1: 2015/04/07(火) 15:40:40.311 ID:kwddQP8O0.net
男「う、嘘吐けよ。んなわけねーだろ」

友「うちの高校さ、十年前に自殺者出たって言ってたじゃん」

友「それ、それがそいつなんだってー!」ニヤッ

男「……あほらしい」

友「な、入ってみようって! 実際、見た奴がいるだってさ!」

男「や、やだよ! 時間の無駄だったつーの!」

友「付き合ってくれたら、私がジュースおごったげるって」

男「めんどくさいっつーの!」

友「ふーん、怖いんだ」

男「そ、そうじゃねぇけど……」
江戸前エルフ(6) (少年マガジンエッジコミックス)

5: 2015/04/07(火) 15:46:27.347 ID:kwddQP8O0.net
ギイッ ギイッ

男(なんの音だよこれ……)

友「何も出ないつまんなーい! 服汚れ損じゃん!」

男「何か出たら困るっつの。だから言ったのに……」ビクビクッ

友「ま、男の半泣き顔見れたからいっか!」

男「半泣きじゃねぇし……。ジュ、ジュース奢れよ後で」

友「ういうーい。バイト代入ったらね」

男「100円くらいすぐ寄越せよ……」

ギィッギィツ

6: 2015/04/07(火) 15:49:14.495 ID:kwddQP8O0.net
ギイッ ギイッ

男「にしても、この音なんだろうな」

友「え?」

ギィッギィツ

男「ほら、これだよ。なんかの引っ張る音っつーか」

友「ん? え? 何のこと?」

男「は? ふざけるのも大概にしろよ」

友「やははは……意趣返しに出なくたっていいじゃん。へーそんな音聞こえるんだ怖いねー」

男「……本気で言ってんのか?」

ギイッ ギイッ ギイッ ギイッ

友「や、やだな……男、顔、怖いよ……」

ギイッ ギイッ ギイッ ギイッ ギイッ ギイッ

男「…………」

7: 2015/04/07(火) 15:55:12.661 ID:kwddQP8O0.net
男(昨日のあれ……なんだったんだ。友の奴も、冗談にしても引っ張り過ぎだろ)

男(いや、俺は本当に聞いたのか? あれは幻聴だったんじゃあないのか?)

男(考えれば考えるほど、時間が経てば経てるほどわからなくなっていきやがる……)

生徒A「なあ、また見た奴がいるんだってよ」

生徒B「首吊り屋敷の幽霊?」

生徒A「そうそう! 一昨日雨が酷かったじゃん? あの日に、窓の向こうに女が見えたって! 結構美人だったんだってよ!」

男(……馬鹿馬鹿しい、幽霊なんて、いるわけがない)

8: 2015/04/07(火) 15:59:28.484 ID:kwddQP8O0.net
男「……部活長引いて、遅くなっちまったな」

ポツ、ポツ

男「あ……夕立かよ、ついてねぇな……」

『そうそう! 一昨日雨が酷かったじゃん? あの日に、窓の向こうに女が見えたって!』

男「通路から見える窓のある部屋……そういや、あの部屋、入ってなかったな」

男「…………」

男「馬鹿らしい……そんなもん、いるはずがない……」

13: 2015/04/07(火) 16:10:41.942 ID:kwddQP8O0.net
男(入っちまった……怖い……)

ギイッ ギイッ

男「だから、何の音だよ……」

ギイッ ギイッ

男(この音……あの部屋に近づく度に大きくなってないか?)

ギィッ ギィッ

男「幽霊なんて……」グッ

男「いてたまるかっての!」バンッ

男「音が……消えた?」

男「や、やっぱ幻聴じゃねぇか……」

女「…………」

男「ひいっ!」


 散らかった埃臭い部屋の隅、
 焦点の合わない目をした女が、そこに立っていた。
 噂話を裏付けるみたいに、俺の通う学校のセーラー服を身に纏っている。

15: 2015/04/07(火) 16:17:20.602 ID:kwddQP8O0.net
男「くっ! 首に縄の痕……おま、お前が、幽霊なのか!」

女「……ゆう、れい?」

女「違う……と、思う」

男「お前っ! じゃ、じゃあなんでこんなところに……」

女「わからない」

男「わからない?」

女「気が付いたら、ここにいたの」

男「そ、そんなことあるわけねぇだろ!」

女「あなただって……どうしてここにいるの?」

男「俺は、幽霊の話を聞いて……その、探索に……」

女「……悪趣味」

男「こっ、こんなところに来てるのはお互い様だろ!」

18: 2015/04/07(火) 16:23:40.803 ID:kwddQP8O0.net
男「だから、お前は……」

女「なにも、思い出せないの」

男「なにも?」

女「それに……この屋敷から、出られない」

男(ひょっとして、地縛霊って奴か? まさか、こいつが……?)

女「でも……寂しかったから。人が来てくれて、良かった」

男「えっ?」

女「名前……教えてほしい」スッ

男「くっ来るな幽霊!」

女「…………」ピタッ

男「う、うわ……うわぁっ!」ダッ

20: 2015/04/07(火) 16:28:55.457 ID:kwddQP8O0.net
男「…………」

友「どうしたのん? なーんか、最近おかしいよ?」

男「……そんなこと、ねーよ」

友「……ふむ」

男(可哀相なこと言っちまったのかな……。すげぇ、傷付いたみてぇな顔してた)

男(……本当に、幽霊だったんだろうか)

友「なんかさ、悩みがあるなら相談してよ?」

男「そんなんじゃ、ねえから……」

22: 2015/04/07(火) 16:35:27.517 ID:kwddQP8O0.net
男(またこの道を通ってしまった)

警察「…………」

男(ん?)

男「なにかあったんですか?」

警察「いや、廃墟に子供が無断で入り込んでいるって通報があってな。どういったところなのか視察に来たってところさ」

警察「半年くらい前にも、それで怪我をした子がいるらしくって。危ないから、市で撤去してくれって話になってるらしい」

男「そ、そうなんですか……」

男「…………」

警察「どうした? 浮かない顔をして……」

男「い、いえ……。ご、ご苦労様です!」ダッ

警察「…………」

23: 2015/04/07(火) 16:40:18.318 ID:kwddQP8O0.net
男「……これだけ時間を開けたらもういないだろ」

男「すっかり暗ぇ……入るの怖い……っつーのは今更か」

男「まさか、あの女ももういないだろ」

ギィ……ギィ……

男「なんか……音、でかくなってね?」ガラッ

女「…………」

男(また、音が消えた……)


男「よ、よう」

25: 2015/04/07(火) 16:44:27.330 ID:kwddQP8O0.net
男「あれから……その、ここ、出てないのか?」

女「……なんで」

男「な、なあ、腹とか……」

女「なんで、戻って来たの? 私のこと……怖いんでしょう?」

男「…………」

男「**」

女「え?」

男「お……俺の、名前だ」

女「あ、ありがとう!」パアッ

男「別に……礼言われることなんて何もしてねーよ」

27: 2015/04/07(火) 16:48:02.530 ID:kwddQP8O0.net
男「お前の名前も……教えてくれよ」

女「えっ?」

女「わ、私……名前も、思い出せない……」

男(表札も、剥げてたからなぁ……)

男「その……ここ、出ないのか?」

女「……出られ、ないの」

女「ずっと……もう、何か月も、自分がなんなのかわからないままここにいるの」

男「…………」

28: 2015/04/07(火) 16:51:29.679 ID:kwddQP8O0.net
男「ここ、出るぞ。こんなとこいたって仕方ないだろ」

女「出られ……ない」

男「近い内に、ここが壊されるかもしれないんだよっ!」

女「……え?」

男「だから、ここを出るんだ!」

女「出られ、ないもん……」

女「出たくても、出られないもん……」ポロポロ

男「…………」

31: 2015/04/07(火) 16:57:04.507 ID:kwddQP8O0.net
友「どったの男? ぼーっとした顔して?」

友「あ、ひょっとして、恋でもしたのか? なんちゃって……」

男「かも、しれねぇな」ボソッ

友「えっ!? ちょ、ちょっとどういうことなのか……」

男「じょ、冗談だっつの! 喰い付いてくんな!」

男「……あのさ、十年前に自頃した子の、名前ってわからないか?」

友「えっ?」

友「む、難しいんじゃないかな。噂では学校が虐めを黙頃して、タブーになってるって……」

男「…………」

33: 2015/04/07(火) 17:00:01.196 ID:kwddQP8O0.net
友「辺りの家を聞きこんだり、同級生とか当たってみればわかるかもしれないんじゃないかな」

男「…………」

友「男のために、調べといてあげよっか? 私、そーいうの好きだし」

男「え? じゃ、じゃあ頼んでいいか?」

友「ん、ただジュースの件はチャラね?」

男「むしろまだ覚えてたお前の律儀さにびっくりしたよ」

35: 2015/04/07(火) 17:04:26.701 ID:kwddQP8O0.net
女「……あ、また来てくれたんだ」

男「なんだ、その猫?」

女「入り込んじゃったみたい」

女「私、猫好き……」

男「お、俺も、好きだぞ。その……猫とか」

女「気が合う、ね」スッ

猫「にゃ?」スカッ

男(手を……すり抜けた?)

女「…………」

女「やっぱり私、氏んでるんだね……」

男「…………」

37: 2015/04/07(火) 17:10:16.006 ID:kwddQP8O0.net
女「男くん、男くんはどうしてここに来てくれるの?」

男「……好奇心みたいなもんだよ」

女「それでも、嬉しいよ」

男「…………」

男「お前の名前、わかるかもしれない」

女「えっ? ほ、本当に?」

男「その……知りたい、か? 余計なお世話だったら……」

女「知りたい……。私がどうしてこうなったのか、お父さんとお母さんがどこにいるのか……知りたい」

女「思い出さなきゃいけない大切な思い出とか、きっと……いっぱいあるから……」

男「…………」

『噂では学校が虐めを黙頃して、タブーになってるって……』

男「そう、か。思い出せたらいいな」

38: 2015/04/07(火) 17:14:07.699 ID:kwddQP8O0.net
男「ここが壊されたら、お前はどうなるんだ?」

女「わからない……。消えちゃう、のかなぁ……」

男「……それまでに、絶対名前、教えに来るから」

女「男くん……ありがとう」

男「お前は、未練があってここにいるのか?」

女「わからない……。何も、思い出せないもん……」

39: 2015/04/07(火) 17:21:36.516 ID:kwddQP8O0.net
友「お、男……その、とんでもないことがわかったんだけど……」

男「なぁ、地縛霊になったとして、その場所ごとぶっ壊されて消えるのと、未練がなくなって成仏するの、どっちがいいかな?」

友「そりゃ後者だと思うけど……」

男「だよな……。俺も、そう思う」

友「……やっぱり最近、男の様子、なんか変」

男「で、とんでもないことってなんだよ」

友「自頃した子の名前がわかったんだよって。十年前、家で首を吊ったって……」

男「本当か! 教えてくれ!」

友「そ、それが……その……言い辛いんだけども……。__って、言うらしいんだけど……」

男「え? お、おい! どういうことだ! 説明しろよ!」

友「わ、わわっ! そんなに怒らなくたっていいじゃん!」

41: 2015/04/07(火) 17:34:19.601 ID:kwddQP8O0.net
友「だからさ、名前の通り、男だったんだよ。しかも自殺未遂だったらしくって、氏んだってのも噂に尾ひれがついたってだけで……」

友「あの廃墟も、孤独氏したお爺さんが住んでたんだって」

友「よくよく考えてみれば、大雨の日に窓越しに美人だとかわかるはずないしね。ガラスに雨粒ボトボトでまともに見えないっしょ」

友「だからガセってことだったって言いますか。やははは……」

男「くそっ!」ダッ

友「ちょ、ちょっと男!」

先生「ホームルーム始まるぞっ! どこに行く気だ!」

男(ふざけんじゃねぇ……そんなはずがあるか!)

男(だって俺は、確かに……)

42: 2015/04/07(火) 17:46:21.773 ID:kwddQP8O0.net
キィ……キィ……

男「音が、小さくなってる……」

男「いるんだろっ! 出て来いっ!」ガラッ

男「う……嘘……だろ。お、おい! いるんだろ? なあっ!」

「いないよ……」

男「この声……お前なのか? なあっ!」

「私……わかったの。ただの、怪談話だったの」

「誰も信じていない怪談話なんて……もう、ないことと同じなの」

「今まで……ありがとう。すごく、私、すごく楽しかった」

男「俺がっ! 俺が、信じてるじゃねぇか! だから……」

「信じてないよ……だから、もう私の姿も見えないんでしょう?」

「ねえ、気付いてるんでしょう?」

男「私の言葉も……もう、男くんが喋ってるだけだよ?」

45: 2015/04/07(火) 17:54:28.737 ID:kwddQP8O0.net
友「久し振りにいっしょに帰るねー。なーんか、最近、私の部活忙しくって……」

友「前に帰ったのって、廃墟入ったときだっけか?」

男「……ああ、そうだったな」

友「あーらら、取り壊されちゃってらぁ。血税掛けてまでするもんかねぇあんなの」

男「仕方ないだろ。頼んだのは市民らしいし」

『ずっと……もう、何か月も、自分がなんなのかわからないままここにいるの』

男「……だから、十年前からじゃなかったのか」

友「今なにか言った……って、男、なんで泣いてんの? 目にゴミでも入った?」


おわり

46: 2015/04/07(火) 18:11:27.986 ID:tiO8kOEG0.net
終わったの?

引用元: 友「知ってる? ここの廃墟、首吊った女の霊が出るんだって!」