1: 2017/05/21(日) 12:23:45.660 ID:TtEvtybV0.net
男「お前ら女は、結局相手の本質なんてどうでもいいんだ!目に見える価値にしか興味がないんだ!」

もう我慢がならない。
口から唾を飛ぶのも構わず、女に対する精一杯の不満をぶちまけた。
女はしばらく黙っていたが、男の話がひとしきり終わるとおもむろに口を開いた。

女「でも私は、ブサメンが好きだけどね」

男「バカなっ!嘘を、嘘を言うな!」

この期に及んでこの女は、俺を欺かんとするのか。
人は見た目じゃない。その人の人間性を重視するべきだと考える男は、自分の考えの正しさを確信していた。
女の価値観は間違っている。その誤りをなんとしても正してやる。

男(許せん!なんとしてもこの女を改心させねば!)

それが女のためなのだ。
義憤に駆られた男は、いかにしてこの女の虚偽を暴き、糾弾してやろうかと思案した。

男(っ!?くっくく、こいつの嘘を暴く方法を思いついたぞ!)
SPY×FAMILY 5 (ジャンプコミックス)
2: 2017/05/21(日) 12:24:26.146 ID:TtEvtybV0.net
思わず口端がニヤリと歪む。
下卑た笑いが喉奥からこぼれそうになるのをやりこめ、
男は女の欺瞞を白日の下に曝け出すべく言葉を放った。

男「その言葉が本当に偽りでないなら、そうだな」

女「嘘じゃないよ」

男「クックック、そんなにブサイクが好きなら、貴様俺と付き合え」

4: 2017/05/21(日) 12:24:54.202 ID:TtEvtybV0.net
男は近所で並ぶ者の無いブサイクであった。
本人はもちろん自分のブサイクさを自覚していたし、学友や近所から漏れ聞こえてくる噂話からも
彼がブサイクに類する人間であることは、おそらく明らかであった。

男(ハハハッ!バカめ!これで貴様の嘘は暴かれた!)

男は自身の勝利を確信した。
自分はこの女に勝ったのだ。
この虚偽によって体裁を取り繕い、あたかも良い人間であるかのごとく振る舞わんとする
この卑劣な女狐めに!

女「うん、いいよ。付き合ってあげる」

5: 2017/05/21(日) 12:25:29.423 ID:TtEvtybV0.net
男「ハハッ!そうだろうそうだろう!それが貴様の限界…え?」

男の耳に全く予期せぬ言葉が返ってきた。
今先ほどまで勝利の美酒に酔いしれようとしていた男の脳が
強烈なカウンターパンチを受けたボクサーのごとく、揺らぐ。

7: 2017/05/21(日) 12:26:08.938 ID:TtEvtybV0.net
男「な、なにを言っているんだ貴様は!この期に及んでまだ俺を謀らんとするか!この性悪で愚劣な魔女めが!」

女「本当だよ。っていうか私、あなたのこと好きだったんだ。むしろ私から言いたいくらい」

上目遣いの女の瞳は微かに潤んで、頬は紅潮している。
その顔には明らかな異性への恋慕の情感がありありと浮かんでいる。
熱っぽい女の視線は男の心を網縄のように締め付けた。

8: 2017/05/21(日) 12:26:35.539 ID:TtEvtybV0.net
男(本気…かよ)

男の額から脂汗が出てくる。
心臓の鼓動が高鳴る。
必氏に震える手をきつく握った。

男「本気、なのか?」

女「はい。貴方のことが好きです」

9: 2017/05/21(日) 12:27:04.949 ID:TtEvtybV0.net
驚天動地!先ほどまで女を罵っていたことを忘れ、歓喜の渦に包まれる。
こんな、こんな素敵な女性が自分の彼女に。

男「よ、よかろう?そこまで言うなら付き合ってしんぜよう」

女「やった!嬉しい!」

夏の野に咲くひまわりのように、明るい女の笑顔がまぶしい。
これほどまでに自分のことを好いてくれる娘がいるなんて!
男の心は、筆舌に尽くしがたい高揚感と幸福感で満たされた。

11: 2017/05/21(日) 12:27:40.132 ID:TtEvtybV0.net
男(だが、待てよ…)

真っ白な部屋の中に射す、一筋の闇。

男(こんなにもブサイクな俺を、本当に好きなのだろうか)

12: 2017/05/21(日) 12:28:10.252 ID:TtEvtybV0.net
自他ともに認めるブサイク。男の自己評価の低さは、
彼女の言葉さえも素直に受け止められない猜疑心となって、心を揺り動かした。

男(確かめるしか、ない!)

これが自分を貶め、あざけるための方便でないならば、
彼女は俺と一緒にいることに喜びを感じてくれるはずだ。

男「それならば、今からデートに行こう」

13: 2017/05/21(日) 12:28:50.658 ID:TtEvtybV0.net
女「デート?」

一瞬の間が、鋭く男の心に突き立てられる。
しかしそれも杞憂であった。

女「いいよ!どこに行こうか?」

男「映画館だ。その後、レストランに行く」

この女の愛を確かめ、そして真に我が物にしなくてはいけない。
自宅に戻り装いを整え、強い決意を胸に待ち合わせ場所に向かった。

14: 2017/05/21(日) 12:31:02.400 ID:TtEvtybV0.net
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男(楽しかった…)

デートは大成功であった。

男(こんな楽しいことが、この世にあったなんて!)

映画のワンシーンに驚く彼女の声、つないだ手のぬくもり、コロコロ変わる愛嬌のある表情。
並んで撮ったプリクラは燦然と輝く宝石にさえ見えた。
料理には詳しくない味音痴の男であったが、強烈な彼女の笑顔のスパイスは
古今東西いかなる高級食材さえ太刀打ちできないほどに、レストランの料理を美味たらしめていた。

15: 2017/05/21(日) 12:34:29.043 ID:TtEvtybV0.net
男(もう疑う余地はない。この女は俺のことが好きなんだ!)

そして自分も彼女を愛しているのだ。

今思えば、当初あれほどに彼女を否定せんとしていたのも
ブサイクな自分には彼女から好かれる資格がないとの思い込みからだったのだろう。
満たされえない感情が、負の情念となり、彼女を「どうせイケメンにしか興味をもたない」と決めつけていたのだ。

17: 2017/05/21(日) 12:37:12.825 ID:TtEvtybV0.net
女「今日はありがとう!とっても楽しかった」

男「俺も楽しかったよ。こんなに幸せだったことは、今までなかった」

愛する人と一緒に同じ時を過ごし、同じ体験を重ねる。

男(や、やっぱりここまできたら)

19: 2017/05/21(日) 12:39:16.906 ID:TtEvtybV0.net
女「このあと、どうしよっか…」

残るは最上の幸せ。幸福の頂き。
男女である二人にとって、必然の行為。
男の胸が激しく高鳴った。

男(言うんだ!君と身も心も一つになりたいと、伝えるんだ!)

彼女の髪が夜風に吹かれてそよぐ。甘い魅惑的な香りが鼻腔をくすぐる。
公園のベンチに座る彼女の横顔を見つめているだけで、大海を奔る波のごとく、グングンと男の心を揺さぶった。
喉元に出かかった言葉が、最後のダムを打ち破り、
まさにいま思いの丈をぶちまけんとしたその時だった。

20: 2017/05/21(日) 12:41:17.429 ID:TtEvtybV0.net
超絶ブサイク男「ヘイヘーイ、そこの姉ちゃん。俺といいことしなーい?」

男(な、なんだこの男は!?)

最高にいいムードに割り込んできた醜悪な人間。
男の中ではち切れそうになった感情は、そのまま男への敵意となり、爆発した。

21: 2017/05/21(日) 12:43:04.898 ID:TtEvtybV0.net
男「なんだ貴様は!?」

超絶ブサイク男「あぁん?なんだテメー。俺はこの女の子に話かけてんだよ」

隣を見ると微かに震える女の姿があった。

男(怖いのか。当然だ。突然こんな見ず知らずの悪漢に言い寄られれば)

男は決意した。
なんとしても女を、愛する女性を守るのだと。

22: 2017/05/21(日) 12:45:23.001 ID:TtEvtybV0.net
超絶ブサイク男「ねえねえ~、俺としようよ~ww
正直君好みじゃないけど、女なんてできれば何でもいいしさ~ww」

男「ふざけるな!この下郎が!俺の女ちゃんに触れるな!」

女の前に出ようとしたその時、男を制したのは女の腕だった。

女「はい!一目ぼれしました!私としてください!」

滲み出る明らかな嬌声。
そこには歓喜に打ち震える女の姿があった。

23: 2017/05/21(日) 12:47:18.521 ID:TtEvtybV0.net
男「…え?」

なんだ?
なにが起こったのだ?

男の思考は停止した。
時間が止まったかのように身動きが取れない。
ワタシトシテクダサイ。

24: 2017/05/21(日) 12:49:29.345 ID:TtEvtybV0.net
超絶ブサイク男「オッケーwそんじゃ、まあラOホ、いっちゃいますかあww」

女「はい!」

超絶ブサイク男の下に嬉しそうに駆け寄り、肩を寄せ歩き出そうとする。
時の狭間から帰還した男は、意味も分からないまま、とにかく言葉を吐き出した。

26: 2017/05/21(日) 12:51:20.441 ID:TtEvtybV0.net
男「ちょ、ちょっと待ってくれ!なにを!?なにをやって?なにが?え?えっ!?なに、なに!?」

女「あ、もう男とは別れるから。好きな人ができたので。さよなら」

全く意味が分からなかった。
今自分の耳に届いているのが、言葉だとさえ認識できなかった。

男「だ、だって俺のこと好きって!付き合ってくれるって!」

28: 2017/05/21(日) 12:53:19.009 ID:TtEvtybV0.net
女「あー、それなんだけど。私、言ったよね?ブサメンが好きだって」

男「た、確かにそれは言ったけど」

女「私、たった今、理想の男性に巡り合えたの!!」

放心した男を尻目に、女と超絶ブサイク男は夜の闇へと消えていった。


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30: 2017/05/21(日) 12:55:08.965 ID:TtEvtybV0.net
いつ戻ったのだろうか。
どうやって戻ってきたのだろうか。
記憶があいまいなまま男は自室のベッドに横になっていた。

男「もう…昼、か」

太陽が中天に座すほどに時間は経過していた。
そのことに男は今の今まで気づかなかった。

32: 2017/05/21(日) 12:57:22.751 ID:TtEvtybV0.net
男「フラれたんだよな、俺」

枕元には涙の痕が渇いたこげ茶色のシミになっていた。
布団に張り付いたかのように重たい体を引きはがし、なんとか椅子に座る。
テーブルの上には、カバンからこぼれ落ちたプリクラがあった。
幸せそうな男と女の笑顔が映っている。

34: 2017/05/21(日) 12:59:04.604 ID:TtEvtybV0.net
男「うぅうっ…うっ、ううっ」

嗚咽が自然とこぼれる。
耐え難い悲しみが怒涛のように押し寄せてくる。
ひとしきり泣いた後、男の心に残った感情は
彼女や超絶ブサイク男に対する憎しみでも自分に対する惨めさでもなかった。

男「…そうだ。俺は、彼女のことが好きなんだ」

35: 2017/05/21(日) 13:01:22.820 ID:TtEvtybV0.net
男は涙を拭いた。
プリクラを手に取って、しっかりと目を凝らす。
あの幸せな時は、その時に抱いた自分の感情は、偽りではない!

男「俺は女のことを本当に好きになっていたんだ!
初めて出会った外見で俺を評価しない女性、俺と心を通わせてくれた女のことを!」

36: 2017/05/21(日) 13:03:11.089 ID:TtEvtybV0.net
今、男の心には熱い炎が燃え盛ろうとしていた。

男「女が俺より好きな人に出会ったとして、それがなんだって言うんだ!
俺が女のことを好きなことに、何も変わりなんかない!」

一切の迷いも後悔も男にはなかった。
男にできることはただ一つ。
もう一度自分の気持ちを伝えることだった。

男「勇気を出して、俺の本当の気持ちを伝えるんだ!」

男は強い決意を胸に、女の家に向かって駆け出した。

38: 2017/05/21(日) 13:05:31.333 ID:TtEvtybV0.net
男「はあっ!はぁっ!」

走る走る走る。

全力で脚を前に出す。
苦しさで胸がつまり、筋肉は悲鳴をあげる。

それでも男は地面を力強く蹴り続けた。
踏切を閉ざす遮断機が開くまでの間さえ、無限の時間のように長く感じられる。

男(早く!早く!)

言うのだ。貴女のことが好きだと。
誠心誠意をもって、自分の本当の想いを告白するのだ。

39: 2017/05/21(日) 13:07:45.260 ID:TtEvtybV0.net
額から汗が噴き出し、肺がギシギシと痛み、脚がけいれんを始めたころ
ようやく彼女の家の近くにたどり着いた。

男(あの、あの角を曲がれば彼女の家だ!)

愛しのあの女性の下へ。
まさに届かんとしたその時だった。

ドンッ。

40: 2017/05/21(日) 13:10:27.201 ID:TtEvtybV0.net
正体不明「きゃっ!」

男(ああっ!しまった!)

夢中になりすぎていたのだろう。
曲がり角の反対側から歩いてきた女性に、気が付かずにぶつかってしまったようだ。
倒れた女性を起こそうと手を差し伸べる。

男「すいません、大丈夫で…っ!?」

41: 2017/05/21(日) 13:13:02.872 ID:TtEvtybV0.net
そこにあったものをなんと表現すれば良いのか。
男には全く分からなかった。
それは男の想像を絶するものだった。

男「ああっ!なんという!なんということだ!!」

42: 2017/05/21(日) 13:15:39.844 ID:TtEvtybV0.net
男(ニキビだらけの顔、膨らんだ鼻筋、浮き出た頬骨、一重で相手を睨み付けるような小さい瞳、ガチャガチャに乱れた歯並び…なんという!なんという女!」

それは最早、人間として感知することさえ困難かに思える、正体不明としか形容しがたい顔面造形であった。
男の手を取り、起き上がった女が笑いかけてくる。

ブサイク女「グヒッ!」

女の口からこぼれた反吐のようなうめき声。
圧倒的!圧倒的戦慄が男を包み込む!

45: 2017/05/21(日) 13:20:39.607 ID:TtEvtybV0.net
男(これは、たまらんっ!)

ついに男の我慢は、限界を超えた。
あらん限りの声で叫んだ。

男「まさに貴方は、俺の理想の女性だ!付き合ってください!」

男の求めた真実の愛がそこにあった。



TheEnd

46: 2017/05/21(日) 13:24:13.620 ID:0h4VdDuC0.net
おもしろかった

引用元: 男「女はどうせイケメンが好きなんだろ!」女「ふーん」