2: 2011/05/06(金) 20:22:06.34 ID:z9MK5UWB0

さやか「アイツ…」

苦節100周超にして、私はようやく3人の魔法少女を生き残らせることに成功したが、
しかし、彼女らをワルプル戦に加えるつもりはなかった。

杏子「……まじかよ」

辛苦の果てに生存させた彼女達をここで失うわけにはいかない。
前夜、私は今まで重ねてきた事実を、その理由を、全て彼女達に、そしてまどかに打ち明かした。

マミ「暁美さん……」

対ワルプル戦の圧倒的なノウハウがある、と彼女たちを説得した私は独り、最悪の魔女と対峙した。

まどか「ほむらちゃ…!」

そして―――。



QB「まさかあのワルプルギスの夜を、一人で倒すとはね」
魔法少女まどか☆マギカ 暁美ほむら (1/8スケール PVC塗装済み完成品)
3: 2011/05/06(金) 20:24:34.86 ID:z9MK5UWB0

ワルプル「ンホォォォォォォォォォォォォォォォォ」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

轟音を鳴り響かせ崩れ落ちる魔女。
その姿は段々と薄れていき、煌々とした光点が形成されていく。
嘘のような静穏に辺りが満たされると、集束したグリーフシードは足下にコツンと落ちて転がった。

ほむら(やった……!遂に…やった……)

ほむら(巴マミを無頭身にすることなく…美樹さやかを魔女にすることもなく、まどかを魔法少女にすることもなく……!)

ほむら(ワルプルを斃した……!)

4: 2011/05/06(金) 20:26:45.78 ID:z9MK5UWB0
私達は、雷雲晴れゆく空の下で女5人、キャッキャウフフと喜びを分かち合っている。
心底どうでもよかった。

早くまどかと悦びを分かち合いたい。
クンカクンカしたいまどか。クンクンまどか。
嗚呼まどか。

私にはどうでもいい時間なので、テキトーに話を合わせながらこれまでを回想する。

佐倉杏子――。
巴マミの生存によって疎遠になるかと思われた佐倉杏子は、わざわざ隣のテリトリーから新米魔法少女☆美樹さやかを冷やかしに来るようになっていた。
グリーフシードのストックがある余裕からか、それとも彼女の持つ因果かは分からない。
あわよくば新米を舎弟にしようと目論んでいたようで、
しばしば巴マミと衝突し美樹さやかとは犬猿の仲といった様相であったけれど、
"誰かのために願った"魔法少女同士は、通ずる点も感じ取っていたように見える。

涙目で手を握るまどかかわいい。
まどきゃわい過ぎ。
早く抱き寄せたい。愛しいまどか。
早く終われこの時間。

美樹さやか――。
上条恭介のために願いを叶えた美樹さやかは、魔法少女の身体の真実を知り自らの恋路を諦めた。
志筑仁美が上条恭介に惚れては美樹さやかの生存が危ぶまれるために私は奮闘したが、それはまた別の話。

巴マミ――。
頭があるって素晴らしい。
私が半分スプラッタになりつつシャルロッテのあむーの身代わりとなる。
命を助けた代わりにまどかを魔法少女にしたら許さないと釘を打つ。
魔法少女コンビは美樹さやかと結成できたので結果オーライ。もう何も怖くない。

6: 2011/05/06(金) 20:29:04.85 ID:z9MK5UWB0
回想―――シャルロッテ戦翌日。

まどか『昨日は本当にびっくりしました。あの、私、早く魔法少女になってマミさんの力になりたいです』

マミ『それには及ばないわ』

まどか『えっ』

マミ『昨日なんだか身体が軽い気がしたけれど、そんなことはなかった』

まどか『あ、あれは誰だって』

マミ『きっと貴方には"魔法少女としての覚悟《風に投じられた警戒》"と、
私との"友情パワー《カメァラードリィ》"が足りないの』

まどか『えっ』

マミ『だから貴方はまず風とは何かを知りカメァr』

まどか『あ、あの!……私、マミさんに、嫌われちゃいましたか……?』

マミ『そんなことはないわ。貴方は私の最初のお友達。大切な大切なお友達。
だから、よーく考えて、魔法少女になってほしいの。私のためじゃなくて。貴方自身のために。だからカメァr』

QB『僕は友達じゃなかったのかい?』
 
マミ『人間としてのお友達よ。同じ女の子として、大切なお友達。だからカメァラ―――――』

7: 2011/05/06(金) 20:31:05.61 ID:z9MK5UWB0

マミ「じゃあそろそろ、うん、一度お別れにしましょうか」グスッ

杏子「そうだな、避難区域に女5人じゃ怪しまれるしなぁ」

さやか「ええー。皆でぱぁーっとやりましょーよお?せっかくなんだし」

杏子「人の話聞いてんのか」

さやか「うっさい。アンタは来なくていいわよ、ご近所さんには関係ないでしょーしぃ?」

杏子「あぁ?」

マミ「まあまあ……暁美さんも疲れてるでしょうし、またいつでも会えるんだから」

まどか「うん……これからは、大丈夫、なんだよね?」

QB「いずれ魔女は現れるだろうけどね。最悪の魔女は倒されたんだ。少しは平穏な日々が続くだろう」

まどか「そっか……」

9: 2011/05/06(金) 20:33:22.39 ID:z9MK5UWB0

ほむら「ま、まどか……いっしょに、帰ろ…?(早く早く早く早く……)」

まどか「うん、本当にお疲れ様ほむらちゃん。かえろっか」

さやか「んじゃ私m」ングゥッ

杏子(おまっ空気嫁っ)ネンワ

さやか(何すんのよ!)ネンワ

マミ「?」

杏子「(アイツの表情見てみろ…)ぱ、ぱぁーっとやりたいんならアタシが付き合ってやんよ」

ほむら「」ホムゥッ ←めっちゃ睨んでる

さやか「(……りょーかい)そ、それもあり、かなぁ」

まどか「あれ、そーなの?」

杏子「いやいやいやいやいやアタシ達も帰るだけっ帰るだけだから気にすんなっまじで」ダラダラダラダラ

ほむら「そうよね二人とも、だから帰りましょう一緒にまどか」パッ

まどか「んぅ?うんっかえろ」

10: 2011/05/06(金) 20:35:43.90 ID:z9MK5UWB0

まどかと二人、避難所に向かって歩き出す。

まどか「……」

ほむら「……」

私達は沈黙していた。

肩が時折触れる。
それだけで胸が焼けるように熱くなる。
もっと触れたくて、私は距離を縮め、自然を装い、肩を擦り付ける。
涙がこぼれそうになる。

決戦前夜、私は全てを話した。
幾数年にも渡る私の苦心を、この子は負い目に感じるだろうか。

まどかが好き。
まどかが愛しい。

周回を重ねるごとに、無垢な貴方を見るたびに、私の情愛は昂り止まらなかった。
私の全てはまどかに染められていた。

持ち切れない感情をこの子に伝えたい。
愛しい。
怯えられてもかまわない。

震えが止まるまでまどかを私で染めたい。

13: 2011/05/06(金) 20:38:12.14 ID:z9MK5UWB0

ほむら「ねえ……」

やっと。
満願成就のこの時。

まどか「……うん?」

手を取って繋ぐ。

まどか「わわっ」

温もりが心地よくて堪らない。
指がとろけそう。

ほむら「私の部屋、行こ…」



―――この気持ちは、とまりそうにない。



まどかは、黙したまま伏し目で頷いた。

17: 2011/05/06(金) 20:40:16.48 ID:z9MK5UWB0

私の部屋。
まどかを先に入れる。
中は間接照明に照らされて薄暗い。主照明は点けていない。
扉を閉め、私は後ろから彼女を抱き締めた。

まどか「ぁ……」

その肩に、腰に掌を当て、ぎゅっと抱き寄せる。

細い身体、白く艶のある肌。まどかの愛しい身体。

撫子色の髪を、まどかの匂いを深く嗅ぎ込む。何度も。

ほむら「…~~っ!~~っ!~~~……っ!」

吸い入れる度に嗅神経が痺れる、咽喉から腹腔が熱く沸き立つ。

ほむら「~~~~~っ!~~~~っ!~~~っ!」

ずっと、この時を。好き。
好き。まどか。愛おしい。
もっと。ずっと。

キスをしたい。
撫でたい。
舐めたい。
肌を擦りたい。

まどか。愛しいまどか。

43: 2011/05/06(金) 21:17:27.98 ID:z9MK5UWB0

絶え間ない交歓は深夜まで続いた。

電池切れが、私達の時間を終わらせた。



どうしようもなく、私はまどかに溺れていたので、ちょうどよかった。

そのまま私達は、どちらとなく、眠りに落ちた。

46: 2011/05/06(金) 21:21:43.19 ID:z9MK5UWB0
翌朝。

まどか「おはよ」

目を覚ますと、まどかがそこにいる。
私より先に目覚めたらしい、制服を着ている。

ほむら「……お、おはよう」

全裸の私は恥ずかしくて、服を探す。サイドテーブルに綺麗に畳まれていた。

まどか「うん、おはよ」

ほむら「あ、ありがとぅ」

服を手元に寄せてまどかに言う。

まどか「んぅ?ああ、勝手に触っちゃって、よかったのかな」

ほむら「よ、よかった」

語調がおかしくなる。
なんて返せばいいのか分からない。

47: 2011/05/06(金) 21:23:47.35 ID:z9MK5UWB0

まどか「こ、これも、剥がして、洗っちゃったんだけど、大丈夫、だった……?」

手元から下げられているのは、昨日の玩具だった。

ほむら「大、丈夫」

まどか「そ、そっか。じゃ、ここ、置いておくね」

ほむら「ええ。……その。ごめん、なさい」

まどか「……んーん。すごく、嬉しかった。今まで、本当に、お疲れさま、ほむらちゃん」

ほむら「」

その労いの言葉だけで、嬉しくて頭が真っ白になる。

まどか「ん…」



私はまどかに抱きすがっていた。

まどかが言葉なく私の頭を撫でる。

堪えられず私は泣きだしていた。


まどか「本当に、本当に、ありがとう。お疲れさま」ナデナデ

48: 2011/05/06(金) 21:25:49.89 ID:z9MK5UWB0
一方―――帰り路その②
さやか「だいたいひと月をワンサイクルにして、年単位でぐーるぐる……。そりゃあ、まどかラブっ!てなるのも分からなくはないけど…」

杏子「まー、馬鹿な女だよなぁ」

さやか「何それ?あんたフォローしてたじゃん」

杏子「そりゃあ…アレだよ。よく考えてみろ、アソコで邪魔なんかしたらあいつソッコー魔女になっちまうだろ?」

さやか「ああ、なるほど」

杏子「やっぱりまだまだヒヨッコだねぇアンタ」

さやか「むぅ……。……ふむ。あんたも、一応は、優しいとこあるんだね」

杏子「な、……はぁ!?」

さやか「だってちゃーんとアイツの気持ちのために」

杏子「ち、違ぇ!そーじゃねえだろ!あくまで魔法少女ってヤツのリスクを」

さやか「普段は、育ててグリーフシードにしちゃえー、なんて言ってるのに」

杏子「ちがっ、ちょっと黙れ!アイツが魔女になったらどんだけアタシらが苦労して」

さやか「はいはいそーですねー☆さすがはセンパイですー☆」

杏子「おま、ちょ、オイ、話を聞けっ!」

さやか「なはははははー」

50: 2011/05/06(金) 21:27:50.60 ID:z9MK5UWB0

―――――帰り路その③

マミ「もしかして、まだ鹿目さんのこと、狙ってる?」

QB「もちろん。彼女が魔法少女になれば、僕らの望むエネルギーは一瞬で満たされる。逆に宇宙の寿命を縮めてしまいそうなほどだ」

マミ「そう。じゃあ、なおさらあの子は魔法少女にさせられないわね」

QB「君も鹿目まどかの力を求めていたんじゃなかったのかい?」

マミ「そんなに強いとは思わなかったもの。QBの仕事が終わっちゃったら、私達もおしまいでしょ。あの日、亡くした命だけど、もう少し、生きていたいわ」

QB「なるほどね。未練があるわけだ」

マミ「未練、なのかしら。何かって言われると困るけど、じゃあ今すぐおしまいでいいの?って言われるとそうでもない……」

QB「鹿目まどかがどうなろうと、僕らの仕事がどうなろうと、君たち魔法少女は遅かれ早かれ魔女になる。それは、変わらないことだよ」

マミ「……ええ。……わかっているわ」

51: 2011/05/06(金) 21:29:54.09 ID:z9MK5UWB0
見滝原市のとある喫茶店。

まどか「ごめんね、待たせた?」

あれから10年が経った。まどかはもう24で、背が少し伸びた。

ほむら「いいえ。今きたところよ。仕事は大丈夫?」

まどか「うん、ホントは今日休みなんだけどね。色々電話入っちゃって」

まどかは見滝原市民会館の事務職員になっていた。
正義感に燃え大学では政策学を専攻したものの、就職活動では普通の職にさえ採用されなかった。
人づてにやっとありついた仕事だという。

ほむら「構わないわ」

私達はあれからも逢瀬を重ねたが、まどかが進学し、そして就職してからは、段々と疎遠になっていた。
今日も、半年振りの再会だった。

ウェイターがやってくる。

まどか「ええと、私はBのケーキセットで。はい、そうですガトーショコラの。あ、アイスコーヒーで。はい、両方お願いします。それで、この子は……」

ほむら「同じものを。エスプレッソ、ダブルで。ええ。以上で」

私達魔法少女の姿は、変わっていない。
そのため、美樹さやかは、中学卒業後、佐倉杏子と共に見滝原市を離れた。
QBの尽力もあったのだろうか、その翌年、失踪扱いとなり、葬儀が行われ、人間としての美樹さやかの存在は終了した。
今は片田舎で二人、ほとんど魔法を使うこともなく食べる分だけの食糧を作りながら静かに暮らしている。
時おり近場の魔女退治に加勢することもあるが、基本的には後輩魔法少女に仕事を譲り隠居しているような形だ。

52: 2011/05/06(金) 21:32:02.87 ID:z9MK5UWB0
まどか「ほむらちゃん、ちっちゃくてかわいい~」

ほむら「はあ、毎度毎度。貴方はもっと小さかったのよ、まったく」

まどか「あはは。……見滝原市は、どう?ほむらちゃんも大変?」

ほむら「最近は"後輩の魔女"が多いわ。どの子も皆、短命」

まどか「そうなんだ?えと、新人さんにはマミさんが付いているんだよね?」

ほむら「そうよ」

巴マミは、QBのアシスタントのようなものになっていた。
各地に追従し、新人魔法少女のマネジメントを行う。
QBは酷く説明不足なので、少女達の反感を買うこともしばしばある。
互いの利益に叶っているのだろう。

ほむら「それがかえって少女達を安心させるし、油断させている。契約者は増えるばかりだし、些細なことで魔女になる子も多い」

まどか「うーん…。私が、魔法少女になっていたら……」

ほむら「」ホムゥ

まどか「ごめ、今のなし。ごめん」

ほむら「ううん、いいの。ごめんなさい」

まどか「ごめん」

ほむら「……。キスするわよ」

55: 2011/05/06(金) 21:34:32.15 ID:z9MK5UWB0

まどか「え」

ほむら「千日手の話はおしまいってこと。キリがないわ」

まどか「ああ、うん。わかった」

ほむら「うん。ありがと」

まどか「えっと、その。マミさんも、大変なのかな」

ほむら「手に負えてない感じは、あるわね。
慕ってくれる後輩がいることで、どうも彼女は満足しているように見える。
だから、"友達"が魔女になればなるほど彼女は新たな"友達"を求めるし、QBも自ら催促ができない分、そんな彼女を利用している。
とはいえたしかに、巴マミが監督することで、魔女や使い魔との戦闘での大きな被害というのは減ってきているんだけど」

まどか「そっか……。後輩さん、ほむらちゃんにも、いるの?」

ほむら「まどかの居る街を誰かに任せる気になんてならないわ。これまでも、これからも、私が、守る」

私はこの10年、見滝原市をテリトリーに闘ってきた。
私がかつての"輪廻"で廻した時間と、同じくらいの時間が経った。

まどか「嬉しいけど、無理はしないでね。いつも、ありがと」

56: 2011/05/06(金) 21:36:33.74 ID:z9MK5UWB0

変化のない日常にかつて打ちのめされた私。

今の日常も変わらない。

生命維持、魔女退治、ソウルジェム保守。

あれからも、これまでも、これからも、変化はない。

ただ、まどかと会うことを生き甲斐にして。



でも、まどかは、自分の人生を生きていて。

会うたびに離れていく心地がして。

ただひとつ変わっていく現実に、今も蹂躙されていた。



ほむら「部屋に行っても、いい、かしら」

まどか「……うん」


―――半年振りに抱いたまどかは、未だに処Oだった。

私達の交歓は、この十年、先端だけで済まされていた。

57: 2011/05/06(金) 21:38:56.16 ID:z9MK5UWB0
―――――

まどか「こんばんわ」

杏子「……。……へ?」

まどか「あれ。杏子ちゃん、だよね?」

杏子「鹿目まどか、なのか……?」

まどか「そーだよ」

杏子「……老けたな」

まどか「あー、ひどい。まあ…もう34、だからね」

杏子「そんなに経ったか」

まどか「経ったんだね。ちゃんと会えて良かった」

59: 2011/05/06(金) 21:40:59.82 ID:z9MK5UWB0

杏子「QBがひさびさに出やがったと思ったら、アンタが呼んでるって言うから驚いたよ。
それも、アタシとサシで会いたいって。いったいどんな風の吹きまわしだい?」

まどか「ちょっと……ご相談がありまして」

杏子「あの黒いのに言えばいいだろうに。まだ生きてるんだろ、アイツ」

まどか「もちろん生きてるよほむらちゃん」

杏子「言えない話か」

まどか「まあ、そんなとこ。とりあえず、全部話すから。……そうだ、何か食べにいく?」

杏子「もう、十分すぎるほどに喰ってきたよ。いいから話してみな」

まどか「うん、ありがと」

63: 2011/05/06(金) 21:44:53.33 ID:z9MK5UWB0

杏子「なるほどな。プロポーズされた、か」

まどか「うん」

杏子「よりにもよってあの坊やから」

まどか「……うん」

杏子「ふふ、そりゃ、アタシに来るわな。アンタにご執心の黒いのでもなく、坊やにご執心だったさやかでもなくさ」

まどか「色々良くしてもらってたの。仕事が見つかったのも上条君のお陰だし……」

杏子「下心じゃねーのか」

まどか「食事は何度もしたけど、まだ何もされてないよ。それに私、もうおばちゃんだよ?したいだけ、ならプロポーズなんてしないと思うし……」

杏子「関係ねーって。アンタ、おぼこ(処O)だろ?」

まどか「え。……どうしてわかるの」

杏子「見てりゃわかる。事情からも想像がつく」

まどか「えー…」

杏子「その歳で顔もイイ、胸もあって身体は崩れてない、挙句に処Oときたら十分役満さ」

まどか「え?え?え?…や、やく?薬?」

64: 2011/05/06(金) 21:46:55.13 ID:z9MK5UWB0

杏子「気にすんな。プロポーズには足るってこった。
逆にそんだけガード堅けりゃ、とりあえずテキトーにプロポーズしてでもやりたい男はいるだろってこと。
一回ヤッてみりゃいいじゃねーか。いつまでも黒いのに義理立てしてられねーだろ」

まどか「うぅ……。でも、ほむらちゃんにも、さやかちゃんにも悪いし……」

杏子「悩むってことは、坊やのこと悪くは思ってねーんだろ?」

まどか「それは……そう、だけど。……さやかちゃんは、どう思う、かな?許してくれる、かな?」

杏子「バレなきゃ結果オーライ、ってとこか」

まどか「そーじゃなくて」

杏子「そーなんだよ。アンタには20年前、かもしれないけどさ。アタシ達は、ずっとその20年前を生きてんだよ、ある意味じゃ」

まどか「…………」

杏子「まーさやかについては、いかにアタシがフォローするかにも掛かってるんだろーけどさ。黒いのはどうなるやら」

66: 2011/05/06(金) 21:50:15.27 ID:z9MK5UWB0

まどか「相談は、ちゃんとするつもりだったけど。まずは、杏子ちゃんの意見が聞きたくて」

杏子「……ふむ。アタシ個人にとってはどーでもいい。ただし、さやかが知ったら悲しむから、やめてほしいのはある。
アタシらもいい加減魔女にでもなんなきゃいけねーのかもしれねーけどさ。こんなことで、さやかを終わらせたくはない」

まどか「うん……」

杏子「まーでも気にすんな。どうせアンタじゃなくても坊やは誰かと一緒になるんだ。
こっちは遅かれ早かれ結果は変わらない。さやかはアタシが繋いでみせる。だから、心配しなくていい」

まどか「そっか……。確かにそう、なんだよね。……ありがと」

杏子「アンタは黒いのと話すことを考えな。逃げね―でさ。そーだな、さやかとは逆に話さない方がいい。
アイツの性格からいって引っ込みがつかなくなる。あたしにまかせておけ」

まどか「……うん、うん。……ちゃんと、ほむらちゃんと話してみるよ」

杏子「そうしてみな。アイツが本当に"冷静な人の味方"なら、うまくいくだろうよ。どっちに決まろーが、決意が固まったら教えてくれるかい」

まどか「わかった。また、QB探して連絡するよ。色々ありがと。会えて本当に良かった」

杏子「おぅ、達者でな」

68: 2011/05/06(金) 21:53:37.52 ID:z9MK5UWB0
―――――

杏子「ということがあった」

さやか「……。そっか。……ふむ。どーして。恭介なんだろ」

杏子「そりゃあ…」

さやか「うん、さっき聞いたけどさ。まあ、あいつもお人好しだからね。まどかみたいに可愛いのには、コロっといっちゃうよね、そりゃあ」

杏子「……祝ってやれるかい?アイツのこと、坊やのこと」

さやか「むぅ。あんたもいつからそんなお人好しになったのよー?まどかと仲良かったっけ?浮気?」

杏子「そーじゃねえ。アタシに言わせりゃ二人ともどーでもいいし、実際、アイツにもそう言ってやった」

さやか「じゃあ、何なのよ…」

杏子「あんただよ。さやかがちゃんと向き合えるかが心配なんだ」

さやか「ふーん……。まあ、大丈夫だよ。どーせこんな身体で恭介に会ってもただのオバケだしー。
20年も仙人みたいな生活してたんだ、いまさら嫉妬なんて湧かないわよ」

73: 2011/05/06(金) 21:58:23.23 ID:z9MK5UWB0

杏子「そうじゃない。認められるのか?アイツのこと」

さやか「……何?マジな顔しちゃって、さっきからさ」

杏子「さやかが魔女にでもなるんじゃないかと、心配だよ」

さやか「直球だねえ?アンタにとってさやかちゃんはそーんなヤワな子なのかなー」

杏子「……アタシはっ」

さやか「あはは、ごめん、ごめん。今のはズルいよねー、なしで。メンゴ」

杏子「……」

さやか「ふふふ。あたしは最初っから、恭介の幸せを願ってたんだ。
左手がどーにかなれば、あいつは幸せになれる、って思ってたけど。

そうじゃないよね。
恭介だって男だもん、ちゃんと奥さんもらって幸せにならないと。
子供もたくさんつくってさー。ふふ。

だから、まどかには感謝しないと。
あの子なら、きっと恭介を幸せにできる。あはは、なんか変な言い方。

でも、こんなもんなのかな。

満足かなー杏子くん?」

74: 2011/05/06(金) 22:02:33.80 ID:z9MK5UWB0

杏子「……本気か?」

さやか「自棄、かな。嘘じゃないけどさ。……あたし。ちょっと。消えたい、かも」

杏子「……消えるなよ」

さやか「"また独りにはなりたくない"、から?」

杏子「さやかが、好きだから」

さやか「……そんなの、初めて聞いたんですけど。散々今までえOちしたけどさ」

杏子「言いたく、なかったし」

さやか「なにそれ。わけわかんない」

杏子「呼んでもらえるまで、言いたくなかった。杏子ってさ」

さやか「……え」

77: 2011/05/06(金) 22:04:42.27 ID:z9MK5UWB0

杏子「だから、まだ、消えんな」

さやか「杏子くん?」

杏子「ちゃんと呼べ」

さやか「杏子ちゃん?」

杏子「違え」

さやか「……きょーこ」

杏子「……おぅ」

さやか「消えていい……?」

杏子「まだ、足りないよ。もっと呼べよ」

さやか「……杏子」

杏子「もっとだよ。朝も夜も、今までの時間ひっくり返すぐらい、全部、呼べよ。ずっと我慢してたんだ。あたしももっと好きって言わなきゃ気が済まない」

さやか「……バカだね、あんた。杏子さんは大バカさんだ」

杏子「何とでも言いな。今夜は寝かさねえ」

さやか「ばーか。ったく、こっちは悩んでるってのに。名前呼ばれて、発情しちゃったかなー杏子さん?」

杏子「うっせ。アタシが、全部。埋めてやる」

84: 2011/05/06(金) 22:09:21.90 ID:z9MK5UWB0
―――――

またあの喫茶店に入る。

ここに来るのは10年ぶりだった。

いつもの席だった場所にはまどかがいる。

嬉しくて仕方ない。

あれから私達はしばしば会ったけれど、それでも一年振りの再会だった。
まどかは34になっていて、また、前より綺麗になった。

席について、いつものやりとりをして。
ただそれだけのことで、胸が苦しい。

この店の懐かしさなど何も感じられないほどに、永い、永い一年だった。

何を話そうかと、頭が真っ白になる。


最初に口を開いたのは、まどかだった。

85: 2011/05/06(金) 22:11:53.48 ID:z9MK5UWB0
ほむら「……そう」

と一応の返事を返しつつ、私の思考は混濁していた。

分かってはいた。

まどかが、私と疎遠になり、上条恭介と交際まがいの付き合いを始めていたこと。
それでもなお、彼女が処Oであったこと。

まどか「どうしたら、いい、かな」

ほむら「いいんじゃ、ないかしら」

そう答えるべきで。そう答えた。

まどか「……いいの?」

ほむら「今まで、十分、お礼は頂いたもの」

そう。お礼だった。
私達の関係は。私が救って。まどかが救われて。だから、まどかが私を救っていた。

まどか「お礼、だったんだ……」

ほむら「……そう」

じゃない。
私はまどかが好き。愛している。

でも言えるはずない。

87: 2011/05/06(金) 22:14:17.76 ID:z9MK5UWB0

まどか「今までよりもっと、会えなくなると思う……部屋にも、いけなくなると、思う」

ほむら「会わなくていいわ」

その肌に触れられないのなら。
誰かのものになってしまうのなら。
そんなの。
会えるはずない。

まどか「……私。ほむらちゃんのこと、好きだった。今でも好き。上条君よりも。ずっと。女同士でも、好きだった」

私も。
私も好き。
まどかが好き。
大好き。

まどか「プロポーズ、されて、驚いた。私を必要としてくれた。迷うことなんてない結婚だって、おかーさんにも言われたし、私もそう思う」

まどか「でも、私はほむらちゃんが好きだから。こんなおばさんになっても。好きで。だから、どうしたらいいか分からなくて」

心は決まっているのだ。
きっと。
言葉尻にも、態度にも、透けて見える。
それでも、まどかは待っている。

私が、引き留めるのを。


―――言えるわけが、ない。

89: 2011/05/06(金) 22:16:20.88 ID:z9MK5UWB0

ほむら「……幸せに、なりなさい。人間として。鹿目まどかとして」

それが、私の限界だった。
それが、私の願いだった。

全く、嘘偽りのない。

だから、まどかは上条恭介を選ぶべきで。私もそれを願って。



まどかは、上条恭介の嫁となった。

90: 2011/05/06(金) 22:18:45.79 ID:z9MK5UWB0
―――――

さやか「よぅ、転校生」

ほむら「……。いつの話よ」

さやか「いつだったっけね。まーいいじゃない」

ほむら「はるばる見滝原市へようこそ」

さやか「懐かしいわー。すごく。変わったけど、変わってない」

ほむら「そうでしょうね」

さやか「今日でしょ?まどかの結婚式」

ほむら「……会うつもり?」

さやか「まさか。あんたに会いに来たのよ」

ほむら「私が、魔女になるとでも?」

さやか「そう」

93: 2011/05/06(金) 22:20:58.30 ID:z9MK5UWB0

ほむら「貴方には言われたくないわ」

さやか「あたしだから言うんだよ」

ほむら「……心配なんていらない。危なくなったらソウルジェムを壊してでも魔女にはならない。迷惑なんて掛けない」

さやか「ふふ。あたしもおんなじこと考えてた」

ほむら「いい心構えね」

さやか「……これからも、耐えられるの?あんた。この街を、守っていくこと。あんたに任せていいの?」

ほむら「今日から、まどかの幸せには、上条恭介も含まれる。どっちも守ってみせるわ」

さやか「ずっと、独りで?」

ほむら「100年も掛からないなら、あっという間よ。そうしたら、私も、休ませてもらう」

94: 2011/05/06(金) 22:23:16.31 ID:z9MK5UWB0

さやか「……たまには、おいでよ?杏子も会いたがってる」

ほむら「あらかわいい。本当かしら?あの子は嫉妬が強そうだけど」

さやか「あはは、お前がゆーなって。あたし達みたいなマジカル不良少女は毎日暇なのだよ」

ほむら「勤労なさい。少しは巴マミの暴走を止めてちょうだい」

さやか「あたし達だって、人のこと言えないんだよ、きっと。やってることは、かわらないんだ」

ほむら「貴方も歳をとったのね」

さやか「なにそれ。お互いぴっちぴっちのばばあだよ」

95: 2011/05/06(金) 22:25:29.98 ID:z9MK5UWB0
―――――

杏子「よっ」

マミ「あら?懐かしい顔ね。生きていてくれてうれしいわ」

杏子「よく言うよ。まだアタシのこと怨んでるのかい?」

マミ「恨む?もしかして、美樹さんのことかしら。気にしてないわ。あの子には家族がいたもの。いずれ見滝原を離れる運命だった」

杏子「分かってんならいいけどよ。アンタ、QBとあちこち飛び回ってるんだって?」

マミ「定住していない、って方が正確ね。わざわざどうしたの?」

杏子「アンタが近くに来たから出向いてやったんだ。苦情の申し立てってやつでさ」

マミ「わたしに?」

杏子「うちみたいな辺鄙な所でも、最近じゃあ魔女だの魔法少女だので引っ切り無しでね。どうなってやがるのさ、いったい」

マミ「仕方ないわ。魔法少女が増えれば魔女は増える。魔女が増えれば魔法少女も増える」

111: 2011/05/06(金) 23:01:32.32 ID:z9MK5UWB0

杏子「後者は自重してもいいんじゃねーか?」

マミ「若い子が育つ前に逝ってしまうんだもの、ある程度の数で戦わないと共倒れだわ」

杏子「教育者がよくねーんじゃ……」

マミ「それを言われると困ってしまうけど。頑張ってるつもりよ。ただ、最近の若い子って、ちょっと変」

杏子「歳寄りの発想だな」

マミ「そう言わないで。QBも感情が薄いって言ってる。そんなことはないと思うけれど、力が弱い子が多いのは事実よ」

杏子「へえ。まあ、何でもいいけど。アタシにはアンタが貯め込んでるように見えるね、グリーフシードをさ。どうなんだい実際?」

マミ「魔法少女にとって必要なものよ。不思議なことじゃない。貴方達のせいでもあるし」

杏子「はぁ?アタシらが何したってゆーんだよ」

マミ「何もしないからよ。ほとんどね。いつまでも消えずに、魔女にもならずに。そんなに未練があるのかしら」

杏子「関係ねーこと当て擦ってんじゃねえぞ?だいたいお前だって同じじゃねーか」

マミ「関係あるのよ。私も同じかもしれないけれど、違うつもりよ」

杏子「話になんねーな。とにかく、もう少しうまくやんな。何でも、下手糞な奴が出しゃばるのが一番うっとおしいんだよ」

マミ「そうね、気をつけるわ」

杏子「やるなら頑張りな」

115: 2011/05/06(金) 23:04:09.52 ID:z9MK5UWB0
―――――

それから、私が再びまどかと会ったのは、20年後のことだった。

上条恭介が氏亡したという。氏因は心筋梗塞。
コンサートマスターとしての上演後、楽屋でのことだった。
プログラムはマーラー特集。
最後の曲目は9番。

全国紙にも大きく取り上げられ、人々に嘆かれながらも、大いに称賛された。イカれていると思う。


まどかは54歳。すでに18と15になる二人の娘がいた。
私を呼んだ彼女は、私の胸の内に縋って泣いた。
かつての自分を見たような気がした。



私と彼女の再会はそれだけのことであった。
私も彼女も、歳を取っていた。

116: 2011/05/06(金) 23:06:53.05 ID:z9MK5UWB0
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さやか「待ってたよ、まどか」

まどか「え……」

さやか「……まどか、だよね?」

まどか「さやかちゃ…ん?」

さやか「そーだよ。よかった。なんか、すっごい久しぶり。老けたねーまどか」

まどか「どうして……ここ……」

さやか「私は恭介のことなら何でも知っているのだよ、ふふん。イイお墓立ててもらって幸せだねー恭介」ナデナデ

まどか「そっか……うん…。…これからの生活はあるけど、お墓だけはちゃんとしようと思って…」

さやか「良いことだー、感謝感謝。こんなイイ嫁置いてくとはいかんな恭介は」

まどか「えっと……その。………・ごめn」

さやか「謝るのは、なしにしよ。……あたし、まどかには本当に感謝してるんだ。嫁になってくれて、子を産んでくれて」

まどか「……うん」

120: 2011/05/06(金) 23:09:31.46 ID:z9MK5UWB0

さやか「ホントは生きてるころからさ、いつか氏んでも、お墓参りさえするもんか、って考えてた。
恭介はもう、まどかのものだから。
娘ちゃんとばったり会っても気まずいだろーし」

まどか「そんなこと…」

さやか「ううん。

でも、ただ一つだけ、したいことあってさ。

今よりももっともっと、歳とって、恭介の奴がおじいちゃんになって、もっと先。

ヴァイオリンも弾けなくなって、もう氏にそーって、病院とか家のベッドで独りで寝てる恭介がいて。

そこにあたしが現れてさ。オバケだぞーって脅かしてやるの。どういう反応するのか楽しみで楽しみで。ふふ。

覚えてんのかな。まどかみたいなイイ嫁がいればボケたりはないかなあと思ってたんだけど。

それで、いろんなこと話して、花飾ってあげたり、掃除したり、身体拭いてあげたりしてね。

一日上条家嫁体験コースみたいな?それだけはまどかに許してもらおうかと思って。ゲザる気満々だったんだよ。



何かね、そんなことが、すごく、すごく楽しみだったの」

123: 2011/05/06(金) 23:13:30.10 ID:z9MK5UWB0

さやか「もし、そんなことがあったら、まどかはあたしのこと、許してくれた?」

まどか「……そん、な……私が、許してもらわなきゃ、いけない、のに……」

さやか「あはは。40年経ってもまどかはいい子だなあ。
……早いなあ。早すぎるよ。
あともう40年は生きてくれないと、全然できない陰謀だったよね…残念だ。
私の祈りじゃ、40年分、ってとこだったのかなあ」

まどか「……」

さやか「うん、あたし、嫌な子になっちゃってるね。ごめん。少しは、成長したつもり、だったんだけどね」

まどか「ううん、そんなこと、ない」

さやか「……よかった。まあ、そんなこんなで、一度だけ、お墓参りしたくなって。まどかの顔も見たくなってさ」

まどか「いつでも、会おうよ。お墓にも、来てあげてほしい」

さやか「ありがと」

まどか「……うん」

さやか「……私、もういくよ」

まどか「うん。来てくれて、ありがと……」

124: 2011/05/06(金) 23:15:50.34 ID:z9MK5UWB0
―――――

私がQBと再会したのは、上条恭介の納骨式が行われた一ヶ月後であった。

QB「久しぶりだね、暁美ほむら」

ほむら「そうね。問題なく見滝原市を保守してきたつもりだけど。どういう用件かしら」

QB「美樹さやかが自らのソウルジェムを破壊したよ」

ほむら「……そう」

想像は、ついていた。
私が美樹さやかなら、同じように、終わらせていた。

ほむら「魔女にはならなかったのね」

QB「それでも君達が今まで叶えてきた希望がちゃらになるわけじゃない。
魔女になって撒き散らされるはずだった絶望は、壊れたソウルジェムから溢れ、辺りを汚染する」

ほむら「大したことではないわ。魔女になるより余程マシ。
たとえ美樹さやかほど使い尽されたソウルジェムであっても、せいぜい周りの運が悪くなる程度のこと。
違うかしら?」

QB「人間社会に対する影響はその程度だろうね。だけど、近くに魔法少女がいたとしたら?」

127: 2011/05/06(金) 23:19:42.51 ID:z9MK5UWB0

ほむら「……佐倉杏子」

QB「そういうことだよ。佐倉杏子が魔女になった。
佐倉杏子は美樹さやかの放った穢れを全て取り込んだ。二人とも魔女になったのと変わらないよ」

独り、この世を去ろうとする美樹さやか。
駆けつける佐倉杏子。

いくつか見えたシナリオは、どれも悲惨だった。
そして、痛いほどに分かる。

QB「これほど強大な魔女となると、立ち向かえるのは、かつての最悪の魔女を独りで打ち倒した君しかいないだろう。暁美ほむら」

ほむら「私を、魔女にしたいのかしら」

QB「君が倒せないなら、僕らはお手上げだよ」

巴マミの名は出されない。
使い捨てるなら、私の方が利になると思っているのだろう。


もう、潮時か。



ほむら「……わかったわ。詳細を教えて」

131: 2011/05/06(金) 23:23:18.79 ID:z9MK5UWB0
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まどかとは、会わなかった。
顔を見たら決心が揺らぐだろうから。

もっと、機械的に、この案件を処理しなくてはならない。

ワルプルギスの夜でさえ、膨大な統計と計算のもとに打倒した。
今度は、ノーコンティニューで、それ以上の相手を倒さなければならない。

グリーフシードは、巴マミからQB経由で幾つか提供された。
時間停止の魔法は、停止の時間とその間に干渉する質量で消費される魔力が決まる。
全快で挑んでも、時間停止を使用できるのは良くて10回か。

私の氏亡・魔女化は、前提条件。

その上で、いかに対象を斃すか。

133: 2011/05/06(金) 23:25:35.48 ID:z9MK5UWB0

かつて私は、魔女になった美樹さやかと対峙した。
魔法少女としての能力から、魔女の攻撃パターンはある程度、類推できるようだった。

佐倉杏子で考えるとどうなるのか。

槍を象徴とする直線攻撃。
多節棍を象徴とする屈折攻撃。
鎖を象徴とする捕縛、及び曲折攻撃。

考えるだけでも、隙が見えない。
どうしたもの、だろうか。


魔女としての性質は、心象も左右する。
とはいえ、佐倉杏子が何を想ったか、私には分からない。

恋慕か、悲恋か、それとも嫉妬か。



まあ、いい。

やれるだけのことはしよう。
だめなら巴マミが、その後輩が、何とかしてくれるだろう。



もう、私は十分に生きた。

137: 2011/05/06(金) 23:29:51.65 ID:z9MK5UWB0
まどか「久しぶりだね、QB。どうしたの?」

QB「僕と契約して、魔法少女になってよ」

まどか「あはは、懐かしい」

QB「僕は本気だよ、鹿目まどか」

まどか「ふふ、からかわないでよ。もうおばちゃんだよ私?ぜんぜん少女じゃない」

QB「暁美ほむらが魔女になったんだ。君の力が必要なんだよ」

まどか「…………え?」

QB「あの時間遡行者、暁美ほむらだ。彼女が重ねた膨大な因果は彼女を正真正銘最悪の魔女にしたよ」

まどか「………だ…って、……え?」

QB「もしも君にまだ、願いがあるというなら、協力してほしい。
君ほどの年齢になっても、君に存在する測り知れない素質は衰えていないんだ。君はまだ、魔法少女になれる」

まどか「そんなの……おかしい、よ。……だって、この前、会って、それで、まだ」

QB「残念だけど、本当のことだ。もし僕が嘘をついているなら、もっと早く言っているよ」

まどか「……そん、な。どう、して」

QB「美樹さやかが氏んで、佐倉杏子が魔女になった。暁美ほむらはその討伐に成功したが、今度はその彼女が魔女になった」

まどか「……う、…………そ………」

142: 2011/05/06(金) 23:32:06.97 ID:z9MK5UWB0

QB「泣いていても変わらないよ。君が、暁美ほむらを救うんだ」

まどか「……わかった。……嘘だったら、承知しない、から」

QB「構わないよ。嘘じゃない。願いは、決まったかい?」

まどか「……うん」



QB「それじゃあ、鹿目まどか――その魂を代価にして、君は、何を願う?」





まどか「私の娘が、二人とも、魔法少女になれないように。魔法少女の契約を、結べないように」

146: 2011/05/06(金) 23:34:35.81 ID:z9MK5UWB0
―――――

QB「僕達は、十分過ぎるエネルギーを回収した。うまく事が運んだよ」

マミ「そう」

QB「鹿目まどかは、もうすぐ魔女になる。君達も好きにするといい。といっても、人類そのものがすぐに終わってしまうだろうけどね」

マミ「永い付き合いだったわねQB」

QB「そうだねマミ。君は良く働いてくれた。何の利益もないというのに、君達は本当に分からない存在だね」

マミ「……それが感情というものなのよ」

150: 2011/05/06(金) 23:37:08.15 ID:z9MK5UWB0

マミ「これをあの子達に渡してくれないかしら」

QB「貯めていたグリーフシードだね。君の後輩達にかい?」

マミ「そう。私が魔女になったらよろしく、って」

QB「……まさか、まどかに立ち向かう気なのか?」

マミ「……私の大事なお友達が待ってるの。最初の大事なお友達。ちゃんと終わらせてあげたいの、彼女を」

QB「馬鹿げているよ、無茶だ」

マミ「グリーフシードはまだあるわ。孵化した瞬間なら、何とかなると思うの。

私が魔女になっても、あの子たちが皆で倒せたなら、この魔女の連鎖は終わる。

QB。貴方がいなくなるなら、これから魔法少女が増えることもないでしょ。

全てに、決着をつけましょう」

QB「まったく。君達は最後まで、分からない存在だったね。好きにするといいよ。僕にはもう、どうでもいいことだ」

マミ「……ありがとう」

152: 2011/05/06(金) 23:39:16.92 ID:z9MK5UWB0

貴方はきっと魔法少女になって

魔女になる

世界を終わらせてしまうほどの

最凶の魔女に



そう思って、生きてきて

外れてほしいのに、当たってしまった



ずっと、貴方が好きだった

貴方の幸せは、私ではなかったけれど

私の幸せは、貴方だったの


貴方の最期は、きっと不幸に終わるのだろう

最悪の魔女として

絶望を撒き、絶望に溺れながら

157: 2011/05/06(金) 23:41:19.48 ID:z9MK5UWB0


そうは、させない



貴方の人生を、ちゃんと終わらせてあげる

それだけのために、ずっと、ずっと、生きてきた




醜い女よね、私



それでも、大切な友達のために、

私ができる、たったひとつの答えを、





ずっと

信じてきた

158: 2011/05/06(金) 23:43:45.59 ID:z9MK5UWB0


――――さあ、お待たせ。


一緒に、終わりましょう?




私の、愛しい人。








「――――ティロ、フィナーレ」









(了)

167: 2011/05/06(金) 23:47:34.28 ID:iJiNnu9V0

引用元: ほむら「フルキャスト生存縛りでワルプルギスのソロ狩り達成した」