。もしかしたら忍チャン達もライバル……?」

371: 2015/11/29(日) 17:22:43.67 ID:oyrpMvNz0
柚「……や、やっぱトップアイドルはもうちょっとだけお預けっ。い、いい? やっぱ、だめ?」

加蓮「……どっちでもいいよ。柚の、やりたいようにやろう。ずっと前からそう言ってるでしょ?」

柚「そうだった! じゃあ今は、もーちょっとフリルドスクエアで楽しく♪ それと、加蓮サンとも楽しくっ」

加蓮「うん。ゆる~くやっていくんでしょ?」

柚「ゆる~く。そうそう、ゆる~く」

<テクテク
<テクテク

柚「あっ、赤信号」

加蓮「…………」ボー、テクテク

372: 2015/11/29(日) 17:23:13.34 ID:oyrpMvNz0
柚「…………って加蓮サン!? あ、赤信号だよ! 車に轢かれちゃうよ!?」グイ

加蓮「え? ……わっ!?」

<ププーッ

加蓮「びっくりしたぁ……! ごめんごめん。ちょっとぼんやりしちゃってた……ありがとね、柚」

柚「ううん。加蓮サン、だいじょぶ? ……も、もしかして昨日のアタシのいびきがうるさくてあんまり寝られなかったとか!?」

加蓮「大丈夫だってば……。いびきはうるさかったけど」

柚「ギャー! ごごごごめんっ。うー、恥ずかしいっ」

加蓮「うるさすぎて鼻と口を塞いでやろうかって思ったよ」

柚「それだと柚氏んじゃうよ!?」

加蓮「大丈夫大丈夫。柚なら大丈夫」

柚「どゆこと!?」

……。

…………。

373: 2015/11/29(日) 17:23:43.57 ID:oyrpMvNz0
柚「青信号だっ。そろそろ現場に着いちゃうし、ここでアイドルモード! ささ、今日も楽しんでいこっ。ファンのみんなとー、スタッフサンと、あと加蓮サンも!」

加蓮「うん……今日も期待してるね、柚」

柚「あいあいさー!」タタッ

加蓮「あ、こら、ちょっと待ちなさ――」テクテク

――ずきっ

加蓮(っ……!)

柚「加蓮サンおそーい!」

加蓮「走れないんだから、ちょ、待ってよっ……」テクテク

374: 2015/11/29(日) 17:24:13.63 ID:oyrpMvNz0
――翌日・事務所(火曜日)――

柚「ただいまーっ!」

加蓮「ただいま、戻りました……」フゥ

P「おかえり、加蓮、柚ちゃん。撮影はどうだ?」

柚「お昼からずっとだったから疲れちゃったけど、でも結果はバッチリ! だよね、加蓮サンっ」

加蓮「柚が4回くらいカット食らってたね。セリフ飛んだのと噛んだのと転んだのと、あとは――」

柚「わーっ! な、なんで覚えてるのっ。アタシの恥ずかしいことばっかり~!」

加蓮「プロデューサーだもん、覚えてて当然……」ズキ

加蓮「……っ……」

P「……加蓮?」

375: 2015/11/29(日) 17:24:43.75 ID:oyrpMvNz0
加蓮「あ、あはは。ちょっと疲れちゃった……。でも、報告書を作らなきゃ……」

P「加蓮」

加蓮「柚の活躍、たくさん書かなきゃね。もっと仕事がいっぱい来るように――」

P「加蓮!」柚「加蓮サンっ!」

加蓮「!」ビクッ

加蓮「……な、なに?」

P「加蓮。報告書は明日でいい。もう夕方だし、今日は帰って休め」

柚「そーそーっ。あ、そうだ、またアタシの家でお泊り会やる? お母さんももっと加蓮サンと話してみたいって言ってたし、そうだ、今日はシチュー作るって言ってた!」

柚「いきなり加蓮サンが来てもきっとだいじょーぶ! だからほらっ、行こ? ねぼすけ加蓮サンはアタシが起こしてあげるから!」

加蓮「あはは、いいってば……でもそっか、シチューかぁ」

柚「おっ、気になっちゃう感じ?」

376: 2015/11/29(日) 17:25:13.31 ID:oyrpMvNz0
加蓮「あはは、ちょっとだけっ? 前に柚の家でもらった晩ご飯、すごく美味しかったからさ~」

柚「じゃあまた一緒に食べよう! 大丈夫大丈夫。加蓮サンが意外とくいしんぼだってことは知ってるから♪」

P「あ、それ俺も知ってる」ハイ

加蓮「……柚のお菓子好きには負けるよ、もう超大負けだよ」

柚「じゃあ加蓮サン頑張ってもっとくいしんぼになろう♪ ほら、加蓮サン、負けるの大っ嫌いって言ってたしっ」

加蓮「やー、実力差がありすぎてやる気にもならないなぁ」

P「その方がむしろ燃えるタイプだろ何言ってんだお前」

加蓮「Pさんうっさい」

P「はっはっは」

柚「Pサンも一緒に来る? あ、でもいきなり男の人が来たりしたらお母さんに誤解されちゃうかもっ。でもみんなで晩ご飯も食べたいしー、うーん」

加蓮「それ以前に男の人を家に連れ込んだら一発でスキャンダルでしょ」

377: 2015/11/29(日) 17:25:44.09 ID:oyrpMvNz0
P「ちょっと疲れてるから迎えに来てーってしょっちゅう言ってたお前が言うと変な感じがするな」

加蓮「昔の話は禁止だってばー! ホントに徹夜させるよ!?」

P「おっとつい」コウサンノポーズ

柚「スキャンダルは困っちゃうなー。じゃあ今日は加蓮サンだけ! Pサンの分はー、事務所に持ってくるってことで! そんでみんなでお昼ごはんだ。いいっ?」

P「はは、ありがとうな柚ちゃん」

加蓮「でもアンタ、明日と明後日は夕方からのレッスンだけだから学校に行くんじゃ……」

柚「そーだった! 金曜日……は撮影だ。じゃあ土曜日! えとっ、お昼からの撮影だったハズ! だよね加蓮サンっ」

加蓮「そーだね。その日のお昼ごはんなら大丈夫なんじゃない?」

P「おし。じゃあ俺も久々に手料理を振る舞うか!」

加蓮「Pさんって料理できたの?」

P「おう。チャーハンだけだが」

加蓮「ふーん。男の人って感じだ…………」

378: 2015/11/29(日) 17:26:13.84 ID:oyrpMvNz0
――ずきっ

加蓮(っ…………)コメカミオサエ

柚「で、どうなったんだっけ? えっと……そうそう、加蓮サンを喜多見家にご招待♪ 急がないと日が暮れるぞー?」グイグイ

加蓮「もう……。ごめんねPさん。報告書、明日出すから……」ヒキズラレ

P「おーう」

379: 2015/11/29(日) 17:26:44.51 ID:oyrpMvNz0
――翌日・事務所(水曜日)――

加蓮「…………」カタカタ

P「…………」カタカタ

加蓮「…………よしっと。Pさん、報告書できたよ。はい」

P「おう、すぐに見とく――っておい加蓮。これ、日付が昨日になってるぞ」

加蓮「げ……」

P「ああ、ぜんぶチェックしてからでいいよ。別のミスもあったら一気に修正した方が楽だろ?」

加蓮「そだね。チェックお願い、Pさん」

P「おーう。少しは休憩しろよー?」

加蓮「分かってまーす」

加蓮「…………」カタカタ

加蓮「…………」メールチェック

――ずきずきっ

加蓮(っ…………)

380: 2015/11/29(日) 17:27:13.64 ID:oyrpMvNz0
加蓮(……大丈夫、大丈夫……ずっと柚のプロデューサーをやってきたんだ。いつか一緒にアイドルやるって約束してるんだ)

加蓮(大丈夫――大丈夫……)

加蓮(柚だって上向きの絶好調なんだ。焦ることなんて、何もない――)

――ずきずきっ

加蓮(大丈夫……っ……! 頭が痛いのだって、ただの風邪で……)

――どくんっ

加蓮(心臓がうるさいのだって、ちょっと調子崩してるからで……!)

加蓮(今日こそ……寝たら治るんだ……。家に帰って寝たらまた、いつもの私になっていて)

加蓮(走ることはできないけど、夜になったらもうヘトヘトだけど、でもそんな私と上手く付き合っていくんだ)

加蓮(今すぐアイドルには戻れないかもしれない。でも、プロデューサーならできる)

加蓮(柚の面倒を見ながら、ちょっとずつ回復して、そしていつか――)

――どくんっ

381: 2015/11/29(日) 17:27:43.77 ID:oyrpMvNz0
<ガチャ

柚「こんにちはーっ! あっ加蓮サン! 時間大丈夫だよね!? へへっ、ちょっと友達に捕まっちゃってた。まだレッスンの時間じゃないよね?」

加蓮「柚……ふふっ。大丈夫、まだ、10分前――」

柚「って加蓮サンどしたの!? 汗びっしょり!」

P「!」

加蓮「あはは……どうしてだろ。ほら、最近ちょっと暑くなってきたし……そのせいかもね……」

P「本当だ……! お前どうしたんだこの汗、普通じゃないぞ!?」

加蓮「Pさん……あんまりジロジロ見ちゃダメだよ。こら、そんな近くから見んなっ」

P「…………なあ加蓮。お前、最近ちゃんと病院に行ってるか? 検診を受けてるか?」

加蓮「そんな暇どこにあるの。私は平気だし、柚を見てなきゃ……今日だって、レッスン見てないとこの子すぐにサボるんだよ。面白くなーい、とか言って」

柚「や、やだなぁ加蓮サン、最近はそんなにサボってないもんっ」

382: 2015/11/29(日) 17:28:13.48 ID:oyrpMvNz0
加蓮「とにかく私は大丈夫だから。柚も。時間も大丈夫だから、ほら、ゆっくり準備して行くよ。トレーナーさんが待ってるから早く行かなきゃ……」

柚「う、うんっ。着替えてくるね!」タタッ

<バタンッ

P「お、おい加蓮? 言ってることがメチャクチャだぞ!? ちょっと休め、柚ちゃんなら俺が見とくから――ああそうか、暑いんだったな。クーラー、はまだつけるなって言われてるし、くそ、部長あたりにでも連絡をして特別にこの部屋だけ――」

加蓮「いいってば……。私をプロデューサーにした時、メチャクチャ無理を言ったんでしょ? いいって」

加蓮「とにかく私は大丈夫だから。……ね?」

P「…………だがな……」

383: 2015/11/29(日) 17:28:43.36 ID:oyrpMvNz0
<バタンッ

柚「準備オッケー! 加蓮サンは……えっと、大丈夫、なの……?」

加蓮「大丈夫。さ、行くよ柚。今日こそサボらせないんだからね」グイグイ

柚「わ、わっ、こける、こけちゃうっ。待って加蓮サン!」ヒッパラレ

<バタンッ

P「加蓮…………」

384: 2015/11/29(日) 17:29:13.39 ID:oyrpMvNz0


加蓮(そう、大丈夫。昨日も今日も明日もちゃんと続いていく。ちょっと体調を崩してるだけだ。すぐに治る)

加蓮(何も、焦ることなんてないんだ――)

加蓮(何も――)

加蓮(何も…………)

加蓮(…………)


その時間は、本当に続くの?

385: 2015/11/29(日) 17:29:43.47 ID:oyrpMvNz0
――レッスンスタジオ――

加蓮「あれ、トレーナーさんまだ来ていないね」

柚「早く来すぎちゃったかも? じゃーアタシストレッチやっとこーっと」グイッグイッ

加蓮「…………」

加蓮(…………)

加蓮「…………ねえ、柚」

柚「んー?」

加蓮「その……トレーナーさんが来るまででいいからさ、ちょっとだけ……」

加蓮「ちょっとだけ、振り付けの確認だけでいいからさ」

加蓮「その……私も一緒にやってみていい?」

柚「加蓮サンも?」

386: 2015/11/29(日) 17:30:13.42 ID:oyrpMvNz0
柚「…………」エーット

柚「!」

柚「ってことは、加蓮サンもアイドルやるの!?」

加蓮「ほら――約束、したからさ。約束は叶えなきゃ」

加蓮「柚みたいなぎゅいぎゅいしたダンスは今すぐできなくても、ちょっとずつなら……やらなきゃ…………」

柚「やったーっ!! やろやろ! 今日から加蓮サンもアイドルだ! きっと奈緒サンも喜ぶよ! あと、凛サン? って人も!」

加蓮「うん……奈緒とも約束したもんね。凛にだって、いつか病気を治して戻ってくるって言ってるし――」

柚「アタシもアタシも!」

加蓮「もちろん。柚と一緒にアイドルやるって、それも約束」

387: 2015/11/29(日) 17:30:43.94 ID:oyrpMvNz0
加蓮「よいしょ、っと。えっと、ステップってこんな感じだっけ?」タッタッ

柚「そうじゃないよー。こう、びしっ、びしって感じ!」ビシッビシッ

加蓮「ん……あはは、久しぶりだから難しい、」

――どくんっ

加蓮「ね………………」ドサッ

柚「……………………え………………?」

388: 2015/11/29(日) 17:31:13.74 ID:oyrpMvNz0


――大丈夫。
昨日も今日も明日も明後日も1週間後も1ヶ月後も1年後も、ずっと続いていくんだから。
何も、焦ることなんてないんだ。
何も――

だから。

やれる間にやれることを、なんて、考えなくてもよかったのに。


柚「…………加蓮、さん? 加蓮さん!? どしたの、加蓮さん!? ねえっ!!」


それとも、私は、本当は、

389: 2015/11/29(日) 17:31:44.05 ID:oyrpMvNz0
――病院――

……。

…………。

………………。

加蓮「…………ん……」

加蓮「…………」キョロキョロ

加蓮(白い天井。無機質な部屋。清潔すぎる臭い)

加蓮「げぇ…………」

加蓮(……病院の一室だ。昔、私がお世話になっていた場所)

加蓮(担当の医師が、この部屋はいつでも私用に空けている、とか言っていたが……あれは冗談じゃなかったのか)

加蓮(冗談じゃない)

390: 2015/11/29(日) 17:32:13.73 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ん…………」チラ

加蓮「4時…………」

加蓮「……よいしょ、っと……」


――どくんっ!


加蓮(っ…………)

加蓮「テレビを点けて、っと……」

<金曜日、夕方のニュースを――

加蓮「金曜日?」

391: 2015/11/29(日) 17:32:44.24 ID:oyrpMvNz0
加蓮(確か、柚の家にお邪魔したのが日曜日。撮影についていって、その次の日に……月、火、水……)

加蓮「2日も経ってる!? 待って、撮影、あとレッスンっ。柚――!」


――どくんっ!


加蓮「うるさいッ!!」


……。

…………。

………………。

392: 2015/11/29(日) 17:33:13.48 ID:oyrpMvNz0
<コンコン

「北条さーん、そろそろ起きて――え?」

「…………え?」

393: 2015/11/29(日) 17:33:44.15 ID:oyrpMvNz0
――事務所への道――

加蓮(病院なんかに閉じ込められててたまるか。今の私はプロデューサーだ。あんな何もできないところにいる暇なんてない)テクテク

加蓮(身体はガタガタだけど、大丈夫。今までだってこういうことはあった)テクテク

加蓮(アイドルをやってた時だって――あの日が来るまでは、ちゃんとこの身体と付き合ってきた。すぐにバテるけど、すぐにできないことにぶつかるけど、でもちゃんとアイドルをやっていた)テクテク

加蓮(プロデューサーになってからだって……確かにすぐ疲れることに変わりはなかったけど、でも今までやれてきたんだ)ハァ、ハァ...

加蓮(大丈夫。事務所に戻って、それから、いつも通りにプロデューサーを続けよう)テクテク

加蓮(焦ることなんてない。時間なんていくらでもあるんだ。倒れた時は――ありえない想像につい焦っちゃっただけだ)ハァ、ハァ...

加蓮(歩いて、歩いて、そしていつか、柚の隣に――)テクテク

394: 2015/11/29(日) 17:34:13.65 ID:oyrpMvNz0
――事務所――

<ガチャ

P「……! か……れん? おい加蓮!? お前、病院に――っていうかおい、加蓮……!?」

加蓮「こんにちはっ、Pさん。ふふっ、ごめんね。ちょっと疲れが溜まっ」


――どくんっ!


加蓮「ちゃっ、って…………」フラッ

P「加れ――」


――ばたん

395: 2015/11/29(日) 17:34:43.67 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

……。

…………。

396: 2015/11/29(日) 17:35:13.42 ID:oyrpMvNz0
――病院――

「目が覚めたかな?」

……。

…………。

加蓮「ん…………」メヲアケル

加蓮「…………病院……」

「そう。病院だ。いつものキミの部屋」

「久しぶりだね加蓮ちゃん。検診、またサボっていたじゃないか。お母さんとお父さんに叱られちゃうよ?」

「またいつかみたいに病院で怒鳴り合うなんてこと、やってほしくはないんだけどねぇ……」

加蓮「…………」ボー

加蓮「ああ……そういえば最近、やってもらってなかった、っけ……」

加蓮「…………」

397: 2015/11/29(日) 17:35:43.62 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ねえ……今日、何月何日?」

「キミが運ばれて来て3日後だ」

加蓮「……!」ガバッ

「ストップ」

「主治医として、今のキミを行動させる訳にはいかない」

加蓮「…………」ギロ

「…………」ヤレヤレ

「前に言っただろう? キミは生きているのが不思議な方だと」

「まどろっこしいのは嫌いだったね。じゃあ結論から言おう」

「今日は絶対安静。何があってもそこから動くな。下手に動いたら極太の点滴針で縫い止める」

加蓮「仮にも、医者の言うことか…………」

398: 2015/11/29(日) 17:36:13.64 ID:oyrpMvNz0
「キミが今どういう立場にあるかは……プロデューサーさんとやらから聞いたけれど、2度と動けない身体にはなりたくないだろう」

「明日以降は……、…………さて、主治医としては安静にしていろと言いたくなるけど……」

「お陰で子供の隠れ場所に詳しくなってしまった身としては、どうしたものか」

「動くな、と言っても、どうせどうにかして逃げ出すだろ、キミ」

加蓮「…………」ギロ

「分かった分かった。何も言わない。激しい運動だけは厳禁だ。それ以外は――繰り返すが、キミは生きているのが不思議な方なんだ」

「それを肝に銘じていれば、私からは何も言わないでおこうかな」

加蓮「…………」

「……キミが倒れている間に2人のお客さんが来た。昔、キミが大げんかしていたプロデューサーさんとやらと、キミくらいの歳の女の子だ」

「2人ともひどくキミを心配していた。女の子の方は泣くのをずっと堪えていたみたいだね」

399: 2015/11/29(日) 17:36:43.79 ID:oyrpMvNz0
「いいかい。キミがどんな行動を取ろうと――主治医としてはともあれ、私個人としては何も言わない。キミが動きたがる気持ちも分かる」

「ただ、覚えておくといい」

「どんな形であれ、人は人と関わりを持つと、自分が自分だけの物じゃなくなる」

「キミが傷つくと、それ以上に傷つく人がいる」

「キミはキミだけの物じゃない」

「何をするべきか、考えるようにね」

「……それとも、もっと直接話法で言った方がいいかい? 慣れたこととはいえ、できれば私はそれを言いたくない。まして幼稚園に入るよりも前の縁のキミには」

加蓮「いい」

「そうか。じゃあ、私は他の患者のところに行ってくるから……少し考えなさい」

「主治医としては絶対安静としか言いようがないけれど――」

400: 2015/11/29(日) 17:37:13.51 ID:oyrpMvNz0
「…………では、また後で」

<ガチャ

加蓮「…………」

加蓮「………………ずっと、続いてきたんだ」

加蓮「昨日も今日も明日も、続いていくんだ……」

加蓮「ずっと、ずっと…………」

加蓮「だから――」

加蓮「泣くことなんて、ないんだっ…………!」

402: 2015/11/29(日) 17:37:45.03 ID:oyrpMvNz0
――翌日 病院・加蓮の個室(火曜日)――

<ドタドタドタ
<ここは病院ですよ!

<ガチャ

P「加蓮!」柚「加蓮サン!」

加蓮「……Pさん、柚…………」ムク

P「ああ、いい、そのままでいいぞ加蓮、横になっていろ!」

加蓮「そうはいかないよ……2人の顔、ちゃんと見たいもん」

加蓮「ふふっ。何を急いでるんだか。さっき看護師さんに叱られたでしょ。……私が、氏んじゃったとでも思ってたの?」

P「お前……お前なああぁ…………!!」

柚「アタシ達ものすごく心配したんだよ! しかも加蓮サンっ病院から逃げて事務所に来たってPサン言ってたしその後にここに来ても合わせられないからって言うし!」

P「なんであんなことしたんだよ! お前……病院から逃げ出すとか! 倒れたならせめて大人しくしとけよ……!」

加蓮「……ごめんなさい」

403: 2015/11/29(日) 17:38:13.55 ID:oyrpMvNz0
加蓮「柚のことを思い出したら、いてもたってもいられなくなって」

柚「そんなのアタシぜんぜん嬉しくないっ!!」

加蓮「…………」

柚「ホントだよ! 加蓮サンっ……約束なんてもっと後でいいよ! 後でいいんだから……!」

加蓮「……そうだよね……時間なんて、いくらでもあるのに。ちょっと私、焦っちゃったな」

加蓮「ほら、柚がどんどん遠くに行っちゃうみたいで」

柚「アタシずっと加蓮サンのとこにいるから! 今日も、ほら! 着替え持ってきた! アタシここに泊まるからね!」

加蓮「あのね、そんなこと――」

P「それが加蓮、残念ながら主治医が了承済みだ」

加蓮「……マジ?」

P「あの人すげえな。柚ちゃんががっくがっく揺さぶっても微動だにせず了解してくれたからな」

柚「オトナの女の人って感じだったね。とにかく加蓮サン、アタシずっとここにいるからね!」

404: 2015/11/29(日) 17:38:43.97 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……ふざけんな。アンタはアイドルでしょ」

柚「加蓮サンの友達だもん!」

加蓮「…………」

柚「…………」

加蓮「…………今日だけだよ。まだ撮影の途中でしょ? 明日からは、現場に行きなさい」

柚「でも――」

加蓮「柚。アイドルが向かないといけないのは、どっちの方?」

柚「……………………わかった」

加蓮「ん。よろしい」

405: 2015/11/29(日) 17:39:13.68 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……その、こういうこと、よくあるんだ、私。最近は安定してたけどな……」

加蓮「昔、小さい頃なんてホントに入退院を繰り返してたの。そういえば話してないんだったっけ」

加蓮「心配させてごめんね、柚」

柚「ホントだよ! 加蓮サンが倒れた時とかもうホント、どしたらいいのか分かんなかったもんっ……」

柚「ねえ加蓮サン……加蓮さん。大丈夫、なんだよね? 氏んじゃったりしないよね? いなくなったりしないよね……?」

加蓮「……もし、私が氏んだら」

柚「――っ」ブルブル

加蓮「……そっか。じゃあ、氏ぬ気で生きなきゃ。氏ぬ気で生きて、柚をプロデュースしなきゃ」

P「加蓮。主治医からは何か聞いているか?」

加蓮「何か、って?」

P「……いや、いい。全快するまでゆっくり休んでろ。その間のことは俺がやるから」

406: 2015/11/29(日) 17:39:44.20 ID:oyrpMvNz0
P「加蓮がいない間は臨時で柚ちゃんにつくけど、それくらいは許してくれよ」

柚「えとっ……う、うん、分かった。お願いします、Pサン!」

加蓮「残念だねPさん。柚はPさんよりも私の方が好きみたいだ」

P「これは一本取られたなぁ」ハハハ

柚「え、えーっ、そんなことないよ? もー照れちゃうなっ」

加蓮「ふふっ」

P「ははっ」

柚「……へへっ♪」

407: 2015/11/29(日) 17:40:13.54 ID:oyrpMvNz0



P「じゃあ俺は事務所に戻るけど、何かあったらすぐ連絡してくれよ柚ちゃん。飛んで行くから」

柚「あいあいさー!」

加蓮「ちょっと。そこは私に言うところじゃないの?」

P「お前、何かあっても連絡してこねえだろ……」

加蓮「うっわ信頼ないなぁ」

柚「だいじょーぶ、アタシがちゃんと見張っとくから!」

P「頼む。本当は俺もついていてやりたいんだが……加蓮の分の仕事もあるしな。明日も来るからな、加蓮!」

加蓮「むしろ私から事務所に行ってやるっ」

柚「こらーっ! 加蓮サンは絶対安静! 治るまで寝てろーっ」グイ

加蓮「むぅ…………」

P「俺のことは気にするなって。じゃあな」

<ガチャ

408: 2015/11/29(日) 17:40:43.35 ID:oyrpMvNz0
加蓮「はぁ…………」

柚「…………」

加蓮「…………柚?」

柚「…………」ギュ

柚「ホントに……大丈夫なんだよね? 加蓮サン」

柚「いなくなったり、しないよね?」

加蓮「……当たり前でしょ。まだまだ、アンタ1人じゃ不安なんだし……それに約束――」

柚「そんなの後でいいよ!」

柚「後でいい、から…………!」

加蓮「……柚が、そう言うなら」

柚「うん……」

409: 2015/11/29(日) 17:41:13.52 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………」

柚「…………」

加蓮「…………」

柚「…………」

410: 2015/11/29(日) 17:41:43.33 ID:oyrpMvNz0
――翌日 病院・加蓮の個室(水曜日)――

加蓮「…………」(ぼーっと窓の外を見る)

加蓮「…………」

加蓮「…………」

<コンコン

加蓮「どうぞー」

<ガチャ

柚「加蓮サン、いる~?」ソロー

加蓮「柚?」

柚「いた! 加蓮サン、やっほ、ぅ…………」

柚「…………」

加蓮「……? どうしたの? ん~~~今さ、ヒマでヒマでしょうがないから窓の外を見てたんだ。雲が流れてるな~、って」

加蓮「だから柚が来てくれて助かったよ。ふふっ、退屈なんて――」

柚「…………」

411: 2015/11/29(日) 17:42:13.49 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………柚? どうしたの?」

柚「う、ううんっ。あのねっ、今日もいろんなことがあって、加蓮サンといっぱい話したいって思ってたんだけど……」

柚「加蓮サン見たら、なんか……」

柚「…………加蓮サンが……どっかに、消えちゃいそうで…………」

加蓮「……柚……」

柚「そ、そーだ! これお土産! 学校の帰りに買ってきたの。アップルパイ! コンビニに売ってたんだっ」

柚「そんでー、こっちがアタシの分! あむっ」パクー

柚「……うまー♪ あっでも前に忍チャンと一緒に行ったお店の方が美味しかったカモ?」

加蓮「…………」ジー

柚「それ、加蓮サンにあげる。一緒に食べよっ」

加蓮「ん……じゃあ、少しだけ」

412: 2015/11/29(日) 17:42:43.51 ID:oyrpMvNz0
柚「へへっ」ガサゴソ

柚「はい、加蓮サン。あーんっ♪」

加蓮「あーん……」モグモグ

加蓮(……よかった。前みたいな吐き気はない)

加蓮「って、自分で食べれるよ。子供じゃないんだし……ってシーツにボロボロこぼれてるし! 後で怒られちゃう!」ガサゴソ

柚「もいっこ、あーん♪」

加蓮「あー……」モグモグ

加蓮「いやだから自分で食べられるってば!」

柚「まあまあ。加蓮サンがお仕事してる時もこうやって食べさせてあげるよ?」

加蓮「やめろ! Pさんに大笑いされるし!」

柚「あははっ」

413: 2015/11/29(日) 17:43:13.57 ID:oyrpMvNz0
柚「ね、加蓮サン。ちょっと外に出ようよ!」

加蓮「外?」

柚「そそ。ずっとここにいたら息がつまっちゃうよ。アタシとお散歩! それくらいならいいでしょ?」

加蓮「まあ、中庭を歩くくらいなら……歩ける、かなぁ……」

柚「……そんなに、ひどいの?」

加蓮「ひどいっていうか、体力が空っぽなんだ。歩けなくはない……うん、大丈夫だけどね。ちょっとだけなら――」

柚「あ、そーだ! じゃあアタシ"アレ"借りてくる! ちょっと待ってて加蓮サン!」タタッ

<バタン!
<タタタッ
<ここは病院ですよ!
<ごめんなさーい!

加蓮「…………"アレ"って?」

414: 2015/11/29(日) 17:43:43.45 ID:oyrpMvNz0
――病院の中庭――

加蓮「そっか、アレって車椅子のことだったんだ」(車椅子に乗ってる)

柚「うんうん♪ ドラマとかでよく見るじゃんこーいうの。アタシやってみたかったんだ」(車椅子を押してる)

柚「でもアタシ乗る方がよかったかも。加蓮サン加蓮サン、交代しない? ちょっとだけ!」

加蓮「何の為にこれ借りてきたのよ……」

柚「えーと、加蓮サンが歩くと疲れちゃうから? ……あ、そっか!」

加蓮「ふふっ」

加蓮「…………でもこれ、落ち着かないなぁ」

柚「そーなの?」

加蓮「自分の足で歩いてたもん。ずっと。昔から入院退院してばっかだったけど、車椅子ってことはほとんどなくて……」

加蓮「それに、これさ。柚と喋ってても柚が見えないから、すごく変な感じ」

柚「じゃあ加蓮サンが寂しくないように柚がガンガン喋っちゃうね!」

415: 2015/11/29(日) 17:44:14.06 ID:oyrpMvNz0
加蓮「別に寂しい訳じゃ……あ、でも柚の話は聞いてみたいな。どう? 上手くやれてる?」

柚「うんっ! 加蓮サンがいつ戻ってもいいようにしてる! 撮影は順調だしレッスンも! それからね、またフリルドスクエアでのLIVEが決まったんだ!」

加蓮「へえ……後でPさんにスケジュール確認しとこ」

柚「しあさってに穂乃香チャンとこに行くんだ。次のLIVEはあずきチャンが主役! フリルドスクエアの新人サンだもんねっ。あっ、ってことはアタシ先輩!?」

柚「あずきチャンにしっかり教えなきゃっ。ふっふっふ~、芸能界は厳しいとこなんだぞ~?」

加蓮「いや、あずきちゃんだって前からアイドルやってたんでしょ……」

柚「例えば~、ツノを生やすプロデューサーサンがいたり~」

加蓮「おい、それ誰のことだ」ゴゴゴゴゴ

416: 2015/11/29(日) 17:44:43.48 ID:oyrpMvNz0
柚「ギャー! い、いい今の加蓮サンのことです! 顔見えないけどなんかごごごごごってのが出てる! なんか出てる!」

加蓮「はー……」

柚「しあさってのレッスン、楽しみだなー。また加蓮サンに教えてあげるね!」

加蓮「…………」

柚「ちょっと休憩!」ピタッ

柚「へへっ」テテッ

柚「やほっ加蓮サン! 10分ぶり!」ニパッ

加蓮「……やっほ、柚。やっぱり柚の顔を見てる方が落ち着くね」

柚「そう~? じゃあ柚、癒し系? 癒やされちゃう?」

加蓮「癒されちゃう癒やされちゃう」

柚「そっかー」

417: 2015/11/29(日) 17:45:13.28 ID:oyrpMvNz0
加蓮「一家に一台、癒し系柚」

柚「アタシは1人しかいないよー。だから、加蓮サン専用だね!」

加蓮「えー、私はこんなやかましいのは家に置きたくないなー」

柚「あれー!? アタシいらない子!?」

加蓮「家に置いといたらアタシのお菓子とかぜんぶ食べられそうだし」

柚「半分こ半分こ! ねっ。半分こしよ!」

加蓮「それならいっか」

柚「えっと……アタシ、いる子……だよね?」

加蓮「いる子いる子。早く退院して、また柚のプロデュースをしたいな」

柚「……うんっ。アタシも! 加蓮サンとこーして喋って、そしたらすごいやる気が出るんだ。やっぱり、加蓮サンがいないとね!」

加蓮「そう? もう1人でもやっていけるんじゃないの~? 私がいなくてもアイドルうまくやれてるみたいだし?」

418: 2015/11/29(日) 17:45:43.44 ID:oyrpMvNz0
柚「ムリっ。アタシがアイドルやれてるのは加蓮サンがいるからだよ。アタシ1人じゃなんにもできないよ」

加蓮「できるできる。もうベテランアイドルじゃん」

柚「ベテランなんて照れちゃうなー、ってそうじゃなくてー! それにアタシ1人だったら、絶対、やる気が続かないっ。3日で逃げちゃうもんアタシ。そーいう時に怒ってくれる人がいなきゃ!」

柚「あ、でも柚のことはもっと甘やかしてほしいな。柚は甘えられたい系!」

加蓮「じゃあ、柚。ほら」クイクイ

柚「うんっ」

加蓮「うぅ、手が届かない…………」プルプル

柚「じゃあ、もっと!」グイ

加蓮「あ、届いた……よーしよーし」ナデナデ

柚「えへへぇ」

419: 2015/11/29(日) 17:46:13.72 ID:oyrpMvNz0
加蓮「柚はいつも頑張ってるね……いつも、ありがとね。すぐに回復して事務所に戻るから……ちょっとの間だけ、ごめんね?」

柚「許す!」

加蓮「許されちゃったかっ」ナデナデ

加蓮「…………」ナデナデ

加蓮「……もしも…………」

柚「?」

加蓮「なんでもない」ナデナデ

柚「えへへぇ…………はっ!」バッ

柚「…………」キョロキョロ

加蓮「ん? ああ、大丈夫大丈夫。誰もこっちのことなんて気にしてないし……」

加蓮「相変わらず周りの目が気になるんだね」

420: 2015/11/29(日) 17:46:43.44 ID:oyrpMvNz0
柚「う、うんっ。加蓮サンだから甘えられるの! 他の人に見られるなんてムリっ」

加蓮「そっか……」

加蓮「……じゃ、続きは病室でやろっか。あそこなら誰もいないから、見られることもないよ」

柚「加蓮サン、グッドアイディア! じゃー戻ろっ!」グイグイ

加蓮「うん……」

421: 2015/11/29(日) 17:47:13.75 ID:oyrpMvNz0



からころからころ……

柚「加蓮サンを運ぶのちょっと楽しいかも。ねね、退院してからも車椅子、使わない?」

加蓮「えー? やっぱり自分で歩きたいよ……それならさ、どうしても疲れて動けない時にはお願いしちゃおっかな」

柚「オッケー! いつでも言ってね。柚タクシー、24時間いつでも加蓮サンの為に待ってます!」

加蓮「ふふっ、なにそれ……」

加蓮「…………」

加蓮(……………………)

422: 2015/11/29(日) 17:47:43.49 ID:oyrpMvNz0
――病室・夜――

加蓮「ん…………」ネガエリ

加蓮(……寝られない……)

加蓮(眠たいけど、なんだか、寝られない……)

加蓮「よいしょ、っと……」オキアガル

加蓮「トイレ…………」テクテク

423: 2015/11/29(日) 17:48:13.71 ID:oyrpMvNz0
<バタン

加蓮「…………」

加蓮「…………」ベッドニモグル

加蓮「…………」ガサゴソ

<00:13

加蓮「…………静かにすれば、いいかな……」ポチ

<トゥルルル,トゥル ガチャ

P『もしもし!? 加蓮!? どうした!?』

加蓮「……あはっ。慌てすぎだよ、Pさん。別に何もないよ」

P『そ……そうか。よかった……』

加蓮「な、なんかごめん。ちょっとその……眠れなくて。なんとなく電話してみただけなんだ。やっぱり、迷惑だった?」

P『いや。ちょうど酒を飲んでてさ、誰かと話したくなったところだったんだ。ナイスタイミングだぞ、加蓮』

424: 2015/11/29(日) 17:48:43.77 ID:oyrpMvNz0
加蓮「お酒かー。あと数年したら私も飲めるんだっけ……なんだか現実味がないなー」

P『なんだったら退院してからちょびっと飲んでみるか? はは、大丈夫。俺なんか高校の頃から隠れて飲んでたからな、ははは』

加蓮「…………酔ってる?」

P『ちょっとなー』

加蓮「そ、そう」アハハ

P『んでー? どうしたんだよ。早く寝ないと調子崩すぞ?』

加蓮「酔っててもそれなの……? ごめん、ホントになんでもないの。ちょっと電話してみただけ」

P『ハァ? そんな訳あるかー』

加蓮「はい?」

P『お前がなんでもないって言って、なんでもなかったことなんてないぞー? 俺は加蓮の担当で上司だからな、知ってんだぞー? はは』

加蓮「…………」

425: 2015/11/29(日) 17:49:13.60 ID:oyrpMvNz0
P『お前は昔っからそんなんだからなぁ。歳不相当っつーか、諦観主義っつーか。いや、少し違うかー』

P『まあいいや。ほら、どうせてっぺん越えてんだ、話せ話せ。ゲロって楽になっちまえ』

P『それとも今からそっち行くかー? 上司と部下、たまには交流を深めてみるか! はは』

加蓮「そんなことしなくていいよ。もう病院だって閉まってるだろうし……それにPさん飲んでるんでしょ? 飲酒運転になっちゃうよ?」

P『おお、危ないところだった。さんきゅーな加蓮』グビグビ

加蓮「ど、どういたしまして……」

加蓮「…………」

P『…………』グビグビ

426: 2015/11/29(日) 17:49:43.53 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……ねえ、Pさん」

P『ぁ?』

加蓮「自分は、自分だけの物じゃない――って言葉、どう思う?」

P『自分は自分だけじゃない? プロデューサーのことか?」

加蓮「Pさんのこと……?」

P『俺じゃなくて、プロデューサー。だってプロデューサーがいないとアイドルは輝けないだろ?』

加蓮「……そうだね」

P『だから俺だってなぁ、こうやって酒を飲んでストレスを発散してんだぞ? これも加蓮の為――って加蓮はアイドルじゃなかったな、今は』

加蓮「…………」

P『なー……いつアイドルに復帰すんだよ、加蓮。待ってんだぞー?』

加蓮「え…………?」

427: 2015/11/29(日) 17:50:13.53 ID:oyrpMvNz0
P『復帰見込みがないなら新しく担当つけろーって上がうっさいけどさー、俺の担当は加蓮しかいねえんだっての。余計なお世話だー』グビグビ

加蓮「ちょ……待ってPさん。アイドルに復帰するの待ってるって、それ……でも私の上司の方が楽しいって、アイドルに戻らない方が安心できるって、前に……」

P『はぁ? あんなもん建前に決まってんだろ。そうでも言わないとお前、自分のせいでーとか言い出すし』

P『アイドルが続けられなくなったあの時、お前何回謝ったんだよ。あんな加蓮はもう見たくねえんだよー』グビグビ

加蓮「…………そ、か」

P『ぷはっ。あー、でも部下が加蓮ってのはやっぱ捨てがたいなぁ』

加蓮「はい?」

P『加蓮に頼られるのってけっこう好きなんだよなー、おう、もっと頼ってくれよ。俺は上司だぞー』

加蓮「う、うん」

428: 2015/11/29(日) 17:50:43.59 ID:oyrpMvNz0
P『つまり加蓮は加蓮のやりたいようにやってくれってこった。よく柚ちゃんにも言ってるだろ? あれとおんなじだよ』

P『いや、でもアイドルの加蓮をまたプロデュースしたく……しかし加蓮とプロデューサーやるってのもなかなか……アイドルの加蓮……プロデューサーの加蓮……』

加蓮「……な、なんかごめんね?」

P『あー! 違う! 違う! それが一番聞きたくねえんだっての! いいかぁ加蓮。謝るな! 謝ってもいいことなんて何もないぞ!』

加蓮「あ、うん、ごめ――じゃなくて……えっと、わ、分かったっ」

P『おーう』

加蓮「……プロデューサーがいないと、か」

加蓮「柚も、そうなのかな」

P『柚ちゃん? あったりまえだろ。お前な、最近の柚ちゃんすげえぞ? 移動時間とかぜんぶ加蓮の話。加蓮の豆知識大会とかあったら俺もう優勝できるぜー? はは』

加蓮「…………」

429: 2015/11/29(日) 17:51:13.50 ID:oyrpMvNz0
P『でも柚ちゃんってすげえなー。最近は、ほら、いろんなとこから声かけられてるし。でもダメな物はダメってきっぱり言ってるし』

P『そのうち1人でアイドルできるかもしれないなー……って、おおっと。加蓮がいらないとかじゃないぞ、断じてない』

P『やっぱプロデューサーがいてのアイドルだよな。うん。プロデューサーがいてこそのアイドル』

加蓮「…………それじゃ、駄目なの」

P『あ?』

加蓮「ねえPさん。もしかしたら、私――」

加蓮「…………ううん、なんでもない。そうだよね。アイドルには、プロデューサーがいないとね」

加蓮「私にとってのPさんもそうだった。Pさんがいたから、私は」

P『ストーップ。ストップだ加蓮。お前な、いい年した野郎が酒を入れた時の涙腺の弱さを知らんだろ。泣くぞ? みっともなく泣いちゃうぞ?』

加蓮「じゃあやめとこっか」

430: 2015/11/29(日) 17:51:43.50 ID:oyrpMvNz0
P『あ、でも加蓮に泣かされるのも悪くはねえなぁ……』

加蓮「さっきからそんなのばっかりだね……。シラフになって恥ずかしくなるのはPさんだよ? 私、ずっとからかっちゃうよ?」

P『じゃナシだな!』

加蓮「ふふっ」

加蓮「じゃあね、Pさん。こんな時間に電話しちゃってごめんね……」

P『おーう? 知らんがどんどんかけてこーい……グビグビ……』

P『あー……今のうちに言っちまうか』

P『アイドルの加蓮も好きだけど、プロデューサーの加蓮も好きだぞー。あいしてるぞー』

加蓮「……あははっ、なにそれ? そんな言われ方しても女の子はときめきませーん」

P『マジかー、それは残念だなグビグビ』

431: 2015/11/29(日) 17:52:13.42 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ふふっ。……あんまり飲み過ぎちゃ駄目だよ?」プツッ

加蓮「…………」ポイッ

加蓮「…………」

加蓮「そっか……アイドルに戻って欲しいって思ってたんだ、Pさん……」

加蓮「でも……」

加蓮(――でも。今の私はプロデューサーだ)

加蓮(目の前のことだけを見て生きていっちゃ駄目なんだ。突発的な情熱だけで動いちゃいけない)

加蓮(いろんな可能性と、いろんな"もしも"を考えていかなきゃいけない)

加蓮(もしも急なオファーが入ったら。もしも急に柚が出られなくなったら。もしもダブルブッキングしていたら)

加蓮(もしも私が、)

432: 2015/11/29(日) 17:52:43.43 ID:oyrpMvNz0


――どくんっ!


加蓮「っ…………!」

加蓮(……逃げるな、私……!)ギリッ

加蓮(目を逸らすな)

加蓮(気付いていることから、目を逸らすな……!)

433: 2015/11/29(日) 17:53:13.44 ID:oyrpMvNz0
――翌日 病院・加蓮の個室(木曜日)――

柚「でね、進級したから休み明けテストがあるんだ! どうしよ、アタシぜんぜん勉強してない!?」

加蓮「どうせアンタいっつも勉強してないでしょ。私に泣きつくのこれで何回目よ……」

柚「助けて~加蓮サン先生!」

加蓮「はいはい。学校かー……進級してから1度も行ってないや。って、入院してるんだから当たり前だけどね」

柚「じゃあ加蓮サンが学校に行ったらみんなびっくりするかもね!」

加蓮「あははっ。しかもプロデューサーだからね。退院しても毎日学校に行ける訳じゃないし……」

柚「レアキャラ?」

加蓮「レアキャラになっちゃうか」

柚「加蓮サンを見たらいいことがある、とか言われちゃったり?」

434: 2015/11/29(日) 17:53:43.58 ID:oyrpMvNz0
柚「じゃあ、そんな加蓮サンを毎日見てる柚って……もしかして超ラッキーガール!?」

加蓮「アイスを食べたら当たりが引けるくらいのラッキーガール(笑)」

柚「スケールちっちゃいよ! しかもアイスなんて食べたら風邪引いちゃう!」

柚「っと、アタシ今日は撮影なんだ! ふっふっふー、加蓮サンもアタシがいなくて寂しいと思うけど、」

加蓮「じゃあさっさと行って挨拶回りでもしてきなさい」

柚「あれー!?」

加蓮「ふふっ。私は大丈夫だから。新しい仕事をもぎとれるくらい、しっかり笑顔でね」

柚「うんっ。じゃ、行ってくる!」

435: 2015/11/29(日) 17:54:14.42 ID:oyrpMvNz0
――翌日 病院・加蓮の個室(金曜日)――

柚「撮影の時にね、今日はプロデューサーサンは? っていっぱい聞かれちゃった」

加蓮「そっか……」

柚「最近はPサンがついてきてくれることが多いんだけどー、今日は打ち合わせだって」

柚「Pサンがいる時はね、加蓮サンは? ってよく聞かれるの。Pサンが悔しそうにしてたっ」

加蓮「ふふっ」

加蓮「……ごめんね。ついていければいいんだけどね」

柚「ううん! えと、持ち帰って検討します、ってちゃんと言ったよ。こう言えばいいんだよね?」

加蓮「うんうん。……もっと言えば、即座に突っぱねていいような話もあるんだけど……そこまでは難しいよね。大丈夫大丈夫。私とPさんで上手く処理しとくから」

436: 2015/11/29(日) 17:55:43.55 ID:oyrpMvNz0
柚「そっか。あ、それなら加蓮サン。もっと教えてよ! えっと、断っちゃえっていうのはどういう話の時?」

加蓮「説明が難しいんだよねー……。なに? セルフプロデュースでもやりたいの? 穂乃香さんみたいに」

柚「違う違う! だってほらっ、そしたら加蓮サンちょっとでも楽になるかなって。それに加蓮サン、電話の後によくイライラしてるから……あんまりそういう加蓮サン、見たくないし 」

柚「ちゃんと断れてたら、そういうのも減るんでしょ?」

加蓮「……柚」

加蓮「うん、そうだね。またいつか教えるよ」

柚「うんっ」

加蓮「って、教えなくても私がついていければいいんだけどなぁ……」

437: 2015/11/29(日) 17:56:13.60 ID:oyrpMvNz0
柚「加蓮サン、今日はちょっと辛そう……。大丈夫?」

加蓮「へーきへーき。柚だって風邪引くことくらいあるでしょ? あれと同じ――」

柚「アタシ風邪引いたことないんだ♪」

加蓮「ああ、馬鹿は風邪を――」

柚「お母さんと同じこと言うなーっ!」ポカポカ

加蓮「いたいたい、ごめんごめんっ」

438: 2015/11/29(日) 17:56:43.57 ID:oyrpMvNz0
――翌日 病院・加蓮の個室(土曜日)――

加蓮「…………」ジー

柚『今からみんなでレッスンっ。頑張ってきます!』

加蓮「頑張ってね、っと……」

柚『あいあいさー!』

加蓮「…………」ポイッ

加蓮「…………」ボー

加蓮「…………」

加蓮「…………」

加蓮(……………………)

439: 2015/11/29(日) 17:57:13.38 ID:oyrpMvNz0
――翌日 病院・加蓮の個室(日曜日)――

加蓮「…………」ボー

加蓮「…………」

加蓮「…………」

加蓮(……………………)

440: 2015/11/29(日) 17:57:43.51 ID:oyrpMvNz0
――翌日 病院・加蓮の個室(月曜日)――

加蓮「休み過ぎだからクビを言いにきたとか?」

P「違ぇよ……。心配になって来ただけだ。どうだ、加蓮。身体の具合は」

加蓮「一昨日ちょっと崩したけど大丈夫。あ、そうだPさん。急だけど明後日に退院することになったんだ」

P「お、そうか! 柚ちゃんも喜ぶぞっ」

加蓮「うん……」

P「……加蓮?」

加蓮「ううん。っていうかさ、別にいつでも退院できたんだよね。医者はどうせ止めても無駄なんだろうって呆れてたし……もー、私を何だと思ってるんだか」

P「日頃の行いって奴だな」

加蓮「あ、Pさんまでそういうこと言うんだ! ひどーい!」

441: 2015/11/29(日) 17:58:13.09 ID:oyrpMvNz0
P「はいはいひどいひどい。明後日ってことは水曜日だな。分かった、じゃあその日は加蓮の退院記念パーティーをしよう」

加蓮「いらないよー」

P「とかいってニヤニヤしてんだろお前……」ポスッ

P「うおっ枕を投げてくんな!」

加蓮「Pさんデリカシーなさすぎー」

P「はいはい俺が悪かった。ほら、枕」

加蓮「ん」

加蓮「…………」

P「…………身体の方は、大丈夫なんだよな?」

加蓮「ん? ふふっ、もちろん。至って健康です。明後日の退院も、医者からさっさと出て行けって言われたみたいなものだからね」

P「おおう」

442: 2015/11/29(日) 17:58:44.11 ID:oyrpMvNz0
加蓮「お前がいると昔の迷惑ばっかりかけられた頃を思い出して業務に集中できんからさっさと出て行けだってさ。ひどいと思わない? 患者に向かって言うこと?」

P「日頃の行いって奴――」

加蓮「それはもういいっ」

P「なんたって放っとくといつ脱走するか分からんような奴だからな」

加蓮「…………そ、それは反省してます」

加蓮「とにかくっ、水曜日からまたお世話になります! その……ごめんね、1週間も」

P「いやいや。加蓮の代理ってことで柚ちゃんについていってたが、久々にアイドルを担当している気分になったよ」

加蓮「そっか」

P「ま、出先で何度、あれ? って顔をされたがな」

加蓮「それ柚も言ってたっけ」

443: 2015/11/29(日) 17:59:13.52 ID:oyrpMvNz0
P「加蓮じゃなくて俺が行っててさ。明らかに不満そうな人とかもいたぞ? 女子高生プロデューサーが来るハズだったのにむさいおっさんがいるもんな、しょうがないな」

加蓮「なにそれー。Pさんそういう歳じゃないでしょ?」

P「はは。別に気にしてないさ。ただそう言われた日の夜には酒を飲むって決めてるだけで」

加蓮「気にしてるじゃん」

P「なあ加蓮。俺、まだ加齢臭とかしないよな? ちょっと匂ってみてくれ」

加蓮「えーと、それは新手のセクハラか何か?」

P「おっとすまん」

P「ま、ともあれ、柚ちゃんのプロデューサーは加蓮じゃないとってことだな」

加蓮「…………やっぱり、そうだよね」

P「ああ。っと、悪い、そろそろ帰る。次の打ち合わせがあるもんで……もう少しゆっくりできればいいんだけどなぁ」

加蓮「ううん。ありがとねPさん。……ごめんね、私のせいで」

444: 2015/11/29(日) 17:59:43.42 ID:oyrpMvNz0
P「謝るなって言っただろ? 謝っても何もいいことなんてないさ。じゃな」

<ガララ

加蓮「Pさん…………」

加蓮「…………あれ? ってことはPさん、あの時の電話、覚えてたんだ。酔っ払ってたのに」

加蓮「…………」

加蓮(……………………)

445: 2015/11/29(日) 18:00:13.42 ID:oyrpMvNz0
――翌日 病院・加蓮の個室(火曜日)――

<コンコン

加蓮「はーい」

<ガラッ

穂乃香「こんにちは」フカブカ

加蓮「え……あれ? 穂乃香さん?」

穂乃香「お加減はいかがですか?」

加蓮「う、うん。もう元気も元気。実は明日、退院することになってんだ」

穂乃香「そうですか……よかった」

穂乃香「あ、これお土産です。駅前のお店の、抹茶ケーキです」

加蓮「わ、これ結構する奴じゃん。ありがとー……っていうかいいのに、気なんて遣わなくても」

穂乃香「普段からお世話になっていますから、そのお礼も込めて」

穂乃香「柚ちゃんから聞きましたが……お見舞いが遅れてしまいごめんなさい」ペコリ

加蓮「い、いやいや、だから気遣わなくたっていいって……」

穂乃香「いえ……」

446: 2015/11/29(日) 18:00:43.41 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………」

穂乃香「…………」

加蓮「……あー、えと、柚、どうしてる? 確か……えーっと……」ユビオリカゾエ

加蓮「そう、金曜日だ。一緒にレッスンしたんだっけ」

穂乃香「はい。あの時は私も色々なことを学ばせてもらって――…………」

加蓮「…………?」

穂乃香「…………」ウーン

加蓮「え、なに……? また柚がやらかしたとか? それとも、なんかトラブった……?」

穂乃香「…………」ウーン

加蓮「ち、ちょっと……そういえばあれから柚と話してないし…………」

穂乃香「…………やっぱり難しいですね」

加蓮「な……何が……?」

447: 2015/11/29(日) 18:01:14.03 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「いえ。柚ちゃんのマネをして、何か面白いことを言いたかったのですが……やっぱり、私には思いつきませんでした」

加蓮「……………………は?」

穂乃香「もっと、柚ちゃんから学ばなきゃ……」

加蓮「……………………穂乃香さん…………紛らわしいことしないで……」アタマカカエ

穂乃香「え?」

加蓮「……………………」

加蓮「で……その、柚、どうしてる? ……穂乃香さんの言葉でいいから……」

穂乃香「そうですね。私が会ったのは土曜日と日曜日のレッスンの時だけですが、いつも通り元気で楽しそうでした」

穂乃香「レッスンの……特にダンスが上手くいかなくて険悪な雰囲気になりかけた時に、柚ちゃんが笑ってもっと気軽にやろうって言ってくれて」

穂乃香「それでみんなも笑顔に……。やっぱりすごいですね、柚ちゃん」

加蓮「そっか……」

448: 2015/11/29(日) 18:01:43.57 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「ああいう時は、年上の私がまとめないといけないのに。ふふ。いつも、柚ちゃんに助けてもらってばっかり」

加蓮「それはほら、適材適所ってヤツとか……。逆に柚が凹んでる時は穂乃香さんが助けてあげてよ」

穂乃香「はい、そうしますね。……でも、実はレッスンの時にもそういうことがありました。その時は、あずきちゃんが柚ちゃんを励ましていました」

加蓮「あらま」

穂乃香「私、やっぱりまとめきれていないのでしょうか……何か言おうとしても、考えがまとめきれず、悩んでいる間に他の子が励ましちゃって」

穂乃香「まとめ役として、向いていないのかも」

穂乃香「……あ、ごめんなさい、このようなお話をしてしまって」

加蓮「ううん。柚もあずきちゃんも勢い重視って感じだしね。なかなか難しいよっ」

穂乃香「…………」

449: 2015/11/29(日) 18:02:13.58 ID:oyrpMvNz0
加蓮「柚が元気そうにしてるならいいや。あはは、私的にはちょっぴり寂しいかも?」

穂乃香「あ、でも、柚ちゃん……ときどき、心配そうにスマートフォンを取り出して、電話をしようとしてて」

穂乃香「でも、すぐにしまっちゃうんです。あれは、もしかしたら加蓮ちゃんにかけようとしていたのかもしれません」

加蓮「…………」

穂乃香「明日、退院されるんですよね。柚ちゃんもきっと喜びます」

加蓮「うん……そうだね。ありがと、穂乃香さん。穂乃香さんにもごめんね? 打ち合わせとかできなくて」

穂乃香「いえ。実は、加蓮ちゃんが入院している間、加蓮ちゃんの上司の方と会いました」

加蓮「Pさんか」

穂乃香「打ち合わせの為に……柚ちゃんも一緒でした。でもすぐに、加蓮ちゃんのお話で盛り上がってしまって」

加蓮「えー……私の話?」

穂乃香「ふふ」

加蓮「あはは、照れるな~」

450: 2015/11/29(日) 18:02:43.47 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「あ」

加蓮「?」

穂乃香「今の加蓮ちゃん、少しだけ柚ちゃんっぽかったかも……?」

加蓮「へ? そ、そう?」

穂乃香「言い方というか、雰囲気というか……そういうものが少し、似ていた気がします」

穂乃香「そういえば加蓮ちゃん、私の1つ下なんですよね」

穂乃香「…………♪」

加蓮「う、うん??」

穂乃香「いえ。……あ、そういえば、加蓮ちゃんに謝らないといけないことが……」

穂乃香「前に加蓮ちゃんから、柚ちゃんのことをお願いされましたが、私、まだ上手くできているとは言えません」

穂乃香「頼りにしてもらったのに……ごめんなさい」フカブカ

451: 2015/11/29(日) 18:03:13.53 ID:oyrpMvNz0
加蓮「え……い、いやいやっ、あれはちょっとお願いしただけっていうか!」

穂乃香「いいえ。加蓮ちゃんのせっかくのお願いなのだから」

加蓮「そんなに深刻に考えないでよ! そんな、その……」

穂乃香「でも、あの時と今と少し違うんです、私」

加蓮「……へ?」

穂乃香「あの時は、柚ちゃんの大切なプロデューサーさんからお願いされたことだから、何が何でもやらないとって思っていました」

穂乃香「少し、必氏になっていたのかもしれません。柚ちゃんが悩んでいた時も、無意識のうちに頭の中でプレッシャーがかかっていて」

穂乃香「今は……そうじゃないんです」

穂乃香「加蓮ちゃんを見て、加蓮ちゃんからお願いされだからやらないといけないのではなく、私がやりたいって思っていて」

穂乃香「だから今は、逆に私からお願いさせてください。柚ちゃんのこと、私が見てあげてもいいでしょうか……?」

加蓮「…………あはっ」

452: 2015/11/29(日) 18:03:43.18 ID:oyrpMvNz0
加蓮「やっぱ穂乃香さんって堅苦しいっ。そんなさ、それこそ契約じゃないんだから……畏まってお願いしなくてもいいよ!」

加蓮「でもその方が穂乃香さんらしいのかな……? じゃあ、柚のこと、よろしくお願いしますっ」

穂乃香「はい!」

加蓮「あ、でも柚は私の――」

穂乃香「…………私の?」

加蓮「…………」

加蓮「ううん、なんでもない」

加蓮(柚は私のものだから渡さないよ? って、冗談で言おうとしたけれど……でも)

加蓮(もしも、を考えなきゃいけない、なんて頭をよぎって――)

加蓮「私の……そ、そう、私の大切なアイドルだからね!」

453: 2015/11/29(日) 18:04:13.86 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「や、やめてください加蓮ちゃん。プレッシャーになっちゃう……!」

加蓮「あ、ごめん。えーと、その……あはは」

穂乃香「……?」

加蓮「それよりさ、ほら、またフリルドスクエアでLIVEするんでしょ? あずきちゃんが入ったってことでいろいろと変わってさ」

加蓮「せっかくだから打ち合わせしようよ! ほら、プロデューサーとセルフプロデュースアイドル同士ってことで!」

穂乃香「実は、私もそのつもりで……。でも加蓮ちゃんのお体に障るといけないって思って、少し悩んだんです」

加蓮「いやいや、ロケハンとかリハとかじゃないんだから大丈夫だって。じゃあ例によって舞台構成のことを聞きたいんだけど」

穂乃香「はい。今回は、あずきちゃんがメインということで――」

454: 2015/11/29(日) 18:04:43.63 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

……。

…………。

455: 2015/11/29(日) 18:05:13.43 ID:oyrpMvNz0
加蓮(水曜日に退院して、元通りの生活が戻ってきた)

加蓮(また、毎日が続いていく)



――5月 事務所――

柚「じゃあレッスン行ってくるね!」

加蓮「うん。行ってらっしゃい」

<バタン

加蓮「さーて、柚が戻ってくるまでやることやらなきゃ」

P「…………」カタカタ

加蓮「……なんか忙しそうだねPさん」

P「この時期はなー。かきいれ時だしな」

加蓮「それ年から年中じゃない?」

P「そうとも言う」

456: 2015/11/29(日) 18:05:43.36 ID:oyrpMvNz0
加蓮「Pさんさ、いつ自分の担当アイドル持つの? 私の担当じゃなくなってもうだいぶ経ってるでしょ」

加蓮「その……私のことなんて気にしなくていいからさ。あっ、ほら、Pさんがいつ新しい女の子を連れてくるのかなーって実はちょっぴり楽しみにしてるんだよ、私」

P「うーむ。正直そろそろ上司の顔が直視できなくなってきた」

加蓮「もうっ」

P「あいつら恐いんだぞー。ねちっこく言うんだぞー。やあキミ、今日も事務仕事に励んでいるかい? はっはっはいいご身分だねぇ……とかさ」

加蓮「恐っ」

P「実際いい身分なんだけどな。こんな情熱的な部下を持てて俺は幸せだ」

加蓮「…………もー」

P「はは」

457: 2015/11/29(日) 18:06:13.49 ID:oyrpMvNz0
――数日後 事務所――

柚「それでね、もうちょっとキリッとした顔で! って言われちゃった」

加蓮「ふんふん」

柚「トレーナーサンにも相談してみたんだ。演技力レッスン頑張ってみたんだけど、すぐにふにゃってなっちゃう」モグモグ

柚「ってことで加蓮サン! なんかいい方法ないっ?」モグモグ

柚「ほら、このおまんじゅうあげるから教えて!」スッ

加蓮「ありがとー」モグモグ

加蓮「キリッとした顔かぁ……」

柚「うーん、口の中がパサパサする。牛乳あるかなー」タタッ

<あったー!

柚「冷蔵庫にあったけどもらっていいのかな? まーいいやっ。はいっ、加蓮サンの分も!」

加蓮「ありがと。真剣な顔、真剣な顔かぁ」

458: 2015/11/29(日) 18:06:43.55 ID:oyrpMvNz0
柚「友達からもよく言われるんだよねー。柚は何やっても楽しそうだって。アタシだって真剣な時は真剣なんだいっ」

柚「友達って言えばさ、前に雑誌を楽しそーに読んでたの。なにかなって覗きこんだら加蓮サンの記事だった!」

柚「それよりアタシのインタビューを見ろー! って言ったら、なんかフツーだって言われたんだけど! ねえどう思う!?」

柚「アタシ、フツー!? 個性ない!? 加蓮サンより目立たない?」

加蓮「…………」

柚「って、なんとか言ってー!」

加蓮「……大丈夫、アンタは個性の塊だから」

柚「そっか? ……そうだっけ?」

柚「でもその後、友達と一緒に加蓮サンの記事を読んだんだけどね♪ 写真も内容もいっつもカッコよくて、さすが加蓮サンだっ」

柚「カッコいいアイドル、アタシもなってみたいなっ♪」

459: 2015/11/29(日) 18:07:13.48 ID:oyrpMvNz0
柚「って忍チャンに言ったら『似合わない』ってバッサリ言われちゃったケド」

柚「でもね、穂乃香チャンは『そのままの柚ちゃんでいい』って言ってくれたの。悩むなー悩むなー。忍チャンを見返すか、穂乃香チャンに褒められるアタシでいるか」

柚「でもやっぱりアイドルだったら、新しいコト、やってみたいよね! ねーねー加蓮サン、次はアタシがイケメン役のドラマなんてどうかな!? それでそれで、可愛い女の子からキャーキャー言われるようなヤツ!」

柚「柚、イメージチェンジ!」

加蓮「…………柚」

柚「ンー?」

加蓮「…………」ポン

加蓮「諦めなさい」マガオ

柚「何を!? え、イケメンは駄目!? それとも目立つこと!? 忍チャンを見返すこと!? どれ~!?」

加蓮「アンタ最初に何の話題を出したか覚えてる?」

柚「…………なんだっけ?」

加蓮「キリッとした顔がって話」

460: 2015/11/29(日) 18:07:43.86 ID:oyrpMvNz0
柚「そだっけ。あ、そうだった!」

柚「……諦めろってどゆこと!?」

加蓮「いや、まあ……あー、頭痛い……」

柚「えっ、えっ、加蓮サンもしかして疲れちゃって」

加蓮「アンタのせいでしょーが!?」

柚「きゃーっ!」

加蓮「……とりあえず、そのコロコロと話題変えたりするのは良い意味でいい加減だと思うけど……キリッとしたい時は1つのことに集中しなさい」

柚「1つのことに集中……集中……むんっ。こんな顔?」

加蓮「うん、それくらいでいいよ……」

柚「あいあいさー!」

461: 2015/11/29(日) 18:08:13.54 ID:oyrpMvNz0
――数日後 事務所――

加蓮「…………」カタカタ

P「…………」カタカタ

<メールガキテルヨ

加蓮「ん?」

加蓮「あ、仕事のリスト。Pさん、柚の分も営業してくれてたんだ」

P「いや、こっちは営業分じゃなくて向こうからオファーがあったヤツだな。最近は別の打ち合わせに行った時によく柚ちゃんに仕事を任せたいって頼まれてさ」

加蓮「うん……うん。ありがと、Pさん。その、ごめ――」

P「体力なくて営業行ける回数が減ったことなら気にしてないから謝らなくていいぞ。そんな身体でちょろちょろされる方が気になるわ」

加蓮「…………うん」

P「勝手に判断する訳にもいかないし、ぜんぶ保留にしといた。それがそのリストだから、あとは加蓮で判断してくれ」

加蓮「あははっ、Pさん柚と同じだ」

P「ん?」

462: 2015/11/29(日) 18:08:43.69 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ううん。柚も、1人で行った現場で何かオファーとかされたらぜんぶ保留にしてる、っていうかさせてるの」

加蓮「柚にも教えてあげられるといいんだけどね。アイドル1人で来たなら丸め込めるだろうって思ってる奴とかいそうだし下手に受けたらロクなことになりそうにないから、とりあえず全部持ち帰ってもらってるんだ」

加蓮「そういえば断り方とか選び方とか教えないといけないんだっけ……」

P「へー。それじゃそのうち、自分でどの仕事を取ったらいいか判断できたりするんじゃないか?」

加蓮「そしたら私はお役目御免だね。今度こそクビだ」

P「はは。お前、せめて嬉しそうな顔か悲しそうな顔くらいしろよ。どっちなんだよ」

加蓮「さー。どっちなんだろうね。私にも分かんないよ」

加蓮「……それにしても、こうしてると最初の頃を思い出すなー」

P「最初の頃?」

463: 2015/11/29(日) 18:09:13.38 ID:oyrpMvNz0
加蓮「うん。ほら、私がプロデューサー代理ってことでPさんの手伝いを始めた頃。あの時も柚の仕事をさ、Pさんから回してもらってたじゃん」

P「そうだったな……懐かしいなぁ。あの時はただの手伝いって感じだったのに、今やすっかり名プロデューサーだな!」

加蓮「そんなことないって」

加蓮「…………ちょっとだけ……あの頃に戻りたいかも――」

加蓮「ううんっ、そうじゃないよね。今の私が、そんなこと考えちゃ駄目だよね」

P「加蓮?」

加蓮「なんでもないでーす。はいこれ、Pさん、リスト送り返しといたから断りの電話お願いっ。私はもうちょっと選別してくから」

P「は? もう切り分けたのか?」

加蓮「絶対受けちゃマズイ奴だけね。評判よくない場所が混ざってたよ。アイドルにセクハラするだの契約がメチャクチャだの変な噂ばっかりのとこ」

P「マジ?」

464: 2015/11/29(日) 18:09:43.49 ID:oyrpMvNz0
加蓮「あれ~Pさん知らないのー? ふふっ、もしかして私、Pさん超えちゃった?」

P「んな訳あるかっ」

加蓮「分かってるって。そこまで生意気は言わないよ……Pさん、私みたいな子も育ててくれた名プロデューサーだもん。アイドルの私も、プロデューサーの私も」

P「……プロデューサーの加蓮については何もしてないよ。成長したのは加蓮の力だ」

加蓮「そっかなー……あ、じゃあアイドルの私を育ててくれた自覚はあるんだっ♪」

P「そりゃ……まあ、少しは」

加蓮「ふふっ。……うん。そうだね……もう。ホント、私の身体ってばなんでこんな――」

P「…………」テヲトメル

465: 2015/11/29(日) 18:10:13.36 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……ごめんねPさん。大丈夫大丈夫。病気を治して、そのうちアイドルに戻るんだから……そうしないと奈緒に怒られるし、柚とも約束したんだし……」

加蓮「…………」

P「……ああ、そうだな」

加蓮「うん…………」

加蓮「……………………」

P「…………加蓮?」

加蓮「あ、あははっ、なに? ほらほら電話早くしてよ。私はリストのチェックしなきゃっ」ウデマワシ

P「……………………」

466: 2015/11/29(日) 18:10:43.55 ID:oyrpMvNz0
――数日後 喫茶店――

加蓮「…………」ボー

穂乃香「衣装は、別の案もあって……これだと構成のコンセプトから違っているから、ベースの決定は早めにとPさ、プロデューサーさんが――」

穂乃香「…………加蓮ちゃん?」

加蓮「あっ……ええと、衣装だよね。現行のままでいいと思うけど……あ、でもこっちもいい――」クラッ

加蓮「……ん……」コスリコスリ

穂乃香「……打ち合わせ、少し休憩にしましょうか?」

加蓮「大丈夫……。大丈夫だから続けてよ。話は、聞いてるから――」

穂乃香「そうですか? …………あっ」スマフォトリダシ

穂乃香「ごめんなさい。少し、失礼します」ポチ

加蓮「どーぞ……」

穂乃香「……」ペコッ

467: 2015/11/29(日) 18:11:13.45 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「もしもし? 柚ちゃん? 今は、加蓮ちゃんと打ち合わせをしていて……そうなの? 分かった、手早くするね。ありがとう」ピッ

穂乃香「失礼しました」スワリ

加蓮「今の、柚……? 何かあったって?」

穂乃香「……今日、事務所から出る時の加蓮ちゃんが疲れているみたいだから、打ち合わせなら早く終わってあげて、って」

加蓮「わざわざ連絡まで……。……ごめん。ホントに大丈夫、だから……」クラッ

加蓮「はぁ……プロデューサー失格だ……。ごめんなさい」

穂乃香「いえ。急ぎの打ち合わせでもないので、また後日にしましょう」

加蓮「ホントごめん……」

穂乃香「いいえ。それより大事を取ってください。柚ちゃんも、とても心配そうにしていましたから」

穂乃香「事務所まで送っていきます……いえ、そういえば、加蓮ちゃんの上司の方と連作先を交換しているので、車を出して頂いた方が早いですね。少し、電話してみます」ピッ

加蓮「…………」ボー

468: 2015/11/29(日) 18:11:43.44 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「もしもし、綾瀬です。はい、加蓮ちゃんのことで――」

<キキーッ
<ガチャ!
<いらしゃお客様!?

加蓮「ちょ、Pさん来るの早すぎ……って事務所のすぐ側だから当たり前か……」

469: 2015/11/29(日) 18:12:13.64 ID:oyrpMvNz0
――数日後 事務所――

柚「こんにちはーっ!」

P「柚ちゃん」

柚「やほっ、Pサン。それに加蓮サン……あれっ、加蓮サン寝ちゃってる」

加蓮「すー……すー……」zzz

P「疲れてるようだったからな。ソファで休めって促したら、すぐに横になってしまったんだ」

P「だから柚ちゃん、すまないけど、ちょっとだけ静かにしてくれ」

柚「うんっ。そっかー、加蓮サンはお疲れですかー……なんかここんとこ加蓮サンずっとお疲れじゃない?」

P「だよなぁ……今日も、3時くらいにはもうキツそうにしてた」

柚「おやつの時間だっ」

P「そうそう。ちょうど出先で買ってきたお菓子でもどうかって誘った頃だったな」

柚「お菓子! まだある!?」

P「テーブルの上に置いてるから、よかったら柚ちゃんも食べてくれ」

柚「やたっ! お菓子っ、お菓子っ♪」

470: 2015/11/29(日) 18:12:43.45 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ん、ん…………」ムクリ

柚「あ、加蓮サン!」

加蓮「柚……? あれ、もしかして私、寝ちゃってた……?」

P「ぐっすりとな。朝からずっと事務仕事で疲れが溜まってたんだろう」

加蓮「そっか……ごめんねPさん。すぐやるから……」

P「だから謝るなって。謝ってもいいことなんてないぞ?」

柚「おっPサンいいこと言う! はい、加蓮サン。柚と一緒にお菓子食べよ♪」アーン

加蓮「うん…………」パクッ

加蓮「今日は、柚、レッスンだっけ……?」

柚「うんっ。加蓮サンにも来てほしいなーって思ったけどお疲れならしょうがない! アタシ1人で行ってくるねっ」

加蓮「ごめんね……」

471: 2015/11/29(日) 18:13:13.48 ID:oyrpMvNz0
柚「加蓮サン加蓮サン。謝ってもいいことなんてない! だよっ」

加蓮「それ、Pさんのセリフじゃん……ふふっ……」

P「コーヒーでも淹れようか。……いや、疲れてるならもう帰るか? 車なら出すぞ?」

加蓮「ううん、大丈夫。よいしょ……」

加蓮「もうちょっとだけ、やることやってから……Pさんにも柚にも迷惑はかけたくないもん……」

P「だから別に迷惑なんて思ってないんだがな。体力が戻るまで休んでてもいいんだぞ? それくらいの余裕は持ってるつもりだし」

加蓮「いいよ、どうせ休んでても治んないもん。っていうか家にいた方が落ち着かないし……柚が心配になっちゃったり」

柚「アタシ? アタシは平気だよっ。大丈夫大丈夫!」

加蓮「Pさんだって……やるだけやって放り投げるなんて、そんなのできないよ」

P「相変わらず責任感が強いんだな、加蓮は」

472: 2015/11/29(日) 18:13:43.71 ID:oyrpMvNz0
加蓮「当然のことでしょ? 私だってプロデューサーなんだから……ちょっと、顔だけ洗ってくるね」ポテポテ

<バタン

P「…………」

柚「…………」

P「はー……どうしたもんかなぁ……」

柚「大丈夫かな、加蓮サン……」

P「…………」

柚「……でも心配ばっかしてたら加蓮サン嫌がるんだ。そんなことより自分の心配しろー、って」

柚「だからアタシは、加蓮サンが大丈夫って言うなら、なんにも言わないっ」

柚「気にしすぎたら、レッスンも上手くいかなくなっちゃうし……そしたら加蓮サン、余計に心配しちゃうもん」

P「そうだな。加蓮のことは俺が見ておくから、柚ちゃんはアイドルに専念してくれ。その方がきっと加蓮も喜ぶよ」

柚「あいあいさー!」


473: 2015/11/29(日) 18:14:13.52 ID:oyrpMvNz0
<ガチャ

加蓮「よしっ、起きた起きた! ほら柚、レッスンでしょ? やる気がないなら私が引きずっていっちゃおうかな~?」

柚「い、今から行くとこですっ。加蓮サンもう大丈夫? 元気?」

加蓮「平気平気。ちょっと眠たくなっただけで……ねえPさん。私、何分くらい寝てた?」

P「ええと……1時間ちょいくらいだな」

加蓮「そっか……よしっ、じゃあその分を取り戻さなきゃ!」

P「お前、そーやって気合入れたらまた後でキツイことになるぞ?」

加蓮「大丈夫大丈夫。ちゃんと加減してるから! さて、柚? そろそろレッスンの時間じゃないのかな?」

柚「そーだった! じゃあ行ってくるね加蓮サン!」

加蓮「ふふっ、行ってらっしゃい」

<バタン!

474: 2015/11/29(日) 18:14:43.47 ID:oyrpMvNz0
加蓮「さて、私も書類の整理と明日の打ち合わせ用の資料……ってあれ? ……ねえPさん、もしかして私の仕事――」

P「おう」

加蓮「…………そんなことするからPさんまた徹夜とかになるんだよ」

P「部下の為に徹夜する俺、マジ理想の上司」キリッ

加蓮「…………私が手伝うって言っても聞いてくれない癖に」ジトー

P「はっはっは」

475: 2015/11/29(日) 18:15:13.46 ID:oyrpMvNz0
――6月 事務所――

加蓮「よし、っと……わ、もうこんな時間だ。ごめんPさん、私ちょっと出かけてくる」ヨイショ

P「え? ちょっと待てお前どこに行く気だ今日は車がいるって言って――」ガタ

加蓮「近所の喫茶店に行くだけ! 穂乃香さんとの打ち合わせ。大丈夫だってば……」

P「そ、そうか。ついていきたいが書類が――いやこんなのは後だ、俺も一緒に」

加蓮「ごめんPさん。打ち合わせっていってもほとんど友達とおしゃべりするだけみたいなものだから、1人で行かせてよ」

P「…………」

476: 2015/11/29(日) 18:15:43.56 ID:oyrpMvNz0
P「……いいか加蓮、ちょっとでも体調がおかしくなったらすぐに連絡するんだ。じゃなきゃ後で怒るぞ」

加蓮「分かってまーす。じゃ、行ってくるね」

P「おう。気をつけろよ~!」

加蓮「Pさんしつこいー!」

477: 2015/11/29(日) 18:16:13.61 ID:oyrpMvNz0
――にぎやかな喫茶店――

加蓮「いたいた。お待たせ、穂乃香さん」

穂乃香「加蓮ちゃん。お久しぶりです」ペコッ

加蓮「あははっ、お久しぶり。わざわざこっちに来てもらってごめんね?」

穂乃香「いいえ。……加蓮ちゃん、まだ車椅子を使っているんですね」

加蓮「歩けるんだけどね、歩くと体力がガリガリ減って。まるでゲームの毒を受けてるみたいだよ」

穂乃香「……??」

加蓮「つ、通じないか……それよりほら、打ち合わせしよっ。あ、注文した方がいいのかな。すみませーん、コーヒー1つ、お願いします」

穂乃香「あ、私もコーヒーを」

加蓮「仕事の前に飲むと大人っぽくなれるんだっけ」

穂乃香「はい。頭が切り替えられます。実はさっきまで、柚ちゃんと通信アプリでやり取りをしていて……だから尚更です」

加蓮「柚と、かぁ……」

478: 2015/11/29(日) 18:16:43.48 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「今日も、この後に遊びに行く約束をしてて」

加蓮「じゃあパパっと済ませなきゃね」

加蓮「…………」

穂乃香「……? 加蓮ちゃん?」

加蓮「あ、ううん。柚、か…………」

穂乃香「……ふふ。柚ちゃんのお話を聞きたそうな顔」

加蓮「わ、分かる?」

穂乃香「現場やレッスンについてきてくれなくなったって言っていましたよ。任されてるんだ、って張り切っていました」

穂乃香「でも、ときどき寂しそうにしていて……」

加蓮「……やっぱりそっかぁ。あ、コーヒーだ。はい穂乃香さん」

穂乃香「いただきます。…………ふう」ゴクゴク

加蓮「…………」ズズ

479: 2015/11/29(日) 18:17:13.59 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「まだ……お体、よくないんですか?」

加蓮「私は大丈夫なんだけどさ。Pさん、私の上司がさ。うるさいんだ。そんな身体で行くくらいなら自分が! って」

加蓮「どうしても私が出ないといけない外での打ち合わせはぜんぶPさんが同伴。なんだか新人みたいだねってPさんに言ったら笑われちゃった」

加蓮「今日もさ、書類がなかったら絶対ついてきてたよ」

穂乃香「ふふっ」

加蓮「っと、打ち合わせしよっか。今日はフリルドスクエアのCMの件なんだけど――」

穂乃香「それでしたら、まずはスケジュールから――」

480: 2015/11/29(日) 18:17:43.28 ID:oyrpMvNz0
――20分後――

穂乃香「――といったところで、大丈夫ですね」

加蓮「うん、大丈夫大丈夫! スケジュール確認もレッスンの予定も作れたし、予算の問題もオッケー。あと何かあったっけ?」

穂乃香「…………」ウーン

穂乃香「いえ、今は大丈夫です。加蓮ちゃんは……」

加蓮「私もオッケー。じゃ打ち合わせはこれで終わりっ。お疲れ様でした~」

穂乃香「はい、お疲れ様でした」ペコリ

穂乃香「今回も……加蓮ちゃんや柚ちゃんからは、多くのことが学べそうです……」

加蓮「ん? ……なんだか勉強会みたいだね、こういうのって」

穂乃香「はい。もちろんお仕事だから真剣にやりますが、それ以上に私にとっては学ばせていただく場です」

穂乃香「もっともっと、アイドルとして上を――」

穂乃香「いえ。それよりはまず、楽しむことからですね。せっかく柚ちゃんとのお仕事ですし」

加蓮「へぇ…………」

481: 2015/11/29(日) 18:18:13.69 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「次のお仕事は、私が引っ張るくらいで……。でも、柚ちゃんやあずきちゃんの勢いに、ついていけるかな……?」

穂乃香「ううん。大切なのは、できるかじゃなくてやりたいかですよね。加蓮ちゃんからも任されてしまっていますし」

加蓮「…………ん……穂乃香さん、なんか変わった?」

穂乃香「え?」

加蓮「いや……なんだろ。なんか、柔らかくなったような……」

穂乃香「そうですか? ……でも、もしかしたらそうなのかもと自分でも思うことがあります」

穂乃香「前の私は、1人でやることばかり考えていて……セルフプロデュースをやり始めて、なおさらそうなって」

穂乃香「でも、フリルドスクエアでは、みんなでやりたいって。私1人だけが目立つのではなく、みんなで力を合わせて……なんて」

穂乃香「昔の私では、考えられなかったことかもしれません。でも……柚ちゃんやあずきちゃんが、みんなで一緒にってよく言うから」

穂乃香「ふふっ。あの2人につられているのかも。きっと、忍ちゃんもそうだと思います」

加蓮「そっか。柚とあずきちゃんにか……」

482: 2015/11/29(日) 18:18:43.56 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「この前のLIVEの帰り道の時もそうでした。先頭にあずきちゃんと柚ちゃんがいて、後ろから忍ちゃんがついていっているんです」

穂乃香「忍ちゃんは2人と一緒に、楽しそうだったり、たまに冷めてしまっていたり。でもいつも、笑ってる」

穂乃香「私が一番後ろから見ていて。そんな私にも、柚ちゃんが話を振ってくれます。楽しかった? って、何度も何度も聞いてきて……」

穂乃香「次も一緒にやろうね! って言ってもらえるのが、すごく嬉しくて」

穂乃香「笑って返すと、柚ちゃんもすごく満足したように笑うんです。私、あの笑顔が大好きで……♪」

加蓮「…………」

穂乃香「それと前に、柚ちゃんとあずきちゃんが……私が後ろにいてくれるからいろんなことができる、って、揃って言ってくれました」

穂乃香「私、3人についていけているか不安で……いえ、今もまだ少し不安というか、頑張らないとって思っています」

穂乃香「でも、柚ちゃん達の言葉を聞いた時……笑顔を見た時、つい、笑ってしまいました」

加蓮「…………」

483: 2015/11/29(日) 18:19:15.20 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「……どうでしょう。柚ちゃんを見守ってほしいと加蓮ちゃんに頼まれて……私なりに、できることをやって来ましたけれど」

穂乃香「最近では、どうにかついていけるようになっている筈です。……なっている筈、うん」

穂乃香「でもやっぱり、加蓮ちゃんには敵いそうもないですね……なんて。ふふ、勝負ではありませんが」

加蓮「……あ……ははっ。すごい想像できるなぁ。穂乃香さんって、話すのが上手、なんだね……っ……」

穂乃香「ありがとうござ――え? 加蓮ちゃん……?」

加蓮「あは、ははっ……」ヒクッ

加蓮「おかしいよね。聞いてて面白くて胸が温かくなって……柚がちゃんとやれてるってことが、すごい嬉しいってだけなのにさ……」ヒクッ

加蓮「なんかさっきから――」


484: 2015/11/29(日) 18:19:43.44 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「…………」パチクリ

穂乃香「えっと…………」

穂乃香「…………よしよし……」ナデナデ

加蓮「え……?」

穂乃香「あ。……ご、ごめんなさい」ヒッコミ

穂乃香「その、柚ちゃんが落ち込んでいる時や失敗してしまった時にも、よくこうしてあげているから……つい」

加蓮「ううんっ。…………え? 柚、に……?」

穂乃香「はい。最初は恥ずかしがったりするんですけれど、そういう時はよく、あずきちゃんや忍ちゃんが盛り上げてくれますから」

穂乃香「楽しいムードでいっぱいになって、そうしたらそのうち、暗いムードが吹き飛んでいて……」

穂乃香「また、私達で頑張るんです。もちろん、柚ちゃん以外の誰かが落ち込んじゃった時には、柚ちゃんが」

485: 2015/11/29(日) 18:20:13.88 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……………………!」


柚『さっきのこと、穂乃香チャンと忍チャンにはナイショにしてて!』

加蓮『さっきのこと?』

柚『加蓮サンに甘えてたこと! ね! 甘える柚なんてヘンでしょ?』


加蓮『相変わらず周りの目が気になるんだね』

柚『う、うんっ。加蓮サンだから甘えられるの! 他の人に見られるなんてムリっ』


加蓮「そ、っか……あはは……そっか……!」

穂乃香「加蓮ちゃん……?」

加蓮「ううん。柚ってば、もうすっかり、フリルドスクエアの子だね」

加蓮「……あーあっ、なんだか妬けちゃうな。最近は柚も1人で現場に行くことが多くなって……しょーがないんだけどね。でも、柚を取られちゃった気分だ」

加蓮「もしかしてこれがアレなのかな。子供を嫁に出す親の気持ち? ふふっ、保護者だって言ってくれたもんね、穂乃香さん」

486: 2015/11/29(日) 18:20:43.54 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「でも、加蓮ちゃん。柚ちゃんはよく、加蓮ちゃんのお話をするんですよ。いつも楽しい、って言ったり、加蓮ちゃんはすごい、って言ったり」

加蓮「そ、っかぁ……」

穂乃香「加蓮ちゃんが入院していた時なんて……ずっと不安そうに。私や忍ちゃん、あずきちゃんがどれほど「大丈夫」って言ってあげても、ずっと震えていて」

穂乃香「加蓮ちゃんがいなくなったらどうしよう、って、ずっとずっと……」

加蓮「……………………っ!!」ギュ

穂乃香「……加蓮ちゃん?」

加蓮「…………」スーッ

加蓮「…………」ハーッ

487: 2015/11/29(日) 18:21:13.49 ID:oyrpMvNz0
加蓮「――穂乃香さん」

穂乃香「はい」

加蓮「ありがとう。私の頼みを聞いてくれて。柚のこと、見守ってくれて」

加蓮「穂乃香さんがいるから無茶できるんだよ、あの子。そりゃその……無茶ぜんぶについていってほしいなんて言えないけど、これからも付き合ってくれると……嬉しいな……」グスッ

穂乃香「……はいっ」

加蓮「…………あはっ……ごめん、ちょっとだけ……」グスッ

穂乃香「…………加蓮ちゃん」

穂乃香「もしかして――」

加蓮「ふうっ。それよりももっと柚の話を聞かせてよ! 柚だってアタシの話をしてるんでしょ? ならアタシが柚の話を聞いてもいいってことだよね!」

穂乃香「……そうですね。例えば、この前は――」

488: 2015/11/29(日) 18:21:43.49 ID:oyrpMvNz0
――30分後――

穂乃香「そろそろ約束の時間ですので。お先に失礼します」ペコッ

加蓮「うん」

穂乃香「お体をお大事に。では……」スタスタ

<980円です
<はい
<ありがとうございました~
<ありがとうございました。ごちそうさまです

<チリンチリーン...

489: 2015/11/29(日) 18:22:13.47 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………あは」

加蓮「あはは……そっか……そうなんだ…………」

加蓮「柚…………そっかぁ…………」グスッ

加蓮「……っと」グシグシ

加蓮「さて、帰らなきゃ。帰って、」

――どくんっ!

加蓮「っ……打ち合わせの結果の報告と……それから、営業の準備を…………」

490: 2015/11/29(日) 18:22:43.65 ID:oyrpMvNz0
――数日後 事務所――

加蓮「…………」カタカタ

P「…………」カタカタ

加蓮「…………んっ…………」コスリコスリ

加蓮「っと。はいPさん。今日期限の書類……ごめんちょっと休む……」グター

P「お疲れ様、加蓮。何度も言うが――」

加蓮「何度も言わなくても分かってまーす」

P「…………」ハァ

加蓮「はー……もうちょっとしたらお昼だね。柚のロケ、確か午後からだっけ……今日から撮影開始んところだし、さすがに顔だしとこっかな……」

P「おい、その身体で行くのは――」

加蓮「ううん。プロデューサーとして、最初くらいは行っとかなきゃ……」

P「…………」

加蓮「車、大丈夫なんだよね。あと30分くらいか……」

491: 2015/11/29(日) 18:23:13.17 ID:oyrpMvNz0
P「――――加蓮」

加蓮「なに?」

P「病院に行け」

加蓮「……………………」

P「いや、行けじゃないな。連れて行く。柚ちゃんのことならその後で俺が見に行く。加蓮が直接行くよりは、そりゃ効果は薄いだろうけど……」

加蓮「……やだよ。ふふっ、まだ業務時間でしょ? そんな特別待遇はいらな――」

P「加蓮」

加蓮「…………うん」

P「気にはなってたんだ。……体力が戻るの、いくらなんでも遅すぎるだろう」

加蓮「…………」

492: 2015/11/29(日) 18:23:43.45 ID:oyrpMvNz0
P「なあ、どういうことなんだ? いや責めてる訳じゃない。話を聞きたいんだ。それは本当にちょっと調子が悪いだけなのか?」

P「前にお前が電話してきた時のこと、ずっと引っかかっているんだ」

加蓮「……やっぱり覚えてたんだ。あの電話のこと。Pさん、酔っ払ってたのに」

P「酔っていようがなんだろうがお前の話を忘れてたまるか」

加蓮「そーいうの、真顔で言わないで……」

P「あの時、なんて言いかけた? 電話を切るちょっと前の……もしかしたら、って後だ。なんでもないって加蓮は言ったけど、本当は何を言いかけたんだ?」

加蓮「…………何も、ないよ」

P「お前のなんでもないが、なんでもない訳がない」

P「それに、ここ最近の加蓮を見ていると……ずっと胸騒ぎがするんだ」

加蓮「……あはは……私に惚れてくれでもした?」

493: 2015/11/29(日) 18:24:13.58 ID:oyrpMvNz0
P「加蓮。俺は……その、加蓮の元担当で現上司だ。それなりに加蓮のことを分かっていると自負はしている」

P「でも、それなりでしかない。俺より加蓮の方がよっぽど分かってるだろ。自分が今、どんな状態にあるかってことを」

P「情けないが、俺は聞かないと分からないんだ。だから――」

加蓮「…………」

P「…………」

加蓮「…………」

P「…………分かった……せめて、これくらいは答えてくれ……」

P「また治療とか入院とかしたら……いや、少し大人しくしてれば、治るんだよな……?」

P「1週間……1ヶ月、いや1年だっていい。10年でもいい。ちゃんと入院すれば、治るんだよな……!?」

P「加蓮……!」

494: 2015/11/29(日) 18:24:43.57 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………」

加蓮「…………ずっと、目を背けてた」

P「!」

加蓮「だってさ……おかしいじゃん。昨日、私は柚のプロデューサーだったんだよ。今日もそう! それなら、明日だってそうなるに決まってるって……!」

加蓮「もう1年半くらい経つんだよ! 柚を見つけてから……私がプロデューサーになってからさ!」

加蓮「病気だって……ずっと、忘れてしまうくらいだった。走っちゃ駄目だって言われてたけど、そんなもんだって分かってれば、病気なんて――!」

P「……………………」

加蓮「Pさんに電話した時からずっとなんだ」

加蓮「ううん、違う。もっと前から……最初に柚の、フリルドスクエアでのLIVEを見た時から、ずっと」

加蓮「身体が、おかしいの。ずっと目を背けてたけど……そんなことないって、自分に言い聞かせてたけど……」

加蓮「…………」グスッ

495: 2015/11/29(日) 18:25:13.55 ID:oyrpMvNz0
加蓮「……Pさん。私の主治医さ、私が倒れたその日だけは絶対安静って言って、次の日からは好きにしろって、退院したいなら退院してもいいって言うんだ。なんでだと思う?」

加蓮「簡単だよ」

加蓮「横になっていても動きまわっていても、同じだから」

加蓮「早いか遅いかの違い」

加蓮「……そして、あの人は知ってるんだ。遅かれ早かれ"来る"のなら、私が大人しく横になっているだけを選ぶ訳がないことを」

P「……やっぱり、それって……!」

加蓮「でも、あの人さ、前に言ったんだ。まだ私が元気だった頃……生きているのが奇跡みたいな物だって」

加蓮「ヒグッ……だったらさ! 奇跡がまた起こるかもしれない! また不思議な状態になれるかもしれないじゃん!」

加蓮「それが分かってて柚のプロデューサーをほっぽり投げるなんてできないよ!」

加蓮「だって私、プロデューサーなんだよ! 元アイドルでもなんでも!」

496: 2015/11/29(日) 18:25:43.34 ID:oyrpMvNz0
加蓮「目を背けていればいつか元通りになるって思ってた。忘れていればいつか消えてなくなるって思ってた。思ってたんだけど……」

加蓮「……世の中、そんなに都合良くなんてないんだね」

加蓮「私、何か悪いことしたのかなぁ……ううん、悪いことしてばっかりか。こんな身体なのにアイドルやりたいとか言ったり、プロデューサーやりたいとか言ったり……ワガママ言ってばっかだもんね」

加蓮「あはは……っ……」グスッ

P「…………加蓮……っ…………」

P「……嘘……だよな?」

加蓮「え?」ヌグイ

P「はは……悪い……俺が馬鹿だったわ。そんな訳ねえよな。だって加蓮、今ここに立って……いや立ってはないか。座ってるし、すげえ元気そうじゃねえか!」

P「あれだよな、加蓮がいっつも弱ってるイメージがあったからつい変な妄想しちまったんだな俺!」

497: 2015/11/29(日) 18:26:13.44 ID:oyrpMvNz0
P「ははっ、きっとそうだ。ちょっと最近そういうドラマを見たとか夢に見たとか……」

P「いっ、今だから言うけどな! 俺、加蓮が氏ん――いなくなる夢とか、けっこうよく見るんだ!」

P「言ったらお前に怒られると思って言わないようにしてたんだけどさ! それのせいかな、現実と夢がごっちゃになっちゃったか! はは!」

加蓮「…………」

P「…………はは……っ……だよ、な……?」

加蓮「…………」グシグシ

加蓮「……ふふっ」

P「!」

加蓮「Pさん……ヒグッ……それは、もう私の通った道だよ」

P「……!!」

498: 2015/11/29(日) 18:26:43.49 ID:oyrpMvNz0
加蓮「もう、なんにも残っていない道。ずっと目を背けていた頃の私が通った道」

加蓮「あのね、Pさん」

加蓮「ありがとね。こんな私のワガママに……復帰見込みもないのにここにいさせてくれって言ったり、プロデューサーをやりたいって言ったり。そんなことにずっと付き合ってくれて」

P「やめろ――」

加蓮「それから、これが最期の"ごめんなさい"」

P「やめろっ――」

加蓮「Pさん、あの晩に言ったよね。また私のプロデュースをしたいって」

加蓮「……あはは……ごめんねっ! ちょっとそれ無理っぽい! もう、私――」

P「やめろっ!!」

加蓮「…………」

P「はー、はー…………そういうの、やめろっ……まだ……まだ決まってねえんだろ!? また、元気になって、それから――」

499: 2015/11/29(日) 18:27:13.58 ID:oyrpMvNz0
加蓮「…………」

P「…………」

加蓮「――なーんてねっ!」

P「え……?」

加蓮「そう簡単にぶっ倒れてたまりますか! 今のは、あくまで保険みたいな物だよっ」

加蓮「ほら、病は気からって言うじゃん? ずっとへばったままだったから、ちょっと弱気になっただけなの」

P「加蓮……?」

加蓮「Pさんもそういうことない? ひどい風邪を引いて、もう何日も寝込んじゃった時にさ。もしかしたらこのまま……とか想像しちゃうの」

加蓮「それとおんなじだよ。ちょっと弱気になっちゃっただけ」

加蓮「だから予防線を張っちゃった。あーあ、駄目だなー私。奈緒や柚と約束してるのにね。病気を治してアイドルに、って」

加蓮「もちろんPさんともね! って、Pさんのは約束じゃないっか」

加蓮「なんだろ。信頼? 期待?」

加蓮「そんなのかけられちゃったらもう応えるしかないよね。期待に応えてこそ、アイドルだもん!」

500: 2015/11/29(日) 18:27:43.46 ID:oyrpMvNz0
P「加蓮…………」

加蓮「だから、今のは忘れて――」

加蓮「…………」

加蓮「…………」

加蓮「…………うん。正直なことを言うね」

加蓮「予感はしてる。でも、大丈夫だって想いが同じくらいあるよ」

加蓮「こういう時、熱血キャラなら大丈夫だって強く思って乗り越えたりするのかな……。でも私、そーいうキャラじゃないから」

加蓮「もしも……を考えて、動いてる感じ。そういうのがプロデューサーかな、って」

加蓮「だから今のは、ぜんぶ"もしも"の話。保険みたいな物だよ」

P「…………じゃあ……今すぐいなくなる訳じゃ……ないんだよな?」

P「それが決まっている訳じゃ、ないんだよな?」

加蓮「うん。それは絶対に。嘘じゃない。……信じて」

501: 2015/11/29(日) 18:28:13.55 ID:oyrpMvNz0
P「……分かった」

加蓮「ありがとっ」

P「俺こそありがとう、加蓮。本音を言ってくれて」

加蓮「……えー? 分かんないよ? もしかしたらぜんぶ大嘘かもしれないし」

P「馬鹿言え、これだって元担当で現上司だ。加蓮がこういう時に嘘をつかない奴だってことくらい知ってるよ」

加蓮「そっか」

P「とりあえず……とりあえず病院は行くぞ。そんだけフラフラになってプロデューサーも何もあるか。お前が嫌だと言っても担いで行くからな」

加蓮「はーい。でも入院だけはやらないからね。ホントにそんなヒマないんだから……」

502: 2015/11/29(日) 18:28:45.15 ID:oyrpMvNz0
P「……なぁ加蓮。このこと、柚には……」

加蓮「…………迷ったんだけど……最初に話した時に、その、泣きそうな顔されちゃって……それから、まだ何にも話せてないの」

P「そっか……」

加蓮「やっぱちゃんと話さないといけないよね……いけないんだけど……」

加蓮「…………柚のあの怯えた顔、ちょっと見たくなくて……」

加蓮「話さないと、いけないんだけどさ……」

503: 2015/11/29(日) 18:29:13.97 ID:oyrpMvNz0


――そして、夏が来た。



504: 2015/11/29(日) 18:29:43.66 ID:oyrpMvNz0
――7月 事務所――

加蓮「柚、時間だよ」

柚「え、もうそんな時間!? じゃー穂乃香チャン、この勝負は引き分けってことで!」

穂乃香「ふふ。次まで持ち越しだね」

柚「うんうんっ」

穂乃香「準備は大丈夫? 柚ちゃん」

柚「オッケーオッケー! さーて、アタシのせくしーぼでーでみんなユウワクしてきちゃうよ! 楽しみにしててね、加蓮サン!」

加蓮「うんっ。私はついていけないけど……しっかり頑張ってきてね、柚」

柚「もっちろん! 加蓮サンは次のお仕事の計画立ててね。計画大作戦! なんてっ、あずきチャンのマネ~♪」

505: 2015/11/29(日) 18:30:13.86 ID:oyrpMvNz0
加蓮「ホントそれお気に入りだね。じゃあ……穂乃香さん、柚をお願い」

穂乃香「はい。行こ、柚ちゃん」

柚「うん。えいっ」ガシ

穂乃香「きゃ」

柚「ささ、しゅっぱ~つ♪」

<バタン

加蓮「さて、打ち合わせまでに書類を片付けないと……Pさんも忙しいんでしょ? 下手すると徹夜だーって言ってなかった?」

P「おっとそうだった。いかんいかん」カタカタ

加蓮「……何ぼーっとしてんの? 柚にでも見惚れた? それとも穂乃香さん?」

P「違ぇよ」

加蓮「ふふっ」

506: 2015/11/29(日) 18:30:44.07 ID:oyrpMvNz0
P「ただ、ちょっと気になっただけだ。ほら、加蓮のこと……柚ちゃんには話したのか、って」

加蓮「ああ……やっぱ駄目だよね、ちゃんと話さないと。……あの顔はホントに見たくなくて……でも、そういうことじゃないよね」

P「時には傷つかないといけない時だってあるだろ。そして、それを乗り越えてこそ本当の信頼関係が築けるってもんだ」

加蓮「そっかー……」

P「お、今俺ちょっといいこと言った」ドヤッ

加蓮「あははっ、さすがPさん。じゃ、柚が帰ってきてから……うん、覚悟を決めなきゃ」

P「おう。俺はまた加蓮がいらんことを言わんように見はっとくぞ」

加蓮「えー何それ。もー」

507: 2015/11/29(日) 18:31:13.53 ID:oyrpMvNz0
加蓮「にしても……ねえPさん……この部屋、なんか暑くない?」

P「え? いや、何言ってんだ加蓮。クーラー26度設定だぞ? むしろ少し肌寒いくらいで――」

加蓮「だって、こんなに――」グラツ


加蓮「……あれ…………?」


508: 2015/11/29(日) 18:31:43.54 ID:oyrpMvNz0
視界が傾いた。

その瞬間に、なぜか分からないけれど、すごく冷静に、判ってしまった。

ああ、そっか。

来ちゃったんだ、って。

「加蓮? …………加蓮!? 加蓮!!??」

Pさんが慌てて駆け寄ってくる。でも、間に合わない。

どさっ、と。

私の身体が、床に投げ出される。

509: 2015/11/29(日) 18:32:13.46 ID:oyrpMvNz0
ごめんなさい、Pさん。

ずっと、迷惑をかけてばかりでした。

アイドルができなくなった時も。

アイドルにしがみついていた時も。

ワガママばっかり、言っていました。

……謝るな、って言われちゃうかな?

じゃあ。

ありがとう、Pさん。

510: 2015/11/29(日) 18:32:43.47 ID:oyrpMvNz0
「忘れ物~っ♪ アタシうっかりしちゃってた! 今日の、」

扉が開く。

柚と、穂乃香さん。

穂乃香さんの腕を引っ張って、事務所に戻ってきた柚。

「……………………え…………? 加蓮、さん…………?」

2人とも立ち尽くしている。……また、びっくりさせちゃったかな。

511: 2015/11/29(日) 18:33:13.48 ID:oyrpMvNz0
ねえ、柚。

もう、大丈夫だよね。

私がついていかなくても、頑張ってるもんね。アイドル頑張ってるって、いつも話してくれたもんね。

自分に悩む柚なんて、もういないし。

やりたいこと、いっぱいできてるよね。

それに。

柚に――甘えられる人を遺せて、よかった。

だから、もう、大丈夫だよね。

512: 2015/11/29(日) 18:33:43.49 ID:oyrpMvNz0
……。

…………もっと。

もっと、真っ直ぐ向い合っていればよかった。

柚が帰って来てから、なんて言うんじゃなくて、呼び戻してでも話すべきだった。

私がいなくなってしまうかもしれないこと、もっとちゃんと伝えておけばよかった。

ずっと、時間が続いていたから……もしかしたら、この後悔は、罰なのかな。

それに。

約束、を、叶えることが――

513: 2015/11/29(日) 18:34:13.56 ID:oyrpMvNz0
……。

…………。

……。

…………。

514: 2015/11/29(日) 18:34:43.47 ID:oyrpMvNz0


――想うだけの日々に包まり 守ってたのは弱虫な心
――きみに会えて ヒカリを知って 夢がいろを持ったよ


515: 2015/11/29(日) 18:35:13.53 ID:oyrpMvNz0
――9月 病院・加蓮の個室――

<コンコン

<シーン...

柚「……お邪魔しま~す」ガラッ

柚「…………」

柚「……やほっ、加蓮サン」

柚「加蓮サンはねぼすけサンだな~。いつかアタシの家に来た時もそうだったっ。ぐーすか寝ちゃっててっ、ちょっと面白かった!」

柚「…………まだ、起きないのかな」

柚「そっか……」

柚「……早く起きて、そんで、病気なんて治しちゃって、アイドルやろうね!」

柚「早くしないとアタシ、どんどん先越しちゃうぞ~? ふふっ、今度はアタシが加蓮サンのプロデューサーだ!」

516: 2015/11/29(日) 18:35:43.47 ID:oyrpMvNz0
柚「…………」

柚「あ、そうだ!」ガサゴソ

柚「これ、加蓮サンにプレゼント。フリルドスクエアのみんなで選んだの」

柚「時計っ。加蓮サン前に言ってたもん。今の時間がずっと続けばいい、ずっと続くんだ、って」

柚「時計がないと、時間が続いているか分かんないもんね!」

柚「あと、これ聞いてたら、早くやらないと! ってなって、加蓮サンも慌てて目が覚めるかなって」

柚「アタシも朝とかよくバタバタするんだ。お母さんにいっつも呆れられちゃう」

柚「加蓮サンもだね。ふふっ、やっぱりお揃いだ!」

517: 2015/11/29(日) 18:36:13.47 ID:oyrpMvNz0
柚「…………」

柚「加蓮サン」

柚「誕生日、オメデト」

柚「来年は……一緒に、ケーキ食べようねっ」

<ガラッ

<シーン...

518: 2015/11/29(日) 18:36:43.41 ID:oyrpMvNz0
――病院の廊下――

柚「あれっ?」

奈緒「あ……」

柚「奈緒サンだ! うわ~久しぶり! あれっ、あの時より髪の毛伸びてる!」

奈緒「柚ちゃん。はは……久しぶり」

柚「今日はどしたの? 加蓮サンのお見舞い? あははっ、加蓮サンねぼすけだからがっかりしちゃうかもっ」

奈緒「……、……いや、アタシはいいよ」

柚「あれ?」

奈緒「加蓮がどんな状態でも、ずっと待ってるってのは同じだからさ」

奈緒「むしろ、加蓮を見たら揺らいじゃうっていうか……そこにある現実を認めなくちゃいけなくなって、その……」

519: 2015/11/29(日) 18:37:13.47 ID:oyrpMvNz0
奈緒「も、もちろんアタシは信じてるけどなっ。いつか加蓮がアイドルに復帰するって!」

奈緒「次に見るのはアイドルになった加蓮の姿だって決めてんだアタシ! だからその……い、今はナシ! 今日はちょっと近くに来たから立ち寄ってみただけだ!」

柚「うん。加蓮サンは絶対、帰ってくるよ」

奈緒「そっか! 柚ちゃんが言うなら間違いないな、うん!」

柚「そうそうっ」

奈緒「あ、そうだ柚ちゃん。アタシの分まであのねぼすけに言っておいてくれ。さっさと戻ってこい! 待ってるから! ……って」

柚「あいあいさーっ」

<テクテク

柚「さーてとっ。LIVEに行かなきゃ。今から間に合うカナー。みんな待ってるかも♪」タッタッタ

520: 2015/11/29(日) 18:37:43.57 ID:oyrpMvNz0
柚「…………」チラッ

柚「…………加蓮サン……」

柚「…………」グスッ

柚「ううん――」ヌグイ

柚「……行ってきます」

521: 2015/11/29(日) 18:38:13.60 ID:oyrpMvNz0


――まだね 慣れない温度
――甘えるの下手なわたしでも 待ってね


522: 2015/11/29(日) 18:38:43.52 ID:oyrpMvNz0
――車内――

柚「…………」

P「…………」

柚「…………アハハ、大丈夫! 加蓮サンはその、今はちょっと、休憩ってだけっ!」

柚「あのね、加蓮サン、アタシがサボってたりしたら頭にツノ生やすんだよ。それが夢に出るくらい怖くって!」

柚「アタシがぼけーってしてたら、加蓮サン、またツノ生やしちゃうから! だから、やらなきゃ!」

柚「加蓮サンが戻ってきた時に、ちゃんとやってたよって自慢するんだ!」

P「……そうだな。あいつが戻ってきた時に笑われるのは、俺も嫌だ」

柚「うんっ…………」

柚「……でも、もっと話してくれたらよかったのに」

P「…………」

523: 2015/11/29(日) 18:39:13.44 ID:oyrpMvNz0
<ブロロロロ...

P「加蓮さ、たぶん、ずっと戦ってたんだと思う」

柚「加蓮サンが?」

P「ああ。自分が氏ぬかもしれないってことに気付いた時から、ずっと」

P「それに対して、氏ぬ訳がない、氏ぬ訳にいかないっていう強い気持ちでさ」

柚「そう、なのかな……」

柚「でもっ、加蓮サンは負けないよ! きっと、ううんっ、絶対!」

P「ははっ、そりゃそうだ。アイツさ……初めてレッスンを受けた時に5分も保たなかったんだ。ホントに体力がすっからかんでささ。普通に考えて、アイドルになれる訳なんてない筈なんだけど――」

P「そこからアイツはずっと頑張ってきた。結果、1度だけどLIVEに出たんだ」

P「……その後のことは柚ちゃんも知っての通りだ。加蓮は勝てないことに対して絶対に負けないんだ」

柚「うんうん」

524: 2015/11/29(日) 18:39:43.42 ID:oyrpMvNz0
P「っと、昔の話をしたら怒られちまうんだったな。1週間徹夜ー! ってさ」

柚「そうだよそうだよ! 加蓮サン、こう、ツノをがーって生やしてやってきちゃうよっ」

P「だな……」

柚「……あ、実はー、もう勝っちゃった後とかっ。そんで、今の加蓮サンは休憩中! だって加蓮サン、すぐへばっちゃうんだもん」

P「そうかもな。今は、休憩中だ」

柚「うんっ」

P「あー……そのー、だな」

P「加蓮は休憩中だから、代わりに俺が柚ちゃんの担当を……させてもらっても、いいか?」

柚「えーっ、加蓮サンより頼りにならなさそう!」

P「うぐっ」

525: 2015/11/29(日) 18:40:13.48 ID:oyrpMvNz0
柚「それに加蓮サンにツノ生やされちゃうよ? 前も言ってたんだ。柚のプロデュースは自分がする! って。へへっ」

柚「Pサン2回も怒られちゃうね! 昔の話をしたことと、勝手にプロデュースしたこと!」

P「そ、それはだなー……」

柚「なーんてっ。ウソウソ。よろしくね、Pサン」

P「ほっ」

柚「あ、でも加蓮サンが戻って来るまでだよー? 戻ってきたらクビっ」

P「……ああ。あくまで、俺は代理だよ。俺の担当は1人しかいないし、柚ちゃんのプロデューサーだって1人しかいないんだ」

柚「うんっ」

<ブロロロロ...

526: 2015/11/29(日) 18:40:43.46 ID:oyrpMvNz0


――神様が綴る物語のなか 主役じゃなくていい
――その瞳に映してく ひとつだけのシネマ

――ヒロインでいたいと思うのは らしくないかな?


527: 2015/11/29(日) 18:41:13.48 ID:oyrpMvNz0
――楽屋――

<こんなのどうかな!? アクセサリーいっぱい大作戦!
<あずきちゃん、たくさんつければいい物じゃないよ……すごいことになってるよ?

穂乃香「……うん。柚ちゃん、まとまったよ。これでいい?」

柚「おー! さすが穂乃香チャンっ!」

穂乃香「ふふ。髪、だいぶ伸びてきたね」

柚「うん。そのー、えと、き、切りたくなくて!」

穂乃香「そうなの……。…………」ナデナデ

柚「うゅっ。な、なになに!? アタシ今は大丈夫だよ!? 充電いらないよ!」

528: 2015/11/29(日) 18:41:43.87 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「あ……ごめんね。昨日のこと、思い出しちゃったの」

柚「ええっ!?」

忍「昨日のって、柚ちゃんが穂乃香ちゃんに撫でられてふやけてた時のこと?」ヒョコッ

柚「んなっ!」

あずき「最後にはみんなで、柚ちゃんすごい~! ってお神輿みたいになってたよね♪」エヘヘ

柚「も、もー! 思い出すなー! 穂乃香チャンもやめてーっ」

穂乃香「ご、ごめんね?」

<あずきも撫でる~
<え、アタシ撫でられる側!? 年齢的に逆じゃない!?

529: 2015/11/29(日) 18:42:13.49 ID:oyrpMvNz0
柚「でもなんか足りないなー。穂乃香チャンの考えた衣装もメイクもカンペキなんだけど、うーん」

柚「……あ、そうだ! ねね、穂乃香チャン。これで柚の髪結って! こう、美人系で!」

穂乃香「うん、分かった。……これは、白い蓮の髪飾り?」

柚「へへっ♪」

柚「……ホントは、プレゼントのつもりだったけど……」

柚「ね、ねぼすけサンなのが悪い! アタシが使っちゃうっ」

穂乃香「…………」

穂乃香「うん。ちょっと待っててね、柚ちゃん」

530: 2015/11/29(日) 18:42:43.61 ID:oyrpMvNz0


――ミントの香りが弾けるような 運命のような
――出会いを繋いで ここから これからもたくさんの夢を奏でよう


531: 2015/11/29(日) 18:43:13.58 ID:oyrpMvNz0
穂乃香「はい。これでいい?」

柚「できた!? ……お、おおおっ! すっごくいい感じだ。穂乃香チャンありがと! さっすが!」

穂乃香「ふふ、よかった」

532: 2015/11/29(日) 18:43:43.75 ID:oyrpMvNz0
柚「今日の柚はあの歌を歌うからー、ちょっぴりしっとり系だっ」


柚「これつけてたら――私も、大人っぽく見えるかな? ふふっ」


穂乃香「……!」

533: 2015/11/29(日) 18:44:13.44 ID:oyrpMvNz0
柚「なーんて甘いかっ♪ アタシはアタシらしく……あれ? 穂乃香チャン? どったの?」

穂乃香「…………」

穂乃香「…………」ヌグイ

穂乃香「……ううん、なんでもないの」

柚「ヘンな穂乃香チャン。そうだ! 今度はアタシが穂乃香チャンの髪を結ってあげる!」

534: 2015/11/29(日) 18:44:43.42 ID:oyrpMvNz0


――キラキラ煌めくかけがえのない時を きみと歩いてる
――この瞳に映してく ひとつだけのシネマ
――そう 鮮やかなキセキ


535: 2015/11/29(日) 18:45:13.57 ID:oyrpMvNz0
――LIVE会場――


――神様がくれた時間は零れる あとどれくらいかな
――でもゆっくりでいいんだ きみの声が響く
――そんな距離が今はやさしいの 泣いちゃってもいい?

――ずっと 側に いたいよ・・・


<パチパチパチパチ....
<パチパチパチパチ....


柚「……よしっ」

536: 2015/11/29(日) 18:45:43.46 ID:oyrpMvNz0
柚「みんなーっ。しっとり系の柚はどうだった? 『薄荷-ハッカ-』、でしたっ」

<パチパチパチパチ....
<パチパチパチパチ....

柚「……え、えっとぉ……」

柚「もっと盛り上がっていいよーっ! その、拍手も嬉しいけど、やっぱりわーってなった方がアタシも嬉しいから!」

<……
<……ワアアアアアアアアア――っ!!

忍「(マイク拾わず)ちょ、柚ちゃん!?」

柚「(マイク拾わず)だいじょーぶだいじょーぶ! ほら、次の歌はいつも通りのだしっ」

忍「(マイク拾わず)いやでも……!」

537: 2015/11/29(日) 18:46:13.52 ID:oyrpMvNz0
あずき「はーいっ、シリアスタイムはここまで! 次は最後の曲だよ~っ♪」

<エエエエエエエエエエ――!

柚「あ、ちょっとあずきチャン!? 今はアタシのMCタイムー! ズルい!」

あずき「ふふっ、いいとこ横取りしちゃおう大作戦、大成功!」

穂乃香「これは……柚ちゃんの負けですね!」

柚「アタシの負け!?」

忍「仕方ないよ。柚ちゃんがぼうっとしてるから」

柚「しかもアタシのせい!?」

あずき「だって横取り大作戦だもん! 横取りされる方が悪いっ」

538: 2015/11/29(日) 18:46:43.62 ID:oyrpMvNz0
柚「……も、もー! グダグダだーっ! とにかくラスト、行くぞー!」

柚「みんなも盛り上がっていこーっ!」

<ワアアアアアアアアア――っ!!

539: 2015/11/29(日) 18:47:13.55 ID:oyrpMvNz0


――楽しいこと、いっぱいやってて待ってるからっ。
早く来ないと後悔しちゃうぞ、加蓮サンっ♪

だから……早く、帰って来てね。


540: 2015/11/29(日) 18:47:43.51 ID:oyrpMvNz0


おしまい。読んでいただき、ありがとうございました。

544: 2015/11/29(日) 20:30:45.61 ID:oyrpMvNz0
あ、リロードの関係で見落としてしまいました……。>>542様も、コメント、ありがとうございます。

549: 2015/11/30(月) 23:53:57.16 ID:M2CT7HNU0
>>1です。皆様、本当にご感想ありがとうございます……!


>>548
過去作一覧ですー


道明寺歌鈴「もしも藍子ちゃんと加蓮ちゃんが逆だったら」

モバP「Y.Oちゃん談義」相葉夕美「岡崎泰葉ちゃんだよね?」

北条加蓮「菜々ちゃん、ちょっと学校の宿題を教えてよ」

北条加蓮「マイアイドル?」

高森藍子「蓮の華と鈴の音が、小さな小さな花へと届く」

高森藍子「お酒が飲める歳になって」

道明寺歌鈴「藍色!」北条加蓮「思い出達」相葉夕美「お花っ」


<単発:続き物>

高森藍子「お酒が飲める歳になって」
北条加蓮「お酒が飲める歳になって」

安部菜々「いつか来る試練……!」
高森藍子「隠されてしまったらいいのに……!」
北条加蓮「……叫ぶことがない!」

道明寺歌鈴「藍色!」北条加蓮「思い出達」相葉夕美「お花っ」
相葉夕美「CDデビューのメンバーに私の名前がないんだけど!?」


<イメージソングシリーズ(シリーズと言っても一作だけ・横の繋がりはなし)>

北条加蓮「一番の宝物」


<レンアイカフェテラスシリーズ>

北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」


引用元: 綾瀬穂乃香「もし柚ちゃんのプロデューサーが加蓮ちゃんだったなら」