167: 2019/02/11(月) 21:43:50.55 ID:u2YgayRoo

「すっ、スキンケア……!」


 スカウトされて、アイドルになって。
 山形から東京に出てきて、色々と生活に変化があって。
 何か困ってることは無いかと、プロデューサーさんに聞かれて。
 強いて上げるなら、なんて感じで言った肌の悩み。


「はい」


 すぐ、ほっぺが赤くなる。
 これは、地元に居た時からの悩みの一つでもあった。
 小さい子供みたいで可愛い、なんて言われてたけど……。
 アイドルだったら、やっぱり白い肌が良いんだなぁ~。


「今は、特にこれといった対策はしていますか?」


 してないんご。
 お母ちゃんには、そろそろしないとねって言われてたけど……。
 そのたんびに、お父ちゃんがからかってきてて!
 あっ、洗顔とかをちゃんとしてるのも対策かな!?


「お母ちゃんが使ってた洗顔フォームをずっと使ってるんご!」


 自分で選ぶってなっても、よくわからないし。
 山形に居た時、友達に聞いてみても皆同じ答えだった。
 大体、普通の女子高生には手が出にくいお値段だもん!
 そういうのにお金を使うと、ラーメン食べに行けなくなっちゃう!


「……成る程」


 プロデューサーさんが、小さな手帳にメモをとっていく。
 なっ、何か問題でもありましたか!?
 もしかして、都会では一家全員それぞれ違う洗顔フォームを使ってるとか!?
 ひいい!? やっぱり、都会は怖い!


「これからアイドルとして活動していく中で、メイクをする場面が出てきます」


 内心、恐れおののく私を尻目に、
プロデューサーさんは言い聞かせるように、真っ直ぐこちらを見ている。
 あっ! 別に、プロデューサーさんの顔が怖いんじゃないですからね!?
 いやでも怖……っとと、ちゃんと話を聞かなきゃ!


「なので、スキンケアは重要になってきます」


 ――仕事面だけじゃなく、私自身のためにも。


「はあ……」


 私自身のためと言われても、いまいちピンと来ない。
 地元は、こっちに比べてかなりのほほんとしてたから……。


「頬が赤くなりやすい、という問題も解消した方が良いかと」


 へっ?


「もっ、問題!? ほっぺが赤くなりやすいのって、問題なんですか!?」


 ビックリして、大きな声が出た。
 今、多分ほっぺが赤くなってるのは、なんとなくわかった。
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(7) (電撃コミックスEX)
168: 2019/02/11(月) 22:47:13.16 ID:u2YgayRoo

「え、ええ……」


 私の剣幕に押されてか、プロデューサーさんは少しだけ目を見開いた。
 その原因が、私が急に大声を出したからか、
ほっぺが赤くなりやすいのを問題と知らなかったからかは、わからない。
 うぅ……ど、どっちでも恥ずかしい……!


「……原因は、いくつか考えられますが」


 それから、プロデューサーさんはゆっくりと説明してくれた。
 ほっぺが赤くりやすい原因は、遺伝や体質等、色々とあるらしい。
 その一つ一つを頷きながら、真剣に聞く。
 だって、真面目な顔で問題なんて言われたら怖いもん!


「私の肌って、どうなんでしょうか?」


 これでも、生まれた時からずっと付き合ってきた顔。
 他の人と比べたことが無いから、あまりよくわからない。
 そりゃあ、ほっぺを突っつかれた事はよくあるけど……。
 りんごを食べて、ビタミンCを補給してるだけじゃ駄目だったんだー……。


「すみません。私も、そこまで詳しい方では……」


 プロデューサーさんは、右手を首筋にやって、そう言った。
 だけど、言われてみれば確かにその通りなんだよね。
 男の人って、メイクとかしないし。
 ……あっ、そうだ! 良い事を思いついた!


「ちょっと、ほっぺ触ってみてください!」


 我ながら、ナイスアイディア!
 詳しくなくても、触ってみれば何となくわかると思うっ!
 今は、いつも通りのすっぴんだし!
 あは♪ あかりんご、冴えてるんご!


「えっ!? いえ、それは……」


 テーブルに手をついて乗り出し、顔を突き出す。
 こうすれば、手が届きますよね!
 ほらほら、早く早くー!
 お肌のチェック……あ、チェキ!? チェキしてくださいなっ!


「……どうしたんですか?」


 いつまで待っても、プロデューサーさんは固まったまま。
 どうしたんだろ?
 もしかして、まじまじ見られてると駄目とか?
 もー、しょうがないですねー!


「あは♪ こういう事ですねっ!」


 目をつぶって、待つ。


「いえ、あの……!」


 プロデューサーさんが、焦った声を出した。
 ……なんでだろ?

169: 2019/02/11(月) 23:08:00.16 ID:u2YgayRoo

「えっ、と……スキンケア、大事なんですよねっ!」


 目を開けて、プロデューサーさんを真っ直ぐみつめる。
 普段は鋭い目つきが、今は妙に頼りなさげに揺れている。
 だから、私は思っていることをそのまま言うことにした。
 それが、この人には一番通じると思ったから。


「だから、今の肌の状態を知るって、重要な事だと思うんご!」


 私は、やるなら1番になりたい。
 その意志は、プロデューサーさんには伝えてあった。
 目立つのは得意じゃないし、自分がアイドルでよかったのかと思う時もある。


「でも、自分じゃよくわかないから……」


 苦手な事もあるし、変に浮かれちゃう時もある。
 りんごを推していく、っていう方向性も迷いながら。
 ……そんな私でも、確かなものがある。


「プロデューサーさん、お助けを~!」


 私のプロデューサーさんは、この人なんだ、って!


「……!」


 また、目をつぶって、待つ。
 今のでほっぺが赤くなった気がするけど、気にしない。
 だって、私はアイドルだから。
 そのためだったら、出来る限りの事はがんばるんご!


「で、では……すみません、失礼します……」


 私の熱意が伝わったのか、そんな言葉が返ってきた。
 んー? 私が頼んだのに、どうして謝ったんだろ?
 あっ、都会ではそういう感じでやり取りするんですか!?
 よーし、早速!


「すみません、お世話になります!」


 あはっ♪ 今ので合ってますよね?
 父ちゃん、お母ちゃん……あかり、都会の女に一歩近づいたよ!
 でも、山形の事は忘れないから、安心してね!
 ……山形弁は、可愛くないから使わないけど。


「ん」


 プロデューサーさんの指先が、ほっぺに触れた。
 自分の手とは違う、男の人の手の感触。
 その違いに、かなりビックリ!
 ……って、


「それでわかります? もっと、りんごを掴むように!」


 遠慮なんてしないでください、プロデューサーさんっ!


「えっ!?」


 ……今、驚く所ありました?
 あ、今の例え駄目でした?
 愛ですよ! りんごを慈しむ、愛の心で触ってくださいなっ!

170: 2019/02/11(月) 23:35:44.73 ID:u2YgayRoo

「……!」


 プロデューサーさんの手の平が、ほっぺに当てられた。
 ほっぺで感じる、大きな手。
 小さい頃、父ちゃんに褒められた時にもこうされたっけ。
 懐かしさに、自然と笑みがこぼれた。


「あはっ♪ プロデューサーさんの手、温かいんごね~♪」


 顔を手に擦り寄せ、言う。
 こうすれば、私もほっぺが温かいし、
プロデューサーさんも肌の感じがわかりやすくて一石二鳥ですね!


「私の肌、どんな感じですかね~?」


 右側はプロデューサーさんの手が触れてるから、
反対側の左目を開けて、聞いてみる。
 何故か、プロデューサーさんは妙に背筋をピンと伸ばしてて、
左手は軽く拳を作って膝の上に置いていた。


「と、とてもきめ細かいですが……す、少し乾燥しています、ね」


 きめ細かい……これって、褒められてる!
 だけど、乾燥してるっていうのは……あっ、そっか!


「東京に来てから、まだ良いラーメン屋を見つけてないからですかね~?」


 ラーメンの油分を補給してない。
 早く、こっちでの生活にも慣れて色々と行ってみたいんですよねー。
 電車なんかいっぱい走ってるから、すっごく便利ですよ!
 あは♪ 考えただけで、楽しみ!


「も……もう、良いでしょうか?」


 聞きながら、プロデューサーさんはサッと手を引っ込めた。
 そして、引っ込めた手を少し彷徨わせた後、
左手と同じように軽く拳を作って、膝の上に乗せた。
 どうしたんですか? 何か、緊張してません?


「……?」


 お肌のチェッ……チェキ!
 チェキするのって、そんなに緊張するような――


「――あっ」


 顔が、熱くなっていくのがわかる。
 ほっぺだけじゃなく、顔から首筋から、色々……全部。
 何も言えなくて、唇をまっすぐ引き絞る。
 頭上からは、湯気が立ち上ってるかも知れない。


「……!」


 あまりの熱に、りんごが一つ焼き上がってしまった。
 甘いそれは、心の準備を全くしていない私にとっては、あまりに甘すぎた。


「んごぉ……!」



おわり

171: 2019/02/12(火) 00:45:26.48 ID:nDx8KCmw0
やっぱあかりんごはこういう素朴さがいいな

172: 2019/02/12(火) 01:26:16.89 ID:Ae4JRlER0
いつ蒼いのが出て来るのかと内心ハラハラした

173: 2019/02/12(火) 01:52:36.66 ID:uxraG/BZO
あかりんご可愛いな……

174: 2019/02/12(火) 06:25:14.04 ID:XOXdC2tgo
口調はなんJ民なのに可愛いとは……

引用元: 武内P「理由あって、飲み会」