1: 2011/02/17(木) 10:21:22.41 ID:q1cBXUab0
アンリエット「ダメダメな生徒……ですか?」

舘「はい、お嬢様。生徒会から報告がありました」

アンリエット「まだ入学したばかりですよね? そういう風に断定してしまうのはどうかと思いますよ」

舘「はい、私もそう思います。ですが、そういう報告が来た以上、報告する義務があるかと思った次第でございます」

アンリエット「それで? どれくらいダメダメなのでしょうか?」

舘「尾行の授業では歴代最速で見つかり、トイズの実技では提示された目標を達成できなかったようです」

アンリエット「筆記のテストでは?」

舘「面白い事に、簡単な問題が解けておらず、難しい問題をあっさり解いています」

アンリエット「ん~……その子の名前は?」

舘「はい、確か……シャーロック・シェリンフォードでございます」

アンリエット「シャーロック・シェリンフォード……」

      「わかりました。一度会って、どういう生徒なのか確かめてみましょう」
探偵オペラ ミルキィホームズ はじめまして。2巻後編 (月刊ブシロード)
2: 2011/02/17(木) 10:30:01.88 ID:kjf7zkV/0
シャロ「お掃除お掃除~♪」サッサッ

   「よし、これでこの辺りのゴミは全部片付いた……かな?」

清掃員「ありがとうね、シャロちゃん。本当はオバさんが全部やるべきなのに」トテトテ

シャロ「あ、おばあちゃんダメだよ。病人は休んでなきゃ!」

清掃員「少し疲れが溜まってただけなのに、大げさだよ」

シャロ「でも無理してひどくなったら大変だから、あたしに任せて!」

清掃員「本当にありがとうね。でももう大丈夫だから」

シャロ「でも……」

清掃員「それに、これ以上ここにいると授業に遅れちゃうよ」

シャロ「え!? ……あっ!!」

清掃員「シャロちゃんが遅刻したら、オバさんも怒られちゃうよ」

   「これはオバさんの仕事なんだから、気にしないでいいからね」

シャロ「……うん、わかった。体には気をつけてね、おばあちゃん!」タッタッタ

清掃員「慌てて転ばないようにね~」

3: 2011/02/17(木) 10:31:27.80 ID:kjf7zkV/0
シャロ「いけないいけない、急がないと遅刻しちゃう!」タッタッタ

   (次は尾行の授業……前回はダメダメだったから頑張らないと)

   (あはは……いままでで一番早く見つかるなんて……ダメだな)

   「…………はぁ……」ピタッ

???「あの~……?」

シャロ「ひゃわわぁあああ!!??」

???「え、ええ!?」

シャロ「ど、どどどちら様ですか!?」アタフタ

???「そんなに驚かないでください」

シャロ「す、すすすみません」ペコリペコリ

???「え~と……頭も下げないでください」

シャロ「はわわ、すいません!」ペコペコ

???「シャーロック・シェリンフォードですね?」

シャロ「え、あ……は、はい!!」

アンリエット「はじめましてシャーロック。この学院の生徒会長を務める、アンリエット・ミステールです」

4: 2011/02/17(木) 10:33:12.14 ID:kjf7zkV/0
シャロ「せ、生徒会長ですか!?」

アンリエット「はい、生徒会長です」ニコリ

シャロ「生徒会長って、生徒の中で一番偉い人……ですよね?」

アンリエット「そうかもしれませんね」

シャロ「はわ~……生徒会長……でもあたし、急がないと……」

アンリエット「次の授業は受けなくて結構です」

シャロ「え!? どうしてですか」

アンリエット「生徒会長権限で今回だけ授業免除にさせました」

シャロ「生徒会長権限……?」

アンリエット「というよりも、あなたには特別授業をしてもらいます」

シャロ「特別授業ですか?」

   (なんか、いい響きです……)

アンリエット「はい。よろしいですか? シャーロック」

シャロ「は、はい! わかりました、生徒会長!」

アンリエット「あともう一つ……」

5: 2011/02/17(木) 10:33:52.98 ID:kjf7zkV/0
アンリエット「私の事は、生徒会長ではなくアンリエットと呼んでください」

シャロ「それは……」

アンリエット「まだ初対面ですし、距離感を少しでも縮めるためです」

シャロ「で、でも呼び捨てはダメです!」

アンリエット「私としては、生徒会長と何度も呼ばれる方がつらいですけど……」

シャロ「それじゃあ、アンリエットさんで!」

アンリエット「それでお願いします。それじゃあ、特別授業を始めましょう」

シャロ「はい! あたし何が来ても一生懸命頑張りm

ぐぅ~

アンリエット「…………フフッ」クスリ

シャロ「……えへへ/// 実は今日、お昼は何も食べてないんです」

アンリエット「それじゃあ、話をするついでに外で少し何か食べましょうか?」

シャロ「え、いいんですか!?」キラキラ

アンリエット「ダメな理由なんかありませんわ。とりあえず、近くのレストランに行きましょう」

6: 2011/02/17(木) 10:36:12.73 ID:kjf7zkV/0
アンリエット「好きなものを頼んでいいですよ」ニコッ

シャロ「……本当にいいんですか?」チラッ

アンリエット「ええ、かまいません」

シャロ「でもでも、やっぱり悪いですよ~」

アンリエット「はっきり言いますと、特別授業は尾行の授業より難しいです。ですから、これくらいはされて当然だと思って結構です」

シャロ「その特別授業って、何をするんですか……?」

アンリエット「ん~……いまはまだ内緒でお願いします」

シャロ「いまじゃダメなんですか?」

アンリエット「ダメです」ニコッ

シャロ「……わかりました! じゃあまだ聞きません」

アンリエット「ありがとうございます。……決まりましたか?」

シャロ「あっ、はい! じゃあイチゴパフェでお願いします」

アンリエット「わかりました。それじゃあ、店員さんを呼びましょう」ポチッ

シャロ(アンリエットさん優しいな……それに何かなんでもお見通しみたいな雰囲気がする……)

アンリエット(昼食のつもりなのにいきなりパフェを頼むなんて、さすがに予想できませんでした……)

7: 2011/02/17(木) 10:37:37.46 ID:kjf7zkV/0
店員「イチゴパフェと紅茶です。ごゆっくりどうぞ」

シャロ「アンリエットさん、コレおいしいですー!」モグモグ

アンリエット「食べながら喋っちゃいけませんよ、シャーロック」カチャリッ

シャロ「はーい!」モグモグ

アンリエット「…………」ジィー

シャロ「…………」

   「はい、どうぞ」スッ

アンリエット「……? なんでしょうか、これは?」

シャロ「アンリエットさんも食べてください! おいしいですよ」

アンリエット「私は別に……」

シャロ「そんなこと言わずに! ぜひ!!」ニコッ

アンリエット「……それでは」

シャロ「はい、あ~んです!」

アンリエット「あ~ん……」パクッ

8: 2011/02/17(木) 10:38:22.73 ID:kjf7zkV/0
シャロ「おいしいですよね!」

アンリエット「ええ、とってもおいしい……」

シャロ「アンリエットさんはパフェとかあまり食べないんですか?」

アンリエット「そうですね~、そういえばそんなに食べた事がない気がします」

シャロ「そうなんですか? せっかくですからアンリエットさんも頼みましょうよ!」

アンリエット「えっ……え?」

シャロ「それポチッと~!」ポチッ

アンリエット(え、ちょ……まだ決めてない……)

…………

シャロ「おいしかったですー!」

アンリエット「最初は慌てましたが、食べて正解でした。おいしかったです」

シャロ「パフェ食べてるアンリエットさん、可愛かったです!

アンリエット「か、可愛かった……?」

10: 2011/02/17(木) 10:40:03.33 ID:kjf7zkV/0
シャロ「あ、すいません……調子のっちゃいました」ペコリ

アンリエット「あ、いえ、全然怒ってませんから」

      (後輩に可愛いなんて……はじめて言われて驚きましたよ)

シャロ「あ、そうだ! そろそろ特別授業について教えてくれませんか?」

アンリエット「あ、はい。えーと、あれ……?」

シャロ「アンリエットさん?」

アンリエット「だ、大丈夫です。……特別授業とは、私が担当する事になった事件のお手伝いです」

シャロ「お手伝い……ですか? でも、なんであたしなんかを」

アンリエット「あなたが適任、と判断しただけですよ」

シャロ「でも、あたしはアンリエットさんと会ったのは今日が初めてで」

アンリエット「はい。あなたを初めて知ったのは今日の生徒会からの報告からでした」

アンリエット「『一生懸命だが失敗ばかりの生徒がいる』と」

シャロ「うっ……そうです。あたし、失敗ばかりで」

アンリエット「だからこそ、あなたにお手伝いを頼もうと思いました」

シャロ「え……?」

11: 2011/02/17(木) 10:42:13.88 ID:kjf7zkV/0
アンリエット「まだ入学したてなのですから、失敗は問題ありません。大事なのは、その一生懸命さ」

アンリエット「その一生懸命さを、私に貸して下さい」ニコッ

シャロ「……あたしなんかで」

シャロ「あたしなんかで……よければ!」

アンリエット「よろしくお願いします、シャーロック」

シャロ「はい!!」

12: 2011/02/17(木) 10:47:16.26 ID:kjf7zkV/0
アンリエット(はぁ……さっきはペースを乱されましたけど、ようやく落ち着きました)

      (シャーロック・シェリンフォード……とても面白い人ですね)

シャロ「アンリエットさん」

アンリエット「はい、なんでしょう?」

シャロ「これから、どこに行くんですか?」

アンリエット「これから行く場所は、有名な壺コレクターの館です」

シャロ「壺コレクターですか?」

アンリエット「はい。そのコレクションのうちの一つが怪盗に盗まれたそうです」

アンリエット「それで、私に怪盗を特定して欲しいと依頼されたのです」

シャロ「怪盗って事は、トイズを使うんですよね?」

アンリエット「そうですね……そしてトイズが相手になるからこそ、同じトイズを使える我々がいるのですよ」

シャロ「あたし、トイズも大したことないですし……何を手伝うのかさっぱりです」

アンリエット「着けばわかりますよ」ニコッ

13: 2011/02/17(木) 10:49:23.39 ID:kjf7zkV/0
館の主「アンリエット先生! よく来て下さいりました」

アンリエット「こんにちは。まさか修行中の身である私に声がかかるなんて思ってませんでした」

館の主「謙遜しないでいただきたい。既にいくつかの怪盗事件を一人で解決されているあなたを、誰も修行中などと言いませんよ」

アンリエット「いえ~……謙遜ではないんですけど」

シャロ(アンリエットさん……そんなにすごい人なんだ……)ジィー

アンリエット「それでは、事件の現場を案内してくれませんか?」

館の主「そうでしたな。おい執事! 執事!」

執事「はい、ここに」

館の主「先生をあの場所へ」

執事「かしこまりました……そちらの方もですか?」

シャロ「へっ!? あ、あっと……」

アンリエット「そうです。私と同じホームズ探偵学院の生徒で、助手です」

館の主「ほほほっ! これはこれは可愛い助手さんでありますな」

シャロ「え、えへへ……」

執事「……ではお二方、ついてきてください」

14: 2011/02/17(木) 10:50:32.16 ID:kjf7zkV/0
アンリエット「事件があったのは今日の朝。見回りをしていた執事は突然後ろから殴られ気絶したそうです」

      「起きあがり、気絶させられた事を思い出した執事は急いで主の部屋を鍵を使って入る……」

      「執事の目の前には、荒らされた部屋と部屋から消えた壺……そして机の上にメッセージカードが置いてあったそうです」

シャロ「なるほど……」

アンリエット「それじゃあ、頑張って下さいね」ニコリ

シャロ「はい、頑張りましょう! ……って、えぇ!?」

アンリエット「私は後ろで見てますから、何か疑問があったらすぐに聞いてくださいね♪」


シャロ「ちょ、ちょっと待ってください!」

アンリエット「何か?」ニコッ

シャロ「アンリエットさんが……事件を解決するんじゃ……」

アンリエット「う~ん、確かに依頼ではそうなってますけど」

シャロ「だったらアンリエットさんが解決すべきです! それに、あたしなんかじゃ解決なんて……」

アンリエット「それではシャーロック……あなたを呼んだ意味がないじゃありませんか」

シャロ「え?」

アンリエット「私があなたを呼んだのは、あなたに事件を解いてもらうためです」

16: 2011/02/17(木) 10:51:53.84 ID:kjf7zkV/0
シャロ「む、無理です!」

アンリエット「無理じゃありません。それに、無理と言ってはいけませんよ」

      「あなたはまだ卵とはいえ、探偵を志す者なのですから」

シャロ「うぅ……」

アンリエット「当たって砕けろとはいいませんが、がむしゃらに行動するのは大切ですよ?」

シャロ「……わかりました。やってみます!」

アンリエット「頑張って下さいね、シャーロック」ニコリ


少し休む

18: 2011/02/17(木) 11:09:47.97 ID:kjf7zkV/0
シャロ「うわぁ……本棚の周りも酷いけど、机の周りの方がひどい」

   (テレビでもよくあるけど、物盗りってどうしてこんなに散らかしてるのかな?)

   「次は窓……あれ?」


アンリエット「ふむ……やはり、この事件は……」

シャロ「アンリエットさ~ん!!」

アンリエット「どうかしましたか、シャーロック」

シャロ「あそこに壺があるんですけど……壺は二つあったんですか?」

アンリエット「……ああ、それは別の壺ですね。盗まれたのは、確か……」スッ

シャロ「それ、執事さんが見つけた予告状ですね」

アンリエット「盗んだ後なので、予告状とはちょっと~違うかもしれませんね」

『貴様の一番大切な壺はいただいた 怪盗より』

アンリエット「あそこにある壺もすごい価値のある物ですけど、盗まれたのは別ですね」

シャロ「家宝を奪われて、館の主さん可哀想です」

アンリエット「それを取り返すのが私たちの仕事ですよ、シャーロック」

シャロ「はい! 絶対に取り返してみせます」

19: 2011/02/17(木) 11:10:42.65 ID:kjf7zkV/0
アンリエット「しかし……怪盗と呼ぶには粗末な盗み方ですわね」

シャロ「粗末ですか?」

アンリエット「怪盗というのは、無闇に人を傷つけず、痕跡を残す事なく盗む事を美学としています」

      「盗みはよくありませんが、そこにおいては尊敬に値すると私は思っています」

      「ですが……この様子はただの泥棒とかわりありません」

シャロ「怪盗と泥棒って、違うんですか?」

アンリエット「一般的にはトイズを使ったり、予告をするのが怪盗と呼ばれていますね」

シャロ「じゃあ、これも一応は怪盗という事になるんですか?」

アンリエット「まぁ、あまり認めたくないですけどね」

シャロ「なるほど……それにしてもアンリエットさんはすごいです! 怪盗に対してもそんな考えを持っているなんて!」

   「あたしなんて、怪盗は捕まえる相手としか考えていませんでした!!」

アンリエット「いまはそれでいいんですよ、シャーロック」

20: 2011/02/17(木) 11:14:56.64 ID:kjf7zkV/0
アンリエット「しかし……怪盗と呼ぶには粗末な盗み方ですわね」

シャロ「粗末ですか?」

アンリエット「怪盗というのは、無闇に人を傷つけず、痕跡を残す事なく盗む事を美学としています」

      「盗みはよくありませんが、そこにおいては尊敬に値すると私は思っています」

      「ですが……この様子はただの泥棒とかわりありません」

シャロ「怪盗と泥棒って、違うんですか?」

アンリエット「一般的にはトイズを使ったり、予告をするのが怪盗と呼ばれていますね」

シャロ「じゃあ、これも一応は怪盗という事になるんですか?」

アンリエット「まぁ、あまり認めたくないですけどね」

シャロ「なるほど……それにしてもアンリエットさんはすごいです! 怪盗に対してもそんな考えを持っているなんて!」

   「あたしなんて、怪盗は捕まえる相手としか考えていませんでした!!」

アンリエット「いまはそれでいいんですよ、シャーロック」

21: 2011/02/17(木) 11:20:33.31 ID:kjf7zkV/0
アンリエット「怪盗は捕まえる相手。いまのあなたにとって、怪盗の存在はそれで十分」

シャロ「う~ん……考えなくていいのですか?」

アンリエット「自分が怪盗に対して疑問に持った時に、考えるといいでしょう。いまは、その時じゃありません」

シャロ「まだ探偵の卵だからですか?」

アンリエット「その通りといえば、その通りかもしれません。そんな事よりも、学ぶべき大切な事がたくさんありますからね」

シャロ「大切な事……ですか?」

アンリエット「そう……大切な事、です」

23: 2011/02/17(木) 11:21:37.42 ID:kjf7zkV/0
アンリエット「さて、大体の様子は見たと思います。何かわかりましたか?」

シャロ「開けっ放しの窓を考えると、犯人は壺を盗んだ後に窓から逃げたと思います!!」

アンリエット「そうですね、それが妥当な考えでしょう」

シャロ「でも……」

アンリエット「何かひっかかる事が?」

シャロ「さっきから、頭の中がモヤモヤしてるんです」

シャロ「犯人は、どうやって部屋の中に入ったのかなぁ……て」

アンリエット「確かに。執事さんを襲った以上、犯人は“館の中にいた”という事になりますからね」

シャロ「鍵は盗まれてないみたいだし、やっぱり怪盗だからトイズなのかな……?」

アンリエット「つまり、鍵開けのトイズという事ですね?」

シャロ「そうじゃなきゃ、おかしいですから!」

アンリエット「そうですね、トイズならば矛盾点が発生しない……ですが」

パチン

シャロ「わっ!? いきなり部屋が!?」

アンリエット「私のトイズです。いまから“怪盗は鍵開けのトイズを持つ”と仮定して状況を再現しましょう」

24: 2011/02/17(木) 11:22:37.85 ID:kjf7zkV/0
シャロ「アンリエットさんのトイズ……」

カチャ……ガチャリ

アンリエット「犯人は鍵開けのトイズで部屋に侵入……そして」

ドサッ バタン ガサゴソ

アンリエット「部屋を荒らしまわる……面倒なので飛ばしますね」

シャロ「あ、いつの間にか犯人が壺を持ってます」

アンリエット「犯人は机に紙切れを置き、そのまま窓から飛び降り逃走……以上です」

パチン

アンリエット「以上です。どうですか……何か気づいたことは?」

25: 2011/02/17(木) 11:23:25.18 ID:kjf7zkV/0
シャロ「鍵開けのトイズがあるなら、どうして犯人は窓から入らなかったんでしょうか?」

アンリエット「その通りです。中に侵入するよりはるかのリスクは少ないはず……なのに、しなかった」

シャロ「犯人は……鍵開けのトイズじゃない?」

アンリエット「可能性としては、十分にあると思います」

シャロ「じゃあ、犯人は鍵を持ってないのに鍵を開けた……?」

シャロ(ううぅ~……頭がこんがらがってきました~)

アンリエット「フフッ、慌ててはいけません。もう一度考えましょう」

シャロ「そうですね。もう一度はじめから考えてみます!」


…………


シャロ(う~ん……やっぱりおかしいよぉ)

館の主「アンリエット先生、何かわかりましたかな?」トテトテトテ

26: 2011/02/17(木) 11:24:42.83 ID:kjf7zkV/0
シャロ「あっ、おじいさん」

アンリエット「はい、彼女のおかげで順調ですよ」ニコッ

館の主「ほっほ、それはよかった!」

シャロ(そうだ、これは聞いておかないと)

   「あの、すいません!」

館の主「なにかな、可愛い助手君?」

シャロ「盗まれた壺の事なんですけど……」

館の主「ああ……あれは私の宝物だよ。もし部屋に入れば真っ先に見える位置に置かせてるくらいにね」

シャロ(……あれ?)

館の主「あれは父と私が壺作りを体験した際に完成させたものでね。だから価値のある他の壺と同等……いや、それ以上に特別な壺なのだよ」

アンリエット「思い出の品なのですね」

館の主「ああ……だからこそ、なぜせめて盗むなら片方の壺にしなかったと怪盗に思ってたよ」

シャロ「盗まれた壺、どこに置いてあったんですか?」

館の主「ん……窓の傍に置いてある台があるだろ?あそこだ」

シャロ「ありがとうございます!」ペコリ

27: 2011/02/17(木) 11:25:25.79 ID:kjf7zkV/0
館の主「それではアンリエット先生、早く犯人を見つけてくださると有難いです」

アンリエット「現場の状況さえ調べれば、大体の正体は掴めるはずです。安心してください」ニコッ

館の主「ふふっ……では、部屋の外には執事がおりますゆえ、何かあったらあやつに言ってください」トコトコトコ


アンリエット「思い出の品なら、なんとしても取り返さないといけませんね、シャーロック」

シャロ「…………」

アンリエット「シャーロック?」

シャロ「アンリエットさん、もう一度トイズを使ってくれませんか!?」

アンリエット「……どうしてでしょう?」

シャロ「もしかしたら……さっきからひっかかる部分がわかるかもしれないんです」

アンリエット「……わかりました」ニコッ

パチン

アンリエット「できました。先程と同じ状況で、犯人が部屋に入る前です」

シャロ「いまから館の主さんに聞いた話と、あたしの推測を言います」

アンリエット「遠慮なく言ってください。その度に修正を施します」

シャロ「それじゃあ……」

28: 2011/02/17(木) 11:27:18.71 ID:kjf7zkV/0

シャロ「やっぱり……おかしいですよ、これ!」

アンリエット「確かにおかしいですね」

シャロ「犯人はどうして……こんな事を……?」

アンリエット「シャーロック、それでは駄目です」

シャロ「え?」

アンリエット「こういった場合、どうしてこんな事をしたのかではなく」

      「こんな事をしなかった場合の事を考えましょう」

シャロ「こんな事を……しなかった……」

   「…………」

   「あっ!!」

アンリエット「わかりましたか?」

シャロ「もしかして……この事件……」

シャロ「怪盗なんて、いなかった?」

アンリエット「よくできました、シャーロック」ニコリ

31: 2011/02/17(木) 11:32:14.72 ID:kjf7zkV/0
館の主「怪盗がわかったというのは本当ですか、アンリエット先生!?」

アンリエット「はい。ですが、真相に辿り着いたのは私ではなく……」

シャロ「あ、あたし……です」ドキドキ

館の主「助手さんがですかな?」

アンリエット「これから、シャーロックが自身の推理を語ってくれます。付き合ってくれませんか?」

執事「…………」

館の主「わかりました。是非、聞かせてください」

アンリエット「ありがとうございます。それじゃ、シャーロック」

シャロ「は、はいぃっ!!」ガチガチ

アンリエット「肩の力を抜いてください。落ち着いてやれば、大丈夫ですよ」

シャロ「わ、わかりました……」

アンリエット「頑張ってください」ニコッ

シャロ「それじゃあ、はじめます……」

32: 2011/02/17(木) 11:33:30.04 ID:kjf7zkV/0
シャロ「執事さんが目が覚めて部屋に入ろうとした時、鍵は閉まっていたそうです」

執事「はい……ですから鍵を使い部屋に入りました」

シャロ「そこです!!」

執事「はい……?」

シャロ「犯人はどうして、執事さんの鍵を奪わなかったのでしょう?」

執事「鍵を……奪う……?」

シャロ「鍵を奪った方が、楽に部屋の出入りができるはずです。なのに、奪わなかった」

執事「……!」

アンリエット「その理由は3つほど考えられますね。一つは執事が鍵を持っている事に気づかなかった」

館の主「まぁ、どの家も執事に鍵を持たせているとは限りませんからな」

シャロ「でも、それだとまた新しい疑問が生まれるんです」

館の主「疑問……?」

シャロ「鍵がかかった部屋を、どうやって犯人が入ったのか」

執事「確認する前でしたので、もしかしたら開いていたのかもしれませんよ?」

シャロ「それでも、運を頼りに盗みを行うとは到底思えません!」

33: 2011/02/17(木) 11:34:38.82 ID:kjf7zkV/0
シャロ「で、でも! それでもまだまだ疑問点は山積みです」

シャロ「この部屋を見てください!」

館の主「見るとは……どこをだね?」

シャロ「散らかってます」

執事「……それのどこに不自然な点が?」

シャロ「確かに。これだけなら一見して不自然じゃありません」

シャロ「でも、このメッセージカードが一つの矛盾を再び生んでいるんです」

パチン

館の主「うおおっ!? いきなり部屋が綺麗になったぞ」

執事「壺が……形も色も違いますが元のあった場所に」

アンリエット「ご安心を。私のトイズで当時の状況を再現しただけです」

34: 2011/02/17(木) 11:37:09.66 ID:kjf7zkV/0
ガチャリ バタン

館の主「この黒い人間のはなんだね?」

シャロ「犯人です。いま、盗みの瞬間を再現します」

ドサッ バタン! カシャーン

シャロ「犯人はまず、部屋のあちこちを荒らし始めます」

   「そして、窓の台に置いてある壺を手に取ると……窓を開けて、そのまま逃走しました」

   「現場には、荒れた部屋とメッセージカードが残っています」

執事「やはり、不自然な点はないではないですか?」

館の主「そうかね? 私はなんか引っかかるのだが……」

アンリエット「引っかかるのは……壺の事じゃありませんか?」

館の主「そうだそうだ! この犯人、どうして目の前にある壺をさっさと盗まなかったのだ?」

執事「え……?」

シャロ「その通りです! 窓の傍に、堂々と置かれている壺が犯人の狙いなのに……なぜ、それを放って部屋を荒らしたんでしょう?」

   「怪盗ならば、さっさと盗んで終わらせるはずなんです!」

アンリエット「ただでさえ、気絶した執事がいつ目覚めるかわかりませんからね」

35: 2011/02/17(木) 11:38:04.34 ID:kjf7zkV/0

執事「ぐっ……!」

館の主「そ、そんな馬鹿な話が……」

アンリエット「ですが、十分にありえる推論です」

シャロ「どうですか! 何か間違っているなら、反論してください!!」ビシッ

執事「ぐ……あ……」


  「…………」


  「……間違ってますね」


シャロ「え?」

執事「ふっ……こうは考えられないでしょうか? 怪盗は“疑いの目が自分に向けられないようにカモフラージュした”と」

  「このメッセージカードを見てください。怪盗と名乗っているだけで名前が書かれていない」

  「自分の存在をアピールしたいなら、名前を書くのは至極当然でしょう。なのにしなかった」

シャロ「うっ……確かにそうです……」

36: 2011/02/17(木) 11:40:40.08 ID:kjf7zkV/0

執事「つまり、彼は壺が欲しいのであって名誉など求めていなかった!」

  「壺コレクターの主の館に入り、○○の壺を盗んだ……そして正体を欺くため、わざと物盗りのように偽装したのです!」

  「さぁ……なにか反論は?」

シャロ「ど、どうして物盗りに偽装するんですか!? そんな事、する意味がありません!」

執事「意味がないのは、私がわざわざ部屋を荒らした事だって意味はないじゃありませんか?」

シャロ「そ、それは……」

執事「怪盗だって人の子。こういった意味のない行動だってするものですよ」

  「……それで、なにか反論は?」

シャロ「あぅ……」

執事「何もないのでしたら、私を犯人扱いするのは筋違いというものです」

シャロ「…………」

館の主「ふむ……彼女の話も興味深かったが、私には彼の方が正しい事を言っているように見えるね」

シャロ「そ、そんな!!」

館の主「何より、君の推理は所詮憶測でしかない。彼が行ったという確固たる証拠がなければいけない」

シャロ「うっ……」

37: 2011/02/17(木) 11:41:41.11 ID:kjf7zkV/0

館の主「まぁ念のため、執事の部屋は調べさせてもらおうが、いいかね?」

執事「どうぞご自由に。私は何一つ隠す事などございませんから」

館の主「うむ……そしてアンリエット先生」

アンリエット「なんでしょうか?」

館の主「執事は私にとって友人に近い存在だ。その彼が侮辱されて、私も内心では心の落ち着きがしない」

   「あなたも、この子と同じ考えだったのですかな?」

アンリエット「はい、その通りです」ニコリ

館の主「そうですか。失望した……とは言わないが、今回の件は別の人間に改めて依頼するとしよう」

アンリエット「……わかりました」

39: 2011/02/17(木) 11:48:27.53 ID:kjf7zkV/0
執事「ですが、あなたもシャーロックと同じ考えなのではないですか?」

アンリエット「大筋はシャーロックと同じです。あなたが怪盗の仕業と見せるために、偽装した」

執事「では、先程の私の考えに反論があるならば、答えてください」

アンリエット「…………」フッ

執事「……?」

アンリエット「……館の主さん、あなたにとって一番価値のある壺は何でしょう?」

館の主「ん? ……そりゃあ、盗まれた壺だがね」

アンリエット「では、実際の価値は?」

館の主「あれは父と私で作った物だから、売っても大した額はしないよ」

アンリエット「……そうですか」

執事「それが、どうかしましたか?」

アンリエット「いえ~……不思議ですね、どうして価値のない物を盗んだのか」

館の主「私の大切な物だからだろう?」

アンリエット「あるいは、価値がない事を知らなかったか……いずれにしても一つ疑問が」

40: 2011/02/17(木) 11:51:49.71 ID:kjf7zkV/0
執事「どこに疑問が?」

アンリエット「この部屋にはもう一つ、壺があります。どうして、そっちの方を盗まなかったのでしょうか?」

執事「怪盗は大切な壺を狙っていました。主の大切な壺といえば、盗まれた壺以上の物はありません」

アンリエット「そうですね。ですが、どうしてそれを知ったのでしょうか?」

執事「……?」

アンリエット「あの壺はこの人の思い出の品であって……」

      「盗まれなかった壺のようにコレクター仲間などに見せるような代物ではないのでは?」

執事「……っ!?」

シャロ「おじいさん! この壺が大切な物って、誰かに言ってましたか?」

館の主「友人やこの部屋に入る者……執事やメイドには言ったことがある」

アンリエット「ぐっと容疑者が絞れましたね。フフフ……」

執事「で、ですが私が犯行をおこなったという証拠にはなっていません」

アンリエット「……これくらいの要素があって、まだ言い逃れをしようというのですか?」

執事「あ、当たり前だ! 冤罪なんてくらってたまるかッ!」

41: 2011/02/17(木) 11:54:31.26 ID:kjf7zkV/0
事「…………」

スッ……ピタッ

執事「ふ、ふふふふふふ……」

アンリエット「さて、続けますか?」

執事「はは……ははは……あーっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!」

館の主「執事……!?」

執事「バレないように土に埋めたのに……こうもあっさり見つかるとは!」

館の主「そんな……信じられん……」

執事「くくっ……ふふは……!!」

アンリエット「あ、土の中だったんですか」

執事「はは……は?」

パチン

執事「!?」

館の主「あの壺が……まったく違う壺に」

アンリエット「触らせれば完全にだませる……そう思ったので、別の壺を勝手に借りました」ニコッ

42: 2011/02/17(木) 11:58:43.93 ID:kjf7zkV/0
シャロ「気づかなかった……トイズだったなんて」

アンリエット「一度、現場を再現するために使ったトイズは解除しないでおいたのですけど……解除しないでよかったです」ニコッ

執事「あ……あ……」

アンリエット「自白、ご苦労様です♪」

執事「あぁあああああああああああ!!!!!」

アンリエット「素直に窓だけ開けていればいくらでも誤魔化せたでしょう……」

      「無駄な事を省く事こそが、怪盗の基本です」

執事「あああ……ああ……!」

アンリエット「……さて、せっかくですので、どうしてこんな事をしたのか話して下さい」ニコニコ

43: 2011/02/17(木) 12:01:25.95 ID:kjf7zkV/0
シャロ「『一目見て心奪われた。是非、近くに置きたかった』ですか」

   「あのおじいちゃんなら、頼んだらいつでも見させてくれそうですけどね」

アンリエット「近くから見るのと、近くに置くのは違いますからね」

シャロ「どう違うんですか?」

アンリエット「他の人が食べているパフェを食べるのと、自分が頼んだパフェを食べるくらい違います」

シャロ「なるほど!!」

アンリエット「……さて、今回はよく頑張りました。お手柄でしたよ、シャーロック」

シャロ「いえ……あたしなんか途中で終わっちゃったし……結局、アンリエットさんの顔に泥を塗るところでした」

アンリエット「ですが、それまでは上手くいってました」

シャロ「全部、アンリエットさんが教えてくれたからです。アンリエットさんがいなかったら、何もできませんでした」

アンリエット「…………」

シャロ「あたし……まだまだ未熟です」

アンリエット「シャーロック、自信を持ってください」

シャロ「いえ、未熟です……今回、それを本当にわかりました」

44: 2011/02/17(木) 12:02:28.66 ID:kjf7zkV/0
アンリエット「シャーロック……」

      (あなたはいきなり事件を任されたのに、出来る限りの努力をして犯人を追いつめた……)

      (それは、十分に誇っていいのですよ……?)

シャロ「シャーロック・シェリンフォードは誰かが支えなきゃ何も出来ないダメダメな探偵の卵です」

アンリエット「シャーロック、ですが……

シャロ「だから……明日からもっともっと頑張ります!」

アンリエット「…………!」

シャロ「ダメだった所を反省して、良くして、一人前に探偵になるために頑張ります!」

シャロ「今回、アンリエットさんの姿を見て思いました」

シャロ「あたし……アンリエットさんみたいな探偵になりたいな~……て」

45: 2011/02/17(木) 12:05:03.86 ID:kjf7zkV/0
アンリエット「……! シャーロック……!」

シャロ「えへへ……」

ギュッ

シャロ「あ、アンリエットさん!?」

アンリエット「楽しみにしています……あなたが、私以上の探偵になってくれる事を」

シャロ「はいっ……あたし、頑張ります!」



アンリエット(この子はきっと立派な探偵になれる……誰よりも一生懸命で、誰よりも素直なこの子なら)

      (きっと、この子は私にとっての――――――)



アンリエット「頑張ってください……シャーロック」ギュウッ

46: 2011/02/17(木) 12:06:16.24 ID:kjf7zkV/0
…………

舘「お疲れ様でした、お嬢様」

アンリエット「ふふっ、そちらこそお疲れ様です」

舘「なにやら、上機嫌ですね」

アンリエット「ふふっ、そうでしょうか?」

舘「はい。どうやら、彼女に会ってみたのは正解だったみたいですね」

アンリエット「ただのおせっかいのつもりが、本当に予想以上の収穫でした」

舘「それはそれは。よかったですね」

アンリエット「舘さん……」

舘「なんでしょうか?」

アンリエット「次の世代って……本当に来るのかもしれませんね」

舘「そうでしょうね。かの有名な小林オペラをはじめとして、お嬢様などの有望な探偵は数多く生まれてきています」

アンリエット「そうではなくて……私たちより、その次の世代です」

舘「はっ……?」

アンリエット(シャーロック……今日はあなたに会って本当によかったです)

47: 2011/02/17(木) 12:12:21.87 ID:kjf7zkV/0
舘「少し聞きたいのですが、シャーロックさんとは今後も会うつもりなのでしょうか?」

アンリエット「いえ、それはやめておきます。生徒会長たるもの、誰かを贔屓していると思われてはいけませんから」

舘「それはそれは……安心しました」

アンリエット「安心した……ですか?」

舘「お嬢様がその年でもう若手の育成に力を注ぐのではないかと、私は心配しておりました」ニコッ

アンリエット「舘さんが心配する事はないと思いますけど」ニコッ

舘「お嬢様は名探偵小林オペラと同じ若き名探偵ですゆえ、今後も最前線でドンドン活躍して欲しいと思っているのですよ」

アンリエット「もちろん、私はそのつもりですよ」ニコッ

      「あと、もうシャーロックは私がいなくても大丈夫だと思います」

      (あの一生懸命さ……そして卑屈にならずに前を見る心があれば……大丈夫)


END

48: 2011/02/17(木) 12:15:32.28 ID:kjf7zkV/0
これで終わりです。正直、パフェと解決後のシーンが書きたかっただけです
そのため、勢いで書いた解決のノリがまんま逆裁に影響されていて、いま読み返して恥ずかしいです

こんな駄文を読んでいただき、ありがとうございました!

ちなみに、これを書いたきっかけは「ミルキィが部屋を追いだされた後、アンリエットさんがあんなにガシャーンした理由を考えていた時に」です

49: 2011/02/17(木) 12:31:57.42 ID:pRZ1dNV5O

引用元: アンリエット「頑張ってください、シャーロック」