1: 2014/09/06(土) 17:28:46.16 ID:BdMFcwwb.net
地の文が多いですがご容赦ください。
アホな文なので、その点もご容赦ください。

2: 2014/09/06(土) 17:29:54.86 ID:BdMFcwwb.net
鏡を見ながら、ふと考えた。
これは私の顔だ。
もちろん私の顔は、私という人間のごく一部にすぎない。
だが、人が「真姫ちゃん」と聞いてまず思い浮かべるのは私の顔なのではないか。
すると、好むと好まざるとにかかわらず、真姫ちゃんの顔は真姫ちゃんという人間を象徴しているわけだ。
長屋の熊さんにとって、三軒隣の八っつぁんとは八っつぁんの顔であり、八っつぁんにとっての熊さんとは、熊さんの顔なのだ。
私の顔は、世間にとっての私なのだ。

3: 2014/09/06(土) 17:30:28.11 ID:BdMFcwwb.net
さて、それほどまでに大切な私の顔をあらためて眺めてみると、どうだろう。
赤みを帯びて流れる髪。紫がかった鋭い目。柔らかく結ばれた口もと。
ああ、何と知性あふれる美貌であろうか。
はしたないと思いつつも、私は私の美しさに対する感嘆をおさえることができない。
知性あふれる口から、「えへへ」という笑みがこぼれるのをおさえることができない。

4: 2014/09/06(土) 17:31:12.24 ID:BdMFcwwb.net
私は以前、凛を慰めるために、こんなふうに言ったことがある。
「よほどの自惚れ屋でもないかぎり、自分より他人のほうが可愛いと思っているものでしょ」
なるほどたしかに、私は自分の美しさを他人と比べて、自分の美しさを誇るつもりはない。
だからあのとき凛に言った言葉は、断じてウソではない。
しかし今この部屋にいるのは、鏡を見る私と、鏡に映る私だけだ。
だから、せめて今だけは、かけがえのない自分の美しさに見蕩れたってかまわないのではないか。

5: 2014/09/06(土) 17:31:43.62 ID:BdMFcwwb.net
そういうことをする人を何と呼ぶのか、かしこい私は知っている。
ナルシストである。
泉に映る自分の顔をこっそり愉しむナルキッソスくんのように、私も鏡に映る私の顔をこっそり愛でるのだ。

6: 2014/09/06(土) 17:32:07.32 ID:BdMFcwwb.net
私はおかしなことをしているのだろうか。
しかし、周りの皆も同じようなことをしているのではないか。
女子高生は皆、こよなく手鏡を愛している。
いわば彼女らは、みんな隠れナルシストなのだ。

7: 2014/09/06(土) 17:32:37.56 ID:BdMFcwwb.net
すると、私たち女子高生がオシャレにうつつを抜かす理由が分かるような気がする。
隠れナルシストである私たちは、自分がこっそり愛する自分を、世間にも愛してもらいたくて、可愛らしい格好をするのだ。
オシャレとは、隠れナルシストが、自分の可愛さを世間に認めてもらうためのささやかな自己主張なのだ。
ああ、こうして私は、また一つかしこくなった。
今日のところはこれくらいにして、柵を跳び越えながら息を荒げるにこちゃんを数えながら寝るとしよう。
(こうすると、羊を数えるよりよく眠れる)

8: 2014/09/06(土) 17:34:07.54 ID:BdMFcwwb.net
【次の日の放課後、部室】
真姫  「…っていうことを昨日考えたの」
ことり 「へー」
真姫  「ねえことり、オシャレのエキスパートであるあなたに訊いてみたいの。
     私のこの理論は正しいのかしら」
ことり 「ことり、難しいこと分かんないよ」
真姫  「はぐらかしても無駄よ。
     あなたはいつもフワフワと自分の意見を隠しているけど、本当は、どこぞのハラショーな生徒会長よりかしこいはずよ。
     私はそろそろ、あなたの本気が見てみたいの。
     そうね、じゃあ私の理論の誤りが指摘できたら、何でも一つあなたの命令に従うっていうのはどうかしら」

9: 2014/09/06(土) 17:34:29.98 ID:BdMFcwwb.net
ことり 「やったー。約束だよ。
     ところで真姫ちゃんは、オシャレは隠れナルシストの自己主張なんだって思ってるんだよね?」
真姫  「そのとおりよ」
ことり 「じゃあ、それが正しいことを証明するためには、考えつくかぎりのオシャレを挙げていけばいいんだよ。
     それで、真姫ちゃんの考えを覆す例が挙らなければ、真姫ちゃんが正しいんじゃないかな」
真姫  「なるほど、もっともな話だわ」

10: 2014/09/06(土) 17:34:51.84 ID:BdMFcwwb.net
ことり 「じゃあ、いくよ? リボン」
真姫  「髪を飾ることで、自分を可愛く見せるための道具ね。私の理論どおりよ」
ことり 「つけまつげ」
真姫  「目を飾ることで、自分を可愛く見せるための道具ね。これも私の理論どおりよ」

12: 2014/09/06(土) 17:36:09.37 ID:BdMFcwwb.net
ことり 「カツラ」
真姫  「…いきなり意外なものが来たわね。
     でも問題ないわ。
     薄毛の殿方(私はハ○なんて蔑称は使わないわ)は、ときに薄毛でない人に憧れることがあるわ。
     そんなとき、彼らは自分のなりたい自分になるために、カツラをかぶるの。
     だからカツラも、自分をよく見せるための自己主張であることに変わりはないわ」
ことり 「さすが真姫ちゃん。すらすら答えるから、ことり、びっくりだよ。
     じゃあね、次はねー。
     ハゲカツラ」
真姫  「…」

13: 2014/09/06(土) 17:36:59.67 ID:BdMFcwwb.net
〈オシャレはすべて自分をよく見せるための自己主張である〉という私の理論は、ハゲカツラという反例によって覆された。
たしかに、髪のある人が、薄毛に憧れるということがないわけではないだろう。
ブルース・ウィリスとか、すごくかっこいいし。
しかし、ハ○という残酷きわまりない蔑称が使われていることからも分かるように、ハゲカツラは、薄毛の殿方を馬鹿にするという恐るべき意図をもって作られている。
自分でそれをかぶるということは、自分を馬鹿にするということだ。
それを好きこのんでかぶる人がいるということは、オシャレがすべて自分をよく見せるためとは限らないということだ。
ああ、やはり私の予想どおり、ことりはかしこい。

14: 2014/09/06(土) 17:38:01.02 ID:BdMFcwwb.net
ことり 「真姫ちゃん、どう?」
真姫  「ことり、私は自分の誤りを認めるわ。
     私が思っていた以上に、オシャレは奥が深いのね」
ことり 「分かってくれて嬉しいよ。
     じゃあ真姫ちゃん、ことりのお願い、聞いてくれる?」
真姫  「ええ。ことりのおやつでも何でも…」
ことり 「ハゲカツラをかぶって! ことりのおねがーい」

ああ、どうやら私の予想よりも、ことりはかしこいようだ。

※つづきます。ファンの方はどうかお許しください。

20: 2014/09/06(土) 19:28:03.14 ID:BdMFcwwb.net
真姫  「まって、ことり、ほんとにイミワカンナイわよ」
ことり 「えー。知性あふれる真姫ちゃんなら分かるでしょ?
     私のお願い、聞いてくれるんでしょ?」
真姫  「だ、だって、ハゲカツラなんて、すぐ用意できるわけ…」
ことり 「あるよ? ここに、ほら」
真姫  「あら、これはまた精巧な…」

21: 2014/09/06(土) 19:28:49.93 ID:BdMFcwwb.net
ことり 「でしょ? このまえ、夜なべして作ったの。
     植毛ってすごくタイヘンなんだよ?」
真姫  「頭頂部と側頭部にわずかに残る髪が、絶妙な悲壮感を醸し出しているわね。さすがことりよ。
     イヤ、そんなこと言ってる場合じゃなかった」
ことり 「えいっ」(かぶせる)
真姫  「キャアアア!」

22: 2014/09/06(土) 19:31:38.08 ID:BdMFcwwb.net
ハゲカツラをかぶせられた頭を押さえ、真っ赤になってうつむく私に、ことりが声をかけた。

ことり 「真姫ちゃん、ところでどうして人はハゲカツラをかぶるのかなあ?」
真姫  「シラナイ…」
ことり 「ことりもこの前、部屋でひとりでかぶってみたの。
     でも、よく分かんなかった。
     真姫ちゃんならきっと説明できると思って、かぶせて感想を訊こうと思ったんだけど…」
真姫  「ワカンナイ…」

ノックの音がして、私が制止する間もなく、ことりが「どうぞ」と返事をした。

花陽  「こんにちは」
真姫  「イヤアアア!」

23: 2014/09/06(土) 19:32:11.81 ID:BdMFcwwb.net
ことりは、部屋でひとりでかぶったと言っていた。
それではハゲカツラの役割が分からなくても無理はない。
オシャレはすべて、誰かに見せるためにある。
だからオシャレとしてのハゲカツラも、誰かに見せるためにあるわけだ。
そして今、ようやく私はハゲカツラの役割を理解した。
それは、自分を可愛くみせるためではなく、見た人を笑わせるためにあるのだ。

24: 2014/09/06(土) 19:33:12.01 ID:BdMFcwwb.net
笑いをこらえるかよちんの努力は、涙ぐましいものであった。
彼女は、事態を理解できないまま部屋の入り口に立ちつくし、悩ましげに身をよじっていた。
たぶん彼女は私たちに何かを尋ねたいはずなのだが、口を開いて笑いが漏れてしまうことをおそれ、ただ無言で身をくねらせた。
心やさしい彼女は、部屋には入らずに、何かを訴えかけるように身もだえながらドアを閉め、去っていった。
去り際、かよちんの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
その涙が、私を哀れむ涙であったか、それともただの笑い涙であったのか、私には知る由もない。
ドアごしに、ヒイヒイというかよちんの微かな声が聞こえた。
その声が、私を哀れむ泣き声であったか、それともただの笑い声であったのか…たぶん後者かな。

※つづきます。

30: 2014/09/06(土) 21:10:50.58 ID:BdMFcwwb.net
※再開します。

ことり 「かよちゃん、行っちゃったね。
     三人でいっしょにおしゃべりしようと思ったのに…」
真姫  「どうすんのよ!」
ことり 「真姫ちゃんはどうしたい?」
真姫  「カツラを外しておうちに帰りたいわ」
ことり 「今日は自主練だし、ほかにはだれも来ないのかな…
     でも私はもうすこし、おちゃらけた真姫ちゃんとおしゃべりしたいかな」
真姫  「いや、残るのはいいけど、カツラは外すわよ」
ことり 「お願い! もう少しだけ、つけててくれる?」

31: 2014/09/06(土) 21:12:17.20 ID:BdMFcwwb.net
こうして初秋の夕方、私はハゲカツラをつけたままで、ことりの話に耳を傾けた。
彼女は、みんながいるときは控えめだが、二人きりになると、よくしゃべってくれた。
みんなと過ごす日々が、とても楽しいということ。
それから、オシャレのこと。被服学のこと。
いろいろなことを嬉しそうに私に聞かせ、それにうなずくたびに儚げに揺れる私の薄毛を見て、鈴を転がすように笑った。

32: 2014/09/06(土) 21:13:06.80 ID:BdMFcwwb.net
いま思いかえしてみると、彼女がなぜ私にハゲカツラをつけたままでいるよう頼んだのか、分かる気がする。
彼女は私に、ものすごく遠回しに悩みを相談していたのだ。
その相談が深刻になりすぎるのをおそれて、彼女は私におちゃらけたままでいるよう頼んだのだ。
彼女は、真面目にすべてを打ち明けたら大騒ぎになるということに、たぶん気づいていたのだ。

ことりの留学の件でμ’sが実際に大騒ぎになるのは、それからしばらくしてからのことだった。

33: 2014/09/06(土) 21:13:37.79 ID:BdMFcwwb.net
留学の話をはじめて海未から聞いたとき、私は何も言えなかったし、言う権利もないと思っていた。
これは結局、ことり自身が決めるべきことなのだ。
仮に誰かが口出しできるとしても、それは幼なじみで同級生である穂乃果と海未の役割だろう。
そうすると、私にできることは何もないのだろうか。
そんなことを自問しながら、私は、ぼんやりとあの日の夕方のことを思いだしていた。

34: 2014/09/06(土) 21:14:07.02 ID:BdMFcwwb.net
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ことり 「このハゲカツラ、真姫ちゃんにあげる」
真姫  「いいの? 作るの大変だったんでしょ?」
ことり 「今日、ことりの話を聞いてくれたお礼。
     ねえ、オシャレって、すごく面白いの。
     μ’sのみんなに似合う色んな服を考えるのは、とっても好き。
     そのために被服学の勉強をするのも、難しいけど、やっぱり好き。
     ハゲカツラは何のためにあるのかな、とか、まだまだ分からないことがたくさんあるの。
     だから、もしハゲカツラのホントの意味が分かったら、ことりに教えてね。
それじゃあ、またね」
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35: 2014/09/06(土) 21:14:55.86 ID:BdMFcwwb.net
今、部屋に飾られたハゲカツラを見ると、あの日のことりの顔が思いうかぶ。
あの日、私は、ハゲカツラは自分を道化にすることで人を笑わせるためにあるのだと知った。
でもそれだけではまだ足りない。
なぜ、自分を可愛く見せたいナルシストである私たちが、そこまでして人を笑わせたいと思うのか。
今なら、その理由が分かる気がする。
自分がいいカッコをすることももちろん大事だけど、ほかの人に笑ってもらうことは、もっと大事だからだ。
思春期にナルシストになった少女たちは、思春期の終わりとともに、ハゲカツラをかぶるナルシストへと成長するのだ。

36: 2014/09/06(土) 21:15:29.46 ID:BdMFcwwb.net
だから私も、自分の顔しか見ないナルシストでいるのは、もうやめだ。
私はことりの笑う顔が見たい。
ことりは、今きっとつらい決断を迫られているだろう。
だから私は、彼女がどちらの決断をしても、それを受け入れて、「それでいいのよ」と伝えたい。
どちらの決断をしても、彼女が祝福されているのだということを伝えたい。
そして、それを伝えるために何をすればよいのか、私にはすでに分かっている。

37: 2014/09/06(土) 21:16:20.93 ID:BdMFcwwb.net
それから数日がたち、紆余曲折の末、穂乃果がことりを迎えにいくことになった。
これにことりがどう応えるか、その応答が正しいものかどうか、私には分からない。
でも、どんな決断であれ、それでよいのだ。
私は、落ちつかないようすで待つ皆のもとを離れ、ひとり更衣室に向かった。

38: 2014/09/06(土) 21:16:55.28 ID:BdMFcwwb.net
海未  「穂乃果は間に合ったでしょうか…」
希   「ちょっと海未ちゃん、そんなに歩き回らんと、落ちついてよ」
凛   「そういう希ちゃんも、さっきからソワソワしっぱなしだにゃー」
にこ  「あれ、真姫はどこに行ったのよ?」
絵里  「さっき更衣室に行くって言って、出ていったわ。
     衣装を直しに行ったんじゃないかしら」
花陽  「あ、穂乃果ちゃん!」

39: 2014/09/06(土) 21:17:21.90 ID:BdMFcwwb.net
穂乃果 「お待たせ! 大丈夫、間に合ったよ!
     さあことりちゃん、早く早く!」
ことり 「みんな、私、迷惑かけちゃって、ごめんなさ…」

今だ。私は、かねて用意していたハゲカツラをかぶり、ことりの前に颯爽と駆け寄る。

真姫  「謝る必要はないわ。
     おかえりなさい、ことり。それでいいのよ」

40: 2014/09/06(土) 21:17:58.30 ID:BdMFcwwb.net
あぜんとする六人。
笑いをこらえて身もだえる花陽。
そして、笑い泣きすることり。
あの日のように、鈴を転がすように笑う彼女の目からこぼれた涙が、どんな意味をもっているのか。
ハゲカツラの意味を理解した私にも、さすがにそれは、知る由もない。

41: 2014/09/06(土) 21:18:50.94 ID:BdMFcwwb.net
【数週間後】
ことり 「そんなわけで、こんどは真姫ちゃんに、このピ工口の赤鼻をつけてほしいな!」
真姫  「私が何でも言うことを聞くと思ったら大間違いよ」
ことり 「えー、絵里ちゃんは付けてくれたのに」
絵里  「真姫、この鼻、ハラショーよ」
真姫  「あなたはもう少し羞恥心をもちなさい!」


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おわりです。
読んでくださった物好きな方、ありがとうございました。

42: 2014/09/06(土) 21:33:26.95 ID:+C56gzAo.net
おもしろかったよ

引用元: 真姫「ハゲカツラをかぶるナルシスト」