1: 2014/10/25(土) 20:44:19.35 ID:g3ihrVMT.net BE:809337201-2BP(0)
ことり(地声)「鏡さん、おしえてよ」
ことり(裏声)「ウン、イイヨ、コトリチャン」
ことり(地声)「わたしって、誰?」
ことり(裏声)「コトリチャンダヨ」
ことり(地声)「じゃあ、ことりって、誰?」
ことり(裏声)「今、鏡ニ、映ッテルヒトダヨ」
ことり(地声)「それなら、お願いがあるの」
ことり(裏声)「ナニカナ?」
ことり(地声)「鏡に映ってるわたしを、
どうか、とびっきり、可愛くしてよ」
ことり(裏声)「ウン、イイヨ、コトリチャン」
ことり(地声)「わたしって、誰?」
ことり(裏声)「コトリチャンダヨ」
ことり(地声)「じゃあ、ことりって、誰?」
ことり(裏声)「今、鏡ニ、映ッテルヒトダヨ」
ことり(地声)「それなら、お願いがあるの」
ことり(裏声)「ナニカナ?」
ことり(地声)「鏡に映ってるわたしを、
どうか、とびっきり、可愛くしてよ」
2: 2014/10/25(土) 20:46:55.89 ID:g3ihrVMT.net
恥の多くない生涯を送ってきました。
ことりにも、人間の生活というものは、だいたい見当がつきます。
だってことりは、鳥じゃなくて、人間ですから。
とはいえ、それだけじゃ、説明になってないですよね。
「恥の多くない生涯」がどんなものかは、これから説明しますね。
ことりにも、人間の生活というものは、だいたい見当がつきます。
だってことりは、鳥じゃなくて、人間ですから。
とはいえ、それだけじゃ、説明になってないですよね。
「恥の多くない生涯」がどんなものかは、これから説明しますね。
3: 2014/10/25(土) 20:47:37.35 ID:g3ihrVMT.net
人間の生活というものは……なんていうと、なんだかエラそうになってしまうので、
もっと身近な、わたしの幼なじみとの生活について話しますね。
わたしの幼なじみは、穂乃果ちゃんと、海未ちゃんっていいます。
ふたりとも、とってもすてきなひとです。
わたしには、もったいないくらい。
もっと身近な、わたしの幼なじみとの生活について話しますね。
わたしの幼なじみは、穂乃果ちゃんと、海未ちゃんっていいます。
ふたりとも、とってもすてきなひとです。
わたしには、もったいないくらい。
4: 2014/10/25(土) 20:48:32.00 ID:g3ihrVMT.net
たとえば、今日の放課後、こんなことがありました。
穂乃果「ことりちゃん、海未ちゃん、今日の放課後、どこに行く?」
海未 「昨日は私の行きたいところについて来てもらったので、
今日は、ことりの行きたいところにしましょう」
ことり「ううん、わたしは、穂乃果ちゃんと海未ちゃんの行きたいところなら、
どこへでもついていくよ」
穂乃果「えー、たまには、ことりちゃんの行きたいところにしようよ。
ことりちゃん、いつも遠慮してばっかりだもん。
自分の意見を、聞かせてほしいな!」
海未 「そうですよ、ことり。
優しいのはことりの長所ですが、もっと自分というものをもつべきです」
穂乃果「ことりちゃん、海未ちゃん、今日の放課後、どこに行く?」
海未 「昨日は私の行きたいところについて来てもらったので、
今日は、ことりの行きたいところにしましょう」
ことり「ううん、わたしは、穂乃果ちゃんと海未ちゃんの行きたいところなら、
どこへでもついていくよ」
穂乃果「えー、たまには、ことりちゃんの行きたいところにしようよ。
ことりちゃん、いつも遠慮してばっかりだもん。
自分の意見を、聞かせてほしいな!」
海未 「そうですよ、ことり。
優しいのはことりの長所ですが、もっと自分というものをもつべきです」
5: 2014/10/25(土) 20:49:11.12 ID:g3ihrVMT.net
ふたりは、わたしのことを心配して、こんなふうに言ってくれます。
でも、そう言われると、こまってしまうんです。
自分の意見をきかせてちょうだい、と、穂乃果ちゃんは言います。
そのためには、意見を言う自分がいなくちゃ、いけません。
そのためには、海未ちゃんの言うように、自分というものをもつべきなのでしょう。
でも、そう言われると、こまってしまうんです。
自分の意見をきかせてちょうだい、と、穂乃果ちゃんは言います。
そのためには、意見を言う自分がいなくちゃ、いけません。
そのためには、海未ちゃんの言うように、自分というものをもつべきなのでしょう。
6: 2014/10/25(土) 20:49:45.67 ID:g3ihrVMT.net
でも、自分をもつって、どういうことなのかな。
マカロンをもつ。これは、わかります。
でも、自分というものを、同じように「もつ」ことはできない気がします。
自分というのは、マカロンと違って、フワフワして、つかみどころがないのです。
でも、いつまでも黙っているわけにはいきません。何か言わないと。
マカロンをもつ。これは、わかります。
でも、自分というものを、同じように「もつ」ことはできない気がします。
自分というのは、マカロンと違って、フワフワして、つかみどころがないのです。
でも、いつまでも黙っているわけにはいきません。何か言わないと。
7: 2014/10/25(土) 20:50:57.17 ID:g3ihrVMT.net
ことり「えーと、それなら、クレープ屋さんがいいな!」
穂乃果「わかった! じゃあそうしよう!
嬉しいな、ことりちゃんの意見が聞けて!」
海未 「ふふふ。ことりは、クレープが食べたかったのですね。
それならそうと、初めから言えばよかったのに」
穂乃果「わかった! じゃあそうしよう!
嬉しいな、ことりちゃんの意見が聞けて!」
海未 「ふふふ。ことりは、クレープが食べたかったのですね。
それならそうと、初めから言えばよかったのに」
8: 2014/10/25(土) 20:51:24.94 ID:g3ihrVMT.net
ほんとうは、クレープがそれほど食べたいわけではないんです。
ただ、そう答えれば、丸くおさまる気がしたんです。
だって、穂乃果ちゃんはクレープが好きだし、
海未ちゃんも、お固そうに見えて、じつはああいうお菓子が好きなのですから。
こうしてわたしたちは、クレープ屋さんに行くことになりました。
ただ、そう答えれば、丸くおさまる気がしたんです。
だって、穂乃果ちゃんはクレープが好きだし、
海未ちゃんも、お固そうに見えて、じつはああいうお菓子が好きなのですから。
こうしてわたしたちは、クレープ屋さんに行くことになりました。
9: 2014/10/25(土) 20:52:17.64 ID:g3ihrVMT.net
穂乃果「私、この新商品の、梅昆布納豆味!」
海未 「穂乃果は、いつも新商品を選ぶのですね。
まあ、穂乃果らしいといえば、らしいのですが。
ただ今回のは、ちょっと冒険しすぎじゃありませんか?
私は、チョコバナナ味にします」
穂乃果「海未ちゃんは、逆に、冒険しなさすぎだよ。
今まで、チョコバナナ味以外を食べてるとこ、見たことないもん」
海未 「海苔弁といえばチクワの天ぷら。
トンカツといえば千切りキャベツ。
それと同じように、クレープといえばチョコバナナと決まっているんです」
海未 「穂乃果は、いつも新商品を選ぶのですね。
まあ、穂乃果らしいといえば、らしいのですが。
ただ今回のは、ちょっと冒険しすぎじゃありませんか?
私は、チョコバナナ味にします」
穂乃果「海未ちゃんは、逆に、冒険しなさすぎだよ。
今まで、チョコバナナ味以外を食べてるとこ、見たことないもん」
海未 「海苔弁といえばチクワの天ぷら。
トンカツといえば千切りキャベツ。
それと同じように、クレープといえばチョコバナナと決まっているんです」
10: 2014/10/25(土) 20:53:56.10 ID:g3ihrVMT.net
穂乃果「そんなの、誰が決めたの?」
海未 「海苔弁の神様と、トンカツの神様と、クレープの神様が、
原宿のクレープ屋さんのワゴンの中で決めたんです。
今を遡ること400年前、慶長19年の、暖かい春の日のことでした。
これが世に言う「クレープ・ワゴンの三聖会談」です。
ですから私たち江戸っ子は、それを全国に広める義務があるのです。
何事も、伝統を墨守するというのは、大事なことなのです」
ことり(海未ちゃんって、口から出まかせを言うの、けっこう得意だよね)
穂乃果「へー、そうだったんだ! 海未ちゃんはやっぱりハクガクだね!
よくわからないけど、まあその方面は海未ちゃんに任せるよ。
ことりちゃんは、どうする?」
ことり「うーん、穂乃果ちゃんと同じのにしようかな」
穂乃果「ほんとにそれでいいの?
ことりちゃん、自分の好きな味、選んでいいんだよ?」
海未 「そうですよ、ことり。
ほら、あなた、チーズが好きでしたよね。
あのチーズクリーム味とかは、どうですか?」
ことり「うん、そうだね!
そういえば、ことりは、チーズが好きなんだった。
じゃあ、それにしようかな!」
海未 「海苔弁の神様と、トンカツの神様と、クレープの神様が、
原宿のクレープ屋さんのワゴンの中で決めたんです。
今を遡ること400年前、慶長19年の、暖かい春の日のことでした。
これが世に言う「クレープ・ワゴンの三聖会談」です。
ですから私たち江戸っ子は、それを全国に広める義務があるのです。
何事も、伝統を墨守するというのは、大事なことなのです」
ことり(海未ちゃんって、口から出まかせを言うの、けっこう得意だよね)
穂乃果「へー、そうだったんだ! 海未ちゃんはやっぱりハクガクだね!
よくわからないけど、まあその方面は海未ちゃんに任せるよ。
ことりちゃんは、どうする?」
ことり「うーん、穂乃果ちゃんと同じのにしようかな」
穂乃果「ほんとにそれでいいの?
ことりちゃん、自分の好きな味、選んでいいんだよ?」
海未 「そうですよ、ことり。
ほら、あなた、チーズが好きでしたよね。
あのチーズクリーム味とかは、どうですか?」
ことり「うん、そうだね!
そういえば、ことりは、チーズが好きなんだった。
じゃあ、それにしようかな!」
11: 2014/10/25(土) 20:54:32.80 ID:g3ihrVMT.net
たしかに、ことりは、チーズが好きです。
でも、みんなと食べているときは、正直にいうと、自分の好みはどうでもいいんです。
ただ、みんなが喜んでくれれば、それでいいんです。
今は、チーズ味を選べば、穂乃果ちゃんも海未ちゃんも喜んでくれると思ったから、そうしました。
ふたりが喜んでくれるのなら、わたしは、梅昆布納豆味でも、ウニ小倉ニンニク味でも、ぱくぱく食べます。
でも、みんなと食べているときは、正直にいうと、自分の好みはどうでもいいんです。
ただ、みんなが喜んでくれれば、それでいいんです。
今は、チーズ味を選べば、穂乃果ちゃんも海未ちゃんも喜んでくれると思ったから、そうしました。
ふたりが喜んでくれるのなら、わたしは、梅昆布納豆味でも、ウニ小倉ニンニク味でも、ぱくぱく食べます。
13: 2014/10/25(土) 20:55:01.05 ID:g3ihrVMT.net
穂乃果「梅昆布納豆味、意外とおいしいよ!
ひとくち、食べてみる?」
海未 「うーん、まあ思ったほど悪くはないです。
チョコバナナ味も、一口いかがですか」
穂乃果「ことりちゃんも、どうぞ!」
海未 「私のも、よければぜひ食べてください」
ことり「ふたりとも、ありがとう!
ことりのも、あげるね!」
ひとくち、食べてみる?」
海未 「うーん、まあ思ったほど悪くはないです。
チョコバナナ味も、一口いかがですか」
穂乃果「ことりちゃんも、どうぞ!」
海未 「私のも、よければぜひ食べてください」
ことり「ふたりとも、ありがとう!
ことりのも、あげるね!」
16: 2014/10/25(土) 20:56:06.53 ID:g3ihrVMT.net
食べさせあいっこをしていると、ときどき、訊かれます。
穂乃果「ねえねえ、ことりちゃん。
梅昆布納豆味とチョコバナナ味、どっちがおいしかった?
もうチョコバナナ味は飽きちゃったよね!
やっぱり新しい味のほうが、おいしいよね!」
海未 「穂乃果、自分の好みを押しつけちゃだめですよ。
それに、斬新なだけのメニューが、
偉大なるチョコバナナに勝てるわけがありません」
穂乃果「あー、海未ちゃんだって、自分の好みを認めてほしいんじゃない!
ほら、ここはことりちゃんに決めてもらおうよ」
海未 「望むところです。
ことりは、穂乃果と私、どっちが正しいと思いますか?」
ことり「えへへ。
わたしには、どっちも同じくらいおいしかったから、選べないな。
引き分けじゃダメかな?」
穂乃果「ことりちゃんは、優しいなあ」
海未 「穂乃果と私はケンカしてぶつかってばかりですが、
優しいことりのおかげで、いつも丸くおさまりますね。
私たちも、ことりを見習わなくてはいけませんね」
穂乃果「ねえねえ、ことりちゃん。
梅昆布納豆味とチョコバナナ味、どっちがおいしかった?
もうチョコバナナ味は飽きちゃったよね!
やっぱり新しい味のほうが、おいしいよね!」
海未 「穂乃果、自分の好みを押しつけちゃだめですよ。
それに、斬新なだけのメニューが、
偉大なるチョコバナナに勝てるわけがありません」
穂乃果「あー、海未ちゃんだって、自分の好みを認めてほしいんじゃない!
ほら、ここはことりちゃんに決めてもらおうよ」
海未 「望むところです。
ことりは、穂乃果と私、どっちが正しいと思いますか?」
ことり「えへへ。
わたしには、どっちも同じくらいおいしかったから、選べないな。
引き分けじゃダメかな?」
穂乃果「ことりちゃんは、優しいなあ」
海未 「穂乃果と私はケンカしてぶつかってばかりですが、
優しいことりのおかげで、いつも丸くおさまりますね。
私たちも、ことりを見習わなくてはいけませんね」
17: 2014/10/25(土) 20:56:37.62 ID:g3ihrVMT.net
選べない。
正確にいうと、はじめから選ぶつもりなんて、ないんです。
わたしは、波風を立てたくなくて、自分というものをフワフワさせたままにしてるんです。
わたしがフワフワしていれば、私たち三人は、いつも仲良くしていられます。
これがわたしの見つけた「ふわふわの法則」です。
正確にいうと、はじめから選ぶつもりなんて、ないんです。
わたしは、波風を立てたくなくて、自分というものをフワフワさせたままにしてるんです。
わたしがフワフワしていれば、私たち三人は、いつも仲良くしていられます。
これがわたしの見つけた「ふわふわの法則」です。
18: 2014/10/25(土) 20:57:25.12 ID:g3ihrVMT.net
この法則に従っていると、「優しい」って、ふたりによく言われます。
穂乃果ちゃん、海未ちゃん、だましてごめんね。
ほんとは、わたしは、優しくなんかないんだ。
わたしは、波風が自分のところにくるのが、こわいだけなんです。
波にぶつかって、風にさらわれて、恥ずかしい思いをしたくないだけです。
だからわたしは「ふわふわの法則」という人生の秘訣を守ることで、「恥の多くない生涯」を送ってきたのです。
ほら、これで冒頭の言葉に戻ってきました。
フワフワしているようで、わたしも、けっこう色々と考えているんですよ。
穂乃果ちゃん、海未ちゃん、だましてごめんね。
ほんとは、わたしは、優しくなんかないんだ。
わたしは、波風が自分のところにくるのが、こわいだけなんです。
波にぶつかって、風にさらわれて、恥ずかしい思いをしたくないだけです。
だからわたしは「ふわふわの法則」という人生の秘訣を守ることで、「恥の多くない生涯」を送ってきたのです。
ほら、これで冒頭の言葉に戻ってきました。
フワフワしているようで、わたしも、けっこう色々と考えているんですよ。
19: 2014/10/25(土) 20:58:35.18 ID:g3ihrVMT.net
【その日の夜、ことりの部屋】
ことり(地声)「ねえ、鏡さん。
鏡に映るわたしを、とびっきり可愛くしてね。
ことりからことりへの、お願いだよ」
ことり(裏声)「コトリチャン」
ことり(地声)「なあに? 鏡さん」
ことり(裏声)「ドウシテ、可愛ク、ナリタイノ?」
ことり(地声)「鏡さんも、漢字、わかるでしょ。
可愛ければ、愛されることが可能だからだよ」
ことり(裏声)「ドウシテ、愛サレタイノ?」
ことり(地声)「自分がフワフワしてるせいだよ。
フワフワしてる自分を、自分でつかむことができないなら、
他の人に愛してもらうことで、自分を確かめるしかないじゃない」
ことり(裏声)「見タ目ガ可愛ケレバ、愛シテモラエルノカナ?」
ことり(地声)「うん。たぶんね。
鏡に映るわたしがとびっきり可愛ければ、
誰かの瞳に映るわたしは、とびっきり可愛がってもらえるはずだよ」
ことり(地声)「ねえ、鏡さん。
鏡に映るわたしを、とびっきり可愛くしてね。
ことりからことりへの、お願いだよ」
ことり(裏声)「コトリチャン」
ことり(地声)「なあに? 鏡さん」
ことり(裏声)「ドウシテ、可愛ク、ナリタイノ?」
ことり(地声)「鏡さんも、漢字、わかるでしょ。
可愛ければ、愛されることが可能だからだよ」
ことり(裏声)「ドウシテ、愛サレタイノ?」
ことり(地声)「自分がフワフワしてるせいだよ。
フワフワしてる自分を、自分でつかむことができないなら、
他の人に愛してもらうことで、自分を確かめるしかないじゃない」
ことり(裏声)「見タ目ガ可愛ケレバ、愛シテモラエルノカナ?」
ことり(地声)「うん。たぶんね。
鏡に映るわたしがとびっきり可愛ければ、
誰かの瞳に映るわたしは、とびっきり可愛がってもらえるはずだよ」
21: 2014/10/25(土) 20:59:31.59 ID:g3ihrVMT.net
【次の日、通学路】
穂乃果「ことりちゃん、今日の髪型も、バッチリ決まってるね!
いつものことだけど、すごくかわいいよ!」
ことり「えへへ、ありがとう!
でも、穂乃果ちゃんのサイドテールのほうが、活発で可愛いよ!」
海未 「ことりは、制服をきちんと着たうえでオシャレができるので、
すごいですね。
私みたいに地味な格好ではなくて、女の子らしい配慮にあふれていて、
とても可愛いですね」
ことり「えへへ、ありがとう!
でも、海未ちゃんの清楚な可愛らしさには、かなわないな!」
穂乃果「ことりちゃん、今日の髪型も、バッチリ決まってるね!
いつものことだけど、すごくかわいいよ!」
ことり「えへへ、ありがとう!
でも、穂乃果ちゃんのサイドテールのほうが、活発で可愛いよ!」
海未 「ことりは、制服をきちんと着たうえでオシャレができるので、
すごいですね。
私みたいに地味な格好ではなくて、女の子らしい配慮にあふれていて、
とても可愛いですね」
ことり「えへへ、ありがとう!
でも、海未ちゃんの清楚な可愛らしさには、かなわないな!」
22: 2014/10/25(土) 21:00:17.81 ID:g3ihrVMT.net
いつもふたりは、わたしのこと「かわいい」って言ってくれます。
そのたびに、わたしは、自分がここにいるんだということを、確かめることができます。
ちゃんとふたりは、わたしの姿を瞳に映して、可愛がってくれてるんだ。
内面がフワフワしているからこそ、外面は、おしゃれにバッチリ決めておかなくちゃいけません。
とにかく、おしゃれは、最優先なのです。
そのたびに、わたしは、自分がここにいるんだということを、確かめることができます。
ちゃんとふたりは、わたしの姿を瞳に映して、可愛がってくれてるんだ。
内面がフワフワしているからこそ、外面は、おしゃれにバッチリ決めておかなくちゃいけません。
とにかく、おしゃれは、最優先なのです。
23: 2014/10/25(土) 21:08:03.02 ID:g3ihrVMT.net
【その日の放課後、剣道場】
放課後、わたしは、剣道部の練習を見に行きました。
穂乃果ちゃんと、海未ちゃんは、剣道部に入っています。
わたしは、ふたりが剣道をしているようすを見るのが、大好きです。
どんな格好をしていても、ふたりは私の大好きなお友だちなのですから。
穂乃果「チャー!」
海未 「ワン!」
穂乃果「シュー!」
海未 「タン!」
穂乃果「メン!」
海未 「メン!」
放課後、わたしは、剣道部の練習を見に行きました。
穂乃果ちゃんと、海未ちゃんは、剣道部に入っています。
わたしは、ふたりが剣道をしているようすを見るのが、大好きです。
どんな格好をしていても、ふたりは私の大好きなお友だちなのですから。
穂乃果「チャー!」
海未 「ワン!」
穂乃果「シュー!」
海未 「タン!」
穂乃果「メン!」
海未 「メン!」
24: 2014/10/25(土) 21:09:43.48 ID:g3ihrVMT.net
胴着をつけて面をつけると、ふたりの可愛らしい外見は、すっぽり隠れます。
穂乃果ちゃんの活発で可愛いサイドテールも、海未ちゃんの清楚で可愛い服装も、見えなくなります。
でも、なぜでしょう。
それでもふたりは、可愛いのです。
ふたりを見ていると、外見の可愛さだけにご執心のわたしが、なんだかとても、情けなくなります。
チャーシューメンとワンタンメンと叫びながら打ち合うふたりは、わたしには、眩しすぎます。
いたたまれなくなって、わたしは、かねて用意していたヒョットコのお面をかぶりました。
穂乃果ちゃんの活発で可愛いサイドテールも、海未ちゃんの清楚で可愛い服装も、見えなくなります。
でも、なぜでしょう。
それでもふたりは、可愛いのです。
ふたりを見ていると、外見の可愛さだけにご執心のわたしが、なんだかとても、情けなくなります。
チャーシューメンとワンタンメンと叫びながら打ち合うふたりは、わたしには、眩しすぎます。
いたたまれなくなって、わたしは、かねて用意していたヒョットコのお面をかぶりました。
26: 2014/10/25(土) 21:10:26.27 ID:g3ihrVMT.net
ことり「がんばっているかね」
穂乃果「あ、ことりちゃんだ!」
海未 「ちょうどよかった。少し休憩しましょうか」
ことり「うん、わざわざありがとう。
クッキーつくってみたから、剣道部のみなさんにおすそ分けしようと思って」
穂乃果「わあ、ありがとう!
さっそくみんなを呼んでくるね!」
海未 「それにしても、なぜヒョットコのお面をかぶっているのですか?」
ことり「ちょっと、おどけたい気分なの!」
穂乃果「あ、ことりちゃんだ!」
海未 「ちょうどよかった。少し休憩しましょうか」
ことり「うん、わざわざありがとう。
クッキーつくってみたから、剣道部のみなさんにおすそ分けしようと思って」
穂乃果「わあ、ありがとう!
さっそくみんなを呼んでくるね!」
海未 「それにしても、なぜヒョットコのお面をかぶっているのですか?」
ことり「ちょっと、おどけたい気分なの!」
27: 2014/10/25(土) 21:11:26.95 ID:g3ihrVMT.net
お道化。
わたしの発見した「ふわふわの法則」には、オマケがついています。
フワフワするのがつらくなったら、ヒョットコのお面をかぶるべし。
そうすると、また、フワフワできます。
ヒョットコのお面をかぶって道化を演じていれば、わたしは、ひそかに抱いている悲しみを隠すことができます。
ヒョットコのお面の下で、わたしは、ふたりに対する劣等感に苛まれて、泣かんばかりなのです。
わたしの発見した「ふわふわの法則」には、オマケがついています。
フワフワするのがつらくなったら、ヒョットコのお面をかぶるべし。
そうすると、また、フワフワできます。
ヒョットコのお面をかぶって道化を演じていれば、わたしは、ひそかに抱いている悲しみを隠すことができます。
ヒョットコのお面の下で、わたしは、ふたりに対する劣等感に苛まれて、泣かんばかりなのです。
28: 2014/10/25(土) 21:12:33.48 ID:g3ihrVMT.net
ことり「ピーピーヒャララ、ピーヒャララ。
ヒョットコのことり。
略して、ヒョットコトリだよん」
穂乃果「ことりちゃん、お菓子、すごくおいしいよ!
どうもありがとう!」
ことり「剣道をがんばってるみんなのためなら、お安いご用だよ。
ヒョットコトリは剣道部のおやつマネージャーなのだよ」
海未 「ふふふ。いつもありがとうございます、ことり」
ことり「ところで、どうしてふたりのかけ声は違うの?
穂乃果ちゃんは『チャーシューメン』で、
海未ちゃんは『ワンタンメン』だよね」
穂乃果「穂乃果はチャーシューメンがいいと思うのに、
海未ちゃんがワンタンメンのほうがいいって言い張るんだよ」
ヒョットコのことり。
略して、ヒョットコトリだよん」
穂乃果「ことりちゃん、お菓子、すごくおいしいよ!
どうもありがとう!」
ことり「剣道をがんばってるみんなのためなら、お安いご用だよ。
ヒョットコトリは剣道部のおやつマネージャーなのだよ」
海未 「ふふふ。いつもありがとうございます、ことり」
ことり「ところで、どうしてふたりのかけ声は違うの?
穂乃果ちゃんは『チャーシューメン』で、
海未ちゃんは『ワンタンメン』だよね」
穂乃果「穂乃果はチャーシューメンがいいと思うのに、
海未ちゃんがワンタンメンのほうがいいって言い張るんだよ」
29: 2014/10/25(土) 21:13:40.44 ID:g3ihrVMT.net
海未 「穂乃果、いいですか。
剣の心は、チャーシューではなく、ワンタンなのです」
穂乃果「海未ちゃん、ちょっとやばいくらい意味わかんないよ」
海未 「ラーメンの中のチャーシューは、数えられます。
ショーケースのサンプルに二枚入っているのに、現物には一枚しか入っていないと、
すごく損した気分になりますよね。
逆に、三枚入っていると、うんと得した気分になります」
穂乃果「うん。わかるわかる。
チャーシューの枚数って、つい数えちゃうんだよね」
海未 「いわばチャーシューは、はっきりした個として存在しているわけです」
穂乃果「なるほど」
海未 「しかし、ワンタンメンの中のワンタンを、いちいち数える人がいるでしょうか。
ひとまとまりのワンタンはすぐに崩れます。
かと思うと、崩れた一部がほかのワンタンと合体したりします。
そんなものを数えようとしていたら、ラーメンが冷めてしまいます。
つまりワンタンには、チャーシューのように確固とした個がないのです」
穂乃果「うん、まあそうかも」
剣の心は、チャーシューではなく、ワンタンなのです」
穂乃果「海未ちゃん、ちょっとやばいくらい意味わかんないよ」
海未 「ラーメンの中のチャーシューは、数えられます。
ショーケースのサンプルに二枚入っているのに、現物には一枚しか入っていないと、
すごく損した気分になりますよね。
逆に、三枚入っていると、うんと得した気分になります」
穂乃果「うん。わかるわかる。
チャーシューの枚数って、つい数えちゃうんだよね」
海未 「いわばチャーシューは、はっきりした個として存在しているわけです」
穂乃果「なるほど」
海未 「しかし、ワンタンメンの中のワンタンを、いちいち数える人がいるでしょうか。
ひとまとまりのワンタンはすぐに崩れます。
かと思うと、崩れた一部がほかのワンタンと合体したりします。
そんなものを数えようとしていたら、ラーメンが冷めてしまいます。
つまりワンタンには、チャーシューのように確固とした個がないのです」
穂乃果「うん、まあそうかも」
30: 2014/10/25(土) 21:15:44.56 ID:g3ihrVMT.net
海未 「ワンタンを漢字で書くと、どうなりますか」
ことり「雲を呑む、と書いて、雲呑だよね」
海未 「そのとおり。さすが、ことりです」
穂乃果「もー、それがいったい、何だっていうの?」
海未 「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」
穂乃果「ことりちゃん、急に海未ちゃんが復活の呪文を唱えはじめたよ」
ことり「穂乃果ちゃん、これは復活の呪文じゃないよ。
方丈記の冒頭だね」
海未 「そのとおりです。
もうお分かりでしょう。
この文章の『よどみ』とは、丼の中のスープであり、
『うたかた』とは、ワンタンなのです。
雲呑。まことに美しい響きではありませんか。
そう、この文章は、行雲流水のごとく存在する雲呑によって、
この浮き世に生きる私たちの姿を喩えているのです」
ことり「鴨長明に殴られても文句は言えないね、海未ちゃん」
ことり「雲を呑む、と書いて、雲呑だよね」
海未 「そのとおり。さすが、ことりです」
穂乃果「もー、それがいったい、何だっていうの?」
海未 「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」
穂乃果「ことりちゃん、急に海未ちゃんが復活の呪文を唱えはじめたよ」
ことり「穂乃果ちゃん、これは復活の呪文じゃないよ。
方丈記の冒頭だね」
海未 「そのとおりです。
もうお分かりでしょう。
この文章の『よどみ』とは、丼の中のスープであり、
『うたかた』とは、ワンタンなのです。
雲呑。まことに美しい響きではありませんか。
そう、この文章は、行雲流水のごとく存在する雲呑によって、
この浮き世に生きる私たちの姿を喩えているのです」
ことり「鴨長明に殴られても文句は言えないね、海未ちゃん」
31: 2014/10/25(土) 21:16:55.52 ID:g3ihrVMT.net
穂乃果「だめだ。もうぜんぜんわかんない。
この話は、ことりちゃんのおやつにしよう」
海未 「私たちは、チャーシューのように確固とした個ではなく、
ワンタンのように、周りとくっついたり離れたりしながら、
行雲流水のごとく、すなわち、フワフワと存在しているのです。
このワンタンの秘密を知ったときに、剣の心もまた明らかになるのです」
穂乃果「(右耳から左耳に聞き流しながら)
なーるほど、海未ちゃんはハクガクだなあ!
まあそれはそれとして、ことりちゃんのクッキー、もう一枚どう?」
海未 「あ、はい、いただきます」
この話は、ことりちゃんのおやつにしよう」
海未 「私たちは、チャーシューのように確固とした個ではなく、
ワンタンのように、周りとくっついたり離れたりしながら、
行雲流水のごとく、すなわち、フワフワと存在しているのです。
このワンタンの秘密を知ったときに、剣の心もまた明らかになるのです」
穂乃果「(右耳から左耳に聞き流しながら)
なーるほど、海未ちゃんはハクガクだなあ!
まあそれはそれとして、ことりちゃんのクッキー、もう一枚どう?」
海未 「あ、はい、いただきます」
32: 2014/10/25(土) 21:17:34.21 ID:g3ihrVMT.net
ことり「ねえ、海未ちゃん」
海未 「何ですか?」
ことり「ほんとに私たちは、ワンタンみたいにフワフワ存在してるの?」
海未 「はい。私は、そう思います」
ことり「それならどうして、海未ちゃんは、そんなに……」
海未 「すみません、ことり、後半がよく聞こえなかったので、
もう一度言ってもらってもいいですか?」
ことり「なんでもないのよ、なんでも!
いやー、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、お邪魔してごめんね!
ひきつづき、練習がんばってね。
ヒョットコトリは、これで、おいとまするから。
ピーピーヒャララ、ピーヒャララ」
海未 「何ですか?」
ことり「ほんとに私たちは、ワンタンみたいにフワフワ存在してるの?」
海未 「はい。私は、そう思います」
ことり「それならどうして、海未ちゃんは、そんなに……」
海未 「すみません、ことり、後半がよく聞こえなかったので、
もう一度言ってもらってもいいですか?」
ことり「なんでもないのよ、なんでも!
いやー、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、お邪魔してごめんね!
ひきつづき、練習がんばってね。
ヒョットコトリは、これで、おいとまするから。
ピーピーヒャララ、ピーヒャララ」
33: 2014/10/25(土) 21:18:29.32 ID:g3ihrVMT.net
そう言いって、ヒョットコのお面をかぶりなおしながら、わたしはその場を去りました。
海未ちゃんに訊きたかったことがあるのだけど、どうしても訊けませんでした。
ねえ、海未ちゃん。
フワフワと存在してるはずなのに、どうして海未ちゃんは、そんなに可愛いの?
海未ちゃんだけじゃない、穂乃果ちゃんもだよ。
ふたりには、外見だけでは説明できない可愛さがあるのです。
ああ、ふたりに比べて、上っ面を取り繕うわたしは、なんと情けないことか。
外見をいくら飾っても空しいとすれば、わたしには、可愛さというものが、もう分からなくなりました。
海未ちゃんに訊きたかったことがあるのだけど、どうしても訊けませんでした。
ねえ、海未ちゃん。
フワフワと存在してるはずなのに、どうして海未ちゃんは、そんなに可愛いの?
海未ちゃんだけじゃない、穂乃果ちゃんもだよ。
ふたりには、外見だけでは説明できない可愛さがあるのです。
ああ、ふたりに比べて、上っ面を取り繕うわたしは、なんと情けないことか。
外見をいくら飾っても空しいとすれば、わたしには、可愛さというものが、もう分からなくなりました。
34: 2014/10/25(土) 21:19:14.93 ID:g3ihrVMT.net
【その夜、ことりの部屋】
ことり(地声)「ねえ、鏡さん。
可愛いって、何?」
ことり(裏声)「コトリチャン、昨日言ッテタジャナイ。
愛サレルコトガ、可能ナコトダヨ」
ことり(地声)「じゃあ、誰かを愛する人は、
相手のどこを愛してるの?
髪? 顔? 服?」
でも、髪や顔を隠しても、どんな服を着ても、可愛い人は、やっぱり可愛いよ。
どこを可愛くすれば、愛してもらえるの?」
ことり(裏声)「瞳ニ映ラナイ部分」
ことり(地声)「それって、どこ?」
ことり(裏声)「ワカンナイ。
ダッテ、瞳ニ映ラナイ部分は、鏡ニモ映ラナイカラネ」
ことり(地声)「ねえ、鏡さん。
可愛いって、何?」
ことり(裏声)「コトリチャン、昨日言ッテタジャナイ。
愛サレルコトガ、可能ナコトダヨ」
ことり(地声)「じゃあ、誰かを愛する人は、
相手のどこを愛してるの?
髪? 顔? 服?」
でも、髪や顔を隠しても、どんな服を着ても、可愛い人は、やっぱり可愛いよ。
どこを可愛くすれば、愛してもらえるの?」
ことり(裏声)「瞳ニ映ラナイ部分」
ことり(地声)「それって、どこ?」
ことり(裏声)「ワカンナイ。
ダッテ、瞳ニ映ラナイ部分は、鏡ニモ映ラナイカラネ」
35: 2014/10/25(土) 21:20:25.65 ID:g3ihrVMT.net
【次の日の朝、南家、台所】
ことり「おはよう、お母さん」
理事長「おはよう、ことり」
ことり「お母さん、訊きたいことがあるの」
理事長「ことりの訊きたいことには、何でも答えてあげるわよ」
ことり「お母さん、私のこと、愛してる?」
理事長「きゃー、あたりまえじゃない!
ことりちゃん、寂しくなったなら、ママが存分に……」
ことり「そういうのはいいから。
じゃあ、お母さんは、私のどこを愛してるの?」
理事長「きゃー、言うまでもないわ!
ことりちゃんの、髪の先から爪先までぜんぶ……」
ことり「そういうのもいいから。
もうちょっと具体的にお願い。
目に見える部分だけを愛してるの?」
理事長「きゃー、そんなわけないじゃない!
目に見えない部分も、もちろん愛してる!
それを証明するためなら、ママ何でも……」
ことり「おはよう、お母さん」
理事長「おはよう、ことり」
ことり「お母さん、訊きたいことがあるの」
理事長「ことりの訊きたいことには、何でも答えてあげるわよ」
ことり「お母さん、私のこと、愛してる?」
理事長「きゃー、あたりまえじゃない!
ことりちゃん、寂しくなったなら、ママが存分に……」
ことり「そういうのはいいから。
じゃあ、お母さんは、私のどこを愛してるの?」
理事長「きゃー、言うまでもないわ!
ことりちゃんの、髪の先から爪先までぜんぶ……」
ことり「そういうのもいいから。
もうちょっと具体的にお願い。
目に見える部分だけを愛してるの?」
理事長「きゃー、そんなわけないじゃない!
目に見えない部分も、もちろん愛してる!
それを証明するためなら、ママ何でも……」
36: 2014/10/25(土) 21:21:26.72 ID:g3ihrVMT.net
ことり「あまりくっつかないで。
じゃあ、目に見えない部分って、何?」
理事長「ことりの声。
ことりの香り。
ことりの味。
ことりの触りごこち」
ことり「うーん、なるほど。
目以外の感覚器官で、つかめるところなのかな。
ていうかお母さん、わたしの味って何?」
理事長「赤ちゃんのころ、ことりがあんまり可愛いから、
よくほっぺにチューしてたのよ。
そしたら、粉ミルクの味がしたわ」
ことり「それは、ことりの味じゃないでしょ!」
理事長「それなら、今もういちど確かめてもいいわよ」
ことり「寄らないで! 触らないで! なめないで!
もーお母さん、学校と家とで、態度違いすぎ。
もういいよ、わたし、先に行くから。
学校で会っても、話しかけないでよね!」
じゃあ、目に見えない部分って、何?」
理事長「ことりの声。
ことりの香り。
ことりの味。
ことりの触りごこち」
ことり「うーん、なるほど。
目以外の感覚器官で、つかめるところなのかな。
ていうかお母さん、わたしの味って何?」
理事長「赤ちゃんのころ、ことりがあんまり可愛いから、
よくほっぺにチューしてたのよ。
そしたら、粉ミルクの味がしたわ」
ことり「それは、ことりの味じゃないでしょ!」
理事長「それなら、今もういちど確かめてもいいわよ」
ことり「寄らないで! 触らないで! なめないで!
もーお母さん、学校と家とで、態度違いすぎ。
もういいよ、わたし、先に行くから。
学校で会っても、話しかけないでよね!」
37: 2014/10/25(土) 21:21:55.05 ID:g3ihrVMT.net
理事長「むずかしい年頃なのね。
ふふふ。それにしても、おかしな子。
そんな心配しなくても、みんなあなたを愛してるわよ。
家族だけじゃない。
お友達の、穂乃果ちゃんと海未ちゃんもね。
それに、五感なんて関係なく、みんなが何よりも好きなのは、あなたの……
あら、もう行っちゃったみたい」
ふふふ。それにしても、おかしな子。
そんな心配しなくても、みんなあなたを愛してるわよ。
家族だけじゃない。
お友達の、穂乃果ちゃんと海未ちゃんもね。
それに、五感なんて関係なく、みんなが何よりも好きなのは、あなたの……
あら、もう行っちゃったみたい」
38: 2014/10/25(土) 21:22:54.54 ID:g3ihrVMT.net
【その日の昼、一年生の教室】
ことり「ねえ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん。
ちょっと訊きたいことがあるんだけど……」
穂乃果「うん、いいよ。
勉強のこと以外なら、なんでも答えるよ!」
ことり「たとえば、わたしがヒョットコのお面をかぶっているとします」
穂乃果「ん?」
ことり「しかも、カラスの着ぐるみを着ているとします」
海未 「はあ」
ことり「そしたら、わたしの姿は、もうふたりの目には見えないよね。
その時わたしは、カラス天狗ならぬ、カラスヒョットコになっちゃうわけだから。
それでも、わたしのこと、好き?」
穂乃果「そりゃまあ、もちろん」
海未 「いきなり何を言い出すかと思えば、そんなことですか。
当たり前じゃないですか」
ことり「ねえ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん。
ちょっと訊きたいことがあるんだけど……」
穂乃果「うん、いいよ。
勉強のこと以外なら、なんでも答えるよ!」
ことり「たとえば、わたしがヒョットコのお面をかぶっているとします」
穂乃果「ん?」
ことり「しかも、カラスの着ぐるみを着ているとします」
海未 「はあ」
ことり「そしたら、わたしの姿は、もうふたりの目には見えないよね。
その時わたしは、カラス天狗ならぬ、カラスヒョットコになっちゃうわけだから。
それでも、わたしのこと、好き?」
穂乃果「そりゃまあ、もちろん」
海未 「いきなり何を言い出すかと思えば、そんなことですか。
当たり前じゃないですか」
39: 2014/10/25(土) 21:25:15.76 ID:g3ihrVMT.net
ことり「えっと……
それじゃあ、わたしがカゼをひいて、カエルさんみたいな声になったら?
それでもわたしのこと、好きでいてくれる?」
穂乃果「モチのロンだよ」
海未 「オフのコースです」
ことり「むむむ……
それなら、わたしが、足を踏み外してクサヤの原液に落っこちたとします!
嗅ぐとクサヤの匂いがして、
ほっぺにチューするとクサヤの味がして、
触るとクサヤのようにベタベタするの!
それならもう、わたしのこと、嫌いになるんじゃない?」
穂乃果「もー、今日のことりちゃんは、おかしなことを訊くんだなあ。
そんなことで、私たちがことりちゃんのこと、嫌いになるわけないじゃない。
だって私たちは、ことりちゃんのことが、大好きなんだから」
海未 「あなたがヒョットコのお面をかぶって、カラスの着ぐるみを着て、カエルみたいな声で、
クサヤみたいな匂いで、クサヤみたいな味で、クサヤみたいな触りごこちだったとしても、
そういうのはぜーんぶ、関係ないんです。
どんなことりでも、私たちの大好きなことりなんです」
それじゃあ、わたしがカゼをひいて、カエルさんみたいな声になったら?
それでもわたしのこと、好きでいてくれる?」
穂乃果「モチのロンだよ」
海未 「オフのコースです」
ことり「むむむ……
それなら、わたしが、足を踏み外してクサヤの原液に落っこちたとします!
嗅ぐとクサヤの匂いがして、
ほっぺにチューするとクサヤの味がして、
触るとクサヤのようにベタベタするの!
それならもう、わたしのこと、嫌いになるんじゃない?」
穂乃果「もー、今日のことりちゃんは、おかしなことを訊くんだなあ。
そんなことで、私たちがことりちゃんのこと、嫌いになるわけないじゃない。
だって私たちは、ことりちゃんのことが、大好きなんだから」
海未 「あなたがヒョットコのお面をかぶって、カラスの着ぐるみを着て、カエルみたいな声で、
クサヤみたいな匂いで、クサヤみたいな味で、クサヤみたいな触りごこちだったとしても、
そういうのはぜーんぶ、関係ないんです。
どんなことりでも、私たちの大好きなことりなんです」
40: 2014/10/25(土) 21:27:01.14 ID:g3ihrVMT.net
ことり「でも、そんなのおかしいよ!
目に見えるところも、耳で聞こえるところも、鼻で嗅げるところも、
舌で味わえるところも、肌で触れるところも、ぜーんぶ関係ないんだとしたら、
いったいふたりは、わたしのどこが好きなの?」
穂乃果「優しいところだよ」
海未 「そのとおり。
ことりの、その優しい心が好きなんですよ」
目に見えるところも、耳で聞こえるところも、鼻で嗅げるところも、
舌で味わえるところも、肌で触れるところも、ぜーんぶ関係ないんだとしたら、
いったいふたりは、わたしのどこが好きなの?」
穂乃果「優しいところだよ」
海未 「そのとおり。
ことりの、その優しい心が好きなんですよ」
41: 2014/10/25(土) 21:27:59.96 ID:g3ihrVMT.net
ああ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、かんちがいしてるよ。
ことりは、ほんとは優しくなんかないんだよ。
優しいように見えるのは、いつもフワフワしてるから。
でもフワフワしてるのは、自分が恥をかかないためで、他人のためじゃない。
わたしの優しさは、うそっぱちだ。
うそっぱちの優しさで愛されているなんて、わたしは、腹黒いやつだ。
ことりは、ほんとは優しくなんかないんだよ。
優しいように見えるのは、いつもフワフワしてるから。
でもフワフワしてるのは、自分が恥をかかないためで、他人のためじゃない。
わたしの優しさは、うそっぱちだ。
うそっぱちの優しさで愛されているなんて、わたしは、腹黒いやつだ。
42: 2014/10/25(土) 21:28:36.83 ID:g3ihrVMT.net
【その日の夜、ことりの部屋】
ことり(地声)「ねえ、鏡さん」
ことり(裏声)「何カナ、コトリチャン」
ことり(地声)「この前のお願い、覚えてる?」
ことり(裏声)「鏡ニ映ルコトリチャンヲ、
トビッキリ、可愛クスレバイインダヨネ」
ことり(地声)「あのお願い、やっぱり訂正していいかな」
ことり(裏声)「ウン、イイヨ。
コンドハ何ヲ、オ願イスルノ?」
ことり(地声)「鏡に映らないわたしの心を、
どうか、とびっきり、優しくしてよ」
ことり(地声)「ねえ、鏡さん」
ことり(裏声)「何カナ、コトリチャン」
ことり(地声)「この前のお願い、覚えてる?」
ことり(裏声)「鏡ニ映ルコトリチャンヲ、
トビッキリ、可愛クスレバイインダヨネ」
ことり(地声)「あのお願い、やっぱり訂正していいかな」
ことり(裏声)「ウン、イイヨ。
コンドハ何ヲ、オ願イスルノ?」
ことり(地声)「鏡に映らないわたしの心を、
どうか、とびっきり、優しくしてよ」
44: 2014/10/25(土) 21:29:10.91 ID:g3ihrVMT.net
ことり(裏声)「モウ、優シイッテ言ワレテルジャナイ」
ことり(地声)「みんな、腹黒いことりに騙されてるの。
だから、うその優しさじゃなくて、ほんとの優しさがほしいの。
ねえ鏡さん、お願いだから、教えてよ。
ほんとに優しくなるためには、どうすればいいの?」
ことり(裏声)「ソウダナ……
コウイウノハ、ドウカナ? ゴニョゴニョ……」
ことり(地声)「なるほど、さすが鏡さんだね!
さっそく明日から、ためしてみるよ!」
ことり(地声)「みんな、腹黒いことりに騙されてるの。
だから、うその優しさじゃなくて、ほんとの優しさがほしいの。
ねえ鏡さん、お願いだから、教えてよ。
ほんとに優しくなるためには、どうすればいいの?」
ことり(裏声)「ソウダナ……
コウイウノハ、ドウカナ? ゴニョゴニョ……」
ことり(地声)「なるほど、さすが鏡さんだね!
さっそく明日から、ためしてみるよ!」
45: 2014/10/25(土) 21:30:24.94 ID:g3ihrVMT.net
【次の日の朝、教室】
ことり「おはよう、穂乃果ちゃん、海未ちゃん!
遅くなってごめんね!
朝、服装のことでお母さんとケンカしちゃって……」
穂乃果「おはよう、ことりちゃん!
今日は少し遅れるって言われたから、一緒に登校できなかったけど、
遅刻せずに来られてよかったね……
ちょ、ことりちゃん!
その格好は、いったい何?」
海未 「ことり! なぜメイドの格好で学校に来ているのですか!
いや、顔をごまかすために、ガシャポンの容器を目に当てても無駄ですよ」
ことり「ことり?
ホワーット? ダーレのことですカー?
わたしのことは、音ノ木坂学院のカリスマメイド、
ミナリンスキーと、呼んでクーダサーイ」
ことり「おはよう、穂乃果ちゃん、海未ちゃん!
遅くなってごめんね!
朝、服装のことでお母さんとケンカしちゃって……」
穂乃果「おはよう、ことりちゃん!
今日は少し遅れるって言われたから、一緒に登校できなかったけど、
遅刻せずに来られてよかったね……
ちょ、ことりちゃん!
その格好は、いったい何?」
海未 「ことり! なぜメイドの格好で学校に来ているのですか!
いや、顔をごまかすために、ガシャポンの容器を目に当てても無駄ですよ」
ことり「ことり?
ホワーット? ダーレのことですカー?
わたしのことは、音ノ木坂学院のカリスマメイド、
ミナリンスキーと、呼んでクーダサーイ」
46: 2014/10/25(土) 21:31:40.96 ID:g3ihrVMT.net
(放送)「ピンポンパンポーン。
理事長からの緊急放送です」
理事長「ことり! 今すぐ理事長室に来なさい!
ひさしぶりに、ママのお説教が必要なようね!」
(放送)「ピンポンパンポーン。
理事長からの緊急放送を終わります。
理事長、家庭の問題で放送を利用するのは、今後お控えください」
穂乃果「……」
海未 「……」
ことり「ソーレデハー。
ヨキニハカラエ、ミナノシュー。
……サラバ」
このあとわたしは、逃走をはかりましたが、すぐお母さんに捕まりました。
親鳥の野郎は、わたしを理事長室に連行し、お説教をはじめました。
理事長からの緊急放送です」
理事長「ことり! 今すぐ理事長室に来なさい!
ひさしぶりに、ママのお説教が必要なようね!」
(放送)「ピンポンパンポーン。
理事長からの緊急放送を終わります。
理事長、家庭の問題で放送を利用するのは、今後お控えください」
穂乃果「……」
海未 「……」
ことり「ソーレデハー。
ヨキニハカラエ、ミナノシュー。
……サラバ」
このあとわたしは、逃走をはかりましたが、すぐお母さんに捕まりました。
親鳥の野郎は、わたしを理事長室に連行し、お説教をはじめました。
47: 2014/10/25(土) 21:32:41.68 ID:g3ihrVMT.net
理事長「ことり、そもそもどうして、メイド服をもってるの?」
ことり「けっこう前に、趣味で作ったんだよ」
理事長「すごいわ、さすがことり……
いや、本題はそこじゃないわ。
メイド服を着て学校に来る理由は、いったい何?」
ことり「メイドさんっていうのは、要するに、お手伝いさんだよな」
理事長「まあそうね」
ことり「誰かをお手伝いする人は、優しい人だよな」
理事長「たぶん」
ことり「つーことは、メイドをしていれば、優しくなれるんじゃないかって思ったわけよ」
ことり「けっこう前に、趣味で作ったんだよ」
理事長「すごいわ、さすがことり……
いや、本題はそこじゃないわ。
メイド服を着て学校に来る理由は、いったい何?」
ことり「メイドさんっていうのは、要するに、お手伝いさんだよな」
理事長「まあそうね」
ことり「誰かをお手伝いする人は、優しい人だよな」
理事長「たぶん」
ことり「つーことは、メイドをしていれば、優しくなれるんじゃないかって思ったわけよ」
48: 2014/10/25(土) 21:34:43.99 ID:g3ihrVMT.net
理事長「うーん、まあ筋は通ってる気がするわね。
それと、もう一つ訊きたいことがあるの」
ことり「何だよ、うっせーなー、なめんじゃねーよ」
理事長「その、無理して使ってる感じの不良言葉。
それによく見たら、エプロンドレスのスカートは、
中学の時のセーラー服のスカートを伸ばしたやつよね。
どうしてメイドの格好に、スケバンの格好が混ざってるの?」
ことり「今までわたしは、可愛い外見と、ウソの優しさをもってたわけ。
でもそれでみんなから愛されるのは、なんつーか、ロックじゃねーのよ。
だから、今日からは逆をめざすことにしたんだよ。
つまり、可愛さにあえて反抗するスケバン風の格好をして、
それでいて、メイドさんのようなホントの優しさをもちてえんだよ」
理事長「うーん、なるほど」
ことり「もし、ホントに優しいスケバンメイドになれたら、そのときはじめて、
わたしは、みんなに愛される資格をもてるんだよ。
そーいう意味では、スケバンメイドっていうのは、すげーロックンロールなわけ」
それと、もう一つ訊きたいことがあるの」
ことり「何だよ、うっせーなー、なめんじゃねーよ」
理事長「その、無理して使ってる感じの不良言葉。
それによく見たら、エプロンドレスのスカートは、
中学の時のセーラー服のスカートを伸ばしたやつよね。
どうしてメイドの格好に、スケバンの格好が混ざってるの?」
ことり「今までわたしは、可愛い外見と、ウソの優しさをもってたわけ。
でもそれでみんなから愛されるのは、なんつーか、ロックじゃねーのよ。
だから、今日からは逆をめざすことにしたんだよ。
つまり、可愛さにあえて反抗するスケバン風の格好をして、
それでいて、メイドさんのようなホントの優しさをもちてえんだよ」
理事長「うーん、なるほど」
ことり「もし、ホントに優しいスケバンメイドになれたら、そのときはじめて、
わたしは、みんなに愛される資格をもてるんだよ。
そーいう意味では、スケバンメイドっていうのは、すげーロックンロールなわけ」
49: 2014/10/25(土) 21:35:32.68 ID:g3ihrVMT.net
理事長「ことり、あなた、けっこうしっかり考えてるのね。
ほかに言いたいことはある?」
ことり「Love and Peace」
理事長「スケバンとヒッピーを若干混同してる気はするけど……
まあ、あなたのスケバンメイドにかける思いは分かったわ。
でも、どんな理由があろうと、授業時は制服かジャージを着用する規則なの」
ことり「そんな規則、誰が決めたんだよお!
ちくしょー、責任者を呼べ、責任者を!」
理事長「規則を決めたのは理事長の私!
ほんでもって、責任者も私!
どう、ことり、正論すぎて、グウの音も出ないでしょう」
ことり「グウ」
理事長「その返事は、あくまで反抗するという意思の表れと受けとっていいのかしら。
晩ごはんぬきにするわよ」
ことり「のぞむところだよ!
こうなったら徹底抗戦だあ!
ことり、スケバンメイドになる、なるったらなるんだもん!」
ほかに言いたいことはある?」
ことり「Love and Peace」
理事長「スケバンとヒッピーを若干混同してる気はするけど……
まあ、あなたのスケバンメイドにかける思いは分かったわ。
でも、どんな理由があろうと、授業時は制服かジャージを着用する規則なの」
ことり「そんな規則、誰が決めたんだよお!
ちくしょー、責任者を呼べ、責任者を!」
理事長「規則を決めたのは理事長の私!
ほんでもって、責任者も私!
どう、ことり、正論すぎて、グウの音も出ないでしょう」
ことり「グウ」
理事長「その返事は、あくまで反抗するという意思の表れと受けとっていいのかしら。
晩ごはんぬきにするわよ」
ことり「のぞむところだよ!
こうなったら徹底抗戦だあ!
ことり、スケバンメイドになる、なるったらなるんだもん!」
50: 2014/10/25(土) 21:36:32.20 ID:g3ihrVMT.net
理事長「こら、ことり、暴れるんじゃありません!
そっちが実力行使に訴えるようなら、こっちも用心棒を呼ぶしかないわね。
絢瀬さん、東條さん、カモン!」
絵里 「南さん、ごめんなさいね。
実は、生徒会は理事長の用心棒でもあったのよ。
それにしても、ヨージンボーって、東尋坊みたいで、何だかエキゾチックな響きよね」
希 「スケバンメイドのミナリンスキーさん。
残念ながら、校則に関しては、理事長の言うことが正しいよ。
ほら、あんまり暴れると、わしわしするよ」
ことり「ちくしょー、ニ対一とは卑怯な!
ていうか、東尋坊を異国扱いしないでくださ……するんじゃねーよ!
たとえ福井県民が許しても、このエプロンドレスが許さねえ!
かかってきてくださ……きやがれ、悪漢どもめ」
希 「南さん、やっぱり無理して不良言葉つかうのはやめたほうがいいよ」
ことり「……ひゃあああ、わしわしはやめてください!」
そっちが実力行使に訴えるようなら、こっちも用心棒を呼ぶしかないわね。
絢瀬さん、東條さん、カモン!」
絵里 「南さん、ごめんなさいね。
実は、生徒会は理事長の用心棒でもあったのよ。
それにしても、ヨージンボーって、東尋坊みたいで、何だかエキゾチックな響きよね」
希 「スケバンメイドのミナリンスキーさん。
残念ながら、校則に関しては、理事長の言うことが正しいよ。
ほら、あんまり暴れると、わしわしするよ」
ことり「ちくしょー、ニ対一とは卑怯な!
ていうか、東尋坊を異国扱いしないでくださ……するんじゃねーよ!
たとえ福井県民が許しても、このエプロンドレスが許さねえ!
かかってきてくださ……きやがれ、悪漢どもめ」
希 「南さん、やっぱり無理して不良言葉つかうのはやめたほうがいいよ」
ことり「……ひゃあああ、わしわしはやめてください!」
51: 2014/10/25(土) 21:37:06.82 ID:g3ihrVMT.net
こうしてわたしは、ハラショー用心棒とスピリチュアル用心棒に取り押さえられ、しかたなく、制服に着替えました。
しかしわたしは、わたしの熱いハートを解さない大人たちに、あくまで抵抗します。
そう、わたしは、良い子の小鳥から、不良の怪鳥になってやるんです。
あくまで不良のスケバンで、それでいて優しいメイドに、なってやるんです。
しかしわたしは、わたしの熱いハートを解さない大人たちに、あくまで抵抗します。
そう、わたしは、良い子の小鳥から、不良の怪鳥になってやるんです。
あくまで不良のスケバンで、それでいて優しいメイドに、なってやるんです。
64: 2014/10/25(土) 23:39:05.46 ID:g3ihrVMT.net
【その日の放課後、剣道場】
ことり「ったくよー。
おふくろと生徒会の頭の固さには、参っちまうぜ。
スケバンメイドの何が気にいらねーのかねえ、あのひとたちは」
穂乃果「おふくろ?」
海未 「思春期の男の子みたいですね……
まあそれはそれとして、言い分としては、あちらが正しいんですけどね」
穂乃果「でもことりちゃん、スケバンセーラー服とメイド服のちゃんぽん、すごく可愛いね!
やっぱりことりちゃん、服のセンスあるよ!」
ことり「ったくよー。
おふくろと生徒会の頭の固さには、参っちまうぜ。
スケバンメイドの何が気にいらねーのかねえ、あのひとたちは」
穂乃果「おふくろ?」
海未 「思春期の男の子みたいですね……
まあそれはそれとして、言い分としては、あちらが正しいんですけどね」
穂乃果「でもことりちゃん、スケバンセーラー服とメイド服のちゃんぽん、すごく可愛いね!
やっぱりことりちゃん、服のセンスあるよ!」
66: 2014/10/25(土) 23:40:02.81 ID:g3ihrVMT.net
ことり「ありがとな。穂乃果ちゃん。
でも、あたいには、もう可愛い服は必要ねーんだよ。
この服も、できるだけ可愛さに抵抗する感じで、作ったんだけどなあ。
あたいの代わりに、穂乃果ちゃんと海未ちゃんが可愛い服を着てくれれば、
あたいは、それで満足だよ。
今日からあたいは、剣道部専属のメイドになるからね。
何でも言ってくれよな、ご主人さま」
海未 「ご主人様?
いやいや、穂乃果も私も、そんな偉い者ではありませんよ。
そもそも、どんな理由があって、スケバンメイドになろうなんて思ったのですか?」
ことり「それは、ふたりにはナイショだぜ。
ほら、ご主人さま、わたしの作ったマカロン、どうか食べてくれよ!」
穂乃果「わあ、ありがとう!
それじゃ、いただきまーす」
海未 「ことり、いつもおいしいお菓子をありがとうございます。
でもあんまり穂乃果を甘やかすと、穂乃果の体重が……」
ことり「いーのいーの。
穂乃果ちゃんと海未ちゃんがやりたいことをやらせてあげて、
ふたりの後をずっとついて行くのが、
あたいなりの優しさというものだよ。
それじゃあ、また明日な、アバヨ!」
でも、あたいには、もう可愛い服は必要ねーんだよ。
この服も、できるだけ可愛さに抵抗する感じで、作ったんだけどなあ。
あたいの代わりに、穂乃果ちゃんと海未ちゃんが可愛い服を着てくれれば、
あたいは、それで満足だよ。
今日からあたいは、剣道部専属のメイドになるからね。
何でも言ってくれよな、ご主人さま」
海未 「ご主人様?
いやいや、穂乃果も私も、そんな偉い者ではありませんよ。
そもそも、どんな理由があって、スケバンメイドになろうなんて思ったのですか?」
ことり「それは、ふたりにはナイショだぜ。
ほら、ご主人さま、わたしの作ったマカロン、どうか食べてくれよ!」
穂乃果「わあ、ありがとう!
それじゃ、いただきまーす」
海未 「ことり、いつもおいしいお菓子をありがとうございます。
でもあんまり穂乃果を甘やかすと、穂乃果の体重が……」
ことり「いーのいーの。
穂乃果ちゃんと海未ちゃんがやりたいことをやらせてあげて、
ふたりの後をずっとついて行くのが、
あたいなりの優しさというものだよ。
それじゃあ、また明日な、アバヨ!」
67: 2014/10/25(土) 23:41:09.81 ID:g3ihrVMT.net
【その日の夜、ことりの部屋】
ことり(地声)「ねえ、鏡さん。
今日のわたしは、すこしでも優しくなれたかな?
穂乃果ちゃんと海未ちゃんにマカロンをあげたし、
福井県民のためにも闘った。負けちゃったけど」
ことり(裏声)「サアネ。
ワタシニハ、何トモ言エナイ」
ことり(地声)「どうして?
ねえ、私、ほんとに優しくなれた?
教えてよ、鏡さん」
ことり(裏声)「優シイッテ、言ワレタイノ?」
ことり(地声)「うん」
ことり(裏声)「デモ、鏡ニ映ルワタシに、優シイッテ言ワレテモ、
ソレハ、単ナル自己満足ダヨ。
ダカラ、ワタシカラハ、何トモ言エナインダヨ」
ことり(地声)「ねえ、鏡さん。
今日のわたしは、すこしでも優しくなれたかな?
穂乃果ちゃんと海未ちゃんにマカロンをあげたし、
福井県民のためにも闘った。負けちゃったけど」
ことり(裏声)「サアネ。
ワタシニハ、何トモ言エナイ」
ことり(地声)「どうして?
ねえ、私、ほんとに優しくなれた?
教えてよ、鏡さん」
ことり(裏声)「優シイッテ、言ワレタイノ?」
ことり(地声)「うん」
ことり(裏声)「デモ、鏡ニ映ルワタシに、優シイッテ言ワレテモ、
ソレハ、単ナル自己満足ダヨ。
ダカラ、ワタシカラハ、何トモ言エナインダヨ」
68: 2014/10/25(土) 23:41:54.23 ID:g3ihrVMT.net
ことり(地声)「じゃあ、鏡さんじゃなくて、穂乃果ちゃんと海未ちゃんに、
優しいって言ってもらえればいいの?」
ことり(裏声)「優シイッテ言ッテモラオウナンテ、
ソンナ下心ヲ持ッテイル人ハ、
ホントニ優シイ人ナノカナ?」
ことり(地声)「じゃあ、見返りを求めなければいいの?
優しいって言ってもらうことすら期待せずに、
悪い子のフリをしていればいいの?」
ことり(裏声)「ソンナコト、デキルノカナ?」
ことり(地声)「わかんないけど、やってみるよ。
だってわたしは、アウトローのスケバンだからね。
Rock’n’roll !」
ことり(裏声)「Love and Peace!」
優しいって言ってもらえればいいの?」
ことり(裏声)「優シイッテ言ッテモラオウナンテ、
ソンナ下心ヲ持ッテイル人ハ、
ホントニ優シイ人ナノカナ?」
ことり(地声)「じゃあ、見返りを求めなければいいの?
優しいって言ってもらうことすら期待せずに、
悪い子のフリをしていればいいの?」
ことり(裏声)「ソンナコト、デキルノカナ?」
ことり(地声)「わかんないけど、やってみるよ。
だってわたしは、アウトローのスケバンだからね。
Rock’n’roll !」
ことり(裏声)「Love and Peace!」
69: 2014/10/25(土) 23:42:37.15 ID:g3ihrVMT.net
今まで、波風をおそれて隠れていたわたしの生き方は、変わりました。
スケバンメイド服でブイブイ言わせていると、どうしても、目だちます。
後ろ指をさされることも、あるかもしれません。
わたしの生き方は、恥の少ない生き方から、恥の多い生き方に変わったのです。
でもわたしは、恥をかくことが、怖くありませんでした。
お友だちに優しくするためにかく恥なら、いくらかいても、怖くなかったのです。
スケバンメイド服でブイブイ言わせていると、どうしても、目だちます。
後ろ指をさされることも、あるかもしれません。
わたしの生き方は、恥の少ない生き方から、恥の多い生き方に変わったのです。
でもわたしは、恥をかくことが、怖くありませんでした。
お友だちに優しくするためにかく恥なら、いくらかいても、怖くなかったのです。
70: 2014/10/25(土) 23:43:56.28 ID:g3ihrVMT.net
【次の日、一年生の教室】
穂乃果「ことりちゃーん、私、お腹すいちゃった!
ことりちゃんのおやつがほしいなあ!」
ことり「うっせー!
あたいからおやつをもらおうなんて、100万光年はえーんだよ!
そんなロクでもねーこと言ってると、ことりのおやつにしてやるぞ!」
穂乃果「(ことりちゃんの声で凄まれても、可愛いだけだな……)
ええと、ことりちゃん、急にどうしたの?」
ことり「どーしたもこーしたもねえよ。
あたいはもともと、こんなふうに可愛くない女なんだよ。
あんたらから愛される資格なんて、ねーんだよ。
だからほら、これを食ったら、とっとと行きな」
穂乃果「あ、ことりちゃんの特製おやつだ! ありがとう!
やっぱりことりちゃんは、優しいなあ!
ねえことりちゃん、次、移動教室だから、いっしょに行こうね!」
ことり「はあ?
とっとと行けって言ってるのに、どうしてオメーはそう……
ありがとね、穂乃果ちゃん!」
穂乃果(やっぱり、何をやっても可愛いな)
海未 (不良のフリをしていても、やっぱり可愛いですね)
穂乃果「ことりちゃーん、私、お腹すいちゃった!
ことりちゃんのおやつがほしいなあ!」
ことり「うっせー!
あたいからおやつをもらおうなんて、100万光年はえーんだよ!
そんなロクでもねーこと言ってると、ことりのおやつにしてやるぞ!」
穂乃果「(ことりちゃんの声で凄まれても、可愛いだけだな……)
ええと、ことりちゃん、急にどうしたの?」
ことり「どーしたもこーしたもねえよ。
あたいはもともと、こんなふうに可愛くない女なんだよ。
あんたらから愛される資格なんて、ねーんだよ。
だからほら、これを食ったら、とっとと行きな」
穂乃果「あ、ことりちゃんの特製おやつだ! ありがとう!
やっぱりことりちゃんは、優しいなあ!
ねえことりちゃん、次、移動教室だから、いっしょに行こうね!」
ことり「はあ?
とっとと行けって言ってるのに、どうしてオメーはそう……
ありがとね、穂乃果ちゃん!」
穂乃果(やっぱり、何をやっても可愛いな)
海未 (不良のフリをしていても、やっぱり可愛いですね)
71: 2014/10/25(土) 23:45:52.79 ID:g3ihrVMT.net
【放課後、剣道場】
ことり「ピーピーヒャララ、ピーヒャララ。
剣道部の諸君、専属メイドのミナリンスキー様のお出ましだぜ!
さあ、今日はムシャクシャして、むしょーに洗濯がしたい気分だから、
おまえらの服とタオル、バンバン洗ってやるよ」
海未 「ことり、正式のマネージャーではないあなたに、仕事を押しつけるわけにはいきません。
好意はありがたいのですが、わたしたちは、それに甘えるわけにはいかないんです」
ことり「正式だの何だの、かたくるしーことを言うなよ、海未ちゃん。
あたいは、あんたたちが好きなことをやるのを後ろからずっとお手伝いしたいんだよ。
それがあたいなりの優し……いや、わがままなんだよ。
アウトローなスケバンメイドが正規のマネージャーになったら、カッコがつかねーだろ。
ほら、洗濯物、よこしてくれよ」
穂乃果「ことりちゃん、ほんとに大丈夫?
無理、してない?」
ことり「無理なんかしてねーよ。
なんたってあたいは、泣く子も笑うカリスマメイドだぜ?
Rock’n’roll !」
海未 「ことり……」
ことり「ピーピーヒャララ、ピーヒャララ。
剣道部の諸君、専属メイドのミナリンスキー様のお出ましだぜ!
さあ、今日はムシャクシャして、むしょーに洗濯がしたい気分だから、
おまえらの服とタオル、バンバン洗ってやるよ」
海未 「ことり、正式のマネージャーではないあなたに、仕事を押しつけるわけにはいきません。
好意はありがたいのですが、わたしたちは、それに甘えるわけにはいかないんです」
ことり「正式だの何だの、かたくるしーことを言うなよ、海未ちゃん。
あたいは、あんたたちが好きなことをやるのを後ろからずっとお手伝いしたいんだよ。
それがあたいなりの優し……いや、わがままなんだよ。
アウトローなスケバンメイドが正規のマネージャーになったら、カッコがつかねーだろ。
ほら、洗濯物、よこしてくれよ」
穂乃果「ことりちゃん、ほんとに大丈夫?
無理、してない?」
ことり「無理なんかしてねーよ。
なんたってあたいは、泣く子も笑うカリスマメイドだぜ?
Rock’n’roll !」
海未 「ことり……」
72: 2014/10/25(土) 23:49:38.65 ID:g3ihrVMT.net
【その夜、ことりの部屋】
ことり(裏声)「コトリチャン」
ことり(地声)「何かな? 鏡さん」
ことり(裏声)「ホントニ大丈夫?
無理、シテナイ?」
ことり(地声)「鏡さんまで、穂乃果ちゃんみたいなこと言うんだね。
大丈夫だよ。
わたしは、嬉しいんだよ。
みんなのお手伝いをすることができて。
これでやっとわたしも、優しくなれる気がするから」
ことり(裏声)「ソレガ、コトリチャンノ優シサナノ?」
ことり(地声)「そうだよ。
自分というものをカラッポにして、そこに、
みんなの汚れ物を詰め込んであげるの。
そして、その汚れ物を洗濯してあげて、
おやつのオマケを付けて、みんなに返してあげるの。
クリーニング代とおやつ代は、もちろん無料だよ。
これがミナリンスキーの目ざす、優しさ」
ことり(裏声)「コトリチャン」
ことり(地声)「何かな? 鏡さん」
ことり(裏声)「ホントニ大丈夫?
無理、シテナイ?」
ことり(地声)「鏡さんまで、穂乃果ちゃんみたいなこと言うんだね。
大丈夫だよ。
わたしは、嬉しいんだよ。
みんなのお手伝いをすることができて。
これでやっとわたしも、優しくなれる気がするから」
ことり(裏声)「ソレガ、コトリチャンノ優シサナノ?」
ことり(地声)「そうだよ。
自分というものをカラッポにして、そこに、
みんなの汚れ物を詰め込んであげるの。
そして、その汚れ物を洗濯してあげて、
おやつのオマケを付けて、みんなに返してあげるの。
クリーニング代とおやつ代は、もちろん無料だよ。
これがミナリンスキーの目ざす、優しさ」
73: 2014/10/25(土) 23:51:11.89 ID:g3ihrVMT.net
ことり(裏声)「コトリチャン、優シサヲ履キ違エテルヨ」
ことり(地声)「どうして?
メイドさんの優しさって、そういうものじゃないの?」
ことり(裏声)「オ給料ナシデ働クめいどサンナンテ、ドコニモイナインダヨ。
見返リヲ求メナイ優シサナンテ、長続キシナイヨ」
ことり(地声)「そうかな。ことりには、わかんないよ。
だって、愛される以外に、欲しいものなんてないもの。
だから、こっそり隠した優しさのおかげで、ちょっとでも愛してもらえるなら、
わたしはそれだけで満足なの」
ことり(裏声)「コトリチャン、欲シイモノ、無イノ?
自分ノ夢、無イノ?」
ことり(地声)「……わかんないよ。
だからことりは、穂乃果ちゃんと海未ちゃんのあとを、
ずっとついていくよ。
学年がかわっても、卒業しても、ずっと」
ことり(地声)「どうして?
メイドさんの優しさって、そういうものじゃないの?」
ことり(裏声)「オ給料ナシデ働クめいどサンナンテ、ドコニモイナインダヨ。
見返リヲ求メナイ優シサナンテ、長続キシナイヨ」
ことり(地声)「そうかな。ことりには、わかんないよ。
だって、愛される以外に、欲しいものなんてないもの。
だから、こっそり隠した優しさのおかげで、ちょっとでも愛してもらえるなら、
わたしはそれだけで満足なの」
ことり(裏声)「コトリチャン、欲シイモノ、無イノ?
自分ノ夢、無イノ?」
ことり(地声)「……わかんないよ。
だからことりは、穂乃果ちゃんと海未ちゃんのあとを、
ずっとついていくよ。
学年がかわっても、卒業しても、ずっと」
74: 2014/10/25(土) 23:52:00.50 ID:g3ihrVMT.net
それからもわたしは、放課後になると制服を脱いでスケバンメイド服に着替え、
剣道部専属メイドのミナリンスキーとして、無償のご奉仕をしました。
わたしは、この先もずっと、この無理のある優しさを押し通す気でいました。
当時のわたしは、思い違いをしていました。
たまたま幼なじみとしてくっついている三人が、この先もずっと、くっついたままだと思いこんでいたのです。
一度くっついたワンタンが、いつか離ればなれになることを、わすれていたのです。
ともあれ、わたしたち三人は、なかよく二年生になりました。
剣道部専属メイドのミナリンスキーとして、無償のご奉仕をしました。
わたしは、この先もずっと、この無理のある優しさを押し通す気でいました。
当時のわたしは、思い違いをしていました。
たまたま幼なじみとしてくっついている三人が、この先もずっと、くっついたままだと思いこんでいたのです。
一度くっついたワンタンが、いつか離ればなれになることを、わすれていたのです。
ともあれ、わたしたち三人は、なかよく二年生になりました。
75: 2014/10/25(土) 23:53:52.76 ID:g3ihrVMT.net
【新年度、二年生の教室】
穂乃果「ことりちゃん、海未ちゃん、たいへんだよ!
音ノ木坂、廃校になっちゃうんだって!」
海未 「ええ、私も掲示で見ましたが……
残念ながら、私たちではどうにもなりませんよ」
穂乃果「それが、どうにかなるんだよ!
スクールアイドルっていうのをやって人気になれば、
きっと入学希望者が増えて、廃校もなくなると思うよ!」
海未 「穂乃果、思いつきだけで行動するのは、無茶ですよ。
それに剣道部はどうするんですか」
穂乃果「だって、この前の新人戦で優勝したけど、それで音ノ木坂、有名になった?
知名度は何も変わってないよね。
だから私は、サイドテールを引かれつつ剣道部を退部し、アイドル部を……」
海未 「(丸めたノートで穂乃果の頭を三発叩く)
ワン、タン、メン!」
穂乃果「きゃあ!」
穂乃果「ことりちゃん、海未ちゃん、たいへんだよ!
音ノ木坂、廃校になっちゃうんだって!」
海未 「ええ、私も掲示で見ましたが……
残念ながら、私たちではどうにもなりませんよ」
穂乃果「それが、どうにかなるんだよ!
スクールアイドルっていうのをやって人気になれば、
きっと入学希望者が増えて、廃校もなくなると思うよ!」
海未 「穂乃果、思いつきだけで行動するのは、無茶ですよ。
それに剣道部はどうするんですか」
穂乃果「だって、この前の新人戦で優勝したけど、それで音ノ木坂、有名になった?
知名度は何も変わってないよね。
だから私は、サイドテールを引かれつつ剣道部を退部し、アイドル部を……」
海未 「(丸めたノートで穂乃果の頭を三発叩く)
ワン、タン、メン!」
穂乃果「きゃあ!」
76: 2014/10/25(土) 23:54:25.31 ID:g3ihrVMT.net
海未 「剣道っていうのは、べつに有名になるためにやってるんじゃないんです。
そんなあっさり剣道部をやめるんですか、あなたという人は!
なんですか、サイドテールを引かれるって。
去る者は追いませんけど、せめて後ろ髪くらい引かれてください」
穂乃果「えーと、海未ちゃんはどう……?」
海未 「私は剣道部に残ります。
アイドルは無しです。やりたければ勝手にやりなさい」
穂乃果「ことりちゃんは、どうする?」
ことり「えーと、わたしは……」
そんなあっさり剣道部をやめるんですか、あなたという人は!
なんですか、サイドテールを引かれるって。
去る者は追いませんけど、せめて後ろ髪くらい引かれてください」
穂乃果「えーと、海未ちゃんはどう……?」
海未 「私は剣道部に残ります。
アイドルは無しです。やりたければ勝手にやりなさい」
穂乃果「ことりちゃんは、どうする?」
ことり「えーと、わたしは……」
77: 2014/10/25(土) 23:55:40.83 ID:g3ihrVMT.net
【その日の昼休み、教室】
海未 「穂乃果はどこに行ったのですか?」
ことり「部活申請のために、生徒会室に行ったよ」
海未 「ことりは、どうするのですか?」
ことり「わたしは、たぶん……穂乃果ちゃんのお手伝いをさせてもらう。
海未ちゃん、ごめんね。
非正式とはいえ、剣道部専属のメイドだったのに、途中でやめることになってしまって。
わたしは、穂乃果ちゃんと海未ちゃんのお手伝いができれば、それでよかったの。
だからこんなふうに、ふたりがバラバラになることは考えてなかった。
でもね海未ちゃん、もしわたしが穂乃果ちゃんを手伝わなかったら、
穂乃果ちゃんは、ひとりぼっちになっちゃう。
だからわたしが、後ろからついていかないと」
海未 「穂乃果はどこに行ったのですか?」
ことり「部活申請のために、生徒会室に行ったよ」
海未 「ことりは、どうするのですか?」
ことり「わたしは、たぶん……穂乃果ちゃんのお手伝いをさせてもらう。
海未ちゃん、ごめんね。
非正式とはいえ、剣道部専属のメイドだったのに、途中でやめることになってしまって。
わたしは、穂乃果ちゃんと海未ちゃんのお手伝いができれば、それでよかったの。
だからこんなふうに、ふたりがバラバラになることは考えてなかった。
でもね海未ちゃん、もしわたしが穂乃果ちゃんを手伝わなかったら、
穂乃果ちゃんは、ひとりぼっちになっちゃう。
だからわたしが、後ろからついていかないと」
78: 2014/10/25(土) 23:56:54.05 ID:g3ihrVMT.net
海未 「ことりがそう考えるのなら、それがいちばんよいのだと思います。
でもことり、ほんとは、穂乃果にも私にも、気をつかう必要は無いんですよ。
あなたはあなたのやりたいことを、やればいいんです」
ことり「ありがとう、海未ちゃん。
でも大丈夫。
ずっと穂乃果ちゃんの後についていって、穂乃果ちゃんがつまずいたら、すぐに助けてあげる。
それがわたしの、やりたいことなの」
海未 「そうですか。それならいいのですが……
あ、穂乃果が帰ってきたみたいです」
穂乃果「なんかおっかない生徒会長から、ダメって言われたよー。
だから、とりあえず使ってない教室をこっそり借りて、部員を募ろう。
放課後にミニ喫茶店を開いて、クチコミで広げるんだよ」
ことり「わたし……じゃなかった、あたいの出番というわけだな」
でもことり、ほんとは、穂乃果にも私にも、気をつかう必要は無いんですよ。
あなたはあなたのやりたいことを、やればいいんです」
ことり「ありがとう、海未ちゃん。
でも大丈夫。
ずっと穂乃果ちゃんの後についていって、穂乃果ちゃんがつまずいたら、すぐに助けてあげる。
それがわたしの、やりたいことなの」
海未 「そうですか。それならいいのですが……
あ、穂乃果が帰ってきたみたいです」
穂乃果「なんかおっかない生徒会長から、ダメって言われたよー。
だから、とりあえず使ってない教室をこっそり借りて、部員を募ろう。
放課後にミニ喫茶店を開いて、クチコミで広げるんだよ」
ことり「わたし……じゃなかった、あたいの出番というわけだな」
79: 2014/10/25(土) 23:57:30.52 ID:g3ihrVMT.net
こうして穂乃果ちゃんと私は、空き教室で喫茶店のまねごとを始めました。
お店の名前は、スケバンメイド喫茶のプランタン。
スクールアイドル募集のポスターの隅っこに店の場所を書いたので、
お客さんは、案外はやく来てくれました。
お店の名前は、スケバンメイド喫茶のプランタン。
スクールアイドル募集のポスターの隅っこに店の場所を書いたので、
お客さんは、案外はやく来てくれました。
80: 2014/10/25(土) 23:58:45.05 ID:g3ihrVMT.net
【数日後、放課後の空き教室】
花陽 「し、しつれいします。
スクールアイドルに興味があって……」
ことり「おう、よく帰(けえ)ったな、ご主人さま!
あんた、なかなか見る目があるよ。
あたいらのスクールアイドルに入ってくれるってんなら、歓迎するぜ」
花陽 「ひいい!
何か私、勘違いをしてたみたいです!
失礼しました、まさかスケバンさん達の溜まり場とはいざ知らず……
どうか私のことは忘れて、仕込みヨーヨーの練習をしながら、
バブル時代の青春をド派手に謳歌してください、さようなら……」
花陽 「し、しつれいします。
スクールアイドルに興味があって……」
ことり「おう、よく帰(けえ)ったな、ご主人さま!
あんた、なかなか見る目があるよ。
あたいらのスクールアイドルに入ってくれるってんなら、歓迎するぜ」
花陽 「ひいい!
何か私、勘違いをしてたみたいです!
失礼しました、まさかスケバンさん達の溜まり場とはいざ知らず……
どうか私のことは忘れて、仕込みヨーヨーの練習をしながら、
バブル時代の青春をド派手に謳歌してください、さようなら……」
81: 2014/10/26(日) 00:00:42.18 ID:KK/E2tqE.net
穂乃果「わああ、ちょっと待って!
ごめんね、私たちはスケバンはスケバンでも、正義のスケバンだよ」
花陽 「スケバンの方は、みんなそう言うんですよ。
私、パシリになっちゃうんですか?
おむすびとか、海苔巻きとか、買いに行かされるんですか?」
ことり「そんなことはしないよ。
まずは座って、お茶でも飲みながらおしゃべりしようぜ。
お名前は? ご注文は?」
花陽 「一年生の小泉花陽と言います。
注文は……何でもいいのですが、ライスティーはありますか?」
穂乃果「ライスティー? 玄米茶のこと?」
花陽 「いいえ、お茶漬けのことです」
穂乃果「それなら、ティーライスと言うべきじゃないかなあ」
花陽 「ティーライスという言葉は、茶飯のためにとっておくべきです。
ご飯をお茶で炊く茶飯と、ご飯にお茶をかけるお茶漬けは、
あくまで別の料理なのです。
猫まんまにおけるお味噌汁とご飯の関係と同じように、
お茶漬けにおけるお茶のご飯の関係も、繊細にして多様なのです。
そもそもお茶漬けとは……」
ごめんね、私たちはスケバンはスケバンでも、正義のスケバンだよ」
花陽 「スケバンの方は、みんなそう言うんですよ。
私、パシリになっちゃうんですか?
おむすびとか、海苔巻きとか、買いに行かされるんですか?」
ことり「そんなことはしないよ。
まずは座って、お茶でも飲みながらおしゃべりしようぜ。
お名前は? ご注文は?」
花陽 「一年生の小泉花陽と言います。
注文は……何でもいいのですが、ライスティーはありますか?」
穂乃果「ライスティー? 玄米茶のこと?」
花陽 「いいえ、お茶漬けのことです」
穂乃果「それなら、ティーライスと言うべきじゃないかなあ」
花陽 「ティーライスという言葉は、茶飯のためにとっておくべきです。
ご飯をお茶で炊く茶飯と、ご飯にお茶をかけるお茶漬けは、
あくまで別の料理なのです。
猫まんまにおけるお味噌汁とご飯の関係と同じように、
お茶漬けにおけるお茶のご飯の関係も、繊細にして多様なのです。
そもそもお茶漬けとは……」
82: 2014/10/26(日) 00:01:59.74 ID:g3ihrVMT.net
穂乃果「花陽ちゃん、その急須のように熱いハート、ステキだよ。
キミは輝いてる。新米のように。
ぜひ、うちのスクールアイドルに入ってみない?」
花陽 「ありがとうございます。
でも私、背も小さいし、声も小さいし……
アイドルなんて、無茶です。だから裏方として……」
ことり「無茶なんて言うんじゃねーよ!」
花陽 「ピャア」
ことり「花陽ちゃん、あんたの人生はお茶漬けなんだよ」
穂乃果「そのこころは?」
ことり「はじめからおわりまで、無茶なところなし」
花陽 「アネゴ……」
ことり「はい、ライスティーをどうぞ、ご主人さま!
トッピングは、梅になさいますか?
それとも、鮭になさいますか?
刻み海苔によるデコレーションはいかがですか?」
キミは輝いてる。新米のように。
ぜひ、うちのスクールアイドルに入ってみない?」
花陽 「ありがとうございます。
でも私、背も小さいし、声も小さいし……
アイドルなんて、無茶です。だから裏方として……」
ことり「無茶なんて言うんじゃねーよ!」
花陽 「ピャア」
ことり「花陽ちゃん、あんたの人生はお茶漬けなんだよ」
穂乃果「そのこころは?」
ことり「はじめからおわりまで、無茶なところなし」
花陽 「アネゴ……」
ことり「はい、ライスティーをどうぞ、ご主人さま!
トッピングは、梅になさいますか?
それとも、鮭になさいますか?
刻み海苔によるデコレーションはいかがですか?」
83: 2014/10/26(日) 00:02:41.24 ID:KK/E2tqE.net
それから紆余曲折ありましたが、かよちゃんは、スクールアイドルに入ってくれました。
もちろん、わたしのしたことなど、ささやかなものです。
最終的にかよちゃんの背中を押したのは、一年生の星空さんと西木野さんでしたし、彼女らに手を差し伸べたのは、穂乃果ちゃんですから。
わたしは、何もしていません。
わたしはただ、お茶漬けを一杯、出してあげただけです。
もちろん、わたしのしたことなど、ささやかなものです。
最終的にかよちゃんの背中を押したのは、一年生の星空さんと西木野さんでしたし、彼女らに手を差し伸べたのは、穂乃果ちゃんですから。
わたしは、何もしていません。
わたしはただ、お茶漬けを一杯、出してあげただけです。
84: 2014/10/26(日) 00:03:19.31 ID:KK/E2tqE.net
五人になった私たちは、屋上でダンスの練習をするようになりました。
私たちがスケバンメイド喫茶プランタンにたむろすることは、少なくなりました。
しかしそれでも、わたしは練習のあと、下校時間までプランタンを開けておきました。
わたしはそこで、ファーストライブのための衣装をデザインしながら、お客さんを待ちました。
私たちがスケバンメイド喫茶プランタンにたむろすることは、少なくなりました。
しかしそれでも、わたしは練習のあと、下校時間までプランタンを開けておきました。
わたしはそこで、ファーストライブのための衣装をデザインしながら、お客さんを待ちました。
85: 2014/10/26(日) 00:04:45.97 ID:KK/E2tqE.net
【数日後の放課後、空き教室】
にこ 「たのもー、たのもー!」
ことり「お帰(けえ)りなさいませ、ご主人さま」
にこ 「あれ、あんた一人しかいないの?
まあいいや、ちょっと言いたいことがあんのよ。
あんたたちでしょ、最近μ’sと名乗ってスクールアイドルに首を突っ込んでるのは」
ことり「はい、そうですが」
にこ 「今すぐやめなさい。
あんたたちは、スクールアイドルを汚してるわ。
第一なんなのよ、あんたのその中途半端なスケバン風の格好は!
そんなんでアイドルって名乗られたら、たまんないのよ!」
にこ 「たのもー、たのもー!」
ことり「お帰(けえ)りなさいませ、ご主人さま」
にこ 「あれ、あんた一人しかいないの?
まあいいや、ちょっと言いたいことがあんのよ。
あんたたちでしょ、最近μ’sと名乗ってスクールアイドルに首を突っ込んでるのは」
ことり「はい、そうですが」
にこ 「今すぐやめなさい。
あんたたちは、スクールアイドルを汚してるわ。
第一なんなのよ、あんたのその中途半端なスケバン風の格好は!
そんなんでアイドルって名乗られたら、たまんないのよ!」
86: 2014/10/26(日) 00:06:55.74 ID:KK/E2tqE.net
ことり「大丈夫です。
ステージではちゃんと可愛いフリフリの衣装を着ますから。
ほら、ちょうど今、わたしがデザインしてたところです」
にこ 「あら、可愛いじゃない。
あんた才能あるわよ。
でも、これだけファッションセンスがあるなら、
ふだんからもうちょっと可愛い格好したらいいのに」
ことり「ステージの上では、ほかのメンバーに迷惑をかけるわけにいかないから、
ちゃんと衣装を着ます。
でもふだんは、わたしは、可愛い格好なんてする必要はないんです。
わたしみたいな腹黒い女が、可愛い格好でお腹を隠しても、そんなのは、ズルッこですから」
にこ 「考えすぎよ。
ふだん何を考えてようと、誰にだってオシャレをする権利はあるのよ。
私だって、腹黒いこと考えながら、ピンクのカーディガンを着てるのよ」
ことり「いいえ。にこ先輩の心は、きれいです。
悪態をついていても、わたしには、ちゃんと分かりますよ。
にこ先輩や、μ’sのほかのみんなのキレイな心には、
それにふさわしい可愛い服を着せてあげたいんです。
そんなわけで、今描いてるこの衣装は、にこ先輩のぶん……なんちゃって」
にこ 「アネゴ……」
ことり「そうだ、お茶漬け、食べていきませんか? にこ先輩。
トッピングとデコレーションは、どうなさいますか?」
ステージではちゃんと可愛いフリフリの衣装を着ますから。
ほら、ちょうど今、わたしがデザインしてたところです」
にこ 「あら、可愛いじゃない。
あんた才能あるわよ。
でも、これだけファッションセンスがあるなら、
ふだんからもうちょっと可愛い格好したらいいのに」
ことり「ステージの上では、ほかのメンバーに迷惑をかけるわけにいかないから、
ちゃんと衣装を着ます。
でもふだんは、わたしは、可愛い格好なんてする必要はないんです。
わたしみたいな腹黒い女が、可愛い格好でお腹を隠しても、そんなのは、ズルッこですから」
にこ 「考えすぎよ。
ふだん何を考えてようと、誰にだってオシャレをする権利はあるのよ。
私だって、腹黒いこと考えながら、ピンクのカーディガンを着てるのよ」
ことり「いいえ。にこ先輩の心は、きれいです。
悪態をついていても、わたしには、ちゃんと分かりますよ。
にこ先輩や、μ’sのほかのみんなのキレイな心には、
それにふさわしい可愛い服を着せてあげたいんです。
そんなわけで、今描いてるこの衣装は、にこ先輩のぶん……なんちゃって」
にこ 「アネゴ……」
ことり「そうだ、お茶漬け、食べていきませんか? にこ先輩。
トッピングとデコレーションは、どうなさいますか?」
87: 2014/10/26(日) 00:08:04.81 ID:KK/E2tqE.net
刻み海苔で作った笑顔のデコレーションが、お茶漬けの中で、ふと揺らぎました。
にこ先輩は、何か思うところがある様子でお茶漬けをさらさら食べると、お店から出ていきました。
μ’sがアイドル研究部と一緒になるのは、それから数日後のことでした。
きっと穂乃果ちゃんたちが、持ちまえの明朗さで、にこ先輩を誘ってくれたのでしょう。
わたしは、何もしていません。
わたしはただ、お茶漬けを一杯、出してあげただけです。
あ、あと、サインを求められたので、一枚差し上げました。
にこ先輩は、何か思うところがある様子でお茶漬けをさらさら食べると、お店から出ていきました。
μ’sがアイドル研究部と一緒になるのは、それから数日後のことでした。
きっと穂乃果ちゃんたちが、持ちまえの明朗さで、にこ先輩を誘ってくれたのでしょう。
わたしは、何もしていません。
わたしはただ、お茶漬けを一杯、出してあげただけです。
あ、あと、サインを求められたので、一枚差し上げました。
88: 2014/10/26(日) 00:09:51.08 ID:KK/E2tqE.net
【数週間後、空き教室】
六人で行った講堂でのファーストライブは、成功と呼べるものではありませんでした。
見に来てくれたひとはほんの少しだし、わたしたちのダンスも、まだまだ未熟です。
お客さんの中には、海未ちゃんもいました。
海未ちゃんは、その日以来、何ごとかを考えている様子でしたが、ある日、スケバンメイド喫茶にやって来ました。
海未 「お邪魔します、ことり」
ことり「お帰(けえ)りなさいませ、ご主人さま……
よう、海未ちゃんじゃねえか。
よく来たな、まあ座りな。
Love and Peace!」
海未 「はい。フォーエバー・ビートルズ。
それはそうと、ファーストライブ、見ましたよ。
私、あなたたちに謝らないといけません。
あなたたちが、あんなに真剣にやっているとは知らなかった。
うまくいかなかったのは、あなたたちのせいじゃありません。
次はきっとうまくいきます。
だから私にも、お手伝いさせてくれませんか?」
六人で行った講堂でのファーストライブは、成功と呼べるものではありませんでした。
見に来てくれたひとはほんの少しだし、わたしたちのダンスも、まだまだ未熟です。
お客さんの中には、海未ちゃんもいました。
海未ちゃんは、その日以来、何ごとかを考えている様子でしたが、ある日、スケバンメイド喫茶にやって来ました。
海未 「お邪魔します、ことり」
ことり「お帰(けえ)りなさいませ、ご主人さま……
よう、海未ちゃんじゃねえか。
よく来たな、まあ座りな。
Love and Peace!」
海未 「はい。フォーエバー・ビートルズ。
それはそうと、ファーストライブ、見ましたよ。
私、あなたたちに謝らないといけません。
あなたたちが、あんなに真剣にやっているとは知らなかった。
うまくいかなかったのは、あなたたちのせいじゃありません。
次はきっとうまくいきます。
だから私にも、お手伝いさせてくれませんか?」
90: 2014/10/26(日) 00:12:20.68 ID:KK/E2tqE.net
ことり「ありがとな。
海未ちゃんがμ’sに加わってくれたら、すごく嬉しいぜ。
μ'sというワンタンの中に、海未ちゃんもくっついてくれるんだな」
海未 「ふふふ。雲呑の話、よく覚えていてくれましたね。
まあそういうわけです。」
ことり「ねえ海未ちゃん。
くっついたワンタンは、もはや一つのワンタンなのかな」
海未 「一つのようでもあり、そうでないとも言えます」
ことり「でも、同じ夢を見てるかぎり、一つと言っていいよね」
海未 「ええ、そうですね。
ワンタンどうしが同じ夢を見ているかぎり……
ところでことり、あの紙の山は何ですか?」
ことり「次のライブの衣装のデザインだよ。
作るときはみんなで協力するし、仕上げは外注だけどね。
デザインは、わたしがやらせてもらってるんだ」
海未ちゃんがμ’sに加わってくれたら、すごく嬉しいぜ。
μ'sというワンタンの中に、海未ちゃんもくっついてくれるんだな」
海未 「ふふふ。雲呑の話、よく覚えていてくれましたね。
まあそういうわけです。」
ことり「ねえ海未ちゃん。
くっついたワンタンは、もはや一つのワンタンなのかな」
海未 「一つのようでもあり、そうでないとも言えます」
ことり「でも、同じ夢を見てるかぎり、一つと言っていいよね」
海未 「ええ、そうですね。
ワンタンどうしが同じ夢を見ているかぎり……
ところでことり、あの紙の山は何ですか?」
ことり「次のライブの衣装のデザインだよ。
作るときはみんなで協力するし、仕上げは外注だけどね。
デザインは、わたしがやらせてもらってるんだ」
91: 2014/10/26(日) 00:13:34.46 ID:KK/E2tqE.net
海未 「ちょっと拝見……
やっぱり、ことりの描く衣装は可愛らしいですね。
あれ、でも、ライブ衣装じゃないデザインも混じってるみたいですけど」
わたしは、スケバン言葉を使うのも忘れて、嬉しくなって喋りだしました。
ことり「うん! それはどうかな、可愛いかな?
ここでお客さんを待っているあいだ、手持ちぶさたに、色々描いてみたんだ。
ねえ海未ちゃん、服飾デザインって、すっごく面白いんだよ。
わたしの作った服を、世界中のみんなが着て可愛くなってくれたら、
わたしは、どんなに嬉しいかなあ……」
夢中で話すわたしに、海未ちゃんが優しく笑って話しかけました。
海未 「ことりは、ほんとに服が好きなのですね。
もちろん最後はことりが決めることですから、わたしは何とも言えませんけど……
わたしも、ことりにはデザイナーの仕事が似合うんじゃないかって、思ってるんですよ」
やっぱり、ことりの描く衣装は可愛らしいですね。
あれ、でも、ライブ衣装じゃないデザインも混じってるみたいですけど」
わたしは、スケバン言葉を使うのも忘れて、嬉しくなって喋りだしました。
ことり「うん! それはどうかな、可愛いかな?
ここでお客さんを待っているあいだ、手持ちぶさたに、色々描いてみたんだ。
ねえ海未ちゃん、服飾デザインって、すっごく面白いんだよ。
わたしの作った服を、世界中のみんなが着て可愛くなってくれたら、
わたしは、どんなに嬉しいかなあ……」
夢中で話すわたしに、海未ちゃんが優しく笑って話しかけました。
海未 「ことりは、ほんとに服が好きなのですね。
もちろん最後はことりが決めることですから、わたしは何とも言えませんけど……
わたしも、ことりにはデザイナーの仕事が似合うんじゃないかって、思ってるんですよ」
92: 2014/10/26(日) 00:14:57.20 ID:KK/E2tqE.net
ことり「そんな将来のことは、まだ、あたいには分からねーよ。
スケバンメイドは、今この一瞬をロックンロールしてるんだからな。
さ、海未ちゃん、あんたには特製ワンタンメンを用意したよ。
めしあがれ。
よどみ(注:スープ)に浮かぶうたかた(注:ワンタン)は、かつ消えかつ結べども、
少なくとも今は、いっしょだからね」
海未 「ふふふ、そうですね」
ことり「ワン!」
海未 「タン!」
ことり・海未「メン!」
そういって割り箸を割ると、わたしたちはふたりで、一杯の雲呑麺をいただきました。
メイドカフェによくある、カップルメニューというやつです。
スケバンメイドは、今この一瞬をロックンロールしてるんだからな。
さ、海未ちゃん、あんたには特製ワンタンメンを用意したよ。
めしあがれ。
よどみ(注:スープ)に浮かぶうたかた(注:ワンタン)は、かつ消えかつ結べども、
少なくとも今は、いっしょだからね」
海未 「ふふふ、そうですね」
ことり「ワン!」
海未 「タン!」
ことり・海未「メン!」
そういって割り箸を割ると、わたしたちはふたりで、一杯の雲呑麺をいただきました。
メイドカフェによくある、カップルメニューというやつです。
93: 2014/10/26(日) 00:16:06.78 ID:KK/E2tqE.net
【数日後、空き教室】
絵里 「こんにちは、南さん。
生徒会の者よ。
最近このあたりで、お茶漬けとワンタンメンを出すメイドカフェが、
無断で出店しているという情報が入ったの。
だから、ガサ入れに来たわ」
ことり「ちくしょー、バレないようにやってるつもりだったのに……
いったいどこから情報が漏れたんだ」
絵里 「理事長から」
ことり「おのれ、親鳥め!
こうなったらバリ封だ!
ゲバ棒とヘルメットと立て看とスピーカーを用意せねば!」
希 「落ち着いて、南さん。
それにバリケードを作るのは、スケバンやなくて、もーちょっと前の学生やで」
絵里 「こんにちは、南さん。
生徒会の者よ。
最近このあたりで、お茶漬けとワンタンメンを出すメイドカフェが、
無断で出店しているという情報が入ったの。
だから、ガサ入れに来たわ」
ことり「ちくしょー、バレないようにやってるつもりだったのに……
いったいどこから情報が漏れたんだ」
絵里 「理事長から」
ことり「おのれ、親鳥め!
こうなったらバリ封だ!
ゲバ棒とヘルメットと立て看とスピーカーを用意せねば!」
希 「落ち着いて、南さん。
それにバリケードを作るのは、スケバンやなくて、もーちょっと前の学生やで」
94: 2014/10/26(日) 00:17:26.01 ID:KK/E2tqE.net
絵里 「わたし、知ってるわよ。
80年代のニッポンには、スケバンっていう正義の味方がいて、
ヨーヨーとスケバン忍術で悪者をやっつけていたのよね。
ねえ南さん、南さんも、スケバン忍術、使えるの?
ヨーヨーとゲバ棒は、どっちが強いの?」
希 「エリチ、話をややこしくせんといて。
大丈夫よ、南さん。
ウチらは固いこと言うつもり、ないから。
衛生上問題がなければ、今後もメイドカフェを開いて構わないのよ」
ことり「そうなんですか?
あーよかった」
80年代のニッポンには、スケバンっていう正義の味方がいて、
ヨーヨーとスケバン忍術で悪者をやっつけていたのよね。
ねえ南さん、南さんも、スケバン忍術、使えるの?
ヨーヨーとゲバ棒は、どっちが強いの?」
希 「エリチ、話をややこしくせんといて。
大丈夫よ、南さん。
ウチらは固いこと言うつもり、ないから。
衛生上問題がなければ、今後もメイドカフェを開いて構わないのよ」
ことり「そうなんですか?
あーよかった」
95: 2014/10/26(日) 00:18:58.00 ID:KK/E2tqE.net
絵里 「あ、それはともかく、
オープンキャンパスでライブやるのは、認められないわぁ」
ことり「いきなり何ですか!
いいじゃないですか、減るもんじゃないんだし!
自分に勇気がないからといって、わたしたちの活動まで止める必要はないでしょ」
絵里 「私の個人的な事情は関係ないわ。
わたしはただ、学校のためを思って……」
ことり「絢瀬先輩、先輩は、冷たいふりをしてるけど、ほんとはとても優しい人ですよね。
わたしには、わかります。
だって、優しい人じゃなかったら、学校のためにここまで尽くしませんもんね。
でも、だからといって、そんなふうに自分を押さえつけるのは、よくないですよ」
絵里 「……」
ことり「わたしには、絢瀬先輩の事情は、何も分かりません。
でも、無理してるのは、わかります。
先輩はもう、学校のみんなに、じゅうぶん優しくしてくれましたよ。
だから今度は、自分にやりたいことをやらせてあげても、いいんじゃないですか。
鏡に映る自分の夢を叶えてあげても、いいんじゃないですか」
絵里 「……考えてみるわ。
ありがとう、南さん」
オープンキャンパスでライブやるのは、認められないわぁ」
ことり「いきなり何ですか!
いいじゃないですか、減るもんじゃないんだし!
自分に勇気がないからといって、わたしたちの活動まで止める必要はないでしょ」
絵里 「私の個人的な事情は関係ないわ。
わたしはただ、学校のためを思って……」
ことり「絢瀬先輩、先輩は、冷たいふりをしてるけど、ほんとはとても優しい人ですよね。
わたしには、わかります。
だって、優しい人じゃなかったら、学校のためにここまで尽くしませんもんね。
でも、だからといって、そんなふうに自分を押さえつけるのは、よくないですよ」
絵里 「……」
ことり「わたしには、絢瀬先輩の事情は、何も分かりません。
でも、無理してるのは、わかります。
先輩はもう、学校のみんなに、じゅうぶん優しくしてくれましたよ。
だから今度は、自分にやりたいことをやらせてあげても、いいんじゃないですか。
鏡に映る自分の夢を叶えてあげても、いいんじゃないですか」
絵里 「……考えてみるわ。
ありがとう、南さん」
96: 2014/10/26(日) 00:22:59.77 ID:KK/E2tqE.net
ことり「そうだ、お茶漬け、いかがですか?
トッピングは、鮭と梅がありますけど」
絵里 「ふふふ。ありがとう。
梅干しはちょっと苦手だから、鮭をいただくわ」
希 「ほなウチは、梅で」
食べ終わったあとで、東條先輩がつぶやきました。
希 「それにしても、今時スケバンとは珍しいなあ。
ウチ、そんなん見たの、ドラマの『スクール・ウォーズ』の中だけやわ」
絵里 「スクール・魚津?
魚津の学校のお話かしら。
ホタルイカの漁場のナワバリ争いでもするのかしら。
エキゾチックだわぁ」
ことり「魚津を異国扱いしないでください!
それに魚津にも、ホタルイカ以外に語るべきところは色々あります!
おのれ、たとえ富山県民が許しても、このヘッドドレスが許さねえ!
かかってきやがれ、悪漢どもめ!」
絵里 「わああ、北陸地方の味方、正義のスケバンメイドだ!
ごめんなさい、エリチカおうちに帰りますから!」
希 「お邪魔してごめんな、南さん。
衣装のデザイン、いつも可愛くて、すごいなって思ってるんよ。
これからも応援してるからね。
ごちそうさま」
トッピングは、鮭と梅がありますけど」
絵里 「ふふふ。ありがとう。
梅干しはちょっと苦手だから、鮭をいただくわ」
希 「ほなウチは、梅で」
食べ終わったあとで、東條先輩がつぶやきました。
希 「それにしても、今時スケバンとは珍しいなあ。
ウチ、そんなん見たの、ドラマの『スクール・ウォーズ』の中だけやわ」
絵里 「スクール・魚津?
魚津の学校のお話かしら。
ホタルイカの漁場のナワバリ争いでもするのかしら。
エキゾチックだわぁ」
ことり「魚津を異国扱いしないでください!
それに魚津にも、ホタルイカ以外に語るべきところは色々あります!
おのれ、たとえ富山県民が許しても、このヘッドドレスが許さねえ!
かかってきやがれ、悪漢どもめ!」
絵里 「わああ、北陸地方の味方、正義のスケバンメイドだ!
ごめんなさい、エリチカおうちに帰りますから!」
希 「お邪魔してごめんな、南さん。
衣装のデザイン、いつも可愛くて、すごいなって思ってるんよ。
これからも応援してるからね。
ごちそうさま」
97: 2014/10/26(日) 00:23:45.79 ID:KK/E2tqE.net
ふたりは、そう言ってお店から出ていきました。
数日後、絢瀬先輩と東條先輩は、μ’sに入ることになりました。
きっと東條先輩が、絢瀬先輩がやりたいことを後押ししてくれたのでしょう。
わたしは、何もしていません。
わたしはただ、お茶漬けを二杯出しただけです。
数日後、絢瀬先輩と東條先輩は、μ’sに入ることになりました。
きっと東條先輩が、絢瀬先輩がやりたいことを後押ししてくれたのでしょう。
わたしは、何もしていません。
わたしはただ、お茶漬けを二杯出しただけです。
98: 2014/10/26(日) 00:24:47.30 ID:KK/E2tqE.net
ただ、絢瀬先輩にかけた言葉は、わたしじしんに返ってくる気がします。
鏡に映る自分の夢を叶えてあげても、いいんじゃないですか。
こんなこと、偉そうに言ってしまったけど、ほんとうは、わたしじしんが、鏡の前の自分と向きあっていないのです。
アイドル活動の合間に描きためた服のデザインは、山のようになりました。
この紙の山を抱えて、わたしはどこに行こうとしているのでしょう。
穂乃果ちゃんの後についていければ、それだけで満足だったはずなのにな。
鏡に映る自分の夢を叶えてあげても、いいんじゃないですか。
こんなこと、偉そうに言ってしまったけど、ほんとうは、わたしじしんが、鏡の前の自分と向きあっていないのです。
アイドル活動の合間に描きためた服のデザインは、山のようになりました。
この紙の山を抱えて、わたしはどこに行こうとしているのでしょう。
穂乃果ちゃんの後についていければ、それだけで満足だったはずなのにな。
99: 2014/10/26(日) 00:26:31.56 ID:KK/E2tqE.net
【その夜、ことりの部屋】
ことり(地声)「おい、鏡さん、おしえてくれよ」
ことり(裏声)「何カナ、コトリチャン」
ことり(地声)「てめえの好きなことは、何だよ」
ことり(裏声)「ミンナニ、可愛イ服ヲ着セテアゲルコト」
ことり(地声)「じゃあ、てめえはどんな服が着たいんだよ」
ことり(裏声)「今ハ、μ’sノミンナト同ジ服」
ことり(地声)「今はって何だよ。
ずっと同じ服で、いいじゃねえかよ」
ことり(裏声)「コトリチャン。
高校ノ制服ハ、三年間シカ着ラレナインダヨ」
ことり(地声)「じゃあ、そのあとはどんな服が着たいんだよ」
ことり(裏声)「自分ノ着タイ服」
ことり(地声)「だから、それが何かって訊いてんだよ!」
ことり(裏声)「ソレハ、コトリチャンガ、自分デ決メルンダヨ」
ことり(地声)「うるせー!
知らねーよ、そんな先の話!
あーあ、自分に向きあっても、わからねーよ。
こうなったら、スケバンメイド服で逃げ切ってやる。
モラトリアムだ、モラトリアム!」
ことり(地声)「おい、鏡さん、おしえてくれよ」
ことり(裏声)「何カナ、コトリチャン」
ことり(地声)「てめえの好きなことは、何だよ」
ことり(裏声)「ミンナニ、可愛イ服ヲ着セテアゲルコト」
ことり(地声)「じゃあ、てめえはどんな服が着たいんだよ」
ことり(裏声)「今ハ、μ’sノミンナト同ジ服」
ことり(地声)「今はって何だよ。
ずっと同じ服で、いいじゃねえかよ」
ことり(裏声)「コトリチャン。
高校ノ制服ハ、三年間シカ着ラレナインダヨ」
ことり(地声)「じゃあ、そのあとはどんな服が着たいんだよ」
ことり(裏声)「自分ノ着タイ服」
ことり(地声)「だから、それが何かって訊いてんだよ!」
ことり(裏声)「ソレハ、コトリチャンガ、自分デ決メルンダヨ」
ことり(地声)「うるせー!
知らねーよ、そんな先の話!
あーあ、自分に向きあっても、わからねーよ。
こうなったら、スケバンメイド服で逃げ切ってやる。
モラトリアムだ、モラトリアム!」
100: 2014/10/26(日) 00:27:08.56 ID:KK/E2tqE.net
わたしは、フワフワとした腹黒い自分がいやで、スケバンメイドになりました。
スケバンメイドになって、穂乃果ちゃんと、穂乃果ちゃんの集めたμ’sの皆のために尽くせば、
そんな腹黒い自分と、おさらばできる気がしたのです。
スケバンメイドになって、穂乃果ちゃんと、穂乃果ちゃんの集めたμ’sの皆のために尽くせば、
そんな腹黒い自分と、おさらばできる気がしたのです。
101: 2014/10/26(日) 00:28:03.76 ID:KK/E2tqE.net
わたしは、不良のメイドになることで、自分というものを、なくそうとしていたのです。
ずっと穂乃果ちゃんと同じ夢を見ていれば、自分というものが、なくなる気がしたのです。
でも、どうやら、そういうわけにはいかないようです。
今のわたしだって、ちゃんと鏡に映ります。
今のわたしだって、いつのまにか、胸の中で自分の夢を育てていたのです。
だから、モラトリアムの終わりは、あんがい早くやってきました。
ずっと穂乃果ちゃんと同じ夢を見ていれば、自分というものが、なくなる気がしたのです。
でも、どうやら、そういうわけにはいかないようです。
今のわたしだって、ちゃんと鏡に映ります。
今のわたしだって、いつのまにか、胸の中で自分の夢を育てていたのです。
だから、モラトリアムの終わりは、あんがい早くやってきました。
102: 2014/10/26(日) 00:28:51.01 ID:KK/E2tqE.net
【数日後の朝、南家、台所】
理事長「おはよう、ことり」
ことり「おはよーさん、おふくろ」
理事長「ことり、朝起きて早々で申し訳ないけど、
ちょっと大事な話があるの」
ことり「何?」
理事長「私の知り合いのデザイナーの人が、あなたのデザインしたステージ衣装を見て、
興味をもってくれたの。
それで、その人の紹介で、海外で被服学の勉強をする気はないかって……」
ことり「ちょっと、朝っぱらから急すぎるよ!
何それ、私に転校しろってこと?」
理事長「落ち着きなさい、ことり。
そんな急な話じゃないのよ。
高校を卒業したあと、大学に行ってからの話よ。
細かいことはまだ何も決まってないわ」
理事長「おはよう、ことり」
ことり「おはよーさん、おふくろ」
理事長「ことり、朝起きて早々で申し訳ないけど、
ちょっと大事な話があるの」
ことり「何?」
理事長「私の知り合いのデザイナーの人が、あなたのデザインしたステージ衣装を見て、
興味をもってくれたの。
それで、その人の紹介で、海外で被服学の勉強をする気はないかって……」
ことり「ちょっと、朝っぱらから急すぎるよ!
何それ、私に転校しろってこと?」
理事長「落ち着きなさい、ことり。
そんな急な話じゃないのよ。
高校を卒業したあと、大学に行ってからの話よ。
細かいことはまだ何も決まってないわ」
103: 2014/10/26(日) 00:29:39.47 ID:KK/E2tqE.net
ことり「そんな先のことは、わかんないよ。
今はただ、μ’sのことで頭がいっぱいで……」
理事長「それでもいつかは、あなた自身が、決めなきゃいけないのよ。
さて、この話はこれでおしまい。
ゆっくり考えておいてね。
さあ、ことり、行ってきますの前に、ほっぺにチューを……」
ことり「寄るな、触るな、チューするな!
もーお母さん、わたしのこと子供あつかいしないで!
わたし、もう、高二なんだよ!」
そう、いつのまにか、わたしはもう、高校二年生になっていたのです。
イヤでも、鏡の前の自分に、向きあう時期にきてしまったのです。
クレープの味を決めるときとは、わけがちがう。
自分がどこに行くかを、決めるときがきてしまったのです。
今はただ、μ’sのことで頭がいっぱいで……」
理事長「それでもいつかは、あなた自身が、決めなきゃいけないのよ。
さて、この話はこれでおしまい。
ゆっくり考えておいてね。
さあ、ことり、行ってきますの前に、ほっぺにチューを……」
ことり「寄るな、触るな、チューするな!
もーお母さん、わたしのこと子供あつかいしないで!
わたし、もう、高二なんだよ!」
そう、いつのまにか、わたしはもう、高校二年生になっていたのです。
イヤでも、鏡の前の自分に、向きあう時期にきてしまったのです。
クレープの味を決めるときとは、わけがちがう。
自分がどこに行くかを、決めるときがきてしまったのです。
104: 2014/10/26(日) 00:30:10.89 ID:KK/E2tqE.net
わたしは心のモヤモヤを抱えたまま、何食わぬ顔でしばらく生活しました。
九人で行ったオープンキャンパスでのライブも、無事に終わりました。
一段落したので、わたしたちは新曲を作ることにしました。
作詞者は、なんとわたしです。
九人で行ったオープンキャンパスでのライブも、無事に終わりました。
一段落したので、わたしたちは新曲を作ることにしました。
作詞者は、なんとわたしです。
105: 2014/10/26(日) 00:31:09.99 ID:KK/E2tqE.net
【数日後の放課後、空き教室】
海未 「このスケバンメイドカフェにお邪魔するのも久しぶりですね。
どうですか、ことり、作詞は順調ですか?」
ことり「おう!
海未ちゃんのようにうまくは書けないけど、
あたいなりに、心をこめて書いたつもりだよ」
海未 「それはすばらしい。
さっそく、聞かせてもらっていいですか?」
ことり「えへへ、恥ずかしいけど、聞いてもらおうかな。
出だしは、こんなふうに始まるんだ。
『ワンダーゾーン。
てめえに呼ばれたぜ』」
海未 「ちょっと待ってください!
なんか、ケンカにいく80年代のヤンキーの歌みたいになってますけど!
なんか、ワンダーゾーンが、ヤンキーのナワバリみたいになってますけど!」
海未 「このスケバンメイドカフェにお邪魔するのも久しぶりですね。
どうですか、ことり、作詞は順調ですか?」
ことり「おう!
海未ちゃんのようにうまくは書けないけど、
あたいなりに、心をこめて書いたつもりだよ」
海未 「それはすばらしい。
さっそく、聞かせてもらっていいですか?」
ことり「えへへ、恥ずかしいけど、聞いてもらおうかな。
出だしは、こんなふうに始まるんだ。
『ワンダーゾーン。
てめえに呼ばれたぜ』」
海未 「ちょっと待ってください!
なんか、ケンカにいく80年代のヤンキーの歌みたいになってますけど!
なんか、ワンダーゾーンが、ヤンキーのナワバリみたいになってますけど!」
106: 2014/10/26(日) 00:32:01.42 ID:KK/E2tqE.net
ことり「まあ、細かいところは、あとから手直ししようぜ。
そのあとはこう続くんだよ。
『原チャで来たぜ』」
海未 「ちょっと待ってください!
何ですか原チャって! 走って来ればいいじゃないですか!
だいたい、そこでカッコつけるんなら、バイクとかじゃないですか?」
ことり「だってバイクにはまだ乗れないし」
海未 「ヘンなところでリアリティを追求するんですね……
ていうかあなた、原チャリの免許ももってないでしょ」
そのあとはこう続くんだよ。
『原チャで来たぜ』」
海未 「ちょっと待ってください!
何ですか原チャって! 走って来ればいいじゃないですか!
だいたい、そこでカッコつけるんなら、バイクとかじゃないですか?」
ことり「だってバイクにはまだ乗れないし」
海未 「ヘンなところでリアリティを追求するんですね……
ていうかあなた、原チャリの免許ももってないでしょ」
107: 2014/10/26(日) 00:35:01.96 ID:KK/E2tqE.net
ことり「おう、そのへんは想像で補ってるのよ。
そして、熱い友情が芽生えたふたりの歌の最後は、こうなるわけだ。
『てめえと熱く動きだすぜ 急いで来いよ』」
海未 「原チャで急いで来て、熱いハートで運転するんでしょうかね。
くれぐれも安全運転でお願いしますよ」
ことり「締めくくりはこうだ。
『なんかデッケーことはじめようぜ』」
海未 「なんかデッケーことって何ですか!
ヤンキーが喫茶店で話すことみたいになってますよ」
そして、熱い友情が芽生えたふたりの歌の最後は、こうなるわけだ。
『てめえと熱く動きだすぜ 急いで来いよ』」
海未 「原チャで急いで来て、熱いハートで運転するんでしょうかね。
くれぐれも安全運転でお願いしますよ」
ことり「締めくくりはこうだ。
『なんかデッケーことはじめようぜ』」
海未 「なんかデッケーことって何ですか!
ヤンキーが喫茶店で話すことみたいになってますよ」
108: 2014/10/26(日) 00:35:47.61 ID:KK/E2tqE.net
ことり「じゃあ、どう訂正する?」
海未 「とりあえず、『デッケーこと』は、『大きな夢』に直しませんか」
ことり「ねえ、海未ちゃん」
海未 「何ですか?」
ことり「夢って、何?」
海未 「前にも話したじゃないですか。
今、ことりと私と、それからμ’sのみんなが、いっしょに見ているものですよ」
ことり「じゃあ、今見てる夢が叶ったら、次はどんな夢を見ればいいの?」
海未 「それは、ことり自身が決めることです。
それに、もうことりは、自分で気づいてるんじゃないですか?」
海未 「とりあえず、『デッケーこと』は、『大きな夢』に直しませんか」
ことり「ねえ、海未ちゃん」
海未 「何ですか?」
ことり「夢って、何?」
海未 「前にも話したじゃないですか。
今、ことりと私と、それからμ’sのみんなが、いっしょに見ているものですよ」
ことり「じゃあ、今見てる夢が叶ったら、次はどんな夢を見ればいいの?」
海未 「それは、ことり自身が決めることです。
それに、もうことりは、自分で気づいてるんじゃないですか?」
109: 2014/10/26(日) 00:36:46.38 ID:KK/E2tqE.net
ことり「うん、そうだね。
やっぱり、海未ちゃんは何でもお見通しなんだね。
じゃあ海未ちゃん、もう一つだけ、訊いていい?」
海未 「モチのロン、オフのコースです」
ことり「もし、わたしが次に見る夢が、遠くで叶えるべきものだとしたら、どう思う?
みんなと離ればなれにならないといけないとしたら、どう思う?」
海未 「寂しくなるでしょうね。
でも、ことりが『なんかデッケーこと』をしたくてそこに行くなら、
私は、もちろん応援しますよ」
ことり「でも、ものすごく遠くだとしたら?
歩いても、走っても、原チャに乗っても、たどり着けない……
たとえば、飛行機に乗らないと行けないところだとしたら?」
海未 「寂しいけど、ことりがほんとうにそこに行きたいなら、見送ります」
やっぱり、海未ちゃんは何でもお見通しなんだね。
じゃあ海未ちゃん、もう一つだけ、訊いていい?」
海未 「モチのロン、オフのコースです」
ことり「もし、わたしが次に見る夢が、遠くで叶えるべきものだとしたら、どう思う?
みんなと離ればなれにならないといけないとしたら、どう思う?」
海未 「寂しくなるでしょうね。
でも、ことりが『なんかデッケーこと』をしたくてそこに行くなら、
私は、もちろん応援しますよ」
ことり「でも、ものすごく遠くだとしたら?
歩いても、走っても、原チャに乗っても、たどり着けない……
たとえば、飛行機に乗らないと行けないところだとしたら?」
海未 「寂しいけど、ことりがほんとうにそこに行きたいなら、見送ります」
111: 2014/10/26(日) 00:37:45.97 ID:KK/E2tqE.net
ことり「どうして、見送ってくれるの?
怒ったりしないの?
専属メイドが、かってに離れていくんだよ?」
海未 「ことり、あなたは穂乃果や私の専属メイドじゃありません。
だから、あなたの行き先は、あなた自身が決めればいいんです。
ねえことり、思いだしてください。
スープに浮かぶワンタンは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまることがないのです。
今は縁あって、私たちはひとつのワンタンになっています。
でも、結び目が解けたら、あなたは、好きなところにフワフワ流れていっていいんですよ」
ことり「でも、みんなと離れてフワフワしたら、
またわたしは、逃げてばかりの腹黒い自分に逆戻りしちゃう。
わたしは、一人で立派にフワフワする自信がないよ」
海未 「ふふふ。何を言ってるんですか、ことり。
あなたはずっと、逃げずにきれいな心でがんばってきたじゃないですか。
腹黒くなんかない。ずっと、真っ白なことりでしたよ」
怒ったりしないの?
専属メイドが、かってに離れていくんだよ?」
海未 「ことり、あなたは穂乃果や私の専属メイドじゃありません。
だから、あなたの行き先は、あなた自身が決めればいいんです。
ねえことり、思いだしてください。
スープに浮かぶワンタンは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまることがないのです。
今は縁あって、私たちはひとつのワンタンになっています。
でも、結び目が解けたら、あなたは、好きなところにフワフワ流れていっていいんですよ」
ことり「でも、みんなと離れてフワフワしたら、
またわたしは、逃げてばかりの腹黒い自分に逆戻りしちゃう。
わたしは、一人で立派にフワフワする自信がないよ」
海未 「ふふふ。何を言ってるんですか、ことり。
あなたはずっと、逃げずにきれいな心でがんばってきたじゃないですか。
腹黒くなんかない。ずっと、真っ白なことりでしたよ」
113: 2014/10/26(日) 00:42:05.36 ID:KK/E2tqE.net
ことり「どうしてそう言えるの?
わたし、今まで、クレープの味も決められないくらい頼りない人間だったのに……
海未ちゃんみたいに、立派にフワフワするには、どうすればいいの?」
海未 「ほんとは、私なんかより、ことりの方がずっと立派にフワフワしているんですけどね。
分からないなら、教えてあげましょうか。
立派にフワフワするためには、夢をもてばいいんですよ。
そうすれば、どんなにフワフワしていても、自分でいられます。
そしてことりは、小さい頃からずっと、
自分の夢を大切にもっているように見えますよ」
ことり「海未ちゃん……」
海未 「さ、歌詞の手なおしを続けましょうか。
作業が終わったら、また一緒に食べましょうね」
ことり「何を?」
海未 「ワン!」
ことり「タン!」
海未・ことり「メーン!」
わたし、今まで、クレープの味も決められないくらい頼りない人間だったのに……
海未ちゃんみたいに、立派にフワフワするには、どうすればいいの?」
海未 「ほんとは、私なんかより、ことりの方がずっと立派にフワフワしているんですけどね。
分からないなら、教えてあげましょうか。
立派にフワフワするためには、夢をもてばいいんですよ。
そうすれば、どんなにフワフワしていても、自分でいられます。
そしてことりは、小さい頃からずっと、
自分の夢を大切にもっているように見えますよ」
ことり「海未ちゃん……」
海未 「さ、歌詞の手なおしを続けましょうか。
作業が終わったら、また一緒に食べましょうね」
ことり「何を?」
海未 「ワン!」
ことり「タン!」
海未・ことり「メーン!」
114: 2014/10/26(日) 00:43:47.42 ID:KK/E2tqE.net
【その夜、ことりの部屋】
ことり(裏声)「コトリチャン、オシエテヨ」
ことり(地声)「ふふふ。
いつもと逆だね、鏡さん。
わかったよ。
今日は、鏡さんの質問に、わたしが答えてあげる」
ことり(裏声)「コトリチャンッテ、誰?」
ことり(地声)「わたしだよ」
ことり(裏声)「ジャア、ワタシッテ、誰?」
ことり(地声)「夢をもってフワフワしてる、雲呑だよ」
ことり(裏声)「ジャア、ワタシノ夢ッテ、何?」
ことり(地声)「今は、μ’sのみんなと同じ夢」
ことり(裏声)「ソノ夢ガ叶ッタラ、次ハドンナ夢ヲ見ルノ?」
ことり(地声)「デザイナーになる夢」
ことり(裏声)「ソノ夢、イツカラ持ッテタノ?」
ことり(地声)「思いだせないくらい、ずーっと前から。
スケバンメイド服で隠してたつもりだったけど、隠しきれなかったね」
ことり(裏声)「ソノ夢ヲ見ル勇気ハ、アル?」
ことり(地声)「うん。あるよ。
まだ先の話だけど、今からいろいろ準備しないとね。
そのためには、まず、やらなくちゃいけないことがあるの」
ことり(裏声)「何?」
ことり(地声)「穂乃果ちゃんに、謝らなくちゃ」
ことり(裏声)「コトリチャン、オシエテヨ」
ことり(地声)「ふふふ。
いつもと逆だね、鏡さん。
わかったよ。
今日は、鏡さんの質問に、わたしが答えてあげる」
ことり(裏声)「コトリチャンッテ、誰?」
ことり(地声)「わたしだよ」
ことり(裏声)「ジャア、ワタシッテ、誰?」
ことり(地声)「夢をもってフワフワしてる、雲呑だよ」
ことり(裏声)「ジャア、ワタシノ夢ッテ、何?」
ことり(地声)「今は、μ’sのみんなと同じ夢」
ことり(裏声)「ソノ夢ガ叶ッタラ、次ハドンナ夢ヲ見ルノ?」
ことり(地声)「デザイナーになる夢」
ことり(裏声)「ソノ夢、イツカラ持ッテタノ?」
ことり(地声)「思いだせないくらい、ずーっと前から。
スケバンメイド服で隠してたつもりだったけど、隠しきれなかったね」
ことり(裏声)「ソノ夢ヲ見ル勇気ハ、アル?」
ことり(地声)「うん。あるよ。
まだ先の話だけど、今からいろいろ準備しないとね。
そのためには、まず、やらなくちゃいけないことがあるの」
ことり(裏声)「何?」
ことり(地声)「穂乃果ちゃんに、謝らなくちゃ」
115: 2014/10/26(日) 00:44:14.48 ID:KK/E2tqE.net
わたし、穂乃果ちゃんに謝らなくちゃいけないんです。
ずっと後をついていくことができなくて、ごめんねって。
優しくなれなくて、ごめんねって。
ずっと後をついていくことができなくて、ごめんねって。
優しくなれなくて、ごめんねって。
125: 2014/10/26(日) 12:48:50.08 ID:KK/E2tqE.net
【数日後、二年生の教室】
穂乃果「ことりちゃん、海未ちゃん、グッドニュース!
この前のオープンキャンパスの評判が予想以上によかったから、
廃校の件、白紙になったんだって!
紙が白くなるほどの評判というのは、いったいどんなものなんだろうね!」
海未 「穂乃果、白紙になるというのは、ものの喩えで……
でも、たしかにそれは良いニュースです。
私たちのライブが、少しでも役に立ったのであれば、幸いですね」
ことり「やったね、ふたりとも!
さっそく今日の放課後、部室で打ち上げしようか。
パーッとやろう、パーっと!」
126: 2014/10/26(日) 12:50:32.53 ID:KK/E2tqE.net
【その日の放課後、部室】
にこ 「えーと、エヘン。
私たちμ’sの輝かしい活躍により、廃校の件は白紙となりました。
鉛筆で書いてあるなんて、おそまつな廃校プランよね。
それとも、修正液を使ったのかな?」
真姫 「にこちゃん、白紙になるというのは、ものの喩えで……」
にこ 「あれ、そうなの?
まー、とにかくめでたいことだわ。
というわけで、にこにーとμ’sと音ノ木坂の今後の一層の発展を祈って、
にっこにこn……ちょっ……」
にこ 「えーと、エヘン。
私たちμ’sの輝かしい活躍により、廃校の件は白紙となりました。
鉛筆で書いてあるなんて、おそまつな廃校プランよね。
それとも、修正液を使ったのかな?」
真姫 「にこちゃん、白紙になるというのは、ものの喩えで……」
にこ 「あれ、そうなの?
まー、とにかくめでたいことだわ。
というわけで、にこにーとμ’sと音ノ木坂の今後の一層の発展を祈って、
にっこにこn……ちょっ……」
127: 2014/10/26(日) 12:51:32.45 ID:KK/E2tqE.net
花陽 「アネゴ、ごはんが炊けました!」
ことり「かよちゃん、ハッピータイムだぜ」
凛 「あねご、ラーメンもできました!」
ことり「凛ちゃん、リンガベーだぜ」
真姫 「アネゴ、ワンタンも煮えました!」
ことり「真姫ちゃん、キューティーパンサーだぜ。
さて、可愛い一年生たちのおかげで、
お茶漬けとワンタンメンの準備はできたな。
ごめんね、にこちゃん、途中で邪魔をしちゃって。
さあそれでは、乾杯の音頭を、あらためてお願いします」
にこ 「やっぱりミナリンスキー様には、かなわないわね。
それでは、あらためまして。
ワン!」
ことり「タン!」
一同 「メーン!」
ワンタンメンの合図で杯を交わし、打ち上げがはじまりました。
お茶漬けとワンタンメンづくしの、終わらないパーティーです。
ことり「かよちゃん、ハッピータイムだぜ」
凛 「あねご、ラーメンもできました!」
ことり「凛ちゃん、リンガベーだぜ」
真姫 「アネゴ、ワンタンも煮えました!」
ことり「真姫ちゃん、キューティーパンサーだぜ。
さて、可愛い一年生たちのおかげで、
お茶漬けとワンタンメンの準備はできたな。
ごめんね、にこちゃん、途中で邪魔をしちゃって。
さあそれでは、乾杯の音頭を、あらためてお願いします」
にこ 「やっぱりミナリンスキー様には、かなわないわね。
それでは、あらためまして。
ワン!」
ことり「タン!」
一同 「メーン!」
ワンタンメンの合図で杯を交わし、打ち上げがはじまりました。
お茶漬けとワンタンメンづくしの、終わらないパーティーです。
128: 2014/10/26(日) 12:52:49.50 ID:KK/E2tqE.net
絵里 「アネゴ!
今日はぜひ、アネゴのスケバン忍術を見せてください!」
希 「エリチはこう言うてるけど、
あんまりサービスしすぎなくてもええよ。アネゴ」
ことり「ヘイ、御用とお急ぎでないレディーは、ゆっくり見てってくれよ。
ではまず、スケバン忍法、変化の術だよ!」
そう言ってわたしは、ヒョットコのお面をかぶりました。
絵里 「ハラショー!
私、忍者もヒョットコも、見るの初めてだわ!」
希 「あんまり無理せんといてな、ことりちゃん」
ことり「それでは次は、スケバン忍法、ドジョウすくいの術を……」
今日はぜひ、アネゴのスケバン忍術を見せてください!」
希 「エリチはこう言うてるけど、
あんまりサービスしすぎなくてもええよ。アネゴ」
ことり「ヘイ、御用とお急ぎでないレディーは、ゆっくり見てってくれよ。
ではまず、スケバン忍法、変化の術だよ!」
そう言ってわたしは、ヒョットコのお面をかぶりました。
絵里 「ハラショー!
私、忍者もヒョットコも、見るの初めてだわ!」
希 「あんまり無理せんといてな、ことりちゃん」
ことり「それでは次は、スケバン忍法、ドジョウすくいの術を……」
129: 2014/10/26(日) 12:55:00.93 ID:KK/E2tqE.net
そう言いかけたところで、穂乃果ちゃんが、にこにこ笑ってこちらにやって来ました。
穂乃果「ことりちゃん、ドジョウすくいの術を披露するまえに、
聞いてほしいことがあるの!」
ことり「何だい、穂乃果ちゃん」
穂乃果「私がはじめてスクールアイドルをやるっていったとき、
最初の部員になってくれたのは、ことりちゃんだったよね。
ことりちゃんがいなかったら、私は何にもできなかったと思う。
ことりちゃんは、何にもしてないよって言うかもしれないけど、
わたしがここまで来られたのは、ことりちゃんがずっと支えてくれたおかげ。
きっと、ほかのみんなも、同じことを思ってると思う」
ほかのみんなが、うなずきました。
思えばみんな、最初は、スケバンメイド喫茶プランタンのお客さんでした。
穂乃果「ことりちゃん、ありがとう」
一同 「ことりちゃん、ありがとう」
わたしは、お面を外して、メイドらしく深々とおじぎをしました。
ことり「ううん、こちらこそ、ありがとう」
穂乃果ちゃんが、嬉しそうに笑って、口を開きます。
穂乃果「ことりちゃんと一緒なら、私、何でもできる気がする。
ねえ、ことりちゃん、私たち、ずっと一緒にいられるかな?」
穂乃果「ことりちゃん、ドジョウすくいの術を披露するまえに、
聞いてほしいことがあるの!」
ことり「何だい、穂乃果ちゃん」
穂乃果「私がはじめてスクールアイドルをやるっていったとき、
最初の部員になってくれたのは、ことりちゃんだったよね。
ことりちゃんがいなかったら、私は何にもできなかったと思う。
ことりちゃんは、何にもしてないよって言うかもしれないけど、
わたしがここまで来られたのは、ことりちゃんがずっと支えてくれたおかげ。
きっと、ほかのみんなも、同じことを思ってると思う」
ほかのみんなが、うなずきました。
思えばみんな、最初は、スケバンメイド喫茶プランタンのお客さんでした。
穂乃果「ことりちゃん、ありがとう」
一同 「ことりちゃん、ありがとう」
わたしは、お面を外して、メイドらしく深々とおじぎをしました。
ことり「ううん、こちらこそ、ありがとう」
穂乃果ちゃんが、嬉しそうに笑って、口を開きます。
穂乃果「ことりちゃんと一緒なら、私、何でもできる気がする。
ねえ、ことりちゃん、私たち、ずっと一緒にいられるかな?」
130: 2014/10/26(日) 12:57:27.89 ID:KK/E2tqE.net
穂乃果ちゃんにしてみれば、何気ない言葉だったのだと思います。
でも、わたしにとっては、胸を刺す一言でした。
わたしは、あふれてくる涙を隠すために、もういちどヒョットコのお面をかぶりました。
どうしよう。
謝らなきゃいけないのに、涙が止まらなくて、何も言葉が出てこない。
ようやく喋れるようになったあとで、わたしは、やっとのことで、言いました。
ことり「ピーピーヒャララ、ピーヒャララ。
穂乃果ちゃん、ヒョットコトリは、そんな大した奴じゃないよ。
だから……ごめんね」
穂乃果「ことりちゃん、どうしたの?」
ことり「ソーレデハー。
ヨキニハカラエ、ミナノシュー。
……サラバ」
わたしは、スケバン忍法「脱出の術」を使って、教室から逃げ出しました。
スケバン忍法「変化の術」で涙は隠せましたが、泣いてたこと、バレなかったかな。
でも、わたしにとっては、胸を刺す一言でした。
わたしは、あふれてくる涙を隠すために、もういちどヒョットコのお面をかぶりました。
どうしよう。
謝らなきゃいけないのに、涙が止まらなくて、何も言葉が出てこない。
ようやく喋れるようになったあとで、わたしは、やっとのことで、言いました。
ことり「ピーピーヒャララ、ピーヒャララ。
穂乃果ちゃん、ヒョットコトリは、そんな大した奴じゃないよ。
だから……ごめんね」
穂乃果「ことりちゃん、どうしたの?」
ことり「ソーレデハー。
ヨキニハカラエ、ミナノシュー。
……サラバ」
わたしは、スケバン忍法「脱出の術」を使って、教室から逃げ出しました。
スケバン忍法「変化の術」で涙は隠せましたが、泣いてたこと、バレなかったかな。
131: 2014/10/26(日) 13:03:00.35 ID:KK/E2tqE.net
【その後、部室】
穂乃果「ことりちゃん、泣いてたね」
海未 「そうですね」
穂乃果「どうして?」
海未 「私は、たぶん理由を知っています。
ことりは、あなたが剣道部を飛び出して、一人でスクールアイドルを始めようとした日から、
ずっと近くについていました。
たぶんことりは、あの日から、ずっとあなたのそばにいるつもりでいたんです。
そのせいで、たぶん今、負い目を感じてるんですよ」
穂乃果「負い目?」
海未 「いつか離れることになるという、負い目」
穂乃果「そんなの、ことりちゃんが気に病む必要なんかないよ!
そんなことで、わたしがことりちゃんのこと嫌いになるわけないじゃない。
ことりちゃんは、私に何を言いたいの?」
海未 「それは私にもわかりません。
だから、ことりを追いかけて、ことりと話をしてあげてください」
穂乃果「ことりちゃん、泣いてたね」
海未 「そうですね」
穂乃果「どうして?」
海未 「私は、たぶん理由を知っています。
ことりは、あなたが剣道部を飛び出して、一人でスクールアイドルを始めようとした日から、
ずっと近くについていました。
たぶんことりは、あの日から、ずっとあなたのそばにいるつもりでいたんです。
そのせいで、たぶん今、負い目を感じてるんですよ」
穂乃果「負い目?」
海未 「いつか離れることになるという、負い目」
穂乃果「そんなの、ことりちゃんが気に病む必要なんかないよ!
そんなことで、わたしがことりちゃんのこと嫌いになるわけないじゃない。
ことりちゃんは、私に何を言いたいの?」
海未 「それは私にもわかりません。
だから、ことりを追いかけて、ことりと話をしてあげてください」
132: 2014/10/26(日) 13:06:28.04 ID:KK/E2tqE.net
【その後、空き教室】
みんなの前から逃げだしたわたしは、しばらく校内をうろうろしました。
とはいえ、行くあてはありません。
気がつくとわたしは、スケバンメイド喫茶プランタンに駆けこんでいました。
わたしは、泣き顔を隠していたヒョットコのお面をはずし、一息つきました。
ここならひとまず、誰もこないだろう。
しかし、わたしの思惑は、はずれました。
カウンター(注:学習机)を拭きながら、すでにスケバンメイドが待っていたのです。
穂乃果「よう、遅かったな。
お帰(けえ)りなさいませ、ご主人さま」
みんなの前から逃げだしたわたしは、しばらく校内をうろうろしました。
とはいえ、行くあてはありません。
気がつくとわたしは、スケバンメイド喫茶プランタンに駆けこんでいました。
わたしは、泣き顔を隠していたヒョットコのお面をはずし、一息つきました。
ここならひとまず、誰もこないだろう。
しかし、わたしの思惑は、はずれました。
カウンター(注:学習机)を拭きながら、すでにスケバンメイドが待っていたのです。
穂乃果「よう、遅かったな。
お帰(けえ)りなさいませ、ご主人さま」
133: 2014/10/26(日) 13:06:57.70 ID:KK/E2tqE.net
ことり「穂乃果ちゃん!」
穂乃果「うふふ。ここにいれば、きっと来ると思ってたんだ。
ミナリンスキーさん、たまにはお客さんになってみるのも、いいんじゃない?」
ことり「……ブルーベリーのジュースをくれよ。
うんと甘酸っぱいやつ」
穂乃果「はい、どうぞ」
穂乃果「うふふ。ここにいれば、きっと来ると思ってたんだ。
ミナリンスキーさん、たまにはお客さんになってみるのも、いいんじゃない?」
ことり「……ブルーベリーのジュースをくれよ。
うんと甘酸っぱいやつ」
穂乃果「はい、どうぞ」
134: 2014/10/26(日) 13:07:26.71 ID:KK/E2tqE.net
ジュースをちびちび飲みながら、わたしはぽつりと言いました。
ことり「穂乃果ちゃん」
穂乃果「何?」
ことり「ごめんね」
ことり「穂乃果ちゃん」
穂乃果「何?」
ことり「ごめんね」
136: 2014/10/26(日) 13:08:04.97 ID:KK/E2tqE.net
穂乃果「どうして謝るの?」
ことり「さっき穂乃果ちゃん、言ったよね。
『わたしたち、ずっと一緒にいられるかな』って。
その質問の答えが、ノーだからだよ」
穂乃果「どこか遠くに行くの?」
ことり「今すぐというわけじゃないの。
高校を卒業するまでは、そばにいるよ。
でもその後は……いつになるか分からないけど、
いつか、海外に行くかもしれない」
穂乃果「……」
ことり「さっき穂乃果ちゃん、言ったよね。
『わたしたち、ずっと一緒にいられるかな』って。
その質問の答えが、ノーだからだよ」
穂乃果「どこか遠くに行くの?」
ことり「今すぐというわけじゃないの。
高校を卒業するまでは、そばにいるよ。
でもその後は……いつになるか分からないけど、
いつか、海外に行くかもしれない」
穂乃果「……」
137: 2014/10/26(日) 13:09:52.19 ID:KK/E2tqE.net
ことり「だから、ごめんなさいが言いたいの。
わたしは、ずっと穂乃果ちゃんの後について、
穂乃果ちゃんと同じ夢を見て、
穂乃果ちゃんが夢を叶えるのをずっとお手伝いするつもりでいた。
それが私にとって、優しいっていうことだったの。
穂乃果ちゃん、わたし、優しくなれなくて、ごめんなさい」
わたしは、ずっと穂乃果ちゃんの後について、
穂乃果ちゃんと同じ夢を見て、
穂乃果ちゃんが夢を叶えるのをずっとお手伝いするつもりでいた。
それが私にとって、優しいっていうことだったの。
穂乃果ちゃん、わたし、優しくなれなくて、ごめんなさい」
138: 2014/10/26(日) 13:13:07.55 ID:KK/E2tqE.net
わたしの言葉を聞くと、穂乃果ちゃんが、いつもの明るい声で言いました。
穂乃果「もー、ことりちゃんは、おかしなことを言うんだなあ。
たしかに、いつかお別れするのは寂しいけど……
でも、そんなふうに謝る必要なんか、全然ないんだよ。
そんな無理のある優しさ、私はことりちゃんに望んでないよ。
むしろ私が望んでるのは、ことりちゃんがホントになりたいものになることだからね。
だから私は、ことりちゃんが遠くに行く日がきても、笑顔で見送るよ。
ねえねえ、ことりちゃんは、何になりたいの?」
そう言いながら、穂乃果ちゃんは、落ちつかないようすで部屋の中を歩きまわりました。
そのはずみで、部屋の隅に積んであった紙の山が崩れて、穂乃果ちゃんの足もとに散らばりました。
ことり「服飾デザイナー」
わたしが書いたデザイン画を一枚ずつ丁寧に拾いあげながら、穂乃果ちゃんが微笑みました。
穂乃果「ばっちり、ことりちゃんにお似合いだよ。
小さい頃からずっと、ことりちゃんは、
可愛い服を着たり着せたりするのが大好きだったもんね」
穂乃果「もー、ことりちゃんは、おかしなことを言うんだなあ。
たしかに、いつかお別れするのは寂しいけど……
でも、そんなふうに謝る必要なんか、全然ないんだよ。
そんな無理のある優しさ、私はことりちゃんに望んでないよ。
むしろ私が望んでるのは、ことりちゃんがホントになりたいものになることだからね。
だから私は、ことりちゃんが遠くに行く日がきても、笑顔で見送るよ。
ねえねえ、ことりちゃんは、何になりたいの?」
そう言いながら、穂乃果ちゃんは、落ちつかないようすで部屋の中を歩きまわりました。
そのはずみで、部屋の隅に積んであった紙の山が崩れて、穂乃果ちゃんの足もとに散らばりました。
ことり「服飾デザイナー」
わたしが書いたデザイン画を一枚ずつ丁寧に拾いあげながら、穂乃果ちゃんが微笑みました。
穂乃果「ばっちり、ことりちゃんにお似合いだよ。
小さい頃からずっと、ことりちゃんは、
可愛い服を着たり着せたりするのが大好きだったもんね」
139: 2014/10/26(日) 13:14:50.35 ID:KK/E2tqE.net
ことり「でもわたし、優しくなりたかった。
ウソの優しさじゃなくて、ホントの優しさをもちたかった」
穂乃果「もー、ことりちゃんは、思い違いをしてるよ。
ねえ、ことりちゃん。
ことりちゃんは、そんなふうに無理して優しくなろうとするずっと前から……
そもそもの初めから、ホントに優しかったんだよ。
海未ちゃんと私が、いつも言ってたでしょ」
ことり「そんなのウソだよ!
だってわたし……」
穂乃果「ことりちゃんがホントに優しいかどうかを決めるのは、ことりちゃんじゃないよ。
周りにいる他の人が、決めるんだよ。
だから私が『優しい』って言えば、ことりちゃんはホントに優しいの。
はい、これでこの話は、おしまい」
ウソの優しさじゃなくて、ホントの優しさをもちたかった」
穂乃果「もー、ことりちゃんは、思い違いをしてるよ。
ねえ、ことりちゃん。
ことりちゃんは、そんなふうに無理して優しくなろうとするずっと前から……
そもそもの初めから、ホントに優しかったんだよ。
海未ちゃんと私が、いつも言ってたでしょ」
ことり「そんなのウソだよ!
だってわたし……」
穂乃果「ことりちゃんがホントに優しいかどうかを決めるのは、ことりちゃんじゃないよ。
周りにいる他の人が、決めるんだよ。
だから私が『優しい』って言えば、ことりちゃんはホントに優しいの。
はい、これでこの話は、おしまい」
140: 2014/10/26(日) 13:19:05.07 ID:KK/E2tqE.net
ことり「でも、わたし……」
しつこく食い下がるわたしに、ついに穂乃果のアネゴの堪忍袋の緒が切れてしまいました。
穂乃果「あーもう!
アンポンタンのスケバンメイド、そこで、あたいの言うことをよく聞きな!
優しくない人間は、クレープ屋さんで気をつかってくれたりしない!
優しくない人間は、クッキーやマカロンをくれたりしない!
優しくない人間は、ヒョットコのお面でおどけたりしない!
優しくない人間は、剣道部の洗濯物を引き受けてくれたりしない!
優しくない人間は、メイド喫茶でお茶漬けと雲呑麺を出したりしない!
優しくない人間は、μ’sのみんなのアネゴになったりしない!
優しくない人間は、μ’sのために衣装をデザインしてくれたりしない!
優しくない人間は」打ち上げでスケバン忍法を披露したりしない!
優しくない人間は、福井県と富山県のために闘ったりしない!」
ヒートアップして烈火のごとく猛った穂乃果ちゃんは、
今にも発火しそうなほどに机をごしごし磨きながら、さらに言葉を紡ぎました。
わたしは、ほんもののスケバンを、このときはじめて見ました。
わたしは、ほんもののスケバン忍法「火炎の術」を、このときはじめて見ました。
穂乃果「そもそも!
優しくない人間は、スケバンメイドなどというわけのわからんものになったりしない!
優しくない人間は、私を手伝ってくれたりしない!
優しくない人間は、私のために涙を流してくれたりしない!
優しくない人間は、こんなお人好しすぎるアホな理由で謝ったりしない!
優しくない人間は、そもそも……そもそも、優しくなろうとしたりしない!
以上の、数えるのも面倒なほど多くの事実により、
高坂穂乃果は、南ことりが優しい人間であると結論する!
証明おわり!
B. B. Q!」
しつこく食い下がるわたしに、ついに穂乃果のアネゴの堪忍袋の緒が切れてしまいました。
穂乃果「あーもう!
アンポンタンのスケバンメイド、そこで、あたいの言うことをよく聞きな!
優しくない人間は、クレープ屋さんで気をつかってくれたりしない!
優しくない人間は、クッキーやマカロンをくれたりしない!
優しくない人間は、ヒョットコのお面でおどけたりしない!
優しくない人間は、剣道部の洗濯物を引き受けてくれたりしない!
優しくない人間は、メイド喫茶でお茶漬けと雲呑麺を出したりしない!
優しくない人間は、μ’sのみんなのアネゴになったりしない!
優しくない人間は、μ’sのために衣装をデザインしてくれたりしない!
優しくない人間は」打ち上げでスケバン忍法を披露したりしない!
優しくない人間は、福井県と富山県のために闘ったりしない!」
ヒートアップして烈火のごとく猛った穂乃果ちゃんは、
今にも発火しそうなほどに机をごしごし磨きながら、さらに言葉を紡ぎました。
わたしは、ほんもののスケバンを、このときはじめて見ました。
わたしは、ほんもののスケバン忍法「火炎の術」を、このときはじめて見ました。
穂乃果「そもそも!
優しくない人間は、スケバンメイドなどというわけのわからんものになったりしない!
優しくない人間は、私を手伝ってくれたりしない!
優しくない人間は、私のために涙を流してくれたりしない!
優しくない人間は、こんなお人好しすぎるアホな理由で謝ったりしない!
優しくない人間は、そもそも……そもそも、優しくなろうとしたりしない!
以上の、数えるのも面倒なほど多くの事実により、
高坂穂乃果は、南ことりが優しい人間であると結論する!
証明おわり!
B. B. Q!」
141: 2014/10/26(日) 13:21:20.15 ID:KK/E2tqE.net
燃えつきた花火のようにシューシューと呼吸する穂乃果ちゃんの前で、わたしはようやく微笑みました。
ことり「穂乃果ちゃん、ありがとう。
アンポンタンのことりにも、やっと証明の意味がわかったよ」
穂乃果「わかってもらえて、嬉しいよ」
ことり「でも、証明おわりは、Q. E. D. って言うんだよ」
穂乃果「あれ、そうだっけ。
じゃあ、BBQって、何だっけ」
ことり「バーベキューだよ。
こんど、みんなでやろうね」
そう言ってわたしは、ブルーベリーのジュースを飲み干しました。
もうすぐ17歳になるわたしにふさわしい、やっぱり甘酸っぱい味です。
ことり「穂乃果ちゃん、ありがとう。
アンポンタンのことりにも、やっと証明の意味がわかったよ」
穂乃果「わかってもらえて、嬉しいよ」
ことり「でも、証明おわりは、Q. E. D. って言うんだよ」
穂乃果「あれ、そうだっけ。
じゃあ、BBQって、何だっけ」
ことり「バーベキューだよ。
こんど、みんなでやろうね」
そう言ってわたしは、ブルーベリーのジュースを飲み干しました。
もうすぐ17歳になるわたしにふさわしい、やっぱり甘酸っぱい味です。
142: 2014/10/26(日) 13:21:54.80 ID:KK/E2tqE.net
そのあとわたしは、穂乃果ちゃんと手をつないで、部室に戻りました。
戻ったら、わたしの代わりに、絵里ちゃんがドジョウすくいをしてくれました。
わたしは、ワンタンメンとお茶漬けを食べながら、おなかが痛くなるくらい笑いました。
戻ったら、わたしの代わりに、絵里ちゃんがドジョウすくいをしてくれました。
わたしは、ワンタンメンとお茶漬けを食べながら、おなかが痛くなるくらい笑いました。
143: 2014/10/26(日) 13:22:49.83 ID:KK/E2tqE.net
【その日の帰り道】
ことり「食べすぎと笑いすぎで、おなかが苦しいなあ……
あれ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、何でケンカしてるの?」
穂乃果「海未ちゃんの分からず屋!
私のほうが、ことりちゃんのこと愛してるもん!」
海未 「何を言っているのですか、穂乃果。
私のほうが、ことりのことを愛しているというのに」
ことり「食べすぎと笑いすぎで、おなかが苦しいなあ……
あれ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、何でケンカしてるの?」
穂乃果「海未ちゃんの分からず屋!
私のほうが、ことりちゃんのこと愛してるもん!」
海未 「何を言っているのですか、穂乃果。
私のほうが、ことりのことを愛しているというのに」
144: 2014/10/26(日) 13:24:23.10 ID:KK/E2tqE.net
穂乃果「(かけ声にあわせて三段跳びする)
ワン、タン、メン!
どうだ海未ちゃん!
私のことりちゃんへの愛は、これくらいの長さだよ」
海未 「(かけ声にあわせて三段跳びする)
ワン、タン、メン!
どうですか穂乃果!
私のことりへの愛は、これくらいの長さです」
穂乃果「ことりちゃん、どっちの愛のほうが長い?」
海未 「さあことり、決めてください」
ことり「えへへ、わたしには、どっちもすごく長く見えるから、選べないな。
引き分けじゃだめかな?」
穂乃果「ことりちゃんは、優しいなあ」
海未 「すごく長いって、どれくらいですか?」
ことり「海のむこうまで、届くくらいだよ。
ふたりとも、ありがとう。
よーし、わたしも跳ぶぞ!
ワン、タン、メン!」
ワン、タン、メン!
どうだ海未ちゃん!
私のことりちゃんへの愛は、これくらいの長さだよ」
海未 「(かけ声にあわせて三段跳びする)
ワン、タン、メン!
どうですか穂乃果!
私のことりへの愛は、これくらいの長さです」
穂乃果「ことりちゃん、どっちの愛のほうが長い?」
海未 「さあことり、決めてください」
ことり「えへへ、わたしには、どっちもすごく長く見えるから、選べないな。
引き分けじゃだめかな?」
穂乃果「ことりちゃんは、優しいなあ」
海未 「すごく長いって、どれくらいですか?」
ことり「海のむこうまで、届くくらいだよ。
ふたりとも、ありがとう。
よーし、わたしも跳ぶぞ!
ワン、タン、メン!」
145: 2014/10/26(日) 13:27:37.73 ID:KK/E2tqE.net
そう言ってわたしは、ふたりに応えるように、三段跳びをしました。
まだずっと先のことだけど、いつか私には、ヒコーキで飛んでいく日がくるかもしれません。
今はふたりとくっついている雲呑にも、空に浮かんでいるあの雲のように、ひとりで海のむこうにフワフワ飛んでいく日がくるかもしれません。
そうしたらもう、歩いても、走っても、原動機付二輪に乗ってもでも届かないほど、わたしは、ふたりから遠ざかるのでしょう。
でも、ワンタンメンの三段跳びをすれば、いともかんたんに、海のむこうまで届くのです。
まだずっと先のことだけど、いつか私には、ヒコーキで飛んでいく日がくるかもしれません。
今はふたりとくっついている雲呑にも、空に浮かんでいるあの雲のように、ひとりで海のむこうにフワフワ飛んでいく日がくるかもしれません。
そうしたらもう、歩いても、走っても、原動機付二輪に乗ってもでも届かないほど、わたしは、ふたりから遠ざかるのでしょう。
でも、ワンタンメンの三段跳びをすれば、いともかんたんに、海のむこうまで届くのです。
146: 2014/10/26(日) 13:28:25.41 ID:KK/E2tqE.net
何が届くのかって?
それは、目にも見えなくて、耳にも聞こえなくて、鼻でも嗅げなくて、舌でも味わえなくて、肌でも触れないものです。
それは、目にも見えなくて、耳にも聞こえなくて、鼻でも嗅げなくて、舌でも味わえなくて、肌でも触れないものです。
147: 2014/10/26(日) 13:30:21.94 ID:KK/E2tqE.net
【その日の夜、ことりの部屋】
ことり(地声)「鏡さん、おしえてよ」
ことり(裏声)「ウン、イイヨ、コトリチャン」
ことり(地声)「わたしって、誰?」
ことり(裏声)「コトリチャンダヨ」
ことり(地声)「じゃあ、ことりって、誰?」
ことり(裏声)「今、鏡ニ映ッテイテ、鏡ニ映ッテイナイヒトダヨ」
ことり(地声)「ふふふ。鏡さん、ナゾナゾみたいなこと言うんだね。
それなら、お願いがあるの」
ことり(裏声)「ナニカナ?」
ことり(地声)「鏡に映る私を、どうか、とびっきり可愛くしてよ。
それから、鏡に映らない私の心を、どうか、とびっきり優しくしてよ」
ことり(裏声)「欲張リダネ、コトリチャン」
ことり(地声)「うん。欲張らないといけないんだよ。
いろんな人が、わたしのことを、もうすでに愛してくれてるから。
だから、すでに注がれた愛情に相応しいくらい、
可愛くて優しい人間にならないとね」
ことり(裏声)「Rock’n’roll !」
ことり(地声)「Love and Peace!」
ことり(地声)「鏡さん、おしえてよ」
ことり(裏声)「ウン、イイヨ、コトリチャン」
ことり(地声)「わたしって、誰?」
ことり(裏声)「コトリチャンダヨ」
ことり(地声)「じゃあ、ことりって、誰?」
ことり(裏声)「今、鏡ニ映ッテイテ、鏡ニ映ッテイナイヒトダヨ」
ことり(地声)「ふふふ。鏡さん、ナゾナゾみたいなこと言うんだね。
それなら、お願いがあるの」
ことり(裏声)「ナニカナ?」
ことり(地声)「鏡に映る私を、どうか、とびっきり可愛くしてよ。
それから、鏡に映らない私の心を、どうか、とびっきり優しくしてよ」
ことり(裏声)「欲張リダネ、コトリチャン」
ことり(地声)「うん。欲張らないといけないんだよ。
いろんな人が、わたしのことを、もうすでに愛してくれてるから。
だから、すでに注がれた愛情に相応しいくらい、
可愛くて優しい人間にならないとね」
ことり(裏声)「Rock’n’roll !」
ことり(地声)「Love and Peace!」
148: 2014/10/26(日) 13:31:39.05 ID:KK/E2tqE.net
こうして、スケバンメイド服の着用から始まった、わたしのささやかな反抗期は、幕を閉じました。
とはいえ、スケバンメイドの活躍の場は、まだ無くなったわけではなく……
とはいえ、スケバンメイドの活躍の場は、まだ無くなったわけではなく……
149: 2014/10/26(日) 13:44:33.62 ID:KK/E2tqE.net
【数日後、部室】
凛 「英語わかんないよー。
そもそも、何で凛たちは日本人なのに、英語を勉強しないといけないの?」
真姫 「言い訳してもしょうがないでしょ!
赤点とったらカッコ悪いわよ、さあ、勉強しなさい」
凛 「to不定詞を使った問題だって。
『狩猟しない』を英語になおせ?
そんなん知るわけないにゃー」
真姫 「並べ替えなんだから、簡単でしょ。
ほら、ここをこうして……」
凛 「なるほど、真姫ちゃん、ありがとう!
えーと、not to hunt……
のっと、とぅー、はんと?」
絵里 「能登半島、みたいで面白いわね。
さすが寒ブリの宝庫、能登半島。名前までエキゾチックだわぁ……
……しまった」
真姫 「どうしたの?」
絵里 「なぜか北陸地方の味方をしているスケバンメイドがお仕置きに来るわ。
しかも最近のアネゴは、新米の妹分と一緒に活動してるの。
……ひいい、足音が聞こえる!
ごめんなさい、エリチカお家帰るうう」
凛 「英語わかんないよー。
そもそも、何で凛たちは日本人なのに、英語を勉強しないといけないの?」
真姫 「言い訳してもしょうがないでしょ!
赤点とったらカッコ悪いわよ、さあ、勉強しなさい」
凛 「to不定詞を使った問題だって。
『狩猟しない』を英語になおせ?
そんなん知るわけないにゃー」
真姫 「並べ替えなんだから、簡単でしょ。
ほら、ここをこうして……」
凛 「なるほど、真姫ちゃん、ありがとう!
えーと、not to hunt……
のっと、とぅー、はんと?」
絵里 「能登半島、みたいで面白いわね。
さすが寒ブリの宝庫、能登半島。名前までエキゾチックだわぁ……
……しまった」
真姫 「どうしたの?」
絵里 「なぜか北陸地方の味方をしているスケバンメイドがお仕置きに来るわ。
しかも最近のアネゴは、新米の妹分と一緒に活動してるの。
……ひいい、足音が聞こえる!
ごめんなさい、エリチカお家帰るうう」
150: 2014/10/26(日) 13:45:59.82 ID:KK/E2tqE.net
凛 「あ、来た来た!
おーい、ことりちゃーん、かよちーん」
ことり「能登半島を異国扱いするなあ!」
花陽 「たとえ温厚にして篤実なる石川県民が許しても!」
ことり「あたいたちのフリフリエプロンが許さねえ!」
花陽 「北陸のお米食べろおおお!」
ことり・花陽「正義のスケバンメイド、参上!」
真姫 「あなたたちに一体何があったのよ!」
おーい、ことりちゃーん、かよちーん」
ことり「能登半島を異国扱いするなあ!」
花陽 「たとえ温厚にして篤実なる石川県民が許しても!」
ことり「あたいたちのフリフリエプロンが許さねえ!」
花陽 「北陸のお米食べろおおお!」
ことり・花陽「正義のスケバンメイド、参上!」
真姫 「あなたたちに一体何があったのよ!」
151: 2014/10/26(日) 13:46:34.30 ID:KK/E2tqE.net
※おわりです。
読んでくれた方、ありがとうございました。
読んでくれた方、ありがとうございました。
155: 2014/10/26(日) 13:56:23.17 ID:NUxN8Q/M.net
おもしろかった乙
156: 2014/10/26(日) 14:03:41.97 ID:N7hh6yBt.net
いいSSだった
乙
乙
引用元: 【SS】ことり「鏡さん、おしえてよ」
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