1: 2009/05/31(日) 23:33:16.24 ID:dm7tVqIO0

お嬢様「何の目的で、無一文の私に今尚付いて来ているかは
    知らぬが、いい加減他の使用人の様にどこかへ行ったらどうだ
    貴様の腕なら、雇い主は引く手数多だろう」

執事「……ああ。気にしないでください。
   これは私の趣味なのですよ。没落した大富豪の娘の末路
   見世物としては、かなりの物だと思いませんか?」

お嬢様「……え? っ!! き、貴様!!」

執事「……出て行け、とでもおっしゃるつもりですか?
   生憎、ここはお嬢様の家ではなく、私個人の契約したアパート。
   出て行く事になるのはお嬢様ということになります。
   それに、私がいなくなれば、お嬢様は明日から路上生活で
   のたれ氏ぬか、体を売って女の様に生きるかのどちらかに
   なりますが――――よろしいのですか?」

お嬢様「……ぐ」
江戸前エルフ(2) (少年マガジンエッジコミックス)
7: 2009/05/31(日) 23:41:57.76 ID:dm7tVqIO0
執事「ご自分のお立場が判っていただけたようですね」

お嬢様「……ああ。今まで貴様の様な人間を信じていた私が
   いかに愚かだったかがよく解ったよ」

執事「結構な事です。それでは――――」

お嬢様「……待て。その前に、貴様の目的はなんだ。
    没落した人間を愉しむのが目的なら、私を放置して観察
    でもしていればいいだろう。何故アパートに連れ込……
    ……ああ、貴様、私の身体でも欲しいのか?フン、下種らしい」

執事「ご冗談を。私が貴女の様な乳臭いガキを抱きたがるなどと、本気でお思いで?
   単に、観察対象は近くに置いておいた方が楽だからですよ。お嬢様」

お嬢様「……くっ」

16: 2009/05/31(日) 23:51:14.93 ID:dm7tVqIO0
執事「さて、話の続きをいたしましょう。
   まずはお嬢様の今後の事についてです」

お嬢様「今後、ね。そんなものが――キャッ!?」

執事「人の話は最後まで聞く。教えましたよね、お嬢様?」

執事「……続けます。 お嬢様、まず最初に言っておきますが、
   お嬢様の学校には退学届けを出させていただきました」

お嬢様「なっ!?」

執事「おや?驚く事はないと思いますが?
   どの道、お嬢様にはあの学園の学費を払う能力などないのですから。
   まあ、あの学園以外の学費でも払えないと思いますがね」

お嬢様「でも……!」

執事「ははは。いつまでお嬢様気分でいらっしゃるのですか?
   まあ、私としてはそちらのほうが愉快なのでいいですがね。
   どうです?この辺りで、メソメソと泣いてみるというのは」

お嬢様「くっ!誰が!!」

執事「おや、それはつまらないですねぇ」

27: 2009/05/31(日) 23:59:24.16 ID:dm7tVqIO0
執事「さて、まあその事はどうでもいいんです。
   そんな事より……お嬢様。お嬢様には明日から働きに出て貰います」

お嬢様「……労働?」

執事「ええ。この部屋は借り物なので。家賃を払って貰う必要があるのですよ。
   私は親切ですが、お嬢様程度の人間に無償で金を渡すほどには親切では
   ありませんので……まあ、私の分の生活費も、必氏に稼いできてください
   出来なければ、出て行ってもらいますので」

お嬢様「フン……生憎ね。お金が手に入る様になったら、
   こんな所出て行って一人で生きてあげるわ」

執事「それはそれは……まあ、頑張ってください。
   日本では、家を借りるのも仕事をするのにも保証人が必要で
   両親の亡くなったお嬢様の保証人になってくださるお方が
   いるとは思いませんがね。ははは」

お嬢様「……」

31: 2009/06/01(月) 00:09:40.21 ID:k71+dgll0
執事「さて、それでは早速仕事を選んで貰いましょう。
   お嬢様に相応しい仕事をいくつかリストアップしたので、
   その中から選んでください」

お嬢様「……」

リスト『・特殊清掃(氏体他の始末) ・試薬被験(未認可の薬剤の被験者)
    ・下水清掃 ・ゴミ漁り ・老人介護施設での労働
    ・児童擁護施設での労働 ・牛舎及び豚小屋の掃除 』

お嬢様「な、何よこれ!?」

執事「仕事ですよ。お嬢様に相応しい仕事でしょう?
   ちなみに、私のお勧めはゴミ漁りです。ホームレスの方々に混じって、
   空き缶を拾っているお嬢様の姿は、とても笑えそうですからね」

お嬢様「っ……こ、こんな仕事」

執事「やらない。というのならば、どうぞ野垂れ氏んでくださいませお嬢様」

お嬢様「うぅ……」

35: 2009/06/01(月) 00:18:15.32 ID:k71+dgll0
お嬢様「……この、児童擁護施設での労働という職を選ぶわ」

執事「字面で一番まともそうなのを選んだ、といった所ですか?
   まったく、実に浅はかなお嬢様ですね。
   ……まあ、実際はどれを選んでも大変なのに変わりはないので、
   せいぜい頑張ってくださいね。お嬢様?」

お嬢様「……」

執事「仕事は明日からです。
   今日だけは食事代は払わなくて結構ですので、
   そこにあるコンビニのお弁当を食べて、とっとと寝てくださいませ」

お嬢様「……分かったわ」

執事「物分りがいいのはいい事です。つまらないですがね。
   では、私はワインでも飲んできますので今日はこれで。
   おやすみなさいませ、お嬢様」

お嬢様「……」

37: 2009/06/01(月) 00:30:31.13 ID:pjgIkLv4O
・翌日

職員「やあ!執事君から話は聞いてるよ!
   ここで働いてくれる新しいスタッフの人だね?」

お嬢様「……ああ」

職員「いやー助かるよ。ウチの施設は、両親に虐待された子とか
   両親に捨てられた子、両親を亡くした小さい子のための施設でね。
   こういう仕事は大変だから、皆なかなか就きたがらないんだよ」

お嬢様「私だって、就きたい訳じゃない……」

職員「ん?何か言ったかい?」

お嬢様「……何も」

職員「……? それじゃあ、一通りの研修を受けたら
   早速働いて貰うよ!今日も一日がんばろー!!」

お嬢様「……」

42: 2009/06/01(月) 00:36:01.79 ID:pjgIkLv4O
>>39
施設系は基本的に辛いぞ。
虐待された子供とかは、特にすごい気を使わないとならないからな。

48: 2009/06/01(月) 00:50:21.03 ID:pjgIkLv4O
執事「おや、お嬢様。お帰りになっていたのですか。」

お嬢様「……」

執事「挨拶もなしですか。随分とお疲れになっている様子ですねぇ。
   『執事、マッサージをしろ』とは言わないのですか?」

お嬢様「……うるさい」

執事「ははは。まあ、どうせ子供達に懐かれず、
  掃除や雑務すらもうまく出来ず 酷く叱られたといった所でしょう?」
  
お嬢様「っ!?」

執事「図星ですか。なにせ雑巾など触った事すら
   なかった『 お 嬢 様 』ですからね。所詮はその程度という事です」

お嬢様「くっ……」

執事「……さて、お嬢様。今日のバイト代を全て出して頂きましょう。
  着服されたりしたら、困りますからねぇ……何を躊躇っている
   のですか?早く渡してください、『 お 嬢 様 』」

お嬢様「……勝手にしろ!」

執事「結構です。それでは、バイト代の中から600円だけ差し上げますね。
   それが、お嬢様の明日の昼食代です。店で弁当を買うなりなんなりして
   お好きに使ってください……まあ、五つ星のフレンチ等は食べられ
   ないでしょうけどね。ははははは」

62: 2009/06/01(月) 01:16:59.04 ID:pjgIkLv4O
――――20日後

お嬢様「……」

執事「何をしているんですかお嬢様。そろそろお仕事の時間ですよ?」

お嬢様「……腹が、痛いのだ」

執事「はい?」

お嬢様「その、な。体調不良で、腹が痛いから。 今日の仕事は、休めないだろうか……?」

執事「……腹痛、ですか」

お嬢様「あ、ああ」

執事「ふむ。それでは仕方がありませんね。今日は休みにしましょうか――――」

お嬢様「! そ、そうだな仕方がない。休み……」

執事「というとでも思いましたか?」

お嬢様「あ……」

63: 2009/06/01(月) 01:18:04.71 ID:pjgIkLv4O

執事「お嬢様は昔から、つらいことがあると腹痛だの何だの言って、逃げようとしてましたからねぇ。
   そんな嘘が、今更私に通じるとでも思ったのですか?」

お嬢様「う、ぐ……」

執事「……はぁ。まったく、いつまでお嬢様気分でいるのでしょうねぇ、この没落家庭の馬鹿お嬢様は。
ご自分が私に甘えられる立場じゃないという事も、お分かりにならないのですか?」

お嬢様「……う……うるさいっ!! もう嫌なんだ!辛いのだ!!
   何故この私が、子供に媚び諂い、見ず知らずの他人に叱られ、
   その上、そこまでしてやっているのに子供には懐かれず……
   もう嫌だ!いつまでこんな事が続くのだ!!
   ……お父様とお母様と一緒に暮らしていた頃に、帰りたい……!!」

執事「……お嬢様、辛いのですか?」

お嬢様「……辛い」

執事「お嬢様、苦しいのですか?」

お嬢様「……苦しい」

執事「お嬢様―――― 甘 え る な 」

お嬢様「!?」

71: 2009/06/01(月) 01:30:46.58 ID:pjgIkLv4O
執事「お嬢様は、お嬢様の仕事を辛い苦しいといいますが。
   その仕事は、職業として存在する全うな、ただの仕事なんですよ」

執事「そんな当たり前の事を辛いだの苦しいだの、寝ぼけた事を
   言わないでくださいませ、お 嬢 様 」

お嬢様「あ、う……」

執事「まったく、そんな風だからお嬢様のお父様の会社が破綻なさった時に
   何も出来ずに財産すべてを失ったのでしょうねぇ。
   自分の愚かさのせいで、今、私に愉悦の対象とされている事に
   いい加減気づいたらどうです?」

お嬢様「……」

執事「まあ、分かったなら早く仕事に行って給金を稼いで――――」

お嬢様「……っ!!」ダッ

執事「な!? お嬢様!どこに行かれるのですか!!」

190: 2009/06/02(火) 09:39:45.12 ID:uKs6I3V60


お「執事の家を出て、もう丸一日か……」

お「何も食べてないし、風呂にもはいれていない…」

お「この先、どうすればいいんだ……?」

執事「そうですねぇ、とりあえずその薄汚い格好を何とかしてお仕事に行って頂けると
   私としてはとてもありがたいんですが」

お「き、貴様! いつからそこに……!」

執事「いつから、と申されましても。世間知らずの箱入りお嬢様が行きそうな所なんて
    お屋敷の近くの公園しかないと思いまして。おっと失礼……元、お屋敷でしたね」

お「……」

191: 2009/06/02(火) 09:50:39.00 ID:uKs6I3V60
お「何しにきた?」

執事「おや、心外ですね、こうして迎えに来たというのに」

お「迎えに来ただと! ふざけるな、お前のせいでこんな事になったというのに……!」

執事「私のせい? どこがですか? ご両親が亡くなったのも? 親類縁者に
    財産を全て奪われたのも? こうして、寒空の下泣きそうになっているのも?」

執事「全て、私の責任だと? そう仰りたいのですか?」

お「そ、そうだ! 全部お前が、お前が……」

192: 2009/06/02(火) 10:03:19.93 ID:uKs6I3V60
執事「甘ったれるのもいい加減にしてほしいですねぇ、お嬢様」

執事「まぁ、いいですよ。私の責任でも。精々、恨み言でも吐いてのたれ氏になさい。
    ああ、そうだ。万が一、天国でご両親に会ったら伝えておいてください」

執事「あなた方の娘は生きる気も氏ぬ気もない、どうしようもない屑でした、と。
    そんな娘を育てたあなた方も、どうしようもない屑ですね、と」

お「…お父様とお母様を侮辱するのか! お前、今までの恩を忘れたか!」

執事「そんなもの、氏んでしまえば何の意味もない気がしますけどねぇ。
    さて、私はもう行きます。お嬢様も、逝くなら早めの方がいいのでは?」

お「……」

執事「では、お嬢様。可哀想なお嬢様。何も出来ないお嬢様。さようなら」

お「……待て」

193: 2009/06/02(火) 10:17:12.58 ID:uKs6I3V60
お「働けば……働けばお前の家に住まわせて貰えるのか?」

執事「はい。観察対象に住んでもらい、なおかつお給金まで頂けるのですから。
    私としましても、それが望ましいですね」

お「わかった。働く、働いてお前の家なんか出て行ってやる。
  だから今は……今はお前の家に住んでやる」

執事「……そうですか。では、参りましょう、お嬢様」

お「それと、二度とお父様とお母様を侮辱するな。
  お前がそれをもう一度口にしたら、私はお前を頃すぞ」

執事「ええ、無様に生き足掻いて頂けるのでしたら、この口が裂けようとも言いません。
   精々、汚らしく生きてください」

お「ふん。なんとでも言え」

執事「さあ、行きましょうお嬢様?」

お「行ってやるさ、お前如きに負ける私ではない」


今気づいたけど、お嬢様の口調間違えたorz
まあいいか

195: 2009/06/02(火) 10:33:52.00 ID:uKs6I3V60
執事「さて、今日はもう行っても意味がないですね。
   残念ですが、仕事はお休みです」

お「いや、もうあそこには行かない」

執事「ではどこへ? 学だけが取り柄の、世間知らずなお嬢様がどこで働くと?」

お「じ、自分で……探す」

執事「ほほう、ご自分で? ははっ、いいじゃないですか! 自分で、自分で探すと!」

お「笑うな、お前の世話になんかなっていられるか!」

執事「これは失礼。わかりました、どうぞご自分の力で探してください」

お「見ていろ、すぐに仕事なんか見つけてやる!」

196: 2009/06/02(火) 10:44:03.14 ID:uKs6I3V60
お「とは言ったものの、仕事か……」

お「今まで、仕事探しなんてした事ないし……」

お「どうしたものか」

青年「え? 何、電波悪いんだよここ」

お「ん、なんだアレは? ああ、あれが携帯か」

青年「仕事ぉ? ああ、やってるやってる」

青年「深夜のコンビニだかんなー、暇な時間は漫画読みまくりで時給高いし」

青年「あ? ああそう、俺ん家近くの、そうそこ。暇な時来いよ」

お「コンビニ……?」

青年「おお……ああ。じゃあ、またな」

197: 2009/06/02(火) 10:49:54.09 ID:uKs6I3V60
お「すまないが……」

青年「んあ? なんスか?」

お「その……コンビニというのは仕事は楽なのだろうか?」

青年「……はぁ、楽っちゃ楽ですけど。何なんスかあんた?」

お「いや、その、仕事を探しているんだが…」

青年「へぇ……」

お「で、できれば、あの、その仕事を紹介してくれないだろうか?」

青年「……」

お「不躾ですまないが、こちらも切羽詰っているんだ……頼む」

198: 2009/06/02(火) 10:58:13.67 ID:uKs6I3V60
青年「あー、別にいいっスよ」

お「ほ、本当か? ありがとう」

青年「まあ、立ち話も何スから俺の家行きましょうよ。すぐそこっスから」

お「ああ、ありがとう。恩に着るよ」

青年「まーまー。そんな固くならないでリラックスっスよ」

お「見たか執事。私は仕事を見つけたぞ。お前の家なんか、すぐに出て行ってやる」

青年「え、何か言いました?」

お「いや、何でもない。何から何まで、本当にありがとう」

青年「いやー、照れるっスね。美人に礼言われるなんて慣れてないっスから」

200: 2009/06/02(火) 11:09:06.03 ID:uKs6I3V60
青年「どぞ、狭いボロアパートですが」

お「お邪魔する。なかなか綺麗な家じゃないか」

青年「お世辞なんか言ってもペットボトルのお茶しかないっスよ」

お「そんな、お茶なんて……」

青年「まーまー。遠慮なんかしてたら生きていけないっスよ」

お「生きて……そうか、じゃあ有難く頂こう」

青年「そうっス。遠慮なんかいらないっス」

青年「適当に座っててください。えーと、履歴書持ってるっスか?」

お「履歴書……?」

204: 2009/06/02(火) 11:19:25.09 ID:uKs6I3V60
青年「そう、履歴書。あれ、今ないっスか?」

お「ああ、今は……ない」

青年「履歴書持たないで仕事探しなんて珍しいっスね。あ、俺余ってるのありますから
    それ使うといいっスよ」

お「そ、そうか。ありがとう」

青年「写真はー、まあ後でも大丈夫っすね」

青年「あ、俺オーナーに電話しておきますから、ソレ書いておいて下さいっス」

お「履歴書……か。こんなもの、書くとは思わなかったな」

お「名前……生年月日……女……住所は……」

お「ああ、そうか。もうこの住所じゃないのか……」

お「学歴……ちゅ、中退……中退……」

206: 2009/06/02(火) 11:27:06.26 ID:uKs6I3V60
お「資格は……生け花は書いてもいいんだろうか……」

お「動機……動機か……」

お「執事の家を出ていきたいから……」

お「時間はだいたい…このくらいだから・・・」

お「扶養家族……そんなもの、私にはいない」

お「希望……生きたい、氏にたくない……」

青年「あ、終わったっスかー」

209: 2009/06/02(火) 11:36:17.57 ID:uKs6I3V60
お「ああ、終わった」

青年「見てもいいっスかー。一応紹介する手前もあるんで」

お「構わないよ。本当にありがとう」

青年「そんなん気にする事ないっスよ。ああ、案外近くに住んでるんスねー」

青年「へぇ、あのお嬢様学校行ってたんスかー……え」

青年「え、じゅうな……ええー、そ……ええー……」

お「ど、どうしたんだ……?」

212: 2009/06/02(火) 11:45:57.54 ID:uKs6I3V60
青年「その顔でじゅうな…うそ、マジっスか……」

青年「まだガキ……ちょ……ええー」

お「な、なんだ……? 何かまずかったか……?」

青年「いや、何でもないっスよ……」

青年「捕まるのだけは勘弁っスよ……なんスか、顔面サギっスか……」

青年「そんな……チャンスだと……」

お「わ、私が何かしたのか……?」

青年「何っつーかナニっスよ畜生……」

お「だ、大丈夫か? 私にできる事があるならなんでもするぞ!」

青年「そんな事したら俺が捕まるっスよ……」

213: 2009/06/02(火) 11:55:41.92 ID:uKs6I3V60
青年「もういいっス。オーナーに連絡ついたんで明日の一時頃
    写真貼った履歴書コンビニに持ってきて欲しいっス……」

お「そ、そうか。あまり気を落とすなよ。本当にありがとう」

青年「いいっスいいっスよ。じゃあ、俺これから寝るんで、もう帰って貰っていいっスか?」

お「じゃ、邪魔したな。困った事があれば何でも言え。力になるぞ!」

青年「じゃあ、あと半年経ったらお願いするっスよ……」

お「任せておけ! 今日は本当にありがとう!」

青年「あーハイっス……」

216: 2009/06/02(火) 12:06:50.70 ID:uKs6I3V60
お「見ろ執事! 私は仕事を見つけて来たぞ!」

執事「ほう、何のお仕事ですか?」

お「コンビニだ! ちゃんと履歴書も書いてある!」

執事「………お金もないのによく履歴書なんて」

お「親切な人から頂いた。家でお茶も貰った。お前や親戚のような悪魔もいれば
  彼のような善人だっている!」

執事「彼……?」

お「そうだ! お前のような似非紳士とは違って、彼は本当に紳士だった!」

執事「でしょうかねぇ。彼はどこか様子が変ではありませんでしたか?」

217: 2009/06/02(火) 12:13:31.84 ID:uKs6I3V60
お「確かに私の履歴書を見てから様子が変だったが、それでも最後まで紳士だった!」

執事「クックック……それはそれは、大した紳士ですね」

執事「しかし、今時化石のような人だ。運がいいですねぇ、お嬢様は」

お「運がよければ、お父様もお母様も氏にはしなかったさ……」

執事「まあ、そうでしょうね。残り少ない運、大事に使っては?」

お「お前に言われずともそうする!」

お「そこで、だ執事」

執事「はい、なんでしょう。お嬢様」

お「お、お……」

219: 2009/06/02(火) 12:19:04.25 ID:uKs6I3V60
執事「はい」

お「お、お金……を貸してくれないか……?」

執事「はい?」

お「しゃ、写真が必要なんだ……履歴書に貼る」

執事「そうですねぇ。写真がいりますねぇ」

お「私は今…一円も持ってない」

執事「それはそうでしょう。お弁当のお釣りも私が貰っていましたから」

お「だから、写真を撮るのに必要なんだ……」

222: 2009/06/02(火) 12:26:15.01 ID:uKs6I3V60
執事「でしょうねぇ。で、お金を貸して欲しい、と?」

お「そうだ……必要なんだ」

執事「おや、なんだか喉が渇きましたねぇ。誰かがドアを開けたきり玄関で喋るから」

お「ぐ……すまなかった。ドアは閉めよう……」

執事「冷蔵庫に飲み物があるんですけどねぇ」

お「わかった。それも持ってこよう。私は何をすればいい。
  何をすれば、お金を貸してもらえるんだ」

執事「何をすれば、貸して貰えるんだ……?」

お「な、な、何をすればお金を貸して頂けるんでしょうか……?」

225: 2009/06/02(火) 12:33:17.62 ID:uKs6I3V60
執事「ああ、可愛らしいですねぇ。顔を真っ赤にして……」

執事「お嬢様が私如きにそんな顔をするなんて……」

執事「ふふふ…楽しいですねぇ」

お「ぐぐ………」

執事「今の可愛らしさは三百円ですねぇ」

お「何……?」

執事「あと二百円で写真が撮れますよ、お嬢様」

お「お前……私にこんな事をさせて楽しいのか……」

226: 2009/06/02(火) 12:40:57.38 ID:uKs6I3V60
執事「楽しい? ええ、それはもう。小さな頃から私を顎で使っていたお嬢様が
    こんな事をするなんて」

執事「プライドとか、ありますかお嬢様?」

お「………お前」

執事「ありますよね、それはもう山のように。
    でも、たった五百円の為に私に敬語だなんて……」

執事「楽しいですねぇ。あ、飲み物には氷を入れてくださいね」

お「…………わかっ……わかりました」

執事「そうですそうです。所詮あなたは箱入り娘のお嬢様なのですから」

231: 2009/06/02(火) 12:52:44.50 ID:uKs6I3V60
お「執事……さん、飲み物です」

執事「ああ、これはどうも」

お「他に……な、何かすることはありますか?」

執事「そう、ですねぇ。少し肩がこってまして
    誰かがマッサージして頂けるととても助かるんですが」

お「わかりました……失礼します」

執事「ん……んんぅ……」

執事「今の気分だと三十分百円です。がんばってください…」

お「………はい。がんばります」

236: 2009/06/02(火) 12:58:37.21 ID:uKs6I3V60
執事「いやー、お陰様で肩こりも取れて色々とスッキリしました。
   お嬢様、肩もみの才能でもあるのではないですか?」

お「ありがとう……ございます」

執事「ああ、その憔悴しきった顔もたまらないですねぇ
   あ、動かないでくださいね、写真撮りますから」

執事「おっと、忘れてました。約束の五百円です」

お「あ、ありがとうございます」

執事「いえいえ、いいものが見れました」

お「くっ……覚えていろ執事」

お「必ず……必ず……」

239: 2009/06/02(火) 13:05:34.63 ID:uKs6I3V60
お「写真代は貰った……写真代……」

お「私が、稼いで貰ったお金」

お「少し勿体無いけど……」

お「写真撮りに行かないと…」


執事「ん~、少し痛いですねぇ」

執事「ちょっと、甘かったですかねぇ」

執事「おっとPCに保存しておかないと」

242: 2009/06/02(火) 13:13:03.44 ID:uKs6I3V60
お「履歴書に写真も貼ったし、後はお店に行くだけだ」

お「見ていろ執事。私はちゃんと働いて、お前の家を出る」

青年「あ、いたいた。探したッスよ」

お「あ、昨日の……」

青年「迎えに来たっスよ。紹介っスから俺も一緒に行くっスよ」

お「あ、ありがとう……」

青年「何か元気ないっスね。緊張してるんスか?」

お「どうやら、そのようだ」

青年「大丈夫っスよ。うちのオーナーそんなに怖くないっスから」

243: 2009/06/02(火) 13:16:48.09 ID:uKs6I3V60
お「そうなのか。だと、いいんだが」

青年「まーまー。とりあえず行くっス」


青年「オーナー、連れてきたっスよ」

オ「おお、ごくろうさん。ちょっとレジにいてくれ」

青年「ウッス」

オ「じゃあ、嬢ちゃん。面接するからこっちついてきて」

お「は、はい」

オ「面接っても簡単な質問するだけだから、まあ緊張すんなよ」

246: 2009/06/02(火) 13:22:49.46 ID:uKs6I3V60
オ「じゃあここ座って。で、と。何日入れる?」

お「いつでも、大丈夫……です」

オ「ふぅん。って、夜勤は無理か。まあいいや」

オ「動機は……執事?」

お「はい……」

オ「執事、ねぇ。ふむ、氏にたくないのお前」

お「はい……お金が要ります」

オ「へぇ……って、なるほどね。ふぅん。
  あのお嬢さんか」

オ「まあいいや。採用」

お「え……?」

248: 2009/06/02(火) 13:27:01.18 ID:uKs6I3V60
お「執事! 執事!」

執事「はい、なんでしょうお嬢様」

お「採用だ! 採用して貰ったぞ!」

執事「ほう、物好きな人もいたものですね」

お「見ろ、私は自分の力で仕事を見つけてきた!
  お前の世話になんかならないで、自分の力でだ!」

執事「左様でございますか」

お「もう私は箱入り娘じゃない!」

執事「そう、ですかねぇ」

お「そうだ、すぐにお前の家から出て行ってやる!」

251: 2009/06/02(火) 13:34:13.96 ID:uKs6I3V60
執事「おや、お嬢様。仕事から帰ってきた途端、どうしましたその顔は?」

お「……なんでも、ない」

執事「なんでもない人がそんな顔はしないと思いますが」

お「聞いてくれるのか……」

執事「聞くだけなら、まあ無料にしておきます」

お「今日、色々と叱られた。色々と勉強になった」

執事「……」

お「初めて、他人に怒鳴られた。心臓が、痛いほどドキドキした」

254: 2009/06/02(火) 13:50:57.16 ID:uKs6I3V60
お「だけど、怖くはなかった……私が悪かったから、しょうがないことだ」

お「初めて、感謝の気持ちを持って頭を下げた。正直な話、楽しかった」

執事「……あなたの悪い癖ですね。本題から離れていく。
    何をそんなに疑問に思っておいでで?」

お「……割り込みが、あった……お婆さんの前に若い男が並んだんだ」

お「私はそれを注意して、怒鳴られた。お婆さんにも迷惑そうな顔をされた」

お「なぁ、執事。私は何か間違った事をしたか?」

お「一緒に働いていた人にも、そういうのは面倒だから駄目だと言われた」

お「何が面倒なのだろう? 割り込みを注意するのは悪い事なのか?」

255: 2009/06/02(火) 13:51:49.58 ID:uKs6I3V60
執事「いいえ、あなたは何も間違っていません」

お「そう……か。なら、なぜ私は怒鳴られたのだろう。
  どうして、あのお婆さんは迷惑そうな顔をしたのだろう。」

執事「それは正解もしていないからだと思いますが」

お「なぜだ……? 私は正しい事を言ったまでだ」

執事「正しい事が正解だとは限りません」

お「なんだと……? 私は今まで、ずっとそうやって生きてきた。
  家でも、学園でも、正しいと思ったことは言ってきた。
  誰も間違いだとは言わなかった」

執事「私は、お嬢様。あなたのそういう気高い生き方は好きです。
   間違ったことを正すのは、普通の人にはそうできない事です」

お「執事……」

執事「まあ、それも全てお金があれば、の話ですが
    今のあなたはただのうるさい小娘だ」

  

257: 2009/06/02(火) 14:00:35.83 ID:uKs6I3V60
お「……く」

執事「もし、あなたが昔のままであればその若い男は何も言わなかったでしょう。
   後ろにガードマンを引き連れ、高級な服に身を包んだあなたならね」

執事「考えませんでしたか? その若い男が怒り狂ってあなたを殴り、
    そのお婆さんも殴る事を」

執事「まあ、考えなかったでしょうね。考えられるはずがない。
    元、お嬢様のあなたには」

執事「そのお婆さんは若い男が怒って自分まで巻き込まれないか心配していたのですよ。
    だから迷惑そうな顔をした。
    だから、自分の心配をした事のないあなたには分からなかった」

執事「もちろん、あなたの心配なんかしていなかった。
   あったとしても、一割にも満たないでしょう」

お「私……は」

執事「だからあなたは、箱入りのお嬢様なのですよ」

259: 2009/06/02(火) 14:13:44.07 ID:uKs6I3V60
オ「お、どうした嬢ちゃん。妙に暗い顔してんなぁ」

お「あ、オーナー。お疲れ様です……」

オ「あいお疲れさん。で、どした?」

お「……」

オ「なんだよー、おっさんじゃダメかい」

お「いえ……そんなのでは、ないです」

オ「あー、アレか。この間の」

お「……」

オ「ありゃダメだなぁ」

261: 2009/06/02(火) 14:19:31.19 ID:uKs6I3V60
オ「いきなり『貴様順番を守れ!』はないぞ」

お「……間違った事は言ってないと……」

オ「間違ってるよ、アレは。こっちは店。あっちは客だ」

お「……」

オ「何も客のする事なすこと正しい訳じゃないがね。
  でも、客は客だ。神様じゃないが、お客様だ。
  忘れちゃ、ダメだぞ」

お「……」

オ「ほら、客来たぞ。笑って、いらっしゃいませー!」

お「い、いらっしゃいませー」

263: 2009/06/02(火) 14:26:21.26 ID:uKs6I3V60
オ「あー嬢ちゃん。裏に廃棄の弁当あるから、持って帰りな」

お「え、でもそれは……」

オ「内緒にすりゃバレないよ。それに、今大変なんだろ両親が氏んで」

お「……知ってたんですか」

オ「知ってたというか……まぁ、アレだけの豪邸だ。ニュースにもなるわな」

お「同情……ですか?」

オ「なんだよー、変にプライド高いんだなお前さん」

お「そんな事は……」

265: 2009/06/02(火) 14:36:52.49 ID:uKs6I3V60
オ「同情されてると思うなら、そう思っときな。
  別に捨てるだけの弁当だ、変わらないよ。
  あ、あれか、大丈夫だぞ腐ったりしてないから」

お「いや、そういう……」

オ「ガキが遠慮するなよ。こっちは大人、お前は子供」

お「でも……」

オ「わかったわかった。ったく、プライドってのは不便だよ」

お「……」

オ「ところで、もう一時間働けないか? 俺ちょっとやる事できてな」

お「あ、はい。大丈夫です」

266: 2009/06/02(火) 14:43:09.76 ID:uKs6I3V60
オ「そっか。無理言った御礼だ、君には時給プラス弁当をプレゼントしよう。
  断るなよ、オーナー命令だ」

お「……あ、ありがとう……ございます」

オ「あ、あれぇ! ちょ、ちょっと、なんで涙ぐんでるのかなぁ?
  おじさんそういうの困るんだけどな」

青年「オーナー……」

オ「な、なんだよ! 何もしてないぞ!」

青年「いや、泣いてるじゃないッスか」

オ「そうだがな、これには事情があってさ」

青年「またセクハラ発言ッスかー、いつか訴えられますよ」

オ「分かったよ、俺が悪かったよ!」

272: 2009/06/02(火) 14:52:34.88 ID:uKs6I3V60
執事「…………」

お「ん~んんん~~~」

執事「最近、楽しそうですね、お嬢様」

お「そうか! そうか!?」

執事「お仕事の方は順調で?」

お「いや、怒られてばかりだ! だが、楽しい」

執事「左様でございますか」

お「ああ、最近顔見知りになった人がいる。少ししか話せないが、
  とてもいい人だ」

執事「…………」

お「仕事のコツも掴めてきた。この分だと、お前の家から出て行く日も遠くなさそうだ」

執事「そう、ですか」

273: 2009/06/02(火) 15:00:44.00 ID:uKs6I3V60
青年「こっちチェック終わったっスよー」

お「すまない。こっちもあと少しで終わる」

青年「前々から気になってたんスけど、
    どうしてオーナーと俺との態度の違いがそう明らかに違うんスかね?」

お「え、そうか? 私は変わってないと思うが」

青年「いやー、どうっスかね。俺的には天と地ほどの差を感じるんスけど。
    まず口調が違いますし。一応これでも年上なんスけどね」


275: 2009/06/02(火) 15:13:10.61 ID:uKs6I3V60
青年「嫌、ってほどじゃないっスけど。まあ気になったんで」

お「そうか……お前は困っていた私を助けてくれたから、
  無意識に気を許してたのかもしれないな」

青年「助け……ああ、はい。そっスね」

お「働き出してよく分かったよ。世の中にはいい人もいるが、そうじゃない人も沢山いる」

青年「ちょっと……心臓が痛くなって来たっス…」

お「何の見返りもなく、私を助けてくれたお前は安心できる男だ。
  だから、つい緩んでしまったのかもな」

青年「見返……はい、そ…はい…」

お「気になるなら、直そう。私を無償で助けてくれた男のためだ、辛くない」

青年「いや、もう十分っス! そのままで結構っス! これ以上勘弁してくださいっス!
    今自分に押しつぶされそうっス!」

お「だ、大丈夫か。半年の約束だが、今ここで助けてやるぞ!」

青年「今ここで!?」

278: 2009/06/02(火) 15:20:53.81 ID:uKs6I3V60
お「最近、働くのが楽しくてしょうがないぞ。
  家事もそうだ、洗濯も、料理も、掃除も」

執事「はー、そうですか……」

お「どうした、執事? 元気がないな」

執事「いや、別に大丈夫ですよ? 最近デジカメの出番が減ってきたので、
    少し寂しくなってきましてね」

お「そうか、なら元気を出すために散歩でも行くか!
  最近、一緒に散歩なんてしてなかっただろう!」

執事「散歩ですか……まぁ、構いませんが。
   最近あまり動いていないですし」

280: 2009/06/02(火) 15:31:43.04 ID:uKs6I3V60
お「見ろ執事! あの時の公園だ!」

執事「ええ、そうですね。ちなみにここへ来るのは丁度400回目です」

お「そうか、そんなに来ているのか」

執事「というよりは、ここ以外あまり来たがらなかったのですが」

お「そうだったか? あまり、屋敷の外には出なかったからな」

執事「ええ、回転遊具がなくなった時に不貞腐れたのを宥めるのに大変でした」

執事「木から落ちた事もあります。噴水の中にも」

執事「あなたは箱入りのお嬢様でしたが、箱の中では暴れん坊でした」

283: 2009/06/02(火) 15:38:09.43 ID:uKs6I3V60
お「お、お前は……よくそんな細かい事まで覚えているな」

執事「お嬢様の恥ずかしい過去なら、全て言えると自負しています」

お「やはりお前は、嫌な奴だ」

執事「本望ですね」

お「そうか……」

執事「そうです」

お「…………」

執事「…………」

お「なぁ、執事。映画を、映画館で見たことがあるか?」

執事「はい? 一応、ございますが」

お「私は、一度もない」

執事「知っております」

284: 2009/06/02(火) 15:45:42.30 ID:uKs6I3V60
お「動物園もない」

執事「存じ上げております」

お「水族館もない」

執事「忘れてなどおりません」

お「だが、私は幸せだったように思う」

執事「…………」

お「なぁ、執事。映画を観にいかないか?」

執事「お金がかかるので嫌です」

お「そう言うな。私が奢ってやろう」

執事「お給金は私が全て頂いていますが?」

お「お弁当代を貯めてある。お前に内緒のヘソクリだ」

286: 2009/06/02(火) 15:53:21.48 ID:uKs6I3V60
執事「ヘソクリ……? 大した額ではないでしょうに」

お「この世の中、お前が思っているほど悪い人ばかりではないよ、執事。
  確かにお前が言う通り、悪い人の方が多いかもしれない」

執事「…………」

お「けれど、いい人もいる。そのお陰で、お前をこうして映画に誘える」

執事「何も、私でなくとも相手はいるでしょう」

お「私の知り合いは、思ったより少ないぞ、執事。
  それにどうせ、今は仕事中だろう」

執事「ですが……」

お「いいではないか。奢ると言っているのだし、観念して付き合え」

執事「……いいでしょう、それならお付き合い致します」

288: 2009/06/02(火) 16:00:31.68 ID:uKs6I3V60
お「なんだ、こう……音が凄かったな。
  バーンと来たぞ、バーンと!」

執事「ええ」

お「画面も凄い大きさだったな、お前と私合わせて何人分だろうな、あの大きさは!」

執事「どうでしょうねぇ」

お「それにそれに……あれだ、内容も良かった!」

執事「はい」

お「また来れるといいな。いや、来よう」

執事「いいえ、もう来ません。お弁当代は毎日没収します」

お「……やはり、お前は鬼のような奴だ」

執事「かも、しれません」

292: 2009/06/02(火) 16:04:53.64 ID:uKs6I3V60
執事「何を隠していらっしゃるんですか?」

お「何も、隠してなんかいない」

執事「嘘は通じないと前にも言ったかと」

お「……」

執事「何か具合の悪い事でも?」

お「………」

執事「お嬢様?」

お「……お……お……」

執事「はい」

298: 2009/06/02(火) 16:18:54.10 ID:uKs6I3V60
お「……おじい様に会った……」

執事「はい」

お「お、お母様のお父様だ……昨日、お店に来た…」

執事「はい」

お「が、外国にいたらしく、お父様とお母様の事は最近知ったそうだ……」

執事「はい」

お「そ、それで……わた、私にこっちへ来ないかと……そう、そう言った……」

執事「はい」

お「べ、ベタな……話だな、執事。これはお前の仕込みなのか……?」

執事「私は、何も知りません」

お「そ、そうか。じゃあ私は、お前の家を出れるのか……」

執事「そう、なりますね。いい稼ぎ手でしたので、とても残念です」

お「そうか、そうか。これでようやく、お前の呪縛から解き放たれるか」

300: 2009/06/02(火) 16:21:33.54 ID:uKs6I3V60
お「お前のような変態から」

執事「はい」

お「今までの恩を忘れたお前から」

執事「はい」

お「私を屑と言ったお前から」

執事「はい」

お「散々、箱入りお嬢様とバカにしたお前から」

執事「はい」

お「これで、お別れになるのか」

304: 2009/06/02(火) 16:26:07.72 ID:uKs6I3V60
お「ああ、清々したよ。お前から離れられる」

執事「はい。ようございました」

お「お前は、寂しくないのか……?」

執事「はい。また、どこかのお屋敷に行くまでです」

お「そうか……」

執事「最近は、あまり観察しても面白くありませんでしたから。
   いい引き際かと」

お「……」

執事「あの何も出来なかった箱入りお嬢様がここまで成長するとは。
   自殺でもして頂ければ少しは面白かったのですが」

お「……」

309: 2009/06/02(火) 16:35:13.36 ID:uKs6I3V60
執事「それに、私に何か復讐でもするのかと思えば映画に行こう?
    笑ってしまう寸前でした。
    どこまでお嬢様は能天気なのかと疑いましたよ」

お「……」

執事「恨みこそすれ、映画に誘う謂れなどないと思っていましたからね」

お「……」

執事「まあ、良かったじゃありませんか。
    おじい様ならあなたを無理やり働かせたりはしないでしょう」

お「……」

執事「あなたに洗濯や、料理や、掃除を強要したりもしないでしょう」

お「……」

執事「ねぇ、お嬢様?」

313: 2009/06/02(火) 16:46:05.75 ID:uKs6I3V60
執事「まったく、私の……私の……」

お「……」

執事「私の……完璧だと思っていた演技はどこで見破られてしまったんでしょう?
    ねぇ、お嬢様」

お「……今日の…朝」

お「し、執事は、いつだって……いつだって大切なものは自分にしか分からない
  誰にも分からない場所にしまってた……」

執事「……ああ、見付けられてしまったんですね……」

お「わ、わた、私は執事……執事と生まれた時から一緒に…」

お「一緒にいたんだ……」

執事「……」

お「お前の……大切な物の隠し場所なんて……」

お「す、すぐに…分かるんだぞ……」

322: 2009/06/02(火) 17:04:08.32 ID:uKs6I3V60
執事「左様で、ございますか」

お「……な、なんで私の通帳があった……
  なんでお前の通帳は空になっていた……」

執事「気まぐれです」

お「な、なんで、私のアルバムがあった……
  なんで……なんで……」

執事「気まぐれです」

お「お前は、なんで……こうまでして私を守ってくれるのだ……」

執事「気まぐれです」

お「嘘を付くな……こういう時くらい、お前の嘘は分かる……
  ずっと一緒にいた私を出し抜けると思ったのか」

執事「そうですね。強いて理由を挙げるなら……生まれてきた時から見ていた。
    まるで我が子のような女の子を見捨てる事が出来なかったから、ではないしょうか」

328: 2009/06/02(火) 17:06:54.07 ID:uKs6I3V60

執事「はい、お嬢様」

お「わた、私はおじい様を一人には出来ない……外国に行くしかない……」

執事「はい」

お「執事ぃ!」

執事「はい」

お「……財閥は破産したのだ。私といても利益などないぞ」

執事「はい。分かっております、お嬢様」

お「貴様の腕なら、雇い主は引く手数多だろう」

執事「はい」

お「それでも……お前の給金分なら私が働くからぁ……」

お「没落した大富豪の娘の末路……」

執事「……」

お「一緒に……み、見てくれないか?」

執事「はい、お嬢様」

329: 2009/06/02(火) 17:07:28.11 ID:vuldQabQ0
おしまい

330: 2009/06/02(火) 17:07:44.75 ID:zGUgO1k70
おつ

引用元: お嬢様「……財閥は破産したのだ。私といても利益などないぞ」