確かに、穂乃果は海未ちゃんやことりちゃん、μ'sのみんなからまるで太陽のように明るいって言われるんだけれど、太陽が夏のことを好いているかどうかっていうのは、やっぱりわからないと思う。
穂乃果が太陽ならきっと、適度にサボれるから梅雨が好きになると思うな。

「バカなこと言ってないで、練習に行きますよ。せっかくのいい天気なんですから。今日は思いっきり体を動かしたい気分なんです」

海未ちゃんが柄にもなく満面の笑みで、それこそ太陽のごとくこちらを振り返る。

「穂乃果より、よほど海未ちゃんの方が太陽らしいや」

「またまた。私は"うみ"ですから、所詮は太陽の光を反射しているにすぎないです。太陽……穂乃果みたいなね」

こんなことを照れることなく言ってくるから、なるほど海未ちゃんは女の子からモテるわけだよ。だよね？

「ごめんね、ちょっとお寝坊しちゃって……待った？」

柄にもなくといえばこちらもそうだ。
ことりちゃんが寝坊なんて、まして穂乃果よりも遅く待ち合わせ場所に来るなんて、とても珍しいことだ。

「いえ、ことり。私達も今しがた着いたばかりです。ね、穂乃果？」

「うんっ！ たった今さっき、つい2分ほど前に着いたばかり。海未ちゃんが朝から、これから真夏になろうかっていうのに真冬のごとく寒いこと言うからちょっと待ち遠しかったけど」

正直にそう言うと、海未ちゃんは今にも「あなたは最低です」と言いたげな視線を投げかけてきた。投げかけるのはいつもの投げキッスか、ラブアローシュートでいいのにね。

学校に着いた穂乃果たちは、いつもの練習着（毎日洗濯して、替えも持ってるんだ！）に着替えると、本格的な練習の前にストレッチをはじめた。
基本的にいつもことりちゃんとペアを組んでるんだけれど、今日はちょっと気分を変えたくなっちゃって。

「そこなお嬢さん、ボクと組まないかい？」

なんて、海未ちゃんよろしくキザに誘う相手は、ゆったりとしたロングを耳より下、肩のあたりで二つに結んだ、麗しい淑女。

「あら、素敵なお誘いですこと！ ウチなんかでお相手が務まるかしら？」

希ちゃんはそう言うと、淑女的な笑みと、そして礼をした。ほのかもそれに倣い、一礼。そして示し合わせたかのようにニシシと笑うと、惚ける他のみんなをよそにストレッチを始めるのでした。

ところで、女の子二人組でストレッチしているとき、どうしても胸が当たったり、息がかかったりするよね？
穂乃果ってばヘンタイさんだから、それだけで心臓が高鳴って、ドキドキと早鐘を打って、汗のせいかじっとりと蒸れるような感覚がして。

幼なじみの海未ちゃんやことりちゃん、絵里ちゃんなんかと組んだってこんなにドキドキはしないよ。
やっぱり、希ちゃんのなんとも言い難い色気のせいかな？
季節柄、まだ真夏のせいにはできないけれど、絶対に穂乃果がおかしいんじゃないのです。希ちゃんが色っぽいからいけないの！

穂乃果がこんなにも変な気持ちになってるのに、希ちゃんってば随分と余裕な顔でこっちを見てるんだもん。ちょっぴりいたずらしたくなっちゃうのも仕方ないよね？

「あ～、あっついねぇ、希ちゃん」

ぱたぱた。服の胸元あたりを摘んで、希ちゃんに見せつけるように。本格的な色仕掛けができるほど穂乃果は色っぽいわけじゃないし、まあお試し程度なんだけれど。

「ん～、そやなぁ穂乃果ちゃん。えらい最近暑うなってきて、お天道様もお仕事ぎょうさんしはるなぁ～って思ってたん」

「だよねぇ～……太陽さんも少しはおやすみ取ってくれてもいいのに。穂乃果、頑張る人は好きだけど、頑張りすぎは良くないと思うな～」

ぱたぱた。引き続き、希ちゃんの注意を引こうとして胸元を煽ぐ。今のところ何も効果はなさそうだけれど……海未ちゃんの視線は感じるなぁ。またどうせ、
「はしたないです！ 女の子なんだからそんな破廉恥な真似はしてはいけませんよ！」
なんて思ってるんだろうなぁ。

「そういえば、穂乃果ちゃんは海未ちゃんやことりちゃんから、『太陽みたい』や、ってよく言われるさかい、カンカン照りのこの時期、穂乃果ちゃんがお仕事のしすぎでへばってしまわんか、ウチ心配なんよ。
まぁ、穂乃果ちゃんが本物の太陽と違うんは、もちろんなんやけどな？」

こんな風に長台詞を回しながら、希ちゃんも穂乃果とお揃いみたいにぱたぱた。その度に穂乃果のよりふた回りは大きい、その、希ちゃんの膨らみがたゆたゆと揺れる。
なんというか、ちょっとえOちぃ。

「ほ、穂乃果は倒れたりしないから大丈夫だよ！ だって穂乃果だもん！ 元気だけが取り柄の穂乃果だもん！
元気が無くなっちゃったら穂乃果、もうなーんの魅力もないただの女子高生だからさ。
しかもちょっぴりおバカさんだし……」

いや、むしろちょっぴりとかではなくて、廃校になったらどこにも編入できないっていう自覚があるくらいには、おバカさんなんだけどね？

そのためにも絵里ちゃんが加入して9人になったμ'sで、廃校を阻止しなきゃ！
ーーじゅ、ずびっ。

……ん？ ずびっ？

「あ！ 穂乃果ちゃん、大変！ 大変！ 鼻血、鼻血出てるよ！ あかん、熱中症かもしれへん！」

あわわわわわ。そりゃあ流石に希ちゃんでも急に目の前で鼻血を噴き出した人がいたら慌てちゃうよね！ 穂乃果が一番びっくりしたけど！

あ、そういえばなんだかふらーってする。これは間違いなく熱中症だね！

「穂乃果！？ 大丈夫ですか！？」

「穂乃果ちゃんティッシュ！ これ使って！！」

慌てた海未ちゃんとことりちゃんが駆け寄ってくると、真姫ちゃんも急いでこっちにきて、応急処置をしてくれた。お医者様の娘だけあって、手際よく、優しく、そして正しく。真姫ちゃんはやっぱり、素敵なお医者様になれそうだよね！

それでそれで、花陽ちゃんと凛ちゃんが保健室まで肩を貸してくれて、保健室で氷のうとか、鼻に詰める専用の何かとか、そんなものを使ってさらに丁寧な処置がされたのでした。てへへ。

「いやぁ、めんぼくないね！
元気が取り柄の穂乃果だもん！ って言ったそばから熱中症になるなんて、誰も予想してなかったよねぇ。ごめんごめん！」

「まったくです！ だいたい穂乃果はいつもいつも、私達に心配をかけて……」

その後に続くのは、廊下で走っていて転んだー、だとか、おまんじゅうを食べてる時にむせてたー、だとか。
海未ちゃん、穂乃果のお母さんみたい。

ていうか、廊下で転んだのなんて小学校二年生の時の話だよ！？ よく覚えてるね！

……うーん、謝ってみたものの、やっぱり海未ちゃんはカンカンだ。そりゃ、ま、そうか。「体調管理もできないなんてアイドル失格です！」とか言いそうだもんね。

にこちゃんからも、なんだかいつも以上に呆れたような視線を感じる。うぅ……ちゃんと水分取ってたし、まだ柔軟なんだから、大丈夫だと思ったんだけどなぁ。

「まあまあ、海未ちゃん。そのくらいにしとき？ 穂乃果ちゃんかて、なりとうて熱中症になったんと違うんやから。な？
ウチからよう言い聞かせとくさかい、堪忍したってぇな」

希ちゃんの申し出に、花陽ちゃんも凛ちゃんも深く頷いている。実に空気の読める後輩たちだねぇ。
ことりちゃんは……海未ちゃんを見ながら苦笑いしてるや。絵里ちゃんも苦笑い。

「え、ああ……希がそう言うのなら。穂乃果へのお説教もここまでにしておきましょうかね。
さぁ、元気な私達は屋上でダンスレッスンですよ！ 穂乃果はここでお昼まで休憩！ お昼はみんなで一緒に食べましょう？」

ん、じゃあ折角だし、お昼まで保健室のベッドで寝てよっかな。なんだか寝心地も良さそうだし。
ま、鼻血ですんだんだし、のちのち笑い話になるよね？


「……」

- - - ◆ - - - ◆ - - - ◆ - - -


ーーガララッ！
保健室のドアが勢いよく開く。

「あれ、希ちゃん？
ダンスレッスンしに行ったんじゃなかったの？」

ゆったりおさげはニッコリ微笑むと、

「んー？ なんや穂乃果ちゃんと一緒におったほうがええ、いうてカードがうちに告げるんや」

と、一言。素直じゃない希ちゃんだなぁ。占いの結果っていうていで、穂乃果のお見舞いに来てくれたようで。なんだか胸があったかくなるや。

「ほんまやったら水晶つこて占うんがうちの得意技なんやけど、タロットカードがな、『ワシを使わんかい！』てな具合に言いよるから、つこうたら、ほら」

希ちゃんが、不思議な絵が描いてあるカードを穂乃果に差し出した。タロットなんて見るのは初めてだし、このカードにどんな意味があるのかはわからないけれど。

「えんぷれす？」

「そ、empress。女帝やんな？
ワンオラクルいうて、タロットカード一枚で占う占いがあるんやけどな、女帝の正位置は、大切な人と過ごすとええことあるよーっちゅう意味なん。せや、穂乃果ちゃんも試しにワンオラクルやってみ？」

そう言うとトランプよりもちょっぴり細長い印象のあるカードのデッキを穂乃果に差し出す。
軽くレクチャーみたいなものを受けた後、手に取ったカードは……

「……あっちゃー。chariot、戦車の逆位置や。動けば動くほど裏目にでるから、今日はゆっくり休みなやー、てな意味なん。
ある意味、今の穂乃果ちゃんにピッタリかもわからんなぁ」

がっくし。やっぱり今日の運勢はそんなに良くないようで、少しショック。
まぁ、でも、こんな日もあるよ！ ね！
こんな時こそ元気を出していくのが穂乃果だもんね！

「ところで、希ちゃん。希ちゃんが引いたえんぷれす？ 女帝のカードに大切な人と過ごすといいことがあるっていう意味があるのはわかったんだけれど。
ーーその大事な人って、穂乃果で良かったの？」

「なんやそんなん、当たり前やんな？」

いや、違う。もっと、絵里ちゃんとかにこちゃんとか。穂乃果よりも希ちゃんと仲良しなメンバーだっているじゃん。穂乃果なんかで、よかったのかな。

えへへ。あんまり穂乃果らしくないけれど、そのくらいはワキマエテいるつもりなんだよ！
希ちゃんは、穂乃果よりも絵里ちゃん達の方が……

「…………っ」

なんでだかはわかんない。けれど、きゅっ、と。胸の奥が痛んだ。
熱中症のせいでは、どうやら、ないようだ。

でも、ぼーっとする。勿論、熱中症のせいではないようだ。体が火照る。勿論……。
じゃあなんだろう？ この胸の痛みは。ぼーっとしてしまうのは。この、体の火照りはなんなのだろう。

「穂乃果ちゃん！？ 大丈夫！？
苦しそうやけど……また氷のう持ってこよか？
あかんな、さっき熱中症になったばっかりやいうんに、遊んどる場合と違うた。
あっ、せや！ 救急車呼んだほうがええんかな……」

違うの。苦しいのは熱中症のせいでも、その後遺症とかでもないの。
希ちゃん。貴方のせいなんだよ。

「大丈夫……だよ。だから、救急車、呼ばないで。
その代わり、居て。希ちゃん……穂乃果は大事な人なんで、しょ……？」

胸が苦しい。痛い。イタイ。
この痛みはなんだろう。穂乃果が今まで一度も経験したことないものなんだ。怖い。コワイよ。呼吸すらもままならないや。いつもの穂乃果の元気っ子はどこにいっちゃったんだろ？

「穂乃果ちゃん……ウチはここにおるからな？ 息、苦しいやろ？ 背中さすったげるからな。穂乃果ちゃん、ごめんな……」

「いいんだよ、希ちゃん。もう、だいぶ、楽になったから。ちょーっと、息が切れる、けど」

本当のことだよ。希ちゃんに背中をさすってもらって、つっかえてたものがなくなったというか、憑き物が取れたというか、なんというか。本当に楽になったの！
んー、でも、さっきのは本当に何だったんだろ？

- - - ◆ - - - ◆ - - - ◆ - - -



ん……いつの間にか寝ちゃってたみたい。
目をこすりながら上体を起こしてみると、なんだか足が痺れてる。思わず変な声をあげちゃった！
あー……これは痺れるわけだよ。希ちゃん、寝ている穂乃果の太ももを枕にして、すごい体勢で寝ちゃってるんだもん。
膝から下を床について、腰から上をベッドに、そして顔を埋めるように穂乃果の上に乗っかっちゃってる。
幸せそうな寝息が聞こえるけれど、苦しくはないのかな？

「んぅ……ほのかちゃ……」

寝言かな？ 夢の中でも穂乃果の看病と言うか、お守りをしてくれてるんだろうか。希ちゃんの母性はもう第二のお母さんと呼んでもいいくらいだよねっ！
穂乃果の、穂乃果だけのお母さん。なんてね、えへへ。

……あれ？ 今穂乃果、なんで私だけの、なんて考えたの？
他の人に、渡したくないの？ 絵里ちゃんにも、にこちゃんにも？
おっかしいなぁ。さっきまではただのお友達。μ'sのメンバー。
でも、意識すると、止まらないや。
これって、やっぱり。

ーー恋。だよね。



穂乃果、いけない子だ。女の子なのに、女の子に恋しちゃったんだ。しかも、同じμ'sのメンバーに。

でも、いけないことだと思っていても、一度気づいてしまった想いには蓋なんてできないよ。
だって穂乃果だよ？
無器用でまっすぐ、決めたことはなんだってやり通そうとする、それが穂乃果だもん。

それに、この想いは臭いものじゃないんだから、蓋なんてしなくっても怒られはしないんだからさ。

ポソポソと、口先だけで自分の歌を歌ってみたりする。そういう気分なの。センチメンタルって奴だよ。

「愛は太陽、大きな太陽ー」

だったら、恋は？

ーー月だ。
愛が太陽ならば、恋は月だよ。恋はいつか、愛に変わる。そしてまた何度も、同じ人に恋をして、また何度も愛に変わってゆく。

月が沈み、太陽が昇る。そして太陽が沈み、月が昇る。

そういえば、太陽と月を陽、陰で表すと、なるほど男女という性別で惹かれ合うのもなんだか合点が行くよ。
陰陽も、恋愛も。表裏一体のものなんだから。

でも、穂乃果には、別の陰陽もあると思えるの。なにより、好きになったものはしょうがないんだよね！
私は、希ちゃんのことが好き。大好き。
愛という太陽と恋という月があれば、性別なんて関係ないんだもん！

- - - ◆ - - - ◆ - - - ◆ - - -


「んん……穂乃果ちゃん……？
あっ、う、ウチ、寝てしもうたん！？
体調悪い穂乃果ちゃんを放っておいて、どころかその穂乃果ちゃんの足を枕にして……！
ごめんっ！ ごめんな穂乃果ちゃん！」

希ちゃんが起きたのは、穂乃果が起きた5分くらい後だった。申し訳なさそうに何度も謝ってくる希ちゃん。改めて見ると、うん。とっても可愛い。んー、本当は気にしてないんだけど、ちょっとさっきのいたずらの続きをしてみよっかな。

「ん、穂乃果が膝枕したんだから、希ちゃんも穂乃果の枕になってよ。そしたら許したげる！」

好きな子をいじめちゃう男の子っているけれど、そんな感じ。穂乃果も、その。大好きな、とっても、大大大大だーい好きな、希ちゃんのこと、ちょっぴりいじめてみたくなったの。

「穂乃果ちゃんがそういうんやったら、ウチ、枕にでも布団にでもなるで！ せやから、その……許したってな？」

そういう希ちゃんの、バツが悪そうに赤らめた顔は。反則級の可愛さで。
うー……えいっ！ドサッ！

「ちょ、な、穂乃果ちゃ……なにして」

「希ちゃんがあんまり可愛いからいけないんだよ。そんな風に、分け隔てなく愛情を注いじゃうから、こうして好きでもない、しかも女の子にこんなことされちゃうの」

穂乃果は希ちゃんをベッドに押し倒し、そのまま覆いかぶさった。さっきまでいけない恋だのなんだのうじうじしていたのはどこの穂乃果だろうね？
こういう時の行動力は、やっぱり穂乃果らしいや。

「えっ……？ あの……穂乃果、ちゃん？
穂乃果ちゃんのこと、ウチは好き、よ？」

「違うんだよ、希ちゃん。違うの。
穂乃果はね、希ちゃんのことーー」

ずいっ。希ちゃんの顔に穂乃果の顔を寄せる。これ以上近づいたら唇と唇がひっついちゃうよ？ どう？ 希ちゃん。

「恋愛的な意味で、好き、なの。
希ちゃん。大好き」

そして、穂乃果は希ちゃんに口付けをしようと更に唇を寄せる。

緊張からか、希ちゃんが目をこれでもかというほどぎゅうっと瞑り、しかしその唇からはしっかりと言葉を紡いだ。

「違うんよ！ ウチな、ウチな……！
穂乃果ちゃんのこと……ずっと好きだったん！」

囁くようにそう言うと、希ちゃんは穂乃果に遠慮がちにキスをした。
希ちゃんも、穂乃果のこと……？
あれ、両想いって事？ ええっ！？ 知らなかった！
でも、冗談だとは思えないや。だって、その。キスもされちゃったし。
混乱しちゃう。
今まで、そんなそぶりも見せなかった希ちゃんが、穂乃果のことを想ってくれていたなんて。慕ってくれていたなんて。


「ーーずっと、あなたという太陽の光を受けて輝く月でありたいなって、思ってたんよ」

そう言うなり、覆いかぶさる穂乃果の体を、希ちゃんは優しく、そして強く抱きしめてくれたんだ。

頭が破裂するかと思ったよ。何も考えられないや。いや、正確にはたくさんのことが頭を駆け巡って、思考が全くのゼロというよりはむしろオーバーフローした感じかな？
心臓は以前にも増して早鐘を打っているし、勝手に涙が溢れてくるし、ドバドバと……。
ん？

「あっ！ あかん穂乃果ちゃん！ また鼻血や！ しまった、興奮さすんやなかった……！」

しまりのない感じで、穂乃果の初恋は実った。ふぁ、ファーストキスも、しちゃった。っていうか、されちゃった。好きな人から。希ちゃんから。
そっと、右手の人差し指で唇をなぞる。柔らかかったなぁ……。

「……癖になりそう」

希ちゃんは、とっても甘い、蠱惑的な味だったの。こんな希ちゃんを、みんなは知らない。ちょっと優越感を覚えちゃうね。
穂乃果だけの、希ちゃん。絶対、誰にも渡さないんだからねっ！

- - - ◆ - - - ◆ - - - ◆ - - -


「えぇ！？ 穂乃果ちゃんと希ちゃんお付き合いしてるのぉ！？」

「そんな！ エリチカそんな話聞いてないわ！ 認められないわぁ！」

お昼の話題は、穂乃果と希ちゃんのことでもちきりだったよ。やっぱり、女の子同士、それもメンバー内でカップルができたんだもんね。みんな驚くよ、そりゃぁ。

海未ちゃんなんか、昔飼ってた金魚さんみたいに口をパクパク、ご飯じゃなくて空気を食べてるんだもん。
ことりちゃんも、心なしかトサカにいつもの存在感がないや。どれだけ動揺しちゃってるんだろ、幼なじみ達は。

でもまあ動揺に関しては、絵里ちゃんやにこちゃんも同じかなぁ。二人で顔を見合わせながら、何事か、ヒソヒソ話し合っている。

ちなみに、花陽ちゃんと凛ちゃんは、魂の抜けた真姫ちゃんの介護をしてるよ！
真姫ちゃん、穂乃果と希ちゃんが付き合うことになった、ってお話をした途端、髪の毛をくるくるするだけの機械になっちゃったんだ……。意味わかんない……意味わかんない……ってブツブツ言いながら両手で髪をくるくる。傷んじゃうよ？

「わ、わた、私は認めないんだからぁ！」

絵里ちゃんが部室の外に勢いよく飛び出していって、その数分後に凛ちゃんに連れ戻されることになるのは、また別のお話。

- - - ◆ - - - ◆ - - - ◆ - - -


「……ごめんな、穂乃果ちゃん。今日のエリチはあんまり賢くなかったし、本当はウチらのこと、応援してくれとるさかい、許したってな？」

「いいよ！ 絵里ちゃんってとっても賢くて可愛いと思ってたけど、案外そう賢いわけでもないよね。小学生の頃の絵里ちゃんはあんなにカッコよかったのになぁ～」

なんでも、自称「賢い、可愛い、エリーチカ」で、幼少期にぶいぶい言わせていたそうで。確かに、μ'sに入るまでは賢くて、しかもお茶目、スタイルまで良くて完璧！ なんて思っていたんだけれど、案外ポンコツなところもあって、そこもまた可愛いんだよねぇ。

「あはは。そやったんか？ まぁ、エリチはああ見えて、その実お調子者なところもあるからなぁ。A-RISEとUTXの生徒会長に喧嘩をふっかけて後でアワアワするエリチ、可愛かったなぁ」

そんなこと、あったなぁ。意外と計画性がないというか、穂乃果と同じで突っ走っちゃうタイプだよね。絵里ちゃんて。

実は凛ちゃんと穂乃果はそんな絵里ちゃんに憧れている節もあるんだよねぇ。突っ走っちゃうところだけ似たんじゃ、ダメだけどね。えへへ。

おっと、お話ししながら歩いてたらとっくに明神の前だ。希ちゃんは社務所にちょっと用事があるから、寄って帰るそうだ。穂乃果はすぐにでもお母さんに希ちゃんのことを紹介したかったんだけれど、用事なら仕方ないよね。

「じゃあ、また明日、学校でね！ お昼一緒に食べようね！」

「そうやね、また明日！ 寂しかったら電話でもしてな？」

穂乃果達は、お互いに手を振ると、背を向けて歩き出した。
しかし、数歩ほど歩いたところで、

「あ、忘れ物！」

と、思い出したように希ちゃんが言う。なんだろ？ と思って振り返ると……。


ちゅっ。



「ほ、ほなまた明日な、穂乃果ちゃん！」

あーあ、そんなに恥ずかしがるならしなきゃいいのに！ 希ちゃんてば。

お顔を真っ赤にしてとことこ走り去っていく希ちゃんの後ろ姿を、見えなくなるまで眺めている穂乃果なのでした。

おしまい

くぅ疲だよっ！
自己満足とはいえ完結させることができました。チラチラと応援してくれていた方たちのおかげです。あざました！

一応タイトル案がそれぞれのメンバーのソロ曲分くらいは用意してあるのでこれからも書いてくつもりではあります。

短かったですが、またよろしくです。