1: 2011/04/28(木) 22:59:27.26 ID:Eo+bm34I0
まどか「……ほむらちゃん?」

4: 2011/04/28(木) 23:02:30.65 ID:Eo+bm34I0

 放課後、一人で帰路についていた時のこと。

 急に後ろから呼び止められ振り返ると、そこには真剣な面持ちで
 こちらを見つめているほむらちゃんがいた。

「あの……その、よ、よかったらでいいのだけれど……。
 まどかにね、一つお願いごとがあるの」

 すると、さきほどの真顔から一変して、
 言いづらそうに目を泳がせている。

 それもそのはず、ただでさえ、普段の生活の中で彼女が人にお願い事をするなんてのは、
 かなり珍しい部類に入る行動なのである。

 これはきっと、よほど大事なことを頼まれるのではないかと覚悟し、
 わたしは身構え、そして息を呑んだ。
魔法少女まどか☆マギカ ~The different story~ (上) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
5: 2011/04/28(木) 23:05:47.90 ID:Eo+bm34I0

「う、うん。わたしにできることなら……」

 少々、消極的な受け答えになってしまったかもしれない。

 しかし、これからほむらちゃんから発せられるであろう難題を、
 安請負するだけの自信は、わたしにはなかった。

(でも、わたしには無理なことだったとしても、力にはなれるよね……)

 そう、だからといって無下に断る気もさらさらない。

 自分の中で意を決すると同時に、ほむらちゃんの方も心の準備ができたみたいだった。

7: 2011/04/28(木) 23:08:48.36 ID:Eo+bm34I0

「その……私のことを……、一度だけで良いから、
 "ほむら"って呼んでみて欲しいの」

「へっ?」

 その言葉に、思わず、気の抜けた声を出てしまう。

 ほむらちゃんのお願いは、緊張して身構えてしまった自分が馬鹿らしくなるような、
 可愛らしいものだった。

8: 2011/04/28(木) 23:11:59.52 ID:Eo+bm34I0

「あ、えと、やっぱり……ダメよね……。まどかが誰かを呼び捨てにするの、
 聞いたことないし……」

 わたしがそのギャップに驚き、黙っていた様子が、
 ほむらちゃんには渋っているように見えたのかもしれない。

 そんな、目に見えて落ち込んでいくほむらちゃんに、慌てて声をかける。

「ち、違うの! ほむらちゃん。……ごめんね、ほむらちゃんがわたしに
 お願いするなんて珍しいことだったから、ちょっと驚いちゃって……。
 だから、そのお願い自体は、全然なにも問題ないよ。
 これからずっとっていうのは、ちょっと無理そうだけど……」

10: 2011/04/28(木) 23:15:18.81 ID:Eo+bm34I0

(かなり端折っちゃったけど、嘘はついていないよね……?)

 そう自分に言い聞かせ、ほむらちゃんを元気付けるよう、そっと微笑んであげる。

「う、うん……今だけでいいの。ありがとう、まどか……」

 わたしに感謝を述べるほむらちゃんは、本当に嬉しそうで……。

 ほむらちゃんの意図はわからないけど、こんなことで喜んでもらえるなら、
 わたしも嬉しい。

「じゃあ……いくよ?」

「……え、ええ」

13: 2011/04/28(木) 23:20:14.69 ID:Eo+bm34I0

 しかし、いざ言おうとしても、それがなかなか難しい。

 ほむらちゃんの言うとおり、わたしは普段、
 人を呼び捨てにする事なんて滅多にない。

 ちらりとほむらちゃんの顔を覗く。

 そこには、緊張した面持ちの中、期待に満ちたような瞳で
 こちらを見ているほむらちゃんがいた。

(うぅ……)

 こんな表情をされてしまっては、言わないという選択肢を
 選ぶことなんて絶対にできない。

 わたしは観念し、できるだけ丁寧に、言葉を発した。

14: 2011/04/28(木) 23:23:23.20 ID:Eo+bm34I0

「……ほ、ほ……むらっ」

 だが、そんなわたしの第一声は、裏返り、なんとも情けないものとなった。

(緊張してるの、ばればれだよね……)

 いくらなんでもこれでは、と思い、おほんと咳払いして仕切り直す。

 そして、すぅ、と深呼吸をし、しっかりとほむらちゃんを見つめなおして、
 もう一度その名を呼んだ。


「……ほむら」


15: 2011/04/28(木) 23:26:32.82 ID:Eo+bm34I0

 今度はちゃんと言えただろうか。

 心配になって、おそるおそる、ほむらちゃんの様子をうかがう。

 すると、今度のほむらちゃんは、頬を少し赤く染め、じっとわたしを見つめていた。

(やっぱり……変だったかな……)

 呼び捨てた事にちょっとした後悔を感じていると、その視線に気づいたのか、
 ほむらちゃんが両の手を胸元に当て、そっと瞳を閉じる。

 そして、今までに見たことないような、とびきりの笑顔をわたしに向け、こう答えた。


「はいっ……まどか」


17: 2011/04/28(木) 23:29:53.66 ID:Eo+bm34I0

 その一点の曇りもない笑顔に思わず、どきっとしてしまう。

 世間的に見て、ほむらちゃんはたぶん、
 いや、かなりの美少女と言われる類の子であることは間違いない。

 そんな子の満面の笑みが、自分に向けられるのが嬉しくもあり、
 同時にそれは、胸が高鳴るものだった。

「……まどか?」

 そんな惚けていたわたしを心配してか、ほむらちゃんが怪訝な顔つきでのぞきこんでくる。


20: 2011/04/28(木) 23:33:34.94 ID:Eo+bm34I0

「えっ、あ、あはは……やっぱり、ちょっと恥ずかしかったかな」

「ごめんなさい……まどか、無理をさせてしまって……」

「うぅん、そんなことないよ。それに、ほむらちゃんに喜んでもらえたなら、わたしも嬉しいし」

「まどか……」

「だから、こんなことで良かったら、遠慮せずにいつでも言ってね」

「うん……ありがとう、まどか」

 そしてまた、ほむらちゃんがわたしに向けて微笑んでくれた。


21: 2011/04/28(木) 23:36:54.54 ID:Eo+bm34I0

(そうだ……そうなんだ)

 初めて出会った頃は、感情をあまり出さなくて……、
 けれど、とても綺麗な瞳をしている少女だった。

 だからこそ、わたしは、その少女の満面の笑顔がずっと見たかったんだと思う。

「ほむらちゃん。やっぱり、ほむらちゃんは、笑顔が一番、似合うと思うな」

「……えっ」

「だから……ね、これからはずっと、笑っていてほしいの」

23: 2011/04/28(木) 23:40:15.32 ID:Eo+bm34I0

「まどか……。ええ……私、笑うわ。それに……まどかが隣にいてくれたら、
 私ずっと笑っていられると思うの」

「ほむらちゃん……」

 その笑顔と言葉に思わず、わたしはほむらちゃんの手を握ってしまう。

 掌を通じて伝わってくるのは、ほむらちゃんのあたたかなぬくもり。

「ま、まどか……その……手……」

「繋いで帰ろう、ほむらちゃん。……ダメかな?」


26: 2011/04/28(木) 23:43:36.62 ID:Eo+bm34I0

「う、ううん! だ、ダメじゃ……ないわ」

 そして、二人で手を繋いで歩き出す。

 ほむらちゃんは少し頬を赤く染めていて、わたしもちょっぴり恥ずかしくて。

 でも、嫌じゃなくて、とても幸せで、心があたたかくなる、そんなひととき。

 ずっとずっと、共に歩んでいきたいと思った。


27: 2011/04/28(木) 23:45:39.95 ID:Eo+bm34I0

「……まどか」

「なぁに? ほむらちゃん」

「よ、……呼んでみただけ」


「えへへ、……"ほむら"」

おわり

30: 2011/04/28(木) 23:48:43.69 ID:G38LSYcrO
感動した乙

31: 2011/04/28(木) 23:49:06.07 ID:0mgRH+2i0
いいはなしだったぁぁあ!!!

35: 2011/04/28(木) 23:54:24.26 ID:Eo+bm34I0
>>28-31
ありがたい!

変態なほむほむも好きだけど純ほむも大好きです

引用元: ほむら「まどか……ちょっといいかしら」